説明

ゲル微粒子層を形成した基材の接着方法

【課題】 それ自身では接着機能を持たないアニオン基を持ったゲルまたはアニオン基で修飾されたエマルジョン材料を基材上に形成し、接着必要時にやはりそれ自身では接着機能を持たないカチオン基を持ったゲル材料を上記層間に介在させることにより強い接着力が発現するような新しい接着システムを提供する。
【解決手段】 分子中にアニオン基を有する高分子を構成成分とする有機ゲルの微粒子またはアニオン基で修飾されたエマルジョンを基材に塗布し、潜在接着を形成し、その潜在接着層間にカチオン性のゲル微粒子を介在させることにより基材を接着する新しい接着方法。同法において、有機ゲルが水を含有したヒドロゲルである場合に特に効果が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的または物理的に架橋され、溶媒を含有している主に有機成分よりなる架橋ネットワーク体、すなわちゲルを微粒子化し、それを基材の上にゲル微粒子層として形成し、そのようにゲル微粒子層を形成した基材、あるいはアニオン基で修飾されたエマルジョンを乾燥してなる層を形成した基材のゲル微粒子層またはアニオン基で修飾されたエマルジョンを乾燥してなる層同士(同一基材上に形成された層でも、別の基材上に形成された層でもかまわない)を向かい合わせ、それら形成層の間にアニオン性の有機ゲル微粒子を介在させることにより、基材同士を接着する基材の接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二つの面を合わせ、その面を接着させる技術は現代社会を支える技術として、非常に重要性なものとなっている。接着現象の実用化がなければ、現代社会は成り立たないといっても過言ではない。接着現象を発現させるための具体的な様態は大きく二つに分けられる。
ひとつは接着させる基材にあらかじめ接着を発現する機能を付与しておく方法であり、例えば、切手のように湿潤させることで接着力を発現する接着層を紙の表面に塗布形成しておく方法である。もうひとつは、接着させる基材同士の間に、接着の機能を有する層を接着必要時に形成する方法であり、この代表的な例はいわゆる接着剤による基材の接着作業である。
【0003】
第1の方法は、接着時に接着のための接着機能を持った材料、すなわち接着剤の準備が不要であり、簡便な方法である。しかし、接着の機能を発現する層が、必要時以外にもその機能を発揮することを避けるのはなかなか困難であり、前述の切手の場合も、接着面に不用意に水がついたり、高湿環境に放置しておくと切手同士がくっついたり、他の材料にくっついたりして、ひどいときは切手が使えなくなってしまう。
【0004】
一方、第2の方法は、接着時にのみ接着剤を塗布するため前述の問題は避けられる。しかし、接着剤自体が接着機能を持つため、往々にして機材を選ばないで接着機能を発現し、意図しない基材や基材の意図しない部分を不必要に接着してしまう事故、あるいは周囲の接着剤による汚染がおきやすい。また、溶剤系の接着剤では、作業者に健康上の問題を与えることもおきうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-15799号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】鈴木、坂井、吉田 Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 917-920
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの問題を解決するひとつの方法としては、例えば、それ自身では接着機能を持たない材料Aを基材上に形成し、接着必要時にやはりそれ自身では接着機能を持たない材料Bを材料A同士の間に介在させることにより強い接着力が発現するようなシステムが考えられる。しかし、現実にはなかなかそのようなシステムを実現するのは困難なことであった。本発明は、そのようなシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を実現するべく鋭意研究を重ねた結果、以下のような手段により、課題が解決することを発見した。
すなわち、本発明の第1の発明は、基材上に、分子中にアニオン基を有する高分子を構成成分とする有機ゲル(以下、アニオンゲルと略称することもある)の微粒子層またはアニオン基で修飾されたエマルジョンを乾燥してなる層を形成し、同一基材上または別の基材上に形成された当該ゲル微粒子層またはアニオン基で修飾されたエマルジョンを乾燥してなる層と向かい合わせ、その間に、カチオン基を有する高分子を構成成分とする有機ゲル(以下、カチオンゲルと略称することもある)の微粒子を介在させることにより、アニオンゲルの微粒子層またはアニオン基で修飾されたエマルジョンを乾燥してなる層を形成された基材を接着する基材の接着方法である。
【0009】
本発明の第2の発明は、上記のアニオンゲルまたはカチオンゲルである有機ゲルが水を含有したヒドロゲルであることを特徴とする接着方法である。本発明の第3の発明は、上記の有機ゲルの微粒子の平均粒径が1mm未満であることを特徴とする基材の接着方法である。本発明の第4の発明は、有機ゲルの微粒子層が、有機ゲルのバルク体を機械的に分散して得られる分散液を基材に塗布して得られることを特徴とする基材の接着方法である。
【0010】
ゲルを接着に応用するという試みは本発明が初めてではない。
特許文献1では、イオン性の水溶性または水分散性高分子を紙の間に接着剤として塗布することで、2層以上の抄き合せ紙を製造する方法を公開している。しかし、この方法はまず接着にあらかじめゲル粒子またはエマルジョンからなる層を形成させた基材を用いるという本発明の考え方に対しては記載も示唆もない。さらに実施形態は、先に記した接着現象を発現させるための具体的な様態の第2の方法であり、本発明の課題を解決する上では全く効果のないものである。さらに、特許文献1の実施例を見る限り、実質的にはゲル(「あらゆる溶媒に不溶の3次元網目構造を持つ高分子およびその膨潤体」と定義される(新版高分子辞典(1988))ではなく、水溶性の高分子化合物のみを対象としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えばまずアニオン基を分子内に含む水溶性モノマー(例えばアクリル酸のナトリウム塩)と、必要に応じて物性を改良するための中性水溶性モノマー(例えばアクリルアミド)および架橋剤(例えば、メチレンビスアクリルアミド)を所定量水に溶かし、重合開始剤(例えば過硫酸アンモニウム)を添加し、加熱することにより、ハイドロゲルを得る。これを水で膨潤させつつ、水を交換することで洗浄する。洗浄後のゲルを(例えばホモミキサーによりせん断力を加えることにより)機械的に分散し、ゲルの分散液を得る。この分散液を基材(例えば紙)に塗工することで、潜在的接着機能を持った紙が得られる。
【0012】
一方、カチオン基を分子内に含む水溶性モノマー(例えばアリルアミン塩酸塩)と必要に応じて物性を改良するための中性水溶性モノマー(例えばアクリルアミド)および架橋剤(例えば、メチレンビスアクリルアミド)を所定量水に溶かし、重合開始剤(例えば過硫酸アンモニウム)を添加し、加熱することにより、ハイドロゲルを得る。これを水で膨潤させつつ、水を交換することで洗浄する。洗浄後のゲルを(例えばホモミキサーによりせん断力を加えることにより)機械的に分散し、ゲルの分散液を得る。
上記のアニオンゲルを塗布した紙を適切な大きさに切断し、一方の塗工面に上記の方法で作ったカチオンゲル水分散液を薄く塗布し、もう一枚のアニオンゲルを塗布した紙の塗工面を合わせ圧着する。カチオンゲル分散液の水分が吸収および乾燥により減少するともに接着力が発現し、十分乾燥した後は、剥離をすると、抵抗力は著しく強く、基材破壊を起こすような強度で接着していることがわかる。
【0013】
潜在的接着機能を持った紙の塗工面は、粘着性などのべたつきは全く示さない。また、カチオンゲル分散液の代わりに水を塗って接着を試みても接着現象は起きず、2枚の紙は容易に剥がれてしまう。このように本発明を用いれば、潜在的接着能力を持った紙は扱いやすく、高湿がかかっても水が誤ってついても接着現象は起きず、接着現象を起こしたいときには、それ自身にべたつきや接着性の全く無いカチオンゲル分散液を少量塗布するだけで、一転して機材破壊が起きるような強固な接着を実現できるのである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に使用できる、ゲルについて説明する。
まずポリアニオンゲル(アニオン基を分子中に有する高分子ゲル)について説明する。
最も一般的には、分子中に重合可能な官能基、例えばビニル基を有し、同一分子中にカルボン酸、スルホン酸、燐酸など(それぞれアルカリ金属などの塩として使用するのが一般的)を含むモノマーを、そのモノマーと反応して架橋反応を起こす架橋剤とともに溶媒(例えば水)中または無溶媒で反応開始剤とともに反応させ、化学的に架橋したゲルとして合成することが出来る。このときアニオン基を有するモノマーは1種類だけを用いる必要は無く、2種類以上を用いてもいいし、また、アニオン基を有するモノマー、架橋剤に加えて、広範囲の条件で中性な性能を示すモノマーや、少量であれば、カチオン性の性格を示すモノマーを加えてもかまわない。
アニオン性の性能を示すモノマーとしては、アクリル酸(のアルカリ金属塩)、メタクリル酸(のアルカリ金属塩)、ビニルベンゼンスルホン酸(のアルカリ金属塩)、ビニルナフタレンスルホン酸(のアルカリ金属塩)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(のアルカリ金属塩)などをあげることが出来る。
【0015】
これらのモノマーを溶媒(例えば水)に必要量溶解し、そこに架橋剤として従来から公知のN,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−プロピレンビスアクリルアミド、ジ(アクリルアミドメチル)エーテル、1,2−ジアクリルアミドエチレングリコール、1,3−ジアクリロイルエチレンウレア、エチレンジアクリレート、N,N’−ビスアクリルシスタミンなどの二官能性化合物や、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの三官能性化合物を所定量添加し、さらに重合反応の開始剤として、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物、例えばVA−044、V−50、V−501(いずれも和光純薬工業株式会社製)を加え、加熱することにより所望のゲルを得ることが出来る。過酸化物を開始剤に用いた場合は、加熱ではなく触媒として、3級アミン化合物であるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンや、β−ジメチルアミノプロピオニトリルなどにより重合反応を開始することも出来る。
【0016】
中性な性能を示すモノマーとしてはアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドのようなアクリルアミドおよびその誘導体、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ビニルピロリドンなどをあげることができる。
【0017】
重合温度は、重合触媒や開始剤の種類に合わせて0℃〜100℃の範囲で設定できる。重合時間も触媒、開始剤、重合温度、重合溶液量(厚み)など重合条件によって異なり、一般に数十秒〜数時間の間で行える。
このようにして得られたバルクのゲル体については、そのままの形で次のステップに用いることもできるが、少量の未反応モノマーなどを除去するために、イオン交換水などに1日から数日間つけて、その間、水を交換し洗浄するのが好ましい。
【0018】
次に、カチオンゲル(カチオン基を分子中に有する高分子のゲル)について説明する。
カチオンゲルの合成法は、モノマーとしてカチオン基のついたものを用いることを除くと、基本的には上記ポリアニオンゲルの合成法と同様である。
最も一般的に用いられるアミノ基のついたモノマー(プロトン化してアンモニウム塩として使用)、または4級アンモニウム基のついたモノマーの例としては、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピルメタクリレート、アリルアミン、N-メチルアリルアミン、ジアリルアミン、N-メチルジアリルアミン、N,N-ジメチルアリルアンモニウム塩酸塩、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、メタクロイルコリンクロリド、ビニルピリジンなどを挙げることができる。またN−ビニルホルムアミドのように重合反応後アミノ基や置換アミノ基、さらには4級アンモニウム基に変換できるモノマーもこれに含まれる。
【0019】
次に、前記のアニオンゲルやカチオンゲルのゲル分散物の調成方法であるが、ひとつは前述のゲル合成時にイオン性モノマー(更に、必要に応じて中性モノマー)、架橋剤、開始剤を溶解した溶液を例えば吉田らの方法(非特許文献1)で、微小ゲル粒子体を得ながら重合するミクロゲル合成法によるものである。
もうひとつの方法は、前述のゲル合成をバルク状態で行い水洗いしたあるいは水洗いしないゲルを、ホモジナイザーなどを用いて機械的に分散する方法である。
【0020】
いずれの方法においても、ゲルは膨潤した状態で平均粒径が1mm以下に分散分散されている微粒子状態であることが好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。平均粒径が1mmを越えるとそのような分散液を基材に均一に塗工することが困難であり、かつ塗工された塗工層の表面状態はざらついており、接着を試みた場合の密着性に欠け、十分な接着強度も出ない。
【0021】
機械的に分散する方法については、ゲルが、望ましくは短時間に均一に分散されるのに必要なせん断力を提供する分散機を用いることにより実現される。例えば、通常の攪拌機、オートミキサー、ホモジナイザー分散機、カウレス分散機などを挙げることができる。
【0022】
次に、本発明で使用できるアニオン基で修飾された樹脂エマルジョンについて説明する。当該エマルジョンを作成する方法は多種知られているが、最近ではコアシェル法で作ることが一般的となっている。すなわち、前述のアニオン性モノマーと親水性のモノマーを共重合させて形成するシェル構成ポリマーに、主に疎水性モノマーからなる重合性混合物を加え、これに重合してコア層を形成することにより、表面にアニオン基を有する粒系50nmから500nmのエマルジョンを得ることが出来る。これらは一般的なコアシェルエマルジョンとして市販されている。たとえば、大成ファイン株式会社から市販されているSEシリーズがこれに該当し、その中でもSE810A、SE841Aなどは本発明の目的に対し好ましい特性を示す。これらエマルジョンをそのまま、あるいは希釈して、用いることができる。
【0023】
これらのゲル分散液あるいはエマルジョンを基材に塗布する方法も従来公知の方法を用いることで差し支えない。塗工バーや塗工ブレードによる塗工、エアナイフコーターによる塗工、スプレー式の塗布、刷毛やブラシを使った塗工などが例としてあげることができる。塗工量は微粒子固形分換算で0.1g/mから10g/m程度が好ましい。0.1g/m未満の塗工量では十分な接着強度が得られない場合もありまた10g/mを超える塗工量では接着強度は改善しないばかりか、かえって弱くなる場合も見られる。
【0024】
つぎにアニオンゲル微粒子層またはアニオン基で修飾されたエマルジョンを乾燥してなる層を形成する基材であるが、セルロース繊維を主成分としてなるいわゆる紙、合成繊維をシート状に成型した不織布、天然または合成の繊維を編むことによって得られる布など従来公知の基材が幅広く用いられる。これらシートが、さらに顔料を含有していたり、表面に種々の材料が塗工されていてもかまわない。紙、不織布、布においては、表面の微細繊維間のすき間や表面の微細な凹凸がゲル微粒子やエマルジョンを強固に保持するのに有効である。
【0025】
接着のメカニズムについては必ずしも完全には理解できてはいないが、ゲル微粒子またはアニオン基で修飾されたエマルジョンからなる層の界面近傍に存在する多数のアニオン基と、塗布されるカチオン性のゲル粒子間の電気的な引力的相互作用が重要な役割を担っていると思われる。
【実施例】
【0026】
次いで、本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
【0027】
<実験例1:アニオンゲル塗工紙1のカチオンゲル1による接着試験>
(アニオン性ポリマーゲル1の合成)
NRK社製の凍結用アンプルにアクリル酸(東京化成工業株式会社より購入)0.58g(モノマーとして0.8×10-2mol)をとり、水酸化ナトリウム(和光純薬株式会社より購入)0.32g(0.8×10-2mol)をミリポア水16gに溶かした溶液を加え、ここにアクリルアミド1.14g(モノマーとして1.6×10-2mol)を溶かし、さらに0.019gのN,N’−メチレンビスアクリルアミド(1.2×10-4mol、架橋剤、東京化成工業株式会社より購入)を溶解した。この溶液に別途1gのミリポア水に溶解したペルオキソ二硫酸アンモニウム0.027g(1.2×10-4mol、ラジカル重合開始剤)を加えた。アンプルを窒素ラインにつなぎ、減圧、窒素置換の操作を10回繰り返した。その後70±1℃に調整したシリコンオイルバス中に3時間つけ、ゲル濃度約10%のゲル22gを得た。その後、当該ゲルを、十分な量のイオン交換水につけ、定期的に水を代えながら2日間浸漬した。浸漬洗浄操作後のゲル重量は260gとなった。
【0028】
(アニオン性ポリマーゲル分散液1の調成)
上記ゲル260gにイオン交換水240gを加え、TKオートホモミキサーで回転数3000から4000rpmで30分間分散操作を行なった。その結果、ゲル粒子が均一に分散したやや粘ちょうのゲル微粒子分散液500gを得た。顕微鏡画像解析装置の組み合わせユニットによりゲル微粒子の平均粒径を測定したところ、約20ミクロンであった。
【0029】
(ゲル塗工紙1の調成)
上記ゲル微粒子分散液を坪量70g/mの上質紙に、塗工バーを用いてウェット塗工量が約40 g/mになるように塗工し、熱風乾燥させた。
【0030】
(カチオン性ポリマーゲル1の合成)
NRK社製の凍結用アンプルにアリルアミン塩酸塩(東京化成工業株式会社より購入)0.75g(モノマーとして0.8×10-2mol)とアクリルアミド(東京化成工業株式会社より購入)1.14g(モノマーとして1.6×10-2mol)をとり、ミリポア水16gを加えよく混じり合わせ、ここに0.019gのN,N’−メチレンビスアクリルアミド(1.2×10-4mol、架橋剤、東京化成工業株式会社より購入)を溶解した。この溶液に別途1gのミリポア水に溶解したペルオキソ二硫酸アンモニウム0.027g(1.2×10-4mol、ラジカル重合開始剤)を加えた。アンプルを窒素ラインにつなぎ、減圧、窒素置換の操作を10回繰り返した。その後70±1℃に調整したシリコンオイルバス中に3時間つけ、ゲル濃度約10%のゲル18gを得た。その後、当該ゲルを、十分な量のイオン交換水につけ、定期的に水を代えながら2日間浸漬した。浸漬洗浄操作後のゲル重量は45gとなった。
【0031】
(カチオン性ポリマーゲル分散液1の調成)
上記ゲル45gにイオン交換水55gを加え、TKオートホモミキサーで回転数3000から4000rpmで30分間分散操作を行なった。その結果、ゲル粒子が均一に分散したやや粘ちょうのゲル微粒子分散液100gを得た。顕微鏡画像解析装置の組み合わせユニットによりゲル微粒子の平均粒径を測定したところ、約7ミクロンであった。
【0032】
(ゲル塗工紙1の接着試験)
(実施例接着試験1)
上記アニオンゲル塗工紙1を幅2cmのスリット状に切り、そのスリット片を2枚用意した。その1面に、上記カチオンゲル分散液1をガラス棒で薄く塗布した(分散液として約15g/m)。塗布後、他の1片のゲル塗工面と相対させ、軽く圧力をかけて接着した。水分が基材に吸われ安定する24時間後に接着したサンプルを使い、T 字型の剥離試験を行なった。
剥離試験の結果は以下のように評価した。
◎:剥離が非常に重く、剥離面を観察すると全面に基材破壊が起こっている。
○:剥離が重く、剥離面を観察すると一部に基材破壊が起こっている
△:剥離がやや重く、剥離面を観察すると基材破壊は起こらず、ゲル間で剥離が起きている
×:剥離が軽いかまたは全く抵抗がなく、剥離面を観察すると基材破壊は起こらず、ゲル間で剥離が起きている
本実施例の剥離試験評価は◎であった。
【0033】
(比較例接着試験1)
上記実施例接着試験1と同様に操作を行なった。ただし、カチオンゲル分散液1のかわりにイオン交換水をガラス棒で塗布した(水として約20 g/m)。本比較例の剥離試験評価結果は×であった。
(比較例接着試験2)
上記実施例接着試験1と同様に操作を行なった。ただし、アニオンゲル塗工紙のかわりに塗工基材である紙を用いた(紙をカチオンゲル分散液1で接着をしようとした)。本比較例の剥離試験評価結果は×であった。
【0034】
<実験例2:アニオンゲル塗工紙1のカチオンゲル2による接着試験>
(カチオン性ポリマーゲル2の合成)
NRK社製の凍結用アンプルにジアリルアミン塩酸塩(東京化成工業株式会社より購入)0.67g(モノマーとして0.5×10-2mol)とアクリルアミド(東京化成工業株式会社より購入)0.71g(モノマーとして1.0×10-2mol)をとり、ミリポア水14gを加えよく混じり合わせ、ここに0.023gのN,N’−メチレンビスアクリルアミド(1.5×10-4mol、架橋剤、東京化成工業株式会社より購入)を溶解した。この溶液に別途1gのミリポア水に溶解したペルオキソ二硫酸アンモニウム0.023g(1.0×10-4mol、ラジカル重合開始剤)を加えた。アンプルを窒素ラインにつなぎ、減圧、窒素置換の操作を10回繰り返した。その後70±1℃に調整したシリコンオイルバス中に3時間つけ、ゲル濃度約10%のゲル15gを得た。その後、当該ゲルを、十分な量のイオン交換水につけ、定期的に水を代えながら2日間浸漬した。浸漬洗浄操作後のゲル重量は102gとなった。
【0035】
(カチオン性ポリマーゲル分散液2の調成)
上記ゲル102gにイオン交換水68gを加え、TKオートホモミキサーで回転数3000から4000rpmで30分間分散操作を行なった。その結果、ゲル粒子が均一に分散したやや粘ちょうのゲル微粒子分散液170gを得た。顕微鏡画像解析装置の組み合わせユニットによりゲル微粒子の平均粒径を測定したところ、約10ミクロンであった。
【0036】
(実施例接着試験2)
上記実施例接着試験1と同様に操作を行なった。ただし、接着はカチオンゲル分散液1のかわりにカチオンゲル分散液2をもちいた(ガラス棒で分散液として約15 g/mとなるように塗布)。本実施例の剥離試験評価結果は◎であった。
(比較例接着試験3)
上記実施例接着試験2と同様に操作を行なった。ただし、アニオンゲル塗工紙のかわりに塗工基材である紙を用いた(紙をカチオンゲル分散液2で接着をしようとした)。本比較例の剥離試験評価結果は×であった。
【0037】
<実験例3:アニオンゲル塗工紙2のカチオンゲル1による接着試験>
(アニオン性ポリマーゲル2の合成)
NRK社製の凍結用アンプルに2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(東京化成工業株式会社より購入)1.04g(モノマーとして0.5×10-2mol)をとり、水酸化ナトリウム(和光純薬株式会社より購入)0. 2g(0.5×10-2mol)をミリポア水17gに溶かした溶液を加え、ここにアクリルアミド0.71g(モノマーとして1.6×10-2mol)を溶かし、さらに0.023gのN,N’−メチレンビスアクリルアミド(1.5×10-4mol、架橋剤、東京化成工業株式会社より購入)を溶解した。この溶液に別途1gのミリポア水に溶解したペルオキソ二硫酸アンモニウム0.027g(1.2×10-4mol、ラジカル重合開始剤)を加えた。アンプルを窒素ラインにつなぎ、減圧、窒素置換の操作を10回繰り返した。その後70±1℃に調整したシリコンオイルバス中に3時間つけ、ゲル濃度約10%のゲル21gを得た。その後、当該ゲルを、十分な量のイオン交換水につけ、定期的に水を代えながら2日間浸漬した。浸漬洗浄操作後のゲル重量は330gとなった。
【0038】
(アニオン性ポリマーゲル分散液2の調成)
上記ゲル330gにイオン交換水70gを加え、TKオートホモミキサーで回転数3000から4000rpmで30分間分散操作を行なった。その結果、ゲル粒子が均一に分散したやや粘ちょうのゲル微粒子分散液400gを得た。顕微鏡画像解析装置の組み合わせユニットによりゲル微粒子の平均粒径を測定したところ、約20ミクロンであった。
【0039】
(ゲル塗工紙2の調成)
上記ゲル微粒子分散液2を坪量70g/mの上質紙に、塗工バーを用いてウエット塗工量が約40g/mになるように塗工し、熱風乾燥させた。
【0040】
(実施例接着試験3)
上記実施例接着試験1と同様に操作を行なった。ただし、アニオンゲル塗工紙1のかわりにアニオンゲル塗工紙2をもちいた。(接着はカチオンゲル分散液1をもちいた(ガラス棒で分散液として約15 g/mとなるように塗布))。本実施例の剥離試験評価結果は◎であった。
【0041】
<実験例4:アニオンゲル塗工紙2のカチオンゲル2による接着試験>
(実施例接着試験4)
上記実施例接着試験3と同様に操作を行なった。ただし、接着にはカチオンゲル分散液1のかわりにカチオンゲル分散液2をもちいた。本実施例の剥離試験評価結果は○であった。
【0042】
(比較例接着試験4)
実施例接着試験3と同様に操作を行なった。ただし、カチオンゲル分散液1のかわりにイオン交換水をガラス棒で塗布した(水として約20 g/m)。本比較例の剥離試験評価結果は×であった。
【0043】
<実験例5:アニオン基で修飾されたエマルジョン塗工紙3のカチオンゲル1による接着試験>
(アニオン基で修飾されたエマルジョン塗工紙3の調成)
大成ファインケミカル株式会社製アニオンアクリル系エマルジョン(コアシェルエマルジョンでシェル層がアニオン基を有する)SE-810A(固形分45.5%)を純粋で希釈し、固形分濃度20%に調整し、これを坪量70g/mの上質紙に、塗工バーを用いてウエット塗工量が約20g/mになるように塗工し、熱風乾燥させた。
【0044】
(実施例接着試験5)
上記実施例接着試験1と同様に操作を行なった。ただし、アニオンゲル塗工紙1のかわりにアニオン基で修飾されたエマルジョン塗工紙3をもちいた。(接着はカチオンゲル分散液1をもちいた(ガラス棒で分散液として約15 g/mとなるように塗布))。本実施例の剥離試験評価結果は◎であった。
【0045】
(比較例接着試験5)
実施例接着試験5と同様に操作を行なった。ただし、カチオンゲル分散液1のかわりにイオン交換水をガラス棒で塗布した(水として約20 g/m)。本比較例の剥離試験評価結果は×であった。
【0046】
<実験例のまとめ>
上記実験例に示されるように、分子中にアニオン基を有するゲル微粒子を塗布した紙基材同士あるいはアニオン基で修飾されたエマルジョンを塗布した紙基材同士はカチオン性のゲル分散液を塗布し、乾燥することにより強固に接着できる。一方、分子中にアニオン基を有するゲル微粒子を塗布した紙基材同士あるいはアニオン基で修飾されたエマルジョンを塗布した紙基材同士をカチオン性のゲルを含まない液で接着しようとした場合や、分子中にアニオン基を有するゲル微粒子を塗布した紙基材同士あるいはアニオン基で修飾されたエマルジョンを塗布した紙を用いないで、例えばただの紙をカチオンゲルで接着しようした場合は、ことごとく接着できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
このように本発明の効果は明確であり、一般の基材の接着に広く応用できる。ゲルあるいはアニオン基で修飾されたエマルジョンを塗った基材自体には粘りつきなどはなく、また水や溶剤を塗布して圧着しても接着現象を生じない。しかし、それ自身は粘着性や接着性を示さないカチオン性ゲル微粒子を介在させると、ゲルあるいはアニオン基で修飾されたエマルジョンを塗った基材同士は強固に接着する。ゲルあるいはアニオン基で修飾されたエマルジョンを塗った基材のハンドリングは容易で、他の材料や作業者に対する望まない接着性や汚染性を示さない。塗工するゲルあるいはアニオン基で修飾されたエマルジョンおよび塗布基材間に介在させるカチオンゲルの組成や種類により接着強度を変更することも可能であり、産業上の利用分野は広い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、分子中にアニオン基を有する高分子を構成成分とする有機ゲルの微粒子層またはアニオン基で修飾されたエマルジョンを乾燥してなる層を形成し、同一基材上または別の基材上に形成された当該ゲル微粒子層またはアニオン基で修飾されたエマルジョンを乾燥してなる層と向かい合わせ、その間に、カチオン基を有する高分子を構成成分とする有機ゲルの微粒子を介在させることにより、有機ゲルの微粒子層またはアニオン基で修飾されたエマルジョンを乾燥してなる層を形成された基材同士を接着する基材の接着方法。
【請求項2】
有機ゲルが水を含有したヒドロゲルであることを特徴とする請求項1に記載の基材の接着方法。
【請求項3】
有機ゲルの微粒子の平均粒径が1mm未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の基材の接着方法。
【請求項4】
有機ゲルの微粒子層を構成する有機ゲルの微粒子、および/または、接着時に介在させるカチオン基を有する有機ゲルの微粒子が、有機ゲルのバルク体を機械的に分散して得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の基材の接着方法。

【公開番号】特開2010−189526(P2010−189526A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34679(P2009−34679)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】