説明

グリオキシル酸と塩酸とを含有する水性反応媒体からグリオキシル酸を分離する方法

本発明は、グリオキシル酸と塩酸とを含有する水性反応媒体から開始してグリオキシル酸を分離する方法であって、一方では、揮発性の塩酸を含有する気相を、他方では、精製されたグリオキシル酸を含有する液相を得るために、該反応媒体を向流蒸気ストリッピングするステップを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリオキシル酸と塩酸とを含有する水性反応媒体から開始してグリオキシル酸を精製する方法であって、該媒体中の塩酸の残存濃度を顕著に低下させることが可能な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリオキシル酸は、通常、例えば、欧州特許第349406号明細書(特許文献1)中に記載のように、水性媒体中の無機酸(塩酸など)の存在下で硝酸を使用してグリオキサールを酸化させることにより得る。
【0003】
この酸化の一般的原理は、以下の通りである:
【0004】
【化1】

【0005】
得られたグリオキシル酸水溶液は、除去することが困難な、わずかではない量の塩酸を含有する。
【0006】
蒸発、電気透析、または、イオン交換樹脂を用いた処理などの手法が慣例的に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第349406号明細書
【特許文献2】特開平58−153575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、こうした手法は産業的視点からは満足なものではなく、その理由は、このような手法には、特に、電気透析の場合、エネルギーを大量投入するか、またはそうでなければ大量の樹脂を使用することが必要だからである。さらに、結果として塩酸−水共沸混合物を形成することになる通常の蒸発法では、塩酸含有量を共沸混合物の含有量未満に減少させることができない。
【0009】
特開平58−153575号公報(特許文献2)には、塩酸−水共沸混合物の形成を回避することが可能な操作条件を用いてグリオキシル酸水溶液を精製する方法が記載されている。グリオキシル酸−塩酸−水の三成分混合物を形成し、この混合物から塩酸を抽出する。この方法は、好ましくは、60重量%未満のグリオキシル酸を含むグリオキシル酸水溶液に適用するように示されている。
【0010】
ところが、こうした手法のいずれを用いても塩酸含有量は約5000ppmの含有量未満に減少しない。しかし、そのような含有量は、設備を構成するための大部分の材料、または、貯蔵材料に対して腐食の問題を有することから、およそ300ppm以下に減少させることが望ましい。
【0011】
さらに、水性媒体中のグリオキシル酸含有量が高くなると(例えば濃度により)、とりわけ、高濃度のグリオキシル酸の粘着性により、塩酸含有量を減少させることが困難になることが指摘されている。
【0012】
したがって、解決すべき技術的な問題は、グリオキシル酸と塩酸とを含有する水性反応媒体から開始してグリオキシル酸を精製する方法であって、該媒体中の残存塩酸濃度を顕著に低下させることが可能であり、エネルギーまたは反応物を大量に消費する必要なく、産業レベルで実施できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、第1の態様によれば、本発明は、グリオキシル酸と塩酸とを含有する水性反応媒体から開始してグリオキシル酸を分離する方法であって、一方では、揮発性の塩酸を含有する気相を、他方では、精製されたグリオキシル酸を含有する液相を得るために、該反応媒体を向流蒸気ストリッピングするステップを含む方法に関する。
【0014】
有利には、本発明による方法は、30重量%未満の水、好ましくは25重量%未満の水を含有する水性反応媒体中で実施する。
【0015】
この向流ストリッピングのステップは、大気圧未満、好ましくは30000Pa(300mbar)未満、特には10000Pa(100mbar)未満の圧力下で実施する。
【0016】
グリオキシル酸と塩酸とを含有する水性反応媒体は、有利には、塩酸の存在下でグリオキサールを酸化させることにより得る。
【0017】
本発明による方法は、有利には、反応媒体中の塩酸濃度が2重量%以下、とりわけ0.5重量%以下であるとき実施できる。
【0018】
前述のように、本発明による方法は、水性反応媒体中の残存塩酸含有量を非常に低い含有量に減少させることにとりわけ適している。
【0019】
特に、本発明による方法は、精製されたグリオキシル酸を含有する液相中の塩酸濃度を250ppm以下、好ましくは100ppm以下、優先的には50ppm以下、より優先的には30ppm以下の含有量に減少させることが可能である。
【0020】
前述のように、本発明による方法は、高濃度のグリオキシル酸を含有する水性反応媒体の精製に特に適している。
【0021】
特に、本発明による方法は、前記水性反応媒体が、70重量%〜80重量%のグリオキシル酸と、0〜5重量%のシュウ酸と、0〜5重量%のグリオキサールとを含有するときに実施できる。
【0022】
本発明による方法の好ましい一態様によれば、重量比で0.1〜10の間、とりわけ、重量比で0.2〜2の間の蒸気対反応媒体比を用いる。
【0023】
図1は、本発明による方法を実行するための装置を模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明では、充填済みカラム(疎充填もしくは規則充填)またはトレイ・カラムなど、任意の蒸気ストリッピング装置を使用できる。
【0025】
(1)で、グリオキシル酸と塩酸とを含有する水性反応媒体を、断熱されておりRashigリングを備えるガラス・カラム(2)の上端に導入するが、ガラス・カラム中ではカラムの底の(3)に導入された向流蒸気が循環する。気体−液体分離装置(4)を用い、精製されたグリオキシル酸溶液を含有する液相をカラムの底で回収する。カラムの上端では、熱交換器(5)中で気相を液化させて(6)で回収する。
【0026】
本発明の別の好ましい態様によれば、グリオキシル酸と塩酸とを含有する水性反応媒体は、カラム中に導入する前に、好ましくは50〜100℃の間、最も好ましくは60〜90℃の間の温度で予熱する。
【0027】
以下の例により、非限定的な様式で本発明を例証する。
例1
【0028】
1)グリオキシル酸と塩酸とを含有する水性反応混合物の調製
50重量%の市販のグリオキシル酸水溶液(Clariant Specialty Fine Chemicals(フランス))を77%に濃縮させてから、37%の水性塩酸を加えて、およそ5000ppmの塩酸を含有する76重量%のグリオキシル酸水溶液を得る。
【0029】
2)グリオキシル酸の分離
前記の要領で得て80℃に予熱したグリオキシル酸水溶液を、断熱しRashigリング(6×6mm)を充填したガラス・カラム(直径50mm、長さ2m)上に流量3894g/時で導入する。カラムの底に、導入流量2001g/lで蒸気を導入する。カラム中の圧力は10000Pa(100mbar)未満である。32ppmの塩酸を含有する75重量%のグリオキシル酸水溶液を、流量3944g/lでカラムの底で回収する。
例2
【0030】
およそ5000重量ppmの塩酸を含有する80重量%のグリオキシル酸水溶液を、導入流量2363g/時および蒸気流量1599g/時で使用することを除き、例1を繰り返す。
【0031】
39ppmの塩酸を含有する74重量%のグリオキシル酸水溶液を、流量2581g/lでカラムの底で回収する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリオキシル酸と塩酸とを含有する水性反応媒体から開始してグリオキシル酸を分離する方法であって、一方では、揮発性の塩酸を含有する気相を、他方では、精製されたグリオキシル酸を含有する液相を得るために、前記反応媒体を向流蒸気ストリッピングするステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記水性反応媒体が30重量%未満の水を含有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水性反応媒体が25重量%未満の水を含有することを特徴とする、請求項1および2のいずれか一つに記載の方法。
【請求項4】
前記向流ストリッピングするステップを大気圧未満の圧力下で実施することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記向流ストリッピングするステップを、30000Pa未満、好ましくは10000Pa未満の圧力下で実施することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
グリオキシル酸と塩酸とを含有する前記水性反応媒体を、塩酸の存在下でグリオキサールを酸化させることにより得ることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記水性反応媒体中の塩酸濃度が2重量%以下であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記水性反応媒体中の塩酸濃度が0.5重量%以下であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
精製されたグリオキシル酸を含有する前記液相中の塩酸濃度が250ppm以下、好ましくは100ppm以下であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
精製されたグリオキシル酸を含有する前記液相中の塩酸濃度が50ppm以下、好ましくは30ppm以下であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記水性反応媒体が、70重量%〜80重量%のグリオキシル酸と、0〜5重量%のシュウ酸と、0〜5重量%のグリオキサールとを含有することを特徴とする、請求項1から10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
重量比で0.1〜10の間の蒸気対反応媒体比を用いることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
蒸気対反応媒体比が重量比で0.2〜2の間であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
グリオキシル酸と塩酸とを含有する前記水性反応媒体を、カラム中に導入する前に、好ましくは50〜100℃の間の温度で予熱することを特徴とする、請求項1から13のいずれか一つに記載の方法。


【公表番号】特表2011−510042(P2011−510042A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543487(P2010−543487)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/050663
【国際公開番号】WO2009/092736
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(509281726)クラリアント・スペシャルティ・ファイン・ケミカルズ(フランス) (3)
【Fターム(参考)】