説明

ケラチノサイトによるインターロイキン18の産生の誘導現象を利用した阻害剤のスクリーニング方法、およびアトピー性皮膚炎様症状の誘導方法、並びにその利用

ケラチノサイト(KC)からのインターロイキン18(IL−18)の産生の誘導現象を利用して、アトピー性皮膚炎(AD)やその類似症状の発症機構の解明や治療薬剤の開発に好適に用いることが可能な各種方法とその利用方法とを提供する。例えば、黄色ブドウ球菌由来のプロテインA(SpA)をマウス等の皮膚に塗布したり、AD様の炎症性皮膚病変が生じた皮膚片をマウス等に移植したりすることで、AD様の病変において生ずる血清中の高レベルのIgE発現を再現することができる。これにより、例えば、KCによるIL−18産生誘導の阻害剤をスクリーニングすることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ケラチノサイトからのインターロイキン18の産生の誘導現象を利用した阻害剤のスクリーニング方法、およびアトピー性皮膚炎様症状の誘導方法、並びにその利用に関するものであり、特に、アトピー性皮膚炎やその類似症状の発症機構の解明や治療薬剤の開発に好適に用いることが可能なスクリーニング方法、およびアトピー性皮膚炎様症状の誘導方法、並びにその利用に関するものである。
【背景技術】
皮膚は体のなかで最も大きな器官であり、生体防御の最前線である。表皮はケラチノサイト(KC、角化細胞)、メラニン細胞、表皮ランゲルハンス細胞(LC)および上皮内T細胞等からなる。
LCは未成熟な樹状細胞(DC)であり、その機能は局部的に暴露されたタンパク質抗原を捕獲して、獲得的免疫反応が一般的に行われる領域リンパ節に運搬することである。リンパ節への移動の間に、LCは抗原提示能を有する成熟DCに変化する。その結果、LC/DCが運ぶ抗原に対して特異的な全身性免疫応答が引き起こされる。このように、皮膚の抗原特異的な免疫応答は、同じ抗原に対する全身性免疫応答と密接に関連する。したがって、皮膚と免疫臓器は、LC/DCの循環と抗原特異的な免疫細胞を通して相互に密接に関連していると考えられる。これに対して、KCとメラニン細胞は皮膚に定住し、基本的には獲得免疫応答にあずからない。
しかしながら、KCは皮膚局所における自然免疫応答と炎症の誘導に寄与する可能性が示唆される。微生物が皮膚に感染すると、ホストは炎症反応、ついで獲得免疫反応を皮膚限局性に展開する。その際、皮膚を構成するKCおよびLCが、それぞれの応答に深く関与すると考えられる。したがって、微生物や化学試薬による刺激に対してさまざまなサイトカインを産生するというユニークな性質に基づき、KCはLCに影響を与え、その結果獲得免疫応答を変化させる可能性が考えられる(非特許文献1・2参照)。これらの事実を踏まえると、KCが引き起こした皮膚の炎症が全身性免疫反応にも影響するかを決定することは重要である。
本発明者は、以前に、KC特異的にcaspase−1を発現し、インターロイキン18(IL−18)およびインターロイキン1β(IL−1β)に依存する方法でアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis,AD)様の皮膚炎症(掻痒性慢性炎)を発症する、caspase−1−トランスジェニックマウス(KCASP1Tgマウス)を確立している(非特許文献3・4参照)。また、本発明者は、IL−1βが、IL−18のAD様の皮膚炎症を誘導する能力を増強させることも示している(非特許文献4参照)。これらの結果から、KCはIL−18およびIL−1βを含めた多くのサイトカインの産生により全身性免疫応答にも寄与する可能性があることが示唆される。
ところで、上記IL−18およびIL−1βは、生物学的に不活性な前駆体として産生され、caspase−1のような適切な細胞内酵素により切断された後活性型として放出される(非特許文献5〜9参照)。
上記IL−18は共存するサイトカインの種類に応じて、多様な生理活性を示す。特に、インターロイキン12(IL−12)の存在下で、IL−18は強い炎症誘導性のサイトカインであるIFN−γを誘導し、その結果炎症反応を促進する(非特許文献10)。これとは対照的に、IL−12が存在しない場合、IL−18は、Th2サイトカインの産生の誘導を通してアトピー応答を誘導する(非特許文献11〜14参照)。
上記ADは、外的刺激に対する炎症性皮膚病変で、慢性反復性の強い掻痒を伴う疾患である。発症には、遺伝的背景があり、患者はその血清中に高いレベルのIgEを有するが、その発症機序については不明な点が多い。AD発症のメカニズムについては、活性化T細胞、好塩基球、肥満細胞が深く関与する。
特に、アレルゲンによる肥満細胞または好塩基球の活性化の結果、Th2サイトカインとケミカルメディエーターの産生が起こり、その結果、ADが発症すると考えられている。上記アレルゲンによる肥満細胞または好塩基球の活性化は、これら細胞上のFcεR(好塩基球のIgE抗体に対するFc受容体(FcR))に結合したIgE分子の架橋による。上記Th2サイトカインとして重要なものは、インターロイキン4(IL−4)、インターロイキン5(IL−5)、インターロイキン9(IL−9)、インターロイキン13(IL−13)等が挙げられる。ケミカルメディエーターとして重要なものとしては、ヒスタミン、セロトニン、ロイコトルエン等が挙げられる。
ところで、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の感染が、状況によってはAD患者の皮膚の炎症変化を悪化させること(非特許文献15・16参照)、さらには、一部のAD患者では血清IL−18濃度が上昇する(非特許文献17参照)ことが知られている。すなわち、黄色ブドウ球菌の感染が、ADの誘引あるいは増悪因子であることはこれまで知られている。しかしながら、ADの発症に黄色ブドウ球菌がどのように関与するのかについては不明な点が多い。
【非特許文献1】 Jamora,C.and Fuchs,E.2002.Intercellular adhesion,signalling and the cytoskeleton.Nat.Cell Biol.4:E101.
【非特許文献2】 Grone,A.2002.Keratinocyto and cytokine.Vet.Immunol.Immunopathol.88:1.
【非特許文献3】 Yamanaka,K.,Tanaka,M.,Tsutsui,H.,Kupper,T.S.,Asahi,K.,Okamura,H.,Nakanishi,K.,Suzuki,M.,Kayagaki,N.,Black,R.A.,et al.2000.Skin−specific caspase−1 transgenic mice show cutaneous apoptosis and pre−endotoxin shock condition with a high serum level of IL−18.J.Immunol.165:997.
【非特許文献4】 Konishi,K.,Tsutsui,H.,Murakami,T.,Yumikura−Futatsugi,S.,Yamanaka,K.,Tanaka,M.,Iwakura,Y.,Suzuki,N.,Takeda,K.,Akira,S.,Nakanishi,K.,and Mizutani,H.2002.IL−18 contributes to the spontaneous development of atopic dermatitis−like inflammatory skin lesion independently of IgE/stat6 under specific pathogen−free conditions.Proc.Natl.Acad.Sci.USA.99:11340.
【非特許文献5】 Gu,Y.,Kuida,K.,Tsutsui,H.,Ku,G.,Hsiao,K.,Fleming,M.A.,Hayashi,N.,Higashino,K.,Okamura,H.,Nakanishi,K.,et al.1997.Activation of interferon−γ inducing factor mediate by interleukin−1β converting enzyme.Science 275:206.
【非特許文献6】 Tsutsui,H.,Kayagaki,N.,Kuida,K.,Nakano,H.,Hayashi,N.,Takeda,K.,Matsui.K.,Kashiwamura,S.,Hada,T.,Akira,S.,et al.1999.Caspase−1−independent,Fas/Fas ligand−mediated IL−18 secretion from macrophages causes acute liver injury in mice.Immunity 11:359.
【非特許文献7】 Seki,E.,Tsutsui,H.,Nakano,H.,Tsuji,N.M.,Hoshino,K.,Adachi,O.,Adachi,K.,Futatsugi,S.,Kuida,K.,Takeuchi,O.,et al.2001.LPS−induced IL−18 secretion from murine Kupffer cells independently of MyD88 that is critically involved in induction of production of IL−12 and IL−1β.J.Immunol.169:3863.
【非特許文献8】 Dinarello,C.A.1998.Interleukin−1β,interleukin−18,and the interleukin−1β converting enzyme.Ann.NY Acad.Sci.856:1.
【非特許文献9】 Fantuzzi,G.and Dinarello,C.A.1999.Interleukin−18 and interleukin−1β:two cytokine substrates for ICE(caspase−1).J.Clin.Immunol.19:1.
【非特許文献10】 Okamura,H.,Tsutsui,H.,Komatsu,T.,Yutsudo,M.,Hakura,A.,Tanimoto,T.,Torigoe,K.,Okura,T.,Nukada,Y.,Hattori,K.,Akita,H.,Namba,M.,Tanabe,F.,Konishi,K.,Fukuda,S.,and Kurimoto,M.1995 Cloning of a new cytokine that induces INF−γ production by T cells.Nature 378:88.
【非特許文献11】 Yoshimoto,T.,Tsutsui,H.,Tominaga,K.,Hoshino,K.,Okamura,H,Akira,S.,Paul,W.E.and Nakanishi,K.1999.IL−18,although anti−allergic when administered with IL−12,stimulates IL−4 and histamine release by basophils.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:13962.



【非特許文献14】 Nakanishi,K.,Yoshimoto,T.,Tsutsui,H.and Okamura,H.,2001.Interleukin−18 regulates both Th1 and Th2 responses.Annu.Rev.Immunol.19:423.
【非特許文献15】 Thestrup−Pedersen,K.2000.Clinical aspects of atopic dermatitis.Clin.Exp.Dermatol.25:535.
【非特許文献16】 Wollenberg,A.,Kraft,S.,Oppel,T.and Bieber,T.2000.Atopic dermatitis:pathognetic mechanisms.Clin.Exp.Dematol.25:530.
【非特許文献17】 Tanaka,T.,Tsutsui,H.,Yoshimoto,T.,Kotani,M.,Masumoto,M.,Fujita,A.,Wang,W.,Higa,S.,Kishimoto,T.,Nakanishi,K.,et al.2001.Interleukin−18 is elevated in the sera from patients with atopic dermatitis and from atopic dermatitis model mice,NC/Nga.Int.Arch.Allergy Immunol.125:236.
現状では、ADの発症機構については不明な点が多く、それゆえ、ADの有効な治療薬剤の開発には、多くの困難が伴っている。
上記のように、表皮を構成する各種細胞が、様々な免疫応答に関与することが知られており、例えば、近年、樹状細胞が抗原提示細胞として獲得免疫応答を誘導することが報告されている。しかしながら、表皮を構成する最も主たる細胞であるKCについては、ホストの免疫応答にどのように関与するかについては明らかになっていない。
任意の疾患について有効な治療薬剤を開発する場合、その発症機構を解明し、それを利用して薬理作用のある物質をスクリーニングすることは重要な手法の一つである。しかしがなら、ADの発症においては、KCの関与や黄色ブドウ球菌の感染も含めて不明な点が多く、それゆえ、スクリーニングも含めたADの治療薬剤の開発にこれらを応用する技術については、これまでほとんど知られていなかった。
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、その目的は、KCからのIL−18の産生の誘導現象を利用して、アトピー性皮膚炎やその類似症状の発症機構の解明や治療薬剤の開発に好適に用いることが可能な各種方法とその利用方法とを提供することにある。
【発明の開示】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAがKCを刺激してIL−18の産生を誘導することを、インビトロ(in vitro)およびインビボ(in vivo)の系で実証し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明にかかるスクリーニング方法は、上記の課題を解決するために、アトピー性皮膚炎様の炎症性皮膚病変を有する生物において生ずるインターロイキン18の産生の誘導現象を利用した阻害剤のスクリーニング方法であって、in vivoまたはin vitroにて、刺激剤による刺激でケラチノサイトからのインターロイキン18の産生を誘導する環境を形成する環境形成工程と、当該環境の下にて候補物質を投与して、上記ケラチノサイトからのインターロイキン18の産生誘導を阻害する物質を、上記阻害剤として同定する阻害剤同定工程とを含むことを特徴としている。
上記スクリーニング方法においては、上記刺激剤として、黄色ブドウ球菌由来のプロテインA、ケラチノサイトを刺激することが可能な上記プロテインAの部分タンパク質、または、ケラチノサイトを刺激することが可能な上記プロテインAまたはその部分タンパク質の改変体の少なくとも何れかが用いられることが好ましい。さらに、上記刺激剤として、プロテインAに加えてドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を併用することがより好ましい。
また、上記スクリーニング方法において、上記環境形成工程がインビトロにて実施される場合、ケラチノサイトの培養細胞の培養液に上記プロテインAを添加して培養することにより、上記環境の形成を実現してもよいし、上記環境形成工程がインビボにて実施される場合、上記プロテインAをホストとなる生物の皮膚に塗布することで、上記環境の形成を実現してもよい。
さらに、上記環境形成工程がインビボにて実施される場合、上記刺激剤として、アトピー性皮膚炎様の炎症性皮膚病変が生じた皮膚片を用い、当該皮膚片をホストとなる生物に移植することで、上記環境の形成を実現してもよい。
ここで、上記ホストとなる生物は、少なくとも、CD4T細胞の発現、stat6の発現、およびNKT細胞におけるIL−18Rα鎖の発現という各形質を何れも具備していることが好ましい。上記ホストとなる生物は、例えばマウスが好ましく用いられる。
また、本発明には、上記クリーニング方法を用いて得られる阻害剤を含む免疫疾患治療薬剤が含まれる。さらに、本発明には、アトピー性皮膚炎様の炎症性皮膚病変を有する生物において生ずる血清中の高レベルのIgE発現を抑制する方法であって、上記スクリーニング方法を用いて得られる阻害剤、または、上記免疫疾患治療薬剤を用いて、ケラチノサイトから産生されたインターロイキン18の局所的な集積によっておこる、抗原への暴露なしに引き起こされる全身性のIgE応答を抑制する方法も含まれる。
本発明にかかるアトピー性皮膚炎様症状の誘導方法は、モデル生物に、アトピー性皮膚炎様の炎症性皮膚病変を発症させるアトピー性皮膚炎様症状の誘導方法であって、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAをモデル生物の皮膚に塗布することを特徴としている。
上記誘導方法においては、上記プロテインAとして、当該プロテインAの完全タンパク質、ケラチノサイトを刺激することが可能な上記プロテインAの部分タンパク質、または、ケラチノサイトを刺激することが可能な上記プロテインAまたはその部分タンパク質の改変体の少なくとも何れかを用いることができる。さらに、上記プロテインAをモデル生物の皮膚に塗布するときには、SDSを併用することが好ましい。
また、本発明には、上記誘導方法により得られる、炎症性皮膚病変を発症したモデル生物が含まれ、このモデル生物の一例としてマウスを挙げることができる。
本発明の利用方法としては、例えば、上記スクリーニング方法を行うためのスクリーニングキットや、上記誘導方法を行うためのアトピー性皮膚炎様症状の誘導キットを挙げることができる。
上記各方法によれば、アトピー性皮膚炎(AD)様の炎症性皮膚病変において、ケラチノサイトから産生されたIL−18の局所的な集積が、抗原への暴露なしに全身性のIgE応答を引き起こすことを利用している。それゆえ、上記各方法は、アトピー性皮膚炎やその類似症状の発症機構の解明や治療薬剤の開発に好適に用いることが可能となる。
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
図1は、KCASP1Tgマウスの病変皮膚を移植することによる、ホストでのIgE誘導の結果をコントロールの結果とともに示す図である。
図2のA〜Fは、KCASP1Tgマウスの病変皮膚におけるIL−18の集積を、コントロールの結果とともに示す図である。
図3のA〜Fは、KCASP1Tgマウスの病変皮膚におけるCD4T細胞の集積を、コントロールの結果とともに示す図である。
図4は、病変皮膚を移植されたホストにおいてTh2細胞の選択的な分化が欠失することを、コントロールの結果とともに示す図である。
図5のAおよびBは、IgE誘導のためのホストCD4T細胞、ホストstat6およびホストIL−18応答性、並びにTh1/Th2細胞の発生の結果を、コントロールの結果とともに示す図である。
図6のA〜Cは、in vivoでのSpA処理によるIL−18およびIgEの誘導の結果を、コントロールの結果とともに示す図である。
図7のA〜Dは、SpAによる刺激を受けたKCから、IL−12ではなくIL−18のみが放出される結果を、コントロールの結果とともに示す図である。
図8のA〜Dは、4%SDSとSpA(200μg/日)の混合物を塗布したNC/Ngaマウスにおける皮膚病変の結果を、コントロールの結果とともに示す図である。
図9のA〜Dは、4%SDSとSpA(200μg/日)の混合物を塗布したNC/Ngaマウスにおける皮膚の経時変化を顕微鏡で観察した結果を、コントロールの結果とともに示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明者らは、ケラチノサイトから産生されたIL−18の局所的な集積が、抗原への暴露なしに全身性のIgE応答を引き起こし、これがアトピー性皮膚炎様の炎症性皮膚病変につながることを見出した。本発明では、上記知見を利用して、特に、アトピー性皮膚炎やその類似症状の発症機構の解明や治療薬剤の開発に好適に用いることが可能な阻害剤のスクリーニング方法、およびアトピー性皮膚炎様症状の誘導方法、並びにその利用方法を実現した。以下、本発明について具体的に説明する。
(1)本発明にかかるスクリーニング方法
本発明にかかるスクリーニング方法は、in vivoまたはin vitroにて、刺激剤による刺激でケラチノサイト(KC)からの局所的なIL−18の産生を誘導する環境を形成する環境形成工程と、当該環境の下にて候補物質を投与して、上記KCによるインターロイキン18の産生誘導を阻害する物質を、上記阻害剤として同定する阻害剤同定工程とを含んでいる。
アトピー性皮膚炎(AD)様の炎症性皮膚病変では、皮膚のKCからIL−18が局所的に過剰に産生され、これにより血清中において高レベルのIgEの発現が見られる場合もある。そこで、上記環境形成工程および阻害剤同定工程を含むスクリーニング方法を用いることにより、IL−18の分泌を阻害する物質を得ることが可能になる。得られた物質(阻害剤)は、ADの有効な治療薬剤となり得る。
なお、本発明でいうところのAD様の炎症性皮膚病変とは、IL−18依存的に発症する免疫疾患で、皮膚に炎症が現れる症状を広く指すものとし、厳密にADと認識される掻痒性慢性炎のみを指すものではない。
また、本発明における「in vitro(インビトロ)」とは、培養細胞により人工的に再現される反応系を指すものとし、「in vivo(インビボ)」とは、完全な個体における反応系を指すものとする。
さらに、本発明でいうところの「阻害剤」は、KCからのIL−18の分泌を阻害する物質であればよく、その阻害の具体的なメカニズムは特に限定されるものではない。したがって、本発明にかかるスクリーニング方法で得られる阻害剤は、上記KCからのIL−18の分泌の過程を可逆的に阻害するものであってもよいし、不可逆的に阻害するものであってもよい。また、可逆的に阻害する阻害剤の場合、競合型(拮抗型)の阻害剤(拮抗剤)であってもよいし、非競合型の阻害剤であってもよい。換言すれば、本発明にかかるスクリーニング方法では、拮抗剤を含む等の様々な種類の阻害剤をスクリーニングすることができる。
<環境形成工程>
上記環境形成工程は、刺激剤による刺激でKCからのIL−18の産生を誘導する環境を形成する工程であればよく、環境形成に関する詳細な条件については特に限定されるものではない。つまり、上記IL−18の産生を誘導できる環境を実現できれば、in vivoであってもin vitroであってもよい。
上記刺激剤としては、KCを刺激することが可能な各種タンパク質(KC刺激タンパク質)を挙げることができる。当該KC刺激タンパク質としては、KCを刺激することが可能なタンパク質であれば特に限定されるものではないが、代表的なものとして、黄色ブドウ球菌(S.aureus)由来のプロテインA(SpA)が挙げられる。
前述したように、黄色ブドウ球菌の感染が、ADの誘引あるいは増悪因子であることはこれまで知られており、さらに、本発明者らによって、SpAをマウスにSDSとともに塗布すると短期間のうちにAD様の掻痒性慢性皮膚炎を誘導できることが見出された(実施例参照)。したがって、KC刺激タンパク質として、上記SpAを特に好ましく用いることができる。
上記SpAは、黄色ブドウ球菌から得られる完全タンパク質(完全なアミノ酸配列を有するタンパク質)であってもよいが、ケラチノサイトを刺激することが可能であれば、SpAの部分タンパク質や、完全タンパク質または部分タンパク質の改変体であってもよい。
上記改変体とは、公知のSpAのアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、B7−2分子の細胞表面における発現を負に制御するタンパク質を指すものとする。また、上記「1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加された」とは、部位特異的突然変異誘導法等の公知の変異タンパク質作製法により置換、欠失、挿入、および/または付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されることを意味する。このように、上記改変体は、上記SpAの変異タンパク質であり、ここにいう「変異」は、主として公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異タンパク質を単離精製したものであってもよい。また、上記SpAの改変体は、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。
また、上記刺激剤としては、SpAに加えてSDSを併用することがより好ましい。SDSとプロテインAとを併用することにより、より激しいAD様の掻痒性慢性皮膚炎を誘導することができる(実施例参照)。SpAとSDSとの併用方法については特に限定されるものではないが、SpAを溶解する溶媒にSDSを加えた、SpA−SDS溶液を調製し、これをモデル生物の皮膚に塗布すればよい。
<KCの刺激手法>
上記KC刺激タンパク質によるKCの刺激手法については特に限定されるものではなく、KCを刺激してIL−18の産生を誘導できる手法であればよい。具体的には、例えば、上記環境形成工程がin vitroにて実施される場合、KCの培養細胞の培養液に上記SpAを添加して培養すればよい。このとき用いられるKCの培養細胞については特に限定されるものではなく、公知の培養細胞を好適に用いることができる。例えば、後述する実施例6では、PAM212細胞を用いている。
上記KCの培養細胞の培養条件、すなわち培養液や培養温度、SpAの添加の仕方等についても特に限定されるものではなく、用いられる培養細胞の種類に応じて適当な条件を設定すればよい。
一方、上記環境形成工程がin vivoにて実施される場合、上記SpAをホストとなる生物の皮膚に塗布すればよい。SpAを塗布する条件は特に限定されるものではなく、SpAによるKCの刺激を妨げない方法であればよい。例えば、後述する実施例では、SpAを50%グリセロールのPBS溶液として用いているが、もちろん、本発明はこれに限定されるものではない。また、上述したように、SpAにSDSを加えたSpA−SDS溶液を調製し、これをホスト生物の皮膚に塗布してもよい。なお、塗布条件、例えば塗布方法やホスト生物に塗布する部位についても特に限定されるものではない。
このとき用いられるホスト生物としては、特に限定されるものではないが、通常は、一般的に各種実験に用いられている哺乳動物を用いればよい。具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、サル等の実験動物を挙げることができる。例えば、後述する実施例では、ホスト生物としてマウスを用いている。特に、マウスは実験動物として広く用いられており、種々の突然変異体の系統が入手容易である等の実績があること、個体が小さいために飼育用のスペースを比較的小さくできること、等の利点があるため好ましい。
<皮膚片の移植>
上記環境形成工程がインビボにて実施される場合、上記刺激剤としてSpA等のKC刺激タンパク質以外のものを用いることができる。代表的なものとして、AD様の炎症性皮膚病変が生じた皮膚(病変皮膚)を用いることができる。この病変皮膚の皮膚片をホスト生物に移植することによっても、IL−18の産生を誘導できる環境を実現することができる。
上記病変皮膚は、AD様の炎症性皮膚病変が生じている皮膚であれば特に限定されるものではないが、移植の関係から、ホスト生物と同種の生物の皮膚であることが非常に好ましい。異種の生物の場合、拒絶反応のようなAD様の炎症性皮膚病変以外の原因で免疫応答が生じるため好ましくない。上記ホスト生物としては、KC刺激タンパク質に関する説明でも述べたように、各種実験動物を挙げることができるが、例えば、ホスト生物としてマウスを用いる場合、移植される病変皮膚の皮膚片もマウス由来であることが非常に好ましい(後述する実施例参照)。
ここで、上記ホスト生物は、少なくとも、(i)CD4T細胞の発現、(ii)stat6の発現、および(iii)NKT細胞におけるIL−18Rα鎖の発現という各形質を何れも具備している必要がある。後述する実施例4の結果から明らかなように、CD4欠失マウス、stat6欠失マウス、IL−18Rα鎖欠失マウスは、何れもKCASP1Tgマウスから得られる病変皮膚の皮膚片を移植してもIgEの産生が誘導されなかった。すなわち、IL−18の産生を誘導できる環境を実現するためには、上記(i)〜(iii)の各形質が必要な条件となる。
なお、上記CD4T細胞とは、抗原CD4(ヘルパー細胞の細胞膜糖タンパク質の一つ)を発現するT細胞を示す。CD4の発現の有無については、右上付きのプラスまたはマイナスで示す。それゆえ、CD4については、発現している場合には「CD4」で示し、発現していない場合には「CD4」で示す。また、上記stat6(STAT6)は、サイトカインの作用機構に関与する細胞内シグナル伝達分子で、IL−4で特異的に活性化されるものであり、上記IL−18Rα鎖は、T細胞に発現しIL−18の応答に関与する構造である。
<阻害剤同定工程>
上記阻害剤同定工程では、上記環境形成工程で形成されたIL−18の産生を誘導できる環境の下にて候補物質を投与して、上記ケラチノサイトによるインターロイキン18の産生誘導を阻害する物質を同定する工程であれば特に限定されるものではない。この工程で同定された物質が、IL−18の分泌の誘導を阻害する阻害剤となり得る。
上記候補物質を投与する手法は特に限定されるものではない。例えば、in vitroであれば、KCの培養細胞を培養している培養液に候補物質を投与すればよい。また、in vivoであれば、ホスト生物における炎症部位に候補物質を塗布してもよいし、ホスト生物に候補物質を内服させてもよい。また、上記阻害剤を同定する手法も特に限定されるものではなく、KCによるIL−18の産生誘導が阻害されていることが確実に確認できるような方法であればよい。IL−18の産生を誘導できる環境がin vitroであってもin vivoであっても、ELISAを用いたcell−free system等を用いることができる。
なお、本発明にかかるスクリーニング方法は、上述した環境形成工程および阻害剤同定工程を含んでいればその具体的な手法は特に限定されるものではなく、もちろんその他の工程を含んでいてもよい。
<免疫疾患治療薬剤・高レベルIgE発現の抑制方法>
さらに、本発明には、上記スクリーニング方法を用いて得られる阻害剤を含む免疫疾患治療薬剤が含まれる。この免疫疾患治療薬剤の具体的な組成等については特に限定されるものではなく、スクリーニングされた阻害剤の種類と、投与対象となる生物(ヒトも含む)の状態に応じて、適切なバッファーや添加剤を含んでいればよい。
さらに、本発明には、上記スクリーニング方法を用いて得られる阻害剤、または、上記免疫疾患治療薬剤を用いた高レベルIgE発現の抑制方法も含まれる。この方法では、上記阻害剤または免疫疾患治療薬剤を用いることで、KCから産生されたIL−18の局所的な集積により、抗原への暴露なしに引き起こされる全身性のIgE応答を抑制する。その結果、アトピー性皮膚炎様の炎症性皮膚病変において生ずる血清中の高レベルのIgE発現という現象を抑制または阻害することができる。
KCからのIL−18の産生誘導は、ダイレクトにADの発症につながる場合もあれば、高レベルのIgE発現を導いてADの発症につながる場合もある。本発明では、上記何れの場合であっても、ADの病状を有効に治療または緩和することができる。
(2)本発明にかかるアトピー性皮膚炎様症状の誘導方法
上記(1)では、本発明のうち、ADやその類似症状の治療薬剤を候補物質からスクリーニングする方法について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ADやその類似症状の発症機構を解明する目的で、モデル生物に、AD様の炎症性皮膚病変を発症させるAD様症状の誘導方法も含まれる。
本発明にかかるAD様症状の誘導方法は、上記(1)の環境形成工程にて、KC刺激タンパク質を刺激剤として用いた場合について説明したように、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAをホスト生物の皮膚に塗布する方法であればよい。このときの塗布条件等についても上記(1)と同様特に限定されるものではない。
さらに、上記プロテインAとしては、上記(1)でも述べたように、当該プロテインAの完全タンパク質、ケラチノサイトを刺激することが可能な上記プロテインAの部分タンパク質、または、ケラチノサイトを刺激することが可能な上記プロテインAまたはその部分タンパク質の改変体の少なくとも何れかであればよい。
また、上記ホスト生物としても、上述したように、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、サル等の実験動物、特にマウス等を好適に用いることができる。換言すれば、本発明には、上記誘導方法により得られた炎症性皮膚病変を発症したモデル生物が含まれる。
(3)本発明の利用
本発明にかかるスクリーニング方法、およびAD様症状の誘導方法は、上述したように、ADやその類似症状の発症機構の解明や治療薬剤の開発に好適に用いることができる。ここで、本発明にかかる上記各方法は、キットにより実現されてもよい。すなわち、本発明には、上記スクリーニング方法を実施するためのスクリーニングキットまたは上記AD様症状の誘導方法を実施するための誘導キットが含まれていてもよい。
上記スクリーニングキットの具体的な構成は特に限定されるものではないが、例えば、少なくとも、刺激剤(特にKC刺激タンパク質、促進物質)と、阻害剤同定工程で用いられる各種マテリアル類(例えばSpAの結合タンパク質とシグナル伝達分子等)を含む構成を挙げることができる。同じく、AD様症状の誘導キットの具体的な構成も特に限定されるものではないが、SpA溶液とSpAを効率的に塗布できるような塗布手段とを含む構成を挙げることができる。
本発明にかかるスクリーニング方法は、AD様の炎症性皮膚病変を治療する免疫疾患治療薬剤のスクリーニングに好適に用いられる。また、本発明にかかるAD様症状の誘導方法は、AD様症状をモデル動物に人工的に発症させることで、AD様症状の発症機構の解明に用いることが可能であるが、さらには、本発明にかかるスクリーニング方法により得られた阻害剤の効果を検証するために用いることもできる。
例えば、本発明にかかるスクリーニング方法として、環境形成工程をin vitroで実現する手法により、ある阻害剤(例えば、物質Xとする)が得られたとする。この場合では、KCの培養細胞における物質Xの効果を見ていることになる。そこで、本発明にかかるAD様症状の誘導方法を用いてAD様症状が発症したマウスを作製し、これを用いて物質Xの効果をin vivoで検証することができる。
なお、本発明の利用方法は、上記の例に限定されるものではなく、他の種々の用途にも用いることが可能であることはいうまでもない。
このように、本実施の形態では、具体的な例を挙げて本発明を詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者が有する知識に基づいて、種々の改良、変更、修正を加えた態様で実施することができる。
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例において用いられたマウスおよび試薬、並びに、具体的な実験方法の詳細を次に示す。
〔マウス〕
メスのC57BL/6(B6)野生型マウス(6−10週)はCLEA Japan社から購入した。B6背景CD4欠失マウス(メス、6−10週)は東京大学のDr.Taniguchiの好意により提供を受けた。B6背景stat 6欠失マウス(メス、6−10週)は大阪大学のDr.Takedaの好意により提供された(Takeda,K.,Tanaka,T.,Shi,W.,Matsumoto,M.,Minami,M.,Kashiwamura,S.,Nakanishi,K.,Yoshida,N.,Kishimoto,T.and Akira.S.,1996.Essential role of STAT6 in IL−4 signaling.Nature 380:627参照)。
B6マウスとF10マウス(メス、6−10週)とを交配したIL−18Rα欠失マウスは、大阪大学のDr.Hoshinoより提供を受けた(Hoshino,K.,Tsutsui,H.,Kawai,T.,Takeda,K.,Nakanishi,K.,Takeda,Y.and Akira,S.1999.Generation of IL−18 receptor−deficient mice:evidence for IL−1 receptor−related protein as an essential IL−18 binding receptor.J.Immunol.162:5041参照)。
皮膚移植片のドナーとしては、高い血清中IgE濃度(10−12μg/ml)及びIL−18濃度(5−7ng/ml)を有する慢性皮膚疾患を患うメスのマウスを選択して用いた。caspase−1欠失マウスをB6野生型マウスと交配して得られたF6マウス(メス、6−10週)を用いた(Seki,E.,Tsutsui,H.,T suji,N.M.,Hayashi,N.,Adachi,K.,Nakano,H.,Futatsugi−Yumikura,S.,Takeuchi,O.,Hoshino,K.,Akira,S.,Fujimoto,J.and Nakanishi,K.2002.Critical roles of myeloid differentiation factor 88−dependent proinflammatory cytokine release in early phase clearance of Listeria monocytogenes in mice.J.Immunol.169:3863参照)。B6/129背景の骨髄分化ファクター88(MyD88)欠失マウス、Toll様レセプター(TLR)2欠失マウスのF4マウス(メス)は、大阪大学のDr.Akiraから提供を受けた(Seki et al参照)。全てのマウスは無菌状態の下においた。
〔試薬〕
黄色ブドウ球菌Cowan1から精製したSpAは、Calbiochem社より購入した。大腸菌(055;B5)からのリポ多糖類(LPS)は、Difco社より購入した。Murine Fasリガンドトランスフェクタント(mFasL)については、非特許文献6を参照。広い範囲で活性を阻害するcaspase阻害剤であるz−VAD−FMK(ZVAD)と、caspase−1の特異的な阻害剤であるAc−YCAD−CMK(YVAD)は、Peptide Institute社から購入した。本実施例では、10%FCS、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、50μM 2−メルカプトエタノール及び2mM L−グルタミンを含むRPMI1640を通常の培養液として用いた。マウスのケラチノサイト細胞株PAM212は、東京大学のDr.Tamakiから提供された。
〔皮膚移植〕
皮膚標本(1cm)は、野生型B6マウスの正常皮膚またはKCASP1Tgマウスの病変を発症した皮膚(病変皮膚)あるいは発症していない皮膚(非病変皮膚)から得た上で、野生型B6マウス、CD4欠失マウス、stat6欠失マウス、またはIL−18Rα欠失B6マウスの背中に移植した。皮膚標本としては、KCASP1Tgの病変皮膚あるいは非病変皮膚については、2片の移植片を得た。
皮膚移植の後、レシピエントは、可能なすべての感染を防ぐために、1mg/mlの硫酸ネオマイシン(Sigma社製)および1000U/mlの硫酸polymixinB(Sigma社製)を加えた飲用水を与えた。適宜、IgE濃度を決定するために血清をサンプリングした。
移植されたそれぞれのホストにおける移植皮膚の生着率は48日目まで観察した。組織学的な研究のために、ヘマトキシリンとエオジンで皮膚標本を染色した(非特許文献3・4参照)。
〔皮膚溶解物〕
皮膚標本(1cm)は、野生型のB6マウスまたはKCASP1Tgマウスから得た上で、当該皮膚標本から調製した表皮のシートはPBS(リン酸緩衝整理食塩水)中、4℃でホモジナイズし、濾過した。それぞれの溶解物中に含まれる各種サイトカインおよびタンパク質の濃度を、サイトカイン用試薬およびタンパク質評価試薬(Pierce社製)を用い、ELISAキットにより測定した。
〔Th1/Th2分化〕
脾臓のCD4T細胞は、AutoMACS(Miltenyi Biotec社製)を用いて様々な手法で処理したマウスから単離した。新たに単離した脾臓細胞は抗CD4ビーズ(Miltenyi Biotec社製)とともにインキュベートした。CD4T細胞の純度は98%超であった。細胞(1×10/ml)は、固相化された抗CD3ε(PharMingen社製)とともに48時間インキュベートし、それぞれの上清のIFN−γおよびIL−4の濃度をELISA法により決定した。
〔サイトカインおよびIgEの評価〕
IL−18濃度はMBL社製ELISAキットにより決定した。IL−4、IFN−γおよびIL−1βは、Genzyme社製ELISAキットにより決定した。IL−5のELISAキットは、Endogen社から購入した。血清IgE濃度は、PharMingen社製ELISAキットにより決定した。IL−18のIFN−γ誘導能は、LNKシリーズと名づけられたIL−18応答性のマウスNK細胞クローンを用いてバイオアッセイにより決定した(非特許文献6他参照)。
具体的には、LNK5E6細胞は、LNK5E3細胞よりも、IFN−γ産生に関してはIL−18刺激に対してより高い応答性を有しており(非特許文献6参照)、この細胞を各種サンプルおよび100pg/mlのIL−12とともに、抗IL−18抗体(50μg/ml)の存在下または不存在下で48時間インキュベートした。IL−18の活性度は、次式に示すように、IL−18に対する応答において、細胞によって産生されるIFN−γの濃度として定義される(非特許文献6参照)。
IL−18活性度=(抗IL−18抗体の不存在下における上清中のIFN−γ)−(抗IL−18抗体の存在下における上清中のIFN−γ)。
〔SpAの塗布〕
種々の量のSpAを、5μlの溶媒(50%グリセロールのPBS溶液)に溶かしたもの(SpA溶液)を調製し、このSpA溶液を野生型の耳の皮膚に、14日間毎日塗布した。コントロールとして、SpAを含まない5μlの溶媒を用いた。他のマウスの影響を避けるため、マウスを個別のケージに入れた。
〔KCの調製〕
KCは、Dr.Tamaki他により示された方法(Vestergaard,C.,Yoneyama,H.,Murai,M.,Nakamura,K.,Tamaki,K.,Terashima,Y.,Imai,T.,Yoshie,O.,Irimura,T.,Mizutani,H.,et al.1999.Overproduction of Th2−specific chemokine in NC/Nga mice exhibiting atopic dermatitis−like lesions.J.Clin.Invest.104:1097,または,Tamaki,K.,Stingl,G.,Gullino,M.,Sachs,D.H.and Katz,S.I.1979.la antigens in mouse skin are predominantly expressed on Langerhans cell.J.Immunol.123:784参照)にしたがって、各種遺伝子型のマウスから調製し、表面分子の発現を正常に回復させるために、一晩培養液中でインキュベートした。DCを除去するために、KCをCD11cマイクロビーズ(Miltenyi Biotec社製)とともにインキュベートした後、CD11c細胞はAutoMACSを用いて除去した。
KC(5×10/ml)またはPAM212細胞(2×10/ml)は、様々な量のSpAと、1μg/mlのLPSまたはmFasL(1×10/ml)とともに24時間インキュベートした。一部の実施例では、野生型のKCを、20μMのZVADまたはYVADの存在下で、100μg/mlのSpAとともに24時間インキュベートした。それぞれの上清におけるIL−18濃度およびその活性度は、ELISAとバイオアッセイによりそれぞれ決定した。一部の実施例では、KCは500μg/mlのSpAとともに4時間インキュベートし、総RNAを抽出して、RT−PCR(Tsutsui,H.,Matsui,K.,Kawada,N.,Hyodo,Y.,Hayashi,N.,Okamura,H.,Higashino,K.and Nakanishi,K.1997.IL−18 accounts for both TNF−α−and Fas ligand−mediated hepatotoxic pathways in endotoxin−induced liver injury in mice.J.Immunol.159:3961参照)を行った。IL−18、IL−12p35、IL−12p40またはβ−アクチンのためのプライマー及びそれぞれのサイトカインについてのPCRの条件については、上記Tsutsui et al.を参照。
〔Kupffer細胞の調製〕
Kupffer細胞(クッパー細胞)の調製は、非特許文献6にしたがって行った。Kupffer細胞(1×10/ml)は、1μg/mlのLPS(リポ多糖類)とともに4時間インキュベートし、それらのIL−18、IL−12p35、IL−12p40およびβ−アクチンの発現をRT−PCRにより、mRNA濃度として決定した。
〔FACS(蛍光表示式細胞分取器)分析〕
DC、CD4T細胞及びCD8T細胞の比率は、非特許文献6にしたがって調製したKCを、フィコエリトリン(PE)を結合した抗CD11c抗体(PharMingen社製)とフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を結合した抗I−A抗体(PharMingen社製)と、あるいはPEを結合した抗CD4抗体(PharMingen社製)とFITCを結合した抗CD8抗体(PharMingen社製)とインキュベートした後、二色フローサイトメトリー分析により決定した。
〔統計量〕
全てのデータは3個の組の平均と標準偏差として示した。対照群と処置群の間の有意性は、独立したスチューデントテストにより行った。P<0.05が有意であるとした。
〔実施例1:KCASP1Tgマウスからの皮膚移植片の移植によるIgEの誘導〕
最初に、KCASP1Tgマウスの病変皮膚が同系統の正常な野生型マウスに移植されると、血清IgE濃度の上昇を誘導する可能性を有するかを調べた。具体的には、それぞれの移植における皮膚移植片の条件を標準化するために、耳、顔および胴体に慢性皮膚炎を発症し、血清中に一定のIL−18およびIgE濃度を有するKCASP1Tgマウスをドナーとして選択した。KCASP1Tgマウスの病変皮膚片または非病変皮膚片を、正常なB6マウスに移植し、宿主の血清IgE濃度を測定した。その結果を図1に示す。
図1では、グラフ中の塗りつぶされた円および右側の上の写真が、正常なB6マウスにKCASP1Tgマウスの病変皮膚を移植した結果を示し、グラフ中の斜線を引いた円および右側の中央の写真が、KCASP1Tgマウスの非病変皮膚を移植した結果を示し、グラフ中の正方形および右側の下の写真が、野生型マウスの正常な皮膚を移植した結果を示す。グラフに示された時点でELISAによるIgE測定のために血清をサンプリングするとともに、移植した皮膚の生着率を観察した(図1の上方:移植皮膚の生着率)。データはそれぞれの実験群における3匹のマウスの平均と標準偏差とを示す。移植した皮膚の生着率は上方のパネルに示す。
図1に示すように、非病変皮膚を移植したB6マウスが、遅延した弱いIgE応答を示したのに対して、病変皮膚を移植したマウスの場合は、その血清中のIgE濃度は早期に上昇した。野生型マウスの皮膚移植片を移植したコントロールのB6マウスでは、IgEの上昇は見られなかった。病変皮膚を移植したB6マウスは、高い血清IgE濃度を示すが、移植片を脱離した後には濃度が低下する。一方、非病変皮膚を移植したB6マウスは、低いIgE濃度を維持する。さらに、病変皮膚を移植したB6マウスは、病変皮膚の拒否反応後であっても血清IgE濃度は再度上昇を始める。
なお、データは示さないが、血清IL−18濃度はどのタイプの皮膚移植片による刺激の後も上昇しなかった。同じくデータは示さないが、血清IL−4またはIL−6濃度は、市販のELISAキットでは検出されなかった。これらの結果から、KCASP1Tgマウスの病変皮膚は、正常なB6マウスに移植されたときに、全身性のIgE上昇を持続的に誘導することが示される。これは、IL−18の投与を停止した後に直ちに停止する、外因性のIL−18依存性のIgE産生(未公開データ)と対照的である。
〔実施例2:KCASP1Tgマウスの病変皮膚におけるIL−18−及びTh2−関連サイトカインの集積〕
病変皮膚の移植のみが、ホストにおけるIgE応答を効果的に誘導するメカニズムを解明するために、病変皮膚の移植片と非病変皮膚の移植片とにおけるIL−18濃度を比較した。各皮膚の移植片は、それぞれ前述したように溶解物とした上で、IL−18の濃度を測定した。その結果を図2A〜Fに示す。
図2A〜Fでは、塗りつぶした棒グラフが、2匹のKCASP1Tgマウスからサンプリングされた病変皮膚の標本の結果を示し、斜線を引いた棒グラフが、2匹のKCASP1Tgマウスからサンプリングされた非病変皮膚の標本の結果を示し、白抜きの棒グラフが、3匹の野生型マウスからサンプリングしたコントロールとしての皮膚標本の結果を示す。また、図2Aは、上記各皮膚標本の溶解物中におけるIL−18の濃度を示し、同じく図2Bは、IL−18の活性度(IL−18応答性のLNK5E6細胞によるIFN−γ産生)を示し、図2CはIL−1βの濃度を示し、図2DはIFN−γの濃度を示し、図2EはIL−4の濃度を示し、図2FはIL−5の濃度を示す。各結果は、それぞれのサンプルにおける3つの独立した実験結果の平均と標準偏差とを示す。なお、NDは検出されないことを示す。
図2Aに示すように、KCASP1Tgマウスの病変皮膚の溶解物はELISAで高いIL−18濃度を示し、IL−18の前駆体および成熟型の両方が検出された。一方、KCASP1Tgマウスの非病変皮膚の溶解物では、低いIL−18濃度しか示さず、野生型マウスの皮膚の溶解物においては、IL−18の濃度は最も低かった。
ここで、IL−18に対する免疫ブロット分析から、KCASP1Tgマウスの皮膚の病変部位は、生理活性を有する18kDaのIL−18と24kDaのIL−18前駆体との双方を発現し、野生型マウスの皮膚およびKCASP1Tgマウスの非病変皮膚は24kDaのIL−18前駆体のみを発現することが知られている。そこで、これを確かめるために、IL−18に対するバイオアッセイを行った。その結果、図2Bに示すように、KCASP1Tgマウスの病変皮膚はIL−18によるIFN−γ誘導の活性度の力価が高いことを示した。一方、非病変皮膚はほとんど活性を示さなかった。また、B6マウスの正常な皮膚には、そのような生理活性を有するIL−18は存在しない。
また、図2Cに示すように、IL−1βも病変皮膚においてのみKCに濃縮されていた。なお、IL−18、IL−1βに加えて、他のcaspase−1産生物も、病変皮膚においてのみKCに濃縮されることが知られている。このようにホスト中のIgE濃度は、移植された移植片におけるIL−18およびIL−1βの濃度と対応している。
次に、KCASP1Tgマウスの病変皮膚の溶解物中におけるIFN−γ、IL−4およびIL−5の濃度を測定した。その結果、図2D〜Fに示すように、KCASP1Tgマウスの病変皮膚の溶解物中では、IFN−γ、IL−4およびIL−5の濃度は、野生型マウスやKCASP1Tgマウスの非病変皮膚の溶解物と比較しても、すべて上昇していた。このように、病変皮膚の移植片は大量のIL−18、IL−1β、IFN−γ、IL−5およびIL−4を蓄積している。
KCASP1Tgマウスの病変皮膚にはどのタイプの細胞が集積しているのかを調べるために、FACSにより、KC標本中のCD4T細胞、CD8T細胞、樹状細胞の比率を測定した。その結果を図3A〜Fに示す。
図3A・Dは、野生型マウスの正常な皮膚、図3B・Eは、KCASP1Tgマウスの非病変皮膚、図3C・Fは、KCASP1Tgマウスの病変皮膚から得られたKC標本の結果を示す。
図3A〜Cは、各KC標本とPEを結合した抗CD4抗体およびFITCを結合した抗CD8抗体とをインキュベートした結果であり、図3D〜Fは、各KC標本とPEを結合した抗CD11c抗体とFITCを結合した抗I−A抗体とをインキュベートした結果を示す。また、図3A〜Fのそれぞれにおいては、CD4T細胞およびCD8T細胞の比率と、CD11cDCおよびI−Ab+DCの比率を示す。各結果は、それぞれの実験群における3匹のマウスのうち、1匹の結果のみを示す。
図3A〜Fに示すように、病変皮膚では、野生型マウスと比較して、CD4T細胞の数が実質的に上昇していた。また、これら3タイプのレシピエントの間では、CD8T細胞またはDCの比率には違いがなかった。
データは示さないが、肥満細胞の数は、野生型マウスと比較して、KCASP1Tgマウスでは、病変皮膚において顕著に上昇し、非病変皮膚でにおいては上昇しなかった。この結果は、本発明者らによる以前の報告(非特許文献4)と一致する。このように、CD4T細胞は、KCASP1Tgマウスの病変皮膚において優先的に集積される。また、病変皮膚には肥満細胞も多数集積している。
〔実施例3:病変皮膚を移植されたマウスにおけるTh1細胞およびTh2細胞の誘導〕
IgE応答は通常Th2細胞の活性化を必要とするため、次に、病変皮膚の移植後にホスト中のCD4T細胞がTh2細胞に分化するかを調べた。具体的には、正常なB6マウスに対して、KCASP1Tgマウスの病変皮膚、非病変皮膚または野生型マウスの正常な皮膚を移植し、21日後に脾臓のCD4T細胞を固相化された抗CD3とともに48時間インキュベートし、上清におけるIL−4濃度(塗りつぶした棒グラフ)とIFN−γ濃度(白抜きの棒グラフ)とをELISAで決定した。その結果を図4に示す。
図4では、IL−4濃度を塗りつぶした棒グラフに示し、IFN−γ濃度を白抜きの棒グラフに示す。それぞれのデータは、3個の組の平均と標準偏差とを示す。3の独立した実験から類似の結果が得られた。なお、NSは有意性なしを示す。
図4に示すように、KCASP1Tgマウスの病変皮膚を移植した後、21日目のホストにおける脾臓のCD4T細胞は、正常なB6マウスの皮膚を移植したホストと比較して、固相化された抗CD3に応答してIL−4およびIFN−γの双方を多量に産生した。
これに対して、非病変皮膚を移植したレシピエントでは、脾臓のCD4T細胞は、B6野生型マウスの皮膚を移植したレシピエントのものに匹敵する程度の量のIL−4とIFN−γを産生した(プレート結合抗CD3に対する応答)。しかしながら、データは示さないが、移植後7日目では、KCASP1Tgマウスの病変皮膚または非病変皮膚を移植したレシピエントのCD4T細胞は、野生型マウスの正常な皮膚を移植したコントロールのレシピエントのCD4T細胞と同程度の量のIL−4とIFN−γしか分泌しなかった。
これらの結果は、CD4T細胞がTh1/Th2細胞に分化するためには、病変皮膚の移植片の移植による刺激から2−3週間必要であることを示す。
〔実施例4:IL−18、CD4およびstat6に依存するIgEの誘導〕
KCASP1Tgマウスの病変皮膚が、IgEを誘導するメカニズムを細胞レベルで分析した。ところで、CD4T細胞を除いたマウスはIL−18を投与されても血清IgE濃度の上昇が見られないことが知られている。そのため、ホスト由来のCD4T細胞が本来必要とされるのか、あるいは、病変皮膚に浸潤したIL−4を産生するドナーT細胞(図2E参照)が、IgE誘導に必要な条件を備えているのかを調べた。
具体的には、野生型マウス、CD4欠失マウス、stat6欠失マウスまたはIL−18Rα欠失マウスに、KCASP1Tgマウスの病変皮膚を移植した。0日目と21日目に、IgE測定のために血清をサンプリングした。その結果を図5Aに示す。白抜きの棒グラフが0日目の結果であり、塗りつぶした棒グラフが21日目の結果を示す。各データはそれぞれの実験群における3匹のマウスの平均と標準偏差とを示す。
まず、CD4欠失マウスは、図5Aに示すように、KCASP1Tgマウスの病変皮膚を移植した後でさえもIgEを産生しなかった。この結果から、KCASP1Tgマウスの病変皮膚の移植片中のIL−4産生細胞あるいはIL−18は、ホストのCD4T細胞なしにはIgEの全身性の上昇を誘導することができないことを示唆している。
また、stat6がIL−4のシグナル伝達に不可欠であることから、次に、ホストのstat6の活性化がIgE誘導に決定的かを分析したところ、図5Aに示すように、stat6欠失マウスは、病変皮膚を移植した後、いかなるIgEの上昇も示さない。この結果は、病変皮膚の移植片により誘導されたIgE応答は、ホスト由来のCD4T細胞およびstat6に依存的であることを示唆している。データは示さないが、B6マウスの正常な皮膚の移植もCD4T細胞またはstat6が欠失した宿主において、IgE産生を誘導しなかった。したがって、皮膚移植によるIgEの誘導は、ホストが完全なCD4T細胞およびstat6を供えているときだけに起こる。
さらに、移植片中のIL−18が、ホスト中でIgEの誘導を引き起こすか否かを調べた。この目的のために、ホストとして、IL−18に応答することができないIL−18Rα欠失マウスを用いた。図5Aに示すように、IL−18Rα欠失マウスでは、IgEの上昇は見られなかった。また、データは示さないが、B6マウスの正常な皮膚を移植したIL−18Rα欠失マウスはIgEの上昇を示さなかった。
総合すると、これらの結果は、皮膚の病変部位における少量のIL−18の持続的な集積は、ホスト由来のCD4T細胞およびstat6に依存的な、全身性のIgEの上昇を誘導する。
また、病変皮膚を移植された野生型マウスが、CD4T細胞のTh1細胞およびTh2細胞への分化を伴うIgE応答を示したことから(図4参照)、このTh1/Th2細胞への分化も、病変皮膚の移植片に存在するIL−18に依存するかを調べた。
具体的には、IL−18Rα欠失マウスに、B6野生型マウスの正常な皮膚またはKCASP1Tgマウスの病変皮膚を移植した。21日目にレシピエントから脾臓のCD4T細胞を単離し、固定化された抗CD3で刺激し、産生されたIL−4とIFN−γとをELISAで測定した。その結果を図5Bに示す。
白抜きの棒グラフがIFN−γの結果であり、塗りつぶした棒グラフがIL−4の結果である。各データはそれぞれの実験群における3匹のマウスの平均と標準偏差とを示す。なお、NSは有意性がないことを示す。
図5Bに示すように、病変皮膚の移植片を移植されたIL−18Rα欠失マウスのCD4T細胞は、野生型マウスの正常な皮膚を移植されたIL−18Rα欠失マウスのCD4T細胞と比較して、そのIL−4あるいはIFN−γの産生量に関して相違を認めなかった。この結果から、病変皮膚の移植片を介したTh1/Th2細胞の分化は、移植片から放出されたIL−18に依存している可能性が示される。
〔実施例5:in vivoにおけるSpAによるIL−18およびIgEの誘導〕
黄色ブドウ球菌の感染は、時にはADの患者において、皮膚の炎症変化を悪化させ、いくらかのAD患者では血清IL−18濃度が上昇することが知られている。そのため、黄色ブドウ球菌の産生物が、正常なB6マウスにおけるIL−18の全身的な上昇を引き起こすことができるかを調べた。
具体的には、正常なB6マウスの耳の皮膚に、1日1回様々な用量のSpAまたは溶媒のみを2週間塗布した。その後、14日目にIL−18またはIgEの濃度を測定するために血清および脾臓をサンプリングした。さらに、溶媒またはSpA(100μg/日)を塗布したマウスの脾臓のCD4T細胞をプレート結合抗CD3とともに48時間インキュベートし、それぞれの上清におけるIFN−γおよびIL−4の濃度をELISAで測定した。その結果を図6A〜Cに示す。
図6AはIL−18の結果を示し、図6BはIgEの結果を示す。さらに、図6Cにおける白抜きの棒グラフはIFN−γの結果を示し、塗りつぶした棒グラフはIL−4の結果を示す。図6A・Bのデータは、それぞれの群において、3匹のマウスの平均と標準偏差とを示す。図6Cのデータは3つのサンプルの平均と標準偏差とを示し、それぞれの群における3匹のマウスのうち、1匹のデータを示す。なお、NDは検出されないことを示し、NSは有意性がないことを示す。
図6Aに示すように、SpAを塗布したマウスでは、血清中のIL−18のレベルは、投与量依存的に上昇したが、溶媒のみを塗布したマウスでは上昇しなかった。データは示さないが、SpAまたは溶媒を塗布したマウスにおける血清中のIL−12p40、IL−12p70は、ELISAでは検出されなかった。また、図6Bに示すように、IgEレベルも投与量依存的に上昇した。加えて、図6Cに示すように、SpAで処理されたマウスは、Th2細胞優位な分化を示さなかった。これらの結果は、IL−18処理と同様に、SpAがTh1/Th2細胞どちらかの優先的な分化なしに、全身性のIgEを誘導する可能性を示す。
〔実施例6:SpAに応答してKCはIL−18を分泌するが、IL−12は分泌しない〕
IL−18は、IL−12がなければIgEを誘導することができ、IL−12があれば逆にIgE誘導を阻害する。これまで、IL−18の分泌を誘導するLPS(リポ多糖類)を含めた刺激剤は常にIL−12の産生を引き起こすことが知られている。そこで、次に、SpAに応答して、どのタイプの細胞がIL−18を分泌し、これらの細胞がIL−12の産生を伴わずにIL−18を分泌するかを調べた。
具体的には、PAM212細胞(マウスのKCの培養株)をSpAとともに、またはSpAなしで24時間インキュベートし、それぞれの上清中のIL−18濃度とIL−18のIFN−γを誘導する生物活性をELISAとバイオアッセイでそれぞれ測定した。その結果を図7Aに示す。図7Aでは、左側がIL−18の濃度を示し、右側がIFN−γを誘導する活性度を示す。なお、図7Aのデータは、3つの値の平均と標準偏差とを示している。また、NDは検出されないことを示す。
図7Aから明らかなように、SpAによる刺激の後、PAM212細胞は、IFN−γ産生を誘導することができる活性型のIL−18を分泌している。
さらに、新たに単離したKCがSpAに応答してIL−18を分泌するか実証するために、野生型B6マウスのKCをいろいろな用量のSpAと24時間インキュベートした。
具体的には、野生型B6マウスの皮膚から調製したKCまたはCD11細胞を除いたKCについて、CD11cとMHCクラスII(1−A)の発現をフローサイトメトリーで分析した。これらの細胞はSpA存在下、またはSpAのない状態で24時間インキュベートし、上清のIL−18濃度をELISAで測定した。その結果を図7Bに示す。図7Bでは、野生型B6マウスの皮膚から調製したKCを塗りつぶした棒グラフで示し、CD11c細胞を除いたKCを白抜きの棒グラフで示す。
図7Bの左側に示すように、新たに単離されたKCはSpAに応答して用量依存的にIL−18を放出した。LC/DCはIL−18を放出することができるので、CD11c細胞をKC標本から除いて、それらをSpAとインキュベートした。CD11c細胞を除去した後であっても、図7Bの右側に示すように、KCはSpAの刺激を受けるとIL−18を分泌した。なお、図7Bのデータは、3つの値の平均と標準偏差とを示している。また、NDは検出されないことを示す。
次に、SpAに誘導されるKCからのIL−18分泌の分子的なメカニズムを解明するため、caspase−1がLPS(リポ多糖類)の誘導によるIL−18分泌に必要であることから、SpAによる刺激を受けたcaspase−1欠失KCからのIL−18分泌を調べた。
具体的には、KCは、野生型マウス、caspase−1欠失マウス、TLR2欠失マウス、またはMyD88欠失マウスから調製し、野生型マウスのKCは20μMZVAD、20μMYVADまたは同じ体積のDMSO(Veh)の存在下、500μg/mlのSpAとともに24時間インキュベートした。同時に、上記各突然変異体のKCを500μg/mlのSpAとともに24時間インキュベートした。それぞれの上清中のIL−18をELISAで測定した。その結果を図7Cに示す。
図7Cでは、WTが野生型マウスを、KOが上記各突然変異体(ノックアウトタイプ)のマウスを示し、白抜きの棒グラフがcaspase−1欠失マウスを、網掛けの棒グラフがTLR2欠失マウスを、斜線で示す棒グラフがMyD88欠失マウスを示す。
図7Cに示すように、DMSOを加えずに500μg/mlのSpAとインキュベートした野生型マウスのKCは、28.4±3.5pg/mlのIL−18を産生した。また、caspase−1欠失マウスのKCは野生型マウスのKCに匹敵するレベルのIL−18を分泌する。そのため、SpAの刺激に対するcaspase−1に依存しないIL−18の分泌を示唆している。なお、図7Cのデータは、3つの値の平均と標準偏差とを示している。
caspase−1阻害剤であるYVADや、広い範囲のcaspaseを阻害するZVADは、LPSまたは膜結合型のFasリガンド刺激による肝臓の組織マクロファージであるKupffer細胞からのIL−18分泌を強力に阻害する。そこで、SpAの刺激を受けたKCについても、IL−18の分泌がYVADまたはZVADで影響されるかを調べた。図7Cに示すように、これらの2種類のcaspase阻害剤はSpAの刺激を受けた野生型マウスのKCからのIL−18分泌を阻害しなかった。この結果は、SpAの刺激を受けたKCからのIL−18分泌において、caspaseは不必要であることを示す。データは示さないが、これはcaspase−1欠失マウスのKCの場合についても同様のことが言える。
さらに、多くの微生物がTLR/MyD88シグナル経路を刺激することから、KCが、グラム陽性菌に対する信号レセプターであるTLR2または全てのTLRメンバーによってシェアされる不可欠なアダプター分子であるMyD88に依存してIL−18を分泌するのかを調べた。図7Cに示すように、TLR2とMyD88の両者ともに、SpA刺激で誘導されるKCからのIL−18分泌に不必要であることから、SpAによるIL−18の分泌誘導は、TLRに依存しないIL−18分泌であることを示唆している。
また、Kupffer細胞がLPSまたは膜表現型のFasリガンドによる刺激に応答してIL−18を分泌することから、これらの刺激剤がKCからのIL−18分泌を誘導するかを調べた。具体的には、野生型B6マウスからのKC(5×10/ml)を、500μg/mlのSpA、1μg/mlのLPS、または1×10/mlのmFasLとともに24時間インキュベートした。得られた上清に含まれるIL−18は、ELISAで測定した。その結果を表1に示す。

表1の結果から明らかなように、Kupffer細胞とは反対に、KCはLPSまたはFasリガンドによる刺激を受けた後もIL−18を分泌しなかった。なお、表1では、NDは検出されなかったことを示す。
次に、SpAによる刺激を受けたKCが同時にIL−12を分泌するかを調べた。微量のIL−12を確認するために、SpAと4時間インキュベートしたKCから総RNAを得、これを用いてRT−PCRを行った。具体的には、野生型のB6マウスのKCとKupffer細胞とを500μg/mlのSpAの存在下または非存在下、並びに、1μg/mlのLPSの存在下または非存在下で、それぞれ4時間インキュベートした。抽出した総RNA中のIL−18、IL−12p40、IL−12p35およびβ−アクチンのmRNAの発現レベルをRT−PCRで測定した。その結果を図7Dに示す。
図7Dに示すように、LPSで刺激されたKupffer細胞がIL−12p35とIL−12p40との双方を発現したのに対し、SpAによる刺激を受けたKCでは、IL−12p35もIL−12p40も検出されなかった。8時間または16時間SpAとインキュベートしたKCから得た、総RNAを用いてIL−12に対するRT−PCRを行ったが、それらの中にはIL−12の何れも検出されなかった。データは示さないが、ELISAでもIL−12を測定したが、24時間インキュベートした後のSpAによる刺激を受けたKCの上清にはIL−12p40またはIL−12p70は検出されなかった。
これに対して、Kupffer細胞のKCは、IL−18を恒常的に発現し、SpAによる刺激を受けた後も発現のレベルは変わらなかった。また、データは示さないが、Kupffer細胞はSpAに対する応答としてIL−12またはIL−18を分泌しなかった。
これらの結果から、皮膚に塗布されたSpAの刺激により、局部的にKCがIL−18を分泌するが、IL−12は分泌せず、これがIgEの誘導につながることが示される。
〔実施例7:SDSとSpAの混合物を塗布したNC/Ngaマウスにおける皮膚病変〕
NC/Ngaマウスは、アトピー性皮膚炎好発マウスで、SPFでは発症しないが、コンベンショナルな環境下に移すと発症する。NC/Ngaマウスに4%のSDSあるいはSpA(200μg/日)を単独で塗布しても発症しないが、両者を混合してNC/Ngaマウスの剃毛した背部に塗布すると、AD様の皮膚病変が観察される。
図8のAないしDは、4%SDSとSpA(200μg/日)の混合物を塗布したNC/Ngaマウスにおける皮膚病変の結果を、コントロールの結果とともに示す図である。図8Cに示すように、4%SDSのみを塗布した場合は28日後でも発症は見られないが、4%SDSとSpA(200μg/日)の混合物を塗布した場合は、図8B、図8Dに示すように、14日後、28日後にAD様の皮膚病変が観察された。
図9のAないしDは、は4%SDSとSpA(200μg/日)の混合物を塗布したNC/Ngaマウスにおける皮膚の経時変化をコントロールの結果とともに示したものである。図9のAないしCは、ヘマトキシリン・エオジンで染色したAD様の病変皮膚を光学顕微鏡で観察した結果を示すものである。図9Aは倍率25倍、図9Bは倍率50倍、図9Cは倍率100倍の観察結果を表す。図9Dはアルシアン・ブルーで染色したAD様の病変皮膚を光学顕微鏡で観察した結果である。図9Dに示したように、組織学的には、病変部において表皮の肥厚が著明となり、アルシアン・ブルーで染色される肥満細胞の浸潤が認められるようになる。
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
産業上の利用の可能性
以上のように、本発明では、KCからのIL−18の局所的な集積が、抗原への暴露なしに全身性のIgE応答を引き起こし、これがAD様の炎症性皮膚病変において生ずる血清中の高レベルのIgE発現という現象を導くという知見に基づいて実現されたスクリーニング方法、およびアトピー性皮膚炎様症状の誘導方法、並びにその利用である。
それゆえ、本発明は、微生物刺激で誘導されるKCからのIL−18産生の重要性を示し、未知の抗原によるアレルギー疾患の病因に関連するであろうメカニズムに新しい見識を提供するとともに、ADの治療薬剤等の開発に有効に利用することができる。
したがって、本発明は、各種医薬品産業や研究用試薬産業に好適に利用できるだけでなく、医療分野にも応用することができる。それゆえ、本発明は、微生物刺激で起こるKCからのIL−18産生の重要性を示し、未知の抗原によるアレルギー疾患の病因に関連するであろうメカニズムに新しい見識を提供するとともに、ADの治療薬剤等の開発に有効に利用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アトピー性皮膚炎様の炎症性皮膚病変を有する生物において生ずるインターロイキン18の産生の誘導現象を利用した阻害剤のスクリーニング方法であって、
インビボまたはインビトロにて、刺激剤による刺激でケラチノサイトからのインターロイキン18の産生を誘導する環境を形成する環境形成工程と、
当該環境の下にて候補物質を投与して、上記ケラチノサイトからのインターロイキン18の産生誘導を阻害する物質を、上記阻害剤として同定する阻害剤同定工程とを含むことを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項2】
上記刺激剤として、黄色ブドウ球菌由来のプロテインA、ケラチノサイトを刺激することが可能な上記プロテインAの部分タンパク質、または、ケラチノサイトを刺激することが可能な上記プロテインAまたはその部分タンパク質の改変体の少なくとも何れかが用いられることを特徴とする請求の範囲第1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
上記刺激剤として、プロテインAに加えてSDSを併用することを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
上記環境形成工程がインビトロにて実施される場合、ケラチノサイトの培養細胞の培養液に上記プロテインAを添加して培養することにより、上記環境の形成を実現することを特徴とする請求の範囲第2項または第3項に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
上記環境形成工程がインビボにて実施される場合、上記プロテインAをホストとなる生物の皮膚に塗布することで、上記環境の形成を実現することを特徴とする請求の範囲第2項または第3項に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
上記環境形成工程がインビボにて実施される場合、上記刺激剤として、アトピー性皮膚炎様の炎症性皮膚病変が生じた皮膚片を用い、当該皮膚片をホストとなる生物に移植することで、上記環境の形成を実現することを特徴とする請求の範囲第1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
上記ホストとなる生物は、少なくとも、CD4T細胞が正常に存在し、stat6も発現しており、NKT細胞が構成的にIL−18Rα鎖を発現するという各形質を何れも具備していることを特徴とする請求の範囲第5項または第6項に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
上記ホストとなる生物として、マウスが用いられることを特徴とする請求の範囲第5項、第6項または第7項に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求の範囲第1項〜第8項の何れか1項に記載のスクリーニング方法を用いて得られる阻害剤を含むことを特徴とする免疫疾患治療薬剤。
【請求項10】
アトピー性皮膚炎様の炎症性皮膚病変を有する生物において生ずる血清中の高レベルのIgE発現を抑制する方法であって、
請求の範囲第1項〜第8項の何れか1項に記載のスクリーニング方法を用いて得られる阻害剤、または、請求の範囲第9項に記載の免疫疾患治療薬剤を用いて、ケラチノサイトからのインターロイキン18の局所的な集積により、抗原への暴露なしに引き起こされる全身性のIgE応答を抑制することを特徴とする高レベルIgE発現の抑制方法。
【請求項11】
モデル生物に、アトピー性皮膚炎様の炎症性皮膚病変を発症させるアトピー性皮膚炎様症状の誘導方法であって、
黄色ブドウ球菌由来のプロテインAをモデル生物の皮膚に塗布することを特徴とするアトピー性皮膚炎様症状の誘導方法。
【請求項12】
上記プロテインAとしては、当該プロテインAの完全タンパク質、ケラチノサイトを刺激することが可能な上記プロテインAの部分タンパク質、または、ケラチノサイトを刺激することが可能な上記プロテインAまたはその部分タンパク質の改変体の少なくとも何れかが用いられることを特徴とする請求の範囲第11項に記載のアトピー性皮膚炎様症状の誘導方法。
【請求項13】
プロテインAをモデル生物の皮膚に塗布するときに、さらにSDSを併用することを特徴とする請求の範囲第11項または第12項に記載のアトピー性皮膚炎様症状の誘導方法。
【請求項14】
請求の範囲第11項、第12項または第13項に記載のアトピー性皮膚炎様症状の誘導方法により得られる、炎症性皮膚病変を発症したモデル生物。
【請求項15】
上記モデル生物がマウスであることを特徴とする請求の範囲第14項に記載のモデル生物。
【請求項16】
請求の範囲第1項〜第8項に記載のスクリーニング方法を行うためのスクリーニングキット。
【請求項17】
請求の範囲第11項、第12項または第13項に記載の誘導方法を行うためのアトピー性皮膚炎様症状の誘導キット。

【国際公開番号】WO2004/104578
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506315(P2005−506315)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005747
【国際出願日】平成16年4月21日(2004.4.21)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】