説明

ゲル状デザート食品及びその製造方法

【課題】大豆たん白を十分量配合しながら、嗜好品であるデザートとして新規性のある食感と良好な風味を有するゲル状デザート食品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】乳製品と糖類に分離大豆たん白をゲル化濃度以上の量で配合し、加熱してゲルを形成させることにより、濃厚さと適度なキレを併せ持った風味食感のゲル状デザート食品を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆たん白を使用したゲル状デザート食品及びその製造法に関する。さらに詳細には、分離大豆たん白を十分量配合しながら、嗜好品であるデザート菓子類として新規性のある食感と良好な風味を有するゲル状デザート食品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリン、ムース、ババロアなどに代表されるゲル状のデザート市場においては、新しい風味・食感や付加価値を有する製品が常に要求されている。その中でも、大豆または大豆製品を使用したものは栄養・健康面からも注目され、多くの提案がなされている。例えば、大豆蛋白を増粘多糖類及び/又は豆腐凝固剤でゲル化した豆腐プリン(特許文献1)、酸調整豆乳に蛋白架橋酵素処理して得られるプリン又はババロア様の豆乳カード(特許文献2)、豆腐や豆乳を配合した生地を卵やゼラチンで凝固させたプリンやブリュレ・ババロアなど(非特許文献1)が挙げられる。
【0003】
大豆製品の中でも大豆たん白は血清コレステロール値の正常化や血清脂質濃度の低減等の生理機能を有し、厚生労働省が認可する特定保健用食品の素材として用いられ、またアメリカ食品医薬品局(FDA)においては1日25gの摂取で心臓病リスク低減に効果ある旨のヘルスクレームが認められるなど、健康に寄与する素材として広く認知されている。また、大豆たん白製品の一形態である分離大豆たん白には、加水し加熱することによってゲル化する性質があるが、その機能は専ら畜肉・魚肉製品や惣菜類の結着用として用いられ(非特許文献2)、単独でのゲル物性は付着性を有し、決して好ましいとは言えない食感であると認識されている(特許文献3)。
【0004】
特許文献1においては、大豆たん白の加熱ゲル形成による食感への影響を回避するため、その配合量は0.5〜5%に留まり、栄養・健康面での効果を期待するには十分なものとは言えない。特許文献2については、酵素処理は工程上煩雑であり、少量多品種が求められるデザート製造現場への導入は困難である。また、得られる豆乳カードが酸性であることから、風味面での制約もある。非特許文献1は既存の方法によってゲル化しているため、デザートとして新規性のある食感を提供するものとは言い難い。
【0005】
一方、牛乳や生クリームなどの乳製品はデザート類のボディや風味形成の主幹をなす素材として幅広く用いられるが、分離大豆たん白は製造工程に起因する独特の風味を有するため、これら乳製品とは風味相性の点で問題があるとされている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−322730号公報
【特許文献2】特開2004−275024号公報
【特許文献3】特開2009−11312号公報
【特許文献4】特許第3055376号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「豆乳で作るデザート&ケーキ」ブティック社刊、40〜73頁、2003年10月20日発行
【非特許文献2】「大豆の科学」朝倉書店、178頁、1992年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、大豆たん白を十分量配合しながら、嗜好品であるデザート菓子類として、新規性のある食感と良好な風味を有するゲル状デザート食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意検討を重ねた結果、意外にも、牛乳やクリームなどの乳製品を主体として糖類を加えた生地を調製し、ここに分離大豆たん白をゲル化濃度以上の量で配合し、加熱してゲルを形成させることで、濃厚さと適度なキレを併せ持った風味食感のゲル状食品が得られるという知見を得た。さらに、加熱前の生地に抹茶などの和風味素材を配合することで、風味面でのバランスが更に良好なゲル状のデザート食品が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち本発明は、(1)としては分離大豆たん白の加熱ゲルであって、分離大豆たん白、乳製品、糖類を混合し加熱することで得られるゲル状デザート食品であり、(2)としては抹茶、黒糖、小豆、きな粉から選ばれる1種類以上を加配した(1)のゲル状デザート食品であり、(3)としては乳製品が牛乳、クリームから選ばれる1種類以上である(1)ないし(2)のゲル状デザート食品であり、(4)としては加熱手段がオーブン湯煎焼き、蒸し器のいずれかである(1)ないし(3)のゲル状デザート食品の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分離大豆たん白を十分量配合しながら、嗜好品であるデザート菓子類として新規性のある食感と良好な風味を有するゲル状デザート食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明のゲル状食品は、分離大豆たん白、乳製品、糖類を混合し、加熱することで得られるゲルであり、甘味を有するデザート食品であることを特徴とする。さらに、加熱前の生地に抹茶、黒糖、小豆、きな粉から選ばれる1種類以上を加えることで、より良好な嗜好性と、新規な食感を兼ね備えたデザートとして提供することができる。
【0013】
(分離大豆たん白)
本発明においては、加水下で加熱することで凝固しゲルを形成する、分離大豆たん白を用いる。分離大豆たん白の配合量は所望の物性に応じて適宜設定することができ、またその種類や加熱条件にもよるが、概ね8重量%以上で緩やかなゲル、12重量%以上で保形性を有するゲルを得ることができる。但し、20%を超えると生地成形の作業性が低下する場合がある。また、このゲルは分離大豆たん白のみに由来して形成されたものであり、分離大豆たん白以外の熱凝固性たん白、豆腐用凝固剤、ゲル化剤、増粘多糖類、澱粉類、蛋白架橋酵素をいずれも実質的に含まない。
【0014】
(乳製品)
本発明における乳製品は、乳等省令における「乳」や「乳製品」を指すが、牛乳、クリームを単独、あるいは併用して用いることで、特に良好な風味バランスとボディ感(厚みのある風味)を有するデザートが得られる。なお、牛乳としては、その全部または一部を、濃縮乳または粉乳を水で適宜溶解・希釈したもので配合することもでき、クリームとしては、生クリームの他、ホイップクリーム、植物性クリーム、および乳脂肪と植物性脂肪を併用したコンパウンドクリームを用いることができる。牛乳を使用する場合は、粉末である分離大豆たん白を十分に分散、溶解させることが可能な分量の配合が望まれる。具体的には、重量比で分離大豆たん白の4倍以上の使用が例示できる。
【0015】
(糖類)
本発明において糖類は、デザート菓子類としての甘味を付与するために配合するものであり、砂糖、麦芽糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、オリゴ糖など、通常のデザート菓子類に用いられる糖類をいずれも使用することができる。またその一部または全部を、甘味を呈する他の原料、例えば糖アルコールや、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース等の甘味料で配合することもできる。なお、これらは、ゲル状食品がデザート菓子類として好適な甘味を呈する程度に配合する。具体的には、砂糖の場合でおおむね8重量%以上とすることが好ましい。他の糖類または甘味料を用いる場合は、それぞれ砂糖(ショ糖)を1とした甘味度から換算して配合量を算出することができる。
【0016】
(抹茶、黒糖、小豆、きな粉)
本発明のゲル状デザート食品においては、任意の風味を付与することができるが、とりわけ、分離大豆たん白との風味相性が良好な和風素材原料を配合することが好ましく、中でも抹茶、黒糖、小豆、きな粉から選ばれる1種類以上を加配することで、デザートとしての嗜好性において特に良好なゲル状食品を得ることができる。抹茶としては市販の抹茶粉末、抹茶パウダー、抹茶エッセンス、抹茶香料、抹茶リキュールなど、黒糖としては通常の黒砂糖の他、黒糖シロップ、黒糖蜜、黒糖香料など、小豆としては水煮小豆、粒餡、こし餡、さらし餡など、きな粉としては通常のきな粉の他、うぐいすきな粉、黒豆きな粉などが例示できる。本発明においてはこれらを適宜、単独あるいは組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明の実施態様としては、以下が例示できる。粉末の分離大豆たん白と、砂糖、抹茶パウダーを混合したものに、牛乳及び生クリームを少量ずつ加えて均一にのばし、耐熱性の容器に入れ、加熱することでゲル状デザート食品を得ることができる。加熱方法としては、オーブン湯煎焼き、オーブン焼成、電子レンジ、レトルト等の手段が例示できるが、これらの中でもオーブン湯煎焼き、または蒸し器の利用が、ゲル状デザート食品の均一な仕上がりが得られるため望ましい。また、分離大豆たん白のゲルが十分に形成されるよう、加熱時の温度条件は80℃以上とすることが望ましい。
【実施例】
【0018】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。なお、特に断りのない場合、例中「%」および「部」はいずれも重量基準を意味する。
【0019】
[実施例1]
粉末状分離大豆たん白(商品名:ニューフジプロ3000、不二製油株式会社製)60部、抹茶パウダー4部、グラニュー糖36部を混合し、牛乳250部を少量ずつ均一に加えた後、コンパウンドクリーム(商品名:トッピング500、不二製油株式会社製、乳脂肪分19.0%、植物性脂肪分26.0%)50部を混合し、液種を得た。これを耐熱性のプリンカップに約80gずつ注ぎ入れ、電気オーブン中の湯煎で30分間加熱(上火140℃/下火140℃)によってゲル化させ、冷却した。濃厚でありながら適度にキレがあり、プリンに似ているが従来のデザート類にはない食感を有し、抹茶風味との調和も良好なゲル状デザート食品が得られた。
【0020】
[実施例2]
粉末状分離大豆たん白(商品名:ニューフジプロ3000、不二製油株式会社製)60部、黒糖(商品名:黒糖蜜L−100、大東製糖株式会社製)40部を混合し、牛乳250部を少量ずつ均一に加えた後、コンパウンドクリーム(商品名:トッピング500、不二製油株式会社製)50部を混合し、液種を得た。これを耐熱性のプリンカップに約80gずつ注ぎ入れ、蒸気の上がった蒸し器で20分間加熱(90〜93℃)、ゲル化させ、冷却した。濃厚でありながら適度にキレのある新規な食感の、黒糖風味との調和も良好なゲル状デザート食品が得られた。
【0021】
[実施例3]
粉末状分離大豆たん白(商品名:ニューフジプロ3000、不二製油株式会社製)48部、小豆さらし餡10部、グラニュー糖42部を混合し、牛乳200部を少量ずつ均一に加えた後、コンパウンドクリーム(商品名:トッピング500、不二製油株式会社製)100部を混合し、液種を得た。これを耐熱性のプリンカップに約80gずつ注ぎ入れ、電気オーブン中の湯煎で30分間加熱(上火140℃/下火140℃)によってゲル化させ、放冷した。トロリとしてコクがあり、ムース類に似ているが従来のデザート類にはない食感を有し、風味も良好なゲル状デザート食品が得られた。
【0022】
[実施例4]
粉末状分離大豆たん白(商品名:ニューフジプロ3000、不二製油株式会社製)60部、グラニュー糖40部を混合し、牛乳250部を少量ずつ均一に加えた後、コンパウンドクリーム(商品名:トッピング500、不二製油株式会社製)50部を混合し、液種を得た。これを耐熱性のプリンカップに約80gずつ注ぎ入れ、電気オーブン中の湯煎で30分間加熱(上火140℃/下火140℃)によってゲル化させ、冷却した。得られたゲル状デザート食品は風味面での調和にはやや欠けるものの、濃厚でありながら適度にキレがあり、従来のデザート類にはない食感を有していた。
【0023】
[比較例1]
粉末状分離大豆たん白(商品名:ニューフジプロ3000、不二製油株式会社製)60部、抹茶パウダー4部、グラニュー糖36部を混合し、牛乳190部を少量ずつ均一に加えた後、コンパウンドクリーム(商品名:トッピング500、不二製油株式会社製)50部を混合し液種を得た。別途、粉ゼラチン(ゼライス株式会社製)10部を加温した牛乳50部にて膨潤溶解し、これを前述の液種に均一に混合した後、プリンカップに約80gずつ注ぎ入れ、冷蔵庫(3℃)にて冷却、ゲル化させた。得られたゲル状デザート食品は濃厚な口当たりを有してはいるが、既存のゼリー菓子類と差異のない食感であり、新規性のあるデザート類としては満足が得られるものではなかった。
【0024】
[比較例2]
粉末状分離大豆たん白(商品名:ニューフジプロ3000、不二製油株式会社製)60部、抹茶パウダー4部、グラニュー糖36部を混合し、水300部を少量ずつ均一に加えて液種を得た。これを耐熱性のプリンカップに約80gずつ注ぎ入れ、電気オーブン中の湯煎で30分間加熱(上火140℃/下火140℃)によってゲル化させ、冷却した。得られたゲル状デザート食品はキレに欠ける食感であり、風味面でもボディ感に欠け、デザート類としては満足が得られるものではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離大豆たん白の加熱ゲルであって、分離大豆たん白、乳製品、糖類を混合し、加熱することで得られるゲル状デザート状食品。
【請求項2】
抹茶、黒糖、小豆、きな粉から選ばれる1種類以上を加配した、請求項1のゲル状デザート食品。
【請求項3】
乳製品が、牛乳、クリームから選ばれる1種類以上である、請求項1ないし2のゲル状デザート食品。
【請求項4】
加熱手段が、オーブン湯煎焼き、蒸し器のいずれかである、請求項1ないし3のゲル状デザート食品の製造方法。