説明

グランド材用ゴムチップの製造方法及び該処理方法で使用した処理液の廃液処理方法

【課題】排水浄化層を設けなくても酸化亜鉛等の重金属が排水中に排出されることを防ぐことができるようにする。
【解決手段】(A)ゴム材料を粉砕してゴムチップとする工程、及び(B)そのゴムチップを0.001mol/L以上の高濃度の酸、アルカリ又は錯塩の水溶液で処理する工程を含んで人工芝のパイル間に充填したり、また全天候型トラックの基盤に使用するゴムチップを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工芝や陸上競技用全天候型トラックなどのグランド材に使用されるゴムチップを製造する方法と、その製造方法で使用した処理液の排水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
種々のスポーツ用のグランドの多くに人工芝や全天候型トラックのグランド材が敷設されている。人工芝は基材にパイル繊維の一端を固定したものである。人工芝にはパイル間に砂などの充填材を充填しているが、特に衝撃吸収機能をもたせるためにパイル間にゴムチップを充填している。また、全天候型トラックの基盤にもゴムチップが使用されている。陸上競技用全天候型トラックは施工地に基盤としてゴムチップが敷設され、その上部がポリウレタンなどの樹脂製カバーで被われたものである。
【0003】
それらのグランド材で使用されるゴムチップとしては、廃棄タイヤを3〜4mmの大きさに粉砕したものが主として使用されている。
【0004】
しかしながら、廃棄タイヤを原料とするゴムチップには酸化亜鉛等の重金属が含有されているので、これが酸性雨などによって溶出すると環境を汚染する問題がある。
【0005】
そこで、人工芝のパイル間に充填されたゴムチップから溶出する酸化亜鉛が排水中に排出されないようにするために、ゴムチップ層の下側に炭酸カルシウムを含む排水浄化層を配置することにより、ゴムチップから溶出する酸化亜鉛を沈殿させて排水中に排出されないようにしたグランド材が提案されている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−281982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
提案のグランド材は炭酸カルシウムを含む排水浄化層が必須であるため、グランド材の敷設費用が高くなる。また、グランド材は常時野外で雨や日光に曝されているので、排水浄化層の機能が低下することが十分に予想される。さらに、炭酸カルシウムが排水に溶け出すためpHが9以上となり、日本国のpHの排水基準5.8−8.6の間に入らなくなる。
【0007】
本発明は炭酸カルシウムを含む排水浄化層を設けなくても酸化亜鉛等の重金属が排水中に排出されることを防ぐことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
提案のグランド材は人工芝のパイル間に充填したゴムチップからは酸化亜鉛等の重金属が溶出することを前提にしているが、本発明はゴムチップ自体からの酸化亜鉛等の重金属の溶出を抑えることにより、排水中への酸化亜鉛等の重金属の排出を抑えようとするものである。
【0009】
本発明のゴムチップは、以下の工程(A)及び(B)、すなわち、
(A)ゴム材料を粉砕してゴムチップとする工程、及び
(B)前記ゴムチップを0.001mol/L以上の高濃度の酸、アルカリ又は錯塩の水溶液からなる処理液で処理する工程を含んで製造する。
【0010】
本発明のゴムチップが使用されるグランド材は、基材に複数のパイルの下端が固定された人工芝が施工地に敷設され、それらのパイル間にゴムチップが充填されたもののほか、施工地に基盤としてゴムチップが敷設され、その上部がポリウレタンなどの樹脂製カバーで被われた陸上競技用全天候型トラックなども含んでいる。
【0011】
ゴムチップの原料となるゴム材料は、特に限定されるものではないが、本発明が対象とするのは酸化亜鉛等の重金属を含んだものである。現在、資源の有効利用の観点から主として古タイヤが使用されているが、古タイヤ以外のゴム材でもよい。
【0012】
工程(B)の処理液として使用するのに好ましい酸、アルカリ及び錯塩としては、ゴムを溶解することなく亜鉛などの重金属に対して大きい溶解度をもつものである。そのような酸、アルカリ及び錯塩を例示すると次のようになる。酸としては、硫酸、塩酸又は硝酸などの無機酸が好ましい。アルカリとしては、NaOH(水酸化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)、アンモニア又は炭酸ナトリウムなどが好ましい。錯塩としては、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、NTA(ニトリロ三酢酸)又はCyDTA(t−シクロヘキサン−1,2−ジアミン四酢酸)などが好ましい。
【0013】
工程(B)で使用する処理液の濃度はゴムチップの処理時間、処理後の処理液の廃液処理などを考慮して設定する。0.001mol/L以上であれば本発明の目的を達成することができる。例えば、硫酸を例にとると、0.001mol/Lの硫酸の酸度はpH3である。酸性雨のpHを目安にすると、酸性雨で最も酸度の強いもののpHは3.7〜3.8である。そのため、pH3の酸溶液以上の強い酸溶液(pH値では3以下の数値となる。)で処理しておけば酸性雨には十分に耐えられる。重金属のうち亜鉛などの両性金属はアルカリ溶液でも溶出する。また、錯塩溶液であれば全ての重金属が溶出する。ゴムチップで最も問題になっているのは亜鉛であるので、酸、アルカリ及び錯塩のいずれの溶液も適用することができ、その濃度も酸溶液と同程度の濃度の溶液で処理することにより同程度の効果が期待できる。
【0014】
処理液の濃度を0.1mol/L以上とすればゴムチップ処理時間を短縮することができ、さらに1mol/L以上とすればゴムチップ処理時間をさらに短縮することができる。処理液の濃度がさらに高くなっても本発明の目的を達成する上では不都合はなく、入手できる限りの高濃度で使用することができる。例えば、硫酸であれば18mol/L、水酸化ナトリウム溶液であれば10mol/Lまで使用できる。EDTAは高濃度になると懸濁するが、1.5mol/L程度までは使用することができる。しかし、処理液は高濃度になるほど処理に危険を伴なったり、処理後の処理液の廃液処理にコストがかかったりすることもあるので、処理液の濃度は本発明の目的を達成しつつ、処理しやすい濃度に設定するのが望ましい。
【0015】
工程(B)における処理液の温度は室温でもよいが、例えば50℃というように、室温よりも高温とすればゴムチップ処理時間を短縮することができる。
【0016】
工程(B)における洗浄は、処理液を攪拌、振とう又は超音波処理の下で行うのが好ましく、処理液を攪拌又は振とうしながら同時に超音波処理も行えばゴムチップ処理時間をより短縮することができる。
【0017】
工程(B)における洗浄時間は長ければ長い方がよいが、少なくとも洗浄処理後にゴムチップを日本国の環境庁告示第46号の溶出試験法などの所定の条件で溶出処理を行って、亜鉛濃度が日本国の環境省令第33号で規定されている排出基準値の2mg/L以下となるように設定する。
【0018】
本発明のゴムチップ製造方法でゴムチップを処理した処理液には亜鉛イオンなどの重金属イオンが含まれているので、そのままで排水として排出することはできない。そこで、本発明の廃液処理方法では、処理液を廃棄する前に、処理液に凝集剤を添加するとともに、pHを8以上にすることによって処理液中の重金属イオンを沈澱させて除去する。
【0019】
凝集剤としては、水酸化カルシウム懸濁液、鉄塩、アルミニウム塩又は高分子凝集剤を用いることができる。これらの凝集剤は酸、アルカリ及び錯塩のいずれの処理液に対しても適用することができる。この廃液処理によって処理液中の重金属イオンは沈澱して除去されているが、溶液のpHは日本国のpHの排水基準である5.8−8.6の範囲よりも高くなっている場合がある。その場合には、処理液を排出する前に、pHが5.8−8.6の範囲内にくるように中和処理を施す必要がある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、基材に複数のパイルの下端が固定され施工地に敷設された人工芝のパイル間に充填されるゴムチップや、陸上競技用全天候型トラックのグランド材に使用されるゴムチップなどのゴムチップを、人工芝やトラックなどへの施工前に処理したので、施工後に酸化亜鉛等の重金属が溶出するのを抑えることができる。その結果、そのように処理されたゴムチップを人工芝を使ったグランド材に使用すれば、排水浄化層のように溶出した重金属を捕捉する手段を設ける必要がなくなり、敷設コストを低下させることができる。また、全天候型トラックの基盤のゴムチップに使用すれば、それからの酸化亜鉛等の重金属が溶出するのを抑えることができる。
【0021】
また、重金属イオンを含んだ処理液に対して本発明の廃液処理方法適用することにより、処理液中の重金属イオンを低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
ゴムチップ製造方法について実施例1〜3と比較例とを示す。
古タイヤを破砕して大きさが3〜4mmのゴムチップを作成して、これを試料とした。
【0023】
(実施例1)
以下のそれぞれの溶液を処理液として、それぞれの処理液50mLに対して試料のゴムチップが5gとなる割合で、ゴムチップをそれぞれの溶液に浸し、液温を20℃にして6時間振とう処理を行った。
(a)0.1mol/L 硫酸
(b)1mol/L 硫酸
(c)0.1mol/L NaOH
(d)1mol/L NaOH
(e)0.1mol/L EDTA
【0024】
上記の処理の後、環境庁告示第46号の溶出試験法に基づき、以下の条件で溶出試験を行った。すなわち、上記の処理後のゴムチップと溶媒(純水に硫酸を加えてpH3.0としたもの)とを重量体積比10%の割合で混合し、その混合液が50mLとなるように調製した。そのように調製した試料液を20℃、1気圧で6時間連続して振とうした。振とう機は振とう回数を200回/分、振とう幅を4.5に設定した。得られた試料液を20分間静置した後、3000回転/分で20分間遠心分離した後の上澄み液を孔径0.45μmのメンブランフィルタでろ過してろ液を採取した。そのろ液の亜鉛濃度を測定した。その結果は次のようになった。
(a)0.1mol/L 硫酸で処理したもの 0.88mg/L
(b)1mol/L 硫酸で処理したもの 0.71mg/L
(c)0.1mol/L NaOHで処理したもの 1.8mg/L
(d)1mol/L NaOHで処理したもの 0.73mg/L
(e)0.1mol/L EDTAで処理したもの 1.3mg/L
【0025】
(実施例2)
0.1mol/L硫酸溶液を処理液として、その50mLに対し試料のゴムチップが5gとなる割合で浸し、液温を50℃にして1時間振とう処理を行った。その処理の後、実施例1で行った溶出試験と同じ溶出試験を行って得たろ液の亜鉛濃度を測定すると、0.63mg/Lであった。
【0026】
(実施例3)
0.1mol/L硫酸溶液を処理液として、その50mLに対し試料のゴムチップが5gとなる割合で浸し、液温を20℃にして1時間超音波処理を行いながら振とう処理を行った。その処理の後、実施例1で行った溶出試験と同じ溶出試験を行って得たろ液の亜鉛濃度を測定すると、0.57mg/Lであった。
【0027】
(比較例)
本発明の処理を施す前の試料のゴムチップに対し、実施例1で行った溶出試験と同じ溶出試験を行って得たろ液の亜鉛濃度を測定すると、5.1mg/Lであった。
【0028】
亜鉛は日本国の環境省令第33号では、公共水域に排水する排出基準値が2mg/L以下とされているので、実施例による処理を施せばその排出基準値を満たすことができるが、そのような処理を施さないゴムチップの溶出試験の結果はその排出基準値を満たすことができない。
【0029】
また、本発明の方法で処理すれば、ゴムチップ中の炭素微粒子もかなり除かれることがわかった。処理せずにゴムチップを水溶液に入れた場合、その溶液に炭素微粒子が懸濁するため透明度は78cmであった。しかし、本発明の処理を行ったゴムチップを水溶液に入れた場合、透明度は100cm以上であった。
【0030】
次に廃液処理方法の実施例を示す。
0.1mol/L硫酸を処理液として、その50mLに対してゴムチップが5gとなる割合で浸し、30分間煮沸し、ガラスフィルター(GF100タイプ)で分離した溶液を試料溶液とした。この試料溶液中の亜鉛濃度は67mg/Lであった。
【0031】
(実施例4)
試料溶液50mlに対し、水酸化カルシウム懸濁液を添加して、以下のpHになるように中和処理を行った。水酸化カルシウム懸濁液は凝集剤であるとともに中和剤としても作用する。
(a)pH7
(b)pH8
(c)pH9
【0032】
その後、ガラスフィルター(GF100タイプ)でろ過してろ液を採取した。そのろ液の亜鉛濃度を測定した。その結果は次のようになった。
(a)pH7になるように中和処理したもの …… 15mg/L
(b)pH8になるように中和処理したもの …… 0.27mg/L
(c)pH9になるように中和処理したもの …… 0.05mg/L以下
【0033】
水酸化カルシウム懸濁液で処理する場合は、pH8以上になるよう添加すれば、亜鉛濃度が日本国の環境省令第33号で規定されている排出基準値の2mg/L以下とすることができる。
【0034】
水酸化カルシウム懸濁液で処理してpH8以上にした処理液は、亜鉛イオンは沈澱して除去されているが、pHが日本国のpHの排水基準である5.8−8.6の範囲にないものはそのままでは排出することができないので、さらに中和処理を施してpHが5.8−8.6の範囲になるようにした後に排出する。
【0035】
(実施例5)
試料溶液50mlに対し、凝集剤として塩化第二鉄溶液を添加して第二鉄濃度が100mg/Lになるように調節した。その後、中和剤として0.1mol/LのNaOH水溶液を用いて、以下のpHになるように中和処理を行った。
(a)pH7
(b)pH8
(c)pH9
【0036】
その後、ガラスフィルター(GF100タイプ)でろ過してろ液を採取した。そのろ液の亜鉛濃度を測定した。その結果は次のようになった。
(a)pH7になるように中和処理したもの …… 8.5mg/L
(b)pH8になるように中和処理したもの …… 0.34mg/L
(c)pH9になるように中和処理したもの …… 0.15mg/L
【0037】
凝集剤としての塩化第二鉄溶液と中和剤としてのNaOH水溶液で処理する場合も、pH8以上になるよう添加すれば、亜鉛濃度が日本国の環境省令第33号で規定されている排出基準値の2mg/L以下とすることができる。この実施例の場合も、排水として排出する際には、pHが日本国のpHの排水基準である5.8−8.6の範囲になるようにした後に排出する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工地に敷設されるグランド材に使用されるゴムチップを以下の工程(A)及び(B)を含んで製造するゴムチップ製造方法。
(A)ゴム材料を粉砕してゴムチップとする工程。
(B)前記ゴムチップを0.001mol/L以上の高濃度の酸、アルカリ又は錯塩の水溶液で処理する工程。
【請求項2】
工程(B)における水溶液の濃度を0.1mol/L以上とする請求項1に記載のゴムチップ製造方法。
【請求項3】
工程(B)における水溶液の濃度を1mol/L以上とする請求項2に記載のゴムチップ製造方法。
【請求項4】
工程(B)における水溶液の温度を室温よりも高温とする請求項1から3のいずれか一項に記載のゴムチップ製造方法。
【請求項5】
工程(B)における処理は水溶液中にゴムチップを浸し水溶液を攪拌又は振とうしながら行う請求項1から4のいずれか一項に記載のゴムチップ製造方法。
【請求項6】
工程(B)における処理は超音波処理の下で行う請求項1から5のいずれか一項に記載のゴムチップ製造方法。
【請求項7】
前記グランド材は、基材に複数のパイルの下端が固定された人工芝が施工地に敷設され、前記パイル間にゴムチップが充填されたものである請求項1から6のいずれか一項に記載のゴムチップ製造方法。
【請求項8】
前記グランド材は施工地にゴムチップが敷設され、その上部を樹脂製カバーで覆ったものである請求項1から6のいずれか一項に記載のゴムチップ製造方法。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか一項に記載のゴムチップ製造方法でゴムチップを処理した前記処理液を廃棄する前に、前記処理液に凝集剤を添加するとともに、pHを8以上にすることによって処理液中の重金属イオンを沈澱させて除去することを特徴とする処理液の廃液処理方法。

【公開番号】特開2010−47913(P2010−47913A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210969(P2008−210969)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(501173759)
【出願人】(597068906)弘栄貿易株式会社 (5)
【Fターム(参考)】