説明

クリーンゲノムバクトフェクション

遺伝子を含む真核発現カセットを含む侵入性のある縮小させた生細菌による動物細胞の感染を含む、動物細胞に前記遺伝子を導入・発現させる方法が提供されている。また、転写因子Oct3/4をコードする遺伝子およびSox(SRY-related HMG-box)転写因子ファミリーのメンバーをコードする遺伝子を少なくとも含む一つ以上の真核発現カセットを含む侵入性のある縮小させた生細菌による体細胞の感染を含む、哺乳動物の体細胞から多能性幹(iPS)細胞を産生する方法も提供されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、非必須要素が欠如しており真核細胞および好ましくは動物細胞において異種配列を発現できる発現カセットを含むクリーンゲノムを有する侵入性のある生細菌を用いて、真核細胞に遺伝子を導入する物質および方法を対象としている。
【背景技術】
【0002】
関連出願の相互参照
この出願は、2008年9月12日に出願された米国仮出願第61/096,649号の利益を主張し、その内容は参照により本明細書に援用される。
【0003】
発明の背景
患者における標的遺伝子の発現に影響を及ぼす核酸(例:機能遺伝子コピーまたはオリゴヌクレオチド)を輸送する核酸輸送技術の使用は、遺伝子治療の基本原則である。望ましい結果を得るために、核酸転移のための輸送ベクターが必要である。最も頻繁に使用されるベクターには、アデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルスおよび同類から由来するウイルスベクターが挙げられる。ただし、ネイキッドプラスミドDNAは、単独または細胞と膜を貫通するエンハンサーと組み合わせて、短期用途で使用されている。これらのベクターの多くでは、生産コスト、輸送される核酸量および適用の難しさなどの制限が共通している。
【0004】
標的の生物、組織、または細胞に核酸を輸送するためのベクターとして侵入性のある生細菌を使用する手法は、バクトフェクションとして知られている。この方法に従えば、細菌株は関心のある核酸を含む真核発現カセットを含むプラスミドによって形質転換される。形質転換された生細菌は次に、標的細胞を感染させるために使用され、結果的に感染細胞(およびその子孫)による真核細胞発現カセットの発現が生じる。米国特許第5,877,159号、6,150,170号および6,682,729号は、動物細胞へのDNA導入を目的とする特定の細菌の使用を説明しており、これらの特許の全体は参照により本明細書に援用される。
【0005】
食作用性および非食作用性の哺乳細胞を含む、さまざまな哺乳細胞のバクトフェクションが実証されてきた。ただし、バクトフェクション効率は概して低いものであった。例えば、米国特許第5,877,159号はHeLa細胞におけるバクトフェクション効率を約20%と開示しているが、これはマクロファージよりも低いものである。Pilgrim et al., Gene Therapy 10:2036-2045 (2003)は、細胞型次第では報告によれば効率が5〜20%の改良されたバクトフェクションシステムについて説明している。
【0006】
ワクチン開発は、分子遺伝学を用いてウイルスおよび細菌を合理的に修飾できる能力をもって、新しい時代を迎えた。これらの修飾には、弱毒化から非毒性の表現型を含み、異種免疫原をコードする追加遺伝子も含む。現在ヒト用には、次の2種の経口生細菌ワクチンが使用認可されている。チフス菌(S. typhi)Ty21a(Berna Biotech Ltd.)およびコレラ菌CVD 103-HgR(Berna Biotech Ltd)。これらの生細菌ワクチンは、それぞれ腸チフスおよびコレラに対して数百万人もの人々に安全かつ効果的に予防接種されてきた(Dietrich et al., Vaccine 21 (7-8):687-683、2003)。
【0007】
ウイルス性疾患に対する免疫を与えるための細菌によるDNA輸送能力もまた評価されてきた。例えば、単純ヘルペスウイルス-2(HSV-2)感染は、生殖器粘膜における強力なT細胞応答によって制御できる。マウスにおいてHSV-2糖タンパク質D(gD)またはB(gB)をコードするネズミチフス菌ΔaroAを伝達するDNAプラスミドによる経口免疫は、膣記憶T細胞を含めて強力な全身性および粘膜(膣)T細胞応答を生み、HSVによる膣への攻撃接種(challenge)に対する防御を提供している。この細菌輸送は、粘膜T細胞のレベルおよびHSVによる膣への攻撃接種によって喚起された防御に関して、同一のプラスミド構築体の筋肉注射よりも明らかな優位性を実証した(Flo et al., Vaccine 19 (13-14):1772-1782、2001)。
【0008】
幾つかの研究は、DNAワクチンとして使用されるのと同様のプラスミドの輸送を含め、バクトフェクションが遺伝子治療の方法に使用できることを実証してきた。例えば、弱毒化細菌ベクターは抗HIVワクチンとして使用できる。粘膜免疫応答を誘導するHIV-1ワクチンの開発に対する最大の障害は、このコンパートメントに投与される免疫原の免疫原性が不良なことである。Foutsらは、サルモネラDNAワクチンベクターがパッセンジャーHIV-1 gpl20 DNAワクチンを宿主細胞に輸送してgpl20に対するCD8+ T細胞応答を誘導する能力あると報告している。それ故、弱毒化細菌ベクターは粘膜組織に投与された免疫原の免疫原性の不良という問題を克服できると思われる(Fouts et al., FEMS Immunology and Medical Microbiology 37: 129-134 2003)。
【0009】
弱毒化サルモネラおよび赤痢菌株は、特にT細胞の防御を必要とするモデルにおいて、細菌およびウイルスの両方に起源を持つさまざまな感染性疾患に対してDNAワクチンを輸送するためにマウスで使用されている。例えば、呼吸器病原体クラミジア・トラコマチスの主要な外膜タンパク質をコードするDNAワクチンベクターの輸送について、ネズミチフス菌のプリン栄養要求性株22-11が評価された。経口免疫は、クラミジア・トラコマチスによる肺への攻撃接種に対するマウスの部分的防御につながり、腸の粘膜表面のプラスミド輸送は免疫応答を引き出し、遠い粘膜表面、つまり肺で防御を提供することを実証した(Brunham et al., Am Heart 138 (5 Pt 2): S519-S522 1999)。
【0010】
細菌を使ったワクチンの使用は感染だけには制限されない。例えば、腫瘍細胞と闘う腫瘍特異性免疫を誘導するための自己抗原でのワクチン接種による治療介入によって、癌は修正可能かもしれない。生細菌ワクチンは、さまざまな研究で実証されたように、腫瘍特異性抗原をコードするDNAワクチンの輸送に適している。さらに、弱毒化サルモネラ株は腫瘍組織を特異的に標的とすることが実証されており、これにより腫瘍細胞への選択的ワクチン輸送を実現できる(Zheng et al., Oncol. Res. 12 (3): 127-135, 2000)。腫瘍用DNAワクチン輸送分野において実施されてきたこれまでの研究は、ネズミチフス菌ΔaroAを担体としてマウスで実施されてきた。弱毒化生細菌は、実験動物におけるメラノーマ、神経芽細胞腫および異なる腺癌などの幾つかの腫瘍型の治療に適用されてきた(Dietrich et al., Current Opinion in Molecular Therapies 5 (1), 10-19, 2003)。
【0011】
米国特許第5,877,159号(参照によりその全体を本明細書に援用する)においてPowellらは、非特異的突然変異または組み換えDNA手法を用いて弱毒突然変異を病原菌に導入できる方法を教示している。この弱毒化アプローチは、感受性宿主において病因に関与する一つ以上の遺伝子を除去することで野生型細菌が弱毒化される「トップダウン」アプローチとして説明できる。ただし、病原性にとって必須の一つ以上の遺伝子が欠失している細菌であっても、免疫を受けた被験者集団においては病理表現型に復帰する場合がある。かかる復帰が可能である理由の一部は、説明してきたワクチン株が組み換えを促進するファージおよび挿入配列(IS)などの数多くの可動遺伝因子を抱え、結果的に病理表現型を回復できるからである。
【0012】
克服するべき弱毒生細菌株に関する別の問題には、場合によっては非常に高い用量および/または反復投与が必要なこと、株の構築に使用されるプラスミドおよび抗生マーカーが依然として存在し別の生物に転移する可能性があること、第三の点として一部の株(例:赤痢菌)は具体的に望まれるもの以外の細菌成分への免疫応答を生み、副作用の原因となる可能性があることが挙げられる。さらに、向上したバクトフェクション効率での改良されたバクトフェクション方法に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0013】
発明の概要
本発明は、発現可能なDNAまたはRNAを動物細胞に輸送する「クリーンゲノム」(本明細書での別名は「縮小させたゲノム」または「複数の欠失株」[MDS])を持つ細菌および同左の方法を対象としている。DNAまたはRNAは、治療薬または予防薬をコードまたは含むことができる。かかるDNAまたはRNAを細胞に輸送するこの過程は、本明細書においては「バクトフェクション」と呼ばれ、この方法で使用される細菌は細菌ベクターまたはバクトフェクションベクターと呼ばれる。クリーンゲノムは、細菌の天然親株から一定の遺伝子を欠失させて産生されるか、または例えば、異種発現可能な配列の輸送手段としての適切な成長および代謝特性を持つ細菌を提供するために選ばれた事前選択済みの遺伝子の集合体として完全に合成されてもよい。
【0014】
一つの実施形態において、本発明の実践において使用されるクリーンゲノム細菌は、天然親株のゲノムよりも少なくとも2パーセント(2%)、最高20パーセント(20%)(その間の任意の整数を含む)小さい(1%)ように遺伝子操作されたゲノムを有するのが好ましい。ゲノムは、天然親株のゲノムよりも少なくとも7パーセント(7%)(その間の任意の整数を含む)小さいのが好ましい。ゲノムは、天然親株のゲノムよりも8パーセント(8%)〜14パーセント(14%)〜20パーセント(20%)(その間の任意の整数を含む)以上小さいのがより好ましい。別の方法としては、本明細書に記載するパラメータに従って設計される限り、ゲノムは天然親株のゲノムと比べた場合の小ささが20%以下となるように操作されてもよい。例えば、株は挿入配列のみが欠失するように設計できる。細菌はさらに、本明細書に記載する通り発現可能なDNAまたはRNAを含む発現カセットを含む。
【0015】
その各自の内容全体が参照により本明細書に援用される、米国特許出願番号10/896,739、11/275,094、11/400,711および米国特許第6,989,265号および7,303,906号に説明する通り、クリーンゲノム細菌は、細菌の成長および代謝にとって不要な特定の遺伝子、挿入配列(転移因子可動遺伝因子)、偽遺伝子、プロファージ、望ましくない内因性制限修飾遺伝子、病原性遺伝子、毒素遺伝子、線毛遺伝子、ペリプラズムタンパク質遺伝子、インバシン遺伝子、リポ多糖遺伝子、クラスIII分泌系、ファージ毒性決定因子、ファージ受容体、病原性アイランド、RHS要素、未知の機能を持つ配列、および細菌の同一天然親種の2種の株間で共通性が見られない配列を含むがこれらに限定されない遺伝物質が欠失するように操作されてもよい。細胞生存に必要ではない別のDNA配列が欠失または省略されてもよい。
【0016】
本発明のクリーンゲノム細菌はまた、有益な産物の発現にとって望ましい遺伝因子や、望ましい産物の発現を微調整または最適化する機会を提供する遺伝子制御の要素が追加されうる基本的な遺伝子フレームワークを提供する。本明細書の説明内容からすぐに明らかなように、クリーンゲノム細菌は、比較対象であり特定の必須遺伝子を共有する天然親株に見出される遺伝子の完全な補体よりも数が少ない。ただし、上記で説明したように、「縮小させた」という用語は、本明細書に記載・援用されている設計パラメータを用いて選ばれた遺伝子を新たに集合させることで細菌ゲノムが合成ゲノムに産生されうる点で、過程の制限とは解釈されないものとする。
【0017】
一つの実施形態において、本発明はクリーンゲノム細菌を用いたバクトフェクションの方法を対象としている。本発明のバクトフェクション方法のバクトフェクション効率は、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%以上であるのが好ましい。本発明のバクトフェクション方法のバクトフェクション効率は、90%以上、最も好ましくは95%以上であるのがより好ましい。
【0018】
関連する一つの態様において、本発明は発現可能なDNAまたはRNAを生体外の動物体細胞に輸送する方法を対象としており、ここで前記のDNAまたはRNAは単独または組み合わせで前記の動物体細胞から多能性幹細胞(iPS)の産生を誘導するのに十分である、一つ以上の因子(例:転写因子)をコードまたは含む。一つ以上の因子をコードするDNAまたはRNAはヒト起源であることが好ましいが、ただし、マウス相同分子種などの因子の動物相同分子種もまた、本発明において有益である。
【0019】
関連する一つの態様において、本発明は、治療薬または予防薬をコードまたは含む異種発現可能なDNAまたはRNAの動物細胞への輸送を対象としている。異種DNAまたはRNAによりコードされた治療薬または予防薬には、免疫調節剤、抗原、例えば病原生物または腫瘍に関連した抗原、DNA、アンチセンスRNA、触媒RNA、タンパク質、ペプチド、抗体、サイトカインまたは別の有益な治療分子または予防分子が含まれる。
【0020】
異種DNAまたはRNAは原核細胞または真核細胞の発現カセットを含むことが好ましく、また複製が可能であることが好ましい。クリーンゲノム細菌および/または動物細胞における発現カセットの複製は、動物細胞への導入に伴い誘導性を持つことが好ましい。
【0021】
本発明はまた、本発明の細菌ベクターが疾患の治療または予防を目的に動物、好ましくはヒトに投与される、治療方法または予防方法を対象としている。
【0022】
一つの実施形態において、本発明は大腸菌K-12株の非病原クリーンゲノム株をワクチンとして使用することを対象にしている。この株は、縮小させたゲノム大腸菌が浸潤性表現型を獲得し、動物および好ましくはヒト細胞に入り込むことができるように、赤痢菌侵入遺伝子座、サルモネラ侵入遺伝子、仮性結核菌のinvA遺伝子または別の細菌性または寄生体侵入系またはかかる系の一部をコードする遺伝子などの侵入性のある遺伝子または侵入遺伝子をさらに含むのが好ましい。Isberg et al., Cell 50:769-778, 1987を参照。クリーンゲノム株はまた、遺伝物質の水平伝播を防ぐために、制限/修飾系(好ましくは異種)を含んでもよい。かかる縮小させたゲノム(またはクリーンゲノム)細菌の使用は、病理表現型への復帰、細菌ベクターの薬剤耐性の免疫原性の可能性をコードする遺伝子の獲得および反復的なワクチン用量の要件など、別の弱毒生細菌ベクターに関連した問題を未然に防ぐ。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、pBAC3、コピー数増幅可能なベクターのマップを示す。
【図2】図2は、赤痢菌の30 kb侵入遺伝子座の増幅を示す。
【図3】図3は、真核細胞の発現におけるLacZを示す。
【図4】図4は、LacZのバクトフェクションを示す。フレクスナー赤痢菌2aワクチン株CVD 1203(22)およびCVD 1208(32)は、LacZコード領域においてイントロンを含むgWIZ-LacZ発現プラスミドで形質転換された。発現陰性クローンがこれらの実験の対照群であった。形質転換した赤痢菌株のコンゴ赤染色およびIpaB発現を確認して、侵入遺伝子座を持つビルレンスプラスミドの存在を確証した。両方が陽性のコロニーをバクトフェクション実験用に選択した。HeLa細胞(5x104/ウェル)は、MOIを5対1で、適切な細菌の後期対数期培養で2時間培養した。2時間後、細胞は100ug/mlゲンタマイシンを含む培地で5回洗浄し、次に同一の培地で一晩培養した。21時間後、細胞を5分間固定し、次にメーカーのプロトコルに従ってX-galで染色して、β-ガラクトシダーゼ発現を可視化させた。
【図5】図5は、ヒト一次生体外応答系における免疫原性LacZ-イントロンを示す。
【図6】図6は、Stx1AおよびStx2Aのアライメントを示す。
【図7】図7は、MDS43+/-pBAC3-invAの接着および侵入性を示す。
【図8】図8は、pYinv4、コピー数を増幅可能なベクターのマップを示す。
【図9】図9は、高効率のバクトフェクションを示す。LacZ遺伝子中のイントロンによるβ-ガラクトシダーゼ発現プラスミドを含む縮小させたゲノム株MDS42(recA)(ryhb)(trfA+)を使って、HeLa細胞を感染させた。パネルAは、高コピー数の発現プラスミドが感染前に誘導されない場合には、バクトフェクション効率0%が観察された(X-galでの染色後に青色HeLa細胞がない)ことを実証している。パネルBは、高コピー数の発現プラスミドが誘導される時にはバクトフェクション効率が約37%に向上することを実証している。パネルCおよびDは、発現プラスミドの誘導後に高コピー数になるまで15%グリセロールで凍結させると、バクトフェクション効率が約99%にまで向上することを示している。
【図10】図10は、生来のStx2遺伝子中で発生するのとは違う順序だが、フレーム内で末端間で結合された免疫原Stx2エピトープ(StxA-1(配列番号1)、StxA-4(配列番号2)、StxA-6(配列番号3)およびStxB-1(配列番号4))をコードするワクチン遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号5)を示している。ヌクレオチド配列については、大腸菌発現のためにコドンが最適化されている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
【0025】
とりわけ、例えば、挿入配列、および別の非必須遺伝子が欠失した安定感のある縮小させたゲノムを有し、例えば、ゲノムを不安定化させるか抗生物質に対する耐性を細菌に与える遺伝情報の水平伝播を防ぐように操作されることが好ましく、真核細胞、好ましくはヒト細胞を含む動物細胞に侵入し、治療薬および/または予防薬をコードする核酸、および単独または組み合わせで動物体細胞から多能性幹細胞(iPS)の産生を誘導するのに十分な一つ以上の因子をコードするか含む核酸を含むがこれらに限定されない細胞発現可能な核酸に輸送できる、細菌ベクターの改良に対する必要性が引き続き存在する。本明細書に記載する本発明の代表的な実施形態には、クリーンゲノム大腸菌を使った細菌ベクターおよびバクトフェクション効率が向上したクリーンゲノム大腸菌を使った細菌ベクターを用いたバクトフェクションの方法が含まれる。
【0026】
I. クリーンゲノム細菌
標的細菌株のDNA配列の少なくとも一部、バクテリオファージゲノム、または天然プラスミドの利用が前提となる。全配列を利用できるのが好ましい。かかる全配列または部分配列は、GenBankデータベースから容易に利用できる。配列がGenBankに存在する別の一般的に使用される別の実験用細菌数種の配列と同様に、大腸菌数株のゲノム全配列が公表されている(例えば、Blattner et al., Science, 277:1453-74, 1997 K-12 Strain MG165。GenBank受入番号U00096も参照。Perna et al., Nature, 409, 529-533, 2001。Hayashi et al., DNA Res., 8, 11-22, 2001。およびWelch et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA (2002) 99 (26) 17020-17024およびGenBank受入番号AE014075。左記全体を参照により本明細書に援用する)。
【0027】
欠失しうる大腸菌DNA要素の一つのタイプはIS要素(または転移因子)である。培養された環境では、IS要素は細菌生存および成長にとって重要ではなく、ゲノムおよびプラスミドの安定性を邪魔することが知られている。それ故、より小さなゲノムを持つ細菌の産生にあたってIS要素は欠失されうる。
【0028】
欠失しうる大腸菌DNA要素の別のタイプにはRhs要素がある。すべてのRhs要素は3.7 Kb Rhsコアを含むが、これは相同組み換えによるゲノム再配列の手段を提供する大きな相同反復領域(大腸菌K-12には五つのコピーが存在)である。Rhs要素は、別のバックグラウンドで大部分が進化し、種として大腸菌が分岐した後に水平交換によって大腸菌に広がった補助要素である。
【0029】
さらに欠失しうる大腸菌ゲノム中の領域の別のタイプは、細胞生存および増殖にとっての重要性が低いことから非転写領域である。
【0030】
プロファージ、偽遺伝子、毒素遺伝子、病原性遺伝子、ペリプラズムタンパク質遺伝子、膜タンパク質遺伝子もまた、本明細書で説明した遺伝子選択パラダイムに基づき欠失しうる遺伝子である。大腸菌K-12の配列後(Blattnerら、以降を参照)は、その親戚であるO157:H7(Pernaら、以降を参照)と比較され、タンパク質をコードする遺伝子の483/4288または11.3%(K-12)および1387/5416または26%(O157:H7)が比較的保存されたバックボーンに無作為に挿入された1〜約85 kbの株特異性アイランドに位置していると考察された。
【0031】
欠失しうる別の遺伝子は、例えば、tonA (fhuA)および/または溶菌ファージT1のために受容体をコードする完全オペロンfhuABCを含むバクテリオファージ受容体をコードする遺伝子である。
【0032】
本発明の縮小させた(またはクリーンな)ゲノム株を産生する特定の設計パラメータおよび方法は、米国特許出願第10/057,582号、10/655,914号およびPCT/US03/01800号に記載されており、その全体を参照により本明細書に援用する。すぐに明らかなように、本発明の操作面は、ゲノムの縮小自体だけでなく、ボトムアップからの操作過程を含む。つまり、最小または縮小させたゲノムは、必須遺伝子を細菌内の既存のゲノムを置換したり新たに細菌を作るのに使用できる人工ゲノムに集合させることで構築できる。クリーンゲノム細菌は、その天然親株のゲノムよりも少なくとも2パーセント(2%)、好ましくは5パーセント(5%)以上、より好ましくは7パーセント(7%)〜8パーセント(8%)〜14パーセント(14%)〜18パーセント(18%)〜20パーセント(20%)以上から、40パーセント(40%)〜60パーセント(60%)小さなゲノムを有することが好ましい。「天然親株」という用語は、科学界で一般に理解され、またより小さなゲノムで細菌株の産生のためにそのゲノム上で一連の欠失が行われうる、自然または天然の環境で見出される細菌株(または別の生物)を意味する。天然親株はまた、操作された株と比較され、操作された株が天然親株の完全な補体以下である株も意味する。一連の欠失後にゲノムがより小さくなる割合は、「すべての欠失後に欠失した塩基対の合計数」を「すべての欠失前のゲノム中の塩基対の合計数」で割ってから100で掛けて計算される。同様に、天然親株よりもゲノムが小さい割合は、より小さなゲノムを持つ株中のヌクレオチドの合計数(ヌクレオチドの産生過程は関係ない)を天然親株中のヌクレオチドの合計数で割ってから100で掛けて計算される。
【0033】
本発明に従った細菌は、そのタンパク質をコードする遺伝子の約5%〜約10%が欠失した縮小させたゲノム細菌を含むことが好ましい。タンパク質をコードする遺伝子の約10%〜20%が欠失しているのが好ましい。本発明の別の実施形態においては、タンパク質をコードする遺伝子の約30%〜約40%〜約60%が欠失している。タンパク質をコードする遺伝子の欠失に加え、前述した別の非必須DNA配列も欠失している。
【0034】
別の方法としては、本発明のクリーンゲノム細菌のゲノムは、特定クラスの遺伝因子が欠失している天然親株のゲノムよりも2%以下で小さい(つまり任意のIS配列または特定の別の天然遺伝因子が欠失している)。
【0035】
一般に、欠失しうる遺伝子タイプや別のDNA配列は、特異的成長条件の下で細菌生存および増殖率に悪影響を与えないものである。悪影響のレベルが許容可能かどうかは、特定の用途による。例えば、30%の増殖率低下は、ある用途では許容できても別の用途では許容できない。さらに、ゲノムからDNA配列を欠失することの悪影響は、成長条件の変化などの対策によって低下されうる。かかる対策によって、許容できない悪影響が許容できる悪影響に変わる場合もある。増殖率は親株とおよそ同一であることが好ましい。ただし、親株よりも約5%、10%、15%、20%、30%、40%〜約50%低い増殖率は、本発明の範囲内である。より具体的には、本発明の細菌の好ましい倍増期間は、約30分〜約4時間である。
【0036】
欠失させるべきゲノム断片の選択は、幾つかの大腸菌ゲノム全体の配列決定後に、ゲノム構造に対する見識に基づき引き出される。本発明の好ましい実施形態の一つは、遺伝子の水平伝播によって獲得されたアイランドを開示している。この情報は、「良性」K-12株のゲノムを幾つかの病原菌株と比較して得られた。一部のアイランドは、ワクチン株にとって望ましくない非必須DNAを含む。安定性がある「クリーンな」細菌には大きな利点がある。最小株は、約3700個の遺伝子を持つバックボーン(別の大腸菌と共通する領域)から構成されうる。これはなおも相当な重複機能を含み、進化という試練に耐えてきた強力な遺伝子群に相当する。
【0037】
大腸菌は、効率的なバクトフェクションベクターとしての役割を果たしうる細菌を産生するための欠失候補である遺伝子および別のDNA配列または要素を説明する実施例として、本明細書で使用されている。説明される一般原則および欠失候補として特定される遺伝子および別のDNA配列のタイプは、別の細菌種または株にも該当する。下記で欠失候補として特定された遺伝子および別のDNA配列は例証目的のみであることが理解される。特定されなかった数多くの別の大腸菌遺伝子および別のDNA配列もまた、許容できないレベルで細胞生存および増殖に影響を及ぼすことなく欠失でき、かかる遺伝子は本明細書に記載する方法を用いて容易に特定される。
【0038】
本発明の好ましい実施形態には、ファージ受容体の除去、細胞内プロテアーゼ、ペリプラズムプロテアーゼおよび膜プロテアーゼの除去、ならびにすべての組み換えまたは可能性として可動配列および水平伝播断片などの、合理的に設計された大腸菌ゲノムの修飾を含む。手法には、大腸菌ゲノムの大きな(100kb)断片さえも欠失、修飾または交換されうるように、生体内での相同組み換えを強制するさまざまな方法が伴う。ゲノム操作に対するこれらの強力なツールは、マーカーがないだけでなく傷もない欠失を生み、さらに望ましくない遺伝的事象のために焦点を生むことなく反復的に作られうる。
【0039】
次に事象の順序は、細菌が宿主細胞表面を見つける、Invが接着して内在化を誘導する、と予想される。細菌は次に液胞中に収容される。OriV複製または別の複製起点は、ストレスプロモーターによって作動し、TrfAが複数の複製フォークを再開する中で、免疫原DNAは増大するコピー数から転写される。HIyAは液胞膜を破壊し細菌は外に出るが、限られた栄養素およびoriV複製によって緩慢に死滅し、正常なoriC染色体複製の邪魔をする複数の複製フォークが生じる。次に、崩壊する細菌は真核生物宿主によって転写、スプライシングおよび翻訳されるべきDNAおよび/またはRNAを放出する。結果的に生じるタンパク質またはペプチドは次に、抗原提示経路に入る。
【0040】
制限系が存在する中でゲノムを再操作するために、r-m+ MDSをバクトフェクション株と並行して成長させる。調節領域(ATリッチ)における認識部位は、遺伝子発現の効果を最小限に抑えるために回避され、当該部位は遺伝子チップ発現実験によって監視される。
【0041】
本発明の実施形態の中には、縮小させたゲノムを持つフレクスナー赤痢菌がある。最近、フレクスナー赤痢菌2a株2457Tの完全なゲノム配列が決定された。(配列された株はAmerican Type Culture Collectionに受入番号ATCC 700930として預託されている。)フレクスナー赤痢菌のゲノムは、G+C含有量が50.9%である4,599,354の塩基対(bp)の単一の環状染色体から構成されている。細菌は広範な相同性を示すことから、染色体の塩基対1は大腸菌K-12の塩基対1に呼応するように割り当てられている。ゲノムは、約4082の予想遺伝子を含み、平均的な大きさは873塩基対であることが示された。フレクスナー赤痢菌のゲノムは、水平伝播DNAが格段に低く大腸菌に存在する357遺伝子が欠失しているにもかかわらず、大腸菌病原体のバックボーンおよびアイランドのモザイク構造を示している。(Perna et al., (2001) Nature, 409:529-533を参照)。生物はその挿入配列の大きな補体、幾つかのゲノム再配列、12の隠蔽プロファージ、372の偽遺伝子、および195の赤痢菌特異的遺伝子という点で特徴がある。フレクスナー赤痢菌の完全な注釈付き配列はGenBank受入番号AE014073に預託されており、参照により本明細書に援用される。(また、「Complete Genome Sequence and Comparative Genomics of Shigella flexneri Serotype 2A strain 2457T」、Wei et al., (2003) Infect. Immun. 71 :2775-2786を参照)。そのDNA配列に基づくと、赤痢菌は系統学的には大腸菌と別個でないことは特筆すべき点である。
【0042】
この開示からすぐに明らかなように、フレクスナー赤痢菌が制御下にあることで、そのゲノムは本明細書で論じる方法および遺伝子選択パラダイムを用いて容易に縮小させることができる。縮小させたゲノム赤痢菌は、縮小させたゲノム大腸菌(例:生ワクチン)に関して本明細書で論じられる理由により異種(組み換え)タンパク質または別の有益な栄養素の発現にとって、バクトフェクションベクターとして有益である場合がある。縮小させたゲノム赤痢菌、またはサルモネラなどの本発明の欠失方法の影響を受けやすい侵入性細菌に対する別の使用法は、宿主からの免疫応答を誘導する目的で抗原を表示または提示する手段として使用することである。このような操作された赤痢菌は、例えば、宿主における免疫応答、好ましくは宿主の腸壁内での粘膜免疫応答を誘導するのに十分な抗原決定基をコードする別の遺伝子を維持しつつ、生物からビルレンスを司る遺伝子を欠失させることができる。この配列情報を用いて、本明細書に記載する方法および遺伝子選択パラダイムを用いて、そのゲノムを容易に縮小させることができる。
【0043】
フレクスナー赤痢菌は、そのビルレンス決定因子が、そのヌクレオチド配列が決定されGenBank受入番号AF348706(参照により本明細書に援用される)として預託された210-kbの「大きなビルレンス(または侵入)プラスミド」として特徴付けられ局所化された点で、この戦略に適している可能性がある。(またVenkatesan et al., Infection and Immunity (May 2001) 3271-3285を参照)。
【0044】
欠失した赤痢菌侵入プラスミドを縮小させたゲノム大腸菌に導入させることで、縮小させたゲノム大腸菌が標的動物細胞に入ることを促進できる特定の赤痢菌侵入プラスミド遺伝子の効率的な発現を実現できる。侵入プラスミドはまた、ShET2エンテロトキシンをコードする遺伝子または液胞膜障害を行う遺伝子などの有害な遺伝子をプラスミドから欠失させるように操作されうる。侵入プラスミドから除去する好ましい候補遺伝子には、すべてのIS要素、および侵入に関与していない毒素または別の病原性タンパク質をコードする遺伝子、例えばvirB遺伝子などが含まれる。本発明ではまた、調節因子virFなど侵入遺伝子座自体の外にある侵入プラスミドの遺伝子を含めて、望ましい宿主細胞への遺伝子の導入を最適化するために侵入プラスミドが導入された別の遺伝子を縮小させたゲノム大腸菌に追加することが可能である。
【0045】
II. 侵入/バクトフェクション
この出願において使用される「バクトフェクション」という用語は、侵入性細菌により、好ましくは望ましいDNAまたはRNAを含み真核細胞中でDNAまたはRNAを発現する真核細胞発現カセットを導入することで、外来または内因性DNAまたはRNAを真核細胞に輸送することを意味する。本発明以前に使用されてきた輸送生物には、病原菌株であるサルモネラおよび赤痢菌種、リステリア・モノサイトゲネス、腸炎エルシニア、コレラ菌、ウシ型結核菌および炭疽菌を含み、本発明に従いそのゲノムを縮小させることができる。
【0046】
侵入能力は、エルシリアおよびリステリア菌(単一の「インバシン」または「インターナリン」タンパク質)、または赤痢菌およびサルモネラ(細菌の標的細胞への摂取をトリガーするシグナルを送るタイプIII分泌に依存した複数のエフェクター)などの侵入性細菌によって展開される機構によって供給されうる。侵入機構は最近、Cossart、P.、およびP.J. Sansonetti 2004. Science 304:242-248で検討された。一般的に、細菌侵入タンパク質は標的細胞内部に接触し、宿主シグナル伝達系を覆して細胞骨格を再編成し、細菌の巻き込みをもたらす。微生物および寄生体によって使用される別の機構も存在する(Sibley、L.D.2004 Science 304:248-253)。
【0047】
赤痢菌およびリステリア菌はサイトゾル中で複製し、液胞からの脱出を実現するにはIpaBまたはリステリオリシン(エスケープタンパク質)を必要とする。いったんサイトゾル中に入ると、これらの種はアクチンに基づく運動性によって隣接する細胞に横方向に拡散でき、この拡散は免疫原シグナルをさらに増幅する可能性があるが、拡散できない場合は輸送細菌の持続性を有益に制限する場合がある。好ましくは、バクトフェクション剤は、数日間以上ヒト内で持続するべきではなく、環境に流されるべきでもない。
【0048】
ワクチンのために細菌輸送系を使用する利点は幾つか存在する。可溶性抗原の抗原性は低いが、細菌による直接輸送によって操作された分子の効率的な提示が可能となる。細菌輸送系はまた、輸送されるのがRNAではなくタンパク質産物である場合でも、エピトープの適切な露出に必要な正確なタンパク質の折り畳みを保証する。
【0049】
ワクチンが望ましい結果である場合、細菌輸送は経口または経鼻または経皮の輸送によって(三つの経路すべてが全粘膜で免疫応答を誘発する)粘膜免疫系を優先的に標的とする。本明細書で使用される場合、「侵入性細菌」は真核細胞発現カセットを動物細胞または動物組織に輸送することのできる細菌である。「侵入性細菌」には、動物細胞の細胞質または核に自然に入り込むことのできる細菌の他、動物細胞または動物組織中の細胞の細胞質または核に入り込むよう遺伝子組み換えされた細菌も含む。
【0050】
さまざまな細菌が、宿主細胞内のさまざまな場所で複製する。例えば、エルシニア属およびサルモネラ属は侵入時点で形成された液胞中で複製を行う。ワクチンが望ましい結果である場合、タンパク質の液胞膜への輸送によって、タンパク質は抗原経路(MHCとともに抗原を提示する細胞表面で発現される)に向かう可能性がある。SipB/IpaBは膜を融合させることができ、免疫原の正確な膜への輸送のために孔を形成する可能性がある。この過程には、標的細胞のゴルジまたは小胞体が関与する場合がある。
【0051】
A. 発現カセット
発現カセット内の個々の要素は、複数の情報源に由来でき、作用部位において特異性または受容細胞においてカセットの長寿性を与えるように選択されうる。かかる操作は、標準的な分子生物学アプローチによって実施できる。
【0052】
典型的な発現カセットは、プロモーター領域、転写開始部位、リボソーム結合部位(RBS)、最適にはRNAスプライシング(真核生物中)の部位を持つポリペプチドをコードするオープン・リーディング・フレーム(orf)、翻訳停止コドン、転写終結因子および転写後ポリアデノシン処理部位(真核生物中)からなる。真核細胞発現カセットにおけるプロモーター領域、RBS、スプライシング部位、転写終結因子および転写後ポリアデノシン処理部位は、原核細胞発現カセットで見られるものとは違う。これらの違いによって真核細胞中での原核細胞発現カセットの発現が阻止され、その逆もまた発生する。
【0053】
これらのカセットの形は通常プラスミドであり、ウイルス由来SV40、CMVおよびRSVプロモーターなど動物細胞内の遺伝子発現の促進に使用されることが知られているさまざまなプロモーターを含む。β-カゼインプロモーター(乳房組織で選択的に活性)、ホスホエノールピルビン酸塩カルボキシキナーゼプロモーター(肝臓組織、腎臓組織、脂肪組織、空腸組織および乳房組織で活性)、チロシナーゼプロモーター(肺細胞および脾臓細胞では活性だが、睾丸、脳、心臓、肝臓または腎臓では不活性)、インボルクリンプロモーター(扁平上皮の分化ケラチン生成細胞で活性)およびウテログロビンプロモーター(肺および子宮内膜で活性)などの組織特異的プロモーターも使用できる。
【0054】
プラスミド上の追加遺伝因子には、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、アデノ関連ウイルスからの逆方向反復、制限酵素認識部位を含むがこれらに限定されない。
【0055】
pBAC3(下記を参照)などの増幅可能なコピー数のプラスミドが免疫原遺伝子または遺伝子を運ぶ場合があり、これは複製が誘導されるまで単一コピーのままである。プラスミドまたは選択可能なマーカーの必要性を解消したいと希望する場合には、バクトフェクション株の最終版において、プラスミドの免疫原遺伝子および複製増幅断片が細菌ゲノムに取り込まれるように設計されうる。染色体部分の複製コピーの誘導によって、複数の複製フォークを産生して宿主内での生存能力を制限することで、正常なoriC複製が阻止される。
【0056】
増幅および発現は、哺乳動物の標的細胞に入る時点で誘導されるプロモーターによって管理できる。DNA遺伝子チップ実験は、内在化した細菌の遺伝子発現を監視し、細胞内環境において誘導された有益なプロモーターの特定を実現する(Runyen-Janecky、L. J., and S. M. Payne. 2002. Infect. Immun. 70:4379-88)。侵入誘導性のプロモーターが、trfA(DNA増幅を促進するため)、およびレポーターまたは免疫原遺伝子(転写を促進するため)に追加される。ヒト細胞中の鉄制限条件によって誘導される鉄摂取タンパク質をコードするsitB、またはヒト細胞中のグリコース-6-リン酸によって誘導されたuhpTなどの赤痢菌中の特徴付けられたプロモーターを使用できる。プロモーターには特徴付けられるという利点があるが、ストレス誘導プロモーターがより好ましく、遺伝子チップスキャンによって見つけられる場合がある。ヒト細胞内部は、多くの面で細胞にとってストレスの多い環境である。さらなる代替策は、新しい設計のプロモーターをストレスによって誘導されたシグマ因子、例えばRpoSまたはRpoEの転写因子結合部位と合成させることである。
【0057】
一つの好ましい実施形態において、侵入およびサブユニットワクチン輸送の要素は、pBAC3と呼ばれるBACで集合される。いったん望ましい要素すべて、例えばoriV、inv、およびワクチン候補遺伝子が機能していることが実証されると、適切な調節配列を持つそのすべてをMDS染色体中のラムダ部着部位attBに転移できる。この部位は、宿主への悪影響のない状態でファージ大の挿入(最高50 kb)を受け入れることが知られているため選択される。Invは感染時点または致命的でない場合は構造的に発現する。oriV複製タンパク質TrfA(別個の遺伝子座で統合)の発現およびワクチン遺伝子は、宿主細胞の侵入によって作動されると思われる。何の変化もないクリーンな挿入はDNAチップのハイブリダイゼーションによって確認できる。
【0058】
B. 制限修飾系
一つの好ましい実施形態において、DNA水平伝播を防ぐための外因性制限/修飾系を本発明のクリーンゲノム株に追加できる。好ましい実施形態において、MDSゲノムは保護される(適切なパターンでメチル化)が侵入してくるDNAはメチル化されない認識部位での制限酵素の切断によって破壊されるように、PvuII制限エンドヌクレアーゼおよび本発明の株には通常見られないメチラーゼなどの制限/修飾系を追加することで、上記を達成できる。メチラーゼ遺伝子は第一に挿入される必要があり、制限酵素遺伝子が導入される時にゲノムを保護するために構造的に発現されるのが好ましい。入ってくるDNAが既に保護されている可能性が低くなるように、商業目的で大腸菌においてクローン化されてきた多数の制限酵素およびメチラーゼから、通常哺乳類の腸には見られない非病原性生物からの一つ以上の系を選択できる。制限系が存在する中でゲノムを再操作するには、コンストラクトを増殖させるr-m+ MDSを作ることが必要である。これは、バクトフェクション株内で並行して簡単に行うことができる。調節領域(ATリッチ)における認識部位は、遺伝子発現の効果を最小限に抑えるために回避され、当該部位は遺伝子チップ発現実験によって監視される。
【0059】
本発明の細菌株の利点の中には、病原性に寄与しうるすべての既知または潜在的な隠蔽ビルレンス遺伝子がないため、組み換えまたは組み換え数種の組み合わせが侵入/免疫原遺伝子に加えて新しい病原性機能を生むリスクが非常に低い、という点がある。さらに、操作された欠失は安定しており外因性DNAとの組み換え以外には復帰できない、またすべてのIS要素および別の組み換え要素が欠如していることで常在菌または別の病原体によるビルレンス遺伝子の組み換えおよび/または水平伝播の可能性が最小限に抑えられる、ISおよびファージ要素の欠如は現在の弱毒化ワクチン株に関して厄介な問題となっている継代中の定義されていない遺伝子変化を防ぐ、薬剤耐性マーカーまたはプラスミドは輸送株内にとどまり、例えば、赤痢菌侵入遺伝子座からの最小の侵入遺伝子座、サルモネラ侵入遺伝子または仮性結核菌のinvA遺伝子または別の細菌侵入系または部分系をコードする遺伝子の供給は、さらなる病原性なくMDS42およびMDS43における宿主細胞への侵入の表現型を安定させる、MDS42およびMDS43は許容性が高く一般に安全かつ常在と考えられる大腸菌K-12の誘導体である、ならびにMDS42およびMDS43などの別の大腸菌誘導体は経口輸送に全く適切である。縮小させたゲノム株MDS42は、親株MDS41からendA遺伝子を欠失させることで、国際特許公開第WO 2003/070880号で説明される方法を用いて産生された。
【0060】
結果的に生じる細菌株は多価核酸に基づくワクチンの供給に使用され、複数の病原体に対して効果のある経口投与ワクチンの製造を可能にしている。細菌株はまた、欠落または変異した代謝機能または転写因子など機能を管理する分子の供給など、遺伝子治療または生化学的治療にも使用されうる。さらに、細菌株はゲノムの安定性が重要であったり、ゲノム要素が転移しないという保証が重要な場合に輸送目的でも使用されうる。
【0061】
III. 異種遺伝子/抗原
本発明において、クリーンゲノムを持つ侵入性の生細菌は異種遺伝子または内因性遺伝子を動物細胞に輸送できる。本明細書で使用される場合、「異種遺伝子」は、ワクチン抗原、免疫調節剤、治療剤または転写因子など、受容動物の細胞または組織にとって異物のタンパク質またはその断片またはアンチセンスRNAまたは触媒RNAをコードする遺伝子を意味する。「内因性遺伝子」は、受容動物の細胞または組織に自然に存在するタンパク質またはその一部またはアンチセンスRNAまたは触媒RNAをコードする遺伝子を意味する。
【0062】
ワクチンが望ましい結果である場合、ウイルス抗原、細菌性抗原、寄生虫抗原のすべてまたは一部または組み合わせをコードする、ウイルス抗原、細菌性抗原、寄生虫抗原、または合成遺伝子の組み合わせを発現するクリーンゲノムを持つ侵入性の生細菌を用いて、単一または複数の発現カセットが輸送されうる。
【0063】
生体外の真核細胞のトランスフェクションが望ましい場合、動物起源の転写因子など外来遺伝子または内因性遺伝子の組み合わせを発現するクリーンゲノムを持つ侵入性の生細菌を用いて、単一または複数の発現カセットが輸送されうる。
【0064】
A. ワクチン
ワクチンとしての使用が安全と一般に考えられ現在利用できる弱毒化細菌株は、数段階ものランダム突然変異導入法の後にテストが続く弱毒化の経験的方法を繰り返し適用することで分離された、自然の病原体に由来するものである。残念なことに、現在のゲノム学に基づく科学水準からするとこうした株の特徴付けは非常に低い。ただし、予想されるように、大腸菌、サルモネラおよび赤痢菌の配列されたゲノムに似ている場合には、数百もの毒素、線毛、インバシン、III型分泌系、ファージ、ビルレンス決定因子、および病原性アイランドの遺伝子に加え、DNA断片を移動させることでゲノムの不安定性を促進できる数々の可動遺伝因子を含んでいる。
【0065】
増大する一方の証拠はまた、水平伝播機構による複数の抗生物質に対する耐性の獲得は、結果的に感染性疾患(例:現在薬物では効き目のない腸チフスおよび結核)の再発につながったものの、ワクチン開発においては遺伝因子の水平伝播現象が過小評価されてきたことを示唆している。
【0066】
本発明の利点の中には、意図される用途が何であれ実質的にどの細菌ワクチンベクターにも適用可能である、という点がある。例えば、安全かつ効果の高い単回投与用の腸チフスワクチンに対する深刻な必要性が未だに存在する。本発明の教示を用いて、発疹チフスの防御免疫を引き出すためにサルモネラ(または大腸菌)のクリーンゲノム株が操作されうる。さらに、これらの株は、防御免疫を引き出す免疫原をコードする関連性のある遺伝子を挿入することで、一定の薬剤を含めて別のウイルス性または微生物病原体に対する免疫をさらに引き出すために操作されうる。これらは、細菌染色体への直接導入、またはかかるワクチンの輸送を意図して特に設計されたクリーンゲノム株中の細菌に輸送されるプラスミドまたは細菌人工染色体(BAC)などのベクター内の発現可能なDNAとして含まれうる。このようにして、単一ワクチンを用いて、腸チフスさらにB型肝炎などの別の病原体に対する防御免疫を引き出すことが可能となる。クリーンゲノムアプローチでは、別の型のワクチンに比べて、ワクチンおよび環境の両方にとって予想可能な安全範囲をより広く取ることができる。本発明の教示内容に従って開発された細菌株には、とりわけ下記の特徴がある。1) 複数のワクチン抗原を輸送する能力、2) 定義済みの安定した弱毒突然変異、3) 遺伝情報を環境から移動または受領できない能力、および4) ワクチンの有効性にとって必要な株のみが存在すること。さらに、これらの細菌株はワクチンを経口輸送できることが好ましい。
【0067】
真核細胞発現系を含むプラスミドBACのコンストラクトまたは類似のものは、本発明の細菌を用いて、制御下にある調節によって治療分子または抗原分子をコードする遺伝子を持つプラスミドを用いて、哺乳細胞に輸送されうる。可溶性抗原の抗原性は低い一方で、細菌による直接輸送によって操作された分子を効率的に提示することが可能となり、関連性のあるエピトープを露出させるための正確なタンパク質の折り畳みを保証するためのプラスミドコンストラクトの操作が可能となる。使用されてきた輸送生物には、病原菌株サルモネラおよび赤痢菌種、リステリア・モノサイトゲネス、腸炎エルシニア、仮性結核菌、コレラ菌、ウシ型結核菌および炭疽菌がある。これらの株に対して本発明のクリーンゲノム株が持つ利点は、前述したほぼすべての望ましい機能および問題を満たすことである。
【0068】
本発明の複数の欠失株(MDS)は、望ましい特性の微調整のために操作されうる。弱毒突然変異の復帰は、特に組み合わせで、傷のないマーカーも欠失を用いることで回避されうる。MDS自体の免疫原性は、必須ではないすべての二次抗原遺伝子の欠失と必須である当該遺伝子の修飾によって制御されうる。大腸菌細菌株K-12は0-抗原またはH-抗原を作らないが、修飾の良い候補である脂質Aを作る。線毛、鞭毛、ファージ付着のために外膜受容体、ヌクレアーゼ、分泌タンパク質(毒素、IgAプロテアーゼ)をコードする遺伝子の欠失は、アジュバント効果と比べた細菌免疫原性の調整に使用できる。本発明の細菌は、抗原を輸送するのに十分な期間、宿主細胞内で生存しなければならないが、数日間以上持続してはならない。必要な防御レベルに比して攻撃接種の重大度の均衡を保つという目的で遺伝子は随時追加・削除できるため、MDS株の使用は粘膜免疫系に提示された攻撃接種に対する優れた制御を提供する。本発明の輸送細菌株は安定していて、復帰できず、弱毒化も微調整できる。輸送株が操作されてワクチン輸送のために使用される用意が整うと、薬剤耐性マーカーまたはプラスミドを伴わなくなる。IS要素および組み換え要素は輸送株から除去され、制限/修飾系が追加されうる。これは、常在菌または別の病原体との遺伝子交換の可能性を最小限に抑える。最小侵入遺伝子座または輸送株の遺伝子は、病原性のない状態で宿主細胞への侵入の表現型を安定させる。最後に、K-12は許容性が高く一般に安全かつ常在と考えられるため、大腸菌K-12が使用される場合、その誘導体は経口輸送に全く適切である。
【0069】
弱毒化によってワクチンが開発されてきた源である自然な病原体は、生物学的には非常に複雑であり、完全なビルレンスを持つには恐らく100程度の一連のビルレンス要素を必要とする。弱毒化の経験的方法とは、実際にはビルレンス要素自体を取り除かずに、その幾つかを不活性化させるか細菌適合性を弱体化させるに過ぎない。ビルレンス遺伝子の水平伝播は新しい病原体の出現において重大な機構である、という発見は、ワクチンを含有する残余的ビルレンス遺伝子が幅広く分布されるようになる時にさらに重要性を増す場合がある。
【0070】
幅広く使用されているワクチン株のビルレンス要素の正常な腸内細菌叢への移動は、これらの正常な細菌叢を「いつ病原体になってもおかしくない」状態へと変えてしまう可能性がある。つまり、その病原体としての可能性を高める。逆に、環境からワクチン株への遺伝情報の移動は組み換えによって弱毒化を逆転させる可能性がある。これらの考察から、ワクチン株には、そのワクチン株を組み合わせて病原体を作成することを困難にする最低数の潜在的なビルレンス要素があること、また、かかる組み合わせの事象に参加しうる転置および組み換えの機構をできる限り取り除くべきことが指示される。
【0071】
例として、輸送されたDNAは下記に説明するとおり潜在的なHIVワクチン抗原であるSCBaL/M9の発現を促進する。また、別の病原生物またはウイルス、または腫瘍ウイルス抗原から有用と見なされるものを含むがこれらに限定されない別または複数の免疫原も使用できる。
【0072】
本発明に従い縮小させたゲノムまたはクリーンゲノムバクトフェクションの輸送において使用するための細菌株の構築に対する遺伝子アプローチは、下記のとおりである。
【0073】
バクトフェクションの促進を目的に、侵入性のあるサルモネラ侵入遺伝子、仮性結核菌のinvA遺伝子、または別の細菌侵入系または部分系のすべてまたは一部をコードする遺伝子を与える赤痢菌ビルレンスプラスミドの関連部分を挿入することで免疫原輸送能力を株に与えるために、定義済みの縮小させたゲノム大腸株が操作される。
【0074】
発現可能な免疫原をコードする遺伝子(または抗原をコードする遺伝子)を挿入すること、例えば(SCBaL/M9)の増幅可能な発現系(発現カセット、例えばBAC)への挿入は、細胞によるスプライシング、処理および翻訳が可能な形で、細胞中においてRNA産物を輸送または発現することが望ましい真核細胞に導入される時に活性化するよう(発現および好ましくは複製可能)に設計されている。
【0075】
プラスミド中間体における薬剤耐性マーカーを取り除くことが、増幅可能な発現系におけるDNA断片の集合または必須遺伝子の選択可能なマーカーによるDNA断片の交換のために使用された。
【0076】
輸送コンストラクト(発現カセット)を縮小させたゲノム染色体に統合させることで、選択可能なマーカー(コンストラクトの統合は輸送にとって必要ではないが、安全上好ましい)を備えたプラスミドベクターの必要性がなくなる。
【0077】
ワクチン抗原は、ウイルス性病原体、細菌性病原体、または寄生体病原体からのタンパク質またはその抗原断片でも、腫瘍抗原でもよい。ワクチン抗原は、合成遺伝子によりコードされたり、ウイルス性病原体、細菌性病原体、寄生体病原体からの抗原またはその一部をコードする組み換えDNA方法を用いて構築されうる。これらの病原体は、ヒト、家畜動物または野生動物の宿主において感染性を持つ可能性がある。抗原は、動物宿主への侵入、定着化または複製に先立ち、またはその最中に、ウイルス性病原体、細菌性病原体、寄生体病原体によって発現される分子でありうる。
【0078】
異種核酸配列、または互換的に異種遺伝子は、適切な操作後にクリーンゲノム株において合成でき(ホルモン、脂質、糖、酵素、抗癌剤などの抗病薬)、動物または動物細胞への輸送が望ましい、抗原、タンパク質の抗原性断片、治療剤、免疫調節剤、アンチセンスRNA、触媒RNA、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体の抗原結合断片、または別の分子をコードすることができる。異種核酸配列は、例えば、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、HPV、HBV、HCV、HIV、HSV、EDBV、FeLV、FIV、HTLV-I、HTL V-II、エボラウイルス、マールブルグウイルス、およびCMVからなる一群より選択される病原体ウイルスから獲得できる。下記のウイルスについて、これらの略語が使用される。HPV:ヒト乳頭腫ウイルス、HBV:B型肝炎ウイルス、HCB:C型肝炎ウイルス、レンチウイルス、HIV:ヒト免疫不全ウイルス、HSV:単純ヘルペスウイルス、FeLV:猫白血病ウイルス、FIV:猫免疫不全ウイルス、HTLV-I:ヒトT細胞白血病ウイルスI、HTLV-II:ヒトT細胞白血病ウイルスII、CMV:サイトメガロ・ウイルス。狂犬病などのラブドウイルス、ポリオウイルスなどのピコルノウイルス、牛痘などのポックスウイルス、ロタウイルス、およびパルボウイルス。ウイルス性病原体の防御抗原の例には、HIV抗原nef、p24、gpl20、gp41、gpl60、env、gag、tat、rev、およびpol [Ratner et al., Nature 313:277-280 (1985)]およびgpl20のT細胞およびB細胞エピトープ[Palker et al., J. Immunol. 142:3612-3619 (1989)]、B型肝炎表面抗原[Wu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:4726-4730 (1989)]、VP4およびVP7などのロタウイルス抗原[Mackow et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:518-522 (1990)、Green et al., J. Virol. 62:1819-1823 (1988)]、赤血球凝集素または核タンパク質などのインフルエンザウイルス抗原(Robinson et al., 以降;Webster et al., 以降)および単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Whitley et al., In: New Generation Vaccines, 825〜854ページ)が含まれる。HIVの場合、抗原は構造遺伝子、アクセサリー遺伝子または調節遺伝子でもよく、複数または単一のレプリコンにおけるかかる遺伝子の組み合わせまたはキメラを含む。好ましい実施形態において、異種遺伝子はHIV遺伝子env、gag、pol、nef、tat、およびrev各自から少なくとも一つの抗原または抗原断片をコードする。
【0079】
細菌抗原の由来源である細菌性病原体には任意の病原菌が含まれ、マイコバクテリウム種、ヘリコバクター・ピロリ、サルモネラ種、赤痢菌種、大腸菌、リケッチア種、リステリア菌種、レジオネラ・ニューモフィラ、シュードモナス菌種、ビブリオ種、ライム病ボレリア菌、炭疽菌、ボルデテラ、連鎖球菌、ブドウ球菌、エルシニア、コリネバクテリア、クロストリジウム、腸球菌、ナイセリア、カンピロバクター、バクテロイデス、セラシア、トレポネーマ、およびシアノバクテリアが含まれるがこれらに限定されない。
【0080】
細菌病原体の防御抗原(防御免疫に至る抗原)の例には、ソンネ赤痢菌1抗原[Formal et al., Infect. Immun. 34:746-750 (1981)]、コレラ菌イナバ株569BのO抗原[Forrest et al., J. Infect. Dis. 159:145-146 (1989)]、CF A/I線毛抗原などの腸内毒素原性大腸菌の防御抗原[Yamamoto et al., Infect. Immun. 50:925-928 (1985)]および易熱性毒素の非毒性Bサブユニット[Clements et al., Infect, Immun. 46:564-569 (1984)]、百日咳菌のパータクチン[Roberts et al., Vacc. 10:43-48 (1992)]、百日咳菌のアデニル酸シクラーゼ溶血素[Guiso et al., Micro. Path. 11 :423-431 (1991)]、および破傷風菌の破傷風毒素の断片C [Fairweather et al., Infect. Immun. 58: 1323-1326 (1990)]が含まれる。
【0081】
B. 志賀毒素
コードされた志賀毒素は、リボソーム阻害タンパク質ファミリーに属する極めて強力なタンパク質毒素である。ヒトの標的細胞において、タンパク質合成は遮断されている。これらは、志賀赤痢菌および特定のSTEC株(志賀毒素を産生する大腸菌)によって分泌される。これらの病原体に感染すると、分泌毒素は生命を脅かすような病気にまで下痢を悪化させ、腎臓不全および中枢神経系の損傷へと進行する。この進行を止めるために現在利用できる治療は存在しない。下痢性疾患に対する通常の治療である抗生物質および下痢止め薬は、毒素活性を阻止せず、むしろ悪化させてしまう場合もある。今日まで、効果的なワクチンは存在せず、真に関連性のある動物モデルがないために候補をテストすることが困難である。
【0082】
STEC感染およびHUS(溶血性尿毒症症候群)の予防および治療に対する現在のアプローチには、STECによる付着および定着化を防ぐためのワクチン、およびStxの結合/不活性化を目指した受動療法がある。哺乳類細胞上で受容体を結合するインチミン、細菌アドヘシン、および毒素Bサブユニットが、マウスにおいて免疫原として使用されてきた。最近、Capozzoらは、活性部位が欠失したStx2遺伝子に基づくDNAワクチンの注射によって、マウスにおける防御免疫が上昇したと報告した。重要な活性部位残基でアミノ酸置換が行われたStx1はまた、同様に注射投与された場合、マウスにおいて毒素攻撃接種に対する防御免疫を生んだ。
【0083】
受動療法の中には、Stxトキソイド、Stxへのモノクローナル抗体(ヒト型を含む)があるが、どちらもヒトへの使用は認可されていない。Stxの糖脂質受容体リガンドを模倣する非抗体医薬は、腸管内腔において遊離毒素を厳密に結合させるために考案されたものである。HUSの治療には、Synsorb(珪藻シリカに付着した三糖グリコシド)が使用されてきた。第II相ヒト試験では、安全ではあったが、毒性の進路変更にはほとんど効果を発揮しなかった。別の受容体は多価炭水化物リガンドを模倣し、皮下注射でマウスにおいてテストされてきた。防御活性は得られたが、化合物が高価な上に注射が必要である。多価合成高分子(受容体模倣)は、マウスに注入した時に腸内および循環するStxAの両方を縮小させたと報告されている。組み換えLPSは大腸菌の表面上でも発現され、Stxを結合して致死毒素用量からマウスを効果的に防御することが示されたが、使用された株には潜在的な不安定性の問題がある。
【0084】
志賀毒素遺伝子は、STECゲノムにおいてプロファージ上でコードされる。溶菌サイクルへのファージ誘導はキノロン抗生物質によって刺激できるため、毒素産生のリスクを上昇させることなく、STEC感染の除去にこれらの薬剤を使用することはできない。毒素発現は、ファージ後期転写およびファージQタンパク質による抗転写終結によって調節されている。いずれにしても、感染因子が特定される時点までに毒素は既に循環している。さらに、この時点ではますます頻繁に、抗生物質に対する耐性がSTECに見られる。
【0085】
本発明の好ましい実施形態は、安全かつ効果がある単回投与の腸チフスワクチンによって解説される。大腸菌MDS41、またはワクチンとして適するものとして本明細書に記載する基準を満たした別のMDS株などのクリーンゲノム株は、腸チフスへの防御免疫を引き出すように操作されうる。関連抗原をコードする遺伝子は、(発現カセット内での)細菌染色体への直接統合またはかかるワクチンを輸送するように特別設計されたクリーンゲノム株によって輸送されるDNAワクチンとして含むことができる。このようにして、単一ワクチンを用いて腸チフスさらにB型肝炎などの別の病原体に対する防御免疫を引き出すことが可能なはずである。それ故、本発明に基づき開示されたクリーンゲノムアプローチは、ワクチンおよび環境の両方にとっての安全範囲をより広く取ることができる。
【0086】
本発明に従ったクリーンゲノム生物の大きな利点の一つは、望ましい分子の発現を可能にするだけでなく、クリーンな背景にさらにDNAを導入して望ましい病原体の発現を最適化したり病原体に対する宿主応答を最適化する能力を持つ分子の源を提供する機会を与えることのできるDNAを、クリーンで最小の遺伝的背景に提供することである。
【0087】
本発明の一つの好ましい実施形態において、プロトタイプのクリーンゲノム株であるMDS43からの可溶性サブユニットワクチン(つまり、単一タンパク質の輸送に基づくワクチン)または真核細胞発現に適したプラスミド(DNAワクチン)のどちらかとしてmStx2を発現するように、コンストラクトが開発される。
【0088】
志賀毒素は、リシンおよびコレラ毒素を含むABサブユニットタンパク質毒素のファミリーに属する。Stx生物学の大部分は知られているため、合理的な変異戦略の設計が可能である。Stxは、触媒部位を持つAサブユニットと、受容体結合部分を形成する五つのBサブユニットから構成されている。Stx、Stx1およびStx2の結晶構造が知られている。AおよびBは共有結合されていない。Aサブユニットはプロテアーゼ感受性の部位によって分離されたA1およびA2から構成され、ジスルフィド結合が二つの部分を結合している。A2はAタンパク質をB五量体に付着させる。活性部位はA1部分に存在する。クリーンゲノムワクチンの免疫原は、このA1ポリペプチドに基づく。
【0089】
厳格にいえば、「Stx」という用語は志賀赤痢菌の志賀毒素を特に意味し、一方でStx1およびStx2は大腸菌病原体の毒素である。個々の分離株に、そのどちらかまたは両方が存在しうる。Stx1およびStxはほぼ同一、Stx2とは約56%のみ同一だが、どのStxでも活性部位は保存性が高い(図4を参照)。Stx2の幾つかの変異株は、毒性特性がさまざまに異なることが特定されてきた。例えば、腸管出血性大腸菌(EHEC)0157:H7に由来する高ビルレンス性株からのStx2は、HUSの最も頻繁な原因である。以下の文章では、一般的な用法としてStxという用語はまた、志賀毒素ファミリー全体および変異体Stx2を指すmStxを一般的に意味するものとして使用されている。
【0090】
Stx2の産生はAおよびB遺伝子が共にオペロンでコードされるプロファージの誘導によって制御され、転写はプロファージが溶菌サイクルに入る時に誘導される。溶菌タンパク質遺伝子下流の発現はStx転写と結合され、ファージ媒介性の細菌細胞の溶解が毒素が放出される明らかな方法である[35、56]。侵入後の細菌溶菌を引き起こすために、誘導性のプロモーターから発現されたラムダからの溶菌遺伝子R、SおよびR7が本発明の実施形態において使用されている。
【0091】
プロファージは宿主細胞侵入後に環境シグナルを変更することで誘導される可能性が高い一方、ファージ調節の回路は複雑であり、シグナルは未だに定義されていない。ファージ調節を使用するよりも、誘導性があると特定されたuhpT遺伝子のプロモーターを本発明の実施形態に使用してもよい。
【0092】
uhpT遺伝子はヘキソースリン酸輸送体をコードし、宿主細胞サイトゾルには存在するが細菌中には存在しないグリコース-1-リン酸によって生体外に誘導される。MDS43はこの遺伝子の相同分子種を含む。それ故、ゲノムに代わるuhpTにラムダSRRZ遺伝子を挿入するか、プロモーターおよび遺伝子をpBAC3-invAに追加することが可能である。溶菌遺伝子の発現は、可視の細胞溶菌がその後急激に続く場合には、グリコース-1-リン酸を生育中の細菌培養物に追加してテストできる。この「自殺」溶菌カセットのMDS43への挿入は、侵入後に細菌が宿主内で生存できる時間を制限する役目も果たし、細菌の持続性に関する規制当局の懸念に応えるものとなっている。
【0093】
Stx2 Aサブユニットタンパク質は、その標的を大腸菌ペリプラズムに定めることのできるシグナル配列と合成される。AおよびBサブユニットは、ジスルフィド結合によって集合されてAB5ホロトキシンを形成する。B五量体は受容体付着構造を形成する。ホロトキシンは、ファージ溶菌によって腸管内腔にまたは侵入を受けた宿主細胞の液胞に分泌または放出される。毒素はM細胞を通って腸壁を超えることができ、血液系およびリンパ系に侵入できる。循環によって、毒素は糖脂質Gb3(グロボトリアオシルセラミド)受容体を持つ細胞に達することが可能となり、毒素はその細胞に特異的に付着する。腎臓およびCNSの微小血管系の内膜である内皮細胞は、その表面上のGb3受容体レベルが高いという理由から標的となる。
【0094】
受容体に結合した毒素は、主にクラスリン介在性エンドサイトーシスによって内在化される。ゴルジに侵入し、逆行性輸送として知られる過程においてERへと輸送される[48]。輸送中、AおよびBタンパク質は真核生物プロテアーゼフリンによるAの開裂およびジスルフィド結合の破壊によって分離される(図6)。次にA1は、恐らくは内部の膜貫通領域を用いて、サイトゾルに輸送される(図6)。サイトゾルにおいて、その極めて強力なN-グリコシダーゼ活性は哺乳動物の28SリボソームRNAからの特異的アデニン残基を開裂して、致命的にタンパク質合成を阻止する。
【0095】
Aサブユニットの活性部位が欠失した変異Stx2毒素(mStx2 AA)は、マウスにDNAワクチンとして投与される場合、Stx2の致死的攻撃接種から防御する強力な体液性応答を引き出したと説明されている。これらの防御研究に基づき、MDS43に関する概念実証のためのマウス研究を進めるためにこのmStxが選択された。この取り組みにあたって二つの菌株が構築される予定である。第一のものは、原核細胞発現されたサブユニットタンパク質としてMDS43 pBAC3-invA株においてmStx2 AAを発現する。
【0096】
可溶性mSTX2タンパク質の産生を高め、それ故、本発明の細菌株の哺乳類宿主細胞への侵入性を改善するために、例えば、発現カセットの複製中に高コピー数を保証する遺伝因子を用いて、原核細胞または真核細胞の発現カセットのコピー数を高めてもよい。例えば、第二の誘導性のある高コピーの複製起点を発現カセットに追加できる。起点は、例えば、TrfA203などの誘導性のある複製タンパク質によって活性化されうる。
【0097】
寄生虫抗原が由来する寄生体病原体には、マラリア原虫、トリパノソーマ種、ジアルジア種、バベシア種、エントアメーバ種、アイメリア種、リーシュマニア種、住血吸虫種、ブルギア種、肝蛭種、犬糸状虫種、バンクロフト糸状虫種、およびオンコセルカ種が含まれるがこれらに限定されない。
【0098】
寄生体病原体の防御抗原の例には、P. bergeriiのスポロゾイト周囲抗原または熱帯熱マラリア原虫のスポロゾイト周囲抗原などのマラリア原虫のスポロゾイト周囲抗原[Sadoff et al., Science 240:336-337 (1988)]、マラリア原虫のメロゾイト表面抗原[Spetzler et al., Int. J. Pept. Prot. Res. 43:351-358 (1994)]、赤痢アメーバのガラクトース特異的レクチン[Mann et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:3248-3252 (1991)]、リーシュマニア種のgp63[Russell et al., J. Immunol. 140:1274-1278 (1988)]、マレー糸状虫のパラミオシン[Li et al., Mol. Biochem. Parasitol. 49:315-323 (1991)]、マンソンの住血吸虫トリオースリン酸イソメラーゼ[Shoemaker et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 1842-1846 (1992)]、蛇状毛様線虫の分泌されたグロビン様タンパク質[Frenkel et al., Mol. Biochem. Parasitol. 50:27-36 (1992)]、肝蛭のグルタチオン-S-トランスフェラーゼ[Hillyer et al., Exp. Parasitol. 75:176-186 (1992)]、ウシ住血吸虫および日本住血吸虫[Bashir et al., Trop. Geog. Med. 46:255- 258 (1994)]、およびウシ住血吸虫および日本住血吸虫のKLH [Bashir et al., 以降]が含まれる。
【0099】
C. 生体外での遺伝子導入
本発明のクリーンゲノム細菌はまた、生体外での有益な動物細胞への遺伝子導入方法でもある。動物細胞は生体外でさらに培養でき、望ましい遺伝子特性を持つ細胞は、バクトフェクション時点で受容細胞に導入される選択可能なマーカーの選択によって充実させることができる。かかるマーカーには、抗生物質に対する耐性遺伝子、選択可能な細胞表面マーカー、またはバクトフェクションによって導入または変更された別の表現型または遺伝子型の要素を含む。バクトフェクション方法における本発明のクリーンゲノム細菌の使用は、幾つかの利点を提供する。驚くべきことに、本発明のクリーンゲノム細菌を使用した場合のバクトフェクション効率の大幅な向上が観察されている。本明細書で使用される場合、「バクトフェクション効率」という用語は、バクトフェクションにより導入される核酸分子を含む、標的細胞集団内の標的細胞の割合を意味する。さらに、クリーンゲノム細菌の使用によって、非常に穏やかな方法によって複数遺伝子の真核細胞培養物への導入が可能となる。
【0100】
一つの実施形態において、本発明は下記を含む動物細胞(例:哺乳類細胞)において核酸または遺伝子を導入および発現させる方法を含む。(a) 真核細胞発現カセットを含むベクターによって少なくとも一つの侵入性クリーンゲノム細菌を転換し、前記の発現カセットが少なくとも一つの形質転換した細菌を形成するための前記遺伝子を含む、および (b) 前記の形質転換した細菌により動物細胞を感染させる。関連する実施形態において、核酸または遺伝子は動物細胞において検出可能なレベルで発現される。別の実施形態において、動物細胞は生体外で培養される。
【0101】
本明細書における「侵入性細菌」は、動物細胞の細胞質または核に自然に侵入することのできる細菌の他、動物細胞の細胞質または核に侵入するよう遺伝子組み換えされた細菌でもある。
【0102】
関連する実施形態において、ベクターは第一および第二の複製起点を含む。第一の複製起点は、oriSなどの低コピー数の複製起点である。さらに別の実施形態において、第二の複製起点はoriVなどの誘導性のある高コピー数の複製起点である。一つの実施形態において、高コピー数の複製起点はアラビノースプロモーターの制御下にある。別の実施形態において、高コピー数の複製起点はアラビノースプロモーターの制御下にある遺伝子によりコードされたTrfAによって調節されている。
【0103】
驚くべきことに、感染前に含水グリセロール溶液中で形質転換した縮小させたゲノム細菌を凍結させることで、バクトフェクション効率を格段に高まることが分かった(実施例11を参照)。従って、好ましい実施形態において、本発明は、下記を含む動物細胞(例:哺乳類細胞)において核酸または遺伝子を導入および発現させる方法を含む。(a) 真核細胞発現カセットを含むベクターによって少なくとも一つの侵入性クリーンゲノム細菌を転換し、前記の発現カセットが少なくとも一つの形質転換した細菌を形成するための前記の遺伝子を含む、(b) 前記の形質転換した細菌を含水グリセロール溶液中で凍結させる、および (c) 前記の形質転換した細菌により動物細胞を感染させる。含水グリセロール溶液は約1%、約5%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、または約25%重量/重量(w/w)グリセロールでありえるが、約15% w/wグリセロールの含水グリセロール溶液が好ましい。形質転換した細菌は、約0°C、約-5°C、約-10°C、約-15°C、約-20°C、約-25°C、約-30°C、約-35°C、約-40°C、約-45°C、約-50°C、約-55°C、約-60°C、約-65°C、約-70°C、約-75°C、約-80°C、約-85°C、約-90°C、約-95°C、または約-100°Cの温度で凍結されうるが、約-80°Cでの凍結が好ましい。ジメチル・スルホキシドなどの細胞に浸透する別の凍結防止剤も、この方法における使用が意図されている。
【0104】
関連する実施形態において、(a) 第一の複製起点、第二の複製起点、および真核細胞発現カセットを含むベクターを提供し、前記の発現カセットが核酸または遺伝子を含む、(b) 少なくとも一つの形質転換した細菌を形成するためのベクターによって少なくとも一つの侵入性のある縮小させたゲノム細菌を転換させる、(c) 含水グリセロール溶液中で前記の形質転換した細菌を凍結させることを含む、バクトフェクションのために縮小させたゲノム細菌を調製する方法が提供されている。また、この方法によって調製された縮小させたゲノム細菌も提供されている。好ましい実施形態において、この方法によって調製された縮小させたゲノム細菌は、核酸または遺伝子を含む真核細胞発現カセットを含むベクターを含み、前記の核酸または遺伝子は心臓特異的プロモーターの制御下にある。関連する実施形態において、核酸または遺伝子は、血管内皮成長因子(VEGF)1、VEGF 2、線維芽細胞成長因子(FGF)4、内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)、細胞外スーパーオキシド・ジスムターゼ(Ec-SOD)、熱ショックタンパク質70(HSP70)、Bcl-2、低酸素誘導因子1(HIF-1)α、筋小胞体Ca2+-アデノシン三リン酸ホスファターゼ(SERCA)、筋小胞体Ca2+-アデノシン三リン酸ホスファターゼ-2(SERCA2)、およびスルホニル尿素受容体-2(SUR2)から選択される。
【0105】
方法において、ヒト、ウシ、ヒツジ、ブタ、ネコ、スイギュウ、イヌ、ヤギ、ウマ、ロバ、シカ、霊長類およびマウスを含むがこれらに限定されない哺乳類細胞を使用できる。最も好ましい哺乳類細胞はヒト細胞である。特に好ましい哺乳類細胞は線維芽細胞であり、その非制限的な例にはIMR90胎児線維芽細胞、出生後包皮線維芽細胞、および成人皮膚線維芽細胞が含まれる。また、どの細胞型も生み出せる能力を持つ(つまり全能細胞)胚幹細胞、および造血幹細胞、間充織幹細胞、間質幹細胞、神経幹細胞、筋芽細胞、および心臓幹細胞などの成人幹細胞を含む哺乳類幹細胞も好ましい。哺乳類幹細胞は、胚組織、骨髄、臍帯血、体組織から分離するか、哺乳類体細胞から生み出すことができる。また、HeLa細胞、ヒト胚腎臓(HEK)293細胞および、マウスおよびヒトの心筋細胞も好ましい。
【0106】
一つの好ましい実施形態において、この方法において使用される哺乳類細胞は心筋細胞である。心臓細胞、特に心筋細胞は、従来の方法によってトランスフェクトまたは感染させるのが比較的難しい。本発明は、心筋細胞への効率的な遺伝子または核酸の輸送方法を提供している。かかる実施形態において、心臓特異的プロモーターの制御下にある真核細胞発現カセット中に遺伝子または核酸を配置することが望ましい場合がある。適切な心臓特異的プロモーターには、α-ミオシン重鎖プロモーター、β-ミオシン重鎖プロモーター、ミオシン軽鎖-2vプロモーター、ミオシン軽鎖-2aプロモーター、心筋細胞制限心臓アンキリン反復(CARP)プロモーター、心臓α-アクチンプロモーター、ANPプロモーター、BNPプロモーター、心臓トロポニンCプロモーター、心臓トロポニンTプロモーターおよび骨格α-アクチンプロモーターを含むがこれらに限定されない。関連する実施形態において、心筋細胞に輸送される核酸または遺伝子は、血管内皮成長因子(VEGF)1、VEGF 2、線維芽細胞成長因子(FGF)4、内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)、細胞外スーパーオキシド・ジスムターゼ(Ec-SOD)、熱ショックタンパク質70(HSP70)、Bcl-2、低酸素誘導因子1(HIF-1)α、筋小胞体Ca2+ ATPase(SERCA)、筋小胞体Ca2+-アデノシン三リン酸ホスファターゼ-2(SERCA2)、およびスルホニル尿素受容体-2(SUR2)の一群から選択される。
【0107】
好ましい実施形態において、哺乳類細胞において導入および発現されるべき遺伝子は、一つ以上の追加因子との組み合わせにおいて、哺乳類体細胞から多能性幹(iPS)細胞を産生するのに十分な因子(例:転写因子)である。体細胞からのiPS細胞の誘導は、Takahashi et al., Cell 131: 861-872 (2007)、Nakagawa et al., Nat. Biotechnol. 26: 101-106 (2008)およびYu et al., Science 318: 1917-1920 (2007)で説明されている。Takahashiらは、ヒトOct3/4、Sox2、Klf4およびc-Mycのレトロウイルス媒介性形質導入後の、マウス線維芽細胞および成人ヒト線維芽細胞からのiPS細胞の誘導を報告している。Nakagawaらは、ヒトOct3/4、Sox2およびKlf4のレトロウイルス媒介性形質導入後にマウスおよびヒトの線維芽細胞からのiPS細胞の誘導を報告している。Nakagawaは、SoxおよびKlf転写因子ファミリーの特定のメンバーがSox2およびKlf4を置換できることを報告している。特に、Sox1、Sox3およびSox15はSox2を置換でき、Klf1、Klf2およびKlf5はKlf4を置換できた。Yuらは、ヒトIMR90胎児線維芽細胞およびヒト新生(出生後)包皮線維芽細胞からのiPS細胞の誘導を報告している。特に、各研究において産生されたiPS細胞には、ヒト(またはマウス)胚幹(ES)細胞形態があり、正常な核型が存在し、細胞表面マーカーおよびヒト(またはマウス)ES細胞の遺伝子特性を発現し、多分化能の分化が可能であった。
【0108】
本明細書で使用される場合、「誘導された多能性幹(iPS)細胞」は広義に、多能性の細胞、つまり、本来の細胞とは明確に違い体細胞から産生された二つ以上の組織または組織タイプを生み出す能力を持つ細胞を意味する。本明細書において、体細胞とは生物の現在の産生を超えてゲノムの増殖に寄与しない組織型/構造型の2倍体細胞と定義される。生殖細胞を除くすべての細胞は体細胞である。
【0109】
体細胞のiPS細胞への復帰は、とりわけ、若年性糖尿病および脊髄疾患の治療などの治療用途においてヒトES細胞が有用な理由ともなっているその特性を提供しつつ、ヒト着床前胚に対する必要性がない形で多能性幹細胞の源を提供するものである。ただし、iPS細胞を産生する現在の方法は、哺乳類細胞に必要な遺伝子を輸送するためにレトロウイルスベクター輸送系(例:レンチウイルスベクター)を使用している。ペイロードの大きさが限られており、高い頻度で真核生物の宿主ゲノム中のランダムな場所にウイルス配列を取り込む傾向があるため、これらの方法は望ましくない。さらに、ヒト体細胞からのiPS細胞の誘導には、高い頻度での形質導入が必要である。高い頻度での形質導入を達成するために、Takahashiはレトロウイルス用マウス受容体を成人ヒト線維芽細胞の標的細胞に導入し、形質導入効率60%という結果を観察した。
【0110】
本発明のバクトフェクション方法によって、大きさ制限が実質的にない状態で、宿主細胞染色体の修飾を行わずとも、驚くほど高い効率で真核生物の宿主細胞のトランスフェクションが可能になる。それ故、一つの態様において、本発明は真核細胞発現カセットを含む侵入性細菌による哺乳類細胞への感染を含む、哺乳類細胞における核酸または遺伝子(例:転写因子をコードする)の導入および発現の方法を対象としており、前記の発現カセットはクリーンゲノムを含む前記の遺伝子および前記の細菌を含み、ここでバクトフェクション効率は約1%以上、約5%以上、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上またはその間である。バクトフェクション効率が約90%以上であることが好ましい。
【0111】
一つの実施形態において、本発明は一つ以上の真核細胞発現カセットを含む一つ以上のベクターを含む侵入性のある縮小させたゲノム細菌で哺乳類体細胞を感染させることを含む、哺乳体細胞からiPS細胞を産生する方法を提供しており、前記の一つ以上の発現カセットはSox1、Sox2、Sox3およびSox15からなる一群より選択される、少なくともOct3/4および転写因子のメンバーSox(SRY-related HMG-box)ファミリーをコードしている遺伝子を含む。Sox因子がSox2であるのが好ましい。一つ以上の真核細胞発現カセットは、下記からなる一群より選択される一つ以上の転写因子をコードする遺伝子をさらに含むのが好ましい。NANOG、LIN28、転写因子のクルッペル様因子(Klfs)ファミリーのメンバー。Klf因子はKlf1、Klf2、Klf4およびKlf5から選択されるのが好ましい。Klf因子はKlf2およびKlf4から選択されるのがより好ましい。Klf因子はKIlf4であるのが最も好ましい。転写因子をコードする遺伝子は、体細胞に単独で(つまり連続的に)輸送されるか、組み合わせて輸送されうる。
【0112】
体細胞前駆体からのiPS細胞の産生は、とりわけ、胚幹(ES)細胞形態学、細胞表面マーカーの発現(SSE-l(-)、SSEA-3(+)、SSEA-4(+)、TRA-1-60(+)、およびTRA-1-81(+)を含むがこれらに限定されない)、ES細胞の遺伝子発現パターン特性、テロメラーゼ活性の発現、および複数の系統に分化できる能力によって確認されうる。
【0113】
遺伝子(例:転写因子をコードする遺伝子)を体細胞に輸送するバクトフェクション方法において有用なプラスミドには、真核生物において遺伝子を発現することのできる少なくとも一つの真核細胞発現カセットを含む。例えば、転写因子のすべて、一部または組み合わせをコードする遺伝子の組み合わせを発現する、複数の真核細胞発現カセットが輸送されうる。プラスミドはまた、クリーンゲノム細菌が浸潤性表現型を獲得するように、仮性結核菌のinvA遺伝子など侵入性のあるまたは侵入タンパク質をコードする遺伝子を含む原核細胞発現カセットを含みうる。
【0114】
欠失方法
大腸菌などの細菌からDNAを欠失させる方法は、米国特許出願整理番号第10/057,582号、米国仮出願整理番号第60/409,080号およびPCT/US03/01800などで説明されており、その全体を参照により本明細書に援用する。下記の表1、3、7および8で代表的な欠失を説明している。組み換えの潜在的部位を避けて傷のない欠失を生み、それ故ゲノムの不安定性がない欠失方法が好ましい。表6は、特定のMDS株の成長特性を説明している。
【実施例】
【0115】
実施例1
MDSクリーンゲノム細菌の形質転換率
外因性DNAは通常、自己複製プラスミドという形態を取っている。多くの場合は、宿主細菌細胞が分割および成長する中でもプラスミドDNAを保持するような方法で、プラスミド保持機能をコードするDNAを大腸菌欠失株のゲノムに取り込むのが望ましい。外因性DNAの細菌宿主への導入過程は形質転換と呼ばれ、外因性DNAを寄生させる生物は形質転換体と呼ばれる。大腸株に対する技術の形質転換効率を高める必要性が存在する。
【0116】
大腸株MDS39は、親大腸株MG 1655において39の欠失(ゲノムのおよそ14.1%)を行って構築され、エレクトロポレーションによって十分に形質転換したことが判明した。この形質転換の高い効率は、大規模BAC(細菌人工染色体)DNAの摂取にも及び、幅広い用途にとって株MDS39の価値が特に高まっている。
【0117】
大腸株MDS41は、前述の方法を用いてtonA遺伝子を欠失させることでMDS40株から作成された。
【0118】
配列された大腸菌K-12に由来する複数欠失大腸株MDS43は、病原性のないK-12株MG 1655から開発され、MG 1655ゲノムが配列され、MDS43においてすべての欠失接合部が配列され、さらに、MDSゲノムはチップ技術によって容易にかつ経済的に再配列できるため、系を完全に定義でき、前例のないレベルでワクチンに隠れた恐れがないことの保証が可能となっている。最も隠蔽性または潜在性の高い病原性のある遺伝因子が削除された。すべてのIS要素およびファージ要素も削除され、外方への水平伝播の機構は一切残らない状態となり、計画された修飾によって環境からのDNA摂取が阻止される。プラスミドおよび抗生物質に対する耐性マーカーは、臨床段階の前に安定したゲノムを挿入することで除去できる。K-12株は腸管内菌叢の正常な成分であり、MDS43はワクチンの有効性にとって必要な遺伝子のみを含む。
【0119】
配列されたK-12株MG1655から始まって、合理的に設計された欠失は、ファージ受容体、細胞内プロテナーゼ、ペリプラズムプロテナーゼおよび膜プロテナーゼ、すべての組み換え配列または可能性としては可動配列、および水平伝播断片を削除した。この手法には、大腸菌ゲノムの大きな(100kb)断片さえも欠失、修飾または交換されうるように、生体内での相同組み換えの選択が関与する。他のものでは、組み換えの可制御性および効率が改善された。
【0120】
MDS43の作成のためにK-12に行われた欠失のマップは、PCT/US03/08100の図1に表示されている。
【0121】
外因性DNAを寄生させ安定した状態で保持する上での大腸菌株MDS39の形質転換効率をテストするために、DH10B、MDS31およびMDS39という3種の株を光学密度0.5にまで、600 nmで標準的な成長条件の下で成長させた。細胞培養物をスピンダウンし、細胞ペレットを水で数回洗浄し、最後に(本来の培養液量の1/1000で)水中で再懸濁した。25ngのpBR322 DNAまたはメチル化BAC DNAまたはメチル化されていないBAC DNAのいずれかを100 μlの細胞懸濁に添加し、例えばInvitrogen Electroporator IITM装置を用いるのであれば0.1 cmのエレクトロポレーションキュベットにおける1.8 kVおよび耐性150オームなどの標準的なエレクトロポレーション方法を用いて、電気穿孔を行った。標準的なプロトコルを用いて、EcoK部位およびpBR322 DNAでメチル化されたBAC DNAが大腸株MG1655中で調製された。メチル化されていないBAC DNAは大腸株DH10Bで調製された。
【0122】
表3および5は、MDS31、およびMDS39、およびMDS40の両株が、pBR322 DNAによって十分に形質転換して、分子量は4,363塩基対、メチル化されたBAC DNAの分子量は100,000塩基対となったことを示している。株MDS31およびMDS39のメチル化されたBAC DNAの形質転換効率は、最高の形質転換効率を持つ株の一つと現在考えられている株DH10Bの形質転換効率と同程度である。
【0123】
メチル化されていないBAC DNAで形質転換された場合、株MDS39の形質転換効率は株DH10Bの形質転換効率よりも高く(表3)、その一方で株MDS31の形質転換効率は株MDS39およびDH10B両方の形質転換効率よりも低かった。株MDS31の形質転換効率の低さは、MDS31はr+m+株である一方、株DH10BおよびMDS39は両方ともr-m-株であるため、メチル化されていないDNAが株の制限を受けているという事実が理由となっている。
【0124】
MDS39に関する細菌の研究は、配列gb_ba:ecu 95365において残余的な挿入配列IS5が存在する可能性を明らかにした。MDS39から常在のIS配列を欠失させる効果を決定するために、本明細書に記載する手順を用いて配列を削除した。MDS40における欠失のエンドポイントは、表8および9の株である。次に、下記に説明するとおり、結果的に得られた株MDS40の形質転換内容および成長特性(結果)をテストした。
【0125】
Invitrogen Electroporator IIマニュアルで説明されるとおり、エレクトロポレーション用コンピテント細胞が調製された。短期間、200-ml培養物をOD550=0.5に成長させた後、細胞を遠心分離によって採取し、氷水で2回、氷水の10%グリセロールで1回、遠心分離および懸濁を繰り返して洗浄した。最終段階で、細胞ペレットを0.4 ml 10%グリセロール中で懸濁し、40 μlで等分し、-80°Cで保管した。
【0126】
細胞は通常、Electroporator II装置(Invitrogen)を用いて、0.1-cmのエレクトロポレーションキュベットにおいて1.8 kVおよび耐性150 Ωで、プラスミドDNAの10〜100 ng量を用いて電気穿孔処理を行った。次に、細胞を1 ml LBで希釈し、1時間攪拌機で培養し、選択培地に配置した。
【0127】
数種の実験が行われたが、結果には一桁程度のばらつきがあった。二つの典型的な独立実験(それぞれ二つの並行実験)の平均を表5に表示している。
【0128】
MG1655、MDS40およびDH10Bの形質転換効率を決定するために、化学転換方法もまた使用された。コンピテント細胞は単純な方法によって調製された。50-ml培養物を冷蔵し、OD550=0.4で遠心分離によって採取した後、1/20体積の氷水のCaCl2溶液(10 mM Tris pH 7.5、15%グリセロール、60 mM CaC12)で2回洗浄し、遠心分離および懸濁を繰り返した。次に細胞を氷上で1時間培養し、200-μlで等分し、-80°Cで保管した。
【0129】
形質転換のために、細胞は通常、100 ngプラスミドDNAと混合させ、氷上で30分培養し、42°Cで2分間熱ショックをかけてから0.8 ml LBを添加した。細胞を37°Cで0.5〜1時間培養した後、希釈物を選択培地に配置した。結果を表6に示している。
【0130】
実施例2
イントロンによる真核生物レポータープラスミドLacZの構築
標的細胞における正確な転写過程をテストするために、修飾されたLacZ遺伝子がCMVプロモーターのgWizプラスミド(遺伝子治療系)下流に導入された。イントロンの挿入によって、真核生物遺伝子に類似するように、LacZ遺伝子が操作された。イントロン終了位置に正確に呼応するよう設計されたプライマーを用いて、遺伝子座におけるヒトグロビン遺伝子座全体のゲノムクローンからPCRによってヒトβ-グロビンの第二のイントロンが増幅された。使用されたPCRポリメラーゼは、平滑末端を残すハイフィデリティの高い酵素PfuUltraであった。アガロースゲルから精製された産物は、3144 bp遺伝子の開始位置から1919 bp LacZ遺伝子内のEco47III部位にライゲーションされた。結果的に得られたプラスミドによって形質転換した大腸菌DH10Bは、IPTG/Xgal寒天上で白色コロニーとして成長し、親は青色であったのに対して活性β-ガラクトシダーゼの合成がないことを示した。イントロンおよび接合部が配列されて、構造が確認された。
【0131】
候補プラスミドを用いて哺乳類細胞への一過性トランスフェクションが実施され、形質転換体のβ-ガラクトシダーゼが分析された。Fugeneの非リポソームトランスフェクション試薬(Fugent、LLC)を用いて、プラスミドの独立クローン五つそれぞれ2 ugによってトランスフェクトされた293T細胞において、正確なイントロンのスプライシングが実証された。蛍光基質を用いてβ-ガラクトシダーゼの活性が測定され、応答は自動プレート読取機で読み取られ、任意単位の蛍光で表現された。結果的に得られたデータを図3に示している。トランスフェクション試薬にさらされた細胞は、およそ104単位の蛍光を単独で生んだ。対照的に、形質転換体クローン1、3、4および5はおよそ1000倍も高い応答を引き出した。クローン2の活性は、培地対照群と同程度であった。配列決定にあたって、このクローンはスプライス接合部の一つで一塩基欠失を持つことが示された。これらの結果を総合すると、恐らくは予想通りに、RNAスプライシングによってコンストラクトが真核細胞のみにおいて発現したことを示す強力な証拠を提供している。
【0132】
次に、バクトフェクション実験において、フレクスナー赤痢菌2aワクチン株CVD1203(Kotloff et al., 1996 Infect Immun 64:4542-4548)およびCVD1208(Pasetti et al., 2003 J. Virol. 11: 5209-5217)でgWIZ-LacZレポーターをテストした。各株は、gWIZ-LacZレポーター(イントロン発現+)を発現するβ-ガラクトシダーゼ、または発現しない陰性コンストラクトgWIZ-LacZ(イントロン発現)のどちらかによって形質転換された。プラスミドがそれぞれの赤痢株に導入されると、株のコンゴ染色およびIpaB発現が確認された。両方が陽性のコロニーをバクトフェクション実験用に選択した。HeLa細胞(5x104/ウェル)は、5対1のMOIで、適切な細菌の後期対数期培養で2時間培養した。2時間後、バクトフェクションされた細胞は100ug/mlゲンタマイシンを含む培地で5回洗浄し、次に同一培地で一晩培養した。21時間後、細胞を固定し、次にX-galで染色して、β-ガラクトシダーゼ発現を可視化させた。データは、CVD1203およびCVD1208株の両方について、gWIZ-LacZレポーターの発現がバクトフェクション実験で検出されたことを示している。
【0133】
クリーン侵入プラスミドはMDS39、MDS41、およびMDS43を含むすべての欠失株において機能することが予想され、培養された哺乳類細胞は侵入アッセイにおいて天然赤痢菌プラスミドと少なくとも同程度の効率を持ち、宿主細胞の侵入および少なくとも生体外でのDNA輸送にとって別の赤痢菌または大腸菌の遺伝子が必要ないことを示している。レポーターlacZ遺伝子の発現は、プラスミドDNAが標的細胞に輸送されることを確認するものである。このレポートは、任意の機構による輸送を監視できる。
【0134】
ヒト単球由来の樹枝状細胞(MDDC)は、IL-4およびGM-CSFの存在下での培養によって高度に精製された末梢血液単球集団に由来するものである。これらの方法を用いて得られたMDDCは、このサブセットの典型的なマーカーを発現し、細菌毒素などの多様な作動薬によって機能的な成熟樹枝状細胞に分化されうる。MDDCは、抗原および高度に精製された未感作ヒトT細胞により培養された時に、生体外での一次免疫応答を開始できる(下記を参照)。
【0135】
レポーター遺伝子の発現は、MDDCで定量化される。短期間、市販の「ヌクレオフェクター」系(Amaxa、メリーランド州ゲイサーズバーグ)を用いてMDDCに電気穿孔処理を行った。これらの実験でのトランスフェクション効率は通常、15%〜25%であった。この系はバクトフェクション研究における陽性対照群を提供した。
【0136】
さまざまな多重度の感染(moi)でのLacZレポーター遺伝子を持つMDS株、またはLacZレポーターのない対照群MDS株により共培養された培養開始から5〜6日後に採取されたMDDCを用いて、バクトフェクションが定量化された。moi範囲は0.001〜100であった。MDDCおよび細菌は24時間共培養され、発現は、説明したとおり蛍光基質を用いて24、48、および72時間目でフローサイトメトリーによって決定された。最適なバクトフェクションは、陰性対照群と比較して最も高い頻度で陽性細胞を生み出す(つまり発現可能なLacZ遺伝子を持たないMDS株)moiであると定義される。Amaxa系が陽性対照群であった。GFPがレポーター(LacZ+MDS株(上記参照)を使用するため)として使用される場合、蛍光強度は外因性基質を使用する必要なく直接フローサイトメータから読み取られる。GFPの他に、黄色蛍光タンパク質(YFP)、および赤色蛍光タンパク質(RFP)もまたレポーターとして使用できる。
【0137】
一次免疫応答は、細胞分割の程度、またそれに加えて、表面マーカーによって定義される活性化/記憶T細胞サブセットおよびサイトカイン/ケモカイン分泌によって定義されるエフェクター機能の頻度の変化によって定量化できる。さらに、このシステムは、ヘモシアニンまたは細菌タンパク質、超抗原、および同種抗原などの微量抗原に対しても効果を発揮するが、これらの応答間の主な違いは定量的なものであり、前駆体の頻度(調製時ms)に反比例することである。これらの変化は活性化の第1週目に発生するため、一次応答の迅速評価が可能となる。最も重要な点として、培養の第2週目と3週目の間に、培養は分割した小さなリンパ球集団によって支配され(カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)のダウンレギュレーションによって決定)、この集団は自己MDDCおよび抗原によって共培養された時に二次応答が可能な記憶エフェクター細胞を含む。この分析の結果を図5に示している。
【0138】
この分析において、チフス菌、株Ty21aの抽出総タンパク質10 ug/mlが免疫原として使用されたことを除いて、正常なMDDCおよび高度に精製された未感作CD4+T細胞は説明したとおり2週間培養された。培養開始から14日後、細胞を採取して洗浄し、MDDCの存在下またはMDDCに免疫原10 ug/mlを加えた状態で6時間培養した。急性活性化マーカー(y軸)としてCD69を、サイトカイン(x軸)としてIFN-γを用いて、6時間の培養後にサイトカイン分泌細胞が決定された。
【0139】
図5に示すように、パネルB(合計の0.17%)と比較して、パネルA(合計の10.3%)におけるCD69+IFN-γ+細胞の頻度が高いことから判断されるように、強力な抗原特異的応答が引き出された。初期ゲーティングは、前方光散乱、直交光散乱、およびUSEダウンレギュレーションによって決定されるとおり分割した小さな静止細胞上で実施された。免疫原が初期培養から除外された時には、応答は観察されなかった(データ未表示)。この系は定量性が高いためにデータを得ることが可能であり、およそ3週間で分析された。
【0140】
特定のMDS LacZ組み合わせについてMDDCに最適なmoiが決定されると、バクトフェクションされたMDDCは自己未感作CD4+T細胞との共培養による一次免疫応答を開始するために使用できる。免疫原は大腸菌抗原の複雑な混合物でもLacZ DNAワクチンでもあることから、前述の短期間の二次応答系を用いてLacZに免疫原性があるかどうかを決定することが重要である。MDS LacZ株の最適なmoiによってMDDCにバクトフェクションを行い、14日間自己未感作CD4+T細胞を共培養することで、上記を行うことができる。14日目に培養を採取し、新たに分離された(5日目または6日目)自己MDDCに精製されたLacZの20 ug/mlを加えた状態で再刺激をかけた。刺激をかけてから1時間後にブレフェルジン-Aを添加して、IFN-γの分泌を阻止した。再刺激後、培養は標準的手順を用いてCD69およびIFN-γを透過性にして染色した。初代培養の対照群には、LacZ陰性プラスミドを持つMDSで刺激した培養(陰性)、および精製されたLacZ 20 ug/mlで刺激した培養(陽性対照群)を含む。二次培養の対照群には、大腸菌抽出タンパク質で刺激した培養(加圧型細胞破壊装置および硫酸アンモニウム沈殿物で精製(データ未表示))および培地のみで刺激した培養を含む。
【0141】
実施例3
増幅可能なBACプラスミドベクターの構築
増幅可能なpBAC3は低コピー数で保持して、第二の複製起点を起動させることで高コピー数に誘導できる。この点は、このプロジェクトにおいて少なくとも二つの目的を果たしているが、その一番目は赤痢菌ビルレンスプラスミドから侵入遺伝子座の安定したクローンを提供することである。二番目は、(より以降の段階で)コピー数の増幅を促進するプロモーターを、細胞内環境で誘導されたプロモーターで置換することである。BACもまた、クローン化されたワクチンDNAから抗原タンパク質を発現するように原核生物または真核生物のプロモーターと適合させることができる。このワクチンDNAは免疫系の細胞に侵入した時点で増幅され、最も有益な時に抗原の発現が最大限に高められる。
【0142】
pBAC3はpBeloBACllの誘導体であり、その中ではDNA断片が少なくとも100 kbの低コピー数ベクターを安定した形でクローン化できる。図1に見られるように、oriSに基づく起点複製系は細胞一つあたり1〜2のコピー数を保つ。oriVおよび複製タンパク質TrfAから構成される幅広い宿主域プラスミドRK2からの第二の複製系を添加することで、大きな挿入も伴う場合でも、プラスミドは細胞一つ当たり〜100コピーにまで増幅できる(Wild et al., 2002 Genome Res. 12:1434-1444)。高コピー系の対照群は、大腸菌アラビノースオペロンプロモーターaraBADおよびその転写活性化剤AraCから影響を受けてtrfAの発現を促進する。この系はアラビノースによって誘導されるが、存在しない場合は全く不活性であり、trfAの発現を厳しく制御できる。
【0143】
pBAC3を図1に示している。別の特徴は、挿入のためのLacZ青色/白色スクリーニング、複数制限部位ポリリンカー、幾つかのIIS型(非対称)および別のまれな制限部位である。クローニング部位は、プラスミドプロモーターからの読み合わせを阻止する転写ターミネーターに隣接する。標準的なM13配列決定のためのプライマー部位が、クローン化された挿入の両末端に存在する。クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAM)が選択可能な薬剤耐性マーカーを提供する。現在、TrfAは別個のプラスミドによってトランスで供給されているが、trfA遺伝子はpBAC3に取り込まれてもよい。pBAC3ベクターには伝達起点がなく伝達遺伝子または可動遺伝子もないため、生体内では別の細菌に移動できない。
【0144】
実施例4
ワクチン輸送手段としてのクリーンゲノム大腸菌MDS41の機能
この実施例は、「バクトフェクション」(細菌から培養された哺乳類細胞へのDNAの輸送)に適することが既に実証された条件および細胞株を使って、クリーンゲノム大腸菌MDS41、MDS42およびMDS43は生体外でのDNA輸送手段として機能しうることを教示している。かかる細胞には、ATCC番号CCL62、CCL159、HTB151、HTB22、CCL2、CRL8155、HTB61およびHTB104を含むがこれらに限定されない細胞株を含む。
【0145】
DNAワクチン用の生体内での輸送手段としての大腸菌MDS41株の可能性を評価するために、株はlacZレポータープラスミドによって形質転換され、転写が正確なスプライシングを経験した時にのみ、その株から真核細胞においてβ-ガラクトシダーゼが発現された。MDS41の標的細胞への侵入を可能にするクリーン侵入プラスミドの効果が、侵入アッセイにおける天然赤痢菌ビルレンスプラスミドと比較された。バクトフェクションは、MDS41に存在する侵入プラスミドおよびレポータープラスミドの両方によって分析された。陽性対照群には、Fugeneを用いたプラスミドの直接トランスフェクションおよびバクトフェクション研究に一般的に使用されるフレクスナー赤痢菌株15Dを用いたプラスミドのバクトフェクションを含む(Sizemore et al., Science, 270: 299-302 (1995))。陰性対照群は、Fugeneを用いたネイキッドDNAおよび株SL7207を用いた赤痢菌により輸送されるDNAの両方として輸送される、イントロンのないプラスミドベクターを含む(Fouts et al., Vaccine 13: 1697-1705 (1995))。
【0146】
15Dについて既に確立済みの初期条件が使用される。短期間、293T細胞(Dubridge et al., Mol. Cel. Biol. 7: 379-387 (1987))を後期対数期に成長させて、侵入性が最大になる条件下で成長させた細菌にさらす。説明したとおりゲンタマイシン耐性分析を用いて侵入が決定される(Elsinghorst Methods Enzymol. 236: 405-420 (1994))。蛍光β-ガラクトシダーゼ基質のフルオレセインジ-β-ガラクトピラノシドおよび自動プレート読取機(Victor、Perkin-Elmer)を用いて、バクトフェクションが定量化される。クマシー・ブルー結合によって決定される総細胞タンパク質のミクログラムを分母として用いて、応答が標準化される。感染の多重度の域は1/2ログ間隔で0.01〜100である。24時間ごとに三つ一組の培養を試料採取することで、72時間にわたり発現が決定された。
【0147】
可溶性mStx2タンパク質の産生を高めるための原核細胞発現カセットまたはMDS株のDNAワクチン上に含まれる真核細胞発現カセットのいずれかのコピー数を高めることで、ワクチン輸送を向上できる。この目的を達成するために、通常は低コピー数のプラスミドとして持続するが誘導性の突然変異複製タンパク質TrfA203によって操作される第二の複製起点oriVによって少なくとも100倍に増幅できる増幅可能なBACベクターであるpBAC3を使用することもできる。Wagnerら(Mol. Microbiol. 44(4):957-70 (2002))は、ファージゲノムのコピー数の増加はStx1産生において「定量面では最も重要な機構」であり、輸送されたmStx2の免疫原性を高めるために類似の役割を果たしうることを発見した。
【0148】
侵入性MDS株を生むために、仮性結核菌からのinvA遺伝子を単一コピーのプラスミドpBAC3上にクローン化してpBAC3-invAを作成する。この単一遺伝子の導入は本来は侵入性のない大腸株に浸潤性表現型を与えるものであるため、invA遺伝子が選択される。次に、MDS42およびMDS43が(pBAC3-invAによって)形質転換され、結果的に得られた侵入能力はゲンタマイシン防御アッセイにおいて評価された。CaCo2またはHeLa細胞は異なるMOIを持つ細菌によって感染され、その2時間後、完全に洗浄してからゲンタマイシンで処理して、侵入しなかった細菌すべてを死滅させた。2時間後、細胞を洗浄・溶解してCFUを決定した。データによれば、invA遺伝子の導入はMDS42およびMDS43によるCaCo2およびHeLa細胞の侵入の促進に十分であったことが示され、侵入のためにMDSゲノムのさらなる操作が不要なことを実証している。さらに、invAを発現しているMDS42およびMDS43の両方による侵入は、チフス菌株Ty2によって与えられる侵入と同程度の効率がある。
【0149】
また、K12の接着および侵入性を決定するための実験も行われ、MOI比率5:1で適切な細菌の後期対数期培養によってMDS42 +/- invAプラスミドHeLa細胞(5x104/ウェル)が2時間培養された。2時間後、細胞は100ug/mlゲンタマイシンを含む培地で5回洗浄し、次に同一の培地で一晩培養した。21時間後、細胞を5分間固定し、次にメーカーのプロトコルに従ってX-galで「染色」した。LacZ遺伝子をコードするレポータープラスミドを輸送する細菌によって感染させる場合、プラスミド上にあるlacZからのβ-ガラクトシダーゼ発現は発色基質から青色の産物を生む。着色されたHeIa細胞は、顕微鏡での観察によって、または蛍光基質が使用される場合は蛍光細胞分析分離装置(FACS)によって自動的に計数される。生存可能な細菌はまた、洗剤で溶菌上のHeLa細胞を洗浄して回復することもできる。invAプラスミドを持つ場合と持たない場合の大腸菌、K12およびMDS42の接着および接着性を示すデータを図7に示している。
【0150】
実施例5
赤痢菌の侵入遺伝子座の侵入プラスミドの構築
侵入能力は、エルシリアおよびリステリア菌(単一の「インバシン」または「インターナリン」タンパク質)、または赤痢菌およびサルモネラ(細菌の標的細胞への摂取をトリガーするシグナルを送るタイプIII分泌に依存した複数のエフェクター)などの侵入性細菌によって展開される機構によって供給されうる。最近、Cossart、P.、およびP.J. Sansonetti 2004. Science 304:242-248で検討された侵入機構は、完全には理解されていない。実質的に、細菌侵入タンパク質は標的細胞内部に接触し、宿主シグナル伝達系を覆して細胞骨格を再編成し、細菌の巻き込みをもたらす。微生物および寄生体によって使用される別の機構も存在する(Sibley、L.D.2004 Science 304:248-253)。
【0151】
生体内での赤痢菌の完全な病原性については、赤痢菌染色体におけるさまざまな病原性アイランド内の遺伝子が必要だが、ビルレンスプラスミド自体で大腸菌K-12による培養された細胞への侵入が十分可能となり、原理の証明が提供された(例えば、Grillot-Courvalin et al., Cellular Microbiology (2002) 4 (3), 1776-186、Cicin-Sain et al., J. Virol. (2003) 8249-8255、Narayan et al., N. Acct. Res. (2003) 31:およびPilgrim et al., (2003) 10:2036-2045)。この実施例の目的は、この侵入プラスミドの>50%に相当する侵入(ipa-mxi-spa)遺伝子座を多数のIS要素から隔離することである。赤痢菌は当初、サルモネラによって生じる場合よりもマクロファージアポトーシスが低く、抗原の発現および処理のための時間をより多く取ることができるという理由から、これらの遺伝子の源として選択された。細菌侵入機能の必ずしもすべての構成部分が完全に特徴付けられているわけではなく、侵入遺伝子座内でコードされた一部の遺伝子は生体外での侵入が不要と思われる。遺伝子座における一部の遺伝子は、分泌系の活性によって調節されている。上皮内での細胞間における細菌の水平展開に必要な遺伝子icsAは、天然プラスミド上でただし侵入遺伝子座の外でコードされ、効率的な抗原輸送にとって必要でない場合は持続性を制限するために除外され、感染の結果を弱毒化する。
【0152】
幾つかのアプローチが可能である。最善の選択肢はクリーンかつ操作上最大限の柔軟性を提供できるPCRに基づく戦略である。IS要素を含む断片のサブ・クローニング中間体が関与しないため、不安定性に直面することはないはずである。
【0153】
赤痢菌ビルレンスプラスミドの侵入遺伝子座は、主要オペロンを含む11 kb、13 kbおよび6 kbの三つの断片に分割できる。増幅したDNAにおいて現在では約1〜2 x 10-6の誤差率で機能するハイフィデリティのポリメラーゼが利用できる(StratageneのPfuUltraおよびInvitrogenのPlatinum Pfx)ため、少なくとも10 kbまできちんと増幅させることが可能である。Long-PCRに関する当方の過去の経験に基づくと、特に効率の高いポリメラーゼ混合物が利用できる現在において、これらは獲得できる現実的なアンプライマーの大きさである。精製されたビルレンスプラスミドDNAがテンプレートとして利用できるため、増幅に必要なサイクル数を制限でき、ポリメラーゼのエラーおよびPCRアーチファクトに対してさらに防衛策を取ることができる。これらの酵素の一つを用いて、当方は三つの成分オペロンを別々にPCR増幅する。プロモーターは明らかに上流遺伝子へと重複するため、オペロン接合部は慎重に再産生される必要がある。PCR断片境界地点での遺伝子末端間のギャップの長さは14 bpおよび4 bpのみであった。プライマーは、例えば非回帰性の制限部位を通った方向配置の正しいライゲーションを可能にし、pBAC3ベクターへの一方向のクローン化を可能にするために、アンプライマーに取り込まれる配列を含んでいる。転写を保つことが必要な場合、オリゴテンプレートの組み換えを用いて三つの断片の正確な接合を達成するために、リンカー配列が生体内で欠失される。また、例えば重複伸張または連鎖反応によるクローン化など、別のPCR戦略も可能である。
【0154】
別の方法としては、従来の制限断片分離によって遺伝子座をクローン化できるが、一体成形ではできない。BamHIおよびXhoI末端を持つ大きな(29 kb)断片およびBamHI末端を持つ隣接する小さな(1.8 kb)断片が、陽性調節因子virBを含むipa-mxi-spa部位全体を覆っている。アガロースゲルで精製された制限断片は、ベクター内の独特のPmeI部位に適合するようXhoI末端を転換するためにオリゴリンカー/アダプターを用いてpBAC3にライゲーションされる。次に小さな断片がBamHIで添加され、小さな断片の正確な位置付けのための組み換えのスクリーニングにPCRが使用される。このコンストラクトのBamHI末端にはISがないが、XhoI末端ではIS600は約200 bpである。これは、標的とするオリゴ指定組み換えの欠失によって削除しなければならない場合がある。
【0155】
侵入性遺伝子座の外部から特定のプラスミド遺伝子を添加し戻すことで、侵入性表現型を修飾してもよい。候補には、ipaH遺伝子ファミリーのメンバー(未知の機能だがその遺伝子産物は哺乳受容体タンパク質との興味深い類似性がある)および調節因子virFが含まれる。これらは、PCRに基づく技術によってpBAC3のコンストラクトに容易に添加できる。
【0156】
侵入遺伝子座は、受動的に複製されるMDS41染色体に転移されうる。小さなプラスミドが細菌宿主に代謝負担をかけるとは予想されないが、pBAC3にクローン化された侵入遺伝子座は、一細胞当たり100コピーに誘導された場合には、ゲノムの複製に近づく複製タスクである38 kbのプラスミドとなる。これによって、複製および遺伝子発現の負担が細菌に確かにかかることになる。染色体上の侵入遺伝子座とともに、選択的マーカーおよびワクチンDNAはより一層小さなコンストラクトを含むこととなり、ワクチンDNAの組み合わせを追加できる最大範囲が実現する。CMVプロモーターなどの真核細胞プロモーターは、真核細胞DNAの発現ベクターに転換するためにpBAC3に添加できる。
【0157】
赤痢菌ビルレンスプラスミドの30の遺伝子ipa-mxi-spa部位は、その活性がヒト細胞の侵入にとって必要であるタイプIII分泌系およびエフェクターをコードする。天然プラスミドは高負荷のリスク因子を示すIS要素を背負っているため、本発明の業務を達成するために、pBAC3にクローン化されたIS-遊離ipa-mxi-spa部位を持つクリーンなプラスミドが構築される。
【0158】
図2は、30kbの赤痢菌侵入遺伝子座の増幅成功例を示しており、精製された赤痢菌pINVプラスミドDNAをテンプレートとして用いてさまざまなハイフィデリティのポリメラーゼおよび条件でPCRが実施された。IS要素と隣接しないように、プライマーは部位の末端に設計された。大部分はアンプライマーまたは複数の小さなアンプライマーに全く反応を示さなかったが、一つは成功し、バックグラウンドが最小限の状態でクリーンな単一バンドが提供された。PCR産物を分解するために、0.5% SeaKem Goldアガロースゲル電気泳動法が使用された。図では1列目および6列目はサイズマーカーを示し、その上位三つのバンドは10、20および40 kbである。2列目はPfuTurboポリメラーゼ産物を、3列目および4列目はさまざまなMg++濃度でのPlatinum Taq DNAポリメラーゼ・ハイフィデリティの産物を示し、成功した30 kbバンドは4列目である。5列目は陰性対照群である。成功した反応においては合計33サイクルが使用された。
【0159】
侵入遺伝子座およびその調節が複雑な赤痢菌ビルレンスプラスミドに対する代替策として、仮性結核菌からのinv遺伝子をテストすることもできる。inv遺伝子産物であるインバシンは、大腸菌K-12株に十分に侵入性を与える。インバシンはヒト細胞表面上でf31-インテグリンを標的とし、培養された食作用のない細胞によってInv+細菌の内在化を誘導する。invおよびそのプロモーター(20)をコードする4.5 kb BamHI断片を含むプラスミドpR1203が、MG1655(配列された野生型K-12株)、DH10B(人気のあるプラスミド宿主)およびMDS42に誘導された。
【0160】
実施例6
非抗生物質の選択可能なマーカーを作成するためのMDS41の操作
MDS41を常在プラスミドに依存させるために(ワクチンDNA含有プラスミドを保持するための選択)、必須遺伝子を含む染色体の必須遺伝子または断片を欠失させることができる。欠失を実現させるには、第一に相補性のために必須遺伝子のコピーを供給する必要がある。標的の必須遺伝子を含む領域はハイフィデリティPCRによって増幅され、その次に最初はクロラムフェニコール耐性(CAM)マーカーが無傷な形でのpBAC3へのクローン化が続く。染色体の標的遺伝子は次に、標的となる組み換えによって欠失される。プラスミドでコードされた必須遺伝子断片の外部にある染色体欠失エンドポイントを標的とすることで、プラスミド遺伝子が削除されることはない。最後に、CAMマーカーは同一の手法によって削除される。
【0161】
有害事象を起こすことなく強力な選択を行うために、当方は例えば、産物が情報送信に関与する遺伝子など絶対的かつ継続的に必要とされる必須遺伝子を使用する。適した候補には、一般的な複製酵素DNAポリメラーゼIII(遺伝子polC)、tRNA合成酵素遺伝子thrSおよびileSが含まれる。polCを考察した場合、別の種からのポリメラーゼによって置換または補完できるという証拠はないため、水平伝播事象を理由に選択が取り消される可能性は最も低い。異なる機能分野における別の候補も使用できる。例えば、許容されない条件が適用された時に成長の急激な中止を示す細胞表面成分の合成に関与している二つの酵素の条件付き突然変異体、murA(UDP-N-グルコサミン-カルボキシビニルトランスフェラーゼ。ムレイン生合成において最初の手順に触媒作用を及ぼす)およびlpxC(UDP-3-O-アシルN-アセチルグルコサミンデアセチラーゼ。脂質A生合成の酵素)である。幾つかの候補遺伝子は一時に容易に処理でき、安定性があり再現可能な生理学についてテスト済みである。
【0162】
同一の戦略によるpBAC3上でのクロラムフェニコール耐性マーカーの欠失後、必須遺伝子を持つMDS41/pBAC3の成長率がプラスミドまたは欠失のないMDS41の成長率と比較された。また、成長曲線のさまざまな段階における生存細胞数を比較し、同様に成長曲線のさまざまな段階における一定数の細胞からの必須遺伝子以外のプラスミド標的の定量PCRを行うことで、BACの持続性もまた評価される。細胞表面酵素マーカーについては、形態に変化が生じていないか培養物も顕微鏡検査される。
【0163】
実施例7
HIV-1を含む一本鎖ポリペプチド錯体
エンベロープ糖タンパク質およびCD4受容体模倣ペプチド
HIVに対して交差反応性の中和抗体を広く引き出す
そのCD4受容体によって誘導されたHIV gpl20エンベロープ糖タンパク質の構造は、中和抗体応答を引き出すHIVワクチン開発のモデルとなる可能性を秘めている。遺伝子亜類型にもかかわらず、HIV gpl20および可溶性CD4の交差錯体は一次HIV分離物を中和化する交差反応の抗体応答を引き出すことがこれまでに実証されている(Fouts et al., 2002, PNAS 99: 118427)。これらの中和抗体は、制約エンベロープ構造を産生するためのCD4の代わりにCD4M9模倣ミニタンパク質配列(Vita et al., 1999, PNAS 96: 13091-6)を使用したキメラ一本鎖錯体(SCBaL/M9)に結合する。SCBaL/M9のプロテアーゼで安定された二つの変異体は、分析形式にわたって幅広い一次HIV-1分離物を中和する体液性応答をウサギにおいて引き出す。それ故SCBaL/M9抗原は、HIVに対して体液性免疫を引き出すためのワクチン成分としてさらに検討されるべき正当な理由を有する場合がある。かかるワクチン成分を使用できる。
【0164】
BaLgpl20-CD4M9錯体を接種されたウサギからの血清によるHIV-1分離物の中和化
指摘された免疫原によって接種を受けたウサギからの血清に対して、2種の標準化された中和試験形式でテストが行われた。免疫を受けていない動物から採取された未感作血清が対照群としてテストされた。HIVIIIBはT細胞株に適応したウイルスであり、TCLAと示される。表示されている別のウイルスはすべて、一次ヒトPBMCにおいてのみ継代・力価測定され、一次分離物と指定された。表10の数値は、対照群の分析試験と比較して、50%(ID50)のウイルス成長を阻害するとして用量反応曲線から内挿された最高の最終血清希釈物の逆数を示している。三つ一組または四つ一組の分析試験の平均を示している。
【0165】
中和試験
形式1(U373/CD4/コレセプター/MAGI)。使用前に濾過された免疫性のある血清および対照群の血清を、CCR5またはCXCR4のどちらかを標的として発現するU373/CD4/MAGI細胞を用いた分析試験システムにおいてテストした。
【0166】
形式2(PHAで刺激を受けたPBMC)。HIV血清反応陰性ドナーからのヒト末梢血液単核細胞(PBMC)を標的として、分析試験において血清をテストした。使用前に48時間、フィトヘムアグルチニンおよびIL-2を用いてPBMCを活性化させた。どちらの分析試験についてもIC50およびIC90値が決定され、表9に表記されている。
【0167】
SCBaL/mg抗原をコードするDNAはそれ故、HIVに対する体液性免疫を誘導するワクチンとしての役割を果たすために、真核細胞発現カセットに導入されたり、縮小させたゲノム細菌、好ましくは大腸菌に導入されうる。
【0168】
実施例8
MDSクリーンゲノムバックグラウンドでのStx2A発現
Stx2A用DNAワクチンは、gWIZベクター(遺伝子治療系)を用いて構築される。gWIZベクターは常に、市販されているDNAワクチンベクターについて最高レベルの真核細胞発現を提供する。このベクターはレポーター遺伝子をHeLa細胞に効果的に輸送する。ヒト細胞における発現を最適化するために、ヒト細胞において最も頻繁に使用されるコドンを用いてStx2A遺伝子が化学合成される。結果的に得られたコンストラクトの真核細胞発現は、HEK 293細胞のトランスフェクションの後に抗Stx2Aモノクローナル抗体を用いて免疫ブロットを行うことで確認される。
【0169】
細菌発現のために、uhpTプロモーターが使用される。グリコース-1-リン酸による誘導に伴い、最適化されたStx2A遺伝子が細菌ペリプラズムにおいて発現される。この実施例の変形は、志賀毒素が真に細菌によって分泌されるか、それとも細菌溶解によってのみ放出されるかどうか、また、A1内の内部の膜貫通断片が重要かどうかを発見する機会を提供する。結果的に得られたMDS43株のいずれかの経路からの発現は、抗Stx2モノクローナル抗体を用いた免疫ブロットによって確認される。
【0170】
uhpTプロモーターはこれらのテスト実験に適しているものの、組み換えを促進しうる最終株が重複配列を持たないように別の侵入誘導性プロモーターを特定することが必要である。別のプロモーターを特定するために、Nimblegen DNAチップを用いて、ヒト細胞を侵入しているMDS43の遺伝子発現がテストされる。
【0171】
実施例9
マウスStx2毒性
Stx2のマウス防御モデルは、Stx2に対する潜在的なワクチン療法をスクリーニングする有用な手段である。このマウスモデルは単純かつ確立されたものであり、幅広く利用されている。このモデルにおいて、CD-Iマウスは、致死量の精製されたStx2または腸管出血性大腸株O157:H7によって腹腔内に攻撃接種された。ワクチン媒介性防御は、ワクチンを受けていない対照群と比較して、攻撃接種から72時間以上経っても生存しているマウスの数として監視される。このモデルにおける防御は、攻撃接種時点において抗Stx2抗体を中和する十分な力価の存在に厳密に依存している。
【0172】
MDS42に基づくmStx2ワクチン候補を評価するために、MDS42ワクチン株の1010 CFUの接種材料がPBSにおいて強制経口投与(栄養チューブ)または腹腔内(IP)注射によって、ストレプトマイシン(飲料水中に5 mg/ml)で2日間前処理されたマウスに投与される。このアプローチは正常な腸管内常在菌を激減して競争を低下させ、導入された大腸株の定着化を促進する。ストレプトマイシンによる48時間治療は常在菌の除去に十分である。接種後、常在菌の復帰を防ぐために、マウスはストレプトマイシン治療に戻される。
【0173】
MDS42ワクチン株の除去を防ぐために、30〜100 μg/mlストレプトマイシンを含むLuria-Bertaniプレート上での継代によって接種するために、ストレプトマイシン耐性のあるコロニーが分離される。大腸菌にストレプトマイシン耐性を与えるリボソームタンパク質中の自然突然変異は容易に獲得でき、正常な成長率を持つ対立遺伝子が望ましくない副作用を示す可能性が最も低い。
【0174】
最適な免疫方法を確立するために、接種後4〜6週間にわたる免疫応答の縦断面が測定される。結果的に得られた免疫応答は、ベロ細胞毒性分析において、Stx2に基づくELISAおよびStx2活性の中和を用いて評価される。ELISA分析は、プラスチックに吸収される精製されたStx2に添加されるマウス血清の連続希釈から構成される。結合された抗体は、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGによって検出される。Stx2中和分析については、精製されたStx2の連続希釈を血清と混合させてから(またはその逆)ベロ細胞培養に添加する。ウエスタンブロット法を使用してもよい。毒性は標準プロトコルに従って評価される。ブーストによって結果的に得られた免疫応答が向上するかどうかを見定めるために、追加免疫を実施してもよい。最適な方法は、接種後にピーク体液性応答2〜4週間を生むがそれ以後のブーストによっては強化されない免疫戦略と定義される。
【0175】
これらの最初の経時変化実験後、最適な抗体応答を生む免疫方法を用いて攻撃接種実験が実施される。免疫応答のピーク時点において、すべての群は野生型Stx2を含むB2F1上清によって攻撃接種される。この上清は、未治療動物において100%の死亡率を誘導する必要のある最小用量を定義するように力価測定される。群化された生存データは、未治療対照群と比較した場合の生存度p<0.05を有意な防御として、フィッシャーの直接確率検定で分析された。動物の20%のみにおいて有意な防御を検出するべく、十分な強力さ(95%)を提供するために10匹の動物/群が使用された。
【0176】
予備実験では、IPを注射されたmStx2ワクチンが志賀毒素の致死量での攻撃接種からマウスを防御する上で高い効果を示す可能性があることが実証された。これらの実験はまた、強制経口投与で輸送されたmStx2ワクチンは、志賀毒素の致死量での攻撃接種に対してマウスを防御するが、IP注射の場合よりは効果が劣ることも実証された。これらの実験では、CMVプロモーターの制御下にある変異Stx2A(mStx2A)を備えたプラスミドを持つMDS42の縮小させたゲノム細菌を、6〜8週間のメスBalb/cマウスに接種した。これらのマウスはその後、未治療マウスを死滅させると予想される志賀毒素の最低用量で攻撃接種された。mStx2Aは腸管出血性大腸菌(EHEC)O157:H7株EDL933からの遺伝子を起点に作成され、その免疫原性に影響を与えることなくタンパク質の毒性グリコシラーゼ活性を除去する活性部位ポケットの反対側に二つの突然変異を生んだ。
【0177】
実施例10
Stx突然変異体の設計および毒性のない変異体の選択
初めに、発現されたポリペプチドが細菌細胞質内にとどまるようにシグナル配列が欠如するよう、Stx2-A1サブユニットをコードする遺伝子の活性部位欠損変異株(毒性がないことが示される)が設計された。大腸菌リボソームはStx毒性に対する感作性があるため、N-グリコシラーゼ活性が突然変異候補の中に存在し続ける場合、大腸菌宿主のリボソームは不活性化される。図6は、活性部位の主要成分として特定された残基を示している。
【0178】
対照群として、野生型Stx2-A1はシグナル配列のないPCRによって増幅され、選択方法を確証するために、T7ポリメラーゼがaraC/xy1S調節因子ファミリーのメンバーである大腸菌ラムノースプロモーターおよび転写活性化剤RhaCの別の制御下にある状態で、T7プロモーターにより発現が厳密に制御されているプラスミド中にクローン化された。
【0179】
この系は、グリコースが存在するがラムノースによって誘導された時に厳密な抑制を維持する。Stx2A突然変異は同一のプロモーターによってクローン化される。プラスミドをMDS43に電気穿孔した後、毒性のない突然変異体のみを寄生させる細胞のみが生存してコロニーを形成するように、mStxを発現させるために細菌が+/-ラムノース誘導物質上に配置される。
【0180】
選択系が確証されたら、合成されたコドン最適化StxA2遺伝子をテンプレートとして用いて、重複プライマーに導入された突然変異体を持つPCRによって幾つかのmStx遺伝子が構築される。活性部位において変化の組み合わせを持つ遺伝子およびアデニン基質に接触するTyr残基もまた作成される(図6)。
【0181】
A1断片における変異配列設計は、Lasergene Protean(図6)などの抗原性またはエピトープを予想するコンピュータプログラム、またはConservatrixおよびEpimatrixなどより最近に開発されたツールによって分析される。これら後者のプログラムは、既知のMHC結合ペプチドについての膨大なデータベースとの比較により、MHCに結合する可能性の高い領域がないかどうか提出された配列を検索する。野生型配列と比較した場合の結果は、構造を大幅に歪曲してしまう置換を避けるためにエピトープを破壊する立体構造変化を生む可能性が高い突然変異体がどれかを示す。エピトープ分析はワクチン候補を見つけるための高スループット方法に強い影響を及ぼしており、テスト対象の候補数を数桁分減少させてきた。
【0182】
多数の突然変異設計は、計算によって、また細菌毒性の選択によってスクリーニングされうる。毒性のないクローンはまた、細菌選択が同等の結果をもたらすことが明らかになるまで、ベロ細胞分析でもテストされる。毒性のない変異体については、Stx2 mAbによって認識されるタンパク質の最大量を生む能力がスクリーニングされる。DNAワクチンモードが選択されると、候補変異遺伝子はgWIZプラスミドに転移され、発現テストのためHEL 293細胞にトランスフェクトされる。変異Stxタンパク質は、免疫ブロットによって分析される。サブユニットのタンパク質療法が選択されると、培養物へのラムノースの添加によって誘導されたタンパク質産生は類似の方法で免疫ブロットによって分析される。発現性が高くStxモノクローナル抗体に反応する少数の候補が、マウスにおける防御テストのために定義される。
【0183】
候補mStx2遺伝子は、最適な療法に依存したDNAワクチンから原核細胞発現された、または原核細胞発現される予定のサブユニットタンパク質としてMDS43に導入される。結果的に得られたMDS43株は次に、マウス防御モデルにおいて有効性がスクリーニングされる。対照群には、未治療動物の他にmStx2 AAを持つMDS43株が含まれる。MDS43 mStx2 AAと比較して、大幅に上昇した免疫応答および有効性(p<0.05)を示す候補。MDS43 mStx2 AAによって接種を受けた動物が攻撃接種に対して完全な防御を示す場合には、用量設定研究が実施される。野生型Stx2を含むB2F1上清についての研究は、MDS43 mStx2 AAで接種を受けた動物において100%の死亡率を誘導するのに必要な最小用量を定義する。
【0184】
実施例11
エボラウイルス
その致死性および抗ウイルス療法がないことから、エボラウイルスの調査は難しい。動物モデルにはマウス、モルモットおよびヒト以外の霊長類が含まれる。この中ではサルがヒト感染を最も予測できるモデルと考えられ、モルモットの感染はマウスよりもヒト疾患により一層酷似していると考えられている。ただし、両方の齧歯類において、ウイルスは連続継代によって適応される必要がある。ウイルス病原性機構およびヒトにおけるエボラ感染への免疫応答の詳細は、依然としてあまり理解されていない。ウイルスの標的は、免疫系、肝臓細胞、および血管中の内皮細胞の単球およびマクロファージである。エンベロープ糖タンパク質(GP)が免疫応答の中断の理由であり、その応答および応答が引き起こす炎症反応が血管内皮の破壊および播種性血管内凝固障害に至る可能性が高い。その後生じる内出血および低血圧は致命的となる可能性がある。ウイルスは急激に複製し、血液および別の体液を汚染する。感染は通常、直接的接触により生じるが、バイオテロ攻撃における空気中散布の可能性も真剣に考慮されている。個々の遺伝子に基づく研究によって、ワクチン開発を含むより安全な作業が可能となってきた。NIH/NIAIDワクチン研究センターのNabel、Sullivanらは、エボラGPおよびNP(核タンパク質)遺伝子をコードするプラスミドまたは複製のないアデノウイルスベクターに基づくDNAワクチンを開発した。このグループは、4〜8週間にわたりプラスミド-GPの3回の筋肉注射を行い、その後にアデノウイルス-GP/NPをブースト注射するプライムブースト戦略は、マウスおよびマカクにおいて強力な防御免疫を与えたことを実証した。より迅速だが効果はより低い免疫応答が、アデノウイルス性-GP/NP DNAの1回の注射用量によって引き出された。これらのワクチンは、2003年11月にヒトで試験された。
【0185】
ネイキッドDNAの筋肉注射により輸送されるワクチンと比べて、MDS大腸菌によるバクトフェクションは、大量のDNAの標的をマクロファージに定めることでより良質のワクチンを輸送できる場合がある。Zaire亜類型の公表済み配列、株Mayinga(GenBank AF086033)およびヒト細胞における翻訳用のコドン最適化を用いて、GPおよびNP遺伝子が合成される。次にこれらの遺伝子は細胞内誘導プロモーターによりpBAC3にクローン化され、侵入系に対して最適化される。初期試験は前述のMDDC免疫原性分析において実施され、特定の安全性および防御免疫に関して動物モデル(マウスおよびヒト以外の霊長類)での試験が続く予定である。
【0186】
実施例12
バクトフェクション効率
ベクターpYinv4はプラスミドpBAC16に由来するもので、図8に示されている。pYinv4は下記を含む。(1)第一の複製起点であるoriS。ここでプラスミドは単一コピーとして保持される、(2)第二の複製起点であるoriV。これはtrfA遺伝子産物の発現によって高コピー数に活性化されうる(最高100コピー/細胞)、(3)ヒトβグロビン遺伝子からのイントロン2を含むlacZ遺伝子の発現を制御するCMVプロモーター、および(4)天然プロモーターの下での仮性結核菌侵入遺伝子。lacZ遺伝子におけるイントロンの使用は、「漏れのある」CMVプロモーターによる細菌内での発現を最小限に抑え、真核標的細胞内での核局在化を確認する。インバシン自体に病原性はないが、大腸菌による哺乳類細胞型への侵入が可能となるため、数多くの組織に見出される適切なβ1-インテグリン受容体亜類型が表示される。
【0187】
ベクターpYinv4は株MDS42(recA)(ryhb)(trfA+)へと形質転換された。これらの望ましくない配列とクローン化されたDNAの汚染を避けるために、すべての転移因子が欠如したMDS42からrecAおよびrhyb遺伝子を欠失させることで、MDS42(recA)(ryhb)(trfA+)が構築された。MDS42(recA)(ryhb)(trfA+)はまた、AraBADがプラスミドのコピー数誘導を行えるように、染色体プロモーターの制御下にあるtrfA遺伝子を含む。大腸菌ゲノムlacZ遺伝子から欠失されたβ-ガラクトシダーゼ活性は検出されなかった。
【0188】
pYinv4を含むMDS42(recA)(ryhb)(trfA+)株は0.02%グリコース、および0.2%アラビノースおよび12.5 μg/mlで成長させて、アラビノースプロモーターからのtrfA発現を誘導し、プラスミドコピー数を増幅させた。細菌細胞を30°Cで一晩かけて成長させた。光学密度(O.D.)3.3で、哺乳類HeLa細胞のバクトフェクションのために新鮮な状態または15%グリセロールで-80°Cで凍結させた後で、コピー数が誘導された細胞が使用された。
【0189】
新鮮(図9、パネルB)または解凍(図9、パネルCおよびD)された細菌細胞は、最終的な感染の多重度が約200(5 X 107生存細菌細胞/2.5 X 105生存HeLa細胞)になるように哺乳類HeLa細胞培養に添加され、37°C、5% CO2で2時間感染させた。次に培地(細菌を含む)が吸引され、HeLa細胞が洗浄された後、37°C、5% CO2で、抗生物質(50 μg/mlゲンタマイシン)で一晩培養された。比色分析のために、次にHeLa細胞は4%パラホルムアルデヒドで固定され、洗浄され、β-ガラクトシダーゼ基質溶液中で培養され、青色細胞の割合(バクトフェクションの成功度を測るもの)が決定された。新鮮な細菌については、約37%のバクトフェクション効率が観察された(図9、パネルB)。驚くべきことに、感染前に形質転換した細菌をグリセロール中で凍結すると、バクトフェクション効率は約99%にまで改善された(図9、パネルCおよびD)。実験は複数回繰り返されたが、結果はほぼ同じであった。下記の縮小させたゲノム株についても、類似の結果が得られた。(1)MDS42(recA)(trfA+)および(2)MDS42(recA)(ryhb)(trfA+)(rpls+)。
【0190】
次に、プラスミドが誘導されない(つまりアラビノースが添加されなかった)ことを除いて前述の実験が複製された。新鮮な細菌については、0%のバクトフェクション効率が観察された(図9、パネルA)。
【0191】
次に、HeLa細胞のバクトフェクションについて前述した手順を用いて、バクトフェクション効率がヒト胚腎臓(HEK)293細胞および培養されたマウス心筋細胞において測定された。短期間、アラビノースの存在下で、pYinv4を含むMDS42(recA)(ryhb)(trfA+)株を一晩かけて成長させ、HEK 293細胞または心筋細胞のバクトフェクションのために15%グリセロール中で-80°Cで凍結させた。HEK 293細胞ではバクトフェクション効率75%が、心筋細胞ではバクトフェクション効率45%が観察された。対照的に、プラスミドのコピー数誘導が2〜3時間(一晩ではなく)のみ実施され、感染前に形質転換した細菌がグリセロール中で凍結された場合、HEK 293細胞におけるバクトフェクション効率は5〜7%に、心筋細胞では1〜2%に低下した。新生児由来皮膚ヒト線維芽細胞(HDFn)でも類似の結果が得られた。
【0192】
MDS42(recA)(ryhb)(trfA+)は内因性LacZ(およびそれ故β-ガラクトシダーゼ活性)を含むため、観察された青色細胞の一部は細菌LacZ発現の可能性を制御するために、β-ガラクトシダーゼ挿入を含まないことを除いてPYinv4と同一のベクターであるpYinv3を含むMDS42(recA)(ryhb)(trfA+)株によってHeLa細胞がバクトフェクションされた。これらのHeLa細胞の比色分析後に観察された青色細胞はごく少数から皆無であり、観察された高いバクトフェクション効率は真核生物のスプライシング事象から生じるものであることが実証された。
【0193】
実施例13
体細胞からのiPS細胞の産生
Oct3/4およびSox2転写因子をコードする遺伝子、随意にはNanog、Lin28、Klf1、Klf2、Klf4および/またはKlf5転写因子をコードする一つ以上の遺伝子は、適したベクターの一つ以上の真核細胞発現カセットにクローン化された(例:遺伝子でLacZ遺伝子が置換されたpYinv4)。各遺伝子を含む真核細胞発現カセットは、同一のベクターまたは別々のベクターに位置しうる。各真核細胞発現カセットは単一プロモーターにより調節される単一遺伝子または複数の遺伝子を含み、それぞれ単シストロン性または多シストロン性mRNAの発現が生じる。
【0194】
適切なクリーンゲノム侵入性細菌株(例:MDS42trfA+)を転換するために、前述の転写因子をコードする遺伝子を含むベクターが使用される。ベクターはoriVなどの誘導性の高コピー数の複製起点を含むことが好ましく、その場合、ベクターのコピー数は標的哺乳類細胞のバクトフェクション直前に非常に高いコピー数へと増幅される。ベクターを含む細菌は、バクトフェクション前に含水グリセロール溶液中で-80°Cに凍結(およびその後解凍)されることが好ましい。
【0195】
別個または組み合わせた形で、少なくともOct3/4およびSox2および随意にNanog、Lin28、Klf1、Klf2、Klf4および/またはKlf5の一つ以上を含む生細菌細胞が次に哺乳類体細胞の培養物、好ましくはヒト哺乳類細胞、より好ましくはヒト線維芽細胞に添加され、2時間感染させた。次に、哺乳類細胞は抗生物質で洗浄され、新鮮な培地が提供され、生体外で培養された。
【0196】
培養された細胞は、ヒト胚幹(ES)細胞様の形態(コンパクトコロニー、核と細胞質の高い比率、目立つ核小体)が見られるかどうか監視される。iPSコロニーはおよそ12日目に現れ始めると予想される。ヒトES細胞形態を持つコロニー(iPSコロニー)が採取される。iPS細胞のサブセット上で以下のより詳細な分析を実施できる。(1)テロメラーゼ活性のテスト、(2)ヒトES細胞特異的細胞表面抗原SSEA-3、SSEA-4、Tra-1-60およびTra-1-81の発現のテスト、(3)遺伝子発現分析(例:マイクロアレイによる)および/または(4)分化能力。iPS細胞は、形態学、テロメラーゼ活性の発現、ヒトES細胞特異的表面抗原の発現、ヒトES細胞の遺伝子発現プロフィール特性、および/またはヒトES細胞への類似の分化の可能性によって特定されうる。iPS細胞は、培養目的上、ヒトES細胞のように取り扱ってもよい。
【0197】
実施例14
MDS株の安全強化系のテスト
細菌溶菌カセットおよびDNA制限系について、産業・臨床研究用の株と比較した場合の、MDS株の安全性を強化する能力が別個に評価された。
【0198】
第一に、細菌の持続性を制限し標的部位でのペイロード放出を高めるために、侵入後に作動しうる誘導性の溶菌系が評価された。この点を達成するために、R遺伝子およびS遺伝子の他、発現を調節する上流配列を含めて、大腸菌バクテリオファージラムダ溶菌領域からの断片がクローン化された。S遺伝子は「ホリン(holin)」をコードするため、R遺伝子の産物であるムラミダーゼによる細胞質膜への貫通および細菌溶菌において生じるペプチドグリカン層の劣化が可能となる。このカセットは発現プラスミドにおいてT7プロモーターにスプライシングされ、次にMDS42へと形質転換された。溶菌は誘導後に獲得され、細菌を約40分で死滅させた。これは、適切な誘導性のプロモーターがあれば、免疫原遺伝子またはタンパク質を宿主の免疫機構にさらすことに加えて、カセットによって溶菌が生じ、その使命を超えては細菌が生存しないことを示している。それ故、一つの実施形態において、侵入性の縮小させたゲノム細菌は、誘導に伴い細菌溶菌を引き起こす誘導性の溶菌系を含むベクターを含む。
【0199】
第二に、外因性制限/修飾系の防御効果がMDS42で実証された。プロテウス・ブルガリスからのpvuIIMR遺伝子は、メチラーゼおよびエンドヌクレアーゼ機能をコードする。エンドヌクレアーゼについて制限配列で特異的メチル化によって修飾されないDNAは分解される。この系をコードするプラスミドはMDS42に転移された。新しい宿主において、メチラーゼが最初に発現され、宿主ゲノムが防御される。プラスミドを持つ遺伝子が確立されると、エンドヌクレアーゼが発現され、その後細菌に侵入するDNAは分解される。ファージラムダは野生型K-12株(PvuIIメチル化なし)で調製され、次に制限プラスミドのある場合とない場合でMDS42上でテストした。ファージの力価は、制限宿主よりも少なくとも3桁低かった。これは、哺乳類腸内における環境からのDNA水平伝播に対する制限の防御効果が達成可能であることを示している。防御されていない場合には、ファージ感染およびプラスミド転移は薬剤耐性遺伝子およびビルレンス因子を治療株にもたらすことが可能であるため、遺伝子の水平伝播に対する防御は重要である。それ故、一つの実施形態において、侵入性の縮小させたゲノム細菌は、外因性制限/修飾系を含むベクターを含む。
【0200】
実施例14
エピトープスクランブリングによるStx2突然変異体の設計
スクランブルされた順序で、志賀毒素2(Stx2)の複数のペプチドエピトープから構成されるモザイクタンパク質をコードする合成遺伝子が作成された。これらの遺伝子を含むDNAワクチンは、天然毒素による致死の攻撃接種に対する防御を提供すると予想される。ワクチンについて、MDS細菌(例:MDS42)を発現するインバシンは培養中に細菌プロモーターから合成された組み換えタンパク質を輸送するか、高コピー数で、好ましくは経口経路で、合成遺伝子をコードするプラスミドDNAを輸送する。DNAワクチンにおいて、真核生物プロモーター(例:CMVプロモーター)は標的細胞中に入ると合成ワクチンペプチドの発現を促進する。いずれの場合でも、免疫原性分子の精製は必要ない。ワクチンの調製は、細菌発酵、そして線量集中性への培養物の希釈から構成される。ワクチンの経口輸送は腸からのバクトフェクションにより免疫系にアクセスする。
【0201】
概念を評価するために、志賀毒素2(Stx2)での致死の攻撃接種から防御するように合成ペプチドワクチンが設計された。第一に、潜在的な免疫原性のある領域およびB細胞エピトープの予想のために、Stx2A(活性部位)サブユニットタンパク質配列(GenPept受入番号AAZ73249)およびStx2Bタンパク質配列(GenPept受入番号AAZ73250)がコンピュータプログラムによってスキャンされた。
【0202】
予想されたB細胞エピトープは、Stx2AおよびStx2Bタンパク質全体の中で考察され、天然の成熟毒素においては発生する可能性の低い(システイン架橋の反対側シグナル配列において)その一部は却下された。次に、Stx2AおよびStx2BのX線結晶構造において予想されたペプチド位置が考察された。これは、選択されたエピトープが実際にタンパク質の表面上にさらされたことを確認した。三つのStx2A候補ペプチド、StxA-1(配列番号1)、StxA-4(配列番号2)およびStxA-6(配列番号3)および一つのStx2B候補ペプチド、StxB-1(配列番号4)が合成され、ハイブリドーマを生むために使用された。StxA-1はStx2Aのアミノ酸228-250に呼応し、StxA-4はStx2Aのアミノ酸61-75に呼応し、StxA-6はStx2Aのアミノ酸198-212に呼応し、StxB-1はStx2Bのアミノ酸22-39に呼応する。上清を検査してモノクローナル抗体(mAb)産生、反応性および特異性が確認された。
【0203】
ペプチドの免疫原性が確認された後、エピトープのペプチド配列に基づいてワクチン遺伝子設計が作成された。一つの実施形態において、Stx2遺伝子(配列番号5)で発生するのとは違う順序だが、DNA配列は大腸菌発現のためにコドンで最適化され、ペプチドはフレーム内で末端間で結合された。図10を参照のこと。この実施形態のDNA配列は、エピトープを分離するリンカーペプチド(配列番号6)がない状態で、StxA-1、StxA-4、StxA-6およびStxB-1を含むポリペプチドをコードする。発現ベクターへのクローン化のために、遺伝子の配列5'および3'に制限部位が添加された。図10を参照のこと。
【0204】
発現ベクターを持つこれらの遺伝子が縮小させたゲノム細菌(例:MDS42)の転換に使用され、それが次に、IP注射および強制経口投与によるマウスの免疫用量を調製するために使用される。これらのワクチンが志賀毒素の致死の攻撃接種に対して防御できる能力が評価される。
【0205】
任意の順序での配列番号1〜4からなる一群から選択される一つ以上のStx2エピトープをコードする遺伝子が作成されうる。隣接する(つまり、末端間)Stx2エピトープを含む単一ポリペプチドとして遺伝子が発現されるように、遺伝子は作成されうる。別の方法としては、短いスペーサー(またはリンカー)断片がエピトープをコードする配列間に添加されるように、遺伝子は作成されうる。この実施形態において、遺伝子は、スペーサー(またはリンカー)ペプチドの長さ1〜20残基で区切られた二つ以上のStx2エピトープを含む単一ポリペプチドとして発現される。言い換えれば、リンカーペプチドの長さは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20残基でもよい。二つ以上のStx2エピトープを含む単一ポリペプチド中のリンカーペプチドは、同一の長さである必要はない。
【0206】
遺伝子は、Stx2エピトープが下記を含むがそれらに限定されない順序で発現されるように作成されうる。配列番号1、2、3、4。配列番号1、2、4、3。配列番号1、3、2、4。配列番号1、3、4、2。配列番号1、4、2、3。配列番号1、4、3、2など。各遺伝子において、エピトープはスペーサーペプチドによって区切られる。
【0207】
【表1】

【0208】
【表2】

【0209】
【表3】

【0210】
【表4】

【0211】
【表5】

【0212】
【表6】

【0213】
【表7】

【0214】
【表8】

【0215】
【表9】

【0216】
【表10】

【0217】
【表11】

【0218】
【表12】

【0219】
【表13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物細胞において核酸または遺伝子を導入および発現させる方法であって、以下:
(a) 第一の複製起点、第二の複製起点、および真核細胞発現カセットを含み、前記の発現カセットが前記の核酸または遺伝子を含むベクターを提供し、
(b) 少なくとも一つの形質転換した細菌を形成するために少なくとも一つの侵入性のある縮小させたゲノム細菌をベクターで形質転換し、
(c) 前記の形質転換した細菌により動物細胞を感染させること
を含む、方法。
【請求項2】
第一の複製起点が低コピー数の複製起点である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
低コピー数の複製起点がoriSである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第二の複製起点が誘導性のある高コピー数の複製起点である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
高コピー数の複製起点がoriVである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
高コピー数の複製起点がアラビノースプロモーターの制御下にある遺伝子によりコードされたポリペプチドによって調節されている、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記のポリペプチドがTrfAである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記の形質転換した細菌が前記の感染前に含水グリセロール溶液で凍結される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記の含水グリセロール溶液が15% w/wグリセロールである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記の形質転換した細菌が約-80℃の温度で凍結される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記の少なくとも一つの縮小させたゲノム細菌が赤痢菌種、リステリア菌種、リケッチア種および侵入性大腸菌からなる一群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記の少なくとも一つの縮小させたゲノム細菌が大腸菌である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
大腸菌株がMD42である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記の遺伝子が検出可能なレベルで発現される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
細菌の侵入能力が細菌の別の属または種からの一つ以上の遺伝子によって与えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記の一つ以上の遺伝子がエルシニア属の遺伝子である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
動物細胞がヒト細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
哺乳類体細胞から多能性幹(iPS)細胞を産生する方法であって、以下:
(a) 第一の複製起点、第二の複製起点、および一つ以上の真核細胞発現カセットを含み、前記の一つ以上の発現カセットが少なくとも転写因子Oct3/4をコードする遺伝子およびSox(SRY-related HMG-box)転写因子ファミリーのメンバーをコードする遺伝子を含む一つ以上のベクターを提供し、
(b) 少なくとも一つの形質転換した細菌を形成するために少なくとも一つの侵入性のある縮小させたゲノム細菌を一つ以上のベクターで形質転換し、
(c) 前記の形質転換した細菌により前記の哺乳類体細胞を感染させ、前記の転写因子の発現が哺乳類体細胞からのiPS細胞の産生を引き起こすこと
を含む、方法。
【請求項19】
Sox転写因子ファミリーのメンバーがSox2である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
一つ以上の真核細胞発現カセットがNanog、Lin28、Klf1、Klf2、Klf4およびKlf5からなる一群から選択される転写因子をコードする遺伝子をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
一つ以上の真核細胞発現カセットがKlf4をコードする遺伝子をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
第一の複製起点が低コピー数の複製起点である、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
低コピー数の複製起点がoriSである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
第二の複製起点が誘導性のある高コピー数の複製起点である、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
高コピー数の複製起点がoriVである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
高コピー数の複製起点がアラビノースプロモーターの制御下にある遺伝子によりコードされたポリペプチドによって調節されている、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記のポリペプチドがTrfAである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記の形質転換した細菌が前記の感染前に含水グリセロール溶液で凍結される、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
前記の含水グリセロール溶液が15% w/wグリセロールである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記の少なくとも一つの縮小させたゲノム細菌が赤痢菌種、リステリア菌種、リケッチア種および侵入性大腸菌からなる一群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項31】
前記の少なくとも一つの縮小させたゲノム細菌が大腸菌である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
大腸菌株がMD42である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記の遺伝子が検出可能なレベルで発現される、請求項18に記載の方法。
【請求項34】
細菌の侵入能力が細菌の別の属または種からの一つ以上の遺伝子によって与えられる、請求項18に記載の方法。
【請求項35】
前記の一つ以上の遺伝子がエルシニア属の遺伝子である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
動物細胞がヒト細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項37】
ヒト細胞が、IMR90胎児線維芽細胞、出生後包皮線維芽細胞、および成人皮膚線維芽細胞からなる一群より選択される線維芽細胞である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
iPS細胞がテロメラーゼ活性を持つ、請求項18に記載の方法。
【請求項39】
iPS細胞が一つ以上のSSEA-1(-)、SSEA-3(+)、SSEA-4(+)、TRA-l-60(+)、TRA-1-81(+)およびTRA-2-49/6Eからなる一群より選択される、少なくとも一つの選択されたマーカーを発現する、請求項18に記載の方法。
【請求項40】
iPS細胞が多能性細胞の遺伝子発現パターン特性を持つ、請求項18に記載の方法。
【請求項41】
iPS細胞が少なくとも二つの選択された組織型に分化できる能力を持つ、請求項18に記載の方法。
【請求項42】
動物細胞において核酸または遺伝子を導入および発現させる方法であって、以下:
(a) 第一の複製起点、第二の複製起点、および真核細胞発現カセットを含み、前記の発現カセットが前記の遺伝子を含むベクターを提供し、
(b) 少なくとも一つの形質転換した細菌を形成するために少なくとも一つの侵入性のある縮小させたゲノム細菌をベクターで形質転換し、
(c) 含水グリセロール溶液中で前記の形質転換した細菌を凍結し、
(d) 前記の形質転換した細菌により動物細胞を感染させること
を含む、方法。
【請求項43】
哺乳類体細胞から多能性幹(iPS)細胞を産生する方法であって、以下:
(a) 第一の複製起点、第二の複製起点、および一つ以上の真核細胞発現カセットを含み、前記の一つ以上の発現カセットが少なくとも転写因子Oct3/4をコードする遺伝子およびSox(SRY-related HMG-box)転写因子ファミリーのメンバーをコードする遺伝子を含む一つ以上のベクターを提供し、
(b) 少なくとも一つの形質転換した細菌を形成するために少なくとも一つの侵入性のある縮小させたゲノム細菌を一つ以上のベクターで形質転換し、
(c) 含水グリセロール溶液中で前記の形質転換した細菌を凍結し、
(d) 前記の形質転換した細菌により前記の哺乳類体細胞を感染させ、前記の転写因子の発現が哺乳類体細胞からのiPS細胞の産生を引き起こすこと
を含む、方法。
【請求項44】
前記の含水グリセロール溶液が15% w/wグリセロールである、請求項42または43に記載の方法。
【請求項45】
前記の凍結が約-80℃の温度で行われる、請求項42または43に記載の方法。
【請求項46】
バクトフェクションのために縮小させたゲノム細菌を調製する方法であって、以下:
(a) 第一の複製起点、第二の複製起点、および真核細胞発現カセットを含み、前記の発現カセットが核酸または遺伝子を含むベクターを提供し、
(b) 少なくとも一つの形質転換した細菌を形成するために少なくとも一つの侵入性のある縮小させたゲノム細菌をベクターで形質転換し、
(c) 含水グリセロール溶液中で前記の形質転換した細菌を凍結すること
を含む、方法。
【請求項47】
請求項46に記載の方法により調製された、縮小させたゲノム細菌。
【請求項48】
前記の核酸または遺伝子が心臓特異的プロモーターの制御下にある、請求項47に記載の細菌。
【請求項49】
心臓特異的プロモーターがα-ミオシン重鎖プロモーター、β-ミオシン重鎖プロモーター、ミオシン軽鎖-2vプロモーター、ミオシン軽鎖-2aプロモーター、心筋細胞制限心臓アンキリン反復(CARP)プロモーター、心臓α-アクチンプロモーター、ANPプロモーター、BNPプロモーター、心臓トロポニンCプロモーター、心臓トロポニンTプロモーターおよび骨格α-アクチンプロモーターから選択される、請求項48に記載の細菌。
【請求項50】
前記の核酸または遺伝子が血管内皮成長因子(VEGF)1、VEGF 2、線維芽細胞成長因子(FGF)4、内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-I)、細胞外スーパーオキシド・ジスムターゼ(Ec-SOD)、熱ショックタンパク質70(HSP70)、Bcl-2、低酸素誘導因子1(HIF-1)α、筋小胞体Ca2+ ATPase(SERCA)、筋小胞体Ca2+-アデノシン三リン酸ホスファターゼ-2(SERCA2)、およびスルホニル尿素受容体-2(SUR2)から選択される、請求項48に記載の細菌。
【請求項51】
動物細胞が心筋細胞である、請求項1または請求項8に記載の方法。
【請求項52】
心筋細胞がヒト心筋細胞である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
遺伝子または核酸が心臓特異的プロモーターの制御下にある、請求項52の方法。
【請求項54】
心臓特異的プロモーターが血管内皮成長因子(VEGF)1、VEGF 2、線維芽細胞成長因子(FGF)4、内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-I)、細胞外スーパーオキシド・ジスムターゼ(Ec-SOD)、熱ショックタンパク質70(HSP70)、Bcl-2、低酸素誘導因子1(HIF-1)α、筋小胞体Ca2+ ATPase(SERCA)、筋小胞体Ca2+-アデノシン三リン酸ホスファターゼ-2(SERCA2)、およびスルホニル尿素受容体-2(SUR2)から選択される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
動物細胞が幹細胞である、請求項1または請求項8に記載の方法。
【請求項56】
幹細胞が造血幹細胞または間充織幹細胞である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
幹細胞が心臓幹細胞である、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
幹細胞が体幹細胞に由来したものである、請求項55に記載の方法。
【請求項59】
(a) 配列番号5として規定される配列、
(b) 配列番号5のヌクレオチド9〜197、
(c) (a)〜(b) の一つと少なくとも90%同一の配列、および
(d) (a)〜(b) の一つと少なくとも95%同一の配列からなる一群より選択される配列を含む、分離された核酸。
【請求項60】
(a) 配列番号1として規定される配列、
(b) 配列番号2として規定される配列、
(c) 配列番号3として規定される配列、
(d) 配列番号4として規定される配列、および
(e) 前記の二つ以上のアミノ酸配列が0〜20の長さのアミノ酸のリンカーペプチドによって分離される、(a)〜(d)の一つと少なくとも90%同一である配列からなる一群より選択される二つ以上のアミノ酸配列を含む、ポリペプチドをコードする配列を含む、分離された核酸。
【請求項61】
配列番号6の配列を含むポリペプチドをコードする配列を含む、分離された核酸。
【請求項62】
配列番号5として規定される配列を持つ、請求項61に記載の分離された核酸。
【請求項63】
プロモーターに操作可能な形で結合されている、請求項59〜62の一つに従った核酸を含む発現ベクター。
【請求項64】
請求項59〜62のいずれか1項の動物細胞において核酸を導入および発現させる方法であって、以下:
(a) 第一の複製起点、第二の複製起点、および真核生物発現カセットを含み、前記の発現カセットが前記の核酸を含むベクターを提供し、
(b) 少なくとも一つの形質転換した細菌を形成するために少なくとも一つの侵入性のある縮小させたゲノム細菌をベクターで形質転換し、
(c) 含水グリセロール溶液中で前記の形質転換した細菌を凍結し、
(d) 前記の形質転換した細菌により動物細胞を感染させること
を含む、方法。
【請求項65】
請求項64に記載の方法により調製された、縮小させたゲノム細菌。
【請求項66】
請求項59〜62のいずれか1項に記載の一つの核酸によってコードされたポリペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−501680(P2012−501680A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527024(P2011−527024)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【国際出願番号】PCT/US2009/056829
【国際公開番号】WO2010/030986
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(510225258)スカラブ ジェノミクス リミティド ライアビリティ カンパニー (2)
【Fターム(参考)】