説明

クロマト分離方法

【課題】非電解質と両性イオンとを良好に分離するクロマト分離方法を目的とする。
【解決手段】電解質の固定相への分配係数が、非電解質の固定相への分配係数より小さい充填材を充填した充填層に、原料液と溶離液とを供給して行うクロマト分離方法であって、前記原料液は、非電解質と、塩基性官能基および酸性官能基を有する電解質とを含み、前記原料液および前記溶離液を前記電解質の塩基性官能基のpKaよりも高いpHに調整し、または、前記原料液および前記溶離液を前記電解質の酸性官能基のpKaよりも低いpHに調整し、前記非電解質を含む画分と前記電解質を含む画分とに分離することよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロマト分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クロマトグラフィーの手法により液体中の複数の成分を分離(クロマト分離)する方法が、工業的に利用されている。クロマト分離は、固体の充填材を用い、この充填材に対する分配係数の差を利用して、原料液中の成分を分離する。クロマト分離の原理は、充填材を充填した充填層に、分離しようとする2以上の成分を含む原料液を供給し、この原料液を水等の溶離液で流下させることで、上記各成分の充填材に対する分配係数の違いにより、分配係数の小さい成分は相対的に速く流下し、分配係数の大きい成分は相対的に遅く流下することで、各成分を含む画分に分離するものである。
【0003】
クロマト分離の方式としては、例えば固定層方式や移動層方式がある。固定層方式では、充填材を充填した充填層に対して一過性で原料液を通液して、複数の成分を分離回収する方式である。固定層方式は、溶離剤の種類や濃度を簡単に変えることができるため多種類の有用物質を分離するのに適する反面、分離精度を向上させようとすると、得られる物質の濃度が薄くなり濃縮操作にコストがかかるという問題がある。
【0004】
移動層方式は、例えば、分離する2成分の移動速度の中間の速度で、充填材を溶離液の移動方向(分離する2成分の移動方向)と逆に移動させ、充填層の中間に原液を供給して分離を行うものである。即ち、分離する2成分は、原料液の供給点から互いに逆向きに充填層内を移動することとなり、固定層方式では分離が困難な、分配係数の差が小さい成分同士を良好に分離できる。この様な移動層方式では、原料液中の2成分を純度高く、連続的に分離することができる。一方で、大型の工業用装置において、各成分の帯域を維持したまま、充填材を移動することは極めて困難である。
【0005】
上述の移動層方式の原理を利用したクロマト分離方式に、擬似移動層方式がある。擬似移動層方式は、例えば、充填材を充填した単位充填層が閉鎖ループを形成するように連結し、原料液と溶離液の供給位置および各成分の画分の抜き出し位置を単位充填層に対して液循環流通の下流側に切り替えながら、連続的に行わせて分離を行う。充填層を幾つかのカラムに分割して、原料液の供給位置を溶離液の流れる方向に順次間欠的に移動させることによって、移動層方式とほぼ同等の分離性能を得ることができる。
【0006】
クロマト分離では、分離する成分の種類や装置の規模に応じて、クロマト分離の方式、充填材が選択され、目的の成分を純度高く分離することが行われる。例えば、糖等のような非電解質を含む原料をクロマト分離する場合、サイズ排除機能やイオン排除機能、配位子機能をもつ陽イオン交換樹脂を充填材とし、高純度の糖を得ることができる。糖のクロマト分離では、溶離液として、水もしくは希薄な塩基性水溶液を用いることができるため、食品添加物として適合するプロセスとすることができる。このため、クロマト分離は食品の加工に、良好に用いることができる。擬似移動層方式における、糖の精製方法としては、特定の粒径の陽イオン交換樹脂を充填材とし、原料液と溶離液の供給量と、各成分の画分抜き出し量を制御することで、糖液を脱塩してショ糖の精製を行う方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−313699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、充填材として陽イオン交換樹脂を用いたクロマト分離では、糖類のような非電解質と、電離度の大きい塩類(塩化ナトリウム等)とを良好に分離できるが、非電解質と、アミノ酸のような塩基性官能基および酸性官能基を有する電解質(以下、両性イオンということがある)との分離が困難であった。
そこで本発明は、非電解質と両性イオンとを良好に分離するクロマト分離方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のクロマト分離方法は、電解質の固定相への分配係数が、非電解質の固定相への分配係数より小さい充填材(以下、イオン排除型充填材ということがある)を充填した充填層に、原料液と溶離液とを供給して行うクロマト分離方法であって、前記原料液は、非電解質と、塩基性官能基および酸性官能基を有する電解質とを含み、前記原料液および前記溶離液を前記電解質の塩基性官能基のpKaよりも高いpHに調整し、または、前記原料液および前記溶離液を前記電解質の酸性官能基のpKaよりも低いpHに調整し、前記非電解質を含む画分と前記電解質を含む画分とに分離することを特徴とする。
【0009】
前記非電解質を含む画分と前記電解質を含む画分との分離を擬似移動層方式で行うことが好ましい。
前記電解質には、アミノ酸が含まれていても良く、前記非電解質は、糖類または糖類の誘導体であっても良い。前記充填材は、イオン交換樹脂であることが好ましく、陽イオン交換樹脂であることがより好ましい。
前記充填材は、塩形の陽イオン交換樹脂であり、かつ、前記原料液および前記溶離液のpHを前記電解質の塩基性官能基のpKaより高く、pH12以下に調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のクロマト分離方法によれば、非電解質と両性イオンとを良好に分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のクロマト分離方法について、例を挙げて説明するが、これに限定されるものではない。
本発明のクロマト分離方法は、イオン排除型充填材を充填した充填層に、非電解質と両性イオンとを含む原料液と、溶離液とを供給し、前記原料液および前記溶離液を前記電解質の塩基性官能基のpKaよりも高いpHに調整し、または、前記原料液および前記溶離液を前記電解質の酸性官能基のpKaよりも低いpHに調整して分離する方法である。
【0012】
(クロマト装置)
本発明のクロマト分離方法に用いるクロマト分離装置の一例について、図1を用いて説明する。図1は、固定層方式のクロマト分離装置8の模式図である。図1に示すとおり、クロマト分離装置8は、単位充填塔10と、原料液貯槽20と、溶離液貯槽30と、第一画分貯槽40と、第二画分貯槽50とを有する。
【0013】
原料液貯槽20は、バルブ22が備えられた配管24により、単位充填塔10の上部と接続されている。溶離液貯槽30は、バルブ32が備えられた配管34により、単位充填塔10の上部と接続されている。単位充填塔10には、充填材が充填されて、充填層12が形成されている。
単位充填塔10の下部には、配管60が接続されている。配管60は、分岐62で、配管44と配管54と配管64とに接続されている。配管44には、バルブ42が備えられ、配管44は、第一画分貯槽40と接続されている。配管54には、バルブ52が備えられ、配管54は、第二画分貯槽50と接続されている。配管64には、バルブ66が備えられ、配管64は図示されない排出口と接続されている。
【0014】
<充填材>
充填層12に充填されている充填材は、電解質の固定相への分配係数が、非電解質の固定相への分配係数より小さい充填材(イオン排除型充填材)である。イオン排除型充填材としては、イオン交換樹脂、イオン交換繊維、モノリス状多孔質イオン交換体等、各種のイオン交換体を挙げることができる。この内、最も汎用的である、イオン交換樹脂が好ましい。イオン交換樹脂としては、陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。分離対象となる成分に応じて決定することが好ましい。
【0015】
前記陰イオン交換樹脂としては強塩基性陰イオン交換樹脂、弱塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。また、陰イオン交換樹脂は、OH形であっても良いし、Cl形等の塩形であっても良い。使用する陰イオン交換樹脂の種類は、分離する成分や、溶離液の種類に応じて選択することが好ましい。例えば、原料液中に塩化ナトリウムが含まれる場合には、Cl系陰イオン交換樹脂を選択することで、塩化ナトリウムと非電解質とを良好に分離することができる。陰イオン交換樹脂の市販品としては、例えば、ローム・アンド・ハース社製のアンバーライト(商品名)を挙げることができる。
【0016】
前記陽イオン交換樹脂としては、強酸性陽イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂が挙げられる。また、陽イオン交換樹脂は、H形であっても良いし、Ca形、Na形等の塩形であっても良い。例えば、原料液中に塩化ナトリウムが含まれる場合には、Na形陽イオン交換樹脂を選択することで、塩化ナトリウムと非電解質とを良好に分離することができる。使用する陽イオン交換樹脂の種類は、分離する成分や、溶離液の種類に応じて選択することができる。陽イオン交換樹脂の市販品としては、例えば、ローム・アンド・ハース社製のアンバーライト(商品名)を挙げることができる。
【0017】
充填材としてイオン交換樹脂を用いる場合には、陽イオン交換樹脂を用いることが好ましい。一般に、陽イオン交換樹脂は、陰イオン交換樹脂に比べて交換容量が高い、即ち、単位体積あたりの交換基の数が多い。このため、電解質と非電解質との分離を効率的に行うことができる。
また、陽イオン交換樹脂の中でも、塩形陽イオン交換樹脂を用いることがより好ましい。充填材としてH形陽イオン交換樹脂を用いると、原料液あるいは溶離液中の陽イオン成分と陽イオン交換樹脂の対イオンとの交換によりHが放出される。原料液中に加水分解されやすい成分が含まれている場合には、放出されたHにより分解されるおそれがあるためである。
【0018】
(クロマト分離方法)
次に、本発明のクロマト分離方法について、図1を用いて説明する。
まず、原料液貯槽20の原料液のpHを調整する。この段階で、原料液に含まれる両性イオンの酸性官能基のpKaよりも低いpHに調整した場合には、両性イオンは陽イオンの形態となる。原料液に含まれる両性イオンの塩基性官能基のpHより高いpHに調整した場合には、両性イオンは陰イオンの形態となる。バルブ22、66を開、バルブ32、42、52を閉として、原料液貯槽20から、任意の量の原料液を単位充填塔10に供給する。次いで、バルブ32、66を開、バルブ22、42、52を閉として、溶離液貯槽30から溶離液を単位充填塔10に供給する。任意の量の溶離液を供給した後、バルブ32、42を開、バルブ22、52、66を閉として、溶離液を単位充填塔10に供給する。そして、原料液と溶離液は、充填層12内を流通する。ここで、充填層12内に充填された充填材は、原料液中の電解質の充填材への分配係数が、非電解質の充填材への分配係数よりも小さい。このため、原料液中の電解質、即ち、pH調整により陰イオンまたは陽イオンの形態となった両性イオンは、主に移動相(溶離液、原料液の溶媒等)中を流下する。一方、非電解質は、固定相である充填材と、移動相との間を移動しながら流下する。そして、原料液中の両性イオンが、早期に単位充填塔10から第一画分として流出し、配管60、44を経由して、第一画分貯槽40に貯留される。
【0019】
次いで、バルブ32、52を開、バルブ22、42、66を閉として、溶離液を単位充填塔10に供給する。上述のように、原料液中の非電解質は、電解質に比べて充填材への分配係数が大きいので、電解質よりも充填層12内を遅く流下する。このため、非電解質は、単位充填塔10から第二画分として流出し、配管60、54を経由して、第二画分貯槽に貯留される。
【0020】
第二画分の採取を終えた後、バルブ32、66を開、バルブ22、42、52を閉とし、溶離液を充填層12に流通させて、充填材の再生と洗浄を行う。充填層12を流通した溶離液は、配管60、64を経由して、図示されない排出口から排出される。
【0021】
<原料液>
本発明における原料液は、非電解質と塩基性官能基および酸性官能基を有する電解質(両性イオン)とを含むものである。例えば、ショ糖製造途中における糖液、生体抽出物、微生物醗酵により得られる培養液等を挙げることができる。
【0022】
原料液に含まれる非電解質は特に限定されず、例えば、糖類および糖の誘導体や、アルコール等を挙げることができる。中でも、原料液中の非電解質は、糖類および糖類の誘導体であることが好ましい。このような成分の分離において、顕著な効果が発揮されるためである。ここで糖類とは、単糖のみならず、二糖、オリゴ糖、多糖類を含み、糖類の誘導体としては、アミノ糖等を挙げることができる。アミノ糖としては、例えば、N−アセチルグルコサミンを挙げることができる。
【0023】
原料液に含まれる塩基性官能基および酸性官能基を有する電解質(両性イオン)は特に限定されず、例えば、アミノ酸等を挙げることができる。アミノ酸は、α−アミノ酸に限られず、アミノ基とカルボキシル基とを有する有機物の全般を意味し、ペプチド結合やその他の結合により重合したものを含む。アミノ酸を含む原料液は、アミノ酸の緩衝効果によりpHは7付近であることが多く、この環境ではアミノ酸は電荷を持たないことが多い。このため、アミノ酸を含む原料液において、本発明の効果が顕著に発揮される。
【0024】
原料液のpHは、原料液に含まれる両性イオンの塩基性官能基のpKaよりも高いpH、または、前記両性イオンの酸性官能基のpKaよりも低いpHに調整する。かかるpHに調整することで、両性イオンを陽イオンまたは陰イオンの形態とすることができるためである。中でも、両性イオンの塩基性官能基のpKaよりも高いpHに調整することが好ましい。非電解質が糖類である場合、酸性官能基のpKaよりも低いpHとすると、加水分解を受けやすくなり、得られる糖類の品位劣化、純度低下の懸念があるためである。
【0025】
また、充填材に塩形陽イオン交換樹脂を用いる場合には、原料液のpHを両性イオンにおける塩基性官能基のpKaよりも高く、pH12以下に調整することが好ましい。pHを塩基性官能基のpKaよりも高くすることで、両性イオンを陰イオンとすることができ、かつ、陽イオン交換樹脂のイオン形の変化を抑制することができる。pH12を超えるpH調整を行うと、塩基性成分の添加量が多くなり、得られる成分の純度低下の懸念があるためである。
【0026】
原料液のpH調整の方法は特に限定されない。例えば、原料液貯槽20中の原料液に、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性水溶液、あるいは、塩酸水溶液等の酸性水溶液を添加することでpH調整を行っても良いし、配管24の流通中に塩基性物質または酸性物質を添加しても良い。また、原料液をイオン交換体に接触させて、pH調整を行っても良い。
イオン交換体に接触させてpH調整を行う方法としては、例えば、予め、原料液をOH形陰イオン交換樹脂に接触させて、原料液のpHをアルカリ性側に調整した後に原料液貯槽20に貯蔵しても良いし、H形陽イオン交換樹脂に接触させて、原料液のpHを酸性側に調整した原料液を原料液貯槽20に貯蔵しても良い。また、pH調整のためのイオン交換樹脂を充填したイオン交換塔を充填層12の前段に設けても良い。
【0027】
なお、原料液には、上述した成分の他、無機塩類や有機酸等の成分を含んでいても良い。無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸等を挙げることができる。このような成分が含まれていても、適切な充填材とpHを選択することで、第一画分として分離することができる。
【0028】
<溶離液>
溶離液としては、原料液中の各成分を充填層12内に流下させ、かつ、分離対象とする成分を適切に分離できるものであれば特に限定されず、目的に応じて決定することができる。例えば、水、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性水溶液、塩酸水溶液等の酸性水溶液、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等のアルコール類を挙げることができる。溶離液は、これらの一種を単独で溶離液としても良いし、二種以上を混合した混合溶液を溶離液としても良い。また、溶離液は、酸、塩基、緩衝剤、塩を含んでいても良い。
【0029】
溶離液のpHは、原料液に含まれる両性イオンの塩基性官能基のpKaよりも高いpH、または、前記両性イオンの酸性官能基のpKaよりも低いpHに調整する。かかるpHとすることで、充填層12内における両性イオンを陽イオンまたは陰イオンの形態とするためである。原料液の成分中でも、原料液と共に、両性イオンの塩基性官能基のpKaよりも高いpHに調整することが好ましい。非電解質が糖類である場合、酸性官能基のpKaよりも低いpHとすると、加水分解を受けやすくなり、得られる糖類の品位劣化、純度低下の懸念があるためである。
【0030】
また、充填材に塩形陽イオン交換樹脂を用いる場合には、溶離液のpHを原料液中の両性イオンの塩基性官能基のpKaよりも高く、pH12以下に調整することが好ましい。pHを塩基性官能基のpKaよりも高くすることで、両性イオンを陰イオンとすることができ、かつ、陽イオン交換樹脂のイオン形の変化を抑制することができる。pH12を超える調整を行うと、溶離液の塩基性成分の含有量が多くなり、クロマト分離後の各画分に塩基性成分が混入することで、得られる成分の純度低下の懸念があるためである。
【0031】
溶離液として、塩基性水溶液を用いる場合、塩基性物質の濃度は特に限定されないが、0.001N以下が好ましく、0.0001N以下がより好ましい。溶離液中の塩基性物質の濃度が高いと、分離した画分中の塩基性物質濃度が高くなり、分離目的とする成分の純度が低下するためである。
溶離液として、酸性水溶液を用いる場合、酸性物質の濃度は特に限定されないが、0.001N以下が好ましく、0.0001N以下がより好ましい。溶離液中の酸性物質の濃度が高いと、分離した画分中の酸性物質濃度が高くなり、分離目的とする成分の純度が低下するためである。
【0032】
クロマト分離における、充填層に流通させる原料液および/または溶離液の温度は特に限定されず、原料液中の成分等を勘案して決定することができる。例えば、糖の精製を行う場合には、50〜80℃とすることが好ましい。50℃未満であると、充填層12内の液の粘度が高くなり、吐出圧力の高い送液ポンプの設置が必要となり、経済的に好ましくない。また、原料液中の糖の種類によっては、腐敗しやすくなる。一方、80℃を超えると、クロマト分離装置8に必要な熱量が多くなり経済的に好ましくない。また、原料液中の糖の種類によっては、分解されやすくなるためである。
【0033】
第一画分を採取するための溶離液の通液量は特に限定されず、第一画分として得られる成分に応じて決定することができる。例えば、単位充填塔10の出口で得られる流出液を分析し、第二画分として得られる成分の濃度が一定以上となった時点で、第二画分の採取を開始しても良いし、経験的に求められた溶離液の通液量をもって、第二画分の採取に切り替えても良い。第二画分を採取するための溶離液の通液量は特に限定されず、第二画分として得られる成分に応じて決定することができる。例えば、単位充填塔10の出口で得られる流出液を分析し、第二画分として得られる成分の濃度が一定値以下となった時点で洗浄に切り替えても良いし、経験的に求められた溶離液の通液量をもって、洗浄に切り替えても良い。
【0034】
従来のクロマト分離方法では、例えば、電解質を含む糖液をクロマト分離により、脱塩して糖の精製を行う場合、中性域のpH条件下において行われている。しかし、電解質がアミノ酸のような両性イオンである場合、中性域では、両性イオンが両性イオンとして存在する。このため、中性域でクロマト分離を行った場合、両性イオンは、非電解質である糖と同じ画分に流出する。
本発明においては、両性イオンを塩基性官能基のpKaよりも高いpH条件下として陰イオンの形態とするか、または、両性イオンを酸性官能基のpKaよりも低いpH条件下として陽イオンの形態とすることで、イオン排除型充填材への分配係数を小さくすることができる。この結果、糖類等の非電解質と、両性イオンとの充填材に対する分配係数の差を大きくすることができ、両成分を良好に分離することができる。
【0035】
上述のクロマト分離方法では、固定層方式のクロマト分離装置を用いているが、本発明のクロマト分離方法は、固定層方式のクロマト分離装置に限られず、移動層方式、擬似移動層方式のクロマト分離装置を用いても良い。また、特許第1998860号明細書、特許第2008230号明細書、特許第1954744号明細書に開示されているような、クロマト分離方法を用いることもできる。さらに、これに限られず、その他のあらゆるクロマト分離方法、即ち、固体の充填材を用い、この充填材への分配係数の差を利用して、原料液中の成分を分離することを原理とする分離方法で用いることができる。中でも、擬似移動層方式のクロマト装置または擬似移動層方式を改良したクロマト装置は、溶離液の量が少なく、充填材の利用効率が高いため、分離した成分をより高濃度、より高純度で含む画分を得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるものではない。
(クロマト分離装置)
実施例1および比較例1のクロマト分離に用いたクロマト分離装置100について、図2を用いて説明する。図2に示すとおり、クロマト分離装置100は、ジャケット付きカラム110と、シリンジ120と、溶離液貯槽130とを有している。ジャケット付きカラム110の上部には配管127が接続され、配管127はポンプ132を経由して溶離液貯槽130と接続されている。配管127は、注入口122を有している。シリンジ120は配管121により、注入口122と接続されている。ジャケット付きカラム110の下部には、配管118が接続され、配管118は、分取容器140と接続されている。
【0037】
ジャケット付きカラム110は、カラム本体112の外周に、ジャケット114を備えている。カラム本体112は、内径20mm、高さ1000mmのガラス製カラムである。ジャケット114は、図示されない温水供給装置と接続されている。
【0038】
ポンプ132には、脈動の少ないダブルプランジャーのプランジャーポンプを使用した。
【0039】
(実施例1)
上述のクロマト分離装置100を用い、アミノ酸(1×10−3mol/L)とN−アセチルグルコサミン(0.37質量%)と塩化ナトリウムとを含む原料液から、N−アセチルグルコサミン(NAG)を第二画分として分離するクロマト分離を行った。カラム本体部には、陽イオン交換樹脂であるCR1310Na(ローム・アンド・ハース社製)を充填した。
まず、ジャケット114に60℃の温水を流通させた。原料液に10N水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH10に調整し、原料液Aとした。次いで、ポンプ132を起動し、溶離液貯槽130内の溶離液(1×10−4Nの水酸化ナトリウム水溶液)を配管127から、充填層116へと、26mL/minの流速で流通させた。その後、シリンジ120にて、原料液A15mLを注入口122から、配管127に流した。そして、配管118からの流出液を0.4分毎に分取容器140で分取した。分取容器140毎に、分取した流出液をHPLCで、アミノ酸と塩化ナトリウムを含む不純物濃度と、NAG濃度とを測定し、その結果を図3に示す。
【0040】
(比較例1)
原料液のpH調整を行わない原料液Bを用いた以外は、実施例1と同様にして、クロマト分離を行った。原料液BのpHは7であった。分取した流出液をHPLCで、アミノ酸と塩化ナトリウムを含む不純物濃度と、NAG濃度を測定し、その結果を図4に示す。
【0041】
(測定方法)
<不純物濃度とNAG濃度との測定>
原料液、第一画分、第二画分中の不純物濃度およびNAG濃度は、不純物とNAGとの合計濃度をBrix計(RA−500N、京都電子工業株式会社製)で固形分として測定し、該固形分中の不純物とNAGの比率をHPLCで測定し、不純物濃度とNAG濃度とを求めた。
【0042】
《不純物とNAGとの含有比率の測定》
不純物、NAGとの比率は、HPLC(LC−10Avp、株式会社島津製作所)により下記条件にて、測定した。
[測定条件]
カラム:TSK−GEL SCX−Na形(φ6.0×L150mm×5本)
溶離液:1×10−4N−NaOH水溶液
流速:0.8mL/min
サンプル量:10μL
温度:70℃
検出器:示差屈折計(RI)
【0043】
<アミノ酸濃度の測定>
原料液中のアミノ酸濃度は、「食品分析ハンドブック」(小原哲二郎、岩尾裕之、鈴木隆雄、第2版、株式会社建帛社、昭和48年4月1日発行)のp.58〜60に記載されているホルモル滴定法に準じて測定した。ホルモル滴定法によるアミノ酸濃度測定は、試料を0.1N水酸化ナトリウムまたは0.1N塩酸で中和し、ホルマリンを添加してオキシメチル誘導体とし、これにフェノールフタレインを指示薬として、または、電位差計を用い、0.1N水酸化ナトリウム標準溶液で滴定して測定した。
【0044】
図3は、実施例1における、出口液のNAG濃度と不純物濃度の分析結果を示すグラフであり、横軸に溶離液の積算流量(L/L−R)を取り、縦軸に規格化濃度(C/C0)を取ったものである。凡例(X1)は不純物質の濃度を示し、凡例(Y1)はNAG濃度を示す。なお、規格化濃度(C/C0)とは、流出液中の成分濃度(C)を原液中の該成分濃度(C0)で除して規格化した濃度である。溶離液の積算流量は、単位樹脂体積(L−R)に対する溶離液の積算流量であり、単位L/L−Rで表される値である。
図3では、第一画分を積算流量0.30L/L−Rから0.40L/L−Rまでとし、第二画分を積算流量0.43L/L−Rから0.60L/L−Rまでとする。第一画分においては、不純物濃度(X1)が、NAG濃度(Y1)に対して相対的に高い濃度で含まれていた。一方、第二画分においては、NAG濃度(Y1)が不純物濃度(X1)に対して、約3倍以上の濃度で含まれていた。このことから、原料液中の塩化ナトリウムやアミノ酸を含む不純物質は第一画分に分離され、NAGを高濃度に含む第二画分を分離できることが判った。
【0045】
図4は、比較例1における、出口液のNAG濃度と不純物濃度の分析結果を示すグラフであり、横軸に溶離液の積算流量(L/L−R)を取り、縦軸に原料液の濃度に対する出口液の濃度の比率で表した規格化濃度(C/Co)を取ったものである。凡例(X2)は不純物質の濃度を示し、凡例(Y2)はNAG濃度を示す。
図4では、第一画分を積算流量0.27L/L−Rから0.43L/L−Rまでとし、第二画分を積算流量0.47L/L−Rから0.93L/L−Rまでとする。第一画分においては、不純物(X2)が、NAG濃度(Y2)に対して相対的に高い濃度で含まれていた。一方、第二画分では、相対的に不純物濃度(X2)よりもNAG濃度(Y2)の方が高いものの、不純物濃度(X2)はNAG濃度(Y2)の低下と平行して推移しており、NAGを高濃度に含む画分に分離できていなことが判った。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態にかかるクロマト分離装置の一例を示す模式図である。
【図2】実施例1および比較例1に使用したクロマト分離装置の模式図である。
【図3】実施例1におけるNAGと不純物との分離状態を示すグラフである。
【図4】比較例1におけるNAGと不純物との分離状態を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
8 クロマト分離装置
12 充填層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質の固定相への分配係数が、非電解質の固定相への分配係数より小さい充填材を充填した充填層に、原料液と溶離液とを供給して行うクロマト分離方法であって、
前記原料液は、非電解質と、塩基性官能基および酸性官能基を有する電解質とを含み、
前記原料液および前記溶離液を前記電解質の塩基性官能基のpKaよりも高いpHに調整し、または、前記原料液および前記溶離液を前記電解質の酸性官能基のpKaよりも低いpHに調整し、
前記非電解質を含む画分と前記電解質を含む画分とに分離する、クロマト分離方法。
【請求項2】
前記非電解質を含む画分と前記電解質を含む画分との分離を擬似移動層方式で行うことを特徴とする、請求項1に記載のクロマト分離方法。
【請求項3】
前記電解質には、アミノ酸が含まれることを特徴とする、請求項1または2に記載のクロマト分離方法。
【請求項4】
前記非電解質は、糖類または糖類の誘導体であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のクロマト分離方法。
【請求項5】
前記充填材は、イオン交換樹脂であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のクロマト分離方法。
【請求項6】
前記充填材は、陽イオン交換樹脂であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のクロマト分離方法。
【請求項7】
前記充填材は、塩形の陽イオン交換樹脂とし、かつ、前記原料液および前記溶離液のpHを前記電解質の塩基性官能基のpKaより高く、pH12以下に調整することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のクロマト分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−89001(P2010−89001A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260940(P2008−260940)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】