説明

クレーン装置およびエンジン回転速度制御方法

【課題】電動機の負荷変動が大きい場合でも、比較的安価な構成で、エンジン発電装置と蓄電装置から安定した電源供給を連続的に行う。
【解決手段】蓄電装置6として、エンジン発電装置1のエンジン回転速度を発電可能な最低速度から最高速度へ加速するのに必要な電力を蓄電するための蓄電容量を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン発電制御技術に関し、特にクレーン装置などで用いる電動機に発電電力を供給するエンジン発電装置の省燃費技術に関する。
【背景技術】
【0002】
港湾のコンテナヤードにおいて、コンテナなどの荷物の積み降ろしを行うクレーン装置では、複数の電動機を用いて、荷物の昇降、さらには架台の走行や横行などの動作を行う。これら電動機へ動作電力を供給するため、エンジン駆動発電方式では、ディーゼルエンジンを用いて発電機を駆動するエンジン発電装置を用いて必要な電力を各電動機へ供給する構成となっている。
【0003】
このようなクレーン装置では、荷物の巻き上げ時などは最大負荷となるが、荷物の巻き下げ時など電力をほとんど必要としない場合もあり、負荷変動が大きい。したがって、最大負荷時に見合った電力を発電機から供給するためにはディーゼルエンジンや発電機として大型のものが必要となるものの、平均負荷を上回る設備規模となるため、設備コストや運転コストの面で非効率であった。
【0004】
従来、このようなクレーン装置に蓄電装置を設けて、常時、エンジン発電装置で発電するとともに、最大負荷時などに蓄電装置から並列的に電力を供給し、回生時に発生した余剰電力を蓄電装置へ蓄電するものが提案されている(例えば、特許文献1など参照)。これにより、蓄電装置から電動機に対して電力が一時的に供給されるため、ディーゼルエンジンや発電機の規模を縮小でき、設備コストや運転コストの面で効率を改善可能となる。
【0005】
【特許文献1】特開2001−163574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなクレーン装置において、電動機で荷物を巻き上げる場合、その動作に必要なエネルギーは、図6に示すように、巻き上げ加速期間、巻き上げ等速期間、および巻き上げ減速期間に分割される。図6は、荷物を巻き上げ時に必要なエネルギーを示す説明図である。このうち、巻き上げ加速期間におけるエネルギー消費量が最も大きく、この最大エネルギー消費量Pmaxを安定供給できるよう、エンジン発電装置の発電能力が決定される。
【0007】
したがって、この巻き上げ加速期間に必要な最大エネルギー消費量Pmaxすなわち最大発電電力の一部を蓄電装置で補うことにより、エンジン発電装置の発電能力を縮小でき、エンジン発電装置のコストダウンや省燃費を実現できる。
この際、単位供給電力あたりでは、蓄電装置で用いる蓄電池はエンジン発電装置に比較して高価となることから、蓄電容量を必要最低限とする必要がある。このため、巻き上げ加速期間に必要な発電電力のうち、蓄電装置で補う電力を正確に求めて、蓄電装置の蓄電容量およびエンジン発電装置の発電能力の縮小幅を決定する必要がある。
【0008】
ここで、最大エネルギー消費量Pmaxを分析すると、主に、荷物の運動エネルギーPV、荷物の加速エネルギーPC、およびエンジン発電装置の加速エネルギーPEから構成される。PVは、荷物の巻き上げにのみ必要な運動エネルギーであり、PCは、荷物の巻き上げ加速に必要な加速エネルギーである。一方、PEは、エンジン発電装置自体を加速するために必要な加速エネルギーである。エンジン発電装置は、回転速度を変化させる場合、エンジンや発電機の慣性モーメントに起因する加速エネルギーPEすなわち加速用電力が必要となる。
【0009】
しかしながら、従来のクレーン装置では、クレーン装置自体に必要なエネルギーをエンジン発電装置で供給し、荷物の巻き上げ時に必要となるPmaxまでの差分を、比較的短い加速期間だけでなく比較的長い等速期間においても、蓄電装置で補うものとしている。このため、蓄電が不十分な場合は、加速期間と等速期間の両方で巻き上げ動作を行うことができなくなることから、十分蓄電するための期間が必要となる。また、蓄電容量も大きくなるため十分蓄電するには長い期間が必要となる。
【0010】
したがって、クレーン動作が連続する場合には、蓄電のためにクレーン動作を中断するなど、電動機に対して安定した電源供給を連続的に行うことができない場合があるという問題点があった。
また、従来のクレーン装置では、最大エネルギー消費量Pmaxとして、荷物の巻き上げ時に要する仕事量しか含まれておらず、エンジン発電装置自体の加速エネルギーについては検討していない。このため、必要以上の蓄電容量を見込む必要があり、コストアップの要因となるという問題点があった。
【0011】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、電動機の負荷変動が大きい場合でも、比較的安価な構成で、エンジン発電装置と蓄電装置から安定した電源供給を連続的に行うことができるクレーン装置およびエンジン回転速度制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために、本発明にかかるクレーン装置は、エンジンにより発電機を駆動して得られた発電電力を荷物の積み降ろしを行う電動機へ供給するエンジン発電装置と、発電電または電動機からの回生電力を蓄電し、電動機の動作時に当該蓄電電力を補助的に電動機へ供給する蓄電装置と、当該クレーン装置の動作状況に応じてエンジン発電装置のエンジン回転速度を制御するコントローラとを備え、蓄電装置として、エンジン発電装置のエンジン回転速度を発電可能な最低速度から最高速度へ加速するのに必要な最大加速用電力を蓄電するための蓄電容量を用いるものである。
【0013】
また、本発明にかかる他のクレーン装置は、エンジンにより発電機を駆動して得られた発電電力を荷物の積み降ろしを行う電動機へ供給するエンジン発電装置と、発電電力または電動機からの回生電力を蓄電し、電動機の動作時に当該蓄電電力を補助的に電動機へ供給する蓄電装置と、当該クレーン装置の動作状況に応じてエンジン発電装置のエンジン回転速度を制御するコントローラとを備え、コントローラで、エンジン発電装置に対する任意の加速における加速開始時の回転速度と加速終了時の回転速度の差とエンジン発電装置の慣性モーメントとから加速用電力を算出し、この加速用電力と蓄電電力の残量との比較結果に基づいてエンジン回転速度を制御するものである。
【0014】
この際、コントローラで、当該加速用電力が蓄電電力の残量より大きい場合は、エンジン発電装置の回転速度を所定の蓄電回転速度以上に維持し、当該加速用電力が蓄電電力の残量以下の場合は、当該クレーン装置の動作状況に応じてエンジン回転速度を制御するようにしてもよい。
【0015】
また、本発明にかかるエンジン回転速度制御方法は、エンジンにより発電機を駆動して得られた発電電力を電動機へ供給するエンジン発電装置と、発電電力を一時蓄電し、電動機の動作時に当該蓄電電力を補助的に電動機へ供給する蓄電装置と、エンジン発電装置の回転速度を制御するコントローラとを備える電力供給装置で用いられるエンジン回転速度制御方法であって、コントローラにより、エンジン発電装置に対する任意の加速における加速開始時の回転速度と加速終了時の回転速度の差とエンジン発電装置の慣性モーメントとから加速用電力を算出するステップと、コントローラにより、加速用電力と蓄電電力の残量との比較結果に基づいてエンジン回転速度を制御するステップとを備えている。
【0016】
この際、コントローラにより、当該加速用電力が蓄電電力の残量より大きい場合は、エンジン発電装置の回転速度を所定の蓄電回転速度以上に維持するステップと、コントローラにより、当該加速用電力が蓄電電力の残量以下の場合は、電動機の駆動状況に応じてエンジン回転速度を制御するステップとをさらに設けてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、蓄電装置として、エンジン発電装置のエンジン回転速度を発電可能な最低速度から最高速度へ加速するのに必要な電力を蓄電する蓄電容量を有するものを用いるようにしたので、最大加速時に必要な最大加速用電力以外の電力はエンジン発電装置から常に供給されることになり、荷物巻き上げ期間が比較的長い場合でも、電動機に対してエンジン発電装置から安定した電力を連続的に供給することができる。
【0018】
また、蓄電装置からは荷物巻き上げ時の比較的短い加速期間にだけエンジン発電装置自体の加速に要する電力分を電動機に対して供給するだけで済み、蓄電池の蓄電容量を必要最低限に抑えることができる。
したがって、電動機の負荷変動が大きい場合でも、比較的安価な構成で、エンジン発電装置と蓄電装置から安定した電源供給を連続的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかるクレーン装置について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態にかかるクレーン装置の構成を示す機能ブロック図である。
このクレーン装置は、エンジン駆動で発電した電力を共通母線に供給することにより、共通母線に接続された電動機を駆動して荷物の積み降ろしを行う装置であり、主な構成として、エンジン発電装置1、主巻電動機31、走行電動機32、横行電動機33、インバータ(INV)41〜44、放電装置5、蓄電装置6、コントローラ7、および共通母線9が設けられている。
【0020】
本実施の形態は、エンジン発電装置1により、エンジンにより発電機を駆動して得られた発電電力を荷物の積み降ろしを行う電動機へ供給し、蓄電装置6により、発電電力または電動機からの回生電力を蓄電電力として蓄電し、電動機の動作時に当該蓄電電力を補助的に電動機へ供給し、コントローラ7により、当該クレーン装置の動作状況に応じてエンジン発電装置のエンジン回転速度を制御し、蓄電装置6として、エンジン発電装置のエンジン回転速度を発電可能な最低速度から最高速度へ加速するのに必要な電力を蓄電するための蓄電容量を有するようにしたものである。
【0021】
以下、本実施の形態にかかるクレーン装置の構成について詳細に説明する。
エンジン発電装置1は、ディーゼルエンジン(DE)11と交流発電機(G)12を有し、ディーセルエンジン11で交流発電機12を駆動することにより交流電力を発電して出力する装置であり、エンジン回転速度を示すコントローラ7からの運転指示10Aに基づいて、ディーゼルエンジン11のエンジン回転速度を制御する機能を有している。
【0022】
主巻電動機31は、荷物の昇降を行うための交流電動機である。走行電動機32は、架台の走行を行うための交流電動機である。横行電動機33は、架台の横行を行うための交流電動機である。
インバータ41は、共通母線9上の供給電力を交流電力に変換して主巻電動機31へ供給するAC/DC/AC変換器である。
インバータ42は、共通母線9上の供給電力を交流電力に変換して走行電動機32へ供給するAC/DC/AC変換器である。
【0023】
インバータ43は、共通母線9上の供給電力を交流電力に変換して横行電動機33へ供給するAC/DC/AC変換器である。
インバータ44は、共通母線9上の供給電力を交流電力に変換して照明装置、空調装置、あるいはコントローラ7などの制御装置を含む各種補機設備の電源として供給するAC/DC/AC変換器である。
放電装置5は、荷物の巻き下げ時などの回生時に共通母線9上に発生した余剰電力を、抵抗器などを用いて放電する回路装置である。
【0024】
蓄電装置6は、電池やコンデンサなどの蓄電池を内蔵する回路装置であり、インバータ41のDC回路区間に出力された電力を蓄電池に蓄電する機能と、蓄電池に蓄電した蓄電電力をインバータ41から主巻電動機31へ供給する機能とを有している。インバータ41のDC回路区間に出力される電力としては、エンジン発電装置1からの発電電力のほかに、主巻電動機31から荷物の巻き下げ時に発生した回生電力があり、いずれか一方または両方が蓄電装置6へ蓄電される。
【0025】
コントローラ7は、CPUなどのマイクロプロセッサとその周辺回路を有し、マイクロプロセッサまたは周辺回路に設けられたメモリからプログラムを読み込んで実行することにより、プログラムと上記ハードウェアとを協働させて、クレーン装置全体を制御するための各種機能を有している。
【0026】
コントローラ7の主な機能としては、操作レバーや操作スイッチを介して検出した操作者の指令入力71に基づいて、各種コマンド4Aをやり取りすることによりインバータ41〜44を制御して、荷物の昇降、架台の走行や横行などの運転を制御するクレーン運転機能、共通母線9に対するエンジン発電装置1からの電力供給状況を確認する電力供給状況確認機能、および入力された各種指令や電力供給状況などから得られる当該クレーン装置の動作状況に基づいて新たなエンジン回転速度を算出し、そのエンジン回転速度を運転指示10Aによりエンジン発電装置1へ指示する回転速度制御機能がある。
【0027】
共通母線9に対するエンジン発電装置1からの電力供給状況は、例えば共通母線9の供給電圧を監視すれば把握できる。指令入力71に基づき荷物の巻き上げや、架台の走行や横行を行う場合、対応する電動機31〜33を駆動した時点で、共通母線9上の供給電力が使用されるため供給電圧が低下する。
したがって、電力供給状況確認機能により、例えばエンジン発電装置1から共通母9への配線上に設けた検出器からの検出値15Aに基づいて共通母線9の供給電圧を検出し、予めメモリに保存しておいた下限しきい値や上限しきい値を読み出して比較することにより、電力供給状況の過不足を確認できる。
【0028】
[エンジン発電装置の加速用電力]
次に、図2を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかるクレーン装置におけるエンジン発電装置の加速用電力について説明する。図2は、エンジン発電装置の加速用電力算出処理フロー図である。
このようなクレーン装置において、電動機で荷物を巻き上げる場合、その動作に必要なエネルギーは、前述の図6に示したように、巻き上げ加速期間、巻き上げ等速期間、および巻き上げ減速期間に分割される。
【0029】
このうち、巻き上げ加速期間における最大エネルギー消費量Pmaxは、主に、荷物の運動エネルギーPV、荷物の加速エネルギーPC、およびエンジン発電装置1の加速エネルギーPEから構成される。PVは、荷物の巻き上げにのみ必要な運動エネルギーであり、PCは、荷物の巻き上げ加速に必要な加速エネルギーである。一方、PEは、エンジン発電装置1自体を加速するために必要な加速エネルギーである。エンジン発電装置1は、回転速度を変化させる場合、エンジンや発電機の慣性モーメントに起因する加速エネルギーPEすなわち加速用電力が必要となる。
【0030】
一般に、回転体の加速に必要なエネルギーは、図2に示すように、加速開始時の回転速度7Aと加速終了時の回転速度7Bの回転速度差を加算器200で求め、この回転速度差と回転体の慣性モーメント7Cとを積和演算器201で積和演算することにより、回転体の回転速度を7Aから7Bまで加速する際に必要な加速エネルギーを算出できる。
本実施の形態では、このようなエンジン発電装置の加速用電力算出処理を用いて、エンジン発電装置1自体の最大加速用電力を求め、この最大加速用電力を蓄電するための蓄電容量を蓄電装置6に持たせている。
【0031】
すなわち、エンジン発電装置1のエンジン回転速度の加速前後における回転速度差が最大となる場合、例えばエンジン回転速度が最低である状態から最大重量の荷物を巻き上げる場合を想定して、加速開始時の回転速度7Aを最低回転速度とするとともに、加速終了時の回転速度7Bを最大重量の荷物の巻き上げに必要なエンジン回転速度とすることにより、最大回転速度差を加算器200で求める。この際、最低回転速度は、例えばクレーン装置でいずれのクレーン動作を行っていないアイドリング状態におけるエンジン発電装置1のエンジン回転速度を用いればよい。また、最大回転速度差は、最大重量の荷物を巻き上げるのに必要なエネルギーすなわちPV+PCは算出可能であることから、このエネルギーに対応するエンジン回転速度を後述するエンジン発電装置の動作特性から求めることができる。
【0032】
次に、エンジン発電装置1の慣性モーメント7C、ここではディーゼルエンジン11と交流発電機12の慣性モーメントを、最大回転速度差と積和演算器201で積和演算することにより、エンジン発電装置1自体の最大加速用電力を求める。そして、この最大加速用電力を蓄電するための蓄電容量を蓄電装置6に持たせ、最大回転速度差で加速する場合に必要な電力のうち最大加速用電力以外の電力を供給する発電能力をエンジン発電装置1に持たせている。
【0033】
[第1の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、蓄電装置6として、エンジン発電装置1のエンジン回転速度を発電可能な最低速度から最高速度へ加速するのに必要な電力を蓄電するための蓄電容量を有するようにしたので、前述の図6に示すように、荷物巻き上げ加速期間において、荷物の運動エネルギーPVと加速エネルギーPCはエンジン発電装置1から供給され、エンジン発電装置1自体の加速エネルギーPEは蓄電装置6から供給される。
【0034】
これにより、エンジン回転速度の加速時に必要な加速用電力すなわちPE以外の電力分すなわちPV+PC分についてはエンジン発電装置1から常に供給されることになり、巻き上げ等速期間時が長い場合でも、電動機に対してエンジン発電装置1から安定した電力を連続的に供給することができる。また、エンジン発電装置1の最大発電能力をPmaxからP1に削減することができ、エンジン発電装置1の規模削減によるコストダウンも実現できる。
【0035】
また、蓄電装置6からは、荷物巻き上げ時の比較的短い加速期間にだけ、エンジン発電装置1自体の加速に要する加速用電力分を供給するだけで済み、蓄電池の蓄電容量を必要最低限に抑えることができる。これに加え、蓄電池の蓄電容量が比較的小さいため、蓄電に要する時間が短縮できる。また回生電力でなくエンジン発電装置1からの発電電力で蓄電する場合には、蓄電のための運転期間を短縮でき、エンジン発電装置1の燃費を改善できる。
したがって、本実施の形態によれば、電動機の負荷変動が大きい場合でも、比較的安価な構成で、エンジン発電装置と蓄電装置から安定した電源供給を連続的に行うことができる。
【0036】
[第2の実施の形態]
次に、図3および図4を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかるクレーン装置について説明する。図3は、本発明の第2の実施の形態にかかるクレーン装置のエンジン回転速度制御処理を示すフローチャートである。図4は、エンジン発電装置の発電電力とエンジン回転速度の関係を示す動作特性である。
【0037】
第1の実施の形態では、蓄電装置6として、エンジン回転速度の加速前後における回転速度差が最大となる最大回転速度差でエンジン発電装置を加速する最大加速時に必要な最大加速用電力を蓄電するための蓄電容量を有する場合について説明した。本実施の形態では、このような蓄電装置6に蓄電する際、エンジン発電装置1のエンジン回転速度を制御して必要最低限の電力を蓄電する場合について詳細に説明する。なお、クレーン装置の構成については、第1の実施の形態(図1参照)とほぼ同様であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0038】
前述した従来のクレーン装置では、荷物の巻上時に必要な最大負荷電力を、蓄電装置の蓄電電力で一時的に補うことができるものの、このような最大負荷電力を安定供給するため、常時、エンジン発電装置を比較的高速な一定回転速度で運転している。このため、荷物の巻上動作などのクレーン動作を行っていない低負荷時には、例えば回生電力で不足した分を発電電力で蓄電装置へ蓄電しておくことができるものの、エンジン発電装置の燃費が悪くなる。
【0039】
このようなエンジン発電装置の燃費を改善する方法として、低負荷時にエンジン発電装置の回転速度を低減する方法が考えられ、回転速度を低くすればするほど、エンジン発電装置の燃費を削減することが可能となる。
しかしながら、このような方法では、エンジン発電装置の回転速度を低下させた場合、所定の電圧や周波数の発電電力を得られなるため、回生電力で不足した分、あるいは回生電力を利用しない場合にはそのすべてを、蓄電装置に対して蓄電するため、エンジン回転速度を高回転に維持する必要があり、燃費を効果的に削減できないという問題点があった。
【0040】
本実施の形態において、コントローラ7は、回転速度制御機能として、加速用電力算出機能と蓄電用エンジン回転速度制御機能を有している。
加速用電力算出機能は、エンジン発電装置1を所望の回転速度まで加速するのに必要な加速用電力を算出する機能である。蓄電用エンジン回転速度制御機能は、加速用電力と蓄電装置6の蓄電残量との比較結果に基づいてエンジン回転速度を制御する機能である。これら機能により、次のエンジン加速に必要な蓄電電力に応じた分だけエンジン発電装置1を所定の蓄電回転速度で運転することが可能となる。
【0041】
[第2の実施の形態の動作]
コントローラ7は、操作者によるクレーン装置の装置全体の起動操作に応じて、図3のエンジン回転速度制御処理を開始する。
コントローラ7は、まず、エンジン回転速度制御機能により、操作者からクレーン動作の開始/終了を示す指令入力71の有無を確認し(ステップ100)、指令入力71があった場合(ステップ100:YES)、その指令入力71で入力された荷重および指令速度に応じたエンジン回転速度Nを示す運転指示10Aをエンジン発電装置1へ出力し(ステップ101)、ステップ100へ戻る。
【0042】
エンジン発電装置1は、発電電力Pとエンジン回転速度Nについて、図4に示すような動作特性を有している。この種の動作特性は、一般的に、エンジン回転速度Nの増加に応じて発電電力Pが単調増加し、所定の最大電力値に達した後に減衰する傾向がある。したがって、コントローラ7のメモリにこのような動作特性を関数や表形式で予め保存しておけば、所望の発電電力Pすなわち指令発電電力を供給するのに必要なエンジン回転速度Nを算出できる。
【0043】
したがって、荷重および指令速度から指令発電電力(=荷重×指令速度)を算出できることから、上記動作特性を参照して、指令発電電力に対応するエンジン回転速度を算出し、運転指示10Aによりエンジン発電装置1へ指示すればよい。
これにより、エンジン発電装置1のディーゼルエンジン11がエンジン回転速度Nで運転され、操作者から指令入力された荷重および指令速度に対応する指令発電電力が交流発電機12で発電される。
【0044】
一方、ステップ100において、操作者からの指令入力71がなかった場合(ステップ100:NO)、コントローラ7は、蓄電用エンジン回転速度制御機能により、前述した図2の加速用電力算出処理を実行してエンジン発電装置1の加速用電力を算出する(ステップ102)。この際、次回のエンジン回転速度の加速時を想定して、加速開始時の回転速度7Aと加速終了時の回転速度7Bを決定する。
【0045】
例えば、この後のクレーン動作の予定として、エンジン回転速度を最低回転速度まで低下させる可能性がある場合には、加速開始時の回転速度7Aとして最低回転速度を用いればよく、荷物を巻き下げた後に空荷で巻き上げを行うことが決定している場合には、加速開始時の回転速度7Aとして空荷の巻き上げ開始までの間における最低回転速度を用いればよい。
また、上記最低回転速度に制御した後、最大荷重の荷物を巻き上げる可能性がある場合には、加速終了時の回転速度7Bとして最大回転速度を用いればよく、荷物を巻き下げた後に空荷で巻き上げを行うことが決定している場合には、加速終了時の回転速度7Bとして空荷の巻き上げ時における最大回転速度を用いればよい。
【0046】
コントローラ7は、このようにして算出したエンジン発電装置1の加速用電力と、蓄電装置6の蓄電残量を比較する(ステップ103)。この際、蓄電残量については、例えば蓄電装置6から供給した電力の電流を累積し、蓄電容量から減算して蓄電残量を求める、などの公知の技術を用いればよい。
【0047】
ここで、加速用電力が蓄電残量より大きい場合には(ステップ103:YES)、蓄電が必要なことから、エンジン回転速度を所定の蓄電回転速度Ns以上に維持し(ステップ104)、ステップ100へ戻る。
蓄電回転速度Nsとは、蓄電装置6に対して蓄電を行うのに必要な電力をエンジン発電装置1で発電するためのエンジン回転速度であり、予めコントローラ7のメモリに設定しておけばよい。
【0048】
ステップ104では、メモリに記憶しておいた直前の指令入力に応じたエンジン回転速度Nと蓄電回転速度Nsとを比較し、エンジン回転速度Nが蓄電回転速度Nsより低い場合にのみ、蓄電回転速度Nsを示す運転指示10Aをエンジン発電装置1へ出力し、エンジン回転速度Nが蓄電回転速度Ns以上の場合はエンジン回転速度Nを維持する。
通常、蓄電のための電力は、電動機の駆動電力に比較して小さいため、エンジン発電装置1のエンジン回転速度Nが蓄電回転速度Ns以上に維持されている場合には、エンジン回転速度Nで蓄電に必要な電力を得ることができる。このため、上記判断処理を行うことにより、エンジン発電装置1に対するエンジン回転速度の指令を的確に実行できる。
【0049】
一方、加速用電力が蓄電残量以下の場合には(ステップ103:NO)、蓄電が必要ないことから、直前の指令入力に応じたエンジン回転速度Nを示す運転指示10Aをエンジン発電装置1へ出力し(ステップ105)、ステップ100へ戻る。
【0050】
ステップ105では、メモリに記憶しておいた直前の指令入力に応じたエンジン回転速度Nと現エンジン回転速度Nnとを比較し、エンジン回転速度Nが現エンジン回転速度Nnより低い場合にのみ、現エンジン回転速度Nnを示す運転指示10Aをエンジン発電装置1へ出力し、エンジン回転速度Nが現エンジン回転速度Nn以上の場合は現エンジン回転速度Nnを維持する。
【0051】
これにより、蓄電終了時には、エンジン発電装置1のエンジン回転数を、現エンジン回転速度Nnすなわち蓄電回転速度Nsから、クレーン動作の終了時に指令されたより低いエンジン回転速度Nへ低下させることができる。したがって、エンジン発電装置1を一定回転速度に維持する場合と比較して、大幅に燃費を改善できる。この際、蓄電終了後から所定の待機期間だけ待機し、この待機期間中に新たな指令入力71が入力されなかった場合にのみ、クレーン装置でいずれのクレーン動作を行っていないアイドリング状態における最低エンジン回転速度への変更を示す運転指示10Aをエンジン発電装置1へ出力してもよく、さらなる省燃費を実現できる。
【0052】
[第2の実施の形態の動作例]
次に、図5を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかるクレーン装置の動作例について説明する。図5は、本発明の第2の実施の形態にかかるクレーン装置の動作例を示すタイミングチャートである。ここでは、荷物を巻き上げた後、巻き下げを行う場合を例として説明する。
【0053】
時刻T0以前においては、クレーン運転は行われておらず、エンジン発電装置1のディーゼルエンジンは、エンジン回転速度Naで運転されている。このとき、エンジン発電装置1からは規定発電電力PMaが出力されている。また、蓄電装置6の蓄電電力61は、蓄電容量と等しいPBaの状態にあるものとする。この際、蓄電電力61はPBaであることから、NaからNbまでの加速に必要なエンジン発電装置1の加速用電力は、蓄電残量以下となるため、蓄電は行われない。
【0054】
次に、時刻T0において、荷物の巻き上げ指令を示す指令入力71が行われた場合、コントローラ7は、その操作指令に応じたエンジン回転速度Nbを示す運転指示10Aをエンジン発電装置1へ出力する。これによりエンジン発電装置1のエンジン回転速度がNaからNbへ徐々に上昇し、エンジン発電装置1からの発電電力15が増加し、この発電電力15と蓄電装置6からの蓄電電力61がインバータ41,42を介して主巻電動機31へ供給される。
【0055】
その後、時刻T1に、エンジン回転速度NがNbに到達して一定となり、発電電力15として最大発電電力PMbが出力され、蓄電電力はPBaまで低下する。この際、時刻T0〜T1の期間では、蓄電装置6から蓄電電力が徐々に放電されるものの、個々の時点におけるNbまでの加速に必要な加速用電力は、個々の時点における蓄電残量以下となることから、蓄電は行われない。一方、時刻T1〜T2の期間では、次回のクレーン動作として荷物の巻き下げが予想され、これ以上の加速は必要ないことから加速前後の回転速度差はゼロとなり、加速用電力は蓄電電力以下となるため、蓄電は行われない。
【0056】
また、時刻T2に、荷物の巻き下げ指令を示す指令入力71が行われた場合、コントローラ7は、その操作指令に応じたエンジン回転速度Naを示す運転指示10Aをエンジン発電装置1へ出力する。これによりエンジン発電装置1のエンジン回転速度がNbからNaへ徐々に低下し、エンジン発電装置1からの発電電力15が低減する。この際、時刻T2以降は、次回のクレーン動作として荷物の巻き上げすなわちNaからNbへの加速が予想されるため、加速用電力が蓄電電力より大きくなる。したがって、エンジン発電装置1からの発電電力15がインバータ41を介して蓄電装置6へ供給されて蓄電が行われる。
【0057】
その後、時刻T3に、エンジン回転速度Nが蓄電回転速度Nsに到達して一定となり、発電電力15として規定発電電力PMaが出力される。この際、時刻T3以降も、時刻T2以降と同様に加速用電力が蓄電電力より大きくなるため、蓄電が行われる。また、時刻T2から時刻T3までの期間には、荷物の巻き下げに応じて主巻電動機31で回生電力が発生し、インバータ41から蓄電装置6へ蓄電される。
【0058】
一方、時刻T4において、蓄電が進んで蓄電電力61がPBaまで達して加速用電力と等しくなり、蓄電装置6の蓄電が完了した場合、コントローラ7は、時刻T2の荷物の巻き下げ指令に応じたエンジン回転速度Naを示す運転指示10Aをエンジン発電装置1へ出力する。これにより、エンジン発電装置1では、ディーゼルエンジン11の回転速度が低下して、エンジン回転速度Naとなり、発電電力15もPMaとなる。
【0059】
[第2の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、コントローラ7により、エンジン発電装置1に対する任意の加速における加速開始時の回転速度7Aと加速終了時の回転速度7Bの差とエンジン発電装置1の慣性モーメント7Cとから加速用電力7Dを算出し、この加速用電力7Dと蓄電装置6の蓄電残量との比較結果に基づいてエンジン回転速度を制御するようにしたので、次のエンジン加速に必要な蓄電電力に応じた分だけエンジン発電装置1を所定の蓄電回転速度で運転することが可能となる。
【0060】
これにより、蓄電可能な電力を供給するために、エンジン発電装置1を所定の蓄電回転速度で、常時、運転しておく場合と比較して、エンジン発電装置1の燃費を効果的に削減でき、環境への影響も削減することが可能となる。
【0061】
なお、本実施の形態は、エンジン回転速度制御方法をクレーン装置に適用した場合を例として説明したが、これに限定されるものではなく、エンジン発電装置で発電した電力を電動機へ供給するとともに、蓄電装置により、その蓄電電力を補助的に電動機へ供給する電力供給装置であれば、いずれの場合にも本実施の形態を適用できる。
【0062】
[実施の形態の拡張]
以上の各実施の形態では、エンジン発電装置1で交流電力を発電して共通母線9へ供給する場合を例として説明したが、これに限定されるものではなく、エンジン発電装置1で直流電力を発電して共通母線9へ供給してもよい。この場合、共通母線9には、直流電力が供給されるため、インバータ41〜44として、DC/AC変換器が用いられる。
【0063】
また、直流電力を共通母線9へ供給する場合、蓄電装置6を共通母線9へ接続して、エンジン発電装置1からの発電電力15やインバータ41を介した主巻電動機31からの回生電力を蓄電するようにしてもよい。これにより、蓄電電力を主巻電動機31だけでなく例えば補機設備の電源としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施の形態にかかるクレーン装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】エンジン発電装置の加速用電力算出処理フロー図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態にかかるクレーン装置のエンジン回転速度制御処理を示すフローチャートである。
【図4】エンジン発電装置の発電電力とエンジン回転速度の関係を示す動作特性である。
【図5】本発明の第2の実施の形態にかかるクレーン装置の動作例を示すタイミングチャートである。
【図6】荷物巻き上げ時に必要なエネルギーを示す説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1…エンジン発電装置、10A…運転指示、11…ディーゼルエンジン、12…交流発電機、15…発電電力、31…主巻電動機、32…走行電動機、33…横行電動機、41〜44…インバータ、5…放電装置、6…蓄電装置、7…コントローラ、71…指令入力、9…共通母線。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより発電機を駆動して得られた発電電力を荷物の積み降ろしを行う電動機へ供給するエンジン発電装置と、
前記発電電または前記電動機からの回生電力を蓄電し、前記電動機の動作時に当該蓄電電力を補助的に前記電動機へ供給する蓄電装置と、
当該クレーン装置の動作状況に応じて前記エンジン発電装置のエンジン回転速度を制御するコントローラと
を備え、
前記蓄電装置は、前記エンジン発電装置のエンジン回転速度を発電可能な最低速度から最高速度へ加速するのに必要な電力を蓄電するための蓄電容量を有する
ことを特徴とするクレーン装置。
【請求項2】
エンジンにより発電機を駆動して得られた発電電力を荷物の積み降ろしを行う電動機へ供給するエンジン発電装置と、
前記発電電力または前記電動機からの回生電力を蓄電し、前記電動機の動作時に当該蓄電電力を補助的に前記電動機へ供給する蓄電装置と、
当該クレーン装置の動作状況に応じて前記エンジン発電装置のエンジン回転速度を制御するコントローラと
を備え、
前記コントローラは、前記エンジン発電装置に対する任意の加速における加速開始時の回転速度と加速終了時の回転速度の差と前記エンジン発電装置の慣性モーメントとから前記加速用電力を算出し、この加速用電力と前記蓄電電力の残量との比較結果に基づいて前記エンジン回転速度を制御することを特徴とするクレーン装置。
【請求項3】
請求項2に記載のクレーン装置において、
前記コントローラは、当該加速用電力が前記蓄電電力の残量より大きい場合は、前記エンジン発電装置の回転速度を所定の蓄電回転速度以上に維持し、当該加速用電力が前記蓄電電力の残量以下の場合は、当該クレーン装置の動作状況に応じて前記エンジン回転速度を制御することを特徴とするクレーン装置。
【請求項4】
エンジンにより発電機を駆動して得られた発電電力を電動機へ供給するエンジン発電装置と、前記発電電力を一時蓄電し、前記電動機の動作時に当該蓄電電力を補助的に前記電動機へ供給する蓄電装置と、前記エンジン発電装置の回転速度を制御するコントローラとを備える電力供給装置で用いられるエンジン回転速度制御方法であって、
前記コントローラにより、前記エンジン発電装置に対する任意の加速における加速開始時の回転速度と加速終了時の回転速度の差と前記エンジン発電装置の慣性モーメントとから前記加速用電力を算出するステップと、
前記コントローラにより、前記加速用電力と前記蓄電電力の残量との比較結果に基づいて前記エンジン回転速度を制御するステップと
を備えることを特徴とするエンジン回転速度制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載のエンジン回転速度制御方法において、
前記コントローラにより、当該加速用電力が前記蓄電電力の残量より大きい場合は、前記エンジン発電装置の回転速度を所定の蓄電回転速度以上に維持するステップと、
前記コントローラにより、当該加速用電力が前記蓄電電力の残量以下の場合は、前記電動機の駆動状況に応じて前記エンジン回転速度を制御するステップと
をさらに備えることを特徴とするエンジン回転速度制御方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−254821(P2008−254821A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95350(P2007−95350)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】