説明

ケーブル及びその製造方法

【課題】 安価な材料、及び安価な製造コストで製造可能であり、130℃の耐熱性を有するケーブル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のケーブル1は、導体2及びそれを覆う絶縁被覆層3からなるコア材4を内側シース層5及び外側シース層6で覆ってなるケーブルであって、絶縁被覆層3が架橋ポリエチレンからなり、内側シース層5がシラン架橋ポリエチレンからなり、外側シース層6が、ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタン、ポリエステルエラストマーと熱可塑性ポリウレタンの混合物、の何れかからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や電子機器等に好適に用いられる被覆電線の形態をなすケーブル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や電子機器等に使用されるケーブル(電線)は、ポリエチレン等のポリオレフィンやポリ塩化ビニル等の絶縁被覆材料を、押し出し成形等によって導体の周りに被覆して絶縁層を形成することで製造されている。
【0003】
このようなケーブルが高温環境下で使用される場合、例えば自動車におけるエンジンやブレーキディスク等からの放熱により熱源に曝される状態で使用される場合には、耐熱性が要求されることから、絶縁層に架橋処理が施されることが多い(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0004】
特許文献1に記載のケーブルは、絶縁電線の外周にポリウレタンエラストマーにポリジフェニルエーテル以外のハロゲン系難燃剤とカルボジイミド化合物とを含有させた耐熱難燃性ポリウレタンエラストマー組成物を被覆してなり、該被覆層が電離性放射線を照射されてなるものである。
【0005】
特許文献2に記載のケーブルは、導体の周囲に被覆された非架橋のポリオレフィン耐熱難燃性樹脂よりなる内側絶縁層と、シラン架橋ポリオレフィン樹脂からなる外側絶縁層とを備えたものである。
【0006】
【特許文献1】特開平6−212073号公報
【特許文献2】特開2004−235117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記の耐熱性を有するケーブルにおいて、特許文献1に記載のケーブルはポリウレタンエラストマーを放射線照射により架橋させた被覆層を有しているが、このような架橋ポリウレタンは架橋に要するエネルギーが大きく、架橋ポリウレタンを使用するとケーブルの製造コストが高くなってしまう。
また、特許文献2に記載のケーブルは、導体の周囲の被覆層が非架橋のポリオレフィン樹脂であるため、100℃相当の耐熱評価試験で合格となっている。
【0008】
そこで本発明は、安価な材料、及び安価な製造コストで製造可能であり、130℃の耐熱性を有するケーブル及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできる本発明のケーブルは、導体及びそれを覆う絶縁被覆層からなるコア材を内側シース層及び外側シース層で覆ってなるケーブルであって、前記絶縁被覆層が架橋ポリエチレンからなり、前記内側シース層がシラン架橋ポリエチレンからなり、前記外側シース層が、ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタン、ポリエステルエラストマーと熱可塑性ポリウレタンの混合物、の何れかからなる。
【0010】
上記課題を解決することのできる本発明のケーブルの製造方法は、導体及びそれを覆う絶縁被覆層からなるコア材の周りに内側シース層及び外側シース層を順に形成するケーブルの製造方法であって、ポリエチレンを前記導体に被覆して電子線架橋して前記絶縁被覆層とし、シラン系化合物を含有するポリエチレンを前記コア材に被覆してシラン架橋させて前記内側シース層とし、続いて、ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタン、ポリエステルエラストマーと熱可塑性ポリウレタンの混合物、の何れかを前記内側シース層に被覆して前記外側シース層とする方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内側シース層及び外側シース層のための電子線架橋設備を必要としない。そのため、大型で高価な電子線架橋設備を使用せず、安い設備コストにより130℃の耐熱性を有するケーブルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係るケーブル及びその製造方法の実施形態の例について図面を参照して説明する。
なお、本実施形態では、自動車の車輪速センサとECU(electronic control unit)間の信号伝送を担うABS(anti lock brake system)センサケーブルの形態を一例として説明する。なお、ABSセンサケーブルは、エンジンやブレーキディスク等からの放熱により熱源に曝される状態で使用されるため、130℃以上の耐熱性を有することが要求される。
【0013】
図1は本実施形態のケーブルの構成を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態のケーブル1は、導体2の周りを絶縁被覆層3で覆ったコア材4を2本束ね、その周りに内側シース層5及び外側シース層6を順に形成してなるものである。
導体2は、細径に延伸された銅または銅合金の線材が好適に用いられる。
【0014】
絶縁被覆層3は、導体2の周りにポリエチレンを押し出し被覆することで形成されており、押し出して硬化した後、電子線(電離性放射線)を照射することによって架橋処理されている。すなわち、絶縁被覆層3は、網目状の三次元構造を有する架橋ポリエチレンからなり、架橋処理によって耐熱性が付与されている。
【0015】
絶縁被覆層3として使用するポリエチレンとしては、より具体的には、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン(PE)を好適に例示できる。ポリエチレンは、燃焼時に有害なガスを大気中に放出せず、環境に優しい等の利点がある。
【0016】
また、絶縁被覆層3のポリエチレン中には、耐熱老化性を向上させるため、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−第三−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−第三−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系や、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、N−フェニル−N’−1,3−ジメチルブチル−p−フェニレンジアミン等のアミン系の酸化防止剤や、難燃性を付与するため、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等の難燃剤等の添加物が適量配合されていても良い。
【0017】
2本のコア材4は、互いにその長手方向で撚り合わされており、ケーブル1の屈曲に対する柔軟性を向上させている。なお、コア材4の1本の直径は1.0mm以上2.0mm以下に設定されているとよく、1.7mmが好ましい例である。
【0018】
内側シース層5は、ポリエチレンのベース樹脂にシラン系化合物を所定量添加したコンパウンドを2本のコア材4の周りに押し出し被覆することで形成されており、押し出して硬化した後、シラン架橋処理されている。すなわち、内側シース層5は、網目状の三次元構造を有するシラン架橋ポリエチレンからなり、シラン架橋処理によって耐熱性が付与されている。なお、内側シース層5を押し出し被覆する際に、そのコンパウンドでは押し出しの熱によってシラングラフト反応が生じる。そして、内側シース層5をシラン架橋処理する際には、所定温度の水分と接触させれば良い。
【0019】
内側シース層5のポリエチレンのベース樹脂としては、より具体的には、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレンを好適に例示できる。
【0020】
内側シース層5のポリエチレンのベース樹脂に添加するシラン系化合物としては、より具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基を有する有機シラン化合物等を好適に例示できる。
【0021】
外側シース層6は、ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタン、ポリエステルエラストマーと熱可塑性ポリウレタンの混合物、の何れかを内側シース層5の周りに押し出し被覆(すなわち、内側シース層5と外側シース層6はタンデム押し出し被覆)することで形成されている。
外側シース層6を構成するポリエステルエラストマーや熱可塑性ポリウレタンは、柔軟性と機械的強度を併せ持っており、自動車用ABSセンサケーブルに好適である。外側シース層6の直径は、3.0mm以上6.2mm以下に設定されているとよく、5.0mmが好ましい例である。
【0022】
外側シース層6に使用するポリエステルエラストマーとしては、より具体的には、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等の結晶性ハードセグメントと、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリオキシメチレングリコールからなる非晶性ソフトセグメント、もしくはポリカプロラクトングリコール等のポリエステルグリコールからなる非晶性ソフトセグメントとを有するブロック共重合体である。これらの共重合体のうち、非晶性ソフトセグメントがポリオキシメチレングリコールからなる熱可塑性ポリエステルエラストマーは、柔軟性に富むものが市販されており、ケーブルのシース材に好適である。
【0023】
外側シース層6に使用する熱可塑性ポリウレタンとしては、より具体的には、エーテル系ポリウレタンエラストマー等を好適に例示できる。
【0024】
以上説明した実施の形態のケーブル1によれば、絶縁被覆層3は、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等の安価な材料を架橋処理することによって130℃以上の耐熱性が付与されている。また、電子線照射による架橋処理により、耐摩耗性や耐水性も向上している。そのため、ケーブル1は自動車用ABSセンサケーブルとしての用途に好適である。また、被覆層の樹脂が安価であることと、高価な大型架橋設備を必要としないことから、製造コストを従来よりも抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るケーブルの構成の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 ケーブル
2 導体
3 絶縁被覆層
4 コア材
5 内側シース層
6 外側シース層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体及びそれを覆う絶縁被覆層からなるコア材を内側シース層及び外側シース層で覆ってなるケーブルであって、
前記絶縁被覆層が架橋ポリエチレンからなり、
前記内側シース層がシラン架橋ポリエチレンからなり、
前記外側シース層が、ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタン、ポリエステルエラストマーと熱可塑性ポリウレタンの混合物、の何れかからなるケーブル。
【請求項2】
導体及びそれを覆う絶縁被覆層からなるコア材の周りに内側シース層及び外側シース層を順に形成するケーブルの製造方法であって、
ポリエチレンを前記導体に被覆して電子線架橋して前記絶縁被覆層とし、
シラン系化合物を含有するポリエチレンを前記コア材に被覆してシラン架橋させて前記内側シース層とし、
続いて、ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタン、ポリエステルエラストマーと熱可塑性ポリウレタンの混合物、の何れかを前記内側シース層に被覆して前記外側シース層とするケーブルの製造方法。

【図1】
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