説明

グルコースデヒドロゲナーゼの活性向上方法

【課題】本発明の目的は、化学物質の共存によりGDHの比活性を向上させることである。
【解決手段】グルコースデヒドロゲナーゼを界面活性剤と共存させてなる、グルコースデヒドロゲナーゼの活性向上方法。界面活性剤が、胆汁酸、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体およびドデシル硫酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種類以上である、該方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコースの定量に有用な酵素であるグルコースデヒドロゲナーゼの活性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコースデヒドロゲナーゼ(以下GDHとも称する)は、D−グルコースを酸化してD−グルコノ−δ−ラクトンに変換する反応を触媒する酵素であり、グルコース定量キット並びにグルコースセンサの原料に用いられている。グルコースを定量する方法としては、還元型の補酵素から電子を受け取って還元されることにより発色または退色する電子伝達物質を共存させて吸光度を測定することにより行う方法、並びに電圧を印加して得られる電気化学シグナルの強度を測定することにより行う方法が知られる。いずれの方法においても、吸光度の変化度および電気化学シグナルの強度はそれぞれ試料中のグルコース濃度に依存しており、あらかじめグルコース標準溶液を用いて作成した検量線を元にグルコースを定量することが可能である。
【0003】
公知のグルコースデヒドロゲナーゼとしては、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチドりん酸(NADP)を補酵素とするNAD(P)依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(以下NAD(P)−GDHと称する)、ピロロキノリンキノン(PQQ)を補酵素とするPQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(以下PQQ−GDHと称する)、そしてフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を補酵素とするFAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(以下FAD−GDHと称する)の大きく3種類に大別される。
【0004】
グルコースの定量において望まれるGDHの特性としては、基質に対する親和性の高さ、保存中の安定性の高さ、比活性の高さ、グルコースに対する基質特異性の高さなどが挙げられる。
【0005】
これらの特性を改善するための試みはこれまでにおいても鋭意なされている。その方法としては、GDHのアミノ酸配列のうち1ないし数個を欠失・置換・挿入または付加させてなる方法、そしてそれら特性の向上に効果のある各種化学物質を共存させることによる方法が知られており、多数の出願がなされている。
【0006】
アミノ酸配列を改変する方法は、遺伝子工学的な手法の発展により、当業者にとって容易になしうるものとなっており、これまでにも多くの成果について特許出願がなされている。しかしながらこの方法は、あるひとつの注目する特性を改変することに成功したとしても、別の重要な特性が損なわれ、結果として実用に耐えないものとなる場合も少なくない。トータルとしてより有用な改変を行うために効果のある変異導入箇所を特定することは、遺伝子工学的手法や情報科学の発展した今日にあっても莫大な実験量を要してしまうのが現状である。その点において化学物質の共存による方法は比較的簡便に実施できる方法である。
【0007】
化学物質の共存による方法の具体例としては、特許文献1には、糖アルコール・カルボン酸・金属塩・アンモニウム塩・硫酸塩・タンパク質を共存させることによりFAD−GDHを安定化する方法、特許文献2にはフタル酸、マレイン酸などの有機酸、アミド化合物、スルホン酸の共存によるPQQ−GDHの安定化方法について開示される。特許文献3には、α−ケトグルタル酸、リンゴ酸、α−ケトグルコン酸、α−サイクロデキストリンの添加によるPQQ−GDHの安定化方法が開示される。さらに特許文献4には、サリチル酸ナトリウムを単独で、もしくはゼラチンやアルブミンとの組合せで添加することによるPQQ−GDHの安定化方法が開示される。また、特許文献5には、糖アルコール・カルボン酸・金属塩・アンモニウム塩・硫酸塩・タンパク質を共存させることによるGDHの安定化方法が開示される。安定化以外の特性を改変させる方法としては、特許文献6には、コハク酸、フタル酸、グルタル酸等のジカルボン酸を添加することによるGDHの基質特異性の改良方法について開示される。
【0008】
一方で、GDHの比活性、すなわち単位GDH量あたりのD−グルコースを酸化してD−グルコノ−δ−ラクトンとする反応の速度を添加剤により促進させる方法についてはこれまで知見がなかった。特許文献7には、組換えGDHを培養生産する際に、該GDHの補酵素を産生する能力のある微生物を宿主とすることにより得られるGDHのホロ化率を向上させる方法について開示される。さらに特許文献8には、培地中にモノオールを添加することによるGDHのホロ化率向上方法について開示される。しかしながらこれらの方法はあくまでホロ化率を向上させる方法であり、ホロ酵素一分子あたりの活性を向上させているわけではない。また、NAD(P)−GDHのような補酵素を共有結合により保持しないGDHについては本方法を適用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−129965号公報
【特許文献2】特許第3470099号公報
【特許文献3】特許第3775561号公報
【特許文献4】特開2005−333872号公報
【特許文献5】特開2007−116935号公報
【特許文献6】特開2007−043982号公報
【特許文献7】特開平11−243949号公報
【特許文献8】特開2006−034165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、化学物質の共存によりGDHの比活性を向上させることである。
比活性とは、一定量のタンパク質当たりの活性を意味する。比活性の向上とは一定量のタンパク質当たりの活性が上昇することを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、界面活性剤の共存によりGDHの比活性が高まることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
項1
グルコースデヒドロゲナーゼを界面活性剤と共存させてなる、グルコースデヒドロゲナーゼの活性向上方法。
項2
界面活性剤が、胆汁酸、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体およびドデシル硫酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種類以上である、項1に記載の活性向上方法。
項3
界面活性剤の濃度が、0.01%以上0.5%以下(W/V)である、項1または2に記載の活性向上方法。
項4
界面活性剤の量が、GDHのタンパク質としての重量1mgあたり10mg以上500mg以下である、項1または2に記載の活性向上方法。
項5
グルコースデヒドロゲナーゼが、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドりん酸依存型である、項1〜4のいずれかに記載の活性向上方法。
項6
グルコースデヒドロゲナーゼが、超好熱性始原菌由来である、項5に記載の活性向上方法。
項7
超好熱性始原菌が、サーモプロテウス属である、項6に記載の活性向上方法。
項8
グルコースデヒドロゲナーゼが次の(A)〜(C)のいずれかである、項1〜4のいずれかに記載の活性向上方法。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するポリペプチドからなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
(B)配列番号2に示すアミノ酸配列において1 若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドからなるタンパク質。
項9
少なくともグルコースデヒドロゲナーゼと界面活性剤とを含んでなる組成物。
項10
界面活性剤が、胆汁酸、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体およびドデシル硫酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種類以上である、項9に記載の組成物。
項11
界面活性剤の濃度が、0.01%以上0.5%以下(W/V)である、項9または10に記載の組成物。
項12
界面活性剤の量が、GDHのタンパク質としての重量1mgあたり10mg以上500mg以下である、項9または10に記載の組成物。
項13
グルコースデヒドロゲナーゼが、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドりん酸依存型である、項9〜12のいずれかに記載の活性向上方法。
項14
グルコースデヒドロゲナーゼが、超好熱性始原菌由来である、項13に記載の組成物。
項15
超好熱性始原菌が、サーモプロテウス属である、項14に記載の組成物。
項16
グルコースデヒドロゲナーゼが次の(A)〜(C)のいずれかである、項9〜12のいずれかに記載の組成物。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するポリペプチドからなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
(B)配列番号2に示すアミノ酸配列において1 若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドからなるタンパク質。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、GDHの比活性を高めることができる。グルコース測定キット並びにグルコースセンサの作製においては、GDHの添加量を活性ベースで規定することが一般的であるため、本発明によりGDHの使用量を低減でき、それによりコストを削減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態は、GDHを含む試薬組成に、界面活性剤を共存させてなるGDHの比活性向上方法である。界面活性剤としては、該GDHの比活性を向上させる効果のあるものであれば特に限定されず、好適には胆汁酸、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪族エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ドデシル硫酸塩、塩化ヘキサデシルピリジニウム等が挙げられる。
より具体的には、胆汁酸としては例えばコール酸、グリココール酸、タウロコール酸、デオキシコール酸、リトコール酸、ヒオデオキシコール酸が挙げられる。またポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては例えばポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタンステアレートなどが挙げられる。またポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、 ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテルなどが挙げられる。またポリオキシアルキレン誘導体としては、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどが挙げられる。またポリオキシエチレン脂肪族エステルとしてはポリオキシエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレングリコールモノステアレート、ポリオキシエチレングリコールステアレート、ポリオキシエチレングリコールモノオレートなどが挙げられる。またグリセリン脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸モノグリセライド、オレイン酸モノグリセライドなどが挙げられる。さらにポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルとしてはテトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビットなどが挙げられる。
これらのうち最も好適には、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(商品名:Tween20)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(商品名:Tween80)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名:Brij35)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(商品名:エマルゲンA60)、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(商品名:エマルゲン430)、コール酸塩、デオキシコール酸塩が挙げられる。上記の界面活性剤は、1種類のみで、もしくは数種類を混合して用いられる。
【0015】
GDHとしては、界面活性剤の添加により比活性向上の効果がみられるものであれば限定されず、例えばPQQ−GDH(アシネトバクター属由来)、FAD−GDH(ブルクホリデリア属由来、アスペルギルス属由来、ペニシリウム属由来)、NAD(P)−GDH(バチルス属由来、スルフォロバス属由来、サーモプラズマ属由来、サーモプロテウス属由来)等が挙げられる。これらのうち好適にはNAD(P)−GDHが選択される。より好適には、超好熱性始原菌由来のNAD(P)−GDHである。
【0016】
16SリボソームRNA(16SrRNA)の塩基配列(真核生物の場合は18SrRNA)に基づいた進化系統樹によれば、生物はEucarya、Bacteria、Archaeaの3つの大きな生物界に分類される。本発明に述べる「始原菌」とは、この16SrRNAの進化系統樹に基づいて「Archaea」という生物界に分類される生物を指す。さらに超好熱性始原菌とは、90℃以上で生育可能な始原菌であるか、もしくは至適生育温度が80℃以上である始原菌として定義される。好ましいGDHとしては、パイロディクティム(Pyrodictim)属、スルフォロバス(Sulfolobus)属、デスルフロコッカス(Desulfurococcus)属、サーモプロテウス(Thermoproteus)属、サーモフィラム(Thermofilum)属、サーモプラズマ(Thermoplasma)属からなる群のうちいずれかに分類されるかあるいはいずれかに近縁である超好熱始原菌に由来するNAD(P)−GDHであり、より好ましくはサーモプロテウス属に分類される始原菌由来NAD(P)−GDHである。最も好ましいGDHは、配列番号2に記載するアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するポリペプチドを含んでなるGDHであり、そのようなGDHとしては例えば配列番号4に記載するアミノ酸配列からなるGDHが挙げられる。
【0017】
共存させる界面活性剤の量は、GDHの比活性向上の効果がみられる範囲であればよいが、目安として液状であれば、好ましい下限は0.01%(W/V)であり、さらに好ましくは0.05(W/V)%である。また、好ましい上限は0.5%(W/V)であり、さらに好ましくは0.1%(W/V)である。
乾燥状態にあっては、試料等の添加により溶解させた状態での界面活性剤濃度が上記の範囲となるよう含まれればよい。別の観点からの共存させる界面活性剤の量は、GDHのタンパク質としての重量1mgあたりに換算して、好ましい下限は10mgであり、さらに好ましくは50mgである、また、好ましい上限は500mgであり、より好ましくは100mgである。
【0018】
GDHと界面活性剤とを含んでなる組成物の形態としては、液状でも固体状でもよく、特に限定しない。組成物には、pH5〜9の範囲で緩衝能を有する緩衝剤をさらに含んでもよく、緩衝剤としては例えばりん酸カリウム塩、りん酸ナトリウム塩、酢酸塩、ほう酸塩、クエン酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、GOODの緩衝剤などが好適に選択されうる。また、GDHがNAD(P)依存型である場合には、組成中にNADもしくはNADPを含むことが好ましい。さらに、組成物の安定化のために、GDHの基質となりえない糖類、糖アルコール、タンパク質、金属塩、キレート剤、親水性ポリマー等を含んでもよい。
【0019】
本発明の方法を適用したGDHおよび界面活性剤を含んでなる組成物としては、GDHを含んでなる液状・粉末・錠剤のほか、グルコース定量キット、グルコースセンサもその範疇である。グルコース定量用キットおよびグルコースセンサの具体的な構成について以下に例示する。
【0020】
グルコースアッセイキット
本発明のグルコースアッセイキットは、典型的には、本発明のGDH、補酵素、緩衝液、メディエーターなど測定に必要な試薬、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明のキットは、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。
【0021】
グルコースセンサ
本発明のグルコースセンサは、電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上にGDHを固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどを用いる方法があり、フェロセンあるいはその誘導体に代表される電子メディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。GDHがNAD(P)−GDHである場合には補酵素であるNADもしくはNADPと共存させた形態で電極上に固定化するが、補酵素不在の形態で固定化し、補酵素を別の層としてまたは溶液中で供給することも可能である。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明のGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。
【0022】
活性測定例
本発明においては、GDH活性は特に断りのない限り、以下の方法に従って行われる。
反応液(0.1mol/L トリス、10mmol/L β−NAD、150mmol/L D−グルコース、 pH8.0)2.9mLを石英セルにいれ、37℃で5分間予備加温する。そしてGDH溶液0.1mLを加えて混和し、37℃で5分反応させ、この間340nm吸光度を測定する。吸光度変化の直線部分から1分間あたりの吸光度の上昇度(ΔODTEST)を算出する。盲検は、GDH溶液の代わりに緩衝液を加えて混和し、同様に37℃5分インキュベートして340nm吸光度を記録し、1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を算出する。これらの値を以下の式に当てはめて活性値(U/mL)を算出する。なおここでは、基質存在下で1分間に1マイクロモルの補酵素を還元する酵素量を1Uと定義する。

GDH活性(U/mL)=[(ΔODTEST−ΔODBLANK)×3.0×希釈倍率]/(6.22×1.0×0.1)

なお、ここで
3.0 :GDH溶液混和後の容量(mL)
6.22 :NADHのミリモル分子吸光係数(cm/マイクロモル)
1.0 :光路長(cm)
0.1 :添加するGDH溶液の液量(mL)
である。
【0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
サーモプロテウス属超好熱性始原菌由来改変型GDHを以下の要領で得た。
配列番号1に示すGDH遺伝子が大腸菌用プラスミドpBluescriptKSN(+)のNdeI−BamHIサイトに挿入された発現プラスミドpBSGDH−2を鋳型に、Quick Change Multi Site Mutagenesis Kit (ストラタジーン製)を用いてGDH遺伝子内の特定部位に変異を導入することにより、発現プラスミドpBSTGDH−3を得た。pBSTGDH−3は配列番号3に相当するDNA分子をlacプロモーター下に接続してなるプラスミドである。このプラスミドを大腸菌JM109株コンピテントセルに形質転換し、生産菌株とした。この形質転換株は、500ml容坂口フラスコに入った200ml前培養培地(0.5%酵母エキス、0.25%ペプトン、0.5%塩化ナトリウム、0.5%グルコース、100μg/mlアンピシリンナトリウム、pH7.4)に植菌し、30℃180rpmで16時間振とう培養した。得られた前培養液を、10L容ジャーファーメンター中の6LのGDH生産培地(2.4%コウボエキス、2.4%ペプトン、1.25%リン酸1水素2カリウム、0.23%リン酸2水素1カリウム、0.4%グリセロール、0.1%消泡剤、100μg/mlアンピシリンナトリウム、pH7.0)に全量投入し、通気量2L/分、攪拌速度310rpm、槽内圧0.02MPa、温度37℃で24時間通気攪拌培養を行った。得られた培養液を遠心分離することにより菌体を得、これを1Lの20mMリン酸カリウムバッファー(pH8.0)に懸濁してフレンチプレス菌体破砕装置を用いて平均圧力80MPaで菌体を破砕した。さらにこの破砕液に1Lあたり152gの硫酸アンモニウムを加えて溶解し、60℃1時間の加温を行い、さらに遠心分離によって沈殿を除いた。この溶液を、15.2%硫酸アンモニウムを含む20mMリン酸カリウムバッファー(pH8.0)で緩衝化させたOctyl−Sepharose樹脂(GEヘルスケア社製)にアプライしてGDHを樹脂に吸着させ、さらに7.6%硫酸アンモニウムを含む20mMリン酸カリウムバッファー(pH8.0)で樹脂を洗浄した。そして硫酸アンモニウム濃度を7.6%から0%へ、同時にエチレングリコール濃度を0%から0.2%へ、それぞれグラジエントをかけながらバッファーを通液することでGDHを溶出させた。次に、50mMリン酸カリウムバッファー(pH7.0)により緩衝化したG−25 Sepharose樹脂を用いて脱塩・バッファー置換を行った。最後に、50mMリン酸カリウムバッファー(pH7.0)で緩衝化したDEAE−SepharoseにGDH溶液を通液することで夾雑タンパク質を樹脂に吸着させ、透過液を精製GDHとした。このように作製したサーモプロテウス属由来変異型GDHは配列番号4に示すアミノ酸配列を有している。これは、発明者らの別の検討において変異導入前の野生型GDHと比して37℃以下の温度における比活性、補酵素であるNADに対する親和性、基質に対する親和性が向上した改変型GDHである。
【実施例2】
【0025】
実施例1で作製したGDHを用いて、以下の組成からなる溶液を作製した。
10U/ml GDH (実施例1で調製したもの)
0.01〜0.5% 界面活性剤
50mM りん酸カリウム (pH8.0)
界面活性剤としては、Tween20、Tween80、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸、ドデシル硫酸ナトリウム、エマルゲンA60、エマルゲン430を用いた。これら溶液と、組成中に界面活性剤を含まない溶液について、上述の活性測定例に示す方法に従ってGDH活性を測定した。界面活性剤を含まない場合のGDH活性を100とした場合の相対活性に換算した結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
これらの結果から、界面活性剤の共存によってGDH比活性が向上する効果があることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、GDHを用いてグルコースを定量するためのキット並びにグルコースセンサに利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコースデヒドロゲナーゼを界面活性剤と共存させてなる、グルコースデヒドロゲナーゼの活性向上方法。
【請求項2】
界面活性剤が、胆汁酸、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体およびドデシル硫酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種類以上である、請求項1に記載の活性向上方法。
【請求項3】
界面活性剤の濃度が、0.01%以上0.5%以下(W/V)である、請求項1または2に記載の活性向上方法。
【請求項4】
界面活性剤の量が、GDHのタンパク質としての重量1mgあたり10mg以上500mg以下である、請求項1または2に記載の活性向上方法。
【請求項5】
グルコースデヒドロゲナーゼが、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドりん酸依存型である、請求項1〜4のいずれかに記載の活性向上方法。
【請求項6】
グルコースデヒドロゲナーゼが、超好熱性始原菌由来である、請求項5に記載の活性向上方法。
【請求項7】
超好熱性始原菌が、サーモプロテウス属である、請求項6に記載の活性向上方法。
【請求項8】
グルコースデヒドロゲナーゼが次の(A)〜(C)のいずれかである、請求項1〜4のいずれかに記載の活性向上方法。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するポリペプチドからなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
(B)配列番号2に示すアミノ酸配列において1 若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドからなるタンパク質。
【請求項9】
少なくともグルコースデヒドロゲナーゼと界面活性剤とを含んでなる組成物。
【請求項10】
界面活性剤が、胆汁酸、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体およびドデシル硫酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種類以上である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
界面活性剤の濃度が、0.01%以上0.5%以下(W/V)である、請求項9または10に記載の組成物。
【請求項12】
界面活性剤の量が、GDHのタンパク質としての重量1mgあたり10mg以上500mg以下である、請求項9または10に記載の組成物。
【請求項13】
グルコースデヒドロゲナーゼが、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドりん酸依存型である、請求項9〜12のいずれかに記載の活性向上方法。
【請求項14】
グルコースデヒドロゲナーゼが、超好熱性始原菌由来である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
超好熱性始原菌が、サーモプロテウス属である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
グルコースデヒドロゲナーゼが次の(A)〜(C)のいずれかである、請求項9〜12のいずれかに記載の組成物。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するポリペプチドからなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
(B)配列番号2に示すアミノ酸配列において1 若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドからなるタンパク質。

【公開番号】特開2011−50299(P2011−50299A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201539(P2009−201539)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】