説明

グリコシル化ポリペプチドを同定する方法

本発明は、グリコシル化ポリペプチドを同定するための段階的方法を提供する。この方法を構成する複数の段階として、少なくとも一種類のプロテアーゼによってグリコシル化ポリペプチド含有生物学的試料を処理することでペプチド消化を開始させた後、脱グリコシル化、さらにそれに続く少なくとも一種類のプロテアーゼによる再消化をおこなうことで、脱グリコシル化ポリペプチド・フラグメントを得ることが含まれる。次に、脱グリコシル化ポリペプチドの配列を質量分析を用いて決定し、既知の配列のデーターベースと比較することで、配列を同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテオミックスの分野、特に質量分析技術を用いてグリコシル化ポリペプチドを同定する方法に関し、より詳しくは、質量分析技術を用いた同定に先立って、プロテアーゼ消化、脱グリコシル化、および第2のプロテアーゼ消化を含む段階的方法を用いた重グリコシル化ポリペプチドの同定に関する。
【背景技術】
【0002】
(従来の技術)
グリコシル化ポリペプチドまたは糖タンパク質は、共有結合したオリゴ糖鎖を有するタンパク質である。いずれの生物体でも各々の細胞は、細胞の種類と状態とを反映する多様なオリゴ糖鎖によって覆われている。植物および動物では、そのようなオリゴ糖鎖の多くがペプチド主鎖に結合している。動物では、ほとんどの糖タンパク質が体液に分泌されたり、内在性膜タンパク質として細胞膜に埋め込まれている。結合オリゴ糖鎖は、他の分子との相互作用を可能にする特異的「アドレス」をタンパク質に与える。このような特異性の付与に加えて、グリコシル化は、タンパク質の粘性を増加させることで、タンパク質分解酵素、細菌、およびウイルスによる侵襲に対して細胞を保護する細胞表面に、内在性膜タンパク質による潤滑保護被覆を設けることを可能とする。膜受容体、酵素、タンパク質ホルモン、血漿タンパク質、抗体、補体タンパク質、および血液型タンパク質は、すべて糖タンパク質の例である。
糖タンパク質は、2段階プロセスで個々の細胞によって合成される。糖タンパク質のタンパク質は、粗面小胞体(RER)上でmRNAから最初に翻訳された後、新たに翻訳されたタンパク質がRERおよびゴルジ複合体を通過するにしたがって、オリゴ糖鎖が添加される。オリゴ糖鎖は、新たに翻訳されたタンパク質主鎖に共有結合する。このようなオリゴヌクレオチドの結合は、O−結合およびN−結合という2通りの主要な結合がある。O−結合オリゴ糖は、セリンおよびスレオニン残基のOH基へのO−グリコシド結合を介してタンパク質主鎖に結合する。N−結合オリゴ糖は、アスパラギン側鎖のNH基に対するN−グリコシド結合を介してタンパク質主鎖に結合する。アスパラギンは、Asn−X−Ser(またはThr)という配列に生じ、この配列中Xはプロリン以外の任意のアミノ酸残基である。これらのオリゴ糖鎖の各々は、多くの異なるサッカリド部分、部分の変異、および部分の組み合わせからなる。これらのグリコシル化の不均一パターンは、機能、細胞状態、および細胞型を反映する細胞内のタンパク質の最終位置を決定する。これらのグリコシル化パターンは、疾患状態による影響を受けることがある。
タンパク質グリコシル化は、細胞表面上の炭水化物部分がそのようなプロセスで、受容体−リガンド結合、抗原−抗体結合、細胞間認識、および細胞−基層(細胞外マトリックス)認識として認識するための標識として機能することから、多細胞生物の基礎生物学で重要な役割を果たす。グリコシル化タンパク質は、細胞接着および細胞増殖の接触阻害にも関係している。さらに、いくつかの疾患状態は、糖タンパク質の炭水化物含有量(オリゴ糖鎖の量および種類)に反映される(タンパク質グリコシル化についての序文として、コンサイス百科辞典:生化学および分子生物学、第3版、トーマスA.スコットおよびE.イアン・マーサーによって改訂および記述、W・グレイター、ベルリン−ニューヨーク、1997、261−263ページ、ならびに、インスタント・ノート:バイオケミストリー、第2版、B.D.ハムスおよびN.Mフーパー、シュプリンガー出版ニューヨーク、2000、238−241ページを参照せよ)。
糖タンパク質の同定は、健康および疾患でのタンパク質グリコシル化に対する役割を理解する上で必要条件である。オリゴ糖鎖の異質性が、生物学的試料由来の糖タンパク質の同定で多くの問題点を伴って研究者に示された。糖鎖は、タンパク質合成の時点またはその後の任意の時点で添加し得る異なるサッカリド部分、分岐、結合、または他の修飾を伴う種々の糖型で存在しうる。異なるグリコシル化パターン(例えば、糖タンパク質の正常な状態および同一糖タンパク質の疾患状態)を表す一方で同一の一次構造を有する複数の糖タンパク質が、従来の二次元ゲル電気泳動で複数のスポットに出現し得るので、不正確に同定され得る。同一タンパク質もまた、複数のスポットに基づいて、結果として不正確な濃度で複数回同定し得る。従来の技術を適用した場合、異なる糖型の電荷は別の問題点である。例えば、異なる変異体が同一正味電荷を持ち得るので、同一速度でゲル内を移動して糖型を区別不能にさせる。
重グリコシル化されているタンパク質は、上記したものに沿った同定に対して、さらなる課題を提供する。完全長タンパク質は、一般に、質量分析としてそのような技術を用いた同定に先立って、消化される。グリコシル化は、プロテアーゼ消化に対する耐性を高める(グリコシル化の機能の一つは、プロテアーゼ消化に対する保護であるため)。また、増加している過酷なタンパク質分解処理が、ペプチド主鎖の完全性に損害を与え得ることから、同定をよりいっそう困難にし、不正確になりやすい。さらに、脱グリコシル化処理を伴わない従来の配列決定法によって重グリコシル化ポリペプチドを同定することは困難である。例えば、糖鎖を持つ消化ペプチド・フラグメントは、質量分析を用いて正確に分析することはできない。当技術分野で欠けていることは、グリコシル化ポリペプチドを同定する方法であり、このグリコシル化ポリペプチドは、ペプチド主鎖の構造的統合性が保たれて効率的なプロテアーゼ消化に利用することができるようにポリペプチドが完全に脱グリコシル化している。
【0003】
(先行技術)
先行技術は、グリコシル化ポリペプチドの同定に対するいくつかの試みを提供する。ヒラバヤシ他による Proteomics 1:295−303、2001(非特許文献1)は「グリコ・キャッチ(glyco−catch)」法と呼ばれるプロセスを開示している。
「グリコ・キャッチ」法のステップは、レクチン親和性クロマトグラフィによる糖タンパク質の単離、プロテアーゼによる糖タンパク質の消化、レクチン親和性クロマトグラフィによる糖タンパク質の第2の単離、HPLCによる単離糖タンパク質の精製、さらに糖タンパク質のシークエンシングである(図1、297ページ参照)。ヒラバヤシ他は、「正面親和性クロマトグラフィ(frontal affinity chromatography)」と呼ばれる第2の方法を開示している。この方法では、グリカンがペプチド主鎖(脱グリコシル化)から遊離される。しかし、ヒラバヤシ他は、「グリコ・キャッチ」法のステップと正面親和性クロマトグラフィ法のステップとの組み合わせについて教示または示唆していない。したがって、本発明の方法とは対照的に、ヒラバヤシ他は、グリコシル化ポリペプチドを消化し、完全に脱グリコシル化してシークエンシングする方法を教示していない。実際、ヒラバヤシ他は、「グリコ・キャッチ」法による脱グリコシル化の利用から離れて教示している。ヒラバヤシ他のプロジェクトの最重要点の一部(ヒラバヤシ他の要約および295ページを参照せよ)は、遊離グリカンよりはむしろ登録された単位として、ゲノム・データベースにリンケージするコア・タンパク質から遊離したグリカンではなく糖ペプチド(結合オリゴ糖鎖を含む)を標的化することである(ヒラバヤシ他の296ページを参照せよ)。本発明の方法を実施する場合、コア・ペプチド主鎖および遊離オリゴ糖鎖の療法が利用可能であり、分析および同定にとって重要であると考えられる。
ゲング他による Journal of Chromatography B 752:293−306、2001(非特許文献2)は、トリプシン分解物からの糖ペプチドの親和性選択に基づいた糖タンパク質の同定方法を教示している。ゲング他の方法の主要なステップとしてトリプシン消化、レクチン選択、RPLC、および質量分析による分析が挙げられる(ゲング他の図1、298ページを参照せよ)。ゲング他は、糖タンパク質試料が未知のグリコシル化構造を持つ場合のみに脱グリコシル化ステップが有用である。さらに、ゲング他は、本発明の方法によって必要とされるような脱グリコシル化によって分離された複数の消化産物を教示または示唆していない。ゲング他は、重グリコシル化タンパク質を同定する方法の使用を教示または示唆していない。ゲング他の方法の示された欠点は、タンパク質糖型間を区別することができないということである(ゲング他の要約を参照せよ)。対照的に、本発明の方法をサイファージェン・チップ上で実施した場合、ペプチド主鎖から遊離された全てのオリゴ糖鎖がそのチップ上に存在することから、該オリゴ糖鎖をさらに分析および比較することができる。
ロイル他による Analytical Biochemistry 304:70−90、2002(非特許文献3)は、糖タンパク質から遊離されたO−グリカンをシークエンシングするための方法を開示する。ロイル他のプロトコルは、糖タンパク質の脱グリコシル化と、それに続くクロマトグラフィおよび分光学的方法を用いた遊離O−グリカンの分析および同定とを含む。ロイル他の方法は、O−結合グリカンの分析および同定のみに関係しており、該O−結合グリカンが遊離するペプチド主鎖の同定とは関係しないことから、ロイル他の方法はプロテアーゼ消化ステップをいっさい含まない。このことは、2通りのプロテアーゼ消化ステップを含み、かつペプチド主鎖および遊離オリゴ糖鎖の両方の分析および同定に関する本発明の方法および目的とは、対照的である。
カジ他による 「N−結合糖タンパク質を同定するためのレクチン親和性キャブチャ、同位体コード化標識および質量分析」、Nature Biotechnology;1−6ページ、2003年5月18日付オンライン公開(非特許文献4)は、グリコシル化部位にタグを付けて同定するIGOT(放射性同位元素コード化グリコシル化部位特異的タギング)と呼ばれるN−結合糖タンパク質を同定する方法を教示する。IGOTのステップ(カジ他の図1を参照せよ)は、(i)生物学的試料からのレクチンによる糖タンパク質の親和性キャプチャ、(ii)糖タンパク質のトリプシン分解および同一レクチンによる糖ペプチドの親和性キャプチャ、(iii)H18Oに含まれる糖ペプチドのペプチド−N−グリコシダーゼF(PNGアーゼF)消化、ならびに(iv)統合化2DLCタンデムMS技術による18Oタグ・ペプチドの分析を含む。本発明の方法とは対照的に、カジ等の方法は、単一のタンパク質消化ステップのみを伴う。カジ等は、IGOT法を用いて広範囲をカバーすることはできず、生物学的試料に少量含まれる糖タンパク質を同定することが可能ではなかった(カジ等の5ページ、右段)。
ウイルソン他による Journal of Proteome Research 1:521−529、2002(非特許文献5)は、糖タンパク質から遊離したNおよびO−結合オリゴ糖を分析する方法を教示する。この方法のステップ(ウイルソン等の図1のフローチャートを参照せよ)は、PNGアーゼFを用いたN−結合オリゴ糖の酵素的放出と、それに続く還元β−除去を用いたO−結合オリゴ糖の化学物質遊離およびLC−ESI−MS技術を用いた分析とを含む。ウイルソン等の方法では、糖タンパク質は2D−PAGEによって分離され、脱グリコシル化および消化ステップ前にPVDF膜上にブロットされる。
先行技術で利用できる方法のいずれも、完全に脱グリコシル化したタンパク質に対して、正確かつ効率的に同定し得る無傷のペプチド主鎖を与えることができる。しかし、本発明の方法の複数のステップの組み合わせは、第1の消化ステップ、脱グリコシル化ステップ、および第2の消化ステップを含むもので、完全に脱グリコシル化したタンパク質に対して、正確かつ効率的に同定し得る無傷のペプチド主鎖を与えることができる。
【非特許文献1】Proteomics 1:295−303、2001
【非特許文献2】Journal of Chromatography B 752:293−306、2001
【非特許文献3】Analytical Biochemistry 304:70−90、2002
【非特許文献4】Nature Biotechnology;1−6ページ、2003年5月18日付オンライン公開
【非特許文献5】Journal of Proteome Research 1:521−529、2002
【発明の開示】
【0004】
(発明の要約)
本発明は、グリコシル化ポリペプチドが正確かつ効率的に同定し得るペプチド主鎖の構造的統合性を保存する、消化および脱グリコシル化ステップの組み合わせを利用する段階的方法を提供する。本発明のステップは、生物学的試料から得たグリコシル化ポリペプチドに対して、連続的な複数の処理を実施することを含む。第1のプロテアーゼ処理に先立って、生物学的試料を、公知の方法を用いて糖ペプチドの存在に関してエンリッチすることができる。特に好ましいエンリッチ方法は、レクチン・カラムの使用を伴うもので、本明細書に記載した実験で例証される(実施例2)。第1のステップは、少なくとも一種類のプロテアーゼによって、グリコシル化ポリペプチドを処理してタンパク質消化を開始させ、その後、酵素消化または弱酸もしくは塩基による処理によって達成し得る脱グリコシル化ステップがおこなわれる。脱グリコシル化ポリペプチド/フラグメントを、次に、少なくとも1つのプロテアーゼによる再消化にさらす。結果として生ずるポリペプチド・フラグメントのシークエンシングを、次に質量分析を用いておこない、既知の配列のデーターベースと比較することで配列の同定をおこなった。したがって、上記した連続的な複数の処理をサイファージェン・チップ上で実施し、遊離オリゴ糖鎖もまた、このチップ上で収集した後、親タンパク質鎖に沿って、さらなる分析および分類に利用可能である。
したがって、本発明の目的は、2通りのプロテアーゼ消化ステップ間での脱グリコシル化とそれに続く質量分析を用いた配列分析とを含む方法の連続的ステップを実施することで、生物学的試料から得たグリコシル化ポリペプチドの同定にとって有用な方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、2通りのプロテアーゼ消化ステップ間での脱グリコシル化とそれに続く質量分析を用いた配列分析とを含む方法の連続的な複数のステップを実施することで、生物学的試料から得たグリコシル化ポリペプチドの同定にとって有用な方法であって、上記グリコシル化ポリペプチドの少なくとも80%の消化ペプチドが少なくとも2つのオリゴ糖鎖を含む方法を提供することである。
本発明の別の目的は、生物学的試料から得たグリコシル化ポリペプチドの同定に有用な方法を提供するもので、この方法は、質量分析を用いた配列分析が後に続く2つのプロテアーゼ消化ステップのあいだに、脱グリコシル化ステップを含む方法の連続的なステップを実施する前に、糖ポリペプチドに関して生物学的試料をエンリッチする。
本発明のさらなる目的は、生物学的試料から得たグリコシル化ポリペプチドの同定に有用な方法を提供するもので、この方法は、質量分析を用いた配列分析が後に続く2つのプロテアーゼ消化ステップのあいだに、脱グリコシル化ステップを含む方法の連続的なステップを実施する前に、糖ポリペプチドに関して生物学的試料をエンリッチし、上記グリコシル化ポリペプチドの少なくとも80%の消化ペプチドが少なくとも2つのオリゴ糖鎖を含む。
本発明のさらに別の目的は、本発明の段階的方法を利用して生物学的試料からグリコフォリンを同定することである。
この発明の他の目的および利点は、この発明のいくつかの実施形態を例示および図示を目的として示す添付図面とともに、以下の説明(実験的な実施例を含む)を解釈することで明らかになろう。図面は、この明細書の一部を構成し、本発明の典型的な実施形態を含み、種々の目的物およびそれらの特徴を例示する。
【0005】
(用語、言い回し、および略語の定義)
以下のリストは、本明細書全体と通して使用される用語、言い回し、および略語である。これらの用語、言い回し、および略語を、単一の時制でリストに記載するけれども、それらの定義は全ての文法的形態が包含されることを意図している。
本明細書で用いられるように、「重グリコシル化タンパク質(heavily glycosylated protein)」または「重グリコシル化ポリペプチド(heavily glycosylated polypeptide)」という用語は、グリコシル化タンパク質をプロテアーゼ処理することで、少なくとも2つの共有結合オリゴ糖鎖を有する少なくとも80%の消化ペプチドをもたらすグリコシル化タンパク質のことをいう。事前に脱グリコシル化することなしに質量分析で同定不可能である糖ペプチドが、重グリコシル化するものと考えられる。
本明細書で用いられるように、用語「グリコシル化タンパク質(glycosylated protein)」または「糖タンパク質(glycoprotein)」とは、共有結合オリゴ糖鎖を持つ任意のタンパク質のことをいう。
本明細書で用いられるように、用語「グリコシル化ポリペプチド(glycosylated polypeptide)」または「糖ポリペプチド(glycopolypeptide)とは、共有結合オリゴ糖鎖を持つ完全長のグリコシル化タンパク質よりも長さが短い任意のタンパク質フラグメントのことをいう。
本明細書で用いられるように、用語「生物学的試料(biological sample)」とは、任意の生きているまたは以前は生きていた組織もしくは液体から得た試料のことをいう。
本明細書で用いられるように、用語「エンリッチ(enrichment or enrich)」とは、生物学的試料から糖タンパク質を分離することをいう。
本明細書で用いられるように、用語「再消化(re−digestion)」とは、第1のプロテアーゼ消化をあらかじめおこなったタンパク質試料に対して、第2のプロテアーゼ消化をおこなう本発明の第2のプロテアーゼ消化ステップのことをいう。
本明細書で用いられるように、略語「NHS」とは、正常ヒト血清または非疾患ヒト血清のことをいう。
本明細書で用いられるように、略語「GP」とは、糖タンパク質、糖ポリペプチド、または糖ペプチドのことをいう。
本明細書で用いられるように、略語「rbc」は、「赤血球(red blood cell)」として定義される。
本明細書で用いられるように、略語「LC−MS−MS」は、液体クロマトグラフィ−質量分析−質量分析(liquid chromatography − mass spectrometry − mass spectrometry)として定義され、液体クロマトグラフィの後に続いてタンデム質量分析が用いられる。
本明細書で用いれるように、略語「SELDI」は、「表面活性化レーザー脱着イオン化(surface enhanced laser desorption ionization)」として定義され、質量分析の一技術である。
本明細書で用いられるように、略語「HPLC」は、「高速液体クロマトグラフィ(high performance liquid chromatography)」として定義される。
本明細書で用いられるように、略語「RP−HPLC」は、「逆相液体クロマトグラフィ(reverse phase high performance liquid chromatography)」として定義される。
用語「糖鎖(sugar chain)」、「オリゴ糖鎖(oligosaccharide chain)」、および「グリカン(glycan)」は、本明細書では同義的に用いられる。
【0006】
(図面の簡単な説明)
図1は、 本発明の方法を実施した際に実行される順番で複数のステップを例示するフローチャートである。
図2は、糖タンパク質抽出物の第1のトリプシン消化(第1回目の実行、実施例1)から収集したデータを示す。
図3は、 グリコフォリン抽出物(第1回目の実行、実施例1)のMS−MS分析に関するセクエスト(Sequest)結果を示す。グリコフォリンAに一致するペプチド配列を上から下に配列番号1、配列番号2、配列番号3、ならびに配列番号1および配列番号4として示す。
図4は、 グリコフォリン抽出物(第2回目の実行、実施例1)のMS−MS分析に関するセクエスト(Sequest)結果を示す。パネルA(最上部)は、上から下に配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、および配列番号29として示す赤血球陰イオン交換癌タンパク質(バンド3)にペプチド配列を示す。パネルB(中)およびパネルC(下)は、上から下に配列番号2(2回示す)、配列番号1 (2回示す)、配列番号2 (5回示す)、配列番号4(2回示す)、ならびに配列番号1、配列番号3、および配列番号30(4回示す)として同定されるグリコフォリンAに一致するペプチド配列を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、ペプチド主鎖の構造的統合性(structural integrity)を保ち、正確な同定のための効率的な同定を可能にする消化ステップと脱グリコシル化ステップとの組み合わせを利用したグリコシル化ポリペプチドの同定に有用な段階的方法を提供する。本発明のステップは、図1に示すフローチャートに例示される。糖タンパク質の全てのタイプが本発明および方法論の範囲内にあると考えられるけれども、特に重みをグリコフォリンの同定にあてている。
グリコフォリンは、ほ乳類赤血球(rbc)の膜に組み込まれた重グリコシル化タンパク質であり、細胞外側末端と細胞質側末端とのあいだに位置した1つの膜貫通ドメインからなる。グリコフォリンAは、重さが36キロダルトンである131アミノ酸残基の一次構造を持つモノマーである。細胞外側末端は、ウイルス(例えば、インフルエンザ)に対するリガンドに相当するMN血液型受容体を持つ。細胞外側末端は、15個のO−結合グリカンと1個のN結合グリカンとも有し、これらはrbc膜表面に負電荷を与える。グリコフォリンのグリコシル化は、赤血球細胞の静電反発力を生ずる負に帯電したrbc膜表面をもたらす。この静電反発力は、容器内での赤血球の固着を防ぐ。赤血球のダメージ、特に膜のダメージは、多くの病的状態で見られる。この膜のダメージは、グリコシル化パターンの崩壊を介したグリコフォリンに対するダメージから生じる場合がある(rbc膜およびグリコフォリンについての導入として、コンサイス百科辞典:生化学および分子生物学、第3版、トーマスA.スコットおよびE.イアン・マーサーによって改訂および記述、W・グレイター、ベルリン−ニューヨーク、1997、201−202ページ、ならびに、インスタント・ノート:バイオケミストリー、第2版、B.D.ハムスおよびN.M.フーパー、シュプリンガー出版ニューヨーク、2000、125、126、および130ページを参照せよ)。
本発明の方法を実施する場合、糖タンパク質を任意の生物学的試料から得ることができる。実例となる非限定的な例は、体液(尿、血清、血しょう、および唾液)ならびに細胞(例えば、赤血球)あるいは組織抽出物である。最初に、なんらかの公知の方法を用いて、糖タンパク質に関して生物学的試料をエンリッチする。特に好ましい方法は、レクチン・カラムを用いる(サティーシュ他を参照。ジャーナル・オブ・バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・メソッド、409:625−640、2001を参照せよ)。つぎに、エンリッチされた糖タンパク質(実例となる非限定的な例はトリプシン)を、実験者が選択した少なくとも一種類のプロテアーゼによる第1の処理によって、より小さな糖ポリペプチドにフラグメント化する。
【0008】
タンパク質の消化に有用な他の酵素は、当業者に知られている。また、所望の結果にもとづいて、もしくは消化すべきタンパク質の特定の性質にもとづいて、1つの酵素または複数の酵素の組み合わせを実験者が選択することができる。糖ペプチドを脱グリコシル化する前に、消化時間がプロテアーゼを完全に自己消化可能とする場合を除いて、プロテアーゼを不活性化して消化の進行を停止させることが必要である。プロテアーゼの不活性化は、当業者に公知の種々の方法によって達成し得る。実例となる非限定的な例として、HPLC、反応混合物の沸騰、ならびにプロテアーゼ阻害剤の添加が挙げられる。HPLCの1つの利点は、消化糖ポリペプチド・フラグメントの分離を可能にする。プロテアーゼ消化が停止する場合、次に、公知の任意の方法を用いて糖ポリペプチドを脱グリコシル化処理する(実例となる非限定的な例として、酵素消化および弱酸または塩基による処理が挙げられる)。完全長の糖タンパク質の脱グリコシル化処理がペプチド主鎖にダメージを与える点に注意することは重要である。したがって、ダメージを与えない処理がしばしば、脱グリコシル化を効果的におこなうにはかなり十分ではない。また、タンパク質のグリコシル化によって、消化酵素によって標的化された部位をマスクして、タンパク質を消化から保護する。したがって、重グリコシル化タンパク質は、しばしば完全には消化可能とはならず、シークエンシングが不可能な大きなフラグメントを生ずる。本発明の方法の第1のプロテアーゼ消化ステップは、糖タンパク質をフラグメント化し、ペプチド主鎖の構造的統合性に対して何らダメージを加えることなく施される脱グルコシル化処理を可能にする。しかし、重グリコシル化タンパク質がこの第1のプロテアーゼ消化を実行する場合、大きなペプチド・フラグメントが依然として質量分析等の方法ではシークエンシングできない結果となる。本発明の方法の脱グリコシル化は、このような大きなペプチドが、第2のプロテアーゼ消化を効率的に実行して、シークエンシングおよび同定し得るより小さなペプチド・フラグメントをもたらすことを可能にする。第1のプロテアーゼ処理および脱グリコシル化処理後に、脱グリコシル化ポリペプチド・フラグメントを、実験者による選択の少なくとも一種類のプロテアーゼによる第2のプロテアーゼ消化(再消化)にさらし、この第2の消化から得られたフラグメントを質量分析にかけて分析する。質量分析によって生じた配列データを、生物学的試料に存在する糖ペプチド・フラグメントの同定を目的として、既知の配列データと比較する。
全ての段階的方法は、タンパク質チップ(例えば、サイファージェンから入手可能なもの)上で直接実施することができる。目的とする抗体(同定すべき糖タンパク質に対する抗体)もしくはレクチンあるいは当業者に公知の他の捕捉剤をPS20チップ上に被覆し、それに続いて糖タンパク質を含む生物学的試料溶液の塗布をおこなう。次に、上記表面の直にその上で、捕捉糖タンパク質に対して本発明の連続的な複数のステップをおこなう。特に有益なことは、本発明の方法をサイファージェン・チップ上でおこなうことである。なぜなら、糖タンパク質から遊離したオリゴ糖鎖もまた、さらなる分析のためにそのチップの表面上で利用可能であるためである。
【実施例1】
【0009】
(第1回目の実行)
糖タンパク質の調製
MNドナー由来の糖タンパク質は、ハマグチおよびクリーブ(BBA 278:271−280、1972)の方法にもとづいてrbc膜由来の抽出物である。この方法は、rbc膜から糖タンパク質を抽出する(グリコフォリンA−Cおよびバンド3およびマイナー糖タンパク質)。総タンパク質濃度をBCA(ピアス)によって測定した。
糖タンパク質の消化および脱グリコシル化
100μgの糖タンパク質を含む50mMのNHHCO をロッシュから得たトリプシン(0.5mg/mlを1μl)によって37℃で15分間にわたり処理した。次に、糖ペプチドの混合物をPR−HPLCタンパク質C4 0.46x250mm(バイダック214TP54)によって分離した。RP−HPLCについて、0.6ml/分で30分間にわたり5〜95%溶媒B(0.1%TFA含有70%アセトニトリル)からなる勾配をHPLCゴールド・システム166検出器(ベックマン・コールター)上で実行した。溶出糖ペプチドの脱グリコシル化を、カルバイオケム(Calbiochem)脱グリコシル化キットを用い、製造元の指示にしたがって、おこなった。脱グリコシル化反応を37℃で約24時間おこなった。脱グリコシル化ペプチドを乾固し、37℃で4時間にわたりトリプシン(0.5mg/mlを1μl)処理を再び実施し、続いて製造元の指示にしたがってSCXジップ・チップ(ミリポア)でジップチップした。LC/MS−MS上で分析する前に、溶出ペプチドをセントリバプ(Centrivap)濃縮器(ラブコンコ)上で乾固して、0.2%蟻酸20μlに再懸濁した(液体クロマトグラフィおよびタンデム質量分析)。
LC(液体クロマトグラフィ)成分
溶媒Aおよび溶媒Bを、0.1%酢酸と0.1%酢酸含有99.9%アセトニトリルとによって、それぞれ調製した。20μlの試料を10μl/分で5分間にわたり、5%バッファBとともに0.3x150mmC18カラム(バイダック238MS5.315)に注入した。この試料の溶出を、2μl/分で5ないし65%Bの直線勾配を40分間適用することによっておこなった。
質量分析
サーモフィニガンLCQ DECA XPを、ロー・フロー・メタル・ニードル(サーモフィニガン)アセンブリを含むESIソースによって、設定した。上記器具を、データ依存性で獲得するように構成した。この器具は、2通りの走査現象、すなわち第1のMSおよび第2のMS/MSを含んだ。動的排除は、繰り返し回数2、繰り返し継続時間1分、排除リスト・サイズ25、および排除継続時間3分で可能になった。正規化衝突エネルギーを35%に設定し、デフォルト電荷状態を4に設定した。他の全ての方法および器具バラメータをデフォルト値に設定した。
データベース検索
生ファイル結果は、2002年8月6日にNCBIウエブサイトからダウンロードしたNRデータベースのヒト・サブセットに対してセクエスト・ブラウザ(バイオワークス2.0)によって検索した。DTAクリエーションに関して、分子量(MW)の底値は700、MWの最上値は3500、質量(Mass)1.4、中間走査25、グループ走査1、最小#イオン35、さらにMIN TIC 1.0E4であった。ケラチン、アーチファクト、およびトリプシンは、38%のセットを削除するために%一致を持つイオンクエストを用いて、除外した。
結果(第1回目の実行)
上記糖タンパク質試料の第1のトリプシン処理から得たデータを図2に示す。保持時間がそれぞれ12.3分、13.7分、および14.3分を持つ3つのマイナー・ペプチドを回収した。各ピークのペプチドを、上記したように、脱グリコシル化して消化した。次に、各混合物をLC/MS−MS上に注入し、配列データ・ベースと一致させた。14.3分で溶出したペプチド配列についてのセクエスト結果を図3にまとめる。データは、この配列がグリコフォリンAの配列と一致することを示している。グリコフォリンAに一致した配列は、グリコフォリンの全アミノ酸配列の28.7%に及ぶ。このプロセスは、重グリコシル化されることが知られているペプチドがシークエンシングされてグリコフォリンAと一致することから、成功裏に効率的であることが示される。同定されたペプチドの各々が、ペプチド1つあたり1ないし4つのオリゴ糖鎖を有した。
【0010】
第2回目の実行
第1回目の実行の上記実験を、第1のタンパク質消化ステップに変更を加えて用いることで、繰り返した。15分間にわたるタンパク質消化のかわりに一晩にわたってタンパク質消化をおこない、HPLCの必要性を取り除いた(プロテアーゼを一晩自己消化させ、消化を自然停止させる)。このような変更を用いて、グリコフォリンAに一致するペプチドの量の増加を試みた。
10μgの糖タンパク質抽出物(第1回面の実行で上記したものと同一試料)を含む50mMNHHCOを用いた。
トリプシン溶液(0.5mg/ml含む5%酢酸)1μlを加えて、37℃、一晩にわたり10μgの糖タンパク質試料をトリプシン消化した。トリプシンを一晩インキュベートすることで自己消化させ、脱活性化を不要化させた。第1のトリプシン消化の後に、第1の実行で上記したように脱グリコシル化ステップおよび再消化ステップ(トリプシンを用いる)をおこなった。次に、LC−MS−MS分析を、第1の実行で上記した手順にもとづいて実行した(液体クロマトグラフィクロマトグラフィ、質量分析、およびデータベース・サーチ)。
結果(第2回目の実行)
一致したペプチド配列はグリコフォリンAのアミノ酸配列の46.6%に及んだことから、グリコフォリンAに一致するペプチド配列の量の増加を観察した(図4参照)。重グリコシル化配列(すなわち残基1〜18(配列番号30))を同定したところ、8本のオリゴヌクレオチド鎖を有した。留意すべきことは、膜貫通型ドメインまたは細胞内ドメインのいずれも上記プロセスの過程で沈殿しないことから、それらのドメインはいずれも検出されなかったことである。
グリコフォリンAに一致するペプチドの例は以下のとおりである。すなわち、配列番号30(1867.4ダルトン、残基1〜18)、配列番号1(1538.81ダルトン、残基19〜31)、配列番号3(895.1ダルトン、残基32〜39)、配列番号2(1127.6ダルトン、残基40〜49)、ならびに配列番号4(1407.4、残基50〜61)である。
【実施例2】
【0011】
次に、開始生物学的試料として精製糖タンパク質抽出物のかわりに、正常ヒト血清を用いて、上記実験を繰り返した。全ヒト血清試料を最初にトリプシン処理し、ConAセファロース・カラムに通して、糖タンパク質に関してのみエンリッチし、脱グリコシル化し、さらにトリプシンによって再消化した。ConAカラムから回収したフラグメントを第2のトリプシン消化後に回収したフラグメントと比較した際、質量シフトが脱グリコシル化成功を証明するものと思われた。さらに、ConAカラムから回収した糖ペプチドをシークエンシングし、第2のトリプシン処理後に回収したペプチドをシークエンシングして、その脱グリコシル化を証明し、正確に同定し得るペプチドの量を第2のトリプシン消化が増加させる。
健康なドナーから得た25μlの粗血清(インテルゲン)を475μlの10%アセトニトリル含有50mMNHHCOに希釈した。5μlのトリプシン(0.5mg/ml)を添加し、混合物を一晩、37℃でインキュベートした。500μlのConA緩衝液(20mMトリスHCl pH7.4、0.5M NaCl)を添加し、アマルシャム・ファルマシア由来のConAカラム(200μl)に充填した。非特異的結合材料を、0.5%デオキシコレート含有ConA緩衝液に洗い流し、次に結合材料を100mMメチルアマノピラノシド(ICNバイオメディカルズ社)含有50mMNHHCO200μlによって溶出した。これは、後ConA産物(表1を参照。下)。糖タンパク質は、後ConA産物から同定されなかった。
120μlの後ConA産物をセントリバプ濃縮器(ラブコンコ)上で乾燥させ、次に30μlのUF水で再懸濁し、非還元および変性緩衝液を添加したことを除いて、製造元の推奨にしたがってカルバイオケム脱グリコシル化キットよって脱グリコシル化した。反応を37℃で一晩実行した。インキュベーション時間の終わりに、一等分量を取った。これは後脱グリコシル化(post−deglycosylation)産物(表1の中段を参照せよ)。合計で7つの糖タンパク質を後脱グリコシル化産物から同定した。
最終的に、2.5μlのトリプシン(0.5mg/ml)を60μlの後脱グリコシル化産物に添加し、この反応を37℃で2時間にわたり実行した。これは、最終産物である(表1の上段を参照せよ)。合計で15個の糖タンパク質を最終産物から同定した。最終産物は、本発明の方法の全てのステップを実行した後に得られる。
全後ConA、後脱グリコシル化、および最終産物を、製造元の推奨にしたがって、C18ジップ・チップ(ミリポア)を用いて、ジップチップした。溶出ペプチドをセントリバプ濃縮器上で乾固し、LC/MS−MS分析に先立って、20μlの0.2%蟻酸に再懸濁した。LC−MS−MS分析を実施例1に示したように実施した。
【0012】
全ての後ConA、後脱グリコシル化、および最終産物をイオン・トラップMS/MSに注入した。表1に、質量分析上で同定された化合物と該化合物のいくつかの特性とをまとめる。重要なことは、ConAカラムを介した精製後、糖ペプチドがMS/MS上で同定されなかったことに留意することである。オリゴ糖鎖の存在(タンパク質のグリコシル化)は、質量分析法によるペプチドのシークエンシングおよび同定を妨げることから、脱グルコシル化にとって必須であることを示している。脱グリコシル化後、7つのペプチドをMS/MSによって同定し、脱グリコシル化ステップの効果が証明された。脱グリコシル化および第2のトリプシン消化をおこなった後、15個のペプチドをMS/MSによって同定し、このことは脱グリコシル化ステップの効率が2通りの消化工程を用いることで増加したことを証明した。同定されたペプチドは、NおよびO結合オリゴ糖を担持した。実施例2のMS上で同定された配列を以下の段落に記載する。
【0013】
ヒト血漿プロテアーゼC1阻害剤に一致する3つのペプチドを、後脱グリコシル化産物、すなわち配列番号5(残基217〜241)、配列番号6(残基53〜77)、および配列番号7(残基344〜364)から同定した。血漿プロテアーゼC1阻害剤は、7つのO−結合オリゴ糖鎖と6〜7個のN−結合オリゴ糖鎖とを担持する。その構造にもとづいて、血漿プロテアーゼC1阻害剤のAsn238位、Asn69位、およびAsn352位にあるオリゴ糖鎖がN結合であり、Ser64位およびThr71位にあるオリゴ糖鎖がO−結合している。
【0014】
補体成分3に一致する4つのペプチドを最終産物から同定した。すなわち、配列番号8(残基291〜304)、配列番号9(残基74〜94)、配列番号10(残基162〜176)、および配列番号11(残基1365〜1375)である。その構造にもとづいて、補体成分3のAsn85位、Asn939位、およびAsn167位にあるオリゴ糖鎖がN結合している。
【0015】
クラステリン(補体溶解阻害剤としても知られている、SP−40および硫酸化糖タンパク質2)に一致する3つのペプチドを後脱グリコシル化産物から同定した。すなわち、配列番号12(残基305〜322)、配列番号13(残基372〜385)、および配列番号14(残基352〜371)である。その構造によれば、クラスタリンのAsn86位、Asn103位、Asn145位、Asn291位、Asn354、およびAsn374位にあるオリゴ糖鎖がN−結合している。
【0016】
ヘプトグロブリン−2アルファ前駆体に一致する10個のペプチドが後脱グリコシル化産物および最終産物から同定された。すなわち、配列番号15(残基 214〜225)、配列番号16(残基226〜233)、配列番号17(残基177〜200)、配列番号18(残基201〜213)、配列番号19(残基227〜233)、配列番号20(残基58〜69)、配列番号21(残基58〜70)、配列番号22(残基117〜129)、配列番号23(残基276〜284)、および配列番号24(残基234〜249)である。その構造によれば、ヘプトグロブリン−2アルファ前駆体のAsn182位、Asn205位、およびAsn209位にあるオリゴ糖鎖がN−結合している。
【0017】
結論として、この研究で同定された全てのグリコシル化ペプチドが標準的なMSプロトコルを使用して既にシークエンシングされなかったことという点に注意することは、重要である。実験的な例は、本発明の方法が精製糖タンパク質抽出物(グリコフォリン、実施例1)の同定と、糖タンパク質混合物(血清、実施例2)の個々の糖タンパク質の同定とに対して効率的であることを示す。本発明は、グリコシル化ポリペプチドを正確に同定する効率的な方法を提供するもので、ペプチド主鎖の構造的統合性が保存されるとともに、プロテアーゼ消化にとって利用可能となるようにして、ポリペプチドが完全に脱グリコシル化される。
【0018】
この明細書で言及された全ての特許および刊行物は、本発明が関係する当技術分野の当業者のレベルを示す。全ての特許および刊行物を本明細書では、個々の特許および刊行物が具体的に、また個々に参照として取り込まれることを示されるかのように、同一範囲で援用する。
本発明のある種の形態が例示される一方で、本明細書に記述および示した部分の特定の形態または配置に限定されるものではないことが理解される。さまざまな変更が発明の範囲から逸脱することなく可能と思われること、また明細書に示し、かつ記載したものに本発明が限定されるものではないと考えられることは、当業者に容易に理解される。
本発明が目的を実施すること、また本明細書に固有のものと同様に、言及した目的および利点を得ることに、本発明が十分に適していることが、容易に理解される。本明細書に記載されたオリゴヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、生物学的に関連した化合物、方法、手順、および技術は、現在のところ好ましい実施形態を示すものであり、また典型的なものであることを意図しており、本発明の範囲を制限することを意図したものではない。ここでの変化および他の用途は、当業者が想到するものであり、本発明の精神に包含され、かつ添付した特許請求の範囲によって定義される。特定の好ましい実施形態と関連して本発明を説明したけれども、クレームされた本発明はそのような特定の実施形態に過度に限定されるものではないことを理解しなければならない。実際、当業者にとって明らかである発明を実行するための描かれた態様の種々の態様は、以下の請求の範囲内であることを意図している。
【0019】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の方法を実施した際に実行される順番で複数のステップを例示するフローチャートである。
【図2】糖タンパク質抽出物の第1のトリプシン消化(第1回目の実行、実施例1)から収集したデータを示す。
【図3】グリコフォリン抽出物(第1回目の実行、実施例1)のMS−MS分析に関するセクエスト(Sequest)結果を示す。グリコフォリンAに一致するペプチド配列を上から下に配列番号1、配列番号2、配列番号3、ならびに配列番号1および配列番号4として示す。
【図4】グリコフォリン抽出物(第2回目の実行、実施例1)のMS−MS分析に関するセクエスト(Sequest)結果を示す。パネルA(最上部)は、上から下に配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、および配列番号29として示す赤血球陰イオン交換癌タンパク質(バンド3)にペプチド配列を示す。パネルB(中)およびパネルC(下)は、上から下に配列番号2(2回示す)、配列番号1 (2回示す)、配列番号2 (5回示す)、配列番号4(2回示す)、ならびに配列番号1、配列番号3、および配列番号30(4回示す)として同定されるグリコフォリンAに一致するペプチド配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコシル化ポリペプチドを同定するための段階的方法であって、
(a)グリコシル化ポリペプチドを含む生物学的試料を得ること、
(b)前記グリコシル化ポリペプチドについて前記生物学的試料をエンリッチすること、
(c)グリコシル化ポリペプチド・フラグメントを得るために少なくとも一種類のプロテアーゼによって、前記ステップ(b)のグリコシル化ポリペプチドを処理すること、
(d)脱グリコシル化ポリペプチド・フラグメントを得るためにステップ(c)で得た前記グリコシル化ポリペプチド・フラグメントを脱グリコシル化すること、
(e)ステップ(C)で得た前記グリコシル化ポリペプチド・フラグメントよりも小さい脱グリコシル化ポリペプチド・フラグメントを得るために少なくとも一種類のプロテアーゼによって、ステップ(d)の脱グリコシル化ポリペプチド・フラグメントを処理すること、
(f)ステップ(e)で得た前記脱グリコシル化ポリペプチド・フラグメントをシークエンシングすること、
(g)グリコシル化ポリペプチドを同定するために、既知の配列のデータベースと、前記脱グリコシル化ポリペプチドとを比較することで、ステップ(f)でシークエンシングされた脱グリコシル化ポリペプチド・フラグメントを同定すること、
を含む方法。
【請求項2】
前記グリコシル化ポリペプチドの少なくとも80%の消化ペプチドが少なくとも2つのオリゴ糖鎖を含む、請求項1にもとづく段階的方法。
【請求項3】
前記グリコシル化ポリペプチドがグリコフォリンAとして同定される、請求項1にもとづく段階的方法。
【請求項4】
前記グリコシル化ポリペプチドがグリコフォリンAとして同定される、請求項2にもとづく段階的方法。
【請求項5】
前記エンリッチステップ(b)がレクチン・カラム上で実行される、請求項1にもとづく段階的方法。
【請求項6】
前記エンリッチステップ(b)がレクチン・カラム上で実行される、請求項2にもとづく段階的方法。
【請求項7】
前記ステップ(c)および前記ステップ(e)の前記プロテアーゼの少なくとも一種類が、トリプシンである、請求項1にもとづく段階的方法。
【請求項8】
前記ステップ(c)または前記ステップ(e)の前記プロテアーゼの少なくとも一種類が、トリプシンである、請求項1にもとづく段階的方法。
【請求項9】
前記ステップ(c)および前記ステップ(e)の前記プロテアーゼの少なくとも一種類が、トリプシンである、請求項2にもとづく段階的方法。
【請求項10】
前記ステップ(c)または前記ステップ(e)の前記プロテアーゼの少なくとも一種類が、トリプシンである、請求項2にもとづく段階的方法。
【請求項11】
グリコシル化ポリペプチドを同定するための段階的方法であって、
(a)グリコシル化ポリペプチドを含む生物学的試料を得ること、
(b)グリコシル化ポリペプチド・フラグメントを得るために、少なくとも一種類のプロテアーゼによって、前記グリコシル化ポリペプチドを含む生物学的試料を処理すること、
(c)脱グリコシル化ポリペプチド・フラグメントを得るために、ステップ(b)で得た前記グリコシル化ポリペプチド・フラグメントを脱グリコシル化すること、
(d)ステップ(b)で得た前記グリコシル化ポリペプチド・フラグメントよりも小さい脱グリコシル化ポリペプチド・フラグメントを得るために、少なくとも一種類のプロテアーゼによって、ステップ(c)の前記脱グリコシル化ポリペプチド・フラグメントを処理すること、
(e)ステップ(d)で得た脱グリコシル化ポリペプチド・フラグメントをシークエンシングすること、
(f)グリコシル化ポリペプチドを同定するために、前記脱グリコシル化ポリペプチド・フラグメント配列を既知の配列のデータベースと比較することで、ステップ(e)でシークエンシングされた脱グリコシル化ポリペプチド・フラグメントを同定すること、
を含む、段階的方法。
【請求項12】
前記グリコシル化ポリペプチドの少なくとも80%の消化ペプチドが少なくとも2つのオリゴ糖鎖を含む、請求項11にもとづく段階的方法。
【請求項13】
前記グリコシル化ポリペプチドがグリコフォリンAとして同定される、請求項11にもとづく段階的方法。
【請求項14】
前記グリコシル化ポリペプチドがグリコフォリンAとして同定される、請求項12にもとづく段階的方法。
【請求項15】
前記ステップ(b)および前記ステップ(d)の前記プロテアーゼの少なくとも一種類が、トリプシンである、請求項11にもとづく段階的方法。
【請求項16】
前記ステップ(b)または前記ステップ(d)の前記プロテアーゼの少なくとも一種類が、トリプシンである、請求項11にもとづく段階的方法。
【請求項17】
前記ステップ(b)および前記ステップ(d)の前記プロテアーゼの少なくとも一種類が、トリプシンである、請求項12にもとづく段階的方法。
【請求項18】
前記ステップ(b)または前記ステップ(d)の前記プロテアーゼの少なくとも一種類が、トリプシンである、請求項12にもとづく段階的方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−527373(P2006−527373A)
【公表日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515583(P2006−515583)
【出願日】平成16年6月11日(2004.6.11)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000847
【国際公開番号】WO2004/109287
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(504198957)シン.クス ファーマ、インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】