説明

クレーンのマスト支持システム

【課題】クレーンのマストの基端部と走行台車をモーメントが作用しないような構造にて接合することで、レール受け、アジャスタ等の許容荷重を小さくできるようにしたクレーンのマスト支持システムを提供すること。
【解決手段】走行可能とした走行台車1上に樹立するマスト2の上部を、ガイドローラ6を介してガイドレールRに沿って走行可能に支持し、マスト2の下部を走行台車1に移載モーメントが作用しないようピン構造Pにて走行台車1に接合するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンのマスト支持システムに関し、特に、走行する走行台車(サドル)に樹立したマストにかかる荷重によるモーメントを走行台車に作用しないようにし、クレーンの軽量化を図ることができるクレーンのマスト支持システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、クレーン、特に限定されるものではないが、例えば、スタッカクレーンCは、図3(B)に示すように、走行する走行台車1上にマスト2を樹立し、このマスト2に沿って移載機を備えた昇降台3を昇降するように構成している。
また、近年のニーズとして、スタッカクレーンCの重量低減、材料削減を図るには、マスト2を支持する走行台車1の板厚を薄くすることが求められる。しかし、移載モーメントが走行台車1に作用する最大モーメントとなっているため、このサドル板厚を薄くするにも限度があった。
【0003】
また、移載機上に載置された荷重Gによるモーメントは、図3(B)に示すように、昇降台3よりマスト2を経て走行台車1に伝わる。この場合、移載モーメントが走行台車1に作用し、これにより、一方の車輪W1には大きな輪重として、また他方の車輪W2には移載による反力が輪重として作用する。
このため、スタッカクレーンCの走行を導くようにした走行レールRの下にある、例えば、レール受け、アジャスタ等の部材の軽減化にも限度があって、特にレール板RPの板厚をある程度の厚さを要し、アジャスタAの許容荷重をも大きく設定する必要があり、このため設備費が高価になるという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、クレーンのマスト支持の有する問題点に鑑み、クレーンのマストの基端部と走行台車をモーメントが作用しないような構造にて接合することで、レール受け、アジャスタ等の許容荷重を小さくできるようにしたクレーンのマスト支持システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のクレーンのマスト支持システムは、走行可能とした走行台車上に樹立するマスト上部を、ガイドローラを介してガイドレールに沿って走行可能に支持し、マスト基端部を走行台車に移載モーメントが作用しないようピン構造にて走行台車に接合するようにしたことを特徴とする。
【0006】
この場合において、ピン構造を、走行台車側に配設固定するヒンジピンと、該ヒンジピンの上面を嵌合するヒンジピン取付ブラケット及び前記ヒンジピンの下面を嵌合する下部ヒンジピン取付ブラケットによりヒンジピンを抱持するようにしてマスト下端部に配設固定するようにすることができる。
【0007】
また、ヒンジピンの外周にゴム層を配設し、該ゴム層を介してヒンジピン取付ブラケットにて抱持するようにすることができる。
【0008】
また、マスト基端部を、マスト支持アーム装置を介して走行台車に支持するようにすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のクレーンのマスト支持システムによれば、走行可能とした走行台車上に樹立するマスト上部を、ガイドローラを介してガイドレールに沿って走行可能に支持し、マスト基端部を走行台車に移載モーメントが作用しないようピン構造にて走行台車に接合するようにすることにより、移載モーメントによる反力が輪重の方向(下方向)でなく移載方向(横方向)に作用することによって輪重が増加せず、走行台車及びレール板、アジャスタ部の許容荷重を小さくでき、かつスタッカクレーンの重量低減、材料削減化を図ることができる。
【0010】
また、ピン構造を、走行台車側に配設固定するヒンジピンと、該ヒンジピンの上面を嵌合するヒンジピン取付ブラケット及び前記ヒンジピンの下面を嵌合する下部ヒンジピン取付ブラケットによりヒンジピンを抱持するようにしてマスト下端部に配設固定するようにすることにより、マストを簡易に柔構造的に走行台車に固定することができるので、マストにかかる移載モーメントをより確実に吸収することができる。
【0011】
また、ヒンジピンの外周にゴム層を配設し、該ゴム層を介してヒンジピン取付ブラケット、下部ヒンジピン取付ブラケット間にて抱持するようにすることにより、ヒンジピンとヒンジピン取付ブラケットとの金属同士が直接接触することがないので摩擦による発塵を抑制することができるとともに、該ゴム層により簡易に移載モーメントを吸収することができる。
【0012】
また、マスト基端部を、マスト支持アーム装置を介して走行台車に支持するようにすることにより、簡単な構成でマストの許容以上の倒れを防止してマスト基端部の支持を強固に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のクレーンのマスト支持システムの実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1〜図8に、本発明のクレーンのマスト支持システムの一実施例を示す。
本発明のクレーンは、特に限定されるものではないが、例えば、液晶製造工場等において、液晶基板等の搬送物を搬送する場合、スタッカクレーンが用いられる。このスタッカクレーンCは、走行路又は走行レールRに沿って走行するようにするが、これは走行台車1(サドル)上にマスト2を樹立し、このマスト2に沿って移載機4を備えた昇降台3を昇降するようにし、またマスト2に上部にはガイドローラ8を突設し、このガイドローラ8をガイドレール9に支持し、マスト2が倒れないようにして走行するようにしている。
そして、この昇降台3の昇降は、昇降台3に一端を結合したワイヤーロープWの他端側にカウンタウェイト5を結合し、該ワイヤーロープWを噛合し、マスト上部に配設したスプロケットホイール6の駆動にて行うようにしている。
【0015】
走行台車1上に樹立するマスト2は、従来のように溶接、ボルト止め等のように剛結合とするのではなく、走行台車1とピン構造PによりスタッカクレーンCの進行方向に対して直角方向に揺動可能に結合し、これによりマスト基端部にかかる移載モーメントを吸収するようにしている。
【0016】
このピン構造Pは、図4〜図5に示すように、マスト2の基端部に平板状の取付プレート10をボルト止め、或いは溶着等にて一体となるよう固定し、この取付プレート10の下面に突設固定したヒンジピン取付ブラケット11と、走行台車1側に固定したヒンジピン12と、このヒンジピン12の上下より対向するよう配設して前記ヒンジピン取付ブラケット11と協同してヒンジピン12を抱持するようにした下部ヒンジピン取付ブラケット13と、ヒンジピン12を走行台車1側に固定するようにし、ヒンジピン取付ブラケット部の両側部に配設するヒンジピン固定ブラケット14とより構成する。
【0017】
ヒンジピン取付ブラケット11は、取付プレート10に溶着等にて一体に固定し、下面側中央部に半円弧形のヒンジピン嵌合溝11aを形成して構成するとともに、このヒンジピン取付ブラケット11と上下に対向するように配設する下部ヒンジピン取付ブラケット13を上面中央部に半円弧形のヒンジピン嵌合溝13aを形成して構成する。
これにより、ヒンジピン取付ブラケット11と下部ヒンジピン取付ブラケット13を上下に対峙させたとき、両ヒンジピン嵌合溝11a、13aを一致させてヒンジピン12を抱持する円形のヒンジピン抱持孔を形成するようにする。
なお、この下部ヒンジピン取付ブラケット13のヒンジピン取付ブラケット11への取り付けは、図4に示すように、下部ヒンジピン取付ブラケット13の両側部をボルト11bにてヒンジピン取付ブラケット11へ固定するようにする。
【0018】
ヒンジピン固定ブラケット14は、ヒンジピン取付ブラケット11、13と互いに干渉しないよう、ヒンジピン取付ブラケット部の左右両側部に配設し、かつ走行台車1の取付プレート15に溶着等にて固定し、これにヒンジピン12の両端部をボルト16、16にて固定するようにする。なお、この場合、下部ヒンジピン取付ブラケット13は、左右に対向するヒンジピン固定ブラケット14、14間の空間内に配設するようにするが、取付プレート15上面との間には隙間を有するようにする。
【0019】
ヒンジピン12は、図5に示すように、ヒンジピン嵌合溝11a、13aの両端より突出するようにしてその長さを定め、かつ両端をボルト16、16にて左右のヒンジピン固定ブラケット14、14に固定するとともに、このヒンジピン12の中央部外周にはゴム層12r、特に限定されるものではないが、例えば、ウレタンゴム層を一体に形成し、このゴム層12rを介してヒンジピン取付ブラケット11、下部ヒンジピン取付ブラケット13にてヒンジピン12を抱持するようにする。
これにより、マスト基端部は、ピン構造Pにより走行台車1に結合され、走行台車1の進行方向の振れ及び走行台車1の進行方向と直角方向の移載モーメントや振れに対してヒンジピン中央部外周に形設されたゴム層12rの許容範囲の弾性変形により吸収されるようになる。
【0020】
また、走行台車1上に樹立したマスト2が、ヒンジピン12のゴム層12rの弾性変形の許容範囲内以上に倒れないよう、すべてのマスト2の基端側部をマスト支持アーム装置7により走行台車1に支持する。
このマスト支持アーム装置7は、図6〜図8に示すように、アーム取付ブラケット20、21とアーム22と、各アーム取付ブラケット20、21と、特に限定されるものではないが、例えば、ロッド、パイプ形のアーム22間を接合するピン構造P1とより構成するようにする。
アーム取付ブラケット20は、図6に示すように、マスト基端側部にボルト等にて斜め下方向に突出するようにして固定するもので、その先端にヒンジピンを介してアーム22と接合し、またアーム取付ブラケット21は、走行台車1上に突出するようにしてボルト等にて固定し、この先端にヒンジピンを介してアーム22と接合する。
【0021】
アーム取付ブラケット20、21とアーム22とを接合するピン構造P1は、走行台車1上に樹立するマスト2のピン構造Pと同じ構成を有するものとする。
アーム22の端部には、2つのヒンジピン取付ブラケット23、23を所要の間隔をあけて対向するように配設固定し、このヒンジピン取付ブラケット23、23間にヒンジピン24を掛け渡すように配設して、このヒンジピン24の両端部をボルト25、25にてヒンジピン取付ブラケット23、23に固定する。
【0022】
また、両アーム取付ブラケット20、21の端部には、それぞれアーム取付ブラケット20、21側にボルト止め等にて固定ブラケット26を固定し、この固定ブラケット26と互いに対向するよう配設して取付用ブラケット27をボルトにて固定する。この場合、固定ブラケット26と、取付用ブラケット27とに互いに対向する位置に半円弧形のヒンジピン嵌合溝26a、27aを形成し、これにより固定ブラケット26と取付用ブラケット27とを互いに対向するよう配設した時とき円筒形のヒンジピン抱持孔を形成するようにする。
【0023】
ヒンジピン24は、ヒンジピン12と同様に中央部外周にゴム層24rを一体に形成し、このゴム層24rを介してヒンジピン24を固定ブラケット26、取付用ブラケット27間にて抱持するようにして支持する。
これにより、移載モーメントの作用にてマスト2が許容範囲内で、ヒンジピン12のゴム層12rの弾性変形にて揺動するとき、マスト支持アーム装置7のピン構造P1にてマスト2の振れを吸収するようにしてマスト2を許容範囲以上に倒れないよう支持するものである。
【0024】
次に、本発明のクレーンのマスト支持システムの作用について説明する。
図3(A)に示すように、スタッカクレーンCの昇降台3上に備えた移載機4に搬送物、特に限定されるものではないが、例えば、カセットKを移載して搬送する場合、このカセットKの荷重Gは、昇降台3を介してマスト2の昇降台位置に伝達される。マスト2伝達されたモーメントは昇降台位置より上下に分散され、マスト上部ではガイドローラ8にて吸収されるとともに、マスト下部のモーメントはマスト2と走行台車1との接合部のピン構造Pにて吸収、これは、モーメントがマスト下部より走行台車1側に伝達されるとき、ピン構造Pのヒンジピン12の外周部に形成した弾性を有するゴム層12rの弾性変形にて吸収されるものとなる。
【0025】
また、マスト支持アーム装置7のアーム両端にピン構造P1を配しているので、このピン構造P1のヒンジピン24のゴム層24rにて振れを吸収しつつ、マスト基端部を支持することができる。
これにより、走行台車1にはモーメントが作用しないため、走行台車1の輪重を小さくすることができるので、レール板RPやその下部のアジャスタAの許容荷重を小さくすることができ、さらにはスタッカクレーンCの軽量化、特に走行台車の軽量化を図ることができる。
【0026】
以上、本発明のクレーンのマスト支持システムについて、実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のクレーンのマスト支持システムは、クレーンのマストの基端部と走行台車を移載モーメントが作用しないような構造にて接合するようにしていることから、大重量の搬送物を搬送するスタッカクレーンの用途に好適に用いることができるほか、例えば、扛上機の用途にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のクレーンのマスト支持システムの一実施例を示し、スタッカクレーンに適用した正面図である。
【図2】同側面図である。
【図3】クレーンのマストにかかる移載モーメントを示した説明図で、(A)は本発明のクレーンのマストにかかる移載モーメントを示し、(B)は従来のマストにかかる移載モーメントを示す。
【図4】マスト基端部の取付状態を示す正面図である。
【図5】マスト基端部の取付状態を示す側面縦断面図である。
【図6】マスト支持アーム装置部を拡大して示す正面図である。
【図7】同側面図である。
【図8】マスト支持アーム装置のピン構造部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0029】
C スタッカクレーン
G 搬送物荷重
P ピン構造
P1 ピン構造
1 走行台車(サドル)
2 マスト
3 昇降台
4 移載機
5 カウンタウェイト
6 スプロケットホイール
7 マスト支持アーム装置
8 ガイドローラ
9 ガイドレール
10 取付プレート
11 ヒンジピン取付ブラケット
11a ヒンジピン嵌合溝
12 ヒンジピン
12r ヒンジピン中央部外周に形成したゴム層
13 下部ヒンジピン取付ブラケット
13a ヒンジピン嵌合溝
14 ヒンジピン固定ブラケット
15 取付プレート
20 アーム取付ブラケット
21 アーム取付ブラケット
22 アーム
23 ヒンジピン取付ブラケット
24 ヒンジピン
24r ヒンジピン中央部外周に形成したゴム層
26 固定ブラケット
26a 取付用ブラケット
27 取付用ブラケット
27a 取付用ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行可能とした走行台車上に樹立するマスト上部を、ガイドローラを介してガイドレールに沿って走行可能に支持し、マスト下部を走行台車に移載モーメントが作用しないようピン構造にて走行台車に接合するようにしたことを特徴とするクレーンのマスト支持システム。
【請求項2】
ピン構造を、走行台車側に配設固定するヒンジピンと、該ヒンジピンの上面を嵌合するヒンジピン取付ブラケット及び前記ヒンジピンの下面を嵌合する下部ヒンジピン取付ブラケットによりヒンジピンを抱持するようにしてマスト下端面に配設固定するようにしたことを特徴とする請求項1記載のクレーンのマスト支持システム。
【請求項3】
ヒンジピンの外周にゴム層を配設し、該ゴム層を介してヒンジピン取付ブラケットにて抱持するようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載のクレーンのマスト支持システム。
【請求項4】
マスト基端部を、マスト支持アーム装置を介して走行台車に支持するようにしたことを特徴とする請求項1、2又は3記載のクレーンのマスト支持システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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