グルカンの製造法およびその調製法
【課題】スクロースからアミロースを製造する際に、必要な酵素量を極力抑える方法、より高い温度での反応を実現する方法を提供すること。
【解決手段】グルカンの製造方法であって、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを含む反応溶液を反応させて、グルカンを生産する工程を包含し、ここで該反応が、40℃〜70℃の温度で行われ、反応開始時の該反応溶液中のスクロースの濃度が5〜100%である、方法。
【解決手段】グルカンの製造方法であって、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを含む反応溶液を反応させて、グルカンを生産する工程を包含し、ここで該反応が、40℃〜70℃の温度で行われ、反応開始時の該反応溶液中のスクロースの濃度が5〜100%である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルカンおよびその誘導体の製造方法に関する。更に詳しくは、α−1,4−グルカン鎖の伸長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルカンは、D−グルコースのみを構成糖とする多糖の総称である。代表的なグルカンの例としては、澱粉、セルロースなどが挙げられる。澱粉は、構成糖がα−グルコシド結合によって連結されるα−グルカンである。澱粉中には、直鎖状α−1,4−グルカンであるアミロースと、枝分かれ構造を持つアミロペクチンとが存在している。アミロースとアミロペクチンとの存在比は、澱粉を貯蔵する植物体によって異なる。そのため、アミロースとアミロペクチンとを任意の構成比で含む澱粉を得ることは極めて困難である。アミロースを安定的に製造できれば、これを市販の澱粉と混合させることで任意のアミロース含量を持つ澱粉を作り出すことができる。
【0003】
任意の構造を持つアミロースおよびアミロペクチンを作り出すことは、従来、加水分解酵素、転移酵素などの作用を利用して行なわれている。しかし、α−1,4−グルカン鎖を伸長することによる、澱粉の構造改変についての報告は限られている。α−1,4−グルカン鎖を効率的に伸長する方法を開発することは、アミロースを製造できるだけでなく、澱粉の構造を任意に変えられるという点で有益である。
【0004】
澱粉含有食品において澱粉中のアミロースの含有量および構造は、食品の物性に大きな影響をもたらすことが知られている。しかし、澱粉中のアミロースの含有量および構造は、原料として利用する澱粉によって決定される。アミロースの含有量、構造を任意に変えることができれば、新しい食感を持つ食品の開発が期待できる。
【0005】
不溶性のアミロースには、食物繊維と同様の働きが予想され、健康食品への利用も期待できる。さらに、アミロースは、例えばヨウ素、脂肪酸などを分子内に包接し得る特徴を持つことから、医薬品、化粧品、サニタリー製品分野での用途が期待される。アミロースはまた、アミロースと同様の包接能力を持つシクロデキストリンおよびシクロアミロースの製造用原料に利用できる。さらに、アミロースを含有したフィルムは、汎用プラスチックに劣らない引張強度を持ち、生分解性プラスチックの素材として非常に有望である。このようにアミロースには、多くの用途が期待されている。しかし、実質的に純粋なアミロースは得ることが困難であり、非常に高価であるので、試薬レベルで流通しているだけであり、産業用素材としてはほとんど利用されていない。そのため、安定的かつ安価にアミロースを製造する方法が望まれている。
【0006】
アミロースの製造方法はいくつか公知である。アミロースは、澱粉中におよそ0〜70%の割合で存在している。非特許文献1(T.J.Schochら、J.American Chemical Society,64,2957(1942))の方法により、ブタノールなどの沈澱剤を用いて、天然素材である澱粉中からアミロースを抽出することが可能である。しかし、この抽出操作は煩雑で収率も低い。またこの抽出操作によって、α−1,6−グルコシド結合を全く含まない直鎖状グルカンを得ることは困難である。さらに分子量分布の狭い直鎖状グルカンの抽出は困難である。
【0007】
酵素的にα−1,4−グルカン鎖を伸長する方法として、糖ヌクレオチドを基質として使用し、グリコーゲンシンターゼ、スターチシンターゼなどにより、糖部分を、プライマーであるマルトテトラオースなどに転移することで合成する方法がある。しかし、この方法は、基質として使用される糖ヌクレオチドは非常に高価であり工業的には利用できないという欠点がある。
【0008】
馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼ(Glucan phosphorylase:GP)により、α−グルコース−1−リン酸(alpha−glucose−1−phosphate)のグルコシル基をプライマーであるマルトヘプタオースなどに転移することでα−1,4−グルカン鎖を合成する方法がある。
【0009】
他にも、グルコース−1−フルオライドを基質として使用して、プライマーにスクロースホスホリラーゼ(Sucrose phosphorylase:SP)とグルカンホスホリラーゼとを同時に作用させる方法が公開されている(特許文献1(米国特許第5,405,449号)および特許文献2(欧州特許第0590736号))。
【0010】
これらの合成方法には、反応開始時の反応溶液中の基質とプライマーとの比を任意に設定することにより、得られる直鎖状グルカンの分子量を制御できるという利点がある。しかし、基質であるα−グルコース−1−リン酸、およびグルコース−1−フルオライドは高価であるので、広範囲の産業で利用し得るような安価な直鎖状α−1,4−グルカンの製造には適切でない。
【0011】
より安価に直鎖状グルカンを製造する方法としては、スクロースとプライマーにスクロースホスホリラーゼとグルカンホスホリラーゼを同時に作用させる方法(以下、SP−GP法という)が公開されている(非特許文献2(Waldmann,H.ら,Carbohydrate Research,157(1986)c4−c7))。Waldmannらは、ロイコノストック属(Leuconostoc mesentroides)由来のスクロースホスホリラーゼと馬鈴薯塊茎由来のグルカンホスホリラーゼを用いてスクロースから高収率で直鎖状グルカンを合成している。WaldmannらのSP−GP法は、安価な基質を用いて直鎖状グルカンを製造できるという点で有望であるが、以下に示すように改善すべき問題点がいくつかある。
【0012】
まず第1に、使用している酵素量が多いので、製造にかかるコストが高くなり安価に製造できないことである。この問題解決のためには、反応条件を工夫することにより、使用酵素量を削減するか、もしくは単位酵素あたりのアミロース生産性を高めることが必要になる。
【0013】
SP−GP法において使用酵素量、もしくは酵素あたりのアミロース生産性を決定する要因の1つとして、反応開始時の溶液中での、SPの基質であるスクロースの濃度に対する無機リン酸(inorganic phosphate)の濃度比が挙げられる。Waldmannらの先行技術では反応開始時の溶液中で、スクロース濃度に比較して、かなり低濃度の無機リン酸を用いることにより、高い収率でグルカンを製造している。スクロースをまずグルコース−1−リン酸へと転換し、次いでグルコース−1−リン酸をグルカンへと転換するSP−GP法では、高濃度の無機リン酸を用いると、中間体であるグルコース−1−リン酸が高濃度で蓄積される。そのため、最終産物であるグルカンの収率が低下すると考えられる。それゆえ、従来のSP−GP法では、低い無機リン酸濃度が採用されたと考えられる。本発明の前には、反応開始時の溶液中のスクロースと無機リン酸との濃度比を変えることが、使用酵素量、もしくは酵素あたりのアミロース生産性にどのような影響を与えるかについては、開示されておらず、その効果を予測することも出来なかった。
【0014】
SP−GP法と同様に2種類のホスホリラーゼを組み合わせてかつ無機リン酸を媒介として糖質を合成する方法が報告されている。例えば、非特許文献3(Chaenら(Journal of Bioscience and Bioengineering,92(2001)177−182))は、マルトースホスホリラーゼとコージビオースホスホリラーゼとを組み合わせて用いて、マルトースからコージオリゴ糖を合成する方法を開示している。Chaenらは、反応開始時の溶液中の無機リン酸濃度が低い方が反応産物であるコージオリゴ糖の収率が高いと記載している。このように、従来、2つのホスホリラーゼを組み合わせる反応系では、最終産物の収量を増やすためには反応開始時の溶液中の無機リン酸濃度を低くすることが好ましいと考えられていた。
【0015】
SP−GP法において使用酵素量、もしくは酵素あたりのアミロース生産性を決定する要因の2つ目は、反応温度である。一般的に酵素反応は高温で行うほど、反応速度が上昇するため、高温条件下で行うことが望まれる。しかしながら、酵素タンパク質は加熱に対して不安定であるため、実際の酵素反応は、その酵素タンパク質が熱失活しない温度範囲で行われる。Waldmannらの先行技術においては、ロイコノストック属由来のスクロースホスホリラーゼが用いられており、グルカン合成反応はこの酵素の熱安定性を考慮して、37℃で行われていた。本発明の前には、本反応溶液中のスクロース濃度を変化させることがスクロースホスホリラーゼの安定性にどのような影響を与えるかについては、開示されておらず、その効果を予測することは出来なかった。また、ストレプトコッカス属由来のスクロースホスホリラーゼの熱安定性については何ら開示されておらず、それゆえ、このスクロースホスホリラーゼをグルカン合成に利用することによる効果を予測することは出来なかった。
【0016】
第二の問題点としては、操作性の問題がある。グルカン、特にアミロースは老化して不溶化し、沈澱またはゲルを形成する。この老化速度は、温度に依存することが周知である。反応温度が低い場合には、製造後のアミロース溶液がゲル化するなど、その後の段階で操作性に問題が生じる。したがって、反応温度は可能な限り高い方が望ましい。しかし、Waldmannらの先行技術においてはアミロースを製造する際の反応温度は37℃と低く問題がある。
【0017】
グルカンのうち、特に分岐構造のない直鎖状アミロースを製造する場合、使用するプライマーには、直鎖マルトオリゴ糖を用いる必要がある。Waldmannらの先行技術では、直鎖マルトオリゴ糖として精製マルトヘプタオースが利用されている。しかし、精製マルトヘプタオースは、試薬レベルのものしかなく非常に高価である。安価なプライマーの候補としては、澱粉を適度に加水分解したマルトオリゴ糖混合物がある。しかしながら、多くのグルカンホスホリラーゼは、マルトテトラオースの重合度以上の重合度のマルトオリゴ糖のみをプライマーとして利用することが出来るが、マルトトライオースの重合度以下の重合度のマルトオリゴ糖をプライマーには利用し得ないことが公知である。マルトオリゴ糖混合物には、プライマーとして機能しうるマルトヘキサオースの重合度以上の重合度のマルトオリゴ糖に加えて、プライマーとして機能し得ないマルトトライオース、マルトースおよびグルコースが含まれている。また、マルトオリゴ糖混合物に含まれるグルコースは、スクロースホスホリラーゼの阻害物質であることが公知である。このように、プライマーとして機能し得ないマルトトライオース、マルトースおよびグルコースを含有し、かつスクロースホスホリラーゼの阻害物質であるグルコースを含有するマルトオリゴ糖混合物が、SP−GP法において、有効に機能しうるかどうかについては、本発明の前には開示されておらず、その有効性は容易に推測できなかった。
【0018】
本発明の方法の場合、酵素反応終了時の反応溶液には、グルカンとともに多量のフルクトースが副生する。従って本発明の方法を用いる工業的グルカン製造の場合、グルカン合成反応工程後に効率的にグルカンを精製する工程が必須である。Waldmannらの先行技術では、アミロースを精製する際に、ブタノールによるアミロースの選択的沈澱法を利用している。しかしながら、アミロースを工業的に大量生産する際には、有機溶媒を利用する方法は、コスト的にも、人体への安全性でも、環境面でも、優れた方法ではない。有機溶媒を利用しない方法については開示されていない。
【特許文献1】米国特許第5,405,449号明細書
【特許文献2】欧州特許第0590736号明細書
【非特許文献1】T.J.Schochら、J.American Chemical Society,64,2957(1942)
【非特許文献2】Waldmann,H.ら,Carbohydrate Research,157(1986)c4−c7
【非特許文献3】Chaenら,Journal of Bioscience and Bioengineering,92(2001)177−182
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、従来法よりも実用的な条件で、安定的かつ安価に、グルカン、特にアミロースを製造する方法を提供することを目的とする。さらに詳しくは、スクロースからアミロースを製造する際に、必要な酵素量を極力抑える方法、より高い温度での反応を実現する方法を提供することを目的とする。
【0020】
本発明はまた、製造されたアミロース溶液から、アミロースを有機溶媒を使用することなく効率的に精製することも目的とする。
【0021】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、反応開始時から反応終了までの間の(スクロースのモル濃度)と(無機リン酸のモル濃度およびグルコース−1−リン酸のモル濃度の合計)との比の最大値をある範囲内に設定することで、従来の方法に比べ高い生産性が得られることを最終的に見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0022】
本発明者らはまた、ある濃度以上のスクロースの存在下において、スクロースホスホリラーゼの耐熱性が上昇し、反応温度を上昇させることが可能であること、その結果、必要酵素量を減少させることが可能であること、もしくは単位酵素あたりのグルカン生産性を高めることが可能であること、さらに高温で反応を行うためアミロースを老化させることなく生産可能であることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0023】
本発明者らはまた、ストレプトコッカス属由来のスクロースホスホリラーゼを利用することにより、反応温度を上昇させることが可能であること、その結果、必要酵素量を減少させることが可能であるか、もしくは単位酵素あたりのグルカン生産性を高めることが可能であること、さらに高温で反応が行われるためアミロースを老化させることなく生産可能であることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0024】
本発明者らはまた、SP−GP法に用いるプライマーとして、精製マルトオリゴ糖ではなく、マルトオリゴ糖混合物、特に多くのグルカンホスホリラーゼにおいてプライマーとして機能し得ないマルトトライオース、マルトースおよびグルコースをも含有し、スクロースホスホリラーゼの阻害物質であるグルコースも含有するようなマルトオリゴ糖混合物を用いても、目的とするグルカン、特にアミロースの合成が、問題なく実施できることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0025】
本発明者らはまた、以下のいずれかの工程によって、反応液中のフルクトースを効率的に除去し、グルカンを製造できることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
(1)生産されたグルカンを、有機溶媒を利用せずに精製する工程;
(2)上記反応後の反応溶液を冷却することにより上記グルカンを沈澱させる工程、および該沈澱したグルカンを固液分離方法により精製する工程;
(3)上記グルカン生産反応の間もしくはグルカン生産反応後に上記反応溶液を冷却してグルカンをゲル化する工程、ゲル化したグルカンを回収する工程、および該ゲル化したグルカンから、フルクトースを、水による洗浄、凍結融解、ろ過、圧搾、吸引および遠心分離からなる群より選択される操作によって除去する工程;ならびに
(4)上記グルカン生産反応後、水に溶解しているグルカンを沈澱させずに、限外ろ過膜を用いた膜分画もしくはクロマトグラフィーに供してフルクトースを除去する工程。
【0026】
本発明のグルカンの第1の製造方法は、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを含む反応溶液を反応させて、グルカンを生産する工程を包含し、ここで反応開始時から反応終了時までの間の該反応溶液のスクロース−リン酸比率の最大値が約17以下である。
【0027】
1つの実施態様では、上記最大値は、約0.5以上約15以下であり得、好ましくは約1以上約10以下であり得、さらに好ましくは約2以上約7以下であり得る。
【0028】
1つの実施態様では、上記グルカンは、アミロースであり得る。
【0029】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus属に属する細菌由来であり得る。好ましくは、上記スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus mutans、Streptococcus thermophilus、Streptococcus pneumoniae、およびStreptococcus mitisからなる群より選択されるStreptococcus属に属する細菌由来であり得る。
【0030】
1つの実施態様では、上記グルカンホスホリラーゼは、植物由来であり得る。より好ましくは、上記グルカンホスホリラーゼは、藻類または馬鈴薯由来であり得る。
【0031】
1つの実施態様では、上記グルカンホスホリラーゼは、Thermus aquaticus由来またはBacillus stearothermophilus由来であり得る。
【0032】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方、もしくは少なくとも一方は、遺伝子組換えされた微生物により生産され得る。
【0033】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方、もしくは少なくとも一方は、担体上に固定化され得る。
【0034】
1つの実施態様では、上記スクロースは、未精製糖であり得る。
【0035】
1つの実施態様では、上記プライマーは、マルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、プルラン、カップリングシュガー、澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択され得る。
【0036】
1つの実施態様では、上記マルトオリゴ糖は、マルトオリゴ糖混合物であり得る。
【0037】
1つの実施態様では、上記マルトオリゴ糖混合物は、マルトテトラオース以上の重合度のマルトオリゴ糖に加えて、マルトトリオース、マルトースおよびグルコースのうちの少なくとも1つを含有し得る。
【0038】
1つの実施態様では、上記澱粉は、可溶性澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、澱粉枝切り酵素分解物、澱粉ホスホリラーゼ分解物、澱粉部分加水分解物、化工澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択され得る。
【0039】
1つの実施態様では、上記方法は、生産されたグルカンを、有機溶媒を利用せずに精製する工程をさらに包含し得る。
【0040】
1つの実施態様では、上記方法は、上記反応後の反応溶液を冷却することにより上記グルカンを沈澱させる工程、および該沈澱したグルカンを固液分離方法により精製する工程をさらに含み得る。
【0041】
1つの実施態様では、上記方法は、上記グルカン生産反応の間もしくはグルカン生産反応後に上記反応溶液を冷却してグルカンをゲル化する工程、ゲル化したグルカンを回収する工程、および該ゲル化したグルカンから、フルクトースを、水による洗浄、凍結融解、ろ過、圧搾、吸引および遠心分離からなる群より選択される操作によって除去する工程をさらに含み得る。
【0042】
1つの実施態様では、上記方法は、さらに、上記グルカン生産反応後、水に溶解しているグルカンを沈澱させずに、限外ろ過膜を用いた膜分画もしくはクロマトグラフィーに供してフルクトースを除去する工程を含み得る。上記限外ろ過膜は、分画分子量サイズ約30,000のものであり得る。上記限外ろ過膜はまた、中空糸タイプの限外濾過膜であり得る。上記クロマトグラフィーに使用され得る担体は、ゲル濾過クロマトグラフィー用担体、配位子交換クロマトグラフィー用担体、イオン交換クロマトグラフィー用担体、または疎水クロマトグラフィー用担体であり得る。
【0043】
1つの実施態様では、上記反応溶液中にさらに、枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を含み得る。
【0044】
本発明のグルカンの第2の製造方法は、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを含む反応溶液を反応させて、グルカンを生産する工程を包含し、ここで該反応が、約40℃〜約70℃の温度で行われる。
【0045】
1つの実施態様では、上記反応温度は、約45℃〜約65℃であり得る。
【0046】
1つの実施態様では、反応開始時の上記反応溶液中のスクロースの濃度は約5%〜約100%であり得、好ましくは約8%〜約80%であり得、そしてより好ましくは約15%〜約50%であり得る。
【0047】
1つの実施態様では、上記グルカンは、アミロースであり得る。
【0048】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus属に属する細菌由来であり得る。好ましくは、上記スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus mutans、Streptococcus thermophilus、Streptococcus pneumoniae、およびStreptococcus mitisからなる群より選択されるStreptococcus属に属する細菌由来であり得る。
【0049】
1つの実施態様では、上記グルカンホスホリラーゼは、植物由来であり得る。より好ましくは、上記グルカンホスホリラーゼは、藻類または馬鈴薯由来であり得る。
【0050】
1つの実施態様では、上記グルカンホスホリラーゼは、Thermus aquaticus由来またはBacillus stearothermophilus由来であり得る。
【0051】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方、もしくは少なくとも一方は、遺伝子組換えされた微生物により生産され得る。
【0052】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方、もしくは少なくとも一方は、担体上に固定化され得る。
【0053】
1つの実施態様では、上記スクロースは、未精製糖であり得る。
【0054】
1つの実施態様では、上記プライマーは、マルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、プルラン、カップリングシュガー、澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択され得る。
【0055】
1つの実施態様では、上記マルトオリゴ糖は、マルトオリゴ糖混合物であり得る。
【0056】
1つの実施態様では、上記マルトオリゴ糖混合物は、マルトテトラオース以上の重合度のマルトオリゴ糖に加えて、マルトトリオース、マルトースおよびグルコースのうちの少なくとも1つを含有し得る。
【0057】
1つの実施態様では、上記澱粉は、可溶性澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、澱粉枝切り酵素分解物、澱粉ホスホリラーゼ分解物、澱粉部分加水分解物、化工澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択され得る。
【0058】
1つの実施態様では、上記方法は、生産されたグルカンを、有機溶媒を利用せずに精製する工程をさらに包含し得る。
【0059】
1つの実施態様では、上記方法は、上記反応後の反応溶液を冷却することにより上記グルカンを沈澱させる工程、および該沈澱したグルカンを固液分離方法により精製する工程をさらに含み得る。
【0060】
1つの実施態様では、上記方法は、上記グルカン生産反応の間もしくはグルカン生産反応後に上記反応溶液を冷却してグルカンをゲル化する工程、ゲル化したグルカンを回収する工程、および該ゲル化したグルカンから、フルクトースを、水による洗浄、凍結融解、ろ過、圧搾、吸引および遠心分離からなる群より選択される操作によって除去する工程をさらに含み得る。
【0061】
1つの実施態様では、上記方法は、さらに、上記グルカン生産反応後、水に溶解しているグルカンを沈澱させずに、限外ろ過膜を用いた膜分画もしくはクロマトグラフィーに供してフルクトースを除去する工程を含み得る。上記限外ろ過膜は、分画分子量サイズ約30,000のものであり得る。上記限外ろ過膜はまた、中空糸タイプの限外濾過膜であり得る。上記クロマトグラフィーに使用され得る担体は、ゲル濾過クロマトグラフィー用担体、配位子交換クロマトグラフィー用担体、イオン交換クロマトグラフィー用担体、または疎水クロマトグラフィー用担体であり得る。
【0062】
1つの実施態様では、上記反応溶液中にさらに、枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を含み得る。
【0063】
本発明のグルカンの第3の製造方法は、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを含む反応溶液を反応させて、グルカンを生産する工程を包含し、ここで反応開始時から反応終了時までの間の該反応溶液のスクロース−リン酸比率の最大値が約17以下であり、該反応が、約40℃〜約70℃の温度で行われる。
【0064】
1つの実施態様では、上記最大値は、約0.5以上約15以下であり得、好ましくは約1以上約10以下であり得、さらに好ましくは約2以上約7以下であり得る。
【0065】
1つの実施態様では、上記反応温度は、約45℃〜約65℃であり得る。
【0066】
1つの実施態様では、反応開始時の上記反応溶液中のスクロースの濃度は約5〜約100%であり得、好ましくは約8〜約80%であり得、そしてより好ましくは約15〜約50%であり得る。
【0067】
1つの実施態様では、上記グルカンは、アミロースであり得る。
【0068】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus属に属する細菌由来であり得る。好ましくは、上記スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus mutans、Streptococcus thermophilus、Streptococcus pneumoniae、およびStreptococcus mitisからなる群より選択されるStreptococcus属に属する細菌由来であり得る。
【0069】
1つの実施態様では、上記グルカンホスホリラーゼは、植物由来であり得る。より好ましくは、上記グルカンホスホリラーゼは、藻類または馬鈴薯由来であり得る。
【0070】
1つの実施態様では、上記グルカンホスホリラーゼは、Thermus aquaticus由来またはBacillus stearothermophilus由来であり得る。
【0071】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方、もしくは少なくとも一方は、遺伝子組換えされた微生物により生産され得る。
【0072】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方、もしくは少なくとも一方は、担体上に固定化され得る。
【0073】
1つの実施態様では、上記スクロースは、未精製糖であり得る。
【0074】
1つの実施態様では、上記プライマーは、マルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、プルラン、カップリングシュガー、澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択され得る。
【0075】
1つの実施態様では、上記マルトオリゴ糖は、マルトオリゴ糖混合物であり得る。
【0076】
1つの実施態様では、上記マルトオリゴ糖混合物は、マルトテトラオース以上の重合度のマルトオリゴ糖に加えて、マルトトリオース、マルトースおよびグルコースのうちの少なくとも1つを含有し得る。
【0077】
1つの実施態様では、上記澱粉は、可溶性澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、澱粉枝切り酵素分解物、澱粉ホスホリラーゼ分解物、澱粉部分加水分解物、化工澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択され得る。
【0078】
1つの実施態様では、上記方法は、生産されたグルカンを、有機溶媒を利用せずに精製する工程をさらに包含し得る。
【0079】
1つの実施態様では、上記方法は、上記反応後の反応溶液を冷却することにより上記グルカンを沈澱させる工程、および該沈澱したグルカンを固液分離方法により精製する工程をさらに含み得る。
【0080】
1つの実施態様では、上記方法は、上記グルカン生産反応の間もしくはグルカン生産反応後に上記反応溶液を冷却してグルカンをゲル化する工程、ゲル化したグルカンを回収する工程、および該ゲル化したグルカンから、フルクトースを、水による洗浄、凍結融解、ろ過、圧搾、吸引および遠心分離からなる群より選択される操作によって除去する工程をさらに含み得る。
【0081】
1つの実施態様では、上記方法は、さらに、上記グルカン生産反応後、水に溶解しているグルカンを沈澱させずに、限外ろ過膜を用いた膜分画もしくはクロマトグラフィーに供してフルクトースを除去する工程を含み得る。上記限外ろ過膜は、分画分子量サイズ約30,000のものであり得る。上記限外ろ過膜はまた、中空糸タイプの限外濾過膜であり得る。上記クロマトグラフィーに使用され得る担体は、ゲル濾過クロマトグラフィー用担体、配位子交換クロマトグラフィー用担体、イオン交換クロマトグラフィー用担体、または疎水クロマトグラフィー用担体であり得る。
【0082】
1つの実施態様では、上記反応溶液中にさらに、枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を含み得る。
【0083】
本発明のグルカンの第4の製造方法は、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを含む反応溶液を反応させて、グルカンを生産する工程を包含し、ここで反応開始時の該反応溶液のスクロース−リン酸比率が約17以下である。
【0084】
1つの実施形態では、無機リン酸もグルコース−1−リン酸も、反応開始後に追加されない。
【0085】
1つの実施形態では、上記反応は、約40℃〜約70℃の温度で行われ得る。
【0086】
本発明のグルカンの第5の製造方法は、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを含む反応溶液で反応を開始させる工程;スクロース、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸を該反応溶液に追加する工程;ならびにさらに反応を続けてグルカンを生産する工程を包含し、ここで該追加工程完了時の該反応溶液のスクロース−リン酸比率が約17以下である。
【0087】
1つの実施形態では、上記反応は、約40℃〜約70℃の温度で行われ得る。
【0088】
本発明のグルカンは、上記のいずれかの方法で製造される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0089】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0090】
本発明の方法では、グルカンを製造する。本明細書中では「グルカン」とは、D−グルコースを構成単位とする、糖であって、α−1,4−グルコシド結合によって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。グルカンは、直鎖状、分岐状または環状の分子であり得る。直鎖状グルカンとα−1,4−グルカンとは同義語である。直鎖状グルカンでは、α−1,4−グルコシド結合によってのみ糖単位の間が連結されている。α−1,6−グルコシド結合を1つ以上含むグルカンは、分岐状グルカンである。グルカンは、好ましくは、直鎖状の部分をある程度含む。分岐のない直鎖状グルカンがより好ましい。
【0091】
グルカンは、場合によっては、分岐の数(すなわち、α−1,6−グルコシド結合の数)が少ないことが好ましい。このような場合、分岐の数は、代表的には0〜10000個、好ましくは0〜1000個、より好ましくは0〜500個、さらに好ましくは0〜100個、さらに好ましくは0〜50個、さらに好ましくは0〜25個、さらに好ましくは0個である。
【0092】
本発明のグルカンでは、α−1,6−グルコシド結合を1としたときのα−1,6−グルコシド結合の数に対するα−1,4−グルコシド結合の数の比は、好ましくは1〜10000であり、より好ましくは10〜5000であり、さらに好ましくは50〜1000であり、さらに好ましくは100〜500である。
【0093】
α−1,6−グルコシド結合は、グルカン中に無秩序に分布していてもよいし、均質に分布していてもよい。グルカン中に糖単位で5個以上の直鎖状部分ができる程度の分布であることが好ましい。
【0094】
グルカンは、D−グルコースのみから構成されていてもよいし、グルカンの性質を損なわない程度に修飾された誘導体であってもよい。修飾されていないことが好ましい。
【0095】
グルカンは、代表的には約8×103以上、好ましくは約1×104以上、より好ましくは約5×104以上、さらに好ましくは約1×105以上、さらに好ましくは約6×105以上の分子量を有する。グルカンは、代表的には約1×108以下、好ましくは約1×107以下、さらに好ましくは約5×106以下、さらに好ましくは約1×106以下の分子量を有する。
【0096】
当業者は、本発明の製造方法で用いられる基質の量、酵素の量、反応時間などを適宜設定することによって所望の分子量のグルカンが得られることを容易に理解する。
【0097】
<グルカンの製造に用いる材料>
本発明の製造方法では、例えば、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、緩衝剤、スクロースホスホリラーゼ、グルカンホスホリラーゼおよびそれを溶かしている溶媒を主な材料として用いる。これらの材料は通常、反応開始時に全て添加されるが、反応の途中でこれらのうちの任意の材料を追加して添加してもよい。本発明の製造方法では、必要に応じて、枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を用いることができる。枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素は、目的とするグルカンの構造に応じて、本発明の製造方法の最初から反応溶液中に添加してもよく、途中から反応溶液中に添加してもよい。
【0098】
(1)スクロース:
スクロースは、C12H22O11で示される、分子量約342の二糖である。スクロースは、光合成能を有するあらゆる植物中に存在する。スクロースは、植物から単離されてもよいし、化学的に合成されてもよい。コストの面からみて、スクロースを植物から単離することが好ましい。スクロースを多量に含む植物の例としては、サトウキビ、サトウダイコンなどが挙げられる。サトウキビは、汁液中に約20%のスクロースを含む。サトウダイコンは、汁液中に約10〜15%のスクロースを含む。スクロースは、スクロースを含む植物の汁液から精製糖に至るいずれの精製段階のものとして提供されてもよい。
【0099】
本発明の方法で使用されるスクロースは、純粋なものであることが好ましい。しかし、本発明のスクロースの効果を阻害しない限り、任意の他の夾雑物を含んでいてもよい。
【0100】
溶液中に含まれるスクロースの濃度は、代表的には約5〜100%、好ましくは約8〜80%、より好ましくは約8〜50%である。なお、本明細書中でスクロースの濃度は、Weight/Volumeで、すなわち、
(スクロースの重量)×100/(溶液の容量)
で計算する。スクロースの重量が多すぎると、反応中に未反応のスクロースが析出する場合がある。スクロースの使用量が少なすぎると、高温での反応において収率が低下する場合がある。
【0101】
なお、上述した第1の方法の場合、すなわち、反応開始時から反応終了時までの間の該反応溶液のスクロース−リン酸比率の最大値が約17以下の場合は、スクロース濃度は上記の範囲に必ずしも限定されない。上述した第4の方法の場合、すなわち、反応開始時の反応溶液のスクロース−リン酸比率が約17以下の場合、および上述した第5の方法の場合、すなわち、スクロース、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸を反応溶液に追加する工程を包含する場合も、スクロース濃度は上記の範囲に必ずしも限定されない。本明細書中では、反応溶液中のスクロースモル濃度を、反応溶液中の無機リン酸のモル濃度とグルコース−1−リン酸のモル濃度との合計によって除算することによって得られる比率を、スクロース−リン酸比率という。すなわち、以下の通りである:
【0102】
【化1】
全反応材料を投入して反応を始めて、反応中に材料の追加をしないのであれば、スクロース−リン酸比率は反応開始時が最大である。
【0103】
(2)プライマー:
本発明の方法で用いられるプライマーは、グルカンの合成において出発物質として作用する分子をいう。プライマーは、α−1,4−グルコシド結合で糖単位が結合できる遊離部分を1個以上有すれば、他の部分は糖以外の部分によって形成されていてもよい。本発明の方法では、プライマーに対して糖単位がα−1,4−グルコシド結合で順次結合されて、グルカンが合成される。プライマーとしては、グルカンホスホリラーゼによって糖単位が付加され得る任意の糖が挙げられる。
【0104】
プライマーは、本発明の反応の出発物質であればよく、例えば、本発明の方法によって合成されたグルカンをプライマーとして用いて、本発明の方法によってα−1,4−グルコシド鎖を再度伸長することも可能である。
【0105】
プライマーは、α−1,4−グルコシド結合のみを含むα−1,4−グルカンであっても、α−1,6−グルコシド結合を部分的に有してもよい。当業者は、所望のグルカンに応じて、適切なプライマーを容易に選択し得る。直鎖状のアミロースを合成する場合には、α−1,4−グルコシド結合のみを含むα−1,4−グルカンをプライマーとして用いれば、枝切り酵素などを用いずに直鎖状アミロースを合成できるので好ましい。
【0106】
プライマーの例としては、マルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、プルラン、カップリングシュガー、澱粉およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0107】
マルトオリゴ糖は、本明細書中では、2〜10個のグルコースが脱水縮合して生じた物質であって、α−1,4結合によって連結された物質をいう。マルトオリゴ糖は、好ましくは4〜10個の糖単位、より好ましくは5〜10個の糖単位、さらに好ましくは7〜10個の糖単位を有する。マルトオリゴ糖の例としては、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース、マルトノナオース、マルトデカオースなどのマルトオリゴ糖が挙げられる。マルトオリゴ糖は、好ましくはマルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースまたはマルトヘプタオースである。マルトオリゴ糖は、単品であってもよいし、複数のマルトオリゴ糖の混合物であってもよい。コストが低いため、マルトオリゴ糖の混合物が好ましい。1つの実施態様では、マルトオリゴ糖の混合物は、マルトテトラオースの重合度以上の重合度のマルトオリゴ糖に加えて、マルトトリオース、マルトースおよびグルコースのうちの少なくとも1つを含有する。ここで、「マルトテトラオースの重合度以上の重合度のマルトオリゴ糖」とは、重合度4以上のマルトオリゴ糖をいう。オリゴ糖は、直鎖状のオリゴ糖であってもよいし、分枝状のオリゴ糖であってもよい。オリゴ糖は、その分子内に、環状部分を有し得る。本発明では、直鎖状のオリゴ糖が好ましい。
【0108】
アミロースとは、α−1,4結合によって連結されたグルコース単位から構成される直鎖分子である。アミロースは、天然の澱粉中に含まれる。
【0109】
アミロペクチンとは、α−1,4結合によって連結されたグルコース単位に、α1,6結合でグルコース単位が連結された、分枝状分子である。アミロペクチンは天然の澱粉中に含まれる。アミロペクチンとしては、例えば、アミロペクチン100%からなるワキシーコーンスターチが用いられ得る。例えば、重合度が約1×105程度以上のアミロペクチンが原料として用いられ得る。
【0110】
グリコーゲンは、グルコースから構成されるグルカンの一種であり、高頻度の枝分かれを有するグルカンである。グリコーゲンは、動植物の貯蔵多糖としてほとんどあらゆる細胞に顆粒状態で広く分布している。グリコーゲンは、植物中では、例えば、トウモロコシの種子などに存在する。グリコーゲンは、代表的には、グルコースのα−1,4−結合の糖鎖に対して、グルコースおよそ3単位おきに1本程度の割合で、平均重合度12〜18のグルコースのα−1,4−結合の糖鎖がα−1,6−結合で結合している。また、α−1,6−結合で結合している分枝にも同様にグルコースのα−1,4−結合の糖鎖がα−1,6−結合で結合している。そのため、グリコーゲンは網状構造を形成する。
【0111】
グリコーゲンの分子量は代表的には約1×105〜約1×108であり、好ましくは約1×106〜約1×107である。
【0112】
プルランは、マルトトリオースが規則正しく、階段状にα−1,6−結合した、分子量約10万〜約30万(例えば、約20万)のグルカンである。プルランは、例えば、澱粉を原料として黒酵母Aureobasidium pullulansを培養することにより製造される。プルランは、例えば、林原商事から入手され得る。
【0113】
カップリングシュガーは、ショ糖、グルコシルスクロース、マルトシルスクロースを主成分とする混合物である。カップリングシュガーは、例えば、ショ糖と澱粉との混合溶液にBacillus megateriumなどが産生するサイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させることにより製造される。カップリングシュガーは、例えば、林原商事から入手され得る。
【0114】
澱粉は、アミロースとアミロペクチンとの混合物である。澱粉としては、通常市販されている澱粉であればどのような澱粉でも用いられ得る。澱粉に含まれるアミロースとアミロペクチンとの比率は、澱粉を産生する植物の種類によって異なる。モチゴメ、モチトウモロコシなどの有する澱粉のほとんどはアミロペクチンである。他方、アミロースのみからなり、かつアミロペクチンを含まない澱粉は、通常の植物からは得られない。
【0115】
澱粉は、天然の澱粉、澱粉分解物および化工澱粉に区分される。
【0116】
天然の澱粉は、原料により、いも類澱粉および穀類澱粉に分けられる。いも類澱粉の例としては、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、くず澱粉、およびわらび澱粉などが挙げられる。穀類澱粉の例としては、コーンスターチ、小麦澱粉、および米澱粉などが挙げられる。天然の澱粉の例は、澱粉を生産する植物の品種改良の結果、アミロースの含量を50%〜70%まで高めたハイアミロース澱粉(例えば、ハイアミロースコーンスターチ)である。天然の澱粉の別の例は、澱粉を生産する植物の品種改良の結果、アミロースを含まないワキシー澱粉である。
【0117】
可溶性澱粉は、天然の澱粉に種々の処理を施すことにより得られる、水溶性の澱粉をいう。
【0118】
化工澱粉は、天然の澱粉に加水分解、エステル化、またはα化などの処理を施して、より利用しやすい性質を持たせた澱粉である。糊化開始温度、糊の粘度、糊の透明度、老化安定性などを様々な組み合わせで有する幅広い種類の化工澱粉が入手可能である。化工澱粉の種類には種々ある。このような澱粉の例は、澱粉の糊化温度以下において澱粉粒子を酸に浸漬することにより、澱粉分子は切断するが、澱粉粒子は破壊していない澱粉である。
【0119】
澱粉分解物は、澱粉に酵素処理または加水分解などの処理を施して得られる、処理前よりも分子量が小さいオリゴ糖もしくは多糖である。澱粉分解物の例としては、澱粉枝切り酵素分解物、澱粉ホスホリラーゼ分解物および澱粉部分加水分解物が挙げられる。
【0120】
澱粉枝切り酵素分解物は、澱粉に枝切り酵素を作用させることによって得られる。枝切り酵素の作用時間を種々に変更することによって、任意の程度に分岐部分(すなわち、α−1,6−グルコシド結合)が切断された澱粉枝切り酵素分解物が得られる。枝切り酵素分解物の例としては、糖単位数4〜10000のうちα−1,6−グルコシド結合を1個〜20個有する分解物、糖単位数3〜500のα−1,6−グルコシド結合を全く有さない分解物、マルトオリゴ糖およびアミロースが挙げられる。澱粉枝切り酵素分解物の場合、分解された澱粉の種類によって得られる分解物の分子量の分布が異なり得る。澱粉枝切り酵素分解物は、種々の長さの糖鎖の混合物であり得る。
【0121】
澱粉ホスホリラーゼ分解物は、澱粉にグルカンホスホリラーゼ(ホスホリラーゼともいう)を作用させることによって得られる。グルカンホスホリラーゼは、澱粉の非還元性末端からグルコース残基を1糖単位ずつ他の基質へと転移させる。グルカンホスホリラーゼは、α−1,6−グルコシド結合を切断することができないので、グルカンホスホリラーゼを澱粉に充分に長時間作用させると、α−1,6−グルコシド結合の部分で切断が終わった分解物が得られる。本発明では、澱粉ホスホリラーゼ分解物の有する糖単位数は、好ましくは約10〜約100,000、より好ましくは約50〜約50,000、さらにより好ましくは約100〜約10,000である。澱粉ホスホリラーゼ分解物は、分解された澱粉の種類によって得られる分解産物の分子量の分布が異なり得る。澱粉ホスホリラーゼ分解物は、種々の長さの糖鎖の混合物であり得る。
【0122】
デキストリンおよび澱粉部分加水分解物は、澱粉を、酸、アルカリ、酵素などの作用によって部分的に分解して得られる分解物をいう。本発明では、デキストリンおよび澱粉部分加水分解物の有する糖単位数は、好ましくは約10〜約100,000、より好ましくは約50〜約50,000、さらにより好ましくは約100〜約10,000である。デキストリンおよび澱粉部分加水分解物の場合、分解された澱粉の種類によって得られる分解産物の分子量の分布が異なり得る。デキストリンおよび澱粉部分加水分解物は、種々の長さを持つ糖鎖の混合物であり得る。
【0123】
澱粉は、可溶性澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、澱粉枝切り酵素分解物、澱粉ホスホリラーゼ分解物、澱粉部分加水分解物、化工澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択されることが好ましい。
【0124】
本発明の方法では、上記各種糖の誘導体は、プライマーとして用いられ得る。例えば、上記糖のアルコール性水酸基の少なくとも1つが、ヒドロキシアルキル化、アルキル化、アセチル化、カルボキシメチル化、硫酸化、あるいはリン酸化された誘導体などが用いられ得る。さらに、これらの2種以上の誘導体の混合物が原料として用いられ得る。
【0125】
(3)無機リン酸またはグルコース−1−リン酸:
本明細書中において、無機リン酸とは、SPの反応においてリン酸基質を供与し得る物質をいう。ここでリン酸基質とは、グルコース−1−リン酸のリン酸部分(moiety)の原料となる物質をいう。スクロースホスホリラーゼによって触媒されるスクロース加リン酸分解において、無機リン酸はリン酸イオンの形態で基質として作用していると考えられる。当該分野ではこの基質を慣習的に無機リン酸というので、本明細書中でも、この基質を無機リン酸という。無機リン酸には、リン酸およびリン酸の無機塩が含まれる。通常、無機リン酸は、アルカリ金属イオンなどの陽イオンを含む水中で使用される。この場合、リン酸とリン酸塩とリン酸イオンとは平衡状態になるので、リン酸とリン酸塩とは区別をしにくい。従って、便宜上、リン酸とリン酸塩とを合わせて無機リン酸という。本発明において、無機リン酸は好ましくは、リン酸の任意の金属塩であり、より好ましくはリン酸のアルカリ金属塩である。無機リン酸の好ましい具体例としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸(H3PO4)、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムなどが挙げられる。
【0126】
無機リン酸は、反応開始時のSP−GP反応系において、1種類のみ含有されてもよく、複数種類含有されてもよい。
【0127】
無機リン酸は、例えば、ポリリン酸(例えば、ピロリン酸、三リン酸および四リン酸)のようなリン酸縮合体またはその塩を、物理的、化学的または酵素反応などによって分解したものを反応溶液に添加することによって提供され得る。
【0128】
本明細書において、グルコース−1−リン酸とは、グルコース−1−リン酸(C6H13O9P)およびその塩をいう。グルコース−1−リン酸は好ましくは、狭義のグルコース−1−リン酸(C6H13O9P)の任意の金属塩であり、より好ましくはグルコース−1−リン酸(C6H13O9P)の任意のアルカリ金属塩である。グルコース−1−リン酸の好ましい具体例としては、グルコース−1−リン酸二ナトリウム、グルコース−1−リン酸二カリウム、グルコース−1−リン酸(C6H13O9P)、などが挙げられる。本明細書において、括弧書きで化学式を書いていないグルコース−1−リン酸は、広義のグルコース−1−リン酸、すなわち狭義のグルコース−1−リン酸(C6H13O9P)およびその塩を示す。
【0129】
グルコース−1−リン酸は反応開始時のSP−GP反応系において、1種類のみ含有されてもよく、複数種類含有されていてもよい。
【0130】
本発明の方法において、反応開始時の反応溶液中のリン酸とグルコース−1−リン酸との間の比率は、任意の比率であり得る。
【0131】
反応溶液中に含まれる無機リン酸のモル濃度とグルコース−1−リン酸のモル濃度との合計は、代表的には約1mM〜約1000mM、好ましくは約10mM〜約500mM、より好ましくは約20mM〜約250mMである。無機リン酸のモル濃度およびグルコース−1−リン酸のモル濃度は、それぞれ、反応開始時から反応終了時までの間の反応溶液中のスクロース−リン酸比率の最大値が代表的には約17以下、好ましくは約0.5以上約15以下、より好ましくは約1以上約10以下、そしてさらに好ましくは約2以上約7以下になるように調整される。上述した本発明の第4の方法では、無機リン酸のモル濃度およびグルコース−1−リン酸のモル濃度は、反応開始時の反応溶液のスクロース−リン酸比率が上記範囲内になるように調整される。上述した本発明の第5の方法では、無機リン酸のモル濃度およびグルコース−1−リン酸のモル濃度は、スクロース、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸を反応溶液に追加する工程の終了時の反応溶液のスクロース−リン酸比率が上記範囲内になるように調整される。無機リン酸およびグルコース−1−リン酸の量が多すぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの合成に時間がかかる場合がある。
【0132】
SP−GP反応系中の無機リン酸の含有量は、下記の1.4に記載の方法によって定量され得る。SP−GP反応系中のグルコース−1−リン酸の含有量は、下記の1.3に記載の方法によって定量され得る。反応に関与しないリン含有物質を使わない場合、そのような場合は原子吸光法によって無機リン酸およびグルコース−1−リン酸の合計含有量を測定してもよい。
【0133】
なお、上述した第2の方法の場合、すなわち、反応温度が約40℃〜約70℃で反応が行われる場合、上記の最大値は必ずしも約17以下である必要はない。
【0134】
(4)スクロースホスホリラーゼ(EC.2.4.1.7):
本明細書中では、「スクロースホスホリラーゼ」とは、スクロースのα−グリコシル基をリン酸基に転移して加リン酸分解を行う任意の酵素をいう。スクロースホスホリラーゼによって触媒される反応は、次式により示される:
【0135】
【化2】
スクロースホスホリラーゼは、自然界では種々の生物に含まれる。スクロースホスホリラーゼを産生する生物の例としては、Streptococcus属に属する細菌(例えば、Streptococcus thermophilus、Streptococcus mutans、Streptococcus pneumoniae、およびStreptococcus mitis)、Leuconostoc mesenteroides、Pseudomonas sp.、Clostridium sp.、Pullularia pullulans、Acetobacter xylinum、Agrobacterium sp.、Synecococcus sp.、E.coli、Listeria monocytogenes、Bifidobacterium adolescentis、Aspergillus niger、Monilia sitophila、Sclerotinea escerotiorum、およびChlamydomonas sp.が挙げられるがこれらに限定されない。
【0136】
スクロースホスホリラーゼは、スクロースホスホリラーゼを産生する任意の生物由来であり得る。スクロースホスホリラーゼは、ある程度の耐熱性を有することが好ましい。スクロースホスホリラーゼは、単独で存在する場合の耐熱性が高ければ高いほど好ましい。例えば、スクロースホスホリラーゼを4%のスクロース存在下で55℃にて30分間加熱した場合に加熱前のスクロースホスホリラーゼの活性の50%以上の活性を保持するものであることが好ましい。スクロースホスホリラーゼは、好ましくはStreptococcus属の細菌由来であり、さらに好ましくはStreptococcus mutans、Streptococcus thermophilus、Streptococcus pneumoniaeまたはStreptococcus mitis由来である。
【0137】
本明細書中では、酵素がある生物に「由来する」とは、その生物から直接単離したことのみを意味するのではなく、その生物を何らかの形で利用することによりその酵素が得られることをいう。例えば、その生物から入手したその酵素をコードする遺伝子を大腸菌に導入して、その大腸菌から酵素を単離する場合も、その酵素はその生物に「由来する」という。
【0138】
本発明で用いられるスクロースホスホリラーゼは、上記のような自然界に存在する、スクロースホスホリラーゼを産生する生物から直接単離され得る。本発明で用いられるスクロースホスホリラーゼは、上記の生物から単離したスクロースホスホリラーゼをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0139】
本発明の方法で用いられるスクロースホスホリラーゼは、例えば、以下のようにして調製され得る。まず、スクロースホスホリラーゼを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)を培養する。この微生物は、スクロースホスホリラーゼを直接生産する微生物であってもよい。また、スクロースホスホリラーゼをコードする遺伝子をクローン化し、得られた遺伝子でスクロースホスホリラーゼ発現に有利な微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えして組換えされた微生物を得、得られた微生物からスクロースホスホリラーゼを得てもよい。
【0140】
スクロースホスホリラーゼ遺伝子での遺伝子組換えに用いられる微生物は、スクロースホスホリラーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。スクロースホスホリラーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。スクロースホスホリラーゼの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるスクロースホスホリラーゼは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0141】
クローン化した遺伝子での微生物(例えば、細菌、真菌など)の遺伝子組換えは、当業者に周知の方法に従って行われ得る。クローン化した遺伝子を用いる場合、この遺伝子を、構成性プロモーターまたは誘導性プロモーターに作動可能に連結することが好ましい。「作動可能に連結する」とは、プロモーターと遺伝子とが、そのプロモーターによって遺伝子の発現が調節されるように連結されることをいう。誘導性プロモーターを用いる場合、培養を、誘導条件下で行うことが好ましい。種々の誘導性プロモーターは当業者に公知である。
【0142】
クローン化した遺伝子について、生産されるスクロースホスホリラーゼが菌体外に分泌されるように、シグナルペプチドをコードする塩基配列をこの遺伝子に連結し得る。シグナルペプチドをコードする塩基配列は当業者に公知である。
【0143】
当業者は、スクロースホスホリラーゼを生産するために、微生物(例えば、細菌、真菌など)の培養の条件を適切に設定し得る。微生物の培養に適切な培地、各誘導性プロモーターに適切な誘導条件などは当業者に公知である。
【0144】
適切な時間の培養後、スクロースホスホリラーゼを培養物から回収する。生産されたスクロースホスホリラーゼが菌体外へ分泌される場合、遠心分離によって菌体を除去すれば、上清中にスクロースホスホリラーゼが得られる。菌体内で生産されたスクロースホスホリラーゼが菌体外へ分泌されない場合、超音波処理、機械的破砕、化学的破砕などの処理によって微生物を破砕し、菌体破砕液を得る。
【0145】
本発明の方法では、菌体破砕液を精製せずに用いてもよい。次いで、菌体破砕液を遠心分離して菌体の破片を除去し、上清を入手し得る。得られたこれらの上清から、本発明の酵素を、硫酸アンモニウム沈澱またはエタノール沈澱、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含む周知の方法によって回収し得る。回収された生成物は、必要に応じて精製され得る。
【0146】
好ましい実施態様では、スクロースホスホリラーゼは、精製段階の任意の段階でスクロース(代表的には約4%〜約30%、好ましくは約8%〜約30%、より好ましくは約8%〜約25%)の存在下で加熱され得る。この加熱工程における溶液の温度は、この溶液を30分間加熱した場合に、加熱前のこの溶液に含まれるスクロースホスホリラーゼの活性の50%以上、より好ましくは80%以上の活性が残る温度であることが好ましい。この温度は好ましくは約50℃〜約80℃であり、より好ましくは約55℃〜約70℃である。例えば、S.mutans由来スクロースホスホリラーゼの場合、この温度は約50℃〜約60℃であることが好ましい。加熱が行われる場合、加熱時間は、反応温度を考慮して、スクロースホスホリラーゼの活性を大きく損なうことがない限り、任意の時間で設定され得る。加熱時間は、代表的には約10分間〜約90分間、より好ましくは約30分間〜約60分間である。
【0147】
反応開始時の溶液中に含まれるスクロースホスホリラーゼの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.05〜1,000U/gスクロース、好ましくは約0.1〜500U/gスクロース、より好ましくは約0.5〜100U/gスクロースである。スクロースホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0148】
スクロースホスホリラーゼは、精製されていても未精製であってもよい。スクロースホスホリラーゼは、固定化されていても固定化されていなくともよい。スクロースホスホリラーゼは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。スクロースホスホリラーゼは、担体上に固定化されていることが好ましい。
【0149】
(5)グルカンホスホリラーゼ(EC.2.4.1.1):
グルカンホスホリラーゼとは、α−1,4−グルカンの加リン酸分解を触媒する酵素の総称であり、ホスホリラーゼ、スターチホスホリラーゼ、グリコーゲンホスホリラーゼ、マルトデキストリンホスホリラーゼなどと呼ばれる場合もある。グルカンホスホリラーゼは、加リン酸分解の逆反応であるα−1,4−グルカン合成反応をも触媒し得る。反応がどちらの方向に進むかは、基質の量に依存する。生体内では、無機リン酸の量が多いので、グルカンホスホリラーゼは加リン酸分解の方向に反応が進む。本発明の方法では、無機リン酸は、スクロースの加リン酸分解に使われ、反応溶液中に含まれる無機リン酸の量が少ないので、α−1,4−グルカンの合成の方向に反応が進む。
【0150】
グルカンホスホリラーゼは、デンプンまたはグリコーゲンを貯蔵し得る種々の植物、動物および微生物中に普遍的に存在すると考えられる。
【0151】
グルカンホスホリラーゼを産生する植物の例としては、藻類、ジャガイモ(馬鈴薯ともいう)、サツマイモ(甘藷ともいう)、ヤマイモ、サトイモ、キャッサバなどの芋類、キャベツ、ホウレンソウなどの野菜類、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、アワなどの穀類、えんどう豆、大豆、小豆、うずら豆などの豆類などが挙げられる。
【0152】
グルカンホスホリラーゼを産生する動物の例としては、ヒト、ウサギ、ラット、ブタなどの哺乳類などが挙げられる。
【0153】
グルカンホスホリラーゼを産生する微生物の例としては、Thermus aquaticus、Bacillus stearothermophilus、Deinococcus radiodurans、Thermococcus litoralis、Streptomyces coelicolor、Pyrococcus horikoshi、Mycobacterium tuberculosis、Thermotoga maritima、Aquifex aeolicus、Methanococcus Jannaschii、Pseudomonas aeruginosa、Chlamydia pneumoniae、Chlorella vulgaris、Agrobacterium tumefaciens、Clostridium pasteurianum、Klebsiella pneumoniae、Synecococcus sp.、Synechocystis sp.、E.coli、Neurospora crassa、Saccharomyces cerevisiae、Chlamydomonas sp.などが挙げられる。グルカンホスホリラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。
【0154】
本発明で用いられるグルカンホスホリラーゼは、ジャガイモ、Thermus aquaticus、Bacillus stearothermophilusに由来することが好ましく、ジャガイモに由来することがより好ましい。本発明で用いられるグルカンホスホリラーゼは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高いグルカンホスホリラーゼは、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0155】
本発明で用いられるグルカンホスホリラーゼは、上記のような自然界に存在する、グルカンホスホリラーゼを産生する動物、植物、および微生物から直接単離され得る。
【0156】
本発明で用いられるグルカンホスホリラーゼは、これらの動物、植物または微生物から単離したグルカンホスホリラーゼをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0157】
グルカンホスホリラーゼは、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0158】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、グルカンホスホリラーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。グルカンホスホリラーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。グルカンホスホリラーゼの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるグルカンホスホリラーゼは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0159】
遺伝子組換えによって得られたグルカンホスホリラーゼの生産および精製は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0160】
反応開始時の溶液中に含まれるグルカンホスホリラーゼの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.05〜1,000U/gスクロース、好ましくは約0.1〜500U/gスクロース、より好ましくは約0.5〜100U/gスクロースである。グルカンホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0161】
グルカンホスホリラーゼは、精製されていても未精製であってもよい。グルカンホスホリラーゼは、固定化されていても固定化されていなくともよい。グルカンホスホリラーゼは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。グルカンホスホリラーゼは、担体上に固定化されていることが好ましい。グルカンホスホリラーゼはまた、スクロースホスホリラーゼと同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0162】
(6)枝切り酵素:
本発明の方法において、α−1,6−グルコシド結合を含有する出発材料を用いる場合などの、生成物に分岐が生じる場合には、必要に応じて、枝切り酵素を用いることができる。
【0163】
本発明で用いられ得る枝切り酵素は、α−1,6−グルコシド結合を切断し得る酵素である。枝切り酵素は、アミロペクチンおよびグリコーゲンにともによく作用するイソアミラーゼ(EC 3.2.1.68)と、アミロペクチン、グリコーゲンおよびプルランに作用するα−デキストリンエンド−1,6−α−グルコシダーゼ(プルラナーゼともいう)(EC 3.2.1.41)との2つに分類される。
【0164】
枝切り酵素は、微生物、細菌、および植物に存在する。枝切り酵素を産生する微生物の例としては、Saccharomyces cerevisiae、Chlamydomonas sp.が挙げられる。枝切り酵素を産生する細菌の例としては、Bacillus brevis、Bacillus acidopullulyticus、Bacillus macerans、Bacillus stearothermophilus、Bacillus circulans、Thermus aquaticus、Klebsiella pneumoniae、Thermoactinomyces thalpophilus、Thermoanaerobacter ethanolicus、Pseudomonas amyloderamosaなどが挙げられる。枝切り酵素を産生する植物の例としては、ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、オートムギ、サトウダイコンなどが挙げられる。枝切り酵素を産生する生物はこれらに限定されない。
【0165】
本発明で用いられ得る枝切り酵素は、Klebsiella pneumoniae、Bacillus brevis、Bacillus acidopullulyticus、Pseudomonas amyloderamosaに由来することが好ましく、Klebsiella pneumoniae、Pseudomonas amyloderamosaに由来することがより好ましい。本発明で用いられる枝切り酵素は、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高い枝切り酵素は、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0166】
本発明で用いられ得る枝切り酵素は、上記のような自然界に存在する、枝切り酵素を産生する微生物、細菌、および植物から直接単離され得る。
【0167】
本発明で用いられ得る枝切り酵素は、これらの微生物、細菌、および植物から単離した枝切り酵素をコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0168】
枝切り酵素は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0169】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、枝切り酵素の発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。枝切り酵素は、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。枝切り酵素の遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生される枝切り酵素は、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0170】
遺伝子組換えによる枝切り酵素の生産および精製は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0171】
反応開始時の溶液中に含まれる枝切り酵素の量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.05〜1,000U/gスクロース、好ましくは約0.1〜500U/gスクロース、より好ましくは約0.5〜100U/gスクロースである。枝切り酵素の重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0172】
枝切り酵素は、精製されていても未精製であってもよい。枝切り酵素は、固定化されていても固定化されていなくともよい。枝切り酵素は、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。枝切り酵素は、担体上に固定化されていることが好ましい。枝切り酵素はまた、スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの少なくとも一方と同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方と同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0173】
(7)ブランチングエンザイム(EC.2.4.1.18):
本発明の方法において、生成物に分岐を生じさせることが所望される場合には、必要に応じて、ブランチングエンザイムを用いることができる。
【0174】
本発明で用いられ得るブランチングエンザイムは、α−1,4−グルカン鎖の一部をこのα−1,4−グルカン鎖のうちのあるグルコース残基の6位に転移して分枝を作り得る酵素である。ブランチングエンザイムは、1,4−α−グルカン分枝酵素、枝つくり酵素またはQ酵素とも呼ばれる。
【0175】
ブランチングエンザイムは、微生物、動物、および植物に存在する。ブランチングエンザイムを産生する微生物の例としては、Bacillus stearothermophilus、Bacillus subtilis、Bacillus caldolyticus、Bacillus licheniformis、Bacillus amyloliquefaciens、Bacillus coagulans、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus smithii、Bacillus megaterium、Bacillus brevis、Alkalophillic Bacillus sp.、Streptomyces coelicolor、Aquifex aeolicus、Synechosystis sp.、E.coli、Agrobacteirum tumefaciens、Thermus aquaticus、Rhodothermus obamensis、Neurospora crassa、酵母などが挙げられる。ブランチングエンザイムを産生する動物の例としてはヒト、ウサギ、ラット、ブタなどの哺乳類が挙げられる。ブランチングエンザイムを産生する植物の例としては、藻類、ジャガイモ、サツマイモ、ヤマイモ、キャッサバなどの芋類、ホウレンソウなどの野菜類、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、アワなどの穀類、えんどう豆、大豆、小豆、うずら豆などの豆類などが挙げられる。ブランチングエンザイムを産生する生物はこれらに限定されない。
【0176】
本発明で用いられ得るブランチングエンザイムは、ジャガイモ、Bacillus stearothermophilus、Aquifex aeolicusに由来することが好ましく、Bacillus stearothermophilus、Aquifex aeolicusに由来することがより好ましい。本発明で用いられるブランチングエンザイムは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高いブランチングエンザイムは、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0177】
本発明で用いられ得るブランチングエンザイムは、上記のような自然界に存在する、ブランチングエンザイムを産生する微生物、動物、および植物から直接単離され得る。
【0178】
本発明で用いられ得るブランチングエンザイムは、これらの微生物、動物、および植物から単離したブランチングエンザイムをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0179】
ブランチングエンザイムは、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0180】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、ブランチングエンザイムの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。ブランチングエンザイムは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。ブランチングエンザイムの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるブランチングエンザイムは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0181】
遺伝子組換えによるブランチングエンザイムの生産および精製は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0182】
反応開始時の溶液中に含まれるブランチングエンザイムの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約10〜100,000U/gスクロース、好ましくは約100〜50,000U/gスクロース、より好ましくは約1,000〜10,000U/gスクロースである。ブランチングエンザイムの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0183】
ブランチングエンザイムは、精製されていても未精製であってもよい。ブランチングエンザイムは、固定化されていても固定化されていなくともよい。ブランチングエンザイムは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。ブランチングエンザイムは、担体上に固定化されていることが好ましい。ブランチングエンザイムはまた、スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの少なくとも一方と同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方と同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0184】
(8)4−α−グルカノトランスフェラーゼ(EC.2.4.1.25)
本発明の方法において、生成物に環状構造を生じさせる場合には、必要に応じて、4−α−グルカノトランスフェラーゼを用いることができる。
【0185】
本発明で用いられ得る4−α−グルカノトランスフェラーゼは、ディスプロポーショネーティングエンザイム、D−酵素、アミロマルターゼ、不均化酵素などとも呼ばれ、マルトオリゴ糖の糖転移反応(不均一化反応)を触媒し得る酵素である。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、供与体分子の非還元末端からグルコシル基あるいは、マルトシルもしくはマルトオリゴシルユニットを受容体分子の非還元末端に転移する酵素である。従って、酵素反応は、最初に与えられたマルトオリゴ糖の重合度の不均一化をもたらす。供与体分子と受容体分子とが同一の場合は、分子内転移が生じ、その結果、環状構造をもつ生成物が得られる。
【0186】
4−α−グルカノトランスフェラーゼは、微生物および植物に存在する。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する微生物の例としては、Aquifex aeolicus、Streptococcus pneumoniae、Clostridium butylicum、Deinococcus radiodurans、Haemophilus influenzae、Mycobacterium tuberculosis、Thermococcus litralis、Thermotoga maritima、Thermotoga neapolitana、Chlamydia psittaci、Pyrococcus sp.、Dictyoglomus thermophilum、Borrelia burgdorferi、Synechosystis sp.、E.coli、Thermus aquaticusなどが挙げられる。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する植物の例としては、ジャガイモ、サツマイモ、ヤマイモ、キャッサバなどの芋類、トウモロコシ、イネ、コムギ、などの穀類、えんどう豆、大豆、などの豆類などが挙げられる。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。
【0187】
本発明で用いられ得る4−α−グルカノトランスフェラーゼは、ジャガイモ、Thermus aquaticus、Thermococcus litralisに由来することが好ましく、ジャガイモ、Thermus aquaticusに由来することがより好ましい。本発明で用いられる4−α−グルカノトランスフェラーゼは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高い4−α−グルカノトランスフェラーゼは、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0188】
本発明で用いられ得る4−α−グルカノトランスフェラーゼは、上記のような自然界に存在する、4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する微生物および植物から直接単離され得る。
【0189】
本発明で用いられ得る4−α−グルカノトランスフェラーゼは、これらの微生物および植物から単離した4−α−グルカノトランスフェラーゼをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0190】
4−α−グルカノトランスフェラーゼは、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0191】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、4−α−グルカノトランスフェラーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。4−α−グルカノトランスフェラーゼの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生される4−α−グルカノトランスフェラーゼは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0192】
遺伝子組換えによる4−α−グルカノトランスフェラーゼの生産および精製は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0193】
反応開始時の溶液中に含まれる4−α−グルカノトランスフェラーゼの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.05〜1,000U/gスクロース、好ましくは約0.1〜500U/gスクロース、より好ましくは約0.5〜100U/gスクロースである。4−α−グルカノトランスフェラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0194】
4−α−グルカノトランスフェラーゼは、精製されていても未精製であってもよい。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、固定化されていても固定化されていなくともよい。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、担体上に固定化されていることが好ましい。4−α−グルカノトランスフェラーゼはまた、スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの少なくとも一方と同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方と同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0195】
(9)グリコーゲンデブランチングエンザイム(EC.2.4.1.25/EC.3.2.1.33)
本発明の方法において、生成物に環状構造を生じさせる場合には、必要に応じて、グリコーゲンデブランチングエンザイムを用いることができる。
【0196】
本発明で用いられ得るグリコーゲンデブランチングエンザイムは、α−1,6−グルコシダーゼ活性と、4−α−グルカノトランスフェラーゼ活性との2種類の活性をもつ酵素である。グリコーゲンデブランチングエンザイムが持つ、4−α−グルカノトランスフェラーゼ活性により、環状構造を持つ生成物が得られる。
【0197】
グリコーゲンデブランチングエンザイムは、微生物および動物に存在する。グリコーゲンデブランチングエンザイムを産生する微生物の例としては、酵母などが挙げられる。グリコーゲンデブランチングエンザイムを産生する動物の例としては、ヒト、ウサギ、ラット、ブタなどの哺乳類が挙げられる。グリコーゲンデブランチングエンザイムを産生する生物はこれらに限定されない。
【0198】
本発明で用いられ得るグリコーゲンデブランチングエンザイムは、酵母に由来することが好ましい。本発明で用いられるグリコーゲンデブランチングエンザイムは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高いグリコーゲンデブランチングエンザイムは、例えば、タンパク質工学的手法により、中温で作用し得る酵素に改変を加えることで得られる。
【0199】
本発明で用いられ得るグリコーゲンデブランチングエンザイムは、上記のような自然界に存在する、グリコーゲンデブランチングエンザイムを産生する微生物および動物から直接単離され得る。
【0200】
本発明で用いられ得るグリコーゲンデブランチングエンザイムは、これらの微生物および動物から単離したグリコーゲンデブランチングエンザイムをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0201】
グリコーゲンデブランチングエンザイムは、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0202】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、グリコーゲンデブランチングエンザイムの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。グリコーゲンデブランチングエンザイムは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。グリコーゲンデブランチングエンザイムの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるグリコーゲンデブランチングエンザイムは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0203】
遺伝子組換えによるグリコーゲンデブランチングエンザイムの生産および精製は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0204】
反応開始時の溶液中に含まれるグリコーゲンデブランチングエンザイムの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.01〜5,000U/gスクロース、好ましくは約0.1〜1,000U/gスクロース、より好ましくは約1〜500U/gスクロースである。グリコーゲンデブランチングエンザイムの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0205】
グリコーゲンデブランチングエンザイムは、精製されていても未精製であってもよい。グリコーゲンデブランチングエンザイムは、固定化されていても固定化されていなくともよい。グリコーゲンデブランチングエンザイムは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。グリコーゲンデブランチングエンザイムは、担体上に固定化されていることが好ましい。グリコーゲンデブランチングエンザイムはまた、スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの少なくとも一方と同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方と同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0206】
(10)溶媒:
本発明の方法に用いる溶媒は、スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの酵素活性を損なわない溶媒であれば任意の溶媒であり得る。
【0207】
なお、グルカンを生成する反応が進行し得る限り、溶媒が本発明の方法に用いる材料を完全に溶解する必要はない。例えば、酵素が固体の担体上に担持されている場合には、酵素が溶媒中に溶解する必要はない。さらに、スクロースなどの反応材料も全てが溶解している必要はなく、反応が進行し得る程度の材料の一部が溶解していればよい。
【0208】
代表的な溶媒は、水である。溶媒は、上記スクロースホスホリラーゼまたはグルカンホスホリラーゼを調製する際にスクロースホスホリラーゼまたはグルカンホスホリラーゼに付随して得られる細胞破砕液のうちの水分であってもよい。
【0209】
水は、軟水、中間水および硬水のいずれであってもよい。軟水とは、硬度20°以上の水をいい、中間水とは、硬度10°以上20°未満の水をいい、硬水とは、硬度10°未満の水をいう。水は、好ましくは軟水または中間水であり、より好ましくは軟水である。
【0210】
(11)他の成分:
スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼを含む溶液中には、スクロースホスホリラーゼとスクロースとの間の相互作用およびグルカンホスホリラーゼとプライマーとの間の相互作用を妨害しない限り、任意の他の物質を含み得る。このような物質の例としては、緩衝剤、スクロースホスホリラーゼを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)の成分、グルカンホスホリラーゼを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)の成分、塩類、培地成分などが挙げられる。
【0211】
<グルカンの製造>
本発明のグルカンは、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを含む反応溶液を反応させる工程により製造される。
【0212】
図1に、本願発明で用いるスクロースからのグルカン合成の概略を示す。スクロースと無機リン酸からスクロースホスホリラーゼを用いて、グルコース−1−リン酸が生成される。生成されたグルコース−1−リン酸および反応溶液に加えたグルコース−1−リン酸は、直ちにグルカンホスホリラーゼにより適切なプライマーに転移され、α−1,4−グルカン鎖が伸長される。また、その際に生成される無機リン酸は、再度スクロースホスホリラーゼの反応にリサイクルされる仕組みになっている。
【0213】
まず、反応溶液を調製する。反応溶液は、例えば、適切な溶媒に、固体状のスクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを添加することにより調製され得る。あるいは、反応溶液は、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、またはグルカンホスホリラーゼをそれぞれ含む溶液を混合することによって調製してもよい。あるいは、反応溶液は、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼのうちのいくつかの成分を含む溶液に固体状の他の成分を混合することによって調製してもよい。この反応溶液には、酵素反応を阻害しない限り、必要に応じて、pHを調整する目的で任意の緩衝剤を加えてもよい。この反応溶液には、必要に応じて枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を添加してもよい。
【0214】
次いで、反応溶液を、当該分野で公知の方法によって必要に応じて加熱することにより、反応させる。反応温度は、本発明の効果が得られる限り、任意の温度であり得る。反応開始時の反応溶液中のスクロース濃度が約5〜約100%である場合には、反応温度は代表的には、約40℃〜約70℃の温度であり得る。この反応工程における溶液の温度は、所定の反応時間後に反応前のこの溶液に含まれるスクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの少なくとも一方、好ましくは両方の活性の約50%以上、より好ましくは約80%以上の活性が残る温度であることが好ましい。この温度は好ましくは約40℃〜約70℃であり、より好ましくは約45℃〜約70℃、さらにより好ましくは約45℃〜約65℃である。
【0215】
なお、上述した第1の方法の場合、すなわち、反応開始時から反応終了時までの間の反応溶液のスクロース−リン酸比率の最大値が約17以下の場合、反応温度は、上述した範囲よりも低くてもよい。上述した第4の方法の場合、すなわち、反応開始時の反応溶液のスクロース−リン酸比率が約17以下の場合、および上述した第5の方法の場合、すなわち、スクロース、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸を反応溶液に追加する工程を包含する場合も、反応温度は、上述した範囲よりも低くてもよい。例えば、加熱を行わずに室温で反応させてもよい。
【0216】
反応時間は、反応温度、反応により生産されるグルカンの分子量および酵素の残存活性を考慮して、任意の時間で設定され得る。反応時間は、代表的には約1時間〜約100時間、より好ましくは約1時間〜約72時間、さらにより好ましくは約2時間〜約36時間、最も好ましくは約2時間〜約24時間である。
【0217】
加熱は、どのような手段を用いて行ってもよいが、溶液全体に均質に熱が伝わるように、攪拌を行いながら加熱することが好ましい。溶液は、例えば、温水ジャケットと攪拌装置を備えたステンレス製反応タンクの中に入れられて攪拌される。
【0218】
本発明の方法ではまた、反応がある程度進んだ段階で、スクロース、スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの少なくとも1つを反応溶液に追加してもよい。
【0219】
このようにして、グルカンを含有する溶液が生産される。
【0220】
反応終了後、反応溶液は、必要に応じて例えば、100℃にて10分間加熱することによって反応溶液中の酵素を失活させ得る。あるいは、酵素を失活させる処理を行うことなく後の工程を行ってもよい。反応溶液は、そのまま保存されてもよいし、生産されたグルカンを単離するために処理されてもよい。
【0221】
<精製方法>
生産されたグルカンは、必要に応じて精製され得る。精製することにより除去される不純物の例は、フルクトースである。グルカンの精製法の例としては、有機溶媒を用いる方法(T.J.Schochら、J.American Chemical Society,64,2957(1942))および有機溶媒を用いない方法がある。
【0222】
有機溶媒を用いる精製に使用され得る有機溶媒の例としては、アセトン、n−アミルアルコール、ペンタゾール、n−プロピルアルコール、n−ヘキシルアルコール、2−エチル−1−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノール、n−ブチルアルコール、3−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、d,l−ボルネオール、α−テルピネオール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、2−メチル−1−ブタノール、イソアミルアルコール、tert−アミルアルコール、メントール、メタノール、エタノールおよびエーテルが挙げられる。
【0223】
有機溶媒を用いない精製方法の例を、以下に示す。
【0224】
(1)グルカン生産反応後、反応溶液を冷却することによりグルカンを沈澱させ、そして沈澱したグルカンを、膜分画、濾過、遠心分離などの一般的な固液分離方法により精製する方法;
(2)グルカン生産反応の間もしくはグルカン生産反応後に反応溶液を冷却してグルカンをゲル化し、ゲル化したグルカンを回収し、そしてゲル化したグルカンから、フルクトースを、水による洗浄、凍結融解、ろ過などの操作によって除去する方法;ならびに
(3)グルカン生産反応後、水に溶解しているグルカンを沈澱させずに、限外ろ過膜を用いた膜分画もしくはクロマトグラフィーに供してフルクトースを除去する方法。
【0225】
精製に使用され得る限外濾過膜の例としては、分画分子量約1,000〜約100,000、好ましくは約5,000〜約50,000、より好ましくは約10,000〜約30,000の限外濾過膜(ダイセル製UF膜ユニット)が挙げられる。
【0226】
クロマトグラフィーに使用され得る担体の例としては、ゲル濾過クロマトグラフィー用担体、配位子交換クロマトグラフィー用担体、イオン交換クロマトグラフィー用担体および疎水クロマトグラフィー用担体が挙げられる。
【実施例】
【0227】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されない。
【0228】
(1.測定方法および計算方法)
本発明における各種物質は、以下の測定方法によって測定した。
【0229】
(1.1 グルコースの定量)
グルコースを、市販されている測定キットを用いて定量した。グルコースAR−II発色試薬(和光純薬社製)を用いて測定する。
【0230】
(1.2 フルクトースの定量)
フルクトースを、市販されている測定キットを用いて定量した。F−キット D−グルコース/D−フルクトース(ロシュ社製)を用いて測定する。
【0231】
(1.3 グルコース−1−リン酸の定量)
グルコース−1−リン酸を、以下の方法により定量した。300μlの測定試薬(200mM Tris‐HCl(pH7.0)、3mM NADP、15mM 塩化マグネシウム、3mM EDTA、15μMグルコース−1,6−二リン酸、6μg/ml ホスホグルコムターゼ、6μg/ml グルコース−6−リン酸脱水素酵素)に、適切に希釈したグルコース−1−リン酸を含む溶液600μlを加えて攪拌し、反応系を得る。この反応系を、30℃で30分間保持した後、分光光度計を用いて340nmでの吸光度を測定する。濃度既知のグルコース−1−リン酸ナトリウムを用いて同様に吸光度を測定し、標準曲線を作成する。この標準曲線に試料で得られた吸光度を当てはめ、試料中のグルコース−1−リン酸濃度を求める。通常は、1分間に1μmolのグルコース−1−リン酸を生成する活性を1単位とする。この定量法では、グルコース−1−リン酸のみが定量され、無機リン酸の量は定量されない。
【0232】
(1.4 無機リン酸の定量)
無機リン酸を、リン酸イオンとして以下の方法により求めた。無機リン酸を含む溶液(200μl)に対し、800μlのモリブデン試薬(15mM モリブデン酸アンモニウム、100mM 酢酸亜鉛)を混合し、続いて200μlの568mMアスコルビン酸(pH5.0)を加えて攪拌し、反応系を得る。この反応系を、30℃で20分間保持した後、分光光度計を用いて850nmでの吸光度を測定する。濃度既知の無機リン酸を用いて同様に吸光度を測定し、標準曲線を作成する。この標準曲線に試料で得られた吸光度を当てはめ、試料中の無機リン酸を求める。この定量法では、無機リン酸の量が定量され、グルコース−1−リン酸の量は定量されない。
【0233】
(1.5 グルカンの収量の計算方法)
出発物質として無機リン酸を用いて製造したグルカンの収量は、反応終了後の溶液中の、グルコース、フルクトース、およびグルコース−1−リン酸の量から、以下の式により求められる。
【0234】
【化3】
この式は、以下の原理に基づく。
【0235】
本発明の方法では、まず、以下の式の反応(A)が起き得る。
【0236】
【化4】
この反応は、スクロースホスホリラーゼにより触媒される。この反応では、スクロースと無機リン酸とが反応して、同じモル量のグルコース−1−リン酸とフルクトースとが生じる。生じたフルクトースはそれ以上他の物質と反応しないので、フルクトースのモル量を測定することによって生じたグルコース−1−リン酸のモル量がわかる。
【0237】
スクロースホスホリラーゼは、上記の反応(A)の他に、以下の反応(B)のスクロースの加水分解も副反応として触媒し得る。
【0238】
【化5】
グルカンに取り込まれたグルコース量は以下によって計算される。
【0239】
【化6】
反応(B)で生成するフルクトースを考慮すると、反応Aにより生成されたフルクトースの量は、以下によって算出される:
【0240】
【化7】
したがって、グルカンの収量は、以下の式により求められる。
【0241】
【化8】
出発物質として、グルコース−1−リン酸を用いて製造したグルカンの収量は、初発のグルコース−1−リン酸の量、ならびに反応終了後の溶液中のグルコース、フルクトースおよびグルコース−1−リン酸の量から、以下の式により求められる。
【0242】
【化9】
この式は以下の原理に基づく。
【0243】
反応溶液中では、初発のグルコース−1−リン酸に加えて、反応Aによって、グルコース−1−リン酸が生成される。つまり、初発のグルコース−1−リン酸と生成されたグルコース−1−リン酸とが、グルカンの合成に使われ得る。グルカンの合成に使われ得るグルコース−1−リン酸の量から、反応終了後に反応溶液に残存するグルコース−1−リン酸の量を差し引くことによって、反応に使用されたグルコース−1−リン酸の量、すなわち、グルカンに取り込まれたグルコースの量を算出できる。したがって、グルカンに取り込まれたグルコースの量を上記に示す式により求められる。なお、この式は、SP−GP反応系において出発材料として無機リン酸とグルコース−1−リン酸とを併用した場合にも適用できる。
【0244】
(1.6 グルカンの収率)
出発物質として無機リン酸を用いて製造した場合のグルカンの収率は、以下の式によって求められる。
【0245】
【化10】
出発物質としてグルコース−1−リン酸を用いて製造した場合のグルカンの収率は、以下の式によって求められる。
【0246】
【化11】
なお、この式は、SP−GP反応系において出発材料として無機リン酸とグルコース−1−リン酸とを併用した場合にも適用できる。
【0247】
(1.7 グルカンホスホリラーゼの活性測定)
グルカンホスホリラーゼの活性単位を、以下の方法により測定した。
【0248】
50μlの4%クラスターデキストリン水溶液と50μlの50mMグルコース−1−リン酸ナトリウム水溶液とを混合し、さらに適切に希釈した酵素液100μlを加えて反応を開始させる。混合物を37℃で15分間反応させた後、20%SDSを10μl加え、反応を停止する。その後、反応溶液中の無機リン酸の量を上記1.4に記載の方法により定量する。この方法により、1分間に1μmolの無機リン酸を生成する活性を1単位とする。ただし、Thermus aquaticus グルカンホスホリラーゼは37℃の代わりに50℃で反応させて活性を測定する。
【0249】
(1.8 スクロースホスホリラーゼの活性測定)
スクロースホスホリラーゼの活性単位を、以下の方法により求めた。
【0250】
25μlの10%スクロースと20μlの500mM リン酸緩衝液(pH7.0)とを混合する。この混合液に、不溶性タンパク質を除去した適切に希釈した酵素液を5μl加えて攪拌し、反応系を得る。この反応系を37℃で20分間反応させた後、100℃で5分間加熱し反応を停止させる。その後、反応後の溶液中のグルコース−1−リン酸を定量する。通常は、1分間に1μmolのグルコース−1−リン酸を生成する活性を1単位とする。
【0251】
(2.酵素の調製)
本発明の実施例で用いた各種酵素は、以下の方法によって調製した。
【0252】
(2.1 馬鈴薯塊茎由来グルカンホスホリラーゼの調製方法)
市販されている馬鈴薯塊茎1.4kgの皮をむく。皮をむいた塊茎をジューサーですりつぶしてすりつぶし液を得る。次いで、このすりつぶし液をガーゼで濾過して濾液を得る。濾液に、Tris緩衝液(pH7.0)を最終濃度100mMになるように加えて、酵素液を得る。この酵素液を、55℃の水浴中で、液温が50℃に達してからさらに10分間加熱する。加熱後、この酵素液を、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−25I)を用いて、8,500rpmにて、20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去し、上清を得る。
【0253】
得られた遠心上清に、硫酸アンモニウムを100g/Lになるように加えてから、4℃にて2時間放置し、タンパク質を沈澱させる。次いで、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−25I)を用いて、8,500rpmにて20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去し、上清を得る。さらに、得られた上清に硫酸アンモニウムを最終濃度250g/Lになるように加えてから、4℃にて2時間放置し、タンパク質を沈澱させる。次いで、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−25I)を用いて、8,500rpm、20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質を回収する。
【0254】
回収された不溶性のタンパク質を25mM Tris緩衝液(pH7.0)150mlで懸濁する。懸濁した酵素液を同じ緩衝液に対して一晩透析する。透析後のサンプルを、あらかじめ平衡化しておいた陰イオン交換樹脂Q−Sepharose(ファルマシア社製)に吸着させ、200mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で洗浄する。続いて、400mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で溶出させ、溶出液を回収し、部分精製馬鈴薯塊茎由来グルカンホスホリラーゼ含有溶液とする。
【0255】
購入した馬鈴薯によっては、この段階で本発明に使用し得るグルカンホスホリラーゼ含有溶液になるが、さらなる精製を必要とすることが多い。必要に応じて、Sephacryl S−200HR(ファルマシア社製)などを用いたゲルフィルトレーションクロマトグラフィーによる分画、Phenyl−TOYOPEARL 650M(東ソー社製)などを用いた疎水クロマトグラフィーによる分画を組み合わせることにより、精製馬鈴薯グルカンホスホリラーゼ含有溶液を得ることができる。
【0256】
(2.2 組換え馬鈴薯グルカンホスホリラーゼの調製方法)
馬鈴薯グルカンホスホリラーゼ遺伝子(Nakanoら、Journal of Biochemistry(Tokyo)106(1989)691)を選択マーカー遺伝子Amprとともに発現ベクターpET34(STRATAGENE社製)に組み込み、プラスミドpET−PGP113を得た。このプラスミドでは、グルカンホスホリラーゼ遺伝子を、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導性プロモーターの制御下に作動可能に連結した。このプラスミドを、大腸菌TG−1(STRATAGENE社製)に、コンピテントセル法により導入した。この大腸菌を、抗生物質アンピシリンを含むLB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス(ともにDifco社製)、1%塩化ナトリウム、1.5%寒天))を含むプレートにプレーティングして、37℃で一晩培養した。このプレート上で増殖した大腸菌を選択することにより、馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼ遺伝子が導入された大腸菌を得た。得られた大腸菌がグルカンホスホリラーゼ遺伝子を含むことを、導入された遺伝子の配列を解析することによって確認した。また、得られた大腸菌がグルカンホスホリラーゼを発現していることを、活性測定によって確認した。
【0257】
この大腸菌を、抗生物質アンピシリンを含むLB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス(ともにDifco社製)、1%塩化ナトリウム)1リットルに接種し、120rpmで振盪させながら37℃で3時間振盪培養した。その後、IPTGを0.1mM、ピリドキシンを1mMになるようにそれぞれこの培地に添加し、22℃でさらに20時間振盪培養した。次いで、この培養液を5,000rpmにて5分間遠心分離して、大腸菌の菌体を収集した。得られた菌体を、50mlの0.05%のTritonX−100を含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)中に懸濁し、次いで超音波処理により破砕し、菌体破砕液50mlを得た。この破砕液中には、4.7U/mgのグルカンホスホリラーゼが含まれていた。
【0258】
この菌体破砕液を、55℃で30分間加熱する。加熱後、8,500rpmにて20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去して上清を得る。得られた上清を、あらかじめ平衡化しておいた陰イオン交換樹脂Q−Sepharoseに流してグルカンホスホリラーゼを樹脂に吸着させた。樹脂を、200mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で洗浄して不純物を除去した。続いて、タンパク質を300mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で溶出させ、組換えグルカンホスホリラーゼ酵素溶液とした。
【0259】
(2.3 Thermus aquaticusグルカンホスホリラーゼの調製方法)
鷹羽ら(J.Appl.Glycosci.,48(1)(2001)71)の方法により調製した酵素をThermus aquaticusグルカンホスホリラーゼとする。
【0260】
(2.4 組換えThermus aquaticusグルカンホスホリラーゼの調製方法)
Thermus aquaticusグルカンホスホリラーゼ遺伝子(J.Appl.Glycosci.,48(1)(2001)71)を、選択マーカー遺伝子AmprおよびTetrとともにpKK388−1(CLONTECH社製)に組み込み、プラスミドpKK388−GPを得た。このプラスミドでは、グルカンスホリラーゼ遺伝子を、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導性プロモーターの制御下に作動可能に連結した。このプラスミドを、大腸菌MC1061(ファルマシア社製)に、コンピテントセル法により導入した。この大腸菌を、抗生物質アンピシリンおよびIPTGを含むLB培地を含むプレートにプレーティングして、37℃で一晩培養した。このプレート上で増殖した大腸菌を選択することにより、グルカンホスホリラーゼ遺伝子が導入された大腸菌を得た。得られた大腸菌がグルカンホスホリラーゼ遺伝子を含むことを、導入された遺伝子の配列を解析することによって確認した。また、得られた大腸菌がグルカンホスホリラーゼを発現していることを、活性測定によって確認した。
【0261】
この大腸菌を、抗生物質アンピシリンを含むLB培地1リットルに接種し、120rpmで振盪させながら37℃で4〜5時間振盪培養した。その後、IPTGを0.01mMになるようにこの培地に添加し、37℃でさらに20時間振盪培養した。次いで、この培養液を5,000rpmにて5分間遠心分離して、大腸菌の菌体を収集した。
【0262】
得られた菌体を、50mlの20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)中に懸濁し、次いで超音波処理により破砕し、菌体破砕液50mlを得た。この破砕液中には、4.2U/mgのグルカンホスホリラーゼが含まれていた。
【0263】
次いで、菌体破砕液を70℃で30分間加熱した。加熱後、この菌体破砕液を、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−25I)を用いて8,500rpm、20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去し、上清を得た。得られた上清を、組換えThermus aquaticusグルカンホスホリラーゼ溶液とした。
【0264】
(2.5 組換えStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼの調製方法)
Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼ遺伝子(Ferretti,J.Jら、Ingbritt.Infect.Immun.56:1585−88)を、選択マーカー遺伝子AmprおよびTetrとともにpKK388−1に組み込み、プラスミドpKK388−SMSPを得た。このプラスミドでは、スクロースホスホリラーゼ遺伝子を、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導性プロモーターの制御下に作動可能に連結した。このプラスミドを、大腸菌TG−1(STRATAGENE社製)に、コンピテントセル法により導入した。この大腸菌を、抗生物質アンピシリンおよびIPTGを含むLB培地を含むプレートにプレーティングして、37℃で一晩培養した。このプレート上で増殖した大腸菌を選択することにより、スクロースホスホリラーゼ遺伝子が導入された大腸菌を得た。得られた大腸菌がスクロースホスホリラーゼ遺伝子を含むことを、導入された遺伝子の配列を解析することによって確認した。また、得られた大腸菌がスクロースホスホリラーゼを発現していることを、活性測定によって確認した。
【0265】
この大腸菌を、抗生物質アンピシリンおよびテトラサイクリンを含むLB培地1リットルに接種し、120rpmで振盪させながら37℃で6〜7時間振盪培養した。その後、IPTGを0.04mMになるようにこの培地に添加し、30℃でさらに18時間振盪培養した。次いで、この培養液を5,000rpmにて5分間遠心分離して、大腸菌の菌体を収集した。得られた菌体を、50mlの20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)中に懸濁し、次いで超音波処理により破砕し、菌体破砕液50mlを得た。この破砕液中には、10U/mgのスクロースホスホリラーゼが含まれていた。
【0266】
次いで、菌体破砕液にスクロースを加えて、10%スクロースを含む菌体破砕液を得た。この菌体破砕液を、55℃の水浴中で30分間加熱した。加熱後、この菌体破砕液を、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−25I)を用いて8,500rpmにて20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去し、上清を得た。得られた上清を、あらかじめ平衡化しておいた陰イオン交換樹脂Q−Sepharoseに流してスクロースホスホリラーゼを樹脂に吸着させた。樹脂を、100mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で洗浄して不純物を除去した。続いて、300mM塩化ナトリウムを含む緩衝液でスクロースホスホリラーゼを溶出させ、組換えStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼ酵素液とした。
【0267】
(2.6 組換えBacillus stearothermophilus グルカンホスホリラーゼの調製)
高田ら(J.Ferment.Bioeng.,85(2),156(1998)の方法により調製した酵素を、組換えBacillus stearothermophilus グルカンホスホリラーゼとする。
【0268】
(3.グルカンの分子量の測定)
本発明で合成したグルカンの分子量を以下の方法により測定した。
【0269】
本発明で合成したグルカンを1N水酸化ナトリウムで完全に溶解し、適当量の塩酸で中和した後、グルカン約300μg分を、示差屈折計と多角度光散乱検出器を併用したゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより平均分子量を求めた。
【0270】
詳しくは、カラムとしてShodex SB806M−HQ(昭和電工製)を用い、検出器としては多角度光散乱検出器(DAWN−DSP、Wyatt Technology社製)および示差屈折計(Shodex RI−71、昭和電工製)をこの順序で連結して用いた。カラムを40℃に保ち、溶離液としては0.1M硝酸ナトリウム溶液を流速1mL/分で用いた。得られたシグナルを、データ解析ソフトウェア(商品名ASTRA、Wyatt Technology社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析することにより、重量平均分子量を求めた。
【0271】
(比較例0−1および0−2:37℃の反応温度と45℃の反応温度とでの収率の比較)
比較例0−1および0−2で用いた反応溶液の反応開始時の組成を以下の表1に示す。
【0272】
【表1】
詳細には、スクロース、無機リン酸、Leuconostoc mesenteroides スクロースホスホリラーゼ(オリエンタル酵母社製)、上記2.1で調製した馬鈴薯塊茎由来グルカンホスホリラーゼ、およびマルトヘプタオースを、100mMクエン酸緩衝液(pH7.0)中に溶解して、4%スクロース、20mM無機リン酸、10U/g スクロースのLeuconostoc mesenteroides スクロースホスホリラーゼ、10U/g スクロースの馬鈴薯塊茎由来グルカンホスホリラーゼおよび2mMマルトヘプタオースの溶液を得た。この溶液を、37℃(比較例0−1)または45℃(比較例0−2)で18時間反応させて、アミロースを合成した。反応液量は1mlであった。
【0273】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図2に示す。
【0274】
本明細書では、Leuconostoc mesenteroides スクロースホスホリラーゼ(オリエンタル酵母社より購入)、馬鈴薯塊茎由来のグルカンホスホリラーゼ、4%スクロースを用いて37℃でアミロースを製造する方法を、従来法という。
【0275】
図2に示すように、37℃で反応させた場合のアミロースの収率は79%であったのに対し、45℃で反応させた場合、アミロースの収率は33.8%と低かった。
【0276】
このように、従来法の基質濃度のままでは高温でのアミロース製造は工業的に不利であった。使用したLeuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼの至適温度は37℃付近である。それゆえ、この酵素は耐熱性が低いと考えられる。高温でのアミロースの収率が低い原因は、酵素の耐熱性が低いことであると考えられる。
【0277】
(実施例1−1〜1−5および比較例1−1:種々のスクロース濃度および高反応温度でのアミロース合成)
以下の表2に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0278】
【表2】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図3に示す。
【0279】
スクロース濃度を従来法の4%(比較例1−1)から8%以上(実施例1−1〜1−5)に引き上げることによって45℃での反応が可能になり、アミロースの収率が増加した。
【0280】
詳しくは、上述の条件で、基質間の割合(すなわち、スクロースとマルトヘプタオースと無機リン酸との割合)および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、アミロースの収率が増加した。図3に示すように、スクロース濃度8%にて45℃での収率は76.4%となった。これはスクロース濃度4%、45℃での収率の2倍以上であり、従来法とほぼ同等の収率が得られた。スクロース濃度を15%以上にするとほぼ100%のアミロースの収率が得られた。このように、45℃でのスクロースからのアミロース合成は、スクロース濃度が低いと収率が低く、効率も悪いが、スクロース濃度を高くすることにより、45℃での工業的な製造が可能になった。
【0281】
(実施例2−1〜2−5および比較例2−1〜2−7:低酵素量でのアミロース合成)
以下の表3に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0282】
【表3】
詳しくは、実施例2−1〜2−5および比較例2−1〜2−7では、酵素量を比較例1−1および実施例1−1〜1−5の半分にし、37℃と45℃とで反応を行った以外は、それぞれ比較例1−1および実施例1−1〜1−5と同様にアミロースの合成を行なった。
【0283】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図4に示す。
【0284】
スクロース濃度15%以上において、45℃での反応におけるアミロースの収率は、37℃での反応に比べて同等以上であった。
【0285】
図4に示すように、この条件において従来法では、60%程度のアミロース収率だったのに対し、スクロース濃度4%にて45℃での反応では、22.1%と低い収率であった。しかし、基質間の割合(すなわち、スクロースとマルトヘプタオースと無機リン酸との割合)および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、45℃の反応におけるアミロースの収率が増加した。スクロース濃度15%以上にて45℃での反応では、37℃での反応より高いアミロース収率が得られた。このように、15%以上のスクロース濃度で反応させることで、45℃で反応できるだけでなく、37℃での反応に比べて、高い生産性が実現されるようになった。
【0286】
(実施例3−1−1〜3−2−5ならびに比較例3−1−1および3−2−1:耐熱性スクロースホスホリラーゼを用いたアミロースの合成)
以下の表4に示す組成の反応混合物(反応開始時)を用いてアミロース合成を行った。
【0287】
【表4】
詳しくは、Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼの代わりに上記2.5で得られたStreptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼを10U/gスクロースの活性単位で用い、グルカンホスホリラーゼを10U/gスクロースの活性単位で用い、酵素反応を45℃または50℃で行った以外は、比較例2−1および実施例2−1〜2−5と同様に比較例3−1−1および3−2−1、ならびに実施例3−1−1〜3−2−5のアミロースの合成を行なった。
【0288】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図5に示す。
【0289】
スクロースホスホリラーゼを、従来法で用いられるLeuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼから、Streptococcus
mutans由来のスクロースホスホリラーゼに変更した場合も、45℃の反応温度でアミロースを製造できた。
【0290】
さらに、スクロースホスホリラーゼを従来法のLeuconostoc mesenteroides由来のものから、Streptococcus mutans由来のものに変更し、かつスクロース濃度を4%から8%以上に引き上げることで50℃での効率の高い反応が可能になり、アミロースの収率が増加した。
【0291】
反応温度を45℃に設定したところ、図5に示すように、スクロース濃度4%では、アミロースの収率は97.4%であった。さらに、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やしても、アミロースの収率は高いレベルで一定であった。このようにスクロースホスホリラーゼをStreptococcus mutans 由来のスクロースホスホリラーゼにすることにより、45℃でのアミロースの効率の高い製造が可能になった。
【0292】
また、反応温度を50℃に設定したところ、図5に示すように、スクロース濃度4%では、アミロースの収率は21.8%と低かった。しかし、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、アミロースの収率が増加した。スクロース濃度8%での収率は55.4%とスクロース濃度4%での収率の2倍以上になり、スクロース濃度15%以上にするとほぼ100%のアミロースの収率が得られた。このように、4%スクロースでの50℃でのアミロース合成は、収率が低く、効率も悪かったが、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼを使用し、スクロース濃度を高くすることにより、50℃でのアミロースの効率の高い製造が可能になった。
【0293】
(実施例4−1−1〜4−2−5、ならびに比較例4−1−1および4−2−1:低酵素量で耐熱性スクロースホスホリラーゼを用いたアミロースの合成)
以下の表5に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0294】
【表5】
詳しくは、酵素量を比較例3−1−1、3−2−1、および実施例3−1−1〜3−2−5の半分にした以外は、比較例3−1−1、3−2−1、および実施例3−1−1〜3−2−5と同様にアミロースの合成を行なった。
【0295】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図6に示す。
【0296】
スクロースホスホリラーゼを従来法のLeuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼから、Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼに変更し、酵素量を従来法の半分にした場合、スクロース濃度が15%以上での反応において、50℃での反応におけるアミロースの収率は、45℃での反応に比べて同等以上であった。
【0297】
図6に示すように、スクロース濃度4%にて45℃での反応では、50%程度のアミロース収率だったのに対し、スクロース濃度4%にて50℃での反応では、9.2%と低い収率であった。しかし、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、50℃の反応におけるアミロースの収率が増加した。スクロース濃度15%以上にて50℃での反応では、45℃での反応より高いアミロース収率が得られた。このように、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼを使用し、スクロース濃度を15%以上で反応させることで、50℃で反応できるだけでなく45℃での反応に比べて、高い生産性が実現されるようになった。
【0298】
(実施例5−1〜5−5および比較例5−1:Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼおよび高度好熱細菌由来のグルカンホスホリラーゼを用いたアミロースの合成)
以下の表6に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0299】
【表6】
詳しくは、馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼの代わりに、Thermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いた以外は、比較例1−1、および実施例1−1〜1−5と同様にアミロースの合成を行なった。
【0300】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図7に示す。
【0301】
Thermus aquaticus由来のグルカンホスホリラーゼを用い、スクロース濃度を従来法の4%から8%以上に引き上げることによって45℃での反応が可能になり、アミロースの収率が増加した。
【0302】
詳しくは、上述の条件で、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、アミロースの収率が増加した。図7に示すように、スクロース濃度4%、45℃での収率は28.0%であったのに対し、スクロース濃度8%にて45℃での収率は69.0%であった。さらに、スクロース濃度を15%以上にするとほぼ100%のアミロースの収率が得られた。このように、馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼの代わりに、高度好熱細菌Thermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いることで、45℃でのアミロースの製造が可能であることを確認した。
【0303】
(実施例6−1〜6−5および比較例6−1〜6−7:Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼおよび高度好熱細菌由来のグルカンホスホリラーゼを用いた低酵素量でのアミロース合成)
以下の表7に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0304】
【表7】
詳しくは、実施例6−1〜6−5および比較例6−1〜6−7では、酵素量を実施例5−1〜5−5および比較例5−1の半分にし、37℃と45℃とで反応を行った以外は、実施例5−1〜5−5および比較例5−1と同様にアミロースの合成を行なった。
【0305】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図8に示す。
【0306】
Thermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いた場合、スクロース濃度15%以上において、45℃での反応におけるアミロースの収率は、37℃での反応に比べて優れていた。
【0307】
図8に示すように、この条件において従来法では、34.2%のアミロース収率だったのに対し、スクロース濃度4%にて45℃での反応では、15.6%と低い収率であった。しかし、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、45℃の反応におけるアミロースの収率が増加した。スクロース濃度15%以上にて45℃での反応では、37℃での反応より高いアミロース収率が得られた。このように、馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼの代わりに、高度好熱細菌Thermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用い、15%以上のスクロース濃度で反応させることで、45℃で反応できるだけでなく、37℃での反応に比べて、高い生産性が実現されるようになった。
【0308】
(実施例7−1〜7−5ならびに比較例7−1:Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼおよび高度好熱細菌由来のグルカンホスホリラーゼを用いたアミロースの合成)
以下の表8に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0309】
【表8】
詳しくは、馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼの代わりに上記2.4で得られたThermus aquaticus由来のグルカンホスホリラーゼを用いた以外は、比較例3−2−1および実施例3−2−1〜3−2−5と同様に比較例7−1および実施例7−1〜7−5のアミロースの合成を行なった。
【0310】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図9に示す。
【0311】
スクロースホスホリラーゼを、従来法で用いられるLeuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼから、Streptococcus
mutans由来のスクロースホスホリラーゼに、馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼをThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼにそれぞれ変更し、かつスクロース濃度を4%から8%以上に引き上げることで50℃での反応が可能になり、アミロースの収率が増加した。
【0312】
詳しくは、上述の条件で、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%に増やすことにより、アミロースの収率は増加した。図9に示すように、スクロース濃度4%、50℃での収率は56.2%であったがスクロース濃度8%、50℃での収率は78.4%であり、スクロース濃度を15%にするとほぼ100%のアミロースの収率が得られた。このようにスクロースホスホリラーゼをStreptococcus
mutans由来のスクロースホスホリラーゼに、グルカンホスホリラーゼをThermus aquaticus由来のグルカンホスホリラーゼにすることにより、50℃でのアミロースの製造が可能になった。
【0313】
(実施例8−1−1〜8−2−5、ならびに比較例8−1−1および8−2−1:Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼおよび高度好熱細菌由来のグルカンホスホリラーゼを用いた低酵素量でのアミロースの合成)
以下の表9に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0314】
【表9】
詳しくは、酵素量を比較例7−1、および実施例7−1〜7−5の半分にし、反応温度を45℃と50℃にした以外は、比較例7−1、および実施例7−1〜7−5と同様にアミロースの合成を行なった。
【0315】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図10に示す。
【0316】
スクロースホスホリラーゼを、従来法で用いられるLeuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼから、Streptococcus
mutans由来のスクロースホスホリラーゼに、馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼをThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼにそれぞれ変更し、酵素量を従来法の半分にした場合、スクロース濃度を15%以上での反応において、50℃での反応におけるアミロースの収率は、45℃での反応に比べて優れていた。
【0317】
図10に示すように、スクロース濃度4%にて45℃での反応では、48.9%のアミロース収率だったのに対し、スクロース濃度4%にて50℃での反応では、21.5%と低い収率であった。しかし、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、50℃の反応におけるアミロースの収率が増加した。スクロース濃度15%以上にて50℃での反応では、45℃での反応より高いアミロース収率が得られた。このように、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよびThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを使用し、スクロース濃度を15%以上で反応させることで、50℃で反応できるだけでなく45℃での反応に比べて、高い生産性が実現されるようになった。
【0318】
(実施例9−1〜9−5および比較例9−1:Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼおよびBacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを用いたアミロースの合成)
以下の表10に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0319】
【表10】
詳しくは、Thermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼの代わりにBacillus stearothermophilus由来グルカンホスホリラーゼを用いた以外は、比較例5−1および実施例5−1〜5−5と同様にアミロースの合成を行なった。
【0320】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図11に示す。
【0321】
Bacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを用い、スクロース濃度を従来法の4%から8%以上に引き上げることによって45℃での反応が可能になり、アミロースの収率が増加した。
【0322】
詳しくは、上述の条件で、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、アミロースの収率が増加した。図11に示すように、スクロース濃度4%、45℃での収率は40.7%であったのに対し、スクロース濃度8%にて45℃での収率は70.6%であった。さらに、スクロース濃度を15%以上にすると約90%のアミロースの収率が得られた。このように、馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼの代わりに、Bacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを用いることで、45℃でのアミロース合成が可能であることを確認した。
【0323】
(実施例10−1〜10−5および比較例10−1〜10−7:Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼおよびBacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを用いた低酵素量でのアミロース合成)
以下の表11に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0324】
【表11】
詳しくは、実施例10−1〜10−5および比較例10−1〜10−7では、酵素量を比較例9−1および実施例9−1〜9−5の半分にし、37℃と45℃とで反応を行った以外は、それぞれ比較例9−1および実施例9−1〜9−5と同様にアミロースの合成を行なった。
【0325】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図12に示す。
【0326】
Bacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを用いた場合、スクロース濃度15%以上において、45℃での反応におけるアミロースの収率は、37℃での反応に比べて同等以上であった。
【0327】
図12に示すように、この条件において従来法では、60.2%のアミロース収率だったのに対し、スクロース濃度4%にて45℃での反応では、22.1%と低い収率であった。しかし、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、45℃の反応におけるアミロースの収率が増加した。スクロース濃度15%以上にて45℃での反応では、37℃での反応より高いアミロース収率が得られた。このように、馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼの代わりに、Bacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを用い、15%以上のスクロース濃度で反応させることで、45℃で反応できるだけでなく、37℃での反応に比べて、高い生産性が実現されるようになった。
【0328】
(実施例11−1〜11−5ならびに比較例11−1:Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼおよびBacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを用いたアミロースの合成)
以下の表12に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0329】
【表12】
詳しくは、Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼの代わりに、上記2.5で得られたStreptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼを用い、酵素反応を50℃で行った以外は、比較例9−1および実施例9−1〜9−5と同様に比較例11−1および実施例11−1〜11−5のアミロースの合成を行なった。
【0330】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図13に示す。
【0331】
スクロースホスホリラーゼを、従来法で用いられるLeuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼから、Streptococcus
mutans由来のスクロースホスホリラーゼに、馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼをBacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼにそれぞれ変更し、かつスクロース濃度を4%から8%以上に引き上げることで、50℃での反応が可能になり、アミロースの収率が増加した。
【0332】
詳しくは、上述の条件で、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%に増やすことにより、アミロースの収率は増加した。図13に示すように、スクロース濃度4%、50℃での収率は39.1%であったがスクロース濃度8%、50℃での収率は70.4%であり、スクロース濃度を15%にすると90%以上のアミロースの収率が得られた。このようにスクロースホスホリラーゼをStreptococcus
mutans 由来のスクロースホスホリラーゼに、グルカンホスホリラーゼをBacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼにすることにより、50℃でのアミロースの製造が可能になった。
【0333】
(実施例12−1−1〜12−2−5、ならびに比較例12−1−1および12−2−1:Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼおよびBacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを用いた低酵素量でのアミロースの合成)
以下の表13に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0334】
【表13】
詳しくは、酵素量を比較例11−1および実施例11−1〜11−5の半分にし、反応温度を45℃と50℃にした以外は、比較例11−1および実施例11−1〜11−5と同様にアミロースの合成を行なった。
【0335】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図14に示す。
【0336】
スクロースホスホリラーゼを、従来法で用いられるLeuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼから、Streptococcus
mutans由来のスクロースホスホリラーゼに、馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼをBacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼにそれぞれ変更し、酵素量を従来法の半分にした場合、スクロース濃度を15%以上での反応において、50℃での反応におけるアミロースの収率は、45℃での反応に比べて優れていた。
【0337】
図14に示すように、スクロース濃度4%にて45℃での反応では、32.9%のアミロース収率だったのに対し、スクロース濃度4%にて50℃での反応では、19.6%と低い収率であった。しかし、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、50℃の反応におけるアミロースの収率が増加した。スクロース濃度15%以上にて50℃での反応では、45℃での反応より高いアミロース収率が得られた。このように、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよび、Bacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを使用し、15%以上のスクロース濃度で反応させることで、50℃で反応できるだけでなく45℃での反応に比べて、高い生産性が実現されるようになった。
【0338】
(実施例13:高温度条件下でのアミロース合成)
以下の表14に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロースの合成を行なった。
【0339】
【表14】
詳しくは、酵素量を比較例3−1−1の5倍にし、反応温度を65℃で行なった以外は比較例3−1−1と同様に比較例13−1のアミロースの合成を行なった。比較例3−1−1の基質間の割合と酵素量を変えずに、スクロース濃度を50%に増やすことにより、実施例13−1のアミロースの合成を行なった。さらに、比較例13−1および実施例13−1の馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼの代わりに上記2.4で調製したThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いて、比較例13−2および実施例13−2のアミロースの合成を行なった。
【0340】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図15に示す。
【0341】
従来法では、いずれのグルカンホスホリラーゼを用いた場合でも、65℃の反応では全くアミロースは合成されなかった。スクロース濃度をあげることにより65℃でのアミロースの製造が可能になった。
【0342】
(実施例14:マルトテトラオースをプライマーとしたアミロースの製造)
上記実施例では、アミロース製造のプライマーにはマルトヘプタオースを利用している。しかし、純度の高いマルトオリゴ糖は高価であり、産業利用できるほど流通していない。安価なマルトオリゴ糖として、マルトテトラオース含有シラップがある。しかし、このシラップには、プライマーとして機能し得ないと考えられている、グルコース、マルトース、およびマルトトリオースなどが含まれている。さらに、マルトテトラオースは、マルトヘプタオースに比べ、グルカンホスホリラーゼに対する親和性が低い。このようなシラップを用いてグルカンの合成反応ができるかどうかは不明であり、このような研究も報告されていない。そこで、本発明者らは、マルトヘプタオースの代わりにマルトテトラオース含有シラップを用いてもアミロースを合成できるか検討した。
【0343】
詳しくは、マルトテトラオース含有量が70%以上である、テトラップH(林原商事)を用いた以外は実施例7−2と同様にして、アミロースを合成した。その結果、テトラップHを用いても高分子量アミロースが製造されることが確認された。
【0344】
(実施例15:膜ろ過を用いたアミロースの精製)
2%スクロース、10mM無機リン酸、50U/gスクロースのLeuconostoc mesenteroidesスクロースホスホリラーゼ(オリエンタル酵母社製)、50U/gスクロースの上記2.2で調製した組換え馬鈴薯塊茎由来グルカンホスホリラーゼ、およびプライマーとしてマルトヘプタオースを用いて、37℃にて18時間、アミロースを合成した。反応液量は2000mlとした。
【0345】
反応後のアミロース溶液2000mlを、分画分子量30,000の限外濾過膜(ダイセル製UF膜ユニット)を用いて、1200mlまで濃縮した。その後、10Lの蒸留水に対してダイアフィルトレーションを行った後、蒸留水を加えて2000mlとした。膜濾過の前後における、フルクトースの含有量およびアミロースの重量平均分子量を測定した。結果を表15に示す。
【0346】
【表15】
表15に示すように、限外濾過膜を用いてアミロースを精製することで、反応溶液中に大量に存在するフルクトースを除去できることが確認された。膜濾過の前後で、アミロースの重量平均分子量が大きくは変わらないことが確認された。
【0347】
このように、限外濾過膜を利用してアミロースを精製することによって、従来アミロースの精製に使用されていた多くの有機溶媒、例えば、ブタノール、メタノール、エタノール、エーテルなどを使用することなくアミロースの精製を行うことが可能になった。
【0348】
(実施例16−1〜16−7および比較例16−1:Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼおよび馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼを用い、スクロース濃度と無機リン酸濃度との比を変えた場合のアミロースの合成)
以下の表16に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0349】
【表16】
詳しくは、スクロース、無機リン酸、Leuconostoc mesenteroidesスクロースホスホリラーゼ、上記2.1で調製した馬鈴薯塊茎由来グルカンホスホリラーゼおよびマルトヘプタオースを、100mMクエン酸緩衝液(pH7.0)中に溶解して、125mMスクロース、20U/g スクロースのLeuconostoc mesenteroidesスクロースホスホリラーゼ、20U/gスクロースの馬鈴薯塊茎由来グルカンホスホリラーゼ、0.35mMマルトヘプタオース、7.2mM無機リン酸(比較例16−1)、または10〜125mM無機リン酸(実施例16−1〜16−7)の溶液を得た。この溶液を37℃で4時間反応させてアミロースを合成した。反応液量は1mlであった。
【0350】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図16に示す。
【0351】
図16に示すように、125mMスクロースに対して無機リン酸を7.2mM加えて反応させた場合、アミロースの収率は20.1%と低かったが、125mMスクロースに対して無機リン酸を10mM以上加えて反応させた場合、収率を高めることでき、さらに、125mMスクロースに対して無機リン酸を20〜75mM加えた場合、40%以上の収率が得られた。
【0352】
(実施例17−1〜17−7および比較例17−1:Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼおよび馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼを用い、スクロース濃度と無機リン酸濃度との比を変えた場合のアミロースの合成)
以下の表17に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0353】
【表17】
詳しくは、実施例17−1〜17−7および比較例17−1は、Leuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼの代わりにStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼを用い、反応温度を45℃とした以外は、実施例16−1〜16−7および比較例17−1と同様にしてアミロースを合成した。
【0354】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図17に示す。
【0355】
図17に示すように、125mMスクロースに対して無機リン酸を7.2mM加えて反応させた場合、アミロースの収率は26.7%と低かったが、125mMスクロースに対して無機リン酸を10mM以上加えて反応させた場合、収率を高めることでき、さらに、125mMスクロースに対して無機リン酸を20〜75mM加えて反応させた場合、50〜60%以上の収率が得られた。
【0356】
このように、従来法のスクロース−リン酸比率のままでは、生産性が高くなく工業的生産において不利であったが、スクロース−リン酸比率を一定範囲内にすることで、2倍近い生産性の向上が実現できるようになった。
【0357】
(実施例18 スクロース存在下でのStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼの耐熱性)
上記2.5に記載のスクロースホスホリラーゼ産生大腸菌の破砕液を用いて、スクロースを加えて溶解し、スクロースの最終濃度がそれぞれ、溶解後の溶液を基準として4%、8%、12%、16%、20%、25%または30%の溶液を得た。スクロースを加えないスクロースホスホリラーゼ酵素液をコントロール(0%スクロース)とした。これらの溶液を、55℃の水浴中で加熱した。加熱開始時(0分)、加熱開始後30分、60分および90分の時点でサンプリングし、スクロースホスホリラーゼの活性を本明細書中に記載の方法に従って測定した。
【0358】
測定された活性に基づいて、残存活性を算出した。
【0359】
残存活性を、以下の通りに算出した:
【0360】
【数1】
残存活性についての結果を図18に示す。この結果、以下のことがわかった。スクロースを含まない場合(0%)は、55℃にて30分の加熱後、活性は10%程度にまで低下した。
【0361】
4%以上のスクロースを含む場合には、30分の加熱後も50%以上の活性が残存していた。特に8%以上のスクロースを含む場合には、30分の加熱後も80%以上の活性が残存していた。
【0362】
(実施例19 スクロース存在下でのLeuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼの耐熱性)
Leuconostoc mesenteroidesスクロースホスホリラーゼ(オリエンタル酵母社より購入)を含む酵素液に、スクロースを加えて溶解し、スクロースの最終濃度がそれぞれ、溶解後の溶液を基準として12%、16%、20%、25%または30%の溶液を得た。スクロースを加えないスクロースホスホリラーゼ酵素液をコントロール(0%スクロース)として用いた。これらの溶液を、50℃の水浴中で加熱した。加熱開始時(0分)、加熱開始後30分、60分および90分の時点でサンプリングし、スクロースホスホリラーゼの活性を本明細書中に記載の方法に従って測定した。
【0363】
測定された活性に基づき、上記の式に従って残存活性を算出した。
【0364】
残存活性についての結果を図19に示す。この結果、以下のことがわかった。スクロースを含まない場合(0%)は、50℃にて30分の加熱後、活性は10%程度にまで低下した。
【0365】
12%以上のスクロースを含む場合には、30分の加熱後も50%以上の活性が残存していた。特に20%以上のスクロースを含む場合には、30分の加熱後も80%以上の活性が残存していた。
【0366】
(比較例20:スクロースホスホリラーゼの安定性に対するフルクトースの効果)
スクロースホスホリラーゼの基質には、スクロース以外にフルクトース、無機リン酸、およびグルコース−1−リン酸がある。フルクトースのスクロースホスホリラーゼ安定性への効果を以下のように調べた。
【0367】
上記(2.5)で調製したS.mutans由来スクロースホスホリラーゼを含むスクロースホスホリラーゼ酵素液に、最終濃度がそれぞれ、溶解後の溶液を基準として5%または10%になるようにフルクトースを加えて溶解し、溶液を得た。フルクトースを加えないスクロースホスホリラーゼ酵素液をコントロール(0%スクロース)とした。対照として、同濃度のスクロースを添加した場合についても同時に調べた。これらの溶液を、55℃の水浴中で加熱した。加熱開始時(0分)、加熱開始後30分、60分および90分の時点で溶液をサンプリングし、スクロースホスホリラーゼの活性を本明細書中に記載の方法に従って測定した。
【0368】
測定された活性に基づいて、残存活性を算出した。
【0369】
残存活性についての結果を図20に示す。この結果、フルクトースにはスクロースの場合のようなスクロースホスホリラーゼ安定化効果は認められないことがわかった。
【0370】
(比較例21:スクロースホスホリラーゼの安定性に対する無機リン酸の効果)
無機リン酸のスクロースホスホリラーゼ安定性への効果を以下のように調べた。
【0371】
上記(2.5)で調製したS.mutans由来スクロースホスホリラーゼを含むスクロースホスホリラーゼ酵素液に、最終濃度がそれぞれ、溶解後の溶液を基準として40mM、100mMおよび400mMになるようにリン酸ナトリウムを加えて溶解し、溶液を得た。リン酸ナトリウムを加えないスクロースホスホリラーゼ酵素液をコントロール(添加なし)とした。対照として、10%の濃度のスクロースを添加した場合についても同時に調べた。これらの溶液を、55℃の水浴中で加熱した。加熱開始時(0分)、加熱開始後30分、60分および90分の時点で溶液をサンプリングし、スクロースホスホリラーゼの活性を本明細書中に記載の方法に従って測定した。
【0372】
測定された活性に基づいて、残存活性を算出した。
【0373】
残存活性についての結果を図21に示す。この結果、無機リン酸にはスクロースの場合のようなスクロースホスホリラーゼ安定化効果は認められないことがわかった。
【0374】
(実施例22−1〜22−5および比較例22−1:プルランをプライマーとして用いたグルカンの合成)
以下の表18に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてグルカン合成を行なった。
【0375】
【表18】
詳しくは、マルトヘプタオースの代わりにプルランP−5(平均分子量約5,000、昭光通商社より購入)を0.2〜1.25%で用い、スクロースホスホリラーゼを20U/gスクロースの活性単位で用い、グルカンホスホリラーゼを20U/gスクロースの活性単位で用いた以外は、比較例3−2−1および実施例3−2−1〜3−2−5と同様に比較例22−1および実施例22−1〜実施例22−5のグルカンの合成を行なった。
【0376】
反応後、合成されたグルカンの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図22に示す。
【0377】
マルトヘプタオースのかわりに、プルランを用いた場合でも、スクロース濃度を4%から8%以上に引き上げることで50℃での効率の高い反応が可能になり、グルカンの収率が増加した。
【0378】
反応温度を50℃に設定したところ、図22に示すように、スクロース濃度4%では、グルカンの収率は9.8%と低かった。しかし、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、グルカンの収率が増加した。スクロース濃度8%での収率は32.0%とスクロース濃度4%での収率の3倍以上になり、スクロース濃度を15%以上にすると80%程度のグルカンの収率が得られた。このように、マルトオリゴ糖の代わりにプルランを用いた場合でも、マルトオリゴ糖を用いた場合と同等の効果が得られた。
【0379】
(実施例23−1〜23−7および比較例23−1:プルランをプライマーとして用いたグルカンの合成)
以下の表19に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてグルカン合成を行なった。
【0380】
【表19】
詳しくは、マルトヘプタオースの代わりにプルランP−5(平均分子量約5,000、昭光通商社より購入)を0.2%で用いた以外は、比較例17−1および実施例17−1〜17−7と同様にして比較例23−1および実施例23−1〜23−7のグルカンの合成を行なった。
【0381】
反応後、合成されたグルカンの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図23に示す。
【0382】
図23に示すように、125mMスクロースに対して、無機リン酸を7.2mM加えて反応させた場合、グルカンの収率は、5.3%と低かったが、125mMスクロースに対して無機リン酸を10mM加えて反応させた場合、11.7%と2倍以上の収率を得ることができた。さらに、125mMスクロースに対して無機リン酸を20〜75mM加えて反応させた場合、20〜25%以上の収率を得ることができた。
【0383】
このように、マルトオリゴ糖の代わりにプルランを用いた場合でも、マルトオリゴ糖を用いた場合と同等の効果が得られた。
【0384】
(実施例24−1〜24−7および比較例24−1:G−1−Pを用いたグルカン合成)
以下の表20に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてグルカン合成を行なった。
【0385】
【表20】
詳しくは、無機リン酸のかわりにグルコース−1−リン酸を用い、酢酸緩衝液を用いて反応液をpH7.0に調整した以外は、比較例17−1および実施例17−1〜17−7と同様にして比較例24−1および実施例24−1〜24−7のグルカンの合成を行なった。
【0386】
反応後、合成されたグルカンの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図24に示す。
【0387】
図24に示すように、125mMスクロースに対して、グルコース−1−リン酸を7.2mM加えて反応させた場合、グルカンの収率は、16.4%と低かったが、125mMスクロースに対してグルコース−1−リン酸を10mM加えて反応させた場合、35.3%と2倍以上の収率を得ることができた。さらに、125mMスクロースに対してグルコース−1−リン酸を20〜75mM加えて反応させた場合、40〜60%の収率を得ることができた。
【0388】
このように、無機リン酸のかわりにグルコース−1−リン酸を用いてグルカンを合成する場合も、従来法のスクロース−リン酸比率の最大値のままでは生産性が低いが、スクロース−リン酸比率の最大値を一定範囲内にすることで2倍以上の生産性が得られるようになった。
【0389】
(実施例25−1〜25−5:ブランチングエンザイムを含むSP−GP反応系でのグルカンの合成)
以下の表21に示す組成の反応混合物を用いてグルカン合成を行った。なお、用いたブランチングエンザイムを、日本国特許公開2000−316581(特願平11−130833)に開示された方法にしたがって調製した。
【0390】
【表21】
この溶液を45℃で18時間反応させてグルカンを合成した。反応液量は1mlであった。
【0391】
反応後、合成されたグルカンの収率を上記1.6にしたがって決定した。また、合成されたグルカンの平均単位鎖長をTakataらの文献(Carbohydr.Res.295巻 91頁〜101頁(1996)に示された方法で測定した。結果を下の表22に示す。
【0392】
【表22】
これらの条件において、高収率で、高度に分岐したグルカンを合成できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0393】
本発明により、グルカンが生成される。反応開始時から反応終了までの間の(スクロースのモル濃度)と(無機リン酸のモル濃度およびグルコース−1−リン酸のモル濃度の合計)との比の最大値をある範囲内に設定することで、従来の方法に比べ高い生産性でグルカンを製造することができる。本発明者らは、スクロースホスホリラーゼの熱安定性を向上させる条件で反応させること、もしくは、より耐熱性の高いスクロースホスホリラーゼを開発して使用することにより、高温でのグルカン(好ましくは、アミロース)の製造を実現することができた。
【0394】
このようなグルカンは、澱粉加工工業用の原料、飲食用組成物、食品添加物用組成物、接着剤組成物、包接物および吸着物、医薬品および化粧品組成物、フィルム状製品組成物、生物崩壊性プラスチック用の澱粉の代替物質として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0395】
【図1】図1は、スクロースからのグルカン合成の模式図である。
【図2】図2は、4%の初発スクロース、Leuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼおよび馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼを用いて37℃および45℃で反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図3】図3は、種々の初発スクロース濃度にて45℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図4】図4は、種々の初発スクロース濃度にて37℃および45℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図5】図5は、耐熱性細菌であるStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよび馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて45℃および50℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図6】図6は、図5で用いた酵素活性の半分の量のStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよび馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて45℃および50℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図7】図7は、Leuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼおよびThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて45℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図8】図8は、図7で用いた酵素活性の半分の量のLeuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼおよびThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて45℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図9】図9は、耐熱性細菌であるStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよびThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて50℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図10】図10は、図9で用いた酵素活性の半分の量のStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよびThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて50℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図11】図11は、Leuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼおよびBacillus stearothermophilus由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて45℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図12】図12は、図11で用いた酵素活性の半分の量のLeuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼおよびBacillus stearothermophilus由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて37℃および45℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図13】図13は、耐熱性細菌であるStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよびBacillus stearothermophilus由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて50℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図14】図14は、図13で用いた酵素活性の半分の量のStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよびBacillus stearothermophilus由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて45℃および50℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図15】図15は、耐熱性細菌であるStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼと、馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼまたはThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼとを用いて50%の初発スクロース濃度にて65℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図16】図16は、Leuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼおよび馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼを用いて、種々の初発無機リン酸濃度にて37℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図17】図17は、耐熱性細菌であるStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよび馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼを用いて、種々の初発無機リン酸濃度にて45℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図18】図18は、組換えStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼを、種々の濃度のスクロース溶液中で55℃で加熱した場合の残存活性を示すグラフである。
【図19】図19は、Leuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼを、種々の濃度のスクロース溶液中で55℃で加熱した場合の残存活性を示すグラフである。
【図20】図20は、スクロースホスホリラーゼ安定性へのスクロースまたはフルクトースの効果を示すグラフである。
【図21】図21は、スクロースホスホリラーゼ安定性への無機リン酸の効果を示すグラフである。
【図22】図22は、プライマーとしてプルランを用い、種々の初発スクロース濃度にて50℃にて反応を行った場合の、グルカンの収率を示すグラフである。
【図23】図23は、プライマーとしてプルランを用い、種々の初発無機リン酸濃度にて50℃にて反応を行った場合の、グルカンの収率を示すグラフである。
【図24】図24は、基質としてグルコース−1−リン酸を用いた場合の、グルカンの収率を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルカンおよびその誘導体の製造方法に関する。更に詳しくは、α−1,4−グルカン鎖の伸長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルカンは、D−グルコースのみを構成糖とする多糖の総称である。代表的なグルカンの例としては、澱粉、セルロースなどが挙げられる。澱粉は、構成糖がα−グルコシド結合によって連結されるα−グルカンである。澱粉中には、直鎖状α−1,4−グルカンであるアミロースと、枝分かれ構造を持つアミロペクチンとが存在している。アミロースとアミロペクチンとの存在比は、澱粉を貯蔵する植物体によって異なる。そのため、アミロースとアミロペクチンとを任意の構成比で含む澱粉を得ることは極めて困難である。アミロースを安定的に製造できれば、これを市販の澱粉と混合させることで任意のアミロース含量を持つ澱粉を作り出すことができる。
【0003】
任意の構造を持つアミロースおよびアミロペクチンを作り出すことは、従来、加水分解酵素、転移酵素などの作用を利用して行なわれている。しかし、α−1,4−グルカン鎖を伸長することによる、澱粉の構造改変についての報告は限られている。α−1,4−グルカン鎖を効率的に伸長する方法を開発することは、アミロースを製造できるだけでなく、澱粉の構造を任意に変えられるという点で有益である。
【0004】
澱粉含有食品において澱粉中のアミロースの含有量および構造は、食品の物性に大きな影響をもたらすことが知られている。しかし、澱粉中のアミロースの含有量および構造は、原料として利用する澱粉によって決定される。アミロースの含有量、構造を任意に変えることができれば、新しい食感を持つ食品の開発が期待できる。
【0005】
不溶性のアミロースには、食物繊維と同様の働きが予想され、健康食品への利用も期待できる。さらに、アミロースは、例えばヨウ素、脂肪酸などを分子内に包接し得る特徴を持つことから、医薬品、化粧品、サニタリー製品分野での用途が期待される。アミロースはまた、アミロースと同様の包接能力を持つシクロデキストリンおよびシクロアミロースの製造用原料に利用できる。さらに、アミロースを含有したフィルムは、汎用プラスチックに劣らない引張強度を持ち、生分解性プラスチックの素材として非常に有望である。このようにアミロースには、多くの用途が期待されている。しかし、実質的に純粋なアミロースは得ることが困難であり、非常に高価であるので、試薬レベルで流通しているだけであり、産業用素材としてはほとんど利用されていない。そのため、安定的かつ安価にアミロースを製造する方法が望まれている。
【0006】
アミロースの製造方法はいくつか公知である。アミロースは、澱粉中におよそ0〜70%の割合で存在している。非特許文献1(T.J.Schochら、J.American Chemical Society,64,2957(1942))の方法により、ブタノールなどの沈澱剤を用いて、天然素材である澱粉中からアミロースを抽出することが可能である。しかし、この抽出操作は煩雑で収率も低い。またこの抽出操作によって、α−1,6−グルコシド結合を全く含まない直鎖状グルカンを得ることは困難である。さらに分子量分布の狭い直鎖状グルカンの抽出は困難である。
【0007】
酵素的にα−1,4−グルカン鎖を伸長する方法として、糖ヌクレオチドを基質として使用し、グリコーゲンシンターゼ、スターチシンターゼなどにより、糖部分を、プライマーであるマルトテトラオースなどに転移することで合成する方法がある。しかし、この方法は、基質として使用される糖ヌクレオチドは非常に高価であり工業的には利用できないという欠点がある。
【0008】
馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼ(Glucan phosphorylase:GP)により、α−グルコース−1−リン酸(alpha−glucose−1−phosphate)のグルコシル基をプライマーであるマルトヘプタオースなどに転移することでα−1,4−グルカン鎖を合成する方法がある。
【0009】
他にも、グルコース−1−フルオライドを基質として使用して、プライマーにスクロースホスホリラーゼ(Sucrose phosphorylase:SP)とグルカンホスホリラーゼとを同時に作用させる方法が公開されている(特許文献1(米国特許第5,405,449号)および特許文献2(欧州特許第0590736号))。
【0010】
これらの合成方法には、反応開始時の反応溶液中の基質とプライマーとの比を任意に設定することにより、得られる直鎖状グルカンの分子量を制御できるという利点がある。しかし、基質であるα−グルコース−1−リン酸、およびグルコース−1−フルオライドは高価であるので、広範囲の産業で利用し得るような安価な直鎖状α−1,4−グルカンの製造には適切でない。
【0011】
より安価に直鎖状グルカンを製造する方法としては、スクロースとプライマーにスクロースホスホリラーゼとグルカンホスホリラーゼを同時に作用させる方法(以下、SP−GP法という)が公開されている(非特許文献2(Waldmann,H.ら,Carbohydrate Research,157(1986)c4−c7))。Waldmannらは、ロイコノストック属(Leuconostoc mesentroides)由来のスクロースホスホリラーゼと馬鈴薯塊茎由来のグルカンホスホリラーゼを用いてスクロースから高収率で直鎖状グルカンを合成している。WaldmannらのSP−GP法は、安価な基質を用いて直鎖状グルカンを製造できるという点で有望であるが、以下に示すように改善すべき問題点がいくつかある。
【0012】
まず第1に、使用している酵素量が多いので、製造にかかるコストが高くなり安価に製造できないことである。この問題解決のためには、反応条件を工夫することにより、使用酵素量を削減するか、もしくは単位酵素あたりのアミロース生産性を高めることが必要になる。
【0013】
SP−GP法において使用酵素量、もしくは酵素あたりのアミロース生産性を決定する要因の1つとして、反応開始時の溶液中での、SPの基質であるスクロースの濃度に対する無機リン酸(inorganic phosphate)の濃度比が挙げられる。Waldmannらの先行技術では反応開始時の溶液中で、スクロース濃度に比較して、かなり低濃度の無機リン酸を用いることにより、高い収率でグルカンを製造している。スクロースをまずグルコース−1−リン酸へと転換し、次いでグルコース−1−リン酸をグルカンへと転換するSP−GP法では、高濃度の無機リン酸を用いると、中間体であるグルコース−1−リン酸が高濃度で蓄積される。そのため、最終産物であるグルカンの収率が低下すると考えられる。それゆえ、従来のSP−GP法では、低い無機リン酸濃度が採用されたと考えられる。本発明の前には、反応開始時の溶液中のスクロースと無機リン酸との濃度比を変えることが、使用酵素量、もしくは酵素あたりのアミロース生産性にどのような影響を与えるかについては、開示されておらず、その効果を予測することも出来なかった。
【0014】
SP−GP法と同様に2種類のホスホリラーゼを組み合わせてかつ無機リン酸を媒介として糖質を合成する方法が報告されている。例えば、非特許文献3(Chaenら(Journal of Bioscience and Bioengineering,92(2001)177−182))は、マルトースホスホリラーゼとコージビオースホスホリラーゼとを組み合わせて用いて、マルトースからコージオリゴ糖を合成する方法を開示している。Chaenらは、反応開始時の溶液中の無機リン酸濃度が低い方が反応産物であるコージオリゴ糖の収率が高いと記載している。このように、従来、2つのホスホリラーゼを組み合わせる反応系では、最終産物の収量を増やすためには反応開始時の溶液中の無機リン酸濃度を低くすることが好ましいと考えられていた。
【0015】
SP−GP法において使用酵素量、もしくは酵素あたりのアミロース生産性を決定する要因の2つ目は、反応温度である。一般的に酵素反応は高温で行うほど、反応速度が上昇するため、高温条件下で行うことが望まれる。しかしながら、酵素タンパク質は加熱に対して不安定であるため、実際の酵素反応は、その酵素タンパク質が熱失活しない温度範囲で行われる。Waldmannらの先行技術においては、ロイコノストック属由来のスクロースホスホリラーゼが用いられており、グルカン合成反応はこの酵素の熱安定性を考慮して、37℃で行われていた。本発明の前には、本反応溶液中のスクロース濃度を変化させることがスクロースホスホリラーゼの安定性にどのような影響を与えるかについては、開示されておらず、その効果を予測することは出来なかった。また、ストレプトコッカス属由来のスクロースホスホリラーゼの熱安定性については何ら開示されておらず、それゆえ、このスクロースホスホリラーゼをグルカン合成に利用することによる効果を予測することは出来なかった。
【0016】
第二の問題点としては、操作性の問題がある。グルカン、特にアミロースは老化して不溶化し、沈澱またはゲルを形成する。この老化速度は、温度に依存することが周知である。反応温度が低い場合には、製造後のアミロース溶液がゲル化するなど、その後の段階で操作性に問題が生じる。したがって、反応温度は可能な限り高い方が望ましい。しかし、Waldmannらの先行技術においてはアミロースを製造する際の反応温度は37℃と低く問題がある。
【0017】
グルカンのうち、特に分岐構造のない直鎖状アミロースを製造する場合、使用するプライマーには、直鎖マルトオリゴ糖を用いる必要がある。Waldmannらの先行技術では、直鎖マルトオリゴ糖として精製マルトヘプタオースが利用されている。しかし、精製マルトヘプタオースは、試薬レベルのものしかなく非常に高価である。安価なプライマーの候補としては、澱粉を適度に加水分解したマルトオリゴ糖混合物がある。しかしながら、多くのグルカンホスホリラーゼは、マルトテトラオースの重合度以上の重合度のマルトオリゴ糖のみをプライマーとして利用することが出来るが、マルトトライオースの重合度以下の重合度のマルトオリゴ糖をプライマーには利用し得ないことが公知である。マルトオリゴ糖混合物には、プライマーとして機能しうるマルトヘキサオースの重合度以上の重合度のマルトオリゴ糖に加えて、プライマーとして機能し得ないマルトトライオース、マルトースおよびグルコースが含まれている。また、マルトオリゴ糖混合物に含まれるグルコースは、スクロースホスホリラーゼの阻害物質であることが公知である。このように、プライマーとして機能し得ないマルトトライオース、マルトースおよびグルコースを含有し、かつスクロースホスホリラーゼの阻害物質であるグルコースを含有するマルトオリゴ糖混合物が、SP−GP法において、有効に機能しうるかどうかについては、本発明の前には開示されておらず、その有効性は容易に推測できなかった。
【0018】
本発明の方法の場合、酵素反応終了時の反応溶液には、グルカンとともに多量のフルクトースが副生する。従って本発明の方法を用いる工業的グルカン製造の場合、グルカン合成反応工程後に効率的にグルカンを精製する工程が必須である。Waldmannらの先行技術では、アミロースを精製する際に、ブタノールによるアミロースの選択的沈澱法を利用している。しかしながら、アミロースを工業的に大量生産する際には、有機溶媒を利用する方法は、コスト的にも、人体への安全性でも、環境面でも、優れた方法ではない。有機溶媒を利用しない方法については開示されていない。
【特許文献1】米国特許第5,405,449号明細書
【特許文献2】欧州特許第0590736号明細書
【非特許文献1】T.J.Schochら、J.American Chemical Society,64,2957(1942)
【非特許文献2】Waldmann,H.ら,Carbohydrate Research,157(1986)c4−c7
【非特許文献3】Chaenら,Journal of Bioscience and Bioengineering,92(2001)177−182
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、従来法よりも実用的な条件で、安定的かつ安価に、グルカン、特にアミロースを製造する方法を提供することを目的とする。さらに詳しくは、スクロースからアミロースを製造する際に、必要な酵素量を極力抑える方法、より高い温度での反応を実現する方法を提供することを目的とする。
【0020】
本発明はまた、製造されたアミロース溶液から、アミロースを有機溶媒を使用することなく効率的に精製することも目的とする。
【0021】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、反応開始時から反応終了までの間の(スクロースのモル濃度)と(無機リン酸のモル濃度およびグルコース−1−リン酸のモル濃度の合計)との比の最大値をある範囲内に設定することで、従来の方法に比べ高い生産性が得られることを最終的に見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0022】
本発明者らはまた、ある濃度以上のスクロースの存在下において、スクロースホスホリラーゼの耐熱性が上昇し、反応温度を上昇させることが可能であること、その結果、必要酵素量を減少させることが可能であること、もしくは単位酵素あたりのグルカン生産性を高めることが可能であること、さらに高温で反応を行うためアミロースを老化させることなく生産可能であることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0023】
本発明者らはまた、ストレプトコッカス属由来のスクロースホスホリラーゼを利用することにより、反応温度を上昇させることが可能であること、その結果、必要酵素量を減少させることが可能であるか、もしくは単位酵素あたりのグルカン生産性を高めることが可能であること、さらに高温で反応が行われるためアミロースを老化させることなく生産可能であることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0024】
本発明者らはまた、SP−GP法に用いるプライマーとして、精製マルトオリゴ糖ではなく、マルトオリゴ糖混合物、特に多くのグルカンホスホリラーゼにおいてプライマーとして機能し得ないマルトトライオース、マルトースおよびグルコースをも含有し、スクロースホスホリラーゼの阻害物質であるグルコースも含有するようなマルトオリゴ糖混合物を用いても、目的とするグルカン、特にアミロースの合成が、問題なく実施できることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0025】
本発明者らはまた、以下のいずれかの工程によって、反応液中のフルクトースを効率的に除去し、グルカンを製造できることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
(1)生産されたグルカンを、有機溶媒を利用せずに精製する工程;
(2)上記反応後の反応溶液を冷却することにより上記グルカンを沈澱させる工程、および該沈澱したグルカンを固液分離方法により精製する工程;
(3)上記グルカン生産反応の間もしくはグルカン生産反応後に上記反応溶液を冷却してグルカンをゲル化する工程、ゲル化したグルカンを回収する工程、および該ゲル化したグルカンから、フルクトースを、水による洗浄、凍結融解、ろ過、圧搾、吸引および遠心分離からなる群より選択される操作によって除去する工程;ならびに
(4)上記グルカン生産反応後、水に溶解しているグルカンを沈澱させずに、限外ろ過膜を用いた膜分画もしくはクロマトグラフィーに供してフルクトースを除去する工程。
【0026】
本発明のグルカンの第1の製造方法は、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを含む反応溶液を反応させて、グルカンを生産する工程を包含し、ここで反応開始時から反応終了時までの間の該反応溶液のスクロース−リン酸比率の最大値が約17以下である。
【0027】
1つの実施態様では、上記最大値は、約0.5以上約15以下であり得、好ましくは約1以上約10以下であり得、さらに好ましくは約2以上約7以下であり得る。
【0028】
1つの実施態様では、上記グルカンは、アミロースであり得る。
【0029】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus属に属する細菌由来であり得る。好ましくは、上記スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus mutans、Streptococcus thermophilus、Streptococcus pneumoniae、およびStreptococcus mitisからなる群より選択されるStreptococcus属に属する細菌由来であり得る。
【0030】
1つの実施態様では、上記グルカンホスホリラーゼは、植物由来であり得る。より好ましくは、上記グルカンホスホリラーゼは、藻類または馬鈴薯由来であり得る。
【0031】
1つの実施態様では、上記グルカンホスホリラーゼは、Thermus aquaticus由来またはBacillus stearothermophilus由来であり得る。
【0032】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方、もしくは少なくとも一方は、遺伝子組換えされた微生物により生産され得る。
【0033】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方、もしくは少なくとも一方は、担体上に固定化され得る。
【0034】
1つの実施態様では、上記スクロースは、未精製糖であり得る。
【0035】
1つの実施態様では、上記プライマーは、マルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、プルラン、カップリングシュガー、澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択され得る。
【0036】
1つの実施態様では、上記マルトオリゴ糖は、マルトオリゴ糖混合物であり得る。
【0037】
1つの実施態様では、上記マルトオリゴ糖混合物は、マルトテトラオース以上の重合度のマルトオリゴ糖に加えて、マルトトリオース、マルトースおよびグルコースのうちの少なくとも1つを含有し得る。
【0038】
1つの実施態様では、上記澱粉は、可溶性澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、澱粉枝切り酵素分解物、澱粉ホスホリラーゼ分解物、澱粉部分加水分解物、化工澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択され得る。
【0039】
1つの実施態様では、上記方法は、生産されたグルカンを、有機溶媒を利用せずに精製する工程をさらに包含し得る。
【0040】
1つの実施態様では、上記方法は、上記反応後の反応溶液を冷却することにより上記グルカンを沈澱させる工程、および該沈澱したグルカンを固液分離方法により精製する工程をさらに含み得る。
【0041】
1つの実施態様では、上記方法は、上記グルカン生産反応の間もしくはグルカン生産反応後に上記反応溶液を冷却してグルカンをゲル化する工程、ゲル化したグルカンを回収する工程、および該ゲル化したグルカンから、フルクトースを、水による洗浄、凍結融解、ろ過、圧搾、吸引および遠心分離からなる群より選択される操作によって除去する工程をさらに含み得る。
【0042】
1つの実施態様では、上記方法は、さらに、上記グルカン生産反応後、水に溶解しているグルカンを沈澱させずに、限外ろ過膜を用いた膜分画もしくはクロマトグラフィーに供してフルクトースを除去する工程を含み得る。上記限外ろ過膜は、分画分子量サイズ約30,000のものであり得る。上記限外ろ過膜はまた、中空糸タイプの限外濾過膜であり得る。上記クロマトグラフィーに使用され得る担体は、ゲル濾過クロマトグラフィー用担体、配位子交換クロマトグラフィー用担体、イオン交換クロマトグラフィー用担体、または疎水クロマトグラフィー用担体であり得る。
【0043】
1つの実施態様では、上記反応溶液中にさらに、枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を含み得る。
【0044】
本発明のグルカンの第2の製造方法は、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを含む反応溶液を反応させて、グルカンを生産する工程を包含し、ここで該反応が、約40℃〜約70℃の温度で行われる。
【0045】
1つの実施態様では、上記反応温度は、約45℃〜約65℃であり得る。
【0046】
1つの実施態様では、反応開始時の上記反応溶液中のスクロースの濃度は約5%〜約100%であり得、好ましくは約8%〜約80%であり得、そしてより好ましくは約15%〜約50%であり得る。
【0047】
1つの実施態様では、上記グルカンは、アミロースであり得る。
【0048】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus属に属する細菌由来であり得る。好ましくは、上記スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus mutans、Streptococcus thermophilus、Streptococcus pneumoniae、およびStreptococcus mitisからなる群より選択されるStreptococcus属に属する細菌由来であり得る。
【0049】
1つの実施態様では、上記グルカンホスホリラーゼは、植物由来であり得る。より好ましくは、上記グルカンホスホリラーゼは、藻類または馬鈴薯由来であり得る。
【0050】
1つの実施態様では、上記グルカンホスホリラーゼは、Thermus aquaticus由来またはBacillus stearothermophilus由来であり得る。
【0051】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方、もしくは少なくとも一方は、遺伝子組換えされた微生物により生産され得る。
【0052】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方、もしくは少なくとも一方は、担体上に固定化され得る。
【0053】
1つの実施態様では、上記スクロースは、未精製糖であり得る。
【0054】
1つの実施態様では、上記プライマーは、マルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、プルラン、カップリングシュガー、澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択され得る。
【0055】
1つの実施態様では、上記マルトオリゴ糖は、マルトオリゴ糖混合物であり得る。
【0056】
1つの実施態様では、上記マルトオリゴ糖混合物は、マルトテトラオース以上の重合度のマルトオリゴ糖に加えて、マルトトリオース、マルトースおよびグルコースのうちの少なくとも1つを含有し得る。
【0057】
1つの実施態様では、上記澱粉は、可溶性澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、澱粉枝切り酵素分解物、澱粉ホスホリラーゼ分解物、澱粉部分加水分解物、化工澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択され得る。
【0058】
1つの実施態様では、上記方法は、生産されたグルカンを、有機溶媒を利用せずに精製する工程をさらに包含し得る。
【0059】
1つの実施態様では、上記方法は、上記反応後の反応溶液を冷却することにより上記グルカンを沈澱させる工程、および該沈澱したグルカンを固液分離方法により精製する工程をさらに含み得る。
【0060】
1つの実施態様では、上記方法は、上記グルカン生産反応の間もしくはグルカン生産反応後に上記反応溶液を冷却してグルカンをゲル化する工程、ゲル化したグルカンを回収する工程、および該ゲル化したグルカンから、フルクトースを、水による洗浄、凍結融解、ろ過、圧搾、吸引および遠心分離からなる群より選択される操作によって除去する工程をさらに含み得る。
【0061】
1つの実施態様では、上記方法は、さらに、上記グルカン生産反応後、水に溶解しているグルカンを沈澱させずに、限外ろ過膜を用いた膜分画もしくはクロマトグラフィーに供してフルクトースを除去する工程を含み得る。上記限外ろ過膜は、分画分子量サイズ約30,000のものであり得る。上記限外ろ過膜はまた、中空糸タイプの限外濾過膜であり得る。上記クロマトグラフィーに使用され得る担体は、ゲル濾過クロマトグラフィー用担体、配位子交換クロマトグラフィー用担体、イオン交換クロマトグラフィー用担体、または疎水クロマトグラフィー用担体であり得る。
【0062】
1つの実施態様では、上記反応溶液中にさらに、枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を含み得る。
【0063】
本発明のグルカンの第3の製造方法は、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを含む反応溶液を反応させて、グルカンを生産する工程を包含し、ここで反応開始時から反応終了時までの間の該反応溶液のスクロース−リン酸比率の最大値が約17以下であり、該反応が、約40℃〜約70℃の温度で行われる。
【0064】
1つの実施態様では、上記最大値は、約0.5以上約15以下であり得、好ましくは約1以上約10以下であり得、さらに好ましくは約2以上約7以下であり得る。
【0065】
1つの実施態様では、上記反応温度は、約45℃〜約65℃であり得る。
【0066】
1つの実施態様では、反応開始時の上記反応溶液中のスクロースの濃度は約5〜約100%であり得、好ましくは約8〜約80%であり得、そしてより好ましくは約15〜約50%であり得る。
【0067】
1つの実施態様では、上記グルカンは、アミロースであり得る。
【0068】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus属に属する細菌由来であり得る。好ましくは、上記スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus mutans、Streptococcus thermophilus、Streptococcus pneumoniae、およびStreptococcus mitisからなる群より選択されるStreptococcus属に属する細菌由来であり得る。
【0069】
1つの実施態様では、上記グルカンホスホリラーゼは、植物由来であり得る。より好ましくは、上記グルカンホスホリラーゼは、藻類または馬鈴薯由来であり得る。
【0070】
1つの実施態様では、上記グルカンホスホリラーゼは、Thermus aquaticus由来またはBacillus stearothermophilus由来であり得る。
【0071】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方、もしくは少なくとも一方は、遺伝子組換えされた微生物により生産され得る。
【0072】
1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方、もしくは少なくとも一方は、担体上に固定化され得る。
【0073】
1つの実施態様では、上記スクロースは、未精製糖であり得る。
【0074】
1つの実施態様では、上記プライマーは、マルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、プルラン、カップリングシュガー、澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択され得る。
【0075】
1つの実施態様では、上記マルトオリゴ糖は、マルトオリゴ糖混合物であり得る。
【0076】
1つの実施態様では、上記マルトオリゴ糖混合物は、マルトテトラオース以上の重合度のマルトオリゴ糖に加えて、マルトトリオース、マルトースおよびグルコースのうちの少なくとも1つを含有し得る。
【0077】
1つの実施態様では、上記澱粉は、可溶性澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、澱粉枝切り酵素分解物、澱粉ホスホリラーゼ分解物、澱粉部分加水分解物、化工澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択され得る。
【0078】
1つの実施態様では、上記方法は、生産されたグルカンを、有機溶媒を利用せずに精製する工程をさらに包含し得る。
【0079】
1つの実施態様では、上記方法は、上記反応後の反応溶液を冷却することにより上記グルカンを沈澱させる工程、および該沈澱したグルカンを固液分離方法により精製する工程をさらに含み得る。
【0080】
1つの実施態様では、上記方法は、上記グルカン生産反応の間もしくはグルカン生産反応後に上記反応溶液を冷却してグルカンをゲル化する工程、ゲル化したグルカンを回収する工程、および該ゲル化したグルカンから、フルクトースを、水による洗浄、凍結融解、ろ過、圧搾、吸引および遠心分離からなる群より選択される操作によって除去する工程をさらに含み得る。
【0081】
1つの実施態様では、上記方法は、さらに、上記グルカン生産反応後、水に溶解しているグルカンを沈澱させずに、限外ろ過膜を用いた膜分画もしくはクロマトグラフィーに供してフルクトースを除去する工程を含み得る。上記限外ろ過膜は、分画分子量サイズ約30,000のものであり得る。上記限外ろ過膜はまた、中空糸タイプの限外濾過膜であり得る。上記クロマトグラフィーに使用され得る担体は、ゲル濾過クロマトグラフィー用担体、配位子交換クロマトグラフィー用担体、イオン交換クロマトグラフィー用担体、または疎水クロマトグラフィー用担体であり得る。
【0082】
1つの実施態様では、上記反応溶液中にさらに、枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を含み得る。
【0083】
本発明のグルカンの第4の製造方法は、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを含む反応溶液を反応させて、グルカンを生産する工程を包含し、ここで反応開始時の該反応溶液のスクロース−リン酸比率が約17以下である。
【0084】
1つの実施形態では、無機リン酸もグルコース−1−リン酸も、反応開始後に追加されない。
【0085】
1つの実施形態では、上記反応は、約40℃〜約70℃の温度で行われ得る。
【0086】
本発明のグルカンの第5の製造方法は、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを含む反応溶液で反応を開始させる工程;スクロース、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸を該反応溶液に追加する工程;ならびにさらに反応を続けてグルカンを生産する工程を包含し、ここで該追加工程完了時の該反応溶液のスクロース−リン酸比率が約17以下である。
【0087】
1つの実施形態では、上記反応は、約40℃〜約70℃の温度で行われ得る。
【0088】
本発明のグルカンは、上記のいずれかの方法で製造される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0089】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0090】
本発明の方法では、グルカンを製造する。本明細書中では「グルカン」とは、D−グルコースを構成単位とする、糖であって、α−1,4−グルコシド結合によって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。グルカンは、直鎖状、分岐状または環状の分子であり得る。直鎖状グルカンとα−1,4−グルカンとは同義語である。直鎖状グルカンでは、α−1,4−グルコシド結合によってのみ糖単位の間が連結されている。α−1,6−グルコシド結合を1つ以上含むグルカンは、分岐状グルカンである。グルカンは、好ましくは、直鎖状の部分をある程度含む。分岐のない直鎖状グルカンがより好ましい。
【0091】
グルカンは、場合によっては、分岐の数(すなわち、α−1,6−グルコシド結合の数)が少ないことが好ましい。このような場合、分岐の数は、代表的には0〜10000個、好ましくは0〜1000個、より好ましくは0〜500個、さらに好ましくは0〜100個、さらに好ましくは0〜50個、さらに好ましくは0〜25個、さらに好ましくは0個である。
【0092】
本発明のグルカンでは、α−1,6−グルコシド結合を1としたときのα−1,6−グルコシド結合の数に対するα−1,4−グルコシド結合の数の比は、好ましくは1〜10000であり、より好ましくは10〜5000であり、さらに好ましくは50〜1000であり、さらに好ましくは100〜500である。
【0093】
α−1,6−グルコシド結合は、グルカン中に無秩序に分布していてもよいし、均質に分布していてもよい。グルカン中に糖単位で5個以上の直鎖状部分ができる程度の分布であることが好ましい。
【0094】
グルカンは、D−グルコースのみから構成されていてもよいし、グルカンの性質を損なわない程度に修飾された誘導体であってもよい。修飾されていないことが好ましい。
【0095】
グルカンは、代表的には約8×103以上、好ましくは約1×104以上、より好ましくは約5×104以上、さらに好ましくは約1×105以上、さらに好ましくは約6×105以上の分子量を有する。グルカンは、代表的には約1×108以下、好ましくは約1×107以下、さらに好ましくは約5×106以下、さらに好ましくは約1×106以下の分子量を有する。
【0096】
当業者は、本発明の製造方法で用いられる基質の量、酵素の量、反応時間などを適宜設定することによって所望の分子量のグルカンが得られることを容易に理解する。
【0097】
<グルカンの製造に用いる材料>
本発明の製造方法では、例えば、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、緩衝剤、スクロースホスホリラーゼ、グルカンホスホリラーゼおよびそれを溶かしている溶媒を主な材料として用いる。これらの材料は通常、反応開始時に全て添加されるが、反応の途中でこれらのうちの任意の材料を追加して添加してもよい。本発明の製造方法では、必要に応じて、枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を用いることができる。枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素は、目的とするグルカンの構造に応じて、本発明の製造方法の最初から反応溶液中に添加してもよく、途中から反応溶液中に添加してもよい。
【0098】
(1)スクロース:
スクロースは、C12H22O11で示される、分子量約342の二糖である。スクロースは、光合成能を有するあらゆる植物中に存在する。スクロースは、植物から単離されてもよいし、化学的に合成されてもよい。コストの面からみて、スクロースを植物から単離することが好ましい。スクロースを多量に含む植物の例としては、サトウキビ、サトウダイコンなどが挙げられる。サトウキビは、汁液中に約20%のスクロースを含む。サトウダイコンは、汁液中に約10〜15%のスクロースを含む。スクロースは、スクロースを含む植物の汁液から精製糖に至るいずれの精製段階のものとして提供されてもよい。
【0099】
本発明の方法で使用されるスクロースは、純粋なものであることが好ましい。しかし、本発明のスクロースの効果を阻害しない限り、任意の他の夾雑物を含んでいてもよい。
【0100】
溶液中に含まれるスクロースの濃度は、代表的には約5〜100%、好ましくは約8〜80%、より好ましくは約8〜50%である。なお、本明細書中でスクロースの濃度は、Weight/Volumeで、すなわち、
(スクロースの重量)×100/(溶液の容量)
で計算する。スクロースの重量が多すぎると、反応中に未反応のスクロースが析出する場合がある。スクロースの使用量が少なすぎると、高温での反応において収率が低下する場合がある。
【0101】
なお、上述した第1の方法の場合、すなわち、反応開始時から反応終了時までの間の該反応溶液のスクロース−リン酸比率の最大値が約17以下の場合は、スクロース濃度は上記の範囲に必ずしも限定されない。上述した第4の方法の場合、すなわち、反応開始時の反応溶液のスクロース−リン酸比率が約17以下の場合、および上述した第5の方法の場合、すなわち、スクロース、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸を反応溶液に追加する工程を包含する場合も、スクロース濃度は上記の範囲に必ずしも限定されない。本明細書中では、反応溶液中のスクロースモル濃度を、反応溶液中の無機リン酸のモル濃度とグルコース−1−リン酸のモル濃度との合計によって除算することによって得られる比率を、スクロース−リン酸比率という。すなわち、以下の通りである:
【0102】
【化1】
全反応材料を投入して反応を始めて、反応中に材料の追加をしないのであれば、スクロース−リン酸比率は反応開始時が最大である。
【0103】
(2)プライマー:
本発明の方法で用いられるプライマーは、グルカンの合成において出発物質として作用する分子をいう。プライマーは、α−1,4−グルコシド結合で糖単位が結合できる遊離部分を1個以上有すれば、他の部分は糖以外の部分によって形成されていてもよい。本発明の方法では、プライマーに対して糖単位がα−1,4−グルコシド結合で順次結合されて、グルカンが合成される。プライマーとしては、グルカンホスホリラーゼによって糖単位が付加され得る任意の糖が挙げられる。
【0104】
プライマーは、本発明の反応の出発物質であればよく、例えば、本発明の方法によって合成されたグルカンをプライマーとして用いて、本発明の方法によってα−1,4−グルコシド鎖を再度伸長することも可能である。
【0105】
プライマーは、α−1,4−グルコシド結合のみを含むα−1,4−グルカンであっても、α−1,6−グルコシド結合を部分的に有してもよい。当業者は、所望のグルカンに応じて、適切なプライマーを容易に選択し得る。直鎖状のアミロースを合成する場合には、α−1,4−グルコシド結合のみを含むα−1,4−グルカンをプライマーとして用いれば、枝切り酵素などを用いずに直鎖状アミロースを合成できるので好ましい。
【0106】
プライマーの例としては、マルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、プルラン、カップリングシュガー、澱粉およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0107】
マルトオリゴ糖は、本明細書中では、2〜10個のグルコースが脱水縮合して生じた物質であって、α−1,4結合によって連結された物質をいう。マルトオリゴ糖は、好ましくは4〜10個の糖単位、より好ましくは5〜10個の糖単位、さらに好ましくは7〜10個の糖単位を有する。マルトオリゴ糖の例としては、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース、マルトノナオース、マルトデカオースなどのマルトオリゴ糖が挙げられる。マルトオリゴ糖は、好ましくはマルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースまたはマルトヘプタオースである。マルトオリゴ糖は、単品であってもよいし、複数のマルトオリゴ糖の混合物であってもよい。コストが低いため、マルトオリゴ糖の混合物が好ましい。1つの実施態様では、マルトオリゴ糖の混合物は、マルトテトラオースの重合度以上の重合度のマルトオリゴ糖に加えて、マルトトリオース、マルトースおよびグルコースのうちの少なくとも1つを含有する。ここで、「マルトテトラオースの重合度以上の重合度のマルトオリゴ糖」とは、重合度4以上のマルトオリゴ糖をいう。オリゴ糖は、直鎖状のオリゴ糖であってもよいし、分枝状のオリゴ糖であってもよい。オリゴ糖は、その分子内に、環状部分を有し得る。本発明では、直鎖状のオリゴ糖が好ましい。
【0108】
アミロースとは、α−1,4結合によって連結されたグルコース単位から構成される直鎖分子である。アミロースは、天然の澱粉中に含まれる。
【0109】
アミロペクチンとは、α−1,4結合によって連結されたグルコース単位に、α1,6結合でグルコース単位が連結された、分枝状分子である。アミロペクチンは天然の澱粉中に含まれる。アミロペクチンとしては、例えば、アミロペクチン100%からなるワキシーコーンスターチが用いられ得る。例えば、重合度が約1×105程度以上のアミロペクチンが原料として用いられ得る。
【0110】
グリコーゲンは、グルコースから構成されるグルカンの一種であり、高頻度の枝分かれを有するグルカンである。グリコーゲンは、動植物の貯蔵多糖としてほとんどあらゆる細胞に顆粒状態で広く分布している。グリコーゲンは、植物中では、例えば、トウモロコシの種子などに存在する。グリコーゲンは、代表的には、グルコースのα−1,4−結合の糖鎖に対して、グルコースおよそ3単位おきに1本程度の割合で、平均重合度12〜18のグルコースのα−1,4−結合の糖鎖がα−1,6−結合で結合している。また、α−1,6−結合で結合している分枝にも同様にグルコースのα−1,4−結合の糖鎖がα−1,6−結合で結合している。そのため、グリコーゲンは網状構造を形成する。
【0111】
グリコーゲンの分子量は代表的には約1×105〜約1×108であり、好ましくは約1×106〜約1×107である。
【0112】
プルランは、マルトトリオースが規則正しく、階段状にα−1,6−結合した、分子量約10万〜約30万(例えば、約20万)のグルカンである。プルランは、例えば、澱粉を原料として黒酵母Aureobasidium pullulansを培養することにより製造される。プルランは、例えば、林原商事から入手され得る。
【0113】
カップリングシュガーは、ショ糖、グルコシルスクロース、マルトシルスクロースを主成分とする混合物である。カップリングシュガーは、例えば、ショ糖と澱粉との混合溶液にBacillus megateriumなどが産生するサイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させることにより製造される。カップリングシュガーは、例えば、林原商事から入手され得る。
【0114】
澱粉は、アミロースとアミロペクチンとの混合物である。澱粉としては、通常市販されている澱粉であればどのような澱粉でも用いられ得る。澱粉に含まれるアミロースとアミロペクチンとの比率は、澱粉を産生する植物の種類によって異なる。モチゴメ、モチトウモロコシなどの有する澱粉のほとんどはアミロペクチンである。他方、アミロースのみからなり、かつアミロペクチンを含まない澱粉は、通常の植物からは得られない。
【0115】
澱粉は、天然の澱粉、澱粉分解物および化工澱粉に区分される。
【0116】
天然の澱粉は、原料により、いも類澱粉および穀類澱粉に分けられる。いも類澱粉の例としては、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、くず澱粉、およびわらび澱粉などが挙げられる。穀類澱粉の例としては、コーンスターチ、小麦澱粉、および米澱粉などが挙げられる。天然の澱粉の例は、澱粉を生産する植物の品種改良の結果、アミロースの含量を50%〜70%まで高めたハイアミロース澱粉(例えば、ハイアミロースコーンスターチ)である。天然の澱粉の別の例は、澱粉を生産する植物の品種改良の結果、アミロースを含まないワキシー澱粉である。
【0117】
可溶性澱粉は、天然の澱粉に種々の処理を施すことにより得られる、水溶性の澱粉をいう。
【0118】
化工澱粉は、天然の澱粉に加水分解、エステル化、またはα化などの処理を施して、より利用しやすい性質を持たせた澱粉である。糊化開始温度、糊の粘度、糊の透明度、老化安定性などを様々な組み合わせで有する幅広い種類の化工澱粉が入手可能である。化工澱粉の種類には種々ある。このような澱粉の例は、澱粉の糊化温度以下において澱粉粒子を酸に浸漬することにより、澱粉分子は切断するが、澱粉粒子は破壊していない澱粉である。
【0119】
澱粉分解物は、澱粉に酵素処理または加水分解などの処理を施して得られる、処理前よりも分子量が小さいオリゴ糖もしくは多糖である。澱粉分解物の例としては、澱粉枝切り酵素分解物、澱粉ホスホリラーゼ分解物および澱粉部分加水分解物が挙げられる。
【0120】
澱粉枝切り酵素分解物は、澱粉に枝切り酵素を作用させることによって得られる。枝切り酵素の作用時間を種々に変更することによって、任意の程度に分岐部分(すなわち、α−1,6−グルコシド結合)が切断された澱粉枝切り酵素分解物が得られる。枝切り酵素分解物の例としては、糖単位数4〜10000のうちα−1,6−グルコシド結合を1個〜20個有する分解物、糖単位数3〜500のα−1,6−グルコシド結合を全く有さない分解物、マルトオリゴ糖およびアミロースが挙げられる。澱粉枝切り酵素分解物の場合、分解された澱粉の種類によって得られる分解物の分子量の分布が異なり得る。澱粉枝切り酵素分解物は、種々の長さの糖鎖の混合物であり得る。
【0121】
澱粉ホスホリラーゼ分解物は、澱粉にグルカンホスホリラーゼ(ホスホリラーゼともいう)を作用させることによって得られる。グルカンホスホリラーゼは、澱粉の非還元性末端からグルコース残基を1糖単位ずつ他の基質へと転移させる。グルカンホスホリラーゼは、α−1,6−グルコシド結合を切断することができないので、グルカンホスホリラーゼを澱粉に充分に長時間作用させると、α−1,6−グルコシド結合の部分で切断が終わった分解物が得られる。本発明では、澱粉ホスホリラーゼ分解物の有する糖単位数は、好ましくは約10〜約100,000、より好ましくは約50〜約50,000、さらにより好ましくは約100〜約10,000である。澱粉ホスホリラーゼ分解物は、分解された澱粉の種類によって得られる分解産物の分子量の分布が異なり得る。澱粉ホスホリラーゼ分解物は、種々の長さの糖鎖の混合物であり得る。
【0122】
デキストリンおよび澱粉部分加水分解物は、澱粉を、酸、アルカリ、酵素などの作用によって部分的に分解して得られる分解物をいう。本発明では、デキストリンおよび澱粉部分加水分解物の有する糖単位数は、好ましくは約10〜約100,000、より好ましくは約50〜約50,000、さらにより好ましくは約100〜約10,000である。デキストリンおよび澱粉部分加水分解物の場合、分解された澱粉の種類によって得られる分解産物の分子量の分布が異なり得る。デキストリンおよび澱粉部分加水分解物は、種々の長さを持つ糖鎖の混合物であり得る。
【0123】
澱粉は、可溶性澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、澱粉枝切り酵素分解物、澱粉ホスホリラーゼ分解物、澱粉部分加水分解物、化工澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択されることが好ましい。
【0124】
本発明の方法では、上記各種糖の誘導体は、プライマーとして用いられ得る。例えば、上記糖のアルコール性水酸基の少なくとも1つが、ヒドロキシアルキル化、アルキル化、アセチル化、カルボキシメチル化、硫酸化、あるいはリン酸化された誘導体などが用いられ得る。さらに、これらの2種以上の誘導体の混合物が原料として用いられ得る。
【0125】
(3)無機リン酸またはグルコース−1−リン酸:
本明細書中において、無機リン酸とは、SPの反応においてリン酸基質を供与し得る物質をいう。ここでリン酸基質とは、グルコース−1−リン酸のリン酸部分(moiety)の原料となる物質をいう。スクロースホスホリラーゼによって触媒されるスクロース加リン酸分解において、無機リン酸はリン酸イオンの形態で基質として作用していると考えられる。当該分野ではこの基質を慣習的に無機リン酸というので、本明細書中でも、この基質を無機リン酸という。無機リン酸には、リン酸およびリン酸の無機塩が含まれる。通常、無機リン酸は、アルカリ金属イオンなどの陽イオンを含む水中で使用される。この場合、リン酸とリン酸塩とリン酸イオンとは平衡状態になるので、リン酸とリン酸塩とは区別をしにくい。従って、便宜上、リン酸とリン酸塩とを合わせて無機リン酸という。本発明において、無機リン酸は好ましくは、リン酸の任意の金属塩であり、より好ましくはリン酸のアルカリ金属塩である。無機リン酸の好ましい具体例としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸(H3PO4)、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムなどが挙げられる。
【0126】
無機リン酸は、反応開始時のSP−GP反応系において、1種類のみ含有されてもよく、複数種類含有されてもよい。
【0127】
無機リン酸は、例えば、ポリリン酸(例えば、ピロリン酸、三リン酸および四リン酸)のようなリン酸縮合体またはその塩を、物理的、化学的または酵素反応などによって分解したものを反応溶液に添加することによって提供され得る。
【0128】
本明細書において、グルコース−1−リン酸とは、グルコース−1−リン酸(C6H13O9P)およびその塩をいう。グルコース−1−リン酸は好ましくは、狭義のグルコース−1−リン酸(C6H13O9P)の任意の金属塩であり、より好ましくはグルコース−1−リン酸(C6H13O9P)の任意のアルカリ金属塩である。グルコース−1−リン酸の好ましい具体例としては、グルコース−1−リン酸二ナトリウム、グルコース−1−リン酸二カリウム、グルコース−1−リン酸(C6H13O9P)、などが挙げられる。本明細書において、括弧書きで化学式を書いていないグルコース−1−リン酸は、広義のグルコース−1−リン酸、すなわち狭義のグルコース−1−リン酸(C6H13O9P)およびその塩を示す。
【0129】
グルコース−1−リン酸は反応開始時のSP−GP反応系において、1種類のみ含有されてもよく、複数種類含有されていてもよい。
【0130】
本発明の方法において、反応開始時の反応溶液中のリン酸とグルコース−1−リン酸との間の比率は、任意の比率であり得る。
【0131】
反応溶液中に含まれる無機リン酸のモル濃度とグルコース−1−リン酸のモル濃度との合計は、代表的には約1mM〜約1000mM、好ましくは約10mM〜約500mM、より好ましくは約20mM〜約250mMである。無機リン酸のモル濃度およびグルコース−1−リン酸のモル濃度は、それぞれ、反応開始時から反応終了時までの間の反応溶液中のスクロース−リン酸比率の最大値が代表的には約17以下、好ましくは約0.5以上約15以下、より好ましくは約1以上約10以下、そしてさらに好ましくは約2以上約7以下になるように調整される。上述した本発明の第4の方法では、無機リン酸のモル濃度およびグルコース−1−リン酸のモル濃度は、反応開始時の反応溶液のスクロース−リン酸比率が上記範囲内になるように調整される。上述した本発明の第5の方法では、無機リン酸のモル濃度およびグルコース−1−リン酸のモル濃度は、スクロース、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸を反応溶液に追加する工程の終了時の反応溶液のスクロース−リン酸比率が上記範囲内になるように調整される。無機リン酸およびグルコース−1−リン酸の量が多すぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの合成に時間がかかる場合がある。
【0132】
SP−GP反応系中の無機リン酸の含有量は、下記の1.4に記載の方法によって定量され得る。SP−GP反応系中のグルコース−1−リン酸の含有量は、下記の1.3に記載の方法によって定量され得る。反応に関与しないリン含有物質を使わない場合、そのような場合は原子吸光法によって無機リン酸およびグルコース−1−リン酸の合計含有量を測定してもよい。
【0133】
なお、上述した第2の方法の場合、すなわち、反応温度が約40℃〜約70℃で反応が行われる場合、上記の最大値は必ずしも約17以下である必要はない。
【0134】
(4)スクロースホスホリラーゼ(EC.2.4.1.7):
本明細書中では、「スクロースホスホリラーゼ」とは、スクロースのα−グリコシル基をリン酸基に転移して加リン酸分解を行う任意の酵素をいう。スクロースホスホリラーゼによって触媒される反応は、次式により示される:
【0135】
【化2】
スクロースホスホリラーゼは、自然界では種々の生物に含まれる。スクロースホスホリラーゼを産生する生物の例としては、Streptococcus属に属する細菌(例えば、Streptococcus thermophilus、Streptococcus mutans、Streptococcus pneumoniae、およびStreptococcus mitis)、Leuconostoc mesenteroides、Pseudomonas sp.、Clostridium sp.、Pullularia pullulans、Acetobacter xylinum、Agrobacterium sp.、Synecococcus sp.、E.coli、Listeria monocytogenes、Bifidobacterium adolescentis、Aspergillus niger、Monilia sitophila、Sclerotinea escerotiorum、およびChlamydomonas sp.が挙げられるがこれらに限定されない。
【0136】
スクロースホスホリラーゼは、スクロースホスホリラーゼを産生する任意の生物由来であり得る。スクロースホスホリラーゼは、ある程度の耐熱性を有することが好ましい。スクロースホスホリラーゼは、単独で存在する場合の耐熱性が高ければ高いほど好ましい。例えば、スクロースホスホリラーゼを4%のスクロース存在下で55℃にて30分間加熱した場合に加熱前のスクロースホスホリラーゼの活性の50%以上の活性を保持するものであることが好ましい。スクロースホスホリラーゼは、好ましくはStreptococcus属の細菌由来であり、さらに好ましくはStreptococcus mutans、Streptococcus thermophilus、Streptococcus pneumoniaeまたはStreptococcus mitis由来である。
【0137】
本明細書中では、酵素がある生物に「由来する」とは、その生物から直接単離したことのみを意味するのではなく、その生物を何らかの形で利用することによりその酵素が得られることをいう。例えば、その生物から入手したその酵素をコードする遺伝子を大腸菌に導入して、その大腸菌から酵素を単離する場合も、その酵素はその生物に「由来する」という。
【0138】
本発明で用いられるスクロースホスホリラーゼは、上記のような自然界に存在する、スクロースホスホリラーゼを産生する生物から直接単離され得る。本発明で用いられるスクロースホスホリラーゼは、上記の生物から単離したスクロースホスホリラーゼをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0139】
本発明の方法で用いられるスクロースホスホリラーゼは、例えば、以下のようにして調製され得る。まず、スクロースホスホリラーゼを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)を培養する。この微生物は、スクロースホスホリラーゼを直接生産する微生物であってもよい。また、スクロースホスホリラーゼをコードする遺伝子をクローン化し、得られた遺伝子でスクロースホスホリラーゼ発現に有利な微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えして組換えされた微生物を得、得られた微生物からスクロースホスホリラーゼを得てもよい。
【0140】
スクロースホスホリラーゼ遺伝子での遺伝子組換えに用いられる微生物は、スクロースホスホリラーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。スクロースホスホリラーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。スクロースホスホリラーゼの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるスクロースホスホリラーゼは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0141】
クローン化した遺伝子での微生物(例えば、細菌、真菌など)の遺伝子組換えは、当業者に周知の方法に従って行われ得る。クローン化した遺伝子を用いる場合、この遺伝子を、構成性プロモーターまたは誘導性プロモーターに作動可能に連結することが好ましい。「作動可能に連結する」とは、プロモーターと遺伝子とが、そのプロモーターによって遺伝子の発現が調節されるように連結されることをいう。誘導性プロモーターを用いる場合、培養を、誘導条件下で行うことが好ましい。種々の誘導性プロモーターは当業者に公知である。
【0142】
クローン化した遺伝子について、生産されるスクロースホスホリラーゼが菌体外に分泌されるように、シグナルペプチドをコードする塩基配列をこの遺伝子に連結し得る。シグナルペプチドをコードする塩基配列は当業者に公知である。
【0143】
当業者は、スクロースホスホリラーゼを生産するために、微生物(例えば、細菌、真菌など)の培養の条件を適切に設定し得る。微生物の培養に適切な培地、各誘導性プロモーターに適切な誘導条件などは当業者に公知である。
【0144】
適切な時間の培養後、スクロースホスホリラーゼを培養物から回収する。生産されたスクロースホスホリラーゼが菌体外へ分泌される場合、遠心分離によって菌体を除去すれば、上清中にスクロースホスホリラーゼが得られる。菌体内で生産されたスクロースホスホリラーゼが菌体外へ分泌されない場合、超音波処理、機械的破砕、化学的破砕などの処理によって微生物を破砕し、菌体破砕液を得る。
【0145】
本発明の方法では、菌体破砕液を精製せずに用いてもよい。次いで、菌体破砕液を遠心分離して菌体の破片を除去し、上清を入手し得る。得られたこれらの上清から、本発明の酵素を、硫酸アンモニウム沈澱またはエタノール沈澱、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含む周知の方法によって回収し得る。回収された生成物は、必要に応じて精製され得る。
【0146】
好ましい実施態様では、スクロースホスホリラーゼは、精製段階の任意の段階でスクロース(代表的には約4%〜約30%、好ましくは約8%〜約30%、より好ましくは約8%〜約25%)の存在下で加熱され得る。この加熱工程における溶液の温度は、この溶液を30分間加熱した場合に、加熱前のこの溶液に含まれるスクロースホスホリラーゼの活性の50%以上、より好ましくは80%以上の活性が残る温度であることが好ましい。この温度は好ましくは約50℃〜約80℃であり、より好ましくは約55℃〜約70℃である。例えば、S.mutans由来スクロースホスホリラーゼの場合、この温度は約50℃〜約60℃であることが好ましい。加熱が行われる場合、加熱時間は、反応温度を考慮して、スクロースホスホリラーゼの活性を大きく損なうことがない限り、任意の時間で設定され得る。加熱時間は、代表的には約10分間〜約90分間、より好ましくは約30分間〜約60分間である。
【0147】
反応開始時の溶液中に含まれるスクロースホスホリラーゼの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.05〜1,000U/gスクロース、好ましくは約0.1〜500U/gスクロース、より好ましくは約0.5〜100U/gスクロースである。スクロースホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0148】
スクロースホスホリラーゼは、精製されていても未精製であってもよい。スクロースホスホリラーゼは、固定化されていても固定化されていなくともよい。スクロースホスホリラーゼは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。スクロースホスホリラーゼは、担体上に固定化されていることが好ましい。
【0149】
(5)グルカンホスホリラーゼ(EC.2.4.1.1):
グルカンホスホリラーゼとは、α−1,4−グルカンの加リン酸分解を触媒する酵素の総称であり、ホスホリラーゼ、スターチホスホリラーゼ、グリコーゲンホスホリラーゼ、マルトデキストリンホスホリラーゼなどと呼ばれる場合もある。グルカンホスホリラーゼは、加リン酸分解の逆反応であるα−1,4−グルカン合成反応をも触媒し得る。反応がどちらの方向に進むかは、基質の量に依存する。生体内では、無機リン酸の量が多いので、グルカンホスホリラーゼは加リン酸分解の方向に反応が進む。本発明の方法では、無機リン酸は、スクロースの加リン酸分解に使われ、反応溶液中に含まれる無機リン酸の量が少ないので、α−1,4−グルカンの合成の方向に反応が進む。
【0150】
グルカンホスホリラーゼは、デンプンまたはグリコーゲンを貯蔵し得る種々の植物、動物および微生物中に普遍的に存在すると考えられる。
【0151】
グルカンホスホリラーゼを産生する植物の例としては、藻類、ジャガイモ(馬鈴薯ともいう)、サツマイモ(甘藷ともいう)、ヤマイモ、サトイモ、キャッサバなどの芋類、キャベツ、ホウレンソウなどの野菜類、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、アワなどの穀類、えんどう豆、大豆、小豆、うずら豆などの豆類などが挙げられる。
【0152】
グルカンホスホリラーゼを産生する動物の例としては、ヒト、ウサギ、ラット、ブタなどの哺乳類などが挙げられる。
【0153】
グルカンホスホリラーゼを産生する微生物の例としては、Thermus aquaticus、Bacillus stearothermophilus、Deinococcus radiodurans、Thermococcus litoralis、Streptomyces coelicolor、Pyrococcus horikoshi、Mycobacterium tuberculosis、Thermotoga maritima、Aquifex aeolicus、Methanococcus Jannaschii、Pseudomonas aeruginosa、Chlamydia pneumoniae、Chlorella vulgaris、Agrobacterium tumefaciens、Clostridium pasteurianum、Klebsiella pneumoniae、Synecococcus sp.、Synechocystis sp.、E.coli、Neurospora crassa、Saccharomyces cerevisiae、Chlamydomonas sp.などが挙げられる。グルカンホスホリラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。
【0154】
本発明で用いられるグルカンホスホリラーゼは、ジャガイモ、Thermus aquaticus、Bacillus stearothermophilusに由来することが好ましく、ジャガイモに由来することがより好ましい。本発明で用いられるグルカンホスホリラーゼは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高いグルカンホスホリラーゼは、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0155】
本発明で用いられるグルカンホスホリラーゼは、上記のような自然界に存在する、グルカンホスホリラーゼを産生する動物、植物、および微生物から直接単離され得る。
【0156】
本発明で用いられるグルカンホスホリラーゼは、これらの動物、植物または微生物から単離したグルカンホスホリラーゼをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0157】
グルカンホスホリラーゼは、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0158】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、グルカンホスホリラーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。グルカンホスホリラーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。グルカンホスホリラーゼの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるグルカンホスホリラーゼは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0159】
遺伝子組換えによって得られたグルカンホスホリラーゼの生産および精製は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0160】
反応開始時の溶液中に含まれるグルカンホスホリラーゼの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.05〜1,000U/gスクロース、好ましくは約0.1〜500U/gスクロース、より好ましくは約0.5〜100U/gスクロースである。グルカンホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0161】
グルカンホスホリラーゼは、精製されていても未精製であってもよい。グルカンホスホリラーゼは、固定化されていても固定化されていなくともよい。グルカンホスホリラーゼは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。グルカンホスホリラーゼは、担体上に固定化されていることが好ましい。グルカンホスホリラーゼはまた、スクロースホスホリラーゼと同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0162】
(6)枝切り酵素:
本発明の方法において、α−1,6−グルコシド結合を含有する出発材料を用いる場合などの、生成物に分岐が生じる場合には、必要に応じて、枝切り酵素を用いることができる。
【0163】
本発明で用いられ得る枝切り酵素は、α−1,6−グルコシド結合を切断し得る酵素である。枝切り酵素は、アミロペクチンおよびグリコーゲンにともによく作用するイソアミラーゼ(EC 3.2.1.68)と、アミロペクチン、グリコーゲンおよびプルランに作用するα−デキストリンエンド−1,6−α−グルコシダーゼ(プルラナーゼともいう)(EC 3.2.1.41)との2つに分類される。
【0164】
枝切り酵素は、微生物、細菌、および植物に存在する。枝切り酵素を産生する微生物の例としては、Saccharomyces cerevisiae、Chlamydomonas sp.が挙げられる。枝切り酵素を産生する細菌の例としては、Bacillus brevis、Bacillus acidopullulyticus、Bacillus macerans、Bacillus stearothermophilus、Bacillus circulans、Thermus aquaticus、Klebsiella pneumoniae、Thermoactinomyces thalpophilus、Thermoanaerobacter ethanolicus、Pseudomonas amyloderamosaなどが挙げられる。枝切り酵素を産生する植物の例としては、ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、オートムギ、サトウダイコンなどが挙げられる。枝切り酵素を産生する生物はこれらに限定されない。
【0165】
本発明で用いられ得る枝切り酵素は、Klebsiella pneumoniae、Bacillus brevis、Bacillus acidopullulyticus、Pseudomonas amyloderamosaに由来することが好ましく、Klebsiella pneumoniae、Pseudomonas amyloderamosaに由来することがより好ましい。本発明で用いられる枝切り酵素は、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高い枝切り酵素は、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0166】
本発明で用いられ得る枝切り酵素は、上記のような自然界に存在する、枝切り酵素を産生する微生物、細菌、および植物から直接単離され得る。
【0167】
本発明で用いられ得る枝切り酵素は、これらの微生物、細菌、および植物から単離した枝切り酵素をコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0168】
枝切り酵素は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0169】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、枝切り酵素の発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。枝切り酵素は、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。枝切り酵素の遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生される枝切り酵素は、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0170】
遺伝子組換えによる枝切り酵素の生産および精製は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0171】
反応開始時の溶液中に含まれる枝切り酵素の量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.05〜1,000U/gスクロース、好ましくは約0.1〜500U/gスクロース、より好ましくは約0.5〜100U/gスクロースである。枝切り酵素の重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0172】
枝切り酵素は、精製されていても未精製であってもよい。枝切り酵素は、固定化されていても固定化されていなくともよい。枝切り酵素は、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。枝切り酵素は、担体上に固定化されていることが好ましい。枝切り酵素はまた、スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの少なくとも一方と同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方と同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0173】
(7)ブランチングエンザイム(EC.2.4.1.18):
本発明の方法において、生成物に分岐を生じさせることが所望される場合には、必要に応じて、ブランチングエンザイムを用いることができる。
【0174】
本発明で用いられ得るブランチングエンザイムは、α−1,4−グルカン鎖の一部をこのα−1,4−グルカン鎖のうちのあるグルコース残基の6位に転移して分枝を作り得る酵素である。ブランチングエンザイムは、1,4−α−グルカン分枝酵素、枝つくり酵素またはQ酵素とも呼ばれる。
【0175】
ブランチングエンザイムは、微生物、動物、および植物に存在する。ブランチングエンザイムを産生する微生物の例としては、Bacillus stearothermophilus、Bacillus subtilis、Bacillus caldolyticus、Bacillus licheniformis、Bacillus amyloliquefaciens、Bacillus coagulans、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus smithii、Bacillus megaterium、Bacillus brevis、Alkalophillic Bacillus sp.、Streptomyces coelicolor、Aquifex aeolicus、Synechosystis sp.、E.coli、Agrobacteirum tumefaciens、Thermus aquaticus、Rhodothermus obamensis、Neurospora crassa、酵母などが挙げられる。ブランチングエンザイムを産生する動物の例としてはヒト、ウサギ、ラット、ブタなどの哺乳類が挙げられる。ブランチングエンザイムを産生する植物の例としては、藻類、ジャガイモ、サツマイモ、ヤマイモ、キャッサバなどの芋類、ホウレンソウなどの野菜類、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、アワなどの穀類、えんどう豆、大豆、小豆、うずら豆などの豆類などが挙げられる。ブランチングエンザイムを産生する生物はこれらに限定されない。
【0176】
本発明で用いられ得るブランチングエンザイムは、ジャガイモ、Bacillus stearothermophilus、Aquifex aeolicusに由来することが好ましく、Bacillus stearothermophilus、Aquifex aeolicusに由来することがより好ましい。本発明で用いられるブランチングエンザイムは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高いブランチングエンザイムは、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0177】
本発明で用いられ得るブランチングエンザイムは、上記のような自然界に存在する、ブランチングエンザイムを産生する微生物、動物、および植物から直接単離され得る。
【0178】
本発明で用いられ得るブランチングエンザイムは、これらの微生物、動物、および植物から単離したブランチングエンザイムをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0179】
ブランチングエンザイムは、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0180】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、ブランチングエンザイムの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。ブランチングエンザイムは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。ブランチングエンザイムの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるブランチングエンザイムは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0181】
遺伝子組換えによるブランチングエンザイムの生産および精製は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0182】
反応開始時の溶液中に含まれるブランチングエンザイムの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約10〜100,000U/gスクロース、好ましくは約100〜50,000U/gスクロース、より好ましくは約1,000〜10,000U/gスクロースである。ブランチングエンザイムの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0183】
ブランチングエンザイムは、精製されていても未精製であってもよい。ブランチングエンザイムは、固定化されていても固定化されていなくともよい。ブランチングエンザイムは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。ブランチングエンザイムは、担体上に固定化されていることが好ましい。ブランチングエンザイムはまた、スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの少なくとも一方と同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方と同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0184】
(8)4−α−グルカノトランスフェラーゼ(EC.2.4.1.25)
本発明の方法において、生成物に環状構造を生じさせる場合には、必要に応じて、4−α−グルカノトランスフェラーゼを用いることができる。
【0185】
本発明で用いられ得る4−α−グルカノトランスフェラーゼは、ディスプロポーショネーティングエンザイム、D−酵素、アミロマルターゼ、不均化酵素などとも呼ばれ、マルトオリゴ糖の糖転移反応(不均一化反応)を触媒し得る酵素である。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、供与体分子の非還元末端からグルコシル基あるいは、マルトシルもしくはマルトオリゴシルユニットを受容体分子の非還元末端に転移する酵素である。従って、酵素反応は、最初に与えられたマルトオリゴ糖の重合度の不均一化をもたらす。供与体分子と受容体分子とが同一の場合は、分子内転移が生じ、その結果、環状構造をもつ生成物が得られる。
【0186】
4−α−グルカノトランスフェラーゼは、微生物および植物に存在する。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する微生物の例としては、Aquifex aeolicus、Streptococcus pneumoniae、Clostridium butylicum、Deinococcus radiodurans、Haemophilus influenzae、Mycobacterium tuberculosis、Thermococcus litralis、Thermotoga maritima、Thermotoga neapolitana、Chlamydia psittaci、Pyrococcus sp.、Dictyoglomus thermophilum、Borrelia burgdorferi、Synechosystis sp.、E.coli、Thermus aquaticusなどが挙げられる。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する植物の例としては、ジャガイモ、サツマイモ、ヤマイモ、キャッサバなどの芋類、トウモロコシ、イネ、コムギ、などの穀類、えんどう豆、大豆、などの豆類などが挙げられる。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。
【0187】
本発明で用いられ得る4−α−グルカノトランスフェラーゼは、ジャガイモ、Thermus aquaticus、Thermococcus litralisに由来することが好ましく、ジャガイモ、Thermus aquaticusに由来することがより好ましい。本発明で用いられる4−α−グルカノトランスフェラーゼは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高い4−α−グルカノトランスフェラーゼは、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0188】
本発明で用いられ得る4−α−グルカノトランスフェラーゼは、上記のような自然界に存在する、4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する微生物および植物から直接単離され得る。
【0189】
本発明で用いられ得る4−α−グルカノトランスフェラーゼは、これらの微生物および植物から単離した4−α−グルカノトランスフェラーゼをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0190】
4−α−グルカノトランスフェラーゼは、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0191】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、4−α−グルカノトランスフェラーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。4−α−グルカノトランスフェラーゼの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生される4−α−グルカノトランスフェラーゼは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0192】
遺伝子組換えによる4−α−グルカノトランスフェラーゼの生産および精製は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0193】
反応開始時の溶液中に含まれる4−α−グルカノトランスフェラーゼの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.05〜1,000U/gスクロース、好ましくは約0.1〜500U/gスクロース、より好ましくは約0.5〜100U/gスクロースである。4−α−グルカノトランスフェラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0194】
4−α−グルカノトランスフェラーゼは、精製されていても未精製であってもよい。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、固定化されていても固定化されていなくともよい。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、担体上に固定化されていることが好ましい。4−α−グルカノトランスフェラーゼはまた、スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの少なくとも一方と同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方と同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0195】
(9)グリコーゲンデブランチングエンザイム(EC.2.4.1.25/EC.3.2.1.33)
本発明の方法において、生成物に環状構造を生じさせる場合には、必要に応じて、グリコーゲンデブランチングエンザイムを用いることができる。
【0196】
本発明で用いられ得るグリコーゲンデブランチングエンザイムは、α−1,6−グルコシダーゼ活性と、4−α−グルカノトランスフェラーゼ活性との2種類の活性をもつ酵素である。グリコーゲンデブランチングエンザイムが持つ、4−α−グルカノトランスフェラーゼ活性により、環状構造を持つ生成物が得られる。
【0197】
グリコーゲンデブランチングエンザイムは、微生物および動物に存在する。グリコーゲンデブランチングエンザイムを産生する微生物の例としては、酵母などが挙げられる。グリコーゲンデブランチングエンザイムを産生する動物の例としては、ヒト、ウサギ、ラット、ブタなどの哺乳類が挙げられる。グリコーゲンデブランチングエンザイムを産生する生物はこれらに限定されない。
【0198】
本発明で用いられ得るグリコーゲンデブランチングエンザイムは、酵母に由来することが好ましい。本発明で用いられるグリコーゲンデブランチングエンザイムは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高いグリコーゲンデブランチングエンザイムは、例えば、タンパク質工学的手法により、中温で作用し得る酵素に改変を加えることで得られる。
【0199】
本発明で用いられ得るグリコーゲンデブランチングエンザイムは、上記のような自然界に存在する、グリコーゲンデブランチングエンザイムを産生する微生物および動物から直接単離され得る。
【0200】
本発明で用いられ得るグリコーゲンデブランチングエンザイムは、これらの微生物および動物から単離したグリコーゲンデブランチングエンザイムをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0201】
グリコーゲンデブランチングエンザイムは、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0202】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に、グリコーゲンデブランチングエンザイムの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。グリコーゲンデブランチングエンザイムは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。グリコーゲンデブランチングエンザイムの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるグリコーゲンデブランチングエンザイムは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0203】
遺伝子組換えによるグリコーゲンデブランチングエンザイムの生産および精製は、上記のスクロースホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0204】
反応開始時の溶液中に含まれるグリコーゲンデブランチングエンザイムの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.01〜5,000U/gスクロース、好ましくは約0.1〜1,000U/gスクロース、より好ましくは約1〜500U/gスクロースである。グリコーゲンデブランチングエンザイムの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0205】
グリコーゲンデブランチングエンザイムは、精製されていても未精製であってもよい。グリコーゲンデブランチングエンザイムは、固定化されていても固定化されていなくともよい。グリコーゲンデブランチングエンザイムは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。グリコーゲンデブランチングエンザイムは、担体上に固定化されていることが好ましい。グリコーゲンデブランチングエンザイムはまた、スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの少なくとも一方と同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方と同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0206】
(10)溶媒:
本発明の方法に用いる溶媒は、スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの酵素活性を損なわない溶媒であれば任意の溶媒であり得る。
【0207】
なお、グルカンを生成する反応が進行し得る限り、溶媒が本発明の方法に用いる材料を完全に溶解する必要はない。例えば、酵素が固体の担体上に担持されている場合には、酵素が溶媒中に溶解する必要はない。さらに、スクロースなどの反応材料も全てが溶解している必要はなく、反応が進行し得る程度の材料の一部が溶解していればよい。
【0208】
代表的な溶媒は、水である。溶媒は、上記スクロースホスホリラーゼまたはグルカンホスホリラーゼを調製する際にスクロースホスホリラーゼまたはグルカンホスホリラーゼに付随して得られる細胞破砕液のうちの水分であってもよい。
【0209】
水は、軟水、中間水および硬水のいずれであってもよい。軟水とは、硬度20°以上の水をいい、中間水とは、硬度10°以上20°未満の水をいい、硬水とは、硬度10°未満の水をいう。水は、好ましくは軟水または中間水であり、より好ましくは軟水である。
【0210】
(11)他の成分:
スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼを含む溶液中には、スクロースホスホリラーゼとスクロースとの間の相互作用およびグルカンホスホリラーゼとプライマーとの間の相互作用を妨害しない限り、任意の他の物質を含み得る。このような物質の例としては、緩衝剤、スクロースホスホリラーゼを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)の成分、グルカンホスホリラーゼを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)の成分、塩類、培地成分などが挙げられる。
【0211】
<グルカンの製造>
本発明のグルカンは、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを含む反応溶液を反応させる工程により製造される。
【0212】
図1に、本願発明で用いるスクロースからのグルカン合成の概略を示す。スクロースと無機リン酸からスクロースホスホリラーゼを用いて、グルコース−1−リン酸が生成される。生成されたグルコース−1−リン酸および反応溶液に加えたグルコース−1−リン酸は、直ちにグルカンホスホリラーゼにより適切なプライマーに転移され、α−1,4−グルカン鎖が伸長される。また、その際に生成される無機リン酸は、再度スクロースホスホリラーゼの反応にリサイクルされる仕組みになっている。
【0213】
まず、反応溶液を調製する。反応溶液は、例えば、適切な溶媒に、固体状のスクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを添加することにより調製され得る。あるいは、反応溶液は、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、またはグルカンホスホリラーゼをそれぞれ含む溶液を混合することによって調製してもよい。あるいは、反応溶液は、スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼのうちのいくつかの成分を含む溶液に固体状の他の成分を混合することによって調製してもよい。この反応溶液には、酵素反応を阻害しない限り、必要に応じて、pHを調整する目的で任意の緩衝剤を加えてもよい。この反応溶液には、必要に応じて枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を添加してもよい。
【0214】
次いで、反応溶液を、当該分野で公知の方法によって必要に応じて加熱することにより、反応させる。反応温度は、本発明の効果が得られる限り、任意の温度であり得る。反応開始時の反応溶液中のスクロース濃度が約5〜約100%である場合には、反応温度は代表的には、約40℃〜約70℃の温度であり得る。この反応工程における溶液の温度は、所定の反応時間後に反応前のこの溶液に含まれるスクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの少なくとも一方、好ましくは両方の活性の約50%以上、より好ましくは約80%以上の活性が残る温度であることが好ましい。この温度は好ましくは約40℃〜約70℃であり、より好ましくは約45℃〜約70℃、さらにより好ましくは約45℃〜約65℃である。
【0215】
なお、上述した第1の方法の場合、すなわち、反応開始時から反応終了時までの間の反応溶液のスクロース−リン酸比率の最大値が約17以下の場合、反応温度は、上述した範囲よりも低くてもよい。上述した第4の方法の場合、すなわち、反応開始時の反応溶液のスクロース−リン酸比率が約17以下の場合、および上述した第5の方法の場合、すなわち、スクロース、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸を反応溶液に追加する工程を包含する場合も、反応温度は、上述した範囲よりも低くてもよい。例えば、加熱を行わずに室温で反応させてもよい。
【0216】
反応時間は、反応温度、反応により生産されるグルカンの分子量および酵素の残存活性を考慮して、任意の時間で設定され得る。反応時間は、代表的には約1時間〜約100時間、より好ましくは約1時間〜約72時間、さらにより好ましくは約2時間〜約36時間、最も好ましくは約2時間〜約24時間である。
【0217】
加熱は、どのような手段を用いて行ってもよいが、溶液全体に均質に熱が伝わるように、攪拌を行いながら加熱することが好ましい。溶液は、例えば、温水ジャケットと攪拌装置を備えたステンレス製反応タンクの中に入れられて攪拌される。
【0218】
本発明の方法ではまた、反応がある程度進んだ段階で、スクロース、スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの少なくとも1つを反応溶液に追加してもよい。
【0219】
このようにして、グルカンを含有する溶液が生産される。
【0220】
反応終了後、反応溶液は、必要に応じて例えば、100℃にて10分間加熱することによって反応溶液中の酵素を失活させ得る。あるいは、酵素を失活させる処理を行うことなく後の工程を行ってもよい。反応溶液は、そのまま保存されてもよいし、生産されたグルカンを単離するために処理されてもよい。
【0221】
<精製方法>
生産されたグルカンは、必要に応じて精製され得る。精製することにより除去される不純物の例は、フルクトースである。グルカンの精製法の例としては、有機溶媒を用いる方法(T.J.Schochら、J.American Chemical Society,64,2957(1942))および有機溶媒を用いない方法がある。
【0222】
有機溶媒を用いる精製に使用され得る有機溶媒の例としては、アセトン、n−アミルアルコール、ペンタゾール、n−プロピルアルコール、n−ヘキシルアルコール、2−エチル−1−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノール、n−ブチルアルコール、3−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、d,l−ボルネオール、α−テルピネオール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、2−メチル−1−ブタノール、イソアミルアルコール、tert−アミルアルコール、メントール、メタノール、エタノールおよびエーテルが挙げられる。
【0223】
有機溶媒を用いない精製方法の例を、以下に示す。
【0224】
(1)グルカン生産反応後、反応溶液を冷却することによりグルカンを沈澱させ、そして沈澱したグルカンを、膜分画、濾過、遠心分離などの一般的な固液分離方法により精製する方法;
(2)グルカン生産反応の間もしくはグルカン生産反応後に反応溶液を冷却してグルカンをゲル化し、ゲル化したグルカンを回収し、そしてゲル化したグルカンから、フルクトースを、水による洗浄、凍結融解、ろ過などの操作によって除去する方法;ならびに
(3)グルカン生産反応後、水に溶解しているグルカンを沈澱させずに、限外ろ過膜を用いた膜分画もしくはクロマトグラフィーに供してフルクトースを除去する方法。
【0225】
精製に使用され得る限外濾過膜の例としては、分画分子量約1,000〜約100,000、好ましくは約5,000〜約50,000、より好ましくは約10,000〜約30,000の限外濾過膜(ダイセル製UF膜ユニット)が挙げられる。
【0226】
クロマトグラフィーに使用され得る担体の例としては、ゲル濾過クロマトグラフィー用担体、配位子交換クロマトグラフィー用担体、イオン交換クロマトグラフィー用担体および疎水クロマトグラフィー用担体が挙げられる。
【実施例】
【0227】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されない。
【0228】
(1.測定方法および計算方法)
本発明における各種物質は、以下の測定方法によって測定した。
【0229】
(1.1 グルコースの定量)
グルコースを、市販されている測定キットを用いて定量した。グルコースAR−II発色試薬(和光純薬社製)を用いて測定する。
【0230】
(1.2 フルクトースの定量)
フルクトースを、市販されている測定キットを用いて定量した。F−キット D−グルコース/D−フルクトース(ロシュ社製)を用いて測定する。
【0231】
(1.3 グルコース−1−リン酸の定量)
グルコース−1−リン酸を、以下の方法により定量した。300μlの測定試薬(200mM Tris‐HCl(pH7.0)、3mM NADP、15mM 塩化マグネシウム、3mM EDTA、15μMグルコース−1,6−二リン酸、6μg/ml ホスホグルコムターゼ、6μg/ml グルコース−6−リン酸脱水素酵素)に、適切に希釈したグルコース−1−リン酸を含む溶液600μlを加えて攪拌し、反応系を得る。この反応系を、30℃で30分間保持した後、分光光度計を用いて340nmでの吸光度を測定する。濃度既知のグルコース−1−リン酸ナトリウムを用いて同様に吸光度を測定し、標準曲線を作成する。この標準曲線に試料で得られた吸光度を当てはめ、試料中のグルコース−1−リン酸濃度を求める。通常は、1分間に1μmolのグルコース−1−リン酸を生成する活性を1単位とする。この定量法では、グルコース−1−リン酸のみが定量され、無機リン酸の量は定量されない。
【0232】
(1.4 無機リン酸の定量)
無機リン酸を、リン酸イオンとして以下の方法により求めた。無機リン酸を含む溶液(200μl)に対し、800μlのモリブデン試薬(15mM モリブデン酸アンモニウム、100mM 酢酸亜鉛)を混合し、続いて200μlの568mMアスコルビン酸(pH5.0)を加えて攪拌し、反応系を得る。この反応系を、30℃で20分間保持した後、分光光度計を用いて850nmでの吸光度を測定する。濃度既知の無機リン酸を用いて同様に吸光度を測定し、標準曲線を作成する。この標準曲線に試料で得られた吸光度を当てはめ、試料中の無機リン酸を求める。この定量法では、無機リン酸の量が定量され、グルコース−1−リン酸の量は定量されない。
【0233】
(1.5 グルカンの収量の計算方法)
出発物質として無機リン酸を用いて製造したグルカンの収量は、反応終了後の溶液中の、グルコース、フルクトース、およびグルコース−1−リン酸の量から、以下の式により求められる。
【0234】
【化3】
この式は、以下の原理に基づく。
【0235】
本発明の方法では、まず、以下の式の反応(A)が起き得る。
【0236】
【化4】
この反応は、スクロースホスホリラーゼにより触媒される。この反応では、スクロースと無機リン酸とが反応して、同じモル量のグルコース−1−リン酸とフルクトースとが生じる。生じたフルクトースはそれ以上他の物質と反応しないので、フルクトースのモル量を測定することによって生じたグルコース−1−リン酸のモル量がわかる。
【0237】
スクロースホスホリラーゼは、上記の反応(A)の他に、以下の反応(B)のスクロースの加水分解も副反応として触媒し得る。
【0238】
【化5】
グルカンに取り込まれたグルコース量は以下によって計算される。
【0239】
【化6】
反応(B)で生成するフルクトースを考慮すると、反応Aにより生成されたフルクトースの量は、以下によって算出される:
【0240】
【化7】
したがって、グルカンの収量は、以下の式により求められる。
【0241】
【化8】
出発物質として、グルコース−1−リン酸を用いて製造したグルカンの収量は、初発のグルコース−1−リン酸の量、ならびに反応終了後の溶液中のグルコース、フルクトースおよびグルコース−1−リン酸の量から、以下の式により求められる。
【0242】
【化9】
この式は以下の原理に基づく。
【0243】
反応溶液中では、初発のグルコース−1−リン酸に加えて、反応Aによって、グルコース−1−リン酸が生成される。つまり、初発のグルコース−1−リン酸と生成されたグルコース−1−リン酸とが、グルカンの合成に使われ得る。グルカンの合成に使われ得るグルコース−1−リン酸の量から、反応終了後に反応溶液に残存するグルコース−1−リン酸の量を差し引くことによって、反応に使用されたグルコース−1−リン酸の量、すなわち、グルカンに取り込まれたグルコースの量を算出できる。したがって、グルカンに取り込まれたグルコースの量を上記に示す式により求められる。なお、この式は、SP−GP反応系において出発材料として無機リン酸とグルコース−1−リン酸とを併用した場合にも適用できる。
【0244】
(1.6 グルカンの収率)
出発物質として無機リン酸を用いて製造した場合のグルカンの収率は、以下の式によって求められる。
【0245】
【化10】
出発物質としてグルコース−1−リン酸を用いて製造した場合のグルカンの収率は、以下の式によって求められる。
【0246】
【化11】
なお、この式は、SP−GP反応系において出発材料として無機リン酸とグルコース−1−リン酸とを併用した場合にも適用できる。
【0247】
(1.7 グルカンホスホリラーゼの活性測定)
グルカンホスホリラーゼの活性単位を、以下の方法により測定した。
【0248】
50μlの4%クラスターデキストリン水溶液と50μlの50mMグルコース−1−リン酸ナトリウム水溶液とを混合し、さらに適切に希釈した酵素液100μlを加えて反応を開始させる。混合物を37℃で15分間反応させた後、20%SDSを10μl加え、反応を停止する。その後、反応溶液中の無機リン酸の量を上記1.4に記載の方法により定量する。この方法により、1分間に1μmolの無機リン酸を生成する活性を1単位とする。ただし、Thermus aquaticus グルカンホスホリラーゼは37℃の代わりに50℃で反応させて活性を測定する。
【0249】
(1.8 スクロースホスホリラーゼの活性測定)
スクロースホスホリラーゼの活性単位を、以下の方法により求めた。
【0250】
25μlの10%スクロースと20μlの500mM リン酸緩衝液(pH7.0)とを混合する。この混合液に、不溶性タンパク質を除去した適切に希釈した酵素液を5μl加えて攪拌し、反応系を得る。この反応系を37℃で20分間反応させた後、100℃で5分間加熱し反応を停止させる。その後、反応後の溶液中のグルコース−1−リン酸を定量する。通常は、1分間に1μmolのグルコース−1−リン酸を生成する活性を1単位とする。
【0251】
(2.酵素の調製)
本発明の実施例で用いた各種酵素は、以下の方法によって調製した。
【0252】
(2.1 馬鈴薯塊茎由来グルカンホスホリラーゼの調製方法)
市販されている馬鈴薯塊茎1.4kgの皮をむく。皮をむいた塊茎をジューサーですりつぶしてすりつぶし液を得る。次いで、このすりつぶし液をガーゼで濾過して濾液を得る。濾液に、Tris緩衝液(pH7.0)を最終濃度100mMになるように加えて、酵素液を得る。この酵素液を、55℃の水浴中で、液温が50℃に達してからさらに10分間加熱する。加熱後、この酵素液を、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−25I)を用いて、8,500rpmにて、20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去し、上清を得る。
【0253】
得られた遠心上清に、硫酸アンモニウムを100g/Lになるように加えてから、4℃にて2時間放置し、タンパク質を沈澱させる。次いで、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−25I)を用いて、8,500rpmにて20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去し、上清を得る。さらに、得られた上清に硫酸アンモニウムを最終濃度250g/Lになるように加えてから、4℃にて2時間放置し、タンパク質を沈澱させる。次いで、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−25I)を用いて、8,500rpm、20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質を回収する。
【0254】
回収された不溶性のタンパク質を25mM Tris緩衝液(pH7.0)150mlで懸濁する。懸濁した酵素液を同じ緩衝液に対して一晩透析する。透析後のサンプルを、あらかじめ平衡化しておいた陰イオン交換樹脂Q−Sepharose(ファルマシア社製)に吸着させ、200mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で洗浄する。続いて、400mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で溶出させ、溶出液を回収し、部分精製馬鈴薯塊茎由来グルカンホスホリラーゼ含有溶液とする。
【0255】
購入した馬鈴薯によっては、この段階で本発明に使用し得るグルカンホスホリラーゼ含有溶液になるが、さらなる精製を必要とすることが多い。必要に応じて、Sephacryl S−200HR(ファルマシア社製)などを用いたゲルフィルトレーションクロマトグラフィーによる分画、Phenyl−TOYOPEARL 650M(東ソー社製)などを用いた疎水クロマトグラフィーによる分画を組み合わせることにより、精製馬鈴薯グルカンホスホリラーゼ含有溶液を得ることができる。
【0256】
(2.2 組換え馬鈴薯グルカンホスホリラーゼの調製方法)
馬鈴薯グルカンホスホリラーゼ遺伝子(Nakanoら、Journal of Biochemistry(Tokyo)106(1989)691)を選択マーカー遺伝子Amprとともに発現ベクターpET34(STRATAGENE社製)に組み込み、プラスミドpET−PGP113を得た。このプラスミドでは、グルカンホスホリラーゼ遺伝子を、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導性プロモーターの制御下に作動可能に連結した。このプラスミドを、大腸菌TG−1(STRATAGENE社製)に、コンピテントセル法により導入した。この大腸菌を、抗生物質アンピシリンを含むLB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス(ともにDifco社製)、1%塩化ナトリウム、1.5%寒天))を含むプレートにプレーティングして、37℃で一晩培養した。このプレート上で増殖した大腸菌を選択することにより、馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼ遺伝子が導入された大腸菌を得た。得られた大腸菌がグルカンホスホリラーゼ遺伝子を含むことを、導入された遺伝子の配列を解析することによって確認した。また、得られた大腸菌がグルカンホスホリラーゼを発現していることを、活性測定によって確認した。
【0257】
この大腸菌を、抗生物質アンピシリンを含むLB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス(ともにDifco社製)、1%塩化ナトリウム)1リットルに接種し、120rpmで振盪させながら37℃で3時間振盪培養した。その後、IPTGを0.1mM、ピリドキシンを1mMになるようにそれぞれこの培地に添加し、22℃でさらに20時間振盪培養した。次いで、この培養液を5,000rpmにて5分間遠心分離して、大腸菌の菌体を収集した。得られた菌体を、50mlの0.05%のTritonX−100を含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)中に懸濁し、次いで超音波処理により破砕し、菌体破砕液50mlを得た。この破砕液中には、4.7U/mgのグルカンホスホリラーゼが含まれていた。
【0258】
この菌体破砕液を、55℃で30分間加熱する。加熱後、8,500rpmにて20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去して上清を得る。得られた上清を、あらかじめ平衡化しておいた陰イオン交換樹脂Q−Sepharoseに流してグルカンホスホリラーゼを樹脂に吸着させた。樹脂を、200mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で洗浄して不純物を除去した。続いて、タンパク質を300mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で溶出させ、組換えグルカンホスホリラーゼ酵素溶液とした。
【0259】
(2.3 Thermus aquaticusグルカンホスホリラーゼの調製方法)
鷹羽ら(J.Appl.Glycosci.,48(1)(2001)71)の方法により調製した酵素をThermus aquaticusグルカンホスホリラーゼとする。
【0260】
(2.4 組換えThermus aquaticusグルカンホスホリラーゼの調製方法)
Thermus aquaticusグルカンホスホリラーゼ遺伝子(J.Appl.Glycosci.,48(1)(2001)71)を、選択マーカー遺伝子AmprおよびTetrとともにpKK388−1(CLONTECH社製)に組み込み、プラスミドpKK388−GPを得た。このプラスミドでは、グルカンスホリラーゼ遺伝子を、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導性プロモーターの制御下に作動可能に連結した。このプラスミドを、大腸菌MC1061(ファルマシア社製)に、コンピテントセル法により導入した。この大腸菌を、抗生物質アンピシリンおよびIPTGを含むLB培地を含むプレートにプレーティングして、37℃で一晩培養した。このプレート上で増殖した大腸菌を選択することにより、グルカンホスホリラーゼ遺伝子が導入された大腸菌を得た。得られた大腸菌がグルカンホスホリラーゼ遺伝子を含むことを、導入された遺伝子の配列を解析することによって確認した。また、得られた大腸菌がグルカンホスホリラーゼを発現していることを、活性測定によって確認した。
【0261】
この大腸菌を、抗生物質アンピシリンを含むLB培地1リットルに接種し、120rpmで振盪させながら37℃で4〜5時間振盪培養した。その後、IPTGを0.01mMになるようにこの培地に添加し、37℃でさらに20時間振盪培養した。次いで、この培養液を5,000rpmにて5分間遠心分離して、大腸菌の菌体を収集した。
【0262】
得られた菌体を、50mlの20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)中に懸濁し、次いで超音波処理により破砕し、菌体破砕液50mlを得た。この破砕液中には、4.2U/mgのグルカンホスホリラーゼが含まれていた。
【0263】
次いで、菌体破砕液を70℃で30分間加熱した。加熱後、この菌体破砕液を、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−25I)を用いて8,500rpm、20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去し、上清を得た。得られた上清を、組換えThermus aquaticusグルカンホスホリラーゼ溶液とした。
【0264】
(2.5 組換えStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼの調製方法)
Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼ遺伝子(Ferretti,J.Jら、Ingbritt.Infect.Immun.56:1585−88)を、選択マーカー遺伝子AmprおよびTetrとともにpKK388−1に組み込み、プラスミドpKK388−SMSPを得た。このプラスミドでは、スクロースホスホリラーゼ遺伝子を、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導性プロモーターの制御下に作動可能に連結した。このプラスミドを、大腸菌TG−1(STRATAGENE社製)に、コンピテントセル法により導入した。この大腸菌を、抗生物質アンピシリンおよびIPTGを含むLB培地を含むプレートにプレーティングして、37℃で一晩培養した。このプレート上で増殖した大腸菌を選択することにより、スクロースホスホリラーゼ遺伝子が導入された大腸菌を得た。得られた大腸菌がスクロースホスホリラーゼ遺伝子を含むことを、導入された遺伝子の配列を解析することによって確認した。また、得られた大腸菌がスクロースホスホリラーゼを発現していることを、活性測定によって確認した。
【0265】
この大腸菌を、抗生物質アンピシリンおよびテトラサイクリンを含むLB培地1リットルに接種し、120rpmで振盪させながら37℃で6〜7時間振盪培養した。その後、IPTGを0.04mMになるようにこの培地に添加し、30℃でさらに18時間振盪培養した。次いで、この培養液を5,000rpmにて5分間遠心分離して、大腸菌の菌体を収集した。得られた菌体を、50mlの20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)中に懸濁し、次いで超音波処理により破砕し、菌体破砕液50mlを得た。この破砕液中には、10U/mgのスクロースホスホリラーゼが含まれていた。
【0266】
次いで、菌体破砕液にスクロースを加えて、10%スクロースを含む菌体破砕液を得た。この菌体破砕液を、55℃の水浴中で30分間加熱した。加熱後、この菌体破砕液を、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−25I)を用いて8,500rpmにて20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去し、上清を得た。得られた上清を、あらかじめ平衡化しておいた陰イオン交換樹脂Q−Sepharoseに流してスクロースホスホリラーゼを樹脂に吸着させた。樹脂を、100mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で洗浄して不純物を除去した。続いて、300mM塩化ナトリウムを含む緩衝液でスクロースホスホリラーゼを溶出させ、組換えStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼ酵素液とした。
【0267】
(2.6 組換えBacillus stearothermophilus グルカンホスホリラーゼの調製)
高田ら(J.Ferment.Bioeng.,85(2),156(1998)の方法により調製した酵素を、組換えBacillus stearothermophilus グルカンホスホリラーゼとする。
【0268】
(3.グルカンの分子量の測定)
本発明で合成したグルカンの分子量を以下の方法により測定した。
【0269】
本発明で合成したグルカンを1N水酸化ナトリウムで完全に溶解し、適当量の塩酸で中和した後、グルカン約300μg分を、示差屈折計と多角度光散乱検出器を併用したゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより平均分子量を求めた。
【0270】
詳しくは、カラムとしてShodex SB806M−HQ(昭和電工製)を用い、検出器としては多角度光散乱検出器(DAWN−DSP、Wyatt Technology社製)および示差屈折計(Shodex RI−71、昭和電工製)をこの順序で連結して用いた。カラムを40℃に保ち、溶離液としては0.1M硝酸ナトリウム溶液を流速1mL/分で用いた。得られたシグナルを、データ解析ソフトウェア(商品名ASTRA、Wyatt Technology社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析することにより、重量平均分子量を求めた。
【0271】
(比較例0−1および0−2:37℃の反応温度と45℃の反応温度とでの収率の比較)
比較例0−1および0−2で用いた反応溶液の反応開始時の組成を以下の表1に示す。
【0272】
【表1】
詳細には、スクロース、無機リン酸、Leuconostoc mesenteroides スクロースホスホリラーゼ(オリエンタル酵母社製)、上記2.1で調製した馬鈴薯塊茎由来グルカンホスホリラーゼ、およびマルトヘプタオースを、100mMクエン酸緩衝液(pH7.0)中に溶解して、4%スクロース、20mM無機リン酸、10U/g スクロースのLeuconostoc mesenteroides スクロースホスホリラーゼ、10U/g スクロースの馬鈴薯塊茎由来グルカンホスホリラーゼおよび2mMマルトヘプタオースの溶液を得た。この溶液を、37℃(比較例0−1)または45℃(比較例0−2)で18時間反応させて、アミロースを合成した。反応液量は1mlであった。
【0273】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図2に示す。
【0274】
本明細書では、Leuconostoc mesenteroides スクロースホスホリラーゼ(オリエンタル酵母社より購入)、馬鈴薯塊茎由来のグルカンホスホリラーゼ、4%スクロースを用いて37℃でアミロースを製造する方法を、従来法という。
【0275】
図2に示すように、37℃で反応させた場合のアミロースの収率は79%であったのに対し、45℃で反応させた場合、アミロースの収率は33.8%と低かった。
【0276】
このように、従来法の基質濃度のままでは高温でのアミロース製造は工業的に不利であった。使用したLeuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼの至適温度は37℃付近である。それゆえ、この酵素は耐熱性が低いと考えられる。高温でのアミロースの収率が低い原因は、酵素の耐熱性が低いことであると考えられる。
【0277】
(実施例1−1〜1−5および比較例1−1:種々のスクロース濃度および高反応温度でのアミロース合成)
以下の表2に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0278】
【表2】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図3に示す。
【0279】
スクロース濃度を従来法の4%(比較例1−1)から8%以上(実施例1−1〜1−5)に引き上げることによって45℃での反応が可能になり、アミロースの収率が増加した。
【0280】
詳しくは、上述の条件で、基質間の割合(すなわち、スクロースとマルトヘプタオースと無機リン酸との割合)および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、アミロースの収率が増加した。図3に示すように、スクロース濃度8%にて45℃での収率は76.4%となった。これはスクロース濃度4%、45℃での収率の2倍以上であり、従来法とほぼ同等の収率が得られた。スクロース濃度を15%以上にするとほぼ100%のアミロースの収率が得られた。このように、45℃でのスクロースからのアミロース合成は、スクロース濃度が低いと収率が低く、効率も悪いが、スクロース濃度を高くすることにより、45℃での工業的な製造が可能になった。
【0281】
(実施例2−1〜2−5および比較例2−1〜2−7:低酵素量でのアミロース合成)
以下の表3に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0282】
【表3】
詳しくは、実施例2−1〜2−5および比較例2−1〜2−7では、酵素量を比較例1−1および実施例1−1〜1−5の半分にし、37℃と45℃とで反応を行った以外は、それぞれ比較例1−1および実施例1−1〜1−5と同様にアミロースの合成を行なった。
【0283】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図4に示す。
【0284】
スクロース濃度15%以上において、45℃での反応におけるアミロースの収率は、37℃での反応に比べて同等以上であった。
【0285】
図4に示すように、この条件において従来法では、60%程度のアミロース収率だったのに対し、スクロース濃度4%にて45℃での反応では、22.1%と低い収率であった。しかし、基質間の割合(すなわち、スクロースとマルトヘプタオースと無機リン酸との割合)および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、45℃の反応におけるアミロースの収率が増加した。スクロース濃度15%以上にて45℃での反応では、37℃での反応より高いアミロース収率が得られた。このように、15%以上のスクロース濃度で反応させることで、45℃で反応できるだけでなく、37℃での反応に比べて、高い生産性が実現されるようになった。
【0286】
(実施例3−1−1〜3−2−5ならびに比較例3−1−1および3−2−1:耐熱性スクロースホスホリラーゼを用いたアミロースの合成)
以下の表4に示す組成の反応混合物(反応開始時)を用いてアミロース合成を行った。
【0287】
【表4】
詳しくは、Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼの代わりに上記2.5で得られたStreptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼを10U/gスクロースの活性単位で用い、グルカンホスホリラーゼを10U/gスクロースの活性単位で用い、酵素反応を45℃または50℃で行った以外は、比較例2−1および実施例2−1〜2−5と同様に比較例3−1−1および3−2−1、ならびに実施例3−1−1〜3−2−5のアミロースの合成を行なった。
【0288】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図5に示す。
【0289】
スクロースホスホリラーゼを、従来法で用いられるLeuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼから、Streptococcus
mutans由来のスクロースホスホリラーゼに変更した場合も、45℃の反応温度でアミロースを製造できた。
【0290】
さらに、スクロースホスホリラーゼを従来法のLeuconostoc mesenteroides由来のものから、Streptococcus mutans由来のものに変更し、かつスクロース濃度を4%から8%以上に引き上げることで50℃での効率の高い反応が可能になり、アミロースの収率が増加した。
【0291】
反応温度を45℃に設定したところ、図5に示すように、スクロース濃度4%では、アミロースの収率は97.4%であった。さらに、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やしても、アミロースの収率は高いレベルで一定であった。このようにスクロースホスホリラーゼをStreptococcus mutans 由来のスクロースホスホリラーゼにすることにより、45℃でのアミロースの効率の高い製造が可能になった。
【0292】
また、反応温度を50℃に設定したところ、図5に示すように、スクロース濃度4%では、アミロースの収率は21.8%と低かった。しかし、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、アミロースの収率が増加した。スクロース濃度8%での収率は55.4%とスクロース濃度4%での収率の2倍以上になり、スクロース濃度15%以上にするとほぼ100%のアミロースの収率が得られた。このように、4%スクロースでの50℃でのアミロース合成は、収率が低く、効率も悪かったが、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼを使用し、スクロース濃度を高くすることにより、50℃でのアミロースの効率の高い製造が可能になった。
【0293】
(実施例4−1−1〜4−2−5、ならびに比較例4−1−1および4−2−1:低酵素量で耐熱性スクロースホスホリラーゼを用いたアミロースの合成)
以下の表5に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0294】
【表5】
詳しくは、酵素量を比較例3−1−1、3−2−1、および実施例3−1−1〜3−2−5の半分にした以外は、比較例3−1−1、3−2−1、および実施例3−1−1〜3−2−5と同様にアミロースの合成を行なった。
【0295】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図6に示す。
【0296】
スクロースホスホリラーゼを従来法のLeuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼから、Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼに変更し、酵素量を従来法の半分にした場合、スクロース濃度が15%以上での反応において、50℃での反応におけるアミロースの収率は、45℃での反応に比べて同等以上であった。
【0297】
図6に示すように、スクロース濃度4%にて45℃での反応では、50%程度のアミロース収率だったのに対し、スクロース濃度4%にて50℃での反応では、9.2%と低い収率であった。しかし、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、50℃の反応におけるアミロースの収率が増加した。スクロース濃度15%以上にて50℃での反応では、45℃での反応より高いアミロース収率が得られた。このように、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼを使用し、スクロース濃度を15%以上で反応させることで、50℃で反応できるだけでなく45℃での反応に比べて、高い生産性が実現されるようになった。
【0298】
(実施例5−1〜5−5および比較例5−1:Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼおよび高度好熱細菌由来のグルカンホスホリラーゼを用いたアミロースの合成)
以下の表6に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0299】
【表6】
詳しくは、馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼの代わりに、Thermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いた以外は、比較例1−1、および実施例1−1〜1−5と同様にアミロースの合成を行なった。
【0300】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図7に示す。
【0301】
Thermus aquaticus由来のグルカンホスホリラーゼを用い、スクロース濃度を従来法の4%から8%以上に引き上げることによって45℃での反応が可能になり、アミロースの収率が増加した。
【0302】
詳しくは、上述の条件で、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、アミロースの収率が増加した。図7に示すように、スクロース濃度4%、45℃での収率は28.0%であったのに対し、スクロース濃度8%にて45℃での収率は69.0%であった。さらに、スクロース濃度を15%以上にするとほぼ100%のアミロースの収率が得られた。このように、馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼの代わりに、高度好熱細菌Thermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いることで、45℃でのアミロースの製造が可能であることを確認した。
【0303】
(実施例6−1〜6−5および比較例6−1〜6−7:Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼおよび高度好熱細菌由来のグルカンホスホリラーゼを用いた低酵素量でのアミロース合成)
以下の表7に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0304】
【表7】
詳しくは、実施例6−1〜6−5および比較例6−1〜6−7では、酵素量を実施例5−1〜5−5および比較例5−1の半分にし、37℃と45℃とで反応を行った以外は、実施例5−1〜5−5および比較例5−1と同様にアミロースの合成を行なった。
【0305】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図8に示す。
【0306】
Thermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いた場合、スクロース濃度15%以上において、45℃での反応におけるアミロースの収率は、37℃での反応に比べて優れていた。
【0307】
図8に示すように、この条件において従来法では、34.2%のアミロース収率だったのに対し、スクロース濃度4%にて45℃での反応では、15.6%と低い収率であった。しかし、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、45℃の反応におけるアミロースの収率が増加した。スクロース濃度15%以上にて45℃での反応では、37℃での反応より高いアミロース収率が得られた。このように、馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼの代わりに、高度好熱細菌Thermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用い、15%以上のスクロース濃度で反応させることで、45℃で反応できるだけでなく、37℃での反応に比べて、高い生産性が実現されるようになった。
【0308】
(実施例7−1〜7−5ならびに比較例7−1:Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼおよび高度好熱細菌由来のグルカンホスホリラーゼを用いたアミロースの合成)
以下の表8に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0309】
【表8】
詳しくは、馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼの代わりに上記2.4で得られたThermus aquaticus由来のグルカンホスホリラーゼを用いた以外は、比較例3−2−1および実施例3−2−1〜3−2−5と同様に比較例7−1および実施例7−1〜7−5のアミロースの合成を行なった。
【0310】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図9に示す。
【0311】
スクロースホスホリラーゼを、従来法で用いられるLeuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼから、Streptococcus
mutans由来のスクロースホスホリラーゼに、馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼをThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼにそれぞれ変更し、かつスクロース濃度を4%から8%以上に引き上げることで50℃での反応が可能になり、アミロースの収率が増加した。
【0312】
詳しくは、上述の条件で、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%に増やすことにより、アミロースの収率は増加した。図9に示すように、スクロース濃度4%、50℃での収率は56.2%であったがスクロース濃度8%、50℃での収率は78.4%であり、スクロース濃度を15%にするとほぼ100%のアミロースの収率が得られた。このようにスクロースホスホリラーゼをStreptococcus
mutans由来のスクロースホスホリラーゼに、グルカンホスホリラーゼをThermus aquaticus由来のグルカンホスホリラーゼにすることにより、50℃でのアミロースの製造が可能になった。
【0313】
(実施例8−1−1〜8−2−5、ならびに比較例8−1−1および8−2−1:Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼおよび高度好熱細菌由来のグルカンホスホリラーゼを用いた低酵素量でのアミロースの合成)
以下の表9に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0314】
【表9】
詳しくは、酵素量を比較例7−1、および実施例7−1〜7−5の半分にし、反応温度を45℃と50℃にした以外は、比較例7−1、および実施例7−1〜7−5と同様にアミロースの合成を行なった。
【0315】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図10に示す。
【0316】
スクロースホスホリラーゼを、従来法で用いられるLeuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼから、Streptococcus
mutans由来のスクロースホスホリラーゼに、馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼをThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼにそれぞれ変更し、酵素量を従来法の半分にした場合、スクロース濃度を15%以上での反応において、50℃での反応におけるアミロースの収率は、45℃での反応に比べて優れていた。
【0317】
図10に示すように、スクロース濃度4%にて45℃での反応では、48.9%のアミロース収率だったのに対し、スクロース濃度4%にて50℃での反応では、21.5%と低い収率であった。しかし、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、50℃の反応におけるアミロースの収率が増加した。スクロース濃度15%以上にて50℃での反応では、45℃での反応より高いアミロース収率が得られた。このように、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよびThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを使用し、スクロース濃度を15%以上で反応させることで、50℃で反応できるだけでなく45℃での反応に比べて、高い生産性が実現されるようになった。
【0318】
(実施例9−1〜9−5および比較例9−1:Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼおよびBacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを用いたアミロースの合成)
以下の表10に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0319】
【表10】
詳しくは、Thermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼの代わりにBacillus stearothermophilus由来グルカンホスホリラーゼを用いた以外は、比較例5−1および実施例5−1〜5−5と同様にアミロースの合成を行なった。
【0320】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図11に示す。
【0321】
Bacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを用い、スクロース濃度を従来法の4%から8%以上に引き上げることによって45℃での反応が可能になり、アミロースの収率が増加した。
【0322】
詳しくは、上述の条件で、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、アミロースの収率が増加した。図11に示すように、スクロース濃度4%、45℃での収率は40.7%であったのに対し、スクロース濃度8%にて45℃での収率は70.6%であった。さらに、スクロース濃度を15%以上にすると約90%のアミロースの収率が得られた。このように、馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼの代わりに、Bacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを用いることで、45℃でのアミロース合成が可能であることを確認した。
【0323】
(実施例10−1〜10−5および比較例10−1〜10−7:Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼおよびBacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを用いた低酵素量でのアミロース合成)
以下の表11に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0324】
【表11】
詳しくは、実施例10−1〜10−5および比較例10−1〜10−7では、酵素量を比較例9−1および実施例9−1〜9−5の半分にし、37℃と45℃とで反応を行った以外は、それぞれ比較例9−1および実施例9−1〜9−5と同様にアミロースの合成を行なった。
【0325】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図12に示す。
【0326】
Bacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを用いた場合、スクロース濃度15%以上において、45℃での反応におけるアミロースの収率は、37℃での反応に比べて同等以上であった。
【0327】
図12に示すように、この条件において従来法では、60.2%のアミロース収率だったのに対し、スクロース濃度4%にて45℃での反応では、22.1%と低い収率であった。しかし、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、45℃の反応におけるアミロースの収率が増加した。スクロース濃度15%以上にて45℃での反応では、37℃での反応より高いアミロース収率が得られた。このように、馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼの代わりに、Bacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを用い、15%以上のスクロース濃度で反応させることで、45℃で反応できるだけでなく、37℃での反応に比べて、高い生産性が実現されるようになった。
【0328】
(実施例11−1〜11−5ならびに比較例11−1:Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼおよびBacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを用いたアミロースの合成)
以下の表12に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0329】
【表12】
詳しくは、Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼの代わりに、上記2.5で得られたStreptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼを用い、酵素反応を50℃で行った以外は、比較例9−1および実施例9−1〜9−5と同様に比較例11−1および実施例11−1〜11−5のアミロースの合成を行なった。
【0330】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図13に示す。
【0331】
スクロースホスホリラーゼを、従来法で用いられるLeuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼから、Streptococcus
mutans由来のスクロースホスホリラーゼに、馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼをBacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼにそれぞれ変更し、かつスクロース濃度を4%から8%以上に引き上げることで、50℃での反応が可能になり、アミロースの収率が増加した。
【0332】
詳しくは、上述の条件で、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%に増やすことにより、アミロースの収率は増加した。図13に示すように、スクロース濃度4%、50℃での収率は39.1%であったがスクロース濃度8%、50℃での収率は70.4%であり、スクロース濃度を15%にすると90%以上のアミロースの収率が得られた。このようにスクロースホスホリラーゼをStreptococcus
mutans 由来のスクロースホスホリラーゼに、グルカンホスホリラーゼをBacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼにすることにより、50℃でのアミロースの製造が可能になった。
【0333】
(実施例12−1−1〜12−2−5、ならびに比較例12−1−1および12−2−1:Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼおよびBacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを用いた低酵素量でのアミロースの合成)
以下の表13に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0334】
【表13】
詳しくは、酵素量を比較例11−1および実施例11−1〜11−5の半分にし、反応温度を45℃と50℃にした以外は、比較例11−1および実施例11−1〜11−5と同様にアミロースの合成を行なった。
【0335】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図14に示す。
【0336】
スクロースホスホリラーゼを、従来法で用いられるLeuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼから、Streptococcus
mutans由来のスクロースホスホリラーゼに、馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼをBacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼにそれぞれ変更し、酵素量を従来法の半分にした場合、スクロース濃度を15%以上での反応において、50℃での反応におけるアミロースの収率は、45℃での反応に比べて優れていた。
【0337】
図14に示すように、スクロース濃度4%にて45℃での反応では、32.9%のアミロース収率だったのに対し、スクロース濃度4%にて50℃での反応では、19.6%と低い収率であった。しかし、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、50℃の反応におけるアミロースの収率が増加した。スクロース濃度15%以上にて50℃での反応では、45℃での反応より高いアミロース収率が得られた。このように、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよび、Bacillus stearothermophilus由来のグルカンホスホリラーゼを使用し、15%以上のスクロース濃度で反応させることで、50℃で反応できるだけでなく45℃での反応に比べて、高い生産性が実現されるようになった。
【0338】
(実施例13:高温度条件下でのアミロース合成)
以下の表14に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロースの合成を行なった。
【0339】
【表14】
詳しくは、酵素量を比較例3−1−1の5倍にし、反応温度を65℃で行なった以外は比較例3−1−1と同様に比較例13−1のアミロースの合成を行なった。比較例3−1−1の基質間の割合と酵素量を変えずに、スクロース濃度を50%に増やすことにより、実施例13−1のアミロースの合成を行なった。さらに、比較例13−1および実施例13−1の馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼの代わりに上記2.4で調製したThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いて、比較例13−2および実施例13−2のアミロースの合成を行なった。
【0340】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図15に示す。
【0341】
従来法では、いずれのグルカンホスホリラーゼを用いた場合でも、65℃の反応では全くアミロースは合成されなかった。スクロース濃度をあげることにより65℃でのアミロースの製造が可能になった。
【0342】
(実施例14:マルトテトラオースをプライマーとしたアミロースの製造)
上記実施例では、アミロース製造のプライマーにはマルトヘプタオースを利用している。しかし、純度の高いマルトオリゴ糖は高価であり、産業利用できるほど流通していない。安価なマルトオリゴ糖として、マルトテトラオース含有シラップがある。しかし、このシラップには、プライマーとして機能し得ないと考えられている、グルコース、マルトース、およびマルトトリオースなどが含まれている。さらに、マルトテトラオースは、マルトヘプタオースに比べ、グルカンホスホリラーゼに対する親和性が低い。このようなシラップを用いてグルカンの合成反応ができるかどうかは不明であり、このような研究も報告されていない。そこで、本発明者らは、マルトヘプタオースの代わりにマルトテトラオース含有シラップを用いてもアミロースを合成できるか検討した。
【0343】
詳しくは、マルトテトラオース含有量が70%以上である、テトラップH(林原商事)を用いた以外は実施例7−2と同様にして、アミロースを合成した。その結果、テトラップHを用いても高分子量アミロースが製造されることが確認された。
【0344】
(実施例15:膜ろ過を用いたアミロースの精製)
2%スクロース、10mM無機リン酸、50U/gスクロースのLeuconostoc mesenteroidesスクロースホスホリラーゼ(オリエンタル酵母社製)、50U/gスクロースの上記2.2で調製した組換え馬鈴薯塊茎由来グルカンホスホリラーゼ、およびプライマーとしてマルトヘプタオースを用いて、37℃にて18時間、アミロースを合成した。反応液量は2000mlとした。
【0345】
反応後のアミロース溶液2000mlを、分画分子量30,000の限外濾過膜(ダイセル製UF膜ユニット)を用いて、1200mlまで濃縮した。その後、10Lの蒸留水に対してダイアフィルトレーションを行った後、蒸留水を加えて2000mlとした。膜濾過の前後における、フルクトースの含有量およびアミロースの重量平均分子量を測定した。結果を表15に示す。
【0346】
【表15】
表15に示すように、限外濾過膜を用いてアミロースを精製することで、反応溶液中に大量に存在するフルクトースを除去できることが確認された。膜濾過の前後で、アミロースの重量平均分子量が大きくは変わらないことが確認された。
【0347】
このように、限外濾過膜を利用してアミロースを精製することによって、従来アミロースの精製に使用されていた多くの有機溶媒、例えば、ブタノール、メタノール、エタノール、エーテルなどを使用することなくアミロースの精製を行うことが可能になった。
【0348】
(実施例16−1〜16−7および比較例16−1:Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼおよび馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼを用い、スクロース濃度と無機リン酸濃度との比を変えた場合のアミロースの合成)
以下の表16に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0349】
【表16】
詳しくは、スクロース、無機リン酸、Leuconostoc mesenteroidesスクロースホスホリラーゼ、上記2.1で調製した馬鈴薯塊茎由来グルカンホスホリラーゼおよびマルトヘプタオースを、100mMクエン酸緩衝液(pH7.0)中に溶解して、125mMスクロース、20U/g スクロースのLeuconostoc mesenteroidesスクロースホスホリラーゼ、20U/gスクロースの馬鈴薯塊茎由来グルカンホスホリラーゼ、0.35mMマルトヘプタオース、7.2mM無機リン酸(比較例16−1)、または10〜125mM無機リン酸(実施例16−1〜16−7)の溶液を得た。この溶液を37℃で4時間反応させてアミロースを合成した。反応液量は1mlであった。
【0350】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図16に示す。
【0351】
図16に示すように、125mMスクロースに対して無機リン酸を7.2mM加えて反応させた場合、アミロースの収率は20.1%と低かったが、125mMスクロースに対して無機リン酸を10mM以上加えて反応させた場合、収率を高めることでき、さらに、125mMスクロースに対して無機リン酸を20〜75mM加えた場合、40%以上の収率が得られた。
【0352】
(実施例17−1〜17−7および比較例17−1:Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼおよび馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼを用い、スクロース濃度と無機リン酸濃度との比を変えた場合のアミロースの合成)
以下の表17に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてアミロース合成を行った。
【0353】
【表17】
詳しくは、実施例17−1〜17−7および比較例17−1は、Leuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼの代わりにStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼを用い、反応温度を45℃とした以外は、実施例16−1〜16−7および比較例17−1と同様にしてアミロースを合成した。
【0354】
反応後、合成されたアミロースの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図17に示す。
【0355】
図17に示すように、125mMスクロースに対して無機リン酸を7.2mM加えて反応させた場合、アミロースの収率は26.7%と低かったが、125mMスクロースに対して無機リン酸を10mM以上加えて反応させた場合、収率を高めることでき、さらに、125mMスクロースに対して無機リン酸を20〜75mM加えて反応させた場合、50〜60%以上の収率が得られた。
【0356】
このように、従来法のスクロース−リン酸比率のままでは、生産性が高くなく工業的生産において不利であったが、スクロース−リン酸比率を一定範囲内にすることで、2倍近い生産性の向上が実現できるようになった。
【0357】
(実施例18 スクロース存在下でのStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼの耐熱性)
上記2.5に記載のスクロースホスホリラーゼ産生大腸菌の破砕液を用いて、スクロースを加えて溶解し、スクロースの最終濃度がそれぞれ、溶解後の溶液を基準として4%、8%、12%、16%、20%、25%または30%の溶液を得た。スクロースを加えないスクロースホスホリラーゼ酵素液をコントロール(0%スクロース)とした。これらの溶液を、55℃の水浴中で加熱した。加熱開始時(0分)、加熱開始後30分、60分および90分の時点でサンプリングし、スクロースホスホリラーゼの活性を本明細書中に記載の方法に従って測定した。
【0358】
測定された活性に基づいて、残存活性を算出した。
【0359】
残存活性を、以下の通りに算出した:
【0360】
【数1】
残存活性についての結果を図18に示す。この結果、以下のことがわかった。スクロースを含まない場合(0%)は、55℃にて30分の加熱後、活性は10%程度にまで低下した。
【0361】
4%以上のスクロースを含む場合には、30分の加熱後も50%以上の活性が残存していた。特に8%以上のスクロースを含む場合には、30分の加熱後も80%以上の活性が残存していた。
【0362】
(実施例19 スクロース存在下でのLeuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼの耐熱性)
Leuconostoc mesenteroidesスクロースホスホリラーゼ(オリエンタル酵母社より購入)を含む酵素液に、スクロースを加えて溶解し、スクロースの最終濃度がそれぞれ、溶解後の溶液を基準として12%、16%、20%、25%または30%の溶液を得た。スクロースを加えないスクロースホスホリラーゼ酵素液をコントロール(0%スクロース)として用いた。これらの溶液を、50℃の水浴中で加熱した。加熱開始時(0分)、加熱開始後30分、60分および90分の時点でサンプリングし、スクロースホスホリラーゼの活性を本明細書中に記載の方法に従って測定した。
【0363】
測定された活性に基づき、上記の式に従って残存活性を算出した。
【0364】
残存活性についての結果を図19に示す。この結果、以下のことがわかった。スクロースを含まない場合(0%)は、50℃にて30分の加熱後、活性は10%程度にまで低下した。
【0365】
12%以上のスクロースを含む場合には、30分の加熱後も50%以上の活性が残存していた。特に20%以上のスクロースを含む場合には、30分の加熱後も80%以上の活性が残存していた。
【0366】
(比較例20:スクロースホスホリラーゼの安定性に対するフルクトースの効果)
スクロースホスホリラーゼの基質には、スクロース以外にフルクトース、無機リン酸、およびグルコース−1−リン酸がある。フルクトースのスクロースホスホリラーゼ安定性への効果を以下のように調べた。
【0367】
上記(2.5)で調製したS.mutans由来スクロースホスホリラーゼを含むスクロースホスホリラーゼ酵素液に、最終濃度がそれぞれ、溶解後の溶液を基準として5%または10%になるようにフルクトースを加えて溶解し、溶液を得た。フルクトースを加えないスクロースホスホリラーゼ酵素液をコントロール(0%スクロース)とした。対照として、同濃度のスクロースを添加した場合についても同時に調べた。これらの溶液を、55℃の水浴中で加熱した。加熱開始時(0分)、加熱開始後30分、60分および90分の時点で溶液をサンプリングし、スクロースホスホリラーゼの活性を本明細書中に記載の方法に従って測定した。
【0368】
測定された活性に基づいて、残存活性を算出した。
【0369】
残存活性についての結果を図20に示す。この結果、フルクトースにはスクロースの場合のようなスクロースホスホリラーゼ安定化効果は認められないことがわかった。
【0370】
(比較例21:スクロースホスホリラーゼの安定性に対する無機リン酸の効果)
無機リン酸のスクロースホスホリラーゼ安定性への効果を以下のように調べた。
【0371】
上記(2.5)で調製したS.mutans由来スクロースホスホリラーゼを含むスクロースホスホリラーゼ酵素液に、最終濃度がそれぞれ、溶解後の溶液を基準として40mM、100mMおよび400mMになるようにリン酸ナトリウムを加えて溶解し、溶液を得た。リン酸ナトリウムを加えないスクロースホスホリラーゼ酵素液をコントロール(添加なし)とした。対照として、10%の濃度のスクロースを添加した場合についても同時に調べた。これらの溶液を、55℃の水浴中で加熱した。加熱開始時(0分)、加熱開始後30分、60分および90分の時点で溶液をサンプリングし、スクロースホスホリラーゼの活性を本明細書中に記載の方法に従って測定した。
【0372】
測定された活性に基づいて、残存活性を算出した。
【0373】
残存活性についての結果を図21に示す。この結果、無機リン酸にはスクロースの場合のようなスクロースホスホリラーゼ安定化効果は認められないことがわかった。
【0374】
(実施例22−1〜22−5および比較例22−1:プルランをプライマーとして用いたグルカンの合成)
以下の表18に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてグルカン合成を行なった。
【0375】
【表18】
詳しくは、マルトヘプタオースの代わりにプルランP−5(平均分子量約5,000、昭光通商社より購入)を0.2〜1.25%で用い、スクロースホスホリラーゼを20U/gスクロースの活性単位で用い、グルカンホスホリラーゼを20U/gスクロースの活性単位で用いた以外は、比較例3−2−1および実施例3−2−1〜3−2−5と同様に比較例22−1および実施例22−1〜実施例22−5のグルカンの合成を行なった。
【0376】
反応後、合成されたグルカンの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図22に示す。
【0377】
マルトヘプタオースのかわりに、プルランを用いた場合でも、スクロース濃度を4%から8%以上に引き上げることで50℃での効率の高い反応が可能になり、グルカンの収率が増加した。
【0378】
反応温度を50℃に設定したところ、図22に示すように、スクロース濃度4%では、グルカンの収率は9.8%と低かった。しかし、基質間の割合および酵素量を変えずに、スクロース濃度を8%〜25%まで増やすことにより、グルカンの収率が増加した。スクロース濃度8%での収率は32.0%とスクロース濃度4%での収率の3倍以上になり、スクロース濃度を15%以上にすると80%程度のグルカンの収率が得られた。このように、マルトオリゴ糖の代わりにプルランを用いた場合でも、マルトオリゴ糖を用いた場合と同等の効果が得られた。
【0379】
(実施例23−1〜23−7および比較例23−1:プルランをプライマーとして用いたグルカンの合成)
以下の表19に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてグルカン合成を行なった。
【0380】
【表19】
詳しくは、マルトヘプタオースの代わりにプルランP−5(平均分子量約5,000、昭光通商社より購入)を0.2%で用いた以外は、比較例17−1および実施例17−1〜17−7と同様にして比較例23−1および実施例23−1〜23−7のグルカンの合成を行なった。
【0381】
反応後、合成されたグルカンの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図23に示す。
【0382】
図23に示すように、125mMスクロースに対して、無機リン酸を7.2mM加えて反応させた場合、グルカンの収率は、5.3%と低かったが、125mMスクロースに対して無機リン酸を10mM加えて反応させた場合、11.7%と2倍以上の収率を得ることができた。さらに、125mMスクロースに対して無機リン酸を20〜75mM加えて反応させた場合、20〜25%以上の収率を得ることができた。
【0383】
このように、マルトオリゴ糖の代わりにプルランを用いた場合でも、マルトオリゴ糖を用いた場合と同等の効果が得られた。
【0384】
(実施例24−1〜24−7および比較例24−1:G−1−Pを用いたグルカン合成)
以下の表20に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いてグルカン合成を行なった。
【0385】
【表20】
詳しくは、無機リン酸のかわりにグルコース−1−リン酸を用い、酢酸緩衝液を用いて反応液をpH7.0に調整した以外は、比較例17−1および実施例17−1〜17−7と同様にして比較例24−1および実施例24−1〜24−7のグルカンの合成を行なった。
【0386】
反応後、合成されたグルカンの収率を上記1.6に従って決定した。結果を図24に示す。
【0387】
図24に示すように、125mMスクロースに対して、グルコース−1−リン酸を7.2mM加えて反応させた場合、グルカンの収率は、16.4%と低かったが、125mMスクロースに対してグルコース−1−リン酸を10mM加えて反応させた場合、35.3%と2倍以上の収率を得ることができた。さらに、125mMスクロースに対してグルコース−1−リン酸を20〜75mM加えて反応させた場合、40〜60%の収率を得ることができた。
【0388】
このように、無機リン酸のかわりにグルコース−1−リン酸を用いてグルカンを合成する場合も、従来法のスクロース−リン酸比率の最大値のままでは生産性が低いが、スクロース−リン酸比率の最大値を一定範囲内にすることで2倍以上の生産性が得られるようになった。
【0389】
(実施例25−1〜25−5:ブランチングエンザイムを含むSP−GP反応系でのグルカンの合成)
以下の表21に示す組成の反応混合物を用いてグルカン合成を行った。なお、用いたブランチングエンザイムを、日本国特許公開2000−316581(特願平11−130833)に開示された方法にしたがって調製した。
【0390】
【表21】
この溶液を45℃で18時間反応させてグルカンを合成した。反応液量は1mlであった。
【0391】
反応後、合成されたグルカンの収率を上記1.6にしたがって決定した。また、合成されたグルカンの平均単位鎖長をTakataらの文献(Carbohydr.Res.295巻 91頁〜101頁(1996)に示された方法で測定した。結果を下の表22に示す。
【0392】
【表22】
これらの条件において、高収率で、高度に分岐したグルカンを合成できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0393】
本発明により、グルカンが生成される。反応開始時から反応終了までの間の(スクロースのモル濃度)と(無機リン酸のモル濃度およびグルコース−1−リン酸のモル濃度の合計)との比の最大値をある範囲内に設定することで、従来の方法に比べ高い生産性でグルカンを製造することができる。本発明者らは、スクロースホスホリラーゼの熱安定性を向上させる条件で反応させること、もしくは、より耐熱性の高いスクロースホスホリラーゼを開発して使用することにより、高温でのグルカン(好ましくは、アミロース)の製造を実現することができた。
【0394】
このようなグルカンは、澱粉加工工業用の原料、飲食用組成物、食品添加物用組成物、接着剤組成物、包接物および吸着物、医薬品および化粧品組成物、フィルム状製品組成物、生物崩壊性プラスチック用の澱粉の代替物質として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0395】
【図1】図1は、スクロースからのグルカン合成の模式図である。
【図2】図2は、4%の初発スクロース、Leuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼおよび馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼを用いて37℃および45℃で反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図3】図3は、種々の初発スクロース濃度にて45℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図4】図4は、種々の初発スクロース濃度にて37℃および45℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図5】図5は、耐熱性細菌であるStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよび馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて45℃および50℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図6】図6は、図5で用いた酵素活性の半分の量のStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよび馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて45℃および50℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図7】図7は、Leuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼおよびThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて45℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図8】図8は、図7で用いた酵素活性の半分の量のLeuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼおよびThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて45℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図9】図9は、耐熱性細菌であるStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよびThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて50℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図10】図10は、図9で用いた酵素活性の半分の量のStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよびThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて50℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図11】図11は、Leuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼおよびBacillus stearothermophilus由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて45℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図12】図12は、図11で用いた酵素活性の半分の量のLeuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼおよびBacillus stearothermophilus由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて37℃および45℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図13】図13は、耐熱性細菌であるStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよびBacillus stearothermophilus由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて50℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図14】図14は、図13で用いた酵素活性の半分の量のStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよびBacillus stearothermophilus由来グルカンホスホリラーゼを用いて種々の初発スクロース濃度にて45℃および50℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図15】図15は、耐熱性細菌であるStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼと、馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼまたはThermus aquaticus由来グルカンホスホリラーゼとを用いて50%の初発スクロース濃度にて65℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図16】図16は、Leuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼおよび馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼを用いて、種々の初発無機リン酸濃度にて37℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図17】図17は、耐熱性細菌であるStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼおよび馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼを用いて、種々の初発無機リン酸濃度にて45℃にて反応を行った場合のアミロースの収率を示すグラフである。
【図18】図18は、組換えStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼを、種々の濃度のスクロース溶液中で55℃で加熱した場合の残存活性を示すグラフである。
【図19】図19は、Leuconostoc mesenteroides由来スクロースホスホリラーゼを、種々の濃度のスクロース溶液中で55℃で加熱した場合の残存活性を示すグラフである。
【図20】図20は、スクロースホスホリラーゼ安定性へのスクロースまたはフルクトースの効果を示すグラフである。
【図21】図21は、スクロースホスホリラーゼ安定性への無機リン酸の効果を示すグラフである。
【図22】図22は、プライマーとしてプルランを用い、種々の初発スクロース濃度にて50℃にて反応を行った場合の、グルカンの収率を示すグラフである。
【図23】図23は、プライマーとしてプルランを用い、種々の初発無機リン酸濃度にて50℃にて反応を行った場合の、グルカンの収率を示すグラフである。
【図24】図24は、基質としてグルコース−1−リン酸を用いた場合の、グルカンの収率を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルカンの製造方法であって、
スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを含む反応溶液を反応させて、グルカンを生産する工程を包含し、ここで該反応が、40℃〜70℃の温度で行われ、反応開始時の該反応溶液中のスクロースの濃度が5〜100%である、方法。
【請求項2】
前記反応温度が、45℃〜65℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応開始時の前記反応溶液中のスクロースの濃度が8〜80%である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
反応開始時の前記反応溶液中のスクロースの濃度が15〜50%である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記グルカンが、アミロースである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記スクロースホスホリラーゼが、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する細菌由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記スクロースホスホリラーゼが、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、およびストレプトコッカス ミティス(Streptococcus mitis)からなる群より選択されるストレプトコッカス(Streptococcus)に属する細菌由来である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記グルカンホスホリラーゼが、植物由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記グルカンホスホリラーゼが、藻類由来である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記グルカンホスホリラーゼが、馬鈴薯由来である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記グルカンホスホリラーゼが、サーマス アクアティカス(Thermus aquaticus)由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記グルカンホスホリラーゼが、バシラス ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方、もしくは少なくとも一方が、遺伝子組換えされた微生物により生産される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方、もしくは少なくとも一方が、担体上に固定化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記プライマーが、マルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、プルラン、カップリングシュガー、澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記マルトオリゴ糖が、マルトオリゴ糖混合物である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記マルトオリゴ糖混合物が、マルトテトラオースの重合度以上の重合度のマルトオリゴ糖に加えて、マルトトリオース、マルトースおよびグルコースのうちの少なくとも1つを含有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記澱粉が、可溶性澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、澱粉枝切り酵素分解物、澱粉ホスホリラーゼ分解物、澱粉部分加水分解物、化工澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法であって、生産されたグルカンを、有機溶媒を利用せずに精製する工程をさらに包含する、方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法であって、前記反応後の反応溶液を冷却することにより前記グルカンを沈澱させる工程、および該沈澱したグルカンを固液分離方法により精製する工程をさらに含む、方法。
【請求項21】
請求項1に記載の方法であって、さらに
前記グルカン生産反応の間もしくはグルカン生産反応後に前記反応溶液を冷却してグルカンをゲル化する工程、
ゲル化したグルカンを回収する工程、および
該ゲル化したグルカンから、フルクトースを、水による洗浄、凍結融解、ろ過、圧搾、吸引および遠心分離からなる群より選択される操作によって除去する工程を含む、方法。
【請求項22】
請求項1に記載の方法であって、さらに、前記グルカン生産反応後、水に溶解しているグルカンを沈澱させずに、限外ろ過膜を用いた膜分画もしくはクロマトグラフィーに供してフルクトースを除去する工程を含む、方法。
【請求項23】
請求項1に記載の方法であって、前記反応溶液中にさらに、枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を含む、方法。
【請求項1】
グルカンの製造方法であって、
スクロース、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、スクロースホスホリラーゼ、およびグルカンホスホリラーゼを含む反応溶液を反応させて、グルカンを生産する工程を包含し、ここで該反応が、40℃〜70℃の温度で行われ、反応開始時の該反応溶液中のスクロースの濃度が5〜100%である、方法。
【請求項2】
前記反応温度が、45℃〜65℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応開始時の前記反応溶液中のスクロースの濃度が8〜80%である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
反応開始時の前記反応溶液中のスクロースの濃度が15〜50%である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記グルカンが、アミロースである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記スクロースホスホリラーゼが、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する細菌由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記スクロースホスホリラーゼが、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、およびストレプトコッカス ミティス(Streptococcus mitis)からなる群より選択されるストレプトコッカス(Streptococcus)に属する細菌由来である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記グルカンホスホリラーゼが、植物由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記グルカンホスホリラーゼが、藻類由来である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記グルカンホスホリラーゼが、馬鈴薯由来である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記グルカンホスホリラーゼが、サーマス アクアティカス(Thermus aquaticus)由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記グルカンホスホリラーゼが、バシラス ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方、もしくは少なくとも一方が、遺伝子組換えされた微生物により生産される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの両方、もしくは少なくとも一方が、担体上に固定化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記プライマーが、マルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、プルラン、カップリングシュガー、澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記マルトオリゴ糖が、マルトオリゴ糖混合物である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記マルトオリゴ糖混合物が、マルトテトラオースの重合度以上の重合度のマルトオリゴ糖に加えて、マルトトリオース、マルトースおよびグルコースのうちの少なくとも1つを含有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記澱粉が、可溶性澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、澱粉枝切り酵素分解物、澱粉ホスホリラーゼ分解物、澱粉部分加水分解物、化工澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法であって、生産されたグルカンを、有機溶媒を利用せずに精製する工程をさらに包含する、方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法であって、前記反応後の反応溶液を冷却することにより前記グルカンを沈澱させる工程、および該沈澱したグルカンを固液分離方法により精製する工程をさらに含む、方法。
【請求項21】
請求項1に記載の方法であって、さらに
前記グルカン生産反応の間もしくはグルカン生産反応後に前記反応溶液を冷却してグルカンをゲル化する工程、
ゲル化したグルカンを回収する工程、および
該ゲル化したグルカンから、フルクトースを、水による洗浄、凍結融解、ろ過、圧搾、吸引および遠心分離からなる群より選択される操作によって除去する工程を含む、方法。
【請求項22】
請求項1に記載の方法であって、さらに、前記グルカン生産反応後、水に溶解しているグルカンを沈澱させずに、限外ろ過膜を用いた膜分画もしくはクロマトグラフィーに供してフルクトースを除去する工程を含む、方法。
【請求項23】
請求項1に記載の方法であって、前記反応溶液中にさらに、枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を含む、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2007−97599(P2007−97599A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9630(P2007−9630)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【分割の表示】特願2003−500272(P2003−500272)の分割
【原出願日】平成14年5月27日(2002.5.27)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【分割の表示】特願2003−500272(P2003−500272)の分割
【原出願日】平成14年5月27日(2002.5.27)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】
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