説明

グラム陽性微生物内での増加したタンパク質生産

本発明はグラム陽性微生物における分泌に関する。本発明はバチルス・ズブチリス分泌因子SecGの核酸及びアミノ酸配列を提供する。また、本発明はグラム陽性微生物において異種または同種タンパク質の分泌を増加させる手段を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は2000年3月22日に出願された米国特許出願番号第09/462,843の一部継続出願、これに基づく優先権主張出願であり、かかる出願は1998年7月14日に出願されたPCT/US98/14648及び1997年7月15日に出願された欧州特許97305288.5の優先権主張出願である。
【0002】
発明の分野
本発明は通常、グラム陽性微生物でのタンパク質発現に関し、具体的には、グラム陽性微生物分泌因子、SecGに関する。本発明はさらにグラム陽性微生物内でのタンパク質生産のための発現ベクター、方法及び系を提供する。
【0003】
発明の背景
グラム陽性微生物、例えば、バチルス属のメンバーは、ひとつには発酵産物を培地内に分泌する能力のため大規模工業用発酵に用いられてきた。グラム陽性細菌において、分泌タンパク質は細胞膜及び細胞壁を通って輸送され、続いて外部媒体内に放出されて通常、未変性立体構造が得られる。既に同定されているグラム陽性微生物由来の分泌因子はSecA(Sadaie et.al.、Gene 98:101−105[1991])、SecY(Suh et.al.、Mol.Microbiol.,4:305−314[1990]、SecE(Jeong et.al.、Mol.Microbiol.,10:133−142[1993])、FtsY及びFfH(PCT/NL96/00278)及びPrsA(WO94/19471)が挙げられる。
【0004】
一方、グラム陰性微生物、大腸菌では、タンパク質は細胞膜や細胞壁を通って培地内に入るというよりもむしろペリプラズムに輸送される。大腸菌は少なくとも2種類の分泌メカニズム構成、可溶性細胞質タンパク質及び膜関連タンパク質を有する。報告されている大腸菌分泌因子は可溶性細胞質タンパク質、SecB及び熱ショックタンパク質;表在性膜関連タンパク質SecA;及び内在性膜タンパク質SecY、SecE、SecD及びSecFがある。原核細胞のタンパク質分泌機構の理解の進展にも関わらず、タンパク質分泌、特にバチルスなどのグラム陽性微生物でのタンパク質分泌の完全なメカニズムは依然として十分に解明する必要がある。
【0005】
発明の概要
本発明は通常、グラム陽性微生物でのタンパク質発現に関し、具体的には、グラム陽性微生物分泌因子、SecGに関する。本発明はさらにグラム陽性微生物内でのタンパク質生産のための発現ベクター、方法及び系を提供する。
【0006】
いくつかの実施態様において、本発明は分泌因子G(SecG)タンパク質をエンコードする核酸配列を含む発現ベクターを提供し、当該分泌因子Gはグラム陽性微生物内で当該分泌因子を過剰発現できる発現シグナルに制御され、当該核酸配列は配列番号1を含む。いくつかの好ましい実施態様において、グラム陽性微生物はバチルス属の1種である。いくつかの特に好ましい実施態様において、当該バチルス属は、B.ズブチリス、B.リケニフォルミス、B.レンタス、B.ブレビス、B.ステアロサーモフィラス、B.アルカロフィラス、B.アミロリケファシエンス、B.コアグランス、B.サーキュランス、B.lautus及びB.チューリンゲンシスからなる群より選択される。さらなる実施態様において、本発明は発現ベクターを含むグラム陽性微生物(すなわち、宿主細胞)を提供する。いくつかの好ましい実施態様において、グラム陽性微生物はバチルス属の1種である。いくつかの特に好ましい実施態様において、宿主細胞はバチルス属の1種であり、B.ズブチリス、B.リケニフォルミス、B.レンタス、B.ブレビス、B.ステアロサーモフィラス、B.アルカロフィラス、B.アミロリケファシエンス、B.コアグランス、B.サーキュランス、B.lautus及びB.チューリンゲンシスからなる群より選択される。いくつかの実施態様において、宿主細胞はさらに少なくとも1の異種タンパク質を発現する。いくつかの好ましい実施態様において、異種タンパク質はホルモン、酵素、成長因子及びサイトカインからなる群より選択される。いくつかの特に好ましい実施態様において、異種タンパク質は酵素である。さらなる実施態様において、酵素はプロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、リパーゼ、レダクターゼ、イソメラーゼ、エピメラーゼ、トートメラーゼ、トランスフェラーゼ、キナーゼ及びホスファターゼからなる群より選択される。
【0007】
また、本発明はグラム陽性微生物からタンパク質を分泌する方法を提供し、当該方法は、分泌因子G(SecG)タンパク質をエンコードする核酸配列を含むグラム陽性微生物宿主細胞を得る工程を含み、当該核酸配列が配列番号1に示す核酸配列を含み、当該核酸配列がグラム陽性微生物中でSecGを発現できる発現信号に制御され、さらに当該グラム陽性微生物宿主細胞が分泌されるタンパク質をエンコードする核酸配列を含み;及びSecGの発現及び当該タンパク質の発現及び分泌に適した条件下で微生物を培養する工程を含む。いくつかの実施態様において、グラム陽性微生物は少なくとも1の他の分泌因子をエンコードする核酸も含み、当該分泌因子は分泌因子Y(SecY)、分泌因子E(SecE)、及び分泌因子A(SecA)からなる群より選択される。さらなる実施態様において、タンパク質は宿主細胞と同種のものである。いくつかの好ましい実施態様において、グラム陽性微生物はバチルス属の1種である。いくつかの好ましい実施態様において、バチルス属はB.ズブチリス、B.リケニフォルミス、B.レンタス、B.ブレビス、B.ステアロサーモフィラス、B.アルカロフィラス、B.アミロリケファシエンス、B.コアグランス、B.サーキュランス、B.lautus及びB.チューリンゲンシスからなる群より選択される。別の好ましい実施態様において、バチルスは、ホルモン、酵素、成長因子及びサイトカインからなる群より選択される少なくとも1の異種タンパク質を発現する。特に好ましい実施態様において、異種タンパク質は酵素である。さらなる実施態様において、酵素はプロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、リパーゼ、レダクターゼ、イソメラーゼ、エピメラーゼ、トートメラーゼ、トランスフェラーゼ、キナーゼ及びホスファターゼからなる群より選択される。
【0008】
本発明はさらに、配列番号2に示すアミノ酸配列を含んだ分泌因子G(SecG)タンパク質をエンコードする核酸配列を含む発現ベクターを提供し、ここで当該分泌因子Gはグラム陽性微生物内で当該分泌因子を過剰発現できる発現シグナルに制御され、当該核酸配列は配列番号1を含む。
【0009】
また、本発明はグラム陽性微生物内でタンパク質を分泌する方法を提供し、当該方法は分泌因子G(SecG)タンパク質をエンコードする核酸配列を含むグラム陽性微生物宿主細胞を得る工程を含み、ここで当該核酸配列は配列番号1に示す核酸配列を含み、当該核酸配列はグラム陽性微生物内でSecGを発現できる発現シグナルに制御され、さらに当該グラム陽性微生物宿主細胞はタンパク質をエンコードする核酸を含み;及びSecGの発現及びタンパク質の発現及び分泌に適した条件下で微生物を培養する工程を含み、ここで当該タンパク質は配列番号2に示すアミノ酸配列を含む。
【0010】
本発明はさらに、変異シャイン・ダルガーノ配列をエンコードするグラム陽性微生物を提供し、分泌因子G(SecG)を含む転写の翻訳を調節する。いくつかの好ましい実施態様において、グラム陽性微生物はバチルス属の1種である。いくつかの特に好ましい実施態様において、バチルス属はB.ズブチリス、B.リケニフォルミス、B.レンタス、B.ブレビス、B.ステアロサーモフィラス、B.アルカロフィラス、B.アミロリケファシエンス、B.コアグランス、B.サーキュランス、B.lautus及びB.チューリンゲンシスからなる群より選択される。いくつかの実施態様において、調節とはSecGの発現増加を含み、一方、他の実施態様において、調節とはSecGの発現の減少を含む。さらに別の実施態様において、微生物は少なくとも1の異種タンパク質を発現できる。いくつかの実施態様において、異種タンパク質はホルモン、酵素、成長因子及びサイトカインからなる群より選択される。いくつかの特に好ましい実施態様において、異種タンパク質は酵素である。いくつかの実施態様において、酵素はプロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、リパーゼ、レダクターゼ、イソメラーゼ、エピメラーゼ、トートメラーゼ、トランスフェラーゼ、キナーゼ及びホスファターゼからなる群より選択される。
【0011】
また、本発明は変異RNAポリメラーゼσ因子アルファ(σ)配列をエンコードするグラム陽性微生物を提供し、分泌因子G(SecG)の発現を調節する。いくつかの好ましい実施態様において、グラム陽性微生物はバチルス属の1種である。いくつかの特に好ましい実施態様において、バチルス属はB.ズブチリス、B.リケニフォルミス、B.レンタス、B.ブレビス、B.ステアロサーモフィラス、B.アルカロフィラス、B.アミロリケファシエンス、B.コアグランス、B.サーキュランス、B.lautus及びB.チューリンゲンシスからなる群より選択される。いくつかの実施態様において、調節とはSecGの発現増加を含み、一方、他の実施態様において、調節とはSecGの発現の減少を含む。さらに別の実施態様において、グラム陽性微生物は少なくとも1の異種タンパク質を発現できる。いくつかの特に好ましい実施態様において、異種タンパク質はホルモン、酵素、成長因子及びサイトカインからなる群より選択される。いくつかの特に好ましい実施態様において、異種タンパク質は酵素である。いくつかの他の好ましい実施態様において、酵素はプロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、リパーゼ、レダクターゼ、イソメラーゼ、エピメラーゼ、トートメラーゼ、トランスフェラーゼ、キナーゼ及びホスファターゼからなる群より選択される。
【0012】
本発明はさらにグラム陽性微生物内でタンパク質を分泌する方法を提供し、当該方法はSecGをエンコードする核酸を含むグラム陽性微生物宿主細胞を得る工程を含み、ここで当該核酸はグラム陽性微生物内でSecGを発現できる発現シグナルに制御され、さらに当該グラム陽性微生物宿主細胞はタンパク質をエンコードする核酸を含み;及びSecG発現及びタンパク質の発現及び分泌に適した条件下で微生物を培養する工程を含む。いくつかの実施態様において、微生物はさらに、SecY、SecE及びSecAからなる群より選択される少なくとも1の他の分泌因子をエンコードする核酸を含む。いくつかの好ましい実施態様において、タンパク質は宿主細胞と同種のものであり、一方、他の好ましい実施態様において、タンパク質は宿主細胞と異種のものである。さらに好ましい実施態様において、グラム陽性微生物はバチルス属の1種である。さらに好ましい実施態様において、バチルス属はB.ズブチリス、B.リケニフォルミス、B.レンタス、B.ブレビス、B.ステアロサーモフィラス、B.アルカロフィラス、B.アミロリケファシエンス、B.コアグランス、B.サーキュランス、B.lautus及びB.チューリンゲンシスからなる群より選択される。他の実施態様において、異種タンパク質はホルモン、酵素、成長因子及びサイトカインからなる群より選択される。いくつかの好ましい実施態様において、異種タンパク質は酵素である。いくつかの特に好ましい実施態様において、酵素はプロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、リパーゼ、レダクターゼ、イソメラーゼ、ラセマーゼ、エピメラーゼ、トートメラーゼ、ムターゼ、トランスフェラーゼ、キナーゼ及びホスファターゼからなる群より選択される。
【0013】
発明の説明
本発明は通常、グラム陽性微生物でのタンパク質発現に関し、具体的には、グラム陽性微生物分泌因子、SecGに関する。本発明はさらにグラム陽性微生物内でのタンパク質生産のための発現ベクター、方法及び系を提供する。
【0014】
グラム陽性微生物の分泌機構能力はタンパク質分泌の制限因子または障害となり得、及び特にタンパク質が組換え技術により導入され、宿主細胞により過剰発現した場合、分泌されるタンパク質生産の制限因子または障害となり得る。本発明は当該障害を軽減する手段を提供する。
【0015】
本発明は、ひとつには、(大腸菌、ヘモフィルス及びマイコプラズマのSecGに基づく)SecGのコンセンサス配列との相同性による、従来、非特徴的な翻訳ゲノムDNAであるとされてきたB.ズブチリスSecG分泌因子(以下、YVALとも呼ぶ)の発見に基づき、B.ズブチリスSecGが大腸菌SecGの機能的相同体であるという実証に基づく。本発明は、ひとつには、B.ズブチリスSecGがその他のB.ズブチリス分泌因子と組み合わせて機能的プレタンパク質トランスロカーゼを形成するという測定にも基づく。
【0016】
本発明はB.ズブチリスSecGの単離核酸及び推定アミノ酸配列を提供する。B.ズブチリスSecGのアミノ酸配列(配列番号1)を図1に示す。B.ズブチリスSecGをエンコードする核酸配列(配列番号2)も図1に示す。
【0017】
また、本発明はグラム陽性微生物からタンパク質を分泌するための改善された方法も提供する。従って、本発明はグラム陽性微生物内で所望のタンパク質を分泌するための改善された方法を提供し、当該方法は、SecGをエンコードする核酸を含むグラム陽性微生物宿主細胞を得る工程であって、当該核酸はグラム陽性微生物中でSecGを発現できる発現シグナルに制御され、当該微生物がさらに所望のタンパク質をエンコードする核酸を含み;SecGの発現に適した条件下で当該微生物を培養する工程;及び最終的に、当該タンパク質を発現及び分泌する工程を含む。本発明の1の実施態様において、所望のタンパク質はグラム陽性微生物内で天然に生じるタンパク質、または相同体である。本発明の他の実施態様において、所望のタンパク質はグラム陽性微生物と異種のものである。
【0018】
本発明の他の側面において、微生物は、酵素、成長因子またはホルモンなど所望のタンパク質を生産するように遺伝子組換えされる。いくつかの好ましい実施態様において、酵素はプロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ及びリパーゼなどのカルボヒドラーゼ;ラセマーゼ、エピメラーゼ、トートメラーゼまたはムターゼなどのイソメラーゼ、トランスフェラーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、アシラーゼ、アミダーゼ、エステラーゼ、レダクターゼ、及びオキシダーゼからなる群より選択される。さらなる実施態様において、SecG分泌因子発現は分泌機構のその他の成分の発現と調整される。好ましくは、分泌機構のその他の成分(すなわち、トランスロカーゼ、SecA、SecY、SecE及び/または当業者に公知のその他の分泌因子)はSecGに対して最適比率で発現を調節される。例えば、いくつかの実施態様において、分泌機構を最適に高めるためにSecGに加えて複数の分泌因子を過剰発現することが望ましい。1の具体的な実施態様において、B.ズブチリスSecGはB.ズブチリスSecYE及びSecAと一緒に発現して機能的プレタンパク質トランスロカーゼを形成する。
【0019】
本発明は相同なグラム陽性微生物SecGタンパク質を同定する方法も提供する。いくつかの実施態様において、本方法はB.ズブチリスSecG核酸(例えば、図1に示す;配列番号2)の一部または全部をその他の目的グラム陽性微生物由来核酸とハイブリダイズさせる工程を含む。1の実施態様において、核酸はゲノム起源であり、一方、他の実施態様において、核酸はcDNAである。本発明はさらに、本方法により同定される新規なグラム陽性微生物分泌因子を包含する。
【0020】
また、本発明は染色体の、天然SecGプロモーター配列の突然変異を誘発するための方法及び組成物も提供する。いくつかの好ましい実施態様において、この突然変異誘発の結果、SecG遺伝子転写の増加または減少が生じる。さらに別の実施態様において、シャイン・ダルガーノ配列(すなわち、リボソーム結合部位)及び/またはRNAポリメラーゼσ因子アルファ(σ)を変異し、SecG転写の転写/翻訳の増加または減少が生じる(例えば、Henner,DNA 3:17−21[1984]を参照)。従って、SecG発現を調節する発現ベクターを利用する方法に加えて、本発明は染色体の、天然SecGプロモーターの調節に関する方法及び組成物を提供する。
【0021】
発明の詳細な説明
本発明を説明する前に、出願人は以下の定義を用いる。
【0022】
定義
ここで用いる、バチルス属は当業界に公知の全ての種及び亜種を含み、限定されないが、B.ズブチリス、B.リケニフォルミス、B.レンタス、B.ブレビス、B.ステアロサーモフィラス、B.アルカロフィラス、B.アミロリケファシエンス、B.コアグランス、B.サーキュランス、B.lautus及びB.チューリンゲンシスを含む。
【0023】
本発明はグラム陽性微生物由来の新規なSecG分泌因子を包含する。好ましい実施態様において、グラム陽性微生物はバチルス属の1種である。他の好ましい実施態様において、グラム陽性微生物はB.ズブチリスである。ここで用いる、“B.ズブチリスSecG分泌因子”の語は図1に示す、推定アミノ酸配列(配列番号1)をいう。本発明は図1に開示されるアミノ酸配列の変異体を包含し、その他の分泌因子と組み合わせて、または単独で分泌を調節することができる。
【0024】
ここで用いる、“核酸”とはヌクレオチドまたはポリヌクレオチド配列及びそれらの断片または一部をいい、及びセンスまたはアンチセンスストランドを表す2本鎖または1本鎖であるゲノムまたは合成起源のDNAまたはRNAをいう。
【0025】
ここで用いる、“アミノ酸”とは、ペプチドまたはタンパク質配列またはそれらの一部をいう。
【0026】
ここで用いる、小文字“secG”は核酸配列を示すために用い、それに対して大文字“SecG”はアミノ酸配列を示すために用いる。
【0027】
ここで用いる“B.ズブチリスポリヌクレオチド相同体”または“ポリヌクレオチド相同体”は、図1のSecGポリヌクレオチド(配列番号2)に対して少なくとも80%、少なくとも90%の同一性を有する新規なポリヌクレオチドをいい、または好ましい実施態様において、少なくとも95%の同一性を有し、または図1のポリヌクレオチド(配列番号2)に対して高ストリンジェンシーな条件下でハイブリダイズでき、由来元のグラム陽性微生物の分泌調整できるアミノ酸配列をエンコードする配列をいう。
【0028】
ここで用いる“目的遺伝子”の語は、細胞内での発現がトランスフェクト細胞上でさらに研究を行うために望ましいものである、発現ベクターのポリリンカー内に導入される遺伝子をいう。目的遺伝子はトランスフェクト細胞内での高レベルの発現が望ましい任意のタンパク質をエンコードできる。目的遺伝子はここに提供する例に限定されない;目的遺伝子は細胞表面タンパク質、分泌タンパク質、イオンチャネル、細胞質タンパク質、核タンパク質(例えば、調節タンパク質)、ミトコンドリアタンパク質等を含む。
【0029】
ここで用いる、“調節”とは遺伝子分泌または発現の増加または減少をいう。特に好ましい実施態様において、当該語はタンパク質の分泌パターンが変化する分泌因子の発現における変化をいう。
【0030】
ここで用いる“単離”及び“精製”の語は、天然に結合している少なくとも1の成分から取り除かれた成分(例えば、核酸またはアミノ酸)をいう。
【0031】
ここで用いる、“異種タンパク質”の語は、グラム陽性宿主細胞内に天然に生じないタンパク質またはポリペプチドをいう。異種タンパク質の例としては酵素を含み、例えばプロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼなどのヒドロラーゼ、その他のカルボヒドラーゼ、リパーゼ、イソメラーゼ、ラセマーゼ、エピメラーゼ、トートメラーゼ、ムターゼ、トランスフェラーゼ、キナーゼ及びホスファターゼなどがある。いくつかの実施態様において、異種遺伝子は治療上重要なタンパク質またはペプチドをエンコードし、例えば成長因子、サイトカイン、配位子、受容体及び阻害因子、並びにワクチン及び抗体である。いくつかの実施態様において、遺伝子は商業的に重要な工業タンパク質またはペプチドをエンコードし、例えば、プロテアーゼ、カルボヒドラーゼ、例えばアミラーゼ及びグルコアミラーゼ、セルラーゼ、オキシダーゼ及びリパーゼである。いくつかの実施態様において、目的遺伝子は天然遺伝子であり、一方、他の実施態様において、変異遺伝子であり、さらに他の実施態様において、目的遺伝子は合成遺伝子である。
【0032】
“相同タンパク質”の語はグラム陽性微生物内で天然または自然に生じるタンパク質またはポリペプチドをいう。本発明は組換えDNA技術により相同タンパク質を生産する宿主細胞を含む。本発明はプロテアーゼなどの天然相同タンパク質をエンコードする核酸の欠失または中断を有し、相同タンパク質または組換え体に再導入されたそれらの変異体をエンコードする核酸を有するグラム陽性宿主細胞を包含する。他の実施態様において、宿主細胞は相同タンパク質を生産する。
【0033】
ここで用いる、“組換えタンパク質”及び“組換えポリペプチド”の語は組換えDNA分子から発現するタンパク質分子をいう。
【0034】
“天然タンパク質”の語はベクター配列によりエンコードされたアミノ酸残基を含まないタンパク質を示すためにここで用いる(すなわち、天然タンパク質は天然に生じるタンパク質に見られるアミノ酸のみを含む)。天然タンパク質は組換え技術により生成でき、または天然源から単離できる。
【0035】
ここで用いるタンパク質に言及する際の“一部”の語(“所定タンパク質の一部”など)はタンパク質の断片をいう。断片のサイズは4アミノ酸残基〜全体のアミノ酸配列からアミノ酸1つを除いた範囲となる。
【0036】
ここで用いる、“融合タンパク質”の語は外来タンパク質断片に結合した目的タンパク質を含むキメラタンパク質をいう。融合パートナーは宿主細胞で発現されるタンパク質の溶解性を高めることができ、宿主細胞または培養上清液またはその両方から組換え融合タンパク質の精製を可能にするアフィニティータグを提供できる。所望により、融合タンパク質は当業界に公知の種々の酵素的または化学的手段により目的タンパク質から除去できる。
【0037】
ここで用いる、“調節”とは酵素の生物学的活性の変化または変更をいう。当該語はタンパク質活性の増加または減少、結合特性の変化、または酵素の生物学的、機能的または免疫学的特性のその他の変化を包含するものとする。
【0038】
“野生型”の語は天然源から単離された場合、その遺伝子または遺伝子産物の特性を有する遺伝子または遺伝子産物をいう。野生型遺伝子はある集団において最も頻繁に観察されるものであり、従って、任意に遺伝子の“標準”または“野生型”形態を設計する。一方、“修飾”または“変異”の語は、野生型遺伝子または遺伝子産物と比較したときに、配列または機能的特性の変更を示す(すなわち、特性の変化)遺伝子または遺伝子産物をいう。自然発生の変異体も単離でき、野生型遺伝子または遺伝子産物と比較したときに変化した特性を有するという事実により同定されることにも留意されたい。
【0039】
ここで用いる、“ベクター”の語は1の細胞から他の細胞にDNA断片を移動する核酸分子に関して用いられる。“媒体”は“ベクター”と交換可能に用いる場合もある。
【0040】
ここで用いる“発現ベクター”の語は所望のコード配列及び特定の宿主生物内のコード配列に動作可能に連結した発現に必要な適した核酸配列を含む組換えDNA分子をいう。原核生物での発現に必要な核酸配列は、プロモーター、任意でオペレーター配列、リボソーム結合部位及びその他の可能な配列が挙げられる。
【0041】
“増幅”はテンプレート特異性に関する核酸複製の特別なものである。非特異的テンプレート複製はその対照をなすものである(すなわち、テンプレート依存だが特異テンプレートに依存しない複製)。テンプレート特異性は複製の厳守(すなわち、正確なポリヌクレオチド配列の合成)及びヌクレオチド(リボ−またはデオキシリボ−)特異性とはここでは区別される。テンプレート特異性は“標的”特異性に関して表現されることが多い。標的配列は他の核酸から選別するために探求されるという意味において“標的”である。増幅技術は主としてこの選別に関して設計されている。
【0042】
大部分の増幅技術においてテンプレート特異性は酵素選択により達成される。増幅酵素は使用条件下で、核酸の異種混合物内で核酸の特異配列のみ処理する酵素である。例えば、QBレプリカーゼの場合、MDV−1 RNAはレプリカーゼの特異テンプレートである(Kacian et.al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 69:3038[1972])。他の核酸はこの増幅酵素によっては複製しない。同様に、T7 RNAポリメラーゼの場合、この増幅酵素は自身のプロモーターに厳密な特異性を有する(Chamberlin et.al.,Nature 228:227[1970])。T4 DNAリガーゼの場合、当該酵素は、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基質とテンプレートの連結部分にミスマッチがある場合、2つのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを連結しない(Wu and Wallace,Genomics 4:560[1989])。最終的に、Tag及びPfuポリメラーゼは、高温で機能する能力のため、結合配列に高い特異性を示し、従って、プライマーにより定義され;高温により、プライマーと標的配列のハイブリダイゼーションに有利だが、非標的配列とのハイブリダイゼーションには有利でない熱力学的条件を生じる(Erlich(編集)、PCR Technology(PCR技術)、Stockton Press[1989])。
【0043】
ここで用いる、“増幅可能な核酸”の語は任意の増幅法により増幅できる核酸に関して用いられる。“増幅可能な核酸”は通常“サンプルテンプレート”を含むものとする。
【0044】
ここで用いる、“サンプルテンプレート”の語は“標的”(下に定義)の存在を分析するサンプル起源の核酸をいう。それに対し、“バックグラウンドテンプレート”はサンプル内に存在する、または存在しないサンプルテンプレート以外の核酸に関して用いる。バックグラウンドテンプレートはほとんどの場合、意図せずに含まれたものであり、繰越しの結果生じたものであり、またはサンプルから精製すべき核酸汚染物の存在によるものである。例えば、検出すべき核酸以外の微生物由来の核酸は試験サンプル内でバックグラウンドとして存在し得る。
【0045】
ここで用いる、“プライマー”の語は、精製制限消化などの天然、または合成的に生成されたオリゴヌクレオチドをいい、核酸ストランドに相補的なプライマー伸長生成物の合成が誘発される条件下に置いた場合、合成の開始点として作用できる(すなわち、ヌクレオチド及びDNAポリメラーゼなどの誘発剤の存在中、及び適当な温度、pHで)。プライマーは好ましくは増幅の効率を最大にするために1本鎖であるが、あるいは2本鎖であってもよい。2本鎖の場合、プライマーは伸長生成物の調製に使用する前に、まずストランドの分離処理を行う。好ましくは、プライマーはオリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマーは誘発剤の存在下で伸長生成物の合成を用意するために十分に長くなくてはならない。プライマーの実際の長さは、温度、プライマーの起源及び使用方法によって変わる。
【0046】
ここで用いる“プローブ”の語は、精製制限消化などの天然、または合成的、組換え的またはPCR増幅により生成されたオリゴヌクレオチドをいい(すなわち、ヌクレオチド配列)、他の目的オリゴヌクレオチドにハイブリダイズできる。プローブは1本鎖または2本鎖でもよい。プローブは特定の遺伝子配列の検出、同定及び単離に有用である。本発明で使用するプローブは任意の“レポーター分子”で標識され、限定されないが酵素(例えば、ELISA、及び酵素ベース組織化学的分析)、蛍光、放射性、及び発光システムなどの任意の検出システムで検出可能である。本発明はいかなる特定の検出システムまたは標識にも限定されるものではない。
【0047】
本発明のいくつかの実施態様において、図1のSecGヌクレオチド配列由来の少なくとも約10ヌクレオチド及び約60ヌクレオチドまでの核酸配列、好ましくは約12〜30ヌクレオチド、及びより好ましくは約20〜25ヌクレオチドはプローブまたはPCRプライマーとして使用できる。
【0048】
ここで用いる、ポリメラーゼ連鎖反応に関して用いられる“標的”の語は、ポリメラーゼ連鎖反応に用いるプライマーが結合する核酸領域をいう。従って、“標的”はその他の核酸配列から選別すべきである。“断片”は標的配列内の核酸領域として定義される。
【0049】
ここで用いる、“ポリメラーゼ連鎖反応”(“PCR”)は、ここに引用する米国特許第4,683,195号、第4,683,202号及び第4,965,188号の方法をいい、ゲノムDNAの混合物中、クローニングまたは精製なしで標的配列の断片濃度を増加させる方法が記載されている。標的配列を増幅させるこの方法は過剰な2つのオリゴヌクレオチドプライマーを所望の標的配列を含むDNA混合物に導入し、続いてDNAポリメラーゼの存在下、厳格な連続熱サイクルからなる。2つのプライマーは2本鎖標的配列のそれぞれのストランドに相補的である。増幅達成のため、混合物を変性し、次にプライマーを標的分子内の相補配列にアニールする。アニーリングの後、プライマーを相補鎖の新しいペアを作るためにポリメラーゼを用いて伸長する。変性、プライマーアニーリング及びポリメラーゼ伸長の工程は何回も繰り返すことができ(すなわち、変性、アニーリング及び伸長は1の“サイクル”を構成;多数の“サイクル”が繰り返され得る)、所望の標的配列の増幅断片を高濃度で得ることができる。所望の標的配列の増幅断片長さはそれぞれについてのプライマーの相対位置により決定し、従って、この長さは制御可能なパラメーターである。工程の繰返しが特徴であるため、当該方法は“ポリメラーゼ連鎖反応”(以下、“PCR”)と呼ばれる。標的配列の所望の増幅断片は混合物中で主要配列(濃度に関しては)となるので、これを“PCR増幅物”という。
【0050】
PCRを用いて、ゲノムDNA内の特異標的配列の1のコピーをいくつかの異なる方法により検出可能なレベルまで増幅することが可能である(例えば、標識プローブを用いたハイブリダイゼーション;ビオチニル化プライマーを組み込み、アビジン−酵素結合検出;dCTPまたはdATPなどの32P−標識デオキシヌクレオチドトリホスフェートを増幅断片へ組み込む)。ゲノムDNAに加えて、任意のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド配列が適当なプライマー分子セットを用いて増幅できる。特に、PCR工程自身により作られる増幅断片はそれ自身が次のPCR増幅のテンプレートに有効である。
【0051】
ここで用いる、“PCR産物”“PCR断片”及び“増幅生成物”の語は変性、アニーリング及び伸長のPCR工程サイクルを2回以上終えた後の最終的な化合物の混合物をいう。これらの語は1以上の標的配列の1以上の断片が増幅された場合を含む。
【0052】
ここで用いる、“増幅試薬”の語はプライマー、核酸テンプレート及び増幅酵素以外の増幅に必要な試薬をいう(デオキシリボヌクレオチドトリホスフェート、緩衝液等)。一般的に、増幅試薬はその他の反応成分と一緒に反応容器(試験管、マイクロウェル等)内に混入される。
【0053】
ここで用いる、“制限エンドヌクレアーゼ”及び“制限酵素”の語は細菌酵素をいい、いずれも特異ヌクレオチド配列で、またはその近くで2本鎖DNAを切断する。
【0054】
ここで用いる、“ハイブリダイゼーション”の語は相補的核酸の対合に関して用いる。ハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションの強度(すなわち、核酸間のつながりの強度)は核酸間の相補度、伴う条件の厳密度(ストリンジェンシー)、形成ハイブリッドのTm、及び核酸内のG:C比などの因子により影響される。
【0055】
ここで用いる、“Tm”の語は“融点”に関して用いる。融点は2本鎖核酸分子の集団が1本鎖に半分に分離される温度である。核酸のTmの計算式は当業界で公知である。標準的な文献に示されるように、核酸が1M NaCl水溶液中にある場合、Tm値の簡単な概算は式:Tm=81.5+0.41(%G+C)により計算できる(例えば、Anderson and Young,Nucleic Acid Hybridization(核酸ハイブリダイゼーション)[1985]の“Quantitative Filter Hybridization(定量フィルターハイブリダイゼーション)”を参照されたい)。その他の文献は、Tmの計算に構造及び配列特性を考慮した、より複雑な計算を含む。
【0056】
ここで用いる“ストリンジェンシー”の語は、核酸ハイブリダイゼーションが行われる温度、イオン強度、及び有機溶媒などその他の化合物の存在のような条件に関して用いられる。“高ストリンジェンシー”条件では、核酸塩基対合は相補的塩基配列を高頻度で有する核酸断片間でのみ起こる。従って、“弱”または“低”ストリンジェンシー条件は相補的配列の頻度が通常は少ないので、遺伝的に多様な微生物由来の核酸を用いることが必要な場合に多い。
【0057】
“最大ストリンジェンシー”は通常、約Tm−5℃(プローブのTmより5℃低い)で起こり;“高ストリンジェンシー”はTmより約5℃〜10℃低く;“中ストリンジェンシー”はTmより約10℃〜20℃低く;及び“低ストリンジェンシー”はTmより20℃〜25℃低い。当業者に理解されるように、最大ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは同一のポリヌクレオチド配列を同定または検出するために用いることができ、一方、中または低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションはポリヌクレオチド配列相同体を同定または検出するために用いることができる。
【0058】
ここで用いる、“相補的”または“相補性”の語は塩基対合ルール関係にあるポリヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチド配列)に関して用いられる。例えば、配列“A−G−T”は配列“T−C−A”に相補的である。相補性は核酸塩基のいくつかのみが塩基対合ルールに従って適合するような、“部分的”であってもよい。または核酸間の相補性が“完全”または“全体”であってもよい。核酸ストランド間の相補性の度合いは核酸ストランド間のハイブリダイゼーションの効率及び強度に大きく影響する。これは増幅反応、及び核酸間の結合に依存する検出方法において特に重要である。
【0059】
“相同性”の語は相補性の度合いをいう。部分的な相同性または完全な相同性(すなわち、同一)がある。部分的に相補的な配列は、完全に相補的な配列が標的核酸にハイブリダイズするのを少なくとも部分的に阻害する配列であり、“実質的に相同”の用語を用いて言及される。完全に相補的な配列の標的配列へのハイブリダイゼーション阻害は低ストリンジェンシー条件下でハイブリダイゼーション分析(サザンまたはノーザンブロット、溶液ハイブリダイゼーション等)を用いて考察できる。実質的に相同な配列またはプローブは低ストリンジェンシー条件下での完全な相同体の標的への結合(すなわち、ハイブリダイゼーション)と競合し、阻害する。これは、低ストリンジェンシー条件が非特異結合を可能にするというわけではない。なぜなら低ストリンジェンシー条件は2つの配列のお互いの結合が特異的(すなわち、選択的)相互作用であることが必要だからである。非特異結合が不存在であるかは部分的な相補性さえも有さない第2の標的(例えば、約30%より低い同一性)の使用により試験でき、すなわち非特異結合の不存在下では、プローブは第2の非相補性標的にハイブリダイズしない。
【0060】
低ストリンジェンシー条件を含む多数の同様の条件が採用できることが当業者に公知であり、例えばプローブの長さ及び種類(DNA、RNA、塩基組成物)及び標的の性質(DNA、RNA、塩基組成物、溶液中または固定化されている、等)及び塩及びその他の成分(例えば、ホルムアミド、硫酸デキストラン、ポリエチレングリコールが存在または不存在)の濃度などの因子が考えられ、上記条件と異なるが同等な低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションの条件を生じるハイブリダイゼーション溶液は様々である。さらに、高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイゼーションを促進する条件は当業界に公知である(例えば、ハイブリダイゼーション温度を上げる、及び/または洗浄工程、ハイブリダイゼーション溶液中のホルムアミドの使用、等)。
【0061】
cDNAまたはゲノムクローンなどの2本鎖核酸配列に関して用いる場合、“実質的に相同”の語は、上述の通り、低ストリンジェンシー条件下で2本鎖核酸配列のいずれかまたは両方のストランドにハイブリダイズできる任意のプローブをいう。
【0062】
ここで用いる“動作可能な組み合わせ”“動作可能な順序”及び“動作可能に連結”の語は、核酸分子が所定の遺伝子の転写を導くことができる及び/または所望のタンパク質分子の合成が生じるような核酸配列の連結をいう。また、当該語は機能性タンパク質が生じるようなアミノ酸配列の連結をいう。
【0063】
ここで用いる“欠失”は、それぞれ1以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基が欠如しているヌクレオチドまたはアミノ酸配列の変化として定義される。本発明で有用な変異グラム陽性secGポリヌクレオチド配列は種々のヌクレオチド残基の欠失、挿入または置換を含み、それぞれ、同じまたは機能的に同等なsecG相同体をエンコードするポリヌクレオチドを生じる。
【0064】
ここで用いる“挿入”または“付加”は、天然グラム陽性secGと比較してそれぞれ1以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基が追加されたヌクレオチドまたはアミノ酸配列の変化をいう。
【0065】
好ましい実施態様の詳細な説明
本発明は新規なグラム陽性微生物分泌因子を提供し、及びタンパク質分泌及び分泌形態のタンパク質生産に対する障害を改善するためにグラム陽性微生物内で用いることができる方法を提供する。特に、タンパク質が組換え技術により導入され、宿主細胞により過剰発現された場合にかかる障害を改善するために用いることができる方法を提供する。特に好ましい実施態様において、本発明はB.ズブチリス由来分泌因子SecGを提供する。
【0066】
I. SecG核酸及びアミノ酸配列
A. SecG核酸配列
図1に示す配列(配列番号2)を有するSecGポリヌクレオチドはB.ズブチリス分泌因子SecGをエンコードする。大腸菌SecG配列のみを用いたB.ズブチリス翻訳ゲノム配列のFASTAサーチはB.ズブチリスSecGを同定しなかった。B.ズブチリスSecGを、図2に示す大腸菌(配列番号3)、ヘモフィルス(配列番号4)及びマイコプラズマ(配列番号5)種由来の30アミノ酸SecGのコンセンサス配列を用いてバチルス・ズブチリス翻訳ゲノム配列のFASTAサーチにより同定した。使用したコンセンサス配列は“LVGLILLQQG KGAXXGASFG GGASXTLFGS”(配列番号6)であり、アミノ酸末端からカルボキシ末端方向、FASTAサーチ(リリース1.0、1997年6月11日発売)パラメーターはスコアリングマトリックス;GenRunData:blosum50.cmp;変動パラメーターを用い:ギャップクリエーションペナルティ:12;及びギャップ伸張ペナルティ:2。
【0067】
上述の通り、本発明は、所望の異種または同種タンパク質またはポリペプチドの分泌を増加させるために、単独または、SecY、SecE及びSecAなどのその他の分泌因子と一緒にグラム陽性宿主細胞中で用いることができるグラム陽性secGポリヌクレオチドを提供する。
【0068】
本発明は、1または複数のポリヌクレオチドによりエンコードされる新規なグラム陽性微生物SecGをエンコードするsecGポリヌクレオチド相同体を包含し、グラム陽性微生物内の分泌を調節することで機能できるタンパク質をエンコードする相同体である限り、B.ズブチリスSecGと少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%の同一性を有する。当業者に理解されるように、遺伝コードの縮退により、種々のポリヌクレオチド(すなわち、SecGポリヌクレオチド変異体)がB.ズブチリス分泌因子SecGをエンコードできる。本発明はそのようなポリヌクレオチドを全て含む。
【0069】
B.ズブチリスSecGのグラム陽性ポリヌクレオチド相同体は当業者に公知の標準手順により得られ、例えば、クローンDNA(例えば、DNA“ライブラリー”)、ゲノムDNAライブラリーから、同定した後化学合成により、cDNAクローニングにより、またはゲノムDNAまたはその断片のクローニングにより、当業界に公知の方法を用いて所望の細胞から精製することにより得られる(例えば、Smbrook et.al.Molecular Cloning,A Laboratory Manual(分子クローニング、研究所マニュアル),第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York[1989];及びGlover(編集)、DNA Cloning:A Practical Approach(DNAクローニング:実践アプローチ),MRL Press,Ltd.,Oxford,U.K.Vol.I、II.[1985]を参照)。好ましいDNA源はゲノムDNAである。いくつかの実施態様において、ゲノムDNA由来の核酸配列はコード領域に加えて調節領域を含む。供給源が何であっても、単離secG遺伝子は当該遺伝子の増殖に適したベクター内に分子的にクローンされることが考えられる。
【0070】
ゲノムDNA由来遺伝子の分子クローニングにおいて、DNA断片を生じ、そのいくつかは所望の遺伝子をエンコードする。DNAは種々の制限酵素を用いて特定部位で切断できる。もしくは、マンガンの存在下、DNAを断片化するためにDNAアーゼを用いることができ、またはDNAは例えば超音波処理などにより物理的にせん断できる。それから線状DNA断片は標準技術により大きさに従って分離でき、限定されないが、アガロース及びポリアクリルアミドゲルエレクトロフォレーシス及びカラムクロマトグラフィーなどの技術がある。
【0071】
DNA断片が生じると、SecGを含む特定DNA断片の同定は多数の方法で達成できる。例えば、本発明のB.ズブチリスSecG遺伝子または特異RNA、またはそれらの断片、例えばプローブまたはプライマーが単離及び標識でき、それからグラム陽性SecG遺伝子を検出するためのハイブリダイゼーション分析に用いることができる(Benton and Davis,Science 196:180[1977];及びGrunstein and Hogness,Proc.Natl.Acad.Sci.USA72:3961[1975]を参照)。プローブに類似した実体配列を共有するそれらのDNA断片はストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。
【0072】
従って、本発明はB.ズブチリスSecGの核酸配列の一部または全部とゲノムまたはcDNA起源のグラム陽性微生物核酸をハイブリダイズすることを含む、グラム陽性SecGポリヌクレオチド相同体を検出するための方法を提供する。
【0073】
また、本発明の範囲には、中〜最大ストリンジェンシーな条件下でB.ズブチリスSecGの核酸配列にハイブリダイズできるグラム陽性微生物ポリヌクレオチド配列が含まれる。ハイブリダイゼーション条件は、ここに引用されるBerger and Kimmel(“Guide to Molecular Cloning Techniques,”Methods in Enzymology,vol.152、Academic Press、San Diego CA[1987])に教示されるように、核酸結合複合体の融点(Tm)に基づき、明確なストリンジェンシーを与える。
【0074】
また、本発明の範囲には、図1のsecGヌクレオチド配列の一部または全部に中〜最大ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズできる新規なグラム陽性微生物secGポリヌクレオチド配列が含まれる。
【0075】
B.アミノ酸配列
図1に示すB.ズブチリスsecGポリヌクレオチドはB.ズブチリスSecGをエンコードする。本発明は、図1に示すアミノ酸配列の新規なグラム陽性微生物アミノ酸変異体を包含し、アミノ酸配列変異体がグラム陽性微生物中で単独または他の分泌因子と組み合わせてタンパク質分泌を調節することで機能できる限りにおいて、図1に示す配列と少なくとも80%同一性、少なくとも90%同一性、または少なくとも95%同一性を有する。
【0076】
図1に示す分泌因子SecGは、SecGのコンセンサスアミノ酸配列に対するFASTA(Lipmann Peason手順)アミノ酸サーチに従う。当該アミノ酸配列を図2に示す。図5に示すB.ズブチリスSecGの親水性プロファイルは2つの潜在的な膜全領域を示す。
【0077】
II.発現系
本発明は、グラム陽性微生物における所望の異種またはタンパク質の生産及び分泌が高められた発現系を提供する。
【0078】
A.コード配列
本発明において、ベクターはグラム陽性微生物SecG分泌因子をエンコードする核酸のコピーを少なくとも1含み、好ましくは複数のコピーを含む。好ましい実施態様において、グラム陽性微生物はバチルスである。他の好ましい実施態様において、グラム陽性微生物はバチルス・ズブチリスである。好ましい実施態様において、B.ズブチリスSecGまたはその断片、または融合タンパク質をエンコードするポリヌクレオチドまたはSecGのアミノ酸変異体をエンコードするポリヌクレオチド相同体配列は、グラム陽性宿主細胞中でそれぞれ、SecGまたはそのアミノ酸変異体の発現を目的とする組換えDNA分子を生成するために用いることができる。好ましい実施態様において、宿主細胞はバチルス属に属する。他の好ましい実施態様において、宿主細胞はB.ズブチリスである。
【0079】
当業者に理解されるように、いくつかの実施態様において、非天然コドンを有するポリヌクレオチド配列を生成することは有利である。特定のグラム陽性宿主細胞に好ましいコドン(Murray et.al.、Nucl.Acids Res.,17:477−508[1989])は例えば、発現速度を増加するように、または天然配列から生じた転写より長い半減期など所望の性質を有する組換えRNA転写を生じるように選択できる。
【0080】
また、エンコードされたタンパク質もアミノ酸残基の欠失、挿入または置換を示し、サイレント変化を生じ、機能的に同等なグラム陽性secG変異体を生じる。変異体が分泌調節能力を維持する限り、意図的なアミノ酸置換を極性、変化、溶解性、疎水性、親水性及び/または残基の両親媒性の類似性に基づいて作ることができる。例えば、負に帯電したアミノ酸にはアスパラギン酸及びグルタミン酸があり;正に帯電したアミノ酸はリジン及びアルギニンがあり;及び類似の親水性値を有する非荷電極性頭部を含んだアミノ酸はロイシン、イソロイシン、バリン;グリシン、アラニン;アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン、フェニルアラニン及びチロシンがある。
【0081】
本発明のsecGポリヌクレオチドは遺伝子産物のクローニング、処理及び/または発現を修正するために設計できる。例えば、当業界に公知(例えば、部位特異的突然変異誘発法)の技術を用いて変異を誘発し、新しい制限部位の挿入、糖化パターンの変更またはコドン選択(preference)の変化などができる。
【0082】
本発明の1の実施態様において、secGポリヌクレオチドは異種配列に連結して融合タンパク質をエンコードする。また、融合タンパク質はSecGヌクレオチド配列と異種タンパク質配列間に位置した切断部位を含むよう設計でき、SecGタンパク質を切断して、異種部位から取り除くようにできる。
【0083】
B.ベクター配列
グラム陽性微生物中において本発明の分泌因子の発現に用いる発現ベクターは、グラム陽性SecGに関する少なくとも1のプロモーターを含み、当該プロモーターは宿主細胞内で機能する。本発明の1の実施態様において、当該プロモーターは選択した分泌因子の野生型プロモーターであり、本発明の他の実施態様において、当該プロモーターは分泌因子と異種であるが依然として宿主細胞内で機能するものである。
【0084】
所望のタンパク質またはポリペプチドをエンコードする異種核酸に関する他のプロモーターは組換えDNA技術により導入できる。本発明の1の実施態様において、宿主細胞は異種タンパク質またはポリペプチドを過剰発現でき、1以上の分泌因子をエンコードする核酸が組換え技術により導入される。本発明の好ましい実施態様において、SecGをエンコードする核酸は微生物ゲノム内に安定して統合される。他の実施態様において、宿主細胞を本発明の分泌因子を過剰発現するように設計し、異種タンパク質またはポリペプチドをエンコードする核酸を組換えDNA技術により導入する。実施例IIIは宿主細胞内でB.ズブチリスSecGを過剰発現できることを示す。本発明は当業者に公知のその他の分泌因子を過剰発現できるグラム陽性宿主細胞を包含し、限定されないが、SecA、SecY、SecEまたは当業者に公知のまたは将来同定されるその他の分泌因子を含む。実施例IIで開示される1の実施態様において、B.ズブチリスSecGはB.ズブチリス分泌因子SecY、E及びAと共に機能的プレタンパク質トランスロカーゼの形成に関与することができる。
【0085】
好ましい実施態様において、発現ベクターは好ましくは当該ベクターに特有の少なくとも1の制限エンドヌクレアーゼ部位を含む複数のクローニング部位カセットを含み、核酸操作を容易にする。好ましい実施態様において、当該ベクターは1以上の選択マーカーも含む。ここで用いる、選択マーカーの語はグラム陽性宿主において発現できる遺伝子をいい、当該ベクターを含むこれらの宿主の選択を容易にできる。そのような選択マーカーの例としては、限定されないが、抗生物質を含み、例えば、エリスロマイシン、アクチノマイシン、クロラムフェニコール及びテトラサイクリンが挙げられる。
【0086】
C.形質転換
本発明の1の実施態様において、1以上の本発明のグラム陽性分泌因子をエンコードする核酸を宿主細胞内で複製できる発現ベクターによりグラム陽性宿主細胞内に導入する。バチルスの適当な複製プラスミドは公知である(例えば、Harwood and Cutting[編集]、Molecular Biological Methods for Bacillus(バチルスの分子生物学的方法),John Wiley&Sons[1990]を参照;特に、第3章[プラスミドについて(on plasmids)]を参照されたい。B.ズブチリスの適当な複製プラスミドの例が92頁に記載されている)。
【0087】
他の実施態様において、グラム陽性微生物SecGをエンコードする核酸を微生物ゲノム内に安定に統合させる。好ましいグラム陽性宿主細胞はバチルス属を含む。他の好ましいグラム陽性宿主細胞はB.ズブチリスである。当業界に公知であるように、バチルスにおけるDNAの直接クローニングについていくつかの方法が文献に記載されている。例えば、プラスミドマーカーレスキュー形質転換は、部分的に相同なレジデントプラスミドを運ぶコンピテント細胞によりドナープラスミドの摂取を伴う(Contente et.al.、Plasmid 2:555−571[1979];Haima et.al.、Mol.Gen.Genet.、223:185−191[1990];Weinrauch et.al.、J.Bacteriol.,154(3):1077−1087[1983];及びWeinrauch et.al.、J.Bacteriol.,169(3):1205−1211[1987])。入来ドナープラスミドは、染色体形質転換を擬態する方法においてレジデント“ヘルパー”プラスミドの相同領域と組換えする。さらに、プロトプラスト形質転換による形質転換方法が当業界に公知である(例えば、Chang and Cohen、Mol.Gen.Genet 168:111−115[1979];Vorobjeva et.al.、FEMS Microbiol.Lett.,7:261−263[1980];Smith et.al.、Appl.Environ.Microbiol.,51:634[1986];Fisher et.al.、Arch.Microbiol.,139:213−217[1981];McDonald,Gen.Microbiol.130:203[1984];Bakheit et.al.、Appl.Environ.Microbiol.,49:577[1985];Mann et.al.、Curr.Microbiol.,13:131−135[1985];及びHolubova,Folia Microbiol.30:97[1985]を参照されたい)。
【0088】
III.形質転換体の同定
マーカー遺伝子発現の存在/不存在により目的遺伝子の存在も示唆されるが、本発明の好ましい実施態様において、その存在及び発現が確認される。例えば、SecGをエンコードする核酸をマーカー遺伝子配列内に挿入する場合、当該挿入を含む組換え細胞はマーカー遺伝子機能の不存在により同定できる。もしくは、マーカー遺伝子は1のプロモーターの制御下で分泌因子をエンコードする核酸と並行して位置することができる。誘導または選択に応えたマーカー遺伝子の発現は通常、分泌因子の発現も同様に示す。
【0089】
もしくは、分泌因子のコード配列を含み、当該タンパク質を発現する宿主細胞は当業界に公知の種々の手順により同定できる。これらの手順は限定されないが、DNA−DNA、またはDNA−RNAハイブリダイゼーション及びタンパク質バイオアッセイまたは免疫測定技術を含み、核酸またはタンパク質の検出及び/または定量のための膜ベース、溶液ベースまたはチップベース技術を含む。
【0090】
secGポリヌクレオチド配列の存在はDNA−DNAまたはDNA−RNAハイブリダイゼーションまたはプローブ、B.ズブチリスsecGポリヌクレオチド由来の一部または断片を用いた増幅により検出できる。
【0091】
IV.分泌アッセイ
ここで実施例IVに開示される実施態様において、SecGをエンコードする核酸において阻害を有するB.ズブチリス細胞はいくつかの細胞外タンパク質の分泌において欠陥を有するようである。
【0092】
グラム陽性宿主細胞における異種または同種タンパク質の分泌レベルを決定する手段及び分泌タンパク質を検出する手段は、検出すべきタンパク質に特異なポリクローナルまたはモノクローナル抗体を用いることを含む。例としては、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、放射免疫測定(RIA)及び蛍光活性化細胞分類(FACS)などがある。これら及び他の免疫測定システムは当業界に公知である(例えば、Hampton et.al.、Serological Methods,a Laboratory Manual,APS Press、St.Paul MN[1990];及びMaddox et.al.、J.Exp.Med.、158:1211[1983]を参照されたい)。
【0093】
種々の標識及び接合技術が当業界に公知であり、種々の核酸及びアミノ酸分析に用いることができる。さらに、標識ハイブリダイゼーションまたは特定ポリヌクレオチド配列を検出するためのPCRプローブを生成する手段はオリゴ標識、ニックトランスレーション、エンドラベリングまたは標識ヌクレオチドを用いたPCR増幅などが挙げられる。もしくは、ヌクレオチド配列またはその一部はmRNAプローブ作成のためのベクター内にクローンできる。当該ベクターは当業界に公知であり、市販されており、T7、T3またはSP6などの適当なRNAポリメラーゼ及び標識ヌクレオチドを加えることによりin vitroでRNAプローブを合成するために用いることができる。
【0094】
ファルマシアバイオテク社(Pharmacia Biotech、Pscataway,ニュージャージー州)、プロメガ社(Ptomega、マディソン、ウィスコンシン州)及びUSバイオケミカル社(US Biochemical Corp、クリーブランド、オハイオ州)などの多数の会社がこれらの方法のための市販キット及び手順を供給している。適当なリポーター分子または標識としては、これらの放射性核種、酵素、蛍光剤、化学発光剤またはクロモジェニック試薬及び基質、共同因子、阻害剤、磁性粒子等が挙げられる。当該標識の使用を教示する特許としては、ここに引用する米国特許第3,817,837号、第3,850,752号、第3,939,350号、第3,996,345号、第4,277,437号、第4,275,149号及び第4,366,241号が挙げられる。また、ここに引用する米国特許第4,816,567に示されるように、組換え免疫グロブリンが生成できる。
【0095】
V.タンパク質精製
異種または同種タンパク質をエンコードするポリヌクレオチド配列を用いて形質転換したグラム陽性宿主細胞は、発現及びエンコードされたタンパク質を細胞培養から回収するのに適した条件下で培養できる。本発明の分泌因子を含む組換えグラム陽性宿主細胞により生産されたタンパク質は培養基内で分泌される。その他の組換え構築体は異種または同種ポリヌクレオチド配列を、可溶性タンパク質の精製を促進する、ポリペプチドドメインをエンコードするヌクレオチド配列に結合させることができる(例えば、Kroll et.al.、DNA Cell Biol.、12:441−53[1993]を参照されたい)。
【0096】
そのような精製促進ドメインは、限定されないが、金属キレートペプチド、例えば固定化金属上で精製可能なヒスチジン−トリプトファンモジュール(Porath、Prot.Express.Purif.,3:263−281[1992])、固定化免疫グロブリン上で精製可能なタンパク質Aドメイン、及びFLAGS伸長/親和性精製システム(Immunex Corp,シアトル、ワシントン州)で利用されるドメインを含む。精製ドメインと異種タンパク質の間に因子XAまたはエンテロキナーゼ(インビトロジェン社(Invitrogen)、サンディエゴ、カリフォルニア州)など切断可能なリンカー配列を含むことによっても精製を促進することができる。
【0097】
本発明を実施する手段及び方法は以下の実施例を参照することにより当業者により十分に理解されるであろう。これらの実施例は本発明または特許請求の範囲の範囲をいかなる方法においても限定する趣旨のものではない。全ての文献及び特許文献はここにその全体を引用するものとする。
【0098】
実験
以下の実施例は本発明の特定の好ましい実施態様をさらに示し、説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるものではない。
【0099】
以下の実験の開示において、以下の略語を適用する:M(モル濃度);mM(ミリモル濃度);μM(マイクロモル濃度);nM(ナノモル濃度);mol(モル);mmol(ミリモル);μmol(マイクロモル);nmol(ナノモル);gm(グラム);mg(ミリグラム);μg(マイクログラム);pg(ピコグラム);L(リットル);ml(ミリリットル);μl(マイクロリットル);cm(センチメートル);mm(ミリメートル);μm(マイクロメートル);nm(ナノメートル);℃(摂氏温度);cDNA(コピーまたは相補的DNA);DNA(デオキシリボ核酸);ssDNA(1本鎖DNA);dsDNA(2本鎖DNA);dNTP(デオキシリボヌクレオチドトリフォスフェート);RNA(リボ核酸);PBS(リン酸緩衝生理食塩水);g(重量);OD(光学密度);ダルベッコ・リン酸緩衝生理食塩水(DPBS);HEPES(N−[2−ヒドロキシエチル]ピペラジン−N−[2−エタンスルホン酸]);HBS(HEPES緩衝生理食塩水);SDS(ドデシル硫酸ナトリウム);Tris−HCl(トリス[ヒドロキシメチル]アミノメタン−ヒドロクロリド);クレノウ(Klenow)(DNAポリメラーゼI大(Klenow)断片);rpm(1分当たりの回転数);EGTA(エチレングリコール−ビス(β−アミノエチルエーテル)N,N,N’,N’−4酢酸);EDTA(エチレンジアミン4酢酸);bla(β−ラクタマーゼまたはアンピシリン耐性遺伝子);エンドジェン社(Endogen、Woburn、マサチューセッツ州);Amersham社(Amersham、シカゴ、イリノイ州);DuPont NEN社(DuPont NEN、ボストン、マサチューセッツ州);バイオ−シンセシス社(Bio−Sybthesis、Lewisville、テキサス州);ATCC(American Type Culture Collection、Rockville、メリーランド州);Gibco/BRL(Gibco/BRL、Grand Island、ニューヨーク州);シグマ社(Sigma Chemical Co.,St.Louis、ミズーリ州);ファルマシア社(Pharmacia Biotech、Pisacataway、ニュージャージー州);ネオシステム社(Neosystem、Strasbourg、フランス);Schleicher&Schuell(Schleicher&Schuell、Durham、ニューハンプシャー州);USバイオケミカル(US Biochemical Corp、Cleveland、オハイオ州);キアゲン社(Qiagen、Valencia、カリフォルニア州);及びStratagene(Stratagene、La Jolla、カリフォルニア州)。
【0100】
実施例1
実験に使用する物質及び方法は実施例II−VIに記載する。
【0101】
A.細菌株及び培養基
菌株をルリア栄養(LB)培養液またはルリア寒天培地中で成長させた。必要に応じ、培地は実施例で示すように関連抗生物質を用いて補った。ベクター構築は大腸菌DH5α内で行った(supE44、ΔlacU169(Φ80lacZΔM15)、hsdR17、recA1、endAI、gyrA96、thi−1、relA1)。染色体欠失及び成長実験は当業界で公知のB.ズブチリスDB104(nprE18、aprEΔ3)内で行った(例えば、Yang et.al.、J.Bacteriol.,160:15−21[1984]を参照されたい)。
【0102】
B.プラスミド構築
適当なリボソーム結合部位を含む大腸菌secG及びB.ズブチリスyvaL遺伝子をPCRによりそれぞれDH5α及びDB104株由来の染色体DNAからBamHI−XbaIカセットとして増幅し、pブルースクリプト(pBluescript)SK+内にクローンした。使用したプライマーを表1に記載する。両オープンリーディングフレーム配列を決定し、及び関連データベースと比較した。大腸菌内で発現するため、当該遺伝子をpET324内でクローンし(Van der Does et.al.、Mol.Microbiol.、22:619−629[1996])、pET304(大腸菌secG)及びpET820(B.ズブチリスyvaL)を産出した。
【0103】
ベクターpPR111(pUB110誘導体(Diderichsen et.al.、Plasmid 30:312−315[1993]を参照)及びpBEY13(Dr.R.Breitlinから提供)は大腸菌内複製用のColE1複製起点及びグラム陽性微生物内複製用のRepRを用いるシャトルベクターである。これらのプラスミドは大腸菌のアンピシリン耐性マーカー及びB.ズブチリスのフレオマイシン耐性マーカーをエンコードする。ベクターpBEY13はB.ズブチリスsecY及びsecE遺伝子を構成ブドウ球菌sakプロモーターから発現する。プラスミドpET470及びpET471をそれぞれ大腸菌secG及びB.ズブチリスyvaLによりsecYEカセットを置換して形成した。ベクターpAMP21は、合成リボソーム結合部位及び開始コドンと重複するNcol部位を有するラクトコッカス由来p32プロモーター(van der Vossen et.al.、Appl.Environ.Microbiol.,10:2452−2457[1987]を参照)を含むpGK13(Kok et.al.、Appl.Environ.Microbiol.、48:726−731[1984])ベースの広宿主範囲ベクターである。B.アミロリケファシエンスα−アミラーゼ遺伝子をPCRによりNcoI−BamHIカセットとしてプラスミドpKTH10(Palva、Gene 1:81−87[1982]を参照)から単離し、NcoI−BamHI消化pAMP21内に連結した。得られたベクターは、pET468と称し、構成p32プロモーターの制御下でamyQ遺伝子を保持する。ベクターpET472及びpET473をそれぞれ大腸菌及びB.ズブチリスsecG遺伝子を連結することにより生じ、pブルースクリプト誘導体由来のBamHI−BssHII断片をBamHI−BssHII−MluI消化pET468内に含む。得られたベクターは1のp32プロモーターからタンデム化オペロンとしてB.アミロリケファシエンスα−アミラーゼ及びsecGまたはyvaLを発現する。
【0104】
yvaLを阻害するベクターを以下の通り生成した。yvaLのすぐ上流及び下流領域をそれぞれBamHI−XbaI及びKpnI−HincIIカセットとしてDB104株由来の染色体DNAから増幅し、pブルースクリプトSK+内にクローンした。続いて、BglII−PvuII消化クロラムフェニコール耐性マーカーをBamHIとHincII部位間に位置し、pDELG2を生じた。このベクターは、クロラムフェニコール耐性マーカーにより置換されたyvaLを含むDB104内に存在する、染色体領域を含む。
【0105】
バチルス・ズブチリスsecY、secE及び大腸菌secGの合成オペロンを含むプラスミドpET812、及びsecY及びB.ズブチリスのsecE及びyvaLを含むプラスミドpET822を当業界に公知の通り、表1に記載のプライマーを用いて大腸菌内で発現するために構築した(Van der Does et.al.、[1996]、上記を参照)。
【0106】
B.ズブチリスのアルカリホスフェートphoB(phoAIII)はPCR(表1のプライマーを参照)を用いてDB104の染色体DNAから増幅し、N末端はプラスミドpET302(Van der Does et.al.、Biochem.,37:201−210[1998])を用いてhisタグに融合し、pET461を作成した。この研究で用いたプラスミドの概観を表2に示す。
【表1】

【0107】
表中、使用した制限酵素の認識部位を下線で示す。リボソーム結合部位及び開始及び停止コドンは太字で示す。
【表2】

【0108】
C.B.ズブチリスの染色体由来SecG欠失
ベクターpDELG2をPvuIIを用いて消化し、クロラムフェニコール耐性マーカーにより置換された、yvaLに隣接する領域を含む2.8kb直鎖断片を生じた。B.ズブチリスDB104を当業界に公知の天然コンピテンスを用いて当該断片と形質転換し(Young、Nature 213:773−775[1967]を参照)、及びクロラムフェニコール耐性コロニーを選択した。染色体置換の正しい位置をPCRにより確認した。得られた菌株中、DB104ΔG、yvaLが、原型を保って隣接領域を離れる間、クロラムフェニコール耐性遺伝子により置換された。
【0109】
D.成長実験
B.ズブチリスDB104及びDB104ΔGを試験用に構築した6つのプラスミドをそれぞれ用いて形質転換した(すなわち、pPR111、pET470、pET471、pET468、pET472、及びpET473)。形質転換後、プレートを30℃で一晩中培養した。適当な抗菌薬を用いて選択圧力をこの時点から加えた。この段階でクロラムフェニコールは用いなかった。各形質転換体から1のコロニーを採取し、液体培地中、30℃で一晩中培養した。次に、5μlの一晩たった培養物をプレート上で植菌し、野生型株コロニーが直径数ミリメートルに達するまで、15℃〜30℃の温度範囲で培養した。プレートは毎日点検し、コロニーの発生及びサイズを記録した。
【0110】
大腸菌内で発現するために、プラスミドpET820及びpET304を前述の通り大腸菌KN370(ΔsecG::kan)に形質転換し(Nishiyama et.al.、EMBO J.,13:3272−3277[1994])、及び20℃または37℃で、1PTG(1mM)を用いて誘導した、または誘導しない寒天プレート上の1のコロニーの構成を分析した。
【0111】
E.分泌タンパク質の分析
プラスミドpET468を用いて形質転換したB.ズブチリスDB104を液体培地中、30℃で一晩中成長させた。培養物を氷上で冷却し、細胞断片と培養基に遠心分離により分画した。もしくは、一晩たった培養物を新しい培養基中で1:50に希釈し、OD600を0.6まで成長させ、15℃で一晩中培養させた。培養上澄液を10%w/v TCAを用いて沈殿し、冷アセトンで2回洗浄し、SDS−PAGEにより分析した。培養物の細胞ペレットをサンプルバッファー中で再懸濁し、超音波分解し、SDS−PAGEにより分析した。細胞断片をさらに分析するために、プロテイナーゼKのアクセシビリティを分析した。形質転換DB104及びDB104ΔGを30℃で一晩中成長させ、遠心分離により集菌した。細胞ペレットをTN(50mM TRIS−C1、pH7.5、100mM NaCl)バッファーを用いて1回洗浄し、0.5mg/mlリゾチームを含む同じバッファー内で再懸濁させた。氷上、15分間の培養後、プロテイナーゼKを0〜2mg/mlの最終濃度で加え、懸濁液をさらに15分間培養した。最終的に、懸濁液をTCAで沈殿させ、アセトンで洗浄し、SDS−PAGEにより分析した。
【0112】
F.pET812及びpET822の発現及び内側と外側(inside out)ベシクルの調製
大腸菌SF100をB.ズブチリスSecY、SecE及び大腸菌(pET812)のSecGまたはB.ズブチリス(pET822)のYvaLを過剰発現させるために用いた。当該タンパク質の発現及び内側と外側(inside out)ベシクルの単離を当業者に公知の通り行った(Van der Does et.al.、[1996]、上記を参照)。
【0113】
G.ベシクルの大腸菌SecAストリッピング及びin vitro転座
大腸菌SecAを内側と外側(inside out)ベシクルから取り除くために、100μlのベシクル(10mg/ml)を大腸菌SecAに対する50μlのポリクローナル抗体を用いて培養した(Schiebel et.al.、Mol.Microbiol.,22:619−629[1991]を参照)。125I標識his−prcPhoB(Van Wely et.al.、Eur.J.Biochem.,255:690−697[1998])の内膜ベシクル内のin vitro転座を当業者に公知の通り分析し(例えば、Van der Does et.al.、[1996]、上記)、例外として精製B.ズブチリスSecA(Van der Wolk et.al.、Mol.Microbiol.,8:31−42[1993])を大腸菌SecA(0.5μg)の代わりに用いた。
【0114】
H.B.ズブチリスSecGポリクローナル抗体の生産
チロシン残基によりKLHに結合した内部YvaL配列Tyr−Ala−Glu−Gln−Leu−Phe−Gly−Lys−Gln−Lys−Ala−Arg−Gly−Leu−Asp(配列番号19)に対するペプチドポリクローナル抗体をNeosystemから公表されている標準手順に従ってウサギ内で生産した。
【0115】
実施例II
B.ズブチリスSecGは大腸菌SecGの機能的相同体である
この実施例はB.ズブチリスSecGが大腸菌SecGの機能的相同体であるかどうかを測定するための実験について説明する。pET812及びpET822を発現する細胞由来の膜ベシクルからSecAに対するポリクローナル抗体を用いて固有大腸菌SecAを取り出し、125I−標識his−prePhoBを用いたin vitro転座分析に供した。図8に転座結果を示す。B.ズブチリスSecAを加えない場合、SecYEGまたはSecYE及びYVALを含む両ベシクルは背景転座をほとんど示さなかった。しかしながら、B.ズブチリスSecAをSecYE及びYVALを含むベシクルに加えた場合、125I−prePhoBの転座効率の非常に大きい増加が観測され、一方、SecYE及び大腸菌SecGを含むベシクルでは余分な転座は観測されなかった。これらのデータから、B.ズブチリスSecYEはB.ズブチリスYval及びSecAと一緒にin vitroでバチルスprePhoBタンパク質の転座を仲介する機能的プレタンパク質トランスロカーゼを形成すると結論付けることができる。
【0116】
実施例III
大腸菌内でのバチルスタンパク質の過剰発現
この実施例はB.ズブチリスSecY、SecE及びSecG(YVAL)タンパク質が大腸菌内で過剰発現できることを示す。pET812及びpET822が大腸菌SF100内で発現するかどうかを確証するために、内側と外側(inside out)ベシクルを15% SDS−PAGE上で分析した。B.ズブチリスのSecY及びSecEの両方はクマシー染色ゲル上で容易に視認できた(図7Aを参照)。B.ズブチリスSecG及び増加した大腸菌SecG量がこれらのタンパク質に対する抗体を用いた免疫ブロット上で検出でき、図7B−7Cに示す。
【0117】
実施例IV
タンパク質分泌
この実施例は野生型細胞とB.ズブチリスSecG内に欠失を有する細胞のタンパク質分泌におけるタンパク質分泌機構の関連を示す。様々な温度で成長させた細胞の培養上澄中、野生型と変異細胞間で違いは見られなかった(図6Aを参照)。細胞断片はバンドパターンにいくつかの違いを示した。この違いは主に変異体でいくつかのバンドが欠如しているというものである。これらタンパク質の局在性はリゾチームによる細胞壁の崩壊及びその後の接近可能な(accessible)タンパク質のプロテアーゼ消化により決定した(図6B)。いくつかのタンパク質バンドは低濃度プロテイナーゼKにより既に消化され、一方、その他のほとんどのタンパク質の崩壊はTriton X−100による細胞膜崩壊後にのみ起こる。これらのタンパク質が分泌されるようである。いくつかのこれら分泌タンパク質は変異株には存在しない。従って、B.ズブチリスSecGが崩壊した変異体はいくつかの細胞外タンパク質の分泌に欠陥があると考えられる。
【0118】
実施例V
SecG欠失の効果
この実施例はSecG欠失の細胞成長における効果を示す。大腸菌secG遺伝子の破壊は低温感受性表現型(Nishiyama et.al.、EMBO J.、13:3272−3277[1994]を参照)における、25℃以下の非許容状態温度での結果に示されている。染色体のB.ズブチリスsecGの欠失は細胞をリッチまたは最小培地上、37℃で成長させた場合、いかなる表現型も生じない。20℃以下の培養は軽い低温感受性を示し、DB104ΔG株はDB104と比較して徐々に遅くなる成長を示した。しかしながら、変異株は完全に成長停止することはなかった。野生型と比較すると、温度をさらに下げた場合、成長はさらに大幅に遅れた。細胞を再度高温に移すと、より速い速度で成長を再開した。
【0119】
細胞を大腸菌SecGまたはB.ズブチリスSecGを発現するプラスミド及び制御プラスミドを用いて形質転換した。変異体成長に影響しない温度でプレ培養した後、細胞をいくつかの低温度でプレートし、培養した。コロニー成長を数日間にわたって観測した。制御プラスミドで形質転換された野生型及び変異細胞は対応する非形質転換体のように振る舞い、成長遅延を示したが、低温で完全に停止することはなかった。secG遺伝子産物を発現するpET471を含む変異体の形質転換はかかる遅延を軽減することができ、変異体の表現型は極性効果によってではなくsecG自体の欠失により生じることを示す。驚くべきことに、変異体を大腸菌SecGを発現するpET470を用いて形質転換した場合、温度20℃以下で成長が完全に停止した。同じプラスミドを野生型細胞内に運んだ場合、低温で成長に支障が見られたが、25℃では見られなかった。従って、secG遺伝子の破壊によりB.ズブチリスは軽い低温感受性となるが、これはB.ズブチリスに必須の遺伝子ではない。これらの成長実験の結果を下記の表3に示す。
【表3】

【0120】
実施例VI
発現効果
この実施例は分泌タンパク質の発現効果について説明する。secGのB.ズブチリス細胞変異体及び野生型細胞をプラスミドpET468及び誘導体を用いて形質転換した。これらのプラスミドはα−アミラーゼを発現し、それにより分泌ストレスを誘発する。pET472及びpET473の誘導体はそれぞれ大腸菌SecGまたはB.ズブチリスSecGと一緒にα−アミラーゼを発現する。α−アミラーゼの発現によっては、細胞をプレ培養するために用いる温度である30℃で欠失変異体の成長は遅延しなかった。この温度で、野生型及び欠失変異体の形質転換体によりでんぷん含有プレート上のα−アミラーゼにより形成されるハロは同じ大きさであった。欠失変異体のpET468形質転換体を低温に移した場合、明確かつ完全な低温感受性を示した。既に20℃で細胞成長が完全に停止した。細胞を許容温度の30℃に変換して戻した場合、20℃で培養延長後、成長は再開しなかった。従って、欠失変異体は低温であっても分泌の基準レベルを維持できるが、広温度範囲にわたって分泌タンパク質の過剰発現を操作することはできない。
【0121】
実施例VII
SecGタンパク質の同定
この実施例はグラム陽性微生物内のSecGの検出について説明する。グラム陽性微生物由来DNAは当業界に公知の通り調製する(Current Protocols in Molecular Biology、第2章または3章に開示の方法に従う)。当該核酸はSecG由来プローブまたはプライマーを用いてハイブリダイゼーション及び/またはPCR増幅にかける。好ましいプローブは保存アミノ酸配列を含む核酸部分を含む。
【0122】
核酸プローブは50pmolの核酸及び250mCiの[ガンマ32P]アデノシントリフォスフェート(Amersham)及びT4 ポリヌクレオチドキナーゼ(DuPont NEN)を混合することにより標識する。標識プローブはSephadex G−25超微粉樹脂カラム(ファルマシア)を用いて精製する。それぞれ1分当たり10カウントを含む部分をゲノムまたはcDNA起源の核酸サンプルの一般的な膜ベースハイブリダイゼーション分析に用いる。
【0123】
制限エンドヌクレアーゼ消化に供したDNAサンプルは0.7パーセント・アガロースゲル上で断片化し、ナイロン膜に移す(Nytran Plus,Schleicher&Schuell)。ハイブリダイゼーションは40℃で16時間行う。非特異シグナルを取り除くため、ブロットは0.1×クエン酸ナトリウム食塩水及び0.5%ドデシル硫酸ナトリウム以下で次第にストリンジェントな条件となるように室温で連続洗浄する。ブロットを数時間フィルムに曝露し、成長フィルム及びハイブリダイゼーションパターンを視覚的に比較し、B.ズブチリスSecGのポリヌクレオチド相同体を検出する。相同体を確証的核酸シーケンシングに供する。核酸シーケンシング方法は当業界に公知である。従来の酵素的方法はDNAポリメラーゼ・クレノウ断片、SEQYENASE(登録商標)(USバイオケミカル)またはTagポリメラーゼを用い、DNA鎖を目的のDNAテンプレートにアニールされたオリゴヌクレオチドプライマーから伸長する。
【0124】
実施例VIII
変異SecGプロモーターを含むB.ズブチリス宿主細胞の構築
上述及びここに詳細に記載するように、secGプロモーターの変性後に生じるSecGタンパク質レベルは、染色体プロモーターまたはリボソーム結合部位をRNAポリメラーゼσ因子A(σ)コンセンサス配列にさらに適合するようにまたは適合しないように変化させることにより調節して、転写に影響を与えることができ、またはコンセンサスシャイン・ダルガーノ配列にさらに適合するようにまたは適合しないように変化させることにより調節して翻訳に影響を与えることができる。
【0125】
以下の配列(配列番号20)はSecGプロモーターの核酸配列を提供し、当該配列の200bp上流及び200bp下流を含み、ヌクレオチド変化を標的とした配列要素。RNAポリメラーゼσ因子A(σ)プロモーター及び下線のコンセンサスシャイン・ダルガーノリボソーム結合部位を含む。
【化1】

【0126】
シャイン・ダルガーノ部位の変異
ここに示すように、シャイン・ダルガーノ部位を変異させるため、当該配列は天然配列AGTCTGGAGGTGT(配列番号21)をAGAAAGGAGGTGA(配列番号22)に変化させてコンセンサスに正確に適合するように変異させる。以下の説明はシャイン・ダルガーノ部位の変異に適した方法を提供する。
【0127】
ここでBC4として表す、PCR融合配列の構築
BC4 PCR融合は3工程で構築する:1)2つの分離断片をB.ズブチリス168染色体DNAからPCRにより増幅;2)プライマーを用いずに、PCR型プロセスにおいて2つの精製PCR断片を集積;及び3)BCBS−1及びBCBS−8末端プライマーを用いて、PCRにより集積生成物を増幅させる。
【0128】
まず、染色体B.ズブチリス株168DNAをsecG遺伝子座の増幅用テンプレートとして用い、2組のプライマーを用いる。第1のプライマー対は、バチルス染色体上のsecGの3Kb3’(下流)に位置するBCBS−1及びBCBS−2f(5’−ATAGAAGTAATGTAGCCAGTGAGAAAGGAGGTGATGGGATGCACGCAGTTTTG−3’;配列番号23)からなる。第2のプライマー対は、BCBS−2r(5’−CAAAACTGCGTGCATCCCATCACCTCCTTTCTCACTGGCTACATTACTTCTAT−3’;配列番号24)、BCBS−2rの逆相補体、及びバチルス染色体上のsecGの3Kb5’(上流)に位置するBCBS−3からなる。両PCR産物はsecGのプロモーター領域中で重複している。BCBS−2f及びBCBS−2r相補プライマーはシャイン・ダルガーノ配列中に4変異を導入するために用い、AGTCTGGAGGTGT(配列番号21)をAGAAAGGAGGTG(配列番号22)配列で置換した。rTthポリメラーゼを含んだGeneAmp XL PCRキットを用いる標準PCR反応を全てのPCRの製造元取扱説明書に従って用いる。PCR反応は100μl体積中で行う。
【0129】
DNA ― 2−5μl
3.3×XLバッファーII ― 30μl
10mM dNTPブレンド ― 3μl
25mM Mg(OAc)2 ― 4μl
25uM BCBS−1プライマー(BCBS−3) ― 2μl
25uM BCBS−2fプライマー(またはBCBS−2r) ― 2μl
2U/ul rTthポリメラーゼ ― 2μl
水 ― 100μlに調整
PCR条件は:95℃―30秒、54℃―30秒、68℃―3分を30サイクルである。得られたPCR断片は、各3kbであり、取扱説明書に従ってQIAGEN PCR精製キットで精製し、PCR集積物に用いる。
【0130】
工程2において、精製PCR断片の5μlアリコートを一緒に混合し、プライマーを含まない新しいPCR混合物内に加える。PCR混合物の全体積は上述の成分を含んで100μlである。PCR集積条件は:95℃―30秒、52℃―30秒、68℃―2分、10サイクルである。
【0131】
工程3において、PCR10サイクル後、集積混合物をBCBS−1及びBCBS−3プライマーで補完し、PCR増幅をさらに15サイクル行う。この場合のPCR条件は:95℃―30秒、52℃―30秒、68℃―5分である。
【0132】
そして、所望の6kb融合産物を単離し、pJM103などの標準融合ベクター内にクローンする(Perego、Sonenshein et.al.(編集)、Bacillus subtilis and Other Gram−Positive Bacteria(バチルス・ズブチリス及びその他のグラム陽性細菌)、第VI章、42、American Society for Microbiology,[1993]を参照)。B.ズブチリスのSecG野生型株をそれから得られた組換えプラスミドを用いて形質転換し、選択し、pJM103の場合、クロラムフェニコールへの耐性のため、ベクター配列により分離した、クロラムフェニコール耐性遺伝子を含む、6KB領域の2コピー、野生型シャイン・ダルガーノを含むsecGを含む第1のコピー、変異配列を含む第2のコピーを運ぶ株を生じる。複数世代でクロラムフェニコール選択をしない液体培養物に形質転換体を通過させた後、複製領域及びベクター配列が欠失したクロラムフェニコール感受性株を回収し、その約半分が所望の変異体である。野生型及び変異株は当該領域のPCR増幅及び適当なプライマーを用いるsecG領域のDNAシーケンシングにより区別できる。
【0133】
RNAポリメラーゼσプロモーター部位の変異
ここに示すように、σプロモーター部位を変異するために、天然配列GTGACATGCCAACCCTTTTCATGTAAAAT(配列番号25)をTGACATGCCAACCCTTTTCATGTAAAT(配列番号26)に変化させて、コンセンサスに正確に適合するように当該配列を変異させる。ここで配列番号26の最初の6ヌクレオチド(TTGACA)はコンセンサス−35プロモーター配列であり、配列番号26の最後の6ヌクレオチド(TATAAT)はコンセンサス−10プロモーター配列である。
【0134】
シャイン・ダルガーノ配列の変異に関する上述の方法はσプロモーター部位の変異に有用である。しかしながら、プライマーBCBS−2f及びBCBS−2rは以下のプライマーにより置換される:
【化2】

【0135】
前述の説明及び実施例について、本発明の精神及び範囲を逸脱しない種々のその他の実施例及び修正が当該開示を読んだ当業者に明からであり、そのような全ての実施例または修正は本発明の特許請求の範囲に含まれるものとする。ここに記載の全ての文献及び特許文献はその全体を引用するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】SecGの核酸配列(配列番号1)、及びSecGのアミノ酸配列(配列番号2)である。
【図2】大腸菌(ecosecg.p1)(配列番号3)、ヘモフィルス(haeinsecg.p1)(配列番号4)、マイコプラズマ(myclepsecg.p1)(配列番号5)、B.ズブチリス(bsuyval.p1)(配列番号2)由来のSecG配列のアミノ酸配列、及びこれら4つの微生物のSecGコンセンサス配列(配列番号6)である。
【図3】B.ズブチリスSecG(配列番号2)と大腸菌SecG(配列番号3)間のアミノ酸同一性(コンセンサス配列:配列番号7)である。
【図4】B.ズブチリスSecG(配列番号2)とマイコプラズマSecG(配列番号5)間のアミノ酸同一性である。
【図5】B.ズブチリスSecGの親水性プロファイルである。
【図6A】B.ズブチリスDB104及びDB104:ΔyvaLの細胞断片のクマシー染色SDS−PAGEの結果である。小文字“c”は細胞の断片であり、小文字“m”は媒体である。ポリペプチドバンドの位置により野生型細胞中には存在するが、欠失変異体中には存在しないことが示されている。
【図6B】細胞内タンパク質のプロテイナーゼK指定により得たデータである。図のように、30kDaでのポリペプチドバンドの指定はDB104:ΔyvaL細胞には存在しない。最後のレーンはTriton X(登録商標)−100を用いた対照であり、過剰量のプロテイナーゼKの存在を示している。
【図7A】B.ズブチリスSecYE及び大腸菌SecGまたはB.ズブチリスSecG(YvaL)を発現する大腸菌内膜ベシクルのクマシー染色SDS−PAGEを野生型ベシクルと比較した結果である。B.ズブチリスSecY及びSecEの位置を示す。
【図7B】大腸菌SecGの合成ポリペプチドに対するpAbによって生じる免疫ブロットである。
【図7C】B.ズブチリスSecGの合成ポリペプチドに対するpAbによって生じる免疫ブロットである。
【図8】大腸菌の内側と外側(inside out)ベシクルへの125I−標識プレPhoBのin vitro転位である。ベシクルからSecAを除去し、精製B.ズブチリスSecAを指示通りに加えた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分泌因子G(SecG)を含む転写物の翻訳を調節する変異シャイン・ダルガーノ配列をエンコードするグラム陽性微生物。
【請求項2】
前記グラム陽性微生物がバチルス属の1種である、請求項1のグラム陽性微生物。
【請求項3】
前記バチルスが、B.ズブチリス、B.リケニフォルミス、B.レンタス、B.ブレビス、B.ステアロサーモフィラス、B.アルカロフィラス、B.アミロリケファシエンス、B.コアグランス、B.サーキュランス、B.lautus及びB.チューリンゲンシスからなる群より選択される、請求項2のグラム陽性微生物。
【請求項4】
前記調節が前記SecGの発現の増加を含む、請求項1のグラム陽性微生物。
【請求項5】
前記調節が前記SecGの発現の減少を含む、請求項1のグラム陽性微生物。
【請求項6】
前記微生物が少なくとも1の異種タンパク質を発現できる、請求項1のグラム陽性微生物。
【請求項7】
前記異種タンパク質がホルモン、酵素、成長因子及びサイトカインからなる群より選択される、請求項6のグラム陽性微生物。
【請求項8】
前記異種タンパク質が酵素である、請求項7のグラム陽性微生物。
【請求項9】
前記酵素がプロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、リパーゼ、レダクターゼ、イソメラーゼ、エピメラーゼ、トートメラーゼ、トランスフェラーゼ、キナーゼ及びホスファターゼからなる群より選択される、請求項8のグラム陽性微生物。
【請求項10】
分泌因子G(SecG)の発現を調節する変異RNAポリメラーゼσ因子アルファ(σ)配列をエンコードするグラム陽性微生物。
【請求項11】
前記グラム陽性微生物がバチルスである、請求項10のグラム陽性微生物。
【請求項12】
前記バチルスが、B.ズブチリス、B.リケニフォルミス、B.レンタス、B.ブレビス、B.ステアロサーモフィラス、B.アルカロフィラス、B.アミロリケファシエンス、B.コアグランス、B.サーキュランス、B.lautus及びB.チューリンゲンシスからなる群より選択される、請求項11のグラム陽性微生物。
【請求項13】
前記調節が前記SecGの発現の増加を含む、請求項10のグラム陽性微生物。
【請求項14】
前記調節が前記SecGの発現の減少を含む、請求項10のグラム陽性微生物。
【請求項15】
前記微生物が少なくとも1の異種タンパク質を発現できる、請求項10のグラム陽性微生物。
【請求項16】
前記異種タンパク質がホルモン、酵素、成長因子及びサイトカインからなる群より選択される、請求項15のグラム陽性微生物。
【請求項17】
前記異種タンパク質が酵素である、請求項16のグラム陽性微生物。
【請求項18】
前記酵素がプロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、リパーゼ、レダクターゼ、イソメラーゼ、エピメラーゼ、トートメラーゼ、トランスフェラーゼ、キナーゼ及びホスファターゼからなる群より選択される、請求項17のグラム陽性微生物。
【請求項19】
グラム陽性微生物における改善されたタンパク質の分泌方法であって、SecGをエンコードする核酸を含むグラム陽性微生物宿主細胞を得る工程を含み、ここで前記核酸はグラム陽性微生物内でSecGを発現できる発現シグナルにより制御され、さらに当該グラム陽性微生物宿主細胞は前記タンパク質をエンコードする核酸を含み;及びSecG発現及び前記タンパク質の発現及び分泌に適した条件下で前記微生物を培養する工程を含む、方法。
【請求項20】
前記グラム陽性微生物がさらに、SecY、SecE及びSecAからなる群より選択される少なくとも1の他の分泌因子をエンコードする核酸を含む、請求項19の方法。
【請求項21】
前記タンパク質が前記宿主細胞と同種である、請求項19の方法。
【請求項22】
前記タンパク質が前記宿主細胞と異種である、請求項19の方法。
【請求項23】
前記グラム陽性微生物がバチルス属の1種である、請求項19の方法。
【請求項24】
前記バチルスが、B.ズブチリス、B.リケニフォルミス、B.レンタス、B.ブレビス、B.ステアロサーモフィラス、B.アルカロフィラス、B.アミロリケファシエンス、B.コアグランス、B.サーキュランス、B.lautus及びB.チューリンゲンシスからなる群より選択される、請求項23の方法。
【請求項25】
前記異種タンパク質がホルモン、酵素、成長因子及びサイトカインからなる群より選択される、請求項19の方法。
【請求項26】
前記異種タンパク質が酵素である、請求項25の方法。
【請求項27】
前記酵素がプロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、リパーゼ、イソメラーゼ、ラセマーゼ、エピメラーゼ、トートメラーゼ、ムターゼ、トランスフェラーゼ、キナーゼ及びホスファターゼからなる群より選択される、請求項26の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−508686(P2006−508686A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−565074(P2004−565074)
【出願日】平成15年11月17日(2003.11.17)
【国際出願番号】PCT/US2003/037277
【国際公開番号】WO2004/060909
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(505088721)ジェネンコー・インターナショナル・インク (7)
【Fターム(参考)】