説明

ゲノムDNA上の変異検出方法

【課題】迅速、正確に遺伝子の変異を検出できる方法を提供すること。
【解決手段】担体に固定されプライマーとして働くプローブオリゴDNAと、被検遺伝子をハイブリダイズさせ、異なる標識で4種類の塩基をそれぞれ標識した4種類のddNTPの存在下で一塩基伸長を行い、伸長された塩基の標識を4種類の塩基について測定し、強度の中から最大値を決定し、最大値を1として各塩基の強度比を算出し、得られた各塩基の強度比から、遺伝子変異を判定するための基準値として、正常型の塩基配列において各塩基に対応するプローブ毎に各塩基の強度比の平均値(mean)と標準偏差(SD)の算出を行い、各プローブDNAにおいて算出した4種類の塩基に対応する強度比が正常型に対応する判定基準の範囲から外れる場合、mean-3SD以上、mean+3SD以下の範囲を正常型の判定基準としてそのプローブに対応する部分を正常型からの変異として判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子の塩基配列の変異検出方法、特にDNAチップによって解析する方法において、ヒト、細菌、ウイルス等のゲノムDNA上の塩基配列を迅速かつ正確に解析し、変異部位を判定、検出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くのゲノム上の塩基変異に起因する疾患に関して、原因遺伝子とその変異が明らかになってきている。疾患によっては幾つかの遺伝子が原因遺伝子として同定されてきており、それぞれの遺伝子の活性ドメインの中に疾患の原因となる変異が多種類見つかっている。このため、ある遺伝子の特定部位の塩基変異を決定するだけでは疾患の検定ができないとされており、疾患の診断を行うためには、少なくとも特定遺伝子の活性ドメイン領域の解析を、高い正確性をもって、しかも臨床診断応用を考えた場合には、簡便、迅速に行なう必要があるとされている。
【0003】
ゲノムDNA上の配列を解析し、変異部位を検出する解析方法にはPCR-RFLP法やPCR-SSCP法、DNAシークエンス法(Sanger (Dideoxy-chain temination)法)、Luminex xMAP法、熱変性高速クロマトグラフィー法、SMAP法等が用いられている。この中で、DNAシークエンス法が最も正確ではあるが、反面、時間と労力がかかるという問題があった。この問題を解決する目的で網羅的な解析が可能なDNAチップを用いた解析方法が注目を浴びている。現在、DNAチップを用いた解析方法として利用可能な変異部位の検出法として、例えばSNPs(Single Nucleotide Polymorphism)の解析のためには、Molecular Inversion Probe法(Affymetrix社)、BeadArray法(Illumina社)、Electrochemical法(Toshiba社)、Multiple Primers Extension法(Sumitomo Chemicals社)等が、また既に患者群と健常群との遺伝子配列を比較し患者群における希少なゲノムDNA上の特定部位の異常配列を解析するリシークエンシング法として、GeneChip CustomSeq Resequencing Array法(Affymetrix社)、Hyb & Seq法(CombiMatrix社)、Arrayed Primer EXtension (APEX)法(非特許文献1参照)、Allele-Specific Primer Extension (ASPE) 法(非特許文献2参照)等がある。しかしながら、これらの方法はそれぞれに簡便性、迅速性、正確性で一長一短があり、解析の目的に応じて使い分けられるが、DNAシークエンサーと同等の信頼性を保証しつつ、簡便性と迅速性を持ったものではないため、実際の診断に応用するためには問題があった。
【0004】
実際の診断に応用するためには変異部位の検出に特に信頼性を高める必要があるが、上記のようなDNAチップを用いたこれまでの解析方法では、変異の判定において、グラフ上での強度の散布状態から塩基の変異の判定を行うため、定量的な基準に基づいて判定を行うことがなく不正確な判定を行う可能性がある、あるいは、グラフ上での単純な値の高低から判定を行うため、個々のプローブの特性を反映することが出来ず、データのバラツキを考慮することがないまま判定を行い、統計的な客観性をもたせずに判定を行う可能性がある(例えば、特許文献1、2、3など)といった判定基準、判定方法が不明瞭なため、結果の正確性、信頼性が低く、これまで診断用として用いられてきていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−101844号公報
【特許文献2】特開2003−61656号公報
【特許文献3】特開2009−125020号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】GENETIC TESTING、2000年、4巻、1号、1−7頁
【非特許文献2】Clin Exp Otorhinolaryngology、2007年 、2巻、1号、44−47頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、迅速、正確に遺伝子の変異を検出できる方法を提供することであり、特に、迅速、正確に生体由来のゲノムDNA上の疾患に関連する特定領域の塩基配列を検定することによって、ゲノムDNA提供者の健康状態及び疾患の有無、疾患の原因あるいは発症しうる(発症予知)疾患を容易に診断、推定することができ、疾患特異的なゲノム上の塩基配列を確認して疾患診断用表示子を提供することができるゲノムDNA上の特定領域の塩基配列解析、特にリシークエンシンングにおいて遺伝子の変異を正確に判定可能な検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、DNAチップを用いた一塩基伸長法により被検遺伝子の塩基配列を解析する方法であって、測定データについての正常型と異常型の判定基準を、mean±3SDの範囲に入るか否かとすることを含む、特定のデータ処理を行うことにより、迅速、正確に遺伝子の変異を検出できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
【0010】
(1) 被検遺伝子の変異の検出方法であって、
担体に固定されプライマーとして機能するプローブオリゴDNAと、被検遺伝子とをハイブリダイズさせるステップと、
互いに識別可能な異なる信号を発する標識で4種類の塩基をそれぞれ標識した4種類のddNTPの存在下で一塩基伸長を行うステップと、
伸長された塩基の標識からの信号強度を、4種類の塩基について測定するステップと、
強度の中から最大値を決定し、最大値を1として各塩基の強度比を算出するステップと、
得られた各塩基の強度比から、遺伝子変異を判定するための基準値として、正常型の塩基配列においてA,T,G,Cに対応するプローブ毎に各塩基の強度比の平均値(mean)と標準偏差(SD)の算出を行うステップと、
各プローブオリゴDNAにおいて算出した4種類の塩基に対応する強度比が正常型に対応する判定基準の範囲から外れる場合、そのプローブに対応する部分を正常型からの変異として判定するステップであって、該判定基準は、mean-3SD以上、mean+3SD以下の範囲を正常型の判定基準とするステップとを含む、遺伝子変異検出方法。
(2) 強度の中から最大値を決定し、最大値を1として各塩基の強度比を算出するステップから最終のステップは、コンピューターにより行う(1)に記載の方法。
(3) 4種類の標識が、それぞれ蛍光波長が異なる蛍光標識である(1)又は(2)記載の方法。
(4) 一塩基伸長は、複数の塩基について行う(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 正常型からの変異として判定された場合において、変異として判定したプローブ部分の各塩基の強度比が正常型A,T,G,Cでの他の塩基の判定基準と一致する場合、その塩基への変異と特定するステップをさらに含む(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 正常型からの変異として判定された場合において、変異として判定したプローブ部分の各塩基の強度比が正常型A,T,G,Cでの他の塩基の判定基準と一致しない場合、正常型の塩基配列においてA,T,G,Cに対応するプローブ毎の強度比の平均値から各2塩基間の平均値を算出し、それぞれの組み合わせにおいて最大値を1として比率を計算し、この比率と判定すべきプローブの強度比との差を基準としてヘテロ型の変異を特定するステップをさらに含む(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(7) 一塩基伸長により伸長する検出領域が、疾患に関わる遺伝子配列領域である(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8) 疾患がQT延長症候群又はNoonan症候群である(7)に記載の方法。
(9) 原因遺伝子がKVLQT1遺伝子、HERG遺伝子、SCN5A遺伝子、Raf1遺伝子、PTPN11遺伝子、SOS1遺伝子又はKRAS遺伝子である(8)記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、DNAチップを用いて迅速、正確に遺伝子の変異を検出できる新規な方法が提供された。本発明の方法により、ヒト、細菌、ウイルス等生体由来のゲノムDNA上の疾患に関連する特定領域の遺伝子変異を簡便、迅速、正確に特定ゲノム領域遺伝子の変異を正確に判定することが可能となり、試料提供者の健康状態及び疾患の有無、疾患の原因あるいは発症しうる(発症予知)疾患を正確性高く、容易に診断、推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】特定の検出領域を鋳型にしたプローブオリゴDNAの設計例を示す図である。
【図2】各プローブオリゴDNAのシグナルの表から判定基準を算出するため強度の比を算出するフロー図である。
【図3】正常型の塩基配列においてA,T,G,Cに対応する群毎に、各群における各塩基の強度の比の平均値(mean)、標準偏差(SD)および判定基準(mean±3SD値)を算出し、判定するフロー図である。
【図4】変異として判定された場合に、変異(ホモ接合、ヘテロ接合)を特定するための算出方法をまとめた図である。
【図5】検体1〜5のKVLQT1のエクソン7特定領域のリシークエンシングチップ解析結果(正常型各群での判定基準および判定結果)を示す図である。
【図6】ヌーナン症候群の患者(検体A)由来検体のゲノムのリシークエンシングの結果(正常型T群での判定基準および判定結果)を示す図である。
【図7】ヌーナン症候群の患者(検体A)由来検体のゲノムのリシークエンシングの結果(正常型C群での判定基準および判定結果)を示す図である。
【図8】ヌーナン症候群の患者(検体A)由来検体のゲノムのリシークエンシングの結果(正常型A群での判定基準および判定結果)を示す図である。
【図9】ヌーナン症候群の患者(検体A)由来検体のゲノムのリシークエンシングの結果(正常型G群での判定基準および判定結果)を示す図である。
【図10】ヌーナン症候群の患者(検体B)由来検体のゲノムのリシークエンシングの結果(正常型T群での判定基準および判定結果)を示す図である。
【図11】ヌーナン症候群の患者(検体B)由来検体のゲノムのリシークエンシングの結果(正常型Cでの判定基準および判定結果)を示す図である。
【図12】ヌーナン症候群の患者(検体B)由来検体のゲノムのリシークエンシングの結果(正常型A群での判定基準および判定結果)を示す図である。
【図13】ヌーナン症候群の患者(検体B)由来検体のゲノムのリシークエンシングの結果(正常型G群での判定基準および判定結果)を示す図である。
【図14】ヒト健常人の全血由来ゲノムからのRAF1リシークエンシングチップ解析結果(正常型T群での判定基準および判定結果)を示す図である。
【図15】ヒト健常人の全血由来ゲノムからのRAF1リシークエンシングチップ解析結果(正常型C群での判定基準および判定結果)を示す図である。
【図16】ヒト健常人の全血由来ゲノムからのRAF1リシークエンシングチップ解析結果(正常型A群での判定基準および判定結果)を示す図である。
【図17】ヒト健常人の全血由来ゲノムからのRAF1リシークエンシングチップ解析結果(正常型G群での判定基準および判定結果)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は遺伝子の配列中の変異の検出、特にゲノムDNA上の遺伝子変異を検出する方法に関する。ヒト、細菌、ウイルスに代表される生体由来のゲノムDNAを迅速、正確に特定領域の塩基配列を検定することができる。遺伝子変異を検出する領域として疾患に関わる遺伝子領域を検出することによって、検体の健康状態、疾患の有無、疾患の原因あるいは発症しうる(発症予知)疾患を容易に診断、推定することができ、これらを通して疾患診断用表示子を提供することができる。なお、本発明の方法に供する「遺伝子」は、完全長遺伝子である必要はなく、通常は、塩基配列の解析が望まれる、遺伝子の部分領域である。また、「遺伝子」は、多くの場合、天然の遺伝子やその増幅産物であるが、化学合成した遺伝子であってもよい。また、遺伝子は、タンパク質をコードする構造遺伝子であってもよいし、タンパク質をコードしない制御遺伝子等であってもよい。
【0014】
本発明が提供する方法は遺伝子配列解析の中で特にリシークエンシング用途に使用されるものであり、リシークエンシングとは、疾患にかかわる遺伝子において遺伝子変異が生じやすい特定の領域に関して、遺伝子配列の解析を行い、正常群(健常対象群)と異常群(患者群)の遺伝子を比較して変異を特定する方法である。遺伝疾患の多くにおいて、疾患に関連する変異はSNPsと異なり、その遺伝子の機能ドメイン領域に不特定に生じている可能性があり、通常の簡易検出法では検出が難しいことが予想される。したがって、可能性のある領域に存在しうる変異を定期健康診断や臨床現場で簡便に、確実性をもって検査できるリシークエンシング・システムが重要である。
【0015】
ゲノムDNA上の遺伝子配列(塩基配列)を解析するリシークエンシング手法として、DNAシークエンシング法(Sanger法)、PCR法、DNAチップ法などがあるが、経済性、簡便性、迅速性、網羅性の観点から検出用プローブを固定した担体を使用する方法、特にDNAチップ(DNAアレイ)法を用いることが好ましく、本発明では、DNAチップ法を採用する。
【0016】
DNAチップ法で用いられるDNAチップは、数百〜数万という多数の遺伝子を同時に測定するための小型装置であり、数百から数十万に上る網羅的な遺伝子解析を、少量の検体量と比較的短時間で可能とすることから様々な研究分野で活用されている。DNAチップはガラスや樹脂などの基板上に、数百〜数万種類のDNA断片(検出用プローブ)を高密度に並べたものであり、検体サンプル中のDNAやRNAといった核酸ターゲットをDNAチップ上に固定されたDNAの断片(検出用プローブ)とハイブリダイゼーションさせることによって、そのターゲットに含まれる塩基配列の決定、遺伝子変異の解析、遺伝子の発現量・コピー数の測定、およびメチル化状態の解析といったDNA、RNAの多様な状態を解析することが出来る。また、核酸ターゲットの調製方法次第では様々な核酸分子を検出できるため、多様な生体現象を分析することが可能である。
【0017】
DNAチップには、大きく分けて、cDNAチップ、オリゴDNAチップ、BACクローンチップなどがあるが、その測定対象が通常、数百から数万という大量の遺伝子種などを対象とするため、膨大な量の数値データを解析する必要があり、そのデータの解析・判定方法はこれまでに様々な工夫がなされてきている。通常、DNAチップから得られるデータは測定対象となるDNAやRNAなどの遺伝子産物を蛍光色素で標識し、これをDNAチップにハイブリダイズさせることにより、ターゲットの蛍光情報を検出することにより遺伝子の情報を測定する。
【0018】
DNAチップを用いた遺伝子配列の検出(シークエンシング)方法には、検出の対象とする配列部分についてA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)あるいは、C(シトシン)の4つの塩基の何れかに置換した4種類のプローブを用意し、それらのプローブに対して検体から調製した遺伝子産物をハイブリダイズさせた時、ハイブリダイズするかしないかを判定して塩基配列を解析するSequencing by Hybridization法や、DNAチップ上の検出用プローブに検体から調製した遺伝子産物をハイブリダイズさせた後、ポリメラーゼにより塩基伸長を行って配列を解析するPrimer Extension法に大別される。本発明においては、Primer Extension法が用いられ、中でもポリメラーゼによって塩基伸長を行う際に、ジデオキシヌクレオチドトリフォスフェートを使用することにより一塩基だけ塩基を伸長させる一塩基伸長法(反応)が用いられる。
【0019】
すなわち、本発明の方法は、担体に固定されプライマーとして機能するプローブオリゴDNAと、被検遺伝子とをハイブリダイズさせるステップと、互いに識別可能な異なる信号を発する標識で4種類の塩基をそれぞれ標識した4種類のddNTP(ジデオキシヌクレオチドトリフォスフェート)の存在下で一塩基伸長を行うステップと、伸長された塩基の標識からの信号強度を、4種類の塩基について測定するステップを含む。4種類の標識としては、それぞれ蛍光波長が異なる蛍光標識が広く用いられており、本発明においても好ましい。また、一塩基伸長法は、単一の部位の塩基を決定するために行うことも可能であるが、疾患に関わる遺伝子配列領域を検出領域として、この所定のサイズを有する検出領域の塩基配列を解析するために、一塩基伸長は、複数の塩基について行うことが好ましい。
【0020】
ここまでが一塩基伸長法である。一塩基伸長法自体は公知である。以下に好ましい態様をさらに詳細に説明する。
【0021】
一塩基伸長法とは、塩基検出部位の1塩基手前が3’ 末端となるように設定した鋳型DNAを準備し、これと遺伝子配列を検出したい遺伝子産物をハイブリダイズした後、ddNTP を加えて1 塩基の伸長反応を行うことにより、塩基検出部位のターゲット塩基に対して相補的なddNTP を鋳型DNAに結合させることにより塩基の検出を行う手法である。
【0022】
特にA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4塩基について4種類の蛍光色素でラベルした塩基を用いた一塩基伸長反応による方法が好ましく用いられる。特にDNAチップにおいてこの方法で解析を行う場合、検出を行う特定領域の遺伝子配列の一部を鋳型として塩基配列を検出すべき位置のすぐ隣の位置まで設計された配列を決定するためのプローブオリゴDNAを合成し、これを担体(DNAチップ)に固定し、DNAチップ上において、検出を行う特定領域を対象として調製した検出すべきDNAをアニーリングさせ、その3’末端を4種類の蛍光標識されたジデオキシヌクレオチドトリフォスフェート(ddNTP)により伸長させる。反応液中にはデオキシヌクレオチドトリフォスフェート(dNTP)が含有されないため、目的の塩基に相補的な部位(一塩基)のみが伸長されることになる。dNTPは連続したDNAの伸長反応が可能であるが、ddNTPはその塩基が取り込まれた後はそれ以上の伸長はしないという性質を有する。このため、目的とする検出すべき塩基の位置(検出目的位置)に相補的な塩基が一塩基のみ伸長されることになる。ここで取り込まれた蛍光標識ddNTPの蛍光シグナル(色)を検出することにより、取り込まれたddNTPが判別でき、結果として検出すべき塩基を判別する(塩基配列の解析)ことができる。
【0023】
以上の方法において、特に疾患との関連が認められる特定領域を対象とし、この領域の一部あるいは全部を鋳型として設計されたプローブオリゴDNAを固定したDNAチップ上で検出を行うことにより、疾患に関連する遺伝子変異を検出することが可能となる。
【0024】
DNAチップなどの上に固定する検出用のプローブオリゴDNAは検出を目的とするゲノム上の特定領域の塩基配列、特に正常型(健常対象群)の塩基配列を基(鋳型)にオリゴDNAを設計・合成することが好ましい。図1に設計の例を示す。目的とする検出領域に対する相補的な配列から、検出を目的とする位置のすぐ隣の位置まで設計された配列をプローブとして設計する。設計の際、その塩基長は15から40の塩基からなるオリゴDNAであることが好ましく、より好ましくは18から35塩基である。また、オリゴDNAのTm値は、[Mg2+:1.5mM、Na+:50mM、Probe concentration: 0.1μM] という条件でNearest Neighbor法で計算して 56〜64℃であることが好ましく、58〜62℃であることがより好ましい。また、設計されたプローブオリゴDNAが3’末端から自己で2塩基以上の相補鎖を形成しないように設計されていることが好ましく、もし自己でプライミングが起こる場合は3’末端の塩基あるいはその近傍の塩基とアニールする塩基を、アニールできない塩基に置換して設計する。
【0025】
以上のようなプローブオリゴDNAを固定したDNAチップ上で、検出目的として調製したDNA断片を反応し、洗浄後に、DNAチップを検出して、各プローブオリゴDNAに対して、例えば、蛍光の種類と強さを検出する。通常DNAチップにおいて蛍光を検出する際には、スキャナーと呼ばれる蛍光検出装置を使用する。スキャナーは非共焦点レーザー方式、共焦点レーザー方式、CCDカメラ方式など様々な方式があるが、レーザーなどで蛍光色素を励起させて、光電子増幅管(PMT)で増倍させて蛍光シグナル値の検出を行う。シグナル値は各プローブオリゴDNAに対応する代表値をとる。代表値とは例えば、平均値、中央値、最大値、最小値、合計値などである。
【0026】
以上のように一塩基伸長反応で得られた結果により、変異の有無、変異の位置、変異の種類などを判定、特定する。しかしながら実際の検出においては、調製したサンプルの品質、標識色素の品質やddNTPに対する標識効率、プローブオリゴDNAの品質、DNAチップで反応を行う際の反応時間、反応温度、洗浄条件などに検出ごとに厳密に条件を均一にすることはできず、また色素を検出する際に、色素間での波長の重なり、干渉作用から検出データにはバラツキが生じることが一般的であり、このバラツキを考慮した、判定、変異を行うための基準、方法が非常に重要となる。
【0027】
本発明は、上記のような一塩基伸長反応を行った上で、各データのバラツキを考慮したうえで正確・迅速に遺伝子の変異を検出する方法であり、上記のようなプローブオリゴDNAを固定した担体上で、調製したDNA断片に対して一塩基伸長反応を行った後、検出を行い、検出結果から各プローブオリゴDNAにおいて4種類の塩基(A,T,G,C)に対応する強度を算出し、強度の中から最大値を決定し、最大値を1として各塩基の強度比を算出する。
【0028】
その後、得られた各塩基の強度比から、遺伝子変異を判定するための基準値として、正常型の塩基配列においてA,T,G,Cに対応するプローブ毎に各塩基の強度比の平均値(mean)と標準偏差(SD)の算出を行い、mean-3SD以上、mean+3SD以下の範囲を判定基準とする。その後、各プローブオリゴDNAにおいて算出した4種類の塩基に対応する強度比が正常型に対応する該判定基準の範囲から外れる場合、そのプローブに対応する部分を正常型からの変異として判定する遺伝子変異検出方法である。
【0029】
すなわち、本発明の方法は、上記のとおり、一塩基伸長法で測定された4種類の塩基についての信号強度(標識が蛍光標識の場合には蛍光強度) の中から最大値を決定し、最大値を1として各塩基の強度比を算出するステップと、得られた各塩基の強度比から、遺伝子変異を判定するための基準値として、正常型の塩基配列においてA,T,G,Cに対応するプローブ毎に各塩基の強度比の平均値(mean)と標準偏差(SD)の算出を行うステップと、各プローブオリゴDNAにおいて算出した4種類の塩基に対応する強度比が正常型に対応する判定基準の範囲から外れる場合、そのプローブに対応する部分を正常型からの変異として判定するステップであって、該判定基準は、mean-3SD以上、mean+3SD以下の範囲を正常型の判定基準とするステップとを含む。
【0030】
これらのデータ解析ステップは、これらのステップを行うプログラムがインストールされたコンピューターを用いて行うことが好ましい。すなわち、測定した各塩基についての信号強度を入力手段から測定値をコンピューターに入力し、上記各ステップを行うプログラムがインストールされた演算手段によりコンピューター上で演算を行う。このプログラム自体は、市販の汎用の表計算ソフトにより可能である。また、蛍光リーダーをコンピューターと接続し、測定値を自動的に入力して自動的に上記データ解析ステップを行うことも可能である。
【0031】
以下、上記データ解析ステップの好ましい態様についてさらに詳細に説明する。
【0032】
すなわち、まず、上記のとおり一塩基伸長法によりDNAチップで検出を行う。その結果、図2に示すように、DNAチップ上の各プローブオリゴDNAおよびブランク(プローブオリゴDNAを固定していない位置)に対応して、621nm(Tに対応)593nm(Cに対応)、563nm(Aに対応)、530nm(Gに対応)のシグナルを検出した結果である表が得られる。図2では結果の一部(RAF1−EX−1〜9)を使用して説明する。
【0033】
次にこの検出結果から各プローブオリゴDNAにおいて4種類の塩基(A,T,G,C)に対応する強度を算出する。まず、A,T,G,C各塩基を標識した色素に対応するバックグラウンド値を算出する、バックグラウンド値としては、例えば、プローブオリゴDNAをスポットしていないスポット位置(ブランク)の検出値(シグナル)を使用する。この際、ブランクスポットが複数ある場合は例えば平均値などの代表値を算出し、これらを各塩基の標識色素に対応するバックグラウンド値とする。具体的には図2の*1部分でしめすように4種類の塩基(A,T,G,C)に対応するブランク値の平均値を算出する。次に、図2の*2に示すように各プローブオリゴDNAの4つのシグナル値(T, C, A, Gに対応)から*1で求めた各ブランクの平均値を差引き、各プローブオリゴの4種類の塩基に対応する強度を算出する。次に各プローブオリゴに対応する形で得られた4種類の塩基に対応する強度の中から最大値を決定し、最大値を1として各塩基の強度の比を算出する。具体的には図2の*3示すように、プローブオリゴ毎に、4つの値(T, C, A, Gに対応)のうち最も高い値を1として比を算出する。
【0034】
次に遺伝子変異を判定するための基準値を設定するために、得られた各塩基の強度比から正常型(プローブオリゴDNAを設計するために鋳型として使用した配列、図2において*4で示す)の塩基配列においてA,T,G,Cに対応する各プローブ群毎に各塩基の強度比の平均値(mean)と標準偏差(SD)を算出する。具体的には図3に示すように、図2の*4で示される正常型の塩基配列においてA,T,G,Cに対応する群毎に、各群における各塩基の強度の比の平均値(mean)と標準偏差(SD)算出し、mean±3SD値を計算する。ここで言う正常型とは疾患(遺伝的な異常)が無い場合の塩基情報、より具体的にはプローブオリゴDNAを設計するために鋳型として使用した塩基配列の塩基情報をさす。そして、このmean-3SD以上、mean+3SD以下の範囲を判定基準(図3中*5で示す)とする。この際判定基準をmean-2SD以上、mean+2SD以下にすると正常型を変異として誤って判定しまう傾向が強くなり、また判定基準をmean-4SD以上、mean+4SD以下にすると、変異を正常型として誤って判定しまう傾向が強くなる。
【0035】
次に各正常型群に属するプローブオリゴDNAに対応する強度比について、これが先の判定基準(図3中の*5:mean-3SD以上、mean+3SD以下の範囲)から外れた場合、そのプローブに対応する部分を変異として判定する。より具体的には、算出された各塩基の強度比で1となった塩基と本来正常型である塩基が一致しない場合、変異(異常)として判定される。図3で具体的に説明すると、各プローブオリゴの強度比を見て、これが正常型の塩基から予測される各群の判定基準(図3中の*5:mean-3SD以上、mean+3SD以下の範囲)と合致している場合、変異がないと判定するが、合致しないプローブがある場合その部分を変異として判定する。図3では、プローブEx-37(T:0.401 C:0.745 A:1.000 G:0.868)では正常型がCなので、正常型C群の判定基準と一致すると予想されるが、実際には一致していない。また、プローブEx-39(T:1.000 C:0.420 A:0.180 G:0.600)では正常型がAなので、正常型A群の判定基準と一致すると予想されるが、実際には一致していない。このため、この部分が変異であると判定できる。
【0036】
以上の方法で遺伝子変異があるかないかの判定が可能であるが、変異があるとして判定された場合において、場合によっては次の解析ステップで変異の特定を行うことも可能である。すなわち、正常型からの変異として判定された場合において、変異として判定したプローブ部分の各塩基の強度比が正常型A,T,G,Cでの他の塩基の判定基準と一致する場合、その塩基への変異と特定するステップをさらに含めることも可能である。
【0037】
すなわち、変異として判定したプローブ部分の各塩基の強度比が正常型A,T,G,Cでの他の塩基の判定基準と一致する場合、その塩基への変異と特定することが可能である。図3では、プローブEx-39の強度比が正常型A群の判定基準と一致しなかった、そこで、他の正常型の判定基準、つまり正常型A群、正常型T群、正常型G群の判定基準と見比べる。ここにおいて正常型T群の判定基準と一致するため、Tへの変異と特定できた。また一方、プローブEx-37の強度比が正常型C群の判定基準と一致しなかった、そこで、他の正常型の判定基準、つまり正常型A群、正常型T群、正常型G群の判定基準と見比べる。ここにおいては一致しなかったため他の変異と判断された。
【0038】
以上のEx-37のようなこの場合、正常型A,T,G,Cで強度比の平均値(mean)から各2塩基間の平均値を算出し、この算出値を基準としてヘテロ型の変異を特定することが可能である。すなわち、本発明の方法は、正常型からの変異として判定された場合において、変異として判定したプローブ部分の各塩基の強度比が正常型A,T,G,Cでの他の塩基の判定基準と一致しない場合、正常型の塩基配列においてA,T,G,Cに対応するプローブ毎の強度比の平均値から各2塩基間の平均値を算出し、それぞれの組み合わせにおいて最大値を1として比率を計算し、この比率と判定すべきプローブの強度比との差を基準としてヘテロ型の変異を特定するステップをさらに含むものであってもよい。
【0039】
具体的な方法を図4に示す。当該プローブで期待される塩基(Ex-37の場合C)と残り3つの塩基とのヘテロ接合型の変異と考え、2つの塩基のそれぞれの平均比率の和を求め、最大値を1として比率を計算し(図4中略号、B1,B2,B3,B4)、その和を当該スポットでの比率の和から差引き(図4中略号、C1,C2,C3,C4)、平均値(4で除する)を求める(図4中、略号Z1:(R−B1)/4、略号Z2:(R−B2)/4、略号Z3:(R−B3)/4、略号Z4:(R−B4)/4)。この値の絶対値が最小である塩基の組み合わせが、その部位でのヘテロ接合型の変異であると特定する(Z1の場合C+C、Z2の場合C+T、Z3の場合C+A、Z4の場合C+G)。図4においては、Z4の絶対値が最小であったため、RAF1-Ex17-37で検出した部位の変異はC+Gのヘテロ接合型の変異と判定された。
【0040】
以上の方法でDNAチップにより1塩基伸長法で検出されたデータから判定、特定を行うことにより、リシークエンシングにおける塩基異常を簡便かつ正確に検出することが出来、この方法を診断などに活用することにより、疾患に関する有用な情報を得ることが出来る。
【0041】
なお、本発明が提供する遺伝子変異の検出方法は遺伝子配列解析の中でリシークエンシング用途に使用されるのに好適なものであり、特にリシークエンシングで解析が求められるゲノムDNA上の領域とは疾患にかかわる原因遺伝子の活性ドメインであり、そのドメイン中に30塩基あたりで2箇所以上の変異が報告されているような領域であり、連続して30塩基を超える領域を好対象とし、さらに200塩基を超える領域において性能を発揮する。
【0042】
以上のようなリシークエンシングにおける遺伝子変異の検出法の対象疾患としては、例えば、QT延長症候群があげられる。この疾患は心臓に器質的疾患を持たないにもかかわらず立ち眩みや失神、突然死を生じる疾患で、心電図上でQTの延長、異常T波、多形性心室頻拍を認める病態である。臨床的には先天性QT延長症候群(LQT)と二次性(後天性)LQTに分類される。先天性LQTの大部分、後天性LQTの一部は遺伝子解析によってイオンチャネル病として説明可能な病気となってきている。その主たる原因遺伝子はKVLQT1(KCNQ1)遺伝子(LQT1、GenBank Accession No.NG_008935)、HERG(KCNH2)遺伝子(LQT2、GenBank Accession No.NG_008916)、SCN5A遺伝子(LQT3、GenBank Accession No.NG_008934)で、LQT1とLQT2はそれぞれ40%前後の頻度を占めている。LQT1は水泳や潜水、マラソンなどの運動により発作が誘発される例が多い。LQTの原因となる変異は、KVLQT1遺伝子(LQT1)のほぼ全域にわたっているが、エクソン6、7、8にはより多くの変異が報告されている。このため、この領域のゲノムDNA上の配列を本発明により解析することにより、将来的に起こる疾患の可能性を判定することが出来、非常に有用な情報を提供することが出来る。
【0043】
また例えば、ヌーナン(Noonan)症候群は、さまざまな身体的異常を引き起こす先天異常症候群で、日本では1万人に1人程度の罹患(りかん)率と見なされ、軽度の症状の場合は見過ごされている可能性がある。アメリカでは、1000〜1500人に1人の罹患率とされ、先天異常症候群の中では最も多いとされている。症状として、低身長、心臓の異常、発達遅滞のほか、外見上の異常として特異的顔貌、翼状頸などがみられる。先天性の心臓疾患は発症者の50〜80パーセントに認められ、形成不全を伴う肺動脈弁狭窄(きょうさく)や肥大型心筋症が出生後、または乳幼児期に見つかる。約半数の症例でPTPN11(GenBank Accession No.NG_007459)に変異が同定されており、その他にRAF1(GenBank Accession No.NG_007467)、SOS1(GenBank Accession No.NG_007530)、KRAS(GenBank Accession No.NG_007524)にも関連する変異が認められている。診断は、主要な症状により行なわれるが、近年の検査技術の進歩により、遺伝子レベルで診断できるようになり、早い時期からの疾患特性に応じた生活指導も行われている。ヌーナン症候群に検出されるRAF1遺伝子の変異は、肥大型心筋症との関連が報告されている。このためPTPN11やRAF1などのゲノムDNA上の疾患に関連する特定遺伝子領域の遺伝子配列を本発明により解析することにより疾患に関する有用な情報を得ることが出来る。
【0044】
以上のような本発明の解析のために使用するサンプル(検体)は生体などから抽出されたゲノムDNAあるいはRNAをそのまま用いても良いし、そのゲノムDNAあるいはRNAを鋳型にしてcDNAにした逆転写産物、あるいはPCR産物を使用しても良い。PCRにおいては検出の対象とする特定領域のエクソンを挟み込む形でPCRを行い、これにより増幅された断片をサンプルとして使用して検出を行う。ここで使用するゲノム由来のDNAはその後の検出工程においてDNAチップ上のプローブDNAとハイブリダイズをさせる必要がある点から1本鎖を主体としたものであることが好ましい。2本鎖のDNAを一本鎖にする方法としては熱処理をする方法、アルカリ処理する方法、酵素処理する方法など様々な方法があるが、特にPCRにおける正方向(Forward)と逆方向(Reverse)プローブの比率をかえて行う非対称PCR(asymmetric PCR)を行うことが好ましい。非対称PCRを行う際には正方向と逆方向のPCRプローブの比率1:2〜1:10であることが好ましく、より好ましくは1:2、5〜1:5である。また、正方向プライマーとして5’-末端がビオチン化したものを用い、ビオチンとアビジン(ストレプトアビジン)の反応性を利用した精製方法、例えば、アビジンコートの磁気ビーズを使用する方法により二重鎖DNAを除去することにより増幅産物を一本鎖のDNAを主体に精製することも可能である。またPCR産物から不純物を除去する方法としてシリカメンブレンなどを用いたカラムによって精製しても良い。
【0045】
また、ゲノムDNAは組織、血液、唾液、細胞などから抽出することが出来るが、容易さから考えて特に血液から抽出することが好ましい。ゲノムDNAの抽出は、DNAを含む細胞核の分離と核膜や核タンパク質のタンパク質分解酵素(プロテイナーゼ K)による分解と除去のステップからなる。様々な方法が利用可能である。核膜や核タンパク質の分解物や脂質などの除去に、1)フェノール/クロロホルム抽出、エタノール沈殿、2)ヨウ化ナトリウムによる可溶化、イソプロパノール沈殿、3)シリカメンブレンへの吸着、洗浄、溶出などの方法が用いられる。プロレイナーゼKを用いない方法もある。
【0046】
上記のDNAチップ上の検体とプローブDNAとの反応においては、反応液中に酵素、緩衝溶液、塩、硫酸マグネシウム(MgSO4)、牛血清アルブミン(BSA)などの反応を促進する、あるいは非特異な反応を防ぐための添加物が添加されていることが好ましい。さらに、それぞれ蛍光色素によって標識された4種類のジデオキシヌクレオチド(ddNTP)塩基を含んだ状態で、一塩基の伸長反応を行う。具体的には、MgSO4 [2.5mM]、BSA [0.005%]、SNaPshot (Applied Biosystems社)を含む反応である。
【0047】
さらに反応の際にはハイブリダイゼーション反応を促進することが好ましく、例えば溶液中にビーズが添加され、振とう機で振とうすることによりビーズを動かし、溶液の攪拌を行うことにより反応を促進することも可能である。このような振とう方法としては、例えば、DNAチップを振とう機に水平に固定し、振とう機を200〜300rpmで回転運動させるなどにより達成することも可能である。反応温度は上記でプローブのオリゴDNAを設計する際に用いたTm値の範囲で反応させることが好ましい。反応時間は30分以内で反応させることが好ましく、より好ましくは15分以内である。
【0048】
反応後、不要な反応液の組成物を洗浄液により洗い流す。洗浄は特に限定されないが、例えば室温で、0.5×SSC溶液による5分間の洗浄を含むことができる。ここで、0.5×SSCは、75mM塩化ナトリウム及び7.5mMクエン酸ナトリウムを含む溶液(pH7.2)である。
【実施例】
【0049】
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1] KVLQT1遺伝子のエクソン7特定領域のリシークエンシングチップ
プローブDNAの設計とDNAチップの作製
LQT1の原因遺伝子KVLQT1のエクソン7中でも多くの変異が報告されている11塩基の変異部位についてリシークエンシングを行なうために配列表中の配列番号1〜46に示す配列を有するプローブオリゴDNAを合成した。これをDNAチップ“3D-Gene”(東レ株式会社製)の基板表面に固定した。このDNAチップは柱状構造を持つ黒色基板のDNAチップであり、プローブオリゴDNAを柱状構造に固定する。また、柱状構造の底部にビーズが配置されており、反応の際にビーズで攪拌することが可能である。
【0051】
検体調製のための非対称PCR
全血から抽出したゲノムDNAを用いKV-Ex7aF(正方向: gctccagtcccatccgtggctg)とKV-Ex7R(逆方向: CCCCAGGACCCCAGCTGTCCAA)のプライマーを用いて、10 ng/μLのゲノムDNAを1.0μL、10 x AccuPrime Buffer(Invitrogen社)2.5μL、2μMの正方向プライマーを0.5μL、10 μM逆方向のプライマーを0.5μL、 AccuPrime Taq Pol(Invitrogen社)を0.25μL、水20.25μLを混合しPCR組成液を調整したのち、PCR条件として、[94 ℃, 20 sec]→[60 ℃, 20 sec]→[68 ℃, 30 sec]を45サイクル回す条件で非対称PCRを行い、シリカメンブレンカラム(QIAquick PCR purification kit; QIAGEN社)で精製し、検体を調製した。
【0052】
DNAチップ上での一塩基伸長反応
精製した非対称PCR産物20 ngとMgSO4 [50mM]2μL、BSA [0.1%]2 μL、SNaPshot(Applied Biosystems社) 20 μLを混合して反応液とし、これを上記で作製したDNAチップにアプライし、250rpmで攪拌しながら、60 ℃で30 分反応した。反応後、0.5 x SSPE溶液で、55℃で5 分洗浄を行った。
【0053】
検出および解析
反応後洗浄したDNAチップをスキャナーとしてGenePix4200A(Axon社製)を使用して、621nm(Tに対応)593nm(Cに対応)、563nm(Aに対応)、530nm(Gに対応)の波長でそれぞれ検出した。スポット毎に得られた4種のシグナル強度からブランクの平均値を差引いた後、4種類のシグナル強度のうち最も高いものを1として強度比を算出し、正常型各塩基の判定基準を決定した。
【0054】
解析結果
サンプル検体 1(4回測定)から4を用いて実験、解析を行なった。全てのサンプル検体の結果(強度比)を使用して判定基準を決定し、判定基準に従い、変異の判定、特定を行った。図5中に各塩基の判定基準ならびにKVLQT1遺伝子の塩基番号(プローブ名)937(A)、938(T)、939(C)、940(G)、941(G)、942(C)、943(T)、944(A)、945(T)、946(G)、947(G)の各塩基(()内は正常型)について判定を行った結果を示す。938番目の塩基がT/Aの、検体2と3において944番目の塩基がA/Gの、検体4において940番目の塩基がG/Aの、それぞれヘテロ接合体変異であると判定、特定された。実際それぞれの検体についてシークエンサーでの配列解析を行ったところこれらの変異が確認され、この手法の正確性が確認された。
【0055】
[実施例2] ヌーナン症候群の原因遺伝子RAF1のリシークエンシングチップ
プローブDNAの設計とDNAチップの作製
RAF1遺伝子の変異部位に基づき、配列表中の配列番号47〜286に示すようなプライマーオリゴDNAの配列をデザインし、実施例1と同様にDNAチップを作製した。
【0056】
非対称PCR
Raf1-Ex07F(正方向: Biotin-agacttcaccagtatgaaagcc)とRaf1-Ex07R(逆方向: acctcaccccattaattgactg)、Raf1-Ex14F2(正方向: Biotin-gaccattcttttgaaaccagagtcc)とRaf1-Ex14R3(逆方向: taagtttgcacataaatctccaaggc)およびRaf1-Ex17F4(正方向: Biotin-GGTTCGTAAAGATGGCAATATAA)とRaf1-Ex17R6(逆方向: GCGTGCAAGCATTGATATCCTC)のプライマーを用い、ゲノムDNA [50 ng/μL] 2.0μL、 10 x AccuPrime Buffer(Invitrogen社)5.0μL、 Bio-Raf1-Ex07F [2 μM] 2.0μL、Raf1-Ex07R [10 μM] 4.0μL、Bio-Raf1-Ex14F2 [2 μM] 2.0μL、 Raf1-Ex14R3 [10 μM] 4.0μL、Bio-Raf1-Ex17F4 [2 μM] 3.0μL、Raf1-Ex17R6 [10 μM] 4.0μL、 AccuPrime Taq Pol(Invitrogen社)0.6μL、H2O 25.4μLのPCR組成物で、PCR 条件、[94 ℃, 30 sec]→[57 ℃, 30 sec]→[68 ℃, 40 sec]を40サイクルで回してPCRを行った、PCR産物を、磁気ビーズ、Dynabeads MyOne Streptavidin C1 (Invitrogen社)を用いてビオチン化したDNAを除去した後、さらにシリカメンブレンカラムNucleoSpin Extract II kit (MACHEREY-NAGEL社)を用いて精製した。
【0057】
また、全血からの非対称PCRも可能であり、全血 1.0μL、2 x AmpDirect Plus(Shimadzu) 25.0μL、Bio-Raf1-Ex07F [2 μM] 2.0μL、Raf1-Ex07R [10 μM] 4.0μL、Bio-Raf1-Ex14F2 [2 μM] 2.0μL、Raf1-Ex14R3 [10 μM] 4.0μL、Bio-Raf1-Ex17F4 [2 μM] 3.0μL、Raf1-Ex17R6 [10 μM] 2.0μL、AccuPrime Taq Pol (Invitrogen社) 0.6μL、H2O 6.4μLのPCR組成物を、PCR 条件 [94 ℃, 30 sec]→[57 ℃, 30 sec]→[68 ℃, 40 sec] を45サイクル回してPCRを行った。PCR産物の精製は前記と同じ条件で行った。
【0058】
DNAチップ上での一塩基伸長反応
精製非対称PCR産物 140ng、MgSO4 [50mM] 3.2 μL、BSA [0.1%] 2.0 μL、SNaPshot(Applied Biosystems社)25 μLを混合して反応液とし、これを上記で作製したDNAチップにアプライし、250rpmで攪拌しながら、60℃で15分反応した。反応後、0.5 x SSPE溶液で室温5 分間洗浄を行った。
【0059】
検出および解析
反応後洗浄したDNAチップをスキャナーとしてGenePix4200A(Axon社製)を使用して、621nm(Tに対応)593nm(Cに対応)、563nm(Aに対応)、530nm(Gに対応)の波長でそれぞれ検出した。スポット毎に得られた4種のシグナル強度からブランクの平均値を差引いた後、4種類のシグナル強度のうち最も高いものを1として表し、そのパターンから塩基の種類を決定した。
【0060】
解析結果
図6、図7、図8、図9に、ヌーナン症候群の患者(検体A)由来ゲノムの正常型各群に対するリシークエンシングの結果を示す。RAF1遺伝子のエクソン7、14、17の各領域の増幅を、ビオチン化プライマーを用いたマルチプレックスPCRで行い、精製後、一塩基伸長反応を60℃と63℃で行なったものである。予めシークエンサーによって確かめられているRAF1-Ex7-93部位にc/tの変異が正確に捕らえられている。
【0061】
図10、図11、図12、図13には、ヌーナン症候群の患者(検体B)由来ゲノムの正常型各群に対するリシークエンシングの結果を示す。予めシークエンサーによって確かめられているRAF1-Ex17-37部位にC/gの変異が正確に捕らえられている。
【0062】
図14、図15、図16、図17は、ヒト健常人の全血1μLを直接RAF1のエクソン7、14、17領域の非対称PCRを個別で行なってシリカメンブレンカラムで精製したDNAを40ngずつ混合して行なった正常型各群に対するリシークエンシングの結果を示す。正常型の健常人のため変異は検出されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の方法により、迅速、正確に生体由来のゲノムDNA上の疾患に関連する特定領域の塩基配列を検定することによって、ゲノムDNA提供者の健康状態及び疾患の有無、疾患の原因あるいは発症しうる(発症予知)疾患を容易に診断、推定することができ、疾患特異的なゲノム上の塩基配列を確認するような疾患診断用に使用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検遺伝子の変異の検出方法であって、
担体に固定されプライマーとして機能するプローブオリゴDNAと、被検遺伝子とをハイブリダイズさせるステップと、
互いに識別可能な異なる信号を発する標識で4種類の塩基をそれぞれ標識した4種類のddNTPの存在下で一塩基伸長を行うステップと、
伸長された塩基の標識からの信号強度を、4種類の塩基について測定するステップと、
強度の中から最大値を決定し、最大値を1として各塩基の強度比を算出するステップと、
得られた各塩基の強度比から、遺伝子変異を判定するための基準値として、正常型の塩基配列においてA,T,G,Cに対応するプローブ毎に各塩基の強度比の平均値(mean)と標準偏差(SD)の算出を行うステップと、
各プローブオリゴDNAにおいて算出した4種類の塩基に対応する強度比が正常型に対応する判定基準の範囲から外れる場合、そのプローブに対応する部分を正常型からの変異として判定するステップであって、該判定基準は、mean-3SD以上、mean+3SD以下の範囲を正常型の判定基準とするステップとを含む、遺伝子変異検出方法。
【請求項2】
強度の中から最大値を決定し、最大値を1として各塩基の強度比を算出するステップから最終のステップは、コンピューターにより行う請求項1記載の方法。
【請求項3】
4種類の標識が、それぞれ蛍光波長が異なる蛍光標識である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
一塩基伸長は、複数の塩基について行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
正常型からの変異として判定された場合において、変異として判定したプローブ部分の各塩基の強度比が正常型A,T,G,Cでの他の塩基の判定基準と一致する場合、その塩基への変異と特定するステップをさらに含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
正常型からの変異として判定された場合において、変異として判定したプローブ部分の各塩基の強度比が正常型A,T,G,Cでの他の塩基の判定基準と一致しない場合、正常型の塩基配列においてA,T,G,Cに対応するプローブ毎の強度比の平均値から各2塩基間の平均値を算出し、それぞれの組み合わせにおいて最大値を1として比率を計算し、この比率と判定すべきプローブの強度比との差を基準としてヘテロ型の変異を特定するステップをさらに含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
一塩基伸長により伸長する検出領域が、疾患に関わる遺伝子配列領域である請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
疾患がQT延長症候群又はNoonan症候群である請求項7記載の方法。
【請求項9】
原因遺伝子がKVLQT1遺伝子、HERG遺伝子、SCN5A遺伝子、Raf1遺伝子、PTPN11遺伝子、SOS1遺伝子又はKRAS遺伝子である請求項8記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2011−193732(P2011−193732A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60456(P2010−60456)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度文部科学省科学技術総合研究委託事業「戦略的研究拠点育成 国際統合医療研究・人材育成拠点の創成(東京女子医科大学)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591173198)学校法人東京女子医科大学 (48)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】