説明

グランドピアノのダンパー装置

【課題】ソステヌートペダルの踏込みの解除時における弦への複数のダンパーの当接タイミングを互いに同じになるように容易に調整することができ、ひいては、グランドピアノの演奏性を高めることができるグランドピアノのダンパー装置を提供する。
【解決手段】このグランドピアノ2のダンパー装置1は、対応する鍵5の離鍵に伴って、弦Sに当接する当接位置に移動するとともに、対応する鍵5の押鍵に伴って、弦Sから離れる乖離位置に移動するダンパー20と、軟質金属で構成され、ダンパー20に設けられたサスタニングタンジェント31と、ソステヌートペダル50が踏み込まれているときに、押鍵された鍵5に対応するダンパー20を乖離位置に保持するために、ダンパー20に設けられたサスタニングタンジェント31に係合し、ソステヌートペダル50の踏込みが解除されたときに、サスタニングタンジェント31から外れる保持部材40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソステヌートペダルの操作に伴って連動し、押鍵された鍵に対応する弦の振動のみを持続させるソステヌートペダル効果を付与するためのグランドピアノのダンパー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のダンパー装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。以下、演奏者から見て手前側を「前」、奥側を「後」、鍵の並び方向を「左右方向」として説明を行う。このダンパー装置は、複数の鍵の全体にわたって左右方向に延びるダンパーレバーレールおよびサスタニングロッドと、鍵ごとに設けられたダンパーを備えている。このサスタニングロッドは、回動自在に構成され、ソステヌートペダルに連結されており、径方向に突出する爪部を有している。また、各ダンパーは、ダンパーレバーおよびダンパーヘッドを有しており、鍵の後方に配置されている。このダンパーレバーは、その後端部が上記のダンパーレバーレールに回動自在に取り付けられており、その前端部の下面が鍵の後端部の上面に対向している。また、ダンパーレバーの前部には、サスタニングタンジェントおよびダンパーワイヤが取り付けられている。このダンパーワイヤは、ダンパーレバーから上方に延びており、ダンパーヘッドとともに上下方向に移動する。上記のダンパーヘッドは、ダンパーワイヤの上端に取り付けられており、水平に張られた弦に上方から当接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−323886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように構成されたダンパー装置では、鍵が押鍵されると、ダンパーレバーが鍵で突き上げられることにより上方に回動する。それに伴い、ダンパーレバーに設けられたダンパーワイヤおよびダンパーヘッドが上方に移動し、ダンパーヘッドが弦から離れる。その状態で、ハンマーが弦を打弦することにより、弦が振動し、楽音が発生する。その後、鍵が離鍵されると、ダンパーレバーが下方に復帰回動し、それに伴い、ダンパーヘッドが下方に移動し、弦に当接することによって、弦の振動すなわち楽音が停止する。
【0005】
また、鍵が押鍵されている状態で、ソステヌートペダルが踏み込まれると、サスタニングロッドが回動するとともに、その爪部が、押鍵された鍵に対応するダンパーレバーのサスタニングタンジェントに、下方から当接し、係合することにより、ダンパーヘッドが、弦から上方に離れた状態に保持される。以上により、押鍵された鍵に対応する弦の振動のみが持続する結果、いわゆるソステヌートペダル効果が付与される。そして、この状態からソステヌートペダルの踏込みが解除されると、サスタニングロッドが復帰回動するとともに、爪部がサスタニングタンジェントから離れる。これにより、ダンパーレバーが復帰回動する結果、ダンパーヘッドが弦に当接することによって、楽音が停止する。
【0006】
また、ソステヌートペダルの踏込みに伴い、上記のようにサスタニングロッドの爪部がサスタニングタンジェントに係合するので、それに伴う雑音の発生や部品の変形を防止するために、サスタニングタンジェントの爪部との係合部には、一般に、フェルトで構成された緩衝材が貼り付けられている。このため、複数のダンパーの間での緩衝材の貼り付け位置の違いや、緩衝材の厚さの違いによって、上述したソステヌートペダルの踏込み中におけるサスタニングタンジェントへの爪部の係り具合が、複数のダンパーの間で互いに異なる場合がある。その場合には、例えば複数の鍵の押鍵により和音を発音するとともにソステヌートペダルを踏み込んだ後、ソステヌートペダルの踏込みを解除したときに、これらの複数の鍵にそれぞれ対応する複数のダンパーにおいて、爪部がサスタニングタンジェントから離れるタイミングがばらつき、その結果、ダンパーヘッドが弦に当接するタイミングもばらつき、ひいては、和音を構成する複数の楽音の長さが不揃いになり、グランドピアノの演奏性が低くなってしまう。
【0007】
また、一般に、ダンパーによる楽音の停止を適切に行うべく、ダンパーヘッドを弦に適切に当接させるために、ダンパーヘッドの下面が弦と平行になるように、弦に対するダンパーヘッドの角度が調整される。この調整は、ダンパーワイヤを前後方向に曲げることによって行われる。また、特許文献1には明示されていないものの、ダンパーワイヤは、ダンパーレバーに回動自在に設けられたダンパーワイヤフレンジに取り付けられており、このダンパーワイヤフレンジに、サスタニングタンジェントが取り付けられている。以上から、ダンパーヘッドの角度を調整するためにダンパーワイヤを前後方向に曲げると、それに伴い、ダンパーワイヤフレンジがダンパーレバーに対して傾くため、ダンパーワイヤフレンジの傾きに応じて、サスタニングタンジェントへの爪部の係り具合が、鍵ごとにばらつく場合がある。その場合にも、ソステヌートペダルの踏込みの解除時において、複数のダンパーヘッドの間で弦への当接タイミングがばらつき、和音を構成する複数の楽音の長さが不揃いになってしまう。
【0008】
上記のような不具合を解消するために、サスタニングタンジェントへの爪部の係り具合を調整することが考えられる。しかし、一般に、サスタニングタンジェントは合成樹脂の成形品や木質材で構成されているため、この調整を容易に行うことができない。
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、ソステヌートペダルの踏込みの解除時における弦への複数のダンパーの当接タイミングを互いに同じになるように容易に調整することができ、ひいては、グランドピアノの演奏性を高めることができるグランドピアノのダンパー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、鍵の押鍵に伴い、対応する弦の振動を許容し、鍵の離鍵に伴い、対応する弦の振動を停止するとともに、ソステヌートペダルの操作に伴って連動するグランドピアノのダンパー装置であって、鍵ごとに設けられ、鍵に対応する弦に当接する当接位置と、弦から離れた乖離位置との間で移動可能に構成され、対応する鍵の離鍵に伴って当接位置に移動するとともに、対応する鍵の押鍵に伴って乖離位置に移動するダンパーと、軟質金属で構成され、ダンパーに設けられたサスタニングタンジェントと、ソステヌートペダルが踏み込まれているときに、押鍵された鍵に対応するダンパーを乖離位置に保持するために、ダンパーに設けられたサスタニングタンジェントに係合し、ソステヌートペダルの踏込みが解除されたときに、サスタニングタンジェントから外れる保持部材と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、ダンパーが鍵ごとに設けられている。また、対応する鍵の押鍵に伴い、ダンパーが乖離位置に移動し、弦から離れることにより、弦の振動が許容され、楽音が発生するとともに、その後の鍵の離鍵に伴い、ダンパーが当接位置に移動し、弦に当接することにより、弦の振動および楽音が停止する。
【0012】
また、ソステヌートペダルが踏み込まれているときには、保持部材が、押鍵された鍵に対応するダンパーに設けられたサスタニングタンジェントに係合することによって、そのダンパーが乖離位置に保持される。これにより、ソステヌートペダルが踏み込まれている限り、鍵が離鍵されても、この鍵に対応するダンパーが当接位置に移動することがないので、弦の振動が継続し、いわゆるソステヌートペダル効果が付与される。
【0013】
この状態からソステヌートペダルの踏込みが解除されると、保持部材がサスタニングタンジェントから外れ、それにより、乖離位置へのダンパーの保持が解除される。この場合、鍵が離鍵されているときには、ダンパーが当接位置に移動し、弦の振動が停止される。
【0014】
また、上述した構成によれば、サスタニングタンジェントが軟質金属で構成されていることから、サスタニングタンジェント自身を自由に曲げることができるので、ソステヌートペダルの踏込み中におけるサスタニングタンジェントへの保持部材の係り具合を調整することができる。これにより、ソステヌートペダルの踏込みの解除時における弦への複数のダンパーの当接タイミングを互いに同じになるように容易に調整できるので、和音を構成する複数の楽音の長さを揃えることができ、したがって、グランドピアノの演奏性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態によるダンパー装置を備えたグランドピアノの概略構成を示す図である。
【図2】図1のダンパー装置の拡大図である。
【図3】ソステヌートペダルの操作に伴うダンパー装置の動作例を示す図である。
【図4】支持部材およびサスタニングタンジェントの斜視図である。
【図5】ダンパーワイヤフレンジおよびサスタニングタンジェントの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明のダンパー装置1を備えたアコースティックタイプのグランドピアノ2の概略構成を示している。なお、以下の説明では、グランドピアノ2を演奏者から見た場合の手前側(図1の右側)を「前」、奥側(図1の左側)を「後」とし、さらに左側および右側をそれぞれ「左」および「右」として、説明を行うものとする。
【0017】
同図に示すように、このグランドピアノ2は、棚板3に筬4を介して載置された複数(例えば88個)の鍵5(1つのみ図示)と、鍵5ごとに設けられたハンマー6と、鍵5の後部上方に設けられたアクション7などを備えている。
【0018】
鍵5は、その中央に形成されたバランスピン孔(図示せず)を介して、筬4に立設されたバランスピン8に回動自在に支持されている。
【0019】
アクション7は、ウィッペンレール9に取り付けられている。ウィッペンレール9は、複数の鍵5の全体にわたって左右方向に延びており、筬4の左右の端部とその中間の所定の位置に設けられた複数のブラケット10(1つのみ図示)に渡されている。また、アクション7は、鍵5ごとに設けられたウィッペン11、レペティションレバー12およびジャック13を有している。各ウィッペン11は、その後端部において、ウィッペンフレンジ11aを介してウィッペンレール9に回動自在に取り付けられており、キャプスタンスクリュー15を介して鍵5の後部に載置されている。また、レペティションレバー12およびジャック13は、ウィッペン11に回動自在に取り付けられている。
【0020】
一方、ハンマー6は、前後方向に延びるハンマーシャンク6aと、ハンマーシャンク6aの後端部に取り付けられたハンマーヘッド6bを有している。また、ハンマー6は、ハンマーシャンク6aの前端部において、ハンマーシャンクレール14にねじ止めされたハンマーシャンクフレンジ6cに、回動自在に支持されており、図1に示す離鍵状態では、シャンクローラ16を介してレペティションレバー12に載置されている。
【0021】
以上の構成により、鍵5が押鍵されると、鍵5がバランスピン8を中心として図1の時計方向に回動するのに伴い、ウィッペン11がキャプスタンスクリュー15を介して突き上げられ、上方に回動する。このウィッペン11の回動に伴い、レペティションレバー12およびジャック13がウィッペン11と一緒に上方に移動し、ジャック13がシャンクローラ16を介してハンマー6を突き上げることによって、ハンマー6が同図の時計方向に回動する。そして、この回動の途中で、ジャック13がシャンクローラ16から抜け、その直後においてハンマーヘッド6bが弦Sを打弦する。
【0022】
図1に示すように、本発明に係るダンパー装置1は、鍵5の後方に配置されている。図2にも示すように、ダンパー装置1は、鍵5ごとに設けられた複数のダンパー20と、ダンパーレール21と、各ダンパー20に設けられたサスタニングタンジェント31と、保持部材40などを備えている。
【0023】
各ダンパー20は、ダンパーレバー22と、ダンパーレバー22に取り付けられたダンパーワイヤフレンジ23と、ダンパーワイヤフレンジ23から上方に延びるダンパーワイヤ24と、ダンパーワイヤ24に取り付けられたダンパーヘッド25を有している。ダンパーワイヤ24は、鋼などの金属で構成されている。
【0024】
ダンパーレール21は、複数の鍵5の左右方向の全体にわたって延びている。ダンパーレール21の前側には、リフティングレール27が設けられている。このリフティングレール27は、アルミニウムの押出成形品で構成され、中空に形成されており、鍵5の左右方向の全体にわたって延びている。リフティングレール27は、上下方向に延びるリフティングレール突揚棒28に載置されている。このリフティングレール突揚棒28は、その下端部においてダンパーペダル(図示せず)に連結されている。また、リフティングレール27の前部の上面には、リフティングレールクロス27aが貼り付けられている。
【0025】
ダンパーレバー22は、前後方向に延びており、後端部において、ダンパーフレンジ22aを介してダンパーレール21に、回動自在に取り付けられている。また、ダンパーレバー22には、パイロットスクリュー29が下方からねじ込まれており、ダンパーレバー22は、このパイロットスクリュー29を介してリフティングレール27に載置されている。図1に示す離鍵状態では、ダンパーレバー22の前端部が、対応する鍵5の後端部に上方から対向している。
【0026】
ダンパーワイヤフレンジ23は、例えばABS樹脂などの耐衝撃性に優れた合成樹脂の射出成形品で構成されており、本体部23aと、本体部23aの後部から下方に互いに平行に延びる左右一対の腕部23b,23b(1つのみ図示)を有している。これらの腕部23b,23bの下部には、側方に貫通する孔(いずれも図示せず)が互いに対向するように形成されている。そして、これらの孔とダンパーレバー22の孔(図示せず)に通されたピン35を介して、ダンパーワイヤフレンジ23がダンパーレバー22に回動自在に取り付けられている。
【0027】
また、ダンパーワイヤフレンジ23には、支持部材30を介してサスタニングタンジェント31が取り付けられている。この支持部材30は、合成樹脂の成形品で構成されており、図4に示すように、左右方向に延びる直方体状の取付部30aと、取付部30aの中央から後方に延びる支持部30bで構成されている。
【0028】
支持部30bは、ダンパーワイヤフレンジ23の腕部23b,23bの間に、若干のクリアランスをもって係合している。また、支持部30bには、孔(図示せず)が左右方向に貫通するように形成されている。そして、この孔に通された水平なピン36を介して、支持部材30がダンパーワイヤフレンジ23に回動自在に取り付けられている。また、支持部30bには、支持部材30をダンパーワイヤフレンジ23の本体部23a側(図2の反時計方向)に付勢するためのばね(図示せず)が取り付けられている。また、支持部材30の本体部23a側への回動は、サスタニングタンジェント31に貼り付けた後述する緩衝材32が本体部23aに当接することによって規制され、それにより、支持部材30は通常、図2に示す位置に保持されている。
【0029】
サスタニングタンジェント31は、支持部材30の取付部30aに取り付けられている。サスタニングタンジェント31は、例えばアルミニウムや真鍮、銅などの軟質金属で構成され、矩形の板状に形成されており、サスタニングタンジェント31の左右方向の長さは、取付部30aのそれと同じであり、前後方向の長さは、取付部30aのそれよりも大きい。また、サスタニングタンジェント31は、その後端部において、取付部30aの上面に接着によって貼り付けられており、図2および図4(b)に示すように、取付部30aおよび本体部23aよりも前方に突出している。また、サスタニングタンジェント31には、その上面から下面にわたって、それらを覆うように、例えば1枚のフェルトで構成された緩衝材32が巻かれた状態で貼り付けられている。
【0030】
ダンパーワイヤフレンジ23の本体部23aには、ダンパーワイヤ24の先端部が上方から差し込まれており、本体部23aの前面に取り付けられたねじ37を締め付けることによって、ダンパーワイヤ24がダンパーワイヤフレンジ23に固定されるとともに、その高さが調整される。
【0031】
ダンパーヘッド25は、木材で構成された本体部25aと、本体部25aの下面に取り付けられた前後2つのダンパーフェルト25b,25bで構成されており、本体部25aにダンパーワイヤ24が係合している。ダンパーヘッド25は、離鍵状態では、弦Sに上方から当接する当接位置に保持されている(図1および図2参照)。
【0032】
ダンパーワイヤ24は、ダンパーホルダ26に通されている。このダンパーホルダ26は、複数の鍵5の全体にわたって左右方向に延びている。ダンパーホルダ26の後部の下面には、付木26aが取り付けられており、ダンパーホルダ26は、この付木26aを介して響板(図示せず)に固定されている。ダンパーホルダ26には、上下方向に貫通する案内孔(図示せず)が形成されており、ダンパーワイヤ24はこの案内孔に通され、上下方向に案内される。
【0033】
保持部材40は、ダンパーワイヤフレンジ23の前側に設けられたロッド41と、ロッド41と一体の保持部42を有している。
【0034】
ロッド41は、1本の金属製の丸棒で構成されており、複数のダンパー20の全体にわたって左右方向に延びており、その両端部において打ち廻し(図示せず)に回動自在に支持されている。ロッド41の一端部には駆動レバー(図示せず)が設けられており、ロッド41は、この駆動レバーを介してソステヌートペダル50に連結され、ソステヌートペダル50の操作に連動して回動する。
【0035】
保持部42は、ロッド41と同じ材質の金属で構成されるとともに、複数のダンパー20の全体にわたって左右方向に延びており、溶接によってロッド41に一体に取り付けられている。また、保持部材40は、ソステヌートペダル50が踏み込まれていないときには、保持部42がサスタニングタンジェント31から退避した、図3(a)に示す非保持位置に保持される。
【0036】
この状態から、ソステヌートペダル50が踏み込まれると、それに連動して、駆動レバーを介してロッド41が図3の時計方向に回動する。これにより、保持部材40は、保持部42がサスタニングタンジェント31側に回り込んだ、図3(b)および(c)に示す保持位置に移動する。
【0037】
以上の構成により、押鍵に伴って鍵5が図1の時計方向に回動すると、鍵5の後端部でダンパーレバー22が突き上げられる。これにより、ダンパーレバー22は、その後端部を中心として図1の反時計方向に回動する。この回動に伴い、ダンパーワイヤ24がダンパーホルダ26の案内孔で案内されながら、ダンパーワイヤフレンジ23、ダンパーワイヤ24およびダンパーヘッド25が一緒に上方に移動する。これにより、ダンパーヘッド25が弦Sから離れた乖離位置に移動する(図3(a))。このように弦Sの振動が許容された状態で、鍵5に連動して回動するハンマー6が弦Sを打弦することによって、弦Sが振動し、楽音が発生する。
【0038】
一方、鍵5が離鍵されると、ダンパー20の自重により、ダンパーレバー22が図1の時計方向に復帰回動するのに伴い、上記と逆の動作でダンパーヘッド25などが下方に移動し、ダンパーヘッド25が弦Sに当接する当接位置に移動することによって、弦Sの振動が停止され、楽音が停止される。
【0039】
また、鍵5が押鍵されている状態で、ソステヌートペダル50が踏み込まれると、保持部材40が、図3(a)に示す非保持位置から同図(b)に示す保持位置に移動する。この保持位置への移動に伴い、保持部42が、上方に移動したサスタニングタンジェント31に下方から当接し、係合する。これにより、ダンパー20がサスタニングタンジェント31を介してロッド41に支持されることによって、ダンパー20が乖離位置に保持される(図3(b))。
【0040】
この状態から、鍵5が離鍵されると、ダンパー20が乖離位置に保持されていることで(図3(c))、弦Sの振動が継続し、いわゆるソステヌートペダル効果が付与される。
【0041】
このようにソステヌートペダル効果が付与されているときに、ソステヌートペダル50の踏込みが解除されると、それに連動して保持部材40が保持位置から非保持位置に移動することで、保持部42がサスタニングタンジェント31から外れ、乖離位置へのダンパー20の保持が解除される。この場合において、鍵5が離鍵されているときには、保持部42がサスタニングタンジェント31から外れるのに伴って、ダンパー20が当接位置に移動し、弦Sの振動が停止される(図2)。
【0042】
また、ソステヌートペダル50が踏み込まれている状態において、ソステヌートペダル効果が付与されていない他の鍵5を押鍵した場合には、支持部材30が、サスタニングタンジェント31を介して保持部42で押圧され、ばねの付勢力に抗して図2の時計方向に回動することにより、ダンパー20の乖離位置への移動が支障なく行われる。
【0043】
また、このダンパー装置1では、サスタニングタンジェント31を以下のようにして調整する。すなわち、サスタニングタンジェント31をペンチなどによって曲げることにより、サスタニングタンジェント31への保持部42の係り具合を調整する。
【0044】
より具体的には、楽音の停止タイミングが遅いときには、サスタニングタンジェント31を図5(a)に示すように上方に曲げる。これにより、保持部材40で保持されている状態におけるダンパー20の位置が低くなることによって、楽音の停止タイミングがより早くなるように調整される。一方、楽音の停止タイミングが早いときには、サスタニングタンジェント31を図5(b)に示すように下方に曲げる。これにより、保持部材40で保持されている状態におけるダンパー20の位置が高くなることによって、楽音の停止タイミングがより遅くなるように調整される。
【0045】
以上の調整により、ソステヌートペダル50の踏込みの解除時における弦Sへの複数のダンパー20の当接タイミングを互いに同じになるように容易に調整できるので、和音を構成する複数の楽音の長さを揃えることができ、したがって、グランドピアノ2の演奏性を高めることができる。
【0046】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態で示したサスタニングタンジェント31を構成する軟質金属はあくまで一例であり、軟質のものであれば、他の金属で構成してもよい。また、実施形態では、サスタニングタンジェント31として、厚さが一定の板状のものを用いているが、厚さが前側に向かって狭まるくさび状のものを用いてもよい。
【0047】
さらに、実施形態は、本発明をアコースティックタイプのグランドピアノに適用した例であるが、これに限らず、自動演奏タイプや消音タイプなどの他のタイプのグランドピアノに適用してもよいことはもちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 ダンパー装置
2 グランドピアノ
5 鍵
20 ダンパー
31 サスタニングタンジェント
40 保持部材
50 ソステヌートペダル
S 弦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵の押鍵に伴い、対応する弦の振動を許容し、前記鍵の離鍵に伴い、対応する前記弦の振動を停止するとともに、ソステヌートペダルの操作に伴って連動するグランドピアノのダンパー装置であって、
前記鍵ごとに設けられ、当該鍵に対応する前記弦に当接する当接位置と、当該弦から離れた乖離位置との間で移動可能に構成され、対応する前記鍵の離鍵に伴って前記当接位置に移動するとともに、対応する前記鍵の押鍵に伴って前記乖離位置に移動するダンパーと、
軟質金属で構成され、前記ダンパーに設けられたサスタニングタンジェントと、
前記ソステヌートペダルが踏み込まれているときに、押鍵された前記鍵に対応する前記ダンパーを前記乖離位置に保持するために、当該ダンパーに設けられた前記サスタニングタンジェントに係合し、前記ソステヌートペダルの踏込みが解除されたときに、前記サスタニングタンジェントから外れる保持部材と、
を備えることを特徴とするグランドピアノのダンパー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−112951(P2011−112951A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270513(P2009−270513)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)