グリシン捕捉性アンタゴニストを用いる拒絶性および認知性精神分裂病症候群の処置
【課題】解離性麻酔薬または精神刺激薬などの薬物中毒と関連する重度のうつ病、躁うつ病、アルツハイマー病または外傷後ストレス症などの精神病に対して有用な処置法を提供する。
【解決手段】精神病と精神分裂病の症候群の処置のために、該症候群で患う患者に対して、NMDA(N−メチル−D−アスパルテート)レセプター仲介神経伝達を促進するのに十分な量のグリシン捕捉アンタゴニスト、更には抗精神病薬である神経弛緩薬が投与される。
【解決手段】精神病と精神分裂病の症候群の処置のために、該症候群で患う患者に対して、NMDA(N−メチル−D−アスパルテート)レセプター仲介神経伝達を促進するのに十分な量のグリシン捕捉アンタゴニスト、更には抗精神病薬である神経弛緩薬が投与される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は1995年12月7日に出願された仮出願60/008,361号の利益を権利請求する。
本発明は、グリシン捕捉性アンタゴニストを用いる拒絶性および認知性精神分裂病症候群の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
過去30年間にわたり、ドーパミン仮説は精神分裂病の主要な神経化学モデルとなっている。ドーパミン仮説は、アンフェタミン様のドーパミン放出薬が精神分裂病に非常に類似した精神異常状態を誘発するという知見およびドーパミンレセプターのブロック剤(例えば、クロルプロマジン、ハロペリドール等)が精神分裂病の臨床的処置において有用であるという知見に基づくものである。ドーパミン仮説は、精神分裂病症候群が脳のドーパミン作用性症候群の機能高進を主として脳の中間縁と中間皮質領域において伝達するということを仮定する。しかしながら、この仮説は発見的な価値はあるが、精神分裂病の臨床的処置への適用にはいくつかの制約がある。
【0003】
第一に、アンフェタミン精神病は従命自動性精神分裂病症候群(例えば、機能高進、幻覚等)に対してのみ的確なモデルとなる。これに対して、アンフェタミンの投与によっては、精神分裂病においてみられる症状に類似する機能障害または拒絶性症候群(例えば、鈍感感情、情緒的自閉症等)は進行しない。ドーパミンのブロック剤を用いる最適な処置にもかかわらず、精神分裂病患者の20〜50%が顕著な拒絶性(negative)症候と思考障害を示し続けるということは、新たな処置が必要なことを示す。第二に、大部分の精神分裂病患者においては、ドーパミン作用性神経伝達の明白な障害はみられない。従って、ドーパミン作用性機能高進が存在する範囲ではこの仮説は他の神経伝達系におけるより基本的な障害に対しては二次的なものとなるかもしれない。症候を調整しながら抗ドーパミン作用性処置をおこなうことによってはその根底を成す精神病理学に対処することはできない。
【0004】
新しい処置法を開発する潜在的な方向性は1950年代の末期になってフェンシクリジン(PCP; エンジェルダスト)の開発によって与えられるようになった。PCPは最初は一般的な麻酔薬として開発されたものである。最初の臨床的試験においては、PCPと類縁薬剤(例えば、ケタミン)が精神分裂病と非常に類似した精神病性症候群を誘発することが見出された。アンフェタミン精神病とは対照的に、PCP精神病は拒絶性および従命自動性精神分裂病症候群に包含される。さらに、PCPは精神分裂病にみられるタイプの機能障害を再度もたらすという特徴がある。PCPで誘発される精神病の根底を成すメカニズムは1979年に脳のPCPレセプターに関する知見が最初に得られるまでほとんど未解決であった。
【0005】
1980年代の初期におけるその後の研究により、PCPレセプターがN−メチル−D−アスパルテート(NMDA)型のグルタメートレセプターに関連するイオン通路内に位置する結合部位を構成することおよびPCPとその類縁薬剤がNMDAレセプター仲介神経伝達をブロックすることによって精神病発現薬的効果をもたらすことが明らかにされた。これら知見に基づいて次のことが提案された(非特許文献14および5参照)。即ち、NMDAレセプター仲介神経伝達の内因性機能障害または調節障害は精神分裂病の病因に著しく寄与し、特に、抗神経弛緩薬的な拒絶性および認知性症候群の発現をもたらす。さらに、NMDAレセプター仲介神経伝達を促進する薬剤を投与することは精神分裂病の抗神経弛緩薬的な徴候と症候の処置に有効であるという可能性も提案された。
【0006】
1987年にグリシン結合部位が発見される以前においては、その後で本発明者によっておこなわれた投与量と同様に多量のグリシンをげっ歯類動物に投与することによってPCPにより誘発される行動様式とは反対の効果がもたらされることが判明したが(非特許文献13参照)、このことは行動アッセイがNMDA促進剤の抗精神病効果を敏感に反映することを示すものである。
【0007】
NMDAレセプターは皮質における主要な興奮神経伝達物質として作用するグルタメートによって主として活性化される。しかしながら、外因性グルタメートは次の理由から効果的に投与することができない。即ち、(1)グルタメートは血液脳関門を通過できず、また、(2)グルタメートはNMDAレセプター以外のいくつかのタイプのレセプターを活性化し、さらに(3)血液脳関門を通過するグルタメート類似体による活性化は皮質ニューロンを過度に興奮させてニューロンの変性(興奮毒性)をもたらす。NMDAレセプター仲介神経伝達を促進させる別の可能性のある試みは1987年にグリシンがNMDAレセプターコンプレックスにおけるアロステリックモジュレーター(allosteric modulator)として作用という知見が得られたことによってなされた(非特許文献7参照)。
【0008】
この知見に基づいて、外因性投与グリシンがNMDAレセプター仲介増強作用を選択的に促進するので、顕著な抗神経弛緩薬症候学的病状を示す精神分裂病患者の治療に臨床的改良がもたらされた。グリシンの使用には次の制約があった。即ち、(1)外因性投与グリシンがどの程度までCNSを透過するのか不明であり、また、(2)NMDAレセプター仲介神経伝達のグリシンによる調節が生体内において生理学的にどの程度まで関連性があるのか不明であり、さらに(3)NMDAレセプター仲介神経伝達を実際にどの程度まで促進して臨床的改良をもたらすか不明であった。
【0009】
1987年にグリシン結合部位が発見された後、いくつかの小規模な臨床的試みがなされて有用な臨床的効果が提案されたが、標準的な統計的試みによってその効力は証明されなかった。1988年にワジリは9ケ月にわたるオープン試験において11人の精神分裂病患者にグリシンを5〜25g/日投与した場合の結果を発表した(非特許文献12参照)。この結果によれば11人のうちの4人の患者においては改善が認められたが、この結果についての統計的分析または対照群のデータは得られていない。1990年にコスタらは5週間にわたるオープン試験において6人の患者にグリシンを15g/日投与した結果を発表した(非特許文献2参照)。
【0010】
この結果によれば、簡易精神医学評価基準(BPRS)によって評価した症候の減少が30%以上の従命自動性(positive)応答を示したのは2人の患者であった。しかしながら、全体的な統計学的分析はおこなわれておらず、また、これらの発表されたデータに基づく分析によっても統計学的に有意な効果は得られていないことが判明している(t=1.89、p=0.12)。二重盲検法により18人の患者にグリシンまたはプラセボを15g/日の割合で投与するその後の研究(非特許文献19参照)によれば、臨床グローバルインプレッション(CGI)において有意な改善がみられたが、BPRSまたは拒絶性症候の評価のために特別に開発された基準である拒絶性症候用スケージュール(SANS)においては有意な改善効果はみられなかった。
【0011】
これらの研究者はグリシンの効力を証明するためにはより多量のグリシンを投与することが必要であると結論づけているが、これを追跡する研究はおこなっていない。1989年にロッセら(非特許文献11参照)は4日〜8週間のオープン試験において慢性の精神分裂病患者にグリシンを10.8g/日の割合で投与したが全体的な臨床的効力はみられなかった。これらの研究者は、該治療法はグリシンのCNS透過能が低いことによって制約されると結論づけている。1994年までグリシンの投与量を25g/日よりも多くする臨床的研究はおこなわれておらず、また、グリシンを高投与量で使用することの実用性については明らかにされていなかった。
【0012】
高投与量のグリシンを用いる最初の研究は1989年の8月に開始され、これには本発明者による研究も含まれる。この研究においては、抗精神弛緩薬的症候を示す14人の慢性精神分裂病患者に二重盲プラセボ制御法によってグリシンを0.4g/kg/日(約30g/日)の割合で投与し、従命自動性および拒絶性症候基準(PANSS)によって従命自動性および拒絶性症候をモニターした。この研究により、グリシンを高投与量で投与しても十分に許容されることが明らかになった。
【0013】
さらに、グリシンを投与した患者の場合には拒絶性症候において著しい改善がみられたが、プラセボを投与した患者の場合には類似の改善効果はみられなかったという興味のある予備的結果が得られた。しかしながら、この研究においては、グリシン投与群とプラセボ投与群の間に有意な差異がみられなかったという未解決な点が残されていた。この研究の結果はジャビットらによって1994年8月に発表された(非特許文献6参照)。
【0014】
本発明者らは同時係属中の特許出願において、グリシンの過剰投与(>30g/日)による処置がNMDAレセプター仲介神経伝達の促進並びに精神病に関連する病気および薬物中毒に関連する精神病、特に精神分裂病の処置に有効であることを明らかにした。このことは最近おこなった2つの研究によって立証された。ライダーマンらによる第1の研究においては(非特許文献9参照)、ブロンクス精神病センターにおいてグリシンを前記のような過剰量(30g/日)投与した研究に関与した5人の精神分裂病患者にグリシンを60g/日の割合で投与した再挑戦処置をおこなった。グリシンの濃度は、SANSとPANSSによって評価する従命自動性および拒絶性症候と共にモニターした。グリシンを60g/日の割合で投与する処置により血清中のグリシンの濃度は6.3倍に増加した。
【0015】
血清中のグリシン濃度のこのような増加は1995年にドゥソウザらによって明らかにされており(非特許文献3参照)、該増加はCNSグリシン濃度の約2倍となる。従って、従来の研究において用いられた過剰投与(即ち、>30g/日)はCNSグリシン濃度に著しい影響をもたらすためには必要である。グリシンを60g/日で投与する処理中においては顕著な副作用は認められなかった。従って、この研究は高投与量グリシンによる臨床的処置の実用性に関する最初の証左である。さらに、少数の患者の場合にはSANS拒絶性症候に関して著しい改善効果がみられ(<0.05)、また、PANSSに関しても著しい改善傾向がみられたことはグリシンを過剰に投与することの潜在的な効力を示すものである。
【0016】
最近、おこなわれた第2の研究によれば、抗精神弛緩薬的な拒絶性症候の処置においてグリシンを60g/日の割合で投与することの有効性に関してより明確な証左が得られた。この研究は先のブロンクス精神病センターの精神分裂病研究員であるウリ・ヘレスコ−レビー博士と本発明者がイスラエルのサラー・ヘルツォグ病院において本発明者によって開発されたプロトコルに従って共同しておこなった。患者は二重盲クロスオーバー法によりグリシンまたはプラセボを60g/日の割合で投与することによって処置した。最初の11人の患者から得られた結果を分析した。
【0017】
これらの結果によれば、精神分裂病患者におけるPANSS拒絶性症候に関しては、グリシン処置段階中の方がプラセボ処置段階中よりも著しい低減効果がみられることが明らかになった。従って、この研究は高投与量グリシン処置の効力に関する二重盲プラセボ制御の最初の証左を提供するものである。精神病理学と認知性機能を含む精神分裂病症候学のその他の点においても著しい改善がみられた。処置したいずれの患者にも著しい副作用はみられなかった。
【0018】
グリシンを経口投与することによる処置が精神分裂病に関して有意な臨床的利点を有するという思想は先行文献において議論されているが、高投与量グリシンによる処置が安全で、実用的で、しかも有効であるという明確な証左は前述の最近おこなわれた2つの研究(BPCとイスラエルにおける研究)によって初めて明らかにされた。
【0019】
精神分裂病患者の50%までが神経弛緩薬を投与するその後の処置においても著しい拒絶性および認知性症候を示した。新しく開発された薬剤、例えば、クロザピンおよびリスペリドンは標準的な神経弛緩薬に比べてある程度改善された効力を示す。しかしながら、この種の薬剤の開発にもかかわらず、著しい数の精神分裂病患者が長期の入院生活を余儀なくさせられている。グリシンを30g/日またはそれよりも多く投与することによるこれらの患者の処置は著しい臨床的改善効果をもたらすので、利用可能なその他の薬剤投与法により現在のところ目標とされていない臨床的要請に応えることが可能である。
【0020】
グリシンまたはグリシン前駆体として投与さたときに全CNSグリシン濃度の増加をもたらす薬剤もしくはNMDAレセプターコンプレックスのグリシン部位においてグリシンと置換する薬剤(例えば、グリシナミド、スレオニンおよびD−セリン)を精神病患者、例えば、精神分裂病患者に30g/日よりも高い割合で経口投与することによって、従命自動性症候もしくは興奮に影響を及ぼすことなく拒絶性症候、うつ病および認知性機能障害に著しい改善効果をもたらすことが判明した。
【0021】
これらの研究において用いたグリシンの投与量(0.8g/kg/日もしくは約60g/日)は従来のいずれの研究において用いられた投与量よりも実質的に高い量である。さらに、グリシンを0.8g/kg/日の割合で投与することによってもたらされる血清中のグリシン濃度はCNSグリシン濃度の著しい増加に関係していることが知られている濃度の範囲内である。同時係属している上記の特許出願においてクレームされている発明によるグリシンの投与量は0.4〜2.0g/kg/日である。前駆体は脳中の細胞外のグリシン濃度の等価な増大をもたらすのに十分な量投与する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】アンドリーセンN.、Br. J. Psychiatry、第155巻(増補7)、第49頁〜第52頁(1989年):「拒絶性症候の評価基準(SANS);概念的および理論的基礎」
【非特許文献2】コスタJ.、カレドE.、スラメックJ.、バニーW.Jr.、ポトキンS.G.、J.Clin.Psychopharmacol.、第10巻、第71頁〜第72頁(1990年): 「長患いの難治精神分裂病における神経弛緩薬の補助薬としてのグリシンのオープン試験」
【非特許文献3】ドゥソウザD.C.、モリセイK.、アビ−サープD.、ダモンD.、ギルR.、ベンネットA.、クライスタルJ.H.、Schiz.Res.、第15巻、第147頁(1995年):「健康なヒトにおけるCSFアミノ酸、血漿ホルモンおよび行動に対する静脈投与グリシンと経口投与D−シクロセリンの効果:精神分裂病のためのインプリケーション」
【非特許文献4】ハリハランM.、ナガS.、バンノールトT.、J.Chromatogr.、第621巻、第15頁〜第22頁(1993年):「フェニルイソチオシアネートを用いるプレカラム誘導体化を伴う紫外吸収検出を含む高性能液体クロマトグラフィーによる血漿アミノ酸分析の開発に関する系統的アプローチ」
【非特許文献5】ジャビットD.C.、ズキンS.R.、Am.J.Psychiatry、第148巻、第1301頁〜第1308頁(1991年):「精神分裂病のフェンシクリジンモデルにおける最近の進歩」
【非特許文献6】ジャビットD.C.、ジルベルマンI.、ズキンS.R.、ヘレスコ−レビーU.、リンデンマイヤーJ.P.、Am. J. Psychiatry、第151巻、第1234頁〜第1236頁(1994年):「精神分裂病の拒絶性症候のグリシンによる改善」
【非特許文献7】ジョンソンJ.W.、アッシャーP.、Nature、第325巻、第529頁〜第531頁(1987年):「グリシンはマウスの培養脳ニューロンにおけるNMDA応答を促進する」
【非特許文献8】ケイS.R.、フィズバインA.、オプラーL.A.、Schiz. Bull.、第13巻、第261頁〜第276頁(1987年): 「精神分裂病に関する従命自動性および拒絶性症候基準(PANSS)」
【非特許文献9】ライダーマンE.、ジルベルマンI.、ズキンS.R.、クーパーT.B.、ジャビットD.C.、Biol. Psychiatry、第39巻、第213頁〜第215頁(1996年) :「精神分裂病における拒絶性症候と血漿濃度に対する経口高投与量グリシンについての予備的研究」
【非特許文献10】ポトキンS.G.、コスタJ.、ロイS.、スラメクJ.、ジンY.、グラセカラムB.、「精神分裂病の処置におけるグリシン: 新規な抗精神病薬に関する理論と予備的結果」、メルツァーH.Y.編(ニューヨーク、ラベンプレス発行、1992年)、第179頁〜第188頁
【非特許文献11】ロッセR.B.、テウトS.K.、バネー−シュバルツM.、ライフトンM.、スカルセラE.、コーヘンC.G.、ドイチュS.I.、Clin. Neuropharmacol.、第12巻、第416頁〜第424頁(1989年): 「精神分裂病における常套の神経弛緩薬処置に対するグリシン補助治療; オープンラベル予備研究」
【非特許文献12】バジリR.、Biol. Psychiatry、第23巻、第210頁〜第211頁(レター)(1988年): 「精神分裂病のグリシン治療」
【非特許文献13】トスE.、ヴァイスB.、バネーシュバルツM.、ラジャA.、「マウスにおける3−メルカプトプロピオン酸もしくはフェンシクリジンによって誘発される行動変化に対するグリシン誘導体の効果」第11巻、第1頁〜第8頁(1986年)
【非特許文献14】ジャビットD.C.、Hillside Jounal of Clinical Psychiatry、第9巻、第12頁〜第35頁(1987年): 「拒絶性精神分裂病症候学と精神分裂病のPCPモデル」
【非特許文献15】グアステラJ.、ブレカN.、ヴァイグマンC.、レスターH.A.、ディビッドソンN.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第89巻、第7189頁〜第7193頁(1992年): 「ラットの脳の高親和性グリシン輸送体のクローニング、発現および局在」
【非特許文献16】ジャッソンD.M.、ジョハンソンC.、リンドグレンL.M.、ベングツソンA.、Pharmacol. Biochem. Behav.、第48巻、第465頁〜第471頁(1994年): 「ドーパミンレセプターアンタゴニストはラットにおけるアンフェタミン誘発およびフェンシクリジン誘発運動刺激を阻害する」
【非特許文献17】リウQ.R.、ロペソ−コルクエラB.、マンジヤンS.、ネルソンH.、ネルソンN.、J. Biol. Chem.、第268巻、第22802頁〜第22808頁(1993年): 「新規な構造的特徴を有する骨髄と脳に特異的なグリシン輸送体のクローニングと発現」
【非特許文献18】スミスK.E.、ボーデンL.A.、ハルチグP.R.、ブランケクT.、ヴァイスハンクR.L.、Neuron、第8巻、第927頁〜第935頁(1992年): 「グリシン輸送体のクローニングと発現はNMDAレセプターとの共局在化をもたらす」
【非特許文献19】タニイY.、ニシカワT.、ハシモトA.、タカハシK.、J. Pharmacol. Exp. Ther.、第269巻、第1040頁〜第1048頁(1994年):「アラニンとセリンの鏡像体によるフェンシクリジン誘発機能高進の立体選択的拮抗作用」
【非特許文献20】トスE.、ラジャA.、Neurochem.Res.、第11巻、第393頁〜第400頁(1986年): 「マウスにおけるフェンシクリジン誘発機能高進のグリシンによる拮抗作用」
【非特許文献21】ザフラF.、アラゴンC.、オリヴァレスL.、ダンボルトN.C.、ギメネツC.、ストルム−マチセンJ.、J.Neurosci.、第15巻、第3952頁〜第3969頁(1995年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
グリシンおよび/または前駆体の使用における制約は次の通りである。即ち、(1)これらは多量に投与しなければならず、また、(2)外因的に投与されるグリシンが脳内の臨界部位におけるグリシン濃度を増加させる限度を制限できるシステムが脳内に存在する。
本発明が解決しようとする課題は、新規なNMDAレセプター仲介神経伝達を促進させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この出願においては、グリシン捕捉(uptake)アンタゴニスト(グリシン再捕捉アンタゴニストおよび/またはグリシン輸送インヒビターとしても知られている)を用いてNMDAレセプター仲介神経伝達を促進させる方法が開示される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、従命自動性および拒絶性症候基準(PANSS)[ケイらによる文献8(1987年)参照]によって測定した血清グリシン濃度(スキャッタープロット)および拒絶性症候(バープロット)に対するグリシンの経口投与(08g/kg/日)の効果を示す。この測定法は鈍感な情動、感情もしくは虚脱およびスタディー#1からの抽象的思考障害のような測定項目が含まれる。全ての統計量は対両側t−検定(paired two tailed t-test)を用いて処理した[*p<0.1対ベースライン(0週)、**p<0.05対ベースライン、***p<0.01対ベースライン]。
【図2】図2A〜図2Dは、グリシンとプラセボを用いる二重盲補助処置中のスタディー#2からの3−ファクターおよび全PANSS変化評点を示す(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【図3】図3A〜図3Dは、第1処置腕中にグリシンを投与された7人の患者についてのグリシンを用いる二重盲補助処置中およびその後のプラセボ期間中における3−ファクターおよび全PANSS評点を示す。
【図4】図4A〜図4Eは、グリシンとプラセボを用いる二重盲補助処置中のスタディー#2からの5−ファクターPANSS変化評点を示す(*p<0.05、**p<0.01、***<p<0.001)。
【図5】図5は、PCPで誘発される機能高進に対するグリシンの効果を示す。雄のBALB/cマウスを30分の時点でグリシン(0.8g/kg)またはプラセボを用いて前処理した(第1矢印)。PCP(5mg/kg sc.)を50分の時点で投与し(第2矢印)、次いでげっ歯動物用自動化活動チャンバーを用いて歩行数をモニターした。グリシンを用いて前処理したマウスの場合にはPCP誘発機能高進が約25%低減した。
【図6】図6は、PCP誘発機能高進に対するグリシルドデシルアミド(GDA)の効果を示す。雄のBALB/cマウスをGDA(0.1g/kg)またはプラセボを用いて30分の時点で処理した(第1矢印)。PCP(5mg/kg i.p.)を50分の時点で投与し(第2矢印)、次いでげっ歯動物用自動化活動チャンバーを用いて歩行数をモニターした。GDAの投与による前処理によってPCP誘発機能高進は約50%低減した(グリシンの場合にみられた効果と同じパターンである)。
【図7】図7は、図示した数の実験におけるPCP誘発機能高進に対するグリシンとGDAの効果を示す。GDAの投与(0.05g/kg)によって、グリシンを0.8g/kg投与した場合と同じ程度の活動抑制度がみられた。GDAの投与(0.1g/kg)は約2倍有効であった。*p<0.05対PCPのみ(CTL)。***p<0.001対CTL。
【図8】図8は、PCP誘発機能高進に対する数種のGDA類似化合物の効果を示す。これらの化合物の効能の順位はグリシルトリスカデシルアミド(GTA)>グリシルドデシルアミド(GDA)>グリシルウンデシルアミド(GUA)であった。
【図9】図9は、げっ歯動物におけるPCP誘発機能高進に対する抑制効能と脳ホモジェネート中における[3H]グリシン捕捉の抑制効能の関係を示す。PCP誘発機能高進の抑制効能(PCPのみの場合の%)の順位は[3H]グリシン捕捉の抑制効能の順位と同様であった。
【図10】図10は、P2シナプトソームへの[3H]グリシン捕捉およびGDAと既知のグリシン捕捉アンタゴニストであるサルコシンによる抑制の経時変化を示す。図示する点は各々について3回おこなった3つの別々の実験の平均値±s.e.m.を示す。
【図11】図11は、図示するグリシン誘導体による[3H]グリシン捕捉の抑制を示す。図示する点は各々について3回おこなった3つの別々の実験の平均値±s.e.m.を示す。
【図12】図12は、グリシルヘキシルアミド(GHA)またはGDAによる[3H]グリシン捕捉の抑制を示す。150mg/kgまでの投与量ではPCPで誘発される機能高進の拮抗においては効果のないことが知られているGHAは[3H]グリシン捕捉の抑制に関して非常に低い効能を示した。
【図13】図13は、PCPもしくはアンフェタミンで誘発される機能高進に対するGDA(0.05g/kg)による相対抑制を示す。GDAはPCPで誘発される機能高進に対して著しい拮抗作用を示すが(***p=0.001)、アンフェタミンで誘発される機能高進に対して著しい影響をもたらさなかった。PCPとアンフェタミンの不存在下では全活性は<500カウントであった。
【発明を実施するための形態】
【0026】
脳内のグリシン濃度はNMDAレセプターの近傍におけるグリシンを低濃度に維持するグリシン輸送体(AKA捕捉もしくは再捕捉ポンプ)の作用によって調節される(非特許文献15よび18参照)。従って、グリシン捕捉の妨害は、必然的にその全脳もしくは正味の細胞外濃度を増加させることなくNMDAレセプターの近傍におけるグリシン濃度を増加させる。出願人によって脳のホモジュネート中のグリシン捕捉の有効なアンタゴニストであることが最近明らかにされた化合物であるグリシルドデシルアミド(GDA)を用いた研究が最近おこなわれた{ジャビットおよびフルシアンテによる研究報文(印刷中)}。
【0027】
これらの研究においては、げっ歯動物におけるPCP誘発による機能高進に対するGDAの効果、グリシンの効果を受けやすいことが明らかにされたアッセイ系(文献20参照)およびNMDAレセプター仲介神経伝達を促進するその他の薬剤(非特許文献19参照)について検討されている。グリシン(図5)およびGDA(図6)は類似の活性挙動を示し、基本活性に影響を及ぼすことなくPCP誘発による機能高進を抑制する。しかしながら、GDAはグリシンよりも著しく高い活性を示す。即ち、GDAは0.05g/kgの投与量でPCP誘発による機能高進を、グリシンを0.8g/kg、投与した場合と同じ程度まで抑制する(グリシンの投与量は臨床的試験において用いられている投与量である)。その他のGDAに類似する薬剤もPCP誘発による機能高進を抑制し(図8)、その抑制能はグリシン捕捉の阻害能に比例する(図9)。
【0028】
これらの知見はグリシン捕捉アンタゴニストが精神分裂病のPCP精神病様症候(例えば、拒絶性および認知性症候)の処置においてグリシンよりも同等もしくはそれ以上の効果をもたらすということを示す。本発明のこの態様においては、生体外でのグリシン捕捉阻害およびげっ歯動物におけるPCP誘発による機能高進抑制に有効な投与量でグリシン捕捉アンタゴニストを投与してヒトの患者を処置する。脳内には2種のグリシン捕捉系が存在する。即ち、脊髄、脳幹、間脳および網膜において高濃度で発現すると共に嗅球および脳半球に低濃度で発現するGLYT1輸送体並びに脊髄、脳幹および小脳に制限されるGLYT2輸送体である(非特許文献21参照)。さらに、GLYT1輸送体は部分的にはディファレンシャル・スプライシング(differential splicing)によって生ずる多重イソホルム(multiple isoform)中にも存在する(非特許文献17参照)。本発明のこの態様には、GLYT1もしくはGLYT2仲介グリシン捕捉のインヒビター(該輸送体のいずれかのイソホルムのインヒビターを含む)が包含される。
【0029】
本発明のその他の態様においては、次に例示するような他の精神医学的症状と関連する精神病が処置される: 薬物(例えば、フェンサイクリジン、ケタミンおよびその他の解離性麻酔薬、アンフェタミンおよびその他の精神興奮剤並びにコカイン)によって誘発される精神病、情動障害と関係する精神病、一時的な精神的ストレスによる精神病、情動分裂性精神病、精神病NOS、「精神分裂病スペクトル」障害、例えば分裂質もしくは分裂型性格障害、または精神病と関連する病気(例えば、重度のうつ病、躁うつ病的障害、アルツハイマー病および外傷後ストレス症)。
【0030】
本発明のさらに別の態様においては、グリシン捕捉アンタゴニストが非経口投与される。
【0031】
本発明のその他の目的は以下の発明の詳細な説明によって当業者には明らかとなる。
【0032】
投与は液体状もしくは固体状配合物または注射液(例えば、静脈内注射液)としておこなってもよい(この場合、常套の製剤用キャリヤーを用いてもよい)。適当な製剤には錠剤、カプセル、経口液および非経口注射液が含まれる。錠剤とカプセルの調製には常套の希釈剤および賦形剤等、例えば、常套のカプセルや錠剤の調製に利用されているラクトース等を用いてもよい。経口液として投与する場合には、風味のよい希釈剤を用いて飲みやすい配合物を調製してもよい。
【0033】
本発明に係る化合物は全体的もしくは部分的にグリシン捕捉を阻害するのに十分な量で投与される。グリシンは0.4g/kg/日以上、例えば、0.5g/kg/日もしくはそれ以上の割合で1回〜数回、好ましくは精神分裂病患者の処置において0.8g/kg/日の割合で3回にわけて投与する。グリシン捕捉のアンタゴニストの投与量はグリシンに匹敵するPCP誘発機能高進に対する抑制活性によっておおまかに決定することができる。NMDAレセプター仲介伝達の促進を評価するための簡便なアッセイは以下に説明するスタディー#3で用いたげっ歯動物アッセイである。
【0034】
現在のところGDAは約0.025g/kg/日〜0.50g/kg/日の割合で投与すればよいと考えられており、その他の化合物の投与量はGDAに関連して決定される。グリシン捕捉アンタゴニストは精神病関連疾患の唯一の処置剤として投与するか、あるいは、次のような抗精神病薬の効能を補助するために使用する: 常套の抗精神病薬、例えば、ハロペリドール[ハルドール(商標)]、フルフェナジン[プロリキシン(商標)]、クロルプロマジン[ソラジン(商標)]およびチオリダジン[メラリル(商標)]、異型性抗精神病薬、例えばクロザピン[クロザリル(商標)]およびリスペリドン[リスペリダール(商標)]、抗精神病薬投与による副作用調整用薬剤並びに精神分裂病のような病気や疾患における症状を調整するために一般的に使用されているその他の薬剤。
【0035】
本明細書に記載のような投与量を採用する場合には、グリシン捕捉アンタゴニストは精神分裂病の症候、特に拒絶性症候および認知性機能障害に対して臨床的に有用な効果をもたらす。拒絶性症候に対するグリシン捕捉アンタゴニストの有用な効果は精神分裂病のいずれかのその他の側面、例えば従動自動性症候または興奮に関する悪化がないときにみられる。本発明の1つの態様においては、グリシン捕捉アンタゴニストの投与は、従来の投薬法によっては十分に応答がみられない症候を調整するために不定期間にわたって続行される。
【0036】
本発明においては前記の障害や疾患の処置のために生物学的に許容されるグリシン捕捉アンタゴニストが用いられる。グリシン捕捉インヒビターとしてはグリシルアルキルアミド、例えばグリシルドデシルアミドが挙げられ、また、スタディー#3で用いた他のインヒビターとしてはグリシンアルキルエステルが挙げられる。サルコシンのようなその他のグリシン捕捉アンタゴニストは既知である。本発明の技術的思想を理解する当業者は薬学的に許容されるいずれかのグリシン捕捉アンタゴニストを採用することができる。
【0037】
以下の実施例は精神分裂病の処置におけるグリシンおよびグリシン捕捉アンタゴニストの有効性を例示的に説明するものである。
【実施例1】
【0038】
スタディー#1(ライダーマンらの前記文献参照)
方法:この研究はブロンクス(ニューヨーク)にあるブロンクス・精神病センターにおいておこなわれた。インフォームド・コンセントを得た後でこの研究に参加してあらかじめ二重盲検法においてグリシンを0.4g/kg/日の割合で投与された5人の精神分裂病患者(DSM−IV)を採用した。患者の平均年令は45.0±7.6才であり、慢性的な平均病歴は24.2±5.9年であった。いずれの患者も重度の病状を示した(CG1>4)。すべての患者には試験の少なくとも4週間前から抗精神病薬(クロザピン2、リペリドン2およびハロペリドール1)を投与した。
【0039】
神経弛緩薬療法と平行してグリシンを10g/日(約0.14g/kg/日)の割合で経口投与し、3日目にはその投与量を0.2g/kg/日(約14g/日)に増加させた。グリシンの投与量は2日ごとに0.2g/kg/日ずつ増加させて0.8g/kg/日とし、この投与量を8週間の残存期間にわたって継続した。従命自動性および拒絶性症候基準(PANSS)[ケイらの非特許文献8(1987年)参照]および拒絶性症候の評価基準(SANS)[アンドレーゼンの非特許文献1(1989年)参照]を用いて隔週ごとの評価をおこなった。
【0040】
錐体外路系評価基準(ERS)および異常無意識行動基準(AIMS)を用いて運動性(motoric)副作用を評価した。全ての評価は、先のグリシン処置研究の結果を知らせない一人の個人によっておこなった。グリシンおよび神経弛緩薬(ハロベリドールおよびクロザピン)の血中濃度は隔週ごとに測定した。血漿グリシンは血漿アミノ酸用液体クロマトグラフィー法(内部基準としてO−メチルセリンを用いてグリシン測定用に調整した分析法)[ハリハンらの非特許文献4(1993年)]によって測定した。
【0041】
本明細書に示す値は平均値±標準偏差である。処置の効果は両側検定対t−試験によって決定した。
結果:グリシンの経口投与による処置によってグリシンの血中濃度は著しく増加し(6.3倍)、この値は2〜6週にわたって安定に維持された(図1参照)。6〜8週にかけては統計的に意義のある程度ではないが、グリシンの血中濃度に明らかな低下がみられた。8週間の試験期間中には不都合な効果、例えば衰弱、嘔気および鎮静はみられなかった。SANSを用いたときには拒絶性症候において著しい改善効果がみられた(ベースライン:75.8±7.2、試験後: 72.2±8.6、t=2.79、p=0.049)。一方、PANSSを用いたときには拒絶性症候において改善傾向がみられた(ベースライン:31.0±2.3、試験後: 27.4±3.2、t=2.21、p=0.092)。5人のうちの2人の患者においては拒絶性症候において20%以上の低減効果がみられた。処置応答と全患者のグリシン濃度または個々の患者のグリシン濃度の経時変化との間には著しい関連性はみられなかった。
【0042】
この研究に参加した患者のうち、最も高い処置応答を示した患者は、先の二重盲処置においてグリシンを0.4g/kg/日の割合で投与したときに最も高い応答を示した患者であった[ジャビットらの前記の文献(1994年)参照]。即ち、この研究において測定された全PANSS評価点の変化と先の研究において測定された評価点との間には著しい関連性がみられた(r=0.82、p=0.045)。先の研究の場合のように、この研究においてもPANSS従命自動性症候(t=1.68、df=4、p=0.17)または一般的精神病理学的評価(t=0.72、df=4、p=0.5)においては著しい変化はみられなかった。グリシン処理中の症候に関して錐体外路系においては著しい低減効果がみられたが(t=4.81、df=4、p=0.009)、運動障害においてはこのような効果はみられなかった(t=0.91、df=4、p=0.4)。しかしながら、錐体外路系症候の改善と臨床的応答との間には関連性はみられなかった。グリシン処置によって血清中の神経弛緩薬の濃度は著しい影響を受けなかった。
【実施例2】
【0043】
スタディー#2(ヘレスコ−レービらの前記文献参照)
方法:被験者としてはサラー・ヘルツォグ記念病院の研究病棟(エルサレム、イスラエル)の入院患者を採用した。これらの患者はDSM−III−R(米国精神医学協会、1987年)の精神分裂病と診断されていた。さらに、これらの患者は従来の神経弛緩薬に対する応答が弱いために抗療性があるとみなされていた。試験を開始する前に、少なくとも3カ月間にわたって常套の神経弛緩薬またはクロザピンを臨床的に最適な投与量でこれらの患者に定期的に経口投与した。付加的なDSM−III−R診断を受けた精神分裂病患者の場合には付加的な向精神薬もしくは併用薬を投与するか、または神経学的症状を解消させた。12人の患者をこの研究においては採用した。全ての患者からはこの研究に参加することについて書面によるインフォームド・コンセントを得た。また、この研究は病院の審査委員会の認可を受けた。
【0044】
−2週から0週までの2週間にわたるベースライン評価期間の経過後、二重盲条件下において患者を無作為に指定してグリシン粉末またはプラセボ溶液を6週間(0週〜6週)にわたって投与した。薬剤の投与は二重盲条件下でおこなった。グリシン粉末は水に溶解させて投与した。プラセボ溶液としてはグルコースを用いた。次いで各々の患者には2週間の洗い出し処置に付した後、別の薬剤を6週間(8週〜14週)投与した。グリシンの投与は4g/日の投与量から開始し、4g/日ずつ増加させて1日あたり投与量を0.8g/kg(体重)とした。グリシンは1日ふたり3回に分けて投与した。この研究で用いた他の薬剤は、錐体外路系症候の処置の場合にはトリヘキシフェニジル(2〜5mg/日)であり、不眠症もしくは激越の処置の場合は抱水クロラール[250〜750mg/日(PRN基準)]である。抗パーキンソン薬を必要とする患者にはトリヘキシフェニジルを定期的に投与した。
【0045】
症候および錐体外路系の副作用は、PANSS、錐体外路系症候用シンプソン−アングス基準(SAS)および異常無意識行動基準(AIMS)を用いて−2週から隔週ごとに評価した。研究過程のいずれかの時点において神経弛緩薬の投与量の増加を必要とする患者は研究からはずして適当な処置を施した。この決定は臨床的評価に基づいておこなったが、これはPANSS評価点が少なくとも30%増加することに対応した。
【0046】
身体的な症状の訴えと状態は毎日モニターした。血液学的検査、血液化学的検査、肝臓と腎臓の機能検査および計量は隔週ごとにおこなった。血漿中のグリシン濃度を測定するための血液試料はベースラインの時点および研究の6週と14週の終わりに採取した。採血は朝食前とその日の第1回目の投薬前におこなった。血漿中のグリシン濃度はパーキン・エルマー・ピッケリング社製のアミノ酸アナライザーを用いて測定した(リチウムpH勾配およびニンヒドリンを用いるポストカラム誘導体化法を用いた)。定量はUV検出器(570nm)を用いておこなった。計算はノルロイシン内部基準に基づいておこなった。両側検定による統計的解析はSPSS/PCコンピュータープログラムを用いておこなった。
【0047】
結果:12人の患者のうち11人が最後まで研究に参加した。1人の患者はプラセボ処置の4週目で研究からはずれた。実験を完遂した患者のうちの7人に、研究の第一段階において無作為にグリシンを投与し、残りの4人の患者には無作為にプラセボを投与した。全ての患者は二重盲処置前の2週間における従命自動性および拒絶性症候に変化を示さず、安定した前処置ベースラインを示した(表1参照)。最初の二重盲処置段階でグリシンを投与した患者とプラセボを投与した患者との間には前処置ベースラインには差はみられなかった。
【0048】
グリシンとプラセボに対する処置応答を評価するために、rmANOVAを全患者についておこなった[種々の条件下での同一患者の従属変数ファクター:処置段階(グリシン/プラセボ)および処置週(0、2、4または6)]。経時的相互作用効果による有意な処置に反映されるように、拒絶性症候と一般的な精神病理学的症状に関しては処置法の違いによって極めて著しい相違がみられた(この場合、従命自動性症候の対応する悪化はみられなかった)(表2参照)。しかしながら、一般的な精神病理学的症状と全PANSS評価点における変化が拒絶性症候の評価点における変化に対して共変するときには、著しい処置効果もしくは経時的処置効果はみられなかったが、このことは、一般的な精神病理学的症状における変化は拒絶性症候の変化に対して二次的であることを示す。全PANSS評価点に対するグリシンの著しい効果もみられた。
【0049】
一般的な精神病理学的効果の場合のように、全PANSS評価点の変化は拒絶性症候の変化に対しては著しい共変を示さなかった。処置の順序が全体的結果に影響を及ぼした可能性を評価するために、処置段階と処置週による拒絶性症候のrmANOVAを処置の順序に対して共変させた。経時効果による処置の有意性はF(3,8)=42.6(p<0.0001)であり、このことは全体的効果は処置の順序によって著しい影響を受けなかったことを示す。
【0050】
症候変化の評価点の分析により次のことが明らかになった。拒絶性症候の著しい低減効果がグリシンの処置段階の2週にみられ、この効果は6週後のグリシン処置の終了まで漸増した(図2参照)。6週における拒絶性症候の平均低減率は36.2±7.3%であった(プレグリシン処置のときの値: t=0.22、df=10、p<0.0001)。一般的な精神病理学的症状の低減効果はグリシン処置の4週後に最初にみられるようになり、この効果はその後漸増した。一般的な精神病理学的症状の平均低減率は23.5±10.5%であった(t=7.41、df=10、p<0.0001)。従命自動性症候に関してはグリシン処置群において小さな低減効果がみられた(12.6±18.3%)。この効果はプレグリシン処置のときの値(t=2.29、df=10、p<0.05)に比べると著しく大きいが、グリシン処置の6週の最後における従命自動性症候の変化はプラセボ処置の6週後の変化に比べては著しく大きくはなかった(図2参照)。
【0051】
11人のうちの8人の患者においては、グリシン処置中のPANSS拒絶性症候の低減率は30%もしくはそれ以上であり、また、PANSSの全評価点の低減率は25%もしくはそれ以上であった。プラセボ処置段階においてはいずれのタイプの症候に関しても低減効果はみられず、また、プラセボ処置段階の4週においては一般的な精神病理学的症状に関して小さいが有意な増加効果がみられた。
【0052】
最初の二重盲条件下で11人のうちの7人の患者にグリシンを投与したので、その後のプラセボ処置段階を通して症候の改善効果が維持される程度を評価することができた(図3参照)。いずれの研究段階においてもこれらの7人の患者の場合には従命自動性症候に変化はみられなかったが、拒絶性症候に関してはグリシン処置段階中に著しい改善効果がみられ[F(3,4)=45.7、p=0.001]、この効果はその後も安定に維持され、しかも、その後のプラセボ処置段階においても著しい悪化はみられなかった[F(3,4)=1.86、p=0.28]。同様に、一般的な精神病理学的症候に関してもグリシン処置段階中に著しい改善効果がみられ[F(3,4)=19.2、p<0.01]、この効果はその後も安定に維持され[F(3,4)=2.52、p=0.20]、このことはグリシン処置中にみられる改善効果が研究期間のその後の8週間においても維持されることを示す。
【実施例3】
【0053】
PANSSの5因子分析法
PANSSの伝統的分析法においては、症候は従命自動性症候、拒絶性症候および一般的症候に分類されるが、5因子または7因子を組み込む別の分析法が提案されている。5因子モデルによれば症候は従命自動性のもの、拒絶性のもの、認知性のもの、うつ病性のもの、および興奮性のものに分類される。従命自動性および拒絶性症候以外の精神分裂病の程度に及ぼすグリシンの影響度を測定するために、5因子成分を用いてデータの二次分析をおこなった(図4参照)。3因子分析の場合のように、PANSS従命自動性症候に関してはグリシンまたはプラセボ処置中においては著しい低減効果はみられなかったが、プラセボ処置期間ではなくてグリシン処置期間においては著しく漸進的な改善効果がみられた[経時処置F(3,8)=19.5、p<0.0001]。しかしながら、5因子分析法によれば、うつ症候[F(3,8)=7.23、p<0.02]および認知性症候[F(3,8)=4.74、p<0.05]に対しても著しい低減効果がみられた。うつ症候[F(3,5)=2.13、p=0.22]に対しても著しい認知性症候[F(3,5)=0.89、p=0.51]における改善効果は拒絶性症候における変化に対する共変によって維持されなかった。
【0054】
これに対して、拒絶性症候に対するグリシンの効果は認知性障害またはうつ症候における変化に対する共変によって有意に維持された[F(3,5)=6.8、p=0.032]。この低減率は拒絶性症候の場合が最も大きく(プレグリシン濃度に対して41.0±15.4%、p<0.0001)、次いでうつ症候(23.0±17.9%、p=0.002)および認知性障害(15.2±13.5%、p=0.004)の順であった。興奮症候(11.9±26.3%、p=0.17)および従命自動性症候(9.4±20.5%、p=0.16)の低減率に関しては、統計的有意性はみられなかった。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【実施例4】
【0057】
スタディー#3(ジャビットおよびフルシアンテによる前記文献参照)
グリシルドデシルアミド(GDA)は1986年の非特許文献20に最初に報告されたグリシン誘導体である。当時、この化合物はPCP誘発機能高進の転換に関してはグリシンよりも著しく高い効能をもたらすことが示された。さらに、GDAの投与によって脳内の全グリシン濃度は増加しないことが示され、このことはGDAがグリシンの前駆体として作用しなかったことを示す。当時、PCP誘発機能高進に対するGDA誘発抑制機構は仮定されていなかった。
【0058】
この研究は、PCP誘発機能高進をGDAが脳内でのグリシン再捕捉を阻害することによって抑制し、NMDAレセプターの隣接部におけるグリシン濃度を増加させる可能性を検討するためにおこなった。この仮定はGDAが脳内の全グリシン濃度を増加させることなくPCP誘発機能高進を抑制するという知見に基づくものであるが、先行文献からは明らかでない。
【0059】
グリシン捕捉を研究するために、スプレーグ−ドウリーの成長ラットの皮質からシナプトソームのP2フラクションを調製し、該フラクションを人造CSFに懸濁させた。100nMの[3H]グリシンの捕捉を特定のリガンドの存在下において25℃で所定時間にわたって測定した。インキュベーションは減圧濾過によって終了させた。グリシンの捕捉はインキュベーションの少なくとも最初の10分間にわたっては直線的に増加した(図10参照)。30分後にはプラトーに達し、30〜60分間での捕捉結合の著しい増加はみられなかった。速度論的な結合パラメーターは非線形回帰分析によって決定した。全ての捕捉曲線は一次であった。平均のt1/2値は9.7±0.7分であった。冷グリシンによる[3H]グリシン捕捉の抑制に対するIC50値は78.7±37.8μMであった。特有の[3H]グリシン捕捉は添加したNa+/Cl−の消失により終了した。
【0060】
抑制試験は0.1〜10mMのGDAの不存在下または存在下でのインキュベーションを5分間おこなうことによって実施した(図11参照)。次のいくつかの比較化合物を用いる試験もおこなった:(1)サルコシン(高い効能を有する既知のグリシン捕捉アンタゴニスト)および(2)皮質のグリシン捕捉部位に対して低い親和性を示すことが知られているグリシンエチルエステル(GEE)とグリシンメチルエステル(GME)(文献18参照)。グリシン捕捉の抑制能の順位は次の通りである:グリシン>サルコシン>GDA>GEE>GME。グリシン前駆体として作用するグリシンアミドとD−セリンのIC50は>10mMであった。GDAとサルコシンの効果は30分間のインキュベーション期間を通じて有意に維持された。
【0061】
1mMの濃度のGDAおよびサルコシンは[3H]グリシン捕捉の最大濃度を著しく(p<0.05)低減させ、これらの低減率はそれぞれ29±7%および72±3%であった(図11参照)。5mMのGDAによる[3H]グリシン捕捉の低減率は51±13.3%であった。グリシン捕捉の速度定数に対するこれらの薬剤の効果は著しくはなかった。なお、GDA(7.9±2.9min−1)とサルコシン(6.3±1.9min−1)が存在するときのt1/2値はベースライン条件下の場合よりも幾分小さかった。行動研究におけるGDAの有効濃度を約0.3mmol/kgと仮定するならば、これらの研究は、GDAが行動研究において得られる濃度と同程度の濃度においてグリシン捕捉アンタゴニストとして作用することを証明するものである。
【0062】
NMDAレセプターのグリシン部位におけるGDAの潜在的な直接アゴニスト様効果はNMDAレセプター活性の機能プローブとしてPCPレセプター結合を用いることによって排除された。このアッセイにおいては、グリシン様薬剤はNMDAアゴニスト[GLU(グルタメートの略語)]の不存在下ではなくて存在下においては[3H]MK−801(メルク社製)の結合性を促進する。アッセイはラットの皮質と海馬から調製して5mMのTRIS−酢酸塩緩衝液(pH7.4)中において1mMの[3H]MK−801と特定のリガンドの存在下で15分間インキュベートした粗製シナプス膜を用いておこなった。
【0063】
インキュベーションはワットマンGF/Bフィルターを用いる減圧濾過によって終了させた。非特異的結合性は10μMのMK−801の存在下で測定した。GLUのみを用いるインキュベーションによって結合性は対照条件に比べて9倍増加した[ジャビットおよびフルシアンテの報文(印刷中)]。GLUとグリシンを用いるインキュベーションによって結合性は対照条件に比べて著しく増加し(22倍)、GLUのみを用いるインキュベーションの場合に比べても2.5倍増加した。GLUとGDAの共存下での結合性はGLUのみの存在下での結合性に匹敵し得るものであった。
【0064】
GDAによるグリシン捕捉アンタゴニストの特異性はGABA(γ−アミノ酪酸)とGLUの捕捉に対するグリシン、GCAおよびGDAの効果を評価することによって調べた。方法は、[3H]グリシンの代わりに10nMの[3H]GABAまたはL−[3H]GLUを使用する以外はグリシン捕捉アッセイの場合と同様である。GLU捕捉アッセイおよびGABA捕捉アッセイに対してはL−トランス−ピロリジン−2,4−ジカルボン酸(L−PDC)およびニペコチン酸を活性対照としてそれぞれ使用した。GDAは[3H]グリシン捕捉に対するその効果とは対照的に[3H]GLUと[3H]GABAの捕捉を著しく増加させた。脳内のグリシン輸送体の活性化によってシナプス前のGLUとGABAの放出がもたらされると仮定すると、GLUとGABAの捕捉はグリシン再捕捉抑制の生体外での予想された結果となる[ジャビットおよびフルシアンテの報文(印刷中)]。
【0065】
その後の研究により、げっ歯動物における(1)グリシン捕捉の抑制および(2)PCP誘発機能高進の拮抗に関する数種のGDA様化合物の効能の順位について検討がされた。この研究のために、グリシルトリスカデシルアミド(GTA)、グリシルウンデシルアミド(GUA)およびグリシルヘキシルアミド(GHA)を含む数種類の付加的な化合物を合成した。これらの化合物は、12個の炭素原子を有するGDAとは対照的に、アミドに結合した炭素原子数がそれぞれ13、11および6であるグリシンアミド誘導体である。
【0066】
GTAはPCP誘発機能高進の抑制およびグリシン捕捉の抑制に関してGDAの場合よりも高い効果を示した(図8および図9参照)。GUAは療法のアッセイにおいてより低い効果を示した。最近になって合成されたGHAはグリシン捕捉の抑制に関してGDAの場合に比べて約1/20の効果しか示さなかった(図12参照)。従来は、この化合物を0.15g/kgまで投与することによってはPCP誘発機能高進の阻害に関しては効果がないとされていた(非特許文献20参照)。
【0067】
最近の実験においても、アンフェタミン誘発機能高進に対するGDAの効果は対照条件の場合と同様であった。主としてドーパミンレセプターを阻害することによって臨床的効果をもたらす現在入手し得る抗精神病薬はげっ歯動物におけるPCP誘発機能高進を転換させるかもしれない。しかしながら、これらの薬剤はアンフェタミンによって誘発される機能高進の場合よりもPCP誘発機能高進の阻害に関する効果は低い(非特許文献16参照)。従って、この研究においてはアンフェタミン誘発機能高進に対するGDAの効果を評価した。PCP誘発機能高進を著しく(t=3.30、p=0.001)抑制した投与量(0.05g/kg)のGDAはアンフェタミンによって誘発された機能高進を著しく抑制しなかった(t=0.59、NS)(図13参照)。
【0068】
グリシンがアンフェタミン誘発機能高進を抑制しないことが従来から知られている(このデータは示さない)。従って、この知見は、GDAが現在入手し得る抗精神病薬の場合とは異なる機構によってPCP誘発機能高進を抑制するという技術的思想を支持する。
【0069】
要するに、この実施例はGDAがグリシン捕捉を抑制することおよび投与量が0.05g/kgのGDAがPCP誘発機能高進を投与量が0.8g/kgのグリシンの場合と同程度まで抑制することを例証するものである。なお、この投与量のGDAは選択された脳小室内のグリシン濃度を増加させるかもしれないが、脳内の全グリシン濃度は増加させないことが知られている。グリシン捕捉を阻害するのに有効な投与量のGDAはNMDAレセプターと結合せず、また、他のアミノ酸捕捉神経伝達を抑制しない。GDA類似化合物は皮質のグリシン捕捉の阻害能に比例してPCP誘発機能高進を抑制する。また、PCP誘発機能高進の阻害に対して比較的有効でないことが知られているGDA類似化合物(グリシルヘキシルアミド)もグリシン捕捉の阻害に対して比較的有効でない。PCP誘発機能高進の阻害に有効な投与量のGDAはアンフェタミン誘発機能高進も阻害しない。
【0070】
これらの知見は、グリシン捕捉を阻害する薬剤が脳のNMDAレセプター仲介神経伝達を行動に関連して著しく促進することに関して最初の証左を与えるものである。グリシンをげっ歯動物におけるPCP誘発機能高進を抑制する投与量と同じ量で投与すると精神分裂病の症候に顕著な改善がもたらされるという最近の臨床的知見を仮定するならば、本発明によれば、脳のグリシン捕捉を抑制するGDAおよびその他の化合物が精神分裂病およびその他の精神病の処置に有効であるという知見が得られる。
【0071】
以上の説明により、精神分裂病の症候の処置における本発明の有効性は明らかである。
【0072】
当業者であれば現在知られているか、または将来発見される化学的構造を有するその他の天然に存在するか、または合成されるグリシン捕捉アンタゴニストを選択使用することによって抗精神病薬的効果を得ることができる。
【0073】
また、本発明の種々の変形態様は当業者には明らかなところである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、精神病と精神分裂病の症候群で患う患者へグリシン捕捉アンタゴニストを投与することによって、該患者を効果的に治療することができる。
【技術分野】
【0001】
この出願は1995年12月7日に出願された仮出願60/008,361号の利益を権利請求する。
本発明は、グリシン捕捉性アンタゴニストを用いる拒絶性および認知性精神分裂病症候群の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
過去30年間にわたり、ドーパミン仮説は精神分裂病の主要な神経化学モデルとなっている。ドーパミン仮説は、アンフェタミン様のドーパミン放出薬が精神分裂病に非常に類似した精神異常状態を誘発するという知見およびドーパミンレセプターのブロック剤(例えば、クロルプロマジン、ハロペリドール等)が精神分裂病の臨床的処置において有用であるという知見に基づくものである。ドーパミン仮説は、精神分裂病症候群が脳のドーパミン作用性症候群の機能高進を主として脳の中間縁と中間皮質領域において伝達するということを仮定する。しかしながら、この仮説は発見的な価値はあるが、精神分裂病の臨床的処置への適用にはいくつかの制約がある。
【0003】
第一に、アンフェタミン精神病は従命自動性精神分裂病症候群(例えば、機能高進、幻覚等)に対してのみ的確なモデルとなる。これに対して、アンフェタミンの投与によっては、精神分裂病においてみられる症状に類似する機能障害または拒絶性症候群(例えば、鈍感感情、情緒的自閉症等)は進行しない。ドーパミンのブロック剤を用いる最適な処置にもかかわらず、精神分裂病患者の20〜50%が顕著な拒絶性(negative)症候と思考障害を示し続けるということは、新たな処置が必要なことを示す。第二に、大部分の精神分裂病患者においては、ドーパミン作用性神経伝達の明白な障害はみられない。従って、ドーパミン作用性機能高進が存在する範囲ではこの仮説は他の神経伝達系におけるより基本的な障害に対しては二次的なものとなるかもしれない。症候を調整しながら抗ドーパミン作用性処置をおこなうことによってはその根底を成す精神病理学に対処することはできない。
【0004】
新しい処置法を開発する潜在的な方向性は1950年代の末期になってフェンシクリジン(PCP; エンジェルダスト)の開発によって与えられるようになった。PCPは最初は一般的な麻酔薬として開発されたものである。最初の臨床的試験においては、PCPと類縁薬剤(例えば、ケタミン)が精神分裂病と非常に類似した精神病性症候群を誘発することが見出された。アンフェタミン精神病とは対照的に、PCP精神病は拒絶性および従命自動性精神分裂病症候群に包含される。さらに、PCPは精神分裂病にみられるタイプの機能障害を再度もたらすという特徴がある。PCPで誘発される精神病の根底を成すメカニズムは1979年に脳のPCPレセプターに関する知見が最初に得られるまでほとんど未解決であった。
【0005】
1980年代の初期におけるその後の研究により、PCPレセプターがN−メチル−D−アスパルテート(NMDA)型のグルタメートレセプターに関連するイオン通路内に位置する結合部位を構成することおよびPCPとその類縁薬剤がNMDAレセプター仲介神経伝達をブロックすることによって精神病発現薬的効果をもたらすことが明らかにされた。これら知見に基づいて次のことが提案された(非特許文献14および5参照)。即ち、NMDAレセプター仲介神経伝達の内因性機能障害または調節障害は精神分裂病の病因に著しく寄与し、特に、抗神経弛緩薬的な拒絶性および認知性症候群の発現をもたらす。さらに、NMDAレセプター仲介神経伝達を促進する薬剤を投与することは精神分裂病の抗神経弛緩薬的な徴候と症候の処置に有効であるという可能性も提案された。
【0006】
1987年にグリシン結合部位が発見される以前においては、その後で本発明者によっておこなわれた投与量と同様に多量のグリシンをげっ歯類動物に投与することによってPCPにより誘発される行動様式とは反対の効果がもたらされることが判明したが(非特許文献13参照)、このことは行動アッセイがNMDA促進剤の抗精神病効果を敏感に反映することを示すものである。
【0007】
NMDAレセプターは皮質における主要な興奮神経伝達物質として作用するグルタメートによって主として活性化される。しかしながら、外因性グルタメートは次の理由から効果的に投与することができない。即ち、(1)グルタメートは血液脳関門を通過できず、また、(2)グルタメートはNMDAレセプター以外のいくつかのタイプのレセプターを活性化し、さらに(3)血液脳関門を通過するグルタメート類似体による活性化は皮質ニューロンを過度に興奮させてニューロンの変性(興奮毒性)をもたらす。NMDAレセプター仲介神経伝達を促進させる別の可能性のある試みは1987年にグリシンがNMDAレセプターコンプレックスにおけるアロステリックモジュレーター(allosteric modulator)として作用という知見が得られたことによってなされた(非特許文献7参照)。
【0008】
この知見に基づいて、外因性投与グリシンがNMDAレセプター仲介増強作用を選択的に促進するので、顕著な抗神経弛緩薬症候学的病状を示す精神分裂病患者の治療に臨床的改良がもたらされた。グリシンの使用には次の制約があった。即ち、(1)外因性投与グリシンがどの程度までCNSを透過するのか不明であり、また、(2)NMDAレセプター仲介神経伝達のグリシンによる調節が生体内において生理学的にどの程度まで関連性があるのか不明であり、さらに(3)NMDAレセプター仲介神経伝達を実際にどの程度まで促進して臨床的改良をもたらすか不明であった。
【0009】
1987年にグリシン結合部位が発見された後、いくつかの小規模な臨床的試みがなされて有用な臨床的効果が提案されたが、標準的な統計的試みによってその効力は証明されなかった。1988年にワジリは9ケ月にわたるオープン試験において11人の精神分裂病患者にグリシンを5〜25g/日投与した場合の結果を発表した(非特許文献12参照)。この結果によれば11人のうちの4人の患者においては改善が認められたが、この結果についての統計的分析または対照群のデータは得られていない。1990年にコスタらは5週間にわたるオープン試験において6人の患者にグリシンを15g/日投与した結果を発表した(非特許文献2参照)。
【0010】
この結果によれば、簡易精神医学評価基準(BPRS)によって評価した症候の減少が30%以上の従命自動性(positive)応答を示したのは2人の患者であった。しかしながら、全体的な統計学的分析はおこなわれておらず、また、これらの発表されたデータに基づく分析によっても統計学的に有意な効果は得られていないことが判明している(t=1.89、p=0.12)。二重盲検法により18人の患者にグリシンまたはプラセボを15g/日の割合で投与するその後の研究(非特許文献19参照)によれば、臨床グローバルインプレッション(CGI)において有意な改善がみられたが、BPRSまたは拒絶性症候の評価のために特別に開発された基準である拒絶性症候用スケージュール(SANS)においては有意な改善効果はみられなかった。
【0011】
これらの研究者はグリシンの効力を証明するためにはより多量のグリシンを投与することが必要であると結論づけているが、これを追跡する研究はおこなっていない。1989年にロッセら(非特許文献11参照)は4日〜8週間のオープン試験において慢性の精神分裂病患者にグリシンを10.8g/日の割合で投与したが全体的な臨床的効力はみられなかった。これらの研究者は、該治療法はグリシンのCNS透過能が低いことによって制約されると結論づけている。1994年までグリシンの投与量を25g/日よりも多くする臨床的研究はおこなわれておらず、また、グリシンを高投与量で使用することの実用性については明らかにされていなかった。
【0012】
高投与量のグリシンを用いる最初の研究は1989年の8月に開始され、これには本発明者による研究も含まれる。この研究においては、抗精神弛緩薬的症候を示す14人の慢性精神分裂病患者に二重盲プラセボ制御法によってグリシンを0.4g/kg/日(約30g/日)の割合で投与し、従命自動性および拒絶性症候基準(PANSS)によって従命自動性および拒絶性症候をモニターした。この研究により、グリシンを高投与量で投与しても十分に許容されることが明らかになった。
【0013】
さらに、グリシンを投与した患者の場合には拒絶性症候において著しい改善がみられたが、プラセボを投与した患者の場合には類似の改善効果はみられなかったという興味のある予備的結果が得られた。しかしながら、この研究においては、グリシン投与群とプラセボ投与群の間に有意な差異がみられなかったという未解決な点が残されていた。この研究の結果はジャビットらによって1994年8月に発表された(非特許文献6参照)。
【0014】
本発明者らは同時係属中の特許出願において、グリシンの過剰投与(>30g/日)による処置がNMDAレセプター仲介神経伝達の促進並びに精神病に関連する病気および薬物中毒に関連する精神病、特に精神分裂病の処置に有効であることを明らかにした。このことは最近おこなった2つの研究によって立証された。ライダーマンらによる第1の研究においては(非特許文献9参照)、ブロンクス精神病センターにおいてグリシンを前記のような過剰量(30g/日)投与した研究に関与した5人の精神分裂病患者にグリシンを60g/日の割合で投与した再挑戦処置をおこなった。グリシンの濃度は、SANSとPANSSによって評価する従命自動性および拒絶性症候と共にモニターした。グリシンを60g/日の割合で投与する処置により血清中のグリシンの濃度は6.3倍に増加した。
【0015】
血清中のグリシン濃度のこのような増加は1995年にドゥソウザらによって明らかにされており(非特許文献3参照)、該増加はCNSグリシン濃度の約2倍となる。従って、従来の研究において用いられた過剰投与(即ち、>30g/日)はCNSグリシン濃度に著しい影響をもたらすためには必要である。グリシンを60g/日で投与する処理中においては顕著な副作用は認められなかった。従って、この研究は高投与量グリシンによる臨床的処置の実用性に関する最初の証左である。さらに、少数の患者の場合にはSANS拒絶性症候に関して著しい改善効果がみられ(<0.05)、また、PANSSに関しても著しい改善傾向がみられたことはグリシンを過剰に投与することの潜在的な効力を示すものである。
【0016】
最近、おこなわれた第2の研究によれば、抗精神弛緩薬的な拒絶性症候の処置においてグリシンを60g/日の割合で投与することの有効性に関してより明確な証左が得られた。この研究は先のブロンクス精神病センターの精神分裂病研究員であるウリ・ヘレスコ−レビー博士と本発明者がイスラエルのサラー・ヘルツォグ病院において本発明者によって開発されたプロトコルに従って共同しておこなった。患者は二重盲クロスオーバー法によりグリシンまたはプラセボを60g/日の割合で投与することによって処置した。最初の11人の患者から得られた結果を分析した。
【0017】
これらの結果によれば、精神分裂病患者におけるPANSS拒絶性症候に関しては、グリシン処置段階中の方がプラセボ処置段階中よりも著しい低減効果がみられることが明らかになった。従って、この研究は高投与量グリシン処置の効力に関する二重盲プラセボ制御の最初の証左を提供するものである。精神病理学と認知性機能を含む精神分裂病症候学のその他の点においても著しい改善がみられた。処置したいずれの患者にも著しい副作用はみられなかった。
【0018】
グリシンを経口投与することによる処置が精神分裂病に関して有意な臨床的利点を有するという思想は先行文献において議論されているが、高投与量グリシンによる処置が安全で、実用的で、しかも有効であるという明確な証左は前述の最近おこなわれた2つの研究(BPCとイスラエルにおける研究)によって初めて明らかにされた。
【0019】
精神分裂病患者の50%までが神経弛緩薬を投与するその後の処置においても著しい拒絶性および認知性症候を示した。新しく開発された薬剤、例えば、クロザピンおよびリスペリドンは標準的な神経弛緩薬に比べてある程度改善された効力を示す。しかしながら、この種の薬剤の開発にもかかわらず、著しい数の精神分裂病患者が長期の入院生活を余儀なくさせられている。グリシンを30g/日またはそれよりも多く投与することによるこれらの患者の処置は著しい臨床的改善効果をもたらすので、利用可能なその他の薬剤投与法により現在のところ目標とされていない臨床的要請に応えることが可能である。
【0020】
グリシンまたはグリシン前駆体として投与さたときに全CNSグリシン濃度の増加をもたらす薬剤もしくはNMDAレセプターコンプレックスのグリシン部位においてグリシンと置換する薬剤(例えば、グリシナミド、スレオニンおよびD−セリン)を精神病患者、例えば、精神分裂病患者に30g/日よりも高い割合で経口投与することによって、従命自動性症候もしくは興奮に影響を及ぼすことなく拒絶性症候、うつ病および認知性機能障害に著しい改善効果をもたらすことが判明した。
【0021】
これらの研究において用いたグリシンの投与量(0.8g/kg/日もしくは約60g/日)は従来のいずれの研究において用いられた投与量よりも実質的に高い量である。さらに、グリシンを0.8g/kg/日の割合で投与することによってもたらされる血清中のグリシン濃度はCNSグリシン濃度の著しい増加に関係していることが知られている濃度の範囲内である。同時係属している上記の特許出願においてクレームされている発明によるグリシンの投与量は0.4〜2.0g/kg/日である。前駆体は脳中の細胞外のグリシン濃度の等価な増大をもたらすのに十分な量投与する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】アンドリーセンN.、Br. J. Psychiatry、第155巻(増補7)、第49頁〜第52頁(1989年):「拒絶性症候の評価基準(SANS);概念的および理論的基礎」
【非特許文献2】コスタJ.、カレドE.、スラメックJ.、バニーW.Jr.、ポトキンS.G.、J.Clin.Psychopharmacol.、第10巻、第71頁〜第72頁(1990年): 「長患いの難治精神分裂病における神経弛緩薬の補助薬としてのグリシンのオープン試験」
【非特許文献3】ドゥソウザD.C.、モリセイK.、アビ−サープD.、ダモンD.、ギルR.、ベンネットA.、クライスタルJ.H.、Schiz.Res.、第15巻、第147頁(1995年):「健康なヒトにおけるCSFアミノ酸、血漿ホルモンおよび行動に対する静脈投与グリシンと経口投与D−シクロセリンの効果:精神分裂病のためのインプリケーション」
【非特許文献4】ハリハランM.、ナガS.、バンノールトT.、J.Chromatogr.、第621巻、第15頁〜第22頁(1993年):「フェニルイソチオシアネートを用いるプレカラム誘導体化を伴う紫外吸収検出を含む高性能液体クロマトグラフィーによる血漿アミノ酸分析の開発に関する系統的アプローチ」
【非特許文献5】ジャビットD.C.、ズキンS.R.、Am.J.Psychiatry、第148巻、第1301頁〜第1308頁(1991年):「精神分裂病のフェンシクリジンモデルにおける最近の進歩」
【非特許文献6】ジャビットD.C.、ジルベルマンI.、ズキンS.R.、ヘレスコ−レビーU.、リンデンマイヤーJ.P.、Am. J. Psychiatry、第151巻、第1234頁〜第1236頁(1994年):「精神分裂病の拒絶性症候のグリシンによる改善」
【非特許文献7】ジョンソンJ.W.、アッシャーP.、Nature、第325巻、第529頁〜第531頁(1987年):「グリシンはマウスの培養脳ニューロンにおけるNMDA応答を促進する」
【非特許文献8】ケイS.R.、フィズバインA.、オプラーL.A.、Schiz. Bull.、第13巻、第261頁〜第276頁(1987年): 「精神分裂病に関する従命自動性および拒絶性症候基準(PANSS)」
【非特許文献9】ライダーマンE.、ジルベルマンI.、ズキンS.R.、クーパーT.B.、ジャビットD.C.、Biol. Psychiatry、第39巻、第213頁〜第215頁(1996年) :「精神分裂病における拒絶性症候と血漿濃度に対する経口高投与量グリシンについての予備的研究」
【非特許文献10】ポトキンS.G.、コスタJ.、ロイS.、スラメクJ.、ジンY.、グラセカラムB.、「精神分裂病の処置におけるグリシン: 新規な抗精神病薬に関する理論と予備的結果」、メルツァーH.Y.編(ニューヨーク、ラベンプレス発行、1992年)、第179頁〜第188頁
【非特許文献11】ロッセR.B.、テウトS.K.、バネー−シュバルツM.、ライフトンM.、スカルセラE.、コーヘンC.G.、ドイチュS.I.、Clin. Neuropharmacol.、第12巻、第416頁〜第424頁(1989年): 「精神分裂病における常套の神経弛緩薬処置に対するグリシン補助治療; オープンラベル予備研究」
【非特許文献12】バジリR.、Biol. Psychiatry、第23巻、第210頁〜第211頁(レター)(1988年): 「精神分裂病のグリシン治療」
【非特許文献13】トスE.、ヴァイスB.、バネーシュバルツM.、ラジャA.、「マウスにおける3−メルカプトプロピオン酸もしくはフェンシクリジンによって誘発される行動変化に対するグリシン誘導体の効果」第11巻、第1頁〜第8頁(1986年)
【非特許文献14】ジャビットD.C.、Hillside Jounal of Clinical Psychiatry、第9巻、第12頁〜第35頁(1987年): 「拒絶性精神分裂病症候学と精神分裂病のPCPモデル」
【非特許文献15】グアステラJ.、ブレカN.、ヴァイグマンC.、レスターH.A.、ディビッドソンN.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第89巻、第7189頁〜第7193頁(1992年): 「ラットの脳の高親和性グリシン輸送体のクローニング、発現および局在」
【非特許文献16】ジャッソンD.M.、ジョハンソンC.、リンドグレンL.M.、ベングツソンA.、Pharmacol. Biochem. Behav.、第48巻、第465頁〜第471頁(1994年): 「ドーパミンレセプターアンタゴニストはラットにおけるアンフェタミン誘発およびフェンシクリジン誘発運動刺激を阻害する」
【非特許文献17】リウQ.R.、ロペソ−コルクエラB.、マンジヤンS.、ネルソンH.、ネルソンN.、J. Biol. Chem.、第268巻、第22802頁〜第22808頁(1993年): 「新規な構造的特徴を有する骨髄と脳に特異的なグリシン輸送体のクローニングと発現」
【非特許文献18】スミスK.E.、ボーデンL.A.、ハルチグP.R.、ブランケクT.、ヴァイスハンクR.L.、Neuron、第8巻、第927頁〜第935頁(1992年): 「グリシン輸送体のクローニングと発現はNMDAレセプターとの共局在化をもたらす」
【非特許文献19】タニイY.、ニシカワT.、ハシモトA.、タカハシK.、J. Pharmacol. Exp. Ther.、第269巻、第1040頁〜第1048頁(1994年):「アラニンとセリンの鏡像体によるフェンシクリジン誘発機能高進の立体選択的拮抗作用」
【非特許文献20】トスE.、ラジャA.、Neurochem.Res.、第11巻、第393頁〜第400頁(1986年): 「マウスにおけるフェンシクリジン誘発機能高進のグリシンによる拮抗作用」
【非特許文献21】ザフラF.、アラゴンC.、オリヴァレスL.、ダンボルトN.C.、ギメネツC.、ストルム−マチセンJ.、J.Neurosci.、第15巻、第3952頁〜第3969頁(1995年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
グリシンおよび/または前駆体の使用における制約は次の通りである。即ち、(1)これらは多量に投与しなければならず、また、(2)外因的に投与されるグリシンが脳内の臨界部位におけるグリシン濃度を増加させる限度を制限できるシステムが脳内に存在する。
本発明が解決しようとする課題は、新規なNMDAレセプター仲介神経伝達を促進させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この出願においては、グリシン捕捉(uptake)アンタゴニスト(グリシン再捕捉アンタゴニストおよび/またはグリシン輸送インヒビターとしても知られている)を用いてNMDAレセプター仲介神経伝達を促進させる方法が開示される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、従命自動性および拒絶性症候基準(PANSS)[ケイらによる文献8(1987年)参照]によって測定した血清グリシン濃度(スキャッタープロット)および拒絶性症候(バープロット)に対するグリシンの経口投与(08g/kg/日)の効果を示す。この測定法は鈍感な情動、感情もしくは虚脱およびスタディー#1からの抽象的思考障害のような測定項目が含まれる。全ての統計量は対両側t−検定(paired two tailed t-test)を用いて処理した[*p<0.1対ベースライン(0週)、**p<0.05対ベースライン、***p<0.01対ベースライン]。
【図2】図2A〜図2Dは、グリシンとプラセボを用いる二重盲補助処置中のスタディー#2からの3−ファクターおよび全PANSS変化評点を示す(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【図3】図3A〜図3Dは、第1処置腕中にグリシンを投与された7人の患者についてのグリシンを用いる二重盲補助処置中およびその後のプラセボ期間中における3−ファクターおよび全PANSS評点を示す。
【図4】図4A〜図4Eは、グリシンとプラセボを用いる二重盲補助処置中のスタディー#2からの5−ファクターPANSS変化評点を示す(*p<0.05、**p<0.01、***<p<0.001)。
【図5】図5は、PCPで誘発される機能高進に対するグリシンの効果を示す。雄のBALB/cマウスを30分の時点でグリシン(0.8g/kg)またはプラセボを用いて前処理した(第1矢印)。PCP(5mg/kg sc.)を50分の時点で投与し(第2矢印)、次いでげっ歯動物用自動化活動チャンバーを用いて歩行数をモニターした。グリシンを用いて前処理したマウスの場合にはPCP誘発機能高進が約25%低減した。
【図6】図6は、PCP誘発機能高進に対するグリシルドデシルアミド(GDA)の効果を示す。雄のBALB/cマウスをGDA(0.1g/kg)またはプラセボを用いて30分の時点で処理した(第1矢印)。PCP(5mg/kg i.p.)を50分の時点で投与し(第2矢印)、次いでげっ歯動物用自動化活動チャンバーを用いて歩行数をモニターした。GDAの投与による前処理によってPCP誘発機能高進は約50%低減した(グリシンの場合にみられた効果と同じパターンである)。
【図7】図7は、図示した数の実験におけるPCP誘発機能高進に対するグリシンとGDAの効果を示す。GDAの投与(0.05g/kg)によって、グリシンを0.8g/kg投与した場合と同じ程度の活動抑制度がみられた。GDAの投与(0.1g/kg)は約2倍有効であった。*p<0.05対PCPのみ(CTL)。***p<0.001対CTL。
【図8】図8は、PCP誘発機能高進に対する数種のGDA類似化合物の効果を示す。これらの化合物の効能の順位はグリシルトリスカデシルアミド(GTA)>グリシルドデシルアミド(GDA)>グリシルウンデシルアミド(GUA)であった。
【図9】図9は、げっ歯動物におけるPCP誘発機能高進に対する抑制効能と脳ホモジェネート中における[3H]グリシン捕捉の抑制効能の関係を示す。PCP誘発機能高進の抑制効能(PCPのみの場合の%)の順位は[3H]グリシン捕捉の抑制効能の順位と同様であった。
【図10】図10は、P2シナプトソームへの[3H]グリシン捕捉およびGDAと既知のグリシン捕捉アンタゴニストであるサルコシンによる抑制の経時変化を示す。図示する点は各々について3回おこなった3つの別々の実験の平均値±s.e.m.を示す。
【図11】図11は、図示するグリシン誘導体による[3H]グリシン捕捉の抑制を示す。図示する点は各々について3回おこなった3つの別々の実験の平均値±s.e.m.を示す。
【図12】図12は、グリシルヘキシルアミド(GHA)またはGDAによる[3H]グリシン捕捉の抑制を示す。150mg/kgまでの投与量ではPCPで誘発される機能高進の拮抗においては効果のないことが知られているGHAは[3H]グリシン捕捉の抑制に関して非常に低い効能を示した。
【図13】図13は、PCPもしくはアンフェタミンで誘発される機能高進に対するGDA(0.05g/kg)による相対抑制を示す。GDAはPCPで誘発される機能高進に対して著しい拮抗作用を示すが(***p=0.001)、アンフェタミンで誘発される機能高進に対して著しい影響をもたらさなかった。PCPとアンフェタミンの不存在下では全活性は<500カウントであった。
【発明を実施するための形態】
【0026】
脳内のグリシン濃度はNMDAレセプターの近傍におけるグリシンを低濃度に維持するグリシン輸送体(AKA捕捉もしくは再捕捉ポンプ)の作用によって調節される(非特許文献15よび18参照)。従って、グリシン捕捉の妨害は、必然的にその全脳もしくは正味の細胞外濃度を増加させることなくNMDAレセプターの近傍におけるグリシン濃度を増加させる。出願人によって脳のホモジュネート中のグリシン捕捉の有効なアンタゴニストであることが最近明らかにされた化合物であるグリシルドデシルアミド(GDA)を用いた研究が最近おこなわれた{ジャビットおよびフルシアンテによる研究報文(印刷中)}。
【0027】
これらの研究においては、げっ歯動物におけるPCP誘発による機能高進に対するGDAの効果、グリシンの効果を受けやすいことが明らかにされたアッセイ系(文献20参照)およびNMDAレセプター仲介神経伝達を促進するその他の薬剤(非特許文献19参照)について検討されている。グリシン(図5)およびGDA(図6)は類似の活性挙動を示し、基本活性に影響を及ぼすことなくPCP誘発による機能高進を抑制する。しかしながら、GDAはグリシンよりも著しく高い活性を示す。即ち、GDAは0.05g/kgの投与量でPCP誘発による機能高進を、グリシンを0.8g/kg、投与した場合と同じ程度まで抑制する(グリシンの投与量は臨床的試験において用いられている投与量である)。その他のGDAに類似する薬剤もPCP誘発による機能高進を抑制し(図8)、その抑制能はグリシン捕捉の阻害能に比例する(図9)。
【0028】
これらの知見はグリシン捕捉アンタゴニストが精神分裂病のPCP精神病様症候(例えば、拒絶性および認知性症候)の処置においてグリシンよりも同等もしくはそれ以上の効果をもたらすということを示す。本発明のこの態様においては、生体外でのグリシン捕捉阻害およびげっ歯動物におけるPCP誘発による機能高進抑制に有効な投与量でグリシン捕捉アンタゴニストを投与してヒトの患者を処置する。脳内には2種のグリシン捕捉系が存在する。即ち、脊髄、脳幹、間脳および網膜において高濃度で発現すると共に嗅球および脳半球に低濃度で発現するGLYT1輸送体並びに脊髄、脳幹および小脳に制限されるGLYT2輸送体である(非特許文献21参照)。さらに、GLYT1輸送体は部分的にはディファレンシャル・スプライシング(differential splicing)によって生ずる多重イソホルム(multiple isoform)中にも存在する(非特許文献17参照)。本発明のこの態様には、GLYT1もしくはGLYT2仲介グリシン捕捉のインヒビター(該輸送体のいずれかのイソホルムのインヒビターを含む)が包含される。
【0029】
本発明のその他の態様においては、次に例示するような他の精神医学的症状と関連する精神病が処置される: 薬物(例えば、フェンサイクリジン、ケタミンおよびその他の解離性麻酔薬、アンフェタミンおよびその他の精神興奮剤並びにコカイン)によって誘発される精神病、情動障害と関係する精神病、一時的な精神的ストレスによる精神病、情動分裂性精神病、精神病NOS、「精神分裂病スペクトル」障害、例えば分裂質もしくは分裂型性格障害、または精神病と関連する病気(例えば、重度のうつ病、躁うつ病的障害、アルツハイマー病および外傷後ストレス症)。
【0030】
本発明のさらに別の態様においては、グリシン捕捉アンタゴニストが非経口投与される。
【0031】
本発明のその他の目的は以下の発明の詳細な説明によって当業者には明らかとなる。
【0032】
投与は液体状もしくは固体状配合物または注射液(例えば、静脈内注射液)としておこなってもよい(この場合、常套の製剤用キャリヤーを用いてもよい)。適当な製剤には錠剤、カプセル、経口液および非経口注射液が含まれる。錠剤とカプセルの調製には常套の希釈剤および賦形剤等、例えば、常套のカプセルや錠剤の調製に利用されているラクトース等を用いてもよい。経口液として投与する場合には、風味のよい希釈剤を用いて飲みやすい配合物を調製してもよい。
【0033】
本発明に係る化合物は全体的もしくは部分的にグリシン捕捉を阻害するのに十分な量で投与される。グリシンは0.4g/kg/日以上、例えば、0.5g/kg/日もしくはそれ以上の割合で1回〜数回、好ましくは精神分裂病患者の処置において0.8g/kg/日の割合で3回にわけて投与する。グリシン捕捉のアンタゴニストの投与量はグリシンに匹敵するPCP誘発機能高進に対する抑制活性によっておおまかに決定することができる。NMDAレセプター仲介伝達の促進を評価するための簡便なアッセイは以下に説明するスタディー#3で用いたげっ歯動物アッセイである。
【0034】
現在のところGDAは約0.025g/kg/日〜0.50g/kg/日の割合で投与すればよいと考えられており、その他の化合物の投与量はGDAに関連して決定される。グリシン捕捉アンタゴニストは精神病関連疾患の唯一の処置剤として投与するか、あるいは、次のような抗精神病薬の効能を補助するために使用する: 常套の抗精神病薬、例えば、ハロペリドール[ハルドール(商標)]、フルフェナジン[プロリキシン(商標)]、クロルプロマジン[ソラジン(商標)]およびチオリダジン[メラリル(商標)]、異型性抗精神病薬、例えばクロザピン[クロザリル(商標)]およびリスペリドン[リスペリダール(商標)]、抗精神病薬投与による副作用調整用薬剤並びに精神分裂病のような病気や疾患における症状を調整するために一般的に使用されているその他の薬剤。
【0035】
本明細書に記載のような投与量を採用する場合には、グリシン捕捉アンタゴニストは精神分裂病の症候、特に拒絶性症候および認知性機能障害に対して臨床的に有用な効果をもたらす。拒絶性症候に対するグリシン捕捉アンタゴニストの有用な効果は精神分裂病のいずれかのその他の側面、例えば従動自動性症候または興奮に関する悪化がないときにみられる。本発明の1つの態様においては、グリシン捕捉アンタゴニストの投与は、従来の投薬法によっては十分に応答がみられない症候を調整するために不定期間にわたって続行される。
【0036】
本発明においては前記の障害や疾患の処置のために生物学的に許容されるグリシン捕捉アンタゴニストが用いられる。グリシン捕捉インヒビターとしてはグリシルアルキルアミド、例えばグリシルドデシルアミドが挙げられ、また、スタディー#3で用いた他のインヒビターとしてはグリシンアルキルエステルが挙げられる。サルコシンのようなその他のグリシン捕捉アンタゴニストは既知である。本発明の技術的思想を理解する当業者は薬学的に許容されるいずれかのグリシン捕捉アンタゴニストを採用することができる。
【0037】
以下の実施例は精神分裂病の処置におけるグリシンおよびグリシン捕捉アンタゴニストの有効性を例示的に説明するものである。
【実施例1】
【0038】
スタディー#1(ライダーマンらの前記文献参照)
方法:この研究はブロンクス(ニューヨーク)にあるブロンクス・精神病センターにおいておこなわれた。インフォームド・コンセントを得た後でこの研究に参加してあらかじめ二重盲検法においてグリシンを0.4g/kg/日の割合で投与された5人の精神分裂病患者(DSM−IV)を採用した。患者の平均年令は45.0±7.6才であり、慢性的な平均病歴は24.2±5.9年であった。いずれの患者も重度の病状を示した(CG1>4)。すべての患者には試験の少なくとも4週間前から抗精神病薬(クロザピン2、リペリドン2およびハロペリドール1)を投与した。
【0039】
神経弛緩薬療法と平行してグリシンを10g/日(約0.14g/kg/日)の割合で経口投与し、3日目にはその投与量を0.2g/kg/日(約14g/日)に増加させた。グリシンの投与量は2日ごとに0.2g/kg/日ずつ増加させて0.8g/kg/日とし、この投与量を8週間の残存期間にわたって継続した。従命自動性および拒絶性症候基準(PANSS)[ケイらの非特許文献8(1987年)参照]および拒絶性症候の評価基準(SANS)[アンドレーゼンの非特許文献1(1989年)参照]を用いて隔週ごとの評価をおこなった。
【0040】
錐体外路系評価基準(ERS)および異常無意識行動基準(AIMS)を用いて運動性(motoric)副作用を評価した。全ての評価は、先のグリシン処置研究の結果を知らせない一人の個人によっておこなった。グリシンおよび神経弛緩薬(ハロベリドールおよびクロザピン)の血中濃度は隔週ごとに測定した。血漿グリシンは血漿アミノ酸用液体クロマトグラフィー法(内部基準としてO−メチルセリンを用いてグリシン測定用に調整した分析法)[ハリハンらの非特許文献4(1993年)]によって測定した。
【0041】
本明細書に示す値は平均値±標準偏差である。処置の効果は両側検定対t−試験によって決定した。
結果:グリシンの経口投与による処置によってグリシンの血中濃度は著しく増加し(6.3倍)、この値は2〜6週にわたって安定に維持された(図1参照)。6〜8週にかけては統計的に意義のある程度ではないが、グリシンの血中濃度に明らかな低下がみられた。8週間の試験期間中には不都合な効果、例えば衰弱、嘔気および鎮静はみられなかった。SANSを用いたときには拒絶性症候において著しい改善効果がみられた(ベースライン:75.8±7.2、試験後: 72.2±8.6、t=2.79、p=0.049)。一方、PANSSを用いたときには拒絶性症候において改善傾向がみられた(ベースライン:31.0±2.3、試験後: 27.4±3.2、t=2.21、p=0.092)。5人のうちの2人の患者においては拒絶性症候において20%以上の低減効果がみられた。処置応答と全患者のグリシン濃度または個々の患者のグリシン濃度の経時変化との間には著しい関連性はみられなかった。
【0042】
この研究に参加した患者のうち、最も高い処置応答を示した患者は、先の二重盲処置においてグリシンを0.4g/kg/日の割合で投与したときに最も高い応答を示した患者であった[ジャビットらの前記の文献(1994年)参照]。即ち、この研究において測定された全PANSS評価点の変化と先の研究において測定された評価点との間には著しい関連性がみられた(r=0.82、p=0.045)。先の研究の場合のように、この研究においてもPANSS従命自動性症候(t=1.68、df=4、p=0.17)または一般的精神病理学的評価(t=0.72、df=4、p=0.5)においては著しい変化はみられなかった。グリシン処理中の症候に関して錐体外路系においては著しい低減効果がみられたが(t=4.81、df=4、p=0.009)、運動障害においてはこのような効果はみられなかった(t=0.91、df=4、p=0.4)。しかしながら、錐体外路系症候の改善と臨床的応答との間には関連性はみられなかった。グリシン処置によって血清中の神経弛緩薬の濃度は著しい影響を受けなかった。
【実施例2】
【0043】
スタディー#2(ヘレスコ−レービらの前記文献参照)
方法:被験者としてはサラー・ヘルツォグ記念病院の研究病棟(エルサレム、イスラエル)の入院患者を採用した。これらの患者はDSM−III−R(米国精神医学協会、1987年)の精神分裂病と診断されていた。さらに、これらの患者は従来の神経弛緩薬に対する応答が弱いために抗療性があるとみなされていた。試験を開始する前に、少なくとも3カ月間にわたって常套の神経弛緩薬またはクロザピンを臨床的に最適な投与量でこれらの患者に定期的に経口投与した。付加的なDSM−III−R診断を受けた精神分裂病患者の場合には付加的な向精神薬もしくは併用薬を投与するか、または神経学的症状を解消させた。12人の患者をこの研究においては採用した。全ての患者からはこの研究に参加することについて書面によるインフォームド・コンセントを得た。また、この研究は病院の審査委員会の認可を受けた。
【0044】
−2週から0週までの2週間にわたるベースライン評価期間の経過後、二重盲条件下において患者を無作為に指定してグリシン粉末またはプラセボ溶液を6週間(0週〜6週)にわたって投与した。薬剤の投与は二重盲条件下でおこなった。グリシン粉末は水に溶解させて投与した。プラセボ溶液としてはグルコースを用いた。次いで各々の患者には2週間の洗い出し処置に付した後、別の薬剤を6週間(8週〜14週)投与した。グリシンの投与は4g/日の投与量から開始し、4g/日ずつ増加させて1日あたり投与量を0.8g/kg(体重)とした。グリシンは1日ふたり3回に分けて投与した。この研究で用いた他の薬剤は、錐体外路系症候の処置の場合にはトリヘキシフェニジル(2〜5mg/日)であり、不眠症もしくは激越の処置の場合は抱水クロラール[250〜750mg/日(PRN基準)]である。抗パーキンソン薬を必要とする患者にはトリヘキシフェニジルを定期的に投与した。
【0045】
症候および錐体外路系の副作用は、PANSS、錐体外路系症候用シンプソン−アングス基準(SAS)および異常無意識行動基準(AIMS)を用いて−2週から隔週ごとに評価した。研究過程のいずれかの時点において神経弛緩薬の投与量の増加を必要とする患者は研究からはずして適当な処置を施した。この決定は臨床的評価に基づいておこなったが、これはPANSS評価点が少なくとも30%増加することに対応した。
【0046】
身体的な症状の訴えと状態は毎日モニターした。血液学的検査、血液化学的検査、肝臓と腎臓の機能検査および計量は隔週ごとにおこなった。血漿中のグリシン濃度を測定するための血液試料はベースラインの時点および研究の6週と14週の終わりに採取した。採血は朝食前とその日の第1回目の投薬前におこなった。血漿中のグリシン濃度はパーキン・エルマー・ピッケリング社製のアミノ酸アナライザーを用いて測定した(リチウムpH勾配およびニンヒドリンを用いるポストカラム誘導体化法を用いた)。定量はUV検出器(570nm)を用いておこなった。計算はノルロイシン内部基準に基づいておこなった。両側検定による統計的解析はSPSS/PCコンピュータープログラムを用いておこなった。
【0047】
結果:12人の患者のうち11人が最後まで研究に参加した。1人の患者はプラセボ処置の4週目で研究からはずれた。実験を完遂した患者のうちの7人に、研究の第一段階において無作為にグリシンを投与し、残りの4人の患者には無作為にプラセボを投与した。全ての患者は二重盲処置前の2週間における従命自動性および拒絶性症候に変化を示さず、安定した前処置ベースラインを示した(表1参照)。最初の二重盲処置段階でグリシンを投与した患者とプラセボを投与した患者との間には前処置ベースラインには差はみられなかった。
【0048】
グリシンとプラセボに対する処置応答を評価するために、rmANOVAを全患者についておこなった[種々の条件下での同一患者の従属変数ファクター:処置段階(グリシン/プラセボ)および処置週(0、2、4または6)]。経時的相互作用効果による有意な処置に反映されるように、拒絶性症候と一般的な精神病理学的症状に関しては処置法の違いによって極めて著しい相違がみられた(この場合、従命自動性症候の対応する悪化はみられなかった)(表2参照)。しかしながら、一般的な精神病理学的症状と全PANSS評価点における変化が拒絶性症候の評価点における変化に対して共変するときには、著しい処置効果もしくは経時的処置効果はみられなかったが、このことは、一般的な精神病理学的症状における変化は拒絶性症候の変化に対して二次的であることを示す。全PANSS評価点に対するグリシンの著しい効果もみられた。
【0049】
一般的な精神病理学的効果の場合のように、全PANSS評価点の変化は拒絶性症候の変化に対しては著しい共変を示さなかった。処置の順序が全体的結果に影響を及ぼした可能性を評価するために、処置段階と処置週による拒絶性症候のrmANOVAを処置の順序に対して共変させた。経時効果による処置の有意性はF(3,8)=42.6(p<0.0001)であり、このことは全体的効果は処置の順序によって著しい影響を受けなかったことを示す。
【0050】
症候変化の評価点の分析により次のことが明らかになった。拒絶性症候の著しい低減効果がグリシンの処置段階の2週にみられ、この効果は6週後のグリシン処置の終了まで漸増した(図2参照)。6週における拒絶性症候の平均低減率は36.2±7.3%であった(プレグリシン処置のときの値: t=0.22、df=10、p<0.0001)。一般的な精神病理学的症状の低減効果はグリシン処置の4週後に最初にみられるようになり、この効果はその後漸増した。一般的な精神病理学的症状の平均低減率は23.5±10.5%であった(t=7.41、df=10、p<0.0001)。従命自動性症候に関してはグリシン処置群において小さな低減効果がみられた(12.6±18.3%)。この効果はプレグリシン処置のときの値(t=2.29、df=10、p<0.05)に比べると著しく大きいが、グリシン処置の6週の最後における従命自動性症候の変化はプラセボ処置の6週後の変化に比べては著しく大きくはなかった(図2参照)。
【0051】
11人のうちの8人の患者においては、グリシン処置中のPANSS拒絶性症候の低減率は30%もしくはそれ以上であり、また、PANSSの全評価点の低減率は25%もしくはそれ以上であった。プラセボ処置段階においてはいずれのタイプの症候に関しても低減効果はみられず、また、プラセボ処置段階の4週においては一般的な精神病理学的症状に関して小さいが有意な増加効果がみられた。
【0052】
最初の二重盲条件下で11人のうちの7人の患者にグリシンを投与したので、その後のプラセボ処置段階を通して症候の改善効果が維持される程度を評価することができた(図3参照)。いずれの研究段階においてもこれらの7人の患者の場合には従命自動性症候に変化はみられなかったが、拒絶性症候に関してはグリシン処置段階中に著しい改善効果がみられ[F(3,4)=45.7、p=0.001]、この効果はその後も安定に維持され、しかも、その後のプラセボ処置段階においても著しい悪化はみられなかった[F(3,4)=1.86、p=0.28]。同様に、一般的な精神病理学的症候に関してもグリシン処置段階中に著しい改善効果がみられ[F(3,4)=19.2、p<0.01]、この効果はその後も安定に維持され[F(3,4)=2.52、p=0.20]、このことはグリシン処置中にみられる改善効果が研究期間のその後の8週間においても維持されることを示す。
【実施例3】
【0053】
PANSSの5因子分析法
PANSSの伝統的分析法においては、症候は従命自動性症候、拒絶性症候および一般的症候に分類されるが、5因子または7因子を組み込む別の分析法が提案されている。5因子モデルによれば症候は従命自動性のもの、拒絶性のもの、認知性のもの、うつ病性のもの、および興奮性のものに分類される。従命自動性および拒絶性症候以外の精神分裂病の程度に及ぼすグリシンの影響度を測定するために、5因子成分を用いてデータの二次分析をおこなった(図4参照)。3因子分析の場合のように、PANSS従命自動性症候に関してはグリシンまたはプラセボ処置中においては著しい低減効果はみられなかったが、プラセボ処置期間ではなくてグリシン処置期間においては著しく漸進的な改善効果がみられた[経時処置F(3,8)=19.5、p<0.0001]。しかしながら、5因子分析法によれば、うつ症候[F(3,8)=7.23、p<0.02]および認知性症候[F(3,8)=4.74、p<0.05]に対しても著しい低減効果がみられた。うつ症候[F(3,5)=2.13、p=0.22]に対しても著しい認知性症候[F(3,5)=0.89、p=0.51]における改善効果は拒絶性症候における変化に対する共変によって維持されなかった。
【0054】
これに対して、拒絶性症候に対するグリシンの効果は認知性障害またはうつ症候における変化に対する共変によって有意に維持された[F(3,5)=6.8、p=0.032]。この低減率は拒絶性症候の場合が最も大きく(プレグリシン濃度に対して41.0±15.4%、p<0.0001)、次いでうつ症候(23.0±17.9%、p=0.002)および認知性障害(15.2±13.5%、p=0.004)の順であった。興奮症候(11.9±26.3%、p=0.17)および従命自動性症候(9.4±20.5%、p=0.16)の低減率に関しては、統計的有意性はみられなかった。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【実施例4】
【0057】
スタディー#3(ジャビットおよびフルシアンテによる前記文献参照)
グリシルドデシルアミド(GDA)は1986年の非特許文献20に最初に報告されたグリシン誘導体である。当時、この化合物はPCP誘発機能高進の転換に関してはグリシンよりも著しく高い効能をもたらすことが示された。さらに、GDAの投与によって脳内の全グリシン濃度は増加しないことが示され、このことはGDAがグリシンの前駆体として作用しなかったことを示す。当時、PCP誘発機能高進に対するGDA誘発抑制機構は仮定されていなかった。
【0058】
この研究は、PCP誘発機能高進をGDAが脳内でのグリシン再捕捉を阻害することによって抑制し、NMDAレセプターの隣接部におけるグリシン濃度を増加させる可能性を検討するためにおこなった。この仮定はGDAが脳内の全グリシン濃度を増加させることなくPCP誘発機能高進を抑制するという知見に基づくものであるが、先行文献からは明らかでない。
【0059】
グリシン捕捉を研究するために、スプレーグ−ドウリーの成長ラットの皮質からシナプトソームのP2フラクションを調製し、該フラクションを人造CSFに懸濁させた。100nMの[3H]グリシンの捕捉を特定のリガンドの存在下において25℃で所定時間にわたって測定した。インキュベーションは減圧濾過によって終了させた。グリシンの捕捉はインキュベーションの少なくとも最初の10分間にわたっては直線的に増加した(図10参照)。30分後にはプラトーに達し、30〜60分間での捕捉結合の著しい増加はみられなかった。速度論的な結合パラメーターは非線形回帰分析によって決定した。全ての捕捉曲線は一次であった。平均のt1/2値は9.7±0.7分であった。冷グリシンによる[3H]グリシン捕捉の抑制に対するIC50値は78.7±37.8μMであった。特有の[3H]グリシン捕捉は添加したNa+/Cl−の消失により終了した。
【0060】
抑制試験は0.1〜10mMのGDAの不存在下または存在下でのインキュベーションを5分間おこなうことによって実施した(図11参照)。次のいくつかの比較化合物を用いる試験もおこなった:(1)サルコシン(高い効能を有する既知のグリシン捕捉アンタゴニスト)および(2)皮質のグリシン捕捉部位に対して低い親和性を示すことが知られているグリシンエチルエステル(GEE)とグリシンメチルエステル(GME)(文献18参照)。グリシン捕捉の抑制能の順位は次の通りである:グリシン>サルコシン>GDA>GEE>GME。グリシン前駆体として作用するグリシンアミドとD−セリンのIC50は>10mMであった。GDAとサルコシンの効果は30分間のインキュベーション期間を通じて有意に維持された。
【0061】
1mMの濃度のGDAおよびサルコシンは[3H]グリシン捕捉の最大濃度を著しく(p<0.05)低減させ、これらの低減率はそれぞれ29±7%および72±3%であった(図11参照)。5mMのGDAによる[3H]グリシン捕捉の低減率は51±13.3%であった。グリシン捕捉の速度定数に対するこれらの薬剤の効果は著しくはなかった。なお、GDA(7.9±2.9min−1)とサルコシン(6.3±1.9min−1)が存在するときのt1/2値はベースライン条件下の場合よりも幾分小さかった。行動研究におけるGDAの有効濃度を約0.3mmol/kgと仮定するならば、これらの研究は、GDAが行動研究において得られる濃度と同程度の濃度においてグリシン捕捉アンタゴニストとして作用することを証明するものである。
【0062】
NMDAレセプターのグリシン部位におけるGDAの潜在的な直接アゴニスト様効果はNMDAレセプター活性の機能プローブとしてPCPレセプター結合を用いることによって排除された。このアッセイにおいては、グリシン様薬剤はNMDAアゴニスト[GLU(グルタメートの略語)]の不存在下ではなくて存在下においては[3H]MK−801(メルク社製)の結合性を促進する。アッセイはラットの皮質と海馬から調製して5mMのTRIS−酢酸塩緩衝液(pH7.4)中において1mMの[3H]MK−801と特定のリガンドの存在下で15分間インキュベートした粗製シナプス膜を用いておこなった。
【0063】
インキュベーションはワットマンGF/Bフィルターを用いる減圧濾過によって終了させた。非特異的結合性は10μMのMK−801の存在下で測定した。GLUのみを用いるインキュベーションによって結合性は対照条件に比べて9倍増加した[ジャビットおよびフルシアンテの報文(印刷中)]。GLUとグリシンを用いるインキュベーションによって結合性は対照条件に比べて著しく増加し(22倍)、GLUのみを用いるインキュベーションの場合に比べても2.5倍増加した。GLUとGDAの共存下での結合性はGLUのみの存在下での結合性に匹敵し得るものであった。
【0064】
GDAによるグリシン捕捉アンタゴニストの特異性はGABA(γ−アミノ酪酸)とGLUの捕捉に対するグリシン、GCAおよびGDAの効果を評価することによって調べた。方法は、[3H]グリシンの代わりに10nMの[3H]GABAまたはL−[3H]GLUを使用する以外はグリシン捕捉アッセイの場合と同様である。GLU捕捉アッセイおよびGABA捕捉アッセイに対してはL−トランス−ピロリジン−2,4−ジカルボン酸(L−PDC)およびニペコチン酸を活性対照としてそれぞれ使用した。GDAは[3H]グリシン捕捉に対するその効果とは対照的に[3H]GLUと[3H]GABAの捕捉を著しく増加させた。脳内のグリシン輸送体の活性化によってシナプス前のGLUとGABAの放出がもたらされると仮定すると、GLUとGABAの捕捉はグリシン再捕捉抑制の生体外での予想された結果となる[ジャビットおよびフルシアンテの報文(印刷中)]。
【0065】
その後の研究により、げっ歯動物における(1)グリシン捕捉の抑制および(2)PCP誘発機能高進の拮抗に関する数種のGDA様化合物の効能の順位について検討がされた。この研究のために、グリシルトリスカデシルアミド(GTA)、グリシルウンデシルアミド(GUA)およびグリシルヘキシルアミド(GHA)を含む数種類の付加的な化合物を合成した。これらの化合物は、12個の炭素原子を有するGDAとは対照的に、アミドに結合した炭素原子数がそれぞれ13、11および6であるグリシンアミド誘導体である。
【0066】
GTAはPCP誘発機能高進の抑制およびグリシン捕捉の抑制に関してGDAの場合よりも高い効果を示した(図8および図9参照)。GUAは療法のアッセイにおいてより低い効果を示した。最近になって合成されたGHAはグリシン捕捉の抑制に関してGDAの場合に比べて約1/20の効果しか示さなかった(図12参照)。従来は、この化合物を0.15g/kgまで投与することによってはPCP誘発機能高進の阻害に関しては効果がないとされていた(非特許文献20参照)。
【0067】
最近の実験においても、アンフェタミン誘発機能高進に対するGDAの効果は対照条件の場合と同様であった。主としてドーパミンレセプターを阻害することによって臨床的効果をもたらす現在入手し得る抗精神病薬はげっ歯動物におけるPCP誘発機能高進を転換させるかもしれない。しかしながら、これらの薬剤はアンフェタミンによって誘発される機能高進の場合よりもPCP誘発機能高進の阻害に関する効果は低い(非特許文献16参照)。従って、この研究においてはアンフェタミン誘発機能高進に対するGDAの効果を評価した。PCP誘発機能高進を著しく(t=3.30、p=0.001)抑制した投与量(0.05g/kg)のGDAはアンフェタミンによって誘発された機能高進を著しく抑制しなかった(t=0.59、NS)(図13参照)。
【0068】
グリシンがアンフェタミン誘発機能高進を抑制しないことが従来から知られている(このデータは示さない)。従って、この知見は、GDAが現在入手し得る抗精神病薬の場合とは異なる機構によってPCP誘発機能高進を抑制するという技術的思想を支持する。
【0069】
要するに、この実施例はGDAがグリシン捕捉を抑制することおよび投与量が0.05g/kgのGDAがPCP誘発機能高進を投与量が0.8g/kgのグリシンの場合と同程度まで抑制することを例証するものである。なお、この投与量のGDAは選択された脳小室内のグリシン濃度を増加させるかもしれないが、脳内の全グリシン濃度は増加させないことが知られている。グリシン捕捉を阻害するのに有効な投与量のGDAはNMDAレセプターと結合せず、また、他のアミノ酸捕捉神経伝達を抑制しない。GDA類似化合物は皮質のグリシン捕捉の阻害能に比例してPCP誘発機能高進を抑制する。また、PCP誘発機能高進の阻害に対して比較的有効でないことが知られているGDA類似化合物(グリシルヘキシルアミド)もグリシン捕捉の阻害に対して比較的有効でない。PCP誘発機能高進の阻害に有効な投与量のGDAはアンフェタミン誘発機能高進も阻害しない。
【0070】
これらの知見は、グリシン捕捉を阻害する薬剤が脳のNMDAレセプター仲介神経伝達を行動に関連して著しく促進することに関して最初の証左を与えるものである。グリシンをげっ歯動物におけるPCP誘発機能高進を抑制する投与量と同じ量で投与すると精神分裂病の症候に顕著な改善がもたらされるという最近の臨床的知見を仮定するならば、本発明によれば、脳のグリシン捕捉を抑制するGDAおよびその他の化合物が精神分裂病およびその他の精神病の処置に有効であるという知見が得られる。
【0071】
以上の説明により、精神分裂病の症候の処置における本発明の有効性は明らかである。
【0072】
当業者であれば現在知られているか、または将来発見される化学的構造を有するその他の天然に存在するか、または合成されるグリシン捕捉アンタゴニストを選択使用することによって抗精神病薬的効果を得ることができる。
【0073】
また、本発明の種々の変形態様は当業者には明らかなところである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、精神病と精神分裂病の症候群で患う患者へグリシン捕捉アンタゴニストを投与することによって、該患者を効果的に治療することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NMDAレセプター仲介神経伝達を促進するのに十分な量のグリシン捕捉アンタゴニストをヒトに投与することを含む、ヒトにおけるNMDAレセプター仲介神経伝達促進法。
【請求項2】
精神病で患うヒトの患者に、NMDAレセプター仲介神経伝達を促進するのに十分な量のグリシン捕捉アンタゴニストを該患者に投与することを含む該患者の処置法。
【請求項3】
精神病が病気と関連する請求項2記載の方法。
【請求項4】
病気が重度のうつ病、躁うつ病、アルツハイマー病または外傷後ストレス症である請求項2記載の方法。
【請求項5】
精神病が薬物中毒と関連する請求項2記載の方法。
【請求項6】
薬物が解離性麻酔薬または精神刺激薬である請求項5記載の方法。
【請求項7】
精神分裂病で患うヒトの患者にNMDAレセプター仲介神経伝達を促進するのに十分な量のグリシン捕捉アンタゴニストを投与することを含む精神分裂病の処置法。
【請求項8】
抗精神病薬も患者に投与する請求項7記載の方法。
【請求項9】
抗精神病薬が神経弛緩薬である請求項8記載の方法。
【請求項10】
GLYT1またはGLYT2仲介グリシン捕捉が抑制される請求項1記載の方法。
【請求項11】
GLYT1またはGLYT2仲介グリシン捕捉が抑制される請求項2記載の方法。
【請求項12】
GLYT1またはGLYT2仲介グリシン捕捉が抑制される請求項7記載の方法。
【請求項1】
NMDAレセプター仲介神経伝達を促進するのに十分な量のグリシン捕捉アンタゴニストをヒトに投与することを含む、ヒトにおけるNMDAレセプター仲介神経伝達促進法。
【請求項2】
精神病で患うヒトの患者に、NMDAレセプター仲介神経伝達を促進するのに十分な量のグリシン捕捉アンタゴニストを該患者に投与することを含む該患者の処置法。
【請求項3】
精神病が病気と関連する請求項2記載の方法。
【請求項4】
病気が重度のうつ病、躁うつ病、アルツハイマー病または外傷後ストレス症である請求項2記載の方法。
【請求項5】
精神病が薬物中毒と関連する請求項2記載の方法。
【請求項6】
薬物が解離性麻酔薬または精神刺激薬である請求項5記載の方法。
【請求項7】
精神分裂病で患うヒトの患者にNMDAレセプター仲介神経伝達を促進するのに十分な量のグリシン捕捉アンタゴニストを投与することを含む精神分裂病の処置法。
【請求項8】
抗精神病薬も患者に投与する請求項7記載の方法。
【請求項9】
抗精神病薬が神経弛緩薬である請求項8記載の方法。
【請求項10】
GLYT1またはGLYT2仲介グリシン捕捉が抑制される請求項1記載の方法。
【請求項11】
GLYT1またはGLYT2仲介グリシン捕捉が抑制される請求項2記載の方法。
【請求項12】
GLYT1またはGLYT2仲介グリシン捕捉が抑制される請求項7記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−167205(P2009−167205A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66534(P2009−66534)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【分割の表示】特願平9−521348の分割
【原出願日】平成8年12月5日(1996.12.5)
【出願人】(509044637)
【氏名又は名称原語表記】Daniel C. JAVITT
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【分割の表示】特願平9−521348の分割
【原出願日】平成8年12月5日(1996.12.5)
【出願人】(509044637)
【氏名又は名称原語表記】Daniel C. JAVITT
【Fターム(参考)】
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