説明

ケース固定構造

【課題】固定金具を用いてケースを所定の固定領域に固定するケース固定構造において、固定金具をケースに対して取り付ける際に、削り屑が発生することを防止する。
【解決手段】ケース3に設けられたガイド部11に沿わせてスライドすることにより当該ケース3に取り付けられる固定金具13を用いて上記ケース3を固定領域に固定するケース固定構造10であって、突起12aを有し、ケース3と一体的に設けられると共に周囲に設けられたスリットによって撓むことによる変形が許容される可撓性係止爪部12と、固定金具13に設けられると共に可撓性係止爪部12の突起12aが係止される係止穴14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケース固定構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両等に設置されるECU(Electronic Control Unit)等の電子制御装置は、電子回路基板と、当該電子回路基板を収容するケースとを有しており、ケースが車両に対して固定されて車両等に搭載されている。
【0003】
このようなECUを車両の所定の固定領域に固定する際には、例えば、特許文献1や特許文献2に示すような固定構造が用いられている。
具体的には、このような固定構造は、固定金具を用いてケースを車両の固定領域に固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−207683号公報
【特許文献2】特開2004−179280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の固定金具には係止穴が設けられ、ケースには突起が設けられている。そして、固定金具をケースに対して取り付ける場合には、ケースに設けられた支持部としても機能するガイド部に沿わせて固定金具をスライドし、上記突起を係止穴に係止させる。
これによって、固定金具がガイド部に支持され、さらにケースに設けられた突起が係止穴に入り込むことによって固定金具がケースに対して位置決めされて固定される。
【0006】
ところが、固定金具を固定する際には、ケースに設けられた突起が固定金具の係止穴に入り込んでいる必要があることから、係止穴が開口された固定金具の表面は、固定金具をスライドさせる際に突起と干渉することとなる。
ケースが樹脂によって形成され、また固定金具が厚さ数ミリ程度の金属板によって形成されているため、係止穴が開口された固定金具の表面が固定金具をスライドさせる際に突起と干渉する場合であっても、ケース及び固定金具の少なくとも一方が僅かに変形することで、突起が係止穴に入り込むまで固定金具をスライドさせることはできる。
ただし、ケースあるいは固定金具を変形させるためには大きな力を加える必要があり、この際、突起の一部が固定金具に削られ、削り屑が発生する場合がある。このような削り屑が発生し、当該削り屑が固定金具とケースとの間に残存した場合には、固定金具がケースに対して僅かに浮き上がり、固定金具を車両の固定領域に正確に固定することができない恐れがある。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、固定金具を用いてケースを所定の固定領域に固定するケース固定構造において、固定金具をケースに対して取り付ける際に、削り屑が発生することを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段として、本発明は、以下の構成を採用する。
第1の発明は、ケースに設けられたガイド部に沿わせてスライドすることにより当該ケースに取り付けられる固定金具を用いて上記ケースを固定領域に固定するケース固定構造であって、突起を有し、上記ケースと一体的に設けられると共に周囲に設けられたスリットによって撓むことによる変形が許容される可撓性係止爪部と、上記固定金具に設けられると共に上記可撓性係止爪部の上記突起が係止される係止穴とを備えるという構成を採用する。
第2の発明は、上記第1の発明において、上記ケースが複数の分割パーツを組み立てることによって形成され、上記スリットが上記分割パーツ同士の間の隙間によって形成されているという構成を採用する。
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記固定金具が、上記ガイド部に沿ってスライドしている最中に上記可撓性係止爪部の上記突起が通過する溝部を有するという構成を採用する。
第4の発明は、上記第1〜第3いずれかの発明において、上記固定金具が、一部が湾曲することにより形成されると共に当該固定金具を上記ガイド部に沿わせてスライドする際に把持される把持部と、上記把持部を形成するために湾曲された領域を補強する補強リブとを備えるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、周囲に設けられたスリットによって、撓みによる変形が許容された可撓性係止爪部を有し、当該可撓性係止爪部に固定金具の係止穴に係止される突起が備えられている。
このため、ガイド部に沿わせて固定金具をスライドした際に、固定金具の表面が突起と干渉した場合であっても、可撓性係止爪部が撓むことにより変形し、これによって突起を固定金具の移動範囲から逃がすことが可能となる。
このような突起が固定金具の移動範囲から逃げることにより、大きな力を加えてケース及び固定金具を変形させなくとも、突起を係止穴に係止して固定金具をケースに対して取り付けることが可能となる。
この結果、本発明によれば、固定金具によって突起が削られることを防止し、固定金具をケースに対して取り付ける際に、削り屑が発生することを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態におけるケース固定構造と、当該固定構造によって不図示の固定領域に固定される電子制御装置とを示す分解斜視図である。
【図2】下側ケースと上側ケースとが嵌合された状態であり、本発明の一実施形態におけるケース固定構造が有するガイド部及び可撓性係止爪部とを含む拡大斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態におけるケース固定構造が有する固定金具の斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるケース固定構造において、固定金具がガイド部間に挿入されてケースに取り付けられた状態を示す拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明に係るケース固定構造の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0012】
図1は、本実施形態のケース固定構造10と、当該固定構造10によって不図示の固定領域に固定される電子制御装置1とを示す分解斜視図である。
本実施形態の固定構造10によって、車両等に設けられた固定領域に固定される電子制御装置1は、例えば車両に搭載されるECUであり、図1に示すように、電子回路基板2と、ケース3とを備えている。
【0013】
電子回路基板2は、コネクタ2aや半導体素子等の不図示の電子素子が複数実装されたプリント基板であり、矩形状に形状設定されている。この電子回路基板2は、4つの隅部の各々に対して嵌合穴2bが設けられている。
【0014】
ケース3は、電子回路基板2を収容して保護するためのものであり、下側ケース3a(第1パーツ)と、上側ケース3b(第2パーツ)との2つの分割パーツを有し、上側ケース3bが下側ケース3aに対して嵌合されることによって構成されている。
そして、下側ケース3aに対しては、電子回路基板2の嵌合穴2bに対して嵌合する嵌合ピン3cが嵌合穴2bと同数設けられている。
【0015】
また、下側ケース3aには、上側ケース3bと嵌め合わされる際に当該上側ケース3bと当接する領域の一部に、傾斜面3a1が設けられている。
この傾斜面3a1は、下側ケース3aと上側ケース3bとを嵌め合わせる際の嵌合方向に対して傾斜されており、下側ケース3aの下側に向かうに連れて下側ケース3aの外側に向かう傾斜面となっている。なお、当該傾斜面3a1は、下側ケース3aの側面に対して凹んだ凹部の壁面として設けられている。このような傾斜面3a1を備えていることによって、下側ケース3aと上側ケース3bとを嵌め合わせる際に、上側ケース3bが傾斜面3a1に当接して案内され、下側ケース3aと上側ケース3bとを精度高く位置合わせすることができ、下側ケース3aと上側ケース3bとを容易かつ確実に嵌め合わせることが可能となる。
【0016】
本実施形態のケース固定構造10は、上述のような電子制御装置1のケース3を車両等の所定の固定領域に対して固定するものであり、ガイド部11と、可撓性係止爪部12と、固定金具13と、係止穴14とを備えている。なお、本実施形態のケース固定構造10は、ケース3を固定するために2つ設けられている。2つのケース固定構造の構成は同一であるため、そのうち1つについて以下に説明する。
【0017】
ガイド部11は、固定金具13をケース3に対してスライドして取り付ける際に当該固定金具13を案内すると共に、ケース3に対して固定される固定金具13を支持するものであり、ケース3の側面においてケース3と一体的に設けられている。
【0018】
図2は、下側ケース3aと上側ケース3bとが嵌合された状態におけるガイド部11及び可撓性係止爪部12とを含む拡大斜視図である。
この図に示すように、本実施形態においてガイド部11は、平行して2つ設けられており、各々が下側ケース3aと上側ケース3bとの嵌合方向に延在して設けられている。なお、各ガイド部11は、下側ケース3aと上側ケース3bとの両方に亘って設けられており、下側ケース3aと上側ケース3bとが取り外された場合には、2つに分割される。
【0019】
可撓性係止爪部12は、ガイド部11同士に挟まれた中央部にケース3と一体的に設けられており、ケース3の外側と内側とを結ぶ方向に湾曲するように板状部材から成り、ケース3の外側方向に突出する突起12aを有している。
図2に示すように、可撓性係止爪部12の周りにはスリット15が設けられており、当該スリット15によって、可撓性係止爪部12に対して撓むことによる変形が許容されている。
なお、図1及び図2に示すように、可撓性係止爪部12は、下側ケース3aに対して設けられている。また、図1に示すように、下側ケース3aと上側ケース3bとは各々が凹部16を有している。これらの凹部16は、下側ケース3aと上側ケース3bが嵌合された際に一体となる位置に設けられており、下側ケース3aと上側ケース3bが嵌合された際にはスリット15を形成する。つまり、本実施形態のケース固定構造10において、スリット15は、下側ケース3aと上側ケース3bとの間の隙間によって形成されている。
【0020】
突起12aは、固定金具13がケース3に対して正しい位置に配置された場合に係止穴14に係止されるものである。なお、当該突起12aは、上方からスライドしてケース3に対して取り付けられる固定金具13との干渉を避けるために、上方から下方に向けて徐々に突出量を増やすように形状設定されている。
【0021】
図3は、固定金具13の斜視図であり、(b)が(a)の裏面側を示している。この図に示すように、固定金具13は、ケース3と上述の固定領域とを連結するためのものであり、湾曲された板形状を有している。
この固定金具13は、ガイド部11によって案内及び支持されるスライド部13aと、固定金具13がスライドされる際に作業者によって把持されると共に上述の固定領域に固定される把持部13bと、固定金具13がスライドされる際に可撓性係止爪部12の突起12aが通過する溝部13cと、固定金具13の強度を向上する補強リブ13dとを有している。
【0022】
スライド部13aは、2つのガイド部11同士の離間距離よりも狭くかつ2つのガイド部11に両端が係止可能な幅とされ、その略中央部に係止穴14が設けられている。なお、スライド部13aは、頂部13a1が2つのガイド部11同士の離間距離よりも幅広に形成され、上方からガイド部11間に挿入し、頂部13a1がガイド部11の上面に当接することによって位置決めされる。そして、このようにスライド部13aが位置決めされた際には、係止穴14に可撓性係止爪部12の突起12aが入り込む。
【0023】
把持部13bは、湾曲領域Rを介してスライド部13aと接続されており、スライド部13aがガイド部11間に挿入される際に、ケース3の外側に向かって突出することとなる。なお、ケース固定構造10は、不図示のボルトやナット等からなる締結部材を有しており、当該締結部材によって固定金具13を固定領域に対して締結して固定している。
【0024】
溝部13cは、スライド部13aのケース3に対向配置される側の表面を凹ませることによって形成されている。
また、補強リブ13dは、上記溝部13cと反対側の表面を膨らませることによって形成されている。
そして、本実施形態のケース固定構造10においては、溝部13cと補強リブ13dとは表裏一体に形成されており、固定金具13の一部をプレス加工等によって変形させることによって、一度に形成可能とされている。
【0025】
このような構成を有する本実施形態のケース固定構造10では、図4に示すように固定金具13をガイド部11間にスライドして挿入することによりケース3に取り付け、この固定金具13を固定領域に締結等により固定することで、ケース3すなわち電子制御装置1を固定領域に固定する。
【0026】
ここで、本実施形態のケース固定構造10においては、突起12aを有すると共に周囲に設けられたスリット15によって撓むことによる変形が許容される可撓性係止爪部12と、固定金具13に設けられると共に可撓性係止爪部12の突起12aが係止される係止穴14とを備える。
つまり、本実施形態のケース固定構造10によれば、周囲に設けられたスリット15によって、撓みによる変形が許容された可撓性係止爪部12を有し、可撓性係止爪部12に固定金具13の係止穴14に係止される突起12aが備えられている。
このため、ガイド部11に沿わせて固定金具13をスライドした際に、固定金具13の表面が突起12aと干渉した場合であっても、可撓性係止爪部12が撓むことにより変形し、これによって突起12aを固定金具13の移動範囲から逃がすことが可能となる。
このような突起12aが固定金具13の移動範囲から逃げることにより、大きな力を加えてケース3及び固定金具13を変形させなくとも、突起12aを係止穴に係止して固定金具13をケース3に対して取り付けることが可能となる。
この結果、本実施形態のケース固定構造10によれば、固定金具13によって突起12aが削られることを防止し、固定金具13をケース3に対して取り付ける際に、削り屑が発生することを防止することが可能となる。
【0027】
また、本実施形態のケース固定構造10によれば、スリット15が下側ケース3aと上側ケース3bとの間の隙間によって形成されている。
このため、下側ケース3a及び上側ケース3bの少なくともいずれかに凹部16を設け、下側ケース3aと上側ケース3bとを嵌合させることによってスリット15を形成することができる。
凹部16を有する下側ケース3a及び上側ケース3bは、従来の凹部16を有していない下側ケース及び上側ケースを作製する際の型を多少変更するのみで作製することができる。一方、下側ケースあるいは上側ケースにスリットを設ける場合には、下側ケースあるいは上側ケースの作製の際に別途スライド金型を用いたり、後加工を行う必要があり、コストの増加を招く。
したがって、本実施形態のケース固定構造10によれば、低コストでケース3と固定領域との固定を行うことができる。
【0028】
また、本実施形態のケース固定構造10によれば、固定金具13が、ガイド部11に沿ってスライドしている最中に可撓性係止爪部12の突起12aが通過する溝部13cを有している。
このため、突起12aが溝部13cを通過している間は、突起12aと固定金具13とが干渉しないため、より確実に削り屑が発生することを防止することができる。
【0029】
また、本実施形態のケース固定構造10によれば、固定金具13が、作業者が把持可能な把持部13bを有し、当該把持部13bを形成するために湾曲された湾曲領域Rに補強リブ13dを備えている。
このため、固定金具13をガイド部11間においてスライドさせる作業が簡便となり、更には、固定金具13が変形することを抑止することができる。
【0030】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0031】
例えば、上記実施形態においては、ケース3が下側ケース3aと上側ケース3bとに分割可能とされ、下側ケース3aと上側ケース3bとの間の隙間によってスリット15が形成される構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、ケースが電子回路基板2の出し入れ口を除いて一体的に形成され、このケースに対してスリット及び可撓性係止爪部を設けるようにしても良い。
【0032】
また、上記実施形態においては、可撓性係止爪部12が下側ケース3aに一体的に設けられた構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、可撓性係止爪部を上側ケースに一体的に設け、下方から固定金具をガイド部間に挿入する構成を採用することもできる。
【0033】
また、上記実施形態においては、固定金具13において、溝部13cと補強リブ13dとが表裏一体で設けられている構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、固定金具13に対して、溝部13cのみ、あるいは、補強リブ13dのみを形成しても良い。
【符号の説明】
【0034】
10……ケース固定構造、11……ガイド部、12……可撓性係止爪部、12a……突起、13……固定金具、13a……スライド部、13b……把持部、13c……溝部、13d……補強リブ、14……係止穴、15……スリット、16……凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースに設けられたガイド部に沿わせてスライドすることにより当該ケースに取り付けられる固定金具を用いて前記ケースを固定領域に固定するケース固定構造であって、
突起を有し、前記ケースと一体的に設けられると共に周囲に設けられたスリットによって撓むことによる変形が許容される可撓性係止爪部と、
前記固定金具に設けられると共に前記可撓性係止爪部の前記突起が係止される係止穴と
を備えることを特徴とするケース固定構造。
【請求項2】
前記ケースが複数の分割パーツを組み立てることによって形成され、前記スリットが前記分割パーツ同士の間の隙間によって形成されていることを特徴とする請求項1記載のケース固定構造。
【請求項3】
前記固定金具は、前記ガイド部に沿ってスライドしている最中に前記可撓性係止爪部の前記突起が通過する溝部を有することを特徴とする請求項1または2記載のケース固定構造。
【請求項4】
前記固定金具は、
一部が湾曲することにより形成されると共に当該固定金具を前記ガイド部に沿わせてスライドする際に把持される把持部と、
前記把持部を形成するために湾曲された領域を補強する補強リブと
を備えることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のケース固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−62009(P2012−62009A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209504(P2010−209504)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【Fターム(参考)】