説明

ゲル微粒子層が形成された基材の接着方法

【課題】 それ自身では接着機能を持たない材料を基材上に形成し、接着必要時にやはりそれ自身では接着機能を持たない微粒子材料を上記層間に介在させることにより強い接着力が発現するような新しい接着システムを提供する。
【解決手段】 分子中にカチオン基を有する高分子を構成成分とする有機ゲルの微粒子を基材に塗布し、有機カチオンゲル層を形成し、その有機カチオンゲル層間にアニオン性の微粒子を介在させることにより基材を接着する新しい接着方法。同法において、有機ゲルが水を含有したヒドロゲルである場合や、アニオン性の微粒子の平均粒経が1nm以上1000nm以下である場合に特に効果が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的または物理的に架橋され、溶媒を含有している主に有機成分よりなる架橋ネットワーク体、すなわちゲルを微粒子化し、それを基材の上にゲル微粒子層として形成し、そのようにゲル微粒子層を形成した基材同士(同一基材でも、別の基材でもかまわない)のゲル微粒子層同士を向かい合わせ、ゲル微粒子層の間にアニオン性の微粒子を介在させることにより、基材同士を接着する基材の接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二つの面を合わせ、その面を接着させる技術の重要性はあらためて述べるまでもない。接着現象の実用化がなければ、現代社会は成り立たないといっても過言ではない。接着現象を発現させるための具体的な様態は、大きく二つに分けられる。第1の方法は接着させる基材にあらかじめ接着を発現する機能を付与しておく方法であり、例えば、切手のように湿潤させることで接着力を発現する接着層を紙の表面に塗布形成しておく方法である。第2の方法は、接着させる基材同士の間に、接着の機能を有する層を接着必要時に形成する方法であり、この代表的な例はいわゆる接着剤による基材の接着作業である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
第1の方法は、接着時に接着のための接着機能を持った材料、すなわち接着剤の準備が不要であり、簡便な方法である。しかし、接着の機能を発現する層が、必要時以外にもその機能を発揮することを避けるのはなかなか困難であり、前述の切手の場合も、接着面に不用意に水がついたり、高湿環境に放置しておくと切手同士がくっついたり、他の材料にくっついたりして、ひどいときは切手が使えなくなってしまう。
【0004】
一方、第2の方法は、接着時にのみ接着剤を塗布するため前述の問題は避けられる。しかし、接着剤自体が接着機能を持つため、往々にして基材を選ばないで接着機能を発現し、意図しない基材や基材の意図しない部分を不必要に接着してしまう事故、あるいは周囲の接着剤による汚染がおきやすい。また、溶剤系の接着剤では、作業者に健康上の問題を与えることもおきうる。
【0005】
これらの問題を解決するひとつの方法としては、例えば、それ自身では接着機能を持たない材料Aを基材上に形成し、接着必要時にやはりそれ自身では接着機能を持たない材料Bを材料A同士の間に介在させることにより強い接着力が発現するようなシステムが考えられる。しかし、現実にはなかなかそのようなシステムを実現するのは困難なことであった。
【特許文献1】特開平7-15799号公報
【非特許文献1】鈴木、坂井、吉田 Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 917-920
【課題を解決するための手段】
【0006】
今回、この課題を実現するべく鋭意研究を重ねた結果、以下のような手段により、課題が解決することを発見した。すなわち、本発明の第1の発明は、基材上に、分子中にカチオン基を有する高分子を構成成分とする有機ゲルの微粒子層が形成され、同一基材上または別の基材上に形成された当該ゲル微粒子層同士を向かい合わせ、その間に、アニオン性の微粒子を介在させることにより、有機ゲルの微粒子層が形成された基材を接着する基材の接着方法である。
【0007】
本発明の第2の発明は、上記の有機ゲルが水を含有したヒドロゲルであることを特徴とする接着方法である。本発明の第3の発明は、上記の有機ゲルの微粒子の平均粒径が1mm未満であることを特徴とする基材の接着方法である。本発明の第4の発明は、有機ゲルの微粒子層が、有機ゲルのバルク体を機械的に分散して得られる分散液を基材に塗布して得られることを特徴とする基材の接着方法である。そして本発明の第5の発明は、アニオン性の微粒子が、コロイダルシリカであることを特徴とする基材の接着方法である。
【0008】
ゲルを接着に応用するという試みは本発明が初めてではない。
特開平7-157999号公報(特許文献1)では、イオン性の水溶性または水分散性高分子を紙の間に接着剤として塗布することで、2層以上の抄き合せ紙を製造する方法を公開している。しかし、この方法はまず接着にゲル粒子とは別の微粒子を介在させると言う本発明の骨子の考え方に対しては記載も示唆もない。さらに実施形態は、先に記した接着現象を発現させるための具体的な様態の第2の方法であり、本発明の課題を解決する上では全く効果のないものである。さらに、特開平7-157999号公報の実施例を見る限り、実質的にはゲル(「あらゆる溶媒に不溶の3次元網目構造を持つ高分子およびその膨潤体」と定義される(新版高分子辞典(1988))ではなく、水溶性の高分子化合物を対象としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えばまずカチオン基を分子内に含む水溶性モノマー(例えばジアリルアミン塩酸塩)と必要に応じて物性を改良するための中性水溶性モノマー(例えばアクリルアミド)および架橋剤(例えば、メチレンビスアクリルアミド)を所定量水に溶かし、重合開始剤(例えば過硫酸アンモニウム)を添加し、加熱することにより、ハイドロゲルを得る。これを水で膨潤させつつ、水を交換することで洗浄する。洗浄後のゲルを(例えばホモミキサーによりせん断力を加えることにより)機械的に分散し、ゲルの分散液を得る。この分散液を基材(例えば紙)に塗工することで、潜在的接着機能を持った紙が得られる。この紙を適切な大きさに切断し、一方の塗工面に少量のコロイダルシリカ(例えば、日産化学製スノーテックス)水分散液を薄く塗布し、もう一枚の紙の塗工面を合わせ圧着する。コロイダルシリカ分散液の水がゲルに吸収されるとともに接着力が発現し、十分乾燥した後は、剥離をすると、抵抗力は著しく強く、基材破壊を起こすような強度で接着していることがわかる。潜在的接着機能を持った紙の塗工面は、粘着性などのべたつきは全く示さない。また、コロイダルシリカの代わりに水を塗って接着を試みても接着現象は起きず、2枚の紙は容易に剥がれてしまう。このように本発明を用いれば、潜在的接着能力を持った紙は扱いやすく、高湿がかかっても水が誤ってついても接着現象は起きず、接着現象を起こしたいときには、それ自身にべたつきや接着性の全く無いコロイダルシリカ液を少量塗布するだけで、一転して基材破壊が起きるような強固な接着を実現できるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に使用できる、ゲルについて説明する。
まず、ポリカチオンゲル(カチオン基を分子中に有する高分子のゲル)について説明する。
最も一般的には、分子中に重合可能な官能基、例えばビニル基を有し、同一分子中に1級、2級、3級アミノ基(それぞれプロトン化してアンモニウム基として使用)や4級アンモニウム基を含むモノマーを、そのモノマーと反応して架橋反応を起こす架橋剤とともに溶媒(例えば水)中または無溶媒で反応の開始剤とともに反応させ、化学的に架橋したゲルとして得ることが出来る。このときカチオン基を有するモノマーは1種類だけを用いる必要は無く、2種類以上を用いてもいいし、また、カチオン基を有するモノマー、架橋剤に加えて、広範囲の条件で中性な性能を示すモノマーや、少量であれば、アニオン性の性格を示すモノマーを加えてもかまわない。
これらのアミノ型、または4級アンモニウム型モノマーの例としては、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピルメタクリレート、アリルアミン、N-メチルアリルアミン、ジアリルアミン、N-メチルジアリルアミン、N,N-ジメチルアリルアンモニウム塩酸塩、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、メタクロイルコリンクロリド、ビニルピリジンなどを挙げることができる。またN−ビニルホルムアミドのように重合反応後アミノ基や置換アミノ基、さらには4級アンモニウム基に変換できるモノマーもこれに含まれる。
【0011】
中性な性能を示すモノマーとしてはアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドのようなアクリルアミドおよびその誘導体、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ビニルピロリドンなどをあげることができる。
【0012】
アニオン性の性能を示すモノマーとしては、アクリル酸(のアルカリ金属塩)、メタクリル酸(のアルカリ金属塩)、ビニルベンゼンスルホン酸(のアルカリ金属塩)、ビニルナフタレンスルホン酸(のアルカリ金属塩)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(のアルカリ金属塩)などをあげることが出来る。
これらのモノマーを溶媒(例えば水)に必要量溶解し、そこに架橋剤として従来から公知のN,N'-メチレンビスアクリルアミド、N,N'-プロピレンビスアクリルアミド、ジ(アクリルアミドメチル)エーテル、1,2−ジアクリルアミドエチレングリコール、1,3−ジアクリロイルエチレンウレア、エチレンジアクリレート、N,N'-ビスアクリルシスタミンなどの二官能性化合物や、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの三官能性化合物を所定量添加し、さらに重合反応の開始剤として、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物、例えばVA−044、V−50、V−501(いずれも和光純薬工業株式会社製)を加え、加熱することにより所望のゲルを得ることが出来る。過酸化物を開始剤に用いた場合は、加熱ではなく触媒として、3級アミン化合物であるN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミンや、β−ジメチルアミノプロピオニトリルなどにより重合反応を開始することも出来る。
【0013】
重合温度は、重合触媒や開始剤の種類に合わせて0℃〜100℃の範囲で設定できる。重合時間も触媒、開始剤、重合温度、重合溶液量(厚み)など重合条件によって異なり、一般に数十秒〜数時間の間で行える。
このようにして得られたバルクのゲル体については、そのままの形で次のステップに用いることもできるが、少量の未反応モノマーなどを除去するために、イオン交換水などに1日から数日間つけて、その間、水を交換し洗浄するのが好ましい。
【0014】
次にゲル分散物の調成方法であるが、ひとつは前述のゲル合成時にイオン性モノマー必要に応じて中性モノマー、架橋剤、開始剤を溶解した溶液を例えば吉田らの方法(非特許文献1)で、微小ゲル粒子体を得ながら重合するミクロゲル合成法によるものである。
もうひとつの方法は、前述のゲル合成をバルク状態で行い水洗いしたあるいは水洗いしないゲルを、ホモジナイザーなどを用いて機械的に分散する方法である。
【0015】
いずれの方法においても、ゲルは膨潤した状態で平均粒径が1mm以下に分散されている微粒子状態であることが好ましく、500μm以下がより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。平均粒径が1mmを越えるとそのような分散液を基材に均一に塗工することが困難であり、かつ塗工された塗工層の表面状態はざらついており、接着を試みた場合の密着性に欠け、十分な接着強度も出ない。また、下限値は特に必要ではないが、製造の困難さや安定性から、1μm以上が実用的である。
【0016】
機械的に分散する方法については、ゲルが、望ましくは短時間に均一に分散されるのに必要なせん断力を提供する分散機を用いることにより実現される。例えば、通常の攪拌機、オートミキサー、ホモジナイザー分散機、カウレス分散機などを挙げることができる。
【0017】
次に、このようにして得られたゲルの接着に用いるアニオン性微粒子であるが、表面がアニオン性に帯電しており、ゲルに含有されている同一溶媒あるいは完全に混じりあう溶媒中に安定して分散されている必要がある。粒子の平均サイズは1nmから11000nmが好ましく、1nmから100nmが特に好ましい。
具体的には、粒子の安定性、均一性といった性能面からも、また、工業的に多品種が大量に製造されているため、入手しやすく、種類が多数選択できるといった使いやすさの面からも、価格の面からもアニオンシリカがもっとも好ましい。
【0018】
より具体的には例えば日産化学工業株式会社製のスノーテックスシリーズをあげることができる。水分散系では、ST-XS(平均粒経4〜6nm)、ST-S(平均粒経8〜11nm)、ST-20(平均粒経10〜20nm)、ST-20L(平均粒経40〜50nm)、ST-YL(平均粒経50〜80nm)、ST-ZL(平均粒経70〜100nm)をあげることができる。この中でもST-XS、ST-Sのような平均粒経の小さいもののほうが強い接着強度を示す傾向がある。接着強度を調整するために、これら粒径の異なる微粒子を混合して使用することもできるし、他の微粒子を少量混合して用いることもできる。また必要に応じて、本発明の効果を減じない範囲において、従来公知の水溶性、または溶媒可溶性のカチオンポリマー、アニオンポリマー、非イオン性ポリマーを加えることもできる。
【0019】
これらの分散液を塗布する方法も従来公知の方法を用いることで差し支えない。塗工バーや塗工ブレードによる塗工、エアナイフコーターによる塗工、スプレー式の塗布、刷毛やブラシを使った塗工などが例としてあげることができる。塗工量は微粒子固形分換算で0.1g/mから10g/m程度が好ましい。0.1g/m未満の塗工量では十分な接着強度が得られない場合もありまた10g/mを超える塗工量では接着強度は改善しないばかりか、かえって弱くなる場合も見受けられる。この範囲の中でも1g/mから5g/m程度が特に好ましい。
【0020】
つぎにカチオンゲル微粒子層を形成する基材であるが、セルロース繊維を主成分としてなるいわゆる紙、合成繊維をシート状に成型した不織布、天然または合成の繊維を編むことによって得られる布など従来公知の基材が幅広く用いられる。これらシートが、さらに顔料を含有していたり、表面に種々の材料が塗工されていてもかまわない。紙においては、表面の微細繊維間のすき間やセルロース繊維の持つアニオン性が、カチオンゲル微粒子を強固に保持するのに有効である。また不織布や布の場合も表面の繊維で形成される繊維間のすき間が、ゲル微粒子を保持するのに有効であるが、ゲル微粒子を保持する力が不足の場合は、あらかじめアニオンシリカのようなアニオン性微粒子を塗布したり、含侵させたりすることで、ゲル微粒子の保持力は大きく向上する。また、繊維自体をアニオン性にしたり、表面処理された繊維を使用しても良い。
【0021】
接着のメカニズムについては必ずしも完全には理解できてはいないが、ドライビングフォースの重要なものは、二つのゲル微粒子からなる層の界面近傍に存在する多数のカチオン基と、主に界面を中心に分布する微粒子上の多数のアニオン基の電気的な引力的相互作用であると思われる。アニオン性微粒子の粒子径が小さすぎる場合、微粒子はゲルの網をすり抜けて、ゲル内に拡散し、界面での接着という機能を失う。微粒子の極端な場合としての多価アニオン原子団(二価のスルホン酸基:SO42-など)の介在では、接着現象は生じない。逆に微粒子が大きすぎる場合、密着のためにゲルは変形を強制され、十分な接着保持力が生まれないものと考えている。したがって、微粒子の大きさとゲルネットワークの大きさには相対的な接着最適の関係が存在するものと考えられる。
【実施例】
【0022】
次いで、本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
【0023】
<ゲル塗布基材1の調成と接着試験>
(カチオン性ポリマーゲル1の合成)
NRK社製の凍結用アンプルにアリルアミン塩酸塩(東京化成工業株式会社より購入)0.75g(モノマーとして0.8×10-2mol)とアクリルアミド(東京化成工業株式会社より購入)1.14g(モノマーとして1.6×10-2mol)をとり、ミリポア水16gを加えよく混じり合わせ、ここに0.019gのN,N’−メチレンビスアクリルアミド(1.2×10-4mol、架橋剤、東京化成工業株式会社より購入)を溶解した。この溶液に別途1gのミリポア水に溶解したペルオキソ二硫酸アンモニウム0.027g(1.2×10-4mol、ラジカル重合開始剤)を加えた。アンプルを窒素ラインにつなぎ、減圧、窒素置換の操作を10回繰り返した。その後70±1℃に調整したシリコンオイルバス中に3時間つけ、ゲル濃度約10%のゲル18gを得た。その後、当該ゲルを、十分な量のイオン交換水につけ、定期的に水を代えながら2日間浸漬した。浸漬洗浄操作後のゲル重量は45gとなった。
【0024】
(カチオン性ポリマーゲル分散液1の調成)
上記ゲル45gにイオン交換水55gを加え、TKオートホモミキサーで回転数3000から4000rpmで30分間分散操作を行なった。その結果、ゲル粒子が均一に分散したやや粘ちょうのゲル微粒子分散液100gを得た。顕微鏡画像解析装置の組み合わせユニットによりゲル微粒子の平均粒径を測定したところ、約7μmであった。
【0025】
(ゲル塗布基材1の調成)
上記ゲル微粒子分散液を坪量70g/mの上質紙に、塗工バーを用いてウエット塗工量が30から40g/mになるように塗工し、熱風乾燥させ、ゲル微粒子層を形成した。
【0026】
(ゲル塗布基材1の接着試験)
(実施例接着試験1)
上記ゲル塗布基材1を幅1cmのスリット上に切り、そのスリット片を2枚用意した。その1面に、コロイダルシリカ分散液(日産化学製スノーテックスXS;無水ケイ酸換算濃度約20%)をガラス棒で薄く塗布した(分散液として約15g/m固形分で約3g/m)。塗布後、他の1片のゲル塗工面と相対させ、軽く圧力をかけて接着した。水分が基材に吸われ安定する3時間後に接着した2片を使い、T 字型の剥離試験を行なった。
剥離試験の結果は以下のように評価した。
◎:剥離が非常に重く、剥離面を観察すると全面に基材破壊が起こっている。
○:剥離が重く、剥離面を観察すると一部に基材破壊が起こっている
△:剥離がやや重く、剥離面を観察すると基材破壊は起こらず、ゲル間で剥離が起きている
×:剥離が軽いかまたは全く抵抗がなく、剥離面を観察すると基材破壊は起こらず、ゲル間で剥離が起きている
本実施例の剥離試験評価は◎であった。
【0027】
(実施例接着試験2)
上記実施例接着試験1と同様に操作を行なった。ただし、コロイダルシリカ分散液(日産化学製スノーテックスXS;無水ケイ酸換算濃度約20%)のかわりにコロイダルシリカ分散液(日産化学製スノーテックS;無水ケイ酸換算濃度約30%)をガラス棒で薄く塗布した(分散液として約12g/m固形分で約4g/m)。本実施例の剥離試験評価結果は○であった。
【0028】
(比較例接着試験1)
上記実施例接着試験1と同様に操作を行なった。ただし、コロイダルシリカ分散液(日産化学製スノーテックスXS;無水ケイ酸換算濃度約20%)のかわりにイオン交換水をガラス棒で塗布した(水として約20 g/m)。本比較例の剥離試験評価結果は×であった。
【0029】
(比較例接着試験2)
上記実施例接着試験1と同様に操作を行なった。ただし、コロイダルシリカ分散液(日産化学製スノーテックスXS;無水ケイ酸換算濃度約20%)のかわりに硫酸ナトリウムの20%水溶液をガラス棒で薄く塗布した(溶液として約15 g/m)。本比較例の剥離試験評価結果は×であった。
【0030】
<ゲル塗布基材2の調成と接着試験>
(カチオン性ポリマーゲル2の合成)
NRK社製の凍結用アンプルにジアリルアミン塩酸塩(東京化成工業株式会社より購入)0.67g(モノマーとして0.5×10-2mol)とアクリルアミド(東京化成工業株式会社より購入)0.71g(モノマーとして1.0×10-2mol)をとり、ミリポア水14gを加えよく混じり合わせ、ここに0.023gのN,N’−メチレンビスアクリルアミド(1.5×10-4mol、架橋剤、東京化成工業株式会社より購入)を溶解した。この溶液に別途1gのミリポア水に溶解したペルオキソ二硫酸アンモニウム0.023g(1.0×10-4mol、ラジカル重合開始剤)を加えた。アンプルを窒素ラインにつなぎ、減圧、窒素置換の操作を10回繰り返した。その後70±1℃に調整したシリコンオイルバス中に3時間つけ、ゲル濃度約10%のゲル15gを得た。その後、当該ゲルを、十分な量のイオン交換水につけ、定期的に水を代えながら2日間浸漬した。浸漬洗浄操作後のゲル重量は102gとなった。
【0031】
(カチオン性ポリマーゲル分散液2の調成)
上記ゲル102gにイオン交換水68gを加え、TKオートホモミキサーで回転数3000から4000rpmで30分間分散操作を行なった。その結果、ゲル粒子が均一に分散したやや粘ちょうのゲル微粒子分散液170gを得た。顕微鏡画像解析装置の組み合わせユニットによりゲル微粒子の平均粒径を測定したところ、約10μmであった。
【0032】
(ゲル塗布基材1の調成)
上記ゲル微粒子分散液を坪量70g/mの上質紙に、塗工バーを用いてウエット塗工量が40から50g/mになるように塗工し、熱風乾燥させ、ゲル微粒子層を形成した。
【0033】
(ゲル塗布基材2の接着試験)
(実施例接着試験3)
上記ゲル塗布基材2を幅1cmのスリット状に切り、そのスリット片を2枚用意した。その1面に、コロイダルシリカ分散液(日産化学製スノーテックスXS;無水ケイ酸換算濃度約20%)をガラス棒で薄く塗布した(分散液として約12g/m固形分で約2g/m)。塗布後、他の1片のゲル塗工面と相対させ、軽く圧力をかけて接着した。水分が基材に吸われ安定する3時間後に接着した2片を使い、T 字型の剥離試験を行なった。
本実施例の剥離試験評価は◎であった。
【0034】
(実施例接着試験4)
上記実施例接着試験3と同様に操作を行なった。ただし、コロイダルシリカ分散液(日産化学製スノーテックスXS;無水ケイ酸換算濃度約20%)のかわりにコロイダルシリカ分散液(日産化学製スノーテック20;無水ケイ酸換算濃度約20%)をガラス棒で薄く塗布した(分散液として約15g/m固形分で約3g/m)。本実施例の剥離試験評価結果は△であった。
【0035】
(比較例接着試験3)
上記実施例接着試験3と同様に操作を行なった。ただし、コロイダルシリカ分散液(日産化学製スノーテックスXS;無水ケイ酸換算濃度約20%)のかわりにイオン交換水を薄く塗布した(水として約20 g/m)。本比較例の剥離試験評価結果は×であった。
【0036】
(比較例接着試験4)
上記実施例接着試験3と同様に操作を行なった。ただし、コロイダルシリカ分散液(日産化学製スノーテックスXS;無水ケイ酸換算濃度約20%)のかわりに硫酸ナトリウムの20%水溶液をガラス棒で薄く塗布した(溶液として約15 g/m)。本比較例の剥離試験評価結果は×であった。
【0037】
<実施例のまとめ>
上記実施例に示されるように、カチオン基を持つゲル微粒子を塗布した紙基材同士はアニオン性のナノパーティクルにより強固に接着できる。一方、ナノパーティクルを含まない液で接着しようとした場合、帯電ナノパーティクルの代わりに多価イオンを含む液で接着しようとした場合は、接着はことごとく失敗した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
このように本発明の効果は明確であり、一般の基材の接着に広く応用できる。ゲルを塗った基材自体には粘りつきなどはなく、また水や溶剤を縫って圧着しても接着現象を生じない。しかし、それ自身は粘着性や接着性を示さないアニオン性微粒子を介在させると、ゲルを塗った基材同士は強固に接着する。微粒子層を形成した基材のハンドリングは容易で、他の材料や作業者に対する望まない接着性や汚染性を示さない。ゲルの種類や組成、微粒子の選択により接着強度を変更することも可能であり、産業上の利用分野は広い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、分子中にカチオン基を有する高分子を構成成分とする有機ゲルの微粒子層が形成され、同一基材上または別の基材上に形成された当該ゲル微粒子層同士を向かい合わせ、その間に、アニオン性の微粒子を介在させることにより、有機ゲルの微粒子層が形成された基材を接着する基材の接着方法。
【請求項2】
有機ゲルが水を含有したヒドロゲルであることを特徴とする請求項1に記載の基材の接着方法。
【請求項3】
有機ゲルの微粒子の平均粒径が1mm未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の基材の接着方法。
【請求項4】
有機ゲルの微粒子層が、有機ゲルのバルク体を機械的に分散して得られる分散液を基材に塗布して得られることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の基材の接着方法
【請求項5】
アニオン性の微粒子が、コロイダルシリカであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の基材の接着方法

【公開番号】特開2010−121023(P2010−121023A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295333(P2008−295333)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】