説明

ケーブル輸送設備のブレーキシステム又は補助起動システムの試験方法

【課題】 ケーブルが主モータ手段と協動する滑車により駆動される、少なくとも1つの車両を駆動するケーブル輸送設備のブレーキシステム及び補助起動システムのうちの少なくとも1つを試験することを目的とする。
【解決手段】 試験方法は一定トルクCを作用させる主モータ手段により負荷のない設備を駆動する工程と、ブレーキシステム及び起動システムを同時に駆動する工程と、速度範囲曲線Vtestを記録する工程とを含む。これらの工程はプログラムが起動された場合にソフトウェアにより実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はケーブル輸送設備のブレーキ又は起動のための少なくとも1つのシステムを試験する方法に関する。本明細書全体にわたって、用語「試験」はシステムの状態の診断又は確認を示す。
【0002】
本発明は更にソフトウェアに関する。ソフトウェアは実行されると方法の工程を制御するためのオートマトンの記憶装置に直接ダウンロードされる。
【背景技術】
【0003】
安全性の理由により、ケーブル輸送設備のブレーキシステム及び補助起動装置のうち少なくともいずれか一方は周期的に試験される必要がある。使用時の条件に最も近い条件下において試験を実施するために、ブレーキは通常設備に負荷がかかっている場合に試験される。
【0004】
この目的のために、ブレーキ手段及び補助起動装置のうち少なくともいずれか一方の試験作業を実施するに先立って、各車両に負荷がかかった搬送設備を設けることが公知である。従って、負荷により、負荷のかかった設備の通常の駆動作業をシミュレートすることができる。しかしながら、重りを設置することは多くの人手による作業を要するシミュレーション作業であり、設備の試験の時間及び費用が高まるものとなる。
【0005】
特許文献1に開示される方法において、第1の工程においてのみ設備に実際の負荷を配置し、ブレーキシステムや補助的起動システムの試験時にモータ手段により提供される瞬間トルクを作用させることによって負荷による影響をシミュレートすることにより上記課題を克服することができる。
【0006】
ブレーキシステムや補助起動システムを試験するこの方法は、後述する工程を含む。
a)設備の安定した速度から、システムが稼働状態にある場合に車両の速度の変化を示す曲線が決定される。主モータは駆動されず、車両は重りを備える。
【0007】
b)駆動した滑車に伝達される瞬間トルクの値が、工程a)において車両に配された負荷から生じる慣性及び抵抗トルクのうち少なくともいずれか一方の、駆動した滑車に作用される影響を再現するために決定される。
【0008】
c)システムを試験するために、システムは工程a)における設備の速度と同じ安定した速度にて稼働状態に駆動される。車両から負荷が取り除かれると、主モータが同時に駆動され、各瞬間において工程b)にて予め得た値に等しいトルクを得る。
【0009】
従って、システムの動作を確認するために周期的に実施される工程c)において、負荷により生じる慣性及び抵抗トルクのうち少なくともいずれか一方による影響がシミュレートされる。
【0010】
しかしながらこの方法は可変トルクによる試験を強いる。
従ってこの方法は、主モータが上述した工程b)において必要とされるトルクを得られるように、主モータの変速装置の回転を上げることを要する。従って、主モータにより作用されるトルクが通常使用の限界を超える場合があり、モータ及び変速装置のうち少なくともいずれか一方の損傷を引き起こすことがあり得る。
【0011】
付加的にこの試験方法は所定のブレーキシステムを完全に試験するようには予定されていない。より詳細にはラインの減速の機能として作動力調整により制御されるブレーキシステムを完全に試験するようには予定されていない。実際のところ、従来技術による方法において、システムを試験するに先立って調整を一時停止する必要がある。この理由として、調整によりブレーキシステムの僅かな異常が補正可能となり、検出できなくなることが挙げられる。
【0012】
付加的に、ケーブル輸送設備において2つのブレーキと1つの制御システムを有するブレーキユニットが公知である。制御システムは、−設定した第1の減速の曲線によりケーブルの速度をサーボ機構により制御するように調整される、第1のブレーキへの第1の制御信号と、−設定した第2の減速の曲線によりケーブルの速度をサーボ機構により制御するように調整される、第2のブレーキへの第2の制御信号とを送信する。
【0013】
第2の曲線の瞬間値は各瞬間において第1の設定した曲線の瞬間値より大きい。第1のブレーキの故障時に第2のブレーキが駆動され、第1のシステムの故障により生じるブレーキ機能の欠如を補完し、これによりブレーキ時間の増加を制限する。
【0014】
このタイプのブレーキユニットは特許文献2により詳細に開示される。
従来技術による試験方法ではこれらのブレーキユニットの試験ができない。特に、従来技術による方法では第1のシステムにより作用される制動力が十分でない場合に、第2のブレーキシステムの駆動の試験を能率よくできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】仏国特許第2890929号明細書
【特許文献2】欧州特許第1884432号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、負荷を利用して機械的設備に処理を加えることなく周期的に完全な試験を実施することができる、ブレーキシステム又は補助起動装置の試験方法を提供することによりこれらの課題を解決することを目的とする。
【0017】
付加的に本発明は上述したもののタイプのブレーキユニットの動作を試験することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的のために、本発明の第1の態様において、ケーブルが主モータ手段と協動する滑車により駆動される、少なくとも1つの車両を駆動するケーブル輸送設備のブレーキシステム又は補助起動システムの少なくとも1つのシステムの試験方法が開示される。試験方法は設備の安定した速度からシステムを試験する少なくとも1つの工程を含む。
【0019】
一定トルクCを作用させる主モータ手段により負荷のない設備が駆動される。
ブレーキシステム及び補助モータが同時に駆動され、速度範囲曲線Vtestが記録される。
【0020】
従って本発明による方法は、モータ手段により作用されるトルクが周知で限定されるため、機械的設備を処理する。
付加的に、調整により、或いは調整することなく、システム毎に、或いは複数のシステムを同時に、いかなる稼動モードにおいても様々なタイプのブレーキシステムを試験することができる。
【0021】
方法により二つのブレーキを備えるブレーキユニットを試験することができる。各ブレーキや第1の減速曲線によりケーブルの速度をサーボ機構により制御するために調整される第1の信号と、第2の減速曲線によりケーブルの速度をサーボ機構により制御するために調整される第2の信号によりそれぞれ制御される。第2の減速曲線の瞬間値は第1の減速曲線の瞬間値と比較して各瞬間において高い。実際のところこの場合において、よく選択された一定トルクを作用させることにより、各ブレーキの駆動を確認することができるようになる。特に第2のブレーキの駆動と、ブレーキの両者の同時駆動を確認することができるようになる。
【0022】
試験方法は基準データの取得の前処理の工程を含むことが好ましい。前処理の工程は、システムを調整する工程と、設備の安定した速度から負荷のない設備を前記一定トルクCを作用させる主モータ手段によって駆動する工程と、ブレーキシステム及び起動システムを同時に駆動する工程と、少なくとも1つの速度範囲曲線Vを記録する工程とを含む。
【0023】
試験工程は速度範囲曲線Vtestを速度範囲曲線Vrefと比較する工程を含む。
従って曲線Vtestは、システムが調整状態にある場合に描かれた基準曲線と比較される。これにより試験されるシステムの調整値を見積もることが可能となる。
【0024】
基準データの取得の前処理の工程はトルクCを決定する工程を含むことが好ましい。決定工程は、主モータ手段が停止した状態において、駆動力や抵抗力を付与する実際の負荷のかかった設備に安定した速度からブレーキシステムを駆動する工程と、設備の停止時間Taを計測する工程と、停止時間Ta’を取得すべく主モータ手段により作用される一定トルクCを計測する工程とを含む。システムが負荷のない設備にて安定した速度から駆動された場合に一定トルクCはTaより大きくなり、負荷により抵抗力が作用される場合に一定トルクCはTaより小さくなる。
【0025】
従って、モータ手段により作用される一定トルクCは、実際の負荷により生じる慣性及び抵抗トルクのうち少なくともいずれか一方の作用力より大きな駆動力や抵抗力をもたらす。従って、実際の負荷より大きなトルクを生じさせる圧力が作用される場合において、試験されるシステムが正しく動作していると検出された場合には、もっと強い理由から設備が実際の負荷のかかった場合にブレーキシステムが正しく動作しているものと推測される。
【0026】
基準データの取得の前処理の工程はトルクCを決定する工程を含むことが好ましい。決定工程は、車両が前方に移動された場合に主モータ手段が停止され、ラインが空にされた状態において、駆動力や抵抗力を付与する実際の負荷のかかった設備にて安定した速度から補助起動システムを駆動する工程と、設備の速度を時間tにて計測し、設備の速度を時間tにて計測する工程と、安定した速度から補助起動システムが負荷のない設備にて駆動される場合に、時間tにおける設備の速度を得るべく主モータ手段により作用される一定トルクCを決定する工程と、安定した速度から補助起動システムが負荷のない設備にて駆動される場合に、時間tにおける設備の速度を得るべく主モータ手段により作用される一定トルクCを決定する工程とを含む。
【0027】
補助起動システムを試験する工程は少なくとも2つの工程、即ち主モータ手段が一定トルクCを作用させる工程及び主モータ手段が一定トルクCを作用させる工程を含むことが好ましい。
【0028】
方法は設備の固有の特徴の漸進的変化を試験する工程を含み、更に、基準データの取得の前処理の工程は、滑車が安定した速度により負荷のない状態にて稼動される設備のモータ手段から取り外された場合に速度範囲曲線V0の「負荷のない慣性」を記録する工程を含むことが好ましい。
【0029】
試験工程は、滑車が安定した速度により負荷のない状態にて稼動される設備のモータ手段から取り外された場合に速度範囲曲線V1の「負荷のない慣性」を記録する工程と、速度範囲曲線V0の「負荷のない慣性」と速度範囲曲線V1の「負荷のない慣性」とを比較する工程とを含む。
【0030】
従って、これらの工程により設備の固有の特徴が変化していないことが示された場合に、基準データの取得の前処理の工程において取得されたデータは受け入れ可能であるものと推測される。反対に、これらの特徴の変化が大きい場合に、設備が試験され、且つ/又は基準データの取得の工程が繰り返される必要がある。
【0031】
方法はモータ手段の特徴を試験する工程を含むことが好ましい。
基準データ取得の前処理の工程は、負荷のない状態にて動作される設備の安定した速度から、モータ手段が停止するまでモータ手段の速度を変化させることを目的とした制御信号により制御される変速装置によりモータ手段が駆動される場合に速度範囲曲線V0の「電気ロック」を記録する工程を含む。
【0032】
試験工程は、負荷のない状態にて動作される設備の安定した速度から、モータ手段が停止するまでモータ手段の速度を変化させることを目的とした制御信号により制御される変速装置によりモータ手段が駆動される場合に速度範囲曲線V1の「電気ロック」を記録する工程と、曲線V0の「電気ロック」と曲線V1の「電気ロック」とを比較する工程とを含む。
【0033】
この工程により変速装置の正しい動作の試験が可能となり、その特徴を時間にわたって確実に変形しないようにすることができる。
基準データの前処理の段階において、過剰分により一般的な基準に従って、デフォルトのシステムの調整値に対応する複数の速度範囲曲線Vrefが記録されることが好ましい。
【0034】
システムの調整の「受容性の制限」の基準が得られる。
方法はモータ手段が一定の抵抗トルクCを作用させる試験工程と、モータ手段が一定の駆動トルクCを作用させる試験工程とを含むことが好ましい。
【0035】
実施例において、ラインの減速の機能として制動力調整により制御されるブレーキシステムが試験される。方法は調整が一時停止される第1の試験工程と、ブレーキシステムが制動力調整により制御される第2の試験工程とを含む。従って、ブレーキの固有の特徴の調整及びその調整値の調整の両者を独立して実施することができる。
【0036】
本発明の実施例において、方法は後述する操作を含むブレーキシステムの摺動圧力を制御する工程を含む。
設備の静止速度から負荷のない設備を一定トルクCを作用させる主モータ手段によって駆動する工程。
【0037】
ブレーキシステムの圧力を変化させる工程。
設備の速度が速度の閾値Vを越えた場合にブレーキシステム内の圧力Ptestを測定する工程。
【0038】
従って、方法により、付加的なデータを得ることが可能となる。付加的なデータにより試験されるシステムを容易に診断できるようになる。より詳細には、付加的なデータによりブレーキが確かに制動力を作用させていることと、ブレーキ及び滑車の間の摩擦係数が基準の条件の範囲内にあることとを容易に判断できるようになる。
【0039】
本実施例において、基準データ取得の前処理の工程において以下の工程を実施することが好ましい。
設備の静止速度から負荷のない設備を一定トルクCを作用させる主モータ手段によって駆動する工程。
【0040】
ブレーキシステムの圧力を変化する工程。
設備の速度が速度の閾値V「閾値」を越えた場合にブレーキシステム内の圧力Prefを測定する工程。
【0041】
試験工程は、圧力Pref及び圧力Ptestを比較する工程を含む。
従って圧力Prefは、システムが調整状態にある場合に取得された基準圧力と比較される。
【0042】
基準データの試験の位相及び基準データの取得の位相において、ケーブルにより駆動される車両の位置は、システムが起動されたときに同期されることが好ましい。本発明の実施例において駆動される車両の位置は車両通過警告アラームを使用して同期され、これにより試験の位相を車両の位置と同一にすることができる。
第2の態様において本発明はソフトウェアに関する。ソフトウェアは起動されると、本発明の第1の態様による方法の工程を制御すべくオートマトンの記憶装置に直接的にダウンロードされる。
【0043】
本発明による方法はシステムの全体的な操作を試験するのみならず、システムの受容性を試験することができるようになるものといえる。従って、基準データに対してずれが検出されない場合に、システムの要素に不具合があることが検出可能であり、システムを調整すべく補修可能である。調整後の新規な試験により不具合のある要素に対して補修を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】時間の関数とした速度範囲曲線V「駆動負荷」、即ちブレーキシステムの試験のためVtest及びVrefを示すグラフ。
【図2】時間の関数とした速度範囲曲線V「駆動負荷」、即ちブレーキシステムの試験のためVtest及びVrefを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明のその他の目的及び効果は、以下の記載及び添付の図面を参照することにより、より明瞭なものとなるだろう。
ケーブル輸送設備は通常少なくとも2つのステーションと、ステーション間の少なくとも1つの移動輸送ケーブルからなる。移動輸送ケーブルはループ形状を有し、ステーションからステーションへと1つ以上の車両を輸送する。
【0046】
後述するように車両とはチェアリフト(スキーリフト)、ゴンドラリフト、ロープウェー、ケーブルカー等のケーブル輸送手段を示す。
要求に応じて1つの車両又は複数の車両がこれらを駆動する可動式ケーブルからつるされる。これに代えて、特に収容力の大きい設備に当てはまるが、車両はローラの支柱により固定されたケーブルからつるされ、可動式の輸送ケーブルにより固定されたケーブルに沿って駆動されてもよい。
【0047】
車両を輸送するために、ケーブルは取り外し可能な運動伝達装置によりモータ手段と協動する駆動滑車により駆動される。モータ手段は例えば1つ以上の主電気モータからなる。
【0048】
設備は主モータが故障した場合に使用される予備モータを更に備える。
付加的に、設備は1つ以上の常用ブレーキと1つ以上の非常用ブレーキとを備える。通常常用ブレーキは主モータ出力軸に、或いは運動伝達装置の伝動軸に作用する。非常用ブレーキによりケーブル駆動手段の故障に対応することが可能であるが、通常非常用ブレーキは駆動滑車の側部に直接作用する。
【0049】
非常用ブレーキ及び常用ブレーキは駆動滑車に直接的に又は間接的にトルクを伝達することを意図されている。ブレーキの開口部はジャッキ等の油圧手段又は空気圧手段により駆動され、バネのような機械的復帰手段によりブレーキ手段を閉じられたブレーキ位置に戻すことが可能となる。油圧手段や空気圧手段はラインの減速の機能として制動力を調整する装置により制御される常用ブレーキ及び非常用ブレーキのうち少なくともいずれか一方である。
【0050】
設備にはブレーキシステムにおける圧力を計測可能な圧力センサと、センサの情報を記録可能な手段とが設けられることが好ましい。
各ブレーキシステムを個別に試験するために、設備には電気的手段又は機械的手段によりブレーキシステムを選択的に抑制可能な、且つ/又は1つ以上のブレーキシステムの調整を抑制可能なブレーキシステム制御用ユニットが設けられる。
【0051】
実施例において設備には特許文献2に開示されるタイプのブレーキユニットが設けられてもよい。ブレーキユニットは2つのブレーキを備え、それぞれ第1の減速曲線によりケーブルの速度を制御し、サーボ機構により制御するための第1の信号と、第2の減速曲線によりケーブルの速度をサーボ機構により制御するための第2の制御信号とによって制御される。第2の曲線の値は各瞬間において第1の曲線の値より大きい。従って、第1のブレーキの場合において、第2のブレーキが作動され、ケーブルの速度が第2の曲線に従ってサーボ機構により制御される。
【0052】
付加的に変速装置が主電動モータを駆動し、これにより速度を停止から僅かな速度に変化させる。設備を停止するために変速装置を駆動し、これによりケーブルの減速を制御することができる。この所謂電気ロックは例えばC.C変速装置上の電機子電圧を漸進的に減少させることにより、或いは周波数変速装置(frequency variator)上に直流を作用させることにより得られる。
【0053】
本発明による方法は上述したような常用ブレーキや非常用ブレーキ、電磁ブレーキ、ブレーキシステム、及び予備モータ等のケーブル輸送施設の起動装置のうち少なくともいずれか一方を試験することを目的とする。
【0054】
本発明による試験方法は基準データの取得という最初の前処理の段階や、保存データの決定の段階を含む。この段階は設備が機械的に稼働される場合に実施される。更に、データ取得に先立って、ブレーキシステム及び補助起動装置のうち少なくともいずれか一方は一般的な基準及び規定に従って調整される。
【0055】
この後に実施される全ての試験はライン上の車両の所定の位置にて、且つ設備の安定した速度にて開始されることに留意する必要がある。ブレーキシステムの試験において、安定した速度は車両の速度が一定である間における速度に対応する。反対に、補助起動システムの試験において、安定した速度は設備の停止、即ち車両の速度が0である速度に対応する。
【0056】
第1の段階において設備の固有の機械的特徴、即ち設備の固有の特徴による慣性及び摩擦力が測定される。この目的のために、負荷のない状態にて操作される設備においてモータ手段の滑車が取り払われた場合に、設備の安定した速度から速度範囲の曲線V0の「負荷のない慣性」が記録される。得られた速度範囲の曲線V0の「負荷のない慣性」は設備の構成を示す。従って後述するように設備の周期的な試験において、設備の固有の特徴は変化せず、従って基準データが有効であるものといえる。
【0057】
付加的にモータ手段の特徴的データが記録される。実際のところモータ手段が一定トルクCを供給することに使用されると、モータ手段が正しく作動していることを確認し、これによりモータ手段に対する入手可能な基準値を得る必要がある。
【0058】
この目的のために、負荷のない状態にて作動される設備の安定した速度から電気ロックが行われ、速度範囲の曲線V0の「電気ロック」が記録される。この目的のために上述したように電気ロックのために、モータが停止するまでモータの速度を変化させることを目的とした制御信号により制御される変速装置によってモータ手段が駆動される。
【0059】
付加的に、基準データの取得の前処理の段階は実際の負荷により生じる慣性及び抵抗トルクのうち少なくともいずれか一方の制動力より大きい駆動力又は抵抗力を得るために、モータ手段により一定トルクCを決定する段階を含む。
【0060】
この目的のために設備には一般的な規定において必要とされる負荷に対応する実際の負荷が設けられる。安定した速度からブレーキシステムが実際の負荷のかかった設備にて駆動され、モータ手段は停止され、設備の停止時間Taが計測される。
【0061】
好適に2つの試みが予定される。即ち、実際の負荷により設備の駆動が生じる場合の停止時間Taの「駆動負荷」、及び実際の負荷が設備の速度の減少に影響しない場合の停止時間Ta’を計測する。
【0062】
続いて設備は負荷が取り払われ、ブレーキシステムが負荷のない設備上にて安定した速度から駆動された場合に、一定トルクC、即ち「駆動負荷」がモータ手段により供給される必要がある。これによりTaの「駆動負荷」より大きい停止時間Ta’を得る。Ta’は例えばTa’=1.2×Taにて表される。
【0063】
同様に、負荷のない設備にてブレーキシステムが駆動される場合にモータ手段により提供される必要のある一定トルクCの「抵抗負荷」が安定した速度から決定され、これによりTaの「抵抗負荷」より小さい停止時間Ta’が得られる。
【0064】
トルクCの決定は例えば実験に基づいた現場試験手段を使用してなされる。
モータ手段により提供される一定トルクCの「駆動負荷」や一定トルクCの「抵抗負荷」は、実際の負荷により生じる慣性及び抵抗トルクのうち少なくともいずれか一方の作用力より大きな駆動力や抵抗力をもたらす。これらの条件下において、仮に実際の負荷より高い力をもたらすトルクが作用されるブレーキシステムの操作により負荷とトルクが一致した場合において、設備に実際の負荷がかかった場合に、もっと強い理由からブレーキシステムの正しい動作が上記から推定される。
【0065】
ブレーキ(常用ブレーキ及び非常用ブレーキ)のタイプがいずれであっても試験が各ブレーキの駆動負荷及び抵抗負荷に対して個別に実施される。付加的に試験は、制動力調整が一時停止された場合、及びブレーキがラインの減速の機能として制動力調整により制御された場合の両者において実施される。
【0066】
各試験において一定トルクCの「抵抗負荷」及び一定トルクCの「駆動負荷」が決定される。各試験において、速度範囲曲線Vの「駆動負荷」及び速度範囲曲線Vの「抵抗負荷」を記録するように予定されてもよい。
【0067】
類似の試験のタイプが非常時の補助モータの駆動時にも実施される。この目的のため、設備停止に対応する安定した速度から補助の緊急用モータが実際の負荷のかかった設備にて駆動され、主モータ手段は停止される。これらの試験において、車両が前方に移動された場合に、実際の負荷はゼロにされる。設備の速度は例えば負荷のかけられた場合に時間tにて計測され、設備の速度は例えば設備が負荷を取り払われた場合に時間tにて計測される。
【0068】
2つの試みが実施されるように予定されてもよい。即ち、設備に実際の負荷をかけられた場合の負荷のかかった設備の「駆動負荷」速度の計測、及び実際の負荷が設備上にてブレーキとなる場合の「抵抗負荷」速度の計測である。
【0069】
続いて設備は負荷が取り払われ、主モータ手段により提供される一定トルクCが、安定した速度から時間tにて前もって計測された真空設備上の補助起動システムの設備の速度と同じ速度を得るべく決定される。主モータ手段により提供される一定トルクCは、補助起動システムが負荷のない設備にて駆動されたときの時間tの設備の速度を得るべく決定される。
【0070】
トルクCの「駆動負荷」及びトルクCの「抵抗負荷」が決定された場合に一連の基準の速度範囲曲線が記録されてもよい。この目的のために設備の安定した速度から、負荷のない設備は一定トルクCを提供するモータ手段により駆動され、システムは同時に駆動され、速度範囲曲線Vrefが記録される。
【0071】
各ブレーキシステムにおいて、試験が全か無かのモードにて駆動トルクC及び抵抗トルクCにより実施される。調整は一時停止され、減速の機能による制御された調整モードとなる。
【0072】
本発明において、常用ブレーキ及び非常用ブレーキの同時作動が稼働状態にて試験可能である。
好適に特許文献2に開示されるタイプの設備においてブレーキシステムの両者が各制御信号により制御される(2つのブレーキの同時調整)。
【0073】
付加的に、各ブレーキシステムやシステム一式を、各操作モードにて、一般的な基準に従って過剰分によりデフォルトのシステムの調整に対応する複数の速度範囲曲線Vrefにて記録するように予定されてもよい。
【0074】
ブレーキシステムの試験において、トルクCの「駆動負荷」の作用により、負荷のかかった試験において得られた時間と、最大の規制された時間(試験されるブレーキはエネルギーを最大限吸収する)との間の時間に近似するようにブレーキ時間を人工的に延ばすことができる。付加的に調整されたブレーキの場合において、トルクCの「駆動負荷」を作用させることによりブレーキ調整閾値を越えて強制的に減速させることができる。従って調整は全ての可能な制動力に作用する。
【0075】
2つのブレーキの同時調整の場合において、減速は第1のブレーキシステムの調整の閾値を越えて強制され、従って第2のブレーキシステムの第2の調整が生じ、制動力を作用させる。従って本発明による方法により、第1のシステムにより作用される制動力が十分ではない場合に駆動される必要がある第2のブレーキシステムを試験することができ、ブレーキシステムの両者の同時の動作を検査することができる。これらの試験において、ブレーキシステムの両者の同時の動作を検査するためにブレーキシステム内の圧力の漸進的変化が記録されることが好ましい。
【0076】
トルクCの「抵抗負荷」を作用させることにより人工的にブレーキ時間を減少させ、負荷のかけられた試験において得られた時間と、規制された最小限の時間との間の時間に近似させることができる。調整されたブレーキの場合に、減速がブレーキの調整閾値を越えて強制的に行われ、これにより調整は最小限の可能な制動力を作用させるか、制動力を作用させない。
【0077】
付加的に一連の基準速度範囲曲線の記録が補助モータの試験において実施される。この目的のために負荷のない設備は設備の停止状態からまず前もって決定されたトルクCを作用させるモータ手段によって駆動され、続いてトルクCを作用させて駆動される。補助モータが同時に駆動され、速度範囲曲線Vrefが記録される。
【0078】
同様に各ブレーキの摺動圧力が、駆動トルクをシミュレートすることにより更に計測される。この目的のために、負荷のない設備は、設備の停止時から一定トルクCを作用させるモータ手段により駆動され、ブレーキ圧力の数値は変化し、ブレーキシステムの圧力Prefが設備が閾値の速度Vの「閾値」を越えた場合に計測される。
【0079】
ブレーキシステム及び設備のトルクシステムは基準により決定される、或いは製造業者によって決定される周期に従い試験される必要がある。通常は年に1度である。この目的のために本発明による試験方法はブレーキシステムや補助起動システムの試験の少なくとも1つの段階を含み、これはシステムの動作を試験するために周期的に実施される。
【0080】
まず、設備の固有の特徴の漸進的変化が試験される。この目的のために、負荷のない状態にて操作される設備のモータ手段の滑車が取り払われ、設備の安定した速度から速度範囲の曲線V1の「負荷のない慣性」が記録される。曲線V1の「負荷のない慣性」は、基準値の収集時に記録された曲線V0の「負荷のない慣性」と比較される。仮に負荷のない慣性による停止が類似する場合に、基準値の収集時に得られたデータは有効であると推測される。
【0081】
付加的に、モータ手段の特徴的データの漸進的変化も更に試験される。より詳細には1つの変速装置又は複数の変速装置の速度の特徴的データの漸進的変化が試験される。この目的のために、負荷のない状態にて作動される設備の安定した速度から以前に得られた電気ロックに従った電気ロックが行われ、速度範囲の曲線V1の「電気ロック」が記録される。この目的のためにモータが停止するまでモータの速度を変化させることを目的とした制御信号により制御される変速装置によりモータ手段が駆動される。
【0082】
最終的に全てのブレーキシステムや補助起動システム、及び速度範囲曲線Vrefが描かれる全ての構造体(駆動負荷、抵抗負荷、全か無かのモード、調整されたブレーキ、操作可能な構造体等)において、速度範囲曲線Vtestが記録される。この曲線は、負荷のない状態にて作動される設備が安定した速度により起動される場合に設備が予め決定された一定トルクCを作用させるモータ手段により駆動され、システムが同時に駆動されるように記録される。
【0083】
速度範囲曲線Vtestは、デフォルトのシステムの調整に対応する1つの又は複数の基準曲線Vrefと比較されるか、超過分により調整される。曲線Vtest及びVref間にずれがない場合には、システムが正確に調整されているものと推測される。そうでない場合は得られた曲線Vtestは「デフォルトの」曲線Vrefにより定められる制限を超えるものであり、Vrefからの「超過分により」システムはまもなく再び調整される必要があるものと推測される。
【0084】
補助起動システムの試験の段階はモータ手段のトルク作用に対して2つの工程、即ちトルクCの第1の段階に、及びトルクCの第2の段階を含む。
記録が正確であることを確認するために、ブレーキシステムがライン上の車両の所定の位置から駆動され、且つ設備の安定した速度から駆動されるだろう。
【0085】
付加的にこれらの試験工程において、圧力曲線が記録され、データ取得の前処理の段階において記録された圧力曲線と比較される。
図1及び2は負荷のかかった設備の試験において記録される曲線の例であり、基準データの収集の際のVref及びブレーキシステムの試験の段階におけるVtestによりV「抵抗負荷」及びV「駆動負荷」を示す。図1はブレーキシステムの試験の曲線を示し、図2はブレーキシステムの試験の曲線を示す。図2は予備モータ等の補助起動装置の試験の曲線を示す。
【0086】
上記方法を実施するために、ソフトウェアがケーブル輸送施設の自動制御装置にロードされてもよい。
より詳細にはこのようなソフトウェアにより、速度曲線の記録及び表示、一定トルクCを提供するモータ手段の制御、ブレーキシステムや補助起動システムの制御、試験の同期化の管理、ブレーキシステムの圧力曲線の記録及び表示等ができるようになる。付加的に、このようなソフトウェアにより試験操作中に収集される情報を記憶することができる。
【0087】
本発明を実施例により上述した。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく発明の実施例において様々な変形を行うことが可能であるものといえる。
【符号の説明】
【0088】
Vref…速度範囲曲線、Vtest…速度範囲曲線、C,C…一定トルク、t,t…時間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブルが主モータ手段と協動する滑車により駆動される、少なくとも1つの車両を駆動するケーブル輸送設備のブレーキシステム及び補助起動システムのうちの少なくとも1つのシステムの試験方法であって、該試験方法は、設備の安定した速度から該システムを試験する少なくとも1つの工程を含み、
一定トルクCを作用させる主モータ手段により負荷のない設備を駆動する工程と、
該ブレーキシステム及び補助起動システムを同時に起動する工程と、
速度範囲曲線Vtestを記録する工程とを含むことを特徴とする試験方法。
【請求項2】
前記基準データの取得の前処理の工程は、
システムを調整する工程と、
設備の安定した速度から負荷のない設備を前記一定トルクCを作用させる主モータ手段によって駆動する工程と、
該ブレーキシステム及び起動システムを同時に駆動する工程と、
少なくとも1つの速度範囲曲線Vを記録する工程とを含み、
該試験工程は速度範囲曲線Vtestを速度範囲曲線Vrefと比較する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の試験方法。
【請求項3】
前記基準データの取得の前処理の工程はトルクCを決定する工程を含み、同工程は、
主モータ手段が停止した状態において、駆動力や抵抗力を付与する実際の負荷のかかった設備に安定した速度からブレーキシステムを駆動する工程と、
設備の停止した時間Taを計測する工程と、
停止した時間Ta’を取得すべく主モータ手段により作用される一定トルクCを計測する工程とを含み、システムが負荷のない設備にて安定した速度から駆動された場合に一定トルクCはTaより大きくなり、負荷により抵抗力が作用される場合に一定トルクCはTaより小さくなることを特徴とする請求項2に記載の試験方法。
【請求項4】
前記基準データの取得の前処理の工程はトルクCを決定する工程を含み、同工程は、
車両が前方に移動された場合に主モータ手段が停止され、ラインが空にされた状態において、駆動力や抵抗力を付与する実際の負荷のかかった設備にて安定した速度から補助起動システムを駆動する工程と、
設備の速度を時間tにて計測し、設備の速度を時間tにて計測する工程と、
安定した速度から補助起動システムが負荷のない設備にて駆動される場合に、時間tにおける設備の速度を得るべく主モータ手段により作用される一定トルクCを決定する工程と、
安定した速度から補助起動システムが負荷のない設備にて駆動される場合に、時間tにおける設備の速度を得るべく主モータ手段により作用される一定トルクCを決定する工程とを含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の試験方法。
【請求項5】
補助起動システムを試験する工程は少なくとも2つの工程、即ち主モータ手段が一定トルクCを作用させる工程及び主モータ手段が一定トルクCを作用させる工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の試験方法。
【請求項6】
前記設備の固有の特徴の漸進的変化を試験する工程を備え、更に、
前記基準データの取得の前処理の工程は、滑車が安定した速度により負荷のない状態にて稼動される設備のモータ手段から取り外された場合に速度範囲曲線V0の「負荷のない慣性」を記録する工程を含むことと、
前記試験工程は、滑車が安定した速度により負荷のない状態にて稼動される設備のモータ手段から取り外された場合に速度範囲曲線V1の負荷のない慣性を記録する工程と、該速度範囲曲線V0の負荷のない慣性と該速度範囲曲線V1の負荷のない慣性とを比較する工程とを含むこととを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項7】
前記モータ手段の特徴を試験する工程を備え、更に、
前記基準データ取得の前処理の工程は、負荷のない状態にて動作される設備の安定した速度から、モータ手段が停止するまでモータ手段の速度を変化させることを目的とした制御信号により制御される変速装置によりモータ手段が駆動される場合に速度範囲曲線V0の電気ロックを記録する工程を含むことと、
前記試験工程は、負荷のない状態にて動作される設備の安定した速度から、モータ手段が停止するまでモータ手段の速度を変化させることを目的とした制御信号により制御される変速装置によりモータ手段が駆動される場合に速度範囲曲線V1の電気ロックを記録する工程と、該曲線V0の「電気ロック」と該曲線V1の電気ロックとを比較する工程とを含むことを特徴とする請求項2乃至6のいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項8】
基準データを取得する前処理の工程において、複数の速度範囲曲線Vrefが、過剰分により、且つ一般的な基準に従ってデフォルトのシステムの調整値に対応することを特徴とする請求項2乃至7のいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項9】
前記モータ手段が抵抗トルクCを作用させる試験工程と、モータ手段が駆動トルクCを作用させる試験工程とを含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項10】
前記ラインの減速の機能として制動力調整により制御されるブレーキシステムが試験されることと、前記方法は調整が一時停止される第1の試験工程と、ブレーキシステムが制動力調整により制御される第2の試験工程とを含むこととを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項11】
前記ブレーキシステムの摺動圧力を試験する工程を更に備え、同工程は、
設備の静止速度から負荷のない設備を一定トルクCを作用させる主モータ手段によって駆動する工程と、
ブレーキシステムの圧力を変化させる工程と、
設備の速度が速度の閾値Vを越えた場合にブレーキシステム内の圧力Ptestを測定する工程とを含むことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項12】
前記基準データを取得する前処理の工程は、
設備の静止速度から負荷のない設備を一定トルクCを作用させる主モータ手段によって駆動する工程と、
ブレーキシステムの圧力を変化させる工程と、
設備の速度が速度の閾値Vを越えた場合にブレーキシステム内の圧力Prefを測定する工程とを含み、
前記試験工程は該圧力Pref及び圧力Ptestを比較する工程を含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
基準データの試験の工程及び基準データの取得の工程において、ケーブルにより駆動される車両の位置はシステムが駆動されたときに同期されることを特徴とする請求項2乃至12のいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項14】
駆動された車両の位置は車両通過警告アラームを使用して同期されることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項15】
前記ソフトウェアが実行された場合に請求項1乃至14のいずれか一項に記載の工程を制御すべくオートマトンの記憶装置に直接的にダウンロードされることを特徴とするソフトウェア。

【図1】
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【図2】
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