説明

グリース組成物及び機械部品

【課題】耐フレッチング性及び汎用性に優れたグリース組成物及びこれを使用した機械部品を提供すること。
【解決手段】ウレア系増ちょう剤、基油、ホスホロチオエート系化合物及びアミン系化合物を含有するグリース組成物及びこれを使用した機械部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリース組成物に関し、特に耐フレッチング性に優れるグリース組成物及びこれを使用した機械部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や電機製品、各種機械部品や製品は鉄道やトラックで運搬される場合が多い。この運搬時、レールの継ぎ目や悪路が起因した振動で、グリースが塗布された潤滑部品にフレッチングが発生する。フレッチングは微小振幅下で発生する表面損傷であり、大気中では酸化摩耗粉を生成し、そのアブレッシブ作用により激しい摩耗を生じることが多いといわれている(非特許文献1)。
フレッチングの防止対策としては、(1)相対滑り量の低減、(2)両面の分離、直接接触の防止、(3)リン酸塩被膜などの接触面の被覆又は潤滑油・グリースの供給による表面間の凝着の防止、等が提案されている(非特許文献1)。
実際に耐フレッチング性が要求され、開発及び検討が良く行われているグリースは、自動車用ホイールベアリング用のグリースである。このようなグリースとして、増ちょう剤に芳香族ジウレアを用い、ちょう度を軟らかくしたものが、従来のリチウム石けんグリースと比較して、耐フレッチング性が著しく改善されたことも報告されている(非特許文献2)。
【0003】
このように、耐フレッチング性改善手段としては、現実的には増ちょう剤の種類の変更(芳香族ウレア皮膜による上記(2)の効果)や、ちょう度を軟らかくすること(グリースの流入を良くする)等の対応がとられてきた。
また、基油、硫黄含有化合物を含む極圧化合物、ヒドロカルビルアミン化合物、アルキルホスホロチオエート化合物および摩擦調整用化合物を含む、向上した負荷容量を有するギアオイル添加剤濃縮物およびこれを含有させたギアオイルが開示されている(特許文献1)。
しかし、芳香族ジウレアは、流動性に劣り、たとえば軸受に使用した場合、深溝玉軸受では長寿命を呈するものの、アンギュラ玉軸受では潤滑部への流入不足から潤滑寿命が短いという欠点を有し、使用できる軸受が限られる。したがって、増ちょう剤の変更による改善は、得られたグリースが汎用性に欠けるという問題がある。
また、ちょう度を軟らかくすると、漏えいの問題が生じ、漏れが問題となる部位には使用できない。したがって、これもグリースとして汎用性に欠けるものとなる。
【0004】
【特許文献1】特開2005−126709
【非特許文献1】山本雄二ら:トライボロジー,理工学社、1998年2月28日発行、201〜203頁)
【非特許文献2】T.Endo: Eurogrease, November/December(1997)、25〜40頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、フレッチング摩耗を低減できるグリース組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、耐フレッチング性及び汎用性に優れたグリース組成物を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、上記グリース組成物を使用した機械部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、増ちょう剤と基油を含むグリースにホスホロチオエート系化合物とアミン系化合物を添加することにより、上記課題を達成したものであり、以下に示すグリース組成物を提供するものである。
1.ウレア系増ちょう剤、基油、ホスホロチオエート系化合物及びアミン系化合物を含有するグリース組成物。
2.ウレア系増ちょう剤が、次式(I)で示されるジウレア系増ちょう剤である上記1記載のグリース組成物。
R1-NHCONH-C6H4-CH2-C6H4-NHCONH-R2 (I)
(式中、R1及びR2は同一もしくは異なる、炭素原子数6〜30のアルキル基、炭素原子数6又は7のアリール基もしくはシクロヘキシル基である)
3.ホスホロチオエート系化合物がアルキルホスホロチオエート化合物である上記1又は2記載のグリース組成物。
4.アミン系化合物が脂肪族アミン、脂環族アミン、及び芳香族アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物。
5.基油が鉱油、合成油又はそれらの混合物であり、40℃の動粘度が50〜250mm2/sである上記1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物。
6.上記1〜5のいずれか1項記載のグリース組成物を使用した機械部品。
7.軸受である上記6記載の機械部品。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、ホスホロチオエート系化合物とアミン系化合物によって接触面が被覆されることにより、耐フレッチング性が向上するものと考えられる。
すなわち、ホスホロチオエート系化合物とアミン系化合物による接触面の被覆と、リン酸塩皮膜などの接触面の被覆は、どちらも分子を吸着させて接触面を被覆し、フレッチング摩耗を低減していると考えられる。潤滑油・グリースの供給による表面間の凝着の防止は油膜または増ちょう剤を接触面間に介在させて、直接接触を防ぎフレッチング摩耗を低減していると考えられる。
本発明のグリースは、潤滑油・グリースの供給を維持すると同時に、耐フレッチング性に優れるウレア系増ちょう剤を用いることと、ホスホロチオエート系化合物とアミン系化合物による接触面の被覆によって、耐フレッチング性をさらに向上したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のグリース組成物に使用される基油としては、鉱油、合成油又はその混合物が好ましい。合成油の例としては、ジエステル、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油、ポリαオレフィン、ポリブテンに代表される合成炭化水素油、アルキルジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールに代表されるエーテル系合成油、シリコーン油、フッ素化油などの各種合成油が挙げられる。基油の動粘度(40℃)は70〜200mm2/s程度が好ましい。
【0009】
本発明のグリース組成物に使用される増ちょう剤としては、ジウレアに代表されるウレア系増ちょう剤が挙げられる。ウレア系増ちょう剤は、耐熱性に優れ、他の増ちょう剤と比較して欠点が少なく、高価でないため、実用性のある増ちょう剤である。特に好ましいウレア系増ちょう剤は、式(I)で示されるジウレア系増ちょう剤である。
本発明のグリース組成物中の増ちょう剤の含有量は、グリース組成物のちょう度を190〜325程度に調整するのに必要な量であり、グリース組成物全体に対して、好ましくは5〜30質量%、さらに好ましくは7〜20質量%である。
【0010】
本発明のグリース組成物に使用されるホスホロチオエート系化合物の好ましい例は、下記の一般式で示されるものである。本発明で使用するホスホロチオエート系化合物及びその製造方法は、例えば、特許文献1(特開2005-126709)に記載されている。
【0011】

【0012】
式中、R1、R2およびR3は、各々独立して、置換もしくは非置換アルキル基または水素原子であり、ここで、R1、R2およびR3の中の少なくとも1つは置換もしくは非置換アルキル基であり、そしてX1、X2およびX3は、各々独立して酸素原子または硫黄原子である。
R1、R2、R3のアルキル基は炭素原子数が1から24、好ましくは炭素原子数が3から20、具体例としては、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等が挙げられる。また、置換基としては例えば、アシル基、水酸基、C1〜6アルコキシ基、C6〜20のフェニル基、C6〜20の脂肪酸エステル基等が挙げられる。
本発明のグリース組成物中のホスホロチオエート系化合物の含有量は、グリース組成物全体に対して、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.3〜5質量%である。
【0013】
本発明のグリース組成物に使用されるアミン系化合物としては、アルキレンアミン化合物、第一級アルキルアミン、第三級脂肪族第一級アミン、第二級アルキルアミンが挙げられ、これらの単独又は混合して使用することが出来る。
アミン系化合物の具体例としては、N−オレイル−トリメチレンジアミン、N−タロウ−トリメチレンジアミン、N−ココ−トリメチレンジアミン等が挙げられる。
本発明のグリース組成物中のアミン系化合物の含有量は、グリース組成物全体に対して、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.3〜5質量%である。
【0014】
本発明のグリース組成物には、ホスホロチオエート系化合物とアミン系化合物の混合物として市販されているものも使用できる。このような市販品としては、アフトンケミカル製HiTEC833が挙げられる。
本発明のグリース組成物には、必要に応じて酸化防止剤、錆止め剤、金属腐食防止剤、油性剤、耐摩耗剤、極圧剤、固体潤滑剤などを添加しても良い。
【0015】
本発明のグリース組成物は、潤滑を必要とする種々の機械部品に使用される。このような機械部品としては、例えば、転がり軸受、ボールねじ、直動案内軸受、各種のギヤ、カム、等速ジョイント、ジャーナル軸受(滑り軸受)、ピストン、ねじ、ロープ、チェーンなどが挙げられる。
【0016】
実施例1
表1に示す成分を用いてグリース組成物を調製した。
増ちょう剤としては、脂肪族と脂環族を含むジウレア(式(I)においてR1及びR2がそれぞれオクタデシル基、シクロヘキシル基(モル比、オクタデシル基:シクロヘキシル基=70:30)である化合物)を使用した。
ちょう度は、300に統一した。
基油には、鉱油(P系鉱油)と合成炭化水素油の75:25(質量比)混合油を使用した。この基油の動粘度(40℃)は90mm2/sであった。
耐フレッチング性の改善のための添加剤として、アルキルホスホロチオエート化合物とアミン系化合物の混合品であるアフトンケミカル製HiTEC833を1質量%添加した。他の添加剤として、下記の添加剤を使用した。括弧内はグリース組成物を100質量%としたときの、添加剤の添加量を示す。
酸化防止剤:フェノール系(0.3%)、
錆止め剤 :ナフテン酸亜鉛(1.0%)
アルケニルコハク酸ポリイミド(0.5%)
アルキルベンゼンスルホン酸カルシウム(0.2%)
亜硝酸ナトリウム(1.42%)
極圧剤 :ZnDTP(1.0%)
SP系(0.5%)
比較例1
実施例1において、アフトンケミカル製HiTEC833を添加しなかった他は同様にしてグリース組成物を調製した。
比較例2及び3
実施例1及び比較例1において、増ちょう剤としてウレア化合物の代わりにLi石けんを使用した他は同様にしてグリース組成物を調製した。
【0017】
<試験方法>
ちょう度はJIS K 2220.7により測定した。
耐フレッチング性は、Fafnir friction oxidation test(ADTM D 4170準拠)により評価した。下記試験スラスト軸受2組に試験グリースを塗布し、規定の揺動運転を行い、摩耗量(フレッチング摩耗による重量減)を求める。
[試験条件]
軸受 :ANDREWS W 5/8
荷重 :2450N(550lbf)(面圧:1861MPa)
揺動角 :0.21rad(12°)
揺動サイクル :25Hz
時間 :22h
温度 :-10℃
グリース封入量:軸受1組当たり1.0g
摩耗量 :軸受1組当たりのレース質量減(試験軸受レースの総質量減/2)
結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

※アフトンケミカル製HiTEC833
【0019】
耐フレッチング添加剤としてアルキルホスホロチオエート化合物とアミン系化合物を添加した実施例1では、摩耗量が6.5mgとなり、耐フレッチング添加剤を含まない比較例1の13.4mgに比べ約半分になっており、顕著な改善が認められた。
増ちょう剤としてLi石けんを使用した比較例2及び3では、耐フレッチング添加剤の添加による摩耗量の減少効果は少ないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレア系増ちょう剤、基油、ホスホロチオエート系化合物及びアミン系化合物を含有するグリース組成物。
【請求項2】
ウレア系増ちょう剤が、次式(I)で示されるジウレア系増ちょう剤である請求項1記載のグリース組成物。
R1-NHCONH-C6H4-CH2-C6H4-NHCONH-R2 (I)
(式中、R1及びR2は同一もしくは異なる、炭素原子数6〜30のアルキル基、炭素原子数6又は7のアリール基もしくはシクロヘキシル基である)
【請求項3】
ホスホロチオエート系化合物がアルキルホスホロチオエート化合物である請求項1又は2記載のグリース組成物。
【請求項4】
アミン系化合物が脂肪族アミン、脂環族アミン、及び芳香族アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物。
【請求項5】
基油が鉱油、合成油又はそれらの混合物であり、40℃の動粘度が50〜250mm2/sである請求項1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のグリース組成物を使用した機械部品。
【請求項7】
軸受である請求項6記載の機械部品。

【公開番号】特開2008−239687(P2008−239687A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79101(P2007−79101)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】