クロス・カップリング反応によるアルミニウム硬化材の製造方法
【課題】表面が非常に硬く且つ表面から内部に向けて徐々に軟らかくなる厚い硬化層を有するアルミニウム硬化材の製造方法を提供すること。
【解決手段】アルミニウム硬化材の製造方法は、Mg元素を含むアルミニウム合金材を表面硬化する方法であり、第1工程と第2工程とを有する。第1工程では、アルミニウム合金材10の表面にニッケル層20を15μm形成する。第2工程では、ニッケル層20が形成されたアルミニウム合金材10を550度まで加熱し60分〜90分保持する。こうして、母材(アルミニウム合金材10)の中のMg元素が触媒になって、Mgイオン及びAlイオンがニッケル層20の表面に向けて拡散して、AlとNiの高硬度の金属間化合物による硬化層を形成できる。
【解決手段】アルミニウム硬化材の製造方法は、Mg元素を含むアルミニウム合金材を表面硬化する方法であり、第1工程と第2工程とを有する。第1工程では、アルミニウム合金材10の表面にニッケル層20を15μm形成する。第2工程では、ニッケル層20が形成されたアルミニウム合金材10を550度まで加熱し60分〜90分保持する。こうして、母材(アルミニウム合金材10)の中のMg元素が触媒になって、Mgイオン及びAlイオンがニッケル層20の表面に向けて拡散して、AlとNiの高硬度の金属間化合物による硬化層を形成できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mg元素を含有するアルミニウム合金材の表面に適当な膜厚のニッケル層を形成した後500度〜600度に加熱すると、Mgイオンを触媒としたクロス・カップリング反応によって,表層部に高硬度のAlNi,Al3Ni,Al3Ni2,AlNi3,Al3Ni5等(以下適宜AlmNinと呼ぶ)の金属間化合物の皮膜が出来ることを示す加工方法である。
【背景技術】
【0002】
これまで自動車の構成部品の大部分は比較的比重の大きい鉄鋼製部品で構成されてきたが、燃費を向上させるために、鉄鋼製部品に代わる比重が小さくて軽い基材が求められてきた。そこで鉄の比重の約三分の一のアルミニウム合金材が代替材料として着目されて来た。しかし、アルミニウム合金材は軽比重材ではあるが通常の熱処理加工を施しても鉄鋼材料と比較すれば強度その他に於いて大きく劣る。更にアルミニウム合金材は大気中では,最表面に不活性の酸化皮膜を生成するため、窒化処理等の表面硬化処理は難しい。そこで、アルミニウム合金材の表面硬さを向上させる表面硬化法も提案されている。その一つが次に示す一例である。
【0003】
下記特許文献1には、イオン(プラズマ)窒化処理をする表面硬化方法が記載されている。この表面硬化方法では、先ずアルミニウム合金材の表面にメッキ法により鉄−クロム合金メッキ層を形成し、その後メッキされたアルミニウム合金材に対してイオン窒化処理を行う。このイオン窒化処理では、グロー放電によって窒素イオンが高いエネルギーをもって処理品の表面に衝突する。そして、窒素イオンが衝突の際に鉄−クロムと反応して処理品の表面から内部へ浸入拡散して、窒化クロムから成る5〜20μmの硬化(窒化)層が形成される。これにより、アルミニウム硬化材の表面のビッカース硬さを700〜1200HVまで大きくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−235096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のイオン窒化処理には、以下の問題がある。
先ず、上記した非常に硬い硬化層を20μm以上形成することが難しく、硬化層は非常に薄いものになる。その理由は、表面に窒化クロムが形成されることにより、窒素イオンを活性化させるグロー放電が持続し難くなり、窒素イオンが処理品の内部へ浸入拡散し難くなるためである。
そして、窒素イオンが浸入拡散しない部分、即ち硬化層が形成されない部分は、硬化層に比べて急激に軟らかくなっている。このため、上記特許文献1のアルミニウム硬化材は、表面から内部に向けて徐々に軟らかくなるものではなく、表面近傍にのみ非常に硬く且つ薄い硬化層を有するものになる。従って、摺動摩擦が極めて大きい場所で上記特許文献1のアルミニウム硬化材を用いる場合には、薄い硬化層が早く消耗して製品安全上好ましくない。また、上記特許文献1のアルミニウム硬化材にねじれ等が作用する場合には、硬化層の境界部分でひび割れ又は剥離が生じるおそれがあった。
【0006】
本発明は、上記した問題点を解決するためになされたものであり、表面が非常に硬く且つ表面から内部に向けて徐々に軟らかくなる厚い硬化層を有するアルミニウム硬化材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るアルミニウム硬化材の製造方法は、マグネシウム元素を含むアルミニウム合金材を表面硬化する方法であって、前記アルミニウム合金材の表面の酸化被膜を除去した上でニッケル層を10μm以上形成する第1工程と、前記ニッケル層が形成されたアルミニウム合金材を500度以上且つ600度以下の温度で加熱し所定時間保持する第2工程とを有することを特徴とする。そして、前記第2工程では、前記ニッケル層の厚さ及び加熱する温度に基づいて、母材の中のマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンが前記ニッケル層の表面に向けて拡散し、クロスカップリング反応によって金属間化合物を表層部に形成するまで、所定時間保持することを必要とする。
【0008】
本発明によれば、熱処理の加熱温度が500度以上且つ600度以下の高温雰囲気であるため、蒸気圧の低いMg(マグネシウム)元素はイオン化して表層部に向かって活発に拡散運動する。その際、イオン化したMg元素は周囲のイオン化したAl(アルミニウム)元素を誘導してアルミニウム合金材の表層部に向かって移動する。そして、表層部へ誘導されたAlイオンは、表層部でイオン化されているNi(ニッケル)元素と結合して、高硬度のAlNi,Al3Ni,Al3Ni2,AlNi3,Al3Ni5等の金属間化合物(AlmNin)を生成させる。即ち、高温雰囲気においてMg元素は触媒の働きをしてイオン化しているAl元素とNi元素を反応させて高硬度の金属間化合物を生成させる。この結果、硬化層の深さが例えばメッキ等で得られる硬化層の厚みの1.5倍以上の値になり、内部に向けて徐々に軟らかくなる厚い硬化層を有するアルミニウム硬化材を製造できる。
【0009】
また、本発明に係るアルミニウム硬化材の製造方法において、前記第2工程では、100Pa以下の低真空状態の減圧室内で、加熱しても良い。この場合には、低い酸素濃度の状態で加熱処理が行われるため、表面が綺麗なアルミニウム硬化材を製造することができると共に、イオン化したMg元素の触媒としての機能が活発になり、反応処理時間を短くすることができる。また、前記第2工程では、外熱型のイオン真空炉を用いてグロー放電で加熱しても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面が非常に硬く且つ表面から内部に向けて徐々に軟らかくなる厚い硬化層を有するアルミニウム硬化材を製造することができる。そして、製造されたアルミニウム硬化材は、自動車を構成する部品等で摺動摩擦が極めて大きい部位に用いても、硬化層が早く消耗することがなくて製品安全上好ましいものであり、ねじれ等が作用しても、硬化層の境界部分でひび割れ又は剥離が生じ難い。また、腕時計のバンドや腕時計の表示ケースに用いれば、軽くて傷が付き難い理想的な商品が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】母材であるアルミニウム合金材を示した概略図である。
【図2】第1工程により、ニッケル層及びクロム層が形成されたアルミニウム合金材を示した概略図である。
【図3】第2工程により、硬化層が形成されたアルミニウム硬化材を示した概略図である。
【図4】アルミニウムとマグネシウムの二元系合金の状態図である。
【図5】本実施形態のアルミニウム硬化材の硬さ推移曲線である。
【図6】本実施形態のアルミニウム硬化材の各スペクトルにおける各金属元素の重量%を示した成分表である。
【図7】マグネシウム元素を含むアルミニウム合金材を表面硬化処理した場合に、表面部分の電子顕微鏡画像である。
【図8】アルミニウムとニッケルの二元状態図である。
【図9】比較例のアルミニウム硬化材の硬さ推移曲線である。
【図10】比較例のアルミニウム硬化材の各スペクトルにおける各金属元素の重量%を示した成分表である。
【図11】マグネシウムを含まないアルミニウム合金材を表面硬化処理した場合に、表面部分の電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るアルミニウム硬化材の製造方法の実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。図1は、アルミニウム硬化材を製造するための母材であるアルミニウム合金材10を示した概略図である。アルミニウム合金材10は、JIS規格で6061番のものであって、重量%でMgが0.8〜1.2%,Siが0.4〜0.8%,Feが0.7%,Cuが0.15〜0.40%,Mnが0.15%,Crが0.04〜0.35%,Tiが0.15%,Alが残り全て含まれるものである。ここで、アルミニウム合金材10は、Mg元素を含むものであれば良く、例えばJIS規格で5000番台、6000番台のものであれば良い。このアルミニウム合金材10は、以下に示す第1工程及び第2工程により、表面硬化処理されるようになっている。
【0013】
<第1工程>
図2は、第1工程により、ニッケル層20及びクロム層30が形成されたアルミニウム合金材10を示した概略図である。ここで、図1に示したアルミニウム合金材10は、酸素との親和力が非常に大きいものであるため、表面に100オングストローム程度の薄い酸化皮膜(アルミナ層)を有する。この酸化皮膜により、アルミニウム合金材10の表面に密着性が良いメッキ層を直接形成することはできない。そこで、第1工程では、先ず、アルミニウム合金材10を亜鉛酸溶液に浸して、酸化皮膜を除去する。酸化皮膜が除去されたアルミニウム合金材10はメッキ液の中で次の工程へ移されるため、表面に新たに酸化皮膜が形成されることはない。そして、無電解メッキ法により、アルミニウム合金材10の表面に15μmのニッケル層20を形成する。その後、電気メッキ法により、ニッケル層20の表面に0.2μmのクロム層30を形成する。このようにして、ニッケル層20及びクロム層30が形成されたアルミニウム合金材10(以下、「メッキ層付合金材10A」と呼ぶ)が形成される。なお、本実施形態では、最表面の酸化を防止する目的でクロム層30を形成したが、クロム層30は実際には無くても問題ない。また、ニッケル層20を形成する方法は、無電解メッキ法に限定されるものではなく、適宜変更可能であり、電気メッキ法やニッケル粉末接着法によってニッケル層20を形成しても良い。
【0014】
<第2工程>
図3は、第2工程により、硬化層T1が形成されたアルミニウム硬化材10Bを示した概略図である。第2工程では、先ず減圧室(真空炉)内の酸素分圧を下げるため真空ポンプにより約0.1Torr(約13.3Pa)以下に排気する。その上で不活性ガスの窒素により約500Torr(約66500Pa)まで減圧室内を復圧する。この状態で450度〜500度まで昇温する。これはガスの対流による熱伝導が真空輻射加熱より遙かに速いからである。450度〜500度に雰囲気加熱で昇温した後、減圧室内の圧力を約20Pa(約2.0×10−4atm)の低真空状態まで減圧する。これはクロスカップリング反応をさせる準備である。この減圧雰囲気で減圧室を550度(量産時には600度まで使用可)昇温し、60分〜90分均熱保持する。この間にアルミニウム合金材10AのMg元素はイオン化し、周囲のイオン化したAlイオンと一緒にアルミニウム合金材10Aの表層部のニッケル層20へ移動拡散する。アルミニウム合金材10Aの表層部ではMgイオンに誘導されたAlイオンとNiイオンがクロスカップリング反応によって金属間化合物が連続生成されていく。550度×均熱時間60分〜90分の保持後、この真空雰囲気のまま500度〜450度まで炉冷させる。このように徐々に冷却するのは生成された金属間化合物の剥離を防止するためである。即ち、クロスカップリング反応で出来た硬い金属間化合物の層と熱膨張しているコアーの母材との間は冷却に伴う両者の間にかなりの力の引張り応力が働いている筈である。両者の応力を小さく収縮させるためにはワークの冷却速度を小さくしておく必要がある。炉温が500度〜450度付近になったら、500Torrに復圧し、常温付近までファン冷却させた後大気圧にして、出来上がったアルミニウム硬化材10Bを取り出す。
また、イオン真空炉を使用してグロー放電で加熱処理を行うときには、減圧室内を外側から加熱する外熱型のイオン真空炉を用いることが好ましい。通常のイオン真空炉では質量の小さいワークを設定温度に加熱するのはグロー放電時のワーク表面で放電するイオン・スパッタリング期間中のみで持続的に設定温度に保持するのは困難である。従って、質量の小さい部品の量産を熱処理するには真空容器の外側に発熱体を有するイオン真空炉が必要となる。この場合には、加熱対象であるワーク(メッキ層付合金材10A)が冷えずに熱処理を行うことができて、加熱処理を安定して行うことができる。
なお、加熱処理は、通常の真空炉やイオン真空炉の他に、表面酸化や熱処理時間の長さを問わなければ、大気炉を用いても加熱処理を行うことができる。
【0015】
ここで、上述した加熱温度を550度に設定する理由について、図4を用いて説明する。図4は、アルミニウムとマグネシウムとの二元系合金の状態図である。先ず、加熱温度は、図4に示した固相線SLより上側の温度であり且つ図4に示した液相線LLより下側の温度であることが必要である。即ち、450度以上であり且つ660度以下の温度である。これは、MgとAlとの固相を溶融して、母材(アルミニウム合金材10)中でイオン化したMg及びAlを動き易くするためである。
ところで、Alの融点は660度である。このため、メッキ層付合金材10Aを660度近傍まで加熱すると、Alが固体から液体に変化して母材が塑性変形してしまう。一方、発明者は、上述した条件においてメッキ層付合金材10Aを480度まで加熱した場合に、ひび割れが生じやすくなることを実験的に確認した。従って、本実施形態において、メッキ層付合金材10Aを500度以上であり且つ600度以下の温度で加熱することが好ましいことを知得した。
【0016】
また、上述した減圧室内の圧力を約20Paまで減圧したのは、低い酸素濃度の状態で加熱処理が行われるため、表面が綺麗なアルミニウム硬化材10Bを製造できるためである。更に、母材内でイオン化したMgイオンが蒸発するように活発に移動し易くなり、反応処理時間を短くできるためである。但し、加熱処理は必ずしも100Pa以下のような低真空状態で行う必要はなく、大気圧の状態であっても処理時間がかかり、表面の多少の酸化が避けられないが熱処理を行うことができる。
【0017】
次に、製造されたアルミニウム硬化材10Bにおける金属元素の成分について、図6及び図7を用いて説明する。このアルミニウム硬化材10Bは、走査電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置(SEM−EDX)を用いて分析されている。図7は、アルミニウム硬化材10Bの表面部分の電子顕微鏡画像であり、図6は、本実施形態のアルミニウム硬化材10Bの各スペクトルにおける各金属元素の重量%を示した成分表である。なお、SEM−EDXは、Hitachi−Hitec S−4800&Horiba EX350−actが用いられている。また、分析条件として、加速電圧は20kVに設定されている。
【0018】
図7において、アルミニウム硬化材10Bの表面側の第1層S1、即ちスペクトル1〜3の範囲では、下側の第2層S2より色が濃くなっている。この第1層S1は極めて硬くなっている部分である。第1層S1より下側の第2層S2、即ちスペクトル4〜8の範囲で、色が薄くなっている。この第2層S2はニッケル層20の性質が大きく残っている部分である。また、第2層S2より下側の第3層S3、即ちスペクトル9〜11の範囲で、色が濃くなっている。この第3層S3は母材(アルミニウム合金材10)の性質とニッケル層20の性質とが混在している部分である。
【0019】
図6において、スペクトル毎に表面からの深さ(μm)と各金属元素の重量%が示されている。ここで、先ず第1層S1において、特にMg,Al,Niの重量%について説明する。第1層S1は、スペクトル1〜3の範囲であり、表面からの深さが0.00〜約3.73μmまでの部分である。この第1層S1は、第2工程を経る前に、表面に0.2μmのクロム層30が形成され、クロム層30の下に15μmのニッケル層20が形成されていた部分である。なお、クロム層30は極めて薄い層であったため、Crの重量%については無視する。第2工程を経る前の第1層S1では、ニッケル層20によってNiが極めて多く(例えば80%以上)含まれている。しかし、第2工程を経た結果では、図6に示したように、第1層S1ではNiが20%以下に減少した反面、Alが70%以上になっており、これらの現象では、Mg元素が母材内部から触媒(Mgイオン)の働きをしながら表層部へ蒸発移動して表層部に5%以上残存したことによると考えられる。即ち、以下のことが考察できる。
【0020】
第1層S1において、第2工程を経なければほとんど存在しないMgが、5%以上あるのは、第2工程により母材内部から表層部に向かってイオン化した状態で移動したものと考えられる。また、第2工程を経なければほとんど存在しないAlが、70%以上であるのは、第2工程により母材内部から表面に向かって移動したMg自身が同時に触媒の働きをして材料内部のAlをイオン化させ、表層部へ拡散させたためである。一方、第2工程を経なければ極めて多く存在しているはずのNiが、第2工程を経た後では20%以下になっている。これは、第2工程においてNiがMg及びAlの移動に伴って、母材の内部に向けて拡散し、母材のAlと結合し、AlNi,Al3Ni,Al3Ni2,AlNi3,Al3Ni5等の金属間化合物(AlmNin)を生成したためである。ここで、図8は、アルミニウムとニッケルの二元状態図であり、横軸にAlとNiの各々の重量%の割合が示され、縦軸に温度が示されていて、AlとNiの両者がどんな関係にあるかを示している。図8に示した二元状態図から、上述した5つの金属間化合物(AlNi,Al3Ni,Al3Ni2,AlNi3,Al3Ni5)が生成されたことが分かる。
【0021】
次に第2層S2において、特にMg,Al,Niの重量%について説明する。第2層S2は、スペクトル4〜8の範囲であり、表面からの深さが5.53〜26.9μmまでの部分である。この第2層S2は、第2工程を経る前に、上側部分S2a(スペクトル4,5の範囲)でニッケル層20が形成されていた部分であり、下側部分S2b(スペクトル6〜8の範囲)で母材であった部分である。このため、第2工程を経る前の第2層S2の上側部分S2aでは、ニッケル層20によってNiが極めて多く含まれている。また、第2工程を経る前の第2層S2の下側部分S2bでは、母材によってAlが極めて多く含まれている。しかし、第2工程を経た結果、図6に示したように、第2層S2ではNi元素が30%以上且つ50%以下になっていて、Al元素が70%以下且つ50%以上になっていて、Mg元素が5%以下になっている。この結果により、以下のことが考察できる。
【0022】
第2層S2でMgが第1層S1より少ないのは、第2工程によりMgが母材から第1層へ多く移動したためである。また、第2層S2の上側部分S2aにおいて、第2工程を経なければほとんど存在しないAl元素が、70%以下且つ50%以上であるのは、第2工程によりAlが母材及び第2層S2の下側部分S2bから移動してきたためである。また、第2層S2の下側部分S2bにおいて、第2工程を経なければほとんど存在しないNiが、30%以上且つ50%以下であることを示しているのは、第2工程によりNiが第1層S1及び第2層S2の上側部分S2aから移動してきたためである。
【0023】
続いて第3層S3において、特にMg,Al,Niの重量%について説明する。第3層S3は、スペクトル9〜11の範囲であり、表面からの深さが30.44〜38.9μmまでの部分である。この第3層S3は、第2工程を経る前に母材であった部分である。このため、第2工程を経る前の第3層S3では、Alが極めて多く含まれている。しかし、第2工程を経た結果、図6に示したように、第3層S3において、内部側に(スペクトル9からスペクトル11に)向かうに従ってAlの重量%が増加していて、スペクトル11でAlが90%以上であることを示している。また、図7に示したように、第3層S3において、内部側に向かうに従ってNiの重量%が減少していて、スペクトル11でNiが1%以下である。このことから、第3層S3において内部側に向かうに従って、母材の性質に近づいていて、第2工程による表面硬化処理の影響が小さくなっている。
【0024】
次に、アルミニウム硬化材10Bのビッカース硬さ(HV)と表面からの深さ(μm)との関係について、図5を用いて説明する。なお、図5に示したアルミニウム硬化材10Bの硬さ推移曲線は、以下の方法により作成されている。先ず、アルミニウム硬化材10Bを表面に対して垂直に切断し、切断面を研磨仕上げして被検面とする。そして、被検面の測定しようとする位置について、アルミニウム硬化材10Bを送りながらビッカース硬さ試験により順次測定を行う。こうして、硬さ推移曲線が作成される。
【0025】
図5に示したように、このアルミニウム硬化材10Bでは、母材としてのビッカース硬さが84HVであり、深さが75μmでビッカース硬さが95HVとなっている。アルミニウム硬化材10Bの硬化層T1は、金属間化合物(AlNi,Al3Ni,Al3Ni2,AlNi3,Al3Ni5)が生成された層である。そして、表面でビッカース硬さが780HVであり、表面から20μmの深さでビッカース硬さが742HVであるため、表面部分が非常に硬いものである。これは、図6に示した第1層S1(スペクトル1からスペクトル3)の領域のAlとNiの分布状況から推測できる。更に、表面から50μmの深さでビッカース硬さが237HVであるため、硬化層T1が厚くて表面から内部に向けて徐々に軟らかくものである。即ち、最表面から20μmを超えた領域から金属間化合物(AlmNin)を生成させるためのNiイオンの重量%が30%以下になり、硬度が下がって行く。
【0026】
ところで、発明者は、上述したような硬化層T1が形成される理由がアルミニウム合金材10に含まれるMg元素が原因ではないかと考えた。そこで、発明者は、Mg元素が含まれているアルミニウム合金材10に換えて、Mg元素が含まれていないアルミニウム合金材40を用いて、上述した第1工程及び第2工程と同様の表面硬化処理を行い、比較例としてアルミニウム硬化材(以下、アルミニウム硬化材40Bと呼ぶ)を製造した。なお、母材として用いたアルミニウム合金材40は、JIS規格で2011番のものであって、重量%でSiが0.40%,Feが0.7%,Cuが5.0〜6.0%,Znが0.3%,Pbが0.2〜0.6%又はBiが0.2〜0.6%,Alが残り全て含まれるものである。製造されたアルミニウム硬化材40Bにおける金属元素の成分について、図10及び図11を用いて説明する。
【0027】
図11では、アルミニウム硬化材40Bの表面側の第1層U1、即ちスペクトル1〜3の範囲で、色が薄くなっている。そして、図10でスペクトル1〜3を見ると、Niが極めて多く含まれているのに対して、Alが全く含まれていない。また、図11では、第1層U1より下側の第2層U2、即ちスペクトル4で、色が第1層U1より濃くなっている。そして、図10でスペクトル4を見ると、Niが第1層U1より少ないのに対して、Alが第1層U1より多くなっている。そして、図10でスペクトル5〜6を見ると、Niがほとんど含まれていないのに対して、Alが極めて多く含まれている。このことから、アルミニウム硬化材40Bは、アルミニウム硬化材10BのようにAlが母材から表面に向かって拡散したものではなく、表面側にニッケル層を構成していたNiが多く残っているものである。
【0028】
次に、アルミニウム硬化材40Bのビッカース硬さ(HV)と表面からの深さ(μm)との関係について、図9を用いて説明する。アルミニウム硬化材40Bでは、図9に示したように、母材としてのビッカース硬さが73〜79HVであり、深さが20μmでビッカース硬さが64HVとなっている。このため、アルミニウム硬化材40Bは、表面から約15μm程度の深さまで母材より硬い硬化層を有する。しかし、アルミニウム硬化材40Bは、元々15μmのニッケル層が形成されていたものであって、硬化層の硬さはニッケル層の硬さと同様である。従って、硬化層は、第2工程により新たに形成されたものではなく、ニッケル層がそのまま残ったものである。
【0029】
本実施形態の作用効果について説明する。
本実施形態によれば、高温雰囲気で加熱することで、蒸気圧の低いMg元素はイオン化して表層部に向かって活発に拡散運動する。その際、イオン化したMg元素は周囲のイオン化したAl元素を誘導して表層部に向かって移動する。そして、表層部へ誘導されたAlイオンは、表層部でイオン化されているNi元素と結合して、高硬度の金属間化合物(AlmNin)を生成させる。即ち、高温雰囲気においてMg元素は触媒の働きをしてイオン化しているAl元素とNi元素を、クロスカップリング反応させて高硬度の金属間化合物を生成させる。この結果、硬化層T1の深さが例えばメッキ等で得られる硬化層の厚みの1.5倍以上の値になり、内部に向けて徐々に軟らかくなる厚い硬化層T1を有するアルミニウム硬化材10Bを製造できる。
【0030】
そして、本実施形態によって製造されたアルミニウム硬化材10Bは、自動車を構成する部品、例えば摺動等の摩擦を受ける部分であるシリンダや弁等に用いることができ、表面でビッカース硬さが750HV以上であり且つ表面から少なくとも20μmの深さでビッカース硬さが700HV以上であるため、表面部分が非常に硬い。特に、表面から少なくとも50μmの深さでビッカース硬さが200HV以上であるため、硬化層T1が厚くて表面から内部に向けて徐々に軟らかくなるものである。従って、このアルミニウム硬化材10Bは、摺動摩擦が極めて大きい部位に用いても、硬化層T1が早く消耗することがなくて製品安全上好ましいものであり、ねじれ等が作用しても、硬化層の境界部分でひび割れ又は剥離は生じ難い。
他方、腕時計のバンドには従来から錆び難いステンレス製のものが利用されているが、比較的重くオーステナイト系ステンレス材で構成されているため、部品表面が軟らかく傷も付き易い。一方、製造されたアルミニウム硬化材10Bを腕時計のバンドに用いれば、表面が金属間化合物(AlmNin)によってビッカース硬さが750HV以上であるため、軽くて傷が付き難い理想的な商品が期待できる。
【0031】
なお、発明者は、15μmのニッケル層20と0.2μmのクロム層30が形成されたアルミニウム合金材10に換えて、15μmのクロム層30のみが形成されたアルミニウム合金材10に対して第2工程の表面硬化処理を行った。この場合には、クロム層30の最表面のビッカース硬さは1048HVであったが、製造されたアルミニウム硬化材の硬化層は、破砕状に剥がれてしまった。従って、発明者は、ニッケル層20が形成されたアルミニウム合金材10に対して第2工程の表面硬化処理を行うことの有効性を確認した。
【0032】
なお、ニッケル層20の厚さが大きくなる程、また加熱温度が低くなる程、母材の中のMgイオン及びAlイオンがニッケル層20の表面に向けて拡散するまでの時間が多くなる。このため、メッキ層付合金材10Aを加熱保持する所定時間は、ニッケル層20の厚さ及び加熱温度に基づいて、母材の中のMgイオン及びAlイオンがニッケル層20の表面に向けて拡散するとともに、ニッケル層20の中のNiイオンが母材の内部に向けて拡散するまでの時間を考慮して設定される。
【0033】
以上、本発明に係るアルミニウム硬化材の製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、アルミニウム合金材10の酸化皮膜を除去する方法は、亜鉛酸液に浸す方法に限定されるものではなく、例えば、スパッタリング法によって酸化皮膜を除去しても良い。
【0034】
また、クロム層30の厚さ(0.2μm)、加熱温度(550度)、減圧室内の圧力(約20Pa)、第2工程の処理時間(60分〜90分)は、上記した数値に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
また、本実施形態では、厚さが15μmのニッケル層20を形成したが、厚さが10μm以上であれば少なくとも1.5倍以上である15μmの金属間化合物の硬化層を形成することができる。従って、ニッケル層20の厚さは10μm以上であれば適宜変更可能である。
【0035】
なお、高硬度の金属間化合物の硬化層が生成される時間と厚さは、設定する熱処理時間(500度以上且つ600度以下の温度)と保持時間によって決まる。そして、母材であるアルミニウム合金材の熱膨張・収縮率は大きいが、生成される硬化層の熱膨張・収縮率は極めて小さい。従って、熱処理が終了し、常温まで試料が冷却される段階で硬化した表層部(硬化層)と母材の非硬化部の間には、表層部の抗長力A1と非硬化部の収縮による引張応力B1が働く。引張応力B1が抗長力A1より大きい場合には、硬化層が剥離するおそれがあるため、アルミニウム合金材の厚さの2分の1である部分から引張応力B1を算出し、この引張応力B1を超える抗張力A1を算定して、アルミニウム合金材の表面に形成するニッケル層の厚さを決定すれば良い。
【符号の説明】
【0036】
10 アルミニウム合金材
10A メッキ層付合金材
10B アルミニウム硬化材
T1 硬化層
S1 第1層
S2 第2層
S3 第3層
20 ニッケル層
30 クロム層
40 アルミニウム合金材
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mg元素を含有するアルミニウム合金材の表面に適当な膜厚のニッケル層を形成した後500度〜600度に加熱すると、Mgイオンを触媒としたクロス・カップリング反応によって,表層部に高硬度のAlNi,Al3Ni,Al3Ni2,AlNi3,Al3Ni5等(以下適宜AlmNinと呼ぶ)の金属間化合物の皮膜が出来ることを示す加工方法である。
【背景技術】
【0002】
これまで自動車の構成部品の大部分は比較的比重の大きい鉄鋼製部品で構成されてきたが、燃費を向上させるために、鉄鋼製部品に代わる比重が小さくて軽い基材が求められてきた。そこで鉄の比重の約三分の一のアルミニウム合金材が代替材料として着目されて来た。しかし、アルミニウム合金材は軽比重材ではあるが通常の熱処理加工を施しても鉄鋼材料と比較すれば強度その他に於いて大きく劣る。更にアルミニウム合金材は大気中では,最表面に不活性の酸化皮膜を生成するため、窒化処理等の表面硬化処理は難しい。そこで、アルミニウム合金材の表面硬さを向上させる表面硬化法も提案されている。その一つが次に示す一例である。
【0003】
下記特許文献1には、イオン(プラズマ)窒化処理をする表面硬化方法が記載されている。この表面硬化方法では、先ずアルミニウム合金材の表面にメッキ法により鉄−クロム合金メッキ層を形成し、その後メッキされたアルミニウム合金材に対してイオン窒化処理を行う。このイオン窒化処理では、グロー放電によって窒素イオンが高いエネルギーをもって処理品の表面に衝突する。そして、窒素イオンが衝突の際に鉄−クロムと反応して処理品の表面から内部へ浸入拡散して、窒化クロムから成る5〜20μmの硬化(窒化)層が形成される。これにより、アルミニウム硬化材の表面のビッカース硬さを700〜1200HVまで大きくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−235096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のイオン窒化処理には、以下の問題がある。
先ず、上記した非常に硬い硬化層を20μm以上形成することが難しく、硬化層は非常に薄いものになる。その理由は、表面に窒化クロムが形成されることにより、窒素イオンを活性化させるグロー放電が持続し難くなり、窒素イオンが処理品の内部へ浸入拡散し難くなるためである。
そして、窒素イオンが浸入拡散しない部分、即ち硬化層が形成されない部分は、硬化層に比べて急激に軟らかくなっている。このため、上記特許文献1のアルミニウム硬化材は、表面から内部に向けて徐々に軟らかくなるものではなく、表面近傍にのみ非常に硬く且つ薄い硬化層を有するものになる。従って、摺動摩擦が極めて大きい場所で上記特許文献1のアルミニウム硬化材を用いる場合には、薄い硬化層が早く消耗して製品安全上好ましくない。また、上記特許文献1のアルミニウム硬化材にねじれ等が作用する場合には、硬化層の境界部分でひび割れ又は剥離が生じるおそれがあった。
【0006】
本発明は、上記した問題点を解決するためになされたものであり、表面が非常に硬く且つ表面から内部に向けて徐々に軟らかくなる厚い硬化層を有するアルミニウム硬化材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るアルミニウム硬化材の製造方法は、マグネシウム元素を含むアルミニウム合金材を表面硬化する方法であって、前記アルミニウム合金材の表面の酸化被膜を除去した上でニッケル層を10μm以上形成する第1工程と、前記ニッケル層が形成されたアルミニウム合金材を500度以上且つ600度以下の温度で加熱し所定時間保持する第2工程とを有することを特徴とする。そして、前記第2工程では、前記ニッケル層の厚さ及び加熱する温度に基づいて、母材の中のマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンが前記ニッケル層の表面に向けて拡散し、クロスカップリング反応によって金属間化合物を表層部に形成するまで、所定時間保持することを必要とする。
【0008】
本発明によれば、熱処理の加熱温度が500度以上且つ600度以下の高温雰囲気であるため、蒸気圧の低いMg(マグネシウム)元素はイオン化して表層部に向かって活発に拡散運動する。その際、イオン化したMg元素は周囲のイオン化したAl(アルミニウム)元素を誘導してアルミニウム合金材の表層部に向かって移動する。そして、表層部へ誘導されたAlイオンは、表層部でイオン化されているNi(ニッケル)元素と結合して、高硬度のAlNi,Al3Ni,Al3Ni2,AlNi3,Al3Ni5等の金属間化合物(AlmNin)を生成させる。即ち、高温雰囲気においてMg元素は触媒の働きをしてイオン化しているAl元素とNi元素を反応させて高硬度の金属間化合物を生成させる。この結果、硬化層の深さが例えばメッキ等で得られる硬化層の厚みの1.5倍以上の値になり、内部に向けて徐々に軟らかくなる厚い硬化層を有するアルミニウム硬化材を製造できる。
【0009】
また、本発明に係るアルミニウム硬化材の製造方法において、前記第2工程では、100Pa以下の低真空状態の減圧室内で、加熱しても良い。この場合には、低い酸素濃度の状態で加熱処理が行われるため、表面が綺麗なアルミニウム硬化材を製造することができると共に、イオン化したMg元素の触媒としての機能が活発になり、反応処理時間を短くすることができる。また、前記第2工程では、外熱型のイオン真空炉を用いてグロー放電で加熱しても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面が非常に硬く且つ表面から内部に向けて徐々に軟らかくなる厚い硬化層を有するアルミニウム硬化材を製造することができる。そして、製造されたアルミニウム硬化材は、自動車を構成する部品等で摺動摩擦が極めて大きい部位に用いても、硬化層が早く消耗することがなくて製品安全上好ましいものであり、ねじれ等が作用しても、硬化層の境界部分でひび割れ又は剥離が生じ難い。また、腕時計のバンドや腕時計の表示ケースに用いれば、軽くて傷が付き難い理想的な商品が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】母材であるアルミニウム合金材を示した概略図である。
【図2】第1工程により、ニッケル層及びクロム層が形成されたアルミニウム合金材を示した概略図である。
【図3】第2工程により、硬化層が形成されたアルミニウム硬化材を示した概略図である。
【図4】アルミニウムとマグネシウムの二元系合金の状態図である。
【図5】本実施形態のアルミニウム硬化材の硬さ推移曲線である。
【図6】本実施形態のアルミニウム硬化材の各スペクトルにおける各金属元素の重量%を示した成分表である。
【図7】マグネシウム元素を含むアルミニウム合金材を表面硬化処理した場合に、表面部分の電子顕微鏡画像である。
【図8】アルミニウムとニッケルの二元状態図である。
【図9】比較例のアルミニウム硬化材の硬さ推移曲線である。
【図10】比較例のアルミニウム硬化材の各スペクトルにおける各金属元素の重量%を示した成分表である。
【図11】マグネシウムを含まないアルミニウム合金材を表面硬化処理した場合に、表面部分の電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るアルミニウム硬化材の製造方法の実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。図1は、アルミニウム硬化材を製造するための母材であるアルミニウム合金材10を示した概略図である。アルミニウム合金材10は、JIS規格で6061番のものであって、重量%でMgが0.8〜1.2%,Siが0.4〜0.8%,Feが0.7%,Cuが0.15〜0.40%,Mnが0.15%,Crが0.04〜0.35%,Tiが0.15%,Alが残り全て含まれるものである。ここで、アルミニウム合金材10は、Mg元素を含むものであれば良く、例えばJIS規格で5000番台、6000番台のものであれば良い。このアルミニウム合金材10は、以下に示す第1工程及び第2工程により、表面硬化処理されるようになっている。
【0013】
<第1工程>
図2は、第1工程により、ニッケル層20及びクロム層30が形成されたアルミニウム合金材10を示した概略図である。ここで、図1に示したアルミニウム合金材10は、酸素との親和力が非常に大きいものであるため、表面に100オングストローム程度の薄い酸化皮膜(アルミナ層)を有する。この酸化皮膜により、アルミニウム合金材10の表面に密着性が良いメッキ層を直接形成することはできない。そこで、第1工程では、先ず、アルミニウム合金材10を亜鉛酸溶液に浸して、酸化皮膜を除去する。酸化皮膜が除去されたアルミニウム合金材10はメッキ液の中で次の工程へ移されるため、表面に新たに酸化皮膜が形成されることはない。そして、無電解メッキ法により、アルミニウム合金材10の表面に15μmのニッケル層20を形成する。その後、電気メッキ法により、ニッケル層20の表面に0.2μmのクロム層30を形成する。このようにして、ニッケル層20及びクロム層30が形成されたアルミニウム合金材10(以下、「メッキ層付合金材10A」と呼ぶ)が形成される。なお、本実施形態では、最表面の酸化を防止する目的でクロム層30を形成したが、クロム層30は実際には無くても問題ない。また、ニッケル層20を形成する方法は、無電解メッキ法に限定されるものではなく、適宜変更可能であり、電気メッキ法やニッケル粉末接着法によってニッケル層20を形成しても良い。
【0014】
<第2工程>
図3は、第2工程により、硬化層T1が形成されたアルミニウム硬化材10Bを示した概略図である。第2工程では、先ず減圧室(真空炉)内の酸素分圧を下げるため真空ポンプにより約0.1Torr(約13.3Pa)以下に排気する。その上で不活性ガスの窒素により約500Torr(約66500Pa)まで減圧室内を復圧する。この状態で450度〜500度まで昇温する。これはガスの対流による熱伝導が真空輻射加熱より遙かに速いからである。450度〜500度に雰囲気加熱で昇温した後、減圧室内の圧力を約20Pa(約2.0×10−4atm)の低真空状態まで減圧する。これはクロスカップリング反応をさせる準備である。この減圧雰囲気で減圧室を550度(量産時には600度まで使用可)昇温し、60分〜90分均熱保持する。この間にアルミニウム合金材10AのMg元素はイオン化し、周囲のイオン化したAlイオンと一緒にアルミニウム合金材10Aの表層部のニッケル層20へ移動拡散する。アルミニウム合金材10Aの表層部ではMgイオンに誘導されたAlイオンとNiイオンがクロスカップリング反応によって金属間化合物が連続生成されていく。550度×均熱時間60分〜90分の保持後、この真空雰囲気のまま500度〜450度まで炉冷させる。このように徐々に冷却するのは生成された金属間化合物の剥離を防止するためである。即ち、クロスカップリング反応で出来た硬い金属間化合物の層と熱膨張しているコアーの母材との間は冷却に伴う両者の間にかなりの力の引張り応力が働いている筈である。両者の応力を小さく収縮させるためにはワークの冷却速度を小さくしておく必要がある。炉温が500度〜450度付近になったら、500Torrに復圧し、常温付近までファン冷却させた後大気圧にして、出来上がったアルミニウム硬化材10Bを取り出す。
また、イオン真空炉を使用してグロー放電で加熱処理を行うときには、減圧室内を外側から加熱する外熱型のイオン真空炉を用いることが好ましい。通常のイオン真空炉では質量の小さいワークを設定温度に加熱するのはグロー放電時のワーク表面で放電するイオン・スパッタリング期間中のみで持続的に設定温度に保持するのは困難である。従って、質量の小さい部品の量産を熱処理するには真空容器の外側に発熱体を有するイオン真空炉が必要となる。この場合には、加熱対象であるワーク(メッキ層付合金材10A)が冷えずに熱処理を行うことができて、加熱処理を安定して行うことができる。
なお、加熱処理は、通常の真空炉やイオン真空炉の他に、表面酸化や熱処理時間の長さを問わなければ、大気炉を用いても加熱処理を行うことができる。
【0015】
ここで、上述した加熱温度を550度に設定する理由について、図4を用いて説明する。図4は、アルミニウムとマグネシウムとの二元系合金の状態図である。先ず、加熱温度は、図4に示した固相線SLより上側の温度であり且つ図4に示した液相線LLより下側の温度であることが必要である。即ち、450度以上であり且つ660度以下の温度である。これは、MgとAlとの固相を溶融して、母材(アルミニウム合金材10)中でイオン化したMg及びAlを動き易くするためである。
ところで、Alの融点は660度である。このため、メッキ層付合金材10Aを660度近傍まで加熱すると、Alが固体から液体に変化して母材が塑性変形してしまう。一方、発明者は、上述した条件においてメッキ層付合金材10Aを480度まで加熱した場合に、ひび割れが生じやすくなることを実験的に確認した。従って、本実施形態において、メッキ層付合金材10Aを500度以上であり且つ600度以下の温度で加熱することが好ましいことを知得した。
【0016】
また、上述した減圧室内の圧力を約20Paまで減圧したのは、低い酸素濃度の状態で加熱処理が行われるため、表面が綺麗なアルミニウム硬化材10Bを製造できるためである。更に、母材内でイオン化したMgイオンが蒸発するように活発に移動し易くなり、反応処理時間を短くできるためである。但し、加熱処理は必ずしも100Pa以下のような低真空状態で行う必要はなく、大気圧の状態であっても処理時間がかかり、表面の多少の酸化が避けられないが熱処理を行うことができる。
【0017】
次に、製造されたアルミニウム硬化材10Bにおける金属元素の成分について、図6及び図7を用いて説明する。このアルミニウム硬化材10Bは、走査電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置(SEM−EDX)を用いて分析されている。図7は、アルミニウム硬化材10Bの表面部分の電子顕微鏡画像であり、図6は、本実施形態のアルミニウム硬化材10Bの各スペクトルにおける各金属元素の重量%を示した成分表である。なお、SEM−EDXは、Hitachi−Hitec S−4800&Horiba EX350−actが用いられている。また、分析条件として、加速電圧は20kVに設定されている。
【0018】
図7において、アルミニウム硬化材10Bの表面側の第1層S1、即ちスペクトル1〜3の範囲では、下側の第2層S2より色が濃くなっている。この第1層S1は極めて硬くなっている部分である。第1層S1より下側の第2層S2、即ちスペクトル4〜8の範囲で、色が薄くなっている。この第2層S2はニッケル層20の性質が大きく残っている部分である。また、第2層S2より下側の第3層S3、即ちスペクトル9〜11の範囲で、色が濃くなっている。この第3層S3は母材(アルミニウム合金材10)の性質とニッケル層20の性質とが混在している部分である。
【0019】
図6において、スペクトル毎に表面からの深さ(μm)と各金属元素の重量%が示されている。ここで、先ず第1層S1において、特にMg,Al,Niの重量%について説明する。第1層S1は、スペクトル1〜3の範囲であり、表面からの深さが0.00〜約3.73μmまでの部分である。この第1層S1は、第2工程を経る前に、表面に0.2μmのクロム層30が形成され、クロム層30の下に15μmのニッケル層20が形成されていた部分である。なお、クロム層30は極めて薄い層であったため、Crの重量%については無視する。第2工程を経る前の第1層S1では、ニッケル層20によってNiが極めて多く(例えば80%以上)含まれている。しかし、第2工程を経た結果では、図6に示したように、第1層S1ではNiが20%以下に減少した反面、Alが70%以上になっており、これらの現象では、Mg元素が母材内部から触媒(Mgイオン)の働きをしながら表層部へ蒸発移動して表層部に5%以上残存したことによると考えられる。即ち、以下のことが考察できる。
【0020】
第1層S1において、第2工程を経なければほとんど存在しないMgが、5%以上あるのは、第2工程により母材内部から表層部に向かってイオン化した状態で移動したものと考えられる。また、第2工程を経なければほとんど存在しないAlが、70%以上であるのは、第2工程により母材内部から表面に向かって移動したMg自身が同時に触媒の働きをして材料内部のAlをイオン化させ、表層部へ拡散させたためである。一方、第2工程を経なければ極めて多く存在しているはずのNiが、第2工程を経た後では20%以下になっている。これは、第2工程においてNiがMg及びAlの移動に伴って、母材の内部に向けて拡散し、母材のAlと結合し、AlNi,Al3Ni,Al3Ni2,AlNi3,Al3Ni5等の金属間化合物(AlmNin)を生成したためである。ここで、図8は、アルミニウムとニッケルの二元状態図であり、横軸にAlとNiの各々の重量%の割合が示され、縦軸に温度が示されていて、AlとNiの両者がどんな関係にあるかを示している。図8に示した二元状態図から、上述した5つの金属間化合物(AlNi,Al3Ni,Al3Ni2,AlNi3,Al3Ni5)が生成されたことが分かる。
【0021】
次に第2層S2において、特にMg,Al,Niの重量%について説明する。第2層S2は、スペクトル4〜8の範囲であり、表面からの深さが5.53〜26.9μmまでの部分である。この第2層S2は、第2工程を経る前に、上側部分S2a(スペクトル4,5の範囲)でニッケル層20が形成されていた部分であり、下側部分S2b(スペクトル6〜8の範囲)で母材であった部分である。このため、第2工程を経る前の第2層S2の上側部分S2aでは、ニッケル層20によってNiが極めて多く含まれている。また、第2工程を経る前の第2層S2の下側部分S2bでは、母材によってAlが極めて多く含まれている。しかし、第2工程を経た結果、図6に示したように、第2層S2ではNi元素が30%以上且つ50%以下になっていて、Al元素が70%以下且つ50%以上になっていて、Mg元素が5%以下になっている。この結果により、以下のことが考察できる。
【0022】
第2層S2でMgが第1層S1より少ないのは、第2工程によりMgが母材から第1層へ多く移動したためである。また、第2層S2の上側部分S2aにおいて、第2工程を経なければほとんど存在しないAl元素が、70%以下且つ50%以上であるのは、第2工程によりAlが母材及び第2層S2の下側部分S2bから移動してきたためである。また、第2層S2の下側部分S2bにおいて、第2工程を経なければほとんど存在しないNiが、30%以上且つ50%以下であることを示しているのは、第2工程によりNiが第1層S1及び第2層S2の上側部分S2aから移動してきたためである。
【0023】
続いて第3層S3において、特にMg,Al,Niの重量%について説明する。第3層S3は、スペクトル9〜11の範囲であり、表面からの深さが30.44〜38.9μmまでの部分である。この第3層S3は、第2工程を経る前に母材であった部分である。このため、第2工程を経る前の第3層S3では、Alが極めて多く含まれている。しかし、第2工程を経た結果、図6に示したように、第3層S3において、内部側に(スペクトル9からスペクトル11に)向かうに従ってAlの重量%が増加していて、スペクトル11でAlが90%以上であることを示している。また、図7に示したように、第3層S3において、内部側に向かうに従ってNiの重量%が減少していて、スペクトル11でNiが1%以下である。このことから、第3層S3において内部側に向かうに従って、母材の性質に近づいていて、第2工程による表面硬化処理の影響が小さくなっている。
【0024】
次に、アルミニウム硬化材10Bのビッカース硬さ(HV)と表面からの深さ(μm)との関係について、図5を用いて説明する。なお、図5に示したアルミニウム硬化材10Bの硬さ推移曲線は、以下の方法により作成されている。先ず、アルミニウム硬化材10Bを表面に対して垂直に切断し、切断面を研磨仕上げして被検面とする。そして、被検面の測定しようとする位置について、アルミニウム硬化材10Bを送りながらビッカース硬さ試験により順次測定を行う。こうして、硬さ推移曲線が作成される。
【0025】
図5に示したように、このアルミニウム硬化材10Bでは、母材としてのビッカース硬さが84HVであり、深さが75μmでビッカース硬さが95HVとなっている。アルミニウム硬化材10Bの硬化層T1は、金属間化合物(AlNi,Al3Ni,Al3Ni2,AlNi3,Al3Ni5)が生成された層である。そして、表面でビッカース硬さが780HVであり、表面から20μmの深さでビッカース硬さが742HVであるため、表面部分が非常に硬いものである。これは、図6に示した第1層S1(スペクトル1からスペクトル3)の領域のAlとNiの分布状況から推測できる。更に、表面から50μmの深さでビッカース硬さが237HVであるため、硬化層T1が厚くて表面から内部に向けて徐々に軟らかくものである。即ち、最表面から20μmを超えた領域から金属間化合物(AlmNin)を生成させるためのNiイオンの重量%が30%以下になり、硬度が下がって行く。
【0026】
ところで、発明者は、上述したような硬化層T1が形成される理由がアルミニウム合金材10に含まれるMg元素が原因ではないかと考えた。そこで、発明者は、Mg元素が含まれているアルミニウム合金材10に換えて、Mg元素が含まれていないアルミニウム合金材40を用いて、上述した第1工程及び第2工程と同様の表面硬化処理を行い、比較例としてアルミニウム硬化材(以下、アルミニウム硬化材40Bと呼ぶ)を製造した。なお、母材として用いたアルミニウム合金材40は、JIS規格で2011番のものであって、重量%でSiが0.40%,Feが0.7%,Cuが5.0〜6.0%,Znが0.3%,Pbが0.2〜0.6%又はBiが0.2〜0.6%,Alが残り全て含まれるものである。製造されたアルミニウム硬化材40Bにおける金属元素の成分について、図10及び図11を用いて説明する。
【0027】
図11では、アルミニウム硬化材40Bの表面側の第1層U1、即ちスペクトル1〜3の範囲で、色が薄くなっている。そして、図10でスペクトル1〜3を見ると、Niが極めて多く含まれているのに対して、Alが全く含まれていない。また、図11では、第1層U1より下側の第2層U2、即ちスペクトル4で、色が第1層U1より濃くなっている。そして、図10でスペクトル4を見ると、Niが第1層U1より少ないのに対して、Alが第1層U1より多くなっている。そして、図10でスペクトル5〜6を見ると、Niがほとんど含まれていないのに対して、Alが極めて多く含まれている。このことから、アルミニウム硬化材40Bは、アルミニウム硬化材10BのようにAlが母材から表面に向かって拡散したものではなく、表面側にニッケル層を構成していたNiが多く残っているものである。
【0028】
次に、アルミニウム硬化材40Bのビッカース硬さ(HV)と表面からの深さ(μm)との関係について、図9を用いて説明する。アルミニウム硬化材40Bでは、図9に示したように、母材としてのビッカース硬さが73〜79HVであり、深さが20μmでビッカース硬さが64HVとなっている。このため、アルミニウム硬化材40Bは、表面から約15μm程度の深さまで母材より硬い硬化層を有する。しかし、アルミニウム硬化材40Bは、元々15μmのニッケル層が形成されていたものであって、硬化層の硬さはニッケル層の硬さと同様である。従って、硬化層は、第2工程により新たに形成されたものではなく、ニッケル層がそのまま残ったものである。
【0029】
本実施形態の作用効果について説明する。
本実施形態によれば、高温雰囲気で加熱することで、蒸気圧の低いMg元素はイオン化して表層部に向かって活発に拡散運動する。その際、イオン化したMg元素は周囲のイオン化したAl元素を誘導して表層部に向かって移動する。そして、表層部へ誘導されたAlイオンは、表層部でイオン化されているNi元素と結合して、高硬度の金属間化合物(AlmNin)を生成させる。即ち、高温雰囲気においてMg元素は触媒の働きをしてイオン化しているAl元素とNi元素を、クロスカップリング反応させて高硬度の金属間化合物を生成させる。この結果、硬化層T1の深さが例えばメッキ等で得られる硬化層の厚みの1.5倍以上の値になり、内部に向けて徐々に軟らかくなる厚い硬化層T1を有するアルミニウム硬化材10Bを製造できる。
【0030】
そして、本実施形態によって製造されたアルミニウム硬化材10Bは、自動車を構成する部品、例えば摺動等の摩擦を受ける部分であるシリンダや弁等に用いることができ、表面でビッカース硬さが750HV以上であり且つ表面から少なくとも20μmの深さでビッカース硬さが700HV以上であるため、表面部分が非常に硬い。特に、表面から少なくとも50μmの深さでビッカース硬さが200HV以上であるため、硬化層T1が厚くて表面から内部に向けて徐々に軟らかくなるものである。従って、このアルミニウム硬化材10Bは、摺動摩擦が極めて大きい部位に用いても、硬化層T1が早く消耗することがなくて製品安全上好ましいものであり、ねじれ等が作用しても、硬化層の境界部分でひび割れ又は剥離は生じ難い。
他方、腕時計のバンドには従来から錆び難いステンレス製のものが利用されているが、比較的重くオーステナイト系ステンレス材で構成されているため、部品表面が軟らかく傷も付き易い。一方、製造されたアルミニウム硬化材10Bを腕時計のバンドに用いれば、表面が金属間化合物(AlmNin)によってビッカース硬さが750HV以上であるため、軽くて傷が付き難い理想的な商品が期待できる。
【0031】
なお、発明者は、15μmのニッケル層20と0.2μmのクロム層30が形成されたアルミニウム合金材10に換えて、15μmのクロム層30のみが形成されたアルミニウム合金材10に対して第2工程の表面硬化処理を行った。この場合には、クロム層30の最表面のビッカース硬さは1048HVであったが、製造されたアルミニウム硬化材の硬化層は、破砕状に剥がれてしまった。従って、発明者は、ニッケル層20が形成されたアルミニウム合金材10に対して第2工程の表面硬化処理を行うことの有効性を確認した。
【0032】
なお、ニッケル層20の厚さが大きくなる程、また加熱温度が低くなる程、母材の中のMgイオン及びAlイオンがニッケル層20の表面に向けて拡散するまでの時間が多くなる。このため、メッキ層付合金材10Aを加熱保持する所定時間は、ニッケル層20の厚さ及び加熱温度に基づいて、母材の中のMgイオン及びAlイオンがニッケル層20の表面に向けて拡散するとともに、ニッケル層20の中のNiイオンが母材の内部に向けて拡散するまでの時間を考慮して設定される。
【0033】
以上、本発明に係るアルミニウム硬化材の製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、アルミニウム合金材10の酸化皮膜を除去する方法は、亜鉛酸液に浸す方法に限定されるものではなく、例えば、スパッタリング法によって酸化皮膜を除去しても良い。
【0034】
また、クロム層30の厚さ(0.2μm)、加熱温度(550度)、減圧室内の圧力(約20Pa)、第2工程の処理時間(60分〜90分)は、上記した数値に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
また、本実施形態では、厚さが15μmのニッケル層20を形成したが、厚さが10μm以上であれば少なくとも1.5倍以上である15μmの金属間化合物の硬化層を形成することができる。従って、ニッケル層20の厚さは10μm以上であれば適宜変更可能である。
【0035】
なお、高硬度の金属間化合物の硬化層が生成される時間と厚さは、設定する熱処理時間(500度以上且つ600度以下の温度)と保持時間によって決まる。そして、母材であるアルミニウム合金材の熱膨張・収縮率は大きいが、生成される硬化層の熱膨張・収縮率は極めて小さい。従って、熱処理が終了し、常温まで試料が冷却される段階で硬化した表層部(硬化層)と母材の非硬化部の間には、表層部の抗長力A1と非硬化部の収縮による引張応力B1が働く。引張応力B1が抗長力A1より大きい場合には、硬化層が剥離するおそれがあるため、アルミニウム合金材の厚さの2分の1である部分から引張応力B1を算出し、この引張応力B1を超える抗張力A1を算定して、アルミニウム合金材の表面に形成するニッケル層の厚さを決定すれば良い。
【符号の説明】
【0036】
10 アルミニウム合金材
10A メッキ層付合金材
10B アルミニウム硬化材
T1 硬化層
S1 第1層
S2 第2層
S3 第3層
20 ニッケル層
30 クロム層
40 アルミニウム合金材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム元素を含むアルミニウム合金材を表面硬化するアルミニウム硬化材の製造方法において、
前記アルミニウム合金材の表面の酸化被膜を除去した上でニッケル層を10μm以上形成する第1工程と、
前記ニッケル層が形成されたアルミニウム合金材を500度以上且つ600度以下の温度で加熱し所定時間保持する第2工程と、
を有することを特徴とするアルミニウム硬化材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載するアルミニウム硬化材の製造方法において、
前記第2工程では、前記ニッケル層の厚さ及び加熱する温度に基づいて、母材の中のマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンが前記ニッケル層の表面に向けて拡散するまで、所定時間保持することを特徴とするアルミニウム硬化材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載するアルミニウム硬化材の製造方法において、
前記第2工程では、100Pa以下の低真空状態の減圧室内で、加熱することを特徴とするアルミニウム硬化材の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載するアルミニウム硬化材の製造方法において、
前記第2工程では、外熱型のイオン真空炉を用いてグロー放電で加熱することを特徴とするアルミニウム硬化材の製造方法。
【請求項1】
マグネシウム元素を含むアルミニウム合金材を表面硬化するアルミニウム硬化材の製造方法において、
前記アルミニウム合金材の表面の酸化被膜を除去した上でニッケル層を10μm以上形成する第1工程と、
前記ニッケル層が形成されたアルミニウム合金材を500度以上且つ600度以下の温度で加熱し所定時間保持する第2工程と、
を有することを特徴とするアルミニウム硬化材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載するアルミニウム硬化材の製造方法において、
前記第2工程では、前記ニッケル層の厚さ及び加熱する温度に基づいて、母材の中のマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンが前記ニッケル層の表面に向けて拡散するまで、所定時間保持することを特徴とするアルミニウム硬化材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載するアルミニウム硬化材の製造方法において、
前記第2工程では、100Pa以下の低真空状態の減圧室内で、加熱することを特徴とするアルミニウム硬化材の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載するアルミニウム硬化材の製造方法において、
前記第2工程では、外熱型のイオン真空炉を用いてグロー放電で加熱することを特徴とするアルミニウム硬化材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図7】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図7】
【図11】
【公開番号】特開2013−91856(P2013−91856A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2013−18099(P2013−18099)
【出願日】平成25年2月1日(2013.2.1)
【出願人】(513026229)
【出願人】(513026230)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−18099(P2013−18099)
【出願日】平成25年2月1日(2013.2.1)
【出願人】(513026229)
【出願人】(513026230)
【Fターム(参考)】
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