説明

グリコデリンモノクローナル抗体および卵巣癌の検出におけるその使用のための方法

患者において卵巣癌を診断するため、および卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別するための組成物および方法が提供される。本組成物には、グリコデリンに特異的に結合する新規なモノクローナル抗体、ならびにその変異体および断片が含まれる。本発明のグリコデリン抗体の結合特性を有するモノクローナル抗体、および開示される抗体のグリコデリンエピトープに結合するモノクローナル抗体がさらに提供される。本発明のグリコデリンモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株も本明細書に開示される。本組成物は、診断方法、ならびに卵巣癌を有する可能性が高い患者を識別するためのスクリーニング方法で使用される。1以上の開示されるグリコデリンモノクローナル抗体を含む、本発明の方法を実行するためのキットがさらに提供される。開示されるモノクローナルグリコデリン抗体のグリコデリンエピトープのアミノ酸配列を含むポリペプチド、およびグリコデリン抗体の産生においてこれらのポリペプチドを使用する方法も、本発明に包含される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2009年3月6日出願の米国特許仮出願第61/158,159号の利益を主張し、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0002】
[EFS−WEBを経由してテキストファイルとして提出した配列リストの参照]
公式版の配列リストは、EFS−Webを経由してテキストファイルとして本明細書と同時に提出され、情報交換用アメリカ標準コード(American Standard Code for Information Interchange)(ASCII)に従い、ファイル名称は386563SEQLIST.txt、作成日付は2010年3月4日、およびサイズは6.45KBである。EFS−Webを経由して出願された配列リストは、ここに引用することによりその全部が本明細書の一部をなすものとする。
【0003】
[発明の分野]
本発明は、グリコデリン(当分野で「黄体ホルモン関連子宮内膜タンパク質」(PAEP)とも称される)と結合する能力のあるモノクローナル抗体、および特に卵巣癌を診断するための方法および卵巣癌を有する可能性が高い患者を識別するための方法においてこれらの抗体を使用する方法に関する。これらのモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株がさらに開示される。
【背景技術】
【0004】
卵巣癌は、地球規模で女性が罹患する疾患の不均質な群を表す。卵巣癌にはいくつかの型があり、それには、上皮癌、卵巣の生殖細胞癌および卵巣間質癌が挙げられる。上皮卵巣癌は、この疾患の最も一般的な形態に相当する。約5〜10%の上皮卵巣癌が、この疾患の遺伝性形態に相当し、3つの共通するパターンが認知されている。すなわち、卵巣癌単独、染色体17q21および13q12上のそれぞれBRCA1およびBRCA2遺伝的連鎖に関連のある卵巣癌および乳癌、ならびに卵巣癌および結腸癌である。卵巣癌の最も重大な危険性は、疾患を有する第一度近親者である(例えば、卵巣癌を有する母、姉妹または娘)。例えば、Patridge et al.(1999)CA−A Cancer Journal for Clinicians 49:297−320を参照されたい。2005年、卵巣癌と診断された新規症例は22,000例、卵巣癌による死亡は16,000例と推定された。卵巣癌は女性の主な死亡原因の第5位であり、婦人科の癌による死亡の主要な原因である。一般に、ワールドワイドウェブ上で利用可能な米国癌協会(American Cancer Society)のウェブサイトwww.cancer.org、米国国立癌研究所(National Cancer Institute)のウェブサイト cancer.gov を参照されたい。卵巣癌は、主として閉経後の女性を冒す疾患であり、診断の年齢中央値は63歳である。しかし、この疾患はあらゆる年齢群の女性を冒し得る。一般に、ワールドワイドウェブ上で利用可能な米国国立癌研究所監視疫学遠隔成績(Surveillance,Epidemiology,and End Results)(SEER)プログラムのウェブサイトseer.cancer.govを参照されたい。
【0005】
卵巣癌の病期分類は、局在性の程度と卵巣以外への疾患の転移の比較に基づく。I期卵巣癌は、片側または両側の卵巣に限局される。II期の疾患は、片側または両側の卵巣の腫瘍を含み骨盤への進展を伴う。III期卵巣癌では、腫瘍は片側または両側の卵巣に存在し、顕微鏡で確認される骨盤の外側の腹膜転移および/または所属リンパ節転移を伴う。IV期卵巣癌は、腹膜腔の他に遠隔転移を特徴とする。卵巣癌は、一般に、小さい腫瘍の存在を示す特定の臨床症状がないために、疾患の進行期で診断される。50歳未満の女性に関して、卵巣癌の40%未満が、片側または両側の卵巣に腫瘍が局在しているとき、および疾患の予後が最も良いときに検出される。50歳以上の女性に関して、その数字は15%未満まで低下する。卵巣癌に罹患しているあらゆる年齢群の女性の約68%が、遠隔転移が存在するまで診断を受けない。一般に、ワールドワイドウェブ上で利用可能な米国国立癌研究所監視疫学遠隔成績(Surveillance,Epidemiology,and End Results)(SEER)プログラムのウェブサイトseer.cancer.govを参照されたい。
【0006】
卵巣癌は、卵巣上皮から腹膜腔への局所脱落を介して広がり、その後腹膜で着床し、腸および膀胱での局所的浸潤が起こる。卵巣癌におけるリンパ節の関与の存在は、診断された卵巣癌の全ての病期で明らかである。陽性リンパ節の割合は、疾患の進行とともに著しく増加する(すなわちI期、24%、II期、50%、III期、74%、IV期、73%)。同文献。卵巣癌の患者の生存は、疾患が診断された時点の病期の関数であり、5年生存率は疾患の進行とともに低下する。I期の卵巣癌と診断された女性の90%より多くは、診断後少なくとも5年間生存する。IV期(すなわち、遠隔転移)まで疾患が診断されない場合には、5年生存率は30%未満に低下する。同文献。
【0007】
上皮卵巣癌は、この疾患の最も一般的な形態である。上皮卵巣癌には認められている主な組織学的種類が4つあり、これらには、漿液、類内膜、明細胞、および粘液性サブタイプが含まれる。卵巣癌の病理発生はあまり分かっていないが、卵巣表面上皮から生じると考えられている。Bell(2005)Mod.Pathol.18(Suppl.2):S19−32 を参照されたい。卵巣癌の危険性を最も大きく低下させる生活要因としては、複産、経口避妊薬の使用、および授乳が挙げられ、それら全てが排卵を妨げる。排卵は、上皮の損傷、続いて修復および起こり得る炎症応答をもたらすので、女性の生殖寿命を通して中断なくこのプロセスを繰り返すことは、細胞損傷および卵巣癌の危険性の増加につながると思われる。例えば、Ness et al.(1999)J.Natl.Cancer Inst.91:1459−1467を参照されたい。しかし、認識された明確な前駆病変による卵巣癌の段階的進行(例えば子宮頸癌および結腸癌の両方に認識されるものなど)はない。従って、かなりの研究が、卵巣癌の分子基盤の理解および卵巣癌の様々な組織学的サブタイプ間の基本的な違いに向けられてきた。遺伝子発現分析を利用することによりこれを理解することができ、遺伝子発現分析により、診断用途における評価のための一連の可能性のあるバイオマーカーが同定された。例えば、Ono et al.(2000)Cancer Res.60:5007−11;Welsh et al.(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:1176−1181;Donninger et al.(2004)Oncogene 23:8065−8077;およびLee et al.(2004)Int.J.Oncol.24(4):847−851を参照されたい。
【0008】
卵巣癌は、多くの場合、明白な臨床症状の表れ、最も顕著には、腹痛、付属器腫瘤、腹部膨満、および尿意切迫の表れにより検出される。そのようにして、卵巣癌の検出は、しばしば進行期で発見され、その場合には予後および臨床成績は不良である。卵巣癌を初期(すなわちI期)で検出すると、標準的な外科手術および化学療法を用いて約90%の治癒率が得られる。従って、治療が最も効果的となる初期に卵巣癌を検出する臨床上の必要性がある。残念ながら、初期卵巣癌を検出するための現在のスクリーニング方法は不十分である。卵巣癌スクリーニングは現在、CA125および経膣超音波(超音波検査)を使用して行われる。CA125の血清レベルの上昇は、卵巣癌に関連している場合が多く、その後に経膣超音波を利用して卵巣癌の存在を発見することができる。卵巣疾患の確認は、開腹手術などの侵襲的手技に基づく。
【0009】
CA125血清検査は、限られた感受性、限られた特異性、および3%未満の低い陽性的中率という問題のために、一般集団スクリーニングに効果がない。Bast(2003)J Clin Oncol.21(10 Suppl.):200−205。CA125は、通常上皮細胞の表面で発現する、十分に特徴付けられた腫瘍マーカーであり、一般に正常患者の血清において35U/mLで検出される。卵巣癌患者の約85%において、高い血清レベルのCA125(35U/mLを上回る)が検出される。しかし、残りの15%の卵巣癌に罹患している患者は、正常なCA125の血清レベルを有する。さらに、CA125は、I期卵巣癌患者の50%だけで上昇し、それにより卵巣癌の早期検出におけるその臨床上の有用性が制限される。結果として、無症状患者集団における卵巣癌の一般的スクリーニングのための推奨に関する合意はなされていない。ワールドワイドウェブ上で利用可能な米国国立癌研究所のウェブサイト cancer.gov を参照されたい。危険性の高い患者に対して、一般に許容される卵巣癌の検出のための方法としては、骨盤内診察の使用、CA125血清検査、および経膣超音波(超音波検査)の使用が挙げられる。Patridge et al.(1999)CA−A Cancer Journal for Clinicians 49:297−320。
【0010】
一般集団において卵巣癌の有病率が低いことは、この疾患の早期発見を促進する方法およびスクリーニング検査の開発のためのさらなる課題をもたらす。卵巣癌などの有病率の低い疾患についてのスクリーニング方法は、しばしば偽陽性の真陽性に対する高い比をもたらし、そのことがかかるスクリーニングプログラムの臨床有用性を制限する。卵巣癌の可能性を探る外科的調査に関連する著しい危険性を考えると、臨床上有用なスクリーニング検査は、実際に卵巣癌を有する女性1人ごとに10人以下の女性を手術することをさすべきである(すなわち、陽性的中率(PPV)が少なくとも10%)。Skates et al.(2004)J.Clin.Oncol.22:4059−4066。PPVは、特定の疾患または状態に対する有病率に大いに依存し、罹患率の差異の結果、劇的に変動することになる。従って、卵巣癌などの有病率の低い疾患では、PPVの比較的低いスクリーニング診断検査はなお有意な臨床有用性を有する。見込まれる卵巣癌のスクリーニングプログラムは、卵巣癌の低い有病率に調整され、バイオマーカー性能および臨床上の必要性について評価しなければならない。例えば、Skates et al.(2004)J.Clin.Oncol.22:4059−4066;Bast et al.(2005)Int.J.Gynecol.Cancer 15:274−281;およびRosen et al.(2005)Gyn.Oncol.99:267−277を参照されたい。卵巣癌の発見、特に早期発見のためにバイオマーカーまたはバイオマーカーのパネルを同定する努力にもかかわらず、臨床上の必要性を満たす適当なスクリーニングまたは診断検査は現在存在しない。現在利用可能な方法、例えばCA125の検出などは、容認しがたいほど高い偽陽性率を示す。
【0011】
米国国立癌研究所からの現在の勧告は、「CA125などの血清マーカー、経膣超音波または骨盤内診察による卵巣癌の日常的スクリーニングが卵巣癌による死亡率の低下をもたらすことを確立する証拠は不十分である」と述べている(NCI Summary of Evidence(Level 4,5);2005年2月)。現在利用可能なスクリーニング技術による偽陽性の深刻な危険性を踏まえて、NCIはこれまで卵巣癌の一般的なスクリーニング手順の制定を支援していない。そのようにして、初期診断が5年生存率を有意に改善するという事実にもかかわらず、卵巣癌に対する標準化されたスクリーニング検査は存在しない。
【0012】
卵巣癌の5年生存率は診断の時期の疾患の病期に大いに依存し、生存率の増加は早期発見(すなわちI期またはII期)に関連するので、より多くの卵巣癌を初期に識別する必要がある。卵巣癌の初期の識別を許容するバイオマーカーの同定および特性決定により、多くの患者の臨床成績を改善することができるようになる。
【0013】
卵巣癌スクリーニングの1つの候補バイオマーカーは、グリコデリンである。グリコリデンは、カーネルリポカリンスーパーファミリーのメンバーである。そのメンバーは比較的低い配列類似性を共有するが、高度に保存されたエキソン/イントロン構造および三次元のタンパク質折り畳みを有する。大部分のリポカリンは、染色体9番の長腕でクラスター化している。コードされる糖タンパク質は、これまで妊娠関連子宮内膜α−2−グロブリン、胎盤タンパク質14、およびグリコデリンと称されてきたが、公式には黄体ホルモン関連子宮内膜タンパク質(PAEP)と名付けられている。タンパク質骨格は同一であるが異なるグリコシル化プロフィールをもつ3つの別個の形態が、生殖系の羊水、卵胞液および精漿で見出される。これらの糖タンパク質は、子宮環境を妊娠に適したものに調節することにおいて、かつ、受精プロセスでの事象の適切な順序のタイミングおよび発生において、別個の重要な役割を有する。いくつかの選択的スプライスによる転写変異体がこの遺伝子座で観察されているが、それらは全長がたった2であり、各々が同じタンパク質をコードすると特定された。文献には卵巣癌にグリコデリンが関係しているという展望はほとんど示されていないが、いくつかの刊行物に、グリコデリンが卵巣癌の予後指標として有用であることが示されている。例えば、Kamarainen et al.(1996)Am.J.Pathol.148:1435−1443;Song et al.(2001)Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 98:9265−9270;Mandelin et al.(2003)Cancer Research 63:6258−6264;Jeschke et al.(2005)Anticancer Research 25:1581−1589),Jeschke et al.(2006)Histopathology 48:393−406;およびYurkovetsky et al.(2006)Future Oncology 2:733−741を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、当分野において、卵巣癌を有するかまたは卵巣癌を有する可能性の高い女性を特異的に識別することの可能な信頼できる組成物(例えば、モノクローナル抗体)および方法が大いに必要である。卵巣癌を有する可能性が高いと識別された女性は、彼女たちが現在この疾患を有するかどうかを決定的に確定するための、より侵襲性の診断方法に対して選択され得る。さらに、かかるスクリーニング方法を一般女性患者集団で日常的に実施して、予後および疾患結果が最も好ましい疾患の初期での卵巣癌の検出を促進することができ得る。治療の有効性および卵巣癌の再発可能性をモニタリングするための組成物および方法も必要である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
患者において卵巣癌を検出または診断するための、または卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別するための組成物および方法が提供される。組成物には、目的の卵巣癌バイオマーカータンパク質、特にグリコデリンと結合する能力のあるモノクローナル抗体が含まれる。開示されるモノクローナル抗体の抗原結合性断片および変異体、これらの抗体を産生する能力のあるハイブリドーマ細胞株、および本発明のモノクローナル抗体を含むキットも本明細書に記載される。
【0016】
本発明の組成物は、グリコデリンの検出を伴うあらゆる方法、特に卵巣癌を診断するか、または卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別するための方法で使用される。これらの方法は、一般に、少なくとも1つのバイオマーカー(例えば、グリコデリン)の患者身体試料における発現を検出するステップを含み、この際、1または複数のバイオマーカーの過剰発現は、卵巣癌を示すかまたは患者が卵巣癌を有する可能性が高いことを示す。特に、これらの方法は、患者身体試料におけるグリコデリンの発現を検出するために、本発明の1以上の抗体を使用するステップを含む。患者において卵巣癌の特定の治療法の効力を評価するための方法、および患者において卵巣癌の退行または進行をモニタリングするための方法も、本明細書において開示される。
【0017】
患者において卵巣癌を診断するかまたは卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別するための方法は、例えば、本明細書に記載されるように2抗体または「サンドイッチ」ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)法によって患者身体試料におけるグリコデリンタンパク質の過剰発現を検出することを含んでもよい。かかるスクリーニング方法は、一般に、患者身体試料における、卵巣癌において選択的に過剰発現する1または複数のバイオマーカーの発現を検出することを含む。1以上のバイオマーカーの過剰発現は、その患者が卵巣癌を有している可能性が高いことを示す。
【0018】
本発明の方法は、例えば、「二ステップ」分析を含んでよく、この際、第1のアッセイステップは、第1のバイオマーカー(例えば、グリコデリン)またはバイオマーカーのパネルの発現を検出するために実施される。第1のバイオマーカーまたはバイオマーカーのパネルが過剰発現する場合、第2のアッセイステップを行って第2のバイオマーカーまたはバイオマーカーのパネルの発現を検出する。第1および第2のバイオマーカーまたはバイオマーカーのパネルの過剰発現は、患者が卵巣癌を有する可能性が高いことを示す。本発明の方法は、開示されるグリコデリン抗体を利用して患者試料におけるグリコデリンの発現を検出する。本発明の組成物および方法は、その他の種類の癌の診断または検出においてさらに利用することができる。
【0019】
本発明の組成物には、本発明のグリコデリンモノクローナル抗体と結合する能力のあるエピトープを含む、単離されたポリペプチドがさらに含まれる。これらのポリペプチドは、グリコデリン抗体を産生するための方法で使用される。グリコデリンエピトープのアミノ酸配列をコードする単離された核酸分子も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】サンドイッチELISAイムノアッセイで使用するための本発明のグリコデリンモノクローナル抗体の好ましい相補的対形成を同定するために行った分析の結果を示す図である。具体的には、2G7.1グリコデリン抗体を固相支持体に結合させて捕捉抗体として使用し、様々な標識グリコデリンモノクローナル検出抗体(例えば、8G8.3および3A10.25グリコデリン抗体)とともに試験した。図1Aには「標的」抗原として漸増濃度の組換えグリコデリンを用いて達成した結果が示される。図1Bには、「標的」抗原として漸増濃度の天然のグリコデリンを用いて得られた結果が示される。実験の詳細は実施例4に記載される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
卵巣癌を診断するかまたは卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別するための組成物および方法が提供される。組成物には、卵巣癌において選択的に過剰発現するバイオマーカータンパク質グリコデリンと結合する能力のあるモノクローナル抗体が含まれる。「卵巣癌において選択的に過剰発現する」ことにより、目的のバイオマーカーが、卵巣癌においては過剰発現するが、非悪性、良性として分類される状態、および臨床疾患であると考えられないその他の状態において過剰発現しないことが意図される。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株も開示される。本明細書に記載されるモノクローナル抗体を含むキットがさらに提供される。
【0022】
本発明の組成物には、グリコデリン、またはその変異体もしくは断片に特異的に結合するモノクローナル抗体が含まれる。グリコデリンのアミノ酸およびヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号1(アクセッション番号NP_001018059.1)および配列番号2(アクセッション番号NM_001018049)に記載されている。特定の実施形態では、2G7.1、8G8.3、および3A10.25と表されるグリコデリンモノクローナル抗体が提供される。グリコデリンモノクローナル抗体2G7.1を産生するハイブリドーマ細胞株は、2009年1月7日にバージニア州マナサス、20110−2209、アメリカ培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)(ATCC)の、特許寄託機関(Patent Depository)に寄託され、特許寄託番号PTA−9684が割り当てられた。グリコデリンモノクローナル抗体8G8.3を産生するハイブリドーマ細胞株は、2009年1月7日にバージニア州マナサス、20110−2209、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)の、特許寄託機関に寄託され、特許寄託番号PTA−9685が割り当てられた。グリコデリンモノクローナル抗体3A10.25を産生するハイブリドーマ細胞株は、2009年1月7日にバージニア州マナサス、20110−2209、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)の、特許寄託機関に寄託され、特許寄託番号PTA−9686が割り当てられた。これらの寄託物は、特許手続上の微生物の寄託の国際承認に関するブダペスト条約により維持されることになる。これらの寄託物の利用は、出願係属中は、特許商標庁長官(the Commissioner of Patents and Trademarks)および要請に応じて資格が与えられる、同長官により決定される人物が使用可能となる。特許出願中のいずれかのクレームが承認されると、特許出願人は、37C.F.R.§1.808に従って、ATCCの寄託物の試料を公衆に入手可能とする。この寄託は、単に当業者の便宜のためになされたものであり、寄託が35U.S.C.§112の下で必要であることを認めるものではない。
【0023】
モノクローナル抗体2G7.1、8G8.3、および3A10.25の結合特性を有する抗体も、本明細書において開示される。かかる抗体としては、限定されるものではないが、競合的結合アッセイにおいてこれらの抗体と競合する抗体、ならびにグリコデリンモノクローナル抗体2G7.1、8G8.3、または3A10.25と結合する能力のあるエピトープに結合する抗体が挙げられる。抗体が同じまたは同様の結合特性を有するかどうかを評価するための方法としては、抗原(例えば、グリコデリン)に対する抗体親和性または結合活性を測定および比較することなどの従来の定量的方法が挙げられる。例えば、Roitt et al.,eds.(1989)Immunology(Glower Medical Publishing,London)およびKuby(1992)Immunology(W.H.Freeman and Company,New York)を参照されたい。その他の例となる抗体の結合特性を比較するための方法としては、ウエスタンブロット法、酵素免疫測定法、ELISAおよびフローサイトメトリーが挙げられる。抗体−抗原結合特性を評価および比較するための方法は、当分野で周知である。グリコデリンに特異的に結合する能力を保持するモノクローナル抗体2G7.1、8G8.3、および3A10.25の変異体および断片も提供される。組成物には、本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株および本明細書に開示される少なくとも1つのモノクローナル抗体を含むキットがさらに含まれる。
【0024】
「抗体」および「免疫グロブリン」(Ig)は、同じ構造特性を有する糖タンパク質である。抗体は抗原に対する結合特異性を示すが、免疫グロブリンには、抗体と、抗原特異性を欠くその他の抗体様分子との両方が含まれる。後者の種類のポリペプチドは、例えば、リンパ系により低レベルで産生され、骨髄腫により増加レベルで産生される。
【0025】
用語「抗体」および「複数の抗体」は、天然に存在する型の抗体および組換え抗体、例えば単鎖抗体、キメラおよびヒト化抗体ならびに多重特異性抗体ならびに前述の全ての断片および誘導体などを広く包含し、その断片および誘導体は少なくとも抗原結合部位を有する。抗体誘導体は、抗体に結合したタンパク質または化学部分を含んでもよい。用語「抗体」は、その最も広い意味で使用され、完全に構築された抗体、抗原に結合することのできる抗体断片(例えば、Fab’、F’(ab)、Fv、単鎖抗体、ダイアボディー)、および前述のものを含む組換えペプチドを包含する。本明細書において、「グリコデリン抗体」とは、グリコデリン(配列番号1)、またはその変異体もしくは断片に特異的に結合するあらゆる抗体をさし、それには、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単鎖抗体、および親抗体の抗原結合機能を保持するその断片が含まれる。
【0026】
本発明のグリコデリン抗体は、最適にはモノクローナル抗体である。用語「モノクローナル抗体」とは、本明細書において、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体をさす。すなわち、集団を含む個々の抗体は、少量で存在する可能性のある、起こり得る天然に存在する突然変異を除いて同一である。
【0027】
「天然抗体」および「天然免疫グロブリン」は、通常、2つの同一の軽(L)鎖と2つの同一の重(H)鎖からなる、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各々の軽鎖は、1つの共有ジスルフィド結合により重鎖に連結されるが、ジスルフィド結合の数は、様々な免疫グロブリンアイソタイプの重鎖によって異なる。各々の重鎖および軽鎖はまた、規則的間隔の鎖内ジスルフィド架橋も有する。各々の重鎖は、一方の端に可変ドメイン(VH)とそれに続くいくつかの定常ドメインを有する。各々の軽鎖は、一方の端に可変ドメインを有し(V)、そのもう一方の端に定常ドメインを有する。軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1の定常ドメインと整列し、軽鎖可変ドメインは、重鎖の可変ドメインと整列する。特定のアミノ酸残基が、軽鎖および重鎖可変ドメイン間の界面を形成すると考えられる。
【0028】
用語「可変性である」とは、可変ドメインの特定の部分が、抗体間の配列が広範囲に異なり、その特定の抗原に対する各々の特定の抗体の結合および特異性に使用されるという事実をさす。しかし、この可変性は、抗体の可変ドメインの全体に均一に分布していない。それは、軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインの両方の中の相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つのセグメントまたは超可変領域に濃縮される。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク(FR)領域と呼ばれる。天然の重鎖および軽鎖の可変ドメインは、各々、3つのCDRにより連結された主にpシート配置を取る4つのFR領域を含み、CDRは、ループ連結を形成し、場合によっては、pシート構造の一部を形成する。各々の鎖のCDRは、FR領域によって他の鎖由来のCDRと非常に近接して一緒に保持され、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.,NIH Publ.No.91−3242,Vol.I,pages 647−669(1991)を参照)。
【0029】
定常ドメインは抗体を抗原に結合することに直接関与していないが、様々なエフェクター機能、例えば抗体依存性細胞毒性における抗体の関与など、を示す。
【0030】
用語「超可変領域」は、本明細書中で使用する場合、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基をさす。超可変領域は、「相補性決定領域(complementarily determining region)」または「CDR」からのアミノ酸残基(すなわち、軽鎖可変ドメインの残基24〜34(L1)、50〜56(L2)、および89〜97(L3)ならびに重鎖可変ドメインの31〜35(H1)、50〜65(H2)、および95〜102(H3);Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institute of Health,25 Bethesda,MD.[1991])ならびに/あるいは「超可変ループ」からの残基(すなわち軽鎖可変ドメインの残基26〜32(L1)、50〜52(L2)、および91〜96(L3)ならびに重鎖可変ドメインの26〜32(H1)、53〜55(H2)、および96〜101(H3);Clothia and Lesk,J.Mol.Biol,196:901−917[1987])を含む。「フレームワーク」または「FR」残基は、本明細書で考えられる超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0031】
「抗体断片」は、無傷の抗体の部分、好ましくは無傷の抗体の抗原結合もしくは可変領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFv断片、ダイアボディー、線状の抗体(Zapata et al.(1995)Protein Eng.8(10):1057−1062)、単鎖抗体分子、および抗体断片から形成した多重特異性抗体が挙げられる。抗体のパパイン消化により、各々が単一の抗原結合部位を含む「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合性断片と、その名前が容易に結晶化するその能力を反映する残りの「Fc」断片が生成される。抗体のペプシン処理により、2つの抗原結合部位を有し、なお抗原を架橋する能力のあるF(ab’)2断片が得られる。
【0032】
「Fv」は、完全な抗原認識および結合部位を含有する最小の抗体断片である。2本鎖Fv種において、この領域は、密接に非共有結合した1つの重鎖および1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。単鎖Fv種では、1つの重鎖および1つの軽鎖可変ドメインは、軽鎖および重鎖が2本鎖Fv種の構造に類似する「二量体」構造で会合することができるように、柔軟なペプチドリンカーにより共有結合することができる。各々の可変ドメインの3つのCDRが相互に作用してV−V二量体の表面の抗原結合部位を規定するのは、この立体構造である。集合的に、6つのCDRが抗体に抗原結合特異性を付与する。しかし、たとえ単一の可変ドメイン(抗原に特異的な3つのCDRだけを含むFvの半分)でも、抗原を認識し結合する能力を有するが、親和性は全体の結合部位よりも低い。
【0033】
Fab断片も、軽鎖の定常ドメインと重鎖の第1の定常ドメイン(C1)を含む。Fab断片は、Fab’断片と抗体ヒンジ領域からの1以上のシステインを含む重鎖C1ドメインのカルボキシ末端に少数の残基が付加されていることだけ異なる。Fab’−SHは、本明細書において、定常ドメインの1または複数のシステイン残基が遊離チオール基を有するFab’を表示するものである。F(ab’)2抗体断片は、本来、それらの間にヒンジシステインを有するFab’断片の対として生成された。
【0034】
特許請求されるグリコデリンモノクローナル抗体の断片は、それらが全長抗体の所望の機能(すなわち、グリコデリンに選択的に結合する能力)を保持する限り、本発明により包含される。よって、例えば、本発明のグリコデリンモノクローナル抗体の断片は、グリコデリン抗原に結合する能力を保持することになる。かかる断片は、相当する全長抗体に類似の特性を特徴とする、つまり、断片は、グリコデリンと特異的に結合することになる。かかる断片は、本明細書において「抗原結合性」断片と称される。
【0035】
抗体の好適な抗原結合性断片は、全長抗体の一部、一般にその抗原結合もしくは可変領域を含む。抗体断片の例としては、限定されるものではないが、Fab、F(ab’)、およびFv断片ならびに単鎖抗体分子が挙げられる。「Fab」は、軽鎖および重鎖の一部からなる免疫グロブリンの一価の抗原結合性断片を意図する。「F(ab’)」は、両軽鎖および両重鎖の一部を含む免疫グロブリンの二価の抗原結合性断片を意図する。「単鎖Fv」または「sFv」抗体断片は、抗体のVおよびVドメインを含む断片を意図し、この際、これらのドメインは、単一ポリペプチド鎖に存在する。例えば、引用することにより本明細書の一部をなすものとする、米国特許第4,946,778号、米国特許第5,260,203号、米国特許第5,455,030号、および米国特許第5,856,456号を参照されたい。一般に、Fvポリペプチドは、sFvが抗原結合のための所望の構造を形成できるようにするポリペプチドリンカーをVおよびVドメイン間にさらに含む。sFvの概説には、Pluckthun(1994)in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,Vol.113,ed.Rosenburg and Moore(Springer−Verlag,New York),pp.269−315を参照されたい。
【0036】
抗体または抗体断片は、例えば、McCafferty et al.(1990)Nature 348:552−554(1990)および米国特許第5,514,548号に記載される技法を用いて作製した抗体ファージライブラリから単離することができる。Clackson et al.(1991)Nature 352:624−628およびMarks et al.(1991)J.Mol.Biol.222:581−597 には、ファージライブラリを用いるマウスおよびヒト抗体の単離がそれぞれ記載されている。その後の刊行物には、鎖シャッフリングによる高親和性(nMの範囲)のヒト抗体の産生(Marks et al.(1992)Bio/Technology 10:779−783)、ならびに非常に大きなファージライブラリを構築するための戦略としてのコンビナトリアル感染およびインビボ組換え(Waterhouse et al.(1993)Nucleic.Acids Res.21:2265−2266)が記載されている。したがって、これらの技法が、モノクローナル抗体の単離のための従来のモノクローナル抗体ハイブリドーマ法に対する実行可能な代替法である。
【0037】
抗体断片の作製のための様々な技法がこれまでに開発されてきた。従来、これらの断片は、無傷の抗体のタンパク質消化により誘導された(例えば、Morimoto et al.(1992)Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107−117(1992)およびBrennan et al.(1985)Science 229:81参照)。しかし、これらの断片は、今では組換え宿主細胞により直接産生させることができる。例えば、抗体断片は上記に考察される抗体ファージライブラリから単離することができる。あるいは、Fab’−SH断片を直接大腸菌から回収して化学的に結合させてF(ab’)断片を形成することができる(Carter et al.(1992)Bio/Technology 10:163−167)。別のアプローチによれば、F(ab’)断片は、組換え宿主細胞培養から直接単離することができる。抗体断片の産生のためのその他の技法は、当業者には明らかである。
【0038】
ある実施形態では、本発明の抗体は、事実上モノクローナルである。前述の通り、「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意図する、すなわち、少量で存在し得る可能な天然に存在する突然変異を除いて、集団を含む個々の抗体は同一である。この用語は抗体の種類または起源に関して限定されない。この用語は、全免疫グロブリン、ならびにFab、F(ab’)2、Fv、および抗体の抗原結合機能を保持するその他の断片などの断片を包含する。モノクローナル抗体は非常に特異的であり、単一の抗原部位、すなわち、本明細書下文に定義されるようにグリコデリンタンパク質内の特定のエピトープに対して作製されている。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対して作製された異なる抗体を一般に含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物と対照的に、各々のモノクローナル抗体は、抗原の単一の決定基に対して作製されている。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体の集団から得られたという抗体の特徴を示し、任意の特定の方法により抗体を産生することを必要とすると解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用される予定のモノクローナル抗体は、Kohler et al.(1975)Nature 256:495に最初に記載されるハイブリドーマ法により作製されてもよいし、組換えDNA法により作製されてもよい(例えば、米国特許第4,816,567号参照)。また、「モノクローナル抗体」は、例えば、Clackson et al.(1991)Nature 352:624−628;Marks et al.(199I)J.Mol.Biol.222:581−597;および米国特許第5,514,548号に記載の技法を用いて、ファージ抗体ライブラリから単離されてもよい。
【0039】
モノクローナル抗体は、Kohler et al.(1975)Nature 256:495−496の方法またはその変更形態を用いて調製することができる。一般に、抗原を含有する溶液でマウスを免疫化する。免疫化は、生理食塩水、好ましくはフロイント完全アジュバントなどのアジュバントに抗原含有溶液を混合または乳化し、その混合物または乳濁液を非経口的に注入することにより実施することができる。本発明のモノクローナル抗体を得るために当分野で知られているどの免疫化方法を使用してもよい。動物を免疫化した後、脾臓(および任意選択的にいくつかの大きなリンパ節)を取り出し、単一の細胞に分離する。脾臓細胞は、細胞懸濁液を目的の抗原でコーティングしたプレートまたはウェルに適用することによりスクリーニングすることができる。抗原に特異的な膜結合免疫グロブリンを発現するB細胞(すなわち、抗体産生細胞)は、プレートに結合し、洗い流されない。得られるB細胞、または全ての分離した脾臓細胞を、次に骨髄腫細胞と融合してモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを形成するように誘導し選択培地で培養する。得られる細胞を連続希釈により平板培養し、目的の抗原に特異的に結合する(および未関係の抗原に結合しない)抗体の産生についてアッセイする。次に、選択されたモノクローナル抗体(mAb)分泌ハイブリドーマを、インビトロで(例えば、組織培養ビンまたは中空繊維反応器中で)、またはインビボで(マウスの腹水として)培養する。モノクローナル抗体は、反復性複数部位免疫化技術(Repetitive Immunizations Multiple Sites technology)(RIMMS)を用いて産生することもできる。例えば、その全文が、引用することにより本明細書の一部をなすものとする、Kilpatrick et al.(1997)Hybridoma 16(4):381−389;Wring et al.(1999)J.Pharm.Biomed.Anal.19(5):695−707;およびBynum et al.(1999)Hybridoma 18(5):407−411、を参照されたい。
【0040】
ハイブリドーマの使用の代替法として、引用することにより本明細書の一部をなすものとする、米国特許第5,545,403号、米国特許第5,545,405号、および米国特許第5,998,144号に記載されるように、抗体をCHO細胞株などの細胞株で産生させることができる。手短に言えば、細胞株を軽鎖および重鎖をそれぞれ発現する能力のあるベクターでトランスフェクトする。これらの2つのタンパク質を別々のベクターにトランスフェクトすることにより、キメラ抗体を産生することができる。もう1つの利点は、抗体の正確なグリコシル化である。また、モノクローナル抗体を、組換えコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリ(例えば、抗体ファージディスプレイライブラリ)をバイオマーカータンパク質でスクリーニングして、それによりバイオマーカータンパク質に結合する免疫グロブリンライブラリメンバーを単離することにより、同定および単離することができる。ファージディスプレイライブラリを生成しスクリーニングするためのキットが市販されている(例えば、ファルマシア社製Recombinant Phage Antibody System、カタログ番号27−9400−01、およびストラタジーン社製SurfZAP9 Pharge Display Kit、カタログ番号240612)。さらに、抗体ディスプレイライブラリを生成しスクリーニングする際に用いるのに従う方法および試薬の例は、例えば、米国特許第5,223,409号;PCT国際公開公報第WO92/18619号;WO91/17271号;WO92/20791号;WO92/15679号;93/01288号;WO92/01047号;WO92/09690号;およびWO90/02809号;Fuchs et al.(1991)Bio/Technology 9:1370−1372;Hay et al.(1992)Hum.Antibod.Hybridomas 3:81−85;Huse et al.(1989)Science 246:1275−1281;Griffiths et al.(1993)EMBO J.12:725−734に見出すことができる。グリコデリンモノクローナル抗体2G7.1、8G8.3、および3A10.25の産生に利用される方法は、下の実施例1に記載される。
【0041】
本発明のある態様では、細胞学的または組織学的試料の望ましい染色に基づいて抗体を選択することができる。つまり、特定の実施形態では、抗体は、念頭にある最終試料型(例えば、細胞診標本、組織試料)で結合特異性について選択される。グリコデリンに対する抗体は、多段階スクリーニング法により選択および精製される。抗体選択のためのかかる方法は、引用することによりその全文が本明細書の一部をなすものとする、米国特許第7,157,233号に記載されている。さらに、最適な結果のための特定のアッセイ形式で使用するために(例えば、サンドイッチELISAなど)、特定のグリコデリン抗体の対形成またはそれよりも大きいグループ化を選択することができる。
【0042】
本発明のモノクローナル抗体の結合特性を有する抗体も提供される。「結合特性」または「結合特異性」は、抗体に関して使用される場合、その抗体が比較抗体と同じまたは同様の抗原エピトープを認識することを意味する。かかる抗体の例としては、例えば、競合的結合アッセイにおいて本発明のモノクローナル抗体と競合する抗体が挙げられる。当業者は、標準的な方法を用いて、抗体が別の抗体を競合的に妨害するかどうかを決定することができ得る。
【0043】
「エピトープ」は、それに対して抗体が産生され、その抗体が結合するようになる抗原性分子の一部を意図する。「グリコデリンエピトープ」は、グリコデリンモノクローナル抗体が結合するグリコデリンタンパク質の一部を含む。エピトープは、線状アミノ酸残基(すなわち、エピトープ内の残基が次々に連続的に線状に配置される)、非線状アミノ酸残基(本明細書において「非線状エピトープ」または「高次構造エピトープ」と称される、これらのエピトープは連続的に配置されない)、または線状アミノ酸残基と非線状アミノ酸残基の両方を含み得る。また、非線状エピトープまたは高次構造エピトープには、抗体の認識構造の全体的な立体構造に寄与するが、必ずしも抗体に結合しないアミノ酸残基も含まれ得る。一般に、エピトープは、短いアミノ酸配列、例えば約5アミノ酸長である。エピトープを同定するための体系的技法は当分野で公知であり、例えば、米国特許第4,708,871号および下に記載される実施例に説明されている。手短に言えば、一方法では、抗原由来の1組の重複オリゴペプチドを合成し、ピンの固相アレイに結合させ、各々のピンに特有のオリゴペプチドを結合させることができる。このピンのアレイは、例えば、バイオマーカー特異的モノクローナル抗体との結合のために、96全てのオリゴペプチドを同時にアッセイすることが可能な96ウェルマイクロタイタープレートを含み得る。あるいは、ファージディスプレイペプチドライブラリキット(ニューイングランドバイオラボ社)が、エピトープマッピング用に現在市販されている。これらの方法を用いて、所与抗体が結合するエピトープを同定するために、連続アミノ酸のあらゆる可能なサブセットに対する結合親和性を決定することができる。エピトープ長のペプチド配列を用いて、抗体を得た動物を免疫化する場合に、エピトープを推論によって同定することもできる。高次構造エピトープは、ペプチドウォーキング法および合成ペプチド(例えば、Liang et al.(2005)Clinical Chemistry 51:1382−1396;Cochran et al.(2004)J.Immunol.Meth.287:147−158;Teeling et al.(2006)J.Immunol.177:362−371;Timmerman et al.(2004)Molecular Diversity 8:61−77;Lekcharoensuk et al.(2004)J.Virology 78:8135−8145;およびCasadio et al.(2007)BMC Bioinformatics(Supp.1):S1−6参照;これらの各々は、引用することによりその全文が本明細書の一部をなすものとする)、例えばPepscan Prestoより利用可能なCLIPS(商標)(足場に化学的に結合した免疫原性ペプチド)技術など(例えば、Timmerman et al.(2009)Open Vaccine J 2:56−67;Meloen et al.(1997)Epitope mapping by PEPSCAN.In:Immunology Methods Manual,Ed.Iwan Lefkovits,Academic Press,pp 982−988;およびワールドワイドウェブ上で利用可能なPepscan Prestoのウェブサイトpepscanpresto.com参照;これらの各々は、引用することによりその全文が本明細書の一部をなすものとする)を用いて同定することができる。
【0044】
本発明は、モノクローナル抗体2G7.1、8G8.3、または3A10.25と同じエピトープを認識する抗体を提供する。抗体は、2G7.1抗体により認識される配列番号3または配列番号5に記載されるエピトープ配列を認識することができる。ある実施形態では、エピトープ配列は、配列番号6および配列番号7のうちの少なくとも1つに加えて配列番号5を含む。これらの実施形態では、エピトープ配列は、配列番号1の131〜134の位置に対応するアミノ酸残基位置に配列番号5を含み、かつ、配列番号1の159〜162の位置に対応するアミノ酸残基位置の配列番号6、および配列番号1の49〜57の位置に対応するアミノ酸残基位置の配列番号7のうちの少なくとも1つをさらに含むことができる。
【0045】
モノクローナル抗体8G8.3、または3A10.25のエピトープを認識する抗体も提供される。これらの実施形態では、エピトープ配列は、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、および配列番号9のうちの少なくとも1つ(ある実施形態では、それら全て)を含むことができる。一部のこれらの実施形態では、エピトープは、次の配列、すなわち配列番号1の49〜57の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号7、配列番号1の78〜86の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号8、配列番号1の131〜134の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号5、配列番号1の159〜162の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号6、および、配列番号1の172〜180の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号9のうちの少なくとも1つ(ある実施形態では、それら全て)を含む。
【0046】
本明細書において、グリコデリン配列(例えば、配列番号1)の特定のアミノ酸残基に対応する位置のエピトープのアミノ酸残基とは、最大相同性を求めて、アラインメントプログラム、例えば当分野で公知のプログラムなど(例えば、BLOSUM62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれかを使用するGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラム)を用いて、エピトープ配列をグリコデリン配列(例えば、配列番号1)とアラインさせたときに、グリコデリン配列中の特定の位置のアミノ酸残基の向かい側に現れるエピトープの中のアミノ酸残基をさす。
【0047】
本発明はまた、本発明のグリコデリンモノクローナル抗体を結合するためのエピトープを含む単離されたポリペプチドを包含する。これらのポリペプチドは、モノクローナル抗体2G7.1、8G8.3、または3A10.25に結合するグリコデリン抗原の位置に対応する。かかるポリペプチドは、グリコデリンに選択的に結合する抗体を産生するための方法で使用される。抗体の産生に使用されるポリペプチドの能力を、本明細書において「抗原活性」と称する。例えば、配列番号5に記載されるアミノ酸配列(配列番号1に記載されるグリコデリンアミノ酸配列中の残基131〜134に対応)は、グリコデリンモノクローナル抗体、より特にモノクローナル抗体2G7.1によって認識される最小エピトープを含む。配列番号3に示されるアミノ酸配列(配列番号1に記載されるグリコデリンアミノ酸配列中の残基110〜140に対応)は、モノクローナル抗体2G7.1によって認識される、グリコデリンのより大きい免疫原領域を含む。さらに、ある実施形態では、単離されたポリペプチドは、配列番号6および配列番号7のうちの少なくとも1つに加えて配列番号5を含むグリコデリンモノクローナル抗体を結合するためのエピトープを含む。これらの実施形態では、エピトープ配列は、配列番号1の131〜134の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号5を含み、かつ、配列番号1の159〜162の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号6と、配列番号1の49〜57の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号7のうちの少なくとも1つをさらに含むことができる。他の実施形態では、単離されたポリペプチドは、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、および配列番号9のうちの少なくとも1つ(ある実施形態では、それら全て)を含む、グリコデリンモノクローナル抗体を結合するためのエピトープを含む。一部のこれらの実施形態では、エピトープは、次の配列、すなわち配列番号1の49〜57の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号7、配列番号1の78〜86の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号8、配列番号1の131〜134の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号5、配列番号1の159〜162の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号6、および配列番号1の172〜180の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号9のうちの少なくとも1つ(ある実施形態では、それら全て)を含む。
【0048】
元のポリペプチドの抗原活性を保持する、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、および配列番号9に記載される配列の変異体および断片ならびにそれらの組合せも提供される。本発明には、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、または配列番号9に記載されるエピトープ配列、またはそれらの組合せ、およびそれらの変異体および断片を含むポリペプチドをコードする単離された核酸分子がさらに含まれる。
【0049】
グリコデリンエピトープを含む本発明のポリペプチドは、前述のように、グリコデリンに特異的に結合するモノクローナル抗体を産生するための方法で使用することができる。そのようなポリペプチドは、ポリクローナルグリコデリン抗体の産生においても使用することができる。例えば、ポリクローナル抗体は、好適な被験体(例えば、ウサギ、ヤギ、マウス、またはその他の哺乳動物)を、グリコデリンエピトープを含むポリペプチド(すなわち免疫原)で免疫化することにより調製することができる。免疫した被験体における抗体力価は、標準的な技法、例えば固定化したバイオマーカータンパク質(例えば、グリコデリン)を用いるELISAなどで経時的にモニタリングすることができる。免疫化後の適切な時間に、例えば、抗体力価が最大のときに、標準的な技法、例えばKohler and Milstein(1975)Nature 256:495−497により最初に記載されたハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor et al.(1983)Immunol.Today 4:72)、EBV−ハイブリドーマ技術(Cole et al.(1985)in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,ed.Reisfeld and Sell(Alan R.Liss,Inc.,New York,NY),pp.77−96)またはトリオーマ法(trioma techniques)などにより、抗体産生細胞を被験体から得て、モノクローナル抗体を調製するために使用することができる。ハイブリドーマを産生するための技術は周知である(一般に、Coligan et al.,eds.(1994)Current Protocols in Immunology(John Wiley & Sons,Inc.,New York,NY);Galfre et al.(1977)Nature 266:550−52;Kenneth(1980)in Monoclonal Antibodies:A New Dimension In Biological Analyses(Plenum Publishing Corp.,NY;およびLerner(1981)Yale J.Biol.Med.,54:387−402参照)。
【0050】
本明細書に記載されるグリコデリンエピトープを含むモノクローナル抗体またはポリペプチドのアミノ酸配列変異体も、本発明に包含される。変異体は、目的の抗体またはポリペプチドをコードするクローン化DNA配列中の変異によって調製することができる。変異誘発およびヌクレオチド配列変更方法は、当分野で周知である。例えば、引用することにより本明細書の一部をなすものとする、Walker and Gaastra,eds.(1983)Techniques in Molecular Biology(MacMillan Publishing Company,New York);Kunkel(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488−492;Kunkel et al.(1987)Methods Enzymol.154:367−382;Sambrook et al.(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor,New York);米国特許第4,873,192号;およびその中に引用される参照文献を参照されたい。目的のポリペプチドの生物活性に影響を及ぼさない適切なアミノ酸置換に関する手引きは、引用することにより本明細書の一部をなすものとする、Dayhoff et al.(1978)in Atlas of Protein Sequence and Structure(Natl.Biomed.Res.Found.,Washington,D.C)のモデルに見出すことができる。保存的置換、例えば1つのアミノ酸を同様の特性を有する別のアミノ酸に交換することなどが好ましいことがある。保存的置換の例としては、限定されるものではないが、Gly⇔Ala、Val⇔Ile⇔Leu、Asp⇔Glu、Lys⇔Arg、Asn⇔Gln、およびPhe⇔Trp⇔Tyrが挙げられる。
【0051】
目的のポリペプチドの変異体を構築する際、変異体が所望の活性、すなわちバイオマーカーと同様の結合親和性を有し続けるように、修飾がなされる。明らかに、変異ポリペプチドをコードするDNAで作製されるいずれの変異も、リーディングフレームの外の配列に置いてはならず、二次的なmRNA構造を生じることのあり得る相補的領域を形成しないことが好ましい。欧州特許出願公開第75,444号を参照されたい。
【0052】
参照ポリペプチドの変異体は、一般に、参照抗体分子のアミノ酸配列に対して、または参照抗体分子のそれより短い部分に対して少なくとも70%または75%の配列同一性、特に少なくとも80%または85%の配列同一性、より特に少なくとも90%、91%、92%、93%、94%または95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。最適には、これらの分子は、少なくとも96%、97%、98%、99%、またはそれ以上の配列同一性を共有する。本発明の目的において、配列同一性率は、12のギャップオープンペナルティおよび2のギャップ延長ペナルティ、62のBLOSUMマトリックスでアフィンギャップ検索を用いるスミス−ウォーターマン相同性検索アルゴリズムを用いて決定される。スミス−ウォーターマン相同性検索アルゴリズムは、Smith and Waterman(1981)Adv.Appl.Math.2:482−489に教示されている。変異体は、例えば、参照抗体とはわずか1〜15アミノ酸残基、わずか1〜10アミノ酸残基、例えば6〜10、わずか5、わずか4、3、2、またはさらに1アミノ酸残基が異なり得る。
【0053】
2つのアミノ酸配列の最適なアラインメントに関して、変異体アミノ酸配列の連続したセグメントは、参照アミノ酸配列に関してアミノ酸残基の付加またはアミノ酸残基の欠失を有し得る。参照アミノ酸配列との比較のために用いる連続したセグメントには、少なくとも20の連続したアミノ酸残基が含まれることになり、それは、30、40、50、またはそれ以上の連続したアミノ酸残基であり得る。保存的残基置換またはギャップに関連する配列同一性の補正を行うことができる(スミス−ウォーターマン相同性検索アルゴリズム参照)。
【0054】
本発明のグリコデリンモノクローナル抗体は、下に記載されるような検出可能な物質で標識して、試料中のグリコデリンバイオマーカータンパク質の検出を促進することができる。かかる抗体は、本発明の方法の実践で使用される。本発明の抗体および抗体断片を検出可能な物質と結合させて抗体結合の検出を促進することができる。「標識」という語は、本明細書において、「標識された」抗体を作成するために抗体と直接または間接的に複合体化される検出可能な化合物または組成物をさす。標識は、それ自体が検出可能であってもよいし(例えば、放射性同位元素標識または蛍光標識)、または酵素標識の場合には、検出可能な基質化合物または組成物の化学的変質を触媒してもよい。抗体を標識するための検出可能な物質の例としては、様々な酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、および放射性物質が挙げられる。好適な酵素の例としては、限定されるものではないが、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼが挙げられる。好適な補欠分子族複合体の例としては、限定されるものではないが、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが挙げられる。好適な蛍光物質の例としては、限定されるものではないが、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリドまたはフィコエリトリンが挙げられる。発光物質の例としては、限定されるものではないが、ルミノールが挙げられる。生物発光物質の例としては、限定されるものではないが、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、およびエクオリンが挙げられる。そして、好適な放射性物質の例としては、125I、131I、35S、またはHが挙げられる。本発明の実施における使用のためのその他の例となる検出可能な標識としては、ジゴキシゲニンおよび量子ドットが挙げられる。
【0055】
本明細書に開示されるグリコデリンモノクローナル抗体は、グリコデリンタンパク質の検出が望ましい任意の方法で使用してもよいが、本発明のグリコデリンモノクローナル抗体組成物は、卵巣癌を検出する、もしくは診断する、または卵巣癌を有している可能性の高い患者を識別するための方法、例えば、引用することによりその全文が本明細書の一部をなすものとする米国特許出願公開第2007/0212721号に開示される方法などにおいて特に使用される。「卵巣癌」により、前悪性の病態、悪性の病態、および癌(FIGO病期1〜4)として試験開腹後(post−exploratory laparotomy)に分類される状態を意図する。卵巣癌の病期決定(staging)および分類は、上に詳細に説明されている。「初期卵巣癌」とは、I期またはII期癌腫と分類される疾患状態をさす。卵巣癌の早期検出は、5年生存率を大幅に増加させる。本明細書において、「卵巣癌を有している可能性の高い患者を識別すること」は、卵巣癌を有する可能性がより高いために、特に初期の(その期間は予後が最も好ましい)卵巣癌を検出するために、さらなる試験およびモニタリングが実施される女性を分類するための方法を意図する。「卵巣癌を有している可能性が高い」とは、本方法に従って特定のバイオマーカーの過剰発現を示すと判定された患者が、そうでない患者よりも卵巣癌を有する可能性が高いことをさすものである。本明細書において、「患者」または「被験体」は、哺乳動物、特にヒトを含む動物を意図する。患者または被験体は、卵巣癌を有している疑い(例えば、兆候を示し、別の卵巣癌バイオマーカー検査に対して陽性)があってもなくてもよい。
【0056】
「卵巣癌を診断すること」は、例えば、卵巣癌の存在を診断または検出すること、疾患の進行をモニタリングすること、および卵巣癌の兆候である細胞または試料を識別または検出することを含むことが意図される。卵巣癌を診断する、検出する、および識別するという用語は、本明細書において同義的に使用される。本発明の方法は、卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別することができ、この疾患の診断に役立ち得るが、特に初期の、卵巣癌の「確定」診断は、一般に、本発明の方法により識別された患者のサブセット由来の組織試料での生検を行うことを含むことになる。
【0057】
用語「スクリーニング方法」とは、卵巣癌を有している可能性の高い患者を識別して、それにより、その患者が卵巣癌を有しているかどうかを決定的に確定するために、かかる患者をより侵襲性の診断方法に選択することのできる戦略をさす。本発明の「スクリーニング方法」は、一般に、卵巣癌を有する(または有さない)と患者を決定的に診断することを意図しない。むしろ、かかる方法は、卵巣癌を有する可能性が高い女性を識別し、それにより、これらの女性がさらなる診断法を受けて確定診断を得ることができることを意図する。つまり、開示される本方法に従って、卵巣癌を有するかまたは卵巣癌を有する可能性が高いと識別された患者を、その患者が卵巣癌を有するかどうかを決定的に確定するためのさらなる診断検査に供することができる。「さらなる診断検査」としては、限定されるものではないが、骨盤内診察、経膣超音波、CTスキャン、MRI、開腹手術、腹腔鏡検査、および生検が挙げられる。かかる診断方法は、当分野で周知である。さらに、卵巣癌を有する可能性が高いと分類される患者で、さらなる診断検査により現在は卵巣癌を有していないと決定された患者を、卵巣癌の発症について、定期的に厳密にモニタリングすることができる。かかる患者のモニタリングとしては、限定されるものではないが、定期的な骨盤内診察、経膣超音波、CTスキャン、およびMRIを挙げることができる。当分野の医師であれば、卵巣癌の発症について患者をモニタリングするための適切な技法を理解する。本発明のスクリーニング方法は、個別にまたは定期的な決まったスクリーニング検査として一般女性集団に対して行われてもよい。ある実施形態では、卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別するためのスクリーニング方法は、子宮頸癌を有する可能性の高い患者の識別のためのPapスメアに相当すると見なされ得る。
【0058】
本発明のもう1つの実施形態では、2抗体またはELISA形式を使用して、患者身体試料におけるグリコデリンの過剰発現を検出することにより、卵巣癌の患者を診断するかまたは卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別する。かかるサンドイッチまたは「2部位」イムノアッセイは、当分野で公知である。例えば、Current Protocols in Immunology.Indirect Antibody Sandwich ELISA to Detect Soluble Antigens,John Wiley & Sons,1991を参照されたい。本発明により包含される特定のサンドイッチELISA法では、グリコデリンの2つの別個の抗原性部位に特異的な2つの抗体、例えば、2G7.1、8G8.3、および3A10.25と表されるグリコデリンモノクローナル抗体が使用される。「別個の抗原性部位」は、1つの抗体の結合が、他の抗体とバイオマーカータンパク質の結合をあまり妨害しないように、抗体は、目的のバイオマーカータンパク質(すなわちグリコデリン)の異なる部位に特異的であることを意図する。サンドイッチELISA法は2つの抗体、すなわち、「捕捉」抗体および「検出」抗体を利用する。第1の抗体である、「捕捉抗体」は、一般に、固相支持体に固定化されているかまたは結合している。例えば、捕捉抗体は、細胞培養プレート、マイクロタイター細胞培養プレートウェル、ビーズ(例えば、MAGPLEX(登録商標)磁性マイクロビーズ)、キュベット、ナノ粒子、またはその他の反応容器に共有結合または非共有結合することができる。本発明の特定の態様では、捕捉抗体は、マイクロタイタープレートウェルに結合する。抗体を固相支持体に結合させるための方法は、当分野で常用されている。患者身体試料、特に血液試料、より特に血清試料を、次に捕捉抗体の結合した固相支持体と接触させ、捕捉抗体と複合体を形成させる。非結合試料を除去し、第2の抗体、「検出」もしくは「タグ」抗体を、捕捉抗体−抗原複合体を含有する固相支持体に曝露する。検出抗体は、目的のバイオマーカー(例えば、グリコデリン)の別個の抗原性部位に特異的であり、本明細書に記載されるような検出可能な物質と結合するか、それらで標識される。かかる抗体標識は当分野で周知であり、それには、様々な酵素、補欠分子族、蛍光物質(例えば、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP))、フィコエリトリン、発光物質、生物光物質、および放射性物質)が挙げられる。検出抗体とのインキュベーションの後、非結合試料を除去し、固相支持体に結合した標識検出抗体のレベルを定量することによりグリコデリン発現レベルを決定し、次にそれを試料中に存在するグリコデリンのレベルと直接関連付ける。当業者により理解されるように、この定量段階は、いくつかの公知の技法により実施することができ、検出抗体に結合した具体的な検出可能な物質によって異なることになる。
【0059】
本発明の方法は、一般に、患者身体試料において卵巣癌において選択的に過剰発現する少なくとも1つのバイオマーカー、より特に複数のバイオマーカーの過剰発現を検出するステップを含む。よって、バイオマーカーの検出により、卵巣癌を有する可能性の高いことかまたは卵巣癌が存在することを示す試料を、正常な試料(すなわち、卵巣癌のない患者由来の試料)ならびに非悪性および良性の増殖を示す試料と区別することができる。卵巣癌の検出、診断、またはモニタリングにおいて特に目的のバイオマーカーは、グリコデリンである。当業者は、グリコデリン発現の検出に加えて、卵巣癌を検出するため、および卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別するための本発明の方法が、卵巣癌において選択的に発現する複数のバイオマーカーの検出をさらに包含することを理解する。例えば、その他の目的のバイオマーカーとしては、限定されるものではないが、HE4、CA125、MMP−7、Muc−1、PAI−1、CTHRC1、インヒビン、PLAU−R、プロラクチン、KLK−10、KLK−6、およびSLPI、α−1アンチトリプシン(AAT)、Imp−2、FLJ10546、FLJ23499、MGC13057、SPON1、S100A1、SLC39A4、TACSTD2、MBG2、HETKL27(MAL2)、Cox−1、プロテインキナーゼC−イオタ、カドヘリン−6、ADPRT、マトリプターゼ、葉酸受容体、クローディン4、メソテリン、アクアポリン5、コフィリン1、ゲルゾリン、クラスタリン、αテトラネクチン、ビトロネクチン、妊娠関連血漿タンパク質A(PAPP−A)、フォリスタチン、B7−H4、YKL−40、クローディン3、エラフィン、およびKOPが挙げられる。特に目的のバイオマーカーとしては、HE4、CA125、グリコデリン、Muc−1、PAI−1、CTHRC1、インヒビン、PLAU−R、プロラクチン、KLK−10、KLK−6、SLPI、およびα−1アンチトリプシンが挙げられる。これらの例となる卵巣癌バイオマーカーの検出のための抗体は、当分野で公知であるか、または常法に従って製造することができる。
【0060】
本明細書において、「身体試料」とは、バイオマーカーの発現が検出され得る患者由来の細胞、組織、または体液のあらゆるサンプリングをさす。かかる身体試料の例としては、限定されるものではないが、血液(例えば、全血、血清、血小板除去血など)、リンパ液、腹水、尿、婦人科体液(例えば、卵巣、卵管、子宮分泌物、月経など)、バイオプシー、および腹腔鏡検査中に得られる体液が挙げられる。身体試料は、例えば、静脈穿刺による、部位の掻爬またはスワブによる、あるいは体液または組織を吸引するための針の使用によるものを含む、多様な技法により患者から得ることができる。様々な身体試料を収集するための方法は、当分野で周知である。特定の実施形態では、身体試料は、血液または血清を含む。
【0061】
本発明の特定の態様では、これらの方法は、試料(例えば、血液または血清)を患者から得るステップと、試料を少なくとも1つの本発明のグリコデリンモノクローナル抗体に接触させるステップと、抗体とグリコデリンタンパク質との結合を検出するステップとを含む。その他の実施形態では、グリコデリンに結合する少なくとも2つのモノクローナル抗体に試料を接触させる。抗原(例えば、グリコデリン)−抗体結合を検出するための技法は、当分野で周知である。目的のバイオマーカーとの抗体結合は、例えば、抗体結合のレベルおよび、従ってバイオマーカータンパク質発現のレベルに相当する検出可能なシグナルを生じる化学試薬の使用によって検出することができる。抗体−抗原(例えば、グリコデリン)結合を検出するためのどの方法を用いて本発明の方法を実践してもよい。かかる方法としては、限定されるものではないが、従来の酵素イムノアッセイ(EIA)、サンドイッチELISA技法(本明細書下文に記載される通り)、ウエスタンブロット法、免疫細胞化学、免疫組織化学、免疫沈降、フローサイトメトリー、ナノ粒子のラマン分光法、多重ビーズに基づくアッセイ(例えば、MAGPLEX(登録商標)磁性ビーズおよびフィコエリトリンなどの蛍光タグを使用して、またはLUMINEX(登録商標)プラットフォームを利用して)が挙げられる。
【0062】
患者において卵巣癌を診断するためのまたは卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別するための本発明の方法、例えばサンドイッチELISAは、患者身体試料中のグリコデリンタンパク質のレベルを閾値レベルと比較して、その患者が卵巣癌を有するかまたは卵巣癌を有する可能性が高いかどうかを決定するステップをさらに含んでもよい。本明細書において、「閾値レベル」とは、それを超えると患者試料が「陽性」と判断され、それを下回るとその試料が卵巣癌に対してまたは卵巣癌を有する可能性の増加に対して「陰性」と分類される、グリコデリン発現のレベルをさす。特定のバイオマーカー(例えば、グリコデリン)の閾値発現レベルは、1以上の、「正常な」患者試料(すなわち、卵巣癌を有していない女性の患者集団)からのデータをまとめたものに基づき得る。例えば、閾値発現レベルは、卵巣癌を有さない患者由来の「正常な」試料の分析に基づく平均グリコデリン発現レベルの2つの標準偏差内の値として確立することができる。当業者であれば、発現の閾値レベルを確立するための多様な統計的方法および数学的方法が当分野で公知であることは明らかである。
【0063】
捕捉抗体および検出抗体は、上記のように連続的にまたは同時に身体試料に接触させることができることを当業者はさらに理解する。さらに、検出抗体は、最初に身体試料と、試料を固定化した捕捉抗体に接触させるよりも前にインキュベートすることができる。本発明のグリコデリンモノクローナル抗体を、本明細書に開示されるサンドイッチELISA法で使用する場合、2G7.1、8G8.3、または3A10.25抗体のいずれかを捕捉抗体または検出抗体として使用することができる。特定の一実施形態では、捕捉抗体は、グリコデリンモノクローナル抗体2G7.1であり、検出抗体は8G8.3、または3A10.25抗体のいずれかである。本発明の抗体は、グリコデリンを検出するためのどのアッセイ形式で使用されてもよく、それには、限定されるものではないが、LUMINEX 200(登録商標)プラットフォームまたはMAGPLEX(登録商標)磁性マイクロビーズを用いる、多重ビーズに基づくアッセイが含まれる。
【0064】
同じバイオマーカー(すなわち、グリコデリン)に2つの抗体を使用する上記のサンドイッチELISA形式に関して、かかる結果を最適化するための当分野で公知の常法を用いて、多段階分析を行って、抗体の相補性および抗体の特定の組合せによって達成した信号対雑音比に関して最良の結果を生じる、特定の抗体の組合せ、またはこれらの抗体の対形成および濃度を同定することができる。サンドイッチELISA形式において最適な結果を得るために、上述のように、捕捉抗体および検出抗体は、別個の抗原性部位を有するべきである。
【0065】
本発明の方法は、卵巣癌の進行または退行をモニタリングする際にさらに使用される。卵巣癌の進行/退行をモニタリングするための本発明の一実施形態では、本方法は、患者由来の試料を検査して患者身体試料中のグリコデリンのレベルを決定するステップと、それより後の時点のその患者由来の別の試料中のグリコデリンのレベルを決定するステップと、早い時点のグリコデリン発現レベルを後の時点のそれと比較するステップとを含み、この際、グリコデリンのレベルの変化は、患者における癌の進行を示す。グリコデリン発現の低下は、患者の状態の改善と一致する。同様に、本明細書に開示される方法を用いて特定の卵巣癌治療法または治療計画の有効性を評価することができる。例えば、本方法は、卵巣癌治療の開始よりも前に患者由来の試料を検査して患者身体試料中のグリコデリンのレベルを決定するステップと、卵巣癌治療を投与するステップと、治療の期間中および/または治療の完了後のその患者由来の別の試料中のグリコデリンのレベルを決定するステップと、治療の開始前と治療開始後または治療完了後のグリコデリン発現レベルを比較するステップとを含み、この際、グリコデリンのレベルの変化が、卵巣癌治療の有効性を示す。グリコデリン発現の低下は、治療が有効であることと一致する。
【0066】
本明細書に開示される方法の有効性は、感受性、特異性、陽性的中率(PPV)、および陰性的中率(NPV)などの値を計算することにより評価することができる。本明細書において、「特異性」とは、検査で陰性である疾患陰性体の割合をさす。臨床研究において、特異性は、真の陰性体の数を真の陰性体と偽陽性体の合計で除算することにより算出される。「感受性」は、本発明の方法が陽性(すなわち真の陽性)と確認されている試料を正確に識別することのできるレベルを意味する。よって、感受性は、検査で陽性である疾患陽性体の割合である。感受性は、臨床研究において、真の陽性体の数を真の陽性体と偽陰性体の合計で除算することにより算出される。ある実施形態では、卵巣癌を診断するか、または卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別するための本開示の方法の感受性は、少なくとも約70%、その他の実施形態では少なくとも約80%、なおその他の実施形態では少なくとも約90、91、92、93、94、95、96、97、98、99%またはそれ以上である。さらに、本方法の特異性は、ある実施形態では、少なくとも約70%、その他の実施形態では少なくとも約80%、およびさらにその他の実施形態では少なくとも約90、91、92、93、94、95、96、97、98、99%またはそれ以上である。
【0067】
用語「陽性的中率」または「PPV」とは、本発明の方法を用いて陽性に分類される患者に限定される、目的の疾患(例えば、卵巣癌)を患者が有する可能性をさす。PPVは、臨床研究において、真の陽性体の数を真の陽性体と偽陽性体の合計で除算することにより算出される。検査の「陰性的中率値」または「NPV」は、試験陰性の全患者に限定される場合、患者が疾患を有さない可能性である。NPVは、臨床研究において、真の陰性体の数を真の陰性体と偽陰性体の合計で除算することにより算出される。
【0068】
少なくとも1つの本発明のグリコデリンモノクローナル抗体を含むキットがさらに提供される。「キット」は、グリコデリンの発現を特異的に検出するための少なくとも1つの試薬、すなわち抗体を含む、任意の製造物(例えば、パッケージまたは容器)を意図する。キットは、本発明の方法を実施するための単位として宣伝、流通、または販売することができる。さらに、キット試薬のいずれかまたは全てを、外的環境からそれらを保護する容器、例えば密封容器の中に入れて提供することができる。また、キットおよびまたはその使用説明書を記載するパッケージ挿入物をキットに含めてもよい。
【0069】
卵巣癌を検出するためおよび卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別するための方法を実施するためのキットは、一般に、グリコデリンに対する少なくとも1つのモノクローナル抗体、抗体結合の検出のための化学物質、対比染色剤、および、任意選択的に、陽性染色細胞の同定を促進するための青味剤を含む。抗原−抗体結合を検出するどの化学薬品を本発明のキットで使用してもよい。例えば、抗原−抗体結合部位で色素原の沈着を触媒する酵素と結合した二次抗体を提供することができる。かかる酵素および抗体結合の検出においてそれらを使用するための技法は、当分野で周知である。結合した酵素に適合する色素原(例えば、HRP標識二次抗体の場合にはDAB)および非特異的染色をブロックするための溶液、例えば過酸化水素をさらに提供することができる。キットは、追加として、ペルオキシダーゼブロッキング試薬(例えば、過酸化水素)、タンパク質ブロッキング試薬(例えば、精製カゼイン)、および対比染色剤(例えば、ヘマトキシリン)を含むことができる。陽性染色細胞の検出を促進するために、青味剤(例えば、TWEEN(登録商標)−20およびアジ化ナトリウムを含む水酸化アンモニウムまたはTBS、pH7.4)をキットに含めてさらに提供してもよい。また、キットは、品質管理の目的で陽性および陰性対照試料を含んでもよい。適切な陽性および陰性対照の開発は、十分に当業者の日常的な能力の範囲内である。
【0070】
本明細書に記載されるサンドイッチELISA法を実施するための本発明のその他のキットは、一般に、任意選択的に固相支持体(例えば、マイクロタイタープレート)上に固定化されている捕捉抗体、および検出可能な物質と結合した検出抗体を含み、その例は上述のとおりである。ある種の実施形態では、捕捉抗体および検出抗体は、モノクローナル抗体、特にグリコデリンモノクローナル抗体、より特に2G7.1、8G8.3、または3A10.25と表されるグリコデリンモノクローナル抗体である。サンドイッチELISA法を実践するための本発明の1つのキットでは、捕捉抗体はマイクロタイタープレート上に固定化されているグリコデリンモノクローナル抗体2G7.1であり、検出抗体はHRP標識8G8.3または3A10.25である。固相支持体に結合した検出抗体のレベルを検出および定量化するための化学物質(試料中のグリコデリンのレベルに直接相関する)を、任意選択的にこのキットに含めてもよい。精製したグリコデリンは、抗原標準物質として提供されてもよい。
【0071】
もう1つの実施形態では、本発明のキットは、少なくとも2つのグリコデリンモノクローナル抗体、特にはモノクローナル抗体2G7.1および8G8.3または3A10.25のいずれかを含む。特定のアッセイ形式または方法論に限定されることを意図するものではないが、下の実施例の項に記載されるように、グリコデリンモノクローナル抗体2G7.1および8G8.3または3A10.25のいずれかは、精製したグリコデリンおよび卵巣癌試料の検出のための、特に有用なグリコデリンモノクローナル抗体の組合せであることが示された。特には、2G7.1抗体が捕捉抗体として働き、8G8.3または3A10.25のいずれかの抗体が検出抗体として働くサンドイッチELISA法において、精製したグリコデリンおよび卵巣癌試料の検出のための、特に有用なグリコデリンモノクローナル抗体の組合せであることが示された。当業者は、捕捉および検出抗体をサンドイッチELISA形式において「交換する」ことができること、または、本明細書に開示される1以上のグリコデリンモノクローナル抗体に加えて、その他の抗体を、本発明の方法およびキットで使用することができることを理解する。例えば、卵巣癌において選択的に過剰発現するその他のバイオマーカーに対する抗体としては、限定されるものではないが、HE4、CA125、MMP−7、Muc−1、PAI−1、CTHRC1、インヒビン、PLAU−R、プロラクチン、KLK−10、KLK−6、およびSLPI、α−1アンチトリプシン(AAT)、Imp−2、FLJ10546、FLJ23499、MGC13057、SPON1、S100A1、SLC39A4、TACSTD2、MBG2、HETKL27(MAL2)、Cox−1、プロテインキナーゼC−イオタ、カドヘリン−6、ADPRT、マトリプターゼ、葉酸受容体、クローディン4、メソテリン、アクアポリン5、コフィリン1、ゲルゾリン、クラスタリン、αテトラネクチン、ビトロネクチン、妊娠関連血漿タンパク質A(PAPP−A)、フォリスタチン、B7−H4、YKL−40、クローディン3、エラフィン、およびKOPが挙げられる。特に目的のバイオマーカーとしては、限定されるものではないが、HE4、CA125、MMP−7、Muc−1、PAI−1、CTHRC1、インヒビン、PLAU−R、プロラクチン、KLK−10、KLK−6、SLPI、およびα−1アンチトリプシンが挙げられる。複数の抗体が本発明のキットに存在する場合、各々の抗体は、個別の試薬として提供されてもよいし、あるいは、目的の抗体を全て含む抗体カクテルとして提供されてもよい。
【0072】
卵巣癌を診断するためおよび卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別するための上記の方法、抗体、およびキットを、本明細書において多少詳細に記載したが、当業者は、開示される方法および組成物を、グリコデリンが過剰発現しているその他の癌または疾患にも同様に適用することができ得ることを理解する。当業者はさらに、本発明の方法を人員によって手作業でまたは自動化されたやり方で実行することができ得ることを理解する。よって、試料調製、抗体インキュベーション、および抗体結合の検出のステップは自動化することができる。
【0073】
冠詞の「a」および「an」は、本明細書において、1以上の(すなわち、少なくとも1つの)その冠詞の文法上の目的語をさす。例として、「要素(an element)」とは、1以上の要素を意味する。
【0074】
本明細書を通して、「含む(comprising)」または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変化形は、述べられた要素、整数または段階、あるいは要素の群、複数の整数または段階が含まれることを意味するが、任意のその他の要素、整数または段階、あるいは要素の群、複数の整数または段階を排除することを意味するものではないと理解される。
【0075】
以下の実施例は、説明のために提供されるものであって限定するためのものではない。
【実施例】
【0076】
実施例1:グリコデリンに対するマウスモノクローナル抗体の産生
組換え抗原による免疫化戦略を行って、グリコデリンに特異的なマウスモノクローナル抗体を作製した。マウスグリコデリンモノクローナル抗体を産生するために使用した免疫原ポリペプチドは、小型のポリペプチドリンカーおよびカルボキシ末端ヘキサヒスチジンタグに融合したグリコデリン配列(配列番号1)を含んでいた。グリコデリン免疫原ポリペプチドの配列は、配列番号4に記載される。免疫原グリコデリンポリペプチドを、エプスタイン・バー核抗原をコードする核酸を含むHEK(ヒト胚腎臓)細胞株で過剰発現させ、ヘキサヒスチジンタグを付けたグリコデリンタンパク質を、Ni+2イオン(Ni−NTA、キアゲン社)を荷電したキレート化アガロースを用いて媒体画分から精製した。
【0077】
次に、マウスを精製グリコデリンタンパク質で免疫化し、基本的に、Kilpatrick et al(1997)Hybridoma 16(4):381−389;Wring et al.(1999)J.Pharm.Biomed.Anal.19(5):695−707;およびBynum et al.(1999)Hybridoma 18(5):407−411に記載される反復性複数部位免疫化技術(RIMMS)を行うことによるか、または当分野で周知の従来の免疫化により、リンパ球融合を達成した。抗体産生細胞を免疫化マウスから単離し、骨髄腫細胞と融合させてモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを形成した。組換えグリコデリンタンパク質ならびに当分野で周知の通例のウエスタンブロット技法を用いて、ハイブリドーマ上清の一次スクリーニングを行ってグリコデリンとの結合を確認した。その上、親和性アッセイを行って特異的グリコデリン抗体の選択を強化した。本発明のグリコデリン抗体は、限界希釈クローニングにより実質的に均一な抗体集団から得られるので、最適にはモノクローナル抗体である。
【0078】
目的の特異的グリコデリンモノクローナル抗体を、組換えプロテインAコート樹脂(MABSELECT SURE(登録商標)、GEヘルスケア社)を用いて、ハイブリドーマ細胞の培地上清から選択し精製した。精製された抗体をさらなる特性決定に供した。グリコデリンモノクローナル抗体2G7.1、8G8.3、および3A10.25は、IgGアイソタイプであると決定された。これらの抗体のエピトープマッピングの詳細を下に記載する。
【0079】
実施例2:エピトープマッピングの一般的方法
[一般的アプローチ]
エピトープマッピングを、基本的に米国特許出願公開第2006/0252106号に記載されるように実施して、特定のモノクローナル抗体によって認識される抗原タンパク質内の線状もしくは非線状の不連続アミノ酸配列(すなわち、例えば、グリコデリン中のエピトープ)を同定した。エピトープマッピングのための一般的アプローチは、一般に異種発現系における、全長タンパク質、ならびにそのタンパク質の様々な断片(すなわち、切断型)の発現を必要とする。次にこれらの様々な組換えタンパク質を用いて、特異的モノクローナル抗体が標的タンパク質の1以上の切断型と結合する能力があるかどうかを判定した。反復切断を用い、重複するアミノ酸領域を含む組換えタンパク質を生成することにより、調査中のモノクローナル抗体によって認識される領域を特定することが可能である。ウエスタンブロット解析、ELISA、または免疫沈降を用いて、調査中の特異的モノクローナル抗体が1以上の組換えタンパク質断片と結合する能力があるかどうかを決定する。このアプローチは、最終的にエピトープを含むペプチド領域を同定することができ、場合によっては、エピトープを正確に約5〜15アミノ酸配列に絞り込むことができる。エピトープは、約5〜15アミノ酸長の連続する線状配列、非線状(例えば、ペプチド鎖の異なる部分からなるタンパク質の部位との抗体結合により不連続)、または線状と非線状の両方のエピトープであってもよい。
【0080】
エピトープを同定するための体系的技法は、当分野で公知であり、1つの一般的アプローチでは、一般に異種発現系(例えば、RTS System、「Rapid Translation System」ロシュ・アプライド・サイエンス社)での、全長タンパク質ならびにそのタンパク質の様々な断片(すなわち切断型)の発現が必要とされる。次に、N末端タンパク質(例えば、GFP)と融合した組換えタンパク質を用いて、特異的モノクローナル抗体がグリコデリンタンパク質の1以上の切断型と結合する能力があるかどうかを決定する。反復切断を用い、重複するアミノ酸領域を含む組換えタンパク質を生成することにより、かつウエスタンブロット、ELISA、および/または免疫沈降法により、調査中のモノクローナル抗体によって認識される領域を特定することができる。
【0081】
[グリコデリンモノクローナル抗体2G7.1、8G8.3、および3A10.25のエピトープの特性決定]
グリコデリンモノクローナル抗体2G7.1、8G8.3、および3A10.25に対するエピトープマッピングを、基本的に上記の反復プロセスによって実行した。さらなるマッピングは、Pepscan Prestoより利用可能なCLIPS(商標)(足場に化学的に結合した免疫原性ペプチド)技術を用いて実施し、これを用いて高次構造エピトープをマッピングし、この際、複合体タンパク質構造(例えば、二次および三次構造)を模倣し、グリコデリンポリペプチドの非隣接領域を並置して不連続エピトープを再構成する合成足場ペプチドを生成するために様々なグリコデリンペプチドを化学的に結合させた。例えば、Timmerman et al.(2009)Open Vaccine J 2:56−67;Meloen et al.(1997)Epitope mapping by PEPSCAN.In:Immunology Methods Manual,Ed.Iwan Lefkovits,Academic Press,pp 982−988;およびワールドワイドウェブ上で利用可能なPepscan Prestoのウェブサイトpepscanpresto.comを参照されたい。それらの各々は、引用することによりその全文が本明細書の一部をなすものとする。これらの合成足場ペプチドを、イムノアッセイにより各々のモノクローナル抗体との結合について分析した。抗体結合への変異の影響を測定するためにイムノアッセイと組み合わせた、CLIPS(商標)分析で強調された領域のアラニンスキャニング変異誘発(例えば、Cunningham and Wells(1989)Science 244:1081−1085参照)により、8G8.3、3A10.25、および2G7.1と表されるグリコデリンモノクローナル抗体の認識に重要なこれら残基の同定が可能となった。
【0082】
上記の反復プロセスを用いる初期調査により、2G7.1と表されるモノクローナル抗体のエピトープが、ATLLDTDYDNFLFLCLQDTTTPIQSMMCQYL(配列番号3;配列番号1に記載される全長グリコデリンアミノ酸配列の110〜140の残基に対応)と確認された。CLIPS(商標)分析およびアラニンスキャニング変異誘発により、2G7.1抗体とグリコデリンの結合に必要な最も重要な配列がPIQS配列(配列番号5;配列番号1の131〜134残基に対応)であることが示された。その上、RPLP(配列番号6;配列番号1の159〜162の残基に対応)配列およびLMATLKAPL(配列番号7;配列番号1の49〜57の残基に対応)配列も、2G7.1の完全な結合に重要である。このことは、モノクローナル抗体2G7.1は線状エピトープ(配列番号3および配列番号5)を認識する能力があるが、全エピトープは不連続配列を含んでいることを示唆する。
【0083】
8G8.3および3A10.25と表されるグリコデリンモノクローナル抗体に対するエピトープは、高次構造エピトープであると決定された。8G8.3と3A10.25抗体の両方のエピトープは、配列番号1のアミノ酸残基位置84および178に見出される2つのシステイン残基の存在に依存し、そのエピトープはジスルフィド架橋を形成しやすい。さらに、残基LMATLKAPL(配列番号7;配列番号1の49〜57の残基に対応)、RWENNSCVE(配列番号8、配列番号1の78〜86の残基に対応)、PIQS(配列番号5;配列番号1の131〜134の残基に対応)、RPLP(配列番号6;配列番号1の159〜162の残基に対応)、およびKQMEEPCRF(配列番号9、配列番号1の172〜180の残基に対応)により形成される高次構造表面は、8G8.3抗体と3A10.25抗体の両方に対する抗原認識に重要である。注目すべきは、たとえ2G7.1抗体に対するエピトープが8G8.3および3A10.25抗体に対するエピトープと部分的に重複していても、8G8.3抗体も3A10.25抗体も、グリコデリンとの結合について2G7.1抗体と競合しないことである。
【0084】
実施例3:患者血清試料中の卵巣癌におけるグリコデリンを検出するためにグリコデリンモノクローナル抗体2G7.1および8G8.3を利用するサンドイッチELISAアッセイ
サンドイッチELISAイムノアッセイを用いて、卵巣癌患者および卵巣癌のない患者由来の血清中のグリコデリンを検出した。この一連の実験で用いた捕捉抗体、2G7.1グリコデリン抗体を、受動的吸収によりマイクロタイタープレートウェルに結合させた。8G8.3抗体を検出抗体として使用し、抗原−抗体結合の検出のために西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)で標識した。患者血清試料を、基本的に上記のように、サンドイッチELISA法を用いて分析して、この疾患の様々な病期の91名の卵巣癌患者、および卵巣癌に罹患していない89名の「正常」患者の患者コホート由来の血清中のグリコデリンレベルを測定した。具体的には、色素原テトラメチルベンジジン(TMB)を添加し、450nmの光学濃度(OD)を決定した。平均グリコデリン発現レベルから得られる2つの標準偏差の、試料に関するODにより決定される、グリコデリン発現のカットオフ閾値を、58の「正常な」血清試料(すなわち、卵巣癌に罹患していない患者由来)のコホートから得た。閾値を上回るグリコデリン発現レベルを「陽性」と見なし、一方閾値レベルより低いものを「陰性」と考えた。この試験コホートはさらに、60の卵巣癌血清試料(病期I、II、III、およびIV)および18の良性血清試料(すなわち、非悪性、非癌性骨盤腔内腫瘤を有する患者由来の血清試料)から構成された。
【0085】
[結果]
全体に、サンドイッチELISAを用いるグリコデリン発現の分析は、卵巣癌試料を正常な非癌性試料と区別する際に92%という高い特異性および50%の感受性を示した。特に卵巣癌の各々の病期のうちで、この方法は、37.5%(I期;3/8)、38.9%(II期;7/18)、80%(III期;12/15)、および40%(IV期;2/5)の感受性をもたらした。
【0086】
実施例4:サンドイッチELISA形式で使用するためのモノクローナルグリコデリン抗体の好ましい対を同定するためのアッセイ
分析を行って、サンドイッチELISAイムノアッセイで使用するために好ましいグリコデリンモノクローナル抗体の相補対形成を同定した。具体的には、2G7.1グリコデリン抗体を受動的吸収によりマイクロタイタープレートウェルに結合させ、この一連の実験で捕捉抗体として用いた。8G8.3および3A10.25、ならびに、例えば「クローンA」とのみ表されるその他のグリコデリン抗体を含む様々なグリコデリン抗体を、サンドイッチELISAにおいて検出抗体として、様々な量の組換えもしくは天然グリコデリンを1%BSA/PBS/TWEEN(登録商標)−20を含むバッファー中の「標的」抗原として用いてアッセイした。各々の検出抗体をHRPで標識し、色素原TMBを、450nmのODを測定することによる抗原−抗体結合の検出に用いた。組換えグリコデリンおよび天然のグリコデリンによるサンドイッチELISAで得られた結果を、それぞれ図1Aおよび1Bに示す。これらの図は、2G7.1グリコデリン抗体を捕捉抗体として使用し、8G8.3または3A10.25抗体のいずれかを検出抗体として使用することにより、組換えおよび天然のグリコデリンを用量依存的な様式で検出することに成功したことを示す。分析したその他のグリコデリン検出抗体で観察したシグナルと比較して、8G8.3または3A10.25抗体のいずれかで得られるシグナルはより高いシグナルで、天然のグリコデリンタンパク質を検出した。図1Bを参照されたい。
【0087】
実施例5:より正確に卵巣癌診断するためのCA125およびグリコデリン発現の複合評価
150の良性試料、76の卵巣癌試料、17のボーダーライン試料、および11の干渉する病理試料からなる血清試料のコホートを、当分野で公知の従来のCA125分析と、本明細書に記載されるグリコデリン抗体を利用するサンドイッチELISAの両方によって分析した。サンドイッチELISA法は、基本的に上記の実施例3に記載される通り実施した。CA125検査単独と比較して、グリコデリン抗体サンドイッチELISAによって、55歳を上回る女性において予測値の増加が観察された。具体的には、予測値の増加は、CA125検査単独により陰性と分類された30名の患者のうち、卵巣癌を有すると正確に確認された9名の患者に相当する。つまり、本明細書に開示されるグリコデリン抗体は、CA125血清レベルのみの評価により陰性と見なされた一定の割合の患者を正確に識別することができた(すなわち、グリコデリン抗体は、CA125検査単独による「偽陰性」の数の減少を助けた)。これらの実験は、グリコデリンの検出により、卵巣癌を有する患者をこの疾患のより早期での識別が大幅に改善され、疾患の臨床管理が改善され得ることを示す。
【0088】
本明細書において言及される全ての刊行物および特許出願は、本発明の属する当業者の水準を示す。全ての刊行物および特許出願は、各々の個々の刊行物または特許出願が引用することにより具体的かつ個別に示されている場合と同じ程度まで、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0089】
前述の発明は、理解を明瞭にするために説明および例として多少詳細に説明されているが、添付される特許請求の範囲内で特定の変化および変更を行うことができることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコデリンと特異的に結合する能力のあるモノクローナル抗体であって、該抗体が、
(a)特許寄託番号PTA−9684としてATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞株2G7.1により産生されたモノクローナル抗体と、
(b)特許寄託番号PTA−9685としてATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞株8G8.3により産生されたモノクローナル抗体と、
(c)特許寄託番号PTA−9686としてATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞株3A10.25により産生されたモノクローナル抗体と、
(d)該ハイブリドーマ細胞株2G7.1、8G8.3、または3A10.25により産生された該モノクローナル抗体の結合特性を有するモノクローナル抗体と、
(e)該ハイブリドーマ細胞株2G7.1、8G8.3、または3A10.25により産生された該モノクローナル抗体と結合する能力のあるエピトープに結合するモノクローナル抗体と、
(f)配列番号5に記載されたグリコデリンエピトープ配列に結合するモノクローナル抗体と、
(g)競合的結合アッセイにおいて該ハイブリドーマ細胞株2G7.1、8G8.3、または3A10.25により産生された該モノクローナル抗体と競合するモノクローナル抗体と、
(h)(a)〜(g)のモノクローナル抗体の抗原結合性断片であり、該断片がグリコデリンと特異的に結合する能力を保持する、モノクローナル抗体と
からなる群から選択される、モノクローナル抗体。
【請求項2】
前記モノクローナル抗体が、配列番号3に記載されたグリコデリンエピトープ配列に結合する、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
前記モノクローナル抗体が、配列番号1の131〜134の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号5に記載された配列と、配列番号1の159〜162の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号6に記載された配列と、配列番号1の49〜57の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号7に記載された配列とを含むグリコデリンエピトープ配列に結合する、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
特許寄託番号PTA−9684としてATCCに寄託された、ハイブリドーマ細胞株2G7.1。
【請求項5】
特許寄託番号PTA−9685としてATCCに寄託された、ハイブリドーマ細胞株8G8.3。
【請求項6】
特許寄託番号PTA−9686としてATCCに寄託された、ハイブリドーマ細胞株3A10.25。
【請求項7】
請求項1に記載のモノクローナル抗体を産生する能力のある、ハイブリドーマ細胞株。
【請求項8】
患者において卵巣癌を診断するため、または卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別するためのキットであって、
a)第1のグリコデリンモノクローナル抗体である、固相支持体上に固定化されている捕捉抗体と、
b)検出可能な物質で標識されている第2のグリコデリンモノクローナル抗体である検出抗体と
を含む、キット。
【請求項9】
前記捕捉抗体が、特許寄託番号PTA−9684としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株2G7.1により産生された前記モノクローナル抗体であり、かつ、前記検出抗体が、特許寄託番号PTA−9685としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株8G8.3により産生された前記モノクローナル抗体であるか、または特許寄託番号PTA−9686としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株3A10.25により産生された前記モノクローナル抗体である、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
前記検出抗体が、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、ストレプトアビジン/ビオチン、アビジン/ビオチン、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、ルミノール、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン、放射性物質、ジゴキシゲニン、および量子ドットからなる群から選択される検出可能な物質で標識されている、請求項8に記載のキット。
【請求項11】
前記固相支持体が、細胞培養プレート、マイクロタイター細胞培養プレートウェル、ビーズ、マグネチックマイクロビーズ、キュベット、およびナノ粒子からなる群から選択される、請求項8に記載のキット。
【請求項12】
請求項1に記載の少なくとも1つのモノクローナル抗体を含む、卵巣癌を診断するためか、または卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別するためのキット。
【請求項13】
前記モノクローナル抗体が、特許寄託番号PTA−9684としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株2G7.1により産生された前記モノクローナル抗体、特許寄託番号PTA−9685としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株8G8.3により産生された前記モノクローナル抗体、または特許寄託番号PTA−9686としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株3A10.25により産生された前記モノクローナル抗体である、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
特許寄託番号PTA−9684としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株2G7.1により産生された前記モノクローナル抗体と、特許寄託番号PTA−9685としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株8G8.3により産生された前記モノクローナル抗体と、特許寄託番号PTA−9686としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株3A10.25により産生された前記モノクローナル抗体とからなる群から選択される少なくとも2つの抗体を含む、請求項12に記載のキット。
【請求項15】
特許寄託番号PTA−9684としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株2G7.1により産生された前記モノクローナル抗体と、特許寄託番号PTA−9685としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株8G8.3により産生された前記モノクローナル抗体と、特許寄託番号PTA−9686としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株3A10.25により産生された前記モノクローナル抗体とからなる群から選択される少なくとも3つの抗体を含む、請求項12に記載のキット。
【請求項16】
陽性対照試料をさらに含む、請求項8〜15のいずれか一項に記載のキット。
【請求項17】
陰性対照試料をさらに含む、請求項8〜15のいずれか一項に記載のキット。
【請求項18】
抗体−抗原結合の検出のための化学物質をさらに含む、請求項8〜15のいずれか一項に記載のキット。
【請求項19】
使用説明書をさらに含む、請求項8〜15のいずれか一項に記載のキット。
【請求項20】
患者において卵巣癌を診断するため、または卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別するための方法であって、
(a)該患者由来の身体試料を固相支持体上に固定化されているグリコデリン捕捉抗体に接触させるステップであって、該試料の一部分が該固相支持体上の該捕捉抗体に結合されるステップと、
(b)該固相支持体に結合した該試料をグリコデリン検出抗体に接触させるステップと、
(c)該試料においてグリコデリンの発現を検出するステップであって、グリコデリンの過剰発現が、該患者が卵巣癌を有する可能性が高いことを示すステップと
を含む、方法。
【請求項21】
前記グリコデリン捕捉抗体が、特許寄託番号PTA−9684としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株2G7.1により産生された前記モノクローナル抗体であり、かつ、前記グリコデリン検出抗体が、特許寄託番号PTA−9685としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株8G8.3により産生された前記モノクローナル抗体であるか、または特許寄託番号PTA−9686としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株3A10.25により産生された前記モノクローナル抗体である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記患者身体試料中のグリコデリンタンパク質の発現レベルを閾値レベルと比較してグリコデリンの過剰発現のレベルを確立するステップをさらに含み、該閾値レベルは、卵巣癌を有さない患者集団由来の試料中のグリコデリンタンパク質の発現レベルを測定することにより得られる、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記閾値レベルは、卵巣癌を有さない患者集団由来の試料から得た平均グリコデリン発現レベルの上または下の2つの標準偏差内のグリコデリン発現レベルである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
卵巣癌において選択的に過剰発現する少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの発現を検出するステップをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーが、HE4、CA125、MMP−7、Muc−1、PAI−1、CTHRC1、インヒビン、PLAU−R、プロラクチン、KLK−10、KLK−6、およびSLPI、α−1アンチトリプシン、Imp−2、FLJ10546、FLJ23499、MGC13057、SPON1、S100A1、SLC39A4、TACSTD2、MBG2、HETKL27(MAL2)、Cox−1、プロテインキナーゼC−イオタ、カドヘリン−6、ADPRT、マトリプターゼ、葉酸受容体、クローディン4、メソテリン、アクアポリン5、コフィリン1、ゲルゾリン、クラスタリン、αテトラネクチン、ビトロネクチン、妊娠関連血漿タンパク質A(PAPP−A)、フォリスタチン、B7−H4、YKL−40、クローディン3、エラフィン、およびKOPからなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーが、HE4、CA125、MMP−7、Muc−1、PAI−1、CTHRC1、インヒビン、PLAU−R、プロラクチン、KLK−10、KLK−6、SLPI、およびα−1アンチトリプシンからなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記身体試料が、血液または血清試料である、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
患者において卵巣癌を診断するため、または卵巣癌を有する可能性の高い患者を識別するための方法であって、
(a)患者由来の身体試料を、グリコデリンに選択的に結合する少なくとも1つの抗体に接触させるステップと、
(b)該抗体のグリコデリンへの結合を検出して、グリコデリンが該試料中で過剰発現しているかどうかを決定するステップであって、グリコデリンの過剰発現が卵巣癌を示す、ステップと
を含む、方法。
【請求項29】
前記試料を、グリコデリンに選択的に結合する少なくとも第1および第2の抗体に接触させる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
グリコデリンに選択的に結合する前記少なくとも1つの抗体が、特許寄託番号PTA−9684としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株2G7.1により産生された前記モノクローナル抗体と、特許寄託番号PTA−9685としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株8G8.3により産生された前記モノクローナル抗体と、特許寄託番号PTA−9686としてATCCに寄託された前記ハイブリドーマ細胞株3A10.25により産生された前記モノクローナル抗体とからなる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記試料を、卵巣癌において選択的に過剰発現するさらなるバイオマーカーに選択的に結合する少なくとも1つの抗体に接触させるステップをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記さらなるバイオマーカーが、HE4、CA125、MMP−7、Muc−1、PAI−1、CTHRC1、インヒビン、PLAU−R、プロラクチン、KLK−10、KLK−6、およびSLPI、α−1アンチトリプシン、Imp−2、FLJ10546、FLJ23499、MGC13057、SPON1、S100A1、SLC39A4、TACSTD2、MBG2、HETKL27(MAL2)、Cox−1、プロテインキナーゼC−イオタ、カドヘリン−6、ADPRT、マトリプターゼ、葉酸受容体、クローディン4、メソテリン、アクアポリン5、コフィリン1、ゲルゾリン、クラスタリン、αテトラネクチン、ビトロネクチン、妊娠関連血漿タンパク質A(PAPP−A)、フォリスタチン、B7−H4、YKL−40、クローディン3、エラフィン、およびKOPからなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記1つのさらなるバイオマーカーが、HE4、CA125、MMP−7、Muc−1、PAI−1、CTHRC1、インヒビン、PLAU−R、プロラクチン、KLK−10、KLK−6、SLPI、およびα−1アンチトリプシンからなる群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
グリコデリンモノクローナル抗体を結合するためのエピトープからなる単離されたポリペプチドであって、該エピトープが、配列番号5に記載されたアミノ酸配列を含む、単離されたポリペプチド。
【請求項35】
前記エピトープが、
(a)配列番号3に記載されたアミノ酸配列と、
(b)配列番号3と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記ポリペプチドは抗原活性を有する、アミノ酸配列と
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項34に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項36】
前記エピトープが、配列番号6および配列番号7に記載されたアミノ酸配列をさらに含み、前記エピトープが、配列番号1の131〜134の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号5と、配列番号1の159〜162の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号6と、配列番号1の49〜57の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号7とを含み、前記ポリペプチドが抗原活性を有する、請求項34に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項37】
グリコデリンモノクローナル抗体を結合するためのエピトープからなるポリペプチドをコードする単離された核酸分子であって、前記エピトープが、配列番号5に記載されたアミノ酸配列を含む、単離された核酸分子。
【請求項38】
前記エピトープが、
(a)配列番号3に記載されたアミノ酸配列と、
(b)配列番号3と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記ポリペプチドが抗原活性を有する、アミノ酸配列と
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項37に記載の単離された核酸分子。
【請求項39】
前記エピトープが、配列番号6および配列番号7に記載されたアミノ酸配列をさらに含み、前記エピトープが、配列番号1の131〜134の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号5と、配列番号1の159〜162の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号6と、配列番号1の49〜57の位置に対応するアミノ酸残基位置にある配列番号7とを含み、前記ポリペプチドが抗原活性を有する、請求項37に記載の単離された核酸分子。
【請求項40】
請求項34に記載のポリペプチドで動物を免疫化することを含む、グリコデリン抗体を産生するための方法。
【請求項41】
(a)免疫応答を誘発する条件下で、請求項34に記載のポリペプチドで動物を免疫化するステップと、
(b)該動物から抗体産生細胞を単離するステップと、
(c)該抗体産生細胞を培養中の不死化細胞と融合させてモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞を形成するステップと、
(d)該ハイブリドーマ細胞を培養するステップと、
(e)モノクローナル抗体を培養から単離するステップと
を含む、グリコデリンモノクローナル抗体を産生するための方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−524521(P2012−524521A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553128(P2011−553128)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/026319
【国際公開番号】WO2010/102177
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(502118993)トライパス イメージング インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】