説明

クリップ

【課題】係合腕あるいは保持部材の肉厚を薄くすることなく、係合腕が押し撓められたときのクリップ本体のコンパクト化を可能にするとともに、クリップ本体の挿入荷重が増大するのを防止し、さらには装着部材のクリップ座に対する保持部材の係合力を高める。
【解決手段】装着部材を相手パネルに取付けるためのクリップであって、樹脂製のクリップ本体10は、その正面視において係合腕12とその内側に位置する保持部材14とを備えている。係合腕12は、押し撓められる方向へ弾性変形するとともに、取付け孔孔の縁に係合する。保持部材14は、クリップ本体をクリップ座に組付けた状態に保持する。クリップ本体の正面視においては係合腕12と保持部材14とが略菱形のループ状を呈してつながっており、クリップ本体の側面視においては係合腕12と保持部材14との位置をずらせ、係合腕が弾性変形したときに互いに重なり合うように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の内装部品であるセンタークラスタ等の装着部材をインストルメントパネル等の相手パネルに取付けるためのクリップに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のクリップは、例えば特許文献1,2に開示された構造のものが既に知られている。これらのクリップは、略U字状に連結された一対の係合腕と、両係合腕の内側において互いに対向するように設けられた一対の保持部材とを備えている。そして、両保持部材の両端は、それぞれの係合腕の内側に連結されている。クリップは、両保持部材によって装着部材のクリップ座に組付けられ、その状態で相手パネルの取付け孔に挿入することにより、両係合腕が取付け孔の縁に係合して相手パネルに取付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2995329号公報
【特許文献2】特許第4375877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に開示されているクリップにあっては、両係合腕と両保持部材とがそれぞれループ状につながっており、これらがクリップの内外で多層構造になっている。このため、クリップを相手パネルの取付け孔に挿入する際に係合腕が押し撓められた状態でも、クリップの略U字状をした正面視の嵩が大きく、それに合わせて相手パネルの取付け孔の開口寸法も大きくなる。また、クリップが多層であることから、取付け孔に挿入するときの係合腕の反発力が大きくなり、クリップの挿入荷重が増大することとなる。
なお、取付け孔の開口寸法を小さくするための対策として、係合腕あるいは保持部材の肉厚を薄くしてクリップの嵩張りを抑えることが考えられるが、そうすると係合腕あるいは保持部材に必要な弾性力が得られず、クリップとして成り立たなくなる。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、係合腕あるいは保持部材の肉厚を薄くすることなく、係合腕が押し撓められたときのクリップ本体のコンパクト化を可能にするとともに、クリップ本体の挿入荷重が増大するのを防止し、さらには装着部材のクリップ座に対する保持部材の係合力を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するためのもので、以下のように構成されている。
装着部材のクリップ座に組付けられた状態で相手パネルの取付け孔に挿入することにより、装着部材を相手パネルに取付けることができるクリップであって、樹脂製のクリップ本体は、その正面視において一方の端部が閉ざされ、他方の端部が開放された形状で、かつ、係合腕とその内側に位置する保持部材とを備えた構成である。
係合腕は、クリップ本体が相手パネルの取付け孔を通過するときに押し撓められる方向へ弾性変形するとともに、取付け孔に挿入された状態で孔の縁に係合するように構成されている。保持部材は、クリップ本体を装着部材のクリップ座に組付けた状態に保持することができるように構成されている。クリップ本体の正面視においては、係合腕と保持部材とが略菱形のループ状を呈してつながっているとともに、クリップ本体の側面視においては、係合腕と保持部材との位置をずらせ、係合腕が押し撓められる方向へ弾性変形したときに互いに重なり合うように構成されている。
【0007】
より好ましくは、係合腕と保持部材とが、クリップ本体の閉ざされた端部近くの箇所と、開放された端部近くの箇所において相互につながっていることである。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、クリップ本体の係合腕が押し撓められたときに保持部材と互いに重なり合うことにより、クリップ本体が相手パネルの取付け孔を通過するとき、つまり係合腕が押し撓められたときのクリップ本体の正面視における嵩がコンパクトになる。このため、係合腕あるいは保持部材の肉厚を薄くすることなく、取付け孔の開口寸法をより小さくしたいといった要求に応えることができる。また、係合腕が保持部材に重なりながら無理なく押し撓められることから、取付け孔に対するクリップ本体の挿入荷重が増大するのを防止することができる。
クリップ本体の係合腕と保持部材とが略菱形のループ状につながっているため、特に係合腕に必要な弾性力を確保でき、かつ、この係合腕が押し撓められたときの力を保持部材に直接伝え、クリップ座に対する保持部材の係合力を高めることができる。これにより、装着部材を相手パネルから取外す際に、クリップ本体を装着部材のクリップ座に確実に組付けたまま、相手パネルの取付け孔から抜取ることができる。
【0009】
また、係合腕と保持部材とをクリップ本体の両端部近くの箇所において相互につなげたことで、係合腕が変形するときの両支点間の距離が大きくなり、クリップ本体の全長が短い場合でも、それを取付け孔に挿入するときの荷重を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】クリップを装着部材および相手パネルと共に表した斜視図。
【図2】クリップを斜め上方から見た斜視図。
【図3】クリップを斜め下方から見た斜視図。
【図4】クリップの正面図。
【図5】クリップの側面図。
【図6】クリップの底面図。
【図7】図5のA−A矢視方向の断面図。
【図8】相手パネルの取付け孔に対するクリップの挿入直前状態を表した正面図。
【図9】相手パネルの取付け孔に対するクリップの挿入時を表した正面図。
【図10】相手パネルの取付け孔に対するクリップの挿入完了状態を表した正面図。
【図11】形状の異なるクリップを斜め上方から見た斜視図。
【図12】図11のクリップを斜め下方から見た斜視図。
【図13】図11のクリップの正面図。
【図14】図11のクリップの側面図。
【図15】図11のクリップの底面図。
【図16】図14のB−B矢視方向の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を用いて説明する。
図面に示されているクリップ本体10は、図1に示す装着部材20のクリップ座22に組付けることができ、その状態で相手パネル24の取付け孔26に挿入することで、装着部材20を相手パネル24に取付けることができる。
クリップ本体10は、樹脂材による一体成形品であるとともに、その全体構成は例えば図4で示す正面視において先端部10Aが閉ざされ、基端部10Bが開放された形状になっている。このクリップ本体10の構成を大別すると、同じく正面視において左右の両外側に位置する一対の係合腕12と、これらの係合腕12の内側に位置する一対の保持部材14とを備えている。両係合腕12がクリップ本体10を相手パネル24に係合させた状態に保持する機能を果たし、両保持部材14がクリップ本体10をクリップ座22に組付けた状態に保持する機能を果たす。
【0012】
なお、クリップの形式によっては、クリップ本体10の正面視における左右の中央部にプレート状の支持部材があり、その片側にだけ係合腕12および保持部材14を備えた構成のものもある。この形式のクリップに対しても本発明を適用することは可能であり、そのことは以下の説明によって明らかにされる。
【0013】
両係合腕12は、クリップ本体10の正面視における先端部10Aの両側から基端部10Bに向かって延び、途中の張出し部12aまでは互いに外方へ離れる(広がる)傾斜となっている。両係合腕12は、個々の張出し部12aを過ぎると、互いに内方へ近づく(狭まる)傾斜の係合斜面12bを構成し、これらの係合斜面12bから基端部10Bまではほぼストレートに延びている。そして、基端部10B側における両係合腕12の端末部12cは、それぞれ外方へ折れ曲がった形状になっている。
両係合腕12は、図7に示されているクリップ本体10の先端部10A側の仮想点P1を支点とし、それぞれ内方へ撓むように弾性変形することが可能である。なお、この仮想点P1は、後述するように保持部材14が押し撓められるときの支点でもある。
【0014】
両保持部材14は、クリップ本体10の先端部10A側に結合された挟持部14aと、挟持部14aの下端から延長されて基端部10B側に結合された延長部14cとによって構成されている。すなわち、両保持部材14は、クリップ本体10の先端部10A側と基端部10B側とにおいて両係合腕12にそれぞれ結合されており、結果として両係合腕12と両保持部材14とは、クリップ本体10の正面視において略菱形のループ状を呈してつながっている(図4、図7)。なお、両係合腕12と両保持部材14との結合点は図7の仮想点P1,P2である。
【0015】
両保持部材14の挟持部14aは、延長部14cと比べて肉厚が大きく、クリップ本体10を装着部材20のクリップ座22に組付けた状態で保持するために必要な剛性を有する。両挟持部14aの相対向する内側面は、クリップ本体10の先端部10A側から基端部10B側に向かって間隔が漸減するテーパー状になっている。
また、両保持部材14は、それぞれの挟持部14aの下部において係止突起14bがそれぞれ設けられている。両係止突起14bは、例えば図5で示すクリップ本体10の側面視において保持部材14の幅より大きい寸法に設定され、それぞれの挟持部14aの両側に張り出している。
【0016】
両係合腕12と両保持部材14とは、クリップ本体10の側面視において個々に2本のスリット16によって分割され、保持部材14が中央に位置し、その両側に係合腕12が位置している(図5)。つまり、クリップ本体10の側面視においては係合腕12と保持部材14との位置をずらせ、係合腕12が図7の仮想点P1を支点として内方へ撓むように弾性変形したときに両者が互いに重なり合うようになっている。
なお、クリップ本体10の側面視における係合腕12と保持部材14との配置は、図面で示すものに限定されず、例えば次のようなバリエーションが考えられる。
(1)図面のものとは逆に係合腕12が中央に位置し、その両側に保持部材14が位置し た構成。
(2)スリット16を1本に減らし、係合腕12と保持部材14とを一つずつ配置した構 成。
(3)スリット16を3本に増やし、係合腕12と保持部材14とを二つずつ配置した構 成。この場合、二つの係合腕12および保持部材14のいずれを内側(外側)に配 置してもよく、あるいは交互に配置してもよい。
【0017】
装着部材20はセンタークラスタ等の樹脂成形品であって、その意匠面の裏側にクリップ座22が一体に成形されている。このクリップ座22の板厚は、両保持部材14における挟持部14aの相対向する内側面の間に差し込み可能な寸法になっている。クリップ座22には、その両面にわたって貫通する結合孔22aが開けられているとともに、両側には補強リブ22bがそれぞれ設けられている。
一方、相手パネル24は、インストルメントパネル等の板部材であり、その表裏に貫通して取付け孔26が開けられている。
【0018】
つづいて、クリップ本体10によって装着部材20を相手パネル24に取付ける手順を説明する。
まず、クリップ本体10の開放された基端部10B側から両保持部材14の間に向けて装着部材20のクリップ座22を相対的に差し込む。この結果、両保持部材14における挟持部14aの相対向する内側面の間にクリップ座22が進入し、かつ、両保持部材14の係止突起14bがクリップ座22の結合孔22aに両側から係合する(図8)。これにより、クリップ本体10が装着部材20のクリップ座22に組付けられる。
【0019】
前述のように両挟持部14aの相対向する内側面がテーパー状になっていることから、クリップ座22の板厚にバラツキがあってもクリップ本体10がクリップ座22に対してがたつくのを防止できる。また、両保持部材14の係止突起14bが挟持部14aの両側に張り出していることから、クリップ本体10の側面視における保持部材14の幅が小さくても、クリップ座22の結合孔22aに対する両係止突起14bの引っかかり代が確保される。
【0020】
クリップ座22に組付けられたクリップ本体10を、図8で示す状態から図9で示すように相手パネル24の取付け孔26に挿入する。この挿入に伴ってクリップ本体10の両係合腕12が、取付け孔26の縁からの押圧力を受けてそれぞれ内方へ押し撓められる。このときの両係合腕12は、図7に示されている仮想点P1を支点としてそれぞれ弾性変形する。そして、両係合腕12はそれぞれの張出し部12aが取付け孔26を通過するときに最大に押し撓められる(図9)。
【0021】
このように両係合腕12が押し撓められる方向へ弾性変形したとき、クリップ本体10の側面視において両係合腕12と両保持部材14とは互いに重なり合うことになる。このため、図9で示すように取付け孔26を通過するときのクリップ本体10における図面左右方向の嵩がコンパクトになる。これにより、同じく図面左右方向の取付け孔26の開口寸法をこれまでのものより小さくすることが可能となり、この開口寸法をできるだけ小さくしたいといった近年の要求に対応することができる。また、両係合腕12と両保持部材14とがスリット16で分割されていることから、両係合腕12は無理なく押し撓められて取付け孔26を通過し、クリップ本体10の挿入荷重を低く抑えることができる。
両係合腕12の張出し部12aが取付け孔26を通過してクリップ本体10の挿入が完了することにより、両係合腕12の係合斜面12bが取付け孔26の縁に係合する(図10)。これにより、クリップ本体10を介して装着部材20が相手パネル24に取付けられる。
【0022】
両係合腕12と両保持部材14とは略菱形のループ状につながっているため、これらの係合腕12および保持部材14に要求される弾性力を容易に確保することができる。これにより、図10で示す状態において相手パネル24に対するクリップ本体10の保持力を高めることができる。
また、装着部材20を相手パネル24から取外す際に、クリップ本体10に抜去荷重が作用して両係合腕12が内方へ押し撓められると、そのときの力が図7に示されている仮想点P2から両保持部材14の延長部14cを通じて挟持部14aに直接伝えられる。このため、両挟持部14aが図7の仮想点P1を支点として互いに内方へ押し撓められ、クリップ座22に対する係合力が高められる。この結果、クリップ本体10をクリップ座22に確実に組付けた状態で取付け孔26から抜取ることができる。
以上の機能は、前述のようにクリップ本体10の正面視における片側にだけ係合腕12および保持部材14を備えた構成のものにおいても同様に発揮される。
【0023】
クリップ本体10の全体形状は、図11〜図16で示すように変更することも可能である。これらの図面で示すクリップ本体10においても、その正面視において両係合腕12と両保持部材14とが略菱形のループ状を呈してつながっているとともに、クリップ本体10の側面視においては係合腕12と保持部材14との位置をずらせて両者が互いに重なり合うようになっている。
【0024】
図11〜図16で示すクリップ本体10は、両係合腕12の端末部12cがほぼストレートのままになっている。また、両係合腕12と両保持部材14との結合点である図16の仮想点P1,P2を結ぶ係合腕12側の距離が、保持部材14側の距離よりも大きく設定されている。これらの距離は、逆に保持部材14側を係合腕12側よりも大きく設定する場合もある。ちなみに、図7で示す仮想点P1,P2を結ぶ係合腕12側の距離と保持部材14側の距離とは、ほぼ同じに設定されている。
以上の構成の相違点について、いずれを選定するかはクリップ本体10の使用箇所等に応じて決定すればよい。
【符号の説明】
【0025】
10 クリップ本体
10A 先端部
10B 基端部
12 係合腕
14 保持部材
20 装着部材
22 クリップ座
24 相手パネル
26 取付け孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着部材のクリップ座に組付けられた状態で相手パネルの取付け孔に挿入することにより、装着部材を相手パネルに取付けることができるクリップであって、
樹脂製のクリップ本体は、その正面視において一方の端部が閉ざされ、他方の端部が開放された形状で、かつ、係合腕とその内側に位置する保持部材とを備えた構成であり、係合腕は、クリップ本体が相手パネルの取付け孔を通過するときに押し撓められる方向へ弾性変形するとともに、取付け孔に挿入された状態で孔の縁に係合するように構成され、保持部材は、クリップ本体を装着部材のクリップ座に組付けた状態に保持することができるように構成され、クリップ本体の正面視においては、係合腕と保持部材とが略菱形のループ状を呈してつながっているとともに、クリップ本体の側面視においては、係合腕と保持部材との位置をずらせ、係合腕が押し撓められる方向へ弾性変形したときに互いに重なり合うように構成されているクリップ。
【請求項2】
請求項1に記載されたクリップであって、
係合腕と保持部材とが、クリップ本体の閉ざされた端部近くの箇所と、開放された端部近くの箇所において相互につながっているクリップ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate