説明

グラフェン酸化物の脱酸素

【課題】費用及び危険性を伴なう、ヒドラジン、高温、不活性ガスを必要としないグラフェン酸化物の還元法を提供する。
【解決手段】グラフェン酸化物(GO)標的物を、GO標的物の脱酸素反応を開始させるのに足る出力を有する光に暴露し、光熱分解する。GO標的物の脱酸素反応中に酸素を捕捉する触媒が、ニッケル、銅、ケイ素およびマグネシウムの1種または複数である触媒を用いて、GO標的物を、200ナノメートル〜400ナノメートルの波長を有するグラフェン酸化物の薄膜をパターニングするように配置されたリソグラフィー光源からの光に暴露して、GO標的物の脱酸素反応中に酸素を捕捉する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にグラフェン、より詳細にはグラフェンを得るためのグラフェン酸化物の還元に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、多くの有用な性質を有する炭素原子の単層である。グラフェンは、黒鉛からの機械的剥離により、炭化ケイ素またはグラフェン酸化物いずれかのエピタキシャル成長および還元により、得ることができる。グラフェン酸化物を還元してグラフェンを得る方法の一つではヒドラジンを用いるが、ヒドラジンは毒性が高く不安定である。グラフェンを還元する他の方法は、アルゴン雰囲気中でグラフェン酸化物を高温(>1000℃)に加熱することを包含する。これらのグラフェンの生産方法に付随する費用および危険性の理由から、ヒドラジン、高温、または不活性ガス雰囲気を必要としないグラフェン酸化物の還元方法を見いだすことが望ましい。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、一実施形態において、方法を包含する。グラフェン酸化物(GO)標的物を、GO標的物の脱酸素反応を開始させるのに足る出力を有する光に暴露する。GO標的物の脱酸素反応はGO標的物をグラフェンに変換する。
【0004】
本発明の他の実施形態は、装置を包含する。該装置は、グラフェン酸化物(GO)標的物およびGO標的物から遠く離れて位置決めされた光源を含む。該光源は、GO標的物において脱酸素反応を開始させるのに足る出力を有する光パルスをGO標的物に向けて放出するように配置される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】図1は、グラフェン酸化物標的物に向かって光パルスを放出する光源を含む装置の一実施形態を示す図である。
【図2】図2は、図1のグラフェン酸化物標的物の脱酸素反応を開始させるためのプロセスフローの一つを示す図である。
【図3】図3は、脱酸素前後のグラフェン酸化物フォーム(foam)試料を示す図である。
【図4】図4は、伝播中のグラフェン酸化物フォーム標的物の反応最前部(reaction front)(a)、ならびに非晶質炭素試料(b)および(c)を示す図である。
【図5】図5は、脱酸素の前(a)および後(b)のグラフェン酸化物のX線光電子分光スペクトルと、脱酸素された黒鉛質炭素のいくつかの分散体を示す図である。
【図6】図6は、脱酸素の前(a)および後(b)のグラフェン酸化物膜を示す図である。
【図7】図7は、図6の脱酸素された膜の一連の像を示す図である。
【図8】図8は、図1の装置の他の実施形態を示す図であり、グラフェン酸化物標的物に隣接する燃料源を例示している。
【図9】図9は、グラフェン酸化物フォームのフラッシングによるエタノール蒸気の発火を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の例示的実施形態の特徴は、説明、請求項、および添付図面から明らかになるであろう。
図1を参照すると、一例において装置100は、光源102およびグラフェン酸化物(GO)標的物104を含む。グラフェン酸化物(GO)は、色が濃く水分散性であるグラフェンの酸化形であり、黒鉛粉末を強力な酸化剤で処理することにより得られる。光源102は、GO標的物104を光に暴露するように、例えば、GO標的物104に向けて光パルス106を放出するように、配置する。光源102の例は、レーザー、フラッシュバルブもしくはフラッシュランプ、アークランプ、エレクトロルミネッセンスランプ(例えば発光ダイオード)、ガス放電もしくは電気グロー放電ランプ(例えば、キセノンフラッシュランプ、ネオンおよびアルゴンランプ)、高輝度放電(HID)ランプ(例えば、キセノンアークランプ、水銀ランプ、メタルハライドランプ)、他の光源、またはこれらの組合せを含む。
【0007】
光源102は、光パルス106の特性がGO標的物104において脱酸素反応を開始させるのに十分であるように配置する。一例において、光パルス106はGO標的物104の発火または光熱分解を引き起こし、これにより、当業者なら理解するように、グラフェン酸化物はグラフェン(例えば導電性グラフェン)に還元される。一例では、多数の光パルスを用いて、GO標的物104の多数の場所に発火をもたらす。GO標的物104の脱酸素反応に影響を及ぼす光パルス106の特性は、光周波数(例えば、紫外、可視、赤外)、強度、および持続時間を含む。一例において光パルス106は、レーザーからの光パルスのように、単一の主要周波数を含む。他の態様において、光パルス106は、カメラのフラッシュからの光パルスのように、複数の周波数を含む。
【0008】
一例において、光パルス106は、200ナノメートル〜400ナノメートルの波長を含む。他の例において、光パルス106は、約231ナノメートルにおけるGOの吸収ピークと一致する波長を含む。より長い波長も反応を開始させるのに有効であるが、より大きなこれらの波長ではGOのエネルギー吸収がより少なくなる。一例において光パルス106のパルス持続時間は、約10マイクロ秒〜50ミリ秒の範囲を含む。より長いまたはより短い持続時間が可能であり、光パルス106の他の特性およびGO標的物104による吸収に依存する。
【0009】
一例において、光パルス106の全統合エネルギーは、パルス持続時間が短くなるにつれ増大する。例えば、より短いパルスは、改善された反応開始のためのより大きな出力のパルスに相当する。一例において、反応の開始はGO標的物104内の伝熱に基づく。例えば、光パルス106は、GO標的物104を摂氏約200°に加熱するように配置する。
【0010】
一態様において、光源102は、GO標的物104を光パルス106に直接暴露するように配置する。他の態様において、光源102は、1または複数のレンズ、シャッター、鏡、マスク、光学繊維、光回路もしくは光学的デバイス、またはそれらの組合わせを含む。第1の態様において、光源102は複数の個々の光源を含み、これらの光源からの光を組合せて集中させて、光パルス106を提供する。第2の態様において、光源102はパルス化レーザー源を含む。第3の態様において、光源102は、光パルス106を提供するための高速シャッターを備える連続光源(例えば連続波レーザー)を含む。第4の態様において、光源102は、光パルス106を提供するためのデジタルマイクロミラーデバイスまたは他の光学的半導体を含む。例えば、デジタルマイクロミラーデバイスは、光の方向をGO標的物104に向けるかこれから離すように変えて、光パルス106を作り出す。第5の態様において、光源102はフォトリソグラフィー光源を含む。
【0011】
GO標的物104は、脱酸素反応を開始するのに十分な表面積および/または密度を含む。第1の態様において、GO標的物104は、多孔質グラフェン酸化物(GO)構造物、例えば、多孔質の材料または粉末を含む。一例において、多孔質GO構造物は、グラフェン酸化物の分散体を乾燥することにより作り出される。乾燥技術の例は、分散体の凍結乾燥またはP粉末を用いた分散体の真空乾燥を含む。真空乾燥は、発火に望ましい形のグラフェン酸化物を達成するのに数日かかる可能性がある。一例において、グラフェン酸化物の分散体は、水1ミリリットルあたりグラフェン酸化物、およそ、5ミリグラム〜15ミリグラムの密度(例えば、濃度1%±0.5%)を含む。
【0012】
第2の態様において、GO標的物はグラフェン酸化物の薄膜を含む。一例において、グラフェン酸化物の薄膜は、、およそ、1ナノメートル〜20ミクロンの厚さで形成する。一例では、薄膜を、グラフェン酸化物の分散体を濾過することにより作り出す。適したフィルターの一例は、0.22ミクロンAnaporeTMフィルター(Al)のようなメンブランフィルターである。例えば、分散体を濾過し、得られた膜をフィルターから剥がす。他の態様では、スピンコーティング、噴霧コーティング、およびグラフェン酸化物を含む溶媒を徐々に蒸発させるなどの方法を用いて、薄膜を作り出すことができる。グラフェン酸化物はポリマーのように処理することができる溶液なので、当業者なら理解するように、溶液からポリマーの薄膜を作り出すための方法を適合させて、グラフェン酸化物膜を作り出すことができる。
【0013】
装置100の操作の例示的解説を、説明のために示す。図2を参照すると、プロセスフロー200はGO標的物104の発火を例示している。GO標的物104は2つの経路のいずれかで形成される。一態様において、GO標的物104は多孔質グラフェン酸化物(GO)構造物を含む。多孔質GO構造物は、最初にグラフェン酸化物分散体を形成することにより作り出される(段階202)。その後、グラフェン酸化物分散体を、例えば該分散体を乾燥することにより、多孔質GO構造物にする(段階204)。他の態様では、GO標的物104を、グラフェン酸化物の薄膜を作り出すことにより形成する(段階206)。その後、GO標的物104を、光源102からの光パルス106に暴露する(段階208)。GO標的物104は光パルス106からの光子を吸収し、これにより、GO標的物104において脱酸素反応が開始する。一例において、光パルス106は脱酸素反応を開始させるためにだけ必要であり、該反応は、さらなる処置なしでGO標的物104中を伝播する。
【0014】
一例においてGO標的物104の脱酸素反応は、GO標的物104中を伝播する還元反応を含む。当業者なら理解するように、還元はGO標的物104をグラフェンに変換する。還元は光パルス106により開始されるので、段階208は、広範な条件、例えば、限定されるものではないが、室温、標準温度および圧力(STP)、および減圧下で、実施することができる。これに加えて、GO標的物104の脱酸素反応は、遠く離れて位置決めされた光源102によって開始させることができる。脱酸素反応を誘発するための最大距離は、光源102の特性と、GO標的物104に達するために光パルス106が移動しなければならない伝播媒体(例えば、光学繊維、空気、真空、外部空間)に依存する。一例において、光源102は、GO標的物104から約1メートルの位置に置かれた加熱ランプを含む。
【0015】
本発明の実施形態には数多くの代替が存在する。一態様において、光源102はフォトリソグラフィー光源を含む。フォトリソグラフィー光源は、グラフェンを所望のパターンに形成し、ミクロまたはナノ規模のパターンまたは特徴を作り出すことを可能にする。一例では、グラフェン酸化物の薄膜を基材上に形成する。一例において基材は、ニッケル、銅、ケイ素またはマグネシウムの基材のような触媒材料を含む。この例において、基材/触媒材料はグラフェン酸化物の反応中に酸素を捕捉し、これにより、より多くの分量の結晶質グラフェンをもたらす。他の触媒金属または材料、例えば、熱力学的にCOより安定である(すなわち、より低いギブズの自由エネルギーを有する)酸化物を有するものも可能である。マグネシウム金属存在下でCOをカーボンブラックに脱酸素すると、MgOが作り出される。光パルス106により開始される脱酸素反応はCOを作り出すので、一例において、触媒としてマグネシウム(例えば、粉末形で、またはGO膜のための基材として)が存在すると、マグネシウムが酸素を取り込んでMgOを作り出すため、GO標的物104の脱酸素反応のグラフェン収量が増大する。
【0016】
他のパターンまたは設計は、他の公知の光パターニングまたはマニピュレーション技術、例えば、光回路および/またはデジタルマイクロミラーデバイスを用いて達成することができる。グラフェンは導電性を有するので、還元したグラフェンを用いて電気回路をパターニングすることができる。
【0017】
他の態様では、触媒をGO標的物104と混合するか、GO標的物104に加えることができる。例えば、ニッケル、銅、ケイ素またはマグネシウムなどの酸素捕捉触媒は、グラフェン酸化物の脱酸素反応中に酸素を捕捉することができる。これはまた、当業者なら理解するように、より多くの分量の結晶質グラフェンをもたらす。
【0018】
図3(a)を参照すると、淡褐色のグラフェン酸化物フォーム試料の画像が示されている。GOフォーム試料は、15mg/mLの分散体を凍結乾燥して15mg/cmの密度を達成することにより調製した。図3(b)において、GOフォーム試料の1000倍の倍率での走査型電子顕微鏡写真(SEM)は、フォームの多孔質の性質をより詳細に示している。SEM像において、GO小板は直径、およそ、500nm〜20μmのサイズのしわくちゃのシートとして現れており、これが結集して多孔質の三次元網状構造を形成している。GOシートの表面に付着している微量の水が、シートをつなぎ合わせてフォームにいくらかの剛性をもたらしている可能性が高い。
【0019】
多孔質構造は、従来の蒸発で起こるような、GO小板の固体マトリックスを潰すことのない毛管作用による排水によりもたらされる。ナノ規模のGO小板の乾燥した低密度網状構造を作り出すと、2つの目的が果たされる:第一に、小板の表面積対体積比が増大して、エネルギー吸収のための最大限の表面積が得られる。第二に、吸収されたエネルギーを拡散させうる熱伝導性経路が減少する。GOフォーム網状構造によりより大きなエネルギー吸収が可能になり、閉じ込め(confinement)を達成することができる;結果として、より迅速で劇的な温度上昇を達成することができる。凍結乾燥を用いると、多孔質GOフォームを、それ自体の重量で構造が潰れる前の公称密度が5mg/cmであるように作成することができることが、見いだされた。
【0020】
写真用フラッシュに暴露するとGOフォームはポンという音を発し、これは光音響効果による可能性が高い。淡褐色から暗い黒色への変色をフラッシング直後に見ることができ、脱酸素された黒鉛質炭素(DGC)への転化を示している。脱酸素(例えば“フラッシング”)後、GOフォームは発火してCOおよびHOを主要生成物として若干のCOとともに放出し、図3(c)に示すような剥離した脱酸素された黒鉛質炭素(DGC)材料が後に残る。試料の外周周囲の淡褐色スポットは、反応最前部の伝播に伴うフォームの冷却および膨張の結果としての試料縁部の未反応領域を示す。図3(d)において、DGC材料のSEM像は、剥離した層を示している。これは、剥離された黒鉛、または、最近熱的に還元されたGOで、官能基化グラフェンシート(FGS)とよばれるものの構造によく似た膨張構造を示している。高倍率では(図3(d)の差し込み図;100000倍)、フラッシュを受けて転化した黒鉛質小板の膨張した性質が示されており、もっとも薄い膨張シートの厚さは10〜20nmと推測される。
【0021】
図4を参照すると、光発火(photoignition)後の15mg/mLのGOフォーム試料の画像(図4(a))は、試料の左端が光熱的に発火した後に反応最前部が左から右へ伝播することを示している。試料右側の淡褐色区域は未反応GOである。撮影した動画フレームの解析は、反応最前部が約10cm/secの速度で試料の端から端まで移動することを示している。GOフォーム試料をフラッシュに暴露したときに、われわれは、発火の容易さおよび反応の伝播が、GOフォームの密度による影響を受けることを見いだした。より緻密なGOフォーム(>50mg/cm)は典型的にはより発火しにくく、反応を開始させるためには近距離(<1mm)にいくつかのフラッシュが必要であった。より低密度のGOフォーム(<5mg/cm)は、より発火しやすいが、反応最前部を維持するのに足る熱が爆燃により生じず、したがって自己伝播しなかった。しかしながら、一度発火すると、反応最前部はGOフォーム構造物の端から端まで移動して、移動するにつれCOおよびHOを放出するであろう。
【0022】
GOフォームは、排気したフラスコに入れて、または不活性アルゴン雰囲気下で、丸底フラスコの透明ガラスを通してフラッシングすることにより、フラッシュを当てることができる。どちらの場合も、GOフォームは発火し、反応はフォーム本体の端から端まで伝播し、GOの爆燃が伝播に外部酸素を必要としないことを示していた。開いた雰囲気においてフラッシュを当てたGOフォームは、典型的には爆燃後に空中酸素中で燃焼し、図4(b)のSEM像に示すように、縁部に非晶質炭素を生じると思われる。非晶質炭素は、第1の爆燃反応によりHOおよびCOが除去された後の空中酸素中での新たに形成した黒鉛質炭素の第2の燃焼に起因すると考えることができる。アルゴンのような不活性ガス雰囲気下でフラッシュを当てた場合、GOフォームはCOおよびHO放出後に空中酸素中で燃焼せず、図4(c)に示すように、より純粋で、微細な膨張構造を有する、剥離した試料が生じる。
【0023】
図5を参照すると、光熱的に誘導した脱酸素後に残っていたDGC材料を、X線光電子分光法(XPS)を用いて炭素および酸素の含量について分析した。炭素および酸素の含量は、GO出発材料(図5(a))でのそれぞれ68.7%および29.3%から、フラッシング後(図5(b))の92.1%および7.7%に変化している。残っている酸素は、不完全な脱酸素に起因する残存官能基が原因である可能性が高い。不完全な脱酸素の後に残っている残存官能基は、DGCシートをさまざまな極性非プロトン性有機溶媒中に分散させることを可能にする。フラッシングすると、GOフォームは平均70%の質量を失った。膨張したDGC材料の反復フラッシングは、連続する光音響的なポンという音と、各フラッシュ露光での測定しうる質量減少をもたらした。われわれは、反復フラッシングにより追加されたエネルギーが、大部分が転化したDGC材料をもたらして、COの酸化を持続させたと推測する。DGCの圧縮ペレットのX線粉末回折は、中心が26.4°2θにある幅が広く弱いピークを示しており、爆燃後の生成物が−実際は−性質上は黒鉛であることを示している。ピークの幅が広いことは、黒鉛質平面の結晶質ドメインのサイズが小さいことと、膨張したシートの乱層構造的(turbostatic)性質の両方に起因する可能性が高い。
【0024】
DGCの抵抗率の測定では、GO出発材料での9.6×10Ω・cm(1.0×10−3S/m)から、還元後でもなお非常に高い(低い)2.45Ω・cm(40.7S/m)への抵抗の低下が生じる。この4つの大規模な抵抗率の変化は、熱的に還元したGOの他の形と一致する。フラッシュを当てたGOフォーム(DGC)は膨張した性質を示すので、それらの表面積を、ブルナウアー−エメット−テラー(BET)分析法を用いてNの取り込みを測定することにより分析した。フラッシング前、15mg/cmの密度を有するGOフォームは、6m/gの表面積を有すると測定された。フラッシング後、測定された表面積は400m/g〜980m/gの範囲であった。われわれは、値の範囲が広いのは、試料の重量および吸着水の決定が難しいことに起因する可能性があると考えている。フラッシュを当てたDGCの水素の取り込みを実施すると、室温において1.75%の取り込みが生じた。GOのフラッシングにより得られたDGCは、図5(c)に示すように、いくつかの非プロトン性極性有機溶媒、例えば、(1)n−メチルピロリドン(NMP)、(2)ジメチルホルムアミド(DMF)、(3)テトラヒドロフラン(THF)、(4)ニトロメタンおよび(5)アセトニトリルに分散しうることが見いだされた。
【0025】
GOフォーム材料に加え、GOからDGCへの光熱的な転化は、GO膜のフラッシングに適用することができる。薄いGO膜(厚さ<1μm)を、希薄なGO分散体を断熱性の0.2μmナイロンMilliporeTMフィルターに通して濾過することにより作り出した。図6〜7を参照すると、濾過により得られたGO膜およびフラッシング前のCu透過型電子顕微鏡法(TEM)グリッドの光学顕微鏡像を、図6(a)に示す。TEMグリッドをマスクとして用いて、TEMグリッドのパターンを、図6(b)の光学顕微鏡像に示すように、GO膜に移す。暴露領域は、マスクされたGO膜とは対照的に、暗い黒色になる。脱酸素とこれに続くCOおよびHOの放出は、図7(a)、(b)および(c)の一連のSEM像に示すように、表面からDGC小板を吹き飛ばす。
【0026】
吸光係数が高い材料から構成されるナノ粒子は、強度が中程度の光の短いパルスへの暴露により劇的な温度上昇を達成することができる。これらの温度上昇は、増大した表面積対体積比と、吸収された光エネルギーを除去する熱伝導性経路の数の減少の結果として起こる。GOの光熱的発火を他のナノ材料のフラッシングと区別する特徴的な特性の一つは、材料を単に発火または溶融させる代わりに、われわれは発熱分解反応を開始させることができる点である。これの利点は、発火に要するエネルギーが、他のナノ材料でそうであるようにフラッシュ光源によってのみもたらされるわけではない点である。このことは、粒子自体がエネルギーを系に加えるため、より低出力の光源および/またはより大きな粒子を使用して発火を達成することを可能にする。パターニングの用途では、GOとDGCの溶解度の差を利用して、薄いGO膜の暴露領域とマスク領域を迅速に分離することができる。有機溶媒を用いてGO膜のフラッシュを受けて崩壊した区域を洗浄すると、マスクされたGO部分を無傷で残すことができた。その後、パターニングされたGO膜を伝導性の還元されたGOに熱的または化学的に還元すると、伝導性の高いパターンを作り出すことができるであろう。
【0027】
図8を参照すると、装置800は、GO標的物104に隣接して位置決めされた燃料源802を有する装置100の他の態様を示している。この態様では、グラフェン酸化物の還元反応により作り出された熱が、燃料源802により移されるか、伝導されるか、または吸収される。燃料源802は、GO標的物104の還元による熱により発火するのに十分な低さの発火温度を含む。一例において、燃料源802はロケット燃料である。他の態様において、GO標的物104は、燃料源802と混合されているかこれに分散しているGO小板の形状をしている。
【0028】
GO小板を液体燃料に分散させることにより、点火プラグとは対照的に光のフラッシュを用いて燃料の発火を開始させることが可能になる。燃料/酸化剤混合物の照明は、多くの場所で同時に発火が生じることを可能にすることにより燃焼を増強する。電気の火花の主な難点の一つは、それが一点点火源であることである。理想的には、複数の発火核形成部位(ignition nucleation site)が、より制御可能で、より効率的で、より確実な発火および燃焼を可能にする。これは、現行の点火方法が1または複数の不利な点を持つことが知られている液体燃料を使用するロケットなどの用途に有用である。燃焼不安定性および始動時の過渡現象などの問題点は、深刻な損傷を引き起こすだけでなく、エンジン効率の低下および汚染物質の放出の増大ももたらす可能性がある。ロケットエンジンにおいてエンジンの損傷ならびに貨物および人命の損失の可能性につながる燃焼不安定性のほぼ30%は、推進剤の初期エネルギー放出プロセスの性質に由来する可能性があると考えられる。
【0029】
光発火を可能にする燃料用添加剤として単層カーボンナノチューブ(SWNT)を用いて以前行われた試験では、SWNTは周囲の酸素の存在下でのみ発火することが見いだされ、試験燃料中に十分に分散しなかった。SWNTのフラッシングは、鉄触媒の濃度にも大きく依存する。GOは、それ自体の酸素供給物を持ち、アルコールのような燃料に高度に分散しうるので、GOを燃料用の発火促進剤として用いることができる。予備実験において、われわれは、GOを光熱的開始剤として用いてエタノール燃料をうまく発火させることができた。図9(a)、(b)および(c)を参照すると、一連の像は、エタノール蒸気を上方に通したGOフォーム試料を示している。フラッシング後(図9(b))、GOの発火を受けてエタノールは容易に発火した。エタノール燃料が消費された後、われわれは、図9(c)において、燃焼反応を受けてDGCが明るい赤色に輝くのを見ることができた。この発火プロセスの高温計の読みは、GOのフラッシングによりわれわれは400〜500℃の温度を達成することができることを示している。
【0030】
過去10年間で、従来のガソリンエンジンにおける燃料効率の改善およびガソリンに代わるクリーンで再生可能な代替燃料の調査の両方のために、並はずれた努力がなされてきた。この目的から浮かんだアイデアの一つは、ディーゼルエンジンの高い効率を火花点火(SI)エンジンの低排出と組み合わせている予混合圧縮自着火(HCCI)エンジンの概念である。典型的なHCCIエンジンでは、SIエンジンと同様に燃料と空気が均質に混合されるが、ディーゼルエンジンと同様に高圧縮下での自己発火により発火が起こる。HCCIエンジンの高い圧縮比は、現行のSIエンジンを15%上回る効率の上昇をもたらす。これまでのところ、HCCIが直面する主な課題の一つは、圧縮により引き起こされる予測できない発火プロセスを制御することであった。グラフェン酸化物のような発火促進剤を用いることにより、HCCIエンジンにおいて分散した発火を達成して、燃料と空気の均質なデトネーションをもたらす正確な点火タイミングを提供することを可能にすることができる。
【0031】
一例において装置100は、1または複数の電子部品、ハードウェア部品およびコンピューター・ソフトウェア部品など、複数の部品を含む。そのような部品の多くを、装置100内で組み合わせるか分けることができる。装置100(例えば光源102)の部品の一例は、当業者なら理解するように、多くのプログラミング言語のいずれかで記載または実行されている一組および/または一連のコンピューターの命令を採用および/または含む。
【0032】
本明細書中に記載した段階または操作は、例として挙げたに過ぎない。本発明の精神から逸脱することなく、これらの段階または操作に多くの変更が存在することができる。例えば、段階を異なる順序で実施してもよく、または、段階を加えるか、削除するか、修正してもよい。
【0033】
本発明の例示的実施形態を本明細書中で詳細に図示および記載してきたが、本発明の精神から逸脱することなくさまざまな修正、追加、置き換えなどを行うことができ、その結果、これらは以下の請求項で定義する本発明の範囲内にあると考えられることが、関連分野の技術者には明らかであろう。
【符号の説明】
【0034】
100 装置
102 光源
104 グラフェン酸化物(GO)標的物
106 光パルス
200 プロセスフロー
202 グラフェン酸化物分散体を形成する段階
204 多孔質グラフェン酸化物構造物を形成する段階
206 グラフェン酸化物の薄膜を形成する段階
208 グラフェン酸化物標的物を光に暴露する段階
800 装置
802 燃料源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
段階:
グラフェン酸化物(GO)標的物を、GO標的物の脱酸素反応を開始させるのに足る出力を有する光に暴露する段階、ここにおいて、GO標的物の脱酸素反応はGO標的物をグラフェンに変換する、
を含む方法。
【請求項2】
さらに、段階:
GO標的物を多孔質GO構造物として調製する段階、ここにおいて、該多孔質GO構造物は、多孔質GO構造物の脱酸素反応の伝播に十分な表面積を含む、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
調製段階が、段階:
グラフェン酸化物の分散体を乾燥して多孔質GO構造物を形成する段階、
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
乾燥段階が、段階:
グラフェン酸化物の分散体を凍結乾燥して多孔質GO構造物を形成する段階、
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
さらに、段階:
1ミリリットルあたりグラフェン酸化物、およそ、5ミリグラム〜15ミリグラムのグラフェン酸化物密度を有するグラフェン酸化物の分散体を形成する段階、
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
GO標的物の脱酸素反応がGO標的物の光熱分解である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
さらに、段階:
GO標的物を、GO標的物の脱酸素反応中に酸素を捕捉する酸素捕捉触媒と混合する段階、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
酸素捕捉触媒が、ニッケル、銅、ケイ素およびマグネシウムの1種または複数を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
さらに、段階:
GO標的物を薄膜として形成する段階、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
GO標的物を薄膜として形成する段階が、段階:
GO標的物を、およそ、1ナノメートル〜20ミクロンの厚さを有する薄膜として形成する段階、
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
GO標的物を光に暴露する段階が、段階:
薄膜を光に暴露して、所望のパターンでグラフェンを形成する段階、
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
薄膜を暴露する段階が、段階:
薄膜をフォトリソグラフィー光源からの光に暴露して、所望のパターンでグラフェンを形成する段階、
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
さらに、段階:
GO標的物を薄膜として触媒金属基材上に形成する段階、ここにおいて、該触媒金属基材は、GO標的物の脱酸素反応中に酸素を捕捉する、
を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
GO標的物を光に暴露する段階が、段階:
GO標的物を、200ナノメートル〜400ナノメートルの波長を有する光に暴露する段階、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
以下を含む装置:
グラフェン酸化物(GO)標的物;
GO標的物から遠く離れて位置決めされた光源;
であって、該光源が、GO標的物において脱酸素反応を開始させるのに足る出力を有する光パルスをGO標的物に向けて放出するように配置されている、前記装置。
【請求項16】
GO標的物がグラフェン酸化物の多孔質構造物を含む、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
グラフェン酸化物の多孔質構造物が、グラフェン酸化物の凍結乾燥した構造物を含む、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
GO標的物がグラフェン酸化物の薄膜を含む、請求項15に記載の装置。
【請求項19】
請求項18に記載の装置であって、
光源が、グラフェン酸化物の薄膜をパターニングするように配置されたリソグラフィー光源を含み;
薄膜が、GO標的物の脱酸素反応中に酸素を捕捉する触媒金属基材上に形成されている、
前記装置。
【請求項20】
光源がレーザーを含む、請求項15に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−248066(P2010−248066A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−91959(P2010−91959)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(505363341)ノースロップ グラマン システムズ コーポレーション (14)
【Fターム(参考)】