説明

グルココルチコイド受容体モジュレーターおよびその使用方法

本発明は、化合物(I)またはその薬理学的に許容できる塩、1つ以上の薬理学的に許容できる担体、賦形剤、もしくは希釈剤と組合せて化合物(I)を含む医薬組成物、ならびに炎症性疾患および免疫障害の治療を必要とする患者に有効量の化合物(I)またはその薬理学的に許容できる塩を投与することを含む炎症性疾患および免疫障害の治療方法を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステロイド系グルココルチコイドに反応する炎症性疾患および免疫障害の治療における治療薬として有用な三環式化合物、その化合物を含む医薬組成物、患者において炎症性疾患および免疫障害を治療するためのその化合物の使用方法、ならびにその化合物の合成において有用な中間体およびプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
天然物および合成物のステロイド系グルココルチコイド(例えば、コルチゾール、コルチゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン)は、50年以上にわたって急性および慢性の炎症性疾患ならびに免疫障害の治療に広く使用されてきた。特に、グルココルチコイドは、関節リウマチ、変形性関節症、リウマチ熱、ぜんそく、アレルギー性鼻炎、全身性エリテマトーデス、慢性閉塞性肺疾患、クローン病、炎症性腸疾患、および潰瘍性大腸炎の治療のために処方されてきた。しかしながら、グルココルチコイドを使用すると、骨量の減少/骨粗しょう症、高血糖、真性糖尿病、高血圧、緑内障、筋萎縮、クッシング症候群、および精神病などの重篤かつ時には不可逆的な副作用を伴うことがしばしばある。このように、ステロイド系グルココルチコイドの薬効を有しつつ付随する副作用の可能性または発生を低下させる代替的療法に対するニーズがいまだ存在する。
【0003】
グルココルチコイドは、グルココルチコイド受容体(GR)との複合体の形成の後の遺伝子転写を調節することにより、その薬理学的効果をもたらす。このGR−グルココルチコイド複合体は、特徴のあるメカニズムによって遺伝子転写に影響を及ぼす。まず、グルココルチコイドの結合後、複合体を形成したGRは核に移行し、そこでGRは特定の遺伝子のプロモーター領域のDNAグルココルチコイドホルモン応答エレメント(GRE)において二量体として作用する。次いで、このGR−グルココルチコイド/GRE複合体は、近位に位置する遺伝子の転写を活性化(トランス活性化)または阻害する。逆に、GR−グルココルチコイド複合体は、DNAへの結合が関与しないプロセスによって遺伝子転写を負に調節することがある。転写抑制と呼ばれるこのプロセスにおいて、グルココルチコイドの結合後、複合体を形成したGRは核に侵入し、そこでGRはモノマーとして作用して(タンパク質−タンパク質相互作用によって)他の転写因子と直接相互作用し、遺伝子転写、ひいてはタンパク質発現を誘発するという転写因子の能力を抑制する。
【0004】
他のステロイドホルモン受容体、例えばアンドロゲン受容体(AR)、ミネラルコルチコイド受容体(MR)、およびプロゲステロン受容体(PR)は他の生理的プロセスを媒介するが、これらの受容体がGRに相同的なリガンド結合ドメインを有するという事実のために、ステロイド系グルココルチコイドの代替品として適したGRリガンドの探索は妨げられている。結果として、GRリガンドはこれらの他の受容体との交差反応性についての可能性を有する。このように、ステロイド系グルココルチコイドの代替品の所望の特質は、それが他のステロイドホルモン受容体よりも大きい親和性でGRに結合することである。
【0005】
最近の洞察によって、グルココルチコイド療法に伴う副作用を誘発する傾向よりも強力な抗炎症性を備えたGRリガンドを同定する機会がもたらされた。グルココルチコイドは、インターロイキン−6(IL−6)および腫瘍壊死因子−α(TNFα)などの前炎症性タンパク質の内因性産生を抑制することが長く知られていた。DNA結合とは無関係なGRの機能を介して選択的に作用するリガンドでも炎症性疾患の治療にとって十分であるはずであるとの報告がなされていることは意義深い。非特許文献1。さらに、グルココルチコイド療法の多くの副作用(例えば、高血糖、真性糖尿病、緑内障、および筋萎縮)はDNAへのGRの結合後のトランス活性化メカニズムによって媒介されることが報告されている(非特許文献2参照)。このように、GRに媒介される転写抑制とGRに媒介されるトランス活性化とを判別することができる薬剤は特に望ましい。さらに、他のステロイドホルモン受容体の転写活性を調節する(すなわち、作動させる(agonize)、部分的に作動させる、部分的に拮抗させる、または拮抗させる)限られた能力を示す薬剤も特に望ましい。
【0006】
このように、他のステロイドホルモン受容体よりも大きい親和性でGRに結合する薬剤を提供することが本発明の目的である。より具体的にいえば、AR、MR、およびPRよりも30倍大きい親和性でGRに結合する薬剤を提供することが目的である。さらに、グルココルチコイド療法に伴う副作用を誘発する傾向よりも強力な抗炎症性を有する薬剤を提供することが本発明の目的である。より具体的にいえば、骨量の減少または骨粗しょう症を誘発する傾向よりも強力な抗炎症性を有する薬剤を提供することが本発明の目的である。さらに、他のステロイドホルモン受容体の活性を調節する限られた能力を示す薬剤を提供することが本発明の目的である。
【0007】
三環式GRモジュレーターは当該技術分野で公知である。例えば特許文献1は、ミネラルコルチコイド受容体またはグルココルチコイド受容体の調節に反応する障害を治療するのに有用な、1つの属の三環式ステロイド系ホルモン受容体モジュレーターを開示する。特許文献2は、グルココルチコイド受容体に結合しかつ抗炎症性を有するトリフェニルプロパンアミド誘導体化合物を開示する。
【特許文献1】国際公開第04/052847号パンフレット
【特許文献2】国際公開第99/33786号パンフレット
【非特許文献1】Reichardtら,EMBO J.,20:7168−7173(2001)
【非特許文献2】Shackeら,Pharmacol.& Therap.,96(1):23−43(2002)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願明細書において下記の化合物(I)として提供される、国際公開第04/052847号の範囲内の化合物を選択することによって、ステロイド系グルココルチコイドに反応する炎症性疾患および免疫障害の治療に特に有用であるとの示唆を与える具体的な活性プロフィールを有する新規な治療薬が同定されたことが本発明において見出された。従って、本発明は化合物(I):
【化1】


((E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド)
またはその薬理学的に許容できる塩を提供する。
【0009】
具体的な実施形態として、本発明は結晶形態にある化合物(I)を提供する。
【0010】
別の実施形態では、本発明は炎症性疾患または免疫障害、特に関節リウマチの治療方法を提供する。この方法は、それを必要とする患者に有効量の化合物(I)、またはその薬理学的に許容できる塩を投与することを含む。
【0011】
別の実施形態では、本発明は、炎症性疾患または免疫障害、特に関節リウマチの治療用の医薬の製造のための化合物(I)、またはその薬理学的に許容できる塩の使用を提供する。さらに、本発明は、治療において使用するための化合物(I)、またはその薬理学的に許容できる塩を提供する。
【0012】
別の実施形態では、本発明は、1つ以上の薬理学的に許容できる担体、賦形剤、または希釈剤と組合せて化合物(I)、またはその薬理学的に許容できる塩を含む医薬組成物を提供する。好ましい実施形態として、本発明は、1つ以上の薬理学的に許容できる担体、賦形剤、または希釈剤と組合せて化合物(I)、またはその薬理学的に許容できる塩を含む、関節リウマチの治療用の医薬組成物を提供する。さらに本発明は、化合物(I)の合成のための新規な中間体およびプロセスをも提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、ステロイド系グルココルチコイドに反応する炎症性疾患および免疫障害の治療に特に有用なものとする活性プロフィールを有する化合物(I)を提供する。生体外試験および生体内試験によって証明されるとおり、化合物(I)は他のステロイドホルモン受容体よりも大きい親和性でGRに結合し、かつグルココルチコイド療法に伴う副作用を誘発する傾向よりも強力な抗炎症性を示す。さらに化合物(I)は、他のステロイドホルモン受容体AR、MR、およびPRの活性を調節する限られた能力しか示さない。さらに化合物(I)は、患者治療および医薬開発の分野における他の課題に対処する、本願明細書において考察するようななお一層の技術的効果または有利な特性を有する。
【0014】
本発明はまた、ステロイド系グルココルチコイドに反応する炎症性疾患および免疫障害の治療のための化合物(I)の使用をも提供する。かかる障害としては、例えば、関節リウマチ、変形性関節症、リウマチ熱、ぜんそく、アレルギー性鼻炎、全身性エリテマトーデス、慢性閉塞性肺疾患、クローン病、炎症性腸疾患、および潰瘍性大腸炎が挙げられる。化合物(I)が有用である具体的な障害は、関節リウマチである。関節リウマチ(RA)は、通常は30歳から50歳の間の年齢で発症する持続性の滑膜関節組織の炎症を特徴とする慢性障害である。RAは炎症性関節炎の最も一般的な形態であり、有病率は全世界の人口の約0.8%と見積もられ、女性は男性よりも2倍この疾患を発症する可能性が高い。Rindfleischら,Am.Fam.Physician,72(6):1037−1047(2005)。
【0015】
炎症性疾患および免疫障害の治療のための化合物(I)の使用はまた、グルココルチコイド療法に通常伴う副作用の傾向、可能性または発生の低下を伴うとも考えられている。グルココルチコイド療法の1つのかかる副作用は、骨量の減少/骨粗しょう症、すなわちグルココルチコイド惹起骨粗しょう症(GIOP)である。GIOPは、薬物惹起骨粗しょう症の最も一般的な原因であり、慢性の(すなわち、6ヶ月よりも長く継続している)グルココルチコイド療法を受けている患者の50%にまで発生することが報告されている。Feldsteinら,Osteoporos.Int.,16:2168−2174(2005)。特に、化合物(I)の使用は、骨量の減少または骨粗しょう症の傾向、可能性または発生の低下を伴うとも考えられている。
【0016】
特段の定義がないかぎり、本発明は、化合物(I)の薬理学的に許容できる塩および化合物(I)の遊離塩基またはその薬理学的に許容できる塩の溶媒和物を含む。本願明細書において使用する場合の「薬理学的に許容できる塩」との用語は、生物にとって実質的に無毒である化合物(I)の塩を指す。薬理学的に許容できる塩およびそれらの調製方法の例は、当該分野で慣用的である。例えば、Stahlら,「Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection and Use」,VCHA/Wiley−VCH,(2002);Gould,P.L.,「Salt selection for basic drugs」,International Journal of Pharmaceutics,33:201−217(1986);およびBastinら、「Salt Selection and Optimization Procedures for Pharmaceutical New Chemical Entities」,Organic Process Research and Development,4:427−435(2000)を参照のこと。塩酸塩、臭化水素酸塩、およびヘミスルフェート塩を特に挙げることができるが、化合物(I)の遊離塩基が好ましいことを理解するべきである。
【0017】
本願明細書において使用する場合の「患者」との用語は、ヒトまたは非ヒトの哺乳動物(例えば、イヌ、ネコ、ウシ、サル、ウマ、またはヒツジ)を指す。より具体的には、「患者」との用語は、ヒトを指す。本願明細書において使用する場合の「治療する(treating)」(または「治療する(treat)」または「治療」)との用語は、症状または障害の進行または重篤度を妨げる(prohibiting)か、予防するか、制止するか、遅らせるか、停止させるか、または回復に向かわせることを含む。
【0018】
化合物(I)、またはその薬理学的に許容できる塩は、医薬組成物の一部として投与用に処方することができる。従って、1つ以上の薬理学的に許容できる担体、賦形剤、または希釈剤と組合せて化合物(I)、またはその薬理学的に許容できる塩を含む医薬組成物は本発明の重要な実施形態の1つである。医薬組成物およびそれらの調製方法の例は当該技術分野で周知である。例えば、REMINGTON:THE SCIENCE AND PRACTICE OF PHARMACY, A.Gennaroら編集,第19版,Mack Publishing(1995)を参照のこと。化合物(I)を含む例示の組成物としては、例えば、1%カルボキシメチルセルロースナトリウム、0.25%ポリソルベート80、および0.05% Antifoam 1510(商標)(Dow Corning)を伴う懸濁液中の化合物(I)、1%カルボキシメチルセルロースナトリウム、0.25%ポリソルベート80、および0.05% Antifoam 1510を伴うナノ懸濁液中の化合物(I)、および0.01N HCl中の0.5%メチルセルロース、1%ラウリル硫酸ナトリウム、および0.1% Antifoam 1510を伴う懸濁液中の化合物(I)が挙げられる。化合物(I)を含む具体的な組成物は以下に提供される。
経口用液剤中に処方された化合物(I)
【0019】
【表1】


【0020】
例えば、50.0gヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HP−β−CD)(Roquette)を500mLビーカーに加え、次いで約400mLの潅注用の水を加え、混合物を磁石を用いて約30分間撹拌しHP−β−CDを溶解させる。50.0mgの特に微粉化した形態の化合物(I)をHP−β−CD溶液に加え、混合物に蓋をして撹拌を継続し(約2時間)化合物を溶解させる。撹拌を継続しながらペパーミント香味料(0.15mL)をこの混合物に加え、この香味料を分散させる。この溶液を容量フラスコに移し、さらに潅注用の水を加えて最終体積を500mLにする。
経口用懸濁液ビヒクル中に処方された化合物(I)
【0021】
【表2】

【0022】
例えば、1.25gのTween80(Fluka)を500mLビーカーに加え、次いで7.5gのヒドロキシプロピルメチルセルロース(Methocel E5−LV,Colorcon)および0.4gのサッカリンナトリウム(Sigma)を加える。約300mLの潅注用の水をビーカーに加え、この混合物に蓋をして、内容物が完全に溶解するまで磁石を用いて撹拌する。50.0gのソルビトール液体(Fluka)を100mLビーカーに秤量し、ヒドロキシプロピルメチルセルロース溶液に加える(この100mLビーカーを水でリンスし、このリンスした水をヒドロキシプロピルメチルセルロース溶液に加える)。撹拌しながら、0.15mLのペパーミント香味料をこの混合物に加え、次いで約10分間撹拌を継続しながら0.25mLのAntifoam 1510(Dow Corning)を加える。この溶液を500mL容量フラスコに移し、さらに潅注用の水を加えて最終体積を500mLにする。最終の懸濁液ビヒクルを、使用する時までねじ口瓶中に封をしておく。
【0023】
化合物(I)を含有する懸濁液を調製するために、必要量の化合物(I)(例えば1〜200mg、特に微粉化したもの)をまず新しい瓶に加える。バルクの懸濁液ビヒクルをゆっくりと振盪し、このビヒクル10mLを化合物(I)を含有する瓶に加える。この瓶を封鎖して激しく振盪してこの化合物を分散させ、使用前に約1分間静置する。あるいは、所望量の化合物(I)を10mLの懸濁液ビヒクルを含む新しい瓶に加え、この瓶を上に記載したように封鎖して振盪してもよい。
【0024】
しかしながら、本発明の好ましい組成物は、カプセル剤または錠剤中に処方された化合物(I)、またはその薬理学的に許容できる塩を含むことは理解されるであろう。
【0025】
化合物(I)、または化合物(I)を含む組成物は、化合物(I)が生物学的に利用可能になる任意の経路(経口経路および非経口経路を含む)によって投与することができる。例えば、化合物(I)、または化合物(I)を含む組成物は、経口投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経皮投与、局所投与、鼻腔内投与、直腸内投与、口腔投与などすることができる。あるいは、上記化合物は持続静注により投与することができる。しかしながら、経口投与が好ましい投与経路であることは理解するべきである。
【0026】
本願明細書において使用する場合の「有効量」との用語は、患者への単回または複数回の用量の投与の際に、診断中または治療中の患者において所望の効果をもたらす化合物(I)の量または用量を指す。有効量は、哺乳動物の種、その体格、年齢、および全体的な健康状態、関与する具体的な疾患、疾患の程度または重篤度、その個々の患者の反応、投与される具体的な化合物、投与様式、投与される製剤のバイオアベイラビリティ特性、選択される用量レジメン、ならびに任意の併用薬の使用などの多くの要因を考慮して、当業者としての主治医が容易に決定することができる。決して本発明を限定すると解釈するべきではないが、1〜200mg/日が化合物(I)の通常の有効量を表す。
【0027】
(生物活性)
化合物(I)は生体外試験において独特の活性プロフィールを有し、これは、化合物(I)が従来からのグルココルチコイドに反応する炎症性疾患および免疫障害の治療に特に適していることを示唆する。例えば、ヒトのGR、MR、ARおよびPRを発現するHEK293細胞において実施された放射性標識リガンド結合研究において、化合物(I)は約0.50nM未満のKiでGRに結合する。さらに、化合物(I)はMR、AR、およびPRの各々よりも約30倍以上大きい親和性でGRに結合する。ヒトの皮膚線維芽細胞CCD−39 SK細胞およびU937単球で実施された全細胞グルココルチコイド受容体媒介性転写抑制試験において、化合物(I)はIL−6およびTNFαの内因性産生の強力かつ完全な転写抑制因子である(最大阻害の約90%より大きい)。意義深いことに、GR媒介性トランス活性化の機能分析において、化合物(I)は、GR/GRE媒介性遺伝子転写を誘発することにおいて、半アゴニスト活性を示すに過ぎない(最大効力の約50%未満)。このように、完全なGR媒介性転写抑制を誘発するがGR/GRE媒介性トランス活性化を部分的にしか誘発しないことによって、化合物(I)は際立ったプロフィールを示す。さらに、他のステロイド受容体の機能調節に及ぼす効果を調べる試験において化合物(I)は、AR、MR、およびPRに媒介される遺伝子発現を調節することにおいて、限定された活性しか示さない。
【0028】
炎症の急性動物モデルおよび慢性動物モデルの両方において、化合物(I)の効果をステロイド系グルココルチコイドの効果と比較すると、化合物(I)は、強力な抗炎症性を示す。例えば、カラギーナン惹起足浮腫(CPE)の急性ラットモデルにおいて、化合物(I)は、経口投与の際に、カラギーナン惹起足浮腫を用量に依存して阻害し、炎症反応の間に生成されるサイトカインであるインターロイキン−1−β(IL−1β)の産生を阻害する。これらの結果は、プレドニゾロンによって誘発される結果と有利に比較できる。プレドニゾロンは、類似の条件下では約5倍効力が弱い。
【0029】
逆に、化合物(I)は、骨形成の動物モデルにおいて検討した場合、GR媒介性の骨に対する効果を誘発する傾向の低下を示す。例えば、(炎症の動物モデルにおける化合物(I)およびプレドニゾロンについてのそれぞれのED50値に近い投与量における)化合物(I)の効果をプレドニゾロンの効果と比較するマウス血清オステオカルシン試験において、化合物(I)は、骨形成についての認められているマーカーである血清オステオカルシンの産生のより少ない減少を誘発した。
【0030】
上述の生体外試験および生体内動物モデルについての代表的な手順を以下に提供する。本願明細書において使用する場合、「Kd」はリガンド−受容体複合体についての平衡解離定数を指す。「Ki」は薬物−受容体複合体についての平衡解離定数を指し、これは、平衡において結合部位の半分に結合する薬物の濃度の指標である。「IC50」はある薬剤について可能な最大阻害反応の50%をもたらすその薬剤の濃度、あるいは受容体に結合しているリガンドの50%置換をもたらすある薬剤の濃度を指す。「EC50」は、ある薬剤について可能な最大反応の50%をもたらすその薬剤の濃度を指す。「ED50」は、ある治療薬についての最大反応の50%をもたらす、投与されたその薬剤の用量を指す。
【0031】
(核ホルモン受容体結合分析)
ヒトのGR(グルココルチコイド受容体)、AR(アンドロゲン受容体)、MR(ミネラルコルチコイド受容体)、またはPR(プロゲステロン受容体)を過剰発現するヒト胎児腎臓細胞HEK293細胞由来の細胞溶解物がKi値を決定するための受容体−リガンド競合結合分析に使用される。
【0032】
手短に言えば、ステロイド受容体競合結合分析は、20mM Hepes緩衝液(pH=7.6)、0.2mM EDTA、75mM NaCl、1.5mM MgCl、20%グリセロール、20mM モリブデン酸ナトリウム、0.2mM DTT(ジチオトレイトール)、20μg/mL アプロチニンおよび20μg/mL ロイペプチンを含有する緩衝液中で実施される。通常、ステロイド受容体結合分析は、1ウェルあたり放射性標識化リガンド(例えば、GR結合についての0.3nM [H]−デキサメタゾン、AR結合についての0.36nM [H]−メチルトリエノロン、MR結合についての0.25nM [H]−アルドステロン、およびPR結合についての0.29nM [H]−メチルトリエノロン)、および20μg 293−GR溶解物、22μg 293−AR溶解物、20μg 293−MR溶解物または40μg 293−PR溶解物のいずれかを含む。通常、分析は96ウェル形式で実施される。競合する試験化合物は、約0.01nM〜10μMの範囲の種々の濃度で添加される。非特異的結合は、GR結合についての500nM デキサメタゾン、MR結合についての500nM アルドステロン、またはAR結合およびPR結合についての500nM メチルトリエノロンの存在下で測定される。結合反応液(140μL)は4℃で一晩インキュベーションされ、次いで70μlの冷炭末−デキストラン緩衝液(50mlの分析緩衝液あたり0.75gの炭末および0.25gのデキストランを含む)が各反応液に加えられる。プレートは、4℃で8分間、オービタルシェーカーで混合される。次いでプレートは4℃で10分間、3,000rpmで遠心分離される。次いで、結合反応混合物の120μLのアリコートが別の96ウェルプレートに移され、各ウェルに175μLのWallac Optiphase Hisafe 3(商標)シンチレーション流体が添加される。プレートは密封され、オービタルシェーカーで激しく振盪される。2時間のインキュベーション後、プレートはWallac Microbeta カウンタで読み取られる。
【0033】
データは、10μMにおける推定のIC50および阻害%を算出するために使用される。GR結合についての[H]−デキサメタゾン、AR結合についての[H]−メチルトリエノロン、MR結合についての[H]−アルドステロン、またはPR結合についての[H]−メチルトリエノロンに対するKdは、飽和結合により決定される。化合物についてのIC50値はCheng−Prusoffの式を使用してKiに変換される。
【0034】
上述した手順と同様の結合分析手順は、当業者は容易に策定することができる。基本的に上述した手順に従うと、化合物(I)は以下の受容体結合プロフィールを示す。
【0035】
【表3】


(Ki値は5個体による測定の平均を示す)
【0036】
ステロイドホルモン受容体の活性を調節する(すなわち、作動させる、部分的に作動させる、部分的に拮抗させる、または拮抗させる)という本発明の化合物の能力を実証するために、核受容体タンパク質およびホルモン応答エレメント−レポーター遺伝子構築物で一過性にトランスフェクトされた細胞における標的遺伝子発現の機能調節を検出するバイオアッセイが実施される。機能分析で用いる溶媒、試薬、およびリガンドは商業的供給元から容易に入手可能であるか、または当業者が調製できる。
【0037】
(核ホルモン受容体機能調節分析)
ヒト胎児腎臓細胞HEK293細胞は、Fugene(商標)(Roche Diganostics)トランスフェクション試薬を使用してステロイドホルモン受容体およびレポーター遺伝子プラスミドでトランスフェクトされる。手短に言えば、プロバシン(probasin) ARE(アンドロゲン応答エレメント5’GGTTCTTGGAGTACT3’(配列番号1))およびルシフェラーゼレポーターcDNAの上流のTK(チミジンキナーゼ)プロモーターの2つのコピーを含有するこのレポータープラスミドは、ウイルス性CMV(サイトメガロウイルス)プロモーターを使用して、ヒトアンドロゲン受容体(AR)を構成的に発現するプラスミドを用いてHEK293細胞にトランスフェクトされる。GRE(グルココルチコイド応答エレメント5’TGTACAGGATGTTCT’3(配列番号2))およびルシフェラーゼレポーターcDNAの上流のTKプロモーターの2つのコピーを含むこのレポータープラスミドは、ウイルス性CMVプロモーターを使用して、ヒトのグルココルチコイド受容体(GR)、ヒトのミネラルコルチコイド受容体(MR)、またはヒトのプロゲステロン受容体(PR)を構成的に発現するプラスミドを用いてトランスフェクトされる。細胞は、T150cmフラスコのDMEM培地中で5%の炭末を除いた(charcoal−stripped)ウシ胎仔血清(FBS)とともにトランスフェクトされる。一晩インキュベーションの後、トランスフェクトされた細胞はトリプシン処理され、96ウェルの皿中で5%の炭末を除いたFBSを含むDMEM培地中にプレートされ、4時間インキュベーションされ、約0.01nM〜10μMの範囲の種々の濃度の試験化合物に曝される。この試験についてのアンタゴニストモードにおいて、各々それぞれの受容体に対する低濃度のアゴニストは培地(GRについて0.25nMのデキサメタゾン、ARについて0.3nMのメチルトリエノロン、PRについての0.05nMのプロメゲストンおよびMRについて0.05nMのアルドステロン)に添加され、試験化合物がアゴニスト反応に拮抗できる能力が決定される。試験化合物との24時間のインキュベーション後、細胞が溶解され、標準的な技法を用いてルシフェラーゼ活性が測定される。
【0038】
データは4つのパラメータでフィットさせるロジスティック曲線近似にフィットされ、EC50値が決定される。効力%(飽和最大反応を有する化合物)または最大刺激%(飽和していない最大反応を有する化合物)は、以下の基準アゴニスト:AR分析について100nMメチルトリエノロン、PR分析について30nM プロメゲストン、MR分析について30nM アルドステロン、およびGR分析について100nM デキサメタゾンを用いて得られる最大刺激に対して決定される。IC50値は、アンタゴニストモードの分析データを使用して同様に決定することができる。阻害%もまた、上で説明したようにして、アゴニストのみの存在下での反応に対して決定することができる。
【0039】
上で説明したのと同様の核ホルモン受容体調節についての機能分析は、当業者が容易に策定することができる。基本的に上述した手順に従うと、化合物(I)はヒトGR、ヒトAR、ヒトMRおよびヒトPRによって媒介される転写を活性化することにおいて以下のプロフィールを示す。
【0040】
【表4】


「nd」は10μMよりも大きい値であることを示す。
*10μMにおける効力%。
(EC50および%効力の値は、3個体での測定値の平均を表す)
【0041】
(グルココルチコイド受容体媒介性転写抑制分析)
(1.ヒト皮膚線維芽細胞CCD−39SK細胞におけるIL−1β刺激性IL−6産生)
手短に言えば、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)(米国、バージニア州、マナッサス)から入手したヒト皮膚線維芽細胞CCD−39SK細胞(20,000細胞/ウェル)(ATCC カタログ番号CRL−1501)が、96ウェルプレート中の、10%ウシ胎仔血清(FBS)、100U/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシンおよび2mmol/L Lグルタミンを補ったSF−GM(MEM)培地(ATCC カタログ番号30−20030)中に播種される。細胞は、37℃で、5%COとともに加湿されたチャンバに維持される。試験化合物が約4.65pM〜4.64μMの最終濃度範囲の種々の濃度でこのウェルに加えられる。0.1μMのデキサメタゾンが陽性対照として使用される。試験化合物による処理の1時間後に、IL−1βが1ng/mLの最終濃度で加えられ、この反応混合物は一晩インキュベーションされる。IL−6濃度は、標準的な技法を使用して、ELISAキット(R&D Systems,Inc.,米国、ミネソタ州、ミネアポリス)を用いて測定される。手短に言えば、各ウェルから10μLの上清を取り出して、90μLの分析緩衝液を加える。IL6濃度は、450nmにおける吸光度を読み取ることにより定量される。吸光度対IL−6濃度の標準曲線が構築され、実験試料におけるIL−6の濃度を測定するために使用される。
【0042】
(2.PMA分化U937細胞におけるLPS刺激性TNF−α産生)
ヒトU937単球(pre−monocytic)細胞(ATCC カタログ番号CRL−1593.2)が10%ウシ胎仔血清(FBS)を含有する完全RPMI 1640培地(ATCC カタログ番号30−2001)中で増殖される。単球を接着性マクロファージへと分化させるために、U937細胞は(カルシウム、マグネシウムを欠く)PBS中で洗浄され、20nMホルボール12−ミリスチン酸−13−アセテート(PMA)を含有する新しいRPMI培地中に一晩再懸濁される。分化後、試験化合物が、約4.65pM〜4.64μMの範囲の種々の濃度で96ウェルプレート中でこの細胞に添加される。試験化合物による処理の1時間後、LPSが100ng/mLの最終濃度で添加され、反応混合物は一晩インキュベーションされる。
【0043】
TNF−α産生は、標準的な技法を使用して、ELISAキット(R&D Systems,Inc.,米国、ミネソタ州、ミネアポリス)を用いて測定される。手短に言えば、25μLの細胞を欠く上清を別の96ウェルプレートに移し、75μLの分析緩衝液が添加される。TNF−αは450nmにおける吸光度を読み取ることにより定量される。吸光度対TNF−α濃度の標準曲線が構築され、実験試料におけるTNF−αの濃度を測定するために使用される。
【0044】
基本的に上で説明したとおりの手順に従うと、化合物(I)は、IL−6およびTNF−αの内因性発現の約90%以上の最大阻害を誘発し、それぞれ約4.8nMおよび30nMのEC50値を示す(IL−6分析のデータは22個体における測定値の平均を表し、TNF−α分析のデータは6個体における測定値の平均を表す)。
【0045】
(動物モデル)
(1.カラギーナン惹起足浮腫(CPE)モデル)
カラギーナンは、動物において急性炎症反応を誘発することがある一群の多糖類である。浮腫、痛覚過敏および紅斑を含めた炎症の主な兆候は、注入後にその注入部位で発症される。CPEモデル(Winterら,Proc.Soc.Exp.Biol.Med.111,544−547,1962)は、広く認められている炎症のモデルであり、グルココルチコイド受容体リガンドの抗炎症性効果を評価するために使用することができる。
【0046】
化合物(I)の抗炎症性効果を評価するために、化合物(I)は0.5%カルボキシメチルセルロースおよび0.25%Tween80を含むビヒクルに処方され、雄性のSprague−Dawleyラット(180〜200g)(Harlan Industries、インディアナ州、インディアナポリス)に強制飼養によって経口投与される。比較のために、プレドニゾロンが同一のビヒクルで経口投与される。2時間後、0.9%発熱物質を欠く生理食塩水50μL中の1%カラギーナンが右後足の足底下(subplantar)領域に注射される。カラギーナン注射の3時間後、ラットはCOによって安楽死させられる。足が取り出され、微量天秤を使用して秤量される。足は、直ちに凍結するまで液体窒素に浸漬される。凍結した足は、足の表面上にいくつかの切り込みを入れることによって切開され、次いで遠心分離にかけられ浸出液が抽出される。炎症反応の際に生成されるサイトカインであるIL−1βの浸出液濃度は、標準的な技法を使用してELISA(R&D Systems,Inc.,カタログ番号RLB00)によって測定される。足のタンパク質全体も、タンパク質分析キット(Pierce Biotechnology,Inc.,米国、イリノイ州、ロックフォード、カタログ番号1856210)を使用して測定され、ng IL−1β/mg全タンパク質の濃度値を得るためにIL−1βの絶対濃度は正規化される。
【0047】
化合物(I)は、約1.2mg/kgのED50でカラギーナンが惹起する足重量の増加を阻害する。化合物(I)はまた、約0.31mg/kgのED50でIL−1βの足浸出液濃度を低下させる。逆に、このモデルにおけるプレドニゾロン治療は、約6.6mg/kgのED50で足重量の増加を阻害し、約1mg/kg未満のED50でIL−1β濃度を低下させる(ED50値は、5個体における測定値の平均を表す)。
【0048】
(2.血清オステオカルシン分析)
骨量の減少/骨粗しょう症およびその結果生じる骨折の危険性の上昇は、グルココルチコイド療法から生じる一般的かつ重大な副作用である。グルココルチコイド惹起骨粗しょう症は、少なくとも一部は骨形成の阻害から生じると考えられている。骨合成の生物学的マーカーである血清オステオカルシンの測定は、グルココルチコイド療法の骨に対する副作用を評価するための広く認められたツールである。(Pearceら,J.Clin.Endocrino.Metab.83:801−806,(1998)を参照)。
【0049】
骨形成に対する化合物(I)の効果を評価するために、化合物(I)は5%カルボキシメチルセルロースおよび0.25%Tween80を含むビヒクルに処方され、7日間、強制飼養によって16週齢の雄性のSwiss−Webマウス(Harlan Industries,インディアナ州、インディアナポリス)に経口投与される。比較のために、プレドニゾロンが同一のビヒクルで経口投与される。最後の用量の24時間後に血清が採取され、96ウェル形式に改変された競合ラジオイムノアッセイ(RIA)キット(Biomedical Technologies,Inc.、マサチューセッツ州、ストートン)を使用してオステオカルシン濃度が測定される。手短に言えば、Multiscreen(商標)プレート(MAHV N45,Millipore、マサチューセッツ州、ベッドフォード)の2.5μL マウス血清、2.5μL ヤギ抗マウスオステオカルシン、0.625μL 正常ヤギ血清、および119.375μL RIA緩衝液(0.1225M NaCl、0.01M NaHPO、pH7.4、0.025M EDTA四ナトリウム、0.1%(w/v)BSA、および0.1%(w/v)Tween−20)を含有する各ウェルが、4℃で18時間、オービタルシェーカーで80rpmでインキュベーションされる。各ウェルに25μl RIA緩衝液中の0.2μCi/ml [125I]マウスオステオカルシンを加えた後、このプレートは4℃で24時間、オービタルシェーカーで80rpmでインキュベーションされる。0.2M NaHPO、pH7.4、5%(w/v)ポリエチレングリコール中のロバ抗ヤギIgG(1:30)を、1ウェルあたり125μL加えることにより、25℃で2時間複合体の沈殿が形成される。この沈殿は真空濾過によって集められ、1ウェルあたり100μLの蒸留水(dHO)で1回洗浄される。ろ紙は穴を開けられ、γ線計数器(Cobra II,Packard Instruments、コネティカット州、メリデン)で放射活性が定量される。試験試料からのフィルターで検出された放射活性は血清オステオカルシン濃度に反比例する。精製したマウスオステオカルシンの標準曲線が、試験試料中の血清オステオカルシン濃度を算出するために使用される。
【0050】
ラットのCPEモデルで決定されたED50値に近い1日投与量(化合物(I)の1mg/kg/日とプレドニゾロンの10mg/kg/日と)を比較すると、化合物(I)はプレドニゾロンよりも血清オステオカルシン濃度の低下を誘発しない(血清オステオカルシン濃度は6個体における測定値の平均を表す)。
【0051】
上述したように、化合物(I)は、患者治療および医薬開発の分野における他の制約に対処するさらなる技術的効果または有利な特性を有する。例えば化合物(I)は、試験動物に対する経口投与後に良好なバイオアベイラビリティおよび良好な血漿曝露を示す。加えて化合物(I)は、生体外でヒト肝細胞培養物とインキュベーションした場合に、わずかの代謝を示すに過ぎない。さらに、化合物(I)の生体内投与後のラット、イヌおよびサルの血漿の代謝プロファイリングによって、化合物(I)が主要な循環物であり、サルの血漿では代謝物が検出されないことが示された。さらに、遺伝毒性の潜在性についての生体外分析および生体内研究で検討した場合では、化合物(I)は遺伝毒性がないようである。これらの特性および他の特性を考慮すると、化合物(I)は、治療薬を反復的にまたは長期間にわたって投与することがしばしば必要になる慢性の炎症性疾患または免疫障害の治療に特に適していると考えられる。
【0052】
患者治療に恩恵を与える特性に加えて、化合物(I)は、医薬開発を促すなおさらなる利点を有している。例えば、化合物(I)は結晶形態で単離することができる。所望の生物学的特性を有することに加えて治療薬が特定の物理的性質をも有することが望ましいことは理解できるであろう。具体的にいえば、安定な結晶性固体である化合物は、化学合成、精製、貯蔵、および処方または剤形開発に関する従来の発想に受け入れられ易いため、そのような化合物は所望される。本願明細書において使用する場合の「結晶形態」または「結晶形」とは、同一の元素組成の他の形態からある固体形態を際立たせる特徴的な結晶配列を有する、ある化学種の固体形態をいう。本願明細書において使用する場合の「実質的に純粋な結晶形態」は、約95%よりも多いその特定の結晶形態、好ましくは約98%よりも多いその特定の結晶形態を含むその化学種の純粋な結晶形をいう。
【0053】
特定の結晶形は、X線粉末回折(XRPD)、分光学的方法(例えば、赤外(IR)または核磁気共鳴(NMR)分光法)、および熱分析技術(例えば、示差走査熱量測定(DSC)、熱重量分析(TGA)、または示差熱分析(DTA))を含めて、従来の技法を使用して特徴付けることができ、従って同一の化学種の他の固体形態から区別することができる。XRPDは化学種の結晶形を特徴付けるための特に有用な手段であるが、分析される試料および機器、溶媒、または用いた手順に依存して、同一の結晶形を分析した場合でも分析ごとにX線パターンにおける実際のピーク強度は変わる可能性があることは理解されるであろう。さらに、所定の結晶形の分析から得られる°2θ単位で測定される正確なピーク位置は分析ごとに変わる(例えば±0.1°)可能性があるが、ピーク位置の相対的なパターンは、スペクトル間で基本的に同一のままであることも理解されるべきである。
【0054】
本発明は、結晶形態の化合物(I)を提供する。より具体的に言えば本発明は、約10.9、18.8、および22.9の°2θに特徴的なピークを有する結晶形態の化合物(I)の遊離塩基(本願明細書中の実施例における結晶形I)を提供する。さらに本発明は、約4.5、9.0、11.5、および14.7の°2θに特徴的なピークを有する結晶形態の化合物(I)の遊離塩基(本願明細書中の実施例における結晶形II)を提供する。さらにより具体的に言えば、本発明は、実質的に純粋な結晶形態の化合物(I)の結晶形Iおよび結晶形IIの各々を提供する。さらに、化合物(I)は吸湿性ではなく、高い温度、相対湿度および光への曝露の条件下でも安定である。
【0055】
粒径は医薬品の生体内での溶解に影響を及ぼす可能性があり、ひいてはその薬剤の吸収にも影響を及ぼす可能性があることも当業者は理解するであろう。本願明細書において使用する場合の「粒径」は、レーザー光散乱、レーザー回折、ミー散乱、沈降場流動分画法、光子相関分光法などの慣用的な技法によって測定される場合の医薬品粒子の直径をいう。医薬品の溶解性が低い場合、小さいまたは小さくした粒径は溶解を助ける可能性があり、従ってその薬剤の吸収を高める可能性がある。Amidonら,Pharm.Research,12;413−420(1995)。粒径を小さくするかまたは制御するための方法(微粉化)は慣用的であり、これにはボールミル粉砕、ピンミル粉砕、ジェットミル粉砕、湿式粉砕などが含まれる。粒径を制御するための別の方法には、ナノ懸濁液中で医薬品を調製することがある。
【0056】
化合物(I)の化学調製によって特定の粒径を有する結晶が得られることが見出された。特に、本願明細書中に記載される実施例1(a)に基本的に従って調製した場合に、化合物(I)の遊離塩基の試料は、20μm未満の平均粒径および50μm未満のd90粒径(すなわち、粒子の90%がこの値よりも小さいかそれに等しいことを表す粒径)を提供する(粒径はBeckman Coulter LS13 320レーザー回折粒径アナライザを使用して測定した)。さらに、基本的に,本願明細書中の実施例6および実施例7に記載されるようにして調製した場合、化合物(I)の遊離塩基の微粉化した試料は、10μm未満のx50粒径(すなわち、その粒子の50%がこの値よりも小さいかそれに等しいことを表す粒径)および20μm未満のx90粒径(すなわち、その粒子の90%がこの値よりも小さいかそれに等しいことを表す粒径)を提供する(粒径は、Sympatec(HELOS粒径分析システム)レーザー回折粒径アナライザを使用して測定した)。従って、本発明の特定の実施形態は、20μm未満の平均粒径および50μm未満のd90粒径を有する化合物(I)の遊離塩基、またはかかる化合物(I)の遊離塩基を含む医薬組成物である。より具体的な実施形態は、15μm未満の平均粒径および40μm未満のd90粒径を有する化合物(I)の遊離塩基、またはかかる化合物(I)の遊離塩基を含む医薬組成物である。さらにより具体的な実施形態は、10μm未満のx50粒径および20μm未満のx90粒径を有する化合物(I)の遊離塩基、またはかかる化合物(I)の遊離塩基を含む医薬組成物である。なおより具体的な実施形態は、5μm未満のx50粒径および15μm未満のx90粒径を有する化合物(I)の遊離塩基、またはかかる化合物(I)の遊離塩基を含む医薬組成物である。さらに、ナノ懸濁液中の化合物(I)の例は本願明細書中の実施例に提供される。
【0057】
化合物(I)の調製方法は当該技術分野で公知である。例えば、国際公開第04/052847号パンフレットは、採用することができる一般的手順を提供する。さらに国際公開第05/066161号パンフレットは、採用することができるさらなる一般的手順を提供する。以下のスキーム、中間体、および実施例は本発明を例証し、化合物(I)の代表的な合成法を示す。試薬および出発物質は当業者にとって容易に入手可能であるか、または当業者によって容易に合成できるものである。スキーム、中間体、および実施例は例証のために提示されているのであって限定のためではないこと、および改変は当業者によってなされ得ることを理解するべきである。
【0058】
本願明細書において使用する場合の「DMSO」はジメチルスルホキシドを指す。「DIAD」はジイソプロピルアゾジカルボキシレートを指す。「ADDP」は1,1’−(アゾジカルボニル)ジピペリジンを指す。「THF」はテトラヒドロフランを指す。「DMF」はジメチルホルムアミドを指す。「TMSCN」はシアン化トリメチルシリルを指す。「TEA」または「EtN」はトリエチルアミンを指す。「DME」は1,2−ジメトキシエタンを指す。「AcOEt」は酢酸エチルを指す。「pyr」はピリジンを指す。「MsCl」はメタンスルホニルクロリドを指す。「EtNH」はジエチルアミンを指す。「MeOH」はメタノールを指す。「PhCH」はトルエンを指す。「PhH」はベンゼンを指す。「PBu」はトリブチルホスフィンを指す。「PPh」はトリフェニルホスフィンを指す。「dppf」は1,1’−ビス(ジフェニルホスファニル)フェロセンを指す。「NaO−t−Bu」はナトリウム tert−ブトキシドを指す。「MTBE」はtert−ブチルメチルエーテルを指す。
【化2】

【0059】
ピリジン中間体(5)、(6)、および(7)の調製がスキームIに説明されている。スキームI、ステップ1において、3−ブロモピリジン(1)は3−ブロモ−ピリジン−N−オキシド(2)に酸化される。スキームI、ステップ2において、シアン化物置換によって3−ブロモ−ピリジン−2−カルボニトリル(3)が得られる。式(3)のニトリルはステップ3でカルボン酸へと加水分解され、酸触媒反応によって式(4)のエステルへとエステル化される。スキームI、ステップ4において、このエステルは水素化ホウ素ナトリウムを用いて式(5)のピリジニルメタノールへと還元される。このピリジニルメタノールはメタンスルホニルクロリドを用いて式(6)のメシレートに変換される(ステップ5)か、または塩化チオニルを用いて式(7)のピリジニルメチルクロリドに変換される(ステップ6)。
【化3】

【0060】
化合物Iである最終のベンゾピリジル−10−オキセピンの合成がスキームIIに説明されている。スキームII、ステップ1において、式(8)のアニリンの改良したザンドマイヤー反応によって式(9)の5−クロロ−2−ヨードフェノールが得られる。
【0061】
スキームII、ステップ2において、5−クロロ−2−ヨードフェノールと式(5)のピリジニルメタノールとの間のMitsunobu反応によって式(10)のヨードアリールエーテルが得られる。他の適切な試薬としては、THF中でのDIADおよびトリフェニルホスフィンが挙げられる。あるいは、ステップ3において、式(10)のヨードアリールエーテルは、THFまたはアセトニトリルなどの不活性溶媒中、ナトリウム t−ブトキシド、カリウム t−ブトキシド、または炭酸カリウムなどの塩基を使用して、式(6)のピリジンメチルメシレートまたは式(7)のクロリドを用いたアルキル化によって得られる。
【0062】
スキームII、ステップ4において、式(10)のヨードアリールエーテルは、薗頭カップリングで1ブチンで処理され、式(11)のアルキニルアリールエーテルを与える。この反応はジエチルアミン/アセトニトリル/THFの混合物を使用して行われ、1ブチンはこの反応混合物にバブリングされる。あるいは、この反応はトリエチルアミンを塩基として用いて行われ、1ブチンの24%wt/wt DMF溶液で処理される。
【0063】
スキームII、ステップ5およびステップ6において、式(11)のアルキニルアリールエーテルの白金触媒によるジホウ素化は、式(12)のジボロン酸エステルを与え、これは分子内Suzukiカップリングによって式(13)のビニルボロン酸エステルを生成する。
【0064】
スキームII、ステップ7において、ビニルボロン酸エステル(13)と3−ヨードアニリンとの間の分子間Suzukiカップリングは、式(14)のアニリンを与える。式(14)のアニリンの精製を改善するために、アニリンを適切な酸で処理して塩を形成させてもよい。例えば、式(14)アニリンをトルエンスルホン酸で処理して式(14)のアニリンをジトルエンスルホン酸塩として得てもよい。
【0065】
スキームII、ステップ8において、このアニリンは、メタンスルホニルクロリドでスルホニル化され、化合物(I)である最終のベンゾピリジル−10−オキセピンを与える。あるいは、スキームII、ステップ9において、化合物(I)であるベンゾピリジル−10−オキセピンは、N−(3−ヨード−フェニル)−メタンスルホンアミドとのSuzukiカップリングを行うことにより直接得られる。化合物(I)は、例えば、メタノールからの再結晶により精製することができる。
【化4】

【0066】
式(11)のアルキニルアリールエーテルの代替的合成がスキームIIaに説明されている。
【0067】
スキームIIa,ステップ1において、式(9)の5−クロロ−2−ヨードフェノールは式(9a)のテトラヒドロピラン(THP)エーテルとして保護される。この反応はジクロロメタンなどの不活性溶媒中、p−トルエンスルホン酸ピリジニウムなどの酸触媒の存在下で行われる。3,4−ジヒドロ−2H−ピランが約30℃以下で添加され、この反応は約室温で10〜24時間行われる。
【0068】
スキームIIa、ステップ2において、式(9a)のヨードベンゼンは薗頭カップリングで1ブチンで処理され、式(9b)のアルキニルベンゼンを与える。この反応は、酢酸エチルなどの不活性溶媒およびジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)などのパラジウム触媒、およびヨウ化銅(I)とともにトリエチルアミンを用いて行われる。1−ブチンは約0〜10℃の温度で加えられ、この反応は約室温で約10〜24時間行われる。ワークアップ後、生成物はシリカゲルクロマトグラフィおよびヘプタン/トリエチルアミンからの再結晶によって精製することができる。
【0069】
ステップ3において、式(9b)のTHPエーテルは、酸性条件を使用して式(9c)のアルキニルフェノールに脱保護される。特定の条件下では、アルコール系溶媒(メタノールなど)中で触媒量の鉱酸(塩化水素酸など)が使用される。この反応は0℃〜室温で30分間〜6時間行われる。
【0070】
スキームIIa、ステップ4において、式(9c)のアルキニルフェノールは、THFまたはアセトニトリルなどの不活性溶媒中でナトリウム t−ブトキシド、カリウム t−ブトキシド、または炭酸カリウムなどの塩基を使用して式(6)のピリジンメチルメシレートでアルキル化される。特定の条件下では、THF中でナトリウム t−ブトキシドが使用される。ナトリウム t−ブトキシドは、0℃より低い温度でメシレートおよびフェノールの溶液に加えられ、次いで室温で24〜72時間撹拌される。抽出によるワークアップ後、生成物はエタノールから再結晶される。
【化5】

【0071】
化合物(I)である最終のベンゾピリジル−10−オキセピンの代替的合成がスキームIIIに説明されている。スキームIII、ステップ1において、トリメチルシリル−(アセチレン)と式(15)の3−ヨードニトロアニリンとの間の薗頭反応により、式(16)のトリメチルシリルアルキンが得られ、これは脱シリル化によりスキームIII、ステップ2の式(17)のアルキンに変換される。
【0072】
スキームIII、ステップ3において、典型的な薗頭反応の条件を使用して、(17)は式(18)のピリジニルメタノールとカップリングされ、式(19)のジアリールアルキンを与える。スキームIII、ステップ4において、ジアリールアルキン(19)と式(9)の5−クロロ−2−ヨードフェノールとの間のMitsonobu反応は式(20)のビアリールアルキニルヨードアリールエーテルを与える。代表的な条件としては、塩化メチレン中でトリフェニルホスフィンおよびDIADを使用することが挙げられる。
【0073】
スキームIII、ステップ5において、ビアリールアルキニルヨードアリール(20)は、三量体ビニルボロン酸無水物の存在下でパラジウム触媒による分子内Heck−Suzukiカスケード反応を介して式(21)のピリジルオキセピンに変換される。最適化された条件としては、DME:水(4:1の体積比)中のビアリールアルキニルヨードアリール(20)、2mol%酢酸パラジウム(II)、2当量の炭酸ナトリウムの混合物に90℃で無水ボロン酸をゆっくり加えることが挙げられる。
【0074】
スキームIII、ステップ6において、Pd/Cによるピリジルオキセピン(21)の二重結合およびニトロ基の両方のワンポット水素化は、式(14)のアニリンを与える。スキームIII、ステップ7において、このアニリンは、ピリジン塩基を使用してメタンスルホニルクロリドでスルホニル化され、化合物(I)である最終のベンゾピリジル−10−オキセピンを与える。
【実施例】
【0075】
(機器分析)
GC−MS分析は、温度プログラミング(7.3分間60〜280℃、次いで280℃で2分間)を使用して、Agilent 0.25mm×15m×0.25μmキャピラリーカラムを備えたHP6890 Series GC−MS(70eV)で実施することができる。LC−MS分析は、Waters Xterra(商標)MS C18 4.6mm×50mm 3.5μmカラムおよび大気圧化学イオン化(APCI)を使用するAgilent 1100 Series HPLCで実施することができる。通常、分析は80%メタノール:水から100%メタノールへの勾配を使用して実施される。あるいは、LC−MS分析は、Waters XTerra C18 2.1×50mm 3.5μmカラムおよびエレクトロスプレーイオン化を使用して実施することができる。溶媒系は、0.2%ギ酸NHを含む5〜100%アセトニトリル/MeOH(50/50)である。H NMRスペクトルは、周囲温度でVarian 400MHz分光計を用いて記録することができる。データは以下のように報告する:δスケールによる内部標準のテトラメチルシランからのppm単位の化学シフト、多重度(b=ブロード、s=一重線、d=二重線、t=三重線、q=四重線、qn=五重線およびm=多重線)、積分、カップリング定数(Hz)および帰属。X線粉末回折(XRPD)パターンは、CuKα線源(λ=1.54056Å)および固体電子検出器(electronic solid−state detector)を備え、40kVおよび40mAで動作するBruker D8 Advance XRPD粉末回折計で得ることができる。制御された可変の(v12)発散スリットおよび受光スリットおよび0.2mm検出器スリットを用いて、2θ単位で0.02°の刻み幅、3秒/ステップの走査速度で、各試料を°2θ単位で4°と40°との間で走査した。あるいは、X線粉末回折分析は、Bruker D8 Advance回折計で実施することもできる。この場合、0.6mm発散スリット、0.6mm散乱線除去スリット、0.1mm受光スリットおよび0.6mm検出器スリットを用いて、2θ単位で0.02°の刻み幅および5秒/ステップの走査速度で、°2θ単位で2°と45°との間で試料を走査した。示差走査熱量測定(DSC)分析は、Mettler−Toledo DSCユニット(モデル822)で実施することができる。50mL/分の窒素パージを加えながら、ピンホールを開けた密閉したアルミニウムパン中で5℃/分で30〜300℃に試料を加熱した。示差熱分析(DTA)および熱重量分析(TGA)は、Mettler Toledo DTAおよびTGAユニット(モデルTGA/SDTA 851)で実施することができる。50mL/分の窒素パージを加えながら、ピンホールを開けた密閉したアルミニウムパン中で10℃/分で25℃から300〜350℃に試料を加熱した。TGA温度はインジウム/アルミニウム標品、m.p.=156.6℃および660.3℃で較正した。重量較正は、製造業者が供給している標品を用いて実施し、クエン酸ナトリウム脱水脱溶媒和に対して検証した。本発明の化合物の化合物名は、通常ChemDraw Ultra(商標)、バージョン7.0.1が名付けたものを採用した。
【0076】
(中間体1)
(5−クロロ−2−ヨード−フェノール)
【化6】

2−アミノ−5−クロロフェノール(5.7g、40mmol)をDMSO/水/HSO(200/60/140mL)に溶解させ、0℃に冷却した。この溶液に水(20mL)中の亜硝酸ナトリウム(4.1g、60mmol)を加え、混合物を0℃で1時間撹拌した。この混合物に水(20mL)中のヨウ化カリウム(19.9g、120mmol)を加え、混合物を室温で1時間撹拌した。水(20mL)中のヨウ化カリウム(19.9g、120mmol)の別のバッチを加え、混合物を室温で1時間撹拌した。混合物を酢酸エチルで希釈し、水、飽和硫酸ナトリウム水溶液、およびブラインで洗浄した。有機部分をMgSOで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮した。生成した残渣をフラッシュクロマトグラフィ(Biotage(商標)Si65M、20%酢酸エチル/ヘキサン)によって精製し、8.09g(79%)の標題の化合物をピンク色の固体として得た。GCMS m/e 254[M]
【0077】
(代替的手順)
50Lの3つ口丸底フラスコにメカニカルスターラー、滴下ロート、窒素導入口、乾燥管および熱電対を取り付け、冷却浴中に置いた。水(4.5L)をこのフラスコに入れ、撹拌を開始し、反応液を0℃に冷却した。温度を30℃以下に維持ながら、硫酸(3.7L)を滴下した。温度を30℃以下に維持ながら、20分間かけて2−アミノ−5−クロロフェノール(1500g)をこのフラスコに入れた。温度を30℃以下に維持ながら、1時間かけてDMSO(12L)を滴下した。反応混合物を−5℃〜0℃に冷却した。温度を0℃以下に維持ながら、1時間45分かけて水(6L)中の亜硝酸ナトリウム(1082g)の溶液を滴下した。添加終了後、反応混合物を0℃以下の温度で少なくとも1時間撹拌した。50Lの3つ口丸底フラスコにメカニカルスターラー、滴下ロート、窒素導入口、および熱電対を取り付け、加熱マントル中に置いた。ヨウ化カリウム(6.9kg)および水(7.5L)をこのフラスコに入れ、撹拌を開始し、反応物を48℃〜50℃に加熱した。ガスを放出するための2つの冷却器を使用して温度を48℃〜50℃に維持しながら、2−アミノ−5−クロロフェノールジアゾ化溶液をこのフラスコに少しずつ加えた。反応混合物を48℃〜50℃で2時間加熱した。このあと、加熱を止め、反応液を周囲温度で一晩撹拌した。反応の進行はTLC(ヘプタン:EtOAc、9:1)でモニタリングした。出発物質はR=0.3に観察され、生成物はR=0.6に観察される。出発物質が観察されなくなった時に反応が完了したとみなした。反応が完了すると、反応混合物をMTBE(16L)で希釈し、20分間撹拌した。反応混合物を分液ロートに移し、有機層を水層から分離した。有機層をNa(3kg)および水(12L)の溶液で洗浄し、5〜10分間撹拌した。有機層を分離し、同じ洗浄手順をさらに2回繰り返した。有機層を水層から分離し、すべての洗浄水を廃棄した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(4L)で洗浄した。有機層を水層から分離し、有機層をブライン(4L)で洗浄した。有機層を分離し、硫酸マグネシウムで乾燥し、活性炭で処理し、濾過し、濃縮した。油ポンプを用いて、生成した残渣をヘプタン(1L)と同時エバポレーションし、残存溶媒を除去した。残渣の褐色油状物(2880g)をヘプタン(1mL/g)に溶解させ、この溶液を冷凍庫中に一晩置いた。固体を濾過により集め,冷ヘプタン(2×600mL、0℃)で洗浄し、真空オーブン中で、周囲温度で一晩乾燥した。褐色の固体を得た。
【0078】
(中間体2)
(3−ブロモ−ピリジン 1−オキシド)
【化7】

メチルトリオキソレニウム(100mg、0.401mmol)をジクロロメタン(40mL)に溶解させ、3−ブロモピリジン(15.8g、100mmol)を添加し、次いで30%H水溶液(22.7mL)を添加した。この二相混合物を室温で撹拌した。18時間後、MnO(25mg、0.29mmol)を加え、この混合物を室温で2時間撹拌した。混合物をジクロロメタンで抽出し、合わせた抽出液をブラインで洗浄し、MgSOで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮し9.52g(55%)の標題の化合物を橙色油状物として得た。GCMS m/e 174[M−H]
【0079】
(代替的手順)
22Lの3つ口丸底フラスコにメカニカルスターラーおよび熱電対を取り付けた。このフラスコに3−ブロモピリジン(3169g、20mol)、ジクロロメタン(8.2L)およびメチルトリオキソレニウム(10g)を入れた。冷水道水浴を使用してこの反応混合物を18℃に冷却し、30%過酸化水素水溶液(3.07L、30mol)を約15分間にわたって少しずつ添加した。この反応はわずかに発熱性であり、温度を20〜25℃に維持するために氷を冷却浴に加えた。この反応混合物を、浴中、室温で一晩撹拌した(この浴を空にしてはいけない)。反応の進行をTLC(ヘプタン:EtOAc、1:l)でモニタリングした。出発の3−ブロモピリジンはR=0.6を有し、生成物がR=0.1を有することが判明した。痕跡量の出発物質が一晩の撹拌後にも存在するかも知れず、この反応液をワークアップしてもよいし、さらに8〜24時間撹拌してもよい。反応が完了したと判断すると、二酸化マンガン(31g、10ミクロン未満)を泡立ちを制御する速度で少しずつ加え、温度を20〜25℃に維持した。温度が上昇する場合には、冷却水浴に氷を加えてもよい。泡立ちを観察した場合は、さらに二酸化マンガンを加えてもよい。新しい二酸化マンガンを加えた後にもはや泡立ちが観察されない場合には、固体の塩化ナトリウム(860g)を加え、反応混合物をもう30分間室温で撹拌した。反応混合物を分液ロートに移し、有機層を分離した。水層をジクロロメタン(3×2.5L)で抽出した。各有機層からの抽出液を、TLCを用いてモニタリングしてもよい。最後の抽出の後に生成物が存在すれば、水層を濾過してもよく、次いで追加の塩化ナトリウム(500g)を加えてもよく、混合物を撹拌してその塩を溶解させてもよい。次いで水層をジクロロメタン(3×2L)で抽出した。合わせた有機部分を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、濃縮した。淡黄色の油状物がフラスコに残留した。この物質を、3−ブロモピリジン−2−カルボニトリルを調製するために直接使用した。
【0080】
(中間体3)
(3−ブロモ−ピリジン−2−カルボニトリル)
【化8】

3−ブロモ−ピリジン 1−オキシド(9.4g、54mmol)をアセトニトリル(60mL)に溶解させ、トリエチルアミン(15mL)を加え、次いでシアン化トリメチルシリル(21.7mL、163mmol)を加えた。この混合物を100℃に加熱し、16時間撹拌した。混合物をto0℃に冷却し、250mLの5M NaOH水溶液に注ぎ込み、ジクロロメタンで抽出した。合わせた抽出液をブラインで洗浄し、MgSOで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮した。生成物をフラッシュクロマトグラフィ(Biotage(登録商標)Si65M、20%酢酸エチル/ヘキサン)を使用して精製し、7.8g(79%)の標題の化合物を黄色固体として得た。GCMS m/e 182、184[M]
【0081】
(代替的手順)
50Lの3つ口丸底フラスコにメカニカルスターラー、熱電対、窒素導入口、効率よい還流冷却器、および乾燥管を取り付けた(シアン化トリメチルを加える間は乾燥管を取り付けてはいけない)。このフラスコに、3778g(約20mol)の粗3−ブロモピリジン−N−オキシド(例えば、基本的に中間体2についての代替的手順で説明したようにして調製した)、アセトニトリル(19L)およびトリエチルアミン(6.667L、50mol)を入れた。約70℃〜73℃でゆっくり還流するまでこの反応混合物を加熱し、ニートのシアン化トリメチルシリル(6.667L、50mol)を滴下ロートによって10〜15分間隔で全体で3時間にわたって加えた。シアン化トリメチルシリルの各分量の添加の後に、反応液は激しく還流に向かって進行した(蒸気が散逸する場合には、反応を完了させるために追加のシアン化トリメチルシリルが必要になる場合がある)。添加が完了すると、還流を維持するのに必要な加熱速度に調整しながら、反応混合物を還流温度で20時間撹拌した。反応の進行はTLC(ヘプタン:EtOAc 1:1)でモニタリングした。反応が完了したと判断すると、反応混合物を0〜10℃に冷却した。水(9L)中の50%NaOH(7.2kg)水溶液を30分間かけて流し込むと、発熱が生じた。温度は20〜25℃に上昇し、反応液を15〜25℃で30分間撹拌した。反応混合物を分液ロートに移し、有機層を分離した。有機層をブライン(4L)で洗浄し、合わせた水層をEtOAc(3×3L)で抽出した。合わせた有機層をブライン(3L)で洗浄し、活性炭で処理し、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、濃縮した。生成した固体(約3.8kg)をEtOAc(25L、いくらか加熱した)に溶解させ、硫酸マグネシウムで乾燥し、活性炭を濾過し、濃縮した。加熱しながら、生成した黄褐色/褐色の固体をエタノール(7L)に溶解させた。生成した溶液をペイル(円筒型容器)に移し、室温で一晩静置した。この後、濾過により固体をを集め、フィルター上で冷エタノール(2×1L、−20℃)で洗浄した。この固体をEtOAc(20〜25L)に溶解させ、この溶液を硫酸マグネシウムで乾燥し、活性炭で処理して脱色し、濾過した。濾過ケーキをEtOAc(2×2L)で洗浄し、濾液を合わせ、乾固するまで濃縮した。残渣の固体(2.7kg)をEtOH(1L)と同時エバポレーションした。次いで、加熱しながらこの固体をEtOH(6L)に溶解させた。透明な溶液が約70℃で生成し、この溶液を0〜5℃に冷却し、この温度で2時間撹拌した。固体を濾過により集め、冷エタノール(2×1L、0〜5℃)、次いでヘプタン(1L、0〜5℃)で洗浄し、真空オーブン中で40℃で乾燥した。
【0082】
(中間体4)
(3−ブロモ−ピリジン−2−カルボン酸 メチルエステル)
【化9】

3−ブロモ−ピリジン−2−カルボニトリル(14.7g、80.3mmol)を濃HCl(50mL)に溶解させ、110℃に18時間加熱した。この混合物を0℃に冷却し、濾過し、少量のエーテルでリンスし、オーブン中、減圧下で乾燥した。生成した褐色固体をメタノール(80mL)に溶解させ、濃HSO(6.6mL)を滴下し、この溶液を90℃に16時間加熱した。メタノールを減圧下で除去し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて塩基性pHにし、この混合物を酢酸エチルで抽出した。合わせた抽出液をブラインで洗浄し、MgSOで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮し12.8g(74%)の標題の化合物を白色固体として得た。GCMS m/e 215,217[M]
【0083】
(代替的手順)
50Lの3つ口丸底フラスコにメカニカルスターラー、熱電対、窒素導入口および還流冷却器を取り付けた。このフラスコに、HCl(20L)および3−ブロモピリジン−2−カルボニトリル(6790g、37.1mol)(例えば、基本的に中間体3についての代替的手順で説明したようにして調製した)を入れた。この反応混合物を還流温度に加熱すると、出発物質は溶解し、ピンク色の懸濁液が生成した。この反応混合物を還流温度で20時間撹拌した。反応の進行はTLC(ヘプタン:EtOAc,1:1)でモニタリングした。出発物質はR=0.5には存在せず、中間体アミドもR=0.15に存在しなかった。反応が完了したと判断すると、反応混合物を0〜5℃に冷却し、この温度で3時間撹拌した。この後、固体を濾過により集めた(フィルターを洗浄したり、押し付けたりしてはいけない)。HClが湿った生成物中に存在するため、適切なトラップを用いて、この固体(3−ブロモピリジン−2−カルボン酸)を真空オーブン中、50℃で乾燥した。50Lの3つ口丸底フラスコに、メカニカルスターラー、熱電対および還流冷却器を取り付けた。このフラスコにMeOH(25.5L)、および3−ブロモピリジン−2−カルボン酸(5.098kg)を入れ、次いでHCl(15mL)を入れた。この反応混合物を約64〜65℃で還流させ、この温度で9時間撹拌した。この反応混合物を40〜50℃に冷却し、ペースト状になるまで濃縮した。50Lの分液ロートに水(12L)および固体NaHCO(2338g)を入れ、この混合物を10〜15分間撹拌した。濃縮したペーストからの残渣を、少しずつ泡立ちを制御する速度で撹拌した炭酸水素ナトリウム溶液に加えた。すべての残渣を加えた後、EtOAc(10L)をこのロートに加え、10〜15分間撹拌した。水層を分離し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1L)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、濃縮した。合わせた水層をEtOAc(2×2L)で抽出し、合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1L)で洗浄し,硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、最初の抽出液とともに濃縮した。淡黄色の油状物を得た。この油状物は冷却するにつれて固化した。真空オーブン中、室温で一晩生成物を乾燥した。
【0084】
(中間体5)
((3−ブロモ−ピリジン−2−イル)−メタノール)
【化10】

3−ブロモ−ピリジン−2−カルボン酸 メチルエステル(12.8g、59.2mmol)をメタノール(150mL)に溶解させ、0℃に冷却した。この混合物に、NaBH(11.2g、296mmol)を1.0gずつ加えた。この混合物を室温まで加温し、3時間撹拌した。このメタノールを減圧下で除去し、酢酸エチルを加え、この溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液およびブラインで洗浄した。有機部分をMgSOで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮し6.8g(62%)の標題の化合物を白色固体として得た。GCMS m/e 187,189[M]
【0085】
(代替的手順)
2つの50Lの3つ口丸底フラスコに、各々、メカニカルスターラー、熱電対、窒素導入口、および乾燥管を取り付けた。各フラスコに、3−ブロモ−ピリジン−2−カルボン酸 メチルエステル(1886g、8.73mol)(例えば、基本的に中間体4についての代替的手順にて説明したようにして調製した)およびMeOH(19L)を入れた。この反応混合物を、MeOH/ドライアイス浴を用いて−5〜5℃に冷却した。ドライアイスは、冷えすぎないように注意しながら少しずつ加えた。水素化ホウ素ナトリウム(約1651g、43.64mol)を100gずつ各フラスコに加えた。温度を−5〜5℃に維持し、各分量を加えるまで温度を安定させるようにした。添加終了後、MeOH浴を氷水に置き換えた。反応混合物を0〜5℃で6〜8時間撹拌し、必要に応じて浴中に氷を加えることにより温度を0〜5℃に維持するように注意した。反応の進行はTLC(ヘプタン:EtOAc、1:1)でモニタリングした。出発物質はR=0.6に存在しないはずであり、生成物をR=0.1〜0.5に観察した。反応が完了したと判断すると、氷水浴を氷/MeOH浴またはMeOH/ドライアイス浴に置き換えた。添加の前半については温度を10℃より低く、添加の後半については温度を10〜20℃に維持する速度でアセトンを加えた(各フラスコに4.5L)。アセトンの添加が完了すると、この反応液を氷水浴中で一晩撹拌したままにしてもよく、ワークアップへと進んでもよい。各反応混合物を水(各フラスコに5L)で希釈し、反応混合物をほぼ乾固するまで濃縮した。生成した固体残渣を水(全量15L)およびEtOAc(20L)で希釈し、混合物を15ガロン(約60リットル)の容器(crock)に移した。50%水酸化ナトリウム溶液を混合物(2kg)に加え、この混合物/懸濁液を室温で20〜30分間撹拌した。混合物を濾過し、濾過ケーキをEtOAc(2×2L)で洗浄し、この固体を保存した。合わせた濾液を分液ロート中で合わせ、有機層を分離し、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、濃縮した。水層を保存した。濾過によって得た固体および水層を、15ガロン(約60リットル)の容器(crock)に水(15L)およびEtOAc(15L)とともに入れた。混合物を室温で20〜30分間撹拌した。このあと混合物を濾過し、有機層を分離し、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、最初の抽出液とともに濃縮した。必要に応じて、抽出を繰り返した。合わせた濃縮した濾液(3.12kgのピンク色がかった油状物)は、冷所に保存してもよいし、すぐに精製してもよい。濃縮した濾過した残渣(3.12kg)を、必要に応じて熱を加えてEtOAc(6L)に溶解させた。生成したピンク色がかった溶液をヘプタン(6L)で希釈し、生成した溶液をシリカゲル栓(5.5kg、d=24インチ(約61cm)、h=2インチ(約5cm)、ヘプタン(9L)およびEtOAc(1L)の混合物に予めロードした)にロードし、ヘプタン:EtOAc、8:2混合物(約30L)、後にヘプタン:EtOAc、7:3混合物(約40L)で溶出した。画分をTLC(ヘプタン:EtOAc、1:1)でモニタリングした。生成物の画分を懸濁液の状態になるまで濃縮したが、乾固するまでは濃縮しなかった。この懸濁液を0〜5℃に冷却し、この温度で1時間撹拌した。この後、この固体を濾過により集め、ヘプタン(0〜5℃、2L)で洗浄し、真空オーブン中で25℃で一定の重量になるまで乾燥した。
【0086】
(中間体6)
(3−ブロモ−2−(5−クロロ−2−ヨード−フェノキシメチル)−ピリジン)
【化11】

(3−ブロモ−ピリジン−2−イル)−メタノール(3.4g、18mmol)、および2−ヨード−5−クロロフェノール(4.5g、18mmol)をベンゼン(60mL)に溶解させ、0℃に冷却した。この溶液にトリブチルホスフィン(15mL、90mmol)、および1,1’−(アゾジカルボニル)ジピペリジン(ADDP)(6.6g、18mmol)を加え、混合物を40℃で3時間加熱した。反応混合物を酢酸エチルで希釈し、飽和NHCl水溶液およびブラインで洗浄し、MgSOで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮した。生成した残渣をフラッシュクロマトグラフィ(Biotage(登録商標)Si65M,15%酢酸エチル/ヘキサン)によって精製し、3.77g(51%)の標題の化合物を白色固体として得た。GCMS m/e 296,298[M−I]
【0087】
(代替的アルキル化方法)
(3−ブロモ−ピリジン−2−イル)−メタノール(7.39g、39.30mmol)、およびトリエチルアミン(7.15mL、51.3mmol)を、窒素下でテトラヒドロフラン(70mL)中で混合した。氷浴を用いて溶液を0.6℃に冷却した。内部温度が5℃を超えないように発熱を制御しながら、メタンスルホニルクロリド(3.35mL、43.28mmol)を20分間かけて滴下した。添加後、この反応液を氷浴上で撹拌した。20分後のHPLC分析によると、(3−ブロモ−ピリジン−2−イル)−メタノールは完全に消費されていた。焼結ガラスロートを使用してトリエチルアミン塩酸塩を濾過し、冷THF(50mL)で洗浄した。メシレートを含むこのTHF濾液を窒素下に置き、氷浴で冷却した。2−ヨード−5−クロロフェノール(10.00g、39.30mmol)を加え、次いでナトリウム t−ブトキシド(4.10g、41.38mmol)を、等量に2回に分けて加えた。いずれの添加でも約5℃の穏やかな発熱があった。この氷浴を取り除き、反応液を一晩撹拌した。この反応物を水(50mL)でクエンチし、下側の水層をゆっくり分離させた。有機部分をブライン(25mL)で洗浄し、次いでこのブラインおよび水層部分をTHF(10mL)で逆抽出した。有機部分を合わせ、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、濃縮し、さび色を帯びた橙色固体を得た。この固体をジクロロメタン(25mL)に溶解させ、AnaLogix Inc.,Intelliflash 180自動クロマトグラフィ装置、バージョン1.8.0.で、35分間にわたる10〜20%酢酸エチル/ヘキサンの勾配を使用してクロマトグラフにかけ、11.0g(65%)の生成物を黄色固体として得た。H NMR(DMSO)δ 5.31(2H,s),6.85(1H,dd),7.25(1H,m),7.39(1H,dd),7.77(1H,d),8.17(1H,d),8.59(1H,d)。
【0088】
(中間体7)
(3−ブロモ−2−(2−ブト−1−イニル−5−クロロ−フェノキシメチル)−ピリジン)
【化12】

3−ブロモ−2−(5−クロロ−2−ヨード−フェノキシメチル)−ピリジン(3.8g、8.9mmol)を圧力フラスコ中に入れ、ジエチルアミン:アセトニトリル:THF(18mL:4mL:4mL)に溶解させ、窒素で15分間脱気した。過剰の1−ブチンを溶液に吹き込み、次いでCuI(507mg、2.66mmol)、およびPdCl(PPh(623mg、0.888mmol)を加えた。この混合物を室温で1時間撹拌した。混合物をエーテルで希釈し、飽和塩化アンモニウム水溶液およびブラインで洗浄した。有機部分をMgSOで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮した。残渣を、フラッシュクロマトグラフィ(Biotage(登録商標)Si65M、30%ヘキサン/CHCl次いで20%酢酸エチル/ヘキサン)で精製し、2.3g(75%)の標題の化合物を淡橙色固体として得た。LCMS m/e 351[M]
【0089】
(代替的手順)
3−ブロモ−2−(5−クロロ−2−ヨード−フェノキシメチル)−ピリジン(5.00g、11.54mmol)をトリエチルアミン(60mL、430.5mmol)に懸濁させ、脱気した。1−ブチン(2.6g、11.54mmol)(24% wt/wt DMF溶液)を加え、次いでビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)クロリド(410mg、0.584mmol)およびヨウ化銅(I)(220mg、1.16mmol)を加えた。反応液を一晩撹拌した。この反応液をtert−ブチルメチルエーテル(50mL)で希釈し、NHCl溶液(50mL)でクエンチした。クエンチの際、3℃のわずかな発熱を伴った。この反応液を30分間撹拌した。水層を除き、有機層を5N HCl(80mL)で洗浄し、有機層からTEAを除いた。酸性層(pH=2)を除去し、有機層有機層をブラインで洗浄し、乾燥し、濾過し、暗褐色油状物になるまでエバポレーションした。この油状物を、AnaLogix Inc.,Intelliflash 180自動クロマトグラフィ装置、バージョン1.8.0.で、5分間のヘプタン中の0%〜10%酢酸エチル勾配、5分間保持、および10分間のヘプタン中の10%〜20%酢酸エチルの勾配を使用してクロマトグラフにかけた。橙色固体(4.0g)を得たが、これは出発物質と予想した生成物との混合物であった。この生成物をヘプタンから再結晶し、出発物質(HPLCによれば6%)と標題の生成物との混合物3.1gを得た。H NMR(DMSO)δ 1.05(3H,t),2.33(2H,q),5.31(2H,s),6.96(1H,dd),7.22(1H,m),7.31(1H,d),7.37(1H,dd),8.15(1H,dd),8.57(1H,dd)。HPLC(カラム:Zorbax Eclipse XDB−C8;溶媒:50%アセトニトリル/水(0.01%TFAを含む)から80%アセトニトリルへの勾配)で測定したところ、この物質は6%の出発物質を含んでいた。生成物のT=6.15分。
【0090】
(代替的合成)
(A.2−(5−クロロ−2−ヨード−フェノキシ)−テトラヒドロ−ピランの調製)
22Lの3つ口丸底フラスコに、メカニカルスターラー、滴下ロート、窒素導入口、乾燥管および熱電対を取り付け、冷却浴中においた。5−クロロ−2−ヨードフェノール(2290g、9mol)(例えば、基本的に中間体1の代替的手順にて説明したようにして調製した)、ジクロロメタン(11.45L)およびp−トルエンスルホン酸ピリジニウム(45.2g、0.18mol)をこのフラスコに入れ、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン(1211g、14.4mol)を約1時間かけてこのフラスコに滴下した。添加の間、穏やかな発熱を観察し、温度を30℃以下に維持するために冷水道水を冷却浴に加えた。添加終了後、反応混合物を周囲温度で最低12時間撹拌した。反応の進行はTLC(ヘプタン:EtOAc、9:1)でモニタリングした。出発物質をR=0.2に観察し、生成物をR=0.5に観察した。痕跡量よりも多い出発物質が存在する場合には、この反応液をさらに4時間撹拌してもよい。反応が完了すると、混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1.5L)で洗浄し、有機層を水層から分離し、水層をジクロロメタン(1L)で抽出し、合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、活性炭で処理し、濾過し、濃縮した。生成した褐色油状物をトルエンと同時エバポレーションして残る可能性がある3,4−ジヒドロ−2H−ピランを除去した。生成物をトリエチルアミン(4.5L)に溶解させて濁った溶液を形成させ、濾過し、濾過ケーキをトリエチルアミン(200mL)で洗浄した。後に次の反応において、生成物をトリエチルアミン溶液として使用した。
【0091】
(B.2−(2−ブト−1−イニル−5−クロロ−フェノキシ)−テトラヒドロ−ピランの調製)
直前に記載した反応から得たトリエチルアミン溶液中の生成物を、メカニカルスターラー、窒素導入口、乾燥管、および熱電対を備える、50Lの3つ口丸底フラスコに入れ、これを冷却浴中に入れた。トリエチルアミン(4.28L)、酢酸エチル(8.78L)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(126.3g、0.18mol)、およびヨウ化銅(I)(34.3g、0.18mol)をこのフラスコに加え、反応混合物を撹拌し、窒素雰囲気下で0〜10℃に冷却した(注:生成物を、パートAで最初に9Lのトリエチルアミンに溶解させてもよく、その場合は上述した追加のトリエチルアミンを後で加える必要はない)。この後、窒素気流を止め、反応混合物の表面より下においたガラス製浸漬管を用いて、3時間の添加の間温度を10℃以下に維持しながら1−ブチン(681.5g、12.6mol)をこのフラスコに入れた。添加終了後、冷却浴を取り除き、反応混合物を室温で最低12時間撹拌した。反応をTLC(ヘプタン:EtOAc、9:1)でモニタリングした。出発物質をR=0.6に観察し、生成物をR=0.5に観察した。反応が完了したと判断すると、反応混合物を濾過し、濾過ケーキをEtOAc(3×1L)で洗浄し、洗浄回ごとに真空を開放した。すべての有機部分を合わせて、褐色油状物にまで濃縮した。残渣をヘプタン(5L)およびトリエチルアミン(25mL)で希釈した。シリカゲルカラム(ヘプタン(5L)およびトリエチルアミン(60mL)を予めロードした3kgのシリカゲル、d=8インチ(約20cm)、h=18インチ(約46cm))を使用して生成物を精製した。粗生成物を溶液でロードし、ヘプタン(9L)/0.2%EtOAc、ヘプタン(9L)/3%EtOAc、およびヘプタン(9L)/4%EtOAcで逐次的に溶出した。適切な画分を合わせ、褐色油状物(2644g、純粋ではない)を得た。この油状物をヘプタン(1mL/g)およびトリエチルアミン(20mL)に溶解させ、この溶液を冷凍庫中に置いた。約12時間後に固体を分離した。上澄みを傾瀉し、固体を秤量し、ヘプタン(1mL/g)およびトリエチルアミン(20mL)に溶解させた。結晶化を繰り返し、純粋な生成物(2003g)を得た。
【0092】
(さらなる精製)
上記固体をジクロロメタン(2mL/g)に溶解させ、生成した溶液をメカニカルスターラー、窒素導入口、および乾燥管を備える適切な3つ口丸底フラスコに入れ、冷却浴中に置いた。Si−チオール誘導体化シリカゲル(充填量1.33mmol/g)を加え、生成した懸濁液を最低12時間、室温で撹拌した。この後、この懸濁液を濾過し、濾過ケーキをジクロロメタン(3×500mL)で洗浄し、合わせた濾液を濃縮して琥珀色の油状物を得た。この油状物をヘプタン(1mL/g)に溶解させ、冷凍庫に一晩置いた。固体を傾瀉し、周囲温度、1mmHg(約133Pa)で最低18時間真空オーブン中で乾燥した。
【0093】
(C.2−ブト−1−イニル−5−クロロ−フェノールの調製)
22Lの3つ口丸底フラスコに、メカニカルスターラー、滴下ロート、窒素導入口、熱電対、および乾燥管を取り付け、冷却浴中に置いた。MeOH(2.3L)およびHCl(9mL)をこのフラスコに入れ、撹拌を開始し、反応液を10〜20℃に冷却した。加熱マントルに入れた20Lの広口丸底フラスコにメカニカルスターラーを取り付け、2−(2−ブト−1−イニル−5−クロロ−フェノキシ)−テトラヒドロ−ピラン(2313g、8.736mol)およびMeOH(3.47L)をこのフラスコに入れた。ゆっくり加熱してこの固体を溶解させ、フラスコをMeOH(70mL)でリンスした。45分間にわたって温度を20℃以下に維持しながら、この溶液を滴下ロートによって上記3つ口丸底フラスコに入れた。冷却を止め、反応混合物を最低30分間撹拌した。反応の進行はTLC(ヘプタン:EtOAc、9:1)でモニタリングした。出発物質をR=0.6に観察し、生成物をR=0.5に観察した。反応が完了したと判断すると、反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(300mL)で希釈し、室温で5〜10分間撹拌した。この後、反応混合物を濃縮してMeOHを除去した。残存した油状物(2118g)をMTBE(4L)で希釈し、ブライン溶液(1.5L)で洗浄した。有機層を分離し、水層をMTBE(2×1L)で抽出した。合わせた有機部分を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、濃縮した。生成物をトルエン(2×800mL)と同時エバポレーションし、そのまま直接使用した。
【0094】
(D.3−ブロモ−2−(2−ブト−1−イニル−5−クロロ−フェノキシメチル)−ピリジン(中間体7)の調製)
50Lの3つ口丸底フラスコにメカニカルスターラー、滴下ロート、窒素導入口、熱電対、および乾燥管を取り付け、冷却浴中に置いた。(3−ブロモ−ピリジン−2−イル)−メタノール(例えば、基本的に中間体5についての代替的手順にて説明したようにして調製した)(1837g、9.769mol)、THF(14.7L)およびトリエチルアミン(1.53L、11.01mol)をフラスコに入れ、この反応混合物を−5〜5℃に冷却した。温度を5℃より低く維持しながら、1.5時間にわたってニートのメタンスルホニルクロリド(1155g、10.09)を滴下すると、白色懸濁液が生成した。生成した懸濁液を−5〜0℃で1時間撹拌し、反応の進行をTLC(ジクロロメタン:MeOH、20:1)でモニタリングした。出発物質をR=0.5に観察し、メシレート生成物をR=0.95に観察した。反応が完了したと判断すると、反応混合物を濾過し、濾過ケーキを冷THF(0〜5℃、3×2L)で洗浄した。
【0095】
50Lの3つ口丸底フラスコに、メカニカルスターラー、滴下ロート、窒素導入口、熱電対、および乾燥管を取り付け、冷却浴中に置いた。メタンスルホン酸 3−ブロモ−ピリジン−2−イルメチルエステルおよび2−ブト−1−イニル−5−クロロ−フェノール(8.736mol、0.95当量)(例えば、基本的に上記のステップCにて説明したようにして調製した)を含有する合わせた濾液を、フラスコをリンスするのにTHF(70mL)を使用してこのフラスコに入れた。撹拌を開始し、反応混合物を−15〜0℃に冷却した。ナトリウム tert−ブトキシド(969.7g、10.09mol)を、温度を0℃より低く維持しながら40分間にわたって少しずつ添加した。濁った黄褐色/黄色の溶液になるまで、最低48時間撹拌しながらこの反応液を室温まで加温した。反応の進行はTLC(ヘプタン:EtOAc、1:l)でモニタリングした。このメシレートをR=0.1に観察し、生成物をR=0.5に観察した。反応が完了したと判断すると、反応混合物を水(5L)で希釈し、有機層を水層から分離し、有機層を濃厚なスラリーになるまで濃縮した。水層をMTBE(2×2L)で抽出し、有機層を分離した。濃縮したスラリーをMTBE(12L)に溶解させ、それまでの抽出液(4L)と合わせ、すべての固体が溶解するまで撹拌した。有機層をブライン(3L)で洗浄し、分離し,硫酸マグネシウムで乾燥し、活性炭で処理し、濾過し、濃縮した。生成物をEtOH(1L)と同時エバポレーションし、オフホワイトの固体(3581g)を得た。撹拌しながら1時間−5〜5℃に冷却して、この固体をEtOH(2.5L、0.7mL/g)から再結晶した。この固体を濾過により集め、冷EtOH(2×900mL、−20〜−10℃)で洗浄した。油ポンプを使用して、真空オーブン中、30℃で生成物を乾燥した。
【0096】
(中間体8)
((Z)−2−{2−[1,2−ビス−(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−ブト−1−エニル]−5−クロロ−フェノキシメチル}−3−ブロモ−ピリジン)
【化13】

3−ブロモ−2−(2−ブト−1−イニル−5−クロロ−フェノキシメチル)−ピリジン(2.3g、6.6mmol)をDMF(65mL)に溶解させ、この溶液に15分間窒素を吹き込むことにより脱気した。この溶液に、ビス(ピナコラト)ジボロン(1.8g、7.2mmol)、およびPt(PPh(653mg、0.525mmol)を加えた。この混合物を80℃で24時間加熱し、室温に冷却し、酢酸エチルで希釈し、ブラインで洗浄し、MgSOで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮して固体を得た。この固体をエーテルに溶解させ、濾過し、減圧下で濃縮し、3.61g(91%)の標題の化合物を黄色固体として得、これをさらに精製することなく使用した。LCMS m/e 605[M]
【0097】
(代替的手順)
50Lの3つ口丸底フラスコに、メカニカルスターラー、窒素浸漬管、熱電対、および乾燥管を取り付け、冷却浴中に置いた。DMF(27L)、3−ブロモ−2−(2−ブト−1−イニル−5−クロロ−フェノキシメチル)−ピリジン(3381g、9.642mol)(例えば、基本的に中間体7についての代替的合成にて説明したようにして調製した)をこのフラスコに入れ、強い窒素ガス気流を最低1時間吹き込みながら、生成した溶液を室温で撹拌した。この後、ビス(ピナコラトジボロン)(2522g、9.93mol)をこのフラスコに一度に加え、強い窒素ガス気流を少なくとも15分間吹き込みながら、生成した溶液を室温で撹拌した。テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金(0)(24g、0.019mmol)をこのフラスコに加え、浸漬管を通常の窒素導入口に置き換えた。この反応混合物を80℃に加熱し、この温度で8〜10時間撹拌した。反応の進行はTLC(ヘプタン:EtOAc)でモニタリングした。出発物質はR=0.4には存在しないはずであり、生成物をR=0.35に観察した。反応が完了したと判断すると、反応混合物を室温まで冷却した。反応混合物をMTBE(20L)で希釈し、次いで10%NaCl水溶液(25L)を加えた。有機層を水層から分離し、10%NaCl水溶液(10L)で洗浄した。有機層を分離し、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、濃縮した。水層を合わせ、MTBE(5L)で抽出した。MTBE抽出液を10%NaCl水溶液(3L)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、最初の抽出液とともに濃厚なペーストになるまで濃縮した。イソプロピルアルコール(7L)を加え、濃縮を継続して残存するMTBEを除去した。生成した懸濁液を冷却浴中で最低1時間、室温で撹拌した。次いで、固体を濾過により集め、濾過ケーキをイソプロピルアルコール(2×1.5L)で洗浄した。油ポンプを用いて、真空オーブン中、40〜45℃で最低18時間、固体を乾燥した。
【0098】
(中間体9)
((Z)−8−クロロ−5−[1−(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−プロピリデン]−5,11−ジヒドロ−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプタン)
【化14】

(Z)−2−{2−[1,2−ビス−(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−ブト−1−エニル]−5−クロロ−フェノキシメチル}−3−ブロモ−ピリジン(3.6g、6.0mmol)をジオキサン(600mL)に溶解させ、15分間溶液に窒素を吹き込むことにより脱気した。粉砕したKPO(3.8g、18mmol)を添加し、次いでPdCldppfCHCl(488mg、0.598mmol)を添加した。このスラリーを80℃で22時間加熱し、室温に冷却し、ブラインで洗浄し、MgSOで乾燥し、減圧下で濃縮し固体を得た。この固体を酢酸エチルに溶解させ、重力濾過し、減圧下で濃縮し2.37g(約100%)の標題の化合物を得て、これをさらに精製せずに使用した。LCMS m/e 398[M+H]
【0099】
(代替的合成)
加熱マントル中に置いた2つの50Lの3つ口丸底フラスコに、メカニカルスターラー、窒素浸漬管、熱電対、還流冷却器および乾燥管を取り付けた。1,4−ジオキサン(各々26L)、(Z)−2−{2−[1,2−ビス−(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−ブト−1−エニル]−5−クロロ−フェノキシメチル}−3−ブロモ−ピリジン(例えば、基本的に中間体8の代替的手順にて説明したようにして調製した)(各々2610g)および炭酸カリウム粉末(各々1790g)をこのフラスコに入れた。強い窒素ガス気流を吹き込みながら、少なくとも2時間生成した懸濁液を室温で撹拌した。この後、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−フェロセン]ジクロロパラジウム(II)(ジクロロメタンとの錯体(1:1))、(各々176.3g)をこのフラスコに加え、浸漬管を通常の窒素導入口に置き換えた。この反応混合物を80℃に加熱し、この温度で最低20時間撹拌した。暗褐色の懸濁液が生成した。反応の進行はTLC(ヘプタン:EtOAc 1:1)でモニタリングした。痕跡量の出発物質がR=0.7に存在し、生成物をR=0.6に観察した。痕跡量よりも多い出発物質が存在する場合には、追加の炭酸カリウム(各々596.5g、全量で1193g)を添加した。この反応混合物を80℃で4時間撹拌した。反応が完了したと判断すると、反応混合物を60℃に冷却するかまたは室温まで撹拌した。反応混合物を濾過し、濾過ケーキを1,4−ジオキサン(3×3L)およびEtOAc(3×3L)で洗浄した。合わせた濾液を固体にまで濃縮した。暗色の固体をEtOAc(20L)に溶解させ、生成した溶液を15% NaCl水溶液(5L)で洗浄した。(分液ロートを使用して)混合物を激しく撹拌した。層分離はしなかった。混合物をペイル(円筒型容器)に集め、珪藻土(各ペイルへ1kg)を加え、このペイルを激しく撹拌し、混合物全体を濾過し、層分離を妨げる固体を除去した。この濾過ケーキをEtOAc(3×1L)で洗浄した。濾液を合わせ、有機層を分離した。有機層を15% NaCl水溶液(5L)で洗浄した。有機層を合わせ、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、濃縮した。1,4−ジオキサン(2L)と同時エバポレーションし、褐色がかった固体残渣を得た。
【0100】
(実施例1)
((E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド)
【化15】

(Z)−8−クロロ−5−[1−(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−プロピリデン]−5,11−ジヒドロ−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプタン(2.37g、5.96mmol)、N−(3−ヨードフェニル)メタンスルホンアミド(2.66g、8.94mmol)、3,5−ジメトキシフェノール(4.6g、30mmol)、およびKOH(5.0g、89mmol)をジオキサン/水(40mL/15mL)に溶解させ、15分間溶液に窒素を吹き込むことにより脱気した。この混合物に、Pd(PPh(689mg、0.596mmol)を加え、この溶液を80℃で18時間加熱した。この溶液を室温に冷却し、酢酸エチルで希釈し、水、飽和塩化アンモニウム水溶液、およびブラインで洗浄し、MgSOで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮した。生成した残渣を、フラッシュクロマトグラフィ(Biotage(登録商標)Si65M、3%エタノール/CHCl)、次いでイオン交換クロマトグラフィ(2つの分量に分けて、BondElut(登録商標)SCX、80/20 CHCl/メタノールで流し出し、80/20 CHCl/2.0M NHを含むメタノールで溶出)、さらに別のフラッシュクロマトグラフィ精製(Biotage(登録商標)Si40M、40% 酢酸エチル/ヘキサンから80% 酢酸エチル/ヘキサン)によって精製し1.01g(38%)の標題の化合物を白色固体として得た。LCMS m/e 441[M+H]
【0101】
(中間体10)
((E)−3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニルアミン)
【化16】

窒素雰囲気下で、水(1.50L)中の水酸化カリウム(500g、8.91mol)の溶液を、メカニカルスターラー、還流冷却器、および熱電対を備えた12Lの4つ口丸底フラスコに入れた。この溶液に、3−ヨードアニリン(128g、585mmol)、(Z)−8−クロロ−5−[1−(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−プロピリデン]−5,11−ジヒドロ−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプタン(232g、583mmol)、1,4−ジオキサン(2.40L)、および3,5−ジメトキシフェノール(454g、2.92mol)を加えると、暗褐色混合物が生成した。還流冷却器に取り付けた三方弁を通して混合物を脱気した。三方弁を介して約3分間内部を真空にした。真空にしたフラスコに窒素パージを行った。これを全部で3回繰返した。固体のテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(20.4g、17.5mmol)を加え、脱気手順を繰返した。暗褐色混合物を80℃で2時間加熱した。反応混合物を40℃に冷却し、22Lの底に口のある、15% NaCl溶液(2.5L)を含有するフラスコに入れた。混合物を10分間撹拌し、相分離させた。有機層を15% NaCl溶液(2.5L)で2回洗浄した。有機層を単離し、真空中で濃縮し濃厚な暗色油状物を得た。2リットルのヘプタンを加え、真空中で濃縮し残存するジオキサンを除去した。ヘプタンで湿らせた3kgのシリカゲルを充填した10インチ(約25cm)の焼結ガラスロートを使用して、大スケールのシリカゲルクロマトグラフィによって生成物を精製した。この物質をヘプタン(約500mL)に溶解させ、シリカに載せた。わずかに減圧にして、この物質を、溶出液としての3Lのヘプタンとともにシリカに加えた。3.5Lの画分を集める間、移動相を9:1ヘプタン:EtOAcおよび1:1 ヘプタン:EtOAcへの勾配に変えた。画分を、TLC(1:1 EtOAc:ヘプタン、SiO、R=0.45)を使用してモニタリングした。所望の生成物を含む画分を合わせ、真空中で濃縮して暗緑色油状物を得た。この油状物にヘプタン(2L)を加え、この溶液を濃縮して201.3g(95%)の暗緑色の固体を得た。LC−ES/MS m/e 363.2[M+H]
【0102】
(代替的手順)
(E)−3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニルアミン、ジトルエンスルホン酸塩(5765g)(例えば基本的に、以下の中間体11についての代替的合成にて説明するようにして調製した)を、40Lの分液ロートを使用して水(12L)およびEtOAc(12L)に懸濁させた。50% NaOH溶液(4.8kg)を一度に加えた。すべての固体が溶解するまでこの懸濁液を激しく撹拌した。有機層を分離し、5% NaOH水溶液(1L)で洗浄した。合わせた水層をEtOAc(2×2L)で抽出した。有機層を分離し、5% NaOH水溶液(500mL)で洗浄した。合わせた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、活性炭で処理し濾過した。濾液をヘプタン(16L)で希釈し、ヘプタン:EtOAc、1:1の溶液を作製した。生成物を、シリカゲル栓(ヘプタン:EtOAc、1:1(8L)中に予めロードした6kgのシリカゲル、直径=18インチ(約46cm)、高さ=3インチ(約8cm))を使用して精製した。粗生成物を溶液でロードし、ヘプタン:EtOAc 1:1(約40〜50L)、次いでヘプタン:EtOAc 1:3(約20〜30L)、次いでヘプタン:EtOAc 1:9(10〜20L)で溶出した。生成物を含む画分をTLC(EtOAc、100%)で決定した。不純物をR=0.0に観察した。生成物をR=0.4に観察した。生成物を含む画分を合わせ、濃縮してペースト状にした。生成した残渣をヘプタン(2〜3L)で希釈した。この懸濁液を、室温で30分間撹拌し、固体を濾過により集め、ヘプタン(2×1.5L)で洗浄した。40〜45℃で一晩、真空オーブン中で固体を乾燥した。
【0103】
(実施例1(a))
(中間体10から)
(E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド
【化17】

窒素雰囲気下で、固体状の(E)−3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニルアミン(198g、545mmol)、ピリジン(67.0mL、828mmol)およびジクロロメタン(1.6L)をメカニカルスターラーおよび熱電対を備えた5リットルの4つ口丸底フラスコに入れた。この暗緑色の反応混合物に、ジクロロメタン(400mL)中のメタンスルホニルクロリド(51.0mL、658mmol)の溶液を滴下ロートから20分間かけて滴下した。添加の過程にわたって6.9℃の発熱が観察された。添加が終了すると、反応液を周囲温度で16時間撹拌した。混合物を、10%クエン酸溶液(2L)を収容する底に口のある22Lのフラスコに入れた。混合物を15分間撹拌し、静置して層分離させた。有機層を15% NaCl溶液で洗浄した。窒素雰囲気下で、メカニカルスターラーを備えた5Lの4つ口フラスコに有機層を入れた。濃赤色溶液をDARCO(登録商標)活性炭(200g)、NaSO(200g)およびTMT(トリチオシアヌル酸三ナトリウム塩水和物)(50g)で処理した。混合物を周囲温度で18時間撹拌し、2インチ(約5cm)の珪藻土(Hy−flo Supercel(登録商標))のパッドの上から濾過した。濾液を真空中で濃縮し、硬い白色フォーム状物を得た。イソプロピルアルコール(1L、5体積分)をこのフォーム状物に加え、このスラリーを40℃で1時間撹拌した。濃厚な混合物を周囲温度に冷却した。ブフナー漏斗でこの固体をポリプロピレンのパッドの上から真空濾過した。この生成物を真空乾燥機内で70℃で16時間乾燥し、171.85g(71.4%)の白色結晶生成物を得た。LC−ES/MS m/e 441.2[M+H],439.1[M−H]。元素分析:C2321ClOSに対する計算値:C,62.65;H,4.80;N,6.35。実測値:C,62.81;H,4.82;N,6.20。
【0104】
(中間体11)
((E)−3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニルアミン、ジトルエンスルホン酸塩)
【化18】

3−ヨードアニリン(13.72g、62.64mmol)および(Z)−8−クロロ−5−[1−(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−プロピリデン]5,11−ジヒドロ−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプタン(24.91g、62.64mmol)を使用して、基本的に中間体10について説明したようにして標題の化合物を調製した。反応終了後、反応液を40℃に冷却した。水(250mL)、15%ブライン溶液(50mL)およびt−ブチルメチルエーテル(250mL)を添加した。上側の有機層を分離し、水層をt−ブチルメチルエーテル(100mL)で抽出した。この有機溶液を、予め充填した70mm SUPELCO(登録商標)ブフナー漏斗中でシリカパッドに通した。この濾液を濃縮し、42.45gの油状物を得た。この油状物にEtOAc(200mL)を加え、次いで18時間撹拌しながらトルエンスルホン酸一水和物(23.83g)を加えた。この黄褐色沈殿を濾過し、EtOAc(100mL)、次いでヘプタン(50mL)および1:1 EtOAc/ヘプタン(50mL)で洗浄した。この生成物を50℃で18時間、真空乾燥機内で乾燥し、34.43g(77.7%収率(重量による))を得た。LC−ES/MS m/e 362[M+];H NMR DMSO(δ)0.8(三重線,3H),2.22(s,6H),2.6(m,1H),2.65(m,1H),5.1(d,1H),5.88(d,1H),7−7.5(ArおよびNH,21H),8.2(d,1H)。
【0105】
(代替的合成)
2つの50Lの3つ口丸底フラスコに、メカニカルスターラー、窒素導入口、熱電対、還流冷却器および乾燥管を取り付け、冷却浴中に置いた。水(各フラスコに8.5L)および水酸化カリウム(各フラスコに2422g)をこのフラスコに入れ、混合物を5〜15分間撹拌して、固体を溶解させ温度を安定(約40℃)させた。混合物を、窒素雰囲気下で20〜30℃に冷却した。この後、フラスコを加熱マントル中に置き、1,4−ジオキサン(各フラスコに3L)、3−ヨードアニリン(各フラスコに945.5g、4.317mol)、および1,4−ジオキサン(15L、各フラスコに7.5L)中の(Z)−8−クロロ−5−[1−(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−プロピリデン]−5,11−ジヒドロ−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプタン(8.634mol、1当量と考えられる)(基本的に中間体9の代替的合成にて説明したようにして調製した)の均等に分割した溶液を各フラスコに入れ、次いで3,5−ジメトキシフェノール(3328g、各フラスコに21.585mol)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(各フラスコに149.58g、0.26mol)を入れた。この反応混合物を80℃に加熱し、この温度で2時間撹拌した。暗色溶液が観察された。反応の進行はTLC(ヘプタン:EtOAc、1:1)でモニタリングした。出発物質はR=0.6に存在しないはずである。生成物をR=0.2に観察した。反応が完了したと判断すると、この反応混合物を室温に冷却した。反応混合物を水およびMTBE(8L)で希釈した。有機層を分離し、水層をMTBE(4×2L)で抽出した。合わせた有機層をブライン溶液(5L)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、活性炭で処理し、濾過し、濃縮した。EtOAc(1.5L)と同時エバポレーションして、明褐色油状物(4080g)を得た。
【0106】
50Lの3つ口丸底フラスコにメカニカルスターラー、窒素導入口および乾燥管を取り付け、冷却浴中に置いた。p−トルエンスルホン酸一水和物(4106g、21.585mol、2.5当量)およびEtOAc(15L)をこのフラスコ入れ、撹拌を開始し、白色懸濁液を観察した。上記褐色油状物をEtOAc(16.3L、4mL/g)に溶解させ、この溶液を少しずつ(最初は素早く、固体が現れるとゆっくりと)EtOAc中のp−トルエンスルホン酸一水和物の懸濁液に加えた。生成した灰色がかった褐色の懸濁液を室温で12時間撹拌した。この後、この固体を濾過により集め、EtOAc(3×2L、室温)で洗浄した。この固体をペイルに移し、EtOAc(14L)でスラリーにし、この固体を濾過により集めた。固体をペイルに移し、もう一度イソプロピルアルコール(14L)でスラリーにし、濾過により集めた。加熱マントル中に置いた50Lの3つ口丸底フラスコにメカニカルスターラー、還流冷却器、窒素導入口および乾燥管を取り付けた。この固体およびイソプロピルアルコール(12L)をフラスコに入れた。生成した懸濁液を加熱して30分間還流させ、室温に冷却し、固体を濾過により集めた。この固体を室温でイソプロピルアルコール(2×2L)、EtOAc(2×2L)、およびヘプタン(2×2L)で洗浄し、真空オーブン中で40〜45℃で一晩乾燥した。灰色がかった褐色の固体を得た。
【0107】
(実施例1(b))
((E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド)
50Lの3つ口丸底フラスコにメカニカルスターラー、窒素導入口、熱電対および乾燥管を取り付け、冷却浴中に置いた。(E)−3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニルアミン(1800g、4.96mol)(基本的に中間体10についての代替的手順にて説明するようにして調製した)、ジクロロメタン(18L)およびピリジン(588.5g、7.44mol)をこのフラスコに加えた。この反応混合物を0〜5℃に冷却し、温度を5℃に維持してニートのメタンスルホニルクロリド(681.8g、5.952mol)を約20〜30分間かけて滴下した。添加終了後、反応混合物を0〜5℃で1時間撹拌した。冷却浴を取り除き、反応液を室温で最低12時間撹拌した。反応の進行はTLC(EtOAcのみ)でモニタリングした。反応が完了したと判断すると、40Lの分液ロートを使用して、この反応混合物を10%クエン酸水溶液(14L)で洗浄した。水層をジクロロメタン(1.5L)で逆抽出した。合わせた有機層を10%クエン酸水溶液(2L)で洗浄した。水層をジクロロメタン(1.5L)で逆抽出した。合わせた有機層を15%塩化ナトリウム水溶液(5L)で洗浄し、水層をジクロロメタン(1.5L)で逆抽出した。合わせた有機層を半飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(5L)で洗浄した。炭酸水素ナトリウム洗浄を最低30分間実施するべきである。水層をジクロロメタン(1.5L)で逆抽出した。合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過した。冷却浴中に置いた50Lの3つ口丸底フラスコにメカニカルスターラー、窒素導入口、熱電対および乾燥管を取り付けた。生成物を含むジクロロメタン溶液をこのフラスコに入れ、次いでトリチオシアヌル酸三ナトリウム塩(630g、出発物質1gあたり0.35g)、硫酸ナトリウム(3.6kg、出発物質1gあたり2g)および活性炭(180g、出発物質1gあたり0.1g)をそのフラスコに入れた。この懸濁液を室温で12時間撹拌した。懸濁液を濾過し、濾過ケーキをジクロロメタン(3×3L)でスラリーにした。濾液を合わせ、オフホワイトの固体まで濃縮した。真空オーブン中、40℃で一晩生成物を乾燥した。
【0108】
(実施例1(c))
(中間体11から)
((E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド)
(パートA)
磁気撹拌機を備えた250mL RBフラスコに中間体11(3.14g、5.09mmol)および塩化メチレン(70mL)を入れた。この混合物に、5分かけて少しずつ15%炭酸ナトリウム溶液を加えた。混合物を30分間撹拌した。下側の有機層を分離し、無水MgSOで乾燥した。混合物を濾過し、ケーキを塩化メチレン(10mL)で洗浄した。濾液を浴温度50℃で、ロータリーエバポレータで濃縮し、1.85gの油状物を得た。
【0109】
(パートB)
セパレート式の250mLの3つ口反応容器に、塩化メチレン(65mL)、およびピリジン(0.62mL、7.64mmol)に溶解させたパートAからの油状物(1.85g)の溶液を加えた。反応溶液を5分間撹拌した。塩化メチレン(5mL)に溶解させたメタンスルホニルクロリド(0.46mL、6.12mmol)を5分間かけて加えた。反応混合物を、室温で18時間撹拌した。反応をHPLCでモニタリングし、中間体11の消失後、10%クエン酸溶液(10mL)でクエンチした。反応混合物を5分間撹拌した。脱イオン水(20mL)を加え、20分間撹拌したあと下側の有機層を分離した。有機層をDARCO(登録商標)活性炭(2.0g)で20分間処理した。混合物を珪藻土の上から濾過し、ケーキを塩化メチレン(20mL)で洗浄した。ロータリーエバポレータで濾液を濃縮し、1.84gの標題の化合物を得た。LC−ES/MS m/e 440[M+];H NMR DMSO(δ6)0.8(三重線,3H),2.45(m,1H),2.55(m,4H),5.0(d,1H),5.85(d,1H),6.9−7.1(m,7H),7.2(d,1H),7.38(d,1H),8.24(d,1H),9.45(s,1H)。
【0110】
(実施例2)
((E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド HSO(2:1))
シンチレーションバイアル中で、(E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド(251mg、0.57mmol)をアセトン(4mL)と混合した。この試料を、撹拌しながら約55℃に加熱した。1モル当量の硫酸(0.25M)を加えた。数時間さらに高温で加熱および撹拌を行った後、この試料を、一晩撹拌しながら約25℃に冷却した。沈殿は生じておらず、この試料を、窒素気流下で乾固するまでエバポレーションした。この生成した残渣に、約55℃で撹拌および加熱をしながらアセトン(2mL)を添加し懸濁液を生成させた。さらにアセトン(1mL)を加えて透明な溶液にした。この試料を窒素気流下で乾固するまでエバポレーションした。約55℃で撹拌および加熱をしながらアセトン(2mL)を生成した残渣に加え、懸濁液を生成させた。この試料を、一晩撹拌しながら約25℃に冷却した。この懸濁液を真空濾過により単離し、この固体を風乾させた。この物質の融点特性を示差熱分析(DTA)により測定した。融解開始温度=139℃;融解ピーク温度=148℃。対イオンを定量するためのESA Corona(商標)検出器を備えたHPLC(Waters 2695(Alliance)モデルオートインジェクタ、Chromolith Performance RP−18カラムを用いて5%アセトニトリル/水(0.1%TFAを含む)から100%アセトニトリル(0.1%TFAを含む)で1mL/分で溶出した)により、この物質はヘミスルフェート塩であると決定した。そして56.7%の理論上のモノ塩を含むことがわかった。遊離塩基をUV(245nm、PDA Waters 996検出器)で検出し、標準曲線と比較して89.5%効力にあることが判明した。これは、2モルの遊離塩基:1モルのHSO(ヘミスルフェート塩)の化学量論に相当する。
【0111】
(実施例3)
((E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド HBr)
(E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド(183mg、0.42mmol)を、シンチレーションバイアル中でエタノール(5mL)と混合した。この試料を、撹拌しながら約75℃に加熱した。1モル当量のHBr(0.25M)を加えた。数時間さらに高温で加熱および撹拌を行った後、この試料を、一晩撹拌しながら約25℃に冷却した。沈殿は生じておらず、この試料を、窒素気流下で乾固するまでエバポレーションした。この生成した残渣に、分液ロート中でEtOAcを水で洗浄することによって約3%水/EtOAcに調製した「含水」EtOAc(6mL)を加えた。生成した懸濁液を撹拌し、約65℃で数時間加熱した。この試料を、一晩撹拌しながら約25℃に冷却した。この固体を真空濾過により懸濁液から単離し、この固体を風乾させた。この物質の融点特性を示差熱分析(DTA)により測定した。融解開始温度=227℃;ピーク融解温度=233℃。
【0112】
(実施例4)
((E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド HCl)
(E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド(218mg、0.49mmol)を、シンチレーションバイアル中でエタノール(5mL)と混合した。この試料を、撹拌しながら約75℃に加熱した。1モル当量のHCl(1N)を加えた。数時間さらに高温で加熱および撹拌を行った後、この試料を、一晩撹拌しながら約25℃に冷却した。沈殿は生じておらず、この試料を、窒素気流下で乾固するまでエバポレーションした。この生成した残渣に、分液ロート中でEtOAcを水で洗浄することによって約3%水/EtOAcに調製した「含水」EtOAc(6mL)を加えた。生成した懸濁液を撹拌し、約65℃で数時間加熱した。この試料を、一晩撹拌しながら約25℃に冷却した。この固体を真空濾過により懸濁液から単離し、この固体を風乾させた。この物質の融点特性を示差熱分析(DTA)により測定した。分解温度=180℃。
【0113】
(実施例5)
((E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド(結晶性)(結晶形I))
(初期分析)
基本的に実施例I(a)にて説明したようにして調製した(E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミドの試料を(軽く粉砕した前後で)示差走査熱量測定およびX線粉末回折により分析した。DSC:開始温度189.79℃;ピーク温度109.91℃。
【0114】
(再結晶)
実施例I(a)からのメタンスルホンアミドの試料(約50mg)を、完全に溶解するまで室温で撹拌しながら溶媒を少しずつ加えることにより、イソプロピルアルコール、酢酸イソプロピル、アセトニトリル、メタノール、エタノール(無水)、エタノール(96%)、およびアセトンに溶解させた。未溶解の粒子が残留した場合には、その溶液を約50℃に加熱した。各溶液を、結晶化が起こるまで(数時間から一晩)、撹拌しながら開放したバイル中に残した。約0.5mlの溶液が残る(アセトン溶液については約0.2ml)まで、エバポレーションを継続して十分に結晶形成させた。十分な結晶が生成すると、その溶液を濾過し、生成した粉末をガラスプレート上で室温で一晩風乾させた。各再結晶から得た粉末試料をX線粉末回折により分析した。
【0115】
初期分析(軽く粉砕した前後で)の試料および再結晶した試料についてX線パターンを得て、軽く粉砕した後の初期試料から得られた以下のデータと共通の特徴的なピーク位置(°2θ値)を有する共通の結晶形(結晶形I)であることが明らかとなった。
【0116】
【表5】

【0117】
(実施例6)
((E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド(メタノール再結晶))
50Lの3つ口丸底フラスコにメカニカルスターラー、還流冷却器、熱電対および乾燥管を取り付け、加熱マントル中に置いた。基本的に実施例I(b)にて説明したようにして調製した固体物質2263gおよびMeOH(30L)をフラスコに入れた。撹拌を開始し、混合物を加熱して還流させ、固体が溶解するまで加熱を続けた。透明な溶液が得られると、活性炭(180g)を注意深くフラスコに入れた。混合物を熱いうちに濾過し、メカニカルスターラー、熱電対および乾燥管を備えた、冷却浴中に置いた50Lの3つ口丸底フラスコに濾液を入れた。生成した溶液を最初はゆっくり冷却し、次いで−10から0℃に冷却し、この温度で最低1時間撹拌した。この後、この固体を濾過により集め、冷MeOH(2×600mL、−40℃)で洗浄した。生成物を真空オーブン中、70℃で一晩乾燥し、1942gを得た。
【0118】
(実施例7)
((E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド(微粉化))
化合物(I)の試料(例えば、基本的に実施例6にて説明したようにして調製した)を、一連の0101 Jet−O−Mizer(ループミル)(Fluid Energy Processing and Equipment Company)および圧縮窒素粉砕ガス(露点>40℃)を使用して粒径を小さくした(微粉化した)。粒径分布をSympatec(HELOS粒径分析システム)レーザー回折粒径アナライザで測定し、x50およびx90粒径をx50<5μm、x90<15μmと測定した。
【0119】
(実施例8)
((E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド(結晶性)(結晶形II))
例えば基本的に実施例6にて説明したようにして調製した未微粉化化合物(I)の試料、および例えば基本的に実施例7にて説明したようにして調製した微粉化化合物(I)をBruker D8 Advance回折計を使用するX線粉末回折分析に供し、0.6mm発散スリット、0.6mm散乱線除去スリット、0.1mm受光スリットおよび0.6mm検出器スリットを用いて、2θ単位で0.02°の刻み幅、5秒/ステップの走査速度で、試料を°2θ単位で2°と45°との間で走査した。未微粉化試料および微粉化試料についてのX線パターンにより、以下の°2θ値に特徴的なピーク位置を有する共通の結晶形(結晶形II)であることが明らかとなった。
【0120】
【表6】

【0121】
(実施例9)
(ナノ懸濁液中の(E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド)
初期d90粒径=32μm(Beckman Coulter LS13 320レーザー回折粒径アナライザを使用して測定した初期粒径)を有する化合物I約579mgを、250mLのPyrex No.1395培地瓶中で、1%カルボキシメチルセルロースナトリウム、0.25%ポリソルベート80、および0.05% Antifoam 1510を含む174mLのビヒクルに懸濁させた。この処方物を、最大値の約86%であるパワー出力で0.5インチ(約1.3cm)プローブを使用して、Branson Sonifer 250で46分間超音波処理した。プローブで超音波処理した処方物中の化合物Iの粒径を、Horiba LA−920粒径アナライザを使用して測定した:平均粒径:3.8μm;d90粒径:6.5μm。
【0122】
プローブで超音波処理した処方物をホモジナイズして、JR30、75ミクロン、相互作用チャンバおよび冷却コイルを備えたMicrofluidics M−110S Microfluidizerを使用してナノ懸濁液を得た。冷却コイルを、14℃までの低下および39℃への上昇という短時間のずれを除いて20〜30℃の温度に保った水浴中に維持した。圧力計を100psi(約6.89bar)に設定し、23,000psi(約159MPa)の圧力をこの処方物に加えた。この処方物を1Lのホッパーに入れ、ホッパーの底からMicrofluidizerに入れ、生成物ドレインおよびある長さのシリコーンチュービングを通してホッパー中の液体の上に戻した。またこの処方物を、標準的なプロペラミキサでホッパー中で撹拌した。この処方物の全体の体積を、相互作用チャンバに81回通した。ナノ懸濁液処方物の中の化合物Iの最終粒径は、Horiba LA−920粒径アナライザを用いて測定した:平均粒径:0.430μm;d90粒径:0.594μm。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド、またはその薬理学的に許容できる塩である化合物。
【請求項2】
(E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミドである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
(E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミドである化合物。
【請求項4】
(E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}メタンスルホンアミド・HBr、(E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド・HCl、または(E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミド・HSO(2:1)である、請求項1に記載の塩。
【請求項5】
関節リウマチ、変形性関節症、リウマチ熱、ぜんそく、アレルギー性鼻炎、全身性エリテマトーデス、慢性閉塞性肺疾患、クローン病、炎症性腸疾患、もしくは潰瘍性大腸炎の治療方法であって、それを必要とする患者に有効量の請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の化合物または塩を投与することを含む、方法。
【請求項6】
関節リウマチを治療するための請求項5に記載の方法。
【請求項7】
関節リウマチの治療方法であって、それを必要とする患者に有効量の(E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミドである化合物を投与することを含む、方法。
【請求項8】
関節リウマチ、変形性関節症、リウマチ熱、ぜんそく、アレルギー性鼻炎、全身性エリテマトーデス、慢性閉塞性肺疾患、クローン病、炎症性腸疾患、もしくは潰瘍性大腸炎の治療のための医薬の製造のための、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の化合物または塩の使用。
【請求項9】
関節リウマチの治療のための請求項8に記載の使用。
【請求項10】
関節リウマチの治療のための医薬の製造のための、(E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}メタンスルホンアミドである化合物の使用。
【請求項11】
1つ以上の薬理学的に許容できる担体、賦形剤、もしくは希釈剤と組合せて請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の化合物または塩を含む、医薬組成物。
【請求項12】
1つ以上の薬理学的に許容できる担体、賦形剤、もしくは希釈剤と組合せて請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の化合物または塩を含む、関節リウマチの治療用の医薬組成物。
【請求項13】
1つ以上の薬理学的に許容できる担体、賦形剤、もしくは希釈剤と組合せて(E)−N−{3−[1−(8−クロロ−11H−10−オキサ−1−アザ−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イリデン)−プロピル]−フェニル}−メタンスルホンアミドである化合物を含む、医薬組成物。
【請求項14】
治療用の請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の化合物または塩。

【公表番号】特表2009−543804(P2009−543804A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519689(P2009−519689)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/073345
【国際公開番号】WO2008/008882
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYREX
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】