説明

クロマトグラフ測定装置

【課題】アッセイ用デバイスの測定を行うクロマトグラフ測定装置において、反応完了時間の短縮を可能とし、より簡便かつ迅速に信頼性の高いデバイスの検査結果を取得することを可能とする。
【解決手段】被験物質に対する特異的結合物質が固定されたテストラインAと、測定の終了時を判断するためのコントロールラインCとを有する不溶性担体21であって、検体溶液と標識溶液とが展開された不溶性担体21の呈色状態を測定して、被験物質を検査するクロマトグラフ測定装置1において、被験物質の検査結果の有効性判定および増幅要否判定を行う判定手段32と、判定手段32による第1の判定の結果に応じて呈色状態の増幅工程を実施する増幅手段60とを備え、判定手段32により増幅の要否を判定し、増幅が必要な場合にのみ増幅を行って被験物質の検査を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフ法を利用したアッセイ用デバイスの測定を行うクロマトグラフ測定装置、特に、被験物質に対する特異的結合物質が固定されたテストラインと測定の終了時を判断するためのコントロールラインの呈色状態を測定して、被験物質を検査するクロマトグラフ測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、被験物質を含有する可能性のある試料(検体溶液)を担体に送液し、免疫学的測定等のアッセイ法を用い、この被験物質について簡便かつ迅速に検査するアッセイ用デバイスが数多く開発されており、体外診断薬や毒物等の検査のための各種デバイスが市販されている。このようなデバイスの一例として、特許文献1に示すようなイムノクロマトグラフ法を利用したものが挙げられる。イムノクロマトグラフ法を利用したデバイスを用いた場合には、その判定・測定に重厚な設備・機器を必要とせず操作が簡便であり、検体溶液を担体上に滴下した後、早いものであれば約5〜10分間静置するだけで測定結果が得られる。そのため、免疫学的測定等のアッセイ法を用いた測定手法は、簡便かつ迅速な特異性の高い測定手法として、多くの場面、例えば病院における臨床検査あるいは研究室における検定試験等で広く使われている。
【0003】
一方、医院や診療所あるいは在宅医療等の診療現場においては、臨床検査の専門家によらず簡便に検査を行うPOCT(Point of Care Testing)診療向けの測定装置として、イムノクロマトグラフ測定装置(イムノクロマトリーダー)が使用されている。このイムノクロマトグラフ測定装置は、装填されたデバイスの試薬の呈色状態を高感度に測定して、目視判定困難な低呈色状態においても高感度かつ信頼性の高い検査を行うことを可能とする。
【0004】
しかし、適切に検査を行うためには、検体溶液がデバイスに点着されてから試薬(テストラインに固定された、被験物質に対する特異的結合物質)に応じた反応完了時間(検体溶液がデバイスに点着されてから、テストラインの呈色状態が目視可能となるまでに要する時間)を経過させる必要がある。このため、使用者は、デバイスに検体溶液を点着させた後イムノクロマトグラフ測定装置によって検査結果が得られるまでの間、時間を計測しておくことを強いられる。
【0005】
そこで、特許文献2には、デバイスが装填されてから試薬に応じた反応完了時間を経過した後に、テストラインの呈色状態を読み取ることにより得られたデータを用いて、検査処理を行うことを特徴とするイムノクロマトグラフ測定装置が開示されている。この装置では、デバイスに注入された被験物質と試薬との反応の進行度合の予備検査処理を経時的に行い、その結果被験物質と試薬との反応が完了していると判断できる場合に、最後に得られた予備審査結果をこのデバイスの最終的な検査結果とすることも可能である。したがってこのような装置によれば、検体溶液を上記デバイスに点着した後に検査が終了するまで、呈色状態の経時変化や検査結果を自動で取得することができるため、使用者が時間を計測しておく必要がない。このため使用者は、検体溶液をその他のデバイスに点着する作業などを引き続き行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−139297号公報
【特許文献2】特開2009−133813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載されている装置は、従来の目視キットで人が行っている手法(すなわち、原則的には試薬ごとに定められた反応完了時間後に判定するが、その時間が経過する前であっても明らかに反応が完了していると目視判断できる場合には途中で検査結果を判定する手法)を単に機械化しただけのものであり、例えば検体溶液中の被験物質の濃度が低い場合や試薬の反応完了時間がもともと長い場合には、検査結果を得るために相当に長い時間を要する事態が起きるという問題がある。特に、検体溶液中の被験物質の濃度が低い場合には、テストラインの呈色状態が目視できる程度の所定値に達せず、誤って陰性(偽陰性)とみなされる事態も起きうる。
【0008】
このような事態を回避する方法として、検査対象となるすべてのデバイスに予め増幅溶液を滴下してテストラインの呈色状態を増幅する方法、或いは所定時間後検査の進行状態に応じて適宜増幅溶液を滴下してテストラインの呈色状態を増幅し、再度検査をやり直す方法等が挙げられる。しかし、前者の場合には、本来増幅工程を必要としない検査であった場合に、増幅工程を行う分だけ検査結果を取得できる時間を遅延させ、また増幅溶液を無駄に使用してしまうという問題が生じる。また、後者の場合には、結局、人による計測時間の管理や作業が必要となり使用者に手間を取らせてしまうという問題が生じる。
【0009】
したがって、一般的にPOCT診療現場では、簡便かつ迅速に信頼性の高い検査結果を得たいとの要望が強いにもかかわらず、従来のイムノクロマトグラフ測定装置ではその要望に応えることが十分にできていなかった。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、アッセイ用デバイスを用いた検査を行うクロマトグラフ測定装置において、より簡便かつ迅速に信頼性の高い検査結果を取得することを可能とするクロマトグラフ測定装置および測定方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるクロマトグラフ測定装置は、被験物質に対する特異的結合物質が固定されたテストラインと、測定の終了時を判断するためのコントロールラインと、固定化された標識物質とを有する不溶性担体であって、被験物質を含有しうる検体溶液と被験物質を標識する標識物質とが展開された不溶性担体の、テストラインおよびコントロールラインを含む検査部位の呈色状態を測定して、被験物質について検査するクロマトグラフ測定装置において、
呈色状態として光学濃度および色度を測定する測定手段と、
測定手段により測定された光学濃度および色度に基づいて、被験物質の検査結果の有効性判定および増幅要否判定を行う判定手段と、
増幅要否判定による増幅が必要であるとの判定に応じて、呈色状態を増幅させる増幅溶液を展開する増幅手段とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
本明細書において、「検査部位」とは、検査ライン(テストラインおよびコントロールライン)を含むような不溶性担体上の所定領域を意味するものとする。
【0013】
「検査部位の呈色状態を測定」するとは、検査ラインについて呈色状態を測定することの他、検査ライン以外の検査部位(すわなち、検査ラインに対してバックグラウンドとなる領域)について呈色状態を測定することも含むものとする。ここで、呈色状態を測定するとは、検査ラインが呈色しているか否かに関わらず、検査部位における光学的情報を取得する、すなわち、その光学濃度および色度を測定することを意味するものとする。
【0014】
「光学濃度」とは、アッセイ用デバイスの検査部位に入射された入射光の強度をI、検査部位からの反射光の強度をIとしたとき、下記式1により定めるものとする。
式1:光学濃度=−log10(I/I)
【0015】
「色度」とは、色相と彩度を数量的に表示したものであり、検査部位からの反射光をイメージセンサで読み取ったRGB輝度信号から算出される。
【0016】
検査結果の「有効性判定」とは、被験物質の検査が正常に進行しているかまたは終了したか、若しくはその検査結果が信頼に足るものか否かの判定を意味するものとする。判定手段は、この有効性判定に基づきその判定の結果として、信頼に足る場合には有効判定を出力し、信頼に足らない場合にはエラー判定を出力する。また、検査の終了時には有効判定と共に陽性か或いは陰性かの判定も出される。
【0017】
検査結果の「増幅要否判定」とは、呈色状態を増幅させる必要があるか否かの判定を意味するものとする。
【0018】
「呈色状態を増幅させる」とは、光学濃度の値を増幅させることを意味し、この際色度の変化を伴い得るものとする。
【0019】
さらに、本発明に係るクロマトグラフ測定装置において、判定手段は、テストラインおよびコントロールラインの少なくとも1つの光学濃度および色度が所定値に達しなかった場合に、増幅要否判定を増幅必要と判定するものであり、
増幅手段により増幅された呈色状態を測定して、被験物質を検査することが好ましい。
【0020】
本明細書において、呈色状態、若しくは光学濃度および色度についての「所定値」とは、本願発明の判定手段が増幅要否判定または有効性判定を行う際にその判断の基準となる値を意味し、適宜設定することができる。例えば、当該所定値は、「目視できる程度の所定値」と設定することができる。「目視できる程度の所定値」とは、検査ラインの呈色状態の光学濃度および色度が、バックグラウンド(BG)となる不溶性担体の光学濃度および色度との対比において、通常の人の目によって明確に区別できる範囲にあることを意味するものとする。ここで、通常の人の目によって明確に区別できる光学濃度および色度の範囲とは、BGの光学濃度および色度によって異なるため一義的に決めることは出来ないが、一般的にBGが明るい場合には、検査ラインの呈色状態の光学濃度および色度について、濃度差(検査ラインの呈色状態の光学濃度とBGの光学濃度との差)が5mOD(OD:Optical Density)程度となり、色差(同様に色度の差)が1〜2程度となるような範囲とされている。
【0021】
また本発明に係るクロマトグラフ測定装置は、所定の動作処理を装置に行わせるための動作モードを選択可能とする動作モード選択手段を備えることが好ましい。
【0022】
この場合、動作モード選択手段は、選択可能な動作モードとして、
検体溶液を不溶性担体に点着してから予め設定された所定時間の経過時に、テストラインおよびコントロールラインの光学濃度および色度を測定手段に測定させ、
すべてのラインについての光学濃度および色度が所定値に達した場合には、判定手段に増幅要否判定を増幅不要と判定させて、増幅を行わず被験物質の検査結果について有効性判定を行わせ、
それ以外の場合には、判定手段に増幅要否判定を増幅必要と判定させて、増幅手段に呈色状態を増幅させ、増幅後、判定手段に被験物質の検査結果について有効性判定を行わせる動作モードを有することが好ましい。
【0023】
或いは、本発明に係るクロマトグラフ測定装置は、テストラインが2つ以上ある場合に、この2つ以上のテストラインの一部を検査対象として指定可能とする指定手段を備え、
動作モード選択手段は、選択可能な動作モードとして、
検体溶液を不溶性担体に点着してから予め設定された所定時間の経過時に、テストラインおよびコントロールラインの光学濃度および色度を測定手段に測定させ、
指定手段に指定されたテストラインおよびコントロールラインについての光学濃度および色度が所定値に達した場合には、判定手段に増幅要否判定を増幅不要と判定させて、増幅を行わず被験物質の検査結果について判定を行わせ、
それ以外の場合には、判定手段に増幅要否判定を増幅必要と判定させて、増幅手段に呈色状態を増幅させ、増幅後、判定手段に被験物質の検査結果について有効性判定を行わせる動作モードを有することが好ましい。
【0024】
本発明に係るクロマトグラフ測定装置は、被験物質についての検査結果を記憶する記憶手段をさらに備えることができる。この場合、記憶手段は、検査結果と、増幅前か或いは増幅後かのいずれの時点で検査結果が得られたのかを表示する識別記号とを関連付けて記憶するものであることが好ましい。記憶手段は、判定手段の有効性判定によって、所定時間が経過する前に被験物質の検査結果について有効である旨の判定が出された場合に、この所定時間が経過する前に得られた検査結果を記憶するものであることが好ましい。記憶手段は、検査結果と、所定時間が経過する前に検査結果が得られた旨を表示する識別記号とを関連付けて記憶するものであることが好ましい。
【0025】
本発明に係るクロマトグラフ測定装置は、検査結果と上記識別記号を表示する画面表示手段を備えることができる。
【0026】
判定手段は、テストラインおよびコントロールラインの少なくとも1つの増幅前の色度が増幅前の正常な色度と異なった場合に、有効性判定をエラーと判定するものであることが好ましい。
【0027】
判定手段は、テストラインおよびコントロールラインの少なくとも1つの増幅後の色度が増幅後の正常な色度と異なった場合に、有効性判定をエラーと判定するものであることが好ましい。
【0028】
判定手段は、検体溶液の展開直後にコントロールラインの光学濃度および色度が所定値に達している場合に、有効性判定をエラーと判定するものであることが好ましい。
【0029】
判定手段は、テストラインおよびコントロールラインの少なくとも1つの増幅前の光学濃度の値に対する増幅後の光学濃度の値が、所定の値よりも小さい場合に、有効性判定をエラーと判定するものであることが好ましい。
【0030】
増幅手段は、銀イオン含有化合物を含む増幅溶液および銀イオンのための還元剤を用いて、銀イオンの還元により形成された銀微粒子を標識物質に沈着させることによって呈色状態を増幅するものであることが好ましい。
【0031】
さらに、本発明に係るクロマトグラフ測定方法は、
被験物質に対する特異的結合物質が固定されたテストラインと、測定の終了時を判断するためのコントロールラインと、固定化された標識物質とを有する不溶性担体であって、被験物質を含有しうる検体溶液と被験物質を標識する標識物質とが展開された不溶性担体の、テストラインおよびコントロールラインに捕捉された標識物質の呈色状態を測定して、被験物質について検査するクロマトグラフ測定方法において、
不溶性担体に検体溶液を点着してから所定時間が経過した時に測定された、呈色状態の光学濃度および色度に基づいて、呈色状態の増幅が必要であるか否かについて第1の判定を行い、
第1の判定の結果、テストラインおよびコントロールラインの少なくとも1つの光学濃度および色度が所定値に達しなかったために、呈色状態の増幅が必要である旨の判定が出された場合に、
不溶性担体に洗浄液および増幅溶液を展開することにより、テストラインおよびコントロールラインを洗浄すると共に、呈色状態を増幅し、
増幅された呈色状態の光学濃度および色度を測定して、この光学濃度および色度に基づき、検査の結果が有効であるか否かについて第2の判定を行うことを特徴とするものである。
【0032】
そして、本発明に係るクロマトグラフ測定方法において、上記所定時間は5分〜20分であることが好ましい。
【0033】
第2の判定を第1の判定後1分〜20分経過後に行うことが好ましい。
【0034】
検体溶液の展開方向と洗浄液の展開方向との成す角は45度から170度であることが好ましく、不溶性担体は多孔性担体であることが好ましい。
【0035】
標識物質は金属コロイドであることが好ましく、金属コロイドは金コロイドであることが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係るクロマトグラフ測定装置は、被験物質の検査結果について有効性判定および増幅要否判定を行う判定手段と、この判定手段の増幅要否判定に応じて、呈色状態を増幅させる増幅溶液を展開する増幅手段とを備えることを特徴としている。したがって、本装置によれば、検査部位の呈色状態を測定し、この呈色状態に基づいて判定手段により増幅要否判定(第1の判定)を行い、増幅要否判定として増幅は不要である旨の判定が出された場合にはその呈色状態に基づいて有効性判定(第2の判定)を行い、増幅要否判定として増幅が必要である旨の判定が出された場合にはその呈色状態を増幅し、増幅された呈色状態に基づいて有効性判定(第2の判定)を行うことができる。上記のように必要な場合にのみ増幅工程を実施することにより、不要な増幅工程の実施による検査時間の遅延や無駄な増幅溶液の消費、および使用者に過度の手間を取らせることを防止することができる。さらに、呈色状態の増幅によって検査ラインからの信号量を稼ぐことにより、検体溶液中の被験物質の濃度が低い等の場合においても、検査結果が偽陰性とみなされることを防止することができる。この結果、アッセイ用デバイスを用いた検査においてより簡便かつ迅速に信頼性の高い検査結果を取得することが可能となる。
【0037】
さらに、本発明に係るクロマトグラフ測定方法も、増幅要否判定(第1の判定)の結果に応じて呈色状態の増幅工程を実施し、増幅された呈色状態について有効性判定(第2の判定)を行うようにしているため、上記同様に、不要な増幅工程の実施による検査時間の遅延や無駄な増幅溶液の消費、使用者に過度の手間を取らせること、および検査結果が偽陰性とみなされることを防止することができ、より簡便かつ迅速に信頼性の高い検査結果を取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第1の実施形態のクロマトグラフ測定装置を示す概略斜視図である。
【図2】図1のI−I線におけるクロマトグラフ測定装置の内部を示す概略図である。
【図3A】クロマトグラフ測定装置に装填されるアッセイ用デバイスを示す概略上面図である。
【図3B】クロマトグラフ測定装置に装填されるアッセイ用デバイスを示す概略底面図である。
【図3C】図3AのII−II線におけるアッセイ用デバイスの断面を示す概略断面図である。
【図4A】アッセイ用デバイスの他の形態を示す概略上面図である。
【図4B】図4Aのデバイスが閉じられた場合のメンブレンの位置関係を示す概略図である。
【図5A】呈色状態の様子と、増幅要否判定および有効性判定の判定例を説明する図である。
【図5B】呈色状態の様子と、増幅要否判定および有効性判定の判定例を説明する図である。
【図5C】呈色状態の様子と、増幅要否判定および有効性判定の判定例を説明する図である。
【図5D】呈色状態の様子と、有効性判定の判定例を説明する図である。
【図5E】呈色状態の様子と、有効性判定の判定例を説明する図である。
【図6A】正常に増幅工程が終了した場合の増幅前後の光学濃度を示す図である。
【図6B】増幅前後の光学濃度に基づいたエラー終了判定例を説明する図である。
【図6C】増幅前後の光学濃度に基づいたエラー終了判定例を説明する図である。
【図6D】増幅前後の光学濃度に基づいたエラー終了判定例を説明する図である。
【図7】第2の実施形態のクロマトグラフ測定装置を示す概略断面図である。
【図8】測定装置の画面表示部に表示された検査画面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0040】
「第1の実施形態」
(クロマトグラフ測定装置)
まず、本実施形態に係るクロマトグラフ測定装置1の構成について説明する。図1は本実施形態に係るクロマトグラフ測定装置1の外観を示す概略斜視図であり、図2はイムノクロマト用デバイス20が装填され、図1におけるI−I線で切断した場合の内部を示す概略図である。また、図3Aおよび図3Bはそれぞれデバイス20の外観を示す概略上面図および概略底面図、図3Cは図3AのII−II線における概略断面図である。
【0041】
図1および図2に示すように、クロマトグラフ測定装置1は、筐体10と、筐体10の表面に配置された画面表示部11、画面表示部11に表示されたメニューの操作を行うためのメニュー操作部12および電源スイッチ13と、デバイス20を装置内部に装填するためのデバイス装填部14と、さらに装置1の内部を構成する、デバイス20から情報を取得する第1の測定部40および第2の測定部50と、第1の測定部40により取得された情報に基づいて被験物質の検査結果の有効性判定および増幅要否判定を行う判定部32と、所定の動作処理を装置に行わせるための動作モードを選択可能とする動作モード選択部34と、デバイス20内の不溶性担体21に増幅溶液を展開する増幅溶液供給部60と、上記第1の測定部40、第2の測定部50、判定部32、動作モード選択部34および増幅溶液供給部60を制御する制御部30とを備えている。
【0042】
また、図3A、図3Bおよび図3Cに示すように、デバイス20は、2つのテストライン(AおよびB)とコントロールラインCとを有する不溶性担体21と、不溶性担体21を収容するためのデバイス用筐体22と、不溶性担体21に試薬溶液を注入するための溶液注入口23と、デバイス用筐体22に収容された不溶性担体21の検査部位21aを観察するための観察窓24とを備えており、デバイス用筐体22の表面には情報表示部25が設けられている。
【0043】
以下、上記測定装置1について説明する。
【0044】
(判定部)
クロマトグラフ測定装置1の判定部32は、本発明に係る判定手段として、第1の測定部により測定された検査部位の呈色状態に基づいて、被験物質の検査結果の有効性判定および増幅要否判定を行うものである。有効性判定により、検査の進行状態(溶液の展開状態、テストラインにおける被験物質および標識物質の捕捉状態、およびコントロールラインにおける標識物質の捕捉状態等)が正常であり、その後得られる結果が信頼に足るか否か、または検査が正常に終了しその結果が信頼に足るか否かが判定される。これらの場合において、信頼に足る場合には有効判定が出され、信頼に足らない場合にはエラー判定が出される。一方、増幅要否判定により、検査部位の呈色状態を増幅させる必要があるか否かが判定され、必要がある場合には増幅必要判定が、必要がない場合には増幅不要判定が出される。
【0045】
(有効性判定)
検査の進行段階において、判定部32よりエラー判定が出される場合としては、例えば、上記進行状態が正常でない恐れがあるため、何らかの検査結果が得られたとしてもその結果の信頼性が低いと判断された場合等が挙げられる。検査の進行状態が正常でない場合としては、例えばデバイス20を再使用しているために検査の初期段階にもかかわらずコントロールラインが呈色していた場合等が挙げられる。検査の終了段階において、判定部32より有効判定が出された場合には、判定部32は当該検査結果が陽性か陰性かの判定も行う。検査の終了段階において、判定部32よりエラー判定が出される場合としては、例えば、上記進行状態が正常でなかったため正常な検査結果を得ることができなかった場合が挙げられる。なお、それぞれの段階でのエラー判定の他の具体例については後述する。
【0046】
(増幅要否判定)
判定部32より増幅必要判定が出される場合としては、例えば、もともと検体溶液中の被験物質の濃度が低いために、或いは検査ライン(テストラインおよびコントロールライン)についての試薬等の性質上当該検査自体の反応完了時間が長いために、検査の進行状態が、そのまま検査を進行させたとしても相当の時間を要しなければ検査結果を得ることができない状態にあると予測された場合が挙げられる。ここで、上記進行状態のどのポイントで増幅要否判定を行うかについては、任意に設定することができる。相当の時間を要するか否かの予測は、経時的に計測した呈色状態の変化に基づいて予測することができ、例えば光学濃度の変化率に基づいて予測することができる。判定部32より増幅不要判定が出される場合としては、例えば、検体溶液中の被験物質の濃度が高いために或いは当該検査自体の反応完了時間が短いために、上記進行状態が、すでに検査結果を得ることができる状態にあると判断された場合、或いは相当の時間を要せずに検査結果を得ることができる状態にあると予測された場合が挙げられる。
【0047】
有効性判定および増幅要否判定を検査の進行上どのタイミングで行うかは特に制限されないが、最も基本的な検査工程としては、検体溶液注入から所定時間経過後、増幅要否判定、有効性判定の順に判定を行って最終的な検査結果を得るというものである。上記所定時間は、検査目的や検査結果取得の時間短縮等に応じて医師等の使用者によって適宜設定される。例えば、この所定時間を短く設定すれば、早い段階で増幅要否判定を行いかつ必要に応じて増幅工程を行えるため、検査結果を取得するまでの時間を短縮することができる。また、後述するように、検査初期段階における進行状態の異常を検知するために、例えば増幅要否判定の前に別途有効性判定を上記基本的な検査工程に追加することもできる。
【0048】
(動作モード選択部)
動作モード選択部34は、予め設定された所定の動作処理を装置に行わせるための動作モードを格納している。そして、格納されている動作モードは制御部30を介して画面表示部11にメニューとして表示され、測定装置1の使用者はメニュー操作部12を操作してこのメニューの中から動作モードを選択することができる。これにより使用者は検査目的に適合した測定を実施することができる。
【0049】
動作モード選択部34は、例えば動作モードとして、検体溶液を不溶性担体に点着してから予め設定された所定時間の経過時に、テストラインおよびコントロールラインの光学濃度および色度を測定手段に測定させ、すべてのラインについての光学濃度および色度が所定値に達した場合には、判定手段に増幅要否判定を増幅不要と判定させて、増幅を行わず被験物質の検査結果について有効性判定を行わせ、それ以外の場合には、判定手段に増幅要否判定を増幅必要と判定させて、増幅手段に呈色状態を増幅させ、増幅後、判定手段に被験物質の検査結果について有効性判定を行わせる動作モード(第1の動作モード)を格納している。このような動作モードによれば、1つのデバイス20に複数のテストラインがある場合に、すべてのテストラインについて信頼性の高い検査を行うことができる。
【0050】
また、デバイス20にテストラインが2つ以上ある場合に、測定装置1が、この2つ以上のテストラインの一部を検査対象として指定可能とする指定手段を備えている場合には、動作モード選択部34は、例えば他の動作モードとして、検体溶液を不溶性担体に点着してから予め設定された所定時間の経過時に、テストラインおよびコントロールラインの光学濃度および色度を測定手段に測定させ、指定手段に指定されたテストラインおよびコントロールラインについての光学濃度および色度が所定値に達した場合には、判定手段に増幅要否判定を増幅不要と判定させて、増幅を行わず被験物質の検査結果について判定を行わせ、それ以外の場合には、判定手段に増幅要否判定を増幅必要と判定させて、増幅手段に呈色状態を増幅させ、増幅後、判定手段に被験物質の検査結果について有効性判定を行わせる動作モード(第2の動作モード)を格納している。このような動作モードによれば、無駄な検査時間を低減し、指定したテストラインについて効率よく検査を行うことができる。
【0051】
(測定部)
第1の測定部40は、デバイス20の観察窓24を通して検査部位21aの呈色状態を測定する本発明に係る測定手段として機能し、検査部位21aにおける光学的情報を取得するものである。第1の測定部40は、図2に示すようにイメージセンサ42と光源44とを備え、デバイス20が測定装置1に装填された際に、これらがデバイス20の下方に配して観察窓24に対向するように構成されている。そして、第1の測定部40によって取得された検査部位21aにおける光学的情報に基づいて、検査部位21aの呈色状態として光学濃度および色度が算出される。
【0052】
イメージセンサ42は、例えば複数のフォトダイオードがライン状に配列された構成、或いはエリアセンサといった光学センサを備える構成とされており、受光した光の輝度に応じた出力を生じる。イメージセンサ42の受光範囲は、デバイス20の長手方向に延びた帯状とされている。光源44は、例えばLEDが内蔵されたモジュールであり、白色光を発するように構成されている。なお、光源44は、増幅前後の色度の区別が付けば例えば単色光を発するものでもよい。また光源44は、モジュールを複数備える場合には、異なる波長の単色光を発する複数のモジュールを用いることもできる。光源44から照射される光は、デバイス20の長手方向を照明可能とされている。
【0053】
第2の測定部50は、デバイス20の情報表示部25に照明光を照射し、情報表示部25に表示された情報を取得するものである。情報表示部25は、手書きまたはシール添付等により検査に関する情報が表示されている。検査に関する情報とは例えば、被験物質を採取した患者に関する情報(氏名、年齢および性別等)および検査に使用される試料・試薬に関する情報(検査対象となる被験物質、洗浄液および増幅溶液等の名称等)等が挙げられる。情報を取得する方法は、特に制限されず、情報表示部25をそのまま画像化したりバーコード化された情報から読み取ったりすることができる。第2の測定部50は、図2に示すようにイメージセンサ52と光源54とを備え、デバイス20が測定装置1に装填された際に、これらがデバイス20の上方に配して情報表示部25に対向するように構成されている。そして、第2の測定部50によって取得された検査に関する情報と検査結果とが紐付けされて管理される。イメージセンサ52および光源54については、上記イメージセンサ42および光源44とそれぞれ同様である。
【0054】
(光学濃度)
光学濃度は、アッセイ用デバイスの検査部位に入射された入射光の強度をI、検査部位からの反射光の強度をIとしたとき、下記式1により定める。
式1:光学濃度=−log10(I/I)
【0055】
(色度)
また、色度は、色相と彩度を数量的に表示したものであり、イメージセンサで読み取ったRGB輝度信号から算出する。色度の表色系としては、一般的なCIE表色系を用いることができる。
【0056】
(増幅溶液供給部)
増幅溶液供給部60は、銀イオン含有化合物を含む増幅溶液を貯蔵する増幅溶液貯蔵ポット62と、増幅溶液貯蔵ポット62から増幅溶液を注入する増幅溶液注入ノズル62aと、上記増幅溶液に含まれる銀イオンを還元する還元剤を貯蔵する還元剤貯蔵ポット64と、還元剤貯蔵ポット64から還元剤を注入する還元剤注入ノズル64aとを備え、増幅溶液貯蔵ポット62および還元剤貯蔵ポット64のそれぞれに貯蔵された液体を、それぞれの注入ノズル62a・64aを通して装填されたデバイス20の溶液注入口23に注入することができるように構成されている。液体の注入は、例えば増幅溶液供給部60を駆動装置により駆動させて順に或いは交互にそれぞれの注入ノズルから別個に注入するようにしてもよく、また2つのノズルを先端部で結合させてそれぞれの貯蔵ポットから供給された液体を同時に注入するようにしてもよい。
【0057】
なお、増幅溶液供給部60は上記構成に限定されるものではない。例えば、それぞれの貯蔵ポットに貯蔵する溶液の組み合わせを増幅溶液および洗浄液等の組み合わせにしてもよく、また増幅溶液を貯蔵するポット単独で構成してもよい。さらに、溶液を貯蔵する貯蔵ポットは、必ずしも測定装置1の内部に備える必要はない。例えば、貯蔵ポットを測定装置(筐体10)の外部に設け、注入ノズルのみを操作して溶液注入口23に溶液を注入するように構成してもよい。
【0058】
(クロマトグラフ測定方法)
次に本発明のクロマトグラフ測定方法について説明する。
本実施形態に係る測定方法は、被験物質に対する特異的結合物質が固定されたテストラインと、測定の終了時を判断するためのコントロールラインと、固定化された標識物質とを有する不溶性担体21を備えるデバイス20を用意し、このデバイス20の溶液注入口23に検査対象である被験物質を含有しうる検体溶液を注入し、不溶性担体21に検体溶液を点着してから所定時間経過後、検査部位21aにおける呈色状態として光学濃度および色度を測定し、この光学濃度および色度に基づいて増幅要否判定(第1の判定)を行い、
テストライン(AおよびB)およびコントロールラインCの少なくとも1つの光学濃度および色度が所定値に達しなかったため、増幅要否判定の結果、増幅必要判定が出された場合には、不溶性担体21に還元剤(ここで、還元剤は洗浄液としても機能する。)を展開することによりテストライン(AおよびB)およびコントロールラインCを洗浄し(洗浄処理)、不溶性担体21に増幅溶液を展開することにより、銀イオンの還元により形成された銀微粒子を標識物質に沈着させて呈色状態を増幅させ(増幅処理)、増幅された呈色状態の光学濃度および色度を測定して、この光学濃度および色度に基づいて有効性判定(第2の判定)を行い、
それ以外の場合には、上記増幅工程(洗浄処理、増幅処理を含む)を行わず、増幅要否判定(第1の判定)時の光学濃度および色度に基づいて有効性判定(第2の判定)を行うものである。
【0059】
そして、本発明に係るクロマトグラフ測定方法において、上記所定時間は5分〜20分であることが好ましい。また、第2の判定を第1の判定後1分〜20分以内に行うことが好ましい。つまり、このように時間設定をすることにより、早い段階で増幅の要否が判断できてより迅速に検査結果を得ることができる。
【0060】
検体溶液の展開方向と洗浄液の展開方向との成す角は45度から170度であることが好ましく、不溶性担体は多孔性担体であることが好ましい。
【0061】
検体溶液の展開方向と洗浄液の展開方向との成す角は、例えば図4Aに示すようなイムノクロマトグラフキット70を用いて調整することができる。イムノクロマトグラフキット70は、イムノクロマトグラフ用ストリップ(不溶性担体)71を保持する第1のデバイス部品81と、送液用不溶性担体72と吸収用不溶性担体73を保持する第2のデバイス部品82とが、位置決め部材84によって繋がってなるものである。位置決め部材84はイムノクロマトグラフ用ストリップ71と送液用不溶性担体72および吸収用不溶性担体73とがそれぞれ接触しない状態で第1のデバイス部品81と第2のデバイス部品82を固定するとともに、第1のデバイス部品81と第2のデバイス部品82とが向かい合うように閉じられた時には、第1のデバイス部品81に保持されているイムノクロマトグラフ用ストリップ71と、第2のデバイス部品82に保持されている送液用不溶性担体72と吸収用不溶性担体73とが、図4Bに示すように接触する状態となるように固定することが可能なように構成されている。
【0062】
また、第1のデバイス部品81には、イムノクロマトグラフ用ストリップ71の中央部分(検出ライン76aに対応する部分)に、検出ライン76aを目視することが可能な観察窓85が設けられている。第1のデバイス部品81には液体を充填するための液体貯蔵ポッド83が設けられており、この液体貯蔵ポッド83は、第1のデバイス部品81と第2のデバイス部品82が、イムノクロマトグラフ用ストリップ71と、送液用不溶性担体72および吸収用不溶性担体73とが接触する位置に位置決めされ固定されたときに、送液用不溶性担体72の一端が液体貯蔵ポッド83に浸漬するように構成されている。
【0063】
このようなキットを用いることにより、イムノクロマトグラフ用ストリップ71に点着された検体溶液は毛細管力によって矢印A方向へと送液され、その後キットが閉じられた場合には、貯蔵ポット83に貯蔵されている液体は、送液用不溶性担体72、イムノクロマトグラフ用ストリップ71および吸収用不溶性担体73の順に矢印B方向へと送液される。ここで、イムノクロマトグラフ用ストリップ71と、送液用不溶性担体72および吸収用不溶性担体73との位置関係を適宜調整することで上記角度を調整することができる。
【0064】
以下、上記測定方法について説明する。
【0065】
(検体溶液)
本発明のアッセイ用デバイスを用いて分析することのできる検体溶液としては、被験物質(天然物、毒素、ホルモンまたは農薬等の生理活性物質あるいは環境汚染物質等)を含む可能性のあるものである限り、特に限定されるものではなく、例えば、生物学的試料、特には動物(特にヒト)の体液(例えば、血液、血清、血漿、髄液、涙液、汗、尿、膿、鼻水、又は喀痰)若しくは排泄物(例えば、糞便)、臓器、組織、粘膜や皮膚、それらを含むと考えられる搾過検体(スワブ)、うがい液、又は動植物それ自体若しくはそれらの乾燥体を後述の希釈液で希釈したもの等を挙げることができる。
【0066】
上記検体溶液はそのままで、あるいは、検体溶液を適当な抽出用溶媒を用いて抽出して得られる抽出液の形で、さらには、この抽出液を適当な希釈剤で希釈して得られる希釈液の形、若しくは抽出液を適当な方法で濃縮した形で用いることができる。
【0067】
(標識物質)
本発明で使用することができる標識物質としては、一般的なイムノクロマトグラフ法で用いられるような金属微粒子(又は金属コロイド)、着色ラテックス粒子、酵素など、有色で視認できる、または、反応により検査できるようになる標識物であれば特に限定されることなく用いることができるが、標識物質を触媒とした金属イオンの還元反応によって、標識物質への金属の沈着でシグナルを増幅する場合には、その触媒活性の観点から金属微粒子が好ましい。
【0068】
金属微粒子の材料としては、金属単体、金属硫化物、その他金属合金、または金属を含むポリマ−粒子標識を用いることができる。粒子(又はコロイド)の平均粒径は、1nm〜10μmの範囲が好ましい。ここで、平均粒径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)により実測された複数の粒子の径(粒子の最長径)の平均値である。より詳細には、金コロイド、銀コロイド、白金コロイド、鉄コロイド、水酸化アルミニウムコロイド、およびこれらの複合コロイドなどが挙げられ、好ましくは、金コロイド、銀コロイド、白金コロイド、およびこれらの複合コロイドであることが望ましい。特に、金コロイドと銀コロイドが適当な粒径において、金コロイドは赤色、銀コロイドは黄色を示し視認度が高いという観点からより好ましい。金コロイドを用いることにより、銀イオン含有化合物を用いた増幅工程を行うことにより増幅の前後で標識の色度が変化する(金コロイドは赤く呈色し、増幅後は還元された銀イオンが金コロイドに沈着し黒くなる)ため、後述するようにこの変化を検査のエラー判定に用いることができるようになる。金属コロイドの平均粒径としては、約1〜500nmが好ましく、さらには1〜100nmがより好ましい。
【0069】
(特異的結合物質)
特異的結合物質としては、被検物質に対して親和性を持つものならば特に限定されることはなく例えば、被験物質が抗原である場合には当該抗原に対する抗体、被験物質がたんぱく質、金属イオンまたは低分子量有機化合物である場合にはこれらに対するアプタマー、被験物質がDNAやRNAなど核酸である場合にはこれらに対して相補的な配列を持つDNAやRNA等の核酸分子、被験物質がアビジンである場合にはビオチン、被験物質が特定のペプチドの場合にはこれに特異的に結合する錯体、等を挙げることができる。また、上記した例では特異的結合物質と被験物質との関係を入れ替えることもでき、例えば被験物質が抗体である場合には当該抗体に対する抗原を、特異的結合物質として用いることもできる。さらに、上記のような被検物質に対して親和性を持つ物質を一部に含有する化合物等を特異的結合物質として用いることもできる。
上記抗体としては具体的に、その被験物質によって免疫された動物の血清から調製する抗血清、抗血清から精製された免疫グロブリン画分、その被験物質によって免疫された動物の脾臓細胞を用いる細胞融合によって得られるモノクローナル抗体、あるいは、それらの断片[例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、又はFv]を用いることができる。これらの抗体の調製は、常法により行なうことができる。
【0070】
(標識物質のシグナル増幅)
標識物質として金属コロイド標識、金属硫化物標識、その他金属合金標識、または金属を含むポリマ−粒子標識を用いるアッセイの場合には、金属系標識の信号を増幅させることができる。具体的には、被験物質と標識物質の複合体の形成後に、無機銀塩、有機銀塩などの銀を含む化合物から供給される銀イオンおよび還元剤を接触させ、還元剤によって銀イオンを還元して銀粒子を生成させると、その銀粒子が金属系標識を核として金属系標識上に沈着するので、金属系標識が増幅され、被験物質の分析を高感度に実施することができる。
【0071】
(不溶性担体)
不溶性担体21は、検体溶液を滴下する部分である試料添加パッド、被験物質と結合可能な標識物質が固定された標識物質保持パッド、被験物質に対する特異的結合物質が固定された検査部位を有するクロマトグラフ担体、及び送液された検体溶液等を吸収する吸収パッドを有している。検査部位には、それぞれ異なる特異的結合物質が固定された2つのテストラインを設けているが、テストラインの数はこれに限定されず、1つでもよいし3つ以上でもよい。テストラインを複数にすることによって検体溶液に複数の被験物質が含まれる場合に、効率よく一度に複数の被験物質を検査することが可能となる。不溶性担体21の材料は、多孔性であることが好ましく、例えば、ニトロセルロース膜、セルロース膜、アセチルセルロース膜、ポリスルホン膜、ポリエーテルスルホン膜、ナイロン膜、ガラス繊維、不織布、布、または糸等が好ましく挙げられる。
【0072】
クロマトグラフ担体には、被験物質に対する特異的結合物質を固定化させて検査ラインや所望によりコントロール部位が作製される。特異的結合物質は、特異的結合物質をクロマトグラフ担体の一部に物理的または化学的結合により直接固定化させてもよいし、特異的結合物質をラテックス粒子などの微粒子に物理的または化学的に結合させ、この微粒子をクロマトグラフ担体の一部にトラップさせて固定化させてもよい。
【0073】
標識物質保持パッドは、前述の標識物質を含む懸濁液を調製し、その懸濁液を適当なパッド(例えば、グラスファイバーパッド)に塗布した後、それを乾燥することにより調製したものである。これにより、不溶性担体に検体溶液が注入された場合、標識物質が被験物質と共に展開されながら当該被験物質に結合して、検査部位まで流される。
【0074】
試料添加パッドは試料(検体溶液等)を点着する部分であって、試料中の不溶物粒子等を濾過する機能をも兼ねる部分である。なお、分析の際、検体溶液中の被験物質が試料添加部の材質に非特異的に吸着し、分析の精度を低下させることを防止するため、試料添加パッドは予め非特異的吸着防止処理されて用いられることもある。
【0075】
吸収パッドは、添加された試料がクロマト移動により物理的に吸収されると共に、クロマトグラフ担体の検査ラインに不溶化されない未反応標識物質等を吸収除去する部位である。添加された試料のクロマト先端部が吸収部に届いてからのクロマトの速度は、吸収材の材質、大きさなどにより異なるので、その選定により被験物質の測定に合った速度を設定することができる。
【0076】
(増幅溶液)
増幅溶液は、含まれる薬剤が標識物質や被験物質の触媒作用によって反応することにより、呈色或いは発光する化合物などを生じ、シグナルの増幅を起こすことができる溶液である。例えば、金属標識上で、物理現像により金属銀の析出を起こす銀イオン溶液である。詳細には、写真化学の分野での一般書物(例えば、「改訂写真工学の基礎-銀塩写真編-」(日本写真学会編、コロナ社)、「写真の化学」(笹井明、写真工業出版社)、「最新処方ハンドブック」(菊池真一他、アミコ出版社))に記載されているような、いわゆる現像液を用いることができる。例えば、増幅溶液として銀イオン含有化合物を含む物理現像液を用いれば、銀イオンの還元剤により液中の銀イオンを、現像の核となるような金属コロイド等を中心に還元させることができる。
【0077】
また別の例としては、酵素反応を用いた例がある。例えば、ペルオキシダーゼ標識と過酸化水素の作用により色素となる、フェニレンジアミン化合物とナフトール化合物の溶液などが挙げられる。さらに、非特許文献「臨床検査 Vol.41 no.9 p.1020 H−POD系を利用した染色」に記載されているような、西洋わさびペルオキシダーゼ検出の発色基質などでもよい。また、特開2009−156612に記載の発色基質は特に好ましく用いることができる。なお、酵素の代わりに白金微粒子などの金属触媒を用いる系でもよい。
別の酵素を用いた例としては、アルカリホスファターゼを標識とし、5−ブロモ−4クロロ−3−インドリル−リン酸二ナトリウム塩(BCIP)を基質として発色させるような系もある。以上、呈色する反応を代表に挙げたが、一般的にエンザイムイムノアッセイで用いられるような、酵素と基質の組み合わせであればなんでも良く、化学発光する基質であっても、蛍光を発する基質であってもよい。
【0078】
(銀イオン含有化合物)
銀イオン含有化合物としては、有機銀塩、無機銀塩、もしくは銀錯体を用いることができる。好ましくは、水などの溶媒に対して溶解度の高い銀イオン含有化合物であり、硝酸銀、酢酸銀、乳酸銀、酪酸銀、チオ硫酸銀などが挙げられる。特に好ましくは硝酸銀である。銀錯体としては、水酸基やスルホン基など水溶性基を有する配位子に配位された銀錯体が好ましく、ヒドロキシチオエーテル銀等が挙げられる。無機銀塩、もしくは銀錯体は、銀として一般に0.001モル/m〜0.2モル/m、好ましくは0.01モル/m〜0.05モル/m含有されることが好ましい。
【0079】
(銀イオンの還元剤)
銀イオンの還元剤は、銀イオンを銀に還元することができれば、無機・有機のいかなる材料、またはその混合物でも用いることができる。
【0080】
無機還元剤としては、Fe2+、V2+、Ti3+、などの金属イオンで原子価の変化し得る還元性金属塩、還元性金属錯塩を好ましく挙げることができる。無機還元剤を用いる際には、酸化されたイオンを錯形成するか還元して、除去するか無害化する必要がある。例えば、Fe2+を還元剤として用いる系では、クエン酸やEDTAを用いて酸化物であるFe3+の錯体を形成し、無害化することができる。本系ではこのような無機還元剤を用いることが好ましく、より好ましくはFe2+の金属塩が好ましい。
【0081】
(増幅要否判定等の具体例)
以下検査部位の呈色状態に基づいて、増幅要否判定および有効性判定がどのように行われるかを図5A〜図5Eに示す具体例を用いながら説明する。
【0082】
図5A〜図5Eは、デバイス20に検体溶液を注入し、測定装置1にこのデバイス20を装填した後の検査における検査部位の呈色状態の様子を示す概念図である。図に示すように、検査工程は主として増幅前の工程、増幅要否判定を行う工程、増幅後の工程および有効性判定を行う工程により構成されている。ここで、図中Aは被検質物質Aを検査するテストライン(Aライン)を表し、Bは被検質物質Aと異なる被検質物質Bを検査するテストライン(Bライン)を表し、Cは検査の終了(標識物質が当該地点まで送液されていること)を示すコントロールライン(Cライン)を表す。また、不溶性担体には標識物質として適切に処理された金コロイドを用いているものとする。したがって、AラインおよびBラインはそれぞれ被験物質AおよびBが検査されると赤く呈色し、Cラインは被験物質の有無に関わらず、検査が終了すれば赤く呈色する。なお、以下の説明においては、増幅要否判定および有効性判定の判断基準となる「所定値」として、「目視できる程度の所定値」を設定し、検査ラインの呈色状態が目視できるか否かにより当該判定を行う場合を想定している。
【0083】
本発明は、検査において増幅要否判定により呈色状態の増幅が必要と認められた場合にのみ増幅工程を行うことができる。増幅が必要と認められる場合としては、例えば図5Aおよび図5Bに示したケースが挙げられる。
【0084】
図5Aの(1)〜(6)のSTEP1はデバイス20の装填後所定時間(10分)までの検査部位の様子を示している。そして、デバイス20の装填後10分経過後にSTEP2において増幅要否判定が行われる。(1)〜(6)のケースの10分後の段階ではテストラインの呈色状態はすべて目視できる程度の所定値に達していない。したがって、増幅要否判定によりこれらすべてのケースについて増幅必要判定が出される。これは、テストラインについて、呈色はしているが呈色の光学濃度が単に目視できる程度の所定値に達していない場合が考えられ、呈色状態の増幅により目視可能となる可能性があるためである。STEP3はこれらのケースの増幅後の検査部位の呈色状態の様子を示している。STEP4では、増幅後の呈色状態に基づいて有効性判定が行われる。これにより、STEP3の様子からケース(4)〜(6)については、それぞれAライン、Bライン、AラインおよびBラインが呈色しているため、有効性判定の結果として有効判定が出されると共に、それぞれについてA陽性、B陽性、AおよびB陽性という検査結果が得られる。ケース(2)および(3)については、増幅後においてもCラインのみが呈色していることから、有効性判定の結果有効判定が出されると共に、陰性という検査結果が得られる。さらに、ケース(1)については、増幅後においても検査ライン(特にCライン)が呈色していないため、有効性判定の結果何らかのエラーにより正常に検査が終了しなかったとしてエラー判定が出される。
【0085】
図5Bの(7)〜(12)のSTEP1もデバイス20の装填後所定時間(10分)までの検査部位の様子を示している。そして上記と同様に、デバイス装填後10分経過時にSTEP2において増幅要否判定が行われる。(7)〜(12)のケースの10分後の段階では、少なくてもどちらかのテストラインの呈色状態は目視できる程度の所定値に達しているが、残りのテストラインおよびCラインは目視できる程度の所定値に達していない。したがって、増幅要否判定によりこれらすべてのケースについて増幅必要判定が出される。これも、呈色状態の増幅により目視可能となる可能性があるためである。STEP3はこれらのケースの増幅後の検査部位の呈色状態の様子を示している。STEP4では、増幅後の呈色状態に基づいて有効性判定が行われる。これにより、STEP3の様子からケース(7)〜(9)については、有効性判定の結果として有効判定が出されると共に、それぞれについてA陽性、B陽性、AおよびB陽性という検査結果が得られる。一方、STEP3の様子からケース(10)〜(12)については、Cラインが目視できず検査が正常に終了しなかったため、有効性判定の結果としてエラー判定が出される。
【0086】
また、本発明において増幅が不要と認められる場合としては、例えば図5Cに示したケースが挙げられる。
【0087】
図5Cの(13)、(14)、(16)および(17)は、前述した第2の動作モードを適用して検査を行ったケースを示している。これにより、テストラインが複数ある場合、そのうち指定されたテストラインについてのみ増幅が必要であるか否かが判断される。(13)および(16)のケースは、Aラインが指定され、さらに所定時間(10分)経過後既にAラインおよびCラインが目視できる状態にある。また、(14)および(17)のケースは、Bラインが指定され、さらに所定時間(10分)経過後既にBラインおよびCラインが目視できる状態にある。したがって、これらのケースについては、他方のテストラインの呈色状態に関わらず、増幅要否判定により増幅不要判定が出される。
【0088】
図5Cの(15)および(18)は、所定時間(10分)経過後或いは経過前に、既にすべてのテストラインと、Cラインとが目視できる状態にある。したがって、これらのケースについても、増幅要否判定により増幅不要判定が出される(第1の動作モード)。
【0089】
なお、(16)〜(18)に示すケースのように、予め設定された所定時間(ここでは10分)前に既に検査目的を達成できる状態にあれば、検査時間を短縮するために、規定の増幅要否判定を行う前に適宜増幅要否判定を行うこともできる。
【0090】
このように、検査部位の呈色状態を増幅せずとも検査目的を達成できる場合には、増幅要否判定により適宜増幅不要判定を出すことで、すべての検査に対して増幅工程を実施する場合に比して、検査時間を短縮し、かつ増幅溶液の使用を節減することができる。
【0091】
本発明の有効性判定は、最終的な検査結果を得るときに行う場合に限られず、例えばデバイス20を測定装置1に装填した直後に行うこともできる。これにより、検査の初期段階で検査が正常に進行しているか否かを判定することができる。
【0092】
図5Dの(19)〜(22)は、デバイス20を測定装置1に装填した直後の検査部位の様子を示している。これらのケースでは、デバイス20の装填直後にCラインが既に呈色している。このような場合、検体溶液の点着からデバイス20の装填までの時間を特定することができないため、検査の結果の信頼性が低いとして有効性判定によりエラー判定が出される。
【0093】
また、図5Eの(23)〜(27)も、デバイス20を測定装置1に装填した直後の検査部位の様子を示している。これらのケースでは、呈色状態の増幅を行っていないにも関わらず、検査ラインの呈色状態の色度が増幅後の色度と一致している。このような場合、使用済みデバイスを再使用している可能性があるため、検査の結果の信頼性が低いとして有効性判定によりエラー判定が出される。増幅前後の基準となる色度の情報は、予め使用者が設定しておくか、或いはデバイス20に設けられた情報表示部25から取得した、検査に使用される試料・試薬に関する情報に基づいて、測定装置1が自動的に設定することができる。
【0094】
(光学濃度および色度に基づいた増幅前後の詳細な判定)
さらに、本発明の有効性判定は、増幅前後の検査部位の光学濃度および色度に基づいて、増幅工程が正常に行われたか否かを細かく判定することができる。これにより、検査結果の信頼性をより高めることができる。
【0095】
図6A〜図6Dは、増幅前後の検査部位の光学濃度および色度を示しており、グラフの高低は光学濃度の高低を表し、線種の違いは色度の違いを表している。そして、図6Aは増幅工程が正常に行われ、光学濃度が適切に増幅され、かつその色度が銀増幅により赤色(金コロイドの呈色)から黒色(銀微粒子の呈色)へと変化している場合のグラフである。なお、グラフ中のTおよびCは、それぞれ不溶性担体(メンブレン)のテストライン(以下、Tライン)部分およびコントロールライン(以下、Cライン)部分を示す。
【0096】
図6Bでは、増幅前のCラインとバックグラウンド(BG)との光学濃度の差a、および増幅後のCラインとBGとの光学濃度の差bを比較したとき、増幅前後のBGの差cが規定値より大きいことにより、濃度差aに対する濃度差bの比が規定値よりも小さくなっている。このような場合、増幅処理はある程度正常に行われたが、検査部位の洗浄処理が正常に行われなかったとして、有効性判定によりエラー判定が出される。
【0097】
図6Cでは、Cラインでは正常に増幅できているが、Tラインでは光学濃度が増幅されずかつ色度が増幅後の正常な色度に変化せず、そしてTラインとCラインとの間のBGの光学濃度に不自然な段差dが生じている。このような場合、図6Cのメンブレン長手方向右側から増幅溶液を送液したが、充分な量の増幅溶液が検査部位の一部までしか送液されなかったとして、有効性判定によりエラー判定が出される。
【0098】
図6Dでは、濃度差aに対する濃度差bの比が規定値よりも小さく、かつ検査ラインの色度が増幅後の正常な色度に変化していない。このような場合、増幅処理が正常に行われなかったとして、有効性判定によりエラー判定が出される。
【0099】
(本発明の作用効果)
本発明の測定装置1は、被験物質の検査結果の有効性判定および増幅要否判定を行う判定手段と、この判定手段の増幅要否判定に応じて、呈色状態を増幅させる増幅溶液を展開する増幅手段とを備えている。したがって、本装置によれば、検査部位の呈色状態を測定し、この呈色状態に基づいて判定手段により増幅要否判定(第1の判定)を行い、増幅要否判定として増幅は不要である旨の判定が出された場合にはその呈色状態に基づいて有効性判定(第2の判定)を行い、増幅要否判定として増幅必要判定が出された場合にはその呈色状態を増幅し、増幅された呈色状態に基づいて有効性判定(第2の判定)を行うことができる。上記のように必要な場合にのみ増幅工程を実施することにより、不要な増幅工程の実施による検査時間の遅延や無駄な増幅溶液の消費、および使用者に過度の手間を取らせることを防止することができる。さらに、呈色状態の増幅によって検査ラインからの信号量を稼ぐことにより、検体溶液中の被験物質の濃度が低い等の場合においても検査結果が偽陰性とみなされることを防止することができる。この結果、アッセイ用デバイスを用いた検査においてより簡便かつ迅速に信頼性の高い検査結果を取得することが可能となる。
【0100】
そして、測定装置1は、呈色状態の色度を測定しこの色度に基づいて、検査の進行段階および終了段階において、その検査の信頼性を判定することができる。したがって、検査結果を偽陰性と診断してしまうことを防止することができる。
【0101】
さらに、本発明の測定方法も、増幅要否判定(第1の判定)の結果に応じて呈色状態の増幅工程を実施し、増幅された呈色状態について有効性判定(第2の判定)を行うようにしているため、上記同様に、不要な増幅工程の実施による検査時間の遅延や無駄な増幅溶液の消費、使用者に過度の手間を取らせること、および検査結果が偽陰性とみなされることを防止することができ、より簡便かつ迅速に信頼性の高い検査結果を取得することが可能となる。
【0102】
(設計変更)
上記実施形態においては、呈色状態の増幅方法として銀イオン含有化合物を還元剤で還元することにより標識物質を増感させる方法を用いたが、本発明の増幅方法はこれに限定されない。増幅溶液は、含まれる薬剤が標識物質や被験物質の触媒作用によって反応することにより、呈色或いは発光する化合物などを生じ、シグナルの増幅を起こすことができる溶液であればよく、例えば上記したような酵素を用いた用液などが挙げられる。
【0103】
上記実施形態においては、アッセイ法としてイムノクロマトグラフ法について説明したが、本発明のアッセイ法はこれに限定されない。いわゆる免疫反応を用いない系でもよく、例えば、抗体を用いずにDNAやRNAなどの核酸で被験物質を捕捉する系でもよいし、さらには被験物質に対する親和性を持つ別の小分子やペプチド、たんぱく質、錯体形成物質等、によって被験物質を捕捉する系であってもよい。
【0104】
「第2の実施形態」
図7は、本実施形態の測定装置2を示す概略断面図である。測定装置2は、第1の測定部40および/または第2の測定部50のイメージセンサによって取得した情報を、リアルタイムに画面表示部11に表示し、さらに当該情報を画像として記憶することができるように構成されている点で、第1の実施形態と異なる。したがって、その他の構成については、第1の実施形態と同様であるため、同様の構成についての詳細な説明は、特に必要のない限り省略する。
【0105】
測定装置2は、測定装置1が有する構成の他に、測定部40・50から受信した情報を記憶することができる記憶部36と、当該情報に基づいて画像を形成する画像形成部37と、画像形成部によって形成された画像に対して画像処理を行う画像処理部38とをさらに備える。
【0106】
記憶部36は、測定部50が取得した検査に関する情報に当該情報を取得した日時を追加して、これらの情報を属性およびその項目ごとにテーブル状に分類し記憶する。属性とは、例えば被験物質を採取した患者に関する情報や、検査に使用される試料・試薬に関する情報等の情報の性質であり、属性の項目とは例えば、前者であれば氏名、年齢および性別等であり、後者であれば検査対象となる被験物質、洗浄液および増幅溶液等の名称等である。また、画像形成部により画像化された検査部位の情報(第1の測定部40により取得された情報)を上記テーブル化された情報と紐付けして記憶することができる。
【0107】
記憶部36は、検査結果と、増幅前か或いは増幅後かのいずれの時点でこの検査結果が得られたのかを表示する識別記号とを関連付けて記憶することができる。また、記憶部36は、判定手段32の有効性判定によって、検体溶液を不溶性担体に点着してから予め設定された所定時間が経過する前に、被験物質の検査結果について有効である旨の判定が出された場合に、所定時間が経過する前に得られたこの検査結果を記憶することができる。この場合、記憶部36は、検査結果と、所定時間が経過する前にこの検査結果が得られた旨を表示する識別記号とを関連付けて記憶することができる。上記のように記憶された検査結果は、任意に画面表示部11に表示することができる。検査結果が識別標識と関連付けられて記憶されることにより、これらを画面表示部に同時に表示することができ、検査結果が得られた経緯を容易に把握することができる。
【0108】
画像形成部37は、通常画像を形成できるほか、設定によりタグ領域が埋め込まれた画像、電子透かしが埋め込まれた画像、および2次元コード化された画像も形成することができる。なお、画像のファイル形式は適宜設定できる。
【0109】
画像処理部38は、形成された画像に対して、ノイズ除去、シェーディング補正、シャープネス補正、明るさ補正、コントラスト補正および色相変換等の処理を適宜施すことができる。また、画像処理部38によって、画像から呈色状態を計測して検査結果を判定してもよい。
【0110】
図8は、測定装置2によって取得された情報を、測定装置2の画面表示部11に表示する表示例を示す。ここでは、例えば15分で検査結果がでるアッセイ用デバイスについての検査画面であり、この検査画面90は図に示すように、検査に関する情報を表示する検査情報表示エリア92、第1の測定部40に取得された検査部位のリアルタイム画像を表示するリアルタイム表示エリア94、経時的に保存された過去の検査部位の画像を表示する経時画像表示エリア96を含む。
【0111】
この検査画面90に画像から判断した検査結果を表示することもできる。
【0112】
検査情報表示エリア92には、検査項目、検査の管理番号、検査日時、検査対象患者名、デバイス装填からの経過時間および第2の測定部50によって取得されたデバイスの情報表示部25の画像等が表示されている。また、任意にテキストの入力も可能なテキスト入力エリアも表示されている。
【0113】
リアルタイム表示エリア94では、リアルタイムに表示される画像について、途中画像保存機能を用いることにより任意の時点における画像を保存することが可能となっている。また、リアルタイム表示エリア94では、検査ラインとBGとの区別を容易にするため画像処理部38により画像処理された画像を表示してもよい。例えば、一般的に不溶性担体は黄色がかった色をしており、検査ラインのBGとしては視認し辛いものであるが、画像処理によりBGの色を適切に処理することにより、目視した場合に比べて検査ラインの視認性を高めることができる。
【0114】
経時画像表示エリア96には、デバイス装填から予め設定された時間が経過する時の画像が経時的に保存され順に表示される。例えば図8の場合には、デバイス装填から13分26秒が経過しており、その間3分、5分および10分経過したときに画像が保存され、これらの画像が順に表示されている。
【0115】
(本実施形態の作用効果)
上記のように、本実施形態の測定装置2は、第1の測定部40および/または第2の測定部50のイメージセンサによって取得した情報を、リアルタイムに画面表示部11に表示し、さらに当該情報を画像として記憶することができるように構成されている。従来クロマト測定装置について、デバイスが装填されブラックボックスとなることにより、呈色反応の途中の進行状況がわからず次の準備ができない等の問題がある。しかし本発明により、使用者は、測定装置2内部をリアルタイムに見ることができるため、反応の進行状況を把握し易くなり、検査終了の判断をし易くなる。例えば、試薬によって定められた反応完了時間よりも短い時間で呈色を確認できた場合には、使用者はその時点で検査終了の判断をすることができるため、検査の効率を高めることができる。
【0116】
また、従来の目視検査キットでは、検査結果を証拠として残す手段がなく、検査結果を判定した時間もはっきりしない等の問題がある。しかし、本発明によれば、経時的な呈色状態や検査結果の判断時の呈色状態を画像として保存することができるため、電子カルテと共に管理することができ、また患者にその画像を見せながら診察することができる等により、検査結果の証拠能力を高めることができる。
【0117】
そして、経時的に取得した画像を順に並べて表示することにより、前後の検査部位の画像を直接対比することができるため、より微妙な呈色の変化を把握しやすくなる。検査に異常が発生した場合には、件退寮の過不足等の原因を推定し易くなり、この結果も画像として保存することで証拠として残すことができる。
【符号の説明】
【0118】
1、2 クロマトグラフ測定装置
10 筐体
11 画面表示部
12 メニュー操作部
13 電源スイッチ
14 デバイス装填部
20 イムノクロマト用デバイス
21 不溶性担体
21a 検査部位
22 デバイス用筐体
23 溶液注入口
24 観察窓
25 情報表示部
30 制御部
32 判定部
34 動作モード選択部
36 記憶部
37 画像形成部
38 画像処理部
40、50 測定部
60 増幅溶液供給部
70 イムノクロマトグラフキット
90 検査画面
A、B テストライン
C コントロールライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質に対する特異的結合物質が固定されたテストラインと、測定の終了時を判断するためのコントロールラインと、固定化された標識物質とを有する不溶性担体であって、前記被験物質を含有しうる検体溶液と該被験物質を標識する前記標識物質とが展開された不溶性担体の、前記テストラインおよび前記コントロールラインを含む検査部位の呈色状態を測定して、前記被験物質について検査するクロマトグラフ測定装置において、
前記呈色状態として光学濃度および色度を測定する測定手段と、
該測定手段により測定された前記光学濃度および前記色度に基づいて、前記被験物質の検査結果の有効性判定および増幅要否判定を行う判定手段と、
前記増幅要否判定による増幅が必要であるとの判定に応じて、前記呈色状態を増幅させる増幅溶液を展開する増幅手段とを備えたことを特徴とするクロマトグラフ測定装置。
【請求項2】
前記判定手段が、前記テストラインおよび前記コントロールラインの少なくとも1つの前記光学濃度および前記色度が所定値に達しなかった場合に、増幅要否判定を増幅必要と判定するものであり、
前記増幅手段により増幅された前記呈色状態を測定して、前記被験物質について検査することを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフ測定装置。
【請求項3】
所定の動作処理を装置に行わせるための動作モードを選択可能とする動作モード選択手段を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のクロマトグラフ測定装置。
【請求項4】
前記動作モード選択手段が、選択可能な動作モードとして、
前記検体溶液を前記不溶性担体に点着してから予め設定された所定時間の経過時に、前記テストラインおよび前記コントロールラインの前記光学濃度および前記色度を前記測定手段に測定させ、
すべての前記ラインについての前記光学濃度および前記色度が所定値に達した場合には、前記判定手段に増幅要否判定を増幅不要と判定させて、増幅を行わず前記被験物質の検査結果について有効性判定を行わせ、
それ以外の場合には、前記判定手段に増幅要否判定を増幅必要と判定させて、前記増幅手段に前記呈色状態を増幅させ、増幅後、前記判定手段に前記被験物質の検査結果について有効性判定を行わせる動作モードを有することを特徴とする請求項3に記載のクロマトグラフ測定装置。
【請求項5】
前記テストラインが2つ以上ある場合に、該2つ以上のテストラインの一部を検査対象として指定可能とする指定手段をさらに備え、
前記動作モード選択手段が、選択可能な動作モードとして、
前記検体溶液を前記不溶性担体に点着してから予め設定された所定時間の経過時に、前記テストラインおよび前記コントロールラインの前記光学濃度および前記色度を前記測定手段に測定させ、
前記指定手段に指定されたテストラインおよび前記コントロールラインについての前記光学濃度および前記色度が所定値に達した場合には、前記判定手段に増幅要否判定を増幅不要と判定させて、増幅を行わず前記被験物質の検査結果について有効性判定を行わせ、
それ以外の場合には、前記判定手段に増幅要否判定を増幅必要と判定させて、前記増幅手段に前記呈色状態を増幅させ、増幅後、前記判定手段に前記被験物質の検査結果について有効性判定を行わせる動作モードを有することを特徴とする請求項3に記載のクロマトグラフ測定装置。
【請求項6】
前記被験物質についての検査結果を記憶する記憶手段をさらに備えたことを特徴とする請求項4または5に記載のクロマトグラフ測定装置。
【請求項7】
前記記憶手段が、前記検査結果と、増幅前と増幅後のいずれの時点で該検査結果が得られたかを表示する識別記号とを関連付けて記憶するものであることを特徴とする請求項6に記載のクロマトグラフ測定装置。
【請求項8】
前記記憶手段が、前記判定手段の有効性判定によって、前記所定時間が経過する前に前記被験物質の検査結果について有効である旨の判定が出された場合に、前記所定時間が経過する前に得られた前記検査結果を記憶するものであることを特徴とする請求項6に記載のクロマトグラフ測定装置。
【請求項9】
前記記憶手段が、前記検査結果と、前記所定時間が経過する前に該検査結果が得られた旨を表示する識別記号とを関連付けて記憶するものであることを特徴とする請求項8に記載のクロマトグラフ測定装置。
【請求項10】
前記検査結果と前記識別記号を表示する画面表示手段を備えたことを特徴とする請求項7または9いずれかに記載のクロマトグラフ測定装置。
【請求項11】
前記判定手段が、前記テストラインおよび前記コントロールラインの少なくとも1つの増幅前の前記色度が増幅前の正常な色度と異なった場合に、有効性判定をエラーと判定するものであることを特徴とする請求項1から10いずれかに記載のクロマトグラフ測定装置。
【請求項12】
前記判定手段が、前記テストラインおよび前記コントロールラインの少なくとも1つの増幅後の前記色度が増幅後の正常な色度と異なった場合に、有効性判定をエラーと判定するものであることを特徴とする請求項1から11いずれかに記載のクロマトグラフ測定装置。
【請求項13】
前記判定手段が、前記不溶性担体の装置への装填直後に、前記コントロールラインの前記光学濃度および前記色度が所定値に達している場合に、有効性判定をエラーと判定するものであることを特徴とする請求項1から12いずれかに記載のクロマトグラフ測定装置。
【請求項14】
前記判定手段が、前記テストラインおよび前記コントロールラインの少なくとも1つの増幅前の前記光学濃度の値に対する増幅後の前記光学濃度の値が、所定の値よりも小さい場合に、有効性判定をエラーと判定するものであることを特徴とする請求項1から13いずれかに記載のクロマトグラフ測定装置。
【請求項15】
前記増幅手段が、銀イオン含有化合物を含む増幅溶液および銀イオンのための還元剤を用いて、銀イオンの還元により形成された銀微粒子を前記標識物質に沈着させることによって前記呈色状態を増幅するものであることを特徴とする請求項1から14いずれかに記載のクロマトグラフ測定装置。
【請求項16】
被験物質に対する特異的結合物質が固定されたテストラインと、測定の終了時を判断するためのコントロールラインと、固定化された標識物質とを有する不溶性担体であって、前記被験物質を含有しうる検体溶液と該被験物質を標識する前記標識物質とが展開された不溶性担体の、前記テストラインおよび前記コントロールラインに捕捉された前記標識物質の呈色状態を測定して、前記被験物質について検査するクロマトグラフ測定方法において、
前記不溶性担体に前記検体溶液を点着してから所定時間が経過した時に測定された、前記呈色状態の光学濃度および色度に基づいて、前記呈色状態の増幅が必要であるか否かについて第1の判定を行い、
該第1の判定の結果、前記テストラインおよび前記コントロールラインの少なくとも1つの前記光学濃度および前記色度が所定値に達しなかったために、前記呈色状態の増幅が必要である旨の判定が出された場合に、
前記不溶性担体に洗浄液および増幅溶液を展開することにより、前記テストラインおよび前記コントロールラインを洗浄すると共に、前記呈色状態を増幅し、
増幅された前記呈色状態の光学濃度および色度を測定して、該光学濃度および該色度に基づき、検査の結果が有効であるか否かについて第2の判定を行うことを特徴とするクロマトグラフ測定方法。
【請求項17】
前記所定時間が5分〜20分であることを特徴とする請求項16に記載のクロマトグラフ測定方法。
【請求項18】
前記第2の判定を前記第1の判定後1分〜20分以内に行うことを特徴とする請求項16または17に記載のクロマトグラフ測定方法。
【請求項19】
前記検体溶液の展開方向と洗浄液の展開方向との成す角が45度から170度であることを特徴とする請求項16から18いずれかに記載のクロマトグラフ測定方法。
【請求項20】
前記不溶性担体が多孔性担体であることを特徴とする請求項16から19いずれかに記載のクロマトグラフ測定方法。
【請求項21】
前記標識物質が金属コロイドであることを特徴とする請求項16から20いずれかに記載のクロマトグラフ測定方法。
【請求項22】
前記金属コロイドが金コロイドであることを特徴とする請求項21に記載のクロマトグラフ測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−75366(P2011−75366A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226010(P2009−226010)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】