グルコース化合物及びそれらの製造方法並びにダビジインの製造方法
【課題】D−グルコースから短工程且つ高収率でダビジインを工業的に有利に製造するための合成中間体として使用できるグルコース化合物を提供する。
【解決手段】本発明のグルコース化合物は、ダビジインを構成するグルコースの水酸基にエステル結合している5個の3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸の4位の水酸基が全て保護基で保護されているダビジイン誘導体である。該グルコース化合物の水酸基を保護し、次いで脱保護することにより、容易にダビジインを製造できる。
【解決手段】本発明のグルコース化合物は、ダビジインを構成するグルコースの水酸基にエステル結合している5個の3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸の4位の水酸基が全て保護基で保護されているダビジイン誘導体である。該グルコース化合物の水酸基を保護し、次いで脱保護することにより、容易にダビジインを製造できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコース化合物及びそれらの製造方法並びにダビジインの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エラジタンニンは、加水分解によってエラーグ酸を生成するタンニンであり、D−グルコースの水酸基上にガロイル基、ヘキサヒドロキシジフェノイル(HHDP)基等を有する化合物である。エラジタンニンの中には,分子内のグルコースがアキシアル配向した置換基の多いイス型(1C4)、あるいは、ねじれ舟型(B)配座になった化合物群があり、1C4/B−エラジタンニンと呼ばれている。
【0003】
式(1)
【0004】
【化1】
【0005】
で表されるダビジインは、1982年にHaslamらによって中国産のダビディア科の落葉樹であるハンカチノキ (Davidia involucrata) から単離された1C4/B−エラジタンニンである(非特許文献1)。グルコースの 1位と6位をHHDP基が架橋しているために、ピラノース環が反転したねじれ舟型立体配座をとっていることが1H-NMRの結合定数を基に明らかにされている(非特許文献1)。HHDP基の軸不斉は、CDスペクトルからSと推定されている。ダビジインは、オピエート受容体へのリガンドの結合阻害等の生物活性を有していることが報告されている(非特許文献2)
本発明者らは、先にD−グルコースからダビジインを合成することに初めて成功した(非特許文献3)。しかしながら、非特許文献3に開示されている方法は、D−グルコースからダビジインを合成するのに17工程を必要とし、D−グルコースを基準とするダビジインの収率も極めて低く、満足できるものではない。そのため、D−グルコースから短工程且つ高収率でダビジインを工業的に有利に製造し得る新規な方法の開発が要望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Haslam. E.; Haddock, E. A.; Gupta, R. K. J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1982, 2535-2545
【非特許文献2】Cai, Y.; Zhu, M.; Phillipson, J. D.; Greengrass, P. M.; Bowery, N. E. Phytochemistry, 1997, 44, 441-447
【非特許文献3】第49回天然有機化合物討論会, 2007, pp631-635
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、D−グルコースから短工程且つ高収率でダビジインを工業的に有利に製造し得る新規な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねるうち、D−グルコースから下記一般式(2)及び一般式(3)で表される文献未記載の新規グルコース化合物を合成することに成功し、該グルコース化合物からダビジインを極めて容易に製造できることを見い出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0009】
本発明は、下記項1〜項5に示す、グルコース化合物、それらの製造方法並びにダビジインの製造方法を提供する。
項1.一般式(2)
【0010】
【化2】
【0011】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。]
で表される3,6−O−架橋反転グルコース化合物。
項2.一般式(3)
【0012】
【化3】
【0013】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。]
で表されるグルコース化合物を酸化的カップリング反応に付して、一般式(2)
【0014】
【化4】
【0015】
[式中、R1は前記に同じ。]
で表される3,6−O−架橋反転グルコース化合物を製造する、グルコース化合物の製造方法。
項3.一般式(3)
【0016】
【化5】
【0017】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。]
で表されるグルコース化合物。
項4.式(4)
【0018】
【化6】
【0019】
で表されるグルコースと一般式(5)
【0020】
【化7】
【0021】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。MOMはメトキシメチル基を示す。]
で表されるカルボン酸とをエステル化反応させ、次いで得られる一般式(6)
【0022】
【化8】
【0023】
[式中、R1及びMOMは前記に同じ。]
で表される化合物を脱MOM化することにより、一般式(3)
【0024】
【化9】
【0025】
[式中、R1は前記に同じ。]
で表されるグルコース化合物を製造する、グルコース化合物の製造方法。
項5.一般式(3)
【0026】
【化10】
【0027】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。]
で表されるグルコース化合物を酸化的カップリング反応に付し、次いで得られる一般式(2)
【0028】
【化11】
【0029】
[式中、R1は、前記に同じ。]
で表される3,6−O−架橋反転グルコース化合物の水酸基を保護し、更に得られる一般式(7)
【0030】
【化12】
【0031】
[式中、R1は、前記に同じ。]
で表される化合物を脱保護することにより、式
【0032】
【化13】
【0033】
で表されるダビジインを製造する、ダビジインの製造方法。
【0034】
グルコース化合物
本発明の3,6−O−架橋反転グルコース化合物は、文献未記載の新規化合物であり、下記一般式(2)で表される。
【0035】
【化14】
【0036】
[式中、R1は前記に同じ。]
R1で示される水酸基の保護基としては、例えば、ベンジル基、ジメチルフェニル基、p−メトキシベンジル基、アリル基、トリアルキルシリル基等が挙げられる。
【0037】
本発明の3,6−O−架橋反転グルコース化合物は、例えば、下記反応式−1に示すようにして製造される。
【0038】
【化15】
【0039】
[式中、R1は前記に同じ。]
酸化的カップリング反応は、銅化合物及びアミン化合物の存在下、適当な溶媒中で行われる。
【0040】
銅化合物としては、例えば、塩化銅(II)、臭化銅(II)、硫酸銅(II)、トリクロロ酢酸銅(II)、トリフルオロ酢酸銅(II)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)等が挙げられ、塩化銅(II)が好ましい。アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン等を初めとする各種第1級アミンが挙げられ、n−ブチルアミンが好ましい。
【0041】
銅化合物の使用量は、出発原料化合物(3)1モルに対して、通常10〜20当量、好ましくは10〜15当量である。アミン化合物は、銅化合物に対して、通常2〜20倍当量、好ましくは4〜5倍当量である。
【0042】
用いられる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコールが好ましく、メタノールがより好ましい。乾燥させたアルコールが特に好ましく、乾燥メタノールが最も好ましい。
【0043】
酸化的カップリング反応の反応温度は、通常0〜60℃、好ましくは30〜45℃である。反応時間は、反応温度により異なり一概には言えないが、通常0.5〜24時間、好ましくは0.75〜2時間である。
【0044】
上記反応により得られる目的化合物(2)は、これを分離、精製することなく、そのまま下記反応式−3に示す製造工程の出発原料として使用される。
【0045】
上記反応において出発原料として用いられる化合物(3)は、新規化合物であり、例えばグルコースから下記反応式−2に示す方法に従い製造される。
【0046】
【化16】
【0047】
[式中、R1及びMOMは前記に同じ。]
グルコース(4)とカルボン酸(5)とのエステル化反応には、通常のエステル化反応の反応条件を広く適用することができる。具体的には、後記参考例1に示すようにして、化合物(6)が製造される。グルコース(4)及びカルボン酸(5)は、いずれも入手が容易な公知の化合物である。
【0048】
化合物(6)の脱メトキシメチル化(MOM化)反応には、加水分解による脱MOM化反応の反応条件を広く適用することができる。具体的には、後記実施例1に示すようにして、化合物(3)が製造される。
【0049】
上記エステル化反応及び脱MOM化反応により得られる目的化合物(3)は、通常の分離手段により反応混合物より分離され、精製される。このような分離及び精製手段としては、例えば蒸留法、再結晶法、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、親和クロマトグラフィー、プレパラティブ薄層クロマトグラフィー、溶媒抽出法等を挙げることができる。
【0050】
ダビジインの製造方法
本発明において、ダビジイン(1)は、グルコース化合物(2)の脱保護によって製造される。好ましくは、グルコース化合物(2)の水酸基を保護し、次いで脱保護することにより高純度で製造される。
【0051】
【化17】
【0052】
[式中、R1は前記に同じ。]
グルコース化合物(2)の水酸基を保護するに当たっては、最終段階での精製の容易性等を考慮すると、水酸基の保護基はグルコース化合物(2)におけるR1と同一の基であるのが好ましい。
【0053】
グルコース化合物(2)の水酸基を保護する際の反応条件は、特に制限がなく、水酸基を保護する公知の反応条件を広く適用できる。具体的には、後記実施例3に示すようにして、化合物(7)が製造される。化合物(7)を合成した段階で、公知の分離及び精製手段により化合物(7)の単離及び精製を行うと、引き続く脱保護反応によりダビジイン(1)を高純度で製造できる。
【0054】
化合物(7)の脱保護反応には、通常の脱保護反応の反応条件を広く適用することができる。具体的には、後記実施例4に示すようにして、ダビジイン(1)が製造される。
【0055】
上記で得られるダビジイン(1)は、通常の分離手段により反応混合物より分離され、精製される。このような分離及び精製手段としては、例えば蒸留法、再結晶法、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、親和クロマトグラフィー、プレパラティブ薄層クロマトグラフィー、溶媒抽出法等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0056】
本発明のグルコース化合物(3)及び(2)は、ダビジイン(1)を合成するための中間体として極めて重要な化合物である。
【0057】
本発明のグルコース化合物(3)及び(2)を経由すれば、公知のグルコースから僅か5工程でダビジイン(1)を製造することができる。しかもこれら5工程の各反応では、高収率で各々の目的化合物を製造できる。従って、公知のグルコースからダビジイン(1)を高い収率で製造することができる。
【0058】
そのため、本発明によれば、ダビジイン(1)の工業的に極めて有利な製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下に実施例を掲げて、本発明をより一層明らかにする。
【0060】
参考例1
1,2,3,4,6−β−ペンタキス(4’−O−ベンジル−3’,5’−O−ジメトキシメチルガロイル)グルコースの製造
D−グルコース(300 mg, 1.67 mmol)のピリジン(16 ml)及びジクロロメタン(32 ml)溶液に、4−ベンジルオキシ−3,5−ジメトキシメチル安息香酸(3.48 g, 9.99 mmol),N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩 (2.55 g, 13.3 mmol)及び4−ジメチルアミノピリジン(1.63 g, 13.3 mmol) を加えた。この混合物をアルゴンガス気流下、室温で3時間撹拌した。これに1M塩酸水溶液を加え、分液した後、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(30 ml×1)、水(30 ml×1)及び飽和食塩水(30 ml×1)で順次洗浄した。この有機層を硫酸マグネシウムで脱水し、濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(150 g of SiO2、 n−ヘキサン/酢酸エチル=2/1→1/1)で精製することにより、無色油状の1,2,3,4,6−β−ペンタキス(4’−O−ベンジル−3’,5’−O−ジメトキシメチルガロイル)グルコース(1.59g, 収率:52%)を得た。
融点:44.2-45.8 ℃
[α] 24D = +1.7°(c 0.61, CHCl3)
IR (ZnSe, thin film):
2957, 2348, 1732, 1592, 1499, 1395, 1329, 1217, 1190, 1156, 1109, 1049, 924, 756, 698 cm-1
1H-NMR (400 MHz in acetone-d6) δppm:
7.59 (s, 2H), 7.56-7.54 (m, 2H), 7.54 (s, 2H), 7.51-7.45 (m, 9H), 7.48 (s, 2H), 7.47 (s, 2H), 7.42 (s, 2H), 7.40-7.27 (m, 14H), 6.46 (d, 3JHH = 8.2 Hz, 1H), 6.18 (dd, 3JHH = 9.9 Hz, 9.9 Hz, 1H), 5.85 (dd, 3JHH = 9.9 Hz, 9.9 Hz, 1H), 5.75 (dd, 3JHH = 9.9 Hz, 8.2 Hz, 1H), 5.31 (s, 4H), 5.28 (d, 2JHH = 6.6 Hz, 2H), 5.24 (d, 2JHH = 6.6 Hz, 2H), 5.24 (d, 2JHH = 6.6 Hz, 2H), 5.22 (d, 2JHH = 6.6 Hz, 2H), 5.21 (d, 2JHH = 6.6 Hz, 2H), 5.21 (d, 2JHH = 6.6 Hz), 5.19 (d, 2JHH = 6.6 Hz, 2H), 5.18 (d, 2JHH = 6.6 Hz, 2H), 5.16 (s, 2H), 5.13 (s, 2H), 5.10 (s, 2H), 5.07 (s, 2H), 5.06 (s, 2H), 4.82 (dd, 2JHH = 12.4 Hz, 3JHH = 2.5 Hz, 1H), 4.75 (ddd, 3JHH = 9.6 Hz, 4.8 Hz, 2.5 Hz, 1H), 4.44 (dd, 2JHH = 12.4 Hz, 3JHH = 4.8 Hz, 1H), 3.50 (s, 6H), 3.46 (s, 12H), 3.43 (s, 6H), 3.43 (s, 6H)
13C-NMR (100 MHz in acetone-d6) δppm:
165.8 (s, 2C), 165.6 (s, 1C), 165.5 (s, 1C), 164.6 (s, 1C), 152.1 (s, 2C), 152.0 (s, 6C), 152.0 (s, 2C), 145.0 (s, 1C), 145.0 (s, 1C), 144.9 (s, 1C), 144.9 (s, 1C), 144.5 (s, 1C), 138.9 (s, 1C), 138.8 (s, 2C), 138.7 (s, 1C), 138.7 (s, 1C), 129.1 (d, 6C), 129.1 (d, 6C), 129.0 (d, 4C), 129.0 (d, 3C), 128.8 (d, 2C), 128.8 (d, 4C), 126.0 (s, 1C), 125.2 (s, 1C), 125.2 (s, 1C), 125.1 (s, 1C), 124.6 (s, 1C), 113.1 (d, 2C), 113.1 (d, 4C), 113.0 (d, 4C), 96.3 (t, 2C), 96.3 (t, 6C), 96.2 (t, 2C), 93.7 (d, 1C), 75.6 (t, 5C), 74.0 (d, 1C), 73.7 (d, 1C), 72.5 (d, 1C), 70.7 (d, 1C), 63.7 (t, 1C), 56.7 (q, 5C), 56.6 (q, 5C)
HRMS-ESI (m/z): [M + Na]+ calcd for C96H102O36, 1853.6048; found 1853.6014。
【0061】
実施例1
1,2,3,4,6−β−ペンタキス(4’−O−ベンジルガロイル)グルコースの製造
参考例1で得られた1,2,3,4,6−β−ペンタキス(4’−O−ベンジル−3’,5’−O−ジメトキシメチルガロイル)グルコース(400 mg, 0.218 mmol)のテトラヒドロフラン(4 ml)溶液に、イソプロパノール(118 ml)及び濃塩酸(2.4 ml)を加えた。得られる混合物を55℃で3.5時間撹拌した。この混合物を0℃に冷却し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた。エバポレーションにより反応混合物からイソプロパノールを除去した後、水性混合物を酢酸エチル (20 ml×3)で抽出した。有機層を合わせ、水 (30 ml×1)及び飽和食塩水(30 ml×1)で順次洗浄した。この有機層を硫酸マグネシウムで脱水し、濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。得られる混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(100 g of SiO2、 クロロホルム/メタノール=1/0→10/1)で精製することにより、無色アモルファス状の1,2,3,4,6−β−ペンタキス(4’−O−ベンジルガロイル)グルコース(283 mg, 収率:93%)を得た。
融点:119.5-120.8 ℃
[α] 24D = +12.4°(c 0.93, CHCl3);
IR (ZnSe, thin film):
3083, 2959, 2864, 1720, 1599, 1522, 1455, 1356, 1217, 1057, 1003, 957, 756, 698 cm-1
1H-NMR (400 MHz in acetone-d6) δppm:
7.55-7.46 (m, 10H), 7.38-7.25 (m, 15H), 7.17 (s, 2H), 7.11 (s, 2H), 7.05 (s, 2H), 7.02 (s, 2H), 6.98 (s, 2H), 6.40 (d, 3JHH = 8.2 Hz, 1H), 6.07 (dd, 3JHH = 9.9 Hz, 9.9 Hz, 1H), 5.71 (dd, 3JHH = 9.9 Hz, 9.9 Hz, 1H), 5.66 (dd, 3JHH = 9.9 Hz, 8.2 Hz, 1H), 5.21 (s, 2H), 5.18(s, 2H), 5.15(s, 2H), 5.11(s, 4H), 4.62 (ddd, 3JHH = 9.9 Hz, 4.1 Hz, 2.3 Hz, 1H), 4.56 (dd, 2JHH = 12.6 Hz, 3JHH = 2.3 Hz, 1H), 4.48 (dd, 2JHH = 12.6 Hz, 3JHH = 4.1 Hz, 1H)
13C-NMR (100 MHz in acetone-d6) δppm:
166.2 (s, 1C), 165.8 (s, 1C), 165.5 (s, 2C), 164.8 (s, 1C), 151.6 (s, 2C), 151.4 (s, 6C), 151.4 (s, 2C), 139.9 (s, 1C), 139.7 (s, 2C), 139.6 (s, 1C), 139.3 (s, 1C), 138.7 (s, 1C), 138.7 (s, 1C), 138.6 (s, 1C), 138.6 (s, 1C), 138.5 (s, 1C), 129.3 (d, 5C), 129.3 (d, 2C), 129.3 (d, 2C), 129.2 (d, 2C), 129.1 (d, 4C), 129.0 (d, 4C), 128.8 (d, 6C), 126.1 (s, 1C), 125.3 (s, 1C), 125.3 (s, 1C), 125.2 (s, 1C), 124.7 (s, 1C), 110.4 (d, 2C), 110.4 (d, 2C), 110.3 (d, 2C), 110.2 (d, 4C), 93.4 (d, 1C), 74.7 (t, 5C), 73.8 (d, 1C), 73.6 (d, 1C), 72.0 (d, 1C), 69.7 (d, 1C), 63.1 (t, 1C)
HRMS-ESI (m/z): [M + Na]+ calcd for C76H62O26, 1413.3427; found 1413.3496。
【0062】
実施例2
ペンタ(4’−O−ベンジル)ダビジインの製造
実施例1で得た1,2,3,4,6−β−ペンタキス(4’−O−ベンジルガロイル)グルコース(180 mg, 0.129 mmol)を、使用に先立ち、アセトニトリルを用いて乾燥した。次いでこれをメタノール(4.8 ml)に溶解した。別のフラスコに、塩化銅(II)(209 mg, 1.55 mmol)及びn−ブチルアミン(454 mg, 6.21 mmol)を加え、次にメタノール(4.0 ml)を加え、室温で30分間撹拌することにより、塩化銅(II)・n−ブチルアミン錯体の青色溶液を調製した。塩化銅 (II)・n−ブチルアミン錯体の溶液に、1,2,3,4,6−β−ペンタキス(4’−O−ベンジルガロイル)グルコースのメタノール溶液を加え、得られる混合物をアルゴンガス気流下、25℃で2時間撹拌した。反応混合物をジエチルエーテル(15 ml)で希釈し、1M塩酸水溶液でクエンチした。反応混合物からメタノールを留去した後、水性混合物をジエチルエーテルで抽出した(15 ml×3)。有機層を合わせ、1M塩酸水溶液(20 ml×1)、10%チオ硫酸ナトリウム水溶液(20 ml×3)、水(20 ml×2)及び飽和食塩水(20 ml×1)で順次洗浄した。一般的な方法で乾燥した後、濾液を留去することにより、黄色アモルファス固体のペンタ(4’−O−ベンジル)ダビジインを含む混合物を得た。
【0063】
実施例3
ペンタデカベンジルダビジインの製造
実施例2で得られたペンタ(4’−O−ベンジル)ダビジインを含む混合物のアセトン(3 ml)溶液に、炭酸カリウム(233 mg, 1.68 mmol)及び臭化ベンジルをこの順序で加えた。得られる混合物をアルゴンガス気流下、3.5時間撹拌した。この混合物をコットン−セライトパッドを通して濾過した。濾液をエバポレートし、残渣を酢酸エチル(30 ml)で希釈し、次いでこれを飽和塩化アンモニウム水溶液(20 ml×3)、水(20 ml×1)及び飽和食塩水(20 ml×1)で順次洗浄した。この有機層を硫酸マグネシウムで脱水し、濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。得られる混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(8 g of SiO2、 トルエン/酢酸エチル=40/1)で精製することにより、白色粉末のペンタデカベンジルダビジイン(32.3 mg, 実施例2からの二段階収率:11%)を得た。
融点:88-90 °C;
[a] 22 D= -35.3 ° (c 1.88, CHCl3)
IR (ZnSe, thin film) :
3032, 2932, 1726, 1589, 1429, 1336, 1194, 1111, 696 cm-1
1H-NMR (400 MHz in CDCl3) δppm:
7.48-7.15 (m, 71H), 7.11-7.06 (m, 7H), 6.97-6.95 (m, 3H), 6.83-6.81 (m, 2H), 6.36 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 5.91 (dd, J = 4.8 Hz, 4.6 Hz, 1H), 5.58 (dd, J = 4.8 Hz, 2.0 Hz, 1H), 5.22 (d, J = 11.2 Hz, 1H), 5.14-5.05 (m, 3H), 5.02-4.75 (m, 27H), 4.57-4.48 (m, 3H)
13C-NMR (100 MHz in (CD3)2CO) δppm:
169.5 (s, 1C), 166.2 (s, 1C), 165.7 (s, 1C), 165.5 (s, 1C), 165.2 (s, 1C), 154.0 (s, 2C), 153.8 (s, 1C), 153.7 (s, 3C), 153.3 (s, 1C), 153.2 (s, 1C), 152.9 (s, 1C), 145.9 (s, 1C), 144.8 (s, 1C), 144.0 (s, 1C), 143.8 (s, 1C), 143.7 (s, 1C), 138.9 (s, 2C), 138.8 (s, 1C), 138.8 (s, 2C), 138.8 (s, 2C), 138.7 (s, 1C), 138.0 (s, 2C), 137.9 (s, 1C), 137.7 (s, 2C), 137.7 (s, 2C), 137.6 (s, 1C), 135.7 (s, 1C), 130.8 (s, 1C), 129.5 (d, 2C), 129.4 (d, 2C), 129.3 (d, 5C), 129.3 (d, 5C), 129.1 (d, 5C), 129.1 (d, 4C), 129.1 (d, 5C), 129.0 (d, 1C), 128.9 (d, 8C), 128.9 (d, 8C), 128.8 (d, 6C), 128.7 (d, 10C), 128.6 (d, 1C), 128.6 (d, 1C), 128.5 (d, 5C), 128.4 (d, 5C), 128.3 (d, 2C), 126.0 (s, 1C), 125.6 (s, 1C), 125.4 (s, 1C), 124.7 (s, 1C), 123.8 (s, 1C), 110.8 (d, 1C), 109.8 (d, 2C), 109.7 (d, 2C), 109.6 (d, 2C), 108.2 (d, 1C), 90.8 (d, 1C), 76.2 (t, 1C), 75.9 (t, 1C), 75.7 (t, 4C), 75.6 (t, 1C), 75.2 (t, 1C), 72.5 (d, 1C), 71.9 (t, 1C), 71.7 (t, 2C), 71.4 (t, 3C), 71.2 (t, 1C), 67.8 (d, 1C), 67.2 (d, 1C), 66.8 (d, 1C), 65.6 (t, 1C)。
【0064】
実施例4
ダビジインの製造
ペンタデカベンジルダビジイン (27.7 mg, 12.1 mmol) をTHF (3 mL) とメタノール (3 mL) の混合溶媒に溶解し、20 wt.% 水酸化パラジウム/炭素 (12.8 mg, 18.2 mmol) を加え、水素雰囲気下,室温で 1時間撹拌した。反応の進行を TLCにより確認した後、 セライト濾過を行い、濾液を減圧下で濃縮し、ダビジイン(灰色シロップ, 16.7 mg, 17.8 mmol, 収率:定量的) を得た。
【0065】
下記表1に示すように、得られる化合物の物性データが、公知のダビジインの物性データと一致したので、得られる化合物はダビジインであると確認した。
【0066】
【表1】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコース化合物及びそれらの製造方法並びにダビジインの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エラジタンニンは、加水分解によってエラーグ酸を生成するタンニンであり、D−グルコースの水酸基上にガロイル基、ヘキサヒドロキシジフェノイル(HHDP)基等を有する化合物である。エラジタンニンの中には,分子内のグルコースがアキシアル配向した置換基の多いイス型(1C4)、あるいは、ねじれ舟型(B)配座になった化合物群があり、1C4/B−エラジタンニンと呼ばれている。
【0003】
式(1)
【0004】
【化1】
【0005】
で表されるダビジインは、1982年にHaslamらによって中国産のダビディア科の落葉樹であるハンカチノキ (Davidia involucrata) から単離された1C4/B−エラジタンニンである(非特許文献1)。グルコースの 1位と6位をHHDP基が架橋しているために、ピラノース環が反転したねじれ舟型立体配座をとっていることが1H-NMRの結合定数を基に明らかにされている(非特許文献1)。HHDP基の軸不斉は、CDスペクトルからSと推定されている。ダビジインは、オピエート受容体へのリガンドの結合阻害等の生物活性を有していることが報告されている(非特許文献2)
本発明者らは、先にD−グルコースからダビジインを合成することに初めて成功した(非特許文献3)。しかしながら、非特許文献3に開示されている方法は、D−グルコースからダビジインを合成するのに17工程を必要とし、D−グルコースを基準とするダビジインの収率も極めて低く、満足できるものではない。そのため、D−グルコースから短工程且つ高収率でダビジインを工業的に有利に製造し得る新規な方法の開発が要望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Haslam. E.; Haddock, E. A.; Gupta, R. K. J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1982, 2535-2545
【非特許文献2】Cai, Y.; Zhu, M.; Phillipson, J. D.; Greengrass, P. M.; Bowery, N. E. Phytochemistry, 1997, 44, 441-447
【非特許文献3】第49回天然有機化合物討論会, 2007, pp631-635
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、D−グルコースから短工程且つ高収率でダビジインを工業的に有利に製造し得る新規な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねるうち、D−グルコースから下記一般式(2)及び一般式(3)で表される文献未記載の新規グルコース化合物を合成することに成功し、該グルコース化合物からダビジインを極めて容易に製造できることを見い出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0009】
本発明は、下記項1〜項5に示す、グルコース化合物、それらの製造方法並びにダビジインの製造方法を提供する。
項1.一般式(2)
【0010】
【化2】
【0011】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。]
で表される3,6−O−架橋反転グルコース化合物。
項2.一般式(3)
【0012】
【化3】
【0013】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。]
で表されるグルコース化合物を酸化的カップリング反応に付して、一般式(2)
【0014】
【化4】
【0015】
[式中、R1は前記に同じ。]
で表される3,6−O−架橋反転グルコース化合物を製造する、グルコース化合物の製造方法。
項3.一般式(3)
【0016】
【化5】
【0017】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。]
で表されるグルコース化合物。
項4.式(4)
【0018】
【化6】
【0019】
で表されるグルコースと一般式(5)
【0020】
【化7】
【0021】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。MOMはメトキシメチル基を示す。]
で表されるカルボン酸とをエステル化反応させ、次いで得られる一般式(6)
【0022】
【化8】
【0023】
[式中、R1及びMOMは前記に同じ。]
で表される化合物を脱MOM化することにより、一般式(3)
【0024】
【化9】
【0025】
[式中、R1は前記に同じ。]
で表されるグルコース化合物を製造する、グルコース化合物の製造方法。
項5.一般式(3)
【0026】
【化10】
【0027】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。]
で表されるグルコース化合物を酸化的カップリング反応に付し、次いで得られる一般式(2)
【0028】
【化11】
【0029】
[式中、R1は、前記に同じ。]
で表される3,6−O−架橋反転グルコース化合物の水酸基を保護し、更に得られる一般式(7)
【0030】
【化12】
【0031】
[式中、R1は、前記に同じ。]
で表される化合物を脱保護することにより、式
【0032】
【化13】
【0033】
で表されるダビジインを製造する、ダビジインの製造方法。
【0034】
グルコース化合物
本発明の3,6−O−架橋反転グルコース化合物は、文献未記載の新規化合物であり、下記一般式(2)で表される。
【0035】
【化14】
【0036】
[式中、R1は前記に同じ。]
R1で示される水酸基の保護基としては、例えば、ベンジル基、ジメチルフェニル基、p−メトキシベンジル基、アリル基、トリアルキルシリル基等が挙げられる。
【0037】
本発明の3,6−O−架橋反転グルコース化合物は、例えば、下記反応式−1に示すようにして製造される。
【0038】
【化15】
【0039】
[式中、R1は前記に同じ。]
酸化的カップリング反応は、銅化合物及びアミン化合物の存在下、適当な溶媒中で行われる。
【0040】
銅化合物としては、例えば、塩化銅(II)、臭化銅(II)、硫酸銅(II)、トリクロロ酢酸銅(II)、トリフルオロ酢酸銅(II)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)等が挙げられ、塩化銅(II)が好ましい。アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン等を初めとする各種第1級アミンが挙げられ、n−ブチルアミンが好ましい。
【0041】
銅化合物の使用量は、出発原料化合物(3)1モルに対して、通常10〜20当量、好ましくは10〜15当量である。アミン化合物は、銅化合物に対して、通常2〜20倍当量、好ましくは4〜5倍当量である。
【0042】
用いられる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコールが好ましく、メタノールがより好ましい。乾燥させたアルコールが特に好ましく、乾燥メタノールが最も好ましい。
【0043】
酸化的カップリング反応の反応温度は、通常0〜60℃、好ましくは30〜45℃である。反応時間は、反応温度により異なり一概には言えないが、通常0.5〜24時間、好ましくは0.75〜2時間である。
【0044】
上記反応により得られる目的化合物(2)は、これを分離、精製することなく、そのまま下記反応式−3に示す製造工程の出発原料として使用される。
【0045】
上記反応において出発原料として用いられる化合物(3)は、新規化合物であり、例えばグルコースから下記反応式−2に示す方法に従い製造される。
【0046】
【化16】
【0047】
[式中、R1及びMOMは前記に同じ。]
グルコース(4)とカルボン酸(5)とのエステル化反応には、通常のエステル化反応の反応条件を広く適用することができる。具体的には、後記参考例1に示すようにして、化合物(6)が製造される。グルコース(4)及びカルボン酸(5)は、いずれも入手が容易な公知の化合物である。
【0048】
化合物(6)の脱メトキシメチル化(MOM化)反応には、加水分解による脱MOM化反応の反応条件を広く適用することができる。具体的には、後記実施例1に示すようにして、化合物(3)が製造される。
【0049】
上記エステル化反応及び脱MOM化反応により得られる目的化合物(3)は、通常の分離手段により反応混合物より分離され、精製される。このような分離及び精製手段としては、例えば蒸留法、再結晶法、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、親和クロマトグラフィー、プレパラティブ薄層クロマトグラフィー、溶媒抽出法等を挙げることができる。
【0050】
ダビジインの製造方法
本発明において、ダビジイン(1)は、グルコース化合物(2)の脱保護によって製造される。好ましくは、グルコース化合物(2)の水酸基を保護し、次いで脱保護することにより高純度で製造される。
【0051】
【化17】
【0052】
[式中、R1は前記に同じ。]
グルコース化合物(2)の水酸基を保護するに当たっては、最終段階での精製の容易性等を考慮すると、水酸基の保護基はグルコース化合物(2)におけるR1と同一の基であるのが好ましい。
【0053】
グルコース化合物(2)の水酸基を保護する際の反応条件は、特に制限がなく、水酸基を保護する公知の反応条件を広く適用できる。具体的には、後記実施例3に示すようにして、化合物(7)が製造される。化合物(7)を合成した段階で、公知の分離及び精製手段により化合物(7)の単離及び精製を行うと、引き続く脱保護反応によりダビジイン(1)を高純度で製造できる。
【0054】
化合物(7)の脱保護反応には、通常の脱保護反応の反応条件を広く適用することができる。具体的には、後記実施例4に示すようにして、ダビジイン(1)が製造される。
【0055】
上記で得られるダビジイン(1)は、通常の分離手段により反応混合物より分離され、精製される。このような分離及び精製手段としては、例えば蒸留法、再結晶法、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、親和クロマトグラフィー、プレパラティブ薄層クロマトグラフィー、溶媒抽出法等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0056】
本発明のグルコース化合物(3)及び(2)は、ダビジイン(1)を合成するための中間体として極めて重要な化合物である。
【0057】
本発明のグルコース化合物(3)及び(2)を経由すれば、公知のグルコースから僅か5工程でダビジイン(1)を製造することができる。しかもこれら5工程の各反応では、高収率で各々の目的化合物を製造できる。従って、公知のグルコースからダビジイン(1)を高い収率で製造することができる。
【0058】
そのため、本発明によれば、ダビジイン(1)の工業的に極めて有利な製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下に実施例を掲げて、本発明をより一層明らかにする。
【0060】
参考例1
1,2,3,4,6−β−ペンタキス(4’−O−ベンジル−3’,5’−O−ジメトキシメチルガロイル)グルコースの製造
D−グルコース(300 mg, 1.67 mmol)のピリジン(16 ml)及びジクロロメタン(32 ml)溶液に、4−ベンジルオキシ−3,5−ジメトキシメチル安息香酸(3.48 g, 9.99 mmol),N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩 (2.55 g, 13.3 mmol)及び4−ジメチルアミノピリジン(1.63 g, 13.3 mmol) を加えた。この混合物をアルゴンガス気流下、室温で3時間撹拌した。これに1M塩酸水溶液を加え、分液した後、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(30 ml×1)、水(30 ml×1)及び飽和食塩水(30 ml×1)で順次洗浄した。この有機層を硫酸マグネシウムで脱水し、濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(150 g of SiO2、 n−ヘキサン/酢酸エチル=2/1→1/1)で精製することにより、無色油状の1,2,3,4,6−β−ペンタキス(4’−O−ベンジル−3’,5’−O−ジメトキシメチルガロイル)グルコース(1.59g, 収率:52%)を得た。
融点:44.2-45.8 ℃
[α] 24D = +1.7°(c 0.61, CHCl3)
IR (ZnSe, thin film):
2957, 2348, 1732, 1592, 1499, 1395, 1329, 1217, 1190, 1156, 1109, 1049, 924, 756, 698 cm-1
1H-NMR (400 MHz in acetone-d6) δppm:
7.59 (s, 2H), 7.56-7.54 (m, 2H), 7.54 (s, 2H), 7.51-7.45 (m, 9H), 7.48 (s, 2H), 7.47 (s, 2H), 7.42 (s, 2H), 7.40-7.27 (m, 14H), 6.46 (d, 3JHH = 8.2 Hz, 1H), 6.18 (dd, 3JHH = 9.9 Hz, 9.9 Hz, 1H), 5.85 (dd, 3JHH = 9.9 Hz, 9.9 Hz, 1H), 5.75 (dd, 3JHH = 9.9 Hz, 8.2 Hz, 1H), 5.31 (s, 4H), 5.28 (d, 2JHH = 6.6 Hz, 2H), 5.24 (d, 2JHH = 6.6 Hz, 2H), 5.24 (d, 2JHH = 6.6 Hz, 2H), 5.22 (d, 2JHH = 6.6 Hz, 2H), 5.21 (d, 2JHH = 6.6 Hz, 2H), 5.21 (d, 2JHH = 6.6 Hz), 5.19 (d, 2JHH = 6.6 Hz, 2H), 5.18 (d, 2JHH = 6.6 Hz, 2H), 5.16 (s, 2H), 5.13 (s, 2H), 5.10 (s, 2H), 5.07 (s, 2H), 5.06 (s, 2H), 4.82 (dd, 2JHH = 12.4 Hz, 3JHH = 2.5 Hz, 1H), 4.75 (ddd, 3JHH = 9.6 Hz, 4.8 Hz, 2.5 Hz, 1H), 4.44 (dd, 2JHH = 12.4 Hz, 3JHH = 4.8 Hz, 1H), 3.50 (s, 6H), 3.46 (s, 12H), 3.43 (s, 6H), 3.43 (s, 6H)
13C-NMR (100 MHz in acetone-d6) δppm:
165.8 (s, 2C), 165.6 (s, 1C), 165.5 (s, 1C), 164.6 (s, 1C), 152.1 (s, 2C), 152.0 (s, 6C), 152.0 (s, 2C), 145.0 (s, 1C), 145.0 (s, 1C), 144.9 (s, 1C), 144.9 (s, 1C), 144.5 (s, 1C), 138.9 (s, 1C), 138.8 (s, 2C), 138.7 (s, 1C), 138.7 (s, 1C), 129.1 (d, 6C), 129.1 (d, 6C), 129.0 (d, 4C), 129.0 (d, 3C), 128.8 (d, 2C), 128.8 (d, 4C), 126.0 (s, 1C), 125.2 (s, 1C), 125.2 (s, 1C), 125.1 (s, 1C), 124.6 (s, 1C), 113.1 (d, 2C), 113.1 (d, 4C), 113.0 (d, 4C), 96.3 (t, 2C), 96.3 (t, 6C), 96.2 (t, 2C), 93.7 (d, 1C), 75.6 (t, 5C), 74.0 (d, 1C), 73.7 (d, 1C), 72.5 (d, 1C), 70.7 (d, 1C), 63.7 (t, 1C), 56.7 (q, 5C), 56.6 (q, 5C)
HRMS-ESI (m/z): [M + Na]+ calcd for C96H102O36, 1853.6048; found 1853.6014。
【0061】
実施例1
1,2,3,4,6−β−ペンタキス(4’−O−ベンジルガロイル)グルコースの製造
参考例1で得られた1,2,3,4,6−β−ペンタキス(4’−O−ベンジル−3’,5’−O−ジメトキシメチルガロイル)グルコース(400 mg, 0.218 mmol)のテトラヒドロフラン(4 ml)溶液に、イソプロパノール(118 ml)及び濃塩酸(2.4 ml)を加えた。得られる混合物を55℃で3.5時間撹拌した。この混合物を0℃に冷却し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた。エバポレーションにより反応混合物からイソプロパノールを除去した後、水性混合物を酢酸エチル (20 ml×3)で抽出した。有機層を合わせ、水 (30 ml×1)及び飽和食塩水(30 ml×1)で順次洗浄した。この有機層を硫酸マグネシウムで脱水し、濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。得られる混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(100 g of SiO2、 クロロホルム/メタノール=1/0→10/1)で精製することにより、無色アモルファス状の1,2,3,4,6−β−ペンタキス(4’−O−ベンジルガロイル)グルコース(283 mg, 収率:93%)を得た。
融点:119.5-120.8 ℃
[α] 24D = +12.4°(c 0.93, CHCl3);
IR (ZnSe, thin film):
3083, 2959, 2864, 1720, 1599, 1522, 1455, 1356, 1217, 1057, 1003, 957, 756, 698 cm-1
1H-NMR (400 MHz in acetone-d6) δppm:
7.55-7.46 (m, 10H), 7.38-7.25 (m, 15H), 7.17 (s, 2H), 7.11 (s, 2H), 7.05 (s, 2H), 7.02 (s, 2H), 6.98 (s, 2H), 6.40 (d, 3JHH = 8.2 Hz, 1H), 6.07 (dd, 3JHH = 9.9 Hz, 9.9 Hz, 1H), 5.71 (dd, 3JHH = 9.9 Hz, 9.9 Hz, 1H), 5.66 (dd, 3JHH = 9.9 Hz, 8.2 Hz, 1H), 5.21 (s, 2H), 5.18(s, 2H), 5.15(s, 2H), 5.11(s, 4H), 4.62 (ddd, 3JHH = 9.9 Hz, 4.1 Hz, 2.3 Hz, 1H), 4.56 (dd, 2JHH = 12.6 Hz, 3JHH = 2.3 Hz, 1H), 4.48 (dd, 2JHH = 12.6 Hz, 3JHH = 4.1 Hz, 1H)
13C-NMR (100 MHz in acetone-d6) δppm:
166.2 (s, 1C), 165.8 (s, 1C), 165.5 (s, 2C), 164.8 (s, 1C), 151.6 (s, 2C), 151.4 (s, 6C), 151.4 (s, 2C), 139.9 (s, 1C), 139.7 (s, 2C), 139.6 (s, 1C), 139.3 (s, 1C), 138.7 (s, 1C), 138.7 (s, 1C), 138.6 (s, 1C), 138.6 (s, 1C), 138.5 (s, 1C), 129.3 (d, 5C), 129.3 (d, 2C), 129.3 (d, 2C), 129.2 (d, 2C), 129.1 (d, 4C), 129.0 (d, 4C), 128.8 (d, 6C), 126.1 (s, 1C), 125.3 (s, 1C), 125.3 (s, 1C), 125.2 (s, 1C), 124.7 (s, 1C), 110.4 (d, 2C), 110.4 (d, 2C), 110.3 (d, 2C), 110.2 (d, 4C), 93.4 (d, 1C), 74.7 (t, 5C), 73.8 (d, 1C), 73.6 (d, 1C), 72.0 (d, 1C), 69.7 (d, 1C), 63.1 (t, 1C)
HRMS-ESI (m/z): [M + Na]+ calcd for C76H62O26, 1413.3427; found 1413.3496。
【0062】
実施例2
ペンタ(4’−O−ベンジル)ダビジインの製造
実施例1で得た1,2,3,4,6−β−ペンタキス(4’−O−ベンジルガロイル)グルコース(180 mg, 0.129 mmol)を、使用に先立ち、アセトニトリルを用いて乾燥した。次いでこれをメタノール(4.8 ml)に溶解した。別のフラスコに、塩化銅(II)(209 mg, 1.55 mmol)及びn−ブチルアミン(454 mg, 6.21 mmol)を加え、次にメタノール(4.0 ml)を加え、室温で30分間撹拌することにより、塩化銅(II)・n−ブチルアミン錯体の青色溶液を調製した。塩化銅 (II)・n−ブチルアミン錯体の溶液に、1,2,3,4,6−β−ペンタキス(4’−O−ベンジルガロイル)グルコースのメタノール溶液を加え、得られる混合物をアルゴンガス気流下、25℃で2時間撹拌した。反応混合物をジエチルエーテル(15 ml)で希釈し、1M塩酸水溶液でクエンチした。反応混合物からメタノールを留去した後、水性混合物をジエチルエーテルで抽出した(15 ml×3)。有機層を合わせ、1M塩酸水溶液(20 ml×1)、10%チオ硫酸ナトリウム水溶液(20 ml×3)、水(20 ml×2)及び飽和食塩水(20 ml×1)で順次洗浄した。一般的な方法で乾燥した後、濾液を留去することにより、黄色アモルファス固体のペンタ(4’−O−ベンジル)ダビジインを含む混合物を得た。
【0063】
実施例3
ペンタデカベンジルダビジインの製造
実施例2で得られたペンタ(4’−O−ベンジル)ダビジインを含む混合物のアセトン(3 ml)溶液に、炭酸カリウム(233 mg, 1.68 mmol)及び臭化ベンジルをこの順序で加えた。得られる混合物をアルゴンガス気流下、3.5時間撹拌した。この混合物をコットン−セライトパッドを通して濾過した。濾液をエバポレートし、残渣を酢酸エチル(30 ml)で希釈し、次いでこれを飽和塩化アンモニウム水溶液(20 ml×3)、水(20 ml×1)及び飽和食塩水(20 ml×1)で順次洗浄した。この有機層を硫酸マグネシウムで脱水し、濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。得られる混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(8 g of SiO2、 トルエン/酢酸エチル=40/1)で精製することにより、白色粉末のペンタデカベンジルダビジイン(32.3 mg, 実施例2からの二段階収率:11%)を得た。
融点:88-90 °C;
[a] 22 D= -35.3 ° (c 1.88, CHCl3)
IR (ZnSe, thin film) :
3032, 2932, 1726, 1589, 1429, 1336, 1194, 1111, 696 cm-1
1H-NMR (400 MHz in CDCl3) δppm:
7.48-7.15 (m, 71H), 7.11-7.06 (m, 7H), 6.97-6.95 (m, 3H), 6.83-6.81 (m, 2H), 6.36 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 5.91 (dd, J = 4.8 Hz, 4.6 Hz, 1H), 5.58 (dd, J = 4.8 Hz, 2.0 Hz, 1H), 5.22 (d, J = 11.2 Hz, 1H), 5.14-5.05 (m, 3H), 5.02-4.75 (m, 27H), 4.57-4.48 (m, 3H)
13C-NMR (100 MHz in (CD3)2CO) δppm:
169.5 (s, 1C), 166.2 (s, 1C), 165.7 (s, 1C), 165.5 (s, 1C), 165.2 (s, 1C), 154.0 (s, 2C), 153.8 (s, 1C), 153.7 (s, 3C), 153.3 (s, 1C), 153.2 (s, 1C), 152.9 (s, 1C), 145.9 (s, 1C), 144.8 (s, 1C), 144.0 (s, 1C), 143.8 (s, 1C), 143.7 (s, 1C), 138.9 (s, 2C), 138.8 (s, 1C), 138.8 (s, 2C), 138.8 (s, 2C), 138.7 (s, 1C), 138.0 (s, 2C), 137.9 (s, 1C), 137.7 (s, 2C), 137.7 (s, 2C), 137.6 (s, 1C), 135.7 (s, 1C), 130.8 (s, 1C), 129.5 (d, 2C), 129.4 (d, 2C), 129.3 (d, 5C), 129.3 (d, 5C), 129.1 (d, 5C), 129.1 (d, 4C), 129.1 (d, 5C), 129.0 (d, 1C), 128.9 (d, 8C), 128.9 (d, 8C), 128.8 (d, 6C), 128.7 (d, 10C), 128.6 (d, 1C), 128.6 (d, 1C), 128.5 (d, 5C), 128.4 (d, 5C), 128.3 (d, 2C), 126.0 (s, 1C), 125.6 (s, 1C), 125.4 (s, 1C), 124.7 (s, 1C), 123.8 (s, 1C), 110.8 (d, 1C), 109.8 (d, 2C), 109.7 (d, 2C), 109.6 (d, 2C), 108.2 (d, 1C), 90.8 (d, 1C), 76.2 (t, 1C), 75.9 (t, 1C), 75.7 (t, 4C), 75.6 (t, 1C), 75.2 (t, 1C), 72.5 (d, 1C), 71.9 (t, 1C), 71.7 (t, 2C), 71.4 (t, 3C), 71.2 (t, 1C), 67.8 (d, 1C), 67.2 (d, 1C), 66.8 (d, 1C), 65.6 (t, 1C)。
【0064】
実施例4
ダビジインの製造
ペンタデカベンジルダビジイン (27.7 mg, 12.1 mmol) をTHF (3 mL) とメタノール (3 mL) の混合溶媒に溶解し、20 wt.% 水酸化パラジウム/炭素 (12.8 mg, 18.2 mmol) を加え、水素雰囲気下,室温で 1時間撹拌した。反応の進行を TLCにより確認した後、 セライト濾過を行い、濾液を減圧下で濃縮し、ダビジイン(灰色シロップ, 16.7 mg, 17.8 mmol, 収率:定量的) を得た。
【0065】
下記表1に示すように、得られる化合物の物性データが、公知のダビジインの物性データと一致したので、得られる化合物はダビジインであると確認した。
【0066】
【表1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2)
【化1】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。]
で表される3,6−O−架橋反転グルコース化合物。
【請求項2】
一般式(3)
【化2】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。]
で表されるグルコース化合物を酸化的カップリング反応に付して、一般式(2)
【化3】
[式中、R1は前記に同じ。]
で表される3,6−O−架橋反転グルコース化合物を製造する、グルコース化合物の製造方法。
【請求項3】
一般式(3)
【化4】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。]
で表されるグルコース化合物。
【請求項4】
式(4)
【化5】
で表されるグルコースと一般式(5)
【化6】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。MOMはメトキシメチル基を示す。]
で表されるカルボン酸とをエステル化反応させ、次いで得られる一般式(6)
【化7】
[式中、R1及びMOMは前記に同じ。]
で表される化合物を脱MOM化することにより、一般式(3)
【化8】
[式中、R1は前記に同じ。]
で表されるグルコース化合物を製造する、グルコース化合物の製造方法。
【請求項5】
一般式(3)
【化9】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。]
で表されるグルコース化合物を酸化的カップリング反応に付し、次いで得られる一般式(2)
【化10】
[式中、R1は、前記に同じ。]
で表される3,6−O−架橋反転グルコース化合物の水酸基を保護し、次いで得られる一般式(7)
【化11】
[式中、R1は、前記に同じ。]
で表される化合物を脱保護することにより、式
【化12】
で表されるダビジインを製造する、ダビジインの製造方法。
【請求項1】
一般式(2)
【化1】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。]
で表される3,6−O−架橋反転グルコース化合物。
【請求項2】
一般式(3)
【化2】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。]
で表されるグルコース化合物を酸化的カップリング反応に付して、一般式(2)
【化3】
[式中、R1は前記に同じ。]
で表される3,6−O−架橋反転グルコース化合物を製造する、グルコース化合物の製造方法。
【請求項3】
一般式(3)
【化4】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。]
で表されるグルコース化合物。
【請求項4】
式(4)
【化5】
で表されるグルコースと一般式(5)
【化6】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。MOMはメトキシメチル基を示す。]
で表されるカルボン酸とをエステル化反応させ、次いで得られる一般式(6)
【化7】
[式中、R1及びMOMは前記に同じ。]
で表される化合物を脱MOM化することにより、一般式(3)
【化8】
[式中、R1は前記に同じ。]
で表されるグルコース化合物を製造する、グルコース化合物の製造方法。
【請求項5】
一般式(3)
【化9】
[式中、R1は、水酸基の保護基を示す。]
で表されるグルコース化合物を酸化的カップリング反応に付し、次いで得られる一般式(2)
【化10】
[式中、R1は、前記に同じ。]
で表される3,6−O−架橋反転グルコース化合物の水酸基を保護し、次いで得られる一般式(7)
【化11】
[式中、R1は、前記に同じ。]
で表される化合物を脱保護することにより、式
【化12】
で表されるダビジインを製造する、ダビジインの製造方法。
【公開番号】特開2011−37740(P2011−37740A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185483(P2009−185483)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 関西学院大学理工学研究科 刊行物名 2008年度 関西学院大学大学院 理工学研究科 化学専攻修士論文発表会 要旨集 発行年月日 平成21年2月23日
【出願人】(503092180)学校法人関西学院 (71)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 関西学院大学理工学研究科 刊行物名 2008年度 関西学院大学大学院 理工学研究科 化学専攻修士論文発表会 要旨集 発行年月日 平成21年2月23日
【出願人】(503092180)学校法人関西学院 (71)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]