説明

クレーンの吊り荷重導出装置

【課題】正確な吊り荷重を求めることが可能なクレーンの吊り荷重導出装置を提供する。
【解決手段】このクレーンの吊り荷重導出装置2は、シーブ掛数と、更新用巻き上げ動作時と更新用巻き下げ動作時にそれぞれ検出される吊りロープ114の張力とに基づいて平均シーブ効率を算出するシーブ効率演算部10と、そのシーブ効率演算部10によって算出された平均シーブ効率とシーブ掛数とに基づいて新たな吊り荷重特定係数を算出する係数演算部12と、記憶部4に記憶された吊り荷重特定係数を前記新たな吊り荷重特定係数に更新する更新部14と、吊りロープ114の張力と記憶部4に記憶された最新の吊り荷重特定係数とに基づいて吊り荷重を算出する荷重演算部16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの吊り荷重導出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のクレーンでは、ブームやジブ等の起伏部材の先端から吊りロープを介して吊り下げられる吊荷の荷重を前記吊りロープに掛かる張力に基づいて算出することが行われている。下記特許文献1には、そのような吊り荷重を求めるための吊り荷重検出装置を備えたクレーンの一例が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されたクレーンは、下部走行体と、その下部走行体上に旋回自在に搭載された上部旋回体と、その上部旋回体に起伏自在に設けられたブームと、そのブームの先端に起伏自在に取り付けられたジブと、そのジブの先端に設けられた複数のシーブと、ジブの先端の下方に配置されて吊荷を支持するフック装置と、そのフック装置に設けられた複数のシーブと、前記ジブの先端に設けられたシーブと前記フック装置に設けられたシーブとに掛け回されたワイヤロープと、上部旋回体に搭載され、ワイヤロープを巻き取ることによりフック装置を巻き上げる一方、ワイヤロープを繰り出すことによりフック装置を巻き下げるウィンチと、ワイヤロープの張力を検出する張力検出器とを備えている。そして、吊り荷重検出装置は、前記張力検出器によって検出されたワイヤロープの張力に前記シーブに対するワイヤロープの掛け数を乗じることによって吊り荷重を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−139760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された吊り荷重検出装置では、正確な吊り荷重を算出することができない。
【0006】
具体的には、上記特許文献1では、張力検出器によって検出されたワイヤロープの張力にシーブに掛けられたワイヤロープの掛け数を乗じることによって吊り荷重を求めているが、フック装置の巻き上げ時又は巻き下げ時には、ワイヤロープの張力に各シーブのシーブ効率に起因する力が含まれるため、そのワイヤロープの張力に前記掛け数を乗じて求められた吊り荷重は、シーブ効率の影響が加味された荷重となり、真の吊り荷重からずれた値となる。なお、シーブ効率とは、回転抵抗力(シーブとその回転軸との間で作用する滑り摩擦力とシーブに掛けられるワイヤロープをシーブに沿って曲げる際の曲げ抵抗力とを合算した力)が付与されるシーブを回転させる際のそのシーブの回転させやすさを表す値である。
【0007】
この発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、正確な吊り荷重を求めることが可能なクレーンの吊り荷重導出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本願発明者は、フック装置の巻き上げ時と巻き下げ時における吊りロープの張力と吊り荷重との相関関係を特定する吊り荷重特定係数を予め求めておき、フック装置の巻き上げ時及び巻き下げ時には、検出された吊りロープの張力と前記吊り荷重特定係数とに基づいて吊り荷重を求めることを考え付いた。この構成によれば、前記吊り荷重特定係数にシーブ効率に起因する作用力が反映されているため、フック装置の巻き上げ時及び巻き下げ時に上記従来の構成よりも正確な吊り荷重を求めることが可能となる。
【0009】
しかし、この場合には、シーブ及び吊りロープの温度の変化や、経年によるシーブ及び吊りロープの劣化があった場合に吊り荷重の算出精度が低下するという問題点がある。
【0010】
具体的には、前記係数が算出された時点からシーブ及び吊りロープの温度の変化や、経年によるシーブ及び吊りロープの劣化があった場合には、シーブ効率が変化し、それに伴って、吊りロープの張力と吊り荷重との相関関係が変化する。このため、その変化後の時点では、予め算出された前記吊り荷重特定係数が現時点での吊りロープの張力と吊り荷重との関係に対応しなくなり、その吊り荷重特定係数を用いて算出された吊り荷重は、真の吊り荷重に対して誤差の大きい値となる。
【0011】
そこで、本願発明者は、この問題点を解決するために以下のようなクレーンの吊り荷重導出装置を発明した。この発明によるクレーンの吊り荷重導出装置は、クレーン本体と、そのクレーン本体に起伏自在に設けられた起伏部材と、その起伏部材の先端部の下方で吊荷を支持するフック装置と、前記起伏部材の先端部に設けられた複数の第1吊りシーブと、前記フック装置に設けられ、前記第1吊りシーブの下方に配置される複数の第2吊りシーブと、前記第1吊りシーブと前記第2吊りシーブとに掛け回される吊りロープと、前記クレーン本体に設けられ、前記吊りロープを巻き取ることにより前記第2吊りシーブとともに前記フック装置を巻き上げる一方、前記吊りロープを繰り出すことによって前記第2吊りシーブとともに前記フック装置を巻き下げる吊荷用ウィンチと、前記吊りロープの張力を検出する吊りロープ張力検出器とを備えたクレーンに設けられ、そのクレーンの吊り荷重を導出するクレーンの吊り荷重導出装置であって、前記吊りロープの張力と前記クレーンの吊り荷重との相関関係を特定する吊り荷重特定係数を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された吊り荷重特定係数の更新を指示するための指示信号を発信する指示装置と、前記指示装置から前記指示信号が発信された場合に、前記吊りロープが掛け回された前記吊りシーブの数であるシーブ掛数と、前記吊荷用ウィンチによる前記フック装置の巻き上げ動作中に前記吊りロープ張力検出器により検出される前記吊りロープの張力と、前記吊荷用ウィンチによる前記フック装置の巻き下げ動作中に前記吊りロープ張力検出器により検出される前記吊りロープの張力とに基づいて前記各吊りシーブの平均のシーブ効率である平均シーブ効率を算出するシーブ効率演算部と、そのシーブ効率演算部によって算出された平均シーブ効率と前記シーブ掛数とに基づいて新たな吊り荷重特定係数を算出する係数演算部と、前記記憶部に記憶された吊り荷重特定係数を前記係数演算部によって算出された新たな吊り荷重特定係数に更新する更新部と、前記吊りロープ張力検出器によって検出された前記吊りロープの張力と前記記憶部に記憶された最新の吊り荷重特定係数とに基づいて前記クレーンの吊り荷重を算出する荷重演算部とを備えている。
【0012】
このクレーンの吊り荷重導出装置では、例えば所定のタイミングで指示装置に前記指示信号を発信させ、吊荷用ウィンチにフック装置の所定の巻き上げ動作及び巻き下げ動作を行わせれば、記憶部に記憶されている吊り荷重特定係数がその時点での各吊りシーブの平均シーブ効率が反映された値に更新されるため、荷重演算部がその最新の平均シーブ効率が反映された吊り荷重特定係数を用いてクレーンの吊り荷重を算出することができる。その結果、吊りシーブ及び吊りロープの温度変化や経年劣化があった場合でも、良好な精度で吊り荷重を求めることができる。
【0013】
上記クレーンの吊り荷重導出装置において、前記記憶部は、前記吊り荷重特定係数として、前記フック装置の巻き上げ時における前記吊りロープの張力と前記クレーンの吊り荷重との相関関係を特定する吊り荷重特定係数である巻上げ用係数と、前記フック装置の巻き下げ時における前記吊りロープの張力と前記クレーンの吊り荷重との相関関係を特定する吊り荷重特定係数である巻下げ用係数とを記憶し、前記係数演算部は、前記新たな吊り荷重特定係数として、前記シーブ効率演算部によって算出された前記平均シーブ効率と前記シーブ掛数とに基づいて新たな巻上げ用係数及び巻下げ用係数を算出し、前記更新部は、前記記憶部に記憶された巻上げ用係数を前記係数演算部によって算出された前記新たな巻上げ用係数に更新するとともに、前記記憶部に記憶された巻下げ用係数を前記係数演算部によって算出された前記新たな巻下げ用係数に更新し、前記荷重演算部は、前記フック装置の巻き上げ時には前記吊りロープ張力検出器によって検出される前記吊りロープの張力と前記記憶部に記憶された最新の巻上げ用係数とに基づいて前記クレーンの吊り荷重を算出し、前記フック装置の巻き下げ時には前記吊りロープ張力検出器によって検出される前記吊りロープの張力と前記記憶部に記憶された最新の巻下げ用係数とに基づいて前記クレーンの吊り荷重を算出することが好ましい。
【0014】
この構成によれば、フック装置の巻き上げ時と巻き下げ時にそれぞれに応じた吊り荷重特定係数でかつ吊りシーブ及び吊りロープの温度変化や経年劣化に起因するシーブ効率の変化が加味された吊り荷重特定係数を用いて吊り荷重が算出されるため、吊りシーブ及び吊りロープの温度変化や経年劣化があった場合にフック装置の巻き上げ時と巻き下げ時のそれぞれにおいて正確な吊り荷重を求めることができる。
【0015】
この場合において、前記係数演算部は、前記平均シーブ効率をε1AVEとし、前記シーブ掛数をN1とし、前記新たな巻上げ用係数をK1UPとし、前記新たな巻下げ用係数をK1DNとした場合に、K1UP=ε1AVE(1−ε1AVEN1)/(1−ε1AVE)という数式に基づいて前記新たな巻上げ用係数K1UPを算出するとともにK1DN=ε1AVE−N1(ε1AVEN1−1)/(ε1AVE−1)という数式に基づいて前記新たな巻下げ用係数K1DNを算出することが好ましい。
【0016】
この構成によれば、シーブ効率演算部によって算出された平均シーブ効率とシーブ掛数とに基づいて新たな巻上げ用係数及び巻下げ用係数を算出する係数演算部を具体的に構成することができる。
【0017】
上記クレーンの吊り荷重導出装置において、前記シーブ効率演算部は、前記平均シーブ効率をε1AVEとし、前記シーブ掛数をN1とし、前記指示装置から前記指示信号が発信された状態で前記吊荷用ウィンチが前記フック装置を巻き上げる際に前記吊りロープ張力検出器が検出する前記吊りロープの張力をF1UPとし、前記指示装置から前記指示信号が発信された状態で前記吊荷用ウィンチが前記フック装置を巻き下げる際に前記吊りロープ張力検出器が検出する前記吊りロープの張力をF1DNとした場合にε1AVE=(F1DN/F1UP1/(N1+1)という数式に基づいて平均シーブ効率ε1AVEを算出することが好ましい。
【0018】
この構成によれば、シーブ掛数と、指示装置から指示信号が発信された状態で吊荷用ウィンチがフック装置を巻き上げる際に吊りロープ張力検出器が検出する吊りロープの張力と、指示装置から指示信号が発信された状態で吊荷用ウィンチがフック装置を巻き下げる際に吊りロープ張力検出器が検出する吊りロープの張力とに基づいて平均シーブ効率を算出するシーブ効率演算部を具体的に構成することができる。
【0019】
また、本願発明者は、上記問題点を解決するために以下のようなクレーンの吊り荷重導出装置を発明した。この発明によるクレーンの吊り荷重導出装置は、クレーン本体と、そのクレーン本体に起伏自在に設けられた起伏部材と、その起伏部材の先端部に吊り下げられ、吊荷を支持するフック装置と、前記クレーン本体において前記起伏部材の後方に立設されたガントリと、そのガントリの上部に設けられ、複数の第1起伏シーブを有する第1スプレッダと、その第1スプレッダと前記起伏部材の先端部との間に配置され、複数の第2起伏シーブを有する第2スプレッダと、前記起伏部材の先端部と前記第2スプレッダとを接続するガイラインと、前記第1起伏シーブと前記第2起伏シーブとに掛け回される起伏ロープと、前記クレーン本体に設けられ、前記起伏ロープを巻き取ることにより前記第1スプレッダと前記第2スプレッダとの間の間隔を縮小させて前記起伏部材を起立させる一方、前記起伏ロープを繰り出すことにより前記第1スプレッダと前記第2スプレッダとの間の間隔を拡大させて前記起伏部材を倒伏させる起伏用ウィンチと、前記起伏ロープの張力を検出する起伏ロープ張力検出器とを備えたクレーンに設けられ、そのクレーンの吊り荷重を導出するクレーンの吊り荷重導出装置であって、前記起伏ロープの張力と前記ガイラインの張力との相関関係を特定する張力特定係数を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された張力特定係数の更新を指示するための指示信号を発信する指示装置と、前記指示装置から前記指示信号が発信された場合に、前記起伏ロープが掛け回された前記起伏シーブの数であるシーブ掛数と、前記起伏用ウィンチによる前記起伏部材の起立動作中に前記起伏ロープ張力検出器により検出される前記起伏ロープの張力と、前記起伏用ウィンチによる前記起伏部材の倒伏動作中に前記起伏ロープ張力検出器により検出される前記起伏ロープの張力とに基づいて前記各起伏シーブの平均のシーブ効率である平均シーブ効率を算出するシーブ効率演算部と、そのシーブ効率演算部によって算出された平均シーブ効率と前記シーブ掛数とに基づいて新たな張力特定係数を算出する係数演算部と、前記記憶部に記憶された張力特定係数を前記係数演算部によって算出された新たな張力特定係数に更新する更新部と、前記起伏ロープ張力検出器によって検出される前記起伏ロープの張力と前記記憶部に記憶された最新の張力特定係数とに基づいて前記ガイラインの張力を算出する張力演算部と、前記張力演算部によって算出された前記ガイラインの張力に基づいて前記クレーンの吊り荷重を算出する荷重演算部とを備えている。
【0020】
このクレーンの吊り荷重導出装置では、例えば所定のタイミングで指示装置に前記指示信号を発信させ、起伏用ウィンチにブームの所定の起立動作及び倒伏動作を行わせれば、記憶部に記憶されている張力特定係数がその時点での各起伏シーブの平均シーブ効率が反映された値に更新されるため、張力演算部がその最新の平均シーブ効率が反映された張力特定係数を用いてガイラインの張力を算出することができるとともに、荷重演算部がその張力演算部によって算出されたガイラインの張力を用いてクレーンの吊り荷重を算出することができる。その結果、起伏シーブ及び起伏ロープの温度変化や経年劣化があった場合でも、良好な精度で吊り荷重を求めることができる。
【0021】
この場合において、前記記憶部は、前記張力特定係数として、前記起伏部材の起立動作時の前記起伏ロープの張力と前記ガイラインの張力との相関関係を特定する張力特定係数である起立用係数と、前記起伏部材の倒伏動作時の前記起伏ロープの張力と前記ガイラインの張力との相関関係を特定する張力特定係数である倒伏用係数とを記憶し、前記係数演算部は、前記新たな張力特定係数として、前記シーブ効率演算部によって算出された前記平均シーブ効率と前記シーブ掛数とに基づいて新たな起立用係数及び倒伏用係数を算出し、前記更新部は、前記記憶部に記憶された起立用係数を前記係数演算部によって算出された前記新たな起立用係数に更新するとともに、前記記憶部に記憶された倒伏用係数を前記係数演算部によって算出された前記新たな倒伏用係数に更新し、前記張力演算部は、前記起伏部材の起立動作時には前記起伏ロープ張力検出器によって検出される前記起伏ロープの張力と前記記憶部に記憶された最新の起立用係数とに基づいて前記ガイラインの張力を算出し、前記起伏部材の倒伏動作時には前記起伏ロープ張力検出器によって検出される前記起伏ロープの張力と前記記憶部に記憶された最新の倒伏用係数とに基づいて前記ガイラインの張力を算出することが好ましい。
【0022】
この構成によれば、起伏部材の起立動作時と倒伏動作時にそれぞれに応じた張力特定係数でかつ起伏シーブ及び起伏ロープの温度変化や経年劣化に起因するシーブ効率の変化が加味された張力特定係数を用いてガイラインの張力が算出されるため、起伏シーブ及び起伏ロープの温度変化や経年劣化があった場合に起伏部材の起立動作時と倒伏動作時のそれぞれにおいて正確な吊り荷重を求めることができる。
【0023】
さらにこの場合において、前記係数演算部は、前記平均シーブ効率をε2AVEとし、前記シーブ掛数をN2とし、前記新たな起立用係数をK2UPとし、前記新たな倒伏用係数をK2DNとした場合に、K2UP=ε2AVE(1−ε2AVEN2)/(1−ε2AVE)という数式に基づいて前記新たな起立用係数K2UPを算出するとともにK2DN=ε2AVE−N2(ε2AVEN2−1)/(ε2AVE−1)という数式に基づいて前記新たな倒伏用係数K2DNを算出することが好ましい。
【0024】
この構成によれば、シーブ効率演算部によって算出された平均シーブ効率とシーブ掛数とに基づいて新たな起立用係数及び倒伏用係数を算出する係数演算部を具体的に構成することができる。
【0025】
上記シーブ掛数と、起伏部材の起伏動作中の起伏ロープの張力と、起伏部材の倒伏動作中の起伏ロープの張力とに基づいて平均シーブ効率を算出するシーブ効率演算部を含む構成において、前記シーブ効率演算部は、前記平均シーブ効率をε2AVEとし、前記シーブ掛数をN2とし、前記指示装置から前記指示信号が発信された状態で前記起伏用ウィンチが前記起伏部材を起立させる際に前記起伏ロープ張力検出器が検出する前記起伏ロープの張力をF2UPとし、前記指示装置から前記指示信号が発信された状態で前記起伏用ウィンチが前記起伏部材を倒伏させる際に前記起伏ロープ張力検出器が検出する前記起伏ロープの張力をF2DNとした場合にε2AVE=(F2DN/F2UP1/(N2+1)という数式に基づいて平均シーブ効率ε2AVEを算出することが好ましい。
【0026】
この構成によれば、シーブ掛数と、指示装置から指示信号が発信された状態で起伏用ウィンチが起伏部材を起立させる際に起伏ロープ張力検出器が検出する起伏ロープの張力と、指示装置から指示信号が発信された状態で起伏用ウィンチが起伏部材を倒伏させる際に起伏ロープ張力検出器が検出する起伏ロープの張力とに基づいて平均シーブ効率を算出するシーブ効率演算部を具体的に構成することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明によれば、正確な吊り荷重を求めることが可能なクレーンの吊り荷重導出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】吊り荷重導出装置が設けられるクレーンの右側面図である。
【図2】クレーンのトップシーブとフックシーブとに吊りロープが掛け回された状態を模式的に示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態による吊り荷重導出装置の機能ブロック図である。
【図4】各種シーブ掛数N毎の平均シーブ効率εAVEと吊り荷重特定係数Kとの相関関係を示す図である。
【図5】クレーンの上部シーブと下部シーブとに起伏ロープが掛け回された状態を模式的に示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態による吊り荷重導出装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0030】
(第1実施形態)
まず、図1〜図3を参照して、本発明の第1実施形態による吊り荷重導出装置2が設けられるクレーンの構成について説明する。
【0031】
吊り荷重導出装置2は、例えば図1に示すようなクローラクレーンに設けられている。このクローラクレーンは、下部走行体102と、上部旋回体104と、ブーム106と、複数のトップシーブ108と、フック装置110と、複数のフックシーブ112と、吊りロープ114と、吊荷用ウィンチ116と、吊りロープ張力検出器117と、ガイライン118と、上部スプレッダ120と、下部スプレッダ122と、ガントリ124と、起伏ロープ126と、起伏用ウィンチ128と、図略の過負荷防止装置とを備えている。
【0032】
下部走行体102は、クローラ式の走行体である。上部旋回体104は、下部走行体102の上に縦軸回りに旋回可能に搭載されている。なお、上部旋回体104は、本発明のクレーン本体の概念に含まれるものである。
【0033】
ブーム106は、上部旋回体104に起伏自在に設けられている。このブーム106は、本発明の起伏部材の概念に含まれるものである。このブーム106の先端部から吊りロープ114を介してフック装置110が吊り下げられる。ブーム106の先端部には、複数のトップシーブ108が設けられている。このトップシーブ108は、本発明の第1吊りシーブの概念に含まれるものである。各トップシーブ108は、同軸に配設されており、ブーム106の先端部に設けられた水平方向に延びる軸106a(図2参照)によって回転自在に支持されている。
【0034】
フック装置110は、ブーム106の先端部の下方で吊荷を支持するものである。なお、フック装置110としては、主巻フック装置111aと補巻フック装置111bとがクレーンに設けられているが、以降の説明では、主巻フック装置111aをフック装置110として吊り荷重の導出に関する説明を行う。ただし、補巻フック装置11bについても同様の内容が適用される。
【0035】
フック装置110は、フック装置本体110aと、そのフック装置本体110aの下部に設けられて吊荷を吊り下げるフック部110bとを有する。
【0036】
複数のフックシーブ112は、フック装置110に設けられている。これらのフックシーブ112は、同軸に配設されており、フック装置110に設けられた水平方向に延びる軸110c(図2参照)によって回転自在に支持されている。このフックシーブ112は、本発明の第2吊りシーブの概念に含まれるものである。フックシーブ112は、トップシーブ108の下方に離間して配置されており、このフックシーブ112とトップシーブ108とにワイヤロープからなる吊りロープ114が掛け回されている。吊りロープ114の一端は、ブーム106の先端部に固定されており、吊りロープ114の他端は、吊荷用ウィンチ116に接続されている。
【0037】
吊荷用ウィンチ116は、上部旋回体104に搭載されており、吊りロープ114を巻き取ることによりフックシーブ112とともにフック装置110を巻き上げる一方、吊りロープ114を繰り出すことによりフックシーブ112とともにフック装置110を巻き下げる。
【0038】
吊りロープ張力検出器117(図2参照)は、吊りロープ114の張力を検出するものであり、本発明の張力検出器の概念に含まれる。吊りロープ張力検出器117は、ブーム106の先端部に取り付けられており、吊りロープ114のうち吊荷用ウィンチ116と反対側の端部がこの吊りロープ張力検出器117を介してブーム106の先端部に接続されている。
【0039】
ガイライン118は、ブーム106の先端部と上部スプレッダ120とを接続している。上部スプレッダ120は、図略の複数の上部シーブを有している。
【0040】
ガントリ124は、上部旋回体104の後部に立設されている。下部スプレッダ122は、このガントリ124の上部に設けられている。上部スプレッダ120は、下部スプレッダ122とブーム106の先端部との間に配置されており、下部スプレッダ122から前方に離間して配置されている。下部スプレッダ122は、図略の複数の下部シーブを有している。起伏ロープ126は、上部スプレッダ120の上部シーブと下部スプレッダ122の下部シーブとに掛け回されている。
【0041】
起伏用ウィンチ128は、上部旋回体104に搭載されている。この起伏用ウィンチ128は、起伏ロープ126を巻き取ることにより、上部スプレッダ120と下部スプレッダ122との間の間隔を縮小させてガイライン118を介してブーム106の先端を後方へ引っ張り、ブーム106を起立させる一方、起伏ロープ126を繰り出すことにより、上部スプレッダ120と下部スプレッダ122との間の間隔を拡大させてガイライン118を緩め、ブーム106を倒伏させる。
【0042】
図略の過負荷防止装置は、ブーム106に過大な負荷が掛かることによるクレーン100の転倒や破損を防止するためのものである。本実施形態の吊り荷重導出装置2は、この過負荷防止装置を構成するものである。過負荷防止装置は、吊り荷重導出装置2によって導出された吊り荷重が定格荷重に達した場合に吊荷用ウィンチ116及び起伏用ウィンチ128の駆動を停止させる。
【0043】
次に、この第1実施形態による吊り荷重導出装置2の構成について説明する。
【0044】
当該第1実施形態による吊り荷重導出装置2は、上記のようなクレーンの吊り荷重を導出する。この吊り荷重導出装置2は、図3に示すように、記憶部4と、入力装置5と、指示装置6と、シーブ効率演算部10と、係数演算部12と、更新部14と、荷重演算部16とを備えている。
【0045】
記憶部4は、吊りロープ114の張力と吊り荷重との相関関係を特定する吊り荷重特定係数を記憶する。具体的には、記憶部4は、吊り荷重特定係数として、フック装置110の巻き上げ時における吊りロープ114の張力と吊り荷重との相関関係を特定する吊り荷重特定係数である巻上げ用係数と、フック装置110の巻き下げ時における吊りロープ114の張力と吊り荷重との相関関係を特定する吊り荷重特定係数である巻下げ用係数とを記憶する。
【0046】
また、この記憶部4は、吊りロープ114が掛け回されたシーブ108,112の数、すなわち吊りロープ114が掛けられたトップシーブ108及びフックシーブ112の合計の数であるシーブ掛数を記憶する。また、記憶部4は、吊りロープ張力検出器117によって検出される吊りロープ114の張力の値を記憶する。
【0047】
入力装置5は、オペレータ等がシーブ掛数等の各種データを入力するためのものである。この入力装置5によって入力された各種データは、記憶部4に記憶される。
【0048】
指示装置6は、記憶部4に記憶された吊り荷重特定係数の更新を指示するための指示信号を発信する。具体的には、この指示装置6は、更新モード選択位置と通常モード選択位置とに切り換え可能な図略のモード選択スイッチを有している。記憶部4に記憶された吊り荷重特定係数を更新する時には、オペレータがこのモード選択スイッチを更新モード選択位置側に切り換え、それによって指示装置6から指示信号が発信される。一方、吊り荷重特定係数の更新を行わない通常の吊り作業時には、モード選択スイッチを通常モード選択位置とする。この場合には、指示装置6から前記指示信号は発信されない。
【0049】
シーブ効率演算部10は、指示装置6から指示信号が発信された場合に、記憶部4に記憶されているシーブ掛数と、吊荷用ウィンチ116によるフック装置110の巻き上げ動作中に吊りロープ張力検出器117によって検出される吊りロープ114の張力と、吊荷用ウィンチ116によるフック装置110の巻き下げ動作中に吊りロープ張力検出器117によって検出される吊りロープ114の張力とに基づいて前記各シーブ108,112の平均のシーブ効率である平均シーブ効率を算出する。各シーブ108,112のシーブ効率は、フック装置110の巻き上げ時において、シーブ108,112と軸106a,110cとの間で作用する滑り摩擦力と吊りロープ114をシーブ108,112に沿って曲げる際の曲げ抵抗力とが合算された回転抵抗力が付与されるシーブ108,112の回転させやすさを表す値である。具体的には、1つのシーブのシーブ効率は、そのシーブを動滑車としてそのシーブに掛かる荷重に抗しながら当該シーブに掛けられた吊りロープでそのシーブを引き上げる場合に要する当該吊りロープの張力(引張り力)とそのシーブに掛かる荷重との比で表される。このシーブ効率が低い程、フック装置110の巻き上げ時におけるシーブ108,112の回転抵抗力が大きくなってシーブ108,112が回転しにくくなり、それに伴って、フック装置110の巻き上げに要する吊りロープ114の引張り力が増大する。
【0050】
なお、シーブ108,112の回転抵抗力は、フック装置110の巻き上げ時と巻き下げ時とで異なる作用を及ぼす。具体的には、図2を参照して、吊荷用ウィンチ116がフック装置110を巻き上げる際には、シーブ108,112の回転抵抗力は、吊り荷重Wを増大させる力として作用する。このため、フック装置110を巻き上げる際の吊り荷重Wは、吊荷、フック装置110及びフックシーブ112の荷重にシーブ108,112の回転抵抗力を加えた荷重となる。従って、フック装置110の巻き上げ時には、吊荷用ウィンチ116は、吊荷、フック装置110及びフックシーブ112の荷重に対応する引張り力よりも大きな引張り力(張力)Fを吊りロープ114に加える必要がある。一方、吊荷用ウィンチ116が吊荷、フック装置110及びフックシーブ112を巻き下げる際には、シーブ108,112の回転抵抗力は、前記巻き上げの場合とは逆に吊り荷重Wを減少させる力として作用する。このため、フック装置110を巻き下げる際の吊り荷重Wは、吊荷、フック装置110及びフックシーブ112の荷重からシーブ108,112の回転抵抗力を減じた荷重となる。従って、フック装置110の巻き下げ時には、吊荷用ウィンチ116は、吊荷、フック装置110及びフックシーブ112の荷重に相当する引張り力よりも小さい引張り力(張力)Fで吊りロープ114を支えながらフック装置110を巻き下げることができる。
【0051】
そして、シーブ効率演算部10は、フック装置110の巻き上げ時におけるシーブ108,112の平均シーブ効率をε1AVEとし、シーブ掛数をN1とし、指示装置6から指示信号が発信された状態で吊荷用ウィンチ116がフック装置110を巻き上げる際に吊りロープ張力検出器117が検出する吊りロープ114の張力をF1UPとし、指示装置6から指示信号が発信された状態で吊荷用ウィンチ116がフック装置110を巻き下げる際に吊りロープ張力検出器117が検出する吊りロープ114の張力をF1DNとした場合に、次の数式(1)に基づいて平均シーブ効率ε1AVEを算出する。
【0052】
ε1AVE=(F1DN/F1UP1/(N1+1)・・・(1)
なお、この数式(1)は、以下のようにして導出される。
【0053】
フック装置110の巻き上げ時には、吊り荷重Wは、下記の数式(2)で表される。
【0054】
W={ε1AVE(1−ε1AVEN1)/(1−ε1AVE)}F1UP・・・(2)
また、フック装置110の巻き下げ時には、シーブ108,112に対する力の入出力の対称性から平均シーブ効率は1/ε1AVEで表される。このため、フック装置110の巻き下げ時における吊り荷重Wは、上記数式(2)中の平均シーブ効率ε1AVEを1/ε1AVEに置き換えて式変形することにより、次の数式(3)で表される。
【0055】
W={ε1AVE−N1(ε1AVEN1−1)/(ε1AVE−1)}F1DN・・・(3)
そして、これらの数式(2),(3)からWの項を消去して平均シーブ効率ε1AVEを求める式として式変形することにより、上記数式(1)が導出される。
【0056】
係数演算部12は、シーブ効率演算部10によって算出された平均シーブ効率と記憶部4に記憶されたシーブ掛数とに基づいて新たな吊り荷重特定係数を算出する。
【0057】
具体的には、係数演算部12は、新たな吊り荷重特定係数として、新たな巻上げ用係数と新たな巻下げ用係数とを算出する。この際、係数演算部12は、新たな巻上げ用係数をK1UPとし、新たな巻下げ用係数をK1DNとした場合に、以下の数式(4)に基づいて新たな巻上げ用係数K1UPを算出するとともに、以下の数式(5)に基づいて新たな巻下げ用係数K1DNを算出する。
【0058】
K1UP=ε1AVE(1−ε1AVEN1)/(1−ε1AVE)・・・(4)
K1DN=ε1AVE−N1(ε1AVEN1−1)/(ε1AVE−1)・・・(5)
更新部14は、記憶部4に記憶された吊り荷重特定係数を係数演算部12によって算出された新たな吊り荷重特定係数に更新する。具体的には、更新部14は、記憶部4に記憶された巻上げ用係数を係数演算部12によって算出された新たな巻上げ用係数に更新するとともに、記憶部4に記憶された巻下げ用係数を係数演算部12によって算出された新たな巻下げ用係数に更新する。
【0059】
荷重演算部16は、吊りロープ張力検出器117によって検出された吊りロープ114の張力と記憶部4に記憶された最新の吊り荷重特定係数とに基づいて、フック装置110に支持される吊荷の荷重、フック装置110自体の荷重、全てのフックシーブ112の荷重及びシーブ108,112の回転抵抗力が合算された荷重である吊り荷重を算出する。
【0060】
具体的には、荷重演算部16は、フック装置110の巻き上げ時には吊りロープ張力検出器117によって検出される吊りロープ114の張力と記憶部4に記憶された最新の巻上げ用係数とに基づいて吊り荷重を算出し、フック装置110の巻き下げ時には吊りロープ張力検出器117によって検出される吊りロープ114の張力と記憶部4に記憶された最新の巻下げ用係数とに基づいて吊り荷重を算出する。詳細には、荷重演算部16は、フック装置110の巻き上げ時には吊りロープ張力検出器117によって検出される吊りロープ114の張力に記憶部4に記憶された最新の巻上げ用係数を乗じることによって吊り荷重を算出し、フック装置110の巻き下げ時には吊りロープ張力検出器117によって検出される吊りロープ114の張力に記憶部4に記憶された最新の巻下げ用係数を乗じることによって吊り荷重を算出する。
【0061】
次に、この第1実施形態における記憶部4に記憶された吊り荷重特定係数の更新プロセス及び吊り荷重導出装置2による吊り荷重の導出プロセスについて説明する。
【0062】
まず、シーブ108,112及び吊りロープ114の温度変化や経年劣化等に起因して吊り荷重導出装置2による吊り荷重の導出精度が低下した所定のタイミングにおいて、オペレータが指示装置6の前記図略のモード選択スイッチを更新モード選択位置側に切り換える。その後、記憶部4に記憶されている吊り荷重特定係数(巻上げ用係数及び巻下げ用係数)を更新するための以下の一連のプロセスが行われる。
【0063】
具体的には、前記モード選択スイッチが更新モード選択位置側に切り換えられると、指示装置6は指示信号を発信する。その後、オペレータが吊荷用ウィンチ116を操作して当該吊荷用ウィンチ116に吊り荷重特定係数の更新のためのフック装置110の巻き上げ動作と巻き下げ動作を行わせる。この際、吊荷用ウィンチ116による特定の長さ分の吊りロープ114の巻き取りが行われ、フックシーブ112とともにフック装置110が特定の距離だけ巻き上げられる一方、吊荷用ウィンチ116による特定の長さ分の吊りロープ114の繰り出しが行われ、フックシーブ112とともにフック装置110が特定の距離だけ巻き下げられる。
【0064】
吊りロープ張力検出器117は、クレーンの稼働中において吊りロープ114の張力を常時検出しており、この吊り荷重特定係数の更新プロセスにおけるフック装置110の巻き上げ動作中及び巻き下げ動作中も吊りロープ114の張力を検出している。そして、吊りロープ張力検出器117は、その検出した吊りロープ114の張力のデータを記憶部4に記憶させる。
【0065】
そして、この後、シーブ効率演算部10は、記憶部4に記憶されている前記フック装置110の巻き上げ動作中の吊りロープ114の検出張力、前記フック装置110の巻き下げ動作中の吊りロープ114の検出張力及びシーブ掛数を用いて上記数式(1)により各シーブ108,112の平均シーブ効率を算出する。
【0066】
その後、係数演算部12が、シーブ効率演算部10によって算出された平均シーブ効率と記憶部4に記憶されているシーブ掛数とを用いて、上記数式(4)により新たな巻上げ用係数を算出するとともに上記数式(5)により新たな巻下げ用係数を算出する。
【0067】
この後、更新部14が、記憶部4に記憶されている巻上げ用係数及び巻下げ用係数を係数演算部12によって算出された新たな巻上げ用係数及び巻下げ用係数に更新する。その後、オペレータが、モード選択スイッチを通常モード選択位置側に切り換える。
【0068】
そして、荷重演算部16は、クレーンにおける通常の吊り作業において、吊荷用ウィンチ116によりフック装置110の巻き上げが行われている時には、吊りロープ張力検出器117が検出する吊りロープ114の張力に記憶部4に記憶されている最新の巻上げ用係数を乗じることによって吊り荷重を算出し、吊荷用ウィンチ116によりフック装置110の巻き下げが行われている時には、吊りロープ張力検出器117が検出する吊りロープ114の張力に記憶部4に記憶されている最新の巻下げ用係数を乗じることによって吊り荷重を算出する。これにより、クレーンの通常の吊り作業において、フック装置110の巻き上げ時には、常に最新の巻上げ用係数に応じた吊り荷重が算出されるとともに、フック装置110の巻き下げ時には、常に最新の巻下げ用係数に応じた吊り荷重が算出される。
【0069】
以上のようにして、吊り荷重特定係数(巻上げ用係数及び巻下げ用係数)の更新と、その更新された吊り荷重特定係数に基づく吊り荷重の算出が行われる。
【0070】
以上説明したように、第1実施形態では、シーブ108,112及び吊りロープ114の温度変化や経年劣化等に起因して吊り荷重導出装置2による吊り荷重の導出精度が低下した所定のタイミングで、オペレータがモード選択スイッチを更新モード選択位置側に切り換えて指示装置6に指示信号を発信させ、所定の巻き上げ操作及び巻き下げ操作を行うことにより、記憶部4に記憶されている吊り荷重特定係数がその時点での各シーブ108,112の平均シーブ効率が反映された値に更新されるため、荷重演算部16がその最新の平均シーブ効率が反映された吊り荷重特定係数を用いてクレーンの吊り荷重を算出することができる。その結果、シーブ108,112及び吊りロープ114の温度変化や経年劣化があった場合でも、それらの影響による吊り荷重の算出誤差を低減することができ、良好な精度で吊り荷重を求めることができる。
【0071】
なお、図4に示されているように、シーブ掛数N1が増加するにつれて、平均シーブ効率ε1AVEの変化に対する吊り荷重特定係数K1の変化の割合が大きくなるため、シーブ掛数の多いクレーンでは、平均シーブ効率に僅かな誤差が生じただけで吊り荷重特定係数に大幅な誤差が生じ、その結果、吊り荷重の算出誤差が著しく増大してしまう。これに対して、本実施形態では、現時点のシーブ108,112及び吊りロープ114の状態に最も近い状態が反映された最新の平均シーブ効率に基づいて吊り荷重特定係数が算出されるため、シーブ掛数の多いクレーンにおいても、シーブ108,112及び吊りロープ114の温度変化や経年劣化等に起因する吊り荷重特定係数の誤差の増大を可能な限り抑制することができ、このシーブ掛数の多いクレーンで生じやすい吊り荷重の算出誤差の増大を有効に抑制することができる。
【0072】
また、第1実施形態では、記憶部4に記憶された巻上げ用係数及び巻下げ用係数が最新の平均シーブ効率に基づいて算出された巻上げ用係数及び巻下げ用係数に更新され、フック装置110の巻き上げ時にはその更新された最新の巻上げ用係数に基づいて吊り荷重が算出されるとともにフック装置110の巻き下げ時にはその更新された最新の巻下げ用係数に基づいて吊り荷重が算出される。このため、本実施形態では、フック装置110の巻き上げ時と巻き下げ時にそれぞれに応じた吊り荷重特定係数でかつシーブ108,112及び吊りロープ114の温度変化や経年劣化に起因するシーブ効率の変化が加味された吊り荷重特定係数を用いて吊り荷重が算出される。そのため、シーブ108,112及び吊りロープ114の温度変化や経年劣化があったとしても、フック装置110の巻き上げ時と巻き下げ時のそれぞれにおいて正確な吊り荷重が求められる。
【0073】
(第2実施形態)
次に、図5及び図6を参照して、本発明の第2実施形態による吊り荷重導出装置22の構成について説明する。
【0074】
この第2実施形態による吊り荷重導出装置22は、上記第1実施形態による吊り荷重導出装置2が設けられたクレーン(図1参照)と同様のクレーンに設けられるものであり、起伏ロープ126の張力からガイライン118の張力を求め、その求めたガイライン118の張力を用いて吊り荷重を導出する。そして、この第2実施形態による吊り荷重導出装置22は、その記憶部24に記憶された後述する張力特定係数を更新できるように構成されている。
【0075】
具体的には、この第2実施形態の吊り荷重導出装置22は、ガントリ124の上部に設けられた起伏ロープ張力検出器137によって検出される起伏ロープ126の張力の検出値からガイライン118の張力を求める。起伏ロープ126のうち起伏用ウィンチ128と反対側の端部は、この起伏ロープ張力検出器137を介してガントリ124の上部に接続されている。
【0076】
また、ブーム106には、そのブーム106の起伏角度を検出するための角度検出器140(図6参照)が設けられており、この角度検出器140によって検出されたブーム106の起伏角度が記憶部24に記憶される。
【0077】
そして、吊り荷重導出装置22は、図6に示すように、記憶部24と、入力装置25と、指示装置26と、シーブ効率演算部30と、係数演算部32と、更新部34と、張力演算部35と、荷重演算部36とを備えている。
【0078】
記憶部24は、起伏ロープ126の張力とガイライン118の張力との相関関係を特定する張力特定係数を記憶する。具体的には、記憶部4は、張力特定係数として、ブーム106の起立動作時の起伏ロープ126の張力とガイライン118の張力との相関関係を特定する張力特定係数である起立用係数と、ブーム106の倒伏動作時の起伏ロープ126の張力とガイラインの張力との相関関係を特定する張力特定係数である倒伏用係数とを記憶する。
【0079】
また、記憶部24は、後述するように入力装置25によって入力される各種データを記憶する。その入力装置25によって入力されるデータのうち起伏ロープ126が掛け回されたシーブ121,123の数であるシーブ掛数としては、上部スプレッダ120が有する上部シーブ121と下部スプレッダ122が有する下部シーブ123とのうち起伏ロープ126が掛け回された合計の数が入力され、その数が記憶部24に記憶される。なお、上部シーブ121は、本発明の第2起伏シーブの概念に含まれ、下部シーブ123は、本発明の第1起伏シーブの概念に含まれる。また、記憶部24は、起伏ロープ張力検出器137によって検出される起伏ロープ126の張力の値及び角度検出器140によって検出されるブーム106の起伏角度を記憶する。また、記憶部24は、ブーム106の自重によってガイライン118に生じる張力F0と荷重係数DTとがブーム106の所定の起伏角度毎に規定されたデータマップを記憶している。このデータマップは、クレーンの種別、ブーム106の長さ及び自重、吊り作業に用いられるフック装置の種別(主巻フック装置又は補巻フック装置)毎に作成されており、その全てのデータマップが記憶部24に記憶されている。
【0080】
入力装置25は、起伏ロープ126についてのシーブ掛数、クレーンの種別、ブーム106の長さ及び自重、吊り作業に用いるフック装置の種別等を入力するために用いられる。入力装置25により入力されたこれらの各種データは、記憶部24に記憶される。
【0081】
指示装置26は、記憶部24に記憶された張力特定係数の更新を指示するための指示信号を発信する。この指示装置26の構成は、上記第1実施形態の指示装置6の構成と同様である。
【0082】
シーブ効率演算部30は、指示装置26から指示信号が発信された場合に、記憶部24に記憶されている起伏ロープ126についてのシーブ掛数と、起伏用ウィンチ128によるブーム106の起立動作中に起伏ロープ張力検出器137により検出される起伏ロープ126の張力と、起伏用ウィンチ128によるブーム106の倒伏動作中に起伏ロープ張力検出器137により検出される起伏ロープ126の張力とに基づいて各上部シーブ121及び各下部シーブ123の平均のシーブ効率である平均シーブ効率を算出する。このシーブ効率演算部30は、上記第1実施形態によるシーブ効率演算部10が平均シーブ効率を算出する算出方法においてフックシーブ112を上部シーブ121に置き換えるとともにトップシーブ108を下部シーブ123に置き換えた算出方法で平均シーブ効率を算出する。
【0083】
具体的には、このシーブ効率演算部30は、ブーム106の起立動作時における上部シーブ121及び下部シーブ123の平均シーブ効率をε2AVEとし、起伏ロープ126についてのシーブ掛数をN2とし、指示装置26から指示信号が発信された状態で起伏用ウィンチ128がブーム106を起立させる際に起伏ロープ張力検出器137が検出する起伏ロープ126の張力をF2UPとし、指示装置26から指示信号が発信された状態で起伏用ウィンチ128がブーム106を倒伏させる際に起伏ロープ張力検出器137が検出する起伏ロープ126の張力F2DNとした場合に、次の数式(6)に基づいて平均シーブ効率ε2AVEを算出する。
【0084】
ε2AVE=(F2DN/F2UP1/(N2+1)・・・(6)
係数演算部32は、シーブ効率演算部30によって算出された平均シーブ効率ε2AVEと記憶部24に記憶された起伏ロープ126についてのシーブ掛数N2とに基づいて新たな張力特定係数を算出する。
【0085】
具体的には、係数演算部32は、新たな張力特定係数として、新たな起立用係数及び新たな倒伏用係数を算出する。この際、係数演算部32は、新たな起立用係数をK2UPとし、新たな倒伏用係数をK2DNとした場合に、次の数式(7)に基づいて新たな起立用係数K2UPを算出するとともに、以下の数式(8)に基づいて新たな倒伏用係数K2DNを算出する。
【0086】
K2UP=ε2AVE(1−ε2AVEN2)/(1−ε2AVE)・・・(7)
K2DN=ε2AVE−N2(ε2AVEN2−1)/(ε2AVE−1)・・・(8)
更新部34は、記憶部24に記憶された起立用係数を係数演算部32によって算出された新たな起立用係数に更新するとともに、記憶部24に記憶された倒伏用係数を係数演算部32によって算出された新たな倒伏用係数に更新する。
【0087】
張力演算部35は、ブーム106の起立動作時には起伏ロープ張力検出器137によって検出される起伏ロープ126の張力と記憶部24に記憶された最新の起立用係数とに基づいてガイライン118の張力を算出し、ブーム106の倒伏動作時には起伏ロープ張力検出器137によって検出される起伏ロープ126の張力と記憶部24に記憶された最新の倒伏用係数とに基づいてガイライン118の張力を検出する。具体的には、張力演算部35は、ブーム106の起立動作時には起伏ロープ張力検出器137によって検出される起伏ロープ126の張力に記憶部24に記憶された最新の起立用係数を乗じることによってガイライン118の張力を算出し、ブーム106の倒伏動作時には起伏ロープ張力検出器137によって検出される起伏ロープ126の張力に記憶部24に記憶された最新の倒伏用係数を乗じることによってガイライン118の張力を算出する。
【0088】
荷重演算部36は、張力演算部35によって算出されたガイライン118の張力Fを用いてクレーンの吊り荷重を算出する。具体的には、荷重演算部36は、記憶部24に記憶された前記多数のデータマップの中から入力装置25により入力されたクレーンの種別と、ブーム106の長さ及び自重と、吊り作業に用いるフック装置の種別(主巻フック装置又は補巻フック装置)とに基づいて該当するデータマップを選択するとともに、その選択されたデータマップの中から角度検出器140によって検出されたブーム106の起伏角度に応じた前記張力F0と前記荷重係数DTとを選択し、その選択した張力F0及び荷重係数DTと、張力演算部35によって算出されたガイライン118の張力Fとを用いて次式(9)によりクレーンの吊り荷重Wを算出する。
【0089】
W=(F−F0)/DT・・・(9)
なお、この第2実施形態における吊り荷重導出装置22には、上記第1実施形態の吊り荷重導出装置2に係る構成のうちフックシーブ112、トップシーブ108、吊りロープ114を上部シープ121、下部シーブ123、起伏ロープ126に置き換えるとともに、上記第1実施形態のフック装置110の巻き上げ及び巻き下げをブーム106の起立動作及び倒伏動作に置き換えた構成が適用される。
【0090】
次に、この第2実施形態における張力特定係数の更新プロセス及び吊り荷重導出装置22による吊り荷重の導出プロセスについて説明する。
【0091】
まず、オペレータが指示装置26の図略のモード切換スイッチを更新モード選択位置側に切り換える。これにより、指示装置26から指示信号が発信される。この後、オペレータが起伏用ウィンチ128を操作して当該起伏用ウィンチ128に張力特定係数の更新のためのブーム106の起立動作と倒伏動作を行わせる。
【0092】
そして、この張力特定係数の更新のためのブーム106の起立動作中及び倒伏動作中における起伏ロープ126の張力は、起伏ロープ張力検出器137によって検出され、その検出された起伏ロープ126の張力のデータは、記憶部24に記憶される。
【0093】
この後、シーブ効率演算部30は、上記数式(6)により平均シーブ効率を算出し、係数演算部32は、上記数式(7)により起立用係数を算出するとともに上記数式(8)により倒伏用係数を算出する。
【0094】
その後、更新部34は、記憶部24に記憶されている起立用係数及び倒伏用係数を係数演算部32によって算出された新たな起立用係数及び倒伏用係数に更新する。
【0095】
この後、オペレータが指示装置26の図略のモード切換スイッチを通常モード選択位置側に切り換える。これにより、張力特定係数の更新プロセスが終了する。
【0096】
その後、クレーンにおける通常の吊り作業が行われ、その際、ブーム106の起立動作が行われている場合には、張力演算部35は、起伏ロープ張力検出器137が検出する起伏ロープ126の張力に記憶部24に記憶されている最新の起立用係数を乗じることによってガイライン118の張力を算出し、ブーム106の倒伏動作が行われている時には、張力演算部35は、起伏ロープ張力検出器126が検出する起伏ロープ126の張力に記憶部24に記憶されている最新の倒伏用係数を乗じることによってガイライン118の張力を検出する。
【0097】
その後、荷重演算部36は、記憶部24に記憶されている多数のデータマップから吊り荷重の演算に用いるデータマップを選択するとともに、その選択したデータマップから吊り荷重の演算に用いる、ブーム106の自重に起因するガイライン118の張力F0と荷重係数DTとを選択し、その選択した張力F0及び荷重係数DTと張力演算部35によって算出されたガイライン118の張力とを用いて上記数式(9)により吊り荷重を算出する。
【0098】
以上のようにして、張力特定係数(起立用係数及び倒伏用係数)の更新と、その更新された張力特定係数に基づく吊り荷重の算出が行われる。
【0099】
以上説明したように、この第2実施形態では、上部シーブ121及び下部シーブ123や起伏ロープ126の温度変化又は経年劣化等に起因して吊り荷重導出装置22による吊り荷重の導出精度が低下した所定のタイミングで、オペレータがモード選択スイッチを更新モード選択位置側に切り換えて指示装置26に指示信号を発信させ、ブームの所定の起立操作及び倒伏操作を行うことにより、記憶部24に記憶されている張力特定係数がその時点での各上部シーブ121及び各下部シーブ123の平均シーブ効率が反映された値に更新されるため、張力演算部35がその最新の平均シーブ効率が反映された張力特定係数を用いてガイライン118の張力を算出することができるとともに、荷重演算部36がその張力演算部35によって算出されたガイライン118の張力を用いてクレーンの吊り荷重を算出することができる。その結果、上部シーブ121、下部シーブ123及び起伏ロープ126の温度変化や経年劣化があった場合でも、良好な精度で吊り荷重を求めることができる。
【0100】
また、この第2実施形態では、記憶部24に記憶された起立用係数及び倒伏用係数が上部シーブ121及び下部シーブ123の最新の平均シーブ効率に基づいて算出された起立用係数及び倒伏用係数に更新され、ブーム106の起立動作時にはその更新された最新の起立用係数に基づいてガイライン118の張力が算出されるとともに吊り荷重が算出され、ブーム106の倒伏動作時にはその更新された最新の倒伏用係数に基づいてガイライン118の張力が算出されるとともに吊り荷重が算出される。このため、この第2実施形態では、ブーム106の起立動作時と倒伏動作時にそれぞれに応じた張力特定係数でかつ上部シーブ121、下部シーブ123及び起伏ロープ126の温度変化や経年劣化に起因するシーブ効率の変化が加味された張力特定係数を用いてガイライン118の張力が算出される。そのため、上部シーブ121、下部シーブ123及び起伏ロープ126の温度変化や経年劣化があったとしても、ブーム106の起立動作時と倒伏動作時のそれぞれにおいて正確な吊り荷重を求めることができる。
【0101】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0102】
具体的には、本発明による吊り荷重導出装置は、過負荷防止装置に与える吊り荷重のデータを導出するためのものでなくてもよい。例えば、本発明の吊り荷重導出装置は、クレーンの吊り作業中に吊り荷重の値を表示する表示装置に吊り荷重のデータを与えるためや、その他の用途に用いられてもよい。
【0103】
また、本発明の吊り荷重導出装置は、上記実施形態で示したクレーン以外の各種クレーンにも適用可能である。
【0104】
例えば、ラフィングクレーン等に本発明の吊り荷重導出装置を適用してもよい。この場合には、起伏部材がブームとその先端に接続されたジブとを有し、吊り荷重導出装置は、その起伏部材の先端に相当するジブの先端にかかる吊り荷重を導出する。
【0105】
また、吊りロープ張力検出器は、上記第1実施形態で説明した構成のものに限定されない。例えば、吊りロープ張力検出器は、ブームの先端部にその長手方向に並ぶように3つのシーブが設けられ、それらのシーブに吊りロープが掛け渡され、遊動式の中間のシーブに掛かる荷重をロードセルによって検出する、いわゆる3点シーブ検出方式の検出装置であってもよい。また、吊りロープ張力検出器は、吊りロープが掛けられる複数のトップシーブのうちいずれかを遊動式にしてそのシーブに掛かる荷重を検出することによって吊りロープの張力を検出するようなものであってもよい。また、吊りロープ張力検出器は、吊荷用ウィンチに付設され、その吊荷用ウィンチ側で吊りロープに掛かる張力を検出するものであってもよい。
【0106】
また、起伏ロープ張力検出器は、上記第1実施形態で説明した構成のものに限定されない。例えば、起伏ロープ張力検出器は、起伏ロープが掛けられる複数の下部シーブのうちいずれかを遊動式にしてそのシーブに掛かる荷重を検出することによって起伏ロープの張力を検出するようなものであってもよい。また、起伏ロープ張力検出器は、起伏用ウィンチに付設され、その起伏用ウィンチ側で起伏ロープに掛かる張力を検出するものであってもよい。
【0107】
また、上記第1実施形態において、指示装置から指示信号が発信された後に行われる吊り荷重特定係数の更新のためのフック装置の巻き上げ動作及び巻き下げ動作は、吊荷用ウィンチによって自動的に行われてもよい。
【0108】
また、上記第2実施形態において、指示装置から指示信号が発信された後に行われる張力特定係数を更新するためのブームの起立動作及び倒伏動作は、起伏用ウィンチによって自動的に行われてもよい。
【符号の説明】
【0109】
2、22 吊り荷重導出装置
4、24 記憶部
6、26 指示装置
10、30 シーブ効率演算部
12、32 係数演算部
14、34 更新部
16、36 荷重演算部
35 張力演算部
104 上部旋回体(クレーン本体)
106 ブーム(起伏部材)
108 トップシーブ(第1吊りシーブ)
110 フック装置
112 フックシーブ(第2吊りシーブ)
114 吊りロープ
116 吊荷用ウィンチ
117 吊りロープ張力検出器(張力検出器)
118 ガイライン
120 上部スプレッダ(第2スプレッダ)
121 上部シーブ(第2起伏シーブ)
122 下部スプレッダ(第1スプレッダ)
123 下部シーブ(第1起伏シーブ)
124 ガントリ
126 起伏ロープ
128 起伏用ウィンチ
137 起伏ロープ張力検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーン本体と、そのクレーン本体に起伏自在に設けられた起伏部材と、その起伏部材の先端部の下方で吊荷を支持するフック装置と、前記起伏部材の先端部に設けられた複数の第1吊りシーブと、前記フック装置に設けられ、前記第1吊りシーブの下方に配置される複数の第2吊りシーブと、前記第1吊りシーブと前記第2吊りシーブとに掛け回される吊りロープと、前記クレーン本体に設けられ、前記吊りロープを巻き取ることにより前記第2吊りシーブとともに前記フック装置を巻き上げる一方、前記吊りロープを繰り出すことによって前記第2吊りシーブとともに前記フック装置を巻き下げる吊荷用ウィンチと、前記吊りロープの張力を検出する吊りロープ張力検出器とを備えたクレーンに設けられ、そのクレーンの吊り荷重を導出するクレーンの吊り荷重導出装置であって、
前記吊りロープの張力と前記クレーンの吊り荷重との相関関係を特定する吊り荷重特定係数を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された吊り荷重特定係数の更新を指示するための指示信号を発信する指示装置と、
前記指示装置から前記指示信号が発信された場合に、前記吊りロープが掛け回された前記吊りシーブの数であるシーブ掛数と、前記吊荷用ウィンチによる前記フック装置の巻き上げ動作中に前記吊りロープ張力検出器により検出される前記吊りロープの張力と、前記吊荷用ウィンチによる前記フック装置の巻き下げ動作中に前記吊りロープ張力検出器により検出される前記吊りロープの張力とに基づいて前記各吊りシーブの平均のシーブ効率である平均シーブ効率を算出するシーブ効率演算部と、
そのシーブ効率演算部によって算出された平均シーブ効率と前記シーブ掛数とに基づいて新たな吊り荷重特定係数を算出する係数演算部と、
前記記憶部に記憶された吊り荷重特定係数を前記係数演算部によって算出された新たな吊り荷重特定係数に更新する更新部と、
前記吊りロープ張力検出器によって検出された前記吊りロープの張力と前記記憶部に記憶された最新の吊り荷重特定係数とに基づいて前記クレーンの吊り荷重を算出する荷重演算部とを備えた、クレーンの吊り荷重導出装置。
【請求項2】
前記記憶部は、前記吊り荷重特定係数として、前記フック装置の巻き上げ時における前記吊りロープの張力と前記クレーンの吊り荷重との相関関係を特定する吊り荷重特定係数である巻上げ用係数と、前記フック装置の巻き下げ時における前記吊りロープの張力と前記クレーンの吊り荷重との相関関係を特定する吊り荷重特定係数である巻下げ用係数とを記憶し、
前記係数演算部は、前記新たな吊り荷重特定係数として、前記シーブ効率演算部によって算出された前記平均シーブ効率と前記シーブ掛数とに基づいて新たな巻上げ用係数及び巻下げ用係数を算出し、
前記更新部は、前記記憶部に記憶された巻上げ用係数を前記係数演算部によって算出された前記新たな巻上げ用係数に更新するとともに、前記記憶部に記憶された巻下げ用係数を前記係数演算部によって算出された前記新たな巻下げ用係数に更新し、
前記荷重演算部は、前記フック装置の巻き上げ時には前記吊りロープ張力検出器によって検出される前記吊りロープの張力と前記記憶部に記憶された最新の巻上げ用係数とに基づいて前記クレーンの吊り荷重を算出し、前記フック装置の巻き下げ時には前記吊りロープ張力検出器によって検出される前記吊りロープの張力と前記記憶部に記憶された最新の巻下げ用係数とに基づいて前記クレーンの吊り荷重を算出する、請求項1に記載のクレーンの吊り荷重導出装置。
【請求項3】
前記係数演算部は、前記平均シーブ効率をε1AVEとし、前記シーブ掛数をN1とし、前記新たな巻上げ用係数をK1UPとし、前記新たな巻下げ用係数をK1DNとした場合に、下記の数式1に基づいて前記新たな巻上げ用係数K1UPを算出するとともに下記の数式2に基づいて前記新たな巻下げ用係数K1DNを算出する、請求項2に記載のクレーンの吊り荷重導出装置。
【数1】

【数2】

【請求項4】
前記シーブ効率演算部は、前記平均シーブ効率をε1AVEとし、前記シーブ掛数をN1とし、前記指示装置から前記指示信号が発信された状態で前記吊荷用ウィンチが前記フック装置を巻き上げる際に前記吊りロープ張力検出器が検出する前記吊りロープの張力をF1UPとし、前記指示装置から前記指示信号が発信された状態で前記吊荷用ウィンチが前記フック装置を巻き下げる際に前記吊りロープ張力検出器が検出する前記吊りロープの張力をF1DNとした場合に下記の数式3に基づいて平均シーブ効率ε1AVEを算出する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のクレーンの吊り荷重導出装置。
【数3】

【請求項5】
クレーン本体と、そのクレーン本体に起伏自在に設けられた起伏部材と、その起伏部材の先端部に吊り下げられ、吊荷を支持するフック装置と、前記クレーン本体において前記起伏部材の後方に立設されたガントリと、そのガントリの上部に設けられ、複数の第1起伏シーブを有する第1スプレッダと、その第1スプレッダと前記起伏部材の先端部との間に配置され、複数の第2起伏シーブを有する第2スプレッダと、前記起伏部材の先端部と前記第2スプレッダとを接続するガイラインと、前記第1起伏シーブと前記第2起伏シーブとに掛け回される起伏ロープと、前記クレーン本体に設けられ、前記起伏ロープを巻き取ることにより前記第1スプレッダと前記第2スプレッダとの間の間隔を縮小させて前記起伏部材を起立させる一方、前記起伏ロープを繰り出すことにより前記第1スプレッダと前記第2スプレッダとの間の間隔を拡大させて前記起伏部材を倒伏させる起伏用ウィンチと、前記起伏ロープの張力を検出する起伏ロープ張力検出器とを備えたクレーンに設けられ、そのクレーンの吊り荷重を導出するクレーンの吊り荷重導出装置であって、
前記起伏ロープの張力と前記ガイラインの張力との相関関係を特定する張力特定係数を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された張力特定係数の更新を指示するための指示信号を発信する指示装置と、
前記指示装置から前記指示信号が発信された場合に、前記起伏ロープが掛け回された前記起伏シーブの数であるシーブ掛数と、前記起伏用ウィンチによる前記起伏部材の起立動作中に前記起伏ロープ張力検出器により検出される前記起伏ロープの張力と、前記起伏用ウィンチによる前記起伏部材の倒伏動作中に前記起伏ロープ張力検出器により検出される前記起伏ロープの張力とに基づいて前記各起伏シーブの平均のシーブ効率である平均シーブ効率を算出するシーブ効率演算部と、
そのシーブ効率演算部によって算出された平均シーブ効率と前記シーブ掛数とに基づいて新たな張力特定係数を算出する係数演算部と、
前記記憶部に記憶された張力特定係数を前記係数演算部によって算出された新たな張力特定係数に更新する更新部と、
前記起伏ロープ張力検出器によって検出される前記起伏ロープの張力と前記記憶部に記憶された最新の張力特定係数とに基づいて前記ガイラインの張力を算出する張力演算部と、
前記張力演算部によって算出された前記ガイラインの張力に基づいて前記クレーンの吊り荷重を算出する荷重演算部とを備えた、クレーンの吊り荷重導出装置。
【請求項6】
前記記憶部は、前記張力特定係数として、前記起伏部材の起立動作時の前記起伏ロープの張力と前記ガイラインの張力との相関関係を特定する張力特定係数である起立用係数と、前記起伏部材の倒伏動作時の前記起伏ロープの張力と前記ガイラインの張力との相関関係を特定する張力特定係数である倒伏用係数とを記憶し、
前記係数演算部は、前記新たな張力特定係数として、前記シーブ効率演算部によって算出された前記平均シーブ効率と前記シーブ掛数とに基づいて新たな起立用係数及び倒伏用係数を算出し、
前記更新部は、前記記憶部に記憶された起立用係数を前記係数演算部によって算出された前記新たな起立用係数に更新するとともに、前記記憶部に記憶された倒伏用係数を前記係数演算部によって算出された前記新たな倒伏用係数に更新し、
前記張力演算部は、前記起伏部材の起立動作時には前記起伏ロープ張力検出器によって検出される前記起伏ロープの張力と前記記憶部に記憶された最新の起立用係数とに基づいて前記ガイラインの張力を算出し、前記起伏部材の倒伏動作時には前記起伏ロープ張力検出器によって検出される前記起伏ロープの張力と前記記憶部に記憶された最新の倒伏用係数とに基づいて前記ガイラインの張力を算出する、請求項5に記載のクレーンの吊り荷重導出装置。
【請求項7】
前記係数演算部は、前記平均シーブ効率をε2AVEとし、前記シーブ掛数をN2とし、前記新たな起立用係数をK2UPとし、前記新たな倒伏用係数をK2DNとした場合に、下記の数式4に基づいて前記新たな起立用係数K2UPを算出するとともに下記の数式5に基づいて前記新たな倒伏用係数K2DNを算出する、請求項6に記載のクレーンの吊り荷重導出装置。
【数4】

【数5】

【請求項8】
前記シーブ効率演算部は、前記平均シーブ効率をε2AVEとし、前記シーブ掛数をN2とし、前記指示装置から前記指示信号が発信された状態で前記起伏用ウィンチが前記起伏部材を起立させる際に前記起伏ロープ張力検出器が検出する前記起伏ロープの張力をF2UPとし、前記指示装置から前記指示信号が発信された状態で前記起伏用ウィンチが前記起伏部材を倒伏させる際に前記起伏ロープ張力検出器が検出する前記起伏ロープの張力をF2DNとした場合に下記の数式6に基づいて平均シーブ効率ε2AVEを算出する、請求項5〜7のいずれか1項に記載のクレーンの吊り荷重導出装置。
【数6】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−76915(P2012−76915A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226486(P2010−226486)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(304020362)コベルコクレーン株式会社 (296)