説明

クロロオレフィンを精製および安定化させるための方法

本発明は、3個の炭素を有するクロロオレフィンを精製する方法、および3個の炭素を有するクロロオレフィンの安定な組成物を提供するための方法に関する。それらのクロロオレフィンは、クロロオレフィンと酸素との反応からの分解反応生成物、たとえば、ホスゲンおよび/またはホスゲン前駆体を除去するための固体吸着剤を使用することによって精製される。クロロオレフィンは、それらのクロロオレフィンに抑制剤を添加することによって、ホスゲンレベルの増大に対して安定化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3個の炭素を有するクロロオレフィンを精製する方法、および3個の炭素を有するクロロオレフィンの安定な組成物を提供するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オゾン層の保護のためのMontreal Protocolは、クロロフルオロカーボン(CFC)使用の段階的廃止を義務づけている。オゾン層に対してより「優しい」物質、たとえばヒドロフルオロカーボン(HFC)、たとえば、134aがクロロフルオロカーボンの代替え物となった。後者の化合物は、温室効果ガスであって、地球温暖化の原因となることが証明されており、Kyoto Protocol on Climate Changeによって規制を受けることとなった。環境的に受容可能な、すなわちオゾン破壊係数(ODP)が無視可能なほど低く、かつ地球温暖化係数(GWP)が受容可能な程度に低い代替え物質が必要とされている。低GWPの、熱硬化性および熱可塑性フォームのための発泡剤、溶媒、たとえばヒートポンプにおける伝熱流体、ならびに冷媒として有用なこれらの物質としては、たとえば、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(1234yf)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(1234ze)、3,3,3−トリフルオロプロペン(1243zf)、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233zd)、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233xf)などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。それらの物質を製造するためのプロセスには、典型的には、たとえば、1234yfおよび/または1233xfを製造するための1,1,2,3−テトラクロロプロペン(1230xa)、1234zeおよび/または1233zdを製造するための1,1,3,3−テトラクロロプロペン(1230za)、ならびに1243zfを製造するための1,1,3−トリクロロプロペン(1240za)のようなクロロオレフィン出発物質を、HFを用いてフッ素化するプロセスが含まれる。
【0003】
本発明は、3個の炭素を有するクロロオレフィンを精製する方法、ならびに、精製された3個の炭素を有するクロロオレフィン、たとえば、1,1,2,3−テトラクロロプロペン、1,1,3,3−テトラクロロプロペン、1,1,3−トリクロロプロペン、およびそれらの混合物の安定な組成物を得る方法を目的としている。
【0004】
本発明の第一の態様には、3個の炭素を有するクロロオレフィンを精製して、たとえばホスゲンまたはホスゲン前駆体のような分解反応生成物を含まないクロロオレフィンを提供するための方法が含まれる。そのようなホスゲンを含まない反応生成物は、酸素含有化合物の非存在下に、非鉄系容器中に貯蔵することができ、安定化添加物を必要としない。
【0005】
第二の態様においては、本発明は、貯蔵の際、またはそれに続く使用の際に顕著に分解することがない、3個の炭素を有するクロロオレフィンの安定な組成物を提供する方法を目的としている。
【0006】
本発明のすべての態様において、本発明の方法によって得られるクロロオレフィンは、低GWP物質、たとえば、1230xaからの2,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、および1230zaからの1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造、および1240zaからの3,3,3−トリフルオロプロペンの製造のための、フッ素化プロセスにおいて使用することができる。
【0007】
国際公開WO2009/003165号パンフレットには、たとえば、フリーラジカル捕捉剤、酸捕捉剤、酸素捕捉剤、重合抑制剤、およびそれらの混合物から選択される(1種または複数の)安定剤を添加することによる、貯蔵の際、取扱の際、および使用の際の劣化に対する、ヒドロフルオロオレフィンHFOおよび/またはヒドロクロロフルオロオレフィンHCFOの安定化が開示されている。米国特許第5,169,995号明細書には、アルファ−メチルスチレンのような添加物を用いて分解を抑制したヒドロクロロフルオロカーボンHCFC141bが開示されている。米国特許第5,221,697号明細書には、貯蔵または使用の際の分解に対してヒドロクロロフルオロカーボンHCFC141bを安定化させるための、アルミナの使用が開示されている。
【0008】
国際公開WO2008/127940号パンフレットには、抗酸化剤、たとえば、p−メトキシフェノールまたはp−tert−アミルフェノールのようなフェノール系抗酸化剤を使用した、テトラクロロプロペンの安定化が記載されている。それらの抑制剤は、固体物質であるので、そのために、商業規模での取扱いを実施するのが困難となっている。さらに、それらの抑制剤では、酸またはホスゲンの生成を最小限とするには、容器としてMONEL(登録商標)合金を使用する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2009/003165号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5,169,995号明細書
【特許文献3】米国特許第5,221,697号明細書
【特許文献4】国際公開WO2008/127940号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
この本発明は、クロロプロペンおよび/またはクロロプロパンを精製または安定化させる方法に関する。その精製によって、クロロプロペン、たとえば、1,1,2,3−テトラクロロプロペン(1230xa)、1,1,3,3−テトラクロロプロペン(1230za)、1,1,1,2−テトラクロロプロペン(1230xf)、1,1,3−トリクロロプロペン(1240za)、ならびにクロロプロパン、たとえば、240dbである1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパン、240abである1,1,1,2,2−ペンタクロロプロパン、またはそれらの混合物の安定な組成物が得られる。本発明の方法は、安定な、精製クロロオレフィン組成物を与えるが、それらは、たとえば1234yf、1233xf、1234ze、1233zd、および1243zfのようなHFOおよびHCFOを製造するのに特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ホスゲン、COCl2は、2〜6個の炭素原子を有するクロロオレフィンおよび/またはクロロアルカンを鉄系容器の中で製造、加工、輸送または貯蔵する際に、一般的に発生する有害な物質である。ホスゲンが生成するプロセスは、スキーム1に示されているように、酸素がオレフィンに付加して、1,2−ジオキセタン中間体が形成され、次いで、後者の化合物が分解して、ホスゲンCOCl2およびカルボン酸塩化物のようなカルボニル含有化合物となることによって起きる:
【化1】

【0012】
1230zaまたは1240zaまたは1230xfを鉄系容器の中で貯蔵したり製造したりしたときに、同様の劣化メカニズムが起きる。ホスゲンの生成はさらに、クロロアルケンへの前駆体、たとえば1230xaにおける240dbすなわちCCl3CHClCH2Clを鉄系容器の中に保存した場合に、酸素含有ガスに暴露させたときにも起こりうる。スキーム2は、典型的な反応シーケンスを示している。
【化2】

【0013】
第一の態様においては、本発明は、3個の炭素を有するクロロオレフィンおよび/またはクロロアルカンの酸素との反応からの分解反応生成物、たとえばホスゲン、酸、たとえばHClおよび/またはカルボン酸を除去するための固体吸着剤の使用を目的としている。その固体吸着剤が、高表面積アルミナ、Al23、活性炭、またはそれらの混合物から選択されるのが好ましい。その吸着剤は、その固体吸着剤からもはや水分が脱着されないようになるまで、真空下に置くか、または真空下に、たとえば100〜200℃に加熱するような乾燥プロセスにかけるのが好ましい。そうして得られる乾燥吸着剤の表面積は、約10〜4000m2/gの間で変化させ、その多孔度は、約0.005〜0.5cm3/gの間で変化させるのが好ましい。
【0014】
本発明のこの態様によって、固体吸収剤を用いてホスゲンまたはホスゲン前駆体が除去され、非鉄系容器の中で、さらなる安定化添加物をいっさい添加する必要もなく、クロロオレフィン/クロロアルカンを貯蔵することが可能となる。
【0015】
第二の態様においては、本発明は、ホスゲンレベルの増加に対して、3個の炭素を有するクロロオレフィンおよび/またはクロロアルカンを安定化させることが可能な、抑制剤の添加を目的としている。好ましい抑制剤は、α−メチルスチレン、α−ピネンオキシド、β−ピネンオキシド、1,2−エポキシブタン、1,2−ヘキサデセンオキシド、酸素捕捉剤、たとえばDEHA(ジエチルヒドロキシルアミン)、HQ(ヒドロキノン)、MEKO(メチルエチルケトオキシム)、p−メトキシフェノールなど、およびそれらの混合物からなる群より選択される。その抑制剤のレベルは、約20ppm〜5重量%の間、好ましくは約50ppm〜2重量%の間で変化させることが可能である。
【0016】
この方法は、たとえ鉄系容器の中に貯蔵したとしても、クロロオレフィンおよび/またはクロロアルカンの酸素との分解反応からのホスゲンおよび/または酸の生成を防止する。
【0017】
この本発明はさらに、塩素化プロペンおよび/または塩素化プロパンに安定性を与えることによって、フッ素化プロセスにおいて塩素化プロペンおよび/または塩素化プロパンを使用する際にもメリットが得られる。特に、本発明は、1233xfへの触媒フッ素化において使用するための、精製し、安定化させた塩素化プロペンおよび/または塩素化プロパン、たとえば1230xaまたは240dbを与える。後者の化合物は、低GWP製品、たとえば1234yfを製造するための原料として使用することが可能である。本発明はさらに、1233zdおよび1234zeを製造するのに有用な、安定化させた、精製した塩素化プロペンおよび/または塩素化プロパン、たとえば1230zaも与える。
【実施例】
【0018】
ホスゲンおよび無水FeCl3を定量化するために使用する方法
【0019】
ヒドロクロロオレフィン1230xaを、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP)を使用して分析して、無水FeCl3の存在を定量することができる。典型的な汚染レベルは、2ppmの無水FeCl3である。ホスゲンの存在は、4−(p−ニトロベンジル)−ピリジンを使用する比色試験によって求めることができるが、これについては、A.L.Linchら、Am.Ind.Hyg.Ass.J.,26(5),465〜73、1965に記載がある。典型的な汚染レベルは、17ppmのホスペンである。測定した吸収を使用し、検量線にあてはめて、ppmレベルのホスゲンを計算することができる。本発明による抑制剤の効果は、その汚染された1230xaをUV照射に5時間かけることを含む加速老化試験を使用して、評価することができる。これは、室温で1年間かけて1230xaを老化させたのと等価であると推定される。以下の予言的な実施例で、本発明による抑制剤/安定剤を使用することで期待される結果を概説する。
【0020】
実施例1:活性アルミナを使用した、1230xaのバッチ精製
【0021】
クロロアルケン1230xa(120グラム、ホスゲン14ppmを含む)を、50グラムの、各種の市販の乾燥させた活性アルミナ、たとえば、La RocheのA201、A204、およびBASFのAL−4126E/16と混合し、室温で約1.5時間後に分析することが可能である。ホスゲンの分析は、4−(p−ニトロベンジル)−ピリジンを使用して分光光度的に実施することができる。ホスゲンレベルを約1ppm未満にまで低下させられるであろうということが示されると期待される。
【0022】
実施例2:アルミナを使用した、1230xaからのホスゲンの連続吸収
【0023】
約14ppmのホスゲンを含むクロロアルケン1230xaを、約85グラムのLaRocheの204またはBASFのAL−4126E/16の固定床に、室温で約20mL/分の速度でフィードすることができる。その接触時間は約5.3分間とすることができる。それぞれのアルミナにおいて、約4ppm未満の試験されるホスゲンレベルが期待される。
【0024】
実施例3:ホスゲンの吸収におよぼす接触時間の影響
【0025】
La Rocheの204アルミナを用いた実施例2を、約8グラムの活性アルミナを用い、約53分間の接触時間で繰り返すことができる。期待されるであろうホスゲンレベルは、約4ppmにまで低下した。約26分間の接触時間では、ホスゲンレベルは、約1ppmにまで低下すると期待される。
【0026】
実施例4:1230xaの化学的安定性の試験
【0027】
約5重量%のアルファ−メチルスチレンを含む、実施例2からのアルミナ処理した1230xaを、空気の存在下、約5時間のUV照射にかけることができるが、これは、周囲温度で約1年間のシミュレーションである。分析では、ホスゲン生成の痕跡すらしめさないということが期待される。それとは対照的に、未処理の1230xaを同様の条件下で照射したとすると、約20ppmのホスゲンが生成されると期待される。
【0028】
実施例5:抑制剤、アルファ−メチルスチレンAMS、1,2−エポキシブタンEB、アルファ−ピネンオキシドAPO、ベータ−ピネンオキシドBPO、ジエチルヒドロキシルアミンDEHAの存在下における、ホスゲン生成に対する1230xaの安定化
【0029】
エアロゾルガラスビンに(存在させるのならば)抑制剤、約17ppmのホスゲンおよび約2ppmのFeCl3を含む不純な1230xaを充填する。それらのビンに蓋をし、それらのビンに空気を約30psigになるまで入れ、そしてそれらのビンをボックスの中でリング状になるように配置する。そのリングをゆっくりと回転させて、HANOVIA高圧水銀アークを用いて約5時間照射させる。4−(p−ニトロベンジル)−ピリジン指示薬を用いた比色試験を使用して、それらのサンプルについてホスゲンの存在を分析すると、抑制剤を含まないサンプルの中ではホスゲンレベルの増大を示すことが期待される一方、それに対して抑制剤を含むサンプルでは、ホスゲンレベルの増大は示さない可能性がある。表1にそれらの期待された結果をまとめる。
【0030】
【表1】

【0031】
抑制剤を含まない、(実施例2のようにして)精製された1230xaを使用してこの試験を繰り返すと、ホスゲンが実質的に生成することを示すと期待されるが、それに対して、抑制剤を含むサンプルでは、1230xaの優れた安定性が示されると期待される。表2にそれらの期待された結果をまとめる。
【0032】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系容器の中に貯蔵している間に、3を有するクロロオレフィンおよび/またはクロロアルカンから、酸素と3個の炭素を有するクロロオレフィンおよび/またはクロロアルカンとの分解反応生成物の生成を、除去および/または抑制する方法であって、
前記クロロオレフィンおよび/またはクロロアルカンを、高表面積アルミナ、Al23、活性炭、またはそれらの混合物からなる群より選択される固体吸着剤と接触させる工程;および
場合によっては、前記クロロオレフィンおよび/またはクロロアルカンに、α−メチルスチレン、α−ピネンオキシド、β−ピネンオキシド、1,2−エポキシブタン、1,2−ヘキサデセンオキシド、酸素捕捉剤、およびそれらの混合物からなる群より選択される抑制剤を添加する工程;
を含む方法。
【請求項2】
前記分解反応生成物が、ホスゲン、ホスゲン前駆体、および酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸が、カルボン酸およびHClを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記接触より前に、前記固体吸着剤を真空下で加熱するかおよび/または真空下に置くことによって、前記固体吸着剤から水分を除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抑制剤を、前記クロロオレフィンおよび/またはクロロアルカンの約20ppm〜約5重量%の量で添加する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記クロロオレフィンおよび/またはクロロアルカンが、1,1,2,3−テトラクロロプロペン(1230xa)、1,1,3,3−テトラクロロプロペン(1230za)、1,1,1,2−テトラクロロプロペン(1230xf)、1,1,3−トリクロロプロペン(1240za)、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパン(240db)、1,1,1,2,2−ペンタクロロプロパン(240ab)、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2013−510869(P2013−510869A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538995(P2012−538995)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2010/056440
【国際公開番号】WO2011/060211
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(500307340)アーケマ・インコーポレイテッド (119)
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
【Fターム(参考)】