説明

クレーン用シーブ装置

【課題】フック部をブーム先端下面に当接させた状態において、ブーム前方格納時にあってはフック格納時の運転視界を良好とし、後方格納時にあっては積載物の積載高さを高くし得るクレーン用シーブ装置を提供する。
【解決手段】このシーブ装置25,35は、支持体21,38と、各支持体21,38に設けられた複数の転輪および該複数の転輪全体を囲繞する軌道ベルトとを有する円弧軌道部26,36とを備え、複数の転輪は、クレーンのワイヤロープが巻回された負荷を受ける負荷転輪と、負荷を受けない側の軌道ベルトを支える支持転輪とからなり、各負荷転輪中心が一の円弧に沿った並びを有するとともに、各負荷転輪を囲繞する軌道ベルト外周に沿ってワイヤロープ12が掛け回わされるように構成され、円弧軌道部26に掛け回されたワイヤロープ12の中心円の直径とワイヤロープの直径との比が一定値以上に確保されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンに用いられるシーブ装置に係り、特に、車両搭載型クレーンに用いるシーブとして好適に採用し得るクレーン用シーブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンのフック部は、ワイヤロープ先端がブーム先端部のシーブ(定滑車)を介してフック部に固定されている。ここで、この種のフック部では、より質量のある吊荷を吊り上げる際に、クレーンのウインチ巻上げ能力が同じであり且つクレーンの出力も同じであるときは、フック部にもシーブ(動滑車)を設けることで、引っ張り力を倍力させている(例えば特許文献1参照)。
特許文献1に記載されるフック部は、そのままクレーンのブーム先端部まで巻き上げられ、ブーム先端部の下面に当接して格納されるようになっている。このような構成によれば、アクチュエータ機構の省力を維持しつつも安価に吊り上げ能力を向上させることができる。そのため、コスト上のメリットが高いため、一般的に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001‐270685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ブーム先端部やフック部のシーブの径は、使用されるワイヤロープの直径に基づいてその径の限度が定められている。その径の限度を下回ると、ワイヤロープに掛かる曲げ応力が許容よりも大きくなり、ワイヤロープに早期の疲労断線が生じて寿命が短くなってしまうからである。例えば車両搭載型クレーンでは、厚生労働省労働基準局「移動式クレーン構造規格」によって、ワイヤロープがシーブに巻かれた場合における、当該ワイヤロープの中心円(ピッチ円)の直径とワイヤロープの直径との比(「D/d値」)が、一定値以上で使用するように規定されている。よって、シーブ径はこの規定された比から、使用するワイヤロープ直径によって、その径の限度が自ずと決定される。
【0005】
そのため、図9に一例を示すように、上述の特許文献1類似のフック部125は、そのクレーン作業終了後、そのままクレーンのブーム先端部7sまで巻き上げられ、ブーム先端部7s下面に当接して格納されたときに、ブーム先端部7sのシーブ130の中心からフック部125のフック13の中心までの格納長さ(以下、「格納時距離」ともいう)L2は、使用するワイヤロープ12の直径によって、シーブ130の径(半径R)の限度寸法の規定から一定以上の長さとなる。
【0006】
この場合、フック部125をブーム先端部7sの下面に単に当接させただけでは格納時距離L2が長いため、例えば車両搭載型クレーンでは、ブーム前方格納時にあっては車両走行時に運転者の視界不良となる。また、後方格納時にあっては積載物の積載高さが低くなる。したがって、フック部をブーム先端に当接させた後に、ブーム長手方向と平行になるようにフック部を回動させて格納するための格納装置を別途設ける等の対策が講じられてきた。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、フック部をブーム先端下面に当接させた状態において、ブーム前方格納時にあってはフック格納時の運転視界を良好とし、後方格納時にあっては積載物の積載高さを高くし得るクレーン用シーブ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、クレーンに用いられるシーブ装置であって、支持体と、該支持体に回動自在に枢支された複数の転輪、および該複数の転輪全体を巻回する軌道ベルトとを有する円弧軌道部とを備え、前記複数の転輪は、クレーンのワイヤロープが巻回された負荷を受ける負荷転輪と、負荷を受けない側の軌道ベルトを支える支持転輪とからなり、各負荷転輪中心が一の円弧に沿った並びを有するとともに、各負荷転輪を巻回する軌道ベルト外周に沿ってワイヤロープが掛け回されるように構成されていることを特徴とする。
ここで、前記負荷転輪部分に掛け回されたワイヤロープの中心円の直径とワイヤロープの直径との比が一定値(例えば「D/d値」)以上に確保されていることは好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るシーブ装置によれば、支持体に回動自在に枢支された複数の転輪からなる円弧軌道部を備え、その複数の転輪が、クレーンのワイヤロープが巻回された負荷を受ける負荷転輪と、負荷を受けない側の軌道ベルトを支える支持転輪とからなり、各負荷転輪中心が一の円弧に沿った並びを有するとともに、各負荷転輪を囲繞する軌道ベルト外周に沿ってワイヤロープが掛け回されるように構成されているので、支持体の各負荷転輪を小径化しつつも、円弧軌道部全体としてワイヤロープに掛かる曲げ応力が許容よりも大きくならない曲率を維持することができる。そのため、上記格納時距離を短縮できるため、フック部をブーム先端部下面に当接させた状態において、ブーム前方格納時にあってはフック格納時の運転視界を良好とし、後方格納時にあっては積載物の積載高さを高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るクレーン用シーブ装置を備える車両搭載型クレーン付き車両の一実施形態を説明する図である。
【図2】図1の要部(シーブ装置の部分)を拡大するとともに一部を破断して示す図であり、同図は、フック部をブーム先端部から吊り下げた状態を示している。
【図3】フック部およびそのシーブ装置を説明する図であり、同図(a)は(b)でのB矢視図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図4】ブーム先端部のシーブ装置を説明する図であり、同図(a)はその正面図、(b)は(a)の右側面図である。
【図5】本発明に係るシーブ装置の円弧軌道部の軌道ベルトを構成する駒の説明図であり、同図(a)はその平面図、(b)は左側面図、(c)は正面図、(d)は右側面図、(e)は底面図である。
【図6】図1の要部(シーブ装置の部分)を拡大して示す図であり、同図(a)は、フック部をブーム先端部に当接させた格納状態を示し、また、同図(b)は、(a)の一部を破断して示している。
【図7】図6(a)でのA矢視図であり、同図では、一部を破断して示している。
【図8】本発明のシーブ装置の動作を説明する図であり、同図は、フック部をブーム先端部から吊り下げた状態且つブームを起立した状態を示している。
【図9】従来のクレーン用シーブ部分(本発明のシーブ装置に対応)を拡大して示す図であり、同図は、フック部をブーム先端部まで巻上げた格納時状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1に示すように、この車両搭載型クレーン付き車両1は、自車両の後方のシャシフレーム3上に荷台5を有している。この荷台5の前端部には、荷台5に積載した貨物等の運転室1a側の部材への接触を防止するための鳥居5aが取り付けられている。そして、この鳥居5aと運転室1aとの間に車両搭載型クレーン(以下、単に「クレーン」ともいう)15が架装されている。
【0011】
このクレーン15は、車両のシャシフレーム3上に横架して取り付けられたベース4を有する。このベース4には、その左右に張り出し自在に一対のアウトリガ2が取り付けられている。また、このベース4上には、旋回用油圧モータ5の駆動により旋回自在にコラム6が立設されている。そして、このコラム6の上端部には、ブーム伸縮用油圧シリンダ8の作動による伸縮およびブーム起伏用油圧シリンダ9の作動により起伏自在に枢支されたブーム7が設けられている。
【0012】
また、コラム6にはウインチ11がウインチ用油圧モータ10により駆動可能に設けられている。そして、このウインチ11からブーム先端部30にワイヤロープ12を導いて、ブーム先端部30のシーブ装置35を介してフック部20にワイヤロープ12を掛回しており、ウインチ11によりフック部20の巻き上げ巻き下げがなされる。なお、このクレーン15は、同図に示すように、ブーム7が荷台5側に向けた姿勢で格納される仕様である。
【0013】
ここで、図2に拡大図示するように、上記フック部20およびブーム先端部30のシーブ部分には、それぞれ本発明に係るシーブ装置25およびシーブ装置35が採用されている。以下、上記フック部20およびブーム先端部30について図2〜図8を適宜参照して説明する。
フック部20は、図2に示すように、フック13と、トラニオンピン23と、シーブ装置25とを有する。なお、このフック部20の上部には、巻過警報装置用のウエイトプレート22が設けられている。支持体21を繋ぐトラニオンピン23は、フック13が振り子状の回動F及び略水平方向の軸周りの回動Kができるように設けられている(図3(c)参照)。このフック13自体の構造、及びこれを連結するトラニオンピン自体の構造は、従来と変わらない。そして、図3に示すように、シーブ装置25は、小径の複数の転輪26a,26cおよび該複数の転輪全体を巻回するクローラ状の軌道ベルト26bとを有する円弧軌道部26を備える。
【0014】
詳しくは、このシーブ装置25は、ワイヤロープ12を4本掛けするために、フック13を挟んで前後に離隔して並設された一対の支持体21を有する。各支持体21は、小径の複数の転輪26a,26cを回動自在に枢支するために、ブーム先端部30側上面に開口部を有する箱状に形成され、一対の支持体21相互は、その上部で連結部24によって連結されている。
【0015】
また、各支持体21は、下方に凸の半楕円形状をなす側面板21aと、フック部側の裏面板21bと、凸の半楕円形状に沿って形成された案内板21cとを有する。案内板21cは、ワイヤロープ12(図2参照)が軌道ベルト26bから外れるのを防止するために、支持体21側面から下面に渡って円弧軌道部26の外周部分全体を覆う円弧状に設けられている。そして、裏面板21bは、ブーム先端部30側のシーブ装置35の支持体38(図2参照)と当接させるために平面状の板からなる。各支持体21の略中央部には、円弧軌道部26に掛け回されたワイヤロープ12の中心円と同軸に、フック13のトラニオンピン23が貫通している。そして、各支持体21の内部に、トラニオンピン23を囲むように、下方に向けて略半円状に所定の円弧に沿って等間隔に、複数の転輪26a,26cのうちの転輪26aが配列されている。
【0016】
詳しくは、各転輪26a,26cは、転輪支軸27によってそれぞれ回動自在に枢支されている。複数の転輪26a,26cは、ワイヤロープ12が巻回された負荷を軌道ベルト26bを介して受ける負荷転輪26aと、その負荷を受けない側の軌道ベルト26bを支えるための支持転輪26cとからなる。この例では、これら複数の転輪26a,26cとして、いずれも同一径の小型の転輪を採用しており、負荷転輪26aが9個、支持転輪26cが2個配置された例である。小さな転輪を数多く円弧軌道部26に装着することで、転輪間の隙間を小さくでき、円弧軌道部26全体をコンパクトにすることができる。なお、これよりも大きな転輪を採用すれば、ワイヤロープの巻回速度性能への対応性が高くなる。また、中型転輪とすれば、大型と小型転輪の両者の中間程度の性能をなす。さらに、複数の異なる径の転輪を組み合わせてもよい。
【0017】
また、円弧軌道部26を構成する小径の複数の負荷転輪26aの数は、三以上であれば構成可能であり、4個以上であれば好ましく、5個以上であればより好ましい。本実施形態の例では、9個の負荷転輪26aが配列されているので、円弧軌道部26を構成する軌道ベルト26bを介してワイヤロープ12が複数の負荷転輪26aにて巻回されるため、円滑な巻回が可能となる。
ここで、上記軌道ベルト26bは、複数の駒(シュー)28から構成され(この例では、14個)、隣接する駒28同士の両端が、幅方向に貫通する一本の連結ピン28p(図3(c)参照)によって直接繋がれることで、全体として環状に形成されている。
【0018】
詳しくは、図5に示すように、軌道ベルト26bを構成する各駒28は、横断面U字状の駒本体部28tを有する。そして、この駒本体部28tの溝部28uが、ワイヤロープ12を円滑に案内しつつ巻回するように、ワイヤロープ12の径に整合した溝になっている。また、各駒28は、隣接する他の駒28と相互に枢着するための連結腕28a((c)の左側)、および一対の連結腕28b,28b((c)の右側)を、環状に繋がれる方向の端面それぞれに有する。これら連結腕28aと一対の連結腕28bとは、相互に回動可能に嵌め合わされる幅に形成され、嵌め合わされた状態で、連結腕28a、28b,28bに形成された貫通孔28c,28dに、連結ピン28p(図3(c)参照)が軸方向から挿通されて、各駒28が環状に繋がれる。
【0019】
ここで、従来の一の大型のシーブに掛け回される際のワイヤロープ12のピッチ円は、「移動式クレーン構造規格」によって定められているが、この複数の転輪26a,26cの配列からなる円弧軌道部26では、円弧軌道部26全体として、使用するワイヤロープ12の直径比と同等の径、またはそれよりも大きくなるように、各負荷転輪26a中心が一の円弧に沿った並びを有するとともに、円弧軌道部26(クローラ状の軌道ベルト26b)の外周側に沿ってワイヤロープ12が掛け回わされるように構成され、円弧軌道部26に掛け回されたワイヤロープ12の中心円の直径とワイヤロープ12の直径との比が一定値以上に確保されている。そして、隣接する支持体21,21相互の円弧軌道部26,26にワイヤロープ12がそれぞれ掛け回わされている。なお、ワイヤロープ12の基端はウインチ11(図1参照)に固定され、ワイヤロープ12の先端は、ブーム先端部30のワイヤ端部固定装置31(図7参照)に固定されている。
【0020】
次に、ブーム先端部30のシーブ装置35について説明する。
図2に示すように、このシーブ装置35は、その取付け位置(主軸40の中心位置)自体は、従来のシーブの取付け位置と同じ位置に設けられている。その構造は、図2に示すように、上記シーブ装置25同様、支持体38と、それに各負荷転輪36aが転輪支軸33によってそれぞれ回動自在に枢支されてなる円弧軌道部36と、上記主軸40が挿通されるボス37とから構成されている。
【0021】
詳しくは、図4に示すように、支持体38は、上部に凸の半円形状をなす2枚の側面板38aを有する。これら側面板38aの下方側の中央には、主軸40の挿通孔が形成されており、この2枚の側面板38aの挿通孔の周縁が、ボス37の両端面に、ボス37と同軸に固定されている。なお、半円形状の側面板38aの下面38bは、上記フック部20の格納時に、そのフック部20側の裏面板21bと当接させるために平面状をなしている。また、上記転輪支軸33は、側面板38aの凸の半円形状の周縁に沿って、2枚の側面板38aが同軸になるように、周方向に沿って取付けられている。ボス37の高さは、これが2枚の側面板38aの離間距離になるので、側面板38a間に円弧軌道部36が設けられた際、各負荷転輪36aが円滑に回動可能になる隙間を考慮した高さになっている。
【0022】
ここで、このシーブ装置35においても、上述のシーブ装置25の円弧軌道部26同様に構成された、複数の転輪36a、36cおよび該複数の転輪36a、36c全体を巻回する軌道ベルト26bとを有する円弧軌道部36を備えているので、ここでは円弧軌道部36の説明については適宜省略する。
この円弧軌道部36は、円弧軌道部36全体として、使用するワイヤロープ12の直径比と同等の径、またはそれよりも大きくなるように、各負荷転輪36a中心が一の円弧に沿った並びを有するとともに、円弧軌道部36の外周側に沿ってワイヤロープ12が掛け回わされるように構成され、円弧軌道部26に掛け回されたワイヤロープ12の中心円の直径とワイヤロープ12の直径との比が一定値以上に確保されている。
【0023】
そして、上述したように、本実施形態では、ワイヤロープ12はフック部20に対して4本掛けである。そのため、このシーブ装置35の支持体38は、図6に示すように、フック部20のシーブ装置25とは90°向きが回転して配置される。そして、ブーム先端部30の主軸40の軸方向に離間して2組設けられ、支持体38同士は、スペーサ34(左右のスペーサ34a,34cおよび中央のスペーサ34bからなる)によってフック部20の両端のシーブ26a間と同じ幅になるように調節されている。さらに、主軸40の同軸上(同図の左側)には、ワイヤロープ12の端末を固定するために、ワイヤロープ12の先端をブーム内で処理するワイヤ端末固定装置31が設けられている(この種のワイヤ端末固定装置の構造としては、特許第2503141号公報を参照)。
【0024】
ここで、ウインチ11の巻上下げによって、ブーム先端部30のシーブ装置35も回動する。つまり、ワイヤロープ12の張力によって、シーブ装置35そのものが回動してしまう場合もある。そこで、本実施形態の例では、シーブ装置35の側面板38aに回動防止ストッパ29を設けるとともに(図4参照)、ブーム7側に案内板39を設け(図6参照)、この案内板39の端面に回動防止ストッパ29を当接させて回動位置を規制している(図6および図8参照)。
【0025】
また、この案内板39は、四分円ほどの大きさの円弧状であり、ワイヤロープ12が円弧軌道部36から外れるのを防止するために、ブーム先端部30の先端側側面の内側に配設されている。これにより、ワイヤロープ12の張力によるシーブ装置35自体の回動が防止される。
そして、ワイヤロープ12を巻きすぎた場合においても、フック部20がブーム先端部30の端面を超えて突出しすぎた位置まで回動しないように、この案内板39の円弧形状端面に回動防止ストッパ29が当接する位置に設けている(図6(b)、図8参照)。さらに、この案内板39は、支持体38の外周部分に摺接するようにブーム側に固定されている。この案内板39の円弧形状は、図7に示すように、ブームが約水平(0°)から約80°の仰角まで起伏してもワイヤロープ12が干渉しない形状になっている。
【0026】
つまり、ブーム先端部30のシーブに本発明に係るシーブ装置35を用いる際には、ブーム7の起伏角度を考慮に入れている。本実施形態では、同図に示すように、起伏角度が0°〜約80°内であれば対応できるように、ワイヤロープ12の曲率を一定に保った状態を保持するように構成した。これにより、円弧軌道部36に掛け回わされたワイヤロープ12の「D/d値」を常に一定に保つことが可能となった。
【0027】
次に、このクレーン15のシーブ装置25、シーブ装置35の作用・効果について説明する。 従来の大径のシーブにおいては図9に一例を示したように、ブーム先端部とフック部にシーブを組み合わせて使用しているため、実際にワイヤロープが巻回されるのは、大径のシーブの半分のみとなり、残りの半分はシーブが回動するものの遊んでいる状態であった。
【0028】
これに対し、このクレーン15は、シーブ装置25が、一対の支持体21と、各支持体21に設けられた複数の転輪26a,26cおよび該複数の転輪26a,26c全体を巻回する軌道ベルト26bとを有する円弧軌道部26とを備え、また、シーブ装置35が、一対の支持体38と、各支持体38に設けられた複数の転輪36a,36cおよび該複数の転輪36a,36c全体を巻回する軌道ベルト36bとを有する円弧軌道部36とを備えており、これら円弧軌道部26,36は、各負荷転輪26a、36a中心が一の円弧に沿った並びを有するとともに、円弧軌道部26,36の外周側に沿ってワイヤロープ12が掛け回わされるように構成され、円弧軌道部26,36に掛け回されたワイヤロープ12の中心円の直径とワイヤロープ12の直径との比が一定値以上に確保されているので、円弧軌道部26,36全体としてワイヤロープ12に掛かる曲げ応力が許容よりも大きくならない曲率を維持することができる。そのため、上述した従来の格納時距離L2を短縮できるため、フック部20をブーム先端部30下面に当接させた状態において、ブーム前方格納時にあってはフック格納時の運転視界を良好とし、後方格納時にあっては積載物の積載高さ(図1の符号H参照)を高くすることができる。
【0029】
つまり、図6(b)に示すように、このシーブ装置35は、円弧軌道部36と、小径の複数の転輪36a,36cのうち負荷転輪36aが略半円状(半径R)の並びを確保しているので、負荷転輪36aに巻回された軌道ベルト36bも、略半円弧状(半径R)を形成する。よって、軌道ベルト36bに掛け渡されたワイヤロープ12の中心円の直径(半径R)とワイヤロープ12の直径との比を一定値のままで使用可能となる。そして、このことはシーブ装置25についても同様である。
【0030】
よって、円弧軌道部26,36全体としてワイヤロープ12に掛かる曲げ応力が許容よりも大きくならない曲率を維持することができるため、この円弧軌道部26,36に掛けられたワイヤロープ12のピッチ円(半径R)が、「移動式クレーン構造規格」によって定められている、使用するワイヤロープの直径比「D/d値」を満足する径に確保できるのである。
【0031】
そして、各負荷転輪26a,36aに巻回され、略半円状(半径R)をなす軌道ベルト26b,36bの部分にのみワイヤロープ12を巻回して、シーブ装置として効率良く使用することで、従来の大径のシーブにおいて遊んでいた半分の占有寸法を不要とすることができる。これにより、上述のシーブ装置25、35における、各シーブ装置25,35での負荷転輪26a,36aおよび支持転輪26c,36cおよび軌道ベルト26b,36bからなる円弧軌道部26,36が互いに対を形成するように半円状に配置されるので、クレーン15の揚程が増加する。さらに、ブーム7を車両前方方向に格納したときには、ブーム7とフック部20との間隔を、従来の大型のシーブの直径分短くすることができる。そのため、格納時のフック部20が上方に上がった分だけ、車両走行時の運転者の視界を良好にさせることができる。また、他の効果として、ブーム7を車両後方方向に格納したときに、格納時のフック部20が上方に上がった分だけ、荷台5上のスペースをより高くすることもできる。そのため、例えば積載物を従来よりも高く積み上げることができる等、荷台上のスペースを有効利用できるという効果もある。
【0032】
特に、このクレーン15は、シーブ装置25,35相互の対向面を平面にしており、図6(b)に示すように、フック部20をブーム先端部30に当接させた格納状態においては、ブーム先端部30のシーブ装置35が主軸40を中心に回動するので、フック部20のシーブ装置25上辺に合わせて、シーブ装置35下面をぴったりと当接させることができる。そのため、上述した従来の格納時距離L2を、図6(b)に示す符号L1にまで短縮することができる。
【0033】
したがって、ブーム前方格納時にあってはフック格納時の運転視界を良好とし、後方格納時にあっては積載物の積載高さ(図1の符号H参照)を高くする上でより好適である。なお、このクレーン15は、ワイヤ端末固定装置31を設けているので、ワイヤロープ12の先端は、ワイヤ端部固定装置31によってブーム内で処理されるため(図7参照)、シーブ装置35下面とフック部20上面との当接時にワイヤロープ12が噛み込むことはない。
【0034】
なお、本発明に係るクレーンのシーブ装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、車両搭載型クレーンに用いるシーブ装置の例で説明したが、これに限定されず、本発明に係るクレーンのシーブ装置は、種々のクレーンに採用可能なことは勿論である。また、この例では、ワイヤロープの4本掛けを例に説明したが、これに限定されず、2本掛けのフック部のシーブ装置として使用してもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 車両搭載型クレーン付き車両
3 シャシフレーム
4 ベース
6 コラム
7 ブーム
11 ウインチ
12 ワイヤロープ
13 フック
15 車両搭載型クレーン(クレーン)
20 フック部
21 支持体
22 ウエイトプレート
23 トラニオンピン
24 連結部
25 (フック部の)シーブ装置
26 (フック部の)円弧軌道部
27 (フック部の)転輪支軸
28 (軌道ベルトを構成する)駒
29 回動防止ストッパ
30 ブーム先端部
31 ワイヤ端部固定装置
32 巻過警報装置
33 (ブーム先端部の)転輪支軸
34 スペーサ
35 (ブーム先端部の)シーブ装置
36 (ブーム先端部の)円弧軌道部
37 (ブーム先端部の)ボス
38 (ブーム先端部の)支持体
39 案内板
40 主軸
L1 本発明のシーブ装置での格納時距離
L2 従来のシーブでの格納時距離 R ワイヤロープの掛け回し半径(=ワイヤロープのピッチ円)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンに用いられるシーブ装置であって、支持体と、該支持体に回動自在に枢支された複数の転輪、および該複数の転輪全体を巻回する軌道ベルトとを有する円弧軌道部とを備え、
前記複数の転輪は、クレーンのワイヤロープが巻回された負荷を受ける負荷転輪と、負荷を受けない側の軌道ベルトを支える支持転輪とからなり、各負荷転輪中心が一の円弧に沿った並びを有するとともに、各負荷転輪を巻回する軌道ベルト外周に沿ってワイヤロープが掛け回されるように構成されていることを特徴とするクレーン用シーブ装置。
【請求項2】
前記負荷転輪部分に掛け回されたワイヤロープの中心円の直径とワイヤロープの直径との比が一定値以上に確保されていることを特徴とする請求項1に記載のクレーン用シーブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−148851(P2012−148851A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8081(P2011−8081)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(506002823)古河ユニック株式会社 (54)
【Fターム(参考)】