説明

グラビア印刷版及び印刷装置

【課題】スジ・カスレの発生を抑制することができるグラビア印刷版及び印刷装置を提供する。
【解決手段】本技術の一形態に係るグラビア印刷版は、版胴と、セル境界部とを具備する。上記版胴は、塗料を受容することが可能な表面を有する。上記セル境界部は、上記表面に所定の幅で形成された複数本の直線部で構成される。上記セル境界部は、上記表面に多角形の開口を有する複数のセルを形成する。上記所定の幅は、上記所定の幅をゼロとしたときの上記開口の面積を基準面積としたとき、上記開口を上記基準面積に対して70%以上80%以下の面積比率で形成し、かつ上記セルの深度に対して0.50以上1.00以下の相対比率を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、連続走行する支持体上に塗工膜を形成するグラビア印刷版及びこれを備えた印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷法においては、グラビア版胴が回転駆動され、版胴表面に形成されたセル中に充填された印刷塗料を支持体に転写することにより、所定の領域に塗膜が形成された印刷物を得る。このとき、支持体上に転写された印刷塗料は、ごく短い間に支持体上で平坦化、すなわちレベリングされ、支持体上の所定の領域に塗膜として形成される。印刷塗料を保持するセルは、版胴の回転軸方向および回転軸と垂直な方向にマトリクス状に形成されている。隣接するセルとの境界部分には凸状の土手が形成されており、支持体上に塗料ドットのパターンを形成する。
【0003】
印刷塗料が支持体に転写される際、各塗料ドットが気泡を内包している場合、隣接する塗料ドットが相互に連結することで形成される塗膜中において、各塗料ドットが内包している気泡同士の連結が進行することがある。この結果、形成された塗膜中において気泡が消滅することなく、より大きな気泡として成長すると、その成長した気泡が起点となってスジが形成されてしまうことがある。
【0004】
一方、各塗料ドットを充填していたセルとの境界部分に形成されている凸状の土手の幅が広いと、印刷塗料が支持体に転写された後に、隣接する塗料ドット同士が相互に連結しにくい状態となり、その結果、カスレが発生してしまうことがある。
【0005】
このようなスジ・カスレといった欠陥を防止するために、版胴の表面に形成されるセルの形状や配列の構成に関する様々な提案がなされている。
【0006】
例えば下記特許文献1には、菱形のセルの4辺が、ドクターブレードと60°以上の角度をなすとともに、菱形の4辺のうち鋭角を形成する2辺が互いに対して30°以上の角度をなすグラビア印刷版が記載されている。下記特許文献2には、グラビア印刷版の版面に絵柄を印刷するための画線部と、インキ転移が発生しない径のセルが形成された非画線部とを有するグラビア版が記載されている。さらに特許文献3には、セルの連なり方向が変化するように、かつ注目セルとその近傍セルとを総合したときの印刷濃度が変化しないように、上記注目セルとその近傍セルの寸法を規定値から変更するグラビア版の彫刻方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−187565号公報
【特許文献2】特開2005−153201号公報
【特許文献3】特開2002−67266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、スジ・カスレの発生を抑制することができるグラビア印刷版及び印刷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係るグラビア印刷版は、版胴と、セル境界部とを具備する。
上記版胴は、塗料を受容することが可能な表面を有する。
上記セル境界部は、上記表面に所定の幅で形成された複数本の直線部で構成される。上記セル境界部は、上記表面に多角形の開口を有する複数のセルを形成する。上記所定の幅は、上記所定の幅をゼロとしたときの上記開口の面積を基準面積としたとき、上記開口を上記基準面積に対して70%以上80%以下の面積比率で形成し、かつ上記セルの深度に対して0.50以上1.00以下の相対比率を有する。
【0010】
上記グラビア印刷版によれば、スジ・カスレの発生が抑制された塗膜を安定に形成することができる。
【0011】
本技術の一形態に係る印刷装置は、塗料槽と、グラビア印刷版と、圧胴と、搬送機構とを具備する。
上記グラビア印刷版は、版胴と、セル境界部とを有する。上記版胴は、上記塗料槽の内部に配置され、上記塗料槽に収容された塗料を受容することが可能な表面を有する。上記セル境界部は、上記表面に所定の幅で形成された複数本の直線部で構成される。上記セル境界部は、上記表面に多角形の開口を有する複数のセルを形成する。上記所定の幅は、上記所定の幅をゼロとしたときの上記開口の面積を基準面積としたとき、上記開口を上記基準面積に対して70%以上80%以下の面積比率で形成し、かつ上記セルの深度に対して0.50以上1.00以下の相対比率を有する。
上記圧胴は、上記表面に対向して配置される。
上記搬送機構は、上記表面と上記圧胴との間に支持体を供給する。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本技術によれば、スジ・カスレの発生が抑制された塗膜を安定に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本技術の一実施形態に係るグラビア印刷版の一例を示す概略図である。
【図2】上記グラビア印刷版の版胴表面に形成されたセルパターンの説明図である。
【図3】図2における[A]−[A]線方向断面図である。
【図4】グラビア印刷版から支持体に転写された印刷塗料が塗膜を形成する様子を示す概略図である。
【図5】本技術の一実施形態に係る印刷装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本技術に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0015】
<第1の実施形態>
[グラビア印刷版]
図1は、本技術の一実施形態に係るグラビア印刷版の一例を示す概略図である。本実施形態のグラビア印刷版1は、円筒形状の版胴10を有する。図1においてX軸及びZ軸は版胴10の径方向をそれぞれ示し、Y軸は版胴10の軸方向を示す。
【0016】
版胴10は、塗料を受容することが可能な表面10aと、回転軸10bとを有し、回転軸10bを中心に回転することで図示しない支持体に塗料を転写するように構成される。版胴10の大きさは特に限定されず、例えば、直径200〜300mm、高さ1000mmを有する。版胴10は、例えば、レーザグラビア版胴で構成される。
【0017】
グラビア印刷版1は、セル境界部20を有する。セル境界部20は、版胴10の表面10aに所定の幅で形成された複数本の直線的な土手21,22(直線部)を含む。土手21,22は、表面10aから版胴10の外方側へ突出する凸状の壁部を形成する。
【0018】
土手21の各々は、回転軸10bの軸方向(Y軸方向)及びこれに直交する方向に対してそれぞれ交差する第1の方向に延在し、それぞれ所定の間隔をおいて表面10a上に配列されている。土手22の各々は、回転軸10bの軸方向(Y軸方向)及びこれに直交する方向に対してそれぞれ交差する第2の方向に延在し、それぞれ所定の間隔をおいて表面10a上に配列されている。上記第1及び第2の方向は、版胴10の円周方向に関して対称な関係にあり、各土手21,22はこれらの交差位置で相互に連接している。
【0019】
各土手21,22は、版胴10の表面10aに多角形の開口を有する複数のセルCを形成する万線パターンに対応する。図1は、版胴10に対して、当該万線パターンを拡大し、かつ平面的に示している。土手21,22の線数はセルCの大きさに応じて適宜設定される。土手21,22の線数は特に限定されず、1インチあたり、例えば100〜300線数(LPI)とされる。
【0020】
版胴10の表面10aに形成された複数のセルCはそれぞれ同一の多角柱形状を有しており、表面10aに規則的に配列される。本実施形態において各セルCは、土手21,22が交差することで形成された菱形形状の凹部で構成される。各セルCは、印刷される画像に応じた深度を有しており、それぞれ画像に応じた量の塗料が充填される。ここではセルCの開口形状を菱形としたが、これに限られず、正方形や長方形等の他の四角形、あるいは三角形や六角形といった他の多角形状であってもよい。
【0021】
本実施形態のセル境界部20において、土手21,22の幅は、当該幅をゼロとしたときの開口の面積を基準面積としたとき、セルCの開口を上記基準面積に対して70%以上80%以下の面積比率で形成し、かつセルCの深度に対して0.50以上1.00以下の相対比率を有する。以下、図2及び図3を参照してセル境界部20の詳細について説明する。
【0022】
図2は、グラビア印刷版1の版胴10の表面10aに形成されたセルパターンを示す。上記セルパターンは、隣接するセルC同士を区切っている凸状の土手21,22がある一定の幅を有することにより形成される。ここで図2に示すように、土手21,22の幅をゼロとしたときの仮想的な開口面積(破線CPで囲まれた領域の面積)を基準面積としたとき、土手21,22の幅は、実際のセルCの開口面積(実線CAで囲まれた領域の面積)が上記基準面積に対して70%以上80%以下の面積比率となるように形成される。
【0023】
各セルCの開口の面積比率が上記基準面積の80%を超えると、隣接するセル同士を仕切るセル境界部がより濡れやすくなる。このため、セル中に充填された印刷塗料Pが支持体に転写された後に、各塗料ドットが内包している気泡同士の連結が進行しやすくなる。その結果、形成された塗膜中に大きな気泡が成長し、成長した気泡が起点となってスジが形成されやすくなる。
【0024】
一方、セルCの開口の面積比率が上記基準面積の70%を下回ると、隣接するセル同士を仕切るセル境界部の濡れが悪くなる。このため、セル中に充填された印刷塗料Pが支持体に転写された後に、隣接する塗料ドット同士が相互に連結しにくい状態となる結果、カスレが発生しやくなる。
【0025】
図3は、図2における[A]−[A]線方向断面図である。図3に示すように、隣接するセルC同士は、ある一定の幅aを有する土手21によって仕切られている。本実施形態のグラビア印刷版1において、セルC同士を仕切っている土手21の幅aは、セル深さb(土手21の高さ)に対して、0.50以上1.00以下の相対比率(a/b)を有する。土手22は土手21と同等の幅aで形成されており、このため土手22の幅もセルCの深さに対して上記範囲の相対比率を有する。
【0026】
セルC中に充填された印刷塗料Pが支持体に転写された直後、印刷塗料Pは支持体上でドット形状をなす。その状態から、隣接する塗料ドットがごく短い間に相互に連結し、塗膜を形成する。印刷塗料Pが支持体に転写された直後から塗膜を形成するまでの間に、各塗料ドットはある速度をもって支持体上を拡散していく。
【0027】
その際、隣接するセル同士を仕切る土手21,22の幅の相対比率がセルCの深度に対して0.50を下回ると、隣接する各塗料ドットはより連結しやすくなる。その結果、塗膜中でも気泡が消滅することなく、より大きな気泡として成長し、その成長した気泡が起点となってスジが形成されてしまう。一方、隣接するセル同士を仕切る土手21,22の幅の相対比率がセルCの深度に対して1.00を超えると、隣接する塗料ドット同士が連結しにくい状態となり、その結果、カスレが発生しやすくなる。
【0028】
図4は、グラビア印刷版1から支持体Sに転写された印刷塗料Pの塗料ドットP1が、レベリングされ塗膜P2を形成する様子を示す概略図である。図4(A)に示すように、版胴10の表面10aの各セルCから支持体Sの表面へ印刷塗料Pが転写された直後は、支持体S上に印刷塗料Pの塗料ドットP1が形成される。各塗料ドットP1は周囲が開放されているため形状の崩れが生じ、図4(B)に示すように、レベリングが開始される。そして図4(C)に示すように、隣接する塗料ドットP1が連結し、全体的に平坦化された一様な厚みの塗膜P2が形成される。
【0029】
本実施形態では、セルCを仕切るセル境界部20が上述のように構成されているため、塗膜P2にスジやカスレが生じることが抑制される。これにより、支持体Sに所望の厚みを有する塗膜を安定に形成でき、高品質な印刷物を得ることができる。また、塗膜の厚みの均一性を確保できるため、ベタ印刷にも適している。
【0030】
本実施形態のグラビア印刷版1は、例えば、熱転写プリンタ用のインクリボンの印刷装置に用いられる。グラビア印刷は、印刷塗料の選択幅が広いため、熱転写プリンタ用インクリボンの印刷材料のような、使用時に必要な特性を持たせた特殊な性質を有する塗料を使用することができる。また、印刷される支持体の構成材料の選択幅も広いため、紙、プラスチックフィルムなどに印刷に用いることができる。
【0031】
<第2の実施形態>
[印刷装置]
図5は、本技術の一実施形態に係る印刷装置の概略構成図である。本実施形態の印刷装置100は、上記構成のグラビア印刷版1を備えたグラビア塗布装置として構成される。
【0032】
印刷装置100は、グラビア印刷版1と、塗料槽2と、圧胴3と、ドクターブレード4と、搬送機構とを有する。上記搬送機構は、グラビア印刷版1と圧胴3との間に支持体Sを連続的に供給する巻出しローラ5と、支持体Sを巻き取る巻取りローラ6とを有する。印刷装置100はさらに、グラビア印刷版1、巻出しローラ5及び巻取りローラ6を回転させる図示しない駆動源を有する。
【0033】
塗料槽2は、印刷塗料Pを収容する。グラビア印刷版1は、塗料槽2内の印刷塗料Pに浸漬される。グラビア印刷版1は、回転軸10bを中心として回転することで、版胴10の表面10aに形成された複数のセルCに印刷塗料Pを受容する。ドクターブレード4は、版胴10の表面10aに接触し、表面10aに付着した余分な印刷塗料Pを掻き取る。圧胴3は、支持体Sを挟んでグラビア印刷版1と対向配置され、支持体Sを版胴10の表面10aに押し付ける。圧胴3は、版胴10の回転に伴って回転する。
【0034】
印刷装置100は、グラビア印刷版1を矢印方向に回転させることで、各セルCの内部に印刷塗料Pを充填するとともに、余剰の印刷塗料をドクターブレード4により掻き取る。印刷装置100はさらに、版胴10と圧胴3との間に連続して供給されている支持体S上に、圧胴3との圧接により版胴10の各セルCに充填された印刷塗料Pを転写する。これにより支持体Sの表面に、図4に示したメカニズムで塗膜P2が形成される。
【0035】
本実施形態によれば、グラビア印刷版1のセルCを仕切るセル境界部20が上述のように構成されているため、塗膜P2にスジやカスレが生じることが抑制される。これにより、支持体Sに所望の厚みを有する塗膜P2を安定に形成でき、高品質な印刷物を得ることができる。
【0036】
また、塗膜の厚みの均一性を確保できるため、ベタ印刷にも適している。この場合、版胴10の表面10aの全域に複数のセルCが配列されてもよい。これにより支持体S上にベタ膜を連続的に形成することができる。
【0037】
さらに本実施形態においては、セル境界部20を構成する土手21,22の各々が、版胴10の回転軸10bに平行な方向とこれに垂直な方向とにそれぞれ交差するように形成されている。これにより、セルCによって受容された印刷塗料Pがドクターブレード4によって掻き取られにくくなり、塗膜P2を所望の厚みで形成することが可能となる。
【0038】
塗布速度すなわち支持体Sの搬送速度は特に限定されず、例えば、100〜300[m/min]の範囲で設定される。印刷塗料Pの粘度も特に限定されず、例えば、5〜200[mPa・s]の範囲に調整される。
【0039】
支持体Sは、例えば透明なプラスチックフィルムで構成される。プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどの汎用プラスチックフィルム、あるいは、ポリイミドフィルムのようなエンジニアリングプラスチックフィルムにより構成される。このような材料は、熱転写時に付加される熱に対して十分な耐性を有する。
【0040】
印刷塗料Pは、支持体S上に形成される印刷層の種類に応じて適宜設定され、例えば、インクリボンのインク層を構成するインク材料が用いられる。インク層としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酪酸酢酸セルロース、酢酸セルロースなどのセルロース系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセトアセタール、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレンなどのビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等の各種樹脂をバインダー樹脂として使用することができる。
【0041】
インク層は、上記バインダー樹脂中に、色素染料が分散または溶解した状態で存在している。色素染料は、通常、複数種類混合して使用されることが多く、熱移行性を有し、インク層中より色素染料が分子単位で熱拡散する。色素染料は、熱転写方式にて使用される色素染料であれば特に限定されない。イエロー染料としては、例えば、アゾ系、ジスアゾ系、メチン系、スチリル系、ピリドン・アゾ系、およびそれらの混合系染料を挙げることができる。マゼンタ系染料としては、例えば、アゾ系、アントラキノン系、スチリル系、複素環アゾ染料、およびそれらの混合系染料を挙げることができる。シアン系染料としては、例えば、アントラキノン系、ナフトキノン系、複素環アゾ染料、インドアニリン系、およびそれらの混合系染料を挙げることができる。
【0042】
印刷塗料Pとして要求される特性としては、上記以外にも、サーマルヘッドの熱エネルギ範囲において容易に昇華/熱拡散すること、サーマルヘッドの熱エネルギ範囲において熱分解しないこと、合成が容易であること、画像保存性に優れること(熱、光、温度、薬品に対して安定であること)、好ましい吸収波長帯を有すること、インク層中にて再結晶化しにくいこと等が挙げられる。
【0043】
印刷塗料Pは、インク層以外にも、形成された印刷画像を保護するための保護層を構成する材料が用いられてもよい。また、グラビア印刷版1、塗料槽2、圧胴3及びドクターブレード4を含む一組の塗布ユニットを支持体Sの搬送方向に複数組配列することで、各色のインク層と画像保護層とが支持体S上に同時に形成されてもよい。この場合、各グラビア印刷版1のセルCの配列体は、支持体S上における各層の印刷位置に対応する版胴10の表面領域に部分的に形成される。これにより、支持体Sの搬送方向に沿って、支持体S上に各色のインク層と画像保護層とを交互に印刷することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例について説明する。
【0045】
(実施例1)
セルの開口形状、セル境界部を構成する土手の幅及び高さが異なる複数の版胴を使用して支持体上に単層のベタ膜を形成した。各版胴は、セルの開口形状を正方形状の菱形、線数を100LPI、セルの深度を40.0μmとし、土手幅を変更することで、セルの開口比率(土手幅をゼロとしたときの基準面積に対するセルの面積比率)と、セルの深度に対する相対比率(土手幅/深度)とをそれぞれ調整した。そして、作製した各版胴を用いて形成した塗膜中のスジ及びカスレの有無を目視にて確認した。
【0046】
ここで、「スジ」とは、塗膜中の気泡の連結に起因する印刷不良であって、スジ状の欠陥を意味する。一方、「カスレ」とは、塗料ドットの連結不良に起因する印刷不良であって、塗膜が形成されていない、又は、塗膜の厚みムラができており、厚みが極端に小さい部分が白く抜けて見えるなどの欠陥を意味する。
【0047】
使用した印刷塗料には、以下の組成を有する塗工液を使用し、40[mPa・s]の粘度となるように適宜溶媒量を調節した。支持体には、三菱樹脂社製PETフィルム「K604E4.5W」を用いた。さらに、塗布速度は、150[m/min]とした。
【0048】
(塗膜用塗工液の組成)
イエロー染料、マゼンタ染料、シアン染料:4.5質量部
ポリビニルブチラール(積水化学社製「エスレックBH−3」):3.0質量部
メチルエチルケトン:31.0質量部
トルエン:31.0質量部
【0049】
(実施例2)
セル深度を30.0μmとした以外は、実施例1と同様の方法で塗膜中のスジ及びカスレの有無を評価した。
【0050】
(実施例3)
線数を175LPIとした以外は、実施例1と同様の方法で塗膜中のスジ及びカスレの有無を評価した。
【0051】
(実施例4)
線数を175LPI、セル深度を30.0μmとした以外は、実施例1と同様の方法で塗膜中のスジ及びカスレの有無を評価した。
【0052】
(実施例5)
線数を250LPI、セル深度を30.0μmとした以外は、実施例1と同様の方法で塗膜中のスジ及びカスレの有無を評価した。
【0053】
(実施例6)
線数を250LPI、セル深度を20.0μmとした以外は、実施例1と同様の方法で塗膜中のスジ及びカスレの有無を評価した。
【0054】
(実施例7)
セルの開口形状を正六角形とした以外は、実施例1と同様の方法で塗膜中のスジ及びカスレの有無を評価した。
【0055】
(実施例8)
セルの開口形状を正六角形、セル深度を30.0μmとした以外は、実施例1と同様の方法で塗膜中のスジ及びカスレの有無を評価した。
【0056】
(実施例9)
セルの開口形状を正六角形、線数を175LPIとした以外は、実施例1と同様の方法で塗膜中のスジ及びカスレの有無を評価した。
【0057】
(実施例10)
セルの開口形状を正六角形、線数を175LPI、セル深度を30.0μmとした以外は、実施例1と同様の方法で塗膜中のスジ及びカスレの有無を評価した。
【0058】
(実施例11)
セルの開口形状を正六角形、線数を175LPI、セル深度を20.0μmとした以外は、実施例1と同様の方法で塗膜中のスジ及びカスレの有無を評価した。
【0059】
(実施例12)
セルの開口形状を正六角形、線数を250LPI、セル深度を30.0μmとした以外は、実施例1と同様の方法で塗膜中のスジ及びカスレの有無を評価した。
【0060】
(実施例13)
セルの開口形状を正六角形、線数を250LPI、セル深度を20.0μmとした以外は、実施例1と同様の方法で塗膜中のスジ及びカスレの有無を評価した。
【0061】
実施例1〜13の結果を表1及び表2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表1及び表2に示すように、セルの開口比率が80%を超える版胴は、印刷物にスジが確認された。また、セルの開口比率が70%を下回る版胴は、印刷物のカスレが確認された。一方、土手幅/深度が0.50を下回る版胴は、印刷物にスジが確認され、土手幅/深度が1.00を超える版胴は、印刷物のカスレが確認された。
【0065】
これに対して、セルの開口比率が70%以上80%以下であり、土手幅/深度が0.50以上1.00以下の版胴は、印刷物にスジもカスレも確認されなかった。
【0066】
以上、本技術の実施形態について説明したが、本技術は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0067】
なお、本技術は以下のような構成もとることができる。
(1)塗料を受容することが可能な表面を有する版胴と、
前記表面に所定の幅で形成された複数本の直線部で構成され、前記表面に多角形の開口を有する複数のセルを形成するセル境界部であって、前記所定の幅をゼロとしたときの前記開口の面積を基準面積としたとき、前記所定の幅は、前記開口を前記基準面積に対して70%以上80%以下の面積比率で形成し、かつ前記セルの深度に対して0.50以上1.00以下の相対比率を有するセル境界部と
を具備するグラビア印刷版。
(2)前記(1)に記載のグラビア印刷版であって、
前記多角形は、菱形である
グラビア印刷版。
(3)前記(1)に記載のグラビア印刷版であって、
前記多角形は、六角形である
グラビア印刷版。
(4)前記(1)〜(3)の何れか1つに記載のグラビア印刷版であって、
前記版胴は、回転軸をさらに有し、
前記複数本の直線部は、前記回転軸に平行な方向と前記回転軸に垂直な方向とにそれぞれ交差する
グラビア印刷版。
(5)塗料槽と、
前記塗料槽の内部に配置され、前記塗料槽に収容された塗料を受容することが可能な表面を有する版胴と、
前記表面に所定の幅で形成された複数本の直線部で構成され、前記表面に多角形の開口を有する複数のセルを形成するセル境界部であって、前記所定の幅は、前記所定の幅をゼロとしたときの前記開口の面積を基準面積としたとき、前記開口を前記基準面積に対して70%以上80%以下の面積比率で形成し、かつ前記セルの深度に対して0.50以上1.00以下の相対比率を有するセル境界部とを有するグラビア印刷版と、
前記表面に対向して配置された圧胴と、
前記表面と前記圧胴との間に支持体を供給する搬送機構と
を具備する印刷装置。
【符号の説明】
【0068】
1…グラビア印刷版
2…塗料槽
3…圧胴
10…版胴
20…セル境界部
21,22…土手
100…印刷装置
C…セル
S…支持体
P…印刷塗料
P2…塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料を受容することが可能な表面を有する版胴と、
前記表面に所定の幅で形成された複数本の直線部で構成され、前記表面に多角形の開口を有する複数のセルを形成するセル境界部であって、前記所定の幅をゼロとしたときの前記開口の面積を基準面積としたとき、前記所定の幅は、前記開口を前記基準面積に対して70%以上80%以下の面積比率で形成し、かつ前記セルの深度に対して0.50以上1.00以下の相対比率を有するセル境界部と
を具備するグラビア印刷版。
【請求項2】
請求項1に記載のグラビア印刷版であって、
前記多角形は、菱形である
グラビア印刷版。
【請求項3】
請求項1に記載のグラビア印刷版であって、
前記多角形は、六角形である
グラビア印刷版。
【請求項4】
請求項1に記載のグラビア印刷版であって、
前記版胴は、回転軸をさらに有し、
前記複数本の直線部は、前記回転軸に平行な方向と前記回転軸に垂直な方向とにそれぞれ交差する
グラビア印刷版。
【請求項5】
塗料槽と、
前記塗料槽の内部に配置され、前記塗料槽に収容された塗料を受容することが可能な表面を有する版胴と、
前記表面に所定の幅で形成された複数本の直線部で構成され、前記表面に多角形の開口を有する複数のセルを形成するセル境界部であって、前記所定の幅は、前記所定の幅をゼロとしたときの前記開口の面積を基準面積としたとき、前記開口を前記基準面積に対して70%以上80%以下の面積比率で形成し、かつ前記セルの深度に対して0.50以上1.00以下の相対比率を有するセル境界部とを有するグラビア印刷版と、
前記表面に対向して配置された圧胴と、
前記表面と前記圧胴との間に支持体を供給する搬送機構と
を具備する印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−201014(P2012−201014A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68394(P2011−68394)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】