説明

クロマトグラフィーカラムを乾式充填する方法

本発明は、乾燥膨潤性粒子から出発して高効率のクロマトグラフィーカラムの充填方法、並びにその方法で充填されたカラム及びそのカラムの生体分子の分離における使用を提供する。本充填方法では、カラムチャンバー体積の約105〜120%の液体膨潤体積を与えるのに充分な量の乾燥膨潤性粒子をカラムに移し、カラムを閉じ、液体をカラムに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子の液体クロマトグラフィー分離に有用な充填ベッドカラム、かかるカラムの充填方法、及びかかるカラムで生体分子を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィー用のカラムは、通例、液体キャリアが流れる多孔質クロマトグラフィー媒体の充填ベッドを包囲する管体を含んでおり、分離は液体キャリアと多孔質媒体の固相との間の分配によって起こる。
【0003】
分離プロセスに先立って、カラム内に導入される微粒子状媒体から始めてベッドを調製しなければならない。ベッドの形成プロセスは「充填手順」といわれ、正確に充填されたベッドは充填ベッドを含有するカラムの性能に影響する重大な要因である。通例、充填ベッドを調製するにはスラリーを充填、つまりカラム内にポンプ送給、注入又は吸引されたスラリーといわれる液体中の離散粒子の懸濁液を圧密化する。所定体積のスラリーがカラムに送り込まれたら、可動アダプターを、カラムの縦軸に沿ってカラムの下部に向けて、通常は一定の速度で動かすことによって、さらに圧密化し圧縮する必要がある。この手順中過剰の液体はカラム出口で排出され、媒体粒子は、孔が小さすぎて媒体粒子が通り抜けることのできないフィルター材料(いわゆる「ベッド支持体」)によって保持される。充填ベッドが最適な圧縮度に圧縮されたら充填プロセスは完了である。カラムにスラリーを充填する別の手法は流動充填法であり、この場合多孔質構造体の圧縮を達成するには主としてカラム全体に高流量を適用し、これにより出口ベッド支持体から始まる多孔質構造体を形成する。その結果得られる多孔質構造体中の粒子に対する牽引力は最終的に圧力降下及びベッドの圧縮を引き起こす。こうして圧縮されたベッドは最後にアダプターを正規の位置に配置することにより閉じ込められる。
【0004】
その後のクロマトグラフ分離の効率は、1)充填ベッドの流体入口及び出口における液体分配及び収集系、2)充填ベッド内の媒体粒子の特別な配向(充填ジオメトリーともいわれる)、並びに3)充填ベッドの圧縮に強く依存している。充填ベッドの圧縮が低すぎると、そのベッドで実行されるクロマトグラフ分離が「テーリング」を起こし、一般に、かかる不充分に圧縮されたベッドは不安定である。充填ベッドの圧縮が高すぎると、そのベッドで実行されるクロマトグラフ分離は「リーディング」を起こし、かかる過圧縮ベッドは処理能力及び結合能力に影響する可能性があり、一般に、作動圧力がずっと高くなる。圧縮が最適であれば、使用中に形成される分離ピークは、リーディング又はテーリングがずっと少なくなり、実質的に対称である。最適な圧縮度はまた、多孔質構造体の良好な長期安定性を達成することにより、多くのプロセスサイクルを通じて最適な性能を確保するのにも重大である。カラムに必要とされる最適な圧縮度は各カラムの大きさ(幅又は直径)、ベッド高さ、及び媒体の種類に対して実験的に決定される。
【0005】
代わりの充填法は「乾式充填」といわれ、カラムを多孔質媒体の乾燥粒子で満たした後液体をカラムに導入するものである。これは、充填液体に保存剤を添加する必要がなく、また輸送中の重量を最小にすることなく、顧客に乾燥状態で送ることができるプレフィルドカラムで有益である。乾式充填は通例、例えば、G Guiochon J Chromatogr A 704 (1995) 247−268に記載されているように、小さい分子の分離を目的として、シリカ媒体に対して使用されるが、得られるカラム効率はかなり悪い。しかし、生体分子の分離に通常使用されるデキストラン又はアガロース系媒体のような膨潤性クロマトグラフィー媒体の場合、乾式充填は、粒子が膨潤すると充填ベッドの性能が落ちると認識されていたため避けられてきた。米国特許第4353801号には、溶媒膨潤性スチレン−ジビニルベンゼン粒子の乾式充填が湿式充填より劣ると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4366060号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、乾燥膨潤性粒子から始めて高効率クロマトグラフィーカラムを充填する方法を提供する。これは、a)カラムチャンバー体積の約105〜120%の液体膨潤体積Vsを与えるのに充分な量の乾燥膨潤性粒子5をクロマトグラフィーカラム1内のカラムチャンバー2に移し、b)カラムを閉じ、c)液体をカラムに供給する工程を含む方法によって達成される。言い換えると、この方法は、乾燥膨潤性粒子5のアリコート(一定の試料)を(例えば秤量することにより)量り取り、アリコートをクロマトグラフィーカラム1内のカラムチャンバー2に供給し、カラムチャンバーを閉じ、カラムチャンバーに液体を供給することを含んでおり、ここでアリコートの膨潤体積Vsはカラムチャンバー体積の約105〜120%である。
【0008】
本発明の特定の態様は、ユーザーに容易に輸送されユーザーにより平衡化される貯蔵安定性のプレフィルドカラムである。これは、乾燥膨潤性粒子を含むカラムにより達成され、ここで粒子の量はカラムチャンバー体積の約105〜120%の水性液体膨潤体積Vsを与えるのに充分なものである。
【0009】
1以上の上記態様は特許請求の範囲に定義される本発明によって達成され得る。本発明の追加の態様、詳細及び利点は以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、カラム及び乾燥膨潤性粒子で充填する方法の概略図である。
【図2】図2は、可撓性容器がカラムチャンバー内に挿入された実施形態を示す。
【図3】図3は、管状のカラムチャンバーが剛性ハウジング内に装着された実施形態を示す。
【図4】図4は、充填方法の流れ図である。
【図5】図5は、乾燥膨潤性粒子の液体吸収率を決定する実施形態の流れ図である。
【図6】図6は、液体を加える前にカラムを振動させる実施形態の流れ図である。
【図7】図7は、カラム性能を計算するやり方を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本明細書中で、用語「膨潤性粒子」は、液体中に浸漬したときに大きさが増大する粒子を意味する。これは、同じ量の乾燥粒子の嵩体積よりずっと大きい液体中の沈降体積として観察することができる。
【0012】
本明細書中で、用語「膨潤体積」(Vs)は、液体に懸濁させ平衡化させた粒子のアリコートの沈降体積を意味する。沈降体積を測定するには、粒子のアリコートを懸濁させ、最大24h平衡化させ、必要であれば粒子を再懸濁させ、粒子を沈降させ、目盛付容器(例えばメスシリンダー)で沈降体積を測定することができる。
【0013】
本明細書中で、用語「液体吸収率」(Vs/md)は、上で定義された粒子のアリコートの膨潤体積Vsと、液体に浸漬する前の粒子アリコートの乾燥重量mdとの比を意味する。
【0014】
図1及び図4に示す本発明の一実施形態では、ある量の乾燥膨潤性粒子5をクロマトグラフィーカラム1内のカラムチャンバー2に移す。ここで、粒子の量は、液体膨潤体積Vsがカラムチャンバー体積の約105〜120%になるのに充分である。次に、カラムを閉じ、カラムチャンバーに液体を供給する。膨潤体積はカラムチャンバー体積より大きいので、粒子ベッドは対応する程度(充填されたカラムの圧縮率CFは通常Vs/Vcolと定義され、ここでVcolはカラムチャンバー体積である)に圧縮され、その結果高いカラム効率と低いピークの非対称性が得られる。カラム効率は換算段高さhとして表すことができ、これは段高さを粒子の平均直径で割った値である。段高さは当技術分野で周知の方法で測定される。ピークの非対称性は非対称係数Asで表すことができ、これはピークの後部曲線からピークの中心までの間隔と、前部曲線からピーク中心までの間隔との比である(全て、ピーク高さの10%のところで測定する)。段高さと非対称係数はいずれも小さい分子の保持されない種に対して適切に測定される。カラムは軸流式又は輻流式として設計し得、また流体分配器3を含み得る。カラムチャンバーの入口と出口は、粒子を保持し液体を通過させるために多孔質スクリーン4により区切られ得る。多孔質スクリーンは製織メッシュ、焼結フリット又はその他あらゆる種類の多孔質材料から製造し得る。
【0015】
図5に示す別の実施形態では、本方法における最初の工程は、乾燥膨潤性粒子の液体吸収率Vs/mdを決定し、液体吸収率からカラムチャンバーに移すべき乾燥膨潤性粒子の量を決定することである。液体吸収率は、代表的な試料に関して確立されている方法を使用して粒子の個々の試料アリコートから決定することができる。試料を乾燥状態で(すなわち周囲の大気と平衡した状態で)秤量した後試験液体に懸濁させる。試験液体は、カラムの充填及び作動に使用されるものと同じ液体、又は同様な組成の液体、通例同様なイオン強度/導電率及びpHの水性緩衝液又は塩溶液であることができる。試験液体中の粒子を、通例約1時間、いかなる場合でも24時間以下の時間平衡化させる。粒子を再懸濁させ、沈降させる。沈降体積を、例えばメスシリンダーで測定する。次に、沈降体積Vsと乾燥粒子試料の重量mdとの比Vs/mdとして液体吸収率を計算する。液体吸収率を最初に測定することの1つの利点は、カラム内の粒子の膨潤体積を予測することができ、その結果圧縮及びカラム効率をより良好に制御できることである。特定の実施形態では、液体吸収率は、カラム性能の制御における高い精度を可能にするべく、5%未満の変動係数で、又はさらには2%未満の変動係数で決定される。
【0016】
代わりの実施形態では、液体吸収率は、基準として乾燥粒子の重量を使用する代わりに乾燥粒子の体積を基準にして決定される。同様に、所与の具体的なカラムの1以上のカラムに充填されるアリコートの調製は、乾燥粒子の質量の代わりに乾燥粒子の体積を基準にして行い得る。
【0017】
幾つかの実施形態では、カラムチャンバー内の乾燥膨潤性粒子は、液体をカラムに供給する前により一様な空間的分布が可能になるように操作することができる。図6に示す一実施形態では、液体の供給前にカラムを振動させ、別の実施形態ではガス(例えば空気)を液体の供給前にカラムの下端から注入する。これらの作用はいずれも乾燥粒子の少なくとも部分的な流動化を引き起こすことができ、その結果カラムチャンバーの水平底面全体でより一様な粒子の分布が得られる。このことの1つの利点は、液体を加えた後に膨潤粒子のより一様な空間的分布を達成し得ることである。この振動又はガス注入は、乾燥膨潤性粒子をカラムチャンバー又は可撓性容器に移した後のどの段階でも行い得る。一実施形態では、不活性ガスをカラム中に注入して、貯蔵中の酸化的分解反応に対する保護を提供し得る。
【0018】
一実施形態では、液体は、上向流方向でカラムに供給される。そこで液体は底部入口から乾燥粒子ベッドを通って垂直方向に一様に上昇する結果、液体をカラムの上部から下向きに注入する場合より一様な粒子分布が得られる。粒子が液体により膨潤したら、その後カラムは任意の方向(上向流、下向流、傾斜形等)に作動させ得る。特定の実施形態では、乾燥膨潤性粒子への液体の添加速度は粒子による毛管吸引の速度を超えない。毛管吸引の速度は、例えば、乾燥膨潤性粒子を含むカラムを、乾燥ベッドの下端まで液体を含有するトラフ内に入れ、ベッドを通って上昇する液体の速度を光学、重量分析又はその他の方法で測定することによって決定することができる。液体の添加速度を毛管吸引の速度以下に保つことは、膨潤後より均質な粒子分布が、従ってより良好なカラム性能が得られるという利点を有する。液体の添加速度はカラムチャンバー内の液体速度(液体流量をカラムチャンバーの内部断面積で割った値)として表すことができる。特定の実施形態では、カラムチャンバー内の液体速度は液体を乾燥粒子に添加する間100cm/h未満、例えば5〜70cm/hである。一実施形態では、液体は水性であり、その場合低級アルコール、例えばエタノールのような湿潤剤(表面張力を減少させる添加剤)、又は界面活性剤を含むことができる。その1つの利点は、膨潤後に、粒子の分布の均一性が向上することである。
【0019】
図2に示す一実施形態では、膨潤性乾燥粒子をクロマトグラフィーカラム内のカラムチャンバーに移す工程は、最初に乾燥膨潤性粒子5を可撓性容器7に移した後可撓性容器をカラムチャンバー2内に入れることを含む。これには、容易に輸送される安価な可撓性容器に包装された粒子をユーザーに供給することができ、ユーザーがその容器をカラムに入れ、液体を供給することができるという利点がある。可撓性容器の壁はカラムチャンバーの多孔質上部及び下部プレートに対して嵌合される多孔質部分を有することができる。可撓性容器は例えばプラスチック製のバッグ構造であるか、又は成形及び/又は押出部品から組み立てることができる。一実施形態では、可撓性容器は膨潤粒子により拡大されてカラムチャンバーに嵌合する。
【0020】
一実施形態では、本方法は、乾燥膨潤性粒子をカラムチャンバー8に移した後カラムを閉じる前に、ゲルの膨潤中及び/又はカラムの作動中のカラムチャンバーの寸法安定性をもたらすためにカラムチャンバー8を剛性ハウジング11に移す工程を含んでいる。これに関連して、自立性カラムチャンバー8はゲルの膨潤中、又はカラムの作動中の加圧に起因して多少曲がり得る。剛性ハウジング11はかかる偏り及びそれに関連するカラム性能の低下を防止する。
【0021】
一実施形態では、本方法は、液体をカラムに添加する前に、カラム又は可撓性容器を乾燥膨潤性粒子と共に放射線殺菌する工程を含む。この工程は本方法のどの段階で行ってもよい。放射線殺菌はガンマ線又は電子線照射によって行うことができる。
【0022】
本発明の一実施形態は乾燥膨潤性粒子を含むカラムであり、粒子の量はカラムチャンバー体積の約105〜120%の水性液体膨潤体積Vsを与えるのに充分である。一実施形態では、この液体は20℃の塩化ナトリウム(NaCl)の0.1mol/l水溶液である。かかる溶液はおよそ10mS/cmの導電率を有しており、これは生体分子/バイオ医薬分離に使用される多くの緩衝液の範囲内である。
【0023】
一実施形態では、乾燥膨潤性粒子の液体吸収率Vs/md(0.1MNaCl水溶液中20℃)は5〜25ml/g、例えば5〜15ml/gである。この実施形態の1つの利点は、圧縮率の良好な制御及びカラムの作動中加えられる液体の組成による膨潤(及びカラム性能)の最小化された変動である。一実施形態では、乾燥膨潤性粒子の蒸留水中での液体吸収率は0.1MNaCl水溶液中での液体吸収率の1.5倍未満である。その利点は、液体組成による膨潤の変動が低く保たれることである。
【0024】
一実施形態では、カラム体積は固定される。固定された体積のカラムは可動部品(アダプター等)を使用しないで構築することができ、これは構造を簡単化し、コストの観点から有利である。一実施形態では、カラムは成形又は押出部品からなる。射出成形、ブロー成形、回転成形、圧縮成形等のような成形及び押出法は、例えば熱可塑性材料からカラム部品を製造するのに便利で費用効果的な方法である。
【0025】
一実施形態では、カラムチャンバー体積は少なくとも1リットルである。1リットルより大きいベッド体積を有するカラムが工業的なバイオ医薬の精製に使用されことが多い。これらは複雑であり、可動部品を備えた高価な鋼構造であることが多く、従って簡単なプラスチック構造を使用できる解決策が望ましい.
図2に示す一実施形態では、カラム1は、乾燥膨潤性粒子5を含む可撓性容器7からなる。これは、容易に輸送される安価な可撓性容器に包装された形態で粒子をユーザーに供給することができ、ユーザーがその容器をカラムに入れ液体を加えることができるという利点を有する。可撓性容器は1以上の可撓性壁、すなわち、支持されてない容器に1バールの過圧がかけられたとき容器の少なくとも1%の体積変化を生じるのに十分なほど曲がることができる壁を含むことができる。可撓性容器の壁はカラムチャンバー2の多孔質上部及び下部プレート13に対して嵌合する多孔質部分を有することができる。可撓性容器は、例えばプラスチックバッグ構造であるか、又は成形及び/又は押出部品か組み立てることができる。一実施形態では、可撓性容器は粒子が膨潤する際にカラムチャンバーに嵌合するように膨潤することができる。別の実施形態では、粒子を保持し液体分布を提供する多孔質上部及び下部プレートセグメントは可撓性容器中に組み込み得る。この場合、可撓性容器は閉鎖系であり、可撓性容器を外部から機械的に支持するハウジング又はその他の部品と流体接触しない。
【0026】
図3に示す一実施形態では、カラムは、例えば円形、楕円形又は矩形の横断面を有し、1以上の剛性管壁9と1以上の可撓性エンドピース10を有する1以上の管状カラムチャンバー8を含んでいる。可撓性エンドピースは多孔質であって、多孔質上部又は下部プレート13と直接接触して剛性ハウジング11内に配置することができる。剛性ハウジングの上端及び下端は当技術分野で周知の一般的なクランピング構造体(図3には図示せず)により共に保持することができる。
【0027】
一実施形態では、乾燥膨潤性粒子は架橋アガロースのような多糖類からなる。架橋アガロース粒子は高いスループット及び低い非特異的な吸着のために生体分子及びバイオ医薬の精製に極めて有用である。これらは通常水性エタノール溶液として供給され、乾燥アガロース粒子を使用することの利点は可燃性エタノールを取り扱う必要がないことである。アガロース粒子の乾燥は例えば凍結乾燥、噴霧乾燥又は真空乾燥を用いて行うことができる。
【0028】
実施形態では、乾燥膨潤性粒子は荷電リガンドを含む。かかるリガンドは主としてイオン交換及び多モードの分離に使用され、これらはいずれも生体分子及びバイオ医薬の分離に極めて有用である。陽イオン交換体、陰イオン交換体及び多モードイオン交換体のいずれも考えられる。
【0029】
一実施形態では、乾燥膨潤性粒子は疎水性官能基を含むリガンドを含む。かかるリガンドは疎水性相互作用クロマトグラフィー及び多くの多モード分離に使用され、いずれも生体分子及びバイオ医薬の分離に極めて有用である。リガンド及び疎水性官能基を有するリガンド部分の例はアルキル及びアリール基である。
【0030】
一実施形態では、乾燥膨潤性粒子はアフィニティーリガンドを含む。かかるリガンドは生体分子及びバイオ医薬の高い選択性分離に極めて有用である。アフィニティーリガンドの例はプロテインA、プロテインG、プロテインL、レクチン、酵素基質、レクチン、ビオチン、アビジン、抗体、抗体断片、抗原等である。
【0031】
一実施形態では、乾燥膨潤性粒子と共にカラムに供給される液体はバイオ医薬のような1種以上の生体分子を含む。かかる液体の例には、タンパク質溶液及びウィルス懸濁液、例えばバイオプロセシング操作で精製されるべき供給材料がある。乾燥粒子を直接に供給材料で膨潤することの利点は、別の膨潤工程を省くことができること、及び膨潤自体が膨潤構造体中に浸透しない化学種に対する分離及び濃縮効果を提供することができることである。
【0032】
本発明の一実施形態は、既に記載した実施形態に従って充填された膨潤粒子を含むカラムである。特定の実施形態では、カラムはある試験化学種に対して15未満、例えば10未満の換算段高さhを有する。この試験化学種は無機塩又はアセトンのような保持されない小さい分子であることができる。別の実施形態では、カラムの非対称係数Asは上記のように選択されるある試験化学種に対して3未満、例えば2.5未満である。
【0033】
一実施形態は、同じバッチの乾燥膨潤性粒子から製造された少なくとも2つのカラムである。特定の実施形態では、これらのカラムは並列に接続される。同一のベッド体積、粒子種類及びベッド高さのカラムの並列接続は合計断面積及びスループットを増大させる便利な手段である。しかし、並列に接続されたカラムを使用する場合、各々のカラムで同一の分離が確実に達成されるように複数のカラムで流体速度を同じにすることが非常に重要である。これは、流体力学的抵抗及び圧力流挙動に関してカラムの再現性に高い要求を課す。複数のカラムに同一のバッチからの乾燥膨潤性粒子を使用することで、併用を可能にするように十分良好に流体力学的抵抗及び圧力流挙動を制御することが可能である。
【0034】
一実施形態では、膨潤粒子を含むカラムはバイオ医薬のような1種以上の生体分子の分離に使用される。適切な生体分子はタンパク質、ペプチド、核酸、炭水化物、ウィルス粒子等であり得る。適切なバイオ医薬は免疫グロブリン(例えばモノクローナル抗体)、免疫グロブリン断片及びその他の構築体、インスリン及びその他の治療用ペプチド、エリスロポエチン、血漿タンパク質、オリゴヌクレオチド、プラスミド、ワクチン等であり得る。特定の実施形態では、生体分子又はバイオ医薬はタンパク質である。
【0035】
一実施形態では、生体分子又はバイオ医薬は粒子に結合し、1種以上の不純物は洗浄液で洗浄することにより除去される。その後、生体分子又はバイオ医薬は溶出液により粒子から溶出され得る。この様式は結合−溶出分離といわれることが多く、不純物の量が多量であるとき及び/又は非常に高い分離選択性が要求されるときに特に有用である。
【0036】
別の実施形態では、1種以上の不純物が粒子に結合し、生体分子又はバイオ医薬がカラムのフロースルーで回収される。この様式はフロースルー分離と呼ばれることが多く、特に不純物の量が比較的少ないとき、非常に高いスループットを提供する。
【0037】
本発明のその他の特徴及び利点は以下の実施例及び特許請求の範囲から明らかとなろう。
【0038】
本明細書の記載では、最良の態様を含めて本発明を開示するために、また当業者があらゆる装置又は系を作成し使用し、かつあらゆる組み込まれた方法を実行することを含めて本発明を実施するとができるように、実施例を使用する。本発明の特許可能な範囲は特許請求の範囲により定義されており、当業者には自明の他の例を包含し得る。かかる他の例は、特許請求の範囲の文言と異ならない構造要素を有する場合、又は特許請求の範囲の文言から実質的な差異のない等価な構造要素を含んでいる場合、特許請求の範囲内に入るものと考えられる。
【0039】
図面の詳細な説明
図1i)は、流体分配器3及び多孔質スクリーン4により区切られたカラムチャンバー2を有するカラム1の概略図である。
【0040】
図1ii)は、カラムチャンバー内に乾燥膨潤性粒子5を有するカラムを示す。
【0041】
図1iii)は、液体を加えた後膨潤粒子6がカラムチャンバーを満たしているカラムを示す。
【0042】
図2i)は、乾燥膨潤性粒子5を有する可撓性容器7の概略図である。
【0043】
図2ii)は、多孔質プレート13を有するカラムチャンバー2内に入れた可撓性容器7を示す。
【0044】
図2iii)は、液体を加えた後カラムチャンバー内で膨潤粒子6が可撓性容器を満たし拡大しているカラムを示す。
【0045】
図3は、剛性管壁9、可撓性多孔質エンドピース10を有し、多孔質エンドピース10と接触した流体分配器12及び多孔質プレート13を有する剛性ハウジング11に嵌合された管状カラムチャンバー8内に乾燥膨潤性粒子5を有するカラム14の概略図である。
【0046】
図4は、工程a)が乾燥粒子をカラムに移すことからなり、工程b)がカラムを閉じることからなり、工程c)が液体をカラムに供給することからなる実施形態の流れ図である。
【0047】
図5は、工程a)の前に、乾燥粒子の液体吸収率を決定し、その液体吸収率からカラムに移すべき粒子の量を決定することからなる工程a’)を含む実施形態の流れ図である。
【0048】
図6は、工程c)の前に、カラムを振動させることからなる工程c’)を含む実施形態の流れ図である。
【0049】
図7は、カラムの換算段高さh及び非対称係数Asの計算を図解する。
【実施例】
【0050】
カラム効率試験
カラム出口における滞留時間分布を分析するために、トレーサーとして、カラム体積の1〜1.5%の体積のトレーサー(アセトン2%v/v、DI水中)を適用する(UVシグナル@280nm)。滞留時間分布は単一のピークとして表されるべきである(図7参照)。評価は以下に記載する。
【0051】
カラム効率は通例、以下の2つのパラメーターで定義される。
・カラムでのピークの広がりは相当理論段数(相当段数)で表される。
・ピークの対称性はピーク非対称係数Asで表される。
【0052】
相対ピーク幅は(理論)段数N、理論段相当高さHETP又は好ましくは換算段高さhとして定義される。
【0053】
【数1】

非対称係数Asは理想的なGaussianピーク形状からの偏差を表し、ピーク高さの10%におけるピーク幅から計算される。
【0054】
【数2】

用語の定義
段数 N
平均滞留時間1 μ1
分散1 σ2
保持時間2 R
保持体積2 R
ピーク半値幅 wh
ベッド高さ L
粒子径 dp
理論段相当高さ HETP
換算段高さ h=HETP/dp
非対称係数 As
1 トレーサーシグナルの積分から導かれる滞留時間分布(RTD)曲線の一次及び二次モーメント
2 最大ピーク高さにでの時間(又は溶出体積)に対応する保持時間(保持体積)。
【0055】
実施例1
使用した乾燥膨潤性粒子は、Q Sepharose(商標)HP(GE Healthcare、Sweden)であり、水中で膨潤したときの平均直径が34μmの架橋アガロースビーズにテトラメチルアンモニウム基リガンドが結合した陰イオン交換体である。Q Sepharose HP粒子はアセトンに移してから室温で真空乾燥しておいたものである。
【0056】
カラムチャンバー体積1ml当たり129mgの乾燥粒子を異なる種類の2つの垂直に直立したカラム、すなわち、直径26mm、高さ30mm及び体積15.93mlのカラムチャンバーを有するXK26カラム(GE Healthcare、Sweden)、及び直径50mm、高さ31mm及び体積60.87mlのカラムチャンバーを有するXK50カラム(GE Healthcare、Sweden)に移した。
【0057】
20%エタノールの水溶液を各々のカラムの底部入口に60cm/hの流体速度でポンプ送給した。3カラムチャンバー体積がカラムを通過するまでポンプ送給を続けた後、3カラム体積の蒸留水を200cm/hの流体速度でポンプ送給した。上向流及び下向流モードで交互に300cm/hでポンプ送給した4×3のカラムチャンバー体積の蒸留水によってカラムを調整した。
【0058】
カラムの性能を上記カラム効率試験により評価した。性能の結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

実施例2
使用した乾燥膨潤性粒子は、Capto(商標)S(GE Healthcare、Sweden)であり、水中で膨潤したときの平均直径が90μmのデキストラン修飾架橋アガロースビーズにスルホン酸基リガンドが結合した陽イオン交換体である。Capto S粒子はアセトンに移してから室温で真空乾燥しておいたものである。
【0060】
3.34gの乾燥粒子を、直径26mm、高さ30mm及び体積15.93mlのカラムチャンバーを有する垂直に直立したXK26カラム(GE Healthcare、Sweden)に移した。
【0061】
20%エタノールの水溶液を流体速度30cm/hでカラムの底部入口にポンプ送給した。ポンプ送給を3カラムチャンバー体積がカラムを通過するまで続けた後、1.5カラム体積の蒸留水を流体速度100cm/hでポンプ送給した。
【0062】
カラムの性能を上記カラム効率試験で評価した。また、上向流モードの340cm/hの蒸留水を用いて20h安定性試験も行った。性能及び安定性の結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

本明細書中で挙げた特許、特許刊行物、及びその他の刊行文献は全て、各々が個別にかつ明確に援用されているかのように、その全体が援用により本明細書の一部をなすものとする。本発明の好ましい例示の実施形態に関して説明してきたが、当業者には了解されるように、本発明は、限定ではなく例示の目的で示しただけのもの以外の実施形態で実施することができる。本発明は後続の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフィーカラム(1)を乾燥膨潤性粒子で充填する方法であって、a)カラムチャンバー体積の約105〜120%の液体膨潤体積Vsを与えるのに充分な量の乾燥膨潤性粒子(5)をクロマトグラフィーカラム内のカラムチャンバー(2)に移す工程と、b)カラムを閉じる工程と、c)液体をカラムに供給する工程と
を含む方法。
【請求項2】
さらに、工程a)の前に、乾燥膨潤性粒子の液体吸収率Vs/mdを決定し、その液体吸収率から、カラムチャンバーに移すべき乾燥膨潤性粒子の量を決定する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
液体吸収率を5%未満の変動係数で決定する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
さらに、工程c)の前に、カラムを振動に付す工程を含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
工程c)において、液体を上向流方向でカラムに供給する、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
工程c)において、液体の添加速度が粒子による毛管吸引速度を超えない、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
工程a)が、最初に乾燥膨潤性粒子を可撓性容器(7)に移した後、可撓性容器をカラムチャンバー(2)内に入れることを含む、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
工程a)が、ゲルの膨潤中及び/又はカラムの作動中カラムチャンバーに対する寸法安定性をもたらす剛性ハウジング(11)にカラムチャンバー(8)を移すことを含む、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
さらに、工程c)の前に、カラム又は可撓性容器を乾燥膨潤性粒子と共に放射線殺菌する工程を含む、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
乾燥膨潤性粒子と共にカラムに供給される液体が1種以上のバイオ医薬のような生体分子を含む、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
乾燥膨潤性粒子を含むカラムであって、粒子の量が、カラムチャンバー体積の約105〜120%の水性液体膨潤体積Vsを与えるのに充分である、カラム。
【請求項12】
前記液体が20℃の0.1MNaCl水溶液である、請求項11記載のカラム。
【請求項13】
前記乾燥膨潤性粒子の液体吸収率Vs/md(0.1MNaCl水溶液中、20℃)が5〜25ml/g、例えば5〜15ml/gである、請求項11又は請求項12記載のカラム。
【請求項14】
前記乾燥膨潤性粒子の蒸留水中での液体吸収率が0.1MNaCl水溶液中での液体吸収率の1.5倍未満である、請求項11乃至請求項13のいずれか1項記載のカラム。
【請求項15】
前記カラム体積が一定である、請求項11乃至請求項14のいずれか1項記載のカラム。
【請求項16】
前記カラムが、乾燥膨潤性粒子(5)を含む可撓性容器(7,8)からなる、請求項11乃至請求項15のいずれか1項記載のカラム。
【請求項17】
前記カラムが、1以上の剛性管壁(9)及び1以上の可撓性エンドピース(10)を有する1以上の管状カラムチャンバー(8)を含む、請求項11乃至請求項15のいずれか1項記載のカラム。
【請求項18】
前記管状カラムチャンバーが剛性ハウジング(11)内に装着されている、請求項17記載のカラム。
【請求項19】
前記カラムが成形又は押出部品からなる、請求項11乃至請求項18のいずれか1項記載のカラム。
【請求項20】
前記乾燥膨潤性粒子が架橋アガロースからなる、請求項11乃至請求項19のいずれか1項記載のカラム。
【請求項21】
前記乾燥膨潤性粒子が荷電リガンドを含む、請求項11乃至請求項20のいずれか1項記載のカラム。
【請求項22】
前記乾燥膨潤性粒子が疎水性官能基を含むリガンドを含む、請求項11乃至請求項21のいずれか1項記載のカラム。
【請求項23】
前記乾燥膨潤性粒子がアフィニティーリガンドを含む、請求項11乃至請求項22のいずれか1項記載のカラム。
【請求項24】
前記液体が1種以上のバイオ医薬のような生体分子を含む、請求項11乃至請求項23のいずれか1項記載のカラム。
【請求項25】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の方法で製造された、膨潤粒子を含むカラム。
【請求項26】
換算段高さhが15未満、例えば10未満である、請求項25記載のカラム。
【請求項27】
非対称係数Asが3未満、例えば2.5未満である、請求項25又は26記載のカラム。
【請求項28】
同一バッチの乾燥膨潤性粒子から製造された、請求項11乃至請求項27のいずれか1項記載の少なくとも2つのカラム。
【請求項29】
並列に接続された、請求項28記載の少なくとも2つのカラム。
【請求項30】
請求項25乃至請求項29のいずれか1項記載の1以上のカラムの、1種以上のバイオ医薬のような生体分子の分離のための使用。
【請求項31】
前記生体分子又はバイオ医薬がタンパク質である、請求項30記載の使用。
【請求項32】
生体分子又はバイオ医薬が粒子に結合し、1種以上の不純物が洗浄液で洗浄することにより除去される、請求項30又は請求項31記載の使用。
【請求項33】
1種以上の不純物が粒子に結合し、生体分子又はバイオ医薬がカラムのフロースルーで回収される、請求項30乃至請求項32のいずれか1項記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−515258(P2013−515258A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545900(P2012−545900)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【国際出願番号】PCT/SE2010/051424
【国際公開番号】WO2011/078772
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(597064713)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ (109)