説明

クロメートフリー表面処理金属板

【課題】耐指紋性、電磁波シールド性、耐食性、耐熱性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性の全てを満足するクロメートフリー表面処理金属板を提供する。
【解決手段】亜鉛めっき金属板上に第一層として皮膜量が0.01〜0.5g/mで、皮膜固形分中質量比率が重リン酸マグネシウム/シリカ=65〜85mass%/35〜15mass%である下地処理皮膜と、第二層として、分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)を固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7の割合で配合して得られる有機ケイ素化合物(W)と、チタン弗化水素酸またはジルコニウム弗化水素酸から選ばれる少なくとも1種のフルオロ化合物(X)と、りん酸(Y)と、バナジウム化合物(Z)からなる水系金属表面処理剤を塗布し乾燥することにより形成される複合皮膜とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐指紋性、電磁波シールド性、耐食性、耐熱性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性に優れたクロメートフリー表面処理を施した金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛めっき鋼板、亜鉛めっきアルミニウム板等の亜鉛めっき金属板は、自動車、建材並びに家電関係などの広い分野で使用されている。しかし、これらの金属板に用いられる亜鉛やアルミニウムは、大気環境中で腐食して白錆と言われる腐食生成物を生成させ、これが金属板の外観を低下させる欠点を有しており、この手の耐食性に関する課題は特に家電分野において問題となる。一方、デジタル家電、精密機器、OA機器、白物家電等の汎用家電分野で上記の金属板を使用する際には耐食性に加え、耐指紋性、電磁波シールド性、溶接性の観点から導電性、耐熱性、塗装性および加工時の耐黒カス性も要求される。
【0003】
これまでに亜鉛めっき金属板表面に耐食性や導電性などを付与する技術として、亜鉛めっき金属板表面に、クロム酸や重クロム酸、更にそれらの塩を主成分とする処理液を用いたクロメート処理方法、リン酸塩処理方法、各種シランカップリング剤単体による被覆処理方法、有機樹脂皮膜の被覆方法等が知られており、そのいくつかの処理方法は実用化されている。近年、RoHSやELV指令に代表されるように六価クロムの使用規制に始まり、現在、クロメート処理を施された亜鉛めっき金属板からクロメートフリー表面処理を施された亜鉛めっき金属板へと転換が進みつつある。
【0004】
主として無機成分を用いる技術としては、バナジウム化合物とジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガンおよびセリウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物とを含有する金属クロメートフリー表面処理剤が挙げられている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記で特にシランカップリング剤を主体に使用する技術としては、一時的な防食効果を付与するために、低濃度の有機官能シランおよび架橋剤を含有する水溶液による金属板の処理を示しており、架橋剤として有機シラン化合物を架橋することによって、稠密なシロキサン・フィルムを形成する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
更にまた、特定の樹脂化合物(A)と、第1〜3アミノ基及び第4アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂(B)と、特定の反応性官能基を有する1種以上のシランカップリング剤(C)と、特定の酸化合物(E)とを含有し、且つカチオン性ウレタン樹脂(B)及びシランカップリング剤(C)の含有量が所定の範囲内であるクロメートフリー表面処理剤を用いて、耐食性に優れ、さらに耐指紋性、耐黒変性および塗装密着性に優れたクロメートフリー表面処理鋼板及びその製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
しかしながら、これらの処理方法によって作製された皮膜を有する亜鉛めっき金属板はクロメート処理された亜鉛めっき金属板同等以上の耐食性を発現させようとすると上記処理皮膜厚みを厚くしなければならず、他方、クロメート処理された亜鉛めっき金属板同等以上の導電性を発現させようとすると上記処理皮膜厚みを薄くなければならないという、皮膜厚みに対して相反する性能の両立が大きな技術課題であると同時に、耐熱性、耐指紋性および加工時の耐黒カス性の全てを満足するものではなく、実用化に至って依然として問題を抱えている。
【0008】
上記ように、いずれの方法でもクロメート皮膜の代替として使用できるようなクロメートフリー表面処理剤を得られていなかったが、製造コストメリットがあり、従来のクロメート処理された亜鉛めっき金属板同等以上の総合性能を満足できるクロメートフリー表面処理剤の開発が強く要求されている。このような要求に対して、例えば、亜鉛めっき金属板の片面乃至両面の表面に、分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)を固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7の割合で配合して得られる、分子内に式−SiR(式中、R、R及びRは互いに独立に、アルコキシ基又は水酸基を表し、少なくとも1つはアルコキシ基を表す)で表される官能基(a)を2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)を1個以上含有し、平均の分子量が1000〜10000である有機ケイ素化合物(W)と、チタン弗化水素酸またはジルコニウム弗化水素酸から選ばれる少なくとも1種のフルオロ化合物(X)と、りん酸(Y)と、バナジウム化合物からなる水系金属表面処理剤を塗布し乾燥することにより各成分を含有する複合皮膜を形成し、且つ、その複合皮膜の各成分において、有機ケイ素化合物(W)とフルオロ化合物(X)の固形分質量比〔(X)/(W)〕が0.02〜0.07であり、有機ケイ素化合物(W)とりん酸(Y)の固形分質量比〔(Y)/(W)〕が0.03〜0.12であり、有機ケイ素化合物(W)とバナジウム化合物(Z)の固形分質量比〔(Z)/(W)〕が0.05〜0.17であり、且つ、フルオロ化合物(X)とバナジウム化合物(Z)の固形分質量比〔(Z)/(X)〕が1.3〜6.0であることを特徴とするクロメートフリー表面処理金属板が開発されている。
【0009】
さらに成分(C)として、皮膜中に硫酸コバルト、硝酸コバルトおよび炭酸コバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種のコバルト化合物を、前記有機ケイ素化合物(W)とコバルト化合物(C)の固形分質量比〔(C)/(W)〕が0.01〜0.1の割合で含有するクロメートフリー表面処理金属板が開発され、当初要求性能は満足できた。(例えば、特許文献4、5参照)。
【0010】
その後、市場の要求特性レベルが難化し、当初要求性能を満足しつつ、有機薄膜(皮膜量厚み1.1g/m)鋼板と同等以上の耐指紋性、電磁波シールド性および耐食性の確保が緊急の課題となってきている。
【0011】
ここで、本発明に関わる重リン酸マグネシウムとシリカからなる処理法についての従来技術は以下のようなものが開示されている。
【0012】
ブラウン管シュリンクバンドやストーブ用途を目指し、亜鉛めっき鋼板の上に重リン酸マグネシウムとシリカからなる処理を行い、主に耐熱性、耐熱変色性を改善する手法が開示されている(例えば、特許文献6参照)。
【0013】
更に、家電、建材、自動車用途を目指し、亜鉛めっき鋼板の上に第一層として多価金属の重リン酸塩と金属酸化物ゾルからなる皮膜、第二層として有機皮膜を被覆することで耐食性(耐白錆性)と皮膜密着性を発現させる方法が開示されている(例えば、特許文献7参照)。
【0014】
しかしながら、前者の処理方法によって作製された皮膜を有する亜鉛めっき金属板では、従来クロメート皮膜や薄膜有機被覆が被覆された鋼板ほどの耐食性は得られず、性能上必ずしも充分な耐指紋性が得られない。他方、後者の処理方法によって作製された皮膜を有する亜鉛めっき金属板では、第一層の多価金属の重リン酸塩中の多価金属はマグネシウム、金属酸化物ゾルはシリカにそれぞれ限定されておらず、第二層の有機皮膜もケイ素の含有が必須ではないため、耐食性、耐指紋性、電磁波シールド性が並立する皮膜構成になっていない。
【0015】
他方、本発明に関わるZn−Coめっきについての従来技術は以下のようなものが開示されている。
【0016】
亜鉛めっき鋼板の上にZn−Coめっきする技術としては、自動車車体用途を目指し、耐水密着性を改善する方法として、りん酸亜鉛皮膜中にCoを添加させるためにCo含有率15〜30mass%のZn−Coめっきを用いる手法が開示されている(例えば、特許文献8参照)。
【0017】
上記と同様に自動車車体用途を目指し、亜鉛めっき鋼板の上にCo含有率3〜99mass%のZn−Coめっきを被覆する技術が示されており、Co含有率の下限は潤滑性、上限は耐チッピング性の発現限界で決まるとする方法が開示されている(例えば、特許文献9参照)。
【0018】
更にまた、主に自動車車体用途を目指し、有機複合被覆鋼板(亜鉛系めっき鋼板+クロメート皮膜+有機皮膜)の裸耐食性(無塗装状態での耐食性)と塗装後耐食性を向上させるために母材めっき層とクロメート皮膜層との間にフラッシュめっきと呼ばれる低付着量のめっき層を設け、このフラッシュめっき層をデキストリンおよび/またはデキストランとコバルト化合物とを含有することを必須とする亜鉛系めっき浴からの電気Zn−Coめっきにより形成することが有効であるということが示されている。フラッシュめっき層としてはZn−Coめっき中デキストリンおよび/またはデキストランの含有率が0.05(塗装後耐食性下限)〜10(めっき外観起因による上限)mass%、且つCo含有率が0.01(塗装後耐食性下限)〜10(製造コストによる上限)mass%で付着量が0.5(塗装後耐食性下限)〜20(製造コストと加工性起因による上限)g/mであることが開示されている(例えば、特許文献10参照)。
【0019】
しかしながら、これらの処理方法によって作製された皮膜を有する亜鉛めっき金属板は自動車車体用途を中心に設計されており、特に耐食性の観点からは塩害地での鋼板の耐孔明き性や塗装後耐食性を重視した皮膜設計であるため、めっき中のCo含有率が3mass%以上、あるいは1mass%以下の微量Co含有率ではデキストリン等の有機添加物を同時にめっき中に含有しないと耐食性が発現されない。ただし、めっき中のCo含有率が3mass%以上、あるいは1mass%以下の微量Co含有率で、且つデキストリン等の有機添加物を含有するようなめっきは製造コストが高く、特にデキストリン等の有機添加物をめっき浴に添加すると、操業時に有機添加物の分解が起こるため、めっき液のコンタミが起こり、正常なめっきができなくなったり、めっき液の浴寿命が短くなるといういくつかの課題が発生することが知られている。
【0020】
【特許文献1】特開2002−30460号公報
【特許文献2】米国特許第5,292,549号明細書
【特許文献3】特開2003−105562号公報
【特許文献4】特願2005−213243号公報
【特許文献5】特願2006−185753号公報
【特許文献6】特開2000−79370号公報
【特許文献7】特願平10−308723号公報
【特許文献8】特開昭60−215789号公報
【特許文献9】特開平03−158494号公報
【特許文献10】特開平08−218193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、上記現状に鑑み、廉価で、従来技術の有する前記課題を解決して、耐指紋性、電磁波シールド性、耐食性、耐熱性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性の全てを満足するクロメートフリー表面処理を施した金属板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らはこれらの従来技術の抱える問題点を解決するために鋭意検討を重ねた結果、亜鉛めっき金属板又は亜鉛めっき金属板の上に微量のCoを含有したZn−Coめっき皮膜を被覆し、第一層として、重リン酸マグネシウムとシリカの特定比率の下地処理皮膜、更にその上に、第二層として特定のシランカップリング剤2種類を特定の固形分質量比で配合して得られる、分子内に特定の官能基を2個以上と、特定の親水性官能基を1個以上含有する有機ケイ素化合物(W)と、フルオロ化合物(X)と、りん酸(Y)と、バナジウム化合物(Z)からなる水系金属表面処理剤を塗布し乾燥することにより各成分を含有する複合皮膜を形成することで、耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性の全てを満足するクロメートフリー表面処理金属板が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の技術の従来との相違点はまず、これまで着目されなかった重リン酸マグネシウム/シリカ=65〜85mass%/35〜15mass%である下地処理皮膜と水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜と併用することで、格段の耐指紋性向上が起こることにあり、このため水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜の薄膜化が可能となり、良好な電磁波シールド性も同時に得ることができることを見出した点にある。更に第二の本発明の技術の従来との相違点は、これまで着目されなかった微量Co含有領域のZn−Coめっき皮膜を亜鉛めっき金属板と下地処理皮膜の間に被覆することで、格段の耐食性向上が起こり、このため上記水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜の更なる薄膜化が可能となり、良好な導電性に加え、耐熱性、塗装性および加工時の耐黒カス性も同時に得ることができることを見出した点にある。
【0023】
すなわち、本発明は、亜鉛めっき金属板の片面又は両面の表面に、第一層として、皮膜量が0.01〜0.5g/mで、皮膜固形分中質量比率が重リン酸マグネシウム/シリカ=65〜85mass%/35〜15mass%である下地処理皮膜と、前記第一層の上層である第二層として、有機ケイ素化合物(W)と、フルオロ化合物(X)と、りん酸(Y)と、バナジウム化合物(Z)とを含有する水系金属表面処理剤を塗布し乾燥することにより形成された複合皮膜と、を有し、前記複合皮膜の各成分において、前記有機ケイ素化合物(W)は、分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)とを固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7の割合で配合して得られる、分子内に式−SiR(式中、R、R及びRは互いに独立に、アルコキシ基又は水酸基を表し、少なくとも1つはアルコキシ基を表す)で表される官能基(a)を2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)を1個以上含有し、質量平均分子量が1000〜10000であり、前記フルオロ化合物(X)は、チタン弗化水素酸またはジルコニウム弗化水素酸から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、前記有機ケイ素化合物(W)と前記フルオロ化合物(X)の固形分質量比〔(X)/(W)〕が0.02〜0.07であり、前記有機ケイ素化合物(W)とりん酸(Y)の固形分質量比〔(Y)/(W)〕が0.03〜0.12であり、前記有機ケイ素化合物(W)と前記バナジウム化合物(Z)の固形分質量比〔(Z)/(W)〕が0.05〜0.17であり、且つ、前記フルオロ化合物(X)と前記バナジウム化合物(Z)の固形分質量比〔(Z)/(X)〕が1.3〜6.0であるクロメートフリー表面処理金属板である。
【0024】
上記水系金属表面処理剤は、硫酸コバルト、硝酸コバルトおよび炭酸コバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種のコバルト化合物(C)をさらに含有し、前記有機ケイ素化合物(W)と前記コバルト化合物(C)の固形分質量比〔(C)/(W)〕が0.01〜0.1であることが好ましい。
【0025】
上記複合皮膜は、上記水系金属表面処理剤を塗布た後に、50℃より高く250℃未満の到達温度で乾燥を行うことにより形成され、乾燥後の皮膜重量が0.15〜0.65g/mであることが好ましい。
【0026】
更に、亜鉛めっき金属板は、皮膜量が1.0〜5.0g/mで、めっき中Co(コバルト)含有率が0.2〜1.0mass%であるZn(亜鉛)−Coめっき皮膜を有する亜鉛めっき鋼板であり、前記亜鉛めっき金属板の表面に第一層として前述の下地処理皮膜を被覆し、第二層として前述の水系金属表面処理剤を塗布た後に、50℃より高く250℃未満の到達温度で乾燥を行うことにより前記複合皮膜が形成され、乾燥後の皮膜重量が0.05〜0.65g/mであるクロメートフリー表面処理金属板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明のクロメートフリー表面処理金属板は、耐指紋性、電磁波シールド性、耐食性、耐熱性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性の全てを満足する。かかる本発明は、環境保全などの社会問題の対策案の一つであり、且つ低皮膜厚みによる低製造コスト化を実現でき実用上極めて有効な価値ある技術と言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0029】
本発明のクロメートフリー表面処理金属板は、亜鉛めっき金属板又は亜鉛めっき金属板の上に微量Co含有Zn−Coめっき皮膜を被覆し、第一層として、重リン酸マグネシウムとシリカの特定比率の下地処理皮膜、更にその上に、第二層として水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜を薄く被覆させることで、耐食性を担保しつつ耐指紋性および電磁波シールド性、耐熱性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性に優れた皮膜が形成されたものである。
【0030】
一般的に、材料表面にはマイクロメートルオーダーの高低差をもつ凹凸があり、この上に後処理剤を塗布乾燥させて成膜させると、凸部においては皮膜厚み(皮膜量)が薄くなる、あるいは被覆されない部位が存在する。この被覆の程度は、塗布させる処理剤の成分や塗布量、水系の場合には材料表面との濡れ性によって変化する。材料の耐指紋性を向上するためには、表面凸部をより皮膜で被覆させないと、材料表面が露出している部位が多くなり、指紋痕が残りやすくなる。一般的には、後処理皮膜量は1g/m程度以上しないと耐指紋性は良好にならない。更に、材料表面露出部位は発錆起点となり、耐食性低下の要因にもなる。一方で、電磁波シールド性は後処理皮膜厚み(皮膜量)が薄いほど良好となる。一般的には、皮膜量は1g/m程度未満に塗布しないと電磁波シールド性は良好にならない。以上から、これら三つの性能を並立させることは重要な課題であった。
【0031】
本発明のクロメートフリー表面処理金属板の亜鉛めっき金属板の表面に、下地処理皮膜を被覆し、薄膜の水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜を被覆することで耐食性を担保しつつ更なる耐指紋性および電磁波シールド性の格段の向上がなされる。本発明に至る主たる技術のポイントは耐指紋性の格段の向上にある。上記の性能の発現機構については定かではないが、推定されうる発現機構について説明する。ただし、本発明はこれに縛られるものではない。亜鉛めっき金属板の表面に第一層として下地処理皮膜、第二層として水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜を有することで優れた耐食性、指紋性、電磁波シールド性能を発揮するのは以下の通りである。
【0032】
まず、材料表面に下地処理皮膜剤を塗布し、焼き付けを行うと、材料表面のM(金属)−OH(水酸基)と下地処理皮膜のSi(ケイ素)−OH、P(リン)−OHが脱水縮合によりM−O−Si結合、M−O−P結合を形成する。ここで、材料が亜鉛めっき鋼板であればZn−O−Si結合、Zn−O−P結合を形成する。更に、この上に水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜を塗布し、焼き付けを行うと、下地処理皮膜上のSi−OH(水酸基)と水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜上のSi(ケイ素)−OHが脱水縮合により主にSi−O−Si結合(シロキサン結合)を形成する。同時に、Si−O−P結合も形成していると考えられる。下地処理皮膜自体はSi−O−Si結合とSi−O−P結合により、タイトなネットワークを形成し、材料表面を薄く緻密に被覆する。結合力の源泉は主にポーリングの電気陰性度によるものと考えられ、Zn−O−Si結合やSi−O−Si結合、P−O−Si結合は共に相当する安定な結合状態である。更に結合の対称的安定性効果を考慮すると、Si−O−Si結合はシンメトリックで結合がより安定性となる。以上から、材料表面/下地処理皮膜/水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜の各界面はこれらの結合により、強固な皮膜密着性を発現していると考えられる。界面の密着性が良いということは、界面への水、塩分等の腐食因子が侵入しづらいため、耐食性確保にも要因している。更には、水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜中のSi以外の無機塩、有機化合物の官能基が下地処理皮膜表面のSi−OH、P−OH基と水素結合やファンデルワールス力を介して架橋構造を形成していることも腐食因子の侵入を抑制に寄与し、更に、材料が亜鉛めっき鋼板の場合には下地処理皮膜中のマグネシウムが亜鉛の白錆発生を強力に抑制すること等も耐食性確保に要因している。
【0033】
ここで、耐指紋性の向上の観点から、材料表面凸部に着目すると、材料表面に下地処理を行うことで下地処理皮膜のSi−OH、P−OHの官能基が凸部を含む材料表面全面に存在するため、ケイ素含有後処理剤を塗布し焼き付け乾燥の段階で、後処理剤中のケイ素に起因するSi−OHが下地処理皮膜上のSi−OHと脱水縮合しSi−O−Si結合を形成するため、材料表面凸部にも水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜が形成されやすくなる。後処理剤が水系の場合には下地処理皮膜のSi−OH、P−OHの官能基が親水性のため、更に後処理剤と材料表面との濡れ性を向上させ、材料表面凸部への水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜形成向上に寄与する。このため、材料表面に直にケイ素含有後処理剤の塗布焼付けを行うよりも、下地処理皮膜を介して塗布焼付けを行う方が、材料表面凸部に水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜が被覆しやすくなるため、下地処理皮膜付き材料表面凸部での露出部位が減少することになる。したがって、水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜量が少なくても、下地処理皮膜付き材料表面凸部が露出している部位が減少し、指紋痕が残りづらくなり、耐指紋性は向上する。更に、下地処理皮膜付き材料表面凸部の露出部は、下地処理皮膜表面のSi−OH、P−OHの官能基が親水性であること、皮膜中のSi−O−Si結合とP−O−Si結合のネットワークによる反応不活性かつ表面付着因子のバリア効果により、人体油分に起因する指紋痕や、塩分等から供給されるイオンとの反応固着に起因する指紋痕が付きづらくなると考えられる。更に、下地処理皮膜や水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜の表面特性として指紋痕がついても目視識別ができない効果も考えられる。これらの発現効果は、下地処理皮膜表面のSi−OH、P−OHの官能基と、皮膜中のSi−O−Si結合とP−O−Si結合の量的バランスによるものと考えられる。すなわち、下地処理皮膜剤の重リン酸塩とシリカの量比に相関するものである。本発明では、重リン酸マグネシウム/シリカの質量比に適正範囲があるのは、これが要因しているためと考えられる。
【0034】
更に、本発明で格段の電磁波シールド性が得られた要因として、無機皮膜に比べ無機皮膜は電磁波シールド性に優位であることを見出した点が挙げられる。これは皮膜量を一定とし、アクリル系有機皮膜を被覆した亜鉛めっき鋼板と上記水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜を被覆した亜鉛めっき鋼板と上記下地処理皮膜を被覆した亜鉛めっき鋼板の電磁波シールド性評価結果から、(劣)アクリル系有機皮膜>上記水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜>上記下地処理皮膜(優)の電磁波シールド性能の優位差が認められたことによる。この発現機構については不明であるが、漏洩電磁波機構から考えると、鋼板接合部に絶縁層があると、誘導電流が接合部を横切って伝達されずに、接合部手前の金属表皮を伝わって、筐体外側へと流れ、筐体外側に漏洩電磁波を生じる。このため、絶縁層の抵抗が低いか、絶縁層厚みが薄いことが電磁波シールド性に有利であることから、絶縁物同士ながら、有機皮膜が最も絶縁性が高く、また、下地処理皮膜(無機皮膜)の方がシラン系の無機官能基が有機鎖に結合している水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜に比べて絶縁性が低いことによるものと考えられる。したがって、下地処理皮膜を介して水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜を被覆することで、水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜単独よりも電磁波シールド性に有利な皮膜構成となる。
【0035】
本発明の上記水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜が下地処理皮膜を介して被覆される複層皮膜の皮膜構成は下地処理皮膜量の下限は0.01g/m、上限は0.5g/mであり、皮膜組成は重リン酸マグネシウム/シリカ=65〜85mass%/35〜15mass%、且つ水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜量の下限が0.15g/m、ケイ素含有率の下限が0.2mass%で、皮膜量の上限が0.65g/m、ケイ素含有率の上限が30mass%である。下地処理皮膜量が下限0.01g/m以上において、耐食性(耐白錆性)が向上し、上限0.5g/mの皮膜量は性能よりも経済性(コスト)による。重リン酸マグネシウム/シリカ=65〜85mass%/35〜15mass%の範囲は耐指紋性の良好領域で決まる。
【0036】
更に、水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜が下限0.15g/m以上、且つ皮膜中ケイ素含有率が0.2mass%以上で耐白錆性は格段に向上し、また、上限0.65g/m以下、且つ皮膜中ケイ素含有率が30mass%以下の皮膜量は性能よりも経済性(コスト)による。ただし、ケイ素含有率が40mass%以下でないと、皮膜脆性が起こりやすくなる。
【0037】
以上より、水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜単層の場合に比べ、下地処理皮膜があることで耐食性を確保しつつ耐指紋性が格段と向上することと、水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜はシラン系の無機官能基が有機分子鎖に結合しているため、炭化水素からなる有機皮膜よりも電磁波シールド性に優れているのに加えて、無機皮膜からなる下地処理皮膜の電磁波シールド性向上効果のため、水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜の極薄膜化が可能となり、電磁波シールド性も飛躍的に向上できたと考えられる。安定した耐指紋性および電磁波シールド性、耐食性の確保と製造コストの最小化を図るためには、重リン酸マグネシウム/シリカ=65〜85mass%/35〜15mass%組成前提で下地処理皮膜量の下限は0.01g/m、上限は0.5g/mであり、且つ水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜量の下限が0.15g/m、ケイ素含有率の下限が0.2mass%で、皮膜量の上限が0.65g/m、ケイ素含有率の上限が30mass%であることが好ましい。更に好ましくは、下地処理皮膜量の下限は0.03g/m、上限は0.4g/mであり、且つ水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜量の下限が0.25g/m、ケイ素含有率の下限が0.2mass%で、皮膜量の上限が0.5g/m、ケイ素含有率の上限が30mass%である。
【0038】
上記下地処理皮膜を形成する処理液としては、市販の重リン酸マグネシウムと市販のシリカゾル、コロイダルシリカ等のシリカを、所定量混合した水溶液であればよい。その他のケイ素、シリコン、マグネシウムを含む薬剤を用いても諸性能は発現できると考えられるが、経済性(コスト)を考慮すると、必ずしも好ましくない。更に、諸性能を担保できる量であれば、必要に応じて防錆インヒビター、有機化合物、無機塩、界面活性剤等の他の添加剤の単独乃至二種以上を配合してもよい。
【0039】
上記下地処理剤による亜鉛めっき金属板への処理方法としては、浸漬型処理、塗布型処理のいずれの方法によっても上記下地処理皮膜を形成させることが可能である。浸漬型処理としては、例えば、亜鉛めっき鋼板を上記下地処理液と接触させ、リンガーロール法やエアナイフ法等によって膜厚を制御した後に乾燥を行うことにより上記下地処理皮膜を形成することができる。上記下地処理皮膜の皮膜量は、たとえばリンガーロール法であればロール押し付け圧、エアナイフ法ではエア圧の調整によりそれぞれ制御が可能である。
【0040】
塗布型処理としては、例えば、亜鉛めっき鋼板に必要な皮膜量に応じた量の上記下地処理液をロールコート法により必要な塗布量に調整する方法である。上記下地処理液を亜鉛めっき鋼板に塗布した後、乾燥炉等を用いて乾燥させることにより、皮膜を形成させる。
【0041】
本発明のクロメートフリー表面処理金属板の亜鉛めっき金属板表面に、低Co含有Zn−Coめっき皮膜を被覆し、下地処理皮膜を被覆し、極薄膜の水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜を被覆することで更なる導電性と耐食性の格段の向上がなされる。この性能の発現機構については定かではないが、推定されうる発現機構について説明する。ただし、本発明はこれに縛られるものではない。亜鉛めっき金属板の表面にZn−Coめっき皮膜を被覆し、第一層として下地処理皮膜、第二層として水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜を有することで優れた耐食性能を発揮するのは以下の通りである。まず、亜鉛めっき金属板表面のZn−Coめっき皮膜の上に下地処理剤および、水系金属表面処理剤を塗布し、焼き付けを行う際に、Zn−Coめっき皮膜上のCo−OH(水酸基)と下地処理皮膜上のSi(ケイ素)−OHが脱水縮合によりCo−O−Si結合を形成する。更に、下地処理皮膜上のSi−OHと水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜上のSi−OHが脱水縮合によりSi−O−Si結合を形成する。ポーリングの電気陰性度によるとCoは1.88、Siは1.90、O(酸素)は3.44、Znは1.65であり、CoとSiはほぼ等しい値であることから、Co−O−Si結合はSi−O−Siで示されるシロキサン結合に相当する安定な結合状態となり、Zn−Coめっき皮膜/下地処理皮膜/水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜界面の強固な密着が起こるものと考えられる。界面の密着性が良いということは、界面への水、塩分等の腐食因子が侵入しづらいため、Zn−Coめっき皮膜の腐食抑制に大きく寄与しているものと考えられる。加えて、水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜自体の腐食因子のバリア効果や、水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜中のSi以外の無機塩、有機化合物の官能基がめっき表面の−O、−OH基と水素結合やファンデルワールス力を介して架橋構造を形成していることも腐食因子の侵入を抑制する観点から、Zn−Coめっき皮膜の腐食開始を遅延に寄与していると考えられる。
【0042】
更に、腐食因子がZn−Coめっき皮膜/下地処理皮膜界面に侵入し始めると、Zn−Coめっき皮膜の腐食が開始する。このとき、環境中から供給された水、塩化物イオンや炭酸イオンなどの腐食因子が腐食に関与し、めっきが腐食して亜鉛の腐食初期生成物である塩基性塩化亜鉛や塩基性炭酸亜鉛をZn−Coめっき皮膜/下地処理皮膜界面、乃至水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜界面に堆積する。上記亜鉛の腐食初期生成物は腐食因子のバリア効果を有しているが、大気環境にそのまま曝されるとすぐにバリア効果のない亜鉛の酸化物に変化するが、上記下地皮膜中のMg(マグネシウム)とめっき中のCoによる腐食初期生成物の分解抑制作用と、上層に水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜があることによる腐食初期生成物の大気との遮蔽効果の相乗効果により、上記亜鉛の腐食初期生成物の分解抑制が起こるため、腐食初期生成物の腐食因子バリア効果が長期に持続されることになる。結果として、白錆発生が抑制される。本発明においてめっき成分にCoを選択した理由は主に、電気陰性度がSiとほぼ同値であること加え、めっき中に微量含有させるだけで腐食初期生成物の分解抑制作用が最も発現しやすい元素であることを見出したからである。併せて、この耐食性発現には上層に水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜が必須である。水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜に、耐食性付与の目的から、緻密な皮膜を形成するフルオロ化合物、溶出性インヒビターとしてのりん酸、酸化還元反応によって耐食性を付与するバナジウム化合物を添加することで、更なる優れた耐食性を発現するものと推定される。本発明の皮膜構成により良好な耐食性発現が得られたことから、水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜の極薄膜化が可能となり、電磁波シールド性(不要輻射ノイズ漏れの防止能)も飛躍的に向上できたと考えられる。
【0043】
他方、本発明のクロメートフリー表面処理金属板は、耐指紋性に加えて、電磁波シールド性、耐食性、耐熱性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性の全てを満足する。この理由として以下のように推測されるが、本発明はかかる推測に縛られるものではない。本発明の水系金属表面処理剤を用いた皮膜はケイ素を基盤として形成され、その構造については、ケイ素−有機鎖の配列が規則的であり、また有機鎖が比較的短いことから、皮膜中の極めて微小な区域に、規則的かつ緻密にケイ素含有部と有機物部、すなわち無機物と有機物が配列しており、そのため、無機系皮膜が通常有する耐熱性および加工性時の耐黒カス性、有機系皮膜が通常有する耐指紋性や塗装性などを併せ持つ新規な皮膜の形成が可能になると推定される。なお、皮膜中のケイ素含有部においては、ケイ素の約80%がシロキサン結合を形成していることが分析で確認されている。
【0044】
本発明のクロメートフリー表面処理金属板の亜鉛めっき金属板上のZn−Coめっき皮膜は、下限1.0g/m、上限5.0g/mの皮膜量で、下限0.2mass%、上限1.0mass%のめっき中Co含有率で形成されたものである。皮膜量および組成が下限1.0g/m未満且つ下限Co含有率0.2mass%未満であると、白錆が発生し易くなり、耐食性は低下する。この理由としては、主にZn−Coめっき皮膜量とCo含有率が少なく、Co−O−Si結合による界面密着力が低下し、且つCo溶出量も極めて少ないため、充分なめっき腐食初期生成物の保持効果が発揮できないため、めっきの腐食抑制効果が低下したためと考えられる。一方、上限皮膜量および組成の根拠としては、製造コストの観点から5.0g/mの皮膜量、1.0mass%のCo含有率を上限値とした。安定した耐食性の確保と製造コストの最小化を図るためには上記皮膜量下限は1.2g/m、Co含有率下限は0.22mass%であることがより好ましく、上記皮膜量上限は4.8g/m、Co含有率上限は0.98mass%であることがより好ましい。
【0045】
上記Zn−Coめっきの亜鉛めっき鋼板へのめっき方法としては、電気めっき法、溶融めっき法、蒸着めっき法、置換めっき、溶融塩電解めっき法等所定のめっき組成およびめっき付着量が確保できればどの方法を使用してもかまわない。
【0046】
本発明のクロメートフリー表面処理金属板の第二層目の水系金属表面処理剤の塗布複合皮膜を形成するための水系金属表面処理剤の必須成分である有機ケイ素化合物(W)は、分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)を固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7の割合で配合して得られるものである。シランカップリング剤(A)とシランカップリング剤(B)の配合比率としては、固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7である必要があり、0.7〜1.7が好ましく、0.9〜1.1であることが最も好ましい。固形分質量比〔(A)/(B)〕が0.5未満であると、耐指紋性および浴安定性、耐黒カス性が著しく低下するため好ましくない。逆に1.7を超えると、耐水性が著しく低下するため好ましくない。
【0047】
また、本発明中における前記分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)としては、特に限定するものではないが、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどを例示することができ、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどを例示することができる。
【0048】
また、本発明の有機ケイ素化合物(W)の製造方法は、特に限定するものではないが、pH4に調整した水に、前記シランカップリング剤(A)と、前記シランカップリング剤(B)を順次添加し、所定時間攪拌する方法が挙げられる。
【0049】
本発明の必須成分である有機ケイ素化合物(W)における官能基(a)の数は2個以上であることが必要である。官能基(a)の数が1個である場合には、金属板表面に対する密着力および造膜性が低下するため、耐黒カス性が低下する。官能基(a)のR、R及びRの定義におけるアルコキシ基の炭素数は特に制限されないが1から6であるのが好ましく、1から4であるのがより好ましく、1又は2であるのがもっとも好ましい。官能基(b)の存在割合としては、1分子内一個以上であればよい。有機ケイ素化合物(W)の平均の分子量(本明細書における「平均の分子量」は、質量平均分子量を意味する。)は1000〜10000であることが必要であり、1300〜6000であることが好ましい。ここでいう分子量は、特に限定するものではないが、TOF−MS法による直接測定およびクロマトグラフィー法による換算測定のいずれかを用いて良い。平均の分子量が1000未満であると、形成された皮膜の耐水性が著しく低くなる。一方、平均の分子量が10000より大きいと、前記有機ケイ素化合物を安定に溶解または分散させることが困難になる。
【0050】
また、本発明の必須成分であるフルオロ化合物(X)の配合量に関しては、前記有機ケイ素化合物(W)とフルオロ化合物(X)の固形分質量比〔(X)/(W)〕が0.02〜0.07である必要があり、0.03〜0.06が好ましく、0.04〜0.05であることが最も好ましい。前記有機ケイ素化合物(W)とフルオロ化合物(X)の固形分質量比〔(X)/(W)〕が0.02未満であると、添加効果が発現しないため好ましくない。逆に0.07より大きいと導電性が低下するため好ましくない。
【0051】
また、本発明の必須成分であるりん酸(Y)の配合量に関しては、前記有機ケイ素化合物(W)とりん酸(Y)の固形分質量比〔(Y)/(W)〕が0.03〜0.12である必要があり、0.05〜0.12であることが好ましく、0.09〜0.1であることが最も好ましい。前記有機ケイ素化合物(W)とりん酸(Y)の固形分質量比〔(Y)/(W)〕が0.03未満であると添加効果が発現しないため好ましくない。逆に0.12を超えると、皮膜の水溶化が著しくなるため好ましくない。
【0052】
また、本発明の必須成分であるバナジウム化合物(Z)の配合量に関しては、前記有機ケイ素化合物(W)とバナジウム化合物の固形分質量比〔(Z)/(W)〕が0.05〜0.17である必要があり、0.07〜0.15であることが好ましく、0.09〜0.14であることがさらに好ましく、0.11〜0.13であることが最も好ましい。前記有機ケイ素化合物(W)とバナジウム化合物の固形分質量比〔(Z)/(W)〕が0.05未満であると添加効果が発現しないため好ましくない。逆に0.17を超えると、安定性が極めて低下するため好ましくない。
【0053】
また、本発明中におけるバナジウム化合物(Z)としては、特に限定するものではないが、五酸化バナジウムV、メタバナジン酸HVO、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウムVOCl、三酸化バナジウムV、二酸化バナジウムVO、オキシ硫酸バナジウムVOSO、バナジウムオキシアセチルアセトネートVO(OC(=CH)CHCOCH))、バナジウムアセチルアセトネートV(OC(=CH)CHCOCH))、三塩化バナジウムVCl、リンバナドモリブデン酸などを例示することができる。また、5価のバナジウム化合物を水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、1〜3級アミノ基、アミド基、リン酸基及びホスホン酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機化合物により、4価〜2価に還元したものも使用可能である。
【0054】
また、本発明の必須成分であるフルオロ化合物(X)とバナジウム化合物(Z)の配合量に関しては、前記フルオロ化合物(X)とバナジウム化合物(Z)の固形分質量比〔(Z)/(X)〕が1.3〜6.0である必要があり、1.3〜3.5であることが好ましく、2.5〜3.3であることがさらに好ましく、2.8〜3.0であることが最も好ましい。前記フルオロ化合物(X)とバナジウム化合物(Z)固形分質量比〔(Z)/(X)〕が1.3未満であるとバナジウム化合物(Z)の添加効果が発現しないため好ましくない。逆に6.0を超えると、浴安定性、耐黒カス性が低下するため好ましくない。
【0055】
本発明の添加成分であるコバルト化合物(C)は、硫酸コバルト、硝酸コバルトおよび炭酸コバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種のコバルト化合物である必要がある。また、その配合比率は、前記有機ケイ素化合物(W)とコバルト化合物(C)の固形分質量比〔(C)/(W)〕が0.01〜0.1である必要があり、0.02〜0.07であることが好ましく、0.03〜0.05であることが最も好ましい。前記有機ケイ素化合物(W)とコバルト化合物(C)の固形分質量比〔(C)/(W)〕が0.01未満であると、コバルト化合物(C)の添加効果が発現しないため好ましくない。すなわち、亜鉛系のめっき鋼板は、板の重ね合せ部に黒変と呼ばれる亜鉛の不飽和酸化物が生成するため、これを回避するために、従来からコバルト化合物を塗布する技術が知られている。本発明では、この黒変を回避する効果を発現させるために、有機ケイ素化合物(W)とコバルト化合物(C)の固形分質量比〔(C)/(W)〕を0.01以上としている。逆に0.1より大きいと耐食性が低下するため好ましくない。
【0056】
本発明のクロメートフリー表面処理金属板は、前記水系金属表面処理剤を塗布し、50℃より高く250℃未満の到達温度で乾燥を行い、乾燥後の皮膜重量が0.15〜0.65g/m、特に亜鉛めっき金属板の上に微量Co含有Zn−Coめっき皮膜が被覆されると0.05〜0.65g/mであることが好ましい。乾燥温度については、到達温度で50℃より高く250℃未満であることが好ましく、70℃〜150℃であることが更に好ましく、100℃〜140℃であることが最も好ましい。到達温度が50℃以下であると、該水系金属表面処理剤の溶媒が完全に揮発しないため好ましくない。逆に250℃以上となると、該水系金属表面処理剤にて形成された皮膜の有機鎖の一部が分解するため好ましくない。皮膜重量に関しては、0.15〜0.65g/m、亜鉛めっき金属板の上に微量Co含有Zn−Coめっき皮膜がある場合は0.05〜0.65g/mであることが好ましく、0.2〜0.6g/mであることが更に好ましく、0.25〜0.5g/mであることが最も好ましい。皮膜重量が0.05g/m未満であると、該金属板の表面を被覆できないため耐食性が著しく低下するため好ましくない。逆に0.65g/mより大きいと、経済性(コスト)の観点から好ましくない。
【0057】
本発明に用いる水系金属表面処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、塗工性を向上させるためのレベリング剤や水溶性溶剤、金属安定化剤、エッチング抑制剤およびpH調整剤、潤滑剤、光触媒等の高機能化添加物などを使用することが可能である。レベリング剤としては、ノニオンまたはカチオンの界面活性剤として、ポリエチレンオキサイドもしくはポリプロピレンオキサイド付加物やアセチレングリコール化合物などが挙げられ、水溶性溶剤としてはエタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコールおよびプロピレングリコールなどのアルコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのセロソルブ類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンなどのケトン類が挙げられる。金属安定化剤としては、EDTA、DTPAなどのキレート化合物が挙げられ、エッチング抑制剤としては、エチレンジアミン、トリエチレンペンタミン、グアニジンおよびピリミジンなどのアミン化合物類が挙げられる。特に一分子内に2個以上のアミノ基を有するものが金属安定化剤としても効果があり、より好ましい。pH調整剤としては、酢酸および乳酸などの有機酸類、フッ酸などの無機酸類、アンモニウム塩やアミン類などが挙げられる。潤滑剤としては、ポリエチレンワックス等の有機系ワックスや黒鉛や二硫化モリブデンなどの無機潤滑剤、シリカやアルミナなどの金属酸化物ゾルなどが挙げられる。光触媒としては、アナターゼ型酸化チタンなどが挙げられる。
【0058】
本発明において適用可能な亜鉛めっき金属板としては特に限定されるものではなく、例えば、鉄、鉄基合金、アルミニウム、アルミニウム基合金、銅、銅基合金等に亜鉛めっきを施した亜鉛めっき金属板を使用することができる。中でも本発明の適応において最も好適なものは亜鉛めっき鋼板である。めっき方法は特に限定されるものではなく、公知の電気めっき法、溶融めっき法、蒸着めっき法、分散めっき法、真空めっき法等のいずれの方法でもよい。
【実施例】
【0059】
以下に本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。試験板の調製、実施例および比較例、および金属板用クロメートフリー表面処理剤の塗布の方法について下記に説明する。
【0060】
(試験板の調製)
(1)試験素材
下記に示した市販の素材を用いた。
・電気亜鉛めっき鋼板(EG):板厚=0.8mm、目付量=10/10(g/m
・電気亜鉛めっき鋼板(EG):板厚=0.8mm、目付量=20/20(g/m
(2)脱脂処理
素材を、シリケート系アルカリ脱脂剤のファインクリーナー4336(登録商標:日本パーカライジング(株)製)を用いて、濃度20g/L、温度60℃の条件で2分間スプレー処理し、純水で30秒間水洗した後に乾燥したものを試験板とした。
【0061】
Zn−Coめっき作製水準を表1、下地処理の付着量および組成と耐指紋性との関係を表2、水系金属表面処理剤に含まれるシランカップリング剤とバナジウム(V)化合物を表3に示し、配合例、皮膜量および乾燥温度および実施例と比較例に供した皮膜構成を表4〜9に示す。
【0062】
これらの組み合わせによって、本発明に示すクロメートフリー表面処理金属板を作製し、耐指紋性および電磁波シールド性および耐食性、耐熱性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性を調査した。各種評価内容および基準は次の通りである。
【0063】
(耐指紋性評価方法)
平板表面にN3ずつ実指紋痕を残存させ、色彩色差計を用いて測定された実指紋痕前後の色差基準色データL、a、b(JIS Z8729に準ずる)を基に、色差ΔE値を求め、N3の平均値を評価値とした。評価基準は以下の通りである。耐指紋性については評点2以上を合格とした。
評点5:指紋痕前後の色差ΔEの値が0.5未満
評点4:指紋痕前後の色差ΔEの値が0.5以上0.6未満
評点3:指紋痕前後の色差ΔEの値が0.6以上0.7未満
評点2:指紋痕前後の色差ΔEの値が0.7以上1.0未満
評点1:指紋痕前後の色差ΔEの値が1.0以上
ただし、アクリル系有機薄膜(1.1g/m)鋼板の評点4を実績の基準とした。
【0064】
(電磁波シールド性評価方法)
国際規格(CISPR規格)や電界強度測定法に比べて、より高感度で漏洩電磁波測定が可能とされる入出力比測定法を用いた。板厚1.5mmの真鍮板を用いて、折り曲げおよびロウ付けにより、一辺が400mmで、上面のみが開放された筐体を作製した。筐体開放部の内側には、幅13mmのフランジを設けた。フランジ上に、一辺が400mmで中央に137mm×137mmの開口部を有する板厚3mmの真鍮製蓋を載せ、Cu箔の粘着テープで接合部をシールドした。これを電波暗室に設置した。筐体内に小型発信アンテナを水平に固定して、この発信アンテナと3m離れた位置においた受信アンテナをそれぞれネットワークアナライザーに接続した。開口部を覆うように、150mm×150mmの鋼板サンプルを置いたのち、周波数30MHzから1000MHzの連続的な電磁波を、ネットワークアナライザーを通じて発信し、受信した。本測定法はネットワークアナライザーの入出力比を測定するものである。
【0065】
鋼板サンプルの筐体上への置き方は、ポリウレタンフォームをNiめっき導電布で覆った幅5mm、厚さ2mmのガスケットを筐体開口部周辺に配置し、その上に鋼板サンプルを載せた。導電性への悪影響を考慮し、ガスケット裏面の接着テープは除去した。ここで、P1:全オープンの受信レベル(dBm)は開口部に鋼板サンプルを置かずに開放したままの値、P2:全シールドの受信レベルは開口部にCu板を置き、周囲をCu箔の粘着テープでシールドした時の値、P3:開口部に鋼板サンプルを置いた場合の受信レベル値であり、これらの値から以下の算定式により、シールド効果を算定し、電磁波シールド性を評価した。
鋼板のシールド効果(dB)=P1−P3、
全シールド(dB)=P1−P2
【0066】
上記のシールド効果が全シールドに近いほど電磁波シールド性が良好となる。評価基準は以下の通りである。電磁波シールド性については評点2以上を合格とした。
評点5:シールド効果が45以上
評点4:シールド効果が35以上45未満
評点3:シールド効果が25以上35未満
評点2:シールド効果が20以上25未満
評点1:シールド効果が20未満
ただし、全シールドが69.5dBを基準とする。
【0067】
(耐食性評価方法)
平板を150mm(長手方向)×70mm(幅方向)サイズに切断し、板端面部と裏面部を市販の防錆テープでシーリングした後で、塩水噴霧試験SST(JIS Z2371)環境に仰角60°で放置し、所定期間試験後の腐食外観を下記の評点で評価した。評価基準は以下の通りである。百分率は部位の錆発生面積率を表す。耐食性については評点2点以上を合格とした。
評点5:SST10日後、白錆発生面積率5%以下
評点4:SST5日後、白錆発生面積率5%以下
評点3:SST3日後、白錆発生面積率5%以下
評点2:SST1日後、白錆発生面積率5%以下
評点1:SST1日後、白錆発生面積率5%より大、または皮膜溶出による変色あり
【0068】
(耐熱性評価方法)
オーブンにて200℃で2時間加熱後、平面部耐食性JIS Z 2371による塩水噴霧試験を48時間行い、白錆発生状況を観察した。耐熱性については評点2点以上を合格とした。
評点4=錆発生が全面積の3%未満
評点3=錆発生が全面積の3%以上10%未満
評点2=錆発生が全面積の10%以上30%未満
評点1=錆発生が全面積の30%以上
【0069】
(導電性評価方法)
層間抵抗測定機により、下地処理皮膜と複合皮膜との間の層間抵抗を測定した。導電性については評点2以上を合格とした。
評点4=層間抵抗が1.0Ω未満
評点3=層間抵抗が1.0Ω以上2.0Ω未満
評点2=層間抵抗が2.0Ω以上3.0Ω未満
評点1=層間抵抗が3.0Ω未満
【0070】
(塗装性評価方法)
メラミンアルキッド系塗料を焼付け乾燥後の膜厚が25μmとなるようにバーコートで塗布し、120℃で20分焼付けた後、1mm碁盤目にカットし、塗装性の評価を残個数割合(残個数/カット数:100個)にて行った。残個数は、カット後に塗装が剥離せずに残っているものの数とした。塗装性については評点2以上を合格とした。
評点4=残個数割合が100%
評点3=残個数割合が95%以上100%未満
評点2=残個数割合が90%以上95%未満
評点1=残個数割合が90%未満
【0071】
(黒カス性評価方法)
高速深絞り試験にて、絞り比2.0で加工した場合の黒カス発生度合いを、試験前後のL値増減にて評価した。黒カス性については評点2以上を合格とした。
評点4=△Lが0.5未満
評点3=△Lが0.5以上1.0未満
評点2=△Lが1.0以上2.0未満
評点1=△Lが2.0以上
【0072】
試験結果を表10〜15に示す。本発明の表10、11、13、14中の実施例1〜144により、耐指紋性、電磁波シールド性、耐食性、耐熱性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性の全ての性能を満足することがわかる。他方、表12、15に示す比較例1〜18は、耐指紋性、電磁波シールド性、耐食性、耐熱性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性のいずれかの性能が劣り、全ての性能を満足できないことがわかる。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
【表4】

【0077】
【表5】

【0078】
【表6】

【0079】
【表7】

【0080】
【表8】

【0081】
【表9】

【0082】
【表10】

【0083】
【表11】

【0084】
【表12】

【0085】
【表13】

【0086】
【表14】

【0087】
【表15】

【0088】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛めっき金属板の片面又は両面の表面に、
第一層として、皮膜量が0.01〜0.5g/mで、皮膜固形分中質量比率が重リン酸マグネシウム/シリカ=65〜85mass%/35〜15mass%である下地処理皮膜と、
前記第一層の上層である第二層として、有機ケイ素化合物(W)と、フルオロ化合物(X)と、りん酸(Y)と、バナジウム化合物(Z)とを含有する水系金属表面処理剤を塗布し乾燥することにより形成された複合皮膜と、
を有し、
前記複合皮膜の各成分において、
前記有機ケイ素化合物(W)は、分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)とを固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7の割合で配合して得られる、分子内に式−SiR(式中、R、R及びRは互いに独立に、アルコキシ基又は水酸基を表し、少なくとも1つはアルコキシ基を表す)で表される官能基(a)を2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)を1個以上含有し、質量平均分子量が1000〜10000であり、
前記フルオロ化合物(X)は、チタン弗化水素酸またはジルコニウム弗化水素酸から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、
前記有機ケイ素化合物(W)と前記フルオロ化合物(X)の固形分質量比〔(X)/(W)〕が0.02〜0.07であり、
前記有機ケイ素化合物(W)とりん酸(Y)の固形分質量比〔(Y)/(W)〕が0.03〜0.12であり、
前記有機ケイ素化合物(W)と前記バナジウム化合物(Z)の固形分質量比〔(Z)/(W)〕が0.05〜0.17であり、且つ、
前記フルオロ化合物(X)と前記バナジウム化合物(Z)の固形分質量比〔(Z)/(X)〕が1.3〜6.0であることを特徴とする、クロメートフリー表面処理金属板。
【請求項2】
前記水系金属表面処理剤は、硫酸コバルト、硝酸コバルトおよび炭酸コバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種のコバルト化合物(C)をさらに含有し、
前記有機ケイ素化合物(W)と前記コバルト化合物(C)の固形分質量比〔(C)/(W)〕が0.01〜0.1であることを特徴とする、請求項1に記載のクロメートフリー表面処理金属板。
【請求項3】
前記複合皮膜は、前記水系金属表面処理剤を塗布した後に、50℃より高く250℃未満の到達温度で乾燥を行うことにより形成され、乾燥後の皮膜量が0.15〜0.65g/mであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のクロメートフリー表面処理金属板。
【請求項4】
前記亜鉛めっき金属板は、皮膜量が1.0〜5.0g/mで、めっき中Co(コバルト)含有率が0.2〜1.0mass%であるZn(亜鉛)−Coめっき皮膜を有する亜鉛めっき鋼板であり、
前記亜鉛めっき金属板の表面に前記下地処理皮膜を被覆し、更に前記下地処理皮膜の表面に前記水系金属表面処理剤を塗布した後に、50℃より高く250℃未満の到達温度で乾燥を行うことにより前記複合皮膜が形成され、
前記複合皮膜の乾燥後の皮膜重量が0.05〜0.65g/mであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のクロメートフリー表面処理金属板。


【公開番号】特開2010−7099(P2010−7099A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164633(P2008−164633)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】