説明

グラフト重合物の製造方法及び重金属捕集剤

【課題】多糖類及び/又はその誘導体に反応性モノマーをグラフト重合させて、グラフト重合物を流動性のある安定な水懸濁液として得る。
【解決手段】多糖類及び/又はその誘導体よりなる基材に反応性モノマーをグラフト重合させてグラフト重合物を製造する方法において、増粘剤を含む水性媒体中に多糖類及び/又はその誘導体を懸濁させてなる懸濁液に、反応性モノマーの存在下に放射線を照射することを特徴とするグラフト重合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラフト重合物の製造方法及び重金属捕集剤に係り、特に多糖類及び/又はその誘導体に反応性モノマーをグラフト重合させて、グラフト重合物を流動性のある安定な水懸濁液として得る方法と、このような方法により得られるグラフト重合物よりなる重金属捕集剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デンプンにアクリル酸をグラフト重合してなるグラフト重合物を、吸水性物質として用いることは知られており(例えば特許文献1)、この用途において、該グラフト重合物は高濃度のデンプン懸濁液又はデンプン粉末に、アクリル酸を混合してグラフト重合させることにより固形化したグラフト重合物として製造されている。
【0003】
また、デンプンやセルロース等の高分子基材にアクリル酸をグラフト重合させる方法として、放射線照射によるラジカル生成反応を利用する方法が知られている(例えば特許文献2,3)。
【特許文献1】特開2005−111024号公報
【特許文献2】特開昭57−500546号公報
【特許文献3】特開昭51−35685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
グラフト重合物を吸水性物質などに使用する場合、グラフト重合物は固形物の形態で有効に使用可能であるが、グラフト重合物の用途によっては、流動性のある液状であることが望まれる場合がある。
【0005】
しかしながら、従来法により、例えば放射線照射法で、デンプンの水懸濁液にアクリル酸を添加混合した後、放射線を照射してデンプン基材にアクリル酸をグラフト重合させる場合、デンプンの水懸濁液を攪拌した状態で放射線照射することは困難であり、放射線照射時の反応液は反応容器中に静置された状態とされているため、次のような問題があり、デンプン−アクリル酸グラフト重合物を、流動性のある安定な水懸濁液として得ることはできなかった。
【0006】
(1) デンプンを低濃度(例えば10〜30重量%)の水懸濁液とした場合、これにアクリル酸を添加混合後、放射線を照射しようとすると、この放射線照射中にデンプンが沈殿し、相分離を起こす。分離した上澄み中にはアクリル酸が含まれることにより、この上澄み中のアクリル酸が放射線照射でホモ重合してしまい、グラフト重合物の収率が低下し、また、不均一なグラフト重合となる。
【0007】
(2) デンプンを高濃度(例えば40〜50重量%)の水懸濁液とした場合には、上述のような相分離の問題はないが、このような高濃度の水懸濁液にアクリル酸を添加混合して放射線を照射すると、得られるグラフト重合物は水中でゴム状に硬化したものとなり、流動性のあるグラフト重合物の水懸濁液を得ることはできない。
【0008】
本発明はこのような問題を解決し、グラフト重合物を流動性のある安定な水懸濁液として効率的に製造することができるグラフト重合物の製造方法と、このようなグラフト重合物よりなる重金属捕集剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、増粘剤を配合することにより、デンプン等の多糖類及び/又はその誘導体の低濃度水懸濁液の相分離を防止することができ、このような水懸濁液にアクリル酸等の反応性モノマーを添加して放射線を照射することにより、グラフト重合物を流動性のある安定な水懸濁液として得ることができることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] 多糖類及び/又はその誘導体よりなる基材に反応性モノマーをグラフト重合させてグラフト重合物を製造する方法において、増粘剤を含む水性媒体中に多糖類及び/又はその誘導体を懸濁させてなる懸濁液に、反応性モノマーの存在下に放射線を照射することを特徴とするグラフト重合物の製造方法。
【0012】
[2] [1]において、前記懸濁液に前記反応性モノマーを添加して撹拌混合して得られる混合液が、攪拌を停止した後、静置1時間後において相分離しないことを特徴とするグラフト重合物の製造方法。
【0013】
[3] [1]又は[2]において、前記多糖類及び/又はその誘導体が、デンプン、セルロース、キチン及びキトサンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするグラフト重合物の製造方法。
【0014】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記増粘剤がグアーガムであることを特徴とするグラフト重合物の製造方法。
【0015】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記反応性モノマーが不飽和カルボン酸であることを特徴とするグラフト重合物の製造方法。
【0016】
[6] [1]ないし[5]のいずれかにおいて、前記グラフト重合物を水性媒体懸濁液として得ることを特徴とするグラフト重合物の製造方法。
【0017】
[7] [1]ないし[6]のいずれかに記載のグラフト重合物の製造方法により製造されたグラフト重合物よりなることを特徴とする重金属捕集剤。
【0018】
[8] デンプン及び/又はその誘導体に不飽和カルボン酸をグラフト重合させてなるグラフト重合物を含むことを特徴とする重金属捕集剤。
【0019】
[9] [8]において、前記グラフト重合物の水懸濁液よりなることを特徴とする重金属捕集剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、多糖類及び/又はその誘導体を、グラフト重合物を流動性のある安定な懸濁液として得ることができる程度の低濃度で含む水性媒体の懸濁液において、増粘剤の作用で多糖類及び/又はその誘導体の沈殿による相分離を防止することができる。このため、このような懸濁液に反応性モノマーを添加混合して放射線を照射することにより、放射線照射時の相分離を防止して、効率的なグラフト重合を行うことができ、グラフト重合物を、流動性のある安定な懸濁液として得ることが可能となる。
【0021】
このようなグラフト重合物は例えば重金属捕集剤として有用であり、液状であることにより、取り扱い性に優れた重金属捕集剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明のグラフト重合物の製造方法及び重金属捕集剤の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
[グラフト重合物の製造方法]
本発明のグラフト重合物の製造方法は、増粘剤を含む水性媒体中に多糖類及び/又はその誘導体を懸濁させてなる懸濁液に、反応性モノマーを添加混合し、この混合液に放射線を照射して、多糖類及び/又はその誘導体よりなる基材に反応性モノマーをグラフト重合させてグラフト重合物を得るものである。
【0024】
<多糖類及び/又はその誘導体>
グラフト重合物の基材となる多糖類及び/又はその誘導体としては、水性媒体で懸濁するものであれば良く、特に限定されないが、例えば、デンプン、セルロース、キチン、キトサン等が挙げられる。これらのうち、経済性の点からデンプンが好ましい。デンプンとしてはトウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、馬鈴薯デンプン、タピオカデンプン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0025】
<反応性モノマー>
多糖類及び/又はその誘導体にグラフト重合させる反応性モノマーは、放射線の照射により多糖類及び/又はその誘導体にグラフト重合可能な反応性基、例えば反応性不飽和結合を有するものであれば良く、特に制限はないが、後述の重金属捕集剤としての用途から、反応性不飽和結合と、重金属との反応性を有するカルボキシル基を有する、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸が挙げられる。これらの反応性モノマーは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0026】
<水性媒体>
水性媒体としては、通常、取り扱い性、コスト、安全性の面から水が用いられるが、アルコールを用いても良く、水とアルコールとの混合液であっても良い。
【0027】
<増粘剤>
増粘剤としては、多糖類及び/又はその誘導体と反応性モノマーとを含む懸濁液に対して増粘機能を有するものであれば良く、後述の耐相分離性を確保し得るものが好ましい。従って、増粘剤としての機能を有し、また、反応性モノマーとして、アクリル酸のような酸性物質を添加した場合には、pH変化により粘性が損なわれることのない耐酸性、耐アルカリ性に優れたものであれば良く、特に制限はないが、粘性に優れ、またpHの影響を受け難いという点から、非イオン性の水溶性高分子、具体的にはグアーガム、ウエランガム、キサンタンガム、アラビアガム等が好適である。
これらの増粘剤も、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0028】
<使用割合>
本発明において、多糖類及び/又はその誘導体、増粘剤、水性媒体、反応性モノマーの使用割合は、後述の耐相分離性を確保することができ、また、好ましくは、グラフト重合物を流動性のある均一な懸濁液として得ることができるような割合であれば良く、用いる多糖類及び/又はその誘導体や増粘剤、反応性モノマーの種類、及びこれらの相互の使用割合に応じて適宜決定されるが、例えば、デンプン、グアーガム、水及びアクリル酸を用いるグラフト重合物の製造においては、次のような割合とすることができる。
【0029】
グアーガムを含む水にデンプンを添加混合してデンプンの水懸濁液(以下「デンプン液」と称す場合がある。)を調製し、このデンプン液にアクリル酸を添加して放射線の照射によりグラフト重合に供する反応液(以下、この放射線の照射によるグラフト重合に供する液を「混合液」と称す場合がある。)を調製する際、デンプンの使用割合は、グラフト重合に供する混合液中のデンプン濃度が10〜30重量%程度となるようにすることが好ましい。この範囲よりもデンプン濃度が高いと、グラフト重合物としてゴム状に硬化したものが得られる可能性があり、この範囲よりもデンプン濃度が低いと、後述の耐相分離性を確保し得ない恐れがある。
【0030】
また、グアーガムは、混合液中のグアーガム濃度が0.1〜0.5重量%、特に0.3〜0.4重量%となるように用いることが好ましい。この範囲よりもグアーガム濃度が低いと後述の耐相分離性を十分に確保し得ない場合があり、グアーガム濃度が高いと流動性が低く、均一な液品を作ることができない。また、グアーガム濃度が高いと放射線照射後に硬化しやすくなる。
【0031】
また、アクリル酸は、混合液中のデンプンに対する重量割合で5〜100重量%、特に20〜60重量%とすることが好ましい。アクリル酸の添加量が多いと、グアーガムを用い、また、デンプン濃度を低くしても、ゴム状に硬化したグラフト重合物が得られる恐れがあり、少ないと、アクリル酸をグラフト重合させて機能性を付与する目的を十分に達成し得ない。
【0032】
本発明で目的とする液状のグラフト重合物懸濁液を得る上で、デンプン濃度、グアーガム濃度、アクリル酸添加量は、前述の如く、相互に影響し、例えば上記範囲を超えてデンプン濃度が高くてもアクリル酸添加量が少なければ流動性のあるグラフト重合物懸濁液を得ることができ、逆に、デンプン濃度が低くてもアクリル酸添加量が多ければグラフト重合物が硬化するおそれがある。従って、所望のグラフト率とグラフト重合物の性状を考慮して、これらは相互に調整することが好ましい。
【0033】
<耐相分離性>
本発明においては、好ましくは、反応条件と同様の割合で、増粘剤を含む水性媒体に多糖類及び/又はその誘導体を懸濁させて得られた懸濁液に、反応性モノマーを添加し、攪拌混合して得られる混合液が、攪拌停止後静置したときに、静置1時間後においても相分離しないことが好ましい。ここで、相分離しないとは、以下に定義されるような状態をさす。
【0034】
(非相分離状態の定義)
混合液を適当な透明容器に入れて静置し、目視観察する。このとき、多糖類及び/又はその誘導体が沈殿して相分離を起こす場合は、上層に透明な上澄み層が形成される。本発明においては、この透明な上澄み層が、混合液の全体積の5体積%以下であるときに、相分離を起こさない「非相分離状態」と言う。
なお、以下において、このような相分離を起こさない物性を「耐相分離性」と称す場合がある。
【0035】
<放射線>
本発明において、放射線としては電子線やγ線を用いることができるが、照射時に発熱しにくいγ線が好ましい。
放射線の照射量は、添加した反応性モノマーが基材である多糖類及び/又はその誘導体に十分にグラフト重合するような量であれば良く、反応系の規模によっても異なるが、通常0.1〜50kGy/hrの照射線量で0.5〜2hr程度照射することが好ましい。
【0036】
<その他の反応条件>
本発明において、デンプン等の多糖類及び/又はその誘導体を水性媒体に懸濁した液を加熱すると、多糖類及び/又はその誘導体が架橋して増粘し、目的とするグラフト重合物を得ることができなくなる場合があるため、反応は60℃以下、好ましくは15〜30℃程度の室温で行うことが望ましい。
【0037】
<グラフト重合物>
本発明においては、上述のような放射線照射により生成したグラフト重合物の微細粒子が、水性媒体中で安定に懸濁し、若干の粘性を有するものの十分な流動性のある白色の液状の懸濁液を形成している状態でグラフト重合物を得る。
【0038】
この液状のグラフト重合物懸濁液は、通常、反応に供される多糖類及び/又はその誘導体及び反応性モノマーの量に従って、グラフト重合物濃度10〜30重量%程度のものであり、このグラフト重合物懸濁液は、これをそのまま、重金属捕集剤等として用いることができるが、必要に応じて固液分離した後乾燥し、粉末状のグラフト重合物として用いることもできる。
【0039】
[重金属捕集剤]
本発明の重金属捕集剤は、デンプン及び/又はその誘導体にアクリル酸等の不飽和カルボン酸をグラフト重合してなるグラフト重合物であり、通常デンプン及び/又はその誘導体に対して、アクリル酸等の不飽和カルボン酸を10〜60重量%程度の割合でグラフト重合してなるものである。
【0040】
このグラフト重合物は、アクリル酸等の不飽和カルボン酸のカルボキシル基により、重金属と反応してこれを捕集する重金属捕集剤として有効である。
【0041】
このグラフト重合物は、好ましくは上述の本発明のグラフト重合物の製造方法により、例えば10〜30重量%程度のグラフト重合物濃度の水懸濁液として使用されるが、上述の如く、この懸濁液を固液分離して乾燥した粉末状で用いても良い。
【0042】
本発明の重金属捕集剤は、これを重金属含有液に添加して、或いは、重金属含有物質を液状の本発明の重金属捕集剤に添加して混合することにより、グラフト重合物に重金属を捕捉させて除去し、重金属を捕捉したグラフト重合物を、必要に応じて凝集剤等の添加により凝集させて固液分離するなどの方法で各種の重金属汚染物質の処理に用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下に、比較例、実験例及び実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
なお、以下において、操作はすべて室温(26℃)で行った。また、デンプンとしては日本食品化工(株)製「コーンスターチY」を用い、グアーガムとしては三栄薬品貿易(株)製「グアーコールF50」を用い、アクリル酸としては和光純薬工業(株)性「アクリル酸和光特級」を用い、ポリアクリル酸ナトリウムとしては栗田工業(株)製「クリフロックPA−312」を用いた。
【0044】
[比較例1〜8]
以下の手順でグラフト重合物を製造し、γ線照射後の反応生成液の状態を目視にて観察し、結果を表1に示した。
(1) ビーカーに純水を採取し、デンプンを添加してスターラーで400rpmで攪拌して表1に示す濃度のデンプン水懸濁液(以下「デンプン液」と記す。)を調製した。
(2) (1)のデンプンの液20gを50mlサンプル瓶に採り、アクリル酸を表1に示す量加えて、振とうして混合し、グラフト重合に供する反応液(以下「混合液」と記す。)を調製した。
(3) (2)の混合液にCo60でγ線を表1示す照射線量及び照射時間で照射してグラフト重合物を得た。
なお、表1には、γ線照射前の(2)の混合液の撹拌停止後、静置1時間後の耐相分離性の有無を併記した。
【0045】
【表1】

【0046】
表1より、増粘剤を含まないデンプン液では、デンプン濃度が高いと相分離はしないものの得られるグラフト重合物がゴム状に硬化したものとなり、デンプン濃度が低いと相分離のために、均一なグラフト重合が進行しないことが分かる。
【0047】
[比較例9〜16]
比較例1〜8において、デンプン液のデンプン濃度を表2に示す濃度とすると共に、表2に示す濃度となるようにポリアクリル酸ナトリウムを添加したデンプン液に、アクリル酸を、デンプン液中のデンプンに対して表2に示す割合となるように添加混合し(ただし、比較例9,13ではアクリル酸添加せず)、この混合液にγ線を照射線量5kGy/hrで1.0hr照射したこと以外は同様にしてグラフト重合物を製造し、γ線照射後の反応生成液の観察結果を表2に示した。
表2にはγ線照射前の混合の撹拌停止後、静置1時間後の耐相分離性の有無を併記した。
【0048】
【表2】

【0049】
表2より、ポリアクリル酸ナトリウムを添加しても、これを添加しない場合と変わりはなく、ポリアクリル酸ナトリウムでは増粘剤として機能しないことが分かる。これは、ポリアクリル酸ナトリウムがアクリル酸添加によるpH低下で粘性が失われ、増粘剤として機能しなくなったことによるものと考えられる。
【0050】
[実験例1]
デンプンとグアーガムと純水とアクリル酸を、表3に示す割合で撹拌混合して調製した混合液を静置したときの、この混合液の外観を経時的に目視観察し、結果を表3に示した。
【0051】
【表3】

【0052】
表3より、混合液中のデンプン濃度20重量%、10重量%の場合に、それぞれグアーガムを0.3重量%以上、0.4重量%以上添加することにより、混合液の耐相分離性を確保することができることが分かる。
【0053】
[実施例1〜5]
以下の手順でグラフト重合物を製造し、γ線照射後の反応生成液の状態を目視にて観察し、結果を表4に示した。
(1) 純水をビーカーに採り、スターラーで攪拌しながらグアーガムを添加し30分攪拌混合した。
(2) (1)の後にデンプンを添加し、スターラーで5〜10分攪拌し、最終的にスパーテルで粒子をつぶし、均一な懸濁液(デンプン液)とした。
(3) (2)のデンプン液20gを50mlサンプル瓶に採り、アクリル酸を所定量添加混合して混合液を調製し、この混合液にγ線(Co60)を照射した。
【0054】
なお、デンプン、グアーガム、純水及びアクリル酸の使用量は、表4に示す量とし、γ線の照射線量は5kGy/hr、照射時間は1.0hrとした。
表4には、アクリル酸添加混合後の混合液の撹拌停止後、静置1時間後の耐相分離性の有無を併記した。
【0055】
【表4】

【0056】
表4より、グラフト重合物を液状の水懸濁液として得るには、デンプン20〜30重量%、グアーガム0.3重量%の混合液において、アクリル酸をデンプンに対して20〜30重量%含むことが好ましいことが分かる。
【0057】
[実施例6〜13]
デンプン、グアーガム、純水及びアクリル酸の使用量を表5に示す量としたこと以外は、実施例1〜5と同様にしてγ線照射によるグラフト重合を行い、結果を表5に示した。なお、表5には、アクリル酸添加混合後の混合液の撹拌停止後、静置1時間後の耐相分離性の有無を併記した。
【0058】
【表5】

【0059】
表5より、混合液のデンプン濃度が20重量%である場合、グアーガム濃度が0.2重量%では若干相分離効果が不足し、0.3重量%程度必要であることが分かる。
【0060】
[実施例14〜28]
デンプン、グアーガム、純水及びアクリル酸の使用量を表6に示す量としたこと以外は、実施例1〜5と同様にしてγ線照射によるグラフト重合を行い、結果を表6に示した。なお、表6には、アクリル酸添加混合後の混合液の撹拌停止後、静置1時間後の耐相分離性の有無を併記した。
【0061】
【表6】

【0062】
表6より、デンプン濃度20〜30重量%、グアーガム濃度0.3重量%以上の混合液の場合、アクリル酸をデンプンに対して20〜30重量%となるように添加すると、良好な結果が得られ、また、デンプン濃度10重量%、グアーガム濃度0.4重量%以上の混合液の場合、アクリル酸をデンプンに対して40〜60重量%となるように添加すると良好な結果が得られ、グラフト重合物を流動性のある水懸濁液として得ることができることが分かる。
【0063】
[実施例29,30]
実施例15で得られたグラフト重合物(流動性のあるグラフト重合物の水懸濁液、グラフト重合物濃度26重量%)0.1g(グラフト重合物重量として0.026g)を、Pb2+濃度100mg/Lの硝酸鉛水溶液100mlに添加すると共に、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH4又はpH5に調整して30分間スターラーで攪拌した後、ガラス繊維濾紙(孔径1μm)で濾過した。得られた濾液中のPb2+濃度を調べ、結果を表7に示した。
【0064】
[比較例17,18]
実施例29,30においてグラフト重合物の代りに、デンプンを0.1g添加したこと以外は同様に実施し、結果を表7に示した。
【0065】
【表7】

【0066】
表7より、本発明で得られるグラフト重合物は、重金属の捕集性能を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類及び/又はその誘導体よりなる基材に反応性モノマーをグラフト重合させてグラフト重合物を製造する方法において、
増粘剤を含む水性媒体中に多糖類及び/又はその誘導体を懸濁させてなる懸濁液に、反応性モノマーの存在下に放射線を照射することを特徴とするグラフト重合物の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記懸濁液に前記反応性モノマーを添加して撹拌混合して得られる混合液が、攪拌を停止した後、静置1時間後において相分離しないことを特徴とするグラフト重合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記多糖類及び/又はその誘導体が、デンプン、セルロース、キチン及びキトサンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするグラフト重合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記増粘剤がグアーガムであることを特徴とするグラフト重合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記反応性モノマーが不飽和カルボン酸であることを特徴とするグラフト重合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記グラフト重合物を水性媒体懸濁液として得ることを特徴とするグラフト重合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のグラフト重合物の製造方法により製造されたグラフト重合物よりなることを特徴とする重金属捕集剤。
【請求項8】
デンプン及び/又はその誘導体に不飽和カルボン酸をグラフト重合させてなるグラフト重合物を含むことを特徴とする重金属捕集剤。
【請求項9】
請求項8において、前記グラフト重合物の水懸濁液よりなることを特徴とする重金属捕集剤。

【公開番号】特開2010−83995(P2010−83995A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254102(P2008−254102)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(391030882)オリエンタル技研工業株式会社 (5)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】