説明

クロム酸化物含有物質の処理方法

【課題】工業的に簡易にしかも安価に、クロム酸化物含有物質からのCr+6の溶出を防止することができる、クロム酸化物含有物質の処理方法を提供する。
【解決手段】クロム酸化物含有物質を処理するにあたり、予め該クロム酸化物含有物質からのCr+6の溶出量を測定し、Cr+6の溶出量が所定値以上の場合には、該クロム酸化物含有物質に、硫黄および/または酸化数が+5価以下の硫黄を含有する物質とを混合物とし、水蒸気を吹き込む蒸気エージング処理を施す。一方、Cr+6の溶出量が所定値未満である場合には、該クロム酸化物含有物質を硫黄および/または酸化数が+5価以下の硫黄を含む液中に浸漬する浸漬エージング処理を施す。硫黄および/または酸化数が+5価以下の硫黄を含有する物質としては未エージング高炉徐冷スラグとすることが好ましい。浸漬エージング処理では、蒸気エージング処理の蒸気ドレインを浸漬用液として用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム酸化物含有物質の処理方法に係り、とくに安価に、Cr+6の溶出を防止することができるクロム酸化物含有物質の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ステンレス鋼の精錬の際に発生するステンレス鋼スラグや、重クロム酸ナトリウムなどのクロム化合物の製造の際に発生するクロム鉱滓を、路盤材、仮設材、土木埋立材などとして、利用することが検討されている。また、近年、ゴミ焼却灰、下水汚泥などを溶融処理することによりスラグ化して利用することも検討されている。
これらステンレス鋼スラグや、クロム鉱滓は、数%のクロム化合物を含有し、操業条件によっては、その一部がCr+6にまで酸化される場合がある。また、ゴミ焼却灰、下水汚泥などの種類によっては、生成したスラグ中にCr+6が含まれる場合がある。スラグを路盤材、仮設材、土木埋立材などとして利用する場合には、スラグ等から、Cr+6が溶出しないことが絶対条件である。
【0003】
スラグ等からCr+6の溶出を防止するための技術として、種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、クロム酸化物含有物質と、硫黄および/または酸化数が+5価以下の硫黄を含有するスラグおよび/または物質とを混合し、これら混合物に、水および/または高炉スラグの散水冷却時に発生する高炉スラグ溶出水を散水するか、あるいは水蒸気を吹き込むことを特徴とするクロム酸化物含有物質の処理方法が記載されている。特許文献1に記載された技術では、硫黄および/または酸化数が+5価以下の硫黄を含有するスラグとして、未エ−ジング高炉徐冷スラグを用いることが好ましいとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3299174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術によれば、工業的に簡易に、クロム酸化物含有物質からのCr+6の溶出を防止することができる。しかし、水蒸気を使用する必要があるため、処理費用が高騰するという問題があった。また、特許文献1に記載された技術では、水蒸気処理を行った際に発生するドレインの処理費用が高価であるという問題もあった。このように、特許文献1に記載された技術は、クロム酸化物含有物質の処理方法としては有効であるが、処理費用が高価となるため、更に安価で、有効なクロム酸化物含有物質の処理方法が要望されていた。
【0006】
本発明は、上記したような従来技術の問題を有利に解決し、工業的に簡易にしかも安価に、クロム酸化物含有物質からのCr+6の溶出を防止することができる、クロム酸化物含有物質の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、クロム酸化物含有物質中のCr+6の安価な還元処理方法について鋭意研究した。その結果、クロム酸化物含有物質からのCr+6の溶出量が少ない場合には、水蒸気を吹き込む高価な蒸気エージング処理を適用する必要はなく、安価な処理方法でCr+6を還元できることに思い至り、クロム酸化物含有物質からのCr+6の溶出量に基づいて、処理方法を変更することを想到した。クロム酸化物含有物質からのCr+6の溶出量が所定値以上である場合には、クロム酸化物含有物質と還元性硫黄を含む物質とを混合した混合物に水蒸気を吹き込む蒸気エージング処理を適用し、一方、クロム酸化物含有物質からのCr+6の溶出量が所定値未満である場合には、クロム酸化物含有物質を還元水中に浸漬する浸漬エージング処理とすることにより、安価にクロム酸化物含有物質の処理が可能であることを知見した。さらに、蒸気エージング処理で発生する凝縮水を利用してクロム酸化物含有物質の浸漬エージング処理を行えば、さらに経済的に有利となることも知見した。
【0008】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)クロム酸化物含有物質を処理するにあたり、予め該クロム酸化物含有物質からのCr+6の溶出量を測定し、該クロム酸化物含有物質からのCr+6の溶出量が所定値以上の場合には、該クロム酸化物含有物質に、硫黄および/または酸化数が+5価以下の硫黄を含有する物質を混合して混合物としたのち、該混合物に水蒸気を吹き込む蒸気エージング処理を施し、前記クロム酸化物含有物質からのCr+6の溶出量が所定値未満である場合には、該クロム酸化物含有物質を硫黄および/または酸化数が+5価以下の硫黄を含む液中に浸漬する浸漬エージング処理を施すことを特徴とするクロム酸化物含有物質の処理方法。
【0009】
(2)(1)において、前記硫黄および/または酸化数が+5価以下の硫黄を含有する物質が、未エージング高炉徐冷スラグであることを特徴とするクロム酸化物含有物質の処理方法。
(3)(1)または(2)において、前記硫黄および/または酸化数が+5価以下の硫黄を含む液が、前記蒸気エージング処理で発生する蒸気ドレインまたは該蒸気ドレインを含む水であることを特徴とするクロム酸化物含有物質の処理方法。
【0010】
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記所定値が1.0mg/lであることを特徴とするクロム酸化物含有物質の処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ステンレス鋼スラグ、クロム鉱滓、産業廃棄物溶融スラグ、下水汚泥、下水汚泥溶融スラグなどのクロム酸化物含有物質からのCr+6の溶出を、工業的に簡易にしかも安価に防止することができ、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、クロム酸化物含有物質の路盤材、仮設材、土木埋立材などへの再利用を容易にするという効果もある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で処理対象とするクロム酸化物含有物質は、クロム酸化物を含みCr+6を溶出する可能性がある物質であり、ステンレス鋼の精錬の際に発生するステンレス鋼スラグや、重クロム酸ナトリウムなどのクロム化合物の製造の際に発生するクロム鉱滓、産業廃棄物溶融スラグ、下水汚泥、下水汚泥溶融スラグ等が例示されるが、それらに限定されるものではない。
【0013】
本発明では、まず、処理対象のクロム酸化物含有物質について、例えばロットごとに、予めCr+6の溶出量を測定しておく。なお、Cr+6の溶出量の測定は、環境庁告示46号法による溶出試験法、あるいは該溶出試験法に準じて溶出した溶出水を市販のパックテスト(共立理化研究所の登録商標)を用いて行うものとする。なお、この段階では、以後のエージング処理方法を選択するための分別であり、後者の方法を用いるのが好ましい。そして、測定されたCr+6溶出量により、処理対象とするクロム酸化物含有物質を所定値以上のものと、所定値未満のものに分別する。所定値としては、1mg/lとすることが好ましい。
【0014】
本発明では、Cr+6溶出量が所定値以上のクロム酸化物含有物質には、蒸気エージング処理を、一方、Cr+6溶出量が所定値未満のクロム酸化物含有物質には、浸漬エージング処理を施す。
蒸気エージング処理は、対象とするクロム酸化物含有物質に、硫黄および/または酸化数が+5価以下の硫黄(以下、還元性硫黄ともいう)を含有する物質を混合して混合物としたのち、該混合物に水蒸気を吹き込む処理とする。この蒸気エージング処理により、クロム酸化物含有物質中のCr+6が還元されて、Cr+6溶出量が環境基準値(0.05mg/l未満)以下のクロム酸化物含有物質とすることができる。クロム酸化物含有物質に水蒸気を吹き込むことにより、クロム酸化物含有物質中のCr+6が溶出しやすい状態となり、さらに、還元性硫黄を含有する物質から、還元性硫黄が溶け出し、還元性硫黄が酸化することにより、クロム酸化物含有物質中のCr+6が還元される。なお、Cr+6溶出量を環境基準値(0.05mg/l未満)以下とするためには、蒸気エージング処理は少なくとも72時間とすることが好ましい。
【0015】
クロム酸化物含有物質に混合する、還元性硫黄を含有する物質としては、還元性硫黄を含有するスラグを利用することが経済的観点から望ましい。還元性硫黄を含有するスラグとしては、自然エージング3ヶ月未満の高炉徐冷スラグ(未エージング高炉徐冷スラグ)、あるいは溶銑脱硫スラグ等が例示できる。なお、これらスラグの粒度は、特に限定されないが、微粉であるほど、Cr酸化物含有物質中のCr+6をCr+3に還元する能力が高く好ましい。
【0016】
また、処理対象とするクロム酸化物含有物質に混合する還元性硫黄を含有する物質としては、上記したスラグ以外に、還元性硫黄の含有量が10mass%以上である硫黄含有物質を用いてもよい。還元性硫黄の含有量が10mass%以上である硫黄含有物質としては、単体硫黄、硫黄含有物質から精製した湯の花(単体硫黄含有物質)や、チオ硫酸ナトリウム、硫化鉄、硫化水素等の+5価以下の硫黄化合物が例示できる。なお、これらの物質を2種以上併用してもよいことは言うまでも無い。
【0017】
クロム酸化物含有物質に混合する還元性硫黄を含む物質の混合量は、処理対象であるクロム酸化物含有物質に含まれる還元すべきCr量(被還元Cr量)と等量以上の還元性硫黄を含むように調整することが肝要である。上記したスラグまたは物質を使用する場合には、これらスラグまたは物質の混合量は混合物全量に対するmass%で10%以上とすることが好ましい。なお、より好ましくは20%以上である。
【0018】
また、混合物に水蒸気を吹き込む際には、堆積した混合物の表層に水蒸気を吹き込む方法、混合物の内部に水蒸気を吹き込む方法、堆積した混合物の下部に水蒸気を吹き込む方法が考えられるが、いずれの方法を用いてもよいことは言うまでもない。また、混合物中に吹き込む水蒸気は、水蒸気単独に限定されず、空気、窒素等のガスとともに吹き込んでもよい。また、吹き込む水蒸気の温度はとくに限定されない。大気中で水蒸気を吹き込む場合、水蒸気の温度は通常100℃程度であるが、堆積した混合物の内部に水蒸気を吹き込むと内部が高圧となり水蒸気の温度も圧力に応じて高温となる。
【0019】
なお、上記した蒸気エージング処理では、還元性硫黄を多量に含む凝縮水(ドレン水または蒸気ドレインと呼ぶ)が生成される。
本発明では、処理対象とするクロム酸化物含有物質のCr+6溶出量が1mg/l未満であれば、還元性硫黄(硫黄および/または酸化数が+5価以下の硫黄)を含む液中に浸漬する、浸漬エージング処理を施す。クロム酸化物含有物質のCr+6溶出量が1mg/l未満の場合には、このような安価な浸漬エージング処理によっても、少なくとも72時間以内に、クロム酸化物含有物質からのCr+6溶出量を環境基準値(=0.05mg/l未満)以下にすることができる。なお、クロム酸化物含有物質のCr+6溶出量が環境基準値以下の0.05mg/l未満のものは、処理対象から外れるのは言うまでもない。
【0020】
浸漬エージング処理では、対象とするクロム酸化物含有物質を浸漬等に装入したのち、還元性硫黄を含む液を注入して浸漬することが好ましい。還元性硫黄を含む液としては、工業用水や水道水に還元性硫黄を含む物質を溶解して作製してもよいが、蒸気エージング処理して得られる凝縮水である蒸気ドレイン、あるいは高炉スラグを散水冷却して得られる高炉スラグ自然エージング処理の溶出水を利用することが好ましい。蒸気エージング処理の蒸気ドレイン、高炉スラグ自然エージング処理の溶出水を利用することにより、新たに浸漬エージング処理用の還元性硫黄を含む液を作製する手間が省け、処理能率が向上するとともに、経済的にも有利となる。
【実施例】
【0021】
処理対象のクロム酸化物含有物質として、表1に示すステンレス鋼の精錬の際に発生するステンレス鋼スラグを用いた。
各クロム酸化物含有物質は、予め環境庁告示46号法による溶出試験法に準拠して、Cr+6溶出量を測定した。その結果を、表2に併記した。
これら処理対象のクロム酸化物含有物質のうち、Cr+6溶出量が所定値である1mg/l以上のクロム酸化物含有物質A〜Cには、蒸気エージング処理を施した。
【0022】
蒸気エージング処理は、表1に示すクロム酸化物含有物質A〜Cに、表2に示す種類、配合量の、硫黄および/または酸化数が+5価以下の硫黄を含有するスラグ(硫黄含有スラグ)を配合した。ついで、これら混合物を堆積させ、該混合物の内部に水蒸気(温度:100℃)を表2に示す期間吹き込む処理とした。クロム酸化物含有物質に混合する硫黄含有スラグは、未エージング高炉徐冷スラグとた。
【0023】
蒸気エージング処理後の混合物について、環境庁告示46号法による溶出試験法に準拠して、Cr+6溶出量を測定した。得られた結果を表2に示す。なお、上記した各クロム酸化物含有物質への蒸気エージング処理により、表2に示す還元性硫黄濃度の蒸気ドレインが得られた。
一方、Cr+6溶出量が所定値である1mg/l未満であるクロム酸化物含有物質D〜Fには、浸漬エージング処理を施した。
【0024】
浸漬エージング処理は、表1に示すクロム酸化物含有物質D〜Fを浸漬に装入し、表2に示す、種類、還元性硫黄濃度、量の還元性硫黄含有水を注入して、表2に示す期間浸漬する処理とした。使用した還元性硫黄含有水は、表2に示す、蒸気エージング処理に際して得られた蒸気ドレイン水を水道水で希釈し、処理対象物質に応じた適正な還元性硫黄濃度に調整したものを用いた。
【0025】
なお、クロム酸化物含有物質のCr+6溶出量が1mg/l未満であるクロム酸化物含有物質に、蒸気エージング処理を施した場合を比較例とした。なお、クロム酸化物含有物質の処理量は900〜1300tonであった。
浸漬エージング処理後のクロム酸化物含有物質について、環境庁告示46号法による溶出試験法に準拠して、Cr+6溶出量を測定した。得られた結果を表2に示す。なお、処理の費用を、比較例(処理No.7〜9)を基準(1.0)として、それに対する比として示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
本発明例はいずれも、処理後のCr+6溶出量が環境基準値(0.05mg/l未満)以下を十分に満足している。また、処理前のCr+6溶出量が1mg/l未満であるクロム酸化物含有物質については、蒸気エージング処理で発生した蒸気ドレインを利用した浸漬エージング処理を行うことにより、蒸気エージングを行うことなく、Cr+6溶出量を環境基準値(0.05mg/l未満)以下に低下することができる。しかも、処理前のCr+6溶出量によって処理方法を選択する本発明方法によれば、クロム酸化物含有物質の処理費用を大幅に低減できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム酸化物含有物質を処理するにあたり、予め該クロム酸化物含有物質からのCr+6の溶出量を測定し、
該クロム酸化物含有物質からのCr+6の溶出量が所定値以上の場合には、該クロム酸化物含有物質に、硫黄および/または酸化数が+5価以下の硫黄を含有する物質を混合して混合物としたのち、該混合物に水蒸気を吹き込む蒸気エージング処理を施し、
前記クロム酸化物含有物質からのCr+6の溶出量が所定値未満である場合には、該クロム酸化物含有物質を硫黄および/または酸化数が+5価以下の硫黄を含む液中に浸漬する浸漬エージング処理を施すことを特徴とするクロム酸化物含有物質の処理方法。
【請求項2】
前記硫黄および/または酸化数が+5価以下の硫黄を含有する物質が、未エージング高炉徐冷スラグであることを特徴とする請求項1に記載のクロム酸化物含有物質の処理方法。
【請求項3】
記前記硫黄および/または酸化数が+5価以下の硫黄を含む液が、前記蒸気エージング処理で発生する蒸気ドレインまたは該蒸気ドレインを含む水であることを特徴とする請求項1または2に記載のクロム酸化物含有物質の処理方法。
【請求項4】
前記所定値が1.0mg/lであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のクロム酸化物含有物質の処理方法。

【公開番号】特開2011−36827(P2011−36827A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188864(P2009−188864)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【Fターム(参考)】