説明

ケーブル絶縁物の作製に有用な多相ポリマー組成物

優れた機械的特性及び電気的特性を有するケーブル絶縁層を、(A)ポリプロピレンマトリックス、及び(B)前記マトリックスの内部に分散し、かつ(i)80重量パーセント(重量%)より多くのプロピレン由来単位を含み、かつ(ii)1ミクロン(μm)未満の重量平均粒径を有するプロピレン共重合体を含む、可塑剤を含まない不均一ポリマー組成物を含む、複合材料から作製する。この絶縁層は、可塑剤(placticizer)を含まないために環境に優しいだけでなく、少なくとも90℃の温度でその物理的かつ操作上の統合性(integrity)も保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる、2008年11月19日出願の米国特許出願第61/116,019号に対する優先権を主張する。
連邦政府資金による研究又は開発に関する記述
なし
【0002】
本発明はケーブル絶縁に関する。一態様では、本発明は、優れた機械的特性及び電気的特性を有するケーブル絶縁物の作製に有用な熱可塑性不均一ポリマー組成物に関し、一方別の態様では、本発明は、ポリプロピレンマトリックス及び粒径分布が1μm未満の分散したプロピレン共重合体を含む異相組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
エチレンポリマーは、低電圧、中電圧、高電圧及び超高電圧ケーブル用の絶縁層として広く使用されている。低電圧ケーブル用途では、可塑剤を含有するポリビニルクロライド(PVC)化合物が絶縁材料として一般に使用されている。可塑剤をPVC化合物に添加することは、それがPVC化合物を絶縁材料として柔軟にするので重要である。しかし、環境の安全性という観点からすると、可塑剤をPVCに添加することは、環境保護において潜在的なリスクと見なされる。
【0004】
中電圧、高電圧及び超高電圧ケーブルでは、架橋ポリエチレンが、電力ケーブル用の絶縁層としての第1の選択(primary choice)である。有機過酸化物を該ポリエチレン化合物に添加し、次にこの化合物を一般に熱窒素環境(hot nitrogen environment)中、連続加硫(CV)管において高温で架橋させる。中電圧及び高電圧ケーブルの動作温度は、多くの工業規格の国際基準のように最大90℃に定格される。
【0005】
架橋ポリエチレンの一つの欠点は、それを再利用することが困難であることである。もう一つの欠点は、架橋ポリエチレンの内部の有機過酸化物が、ケーブル製造プロセスにいくつかの異なるレベルでマイナスの影響を与えることが公知であることである。一つには、有機過酸化物は押出の間にスコーチ、すなわち早期架橋を促進し、これが次には絶縁層の誘電特性を劣化させる。もう一つには、過酸化物により開始されるポリエチレンの架橋の時間が、ポリエチレンがCV管に滞留している時間に大幅に制限される。この時間が短すぎるか又は長すぎると、架橋のレベルは少なすぎるか又は多すぎることになる。さらにもう一つには、有機過酸化物は連続加硫の後に架橋ポリエチレンから脱気されなければならず、この脱気プロセスは遅く、ケーブル製造プロセスの隘路を構成し得る。
【0006】
結果的に、過酸化物を使用しない、90℃又はそれ以上の温度で動作することのできる中、高及び超高絶縁層を生じる新規な絶縁化合物を開発する進行中の必要性は、ケーブル製造業にとって依然として継続的な関心の対象である。これらの新規な熱可塑性絶縁化合物は、より少ないスコーチ及びより速い押出速度を示し、かつ、CV及び脱気工程を除去することが好ましい。
【0007】
国際公開第00/41187号には、不均一共重合体中のエラストマー相が、不均一共重合体の総重量に対して少なくとも45重量%であり、かつ、該不均一共重合体が、ポリエチレン配列に由来する結晶化度を本質的に有さないことを特徴とする、α−オレフィンと共重合したエチレン系エラストマー相及びプロピレン系熱可塑性相を含む不均一共重合体を含む非架橋ポリマーに基づく絶縁化合物が開示される。
【0008】
欧州特許出願第1619217A1号には、ポリプロピレンマトリックス及び1μm未満の重量平均粒径を有する分散プロピレン共重合体を含む異相ポリマー組成物を含むケーブル用絶縁層が開示されている。ポリプロピレンマトリックス中のコモノマー含量は、0.5〜10重量パーセント(重量%)である。分散ポリプロピレン共重合体中のコモノマーは、1以上のエチレン及びC4−8α−オレフィンであってよい。分散ポリプロピレン共重合体中のコモノマー含量は、30〜70重量%であり、分散ポリプロピレン共重合体は、好ましくは実質的に非晶質である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第0041187号公報
【特許文献2】欧州特許出願第1619217A1号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態では、本発明は、優れた機械的特性及び電気的特性を有するケーブル絶縁層であり、この絶縁層は、可塑剤を含まない、(A)ポリプロピレンマトリックス、及び(B)マトリックスの内部に分散した、(1)80重量パーセント(重量%)より多くのプロピレン由来単位を含み、かつ(2)1ミクロン(μm)未満の重量平均粒径を有する、プロピレン共重合体を含む、不均一ポリマー組成物を含む複合材料から製造される。この絶縁層は、可塑剤(placticizer)を含まないために環境に優しいだけでなく、少なくとも90℃の温度でその物理的かつ操作上の統合性(integrity)も保持する。これは、高密度ポリエチレン(HDPE)、PVC及び架橋低密度ポリエチレンと比較して、高温下で複合材料により示される比較的高い弾性率による。さらに、絶縁層は魅力的な機械的性質、例えば、衝撃強さと曲げ弾性率との適切なバランスを有する。
【0011】
絶縁層は、その他の材料、例えばカーボンブラックを含んでよいが、絶縁層は少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%の異相ポリマー組成物を含むことが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
全ての元素周期律表への参照は、2003年にCRC Press社が出版し著作権を有する元素周期律表をさす。また、1又は複数の族へのあらゆる参照は、族の番号付けにIUPAC形を使用するこの元素周期表において反映される1又は複数の族をさすものとする。それとは反対の記述のない限り、文脈から暗示されない限り、又は当分野で慣用されていない限り、全ての部及び百分率は重量に基づき、全ての試験法は本開示の出願日時点現在である。米国特許実務の目的上、あらゆる参照特許、特許出願又は公報の内容は、特に、合成技法、定義(本開示において特に記載される任意の定義と矛盾のない程度まで)、及び当分野の一般知識の開示に関して、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる(又はその同等の米国特許が参照によりそのように組み込まれる)。
【0013】
用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する」及びそれらの派生語は、その同じものが具体的に開示されていようといまいと、任意の追加の成分、工程又は手順の存在を排除することを意図するものではない。疑いを避けるため、用語「含む(comprising)」の使用によって特許請求される全ての組成物には、それとは反対の記述のない限り、任意の追加の添加剤、アジュバント、又は化合物(ポリマーであってもなくても)が含まれてよい。その一方、用語「から本質的になる」は、実現可能性に絶対必要ではない成分、工程又は手順を除いて、あらゆるその他の成分、工程又は手順を後続の説明の範囲から除外する。用語「からなる」は、具体的に説明又は列挙されないあらゆる成分、工程又は手順を除外する。用語「又は」は、特に明記されない限り、列挙された員を個別に参照し、さらに任意の組合せで参照する。
【0014】
特に具体的に指示されない限り、化学物質に関して用いられるように、単数形には、全ての異性体が含まれ、その逆も同じである(例えば、「ヘキサン」にはヘキサンの全ての異性体が個別に又は集合的に含まれる)。用語「化合物」及び「複合体」は、有機化合物、無機化合物及び有機金属化合物をさすために同義的に使用される。用語「原子」とは、イオン状態に関わらず、つまりそれが電荷を有するか又は部分電荷を有するかあるいは別の原子に結合しているかに関わらず、元素の最小構成要素をさす。用語「非晶質」とは、示差走査熱量測定(DSC)又は同等技法で測定される結晶融点を欠くポリマーをさす。
【0015】
特に断りのない限り、本開示中の数値範囲は近似値であり、よって数値範囲にはこの範囲外の値も含まれ得る。数値範囲には、任意の下方値とそれより高い任意の値との間に少なくとも2単位の分離があるという条件で、下方値及び上方値を含む下方値及び上方値の全ての値が1単位の増分で含まれる。一例として、組成特性、物理的特性又はその他の特性、例えば、分子量、粘度、メルトインデックスなどが100〜1,000である場合、全ての個々の値、例えば100、101、102など、及び下位範囲、例えば100〜144、155〜170、197〜200などは明示的に列挙されることが意図される。1未満の値か又は1より大きな端数を含む値(例えば、1.1、1.5など)を含む範囲に関して、1単位は、必要に応じて0.0001、0.001、0.01又は0.1であると見なされる。10未満の1桁の数字を含む範囲(例えば、1〜5)に関して、1単位は、一般に0.1と見なされる。これらは具体的に意図されるもののほんの例であり、列挙される最低値と最高値との間の数値のあらゆる可能性のある組合せが、本開示において明示的に述べられていると見なされる。数値範囲は、数ある中でも、分散相の粒径分布、マトリックス及び分散ポリマーの両方のコモノマー含量、並びに様々な温度及びその他の加工範囲について本開示内に記載される。
【0016】
「ケーブル」、「電力ケーブル」、及び同種の用語は、保護外被又は外装の内側の少なくとも1つのワイヤ又は光ファイバーを意味する。「外装」は、総称であり、ケーブルに関して使用される時、それには絶縁被覆若しくは層、保護外被及び同類のものが含まれる。一般に、ケーブルは、共通の保護外被の中の相互に束ねられた2又はそれ以上のワイヤ又は光ファイバーである。外被の内部の個々のワイヤ又はファイバーは裸であっても、覆われていても、又は絶縁されていてもよい。コンビネーションケーブルは、電線と光ファイバーとの両方を含むことができる。ケーブルを、低電圧、中電圧、高電圧及び超高電圧用途に設計することができる。超高圧ケーブルとは、161又はそれ以上のキロボルト(kV)を運ぶように定格されたケーブルを意味する。高電圧ケーブルとは、36kV以上(≧)かつ160kV以下(≦)の電圧を運ぶように定格されたケーブルを意味する。中電圧ケーブルとは、6以上(≧)36kV未満(<)の電圧を運ぶように定格されたケーブルを意味する。低電圧ケーブルとは、6未満(<)の電圧を運ぶように定格されたケーブルを意味する。典型的なケーブル設計は、米国特許第5,246,783号、同第6,496,629号及び同第6,714,707号に説明されている。
【0017】
「ポリマー」は、同じ種類であるか又は異なる種類であるかに関わらず、モノマーを重合することにより調製されたポリマー化合物を意味する。よって、総称のポリマーは、通常1種類のモノマーだけから調製されたポリマーをさすために用いられる、用語ホモポリマー、及び下に定義される用語インターポリマーを包含する。また、それはインターポリマーの全ての形態、例えば、ランダム、ブロック、均一、不均一なども包含する。用語「エチレン/α−オレフィンポリマー」及び「プロピレン/α−オレフィンポリマー」は、下に説明されるインターポリマーを示す。
【0018】
「インターポリマー」及び「共重合体」は、少なくとも2つの異なる種類のモノマーの重合により調製されたポリマーを意味する。これらの総称には、古典的な共重合体、すなわち2つの異なる種類のモノマーから調製されたポリマーと、2より多くの異なる種類のモノマーから調製されたポリマー、例えば、ターポリマー、テトラポリマーなどの両方が含まれる。
【0019】
「プロピレンポリマー」、「プロピレン共重合体」、「ポリプロピレン」及び同様の用語は、プロピレン由来単位を含有するポリマーを意味する。プロピレンポリマーは、一般に少なくとも50モルパーセント(モル%)のプロピレン由来単位を含む。
【0020】
「ブレンド」、「ポリマーブレンド」及び同様の用語は、2又はそれ以上のポリマーのブレンドを意味する。そのようなブレンドは、混和性であってもなくてもよい。そのようなブレンドは、相分離していてもしていなくてもよい。そのようなブレンドは、透過電子分光法、光散乱、X線散乱、及び当分野で公知の任意のその他の方法から決定される1以上のドメイン配置を含んでいても含んでいなくてもよい。
【0021】
「組成物」及び同様の用語は、2又はそれ以上の成分の混合物又はブレンドを意味する。例えば、本発明の熱可塑性絶縁化合物を調製する状況において、組成物は、少なくとも1種類のマトリックスプロピレンポリマー及び少なくとも1種類のプロピレン分散ポリマーを含み得る。ケーブル外装又はその他の製造品を作製する状況において、組成物には、本発明の熱可塑性絶縁化合物、過酸化物及び任意の所望の添加剤、例えば滑沢剤、充填剤、酸化防止剤及び同類のものなどが含まれてよい。
【0022】
「周囲条件」及び同様の用語は、23℃の温度及び気圧を意味する。
【0023】
「可塑剤」及び同様の用語は、添加されるプラスチックの可塑性を増大させる添加剤を意味する。可塑剤は、その柔軟性を増した最終プラスチック製品を軟化させる。可塑剤は、一般に、ポリビニルクロライド(PVC)のような硬質プラスチックに所望の柔軟性及び耐久性を与えるフタラートである。それらは多くの場合、ポリカルボン酸と中程度の鎖長の線状又は分枝状脂肪族アルコールとのエステルに基づく。可塑剤は、可塑剤を隔てるポリマーの鎖の中にそれら自身を埋め込むこと(プラスチックの「空隙率」を増加させること)により作用し、このようにしてプラスチックのガラス転移(Tg)温度を大きく低下させてプラスチックをより軟質にする。プラスチック、例えばPVCなどに対して、多くの可塑剤を添加するほど、その低温柔軟温度は低くなる。このことは、その結果としてその強度及び硬度は低下するが、それがより柔軟になることを意味する。一部の可塑剤は蒸発し、密閉空間で濃縮する傾向がある。
【0024】
マトリックスポリプロピレン
組成物のマトリックス相で使用されるポリプロピレンは、ホモポリマーか又は共重合体のいずれかであってよい。ホモポリマーにより、ポリプロピレンが少なくとも99重量パーセント、好ましくは少なくとも99.5重量パーセントのプロピレン由来単位を含むことが意味される。好ましくは、マトリックスポリプロピレンは、共重合体、より好ましくはランダム共重合体であり、1〜10重量パーセント、好ましくは1〜8重量パーセント、より好ましくは2〜6重量パーセントのエチレン及び/又はC4−8α−オレフィンに由来する単位と、残りのプロピレンに由来する共重合体単位を含む。好ましいC4−8α−オレフィンには、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル(mthyl)−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン及び1−オクテンが挙げられる。本発明の状況において、ランダム共重合体は、無作為な長さの2つのモノマー単位の交互配列からなる共重合体である(単一分子を含む)。好ましい一つのランダム共重合体は、プロピレン及びエチレンに由来する単位からなる。
【0025】
コモノマーの組込みは、ポリプロピレンマトリックスの融点及び結晶化度の両方を低下させ、後者はDSC(ISO 3146)により測定される融解エンタルピーの低下に効力を生じる。エチレンがコモノマーである場合、かかるポリマーの融点は、好ましくは120〜162℃の範囲内、より好ましくは130〜160℃の範囲内であり、一方融解エンタルピーは、好ましくは40〜95、より好ましくは60〜90J/gの範囲内である。
【0026】
最適な加工性と必要な機械的性質を組み合わせるため、コモノマーの組込みは、一部のポリプロピレンが別の部分よりも多くのコモノマーを含むような方法で制御され得る。本特許の目的への適合性を確保するため、コモノマー含量におけるポリマー間の差は、全ての部のポリマーの完全な混和性をそれでも許容するレベルを超えてはならない。適切なポリプロピレンは、例えば、国際公開第03/002652号(プロピレンランダム共重合体及びその製造のための方法)に記載されている。
【0027】
分散プロピレン共重合体
分散プロピレン共重合体、すなわちポリプロピレンマトリックスの中に含まれるプロピレン共重合体は、実質的に非晶質である、すなわち、それは、示差走査熱量測定(DSC)により測定される融点及びエンタルピーを欠くことにより表されるように、明確な秩序又は結晶化度を有さない。実質的に非晶質とは、プロピレン共重合体が、1グラム当たり10ジュール(J/g)の融解エンタルピーに相当するレベルよりも低い残留結晶化度を有することを意味する。
【0028】
ポリプロピレンマトリックス中に分散したプロピレン共重合体は、エチレン及びC4−8α−オレフィンからなる群から選択される少なくとも1種類のコモノマーを含む。好ましいC4−8α−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン及び1−オクテンが挙げられる。一つの好ましい実質的に非晶質のプロピレン共重合体は、80重量%より多いエチレン単位及び80重量%以下のプロピレン単位を含むエチレン−プロピレンゴム(EPR)である。所望により、この共重合体はジエン単位も含んでよく、そのような共重合体は、「エチレン−プロピレンジエンゴム」(EPDM)として公知である。EPRは、ポリプロピレンの重合の一段階で直接的に製造されるか、又はその後の溶融混合若しくはブレンディング段階で別々の成分として添加されることの両方ができるが、EPDMは、その後の溶融混合若しくはブレンディング段階で添加されることだけしかできない。一般に総コモノマー含量、例えば、プロピレン共重合体のエチレン及び/又はC4−8α−オレフィン及び/又はジエンは、1重量%より多く、20重量%未満、より一般に15重量%未満である。
【0029】
本発明にとって重要なことは、プロピレン共重合体の粒径が、1ミクロン(μm)未満、好ましくは0.9ミクロン(μm)未満、より好ましくは0.8ミクロン(μm)未満であることである。この粒径は、マトリックス中の良好な粒子分布を可能にし、かつ、絶縁層の衝撃強さに良い影響を及ぼす。さらに、平均粒径が低いことによって、これらの粒子により始まるひび割れの危険性が低下すると同時に、既に形成されたひび割れ又は亀裂を粒子が止める可能性を向上させる。ポリプロピレンマトリックス中のプロピレン共重合体の粒径分布は、任意の適切な顕微鏡法により決定することができる。かかる方法の例としては、原子間力顕微鏡(AFM)、走査電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)が挙げられる。必要な画像の解像度及び透明度を実現するために、試験片のエッチング及び/又は染色が通常必要である。粒径分布の決定及び重量平均粒径の計算のための例は、文献中において得られる。RuOで染色された試験片でのSEMを伴う一つの適切な方法は、Pot et al. J. Appl. Polym. Sci. 78 (2000) 1152-61に記載されている。このSEMを、本発明において重量平均粒径を決定するために使用した。
【0030】
異相組成物
本発明の異相ポリマー組成物は、そのマトリックスよりも構造秩序の低いプロピレン共重合体が分散されているポリプロピレンマトリックスを含む。
【0031】
絶縁層で特性の良好なバランスを実現するためには、プロピレンマトリックスの量と、マトリックス中に分散したプロピレン共重合体の量が重要である。マトリックスは絶縁層に剛性及び引張強さをもたらし、プロピレン共重合体は衝撃強さを向上させる。従って、組成物は、一般に50〜90重量%、より一般に55〜85重量%、さらにより一般に60〜80重量%のポリプロピレンマトリックスを含む。プロピレン共重合体の量及び粒径は、組成物の衝撃強さに好ましい影響を及ぼすので、一般に10〜50重量%、より一般に15〜45重量%、さらにより一般に20〜40重量%の分散したプロピレン共重合体をプロピレンマトリックス中に含む。
【0032】
複合材料
複合材料、すなわち絶縁層を製造する材料は、熱可塑性組成物である、すなわち、温度を上昇させることにより繰り返し融解し、温度を低下させることにより凝固することができる。熱可塑性材料は、それを加熱した場合の変化が化学的であるよりもむしろ実質的に物理的である材料である。それらは主として二次元若しくは一次元分子構造である。好ましくは、複合材料は、熱可塑性ポリオレフィン組成物である。
【0033】
複合材料は、一般に、ISO 1133に従って、230℃にて、かつ2.16キログラム(kg)の負荷のもとで測定して、0.5〜50グラム/10分(g/10分)、より一般に0.55〜20g/10分、さらにより一般に0.5〜8g/10分のメルトフローレート(MFR)を有する。MFRは、規定温度及び圧力条件下、規定のダイを通じて排出されるポリマーの10分当たりのg数で測定され、かつ、ポリマーの粘度の尺度であり、それは次には各々の種類のポリマーに関して、主にその分子量に(かつその分枝の程度に)影響される。長い分子は、短い分子よりも低い流動傾向を材料にもたらす。分子量の増加は、MFR値の低下を意味する。
【0034】
複合材料の密度は、一般に0.89〜0.95グラム/立方センチメートル(g/cm)の範囲内、より一般に0.90〜0.93グラム/立方センチメートル(g/cm)の範囲内である。密度は、ISO 11883に従って測定される。密度は、絶縁層の特性、例えば衝撃強さ及び収縮特性に影響を及ぼす。その上、複合材料中の可能性のある添加剤の最適な分散は、密度の選択に一部分依存する。この理由から、これらの特性のバランスが望ましい。
【0035】
異相ポリマー組成物のほかに、複合材料はポリエチレンをさらに含んでよい。ポリエチレンの添加によって、複合材料及び複合材料から製造された絶縁層の機械的性質を、環境に関する状況にさらに適合させることができる。例えば、衝撃強さ、軟度又は応力白化(ブラッシング)に対する耐性のさらなる改良が必要である場合、これは適切なポリエチレンを組み込むことにより実現することができる。添加されたポリエチレンの弾性率は、プラスの影響を確保するためには、ポリプロピレンマトリックスの弾性率よりも低くあるべきである。好ましくは、ポリエチレンの密度は、0.930g/cm以下であり、それには、高圧低密度ポリエチレン(HPLDPE)と直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)との両方が含まれる。ケーブル絶縁組成物には、重合プロセスにおける触媒の不在に起因するHPLDPEの低い灰分がさらなる利点であり得る。
【0036】
さらに、上に定義されるポリエチレンを、異相ポリマー組成物を含む複合材料に添加することにより、シャルピー衝撃試験により測定される値が高いことにより分かるように、複合材料から製造される物品の衝撃強さが改善される。この試験は、所望により切り欠きのある試験片を2本の支持材の間に水平の位置に置き、公知の強度の打撃を加えることからなる耐衝撃性の破壊試験であり、その打撃は通常試験片を破壊する。この破壊プロセスにおけるエネルギーの取り込み(減衰)を衝撃強さの尺度として記録する。
【0037】
絶縁組成物を修正するために使用される好ましいポリエチレンの密度は、0.910〜0.930g/cmである。低密度ポリエチレン(LDPE)において、結晶化度及び密度の結果の低下は、ポリマー分子のランダムな分枝構造によって生じるが、同様の効果を実現するために、LLDPE)高次オレフィン、例えば、コモノマーとしての1−ブテン、1−ヘキセン又は1−オクテンが使用される。結果として得られる材料は比較的軟質で柔軟かつ強靭であって、中熱に耐えるであろう。
【0038】
複合材料中に存在する場合、ポリエチレンは、複合材料の総重量に基づいて、0より大きく50重量%以下、一般に10〜40重量%、さらにより一般に20〜30重量%の量で存在する。その上、ポリエチレンを複合材料に組み込む場合、一般に少なくとも50重量%の異相組成物も複合材料中に存在する。より一般に、異相組成物は、少なくとも60重量%、さらにより一般に少なくとも70重量%、さらにより一般に少なくとも80重量%、さらにより一般に少なくとも90重量%の量で存在する。
【0039】
複合材料からの物品の製造のためのプロセス
本発明はまた、複合材料から物品、例えば、ケーブル絶縁材を生産するためのプロセスを含む。このプロセスは、(1)1以上のスラリー反応器中で、所望により1以上の気相反応器中でポリプロピレンマトリックスを生産する工程、それに続いて(2)気相中でプロピレン共重合体を生産する工程、及び(3)所望により、反応器系においてポリエチレンブレンディング又はエチレンの現場重合を加える工程を含む。添加剤は、任意の種類のブレンディング又は混合操作により異相ポリマー組成物に添加することができる。
【0040】
スラリー相重合は、75℃より低い温度、好ましくは60〜65℃の温度、及び60〜90バールの間で変動する圧力、好ましくは30〜70バールの圧力で実行されてよい。この重合は、20〜90重量%、好ましくは40〜80重量%のポリマーがスラリー反応器中で重合されるような条件下で実行されることが好ましい。滞留時間は、一般に15〜20分の間である。
【0041】
好ましくは、ループ反応器がスラリー反応器として使用されるが、その他の反応器の種類、例えば槽反応器も使用してよい。別の実施形態によれば、スラリー相は、2つのスラリー反応器、好ましくは、必ずしもそうではないが、2つのループ反応器で実行される。ループ反応器は、コモノマー分布の比較的簡単な制御を可能にする。1又は複数の気相反応器中で共重合を継続する場合、コモノマー含量をさらに増加させてもよい。よって、マトリックスポリマーは、異なる反応器中のコモノマー比を調節することにより、要求通りに製造することができる。
【0042】
重合は、任意の標準的なオレフィン重合触媒を用いて実現してよく、これらは当業者に周知である。好ましい触媒系は、通常の立体特異性チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒、拘束幾何触媒及びその他の有機金属若しくは配位触媒を含む。さらに、本発明は、上に記載される本発明の絶縁層の、全ての定格電圧のケーブル、すなわち低電圧、中電圧、高電圧及び超高電圧ケーブルのための使用を含む。
【0043】
本発明はまた、少なくとも1つの導体及び少なくとも1つの絶縁層を含む新規なケーブルに関する。低電圧用途には、ケーブル系は好ましくは(i)導体及び絶縁層、又は(ii)導体、絶縁層及びさらなる外被層、又は(iii)1つの導体、半導電層及び絶縁層を含む。中及び高電圧用途には、それは好ましくは、絶縁層の中の、内側の半導電層の中の、導体、及び、所望によりさらなる外被層に覆われている、外側の半導電層を含む。半導電層は、一般に、十分な量の導電性固体充填剤、好ましくはカーボンブラックを含有する熱可塑性ポリオレフィン組成物を含む。これらの層のうちの少なくとも1つは、上に述べた本発明の層である。絶縁層、より好ましくは本発明の絶縁層は、固体充填剤、より好ましくはカーボンブラックを含む。様々なその他の添加剤もまた、絶縁層に組み込んでよい。さらに、その他のケーブル層、例えば、半導電層及び/又は外被層は、上に定義される複合材料を含んでよい。最終のケーブルは、単一かつ共通の絶縁層と組み合わせた、複数の導体若しくはコア(通常1、2、3又は4個)を含み得る。
【0044】
本発明の層を含むケーブルは、一般に非常に低収縮であり、好ましくはAEIC CS5−94に従って測定して1.25%より低い、より好ましくは1.15%より低い、さらにより好ましくは1.05%より低い、最も好ましくは1.02%より低い。さらに、IEC 60840(1999)に従って測定されるたるみは、一般に15%より低い、より好ましくは8%より低い、さらにより好ましくは6.5%より低い、最も好ましくは5.5%より低い。ケーブルは両方の特性、すなわち収縮及びたるみを同時に示すことが好ましい。
【0045】
本発明はまた、1又は複数の絶縁層を1又は複数の導体の上に押出し、それに続いて1分当たり300〜400メートル(m/分)までのライン速度で熱可塑性ポリマー成分を固化することによる、上記のケーブルを生産するためのプロセスも含む。固化は水浴中で行われることが好ましい。
【0046】
本発明を前述の具体的な実施形態を通じて特定の詳細で説明したが、この詳細は説明を主な目的とする。多くの変形形態及び修正形態が、以下の特許請求の範囲に記載される本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、当業者によってなされ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料を含むケーブルのための絶縁層であって、前記複合材料が異相ポリマー組成物を含み、前記組成物が(A)ポリプロピレンマトリックス、及び(B)前記マトリックスの内部に分散したプロピレン共重合体を含み、前記プロピレン共重合体が(1)80重量パーセント(重量%)より多くのプロピレン由来単位を含み、かつ(2)1ミクロン(μm)未満の重量平均粒径を有する、絶縁層。
【請求項2】
前記複合材料が、前記層の少なくとも90重量%を含む、請求項1に記載の絶縁層。
【請求項3】
前記複合材料の、ISO 1133に従って測定されるメルトフローレート(MFR)が、10分当たり0.5〜50グラム(g/10分)である、請求項2に記載の絶縁層。
【請求項4】
前記複合材料の密度が、1立方センチメートル当たり0.89〜0.95グラム(g/cm)である、請求項3に記載の絶縁層。
【請求項5】
前記ポリプロピレンマトリックスが、前記異相ポリマー組成物の50〜90重量%を含む、請求項4に記載の絶縁層。
【請求項6】
前記ポリプロピレンマトリックスが、ランダムプロピレン共重合体を含む、請求項5に記載の絶縁層。
【請求項7】
前記ランダムプロピレン共重合体が、エチレン及びC4−8α−オレフィンの少なくとも1つのコモノマーに由来する単位を含む、請求項6に記載の絶縁層。
【請求項8】
前記複合材料が、ポリエチレンをさらに含む、請求項7に記載の絶縁層。
【請求項9】
可塑剤を含まない、請求項1に記載の絶縁層。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の少なくとも1つの導体及び少なくとも1つの絶縁層を含むケーブル。

【公表番号】特表2012−509363(P2012−509363A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536391(P2011−536391)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2009/063250
【国際公開番号】WO2010/059425
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(591123001)ユニオン カーバイド ケミカルズ アンド プラスティックス テクノロジー エルエルシー (85)
【Fターム(参考)】