説明

グランド型ピアノ

【課題】 消音演奏モード時に、通常演奏モード時とほとんど変わらない鍵のタッチ感とアクションの動作が得られ、ジャックの離脱時におけるハンマーヘッドと弦との距離を拡大することで、止音を余裕を持って確実に行えるグランド型ピアノを提供する。
【解決手段】 本発明のグランド型ピアノは、上下方向に移動自在のウィッペンフレンジ15と、ウィッペンフレンジ15に回動自在に支持され、鍵2に載置されたウィッペン11と、後ろ下がりに傾斜し、シャンクローラ3cを介してハンマーシャンク3aを載置するレペティションレバー12と、シャンクローラ3cを介してハンマー3を突き上げ、その回動の途中でハンマー3から離脱するジャック13と、消音演奏モード時に、ハンマーシャンク3aを当接させ、ハンマーヘッド3bによる打弦を阻止する止音レール5と、消音演奏モード時に、ウィッペンフレンジ15を上方に移動させる駆動装置20と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弦の打弦を許容する通常演奏モードと、弦の打弦を阻止する消音演奏モードに切り替えて演奏されるグランド型ピアノに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のグランド型ピアノとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このグランド型ピアノ(以下、単に「ピアノ」という)は、水平に張られた弦と、後端部を中心として回動自在に設けられ、鍵にキャプスタンを介して載置されたウィッペンと、ウィッペンに取り付けられ、後ろ下がりに傾斜するレペティションレバーと、ハンマーシャンクの前端部を中心として回動自在で、後端部にハンマーヘッドを有するとともに、ハンマーシャンクの下面に設けられたシャンクローラを介してレペティションレバーに載置されたハンマーと、ウィッペンに回動自在に取り付けられ、鍵の押鍵に伴い、シャンクローラを介してハンマーを突き上げ、回動させるとともに、その回動の途中でハンマーから離脱するジャックと、弦とハンマーシャンクの間に進退自在に設けられた止音レールなどを備えている。
【0003】
止音レールは、消音演奏モード時に、弦とハンマーシャンクの間に進入し、押鍵に伴って回動するハンマーのハンマーシャンクが当接することにより、ハンマーの打弦動作を阻止する。このような止音レールによるハンマーの阻止動作は、ハンマーシャンクが止音レールに当接したときの衝撃が演奏者の指先に伝わらないようにするために、ジャックがハンマーから離脱した後に行うことが必要である。
【0004】
このため、この従来のピアノでは、ウィッペンが前後方向に移動自在に設けられており、消音演奏モード時に、前方に所定距離、駆動される。これに伴い、ウィッペンに取り付けた後ろ下がりのレペティションレバーが前方に移動するのに応じて、これに載置されたシャンクローラの位置が下がる。その結果、ハンマーシャンクの傾斜角度が大きくなり、離鍵状態でのハンマーヘッドの位置が下がることによって、ジャックの離脱時における弦とハンマーヘッドとの間の距離を、通常演奏モード時よりも大きくすることで、止音レールによる止音が確実に行われる。
【0005】
しかし、上述したようにウィッペンを前方に単純に移動させると、これに取り付けたジャックおよびレペティションレバーもまた、同じ距離だけ前方に移動するので、これらの部品と他の部品との前後方向の位置関係がずれてしまい、それによる不具合が生じるとともに、場合によってはその調整が必要になる。例えば、ウィッペンの前方への移動に伴い、キャプスタンとの当接点からウィッペンの支点までの距離が短くなるので、鍵の静荷重が大きくなり、鍵のタッチは重くなる。また、ジャックの前方への移動に伴い、その先端部がシャンクローラに対して前方にずれるのに応じて、ジャックがシャンクローラから離脱するタイミング(レットオフのタイミング)もずれるため、鍵のタッチ感が通常演奏モード時と大きく異なってしまう。また、ジャックの先端部がシャンクローラに対して前方にずれることによって、ジャックによるシャンクローラの突上げを良好に行うことができず、押鍵エネルギがハンマーに十分に伝達されないことで、ピアノの音量が不足するおそれもある。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、消音演奏モード時に、通常演奏モード時とほとんど変わらない鍵のタッチ感とアクションの動作が得られるとともに、ジャックの離脱時におけるハンマーヘッドと弦との距離を拡大し、それにより、止音を余裕を持って確実に行うことができるグランド型ピアノを提供することを目的とする。
【0007】
【特許文献1】特開平7−271351号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、本願の請求項1に係る発明は、前後方向に張られた弦の打弦を許容する通常演奏モードと、弦の打弦を阻止する消音演奏モードに切り替えて演奏されるグランド型ピアノであって、前後方向に延びる揺動自在の鍵と、前後方向に延びるハンマーシャンクの後端部にハンマーヘッドを有し、前部の下面にシャンクローラを有するとともに、ハンマーシャンクの前端部を中心として回動自在のハンマーと、少なくとも上下方向に移動自在のウィッペンフレンジと、後端部においてウィッペンフレンジに回動自在に支持されるとともに、中央部において鍵に載置されたウィッペンと、ウィッペンに回動自在に取り付けられ、後ろ下がりに傾斜した状態で前後方向に延び、シャンクローラを介してハンマーシャンクを載置するレペティションレバーと、ウィッペンに回動自在に取り付けられ、シャンクローラを介して、ハンマーを突き上げ、回動させるとともに、その回動の途中でハンマーから離脱するジャックと、弦とハンマーシャンクの間に進退自在に設けられ、消音演奏モード時に、回動するハンマーのハンマーシャンクが当接することによって、ハンマーヘッドによる打弦を阻止する止音レールと、消音演奏モード時に、ウィッペンフレンジを上方に移動させる駆動装置と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、ウィッペンは、その後端部においてウィッペンフレンジに回動自在に支持され、中央部において鍵に載置されるとともに、これに回動自在に取り付けられたレペティションレバーおよびジャックとともに、アクションを構成している。また、ハンマーは、ハンマーシャンクの前端部を中心として回動自在であるとともに、離鍵状態ではハンマーシャンクは、シャンクローラを介して、後ろ下がりに傾斜したレペティションレバーに載置されている。
【0010】
この離鍵状態から、鍵が押鍵されると、ウィッペンが上方に回動することにより、ジャックがシャンクローラを介してハンマーを突き上げ、回動させ、その回動の途中でハンマーから離脱する。その後、ハンマーは慣性で回動する。通常演奏モード時には、止音レールが退避していて、ハンマーシャンクが止音レールに当接しないことで、ハンマーの回動が許容され、ハンマーヘッドで弦を打弦する。それにより、アコースティックな通常演奏が行われる。一方、消音演奏モード時には、ハンマーシャンクと弦の間に止音レールが進入していることで、ジャックの離脱後にハンマーシャンクが止音レールに当接することによって、ハンマーが停止され、ハンマーヘッドによる打弦が阻止される。
【0011】
本発明によれば、ウィッペンを支持するウィッペンフレンジが、少なくとも上下方向に移動自在に構成されており、消音演奏モード時に、駆動装置によって上方に駆動される。ウィッペンフレンジが上方に移動すると、ウィッペンの回動中心が同じ距離、上方に移動する一方、ウィッペンは鍵に載置されているため、ウィッペンとこれに取り付けたレペティションレバーおよびジャックを含むアクションが、全体として、ウィッペンの回動中心の回りに鍵側に向かって若干、回転する。
【0012】
レペティションレバーは、後ろ下がりに傾斜しているため、上記のように回転すると、レペティションレバーに対するシャンクローラの当接位置が後方に移動する。その結果、ハンマーシャンクの傾斜角度が大きくなり、その後端部に設けられたハンマーヘッドの高さが低くなる。このように、離鍵状態におけるハンマーヘッドの高さ、すなわちハンマーが回動する際のハンマーヘッドの初期位置が低くなるので、ジャックの離脱時におけるハンマーヘッドと弦との距離が拡大する。したがって、ジャックの離脱後に、止音レールによる止音を、余裕をもって確実に行うことができる。
【0013】
また、ウィッペン、レペティションレバーおよびジャックを含むアクション全体が、ウィッペンフレンジを中心に若干、回動するだけなので、これらのアクションの構成部品と他の構成部品との位置関係は、通常演奏モード時とほとんど変わらない。例えば、ジャックとシャンクローラとの位置関係や鍵に対するウィッペンの当接位置が、前後方向にはほとんど変化しないので、前述した従来の消音ピアノと異なり、通常演奏モード時とほとんど変わらない鍵のタッチ感とアクションの動作を得ることができる。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のグランド型ピアノにおいて、複数のウィッペンフレンジを左右方向に並んだ状態で保持するとともに、少なくとも上下方向に移動自在に設けられたウィッペンレールをさらに備え、駆動装置は、消音演奏モード時に、ウィッペンレールを上方に駆動することにより、複数のウィッペンフレンジを上方に移動させることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、複数のウィッペンフレンジがウィッペンレールに左右方向に並んだ状態で保持されており、ウィッペンレールは、少なくとも上下方向に移動自在に設けられている。消音演奏モード時には、駆動装置により、ウィッペンレールを上方に駆動することによって、複数のウィッペンフレンジが上方に移動する。これにより、上述した請求項1の作用が得られる。また、ウィッペンレールを移動させることによって、複数のウィッペンフレンジを同時に移動させるので、これらのウィッペンフレンジの移動をばらつきなく効果的に行えるとともに、駆動装置の構成を単純化することができる。
【0016】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載のグランド型ピアノにおいて、ウィッペンフレンジは、上下方向および前後方向に移動自在に構成されており、駆動装置は、消音演奏モード時に、ウィッペンフレンジを上方および前方に移動させることを特徴とする。
【0017】
請求項1に係る発明のようにウィッペンフレンジを上方に移動させた場合には、それに伴い、アクション全体がウィッペンフレンジを中心として鍵側に向かって回転することによって、鍵に対するウィッペンの当接位置が後方に若干ずれる。本発明によれば、消音演奏モード時に、ウィッペンフレンジを上方に移動させるのと同時に前方にも移動させるので、ウィッペンフレンジの上方への移動に伴う、鍵に対するウィッペンの当接位置の後方へのずれが相殺される。その結果、鍵の静荷重が維持されることで、通常演奏モード時とほぼ同じ鍵のタッチ感を得ることができる。
【0018】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載のグランド型ピアノにおいて、複数のウィッペンフレンジを左右方向に並んだ状態で保持するとともに、上下方向および前後方向に移動自在に設けられたウィッペンレールをさらに備え、駆動装置は、消音演奏モード時に、ウィッペンレールを上方および前方に駆動することにより、複数のウィッペンフレンジを上方および前方に移動させることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、消音演奏モード時には、駆動装置により、ウィッペンレールを上方および前方に駆動することによって、複数のウィッペンフレンジが上方および前方に移動する。これにより、上述した請求項3の作用が得られる。また、ウィッペンフレンジの移動をばらつきなく効果的に行えるとともに、駆動装置の構成を単純化できるなど、請求項2と同様の作用を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明を適用したグランド型の消音ピアノ1の鍵盤装置を示している。なお、以下の説明では、消音ピアノ1を演奏者から見たときの手前側(同図の右側)を「前」、奥側(同図の左側)を「後」として説明を行うものとする。
【0021】
図1に示すように、この消音ピアノ1は、前後方向に張られた弦Sと、複数(例えば88個)の鍵2(1つのみ図示)と、鍵2ごとに設けられ、押鍵時に回動し、弦Sを打弦するためのハンマー3と、鍵2の後部の上側に設けられ、押鍵に伴って作動し、ハンマー3を回動させるアクション4と、ハンマー3による打弦を許容・阻止する止音レール5などを備えている。この消音ピアノ1では、演奏モードが、ハンマー3による打弦により、アコースティックな演奏音を発生させる通常演奏モードと、ハンマー3による打弦を阻止し、電子的な演奏音を発生させる消音演奏モードに切り替えられる。
【0022】
鍵2は、前後方向に延びており、その中央に形成されたバランス孔を介して、バランスピン(いずれも図示せず)に回動自在に支持されている。
【0023】
ハンマー3は、前後方向に延びるハンマーシャンク3aと、その後端部に取り付けられたハンマーヘッド3bなどで構成されており、ハンマーシャンク3aの前端部において、ハンマーシャンクフレンジ6に、センターピン7を介して回動自在に支持されている。また、ハンマーシャンク3aの前部の下面には、シャンクローラ3cが固定されている。シャンクローラ3cは、例えば、内側のクロスとその外側に巻いたスキンから円柱状に形成されている。
【0024】
ハンマーシャンクフレンジ6は、ハンマー3ごとに設けられており、左右方向に並んだ状態で、ハンマーシャンクレール8の上面に固定されている。ハンマーシャンクレール8は、複数のブラケット9(図1に1つのみ図示)に渡され、固定されており、左右方向に延びている。これらのブラケット9は、棚板上の筬(いずれも図示せず)の左右の端部とその中間に設けられている。また、ハンマーシャンクフレンジ6の後端部には、下方に突出するドロップスクリュー10が設けられている。
【0025】
アクション4は、ウィッペン11と、ウィッペン11に取り付けられたレペティションレバー12およびジャック13などで構成されている。
【0026】
ウィッペン11は、その後端部において、ウィッペンレール14に固定されたウィッペンフレンジ15に、センターピン15aを介して回動自在に支持されており、前後方向に延びている。ウィッペン11の中央には、下方に突出するヒール部11aと、上方に延びるレバー取付部11bが設けられている。ウィッペン11は、ヒール部11aを介して、鍵2の後部に設けられたキャプスタン16に載置されている。
【0027】
レペティションレバー12は、前後方向に延びており、その中央部において、ウィッペン11のレバー取付部11bに、回動自在に取り付けられている。レペティションレバー12は、レペティションスプリング17によって、図1の反時計方向に付勢されるとともに、後端部に取り付けたレバーボタン12aを介して、ウィッペン11の上面に当接しており、それにより、後ろ下がりに傾斜した状態に保持されている。
【0028】
レペティションレバー12の前端部は、ハンマーシャンクフレンジ6に設けたドロップスクリュー10に、上下方向に所定間隔を隔てた状態で対向している。また、レペティションレバー12の前部には、上下方向に貫通するジャック案内孔12bが形成されるとともに、このジャック案内孔12bの一部を塞いだ状態で、ハンマー3のシャンクローラ3cが載置されている。
【0029】
ジャック13は、上下方向に延びる突上げ部13aと、その下端部の角部から前方に延びる当接部13bから、L字状に形成されている。ジャック13は、その角部において、ウィッペン11に回動自在に取り付けられている。突上げ部13aの上端部は、レペティションレバー12のジャック案内孔12bに挿入され、シャンクローラ3cとわずかな間隔を隔てた状態で対向している。また、ジャック13の当接部13bは、レギュレーティングボタン18に、所定間隔を隔てた状態で下方から対向している。このレギュレーティングボタン18は、ジャック13ごとに設けられており、複数のブラケット9に渡され、固定されたレギュレティングレール19に取り付けられている。
【0030】
止音レール5は、弦Sとハンマーシャンク3aの間に配置され、左右方向に延びており、支点5aを中心として回動自在に設けられている。止音レール5の先端部には、フェルトなどから成るクッション5bが設けられている。また、止音レール5は、棚板の下面に設けられた操作レバーに、ワイヤ(いずれも図示せず)などを介して連結されている。以上の構成により、止音レール5は、操作レバーの操作状態に応じて、ハンマーシャンク3aの回動範囲に進入する進入位置(実線位置)と、ハンマーシャンク3aの回動範囲から退避する退避位置(2点鎖線位置)に移動する。
【0031】
次に、本発明に係る、ウィッペンフレンジ15を移動させるための駆動装置20について説明する。この駆動装置20は、前記ウィッペンレール14と、ウィッペンレール14を駆動する前後一対のカム21、21(図2参照)と、ウィッペンレール14を付勢するコイルばね22などで構成されている。
【0032】
ウィッペンレール14は、左右方向に延びており、消音ピアノ1のすべてのウィッペンフレンジ15が取り付けられている。ウィッペンレール14は、通常と同様、U字状の断面を有するとともに、底部の下面には、左右方向に連続する突起14aが設けられている。また、ウィッペンレール14の底部には、左右方向に間隔を隔てて複数のねじ挿入孔14b(1つのみ図示)が形成されている。
【0033】
ウィッペンレール14は、その突起14aが、各ブラケット9の上面に形成された切欠9aに前後方向に若干の遊びをもって係合した状態で、ブラケット9に載置されるとともに、各ねじ挿入孔14bに通したねじ23をブラケット9にねじ込むことによって、取り付けられている。コイルばね22は、ねじ23の頭部とブラケット9の上面との間に介在している。以上の構成から、ウィッペンレール14は、コイルばね22の圧縮量の範囲内において、上方に移動することが可能である。
【0034】
一対のカム21、21は、ブラケット9に対して左右方向にずれた位置において、ウィッペンレール14の下側に配置されており、その下面に当接している。各カム21は軸24と一体に設けられており、これらの軸24、24は、前述した棚板下の操作レバーに、ワイヤなどを介して連結されている。
【0035】
以上の構成により、操作レバーを操作していない状態では、各カム21は前後方向に長い水平位置(2点鎖線位置)に位置しており、それに応じて、カム21に載置されたウィッペンレール14およびこれに取り付けたウィッペンフレンジ15は、より低い所定の通常演奏位置(2点鎖線位置)に位置している。この状態から、操作レバーを操作すると、軸24およびそれと一体のカム21が90度、回転することによって、カム21は上下方向に長い鉛直位置(実線位置)に移動する。これに伴い、ウィッペンレール14がコイルばね22の付勢力に抗して上方に所定距離、駆動されることによって、すべてのウィッペンフレンジ15が、通常演奏位置よりも高い所定の消音演奏位置(実線位置)に移動する。
【0036】
次に、図2および図3を参照しながら、上述した構成の消音ピアノ1の動作を説明する。なお、図2は離鍵状態を、図3はジャック13の離脱時の状態をそれぞれ示し、また、両図の2点鎖線は通常演奏モード時の状態を、実線は消音演奏モード時の状態をそれぞれ示す。また、これらの図では、図示の便宜上、ブラケット9などは省略されている。
【0037】
通常演奏モードで演奏を行う場合には、2点鎖線で示すように、止音レール5を退避位置に位置させるとともに、カム21を水平位置に位置させ、ウィッペンフレンジ15を通常演奏位置に位置させる。図2に示すように、離鍵状態では、ハンマーシャンク3aはシャンクローラ3cを介してレペティションレバー12に載置されており、後ろ下がりに傾斜している。
【0038】
この離鍵状態から、鍵2が押鍵されると、ウイッペン11が、キャプスタン16を介して突き上げられ、センターピン15aを中心として上方に回動する。これに伴い、レペティションレバー12およびジャック13がウイッペン11と一緒に上方に移動し、ジャック13の突上げ部13aが、シャンクローラ3cを介してハンマー3を突き上げ、上方に回動させる。その後、ジャック13の当接部13bがレギュレーティングボタン18に当接し、ジャック13の上方への移動が規制されることによって、ジャック13は、ウイッペン11に対して時計方向に回動し、シャンクローラ3cから離脱する。このときのハンマーヘッド3bの位置は、図3に2点鎖線で示され、ハンマーヘッド3bと弦Sとの距離はL1で示される。ジャック13の離脱後、ハンマー3は慣性で回動する。このとき、止音レール5は退避位置に位置していて、ハンマーシャンク3aが止音レール15に当接しないので、ハンマー3の回動が許容され、ハンマーヘッド3bで弦Sを打弦することによって、アコースティックな通常演奏が行われる。
【0039】
一方、消音演奏モードで演奏を行う場合には、棚板下の操作レバーを操作することによって、止音レール5を進入位置に移動させるとともに、カム21を鉛直位置に回転させることにより、ウィッペンレール14およびウィッペンフレンジ15を上方の消音演奏位置に移動させる。このようにウィッペンフレンジ15が上方に移動すると、ウィッペン11の回動中心(センターピン15a)が同じ距離、上方に移動する一方、ウィッペン11はキャプスタン16を介して鍵2に載置されているため、ウィッペン11、レペティションレバー12およびジャック13を含むアクション4が、全体として、図2の2点鎖線位置から実線位置まで、時計方向に若干、回転する。
【0040】
レペティションレバー12は、後ろ下がりに傾斜しているため、上記のように回転すると、レペティションレバー12に対するハンマー3のシャンクローラ3cの当接位置が後方に移動する。その結果、離鍵状態において、ハンマーシャンク3aの傾斜角度が大きくなり、ハンマーヘッド3bの高さは低くなる。
【0041】
この離鍵状態から、鍵2が押鍵されると、アクション4は通常演奏モードと同様に動作し、ジャック13が、シャンクローラ3cを介してハンマー3を突き上げ、回動させるとともに、その回動の途中でシャンクローラ3cから離脱する。このときのハンマーヘッド3bの位置は、図3に実線で示されており、離鍵状態におけるハンマーヘッド3bの高さ、すなわちハンマー3が回動する際のハンマーヘッド3bの初期位置が低くなっているため、ハンマーヘッド3bと弦Sとの距離L2は、通常演奏モード時の距離L1よりも大きくなる。その後、慣性で回動するハンマー3のハンマーシャンク3aが進入位置に位置する止音レール5に当接することによって、ハンマー3の回動が阻止され、ハンマーヘッド3bによる弦Sの打弦が阻止されることにより、消音演奏が行われる。
【0042】
以上のように、本実施形態によれば、消音演奏モード時に、ウィッペンフレンジ15を上方に移動させることによって、離鍵状態におけるハンマーシャンク3aの傾斜角度を大きくし、ハンマーヘッド3bの高さを低くする。それにより、ジャック13の離脱時におけるハンマーヘッド3bと弦Sとの間の距離L2が、通常演奏モード時の距離L1よりも拡大するので、ジャック13の離脱後に、止音レール5による止音を、余裕をもって確実に行うことができる。
【0043】
また、ウィッペンレール14を移動させることによって、消音ピアノ1のすべてのウィッペンフレンジ15を同時に移動させるので、これらのウィッペンフレンジ15の移動をばらつきなく効果的に行えるとともに、駆動装置20の構成を単純化することができる。特に、本実施形態の駆動装置20は、グランドピアノに通常、設けられているウィッペンレール14やこれを固定するためのねじ23を利用し、一対のカム21、21やコイルばね22を付加しただけのものであるので、非常に単純に構成することができる。
【0044】
さらに、ウィッペン11、レペティションレバー12およびジャック13を含むアクション4全体が、ウィッペンフレンジ15を中心に若干、回動するだけなので、これらのアクション4の構成部品と他の構成部品との位置関係は、通常演奏モード時とほとんど変わらない。例えば、ジャック13とシャンクローラ3cとの位置関係や鍵2のキャプスタン16に対するウィッペン11のヒール部11aの当接位置が、前後方向においてほとんど変化しないので、前述した従来の消音ピアノと異なり、通常演奏モード時とほとんど変わらない鍵2のタッチ感とアクション4の動作を得ることができる。
【0045】
次に、図4および図5を参照しながら、本発明の第2実施形態について説明する。この第2実施形態は、第1実施形態と比較し、駆動装置20の前後一対のカム21、21のうち、前側のカム21を省略し、後ろ側のカム21のみを設けた点が異なるものである。
【0046】
この構成によれば、消音演奏モード時に、棚板下の操作レバーを操作すると、カム21が水平位置から鉛直位置に90度、回転することによって、ウィッペンレール14が、コイルばね22の付勢力に抗し、下面の前側の角部14cを中心として、図4の時計方向に所定角度、回転する。これに伴い、ウィッペンフレンジ15は、上方に移動すると同時に前方にも移動する。
【0047】
したがって、本実施形態によれば、前述した第1実施形態による効果を同様に得ることができる。また、本実施形態では特に、ウィッペンフレンジ15を上方に移動させるのと同時に前方にも移動させるので、上方にのみ移動させた場合の、鍵2に対するウィッペン11の当接位置の後方へのずれが相殺される。その結果、鍵2の静荷重が通常演奏モード時と変わらずに維持されることで、通常演奏モード時とほぼ同じ鍵2のタッチ感を得ることができる。
【0048】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施できる。例えば、実施形態では、ウィッペンフレンジ15の駆動装置をカム21やコイルばね22などで構成しているが、この駆動装置として、適当な他の任意の構成を採用することができる。また、実施形態では、すべてのウィッペンフレンジ15を保持する単一のウィッペンレール14を移動自在に構成しているが、ウィッペンレールの移動量が比較的大きい場合などには、これを前後に分割し、そのうちの前側のものを固定する一方、複数のウィッペンフレンジを保持する後ろ側のもののみを移動自在に構成してもよい。
【0049】
あるいは、ウィッペンレールを左右方向に分割し、分割されたウィッペンレールをそれぞれ移動自在に構成するとともに、各ウィッペンレールに複数のウィッペンフレンジを保持するようにしてもよい。また、ウィッペンレールを介さずに、ウィッペンフレンジをそれぞれ直接、移動させることも、本発明の範囲内である。その他、本発明の趣旨の範囲内において、細部の構成を変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態によるグランド型の消音ピアノの鍵盤装置を示す、一部を破断した側面図である。
【図2】図1の鍵盤装置を、離鍵状態において、通常演奏モードおよび消音演奏モードの双方について同時に示す側面図である。
【図3】図1の鍵盤装置を、ジャックの離脱時の状態において、通常演奏モードおよび消音演奏モードの双方について同時に示す側面図である。
【図4】本発明の第2実施形態によるグランド型の消音ピアノの鍵盤装置を、図2と同様の状態において示す側面図である。
【図5】図4の鍵盤装置を、図2と同様の状態において示す側面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 消音ピアノ(グランド型ピアノ)
2 鍵
3 ハンマー
3a ハンマーシャンク
3b ハンマーヘッド
3c シャンクローラ
4 アクション
5 止音レール
11 ウィッペン
12 レペティションレバー
13 ジャック
14 ウィッペンレール
15 ウィッペンフレンジ
20 駆動装置
21 カム
22 コイルばね
S 弦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に張られた弦の打弦を許容する通常演奏モードと、前記弦の打弦を阻止する消音演奏モードに切り替えて演奏されるグランド型ピアノであって、
前後方向に延びる揺動自在の鍵と、
前後方向に延びるハンマーシャンクの後端部にハンマーヘッドを有し、前部の下面にシャンクローラを有するとともに、前記ハンマーシャンクの前端部を中心として回動自在のハンマーと、
少なくとも上下方向に移動自在のウィッペンフレンジと、
後端部において前記ウィッペンフレンジに回動自在に支持されるとともに、中央部において前記鍵に載置されたウィッペンと、
前記ウィッペンに回動自在に取り付けられ、後ろ下がりに傾斜した状態で前後方向に延び、前記シャンクローラを介して前記ハンマーシャンクを載置するレペティションレバーと、
前記ウィッペンに回動自在に取り付けられ、前記シャンクローラを介して、前記ハンマーを突き上げ、回動させるとともに、その回動の途中で前記ハンマーから離脱するジャックと、
前記弦と前記ハンマーシャンクの間に進退自在に設けられ、前記消音演奏モード時に、回動する前記ハンマーの前記ハンマーシャンクが当接することによって、前記ハンマーヘッドによる打弦を阻止する止音レールと、
前記消音演奏モード時に、前記ウィッペンフレンジを上方に移動させる駆動装置と、
を備えていることを特徴とするグランド型ピアノ。
【請求項2】
複数の前記ウィッペンフレンジを左右方向に並んだ状態で保持するとともに、少なくとも上下方向に移動自在に設けられたウィッペンレールをさらに備え、
前記駆動装置は、前記消音演奏モード時に、前記ウィッペンレールを上方に駆動することにより、前記複数のウィッペンフレンジを上方に移動させることを特徴とする、請求項1に記載のグランド型ピアノ。
【請求項3】
前記ウィッペンフレンジは、上下方向および前後方向に移動自在に構成されており、
前記駆動装置は、前記消音演奏モード時に、前記ウィッペンフレンジを上方および前方に移動させることを特徴とする、請求項1に記載のグランド型ピアノ。
【請求項4】
複数の前記ウィッペンフレンジを左右方向に並んだ状態で保持するとともに、上下方向および前後方向に移動自在に設けられたウィッペンレールをさらに備え、
前記駆動装置は、前記消音演奏モード時に、前記ウィッペンレールを上方および前方に駆動することにより、前記複数のウィッペンフレンジを上方および前方に移動させることを特徴とする、請求項3に記載のグランド型ピアノ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−251054(P2009−251054A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95485(P2008−95485)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)