説明

クロロプレンゴム及びその製造方法、並びにクロロプレンゴム組成物

【課題】 高温短時間加硫において金型に堆積する汚染物を削減し、高生産性を達成し得るクロロプレンゴムを提供すること、及び乳化重合にて安定的にそのクロロプレンゴムを生産する製造方法を提供する。
【解決手段】 クロロプレンゴム中における(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が1以上のクロロプレンゴムであり、かつ、特定の配合物にして汚染物堆積を測定し、所定の式で算出した堆積汚染物被覆率が50%以下であるクロロプレンゴム、並びに、クロロプレンゴムの乳化重合において、セスキテルペンの含有量が0重量%以上1重量%以下であり、かつ、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が1以上である不均化ロジン酸の金属塩を乳化剤として使用するクロロプレンゴムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロプレンゴム及びその製造方法、並びにクロロプレンゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロロプレンゴムは、各種合成ゴムの中でも各物性のバランスが良好であるため幅広い用途に使用されており、自動車関連の部品にも多く適用されている。一般に自動車関連の部品は高生産性を狙った製造手法を採っており、射出成型による製造法を例に挙げると約200℃以上の高温での短時間加硫を繰り返すことで高生産性を達成している。
【0003】
この高温短時間加硫の繰り返しにおいて配合物からの析出物が金型に汚染物として堆積すると、加硫物の外観不良を招くため、連続生産を中断し金型を洗浄しなければならない。従って、高生産性を達成するには製造手法の改良以外に、ゴム配合物に対して汚染物が堆積しないことが要求される。
【0004】
一般に配合物中にパラフィンなどの炭化水素系樹脂、脂肪酸、脂肪酸エステルなどからなる滑剤を含有させると、その添加量と伴に金型からの離型性が向上し、汚染物の堆積を抑止できることが知られている。しかし、多量に添加するとブルーミング等の外観不良を招くだけでなく、ゴム/ゴム間またはゴム/金属間の接着力低下を引き起こす。
【0005】
これに対し、配合の改良ではなく、原料ゴムの改良による汚染物削減が求められている。なお、一般に金型に堆積する汚染物のうち、原料ゴムに由来する成分として、クロロプレンゴムの重合時に使用する乳化剤が挙げられる。
【0006】
クロロプレンゴムの主な製造方法としては、乳化重合によるバッチ重合が挙げられ、ロジン酸の金属塩をはじめとする乳化剤が使用されている(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。クロロプレンはモノマー中に2個の二重結合を有しているため、高転化率まで重合を行うと架橋しゲル状ポリマーとなり加工性を損なう。
【0007】
このため、一般的なグレードでは約70%の転化率にて重合を停止し、ゲル化を抑制している。これによりゲル化は抑制されるが、単量体あたりの仕込量よりもポリマーあたりの乳化剤量が増加するため、重合中の安定な乳化状態を維持した上での乳化剤減量には限界があり、それによる汚染物削減は不十分であった。
【0008】
【特許文献1】特公昭61−40241号
【特許文献2】特公平3−30609号
【特許文献3】特公平3−30610号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温短時間加硫において金型に堆積する汚染物を削減し、高生産性を達成し得るクロロプレンゴムを提供すること、及び乳化重合における安定的なそのクロロプレンゴムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、クロロプレンゴムに含有される乳化剤成分に着目し、クロロプレン又はクロロプレンと共重合可能なコモノマーの乳化重合において、セスキテルペンの含有量が0重量%以上1重量%以下であり、かつ、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が1以上である不均化ロジン酸の金属塩を乳化剤として使用することにより、本発明の目的とするクロロプレンゴムを安定的に製造できることを見出し本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、クロロプレンゴム中における(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が1以上のクロロプレンゴムであり、かつ、特定の配合物にして汚染物堆積を測定し、所定の式で算出した堆積汚染物被覆率が50%以下であることを特徴とするクロロプレンゴム、並びに、乳化重合において、セスキテルペンの含有量が0重量%以上1重量%以下であり、かつ、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が1以上である不均化ロジン酸の金属塩を乳化剤として使用することを特徴とするクロロプレンゴムの製造方法に関するものである。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明のクロロプレンゴムは、クロロプレンゴム中における(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が1以上である。この値が1未満であると、金型汚染性が損なわれるため、高温短時間加硫の繰り返し連続生産を行った際の金型に堆積する汚染物が多くなり、金型洗浄のため連続生産の中断を余儀なくされ、生産性が損なわれる。幅広い配合において金型汚染を少なくするには、この値は3以上であることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明のクロロプレンゴムは、本発明のクロロプレンゴム100重量部に対して、酸化マグネシウム6重量部、ステアリン酸1重量部、酸化亜鉛5重量部、エチレンチオウレア1重量部、テトラメチルチウラムジスルフィド0.5重量部及び硫黄0.5重量部の配合物を作製し、続いてフェロタイププレート板2枚の間に、直径24mm、厚さ5mmの円板状に成型したその配合物を挟み、220℃にて50秒間プレス加硫し、加硫物を除去した後、再び同じ個所に配合物を挟み加硫するという操作を50回繰り返した後の汚染物堆積を測定し、以下の式で算出した堆積汚染物被覆率が50%以下である。
【0015】
堆積汚染物被覆率=(汚染物が堆積した面積)÷(金型表面上の加硫物が接していた面積)×100
ここに、堆積汚染物被覆率が小さいほど金型汚染が少ないことを示しており、そのクロロプレンゴムを用いることで、高温短時間加硫において金型に堆積する汚染物を削減でき、高生産性を達成し得るクロロプレンゴム配合物が得られる。堆積汚染物被覆率が50%を超えると連続生産における金型汚染が多いことを示しており、生産を中断しての金型洗浄が必要となるため、生産性を損なう。50%以下であれば、高生産性を達成し得るクロロプレンゴム配合物が得られるが、30%以下であれば、さらなる高生産性を達成でき特に好ましい。
【0016】
本発明のクロロプレンゴムは、乳化重合において、セスキテルペンの含有量が0重量%以上1重量%以下であり、かつ、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が1以上である不均化ロジン酸の金属塩を乳化剤として使用することにより製造される。
【0017】
ここに、不均化ロジン酸は、天然物であるロジン酸の不均化反応により得られるものである。その構成成分としては、例えば、セスキテルペン、8,15−イソピマル酸、ジヒドロピマル酸、セコデヒドロアビエチン酸、アビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、デイソプロピルデヒドロアビエチン酸、デメチルデヒドロアビエチン酸などが挙げられるが、これらのうち、本発明で使用されるのは、セスキテルペンの含有量が0重量%以上(すなわち、セスキテルペンは含有していなくてもよい)1重量%以下であり、かつ、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が1以上である不均化ロジン酸である。不均化ロジン酸におけるセスキテルペンの含有量が1重量%を超えたり、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が1未満の場合には、金型表面上の堆積汚染物被覆率が50%を超え、金型汚染性が損なわれるため、高温短時間加硫の繰り返し連続生産を行った際の金型に堆積する汚染物が多く、金型洗浄のため連続生産の中断を余儀なくされ、生産性が損なわれる。このうち、幅広い配合において金型汚染を少なくするには、セスキテルペンの含有量が0重量%以上0.5重量%以下が好ましく、また、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が3以上であることが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法で使用される不均化ロジン酸の金属塩における金属塩種は特に限定するものではなく、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩が一般的に挙げられる。
【0019】
なお、本発明の製造方法で使用される不均化ロジン酸には、金型汚染をより少なくし、連続生産における生産性を向上させるために、セコデヒドロアビエチン酸を1重量%以上含有していることが好ましい。幅広い配合において金型汚染をより少なくするには、セコデヒドロアビエチン酸含有量は2重量%以上が特に好ましい。
【0020】
また、本発明の製造方法で使用される不均化ロジン酸には、得られるクロロプレンゴムを用いて作製したゴム組成物の加硫速度を調整でき、組成物を加硫することにより得られる加硫物の力学物性、特に破断伸びを維持するために、アビエチン酸を1重量%未満含有していることが好ましい。優れた加硫速度と破断伸びを有するために、アビエチン酸含有量は0.5重量%以下が特に好ましい。
【0021】
本発明の製造方法における不均化ロジン酸の金属塩の使用量は特に限定するものではないが、安定的に製造するには、仕込み単量体100重量部に対して0.5〜10重量部が好ましい。このうち、不均化ロジン酸の金属塩の使用量は、機械安定性の良いラテックスとし、かつ、ラテックスからのポリマー単離を容易とするために2〜4重量部が特に好ましい。
【0022】
本発明のクロロプレンゴムの製造方法では、重合開始時に単量体混合物を乳化剤を含む水溶液とともに混合し、エマルジョンを形成させ、これに重合開始剤を添加することにより重合を進行させる。
【0023】
単量体混合物とは、2−クロロ−1,3−ブタジエン及び連鎖移動剤からなる単量体混合物、又は2−クロロ−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエンと共重合可能な少なくとも1種のコモノマー及び連鎖移動剤からなる単量体混合物である。
【0024】
連鎖移動剤としては、一般のラジカル重合に用いられる化合物であれば、特に限定するものではなく、例えば、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類、キサントゲンスルフィド類、ヨウ化ベンジル、ヨードホルム等が挙げられ、単独または2種以上で使用される。連鎖移動剤の量としては、分子量調整のため一般のラジカル重合で使用される量であれば特に限定するものではないが、得られる重合体の分子量を目的通りにし、さらに、得られる重合体が架橋したポリマー構造となるのを防止し、クロロプレンゴムとしての加工成型を可能とするために、0.05〜1重量部であることが好ましく、0.1〜0.3重量部がさらに好ましい。
【0025】
2−クロロ−1,3−ブタジエンと共重合可能な少なくとも1種のコモノマーとしては、ラジカル重合可能な単量体であれば特に限定するものではなく、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニリデン等のモノビニル化合物、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和基含有カルボン酸類、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の不飽和基含有カルボン酸エステル類、イソプレン、1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン等の共役ジエン化合物等が挙げられ、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、1−クロロ−1,3−ブタジエン、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンが2−クロロ−1,3−ブタジエンとの共重合が容易であり、得られるクロロプレンゴムの改質効果が大きいために特に好ましい。2−クロロ−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエンと共重合可能な少なくとも1種のコモノマー及び連鎖移動剤からなる単量体混合物における2−クロロ−1,3−ブタジエンと2−クロロ−1,3−ブタジエンと共重合可能な少なくとも1種のコモノマーとの割合は、共重合可能な量比であれば特に限定するものではないが、クロロプレンゴムとしての特性を維持するために,重量比で25/75〜99/1が好ましく、クロロプレンゴムの特徴を強く発揮させるために、80/20〜99/1がさらに好ましい。
【0026】
乳化剤としては、本発明で使用される不均化ロジン酸の金属塩単独、又は本発明で使用される不均化ロジン酸の金属塩と他の乳化剤との併用が可能である。他の乳化剤としては、一般に乳化重合に用いられる界面活性剤であれば、特に限定するものではなく、カルボン酸塩型、スルホン酸塩型、硫酸塩型等のアニオン型乳化剤及びノニオン型乳化剤等が用いられ、具体的には、高級脂肪酸アルカリ金属塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルアリール硫酸塩、ナフタレンスルホン酸ナトリウムとホルムアルデヒドとの縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアシルエステル等が挙げられ、単独又は2種以上との併用が可能である。
【0027】
重合開始剤としては、フリーラジカル生成物質であれぱ、特に限定するものではなく、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸化物、過酸化水素、パラメンタンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の無機又は有機過酸化物等が挙げられ、これら単独または上記化合物と硫酸第一鉄、ハイドロサルファイトナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、チオ硫酸塩、チオ亜硫酸塩、有機アミン等の還元性物質を併用したレドックス系が使用される。
【0028】
本発明のクロロプレンゴムの製造方法における重合を停止する重合転化率は、クロロプレンゴムが得られる範囲内であれば、特に限定するものではないが、生産性を維持しつつ、得られるクロロプレンゴムの流動性を保持して加工性を維持するため、60〜85%が好ましく、62〜75%が特に好ましい。ここで、重合を停止する際に添加する重合停止剤としては、ラジカルを捕捉する化合物であれば特に限定するものではなく、例えば、フェノチアジン、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ハイドロキノン、4−メトキシハイドロキノン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン等のラジカル禁止剤等が挙げられ、単独又は2種以上が使用される。
【0029】
本発明のクロロプレンゴムの製造方法における重合温度は、安定な乳化重合が可能な範囲であれば特に限定するものではなく、0〜60℃の範囲で行うことができ、好ましくは5〜50℃の範囲である。
【0030】
本発明により得られるクロロプレンゴムは高温短時間加硫において金型へ堆積する汚染物を削減した以外は、通常のクロロプレンゴムと同等の品質を有している。従って、通常知られているクロロプレンゴムと同様に、ロール、ニーダー又はバンバリー等の混練機によって加硫剤、加硫促進剤、補強剤、充填剤、可塑剤、老化防止剤等と混合し、クロロプレンゴム組成物を作製することができる。さらに、目的に応じた形状に成型後、加硫することにより、通常の重合方法により得られるクロロプレンゴムと同等の性能を持つ加硫物を得ることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明のクロロプレンゴム及び本発明の製造方法により得られるクロロプレンゴムを用いたゴム組成物は高温短時間加硫において金型に堆積する汚染物が少ないため、連続生産が可能であり高生産性を達成できる。さらに本発明の製造方法は通常のクロロプレンゴムと同様の乳化重合にて安定的に実施することが可能である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0033】
実施例中の原料ゴム特性であるクロロプレンゴムのムーニー粘度は、JIS K6388(1995年度版)に従い測定、評価した。
【0034】
また、クロロプレンゴム中における(8,15−イソピマル酸含有量)÷(ジヒドロピマル酸含有量)の値は、クロロプレンゴム15gを2mm角に裁断し、ソックスレー抽出器にてアセトンでロジン酸成分を抽出し、濃縮乾固後、エタノール中でジアゾメタンによりメチルエステル化させ、ガスクロマトグラフにて、カラムDB−5(0.25mm、30m、J&Wサイエンティフィック社製)、温度150℃から300℃へ5℃/分で昇温の条件にて測定し、評価した。
【0035】
さらに、配合物特性として加硫速度の指標となるスコーチタイムt5および金型汚染性を評価した。
【0036】
スコーチタイムt5は、JIS K6300(1994年度版)に従い測定した。
【0037】
金型汚染性は、本発明のクロロプレンゴム100重量部に対して、酸化マグネシウム6重量部、ステアリン酸1重量部、酸化亜鉛5重量部、エチレンチオウレア1重量部、テトラメチルチウラムジスルフィド0.5重量部及び硫黄0.5重量部の配合物を作製し、続いてキング社製フェロタイププレートステンレスハードクロム0.4mm板を2枚用い、それらプレートにて直径24mm、厚さ5mmの円板状に成型したその配合物を挟み、220℃にて50秒間プレス加硫し、加硫物を除去した後、再び同じ個所に配合物を挟み加硫するという操作を50回繰り返した後の汚染物堆積を測定し、以下の式により堆積汚染物被覆率として算出した。
【0038】
堆積汚染物被覆率=(汚染物が堆積した面積)÷(金型表面上の加硫物が接していた面積)×100
加硫物特性として、硬さは、JIS K6253(1997年度版)に従い、測定し、破断伸び、破断強度、100%応力は、JIS K6251(1993年度版)に従いダンベル状3号型の試験片を用い、引張り速度500mm/分にて測定し、評価した。
【0039】
なお、以下の記述で重量部とは重合時に仕込む全単量体を100重量部とする重量比を表す。
【0040】
実施例1
表1に示す重合処方に従い、2−クロロ−1,3−ブタジエン100重量部、n−ドデシルメルカプタン0.167重量部を10Lの攪拌機付きオートクレーブに仕込み、セスキテルペンを含有せず、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が5.7、セコデヒドロアビエチン酸3.1重量%およびアビエチン酸0.1重量%を含有するロジン酸のカリウム塩である不均化ロジン酸カリウム3重量部、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルムアルデヒド縮合物0.7重量部、水酸化ナトリウム0.25重量部、蒸留水90重量部からなる乳化剤水溶液をそれに添加し、充分に窒素置換した後、撹拌により乳化させた。3wt%ハイドロサルファイトナトリウム水溶液を添加し、重合器内が40℃一定となるようにジャケット温度を制御しながら、0.2wt%過硫酸カリウム水溶液の連続滴下により重合を開始した。
【0041】
全単量体に対する転化率が65%となった時点で、フェノチアジン0.02重量部をトルエンに溶解しドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液にて乳化したもの及びN,N−ジエチルヒドロキシルアミン0.05重量部の混合物を停止剤として添加し重合を終了させた。
【0042】
減圧スチームストリッピング法により残存する未反応単量体を除去し、得られたラテックスの凍結凝固によりポリマーを析出させ、水洗、熱風乾燥することによりクロロプレンゴムを得た。
【0043】
得られたクロロプレンゴムの原料ゴムムーニー粘度及びクロロプレンゴム中の(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値をそれぞれ評価し、表1に示す。
【0044】
得られたクロロプレンゴムを表2に示す配合に従い8インチオープンロールにて混練を行い、配合物を作製した。
【0045】
その配合物の125℃におけるスコーチタイムを表1に示す。またフェロタイププレート板上で配合物の加硫を50回繰り返した後の金型汚染性を金型表面上の堆積汚染物被覆率として表1に示す。
【0046】
さらに配合物を160℃にて25分間プレス加硫することにより加硫ゴムシートを得て、加硫物の常態物性を測定した。加硫物特性の値を表1に示す。
【0047】
得られたクロロプレンゴムは金型汚染が少なく、またスコーチタイム及び加硫物特性は通常のクロロプレンゴムとして何ら問題の無いものであった。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

実施例2
表1に示す重合処方に従い、単量体混合物を2−クロロ−1,3−ブタジエン93重量部、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン7重量部、n−ドデシルメルカプタン0.187重量部に変更し、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が4.8、セスキテルペン0.1重量%及びセコデヒドロアビエチン酸2.8重量%を含有し、アビエチン酸を含有しないロジン酸のカリウム塩である不均化ロジン酸カリウムを2.5重量部用いた以外は実施例1と同様の方法にて重合を行い、クロロプレンゴムを得た。
【0050】
得られたクロロプレンゴムの原料ゴムムーニー粘度及びクロロプレンゴム中の(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値をそれぞれ評価し、表1に示す。
【0051】
得られたクロロプレンゴムを実施例1と同様の方法にて評価した。スコーチタイム、堆積汚染物被覆率、加硫物特性を表1に示す。
【0052】
得られたクロロプレンゴムは金型汚染が少なく、またスコーチタイム及び加硫物特性は通常のクロロプレンゴムとして何ら問題の無いものであった。
【0053】
実施例3
表1に示す重合処方に従い、単量体混合物を2−クロロ−1,3−ブタジエン90重量部、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン10重量部、n−ドデシルメルカプタン0.190重量部に変更し、セスキテルペンを含有せず、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が4.6、セコデヒドロアビエチン酸3.2重量%及びアビエチン酸0.5重量%を含有するロジン酸のナトリウム塩である不均化ロジン酸ナトリウムを2.7重量部用い、重合温度を30℃に変更した以外は実施例1と同様の方法にて重合を行い、クロロプレンゴムを得た。
【0054】
得られたクロロプレンゴムの原料ゴムムーニー粘度及びクロロプレンゴム中の(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値をそれぞれ評価し、表1に示す。
【0055】
得られたクロロプレンゴムを実施例1と同様の方法にて評価した。スコーチタイム、堆積汚染物被覆率、加硫物特性を表1に示す。
【0056】
得られたクロロプレンゴムは金型汚染が少なく、またスコーチタイム及び加硫物特性は通常のクロロプレンゴムとして何ら問題の無いものであった。
【0057】
実施例4
表1に示す重合処方に従い、単量体混合物を2−クロロ−1,3−ブタジエン100重量部、n−ドデシルメルカプタン0.202重量部に変更し、セスキテルペン及びアビエチン酸を含有せず、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が5.4、セコデヒドロアビエチン酸2.9重量%を含有するロジン酸のナトリウム塩である不均化ロジン酸ナトリウムを3.4重量部用い、重合停止転化率を70%に変更した以外は実施例1と同様の方法にて重合を行い、クロロプレンゴムを得た。
【0058】
得られたクロロプレンゴムの原料ゴムムーニー粘度及びクロロプレンゴム中の(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値をそれぞれ評価し、表1に示す。
【0059】
得られたクロロプレンゴムを実施例1と同様の方法にて評価した。スコーチタイム、堆積汚染物被覆率、加硫物特性を表1に示す。
【0060】
得られたクロロプレンゴムは金型汚染が少なく、またスコーチタイム及び加硫物特性は通常のクロロプレンゴムとして何ら問題の無いものであった。
【0061】
実施例5
表1に示す重合処方に従い、単量体混合物を2−クロロ−1,3−ブタジエン95重量部、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン5重量部、n−ドデシルメルカプタン0.189重量部に変更し、実施例1と同じ組成の不均化ロジン酸カリウムを2.9重量部用い、重合停止転化率を62%、重合温度を50℃に変更した以外は実施例1と同様の方法にて重合を行い、クロロプレンゴムを得た。
【0062】
得られたクロロプレンゴムの原料ゴムムーニー粘度及びクロロプレンゴム中の(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値をそれぞれ評価し、表1に示す。
【0063】
得られたクロロプレンゴムを実施例1と同様の方法にて評価した。スコーチタイム、堆積汚染物被覆率、加硫物特性を表1に示す。
【0064】
得られたクロロプレンゴムは金型汚染が少なく、またスコーチタイムおよび加硫物特性は通常のクロロプレンゴムとして何ら問題の無いものであった。
【0065】
実施例6
表1に示す重合処方に従い、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が4.8、セスキテルペン0.2重量%、セコデヒドロアビエチン酸0.3重量%及びアビエチン酸0.1重量%を含有するロジン酸のカリウム塩である不均化ロジン酸カリウムを3重量部用いた以外は実施例1と同様の方法にて重合を行い、クロロプレンゴムを得た。
【0066】
得られたクロロプレンゴムの原料ゴムムーニー粘度およびクロロプレンゴム中の(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値をそれぞれ評価し、表1に示す。
【0067】
得られたクロロプレンゴムを実施例1と同様の方法にて評価した。スコーチタイム、堆積汚染物被覆率、加硫物特性を表1に示す。
【0068】
得られたクロロプレンゴムは金型汚染が実施例1よりやや多いものの、後述する比較例より少ないものであり、十分使用可能な範疇であった。またスコーチタイム及び加硫物特性は通常のクロロプレンゴムとして何ら問題の無いものであった。
【0069】
実施例7
表1に示す重合処方に従い、単量体混合物を2−クロロ−1,3−ブタジエン98重量部、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン2重量部、n−ドデシルメルカプタン0.173重量部に変更し、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が4.5、セスキテルペン0.1重量%、セコデヒドロアビエチン酸3.1重量%及びアビエチン酸8.2重量%を含有するロジン酸のカリウム塩である不均化ロジン酸カリウムを3.4重量部用いた以外は実施例1と同様の方法にて重合を行い、クロロプレンゴムを得た。
【0070】
得られたクロロプレンゴムの原料ゴムムーニー粘度及びクロロプレンゴム中の(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値をそれぞれ評価し、表1に示す。
【0071】
得られたクロロプレンゴムを実施例1と同様の方法にて評価した。スコーチタイム、堆積汚染物被覆率、加硫物特性を表1に示す。
【0072】
得られたクロロプレンゴムは金型汚染が少なかった。また通常のクロロプレンゴムに対してはスコーチタイムがやや短く、加硫物特性のうち破断伸びがやや劣っていたが十分使用可能な範疇であった。
【0073】
実施例8
表1に示す重合処方に従い、単量体混合物を2−クロロ−1,3−ブタジエン100重量部、n−ドデシルメルカプタン0.202重量部に変更し、セスキテルペンを含有せず、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が5.2、セコデヒドロアビエチン酸0.2重量%及びアビエチン酸3.1重量%を含有するロジン酸のカリウム塩である不均化ロジン酸カリウムを3.4重量部用い、重合停止転化率を70%に変更した以外は実施例1と同様の方法にて重合を行い、クロロプレンゴムを得た。
【0074】
得られたクロロプレンゴムの原料ゴムムーニー粘度及びクロロプレンゴム中の(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値をそれぞれ評価し、表1に示す。
【0075】
得られたクロロプレンゴムを実施例1と同様の方法にて評価した。スコーチタイム、堆積汚染物被覆率、加硫物特性を表1に示す。
【0076】
得られたクロロプレンゴムは金型汚染が実施例1よりやや多いものの、後述する比較例より少ないものであり、十分使用可能な範疇であった。また通常のクロロプレンゴムに対してはスコーチタイムがやや短く、加硫物特性のうち破断伸びがやや劣っていたが十分使用可能な範疇であった。
【0077】
比較例1
表3に示す重合処方に従い、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が0.5、セスキテルペン2.5重量%、セコデヒドロアビエチン酸0.2重量%およびアビエチン酸0.1重量%を含有するロジン酸のカリウム塩である不均化ロジン酸カリウムを3重量部用いた以外は実施例1と同様の方法にて重合を行い、クロロプレンゴムを得た。
【0078】
得られたクロロプレンゴムの原料ゴムムーニー粘度及びクロロプレンゴム中の(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値をそれぞれ評価し、表3に示す。
【0079】
得られたクロロプレンゴムを実施例1と同様の方法にて評価した。スコーチタイム、堆積汚染物被覆率、加硫物特性を表3に示す。
【0080】
得られたクロロプレンゴムは金型汚染が多かった。またスコーチタイム及び加硫物特性は通常のクロロプレンゴムとして何ら問題の無いものであった。
【0081】
【表3】

比較例2
表3に示す重合処方に従い、単量体混合物を2−クロロ−1,3−ブタジエン93重量部、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン7重量部、n−ドデシルメルカプタン0.187重量部に変更し、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が0.5、セスキテルペン2.2重量%及びセコデヒドロアビエチン酸0.3重量%を含有し、アビエチン酸を含有しないロジン酸のカリウム塩である不均化ロジン酸カリウムを3.2重量部用いた以外は実施例1と同様の方法にて重合を行い、クロロプレンゴムを得た。
【0082】
得られたクロロプレンゴムの原料ゴムムーニー粘度及びクロロプレンゴム中の(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値をそれぞれ評価し、表3に示す。
【0083】
得られたクロロプレンゴムを実施例1と同様の方法にて評価した。スコーチタイム、堆積汚染物被覆率、加硫物特性を表3に示す。
【0084】
得られたクロロプレンゴムは金型汚染が多かった。またスコーチタイムおよび加硫物特性は通常のクロロプレンゴムとして何ら問題の無いものであった。
【0085】
比較例3
表3に示す重合処方に従い、単量体混合物を2−クロロ−1,3−ブタジエン90重量部、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン10重量部、n−ドデシルメルカプタン0.190重量部に変更し、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が0.4、セスキテルペン2.6重量%、セコデヒドロアビエチン酸0.3重量%及びアビエチン酸0.1重量%を含有するロジン酸のナトリウム塩である不均化ロジン酸ナトリウムを2.7重量部用い、重合温度を30℃に変更した以外は実施例1と同様の方法にて重合を行い、クロロプレンゴムを得た。
【0086】
得られたクロロプレンゴムの原料ゴムムーニー粘度およびクロロプレンゴム中の(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値をそれぞれ評価し、表3に示す。
【0087】
得られたクロロプレンゴムを実施例1と同様の方法にて評価した。スコーチタイム、堆積汚染物被覆率、加硫物特性を表3に示す。
【0088】
得られたクロロプレンゴムは金型汚染が多かった。またスコーチタイムおよび加硫物特性は通常のクロロプレンゴムとして何ら問題の無いものであった。
【0089】
比較例4
表3に示す重合処方に従い、単量体混合物を2−クロロ−1,3−ブタジエン95重量部、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン5重量部、n−ドデシルメルカプタン0.189重量部に変更し、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が0.5、セスキテルペン2.6重量%、セコデヒドロアビエチン酸0.2重量%及びアビエチン酸0.1重量%を含有するロジン酸のカリウム塩である不均化ロジン酸カリウムを2.9重量部用い、重合停止転化率を62%、重合温度を50℃に変更した以外は実施例1と同様の方法にて重合を行い、クロロプレンゴムを得た。
【0090】
得られたクロロプレンゴムの原料ゴムムーニー粘度およびクロロプレンゴム中の(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値をそれぞれ評価し、表3に示す。
【0091】
得られたクロロプレンゴムを実施例1と同様の方法にて評価した。スコーチタイム、堆積汚染物被覆率、加硫物特性を表3に示す。
【0092】
得られたクロロプレンゴムは金型汚染が多かった。またスコーチタイムおよび加硫物特性は通常のクロロプレンゴムとして何ら問題の無いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレンゴム中における(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が1以上のクロロプレンゴムであり、かつ、該クロロプレンゴム100重量部に対して、酸化マグネシウム6重量部、ステアリン酸1重量部、酸化亜鉛5重量部、エチレンチオウレア1重量部、テトラメチルチウラムジスルフィド0.5重量部及び硫黄0.5重量部の配合物を作製し、続いてフェロタイププレート板2枚の間に、直径24mm、厚さ5mmの円板状に成型したその配合物を挟み、220℃にて50秒間プレス加硫し、加硫物を除去した後、再び同じ個所に配合物を挟み加硫するという操作を50回繰り返した後の汚染物堆積を測定し、以下の式で算出した堆積汚染物被覆率が50%以下であることを特徴とするクロロプレンゴム。
堆積汚染物被覆率=(汚染物が堆積した面積)÷(金型表面上の加硫物が接していた面積)×100
【請求項2】
クロロプレンゴムの乳化重合において、セスキテルペンの含有量が0重量%以上1重量%以下であり、かつ、(8,15−イソピマル酸の含有量)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が1以上である不均化ロジン酸の金属塩を乳化剤として使用することを特徴とする請求項1記載のクロロプレンゴムの製造方法。
【請求項3】
セコデヒドロアビエチン酸を1重量%以上含有する不均化ロジン酸の金属塩を乳化剤として使用することを特徴とする請求項2記載のクロロプレンゴムの製造方法。
【請求項4】
アビエチン酸を1重量%未満含有する不均化ロジン酸の金属塩を乳化剤として使用することを特徴とする請求項2記載のクロロプレンゴムの製造方法。
【請求項5】
請求項1記載のクロロプレンゴムを含有することを特徴とするクロロプレンゴム組成物。