説明

グリス塗布装置

【課題】 軸端部Gに容易かつ一様にグリスを塗布することのできるグリス塗布装置を提供する。
【解決手段】 円周面にグリスが塗布された円筒状のスポンジローラー15を二つ、円周面を対向させて円周面が接触するように回転させ、その円周面が接触している部分に軸端部Gを差し入れることで、軸端部Gの外周面にグリスを塗布するようにしている。
これによれば、片手でドア24を持って簡単にすばやく軸端部Gにグリスを塗布することができる。また接触しながら回転しているスポンジローラー15からの転写となるため、軸端部Gの外周面にグリスを略一様に塗布することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に用いるドア手段の軸端部にグリスを塗布する場合などに適用して好適なグリス塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用空調装置の車室内ユニット部には、空気通路切り替え手段として複数の各種ドア手段が用いられている。その多くは軸回動式のものであり、空調ケースに設けられた軸孔にドア手段の回動軸の軸端部を差し込み、空調ケース内で回動させるものである。このときの軸孔と軸端部との摩擦を軽減して滑らかに回動させるため、軸端部に適量のグリスを刷毛で塗って組み付けている。なお、グリス塗布装置の従来技術としては下記特許文献1にコイルスプリングにグリスを塗布するグリス塗布治具が示されている。
【特許文献1】実開平6−62298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、両側の軸端部に刷毛によってグリスを塗布する作業は、両手での協調作業であり難しくて工数が係るうえ、軸端部へ一様にグリスを塗布することが困難である。また近年、ドア部周縁のシール部にエラストマー樹脂を用いてシールリップを形成したエラストマードアが用いられている。このエラストマードアにおいては刷毛によるグリス塗布などでグリスがエラストマー樹脂で形成したシールリップに付着してしまうと、シールリップが膨潤して変形し、シール性能が悪化するという問題がある。
【0004】
本発明は、上記従来の問題に鑑みて成されたものであり、その目的は、軸端部に容易かつ一様にグリスを塗布することのできるグリス塗布装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記目的を達成するために、請求項1ないし請求項5に記載の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、円周面にグリスが塗布された円筒状のスポンジローラー(15)を二つ、円周面を対向させて円周面が接触するように回転させ、その円周面が接触している部分に軸端部(G)を差し入れることで、軸端部(G)の外周面にグリスを塗布するようにしたことを特徴としている。
【0006】
この請求項1に記載の発明によれば、片手でドア手段(23a、24、31〜33)を持って簡単にすばやく軸端部(G)にグリスを塗布することができる。また接触しながら回転しているスポンジローラー(15)からの転写となるため、軸端部(G)の外周面にグリスを略一様に塗布することができる。
【0007】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のグリス塗布装置において、スポンジローラー(15)は、軸心側を硬めのスポンジ(15b)とし、円周面となる部分は柔らかめのスポンジ(15c)としたことを特徴としている。
【0008】
この請求項2に記載の発明によれば、軸心側の硬めのスポンジ(15b)がへこむことで、接触しているスポンジローラー(15)の間に軸端部(G)が入り込むことを許容し、その差し入れられた軸端部(G)に接触する円周面となる部分は柔らかめのスポンジ(15c)とすることで軸端部(G)を包み込むように接触するため、ドア手段(23a、24、31〜33)を回転させなくとも軸端部(G)の外周面全域にグリスを略一様に塗布することができる。
【0009】
また、請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載のグリス塗布装置において、スポンジローラー(15)よりも小径の補給ローラー(17)を、接触しながら回転する二つのスポンジローラー(15)のいずれかの円周面と対向させて円周面と接触するように回転させ、補給ローラー(17)の外周面にグリスを塗布することで二つのスポンジローラー(15)の円周面にグリスを転写して補給することを特徴としている。
【0010】
この請求項3に記載の発明によれば、補給ローラー(17)の外周面に塗布されたグリスが、一方のスポンジローラー(15)と接触回転することで薄く延ばされながら一方のスポンジローラー(15)の円周面に多点で転写され、そのスポンジローラー(15)が他方のスポンジローラー(15)と接触回転することで他方のスポンジローラー(15)の円周面にもグリスが多点で転写される。それが接触回転しているうちに更に薄く延ばされることより、両方のスポンジローラー(15)の円周面一様にグリスを補給することができる。
【0011】
また、請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3のうちいずれか1項に記載のグリス塗布装置において、軸端部(G)は、車両用空調装置(20)に用いるドア手段(23a、24、31〜33)の軸端部(G)であることを特徴としている。これは、本方法であればシールリップにグリスを付着させることも容易に防げ、ドア手段(23a、24、31〜33)の軸端部(G)に容易かつ一様にグリスを塗布するのに適していることによるものである。
【0012】
また、請求項5に記載の発明では、請求項4に記載のグリス塗布装置において、二つのスポンジローラー(15)を二箇所に配設し、ドア手段(23a、24、31〜33)の両側の軸端部(G)に同時にグリスを塗布するようにしたことを特徴としている。この請求項5に記載の発明によれば、片手でドア手段(23a、24、31〜33)を持って極めて簡単な作業で両側の軸端部(G)にグリスを略一様に塗布することができる。ちなみに、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について添付した図面を用いて詳細に説明する。図1は、図2のドア手段24が使われる車両用空調装置(車室内ユニット部)20の概略構造を示す断面模式図である。車室内ユニット部20は通常、車室内前部の計器盤内側に搭載されている。車室内ユニット部20の空調ケース21は車室内へ向かって送風される空気の通路を構成するものであり、この空調ケース21内にエバポレータ(冷却用熱交換器)19が設置されている。
【0014】
空調ケース21において、エバポレータ19の上流側には送風機22が配置され、送風機22には遠心多翼式の送風ファン22aと駆動用モーター22bが備えられている。送風ファン22aの吸入側には内外気切り替え箱23が配置され、この内外気切り替え箱23内の内外気切り替えドア(ドア手段)23aにより外気(車室外空気)または内気(車室内空気)が切替導入される。
【0015】
空調ケース21内で、エバポレータ19の下流側にはエアミックスドア(ドア手段)24が配置され、このエアミックスドア24の下流側には図示しない車両エンジンの冷却水(温水)を熱源として空気を加熱する温水式ヒータコア(加熱用熱交換器)25が設置されている。そして、この温水式ヒータコア25の側方(上方部)には、温水式ヒータコア25をバイパスして空気(冷風)を流すバイパス通路26が形成されている。
【0016】
エアミックスドア24は、温水式ヒータコア25を通過する温風になるものとバイパス通路26を通過する冷風との風量割合を調節するものであって、この冷温風の風量割合の調節によって車室内への吹出空気温度を調節する。従って、エアミックスドア24は車室内への吹出空気の温度調節手段を構成しており、温水式ヒータコア25からの温風とバイパス通路26からの冷風を空気混合部27で混合して、所望温度の空気を作り出すことができる。
【0017】
更に、空調ケース21内で空気混合部27の下流側に吹出モード切替部が構成されている。すなわち、車両フロントガラス内面に空気を吹き出すデフロスタ開口部28、車室内乗員の上半身側に向けて空気を吹き出すフェイス開口部29、および車室内乗員の足元に向けて空気を吹き出すフット開口部30があり、それぞれを吹出モードドアとしてのデフロスタドア(ドア手段)31・フェイスドア(ドア手段)32・フットドア(ドア手段)33によって開閉するようになっている。
【0018】
なお、図1で示すドア手段は全て回動軸を中心として回転する軸回動式のものであるが、内外気切り替えドア23aは円周面側に板部を構成したロータリー式のドアであり、エアミックスドア24は単純に回動軸の片側に板部を構成した片持ち式の板ドアであり、吹出モードドアの3枚は回動軸の両側に板部を構成したバタフライ式のドアである。
【0019】
図2は、本発明の実施形態に係わるドア手段の一例を示す図である。以降、一番一般的な片持ち式の板ドア24を例として説明を行う。図2の24aは回動軸、24bはその回動軸24aの片側に形成された板部、24cは板部24bの周縁に形成されたシールリップ部、24dは軸周りのシールをするために回動軸24aの片側に形成された軸シール部である。そしてGは、空調ケース21に形成された図示しない軸孔部に嵌まって回転摺動する軸端部である。
【0020】
次に、この軸端部Gの外周面に潤滑用のグリスを塗布する本発明のグリス塗布装置10について説明する。図3の(a)は本発明の一実施形態におけるグリス塗布装置の正面図であり、(b)は(a)中のA−A断面、(c)は(a)中のB−B断面である。所定の大きさおよび深さをもつ金属や樹脂で成形された耐蝕性の本体ケース11を備え、このケース11の内部12が、ドア24の板部24bおよびそれを持っている作業者の手が入り込むスペースとなっている。
【0021】
ケース11の両脇には、ケース11に取り付けたモーター取り付けケース13に囲われてグリス塗布機構室14が形成されている。両側のモーター取り付けケース13の内面側には、グリス塗布用のスポンジローラー15を駆動するサーボモーター16がそれぞれ2個ずつ取り付けられており、それぞれのサーボモーター16の回転軸にスポンジローラー15が取り付けられている。
【0022】
左右とも、スポンジローラー15は円周面を対向させて円周面が接触するように配置され、それぞれ接触した面が手前側に出てくる方向に回転させている(10秒/1回転程度)。図4は、図3中のスポンジローラー15の構造を示す図である。15aは樹脂でできた芯ローラーであり、その芯ローラー15aの外側に硬めのスポンジ15bを接着し、その硬めのスポンジ15bの外側に柔らかめのスポンジ15cを接着している。この柔らかめのスポンジ15cはスポンジローラー15の円筒(外周)面となってグリスが塗られており、被グリス塗布部品に接触してグリスを塗布する部分である。
【0023】
ケース11の左右側壁11aの中央部には、ドア24の軸端部Gだけをグリス塗布機構室14内に突出させるための溝部11bが形成されている。この溝部11bのすぐ外側のグリス塗布機構室14には、前述した両スポンジローラー15の接触部が配置されている。
【0024】
そして、ドア24の板部24bを手で持ち、板部24bをスペース12内に差し入れ、軸端部Gだけをグリス塗布機構室14内の両スポンジローラー15の接触部に差し入れることで軸端部Gだけにグリスが塗布される。本実施形態では両側に同様のグリス塗布機構を設けているため、ドア24の両側の軸端部Gに同時にグリスを塗布できることとなる。
【0025】
また、本実施形態のグリス塗布装置では、図示しないがケース11でのスペース12を片側基準で左右方向に可変できるようになっており、両側の軸端部G間の寸法が異なるドアにおいても位置段取りすることによって使用できるようになっている。図1中の17は、両スポンジローラー15にグリスを補給するための補給ローラー17であり、スポンジローラー15よりも小径で、接触しながら回転する二つのスポンジローラー15のいずれかの円周面と対向させて円周面と接触するように回転させている。
【0026】
本実施形態ではノズル(図3(c)中の2点鎖線部)から補給ローラー17の外周面にグリスを吐出すると、それと接触している一方のスポンジローラー15の円筒面にグリスが転写され、それと接触しながら回転している他方のスポンジローラー15の円筒面にもグリスが転写されて補給されるようになっている。
【0027】
次に、本実施形態での特徴と、その効果について述べる。まず、円周面にグリスが塗布された円筒状のスポンジローラー15を二つ、円周面を対向させて円周面が接触するように回転させ、その円周面が接触している部分に軸端部Gを差し入れることで、軸端部Gの外周面にグリスを塗布するようにしている。これによれば、片手でドア24を持って簡単にすばやく軸端部Gにグリスを塗布することができる。また接触しながら回転しているスポンジローラー15からの転写となるため、軸端部Gの外周面にグリスを略一様に塗布することができる。
【0028】
また、スポンジローラー15は、軸心側を硬めのスポンジ15bとし、円周面となる部分は柔らかめのスポンジ15cとしている。これによれば、軸心側の硬めのスポンジ15bがへこむことで、接触しているスポンジローラー15の間に軸端部Gが入り込むことを許容し、その差し入れられた軸端部Gに接触する円周面となる部分は柔らかめのスポンジ15cとすることで軸端部Gを包み込むように接触するため、ドア24を回転させなくとも軸端部Gの外周面全域にグリスを略一様に塗布することができる。
【0029】
また、スポンジローラー15よりも小径の補給ローラー17を、接触しながら回転する二つのスポンジローラー15のいずれかの円周面と対向させて円周面と接触するように回転させ、補給ローラー17の外周面にグリスを塗布することで二つのスポンジローラー15の円周面にグリスを転写して補給するようにしている。
【0030】
これによれば、補給ローラー17の外周面に塗布されたグリスが、一方のスポンジローラー15と接触回転することで薄く延ばされながら一方のスポンジローラー15の円周面に多点で転写され、そのスポンジローラー15が他方のスポンジローラー15と接触回転することで他方のスポンジローラー15の円周面にもグリスが多点で転写される。それが接触回転しているうちに更に薄く延ばされることより、両方のスポンジローラー15の円周面一様にグリスを補給することができる。
【0031】
また、軸端部Gは、車両用空調装置20に用いるドア23a・24・31〜33の軸端部Gである。これは、本方法であればシールリップにグリスを付着させることも容易に防げ、ドア23a・24・31〜33の軸端部Gに容易かつ一様にグリスを塗布するのに適していることによるものである。
【0032】
また、二つのスポンジローラー15を二箇所に配設し、ドア23a・24・31〜33の両側の軸端部Gに同時にグリスを塗布するようにしている。これによれば、片手でドア23a・24・31〜33を持って極めて簡単な作業で両側の軸端部Gにグリスを略一様に塗布することができる。
【0033】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、片持ち式の板ドア24で説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、他の軸回動式ドアであるロータリー式ドア23aやバタフライ式ドア31〜33についても同様にグリス塗布することが可能である。また、本発明はグリス塗布に限らず、軸端部Gに接着剤など他の物質を塗布する作業やマーキングする作業、または軸端部Gを洗浄する作業や磨く作業などにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図2のドア手段が使われる車両用空調装置(車室内ユニット部)20の概略構造を示す断面模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係わるドア手段の一例を示す図である。
【図3】(a)は本発明の一実施形態におけるグリス塗布装置10の正面図であり、(b)は(a)中のA−A断面、(c)は(a)中のB−B断面である。
【図4】図3中のスポンジローラー15の構造を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
10…グリス塗布装置
15…スポンジローラー
17…補給ローラー
20…車両用空調装置
23a…内外気切り替えドア、ロータリー式ドア(ドア手段)
24…エアミックスドア、片持ち式板ドア(ドア手段)
31…デフロスタドア、バタフライ式ドア(ドア手段)
32…フェイスドア、バタフライ式ドア(ドア手段)
33…フットドア、バタフライ式ドア(ドア手段)
G…軸端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周面にグリスが塗布された円筒状のスポンジローラー(15)を二つ、前記円周面を対向させて前記円周面が接触するように回転させ、その前記円周面が接触している部分に軸端部(G)を差し入れることで、前記軸端部(G)の外周面にグリスを塗布するようにしたことを特徴とするグリス塗布装置。
【請求項2】
前記スポンジローラー(15)は、軸心側を硬めのスポンジ(15b)とし、前記円周面となる部分は柔らかめのスポンジ(15c)としたことを特徴とする請求項1に記載のグリス塗布装置。
【請求項3】
前記スポンジローラー(15)よりも小径の補給ローラー(17)を、前記接触しながら回転する二つのスポンジローラー(15)のいずれかの前記円周面と対向させて前記円周面と接触するように回転させ、前記補給ローラー(17)の外周面にグリスを塗布することで前記二つのスポンジローラー(15)の前記円周面にグリスを転写して補給することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のグリス塗布装置。
【請求項4】
前記軸端部(G)は、車両用空調装置(20)に用いるドア手段(23a、24、31〜33)の軸端部(G)であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のうちいずれか1項に記載のグリス塗布装置。
【請求項5】
前記二つのスポンジローラー(15)を二箇所に配設し、前記ドア手段(23a、24、31〜33)の両側の軸端部(G)に同時にグリスを塗布するようにしたことを特徴とする請求項4に記載のグリス塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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