説明

グリース組成物

【課題】攪拌抵抗を低くしたグリース組成物を提供すること。
【解決手段】増ちょう剤と、基油とを含み、前記増ちょう剤が下記式(1)で示されるジウレア化合物であり、かつグリース組成物中の前記増ちょう剤量の割合が3〜20質量%であるグリース組成物。


(式(1)中、R2は、ジフェニルメタン基を示す。R1及びR3は、同一でも異なっていても良く、シクロへキシル基又は炭素数8〜22の直鎖又は分岐アルキル基を示す。式(1)中、シクロへキシル基とアルキル基の総モル数に対するシクロへキシル基のモル数の割合[{(シクロへキシル基の数)/(シクロへキシル基の数+アルキル基の数)}×100]は70〜80モル%である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受、歯車、ボールネジ、直動軸受、カム又は継ぎ手等の各種機械部品の潤滑に使用できるグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費エネルギー削減の観点から、自動車を始め、各産業で使用される電気機器や機械部品は、高効率化が求められており、部品の軽量化や構造の改良など、種々の検討がなされている。特に回転体を持つ機械部品は、潤滑剤が攪拌されるため、その抵抗がエネルギーロスに繋がる。したがって、攪拌抵抗の低い潤滑剤が求められている。
例えばエンジン油やトランスミッション油では、潤滑油の攪拌抵抗を低減するために、低粘度化が提案されている(非特許文献1および2)。しかしながら、これらの対策では、油の低粘度化に起因した油膜切れを起こし、潤滑部表面の損傷が懸念される。
【0003】
グリースは長期間、無給脂でも潤滑できることや、密封装置が単純であること、必要量が少ないこと、漏れによる汚損が少ないことなど、潤滑油と比較して優れている点があることから、回転体を持つ多くの機械部品に使用されている。しかしながら、グリースは、基油と増ちょう剤を含む半固体状の潤滑剤であるため、潤滑油と比較し、見掛け粘度が高く、攪拌抵抗が大きい。
これまで、グリースの攪拌抵抗を低減するために、潤滑油の場合と同様に、基油の動粘度をできるだけ低くすることが常套手段とされてきた。例えば特許文献1では、特定構造であるジエステル油を含有する基油を用いたグリース組成物が提案されており、実施例には40℃における動粘度が20.16mm2/sのジエステル油が記載されている。
しかし、グリースの基油の動粘度を下げると攪拌抵抗は低減するものの、潤滑油について述べたのと同様に、油膜切れが発生し、充分な寿命、例えば、はく離寿命、焼付き寿命が満足できなくなるため、使用可能な基油は限定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−132754公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】遠山、大森、筒井、山本:「低摩擦ガソリンエンジン油−低粘度化と摩擦調整剤の効果」、豊田中央研究所R&Dレビュー、Vol.32、No.4(1997.12)
【非特許文献2】金本、上野、片山、佐藤:「トランスミッション用商品の技術動向と開発商品」、NTN TECHNICAL REVIEW、No.75(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、攪拌抵抗を低くしたグリース組成物を提供することである。
本発明はまた、前記グリース組成物を封入した機械部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対し、適切な増ちょう剤を選定することでこれを解決した。すなわち、本発明により、以下のグリース組成物及び機械部品を提供する:
1. 増ちょう剤と、基油とを含み、前記増ちょう剤が下記式(1)で示されるジウレア化合物であり、かつグリース組成物中の前記増ちょう剤量の割合が3〜20質量%であるグリース組成物。
【0008】
【化1】

【0009】
(式(1)中、R2は、ジフェニルメタン基を示す。R1及びR3は、同一でも異なっていてもよく、シクロへキシル基又は炭素数8〜22の直鎖又は分岐アルキル基を示す。式(1)中、シクロへキシル基とアルキル基の総モル数に対するシクロへキシル基のモル数の割合[{(シクロへキシル基の数)/(シクロへキシル基の数+アルキル基の数)}×100]は70〜80モル%である。)
2. 増ちょう剤が、式(1)中、アルキル基が炭素数16〜20の直鎖アルキル基であるジウレア化合物である、前記1項記載のグリース組成物。
3. 転がり軸受、歯車、ボールネジ、直動軸受、カム又は継ぎ手に使用される、前記1又は2項記載のグリース組成物。
4. 前記1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物を封入した機械部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、攪拌抵抗を低くしたグリース組成物を提供することができる。本発明のグリース組成物は、基油の動粘度を下げることなく、油膜切れの発生を抑制し、充分に長い寿命を満足できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔増ちょう剤〕
グリースの増ちょう剤としては、一般的に、長い潤滑寿命を示し、且つ汎用性のあるジウレアグリースが多く使用されている。本発明では、脂環式アミンと脂肪族アミンとを特定モル比で配合することにより製造されるジウレアグリースを選定した。かかるジウレアグリースは下記式(1)で表される:
【0012】
【化2】

式(1)中、R2は、ジフェニルメタン基を示す。4,4−ジフェニルメタンが好ましい。R1及びR3は、同一でも異なっていてもよく、シクロへキシル基又は炭素数8〜22、好ましくは炭素数16〜20の直鎖又は分岐、好ましくは直鎖アルキル基を示す。式(1)中、シクロへキシル基とアルキル基の総モル数に対するシクロへキシル基のモル数の割合[{(シクロへキシル基の数)/(シクロへキシル基の数+アルキル基の数)}×100]は、70〜80モル%である。
【0013】
前記増ちょう剤を使用することにより、増ちょう剤の量を低減することができる。前記増ちょう剤を基油に特定量含ませることにより、グリースの攪拌抵抗を低減することができる。具体的には、増ちょう剤の含有量は、本発明のグリース組成物の質量に対して、3〜20質量%、好ましくは5〜15質量%である。
なお、金属石けん類、ベントン、シリカゲルは、耐熱性、すなわち高温下での軸受潤滑寿命を満足するものではない。またフッ素系増ちょう剤は、耐熱性は満足するものの非常に高価であり、汎用性に欠ける。
【0014】
〔基油〕
本発明における基油の種類や動粘度は特に限定されない。必要に応じて基油の種類や動粘度を選定することができる。ただし、転がり軸受用として使用するグリースに含ませる基油の40℃における動粘度としては、好ましくは10〜200mm2/s、より好ましくは15〜100mm2/sである。基油は、一種を単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
本発明において使用可能な基油の種類としては、大別して鉱物油、合成油がある。合成油の例としてはジエステル油、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油、ポリ−α−オレフィン、ポリブテンに代表される合成炭化水素油、アルキルジフェニルエーテルに代表されるエーテル系合成油、ポリプロピレングリコールに代表されるポリグリコール系合成油、シリコーン系合成油、フッ素系合成油が挙げられる。このうち、耐熱性に優れるため合成油が好ましい。合成炭化水素油及びエステル系合成油がより好ましい。これら基油を含ませると、低温での撹拌抵抗をより低くすることができる。合成炭化水素油としてはポリ−α−オレフィンが好ましい。エステル系合成油としてはペンタエリスリトールエステル、トリメチロールプロパンエステルが好ましい。
【0015】
〔添加剤〕
本発明のグリース組成物は、必要に応じてあらゆる添加剤を含むことができる。例として、アミン系、フェノール系に代表される酸化防止剤、亜硝酸ソーダなどの無機不働態化剤、スルホネート系、コハク酸系、アミン系、カルボン酸塩に代表される錆止め剤、ベンゾトリアゾールに代表される金属腐食防止剤、脂肪酸、脂肪酸エステル、リン酸エステルに代表される油性剤、リン系、硫黄系、有機金属系に代表される耐摩耗剤や極圧剤、酸化金属塩や二硫化モリブデンに代表される固体潤滑剤などが挙げられる。これらの成分の使用量は、通常0.1〜20質量%程度、好ましくは0.5〜10質量%である。
【0016】
〔混和ちょう度〕
本発明のグリース組成物の混和ちょう度は、使用目的に合わせて調整されるが、好ましくは200〜440である。特に軸受用としては、軟らかすぎると漏洩してしまうことが懸念されるため、好ましくは200〜350である。
【0017】
本発明のグリース組成物は、各種機械部品に封入して用いることができる。各種機械部品としては、転がり軸受、歯車、ボールネジ、直動軸受、カム又は継ぎ手等が挙げられる。具体的には、産業機械用各種モータ、事務機器用各種モータ、自動車用各種モータ、自動車電装部品や補機部品等に使用される転がり軸受、風車やロボット、自動車などの減速機や増速機等に使用される歯車、電動パワーステアリングや工作機械等に使用されるボールネジ、産業機器や電子機器等に使用される直動軸受、カム又は継ぎ手が挙げられる。
【実施例1】
【0018】
<試験グリースの調製>
表1に示した増ちょう剤及び基油を用い、実施例及び比較例のグリース組成物を調製した。具体的には、基油中で、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートと所定のアミンとを反応させ、昇温、冷却した後、3本ロールミルで混練し、実施例1及び2、及び比較例1〜9のグリース組成物を得た。基油としては、JIS K2220 23.に準拠して測定した、40℃における動粘度が70.2mm2/sの合成炭化水素油であるポリ−α−オレフィン油、又は40℃における動粘度が11.6mm2/sのジエステル油であるジオクチルセバケートを用いた。増ちょう剤量は、グリース組成物の混和ちょう度(試験方法JIS K2220 7.)が300になるように調節した。
上で調製したグリース組成物を、下記の試験方法により評価した。結果を表1に示す。
【0019】
<試験方法>
・攪拌抵抗(レオメータ)
試験は、Anton Paar社製の粘弾性測定装置、Physica MCR301を用いて測定を行った。
所定のプレートの間に試験グリースを塗布し、所定のプレート間距離に設定した後、はみ出した余分のグリースを除去した。その後、下記に示すせん断速度にて回転させた時のせん断応力を読み取った。
試験条件を下記に示す。
せん断速度:1〜104-1
試験温度:25℃
プレート間距離:0.2mm
プレート直径:25mm
<評価>
せん断速度1〜104-1におけるせん断応力の平均値を算出し、測定結果とした。
2000Pa未満・・・合格
2000Pa以上・・・不合格
【0020】
【表1】

【0021】
本発明のジウレア増ちょう剤を含有した実施例1及び2のグリース組成物は、せん断応力(=攪拌抵抗)が低く良好であるのに対し、本発明のジウレア増ちょう剤ではない比較例1〜9は、せん断応力が高かった。また比較例9は低粘度のジエステル油を基油としているが、本発明のジウレア増ちょう剤ではないため、せん断応力が高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増ちょう剤と、基油とを含み、前記増ちょう剤が下記式(1)で示されるジウレア化合物であり、かつグリース組成物中の前記増ちょう剤量の割合が3〜20質量%であるグリース組成物。
【化1】


(式(1)中、R2は、ジフェニルメタン基を示す。R1及びR3は、同一又は異なっていても良く、シクロへキシル基又は炭素数8〜22の直鎖又は分岐アルキル基を示す。式(1)中、シクロへキシル基とアルキル基の総モル数に対するシクロへキシル基のモル数の割合[{(シクロへキシル基の数)/(シクロへキシル基の数+アルキル基の数)}×100]は70〜80モル%である。)
【請求項2】
増ちょう剤が、式(1)中、アルキル基が炭素数16〜20の直鎖アルキル基であるジウレア化合物である、請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
転がり軸受、歯車、ボールネジ、直動軸受、カム又は継ぎ手に使用される、請求項1又は2記載のグリース組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物を封入した機械部品。

【公開番号】特開2012−172066(P2012−172066A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35734(P2011−35734)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】