説明

クリヤー塗膜を形成する方法

【課題】自動車車体の上塗り塗装における水性2液型クリヤー塗料として、塗膜性能および塗膜平滑性に優れ、特に黄変が極めて小さいクリヤー塗膜を形成する方法を提供すること。
【解決手段】被塗物に水性2液型クリヤー塗料を塗布して硬化することによりクリヤー塗膜を形成する方法であって、
該クリヤー塗料が
(a)固形分水酸基価80〜200mgKOH/gおよび固形分酸価10〜50mgKOH/gであるカルボキシル基および水酸基の両方を有するアクリル樹脂、
(b)アミン化合物、
(c)ポリイソシアネート化合物、および
(d)ヒンダードフェノール化合物
を含有し、アミン化合物(b)が、アミン化合物(b)のアミン当量/アクリル樹脂(a)のカルボキシル当量の比が0.5〜1.8の量で含まれ、ヒンダードフェノール化合物(d)が、ヒンダードフェノール化合物(d)の当量/アミン化合物(b)のアミン当量の比が0.05〜0.3の量で含まれることを特徴とするクリヤー塗膜を形成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄変が極めて小さいクリヤー塗膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の塗装ラインは、多数の自動車車体がコンベアなどにより一定速度で流れているラインであって、そのラインの中で塗装作業、加熱焼付作業および乾燥作業がそれぞれの所定区域内で行われている。そのような自動車塗装ラインで、ライントラブルの発生などによって、ライン内での自動車車体の流れが停止することがある。このとき、加熱焼付作業区域や乾燥作業区域に停止した自動車車体は、必要以上の長時間加熱される状態、いわゆるオーバーベイクになり、自動車車体に形成された塗膜が熱で黄変を起こす不具合があった。この黄変は、クリヤー塗膜中に含まれるアミン系物質が熱によって発色団を形成することに起因するものと考えられている。
【0003】
近年、VOC削減の観点から塗料の水性化が進み、自動車車体の塗装においても水性塗料が多く用いられている。クリヤー塗料においても水性化が進んでいるが、水分散性を付与するために中和アミンを配合するものが多く、前述のオーバーベイク時における黄変の問題が改善を要する課題となってきている。この黄変の傾向は、ウレタン基を形成するポリイソシアネート化合物を硬化剤とする場合には、より大きくなる。
【0004】
特開2007−84801号公報(特許文献1)には、水分散性の水酸基含有アクリル樹脂に、リン酸基およびポリエーテル基を有する親水性ポリイソシアネート化合物を配合した水性2液型クリヤー塗料組成物が提案されている。この特許文献1の発明は、ポリイソシアネート架橋剤を弱い酸であるリン酸基を導入することによって親水化して水性塗料中での分散性を高め、しかもクリヤー塗膜の下層の着色ベースコートに含まれるメラミン樹脂の酸による分解を抑制することによって塗膜の黄変を防止している。
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、クリヤー塗膜の下層の着色ベースコートの黄変を防止することが可能であっても、クリヤー塗膜自体の黄変の防止には必ずしも寄与しておらず、黄変に関する問題は根本的に解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−84801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、自動車車体の上塗り塗装における水性2液型クリヤー塗料として、塗膜性能および塗膜平滑性に優れ、特に黄変が極めて小さいクリヤー塗膜を形成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、自動車車体の塗装に使用されるクリヤー塗膜形成における黄変が、中和に使用するアミン化合物のアミン当量に対して所定当量のヒンダードフェノール化合物を配合することによって大きく抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、被塗物に水性2液型クリヤー塗料を塗布して硬化することによりクリヤー塗膜を形成する方法であって、
該クリヤー塗料が
(a)固形分水酸基価80〜200mgKOH/gおよび固形分酸価10〜50mgKOH/gであるカルボキシル基および水酸基の両方を有するアクリル樹脂、
(b)アミン化合物、
(c)ポリイソシアネート化合物、および
(d)ヒンダードフェノール化合物
を含有し、アミン化合物(b)が、アミン化合物(b)のアミン当量/アクリル樹脂(a)のカルボキシル当量の比が0.5〜1.8の量で含まれ、ヒンダードフェノール化合物(d)が、ヒンダードフェノール化合物(d)の当量/アミン化合物(b)のアミン当量の比が0.05〜0.3の量で含まれることを特徴とするクリヤー塗膜を形成する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、自動車車体の塗装におけるクリヤー塗膜の黄変を、クリヤー塗料中に含まれているアミン化合物とヒンダードフェノール化合物の量を、ヒンダードフェノール化合物の当量/アミン化合物のアミン当量の比が0.05〜0.3の量で配合することにより防止することができるのであり、このことにより基材上にクリヤー塗膜を形成する方法における黄変、特にオーバーベイク時に生じる黄変を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のクリヤー塗膜を形成する方法は、被塗物に水性2液型クリヤー塗料を塗布して硬化、具体的には焼付硬化することによりクリヤー塗膜を形成する方法であって、クリヤー塗料が、(a)固形分水酸基価80〜200mgKOH/gおよび固形分酸価10〜50mgKOH/gであるカルボキシル基および水酸基の両方を有するアクリル樹脂、(b)アミン化合物、(c)ポリイソシアネート化合物、および(d)ヒンダードフェノール化合物を含有し、アミン化合物(b)が、アミン化合物(b)のアミン当量/アクリル樹脂(a)のカルボキシル当量の比が0.5〜1.8の量で含まれ、ヒンダードフェノール化合物(d)が、ヒンダードフェノール化合物(d)の当量/アミン化合物(b)のアミン当量の比が0.05〜0.3の量で含まれるものである。
【0012】
カルボキシル基および水酸基の両方を有するアクリル樹脂(a)
上記クリヤー塗料に含まれるアクリル樹脂(a)は固形分水酸基価が80〜200mgKOH/gおよび固形分酸価が10〜50mgKOH/gのアクリル樹脂であって、カルボキシル基および水酸基の両方を有する必要がある。また、アクリル樹脂(a)は、重量平均分子量が3,000〜300,000で、かつ、ガラス転移温度が−30℃〜40℃の範囲内であるものが好ましい。
【0013】
アクリル樹脂(a)は、水酸基含有ビニルモノマー(M−1)、カルボキシル基含有ビニルモノマー(M−2)およびその他の共重合可能なビニルモノマー(M−3)を常法により共重合することによって製造することができる。
【0014】
水酸基含有ビニルモノマー(M−1)は、1分子中に水酸基と重合性不飽和結合とをそれぞれ1個有する化合物であり、この水酸基は主として架橋剤と反応する官能基として作用するものである。該モノマーとしては、具体的には、アクリル酸またはメタクリル酸と炭素数2〜10の2価アルコールとのモノエステル化物が好適であり、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。また、上記多価アルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのモノエステル化物としては他にε−カプロラクトンを開環重合した化合物、例えば、プラクセルFA−1、プラクセルFA−2、プラクセルFA−3、プラクセルFA−4、プラクセルFA−5、プラクセルFM−1、プラクセルFM−2、プラクセルFM−3、プラクセルFM−4、プラクセルFM−5(以上、いずれもダイセル化学社製、商品名)などを挙げることができる。
【0015】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレートまたはメタクリレート」を意味する。
【0016】
カルボキシル基含有ビニルモノマー(M−2)は、1分子中にカルボキシル基と重合性不飽和結合を有する化合物である。該モノマーとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸および無水マレイン酸などが挙げられる。
【0017】
その他の共重合可能なビニルモノマー(M−3)は、上記水酸基含有ビニルモノマー(M−1)およびカルボキシル基含有ビニルモノマー(M−2)以外の1分子中に1個の重合性不飽和結合を有する化合物であり、その具体例を以下(1)〜(7)に列挙する。
【0018】
(1)カルボキシル基以外の酸基含有重合性不飽和単量体:1分子中に1個以上の酸基と1個の重合性不飽和結合とを有する化合物で、例えばビニルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレートなどの如きスルホン酸基含有不飽和単量体;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−3−クロロプロピルアシッドホスフェート、2−メタクロイルオキシエチルフェニルリン酸などの酸性リン酸エステル系不飽和単量体などを挙げることができる。
【0019】
(2)アクリル酸またはメタクリル酸と炭素数1〜20の1価アルコールとのモノエステル化物:例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、エチル(メタ)クリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチルアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート,tert−ブチル(メタ)アクリレート,2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなど。
【0020】
(3)芳香族系ビニルモノマー:例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなど。
【0021】
(4)グリシジル基含有ビニルモノマー:1分子中にグリシジル基と重合性不飽和結合とをそれぞれ1個有する化合物で、具体的には、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなど。
【0022】
(5)重合性不飽和結合含有アミド系化合物:例えば、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルプロピルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなど。
【0023】
(6)その他のビニル化合物:例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、バーサティック酸ビニルエステルであるベオバ9、ベオバ10(いずれも、ヘキシオンスペシャルティケミカルズジャパン社製)など。
【0024】
(7)重合性不飽和結合含有ニトリル系化合物:例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなど。
【0025】
これらのその他のビニルモノマー(M−3)は、1種または2種以上を用いることができる。
【0026】
本発明の方法に使用するクリヤー塗料に含まれるアクリル樹脂(a)の重合方法は、一括重合法または2段階以上の多段階重合法のいずれであってもよい。通常、溶液重合法においては、溶剤の存在下、不飽和モノマー成分および重合開始剤を一括で一定時間かけて滴下する一括重合法により重合反応が行なわれるが、多段階重合法とは、一括で不飽和モノマー成分を滴下するのではなく、不飽和モノマー成分を2以上の不飽和モノマー成分に分け、順次、各不飽和モノマー成分を滴下する方法である。
【0027】
塗料組成物としたときの分散安定性向上などの点から、アクリル樹脂(a)として、2段階以上の多段階重合法で合成されたものを好適に使用することができる。
【0028】
具体的には、例えば分散安定性の良好なアクリル樹脂として、最初にカルボキシル基含有モノマーを全くまたは殆んど含有しないモノマー成分を重合し、その後、さらにカルボキシル基含有モノマーを含有するモノマー成分を加えて(滴下して)2段階で重合されたアクリル樹脂を挙げることができる。
【0029】
アクリル樹脂(a)の固形分水酸基価は80〜200mgKOH/gの範囲内であり、さらに好ましくは100〜180mgKOH/gの範囲内である。固形分水酸基価が80mgKOH/g未満であると、硬化性や水分散性が不十分な場合があり、また、200mgKOH/gを超えると、水分散安定性が低下し、塗膜の耐水性が低下する場合がある。
【0030】
アクリル樹脂(a)の固形分酸価は10〜50mgKOH/gの範囲内であり、さらに好ましくは10〜35mgKOH/gの範囲内である。固形分酸価が10mgKOH/g未満であると水分散安定性が悪く、硬化性も劣る。また、50mgKOH/gを超えると塗膜の耐水性が低下する場合がある。なお、本明細書において、固形分酸価および固形分水酸基価は、使用したモノマー混合物の酸価および水酸基価から計算して求めた値である。
【0031】
好ましくは、アクリル樹脂(a)の重量平均分子量は3,000〜300,000の範囲内であり、さらに好ましくは5,000〜100,000の範囲内である。重量平均分子量が3.000未満であると耐酸性などの塗膜性能が低下する場合があり、また、300,000を超えると塗膜の塗面平滑性が低下する場合がある。
【0032】
なお、本明細書において、重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0033】
好ましくは、アクリル樹脂(a)のガラス転移温度は−30℃〜40℃、さらに好ましくは−20℃〜20℃の範囲内である。ガラス転移温度が−30℃未満であると塗膜硬度が不十分な場合があり、また、40℃を超えると塗膜の塗面平滑性が低下する場合がある。上記アクリル樹脂のガラス転移温度は、構成するモノマーまたはホモポリマーの既知のガラス転移温度と組成比とから計算することができる。
【0034】
アクリル樹脂(a)は、水に分散して、アクリル樹脂粒子の形で用いられる。アクリル樹脂(a)の水分散は例えば以下のように行なうことができる。上述した合成方法により得られたアクリル樹脂(a)をその固形分濃度が95質量%となるまで溶剤の減圧留去を行なう。通常、アクリル樹脂(a)の水分散はアクリル樹脂の合成に引き続いて行われる。この減圧留去は常法により樹脂合成時の反応温度(例えば145℃)を保ったまま冷却することなく行なう。減圧留去時の温度は場合に応じて最適温度に設定して行なわれる。溶剤(揮発成分)はVOC削減の観点から可能な限り留去したほうが好ましい。減圧留去終了後、温度を90℃程度として中和剤を加えて中和した後、所定量の脱イオン水を80℃程度の温度で攪拌下、滴下して添加することによりアクリル樹脂粒子を得ることができる。
【0035】
アミン化合物(b)
本発明の方法に使用するクリヤー塗料は、上記の中和剤としてアミン化合物を用いる。アミン化合物は、アミン化合物(b)のアミン当量/アクリル樹脂(a)のカルボキシル当量の比が0.5〜1.8の量で使用される。
【0036】
アミン化合物(b)としては、例えば、アンモニア、エチルアミン、イソプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチレンジアミン、モルホリン、ピリジン、イソプロパノールアミン、メチルイソプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、ジイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチルエタノールアミンなどのアミン化合物を好適に使用することができる。好ましく用いられるアミン化合物は、ジメチルエタノールアミンである。
【0037】
添加するアミン化合物(b)の量は、アミン化合物(b)のアミン当量/アクリル樹脂(a)のカルボキシル当量の比が0.5〜1.8、好ましくは0.8〜1.2で使用する。アミン化合物(b)のアミン当量/アクリル樹脂(a)のカルボキシル当量の比が0.5より小さいと、分散安定性が悪くなり、1.8を超えても添加量に比例する効果が得られない。上記水分散においては、分散性向上の観点から必要に応じて乳化剤を使用することもできる。
【0038】
ポリイソシアネート化合物(c)
ポリイソシアネート化合物は、硬化剤として、本発明の方法に使用するクリヤー塗料に配合する。ポリイソシアネート化合物とは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネート化合物は、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートおよびこれらポリイソシアネートの誘導体などを挙げることができる。
【0039】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−または2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエートなどの脂肪族ジイソシアネート、例えば、リジンエステルトリイソシアネート、1,4,8−トリイソシアナトオクタン、1,6,11−トリイソシアナトウンデカン、1,8−ジイソシアナト−4−イソシアナトメチルオクタン、1,3,6−トリイソシアナトヘキサン、2,5,7−トリメチル−1,8−ジイソシアナト−5−イソシアナトメチルオクタンなどの脂肪族トリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0040】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−シクロペンテンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(慣用名:イソホロンジイソシアネート)、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−または1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(慣用名:水添キシリレンジイソシアネート)もしくはその混合物、ノルボルナンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート、例えば、1,3,5−トリイソシアナトシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルイソシアナトシクロヘキサン、2−(3−イソシアナトプロピル)−2,5−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、2−(3−イソシアナトプロピル)−2,6−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、3−(3−イソシアナトプロピル)−2,5−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、6−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−2−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)−ヘプタン、6−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−2−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタンなどの脂環族トリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0041】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−もしくは1,4−キシリレンジイソシアネートまたはその混合物、ω,ω’−ジイソシアナト−1,4−ジエチルベンゼン、1,3−または1,4−ビス(1−イソシアナト−1−メチルエチル)ベンゼン(慣用名:テトラメチルキシリレンジイソシアネート)もしくはその混合物などの芳香脂肪族ジイソシアネート、例えば、1,3,5−トリイソシアナトメチルベンゼンなどの芳香脂肪族トリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0042】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、2,4’−または4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートもしくはその混合物、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネートもしくはその混合物、4,4’−トルイジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、例えば、トリフェニルメタン−4,4’,4’’’−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエンなどの芳香族トリイソシアネート、例えば、4,4’−ジフェニルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネートなどの芳香族テトライソシアネートなどを挙げることができる。
【0043】
また、ポリイソシアネートの誘導体としては、例えば、上記したポリイソシアネート化合物のダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、カルボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、イソシアヌレート、オキサジアジントリオン、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)およびクルードTDIなどを挙げることができる。
【0044】
上記ポリイソシアネート化合物は、水分散させるために乳化剤を含んでいてもよく、また、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を親水性のブロック剤でマスクしたブロックポリイソシアネートであってもよい。ブロック剤は、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得る。例えば、ポリイソシアネートにポリエチレンオキサイドユニットを導入することにより、親水性が付与されたポリイソシアネートを硬化剤として用いることができる。
【0045】
本発明の方法に使用するクリヤー塗料において、アクリル樹脂(a)とポリイソシアネート化合物(c)との混合比は、塗膜の硬化性や塗料安定性などの観点から、ポリイソシアネート化合物(c)の当量/アクリル樹脂(a)の水酸基当量の比が1.0〜2.0、好ましくは1.1〜1.5の量で配合する。ポリイソシアネート化合物(c)の当量/アクリル樹脂(a)の水酸基当量の比が1.0より小さいと架橋性が不十分になり、2.0より大きいと熱による黄変が生じやすくなる。
【0046】
ヒンダードフェノール化合物(d)
本発明のクリヤー塗膜を形成する方法では、塗膜のオーバーベークによる黄変を抑制する為に、ヒンダードフェノール化合物を含有させることが必要である。ヒンダードフェノール化合物は、ヒンダードフェノール化合物(d)の当量/アミン化合物(b)のアミン当量の比が0.05〜0.3の量で含まれる必要がある。
【0047】
ヒンダードフェノール化合物としては例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレネーテットフェノール、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル アセテート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。
【0048】
好ましいヒンダードフェノール化合物としては、ペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が挙げられる。また、市販のヒンダードフェノール化合物としては、例えば、イルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)などが挙げられる。
【0049】
ヒンダードフェノール化合物は、ヒンダードフェノール化合物(d)の当量/アミン化合物(b)のアミン当量の比が0.05〜0.3の量で配合されなければならない。ヒンダードフェノール化合物(d)の当量/アミン化合物(b)のアミン当量の比が0.05より小さい場合は、得られるクリヤー塗膜の耐光性が悪くなり、0.3より大きいと、添加量に比例した効果が得られない。ヒンダードフェノール化合物(d)の当量/アミン化合物(b)のアミン当量の比は、好ましくは0.08〜0.3である。
【0050】
他の成分
本発明の方法に使用するクリヤー塗料には、必要に応じて紫外線吸収剤を使用することができる。紫外線吸収剤としては、例えば、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物などを挙げることができる。黄変抑制の観点から、トリアジン系化合物を特に好適に使用することができる。
【0051】
本発明の方法に使用するクリヤー塗料には、さらに必要に応じて、光安定剤を添加することもできる。光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン誘導体を用いることができ、具体的には、例えば、ビス−(2,2’,6,6’−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバテ−ト、4−ベンゾイルオキシ−2,2’,6,6’−テトラメチルピペリジンなどを挙げることができる。上記光安定剤は単独でまたは2種以上を併用して使用することができる。
【0052】
本発明の方法に使用するクリヤー塗料には、その他必要に応じて、硬化触媒、レオロジーコントロール剤、表面調整剤、着色顔料、メタリック顔料、光干渉性顔料、体質顔料などの添加剤を含有させることができる。上記着色顔料、メタリック顔料、光干渉性顔料、体質顔料などは塗膜の透明性を阻害しない範囲の量で使用することができる。
【0053】
クリヤー塗料
本発明の方法に使用するクリヤー塗料は、アクリル樹脂(a)とポリイソシアネート化合物(c)が常温で容易に架橋反応するので、2液型として、アクリル樹脂(a)とポリイソシアネート化合物(c)を分けておいて、塗装直前に混合が行なわれる。混合は、例えばディスパー、ホモジナイザーなどの混合装置を用いて行うことができる。
【0054】
塗装方法
上記クリヤー塗料は、必要に応じて脱イオン水で希釈して、塗装粘度、例えば、フォードカップ粘度計#4を用いて、20℃において20〜60秒、好ましくは30〜50秒の粘度に調整して塗装することができる。また、固形分濃度が35〜65質量%、好ましくは40〜60質量%の範囲内となるように希釈した状態で塗装することができる。
【0055】
本発明のクリヤー塗膜を形成する方法では、上記のクリヤー塗料を被塗物にエアスプレー、エアレススプレー、回転霧化塗装などにより塗装することができる。この時、静電印加して塗装をすることもできる。塗装膜厚は任意に選択することができるが、通常、硬化塗膜を基準にして15〜80μm、好ましくは20〜60μmの範囲内が適している。塗膜の硬化は80〜180℃、好ましくは100〜160℃の温度で、10〜40分間程度加熱することにより行なうことができる。上記加熱硬化の際、必要に応じて、加熱硬化を行なう前に水などの揮発成分の揮散を促進するために、50〜80℃程度の温度で3〜10分間程度のプレヒートを行なってもよい。
【0056】
被塗物としては、例えば、乗用車、オートバイなどの自動車の金属製またはプラスチック製の車体外板部などが挙げられ、これらの被塗物はあらかじめ化成処理、下塗り塗装(例えばカチオン電着塗装など)および場合によりさらに中塗り塗装などを必要に応じて行なっておくことが好ましい。
【0057】
自動車の塗装をする場合には、本発明のクリヤー塗膜を形成する方法は、最上層のクリヤー塗膜を形成するのに適しており、被塗物に少なくとも1層のベースコート塗料および少なくとも1層のクリヤコート塗料を塗装することにより複層塗膜を形成する方法が好適である。
【実施例】
【0058】
本発明を実施例により、更に詳細に説明する。なお、以下、「部」および「%」はいずれも質量基準によるものとし、また、塗膜の膜厚は硬化塗膜に基づくものである。
【0059】
実施例1〜4および比較例1〜6(クリヤー塗料の調製)
表1に示すように、アクリル樹脂(住化バイエルウレタン社バイヒドロールXP2470;固形分水酸基価129および固形分酸価22を有し、ジメチルエタノールアミンとトリスーエタノールアミンが、100質量部中にジエタノールアミン4質量部、トリスーエタノールアミン2.7質量部含まれている。)59.2質量部、イソシアネート化合物(住化バイエルウレタン社製バイヒジュールXP2655)40.8質量部および酸化防止剤として表1に記載のものを表1に記載の添加量で混合して、実施例1〜4および比較例1〜6のクリヤー塗料を作成した。
【0060】
表1中には、アクリル樹脂の特数値(水酸基価および酸価)、アミン化合物の当量、ヒンダードフェノール化合物の当量を記載する。
【0061】
試験板の作成と評価
電着塗膜、中塗り塗膜およびL値が84、a値が−1.1、および、b値が1.4の白色上塗りソリッド塗膜を順次形成した、150×75mm、厚さ0.8mmの鋼板の半分の面をマスクして、実施例1〜4および比較例1〜6で得られたクリヤー塗料組成物を乾燥膜厚が40μmとなるように塗装した後、マスクを剥離して160℃で60分間加熱硬化させ、1枚の鋼板のうち半分は白色上塗りソリッド塗膜のまま、もう半分がクリヤー塗膜を形成した試験板を作成した。60分間加熱硬化は通常必要な硬化時間(30分)を大きく超えているものである。
【0062】
得られた試験板の白色上塗りソリッド塗膜の部分と、クリヤー塗膜の部分のb値を、SMカラーコンピューター型式SM−T45(スガ試験機社製)で測定し、色差Δb値(クリヤー塗膜部分のb値−白色上塗りソリッド塗膜部分のb値)を求めて、表1に記載した。
【0063】
【表1】

【0064】
イルガノックス1010:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製ヒンダードフェノール化合物(酸化防止剤)
イルガノックス1076:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製ヒンダードフェノール化合物(酸化防止剤)
イルガフォス126:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製リン系酸化防止剤
【0065】
上記表1から明らかなように、ヒンダードフェノール化合物を所定量配合した実施例では、Δb値は2以下であり、黄変がほとんど起こっていない。一方、比較例1および2は、ヒンダードフェノール化合物を配合しているが、その量がヒンダードフェノール化合物(d)の当量/アミン化合物(b)のアミン当量の比=0.3以上になる量であるが、Δb値が2以上と黄変が大きくなっている。また、ヒンダードフェノール化合物でないリン系の酸化防止剤を用いた比較例3〜5では、配合量がどの範囲でもΔb値が2以上であり、黄変が大きい。比較例6は、酸化防止剤を配合しない例で、Δb値が2.35と高く、黄変が大きくなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のクリヤー塗膜を形成する方法は、多くの被塗物の塗装に好適に用いることができるが、特に自動車の塗装などのオートメーション化した塗装の場合に、何かの事故や故障で被塗物の流れが停止し、焼付硬化炉に長い時間滞留するおそれがある時に黄変が極めて小さくなり、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物に水性2液型クリヤー塗料を塗布して硬化することによりクリヤー塗膜を形成する方法であって、
該クリヤー塗料が
(a)固形分水酸基価80〜200mgKOH/gおよび固形分酸価10〜50mgKOH/gであるカルボキシル基および水酸基の両方を有するアクリル樹脂、
(b)アミン化合物、
(c)ポリイソシアネート化合物、および
(d)ヒンダードフェノール化合物
を含有し、アミン化合物(b)が、アミン化合物(b)のアミン当量/アクリル樹脂(a)のカルボキシル当量の比が0.5〜1.8の量で含まれ、ヒンダードフェノール化合物(d)が、ヒンダードフェノール化合物(d)の当量/アミン化合物(b)のアミン当量の比が0.05〜0.3の量で含まれることを特徴とするクリヤー塗膜を形成する方法。

【公開番号】特開2012−92232(P2012−92232A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241059(P2010−241059)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】