説明

ゲル状物を収容した容器の保温装置

【課題】 加温中の音響結合剤が容器から垂れ落ちるのを防止すること。
【解決手段】 先端側に吐出口72を有する音響結合剤71の収納された容器70を保温するための保温装置であって、容器を保持する可動筒20と、この可動筒に備えられた発熱体40と、容器を保持させた状態で、容器に収容されている音響結合剤の量に応じて可動筒を上下動させる弾性体30と、この弾性体による可動筒の上下動に応じて、発熱体への給電範囲を変化させる電源ライン50とを具備する。
これにより、容器に収容されている音響結合剤の量に応じて、加温範囲を変化させて容器内の空気を加熱しないようにするので、容器からの音響結合剤の垂れ落ちを防止できるとともに、省電力化、省エネルギー化に寄与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば被検者に対して超音波診断を実施する際に使用される音響結合剤のようなゲル状物を収容した容器の保温装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、被検者へ超音波を送波するとともに、その超音波の生体からの反射波を受信し、その受信信号を基に超音波画像を生成するものであり、その活用範囲は広く、心臓、腹部、乳腺、泌尿器、産科、婦人科などの領域に及んでいる。超音波診断装置と被検者との間で超音波の送受信を行うものが超音波プローブである。この超音波プローブの内部には、超音波振動すなわち超音波ビームを発生する圧電振動子が配置され、その上面には圧電振動子の音響インピーダンスを生体の音響インピーダンスに合わせるための音響整合層などが積層され、さらにその上に超音波ビームの焦点を絞る音響レンズが配置されている。
【0003】
ところで、超音波診断を実施する際には、超音波プローブを被検者の体表に接触させることになるが、体表に直接触れるのは音響レンズなので、この音響レンズの音響インピーダンスを生体の音響インピーダンス(1.5〜1.6×10kg/m・s)に合うように設計されている。その理由は、超音波は音響インピーダンスの異なる境界面で反射が起るので、生体と超音波プローブとの接触面での超音波の反射を抑制して、送受する超音波エネルギーを最大限利用しようとするためである。
【0004】
しかしながら、音響レンズの音響インピーダンスを生体の音響インピーダンスに合うようにしてあっても、被検者の体表と超音波プローブの表面との間に空気が存在すると、空気の音響インピーダンスはほぼ0に近く、両者の境界面での音響インピーダンスの差が大きくなるので、ここでの超音波の反射が大きくなって、良好な画像を形成することが困難となる。そこで、生体の音響インピーダンスと同等の音響インピーダンスを持った通常音響結合剤と称するゲル状の物質を、被検者の体表に塗布したり超音波プローブの表面に付着させたりして、被検者の体表に超音波プローブを接触させたときに、両者の間に空気が介在するのを防止している。
【0005】
この音響結合剤は、通常弾性をもった筒状のチューブに収容されており、超音波診断を実施する際に、医師または検査技師がチューブから絞り出した音響結合剤を、被検者の検査部位近辺の体表に塗布したり超音波プローブの表面に付着させたりすることになる。しかしながら、音響結合剤はゲル状をしたものであり、室温相当では被検者の体表に塗布されたときに、被検者は局部的に冷たさを感じて不快感を味わうこととなる。また体表ではなく超音波プローブの表面に音響結合剤を付着させた場合も、その音響結合剤の付着している超音波プローブを突然被検者の体表に当てられると、被検者は、同様の不快な冷感を味わうことになっていた。
【0006】
そこで、このような不快感を被検者に与えないようにするために、音響結合剤の入った筒状のチューブを、予めヒータで適温(例えば体温相当)に加温しておくゲル加温装置が提案された(例えば、特許文献1参照。)。このゲル加温装置は、ヒータで加温されたゲル加温装置の格納筒に、音響結合剤の入った筒状のチューブを、その先端を上向きにしてすっぽりと落し込むようにしたものであった。この先端を上向きにして落し込むようにしたものは、使用時に格納筒からチューブが取り出し難いとか、チューブの先端すなわち音響結合剤の吐出口が上向きになっているため、医師や技師の衣服に触れて衣服を汚すなどの問題が指摘されていた。
【0007】
このような問題を排除するものとして本出願人は、図3、図4に縦断面図で示すような音響結合剤を収容した容器の保温装置を提供してきた。
【0008】
この保温装置は、筒状のハウジング1を二重に形成し、その内筒1aの内側に発熱体2を巻回するとともに、ハウジング1の底部3に、下方へ突出するように受け部4を形成したもので、発熱体2に商用電源5を接続することによって発熱体2を発熱させるようにしたものである。そして、ハウジング1に、音響結合剤を収容した容器(チューブ)6の先端の吐出口7を、ハウジング1の底部3に形成されている受け部4へ向けて挿入する。すなわち、容器6はハウジング1の中空部に逆さまに挿入されて保持される。このとき容器6の吐出口7には、通常キャップを付けずに保持させている。その理由は、容器6を取り出して直ちに音響結合剤を絞り出して使用することができるからであり、その他、超音波診断の実施中にキャップを外したり着けたりする煩わしい作業を省きたいとか、吐出口7が下向きになっていた方が、医師や技師の着衣に吐出口7が触れて汚すことがない等からである。なお、音響結合剤の粘度は高いので、容器6を逆さまにしても容器6に圧力を加えない限り通常では吐出口7から漏れ出すおそれはないが、万一漏れ出た場合は受け部4によって受け止められる。
【0009】
ここで、図3は、容器6に音響結合剤8が十分収容された状態を示し、図4は、容器6に収容されている音響結合剤8の残量が、フルに収容されているときの1/3程度に減った状態を示している。
【特許文献1】実開平2−45719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、図3、図4に示した従来の保温装置は、容器6に収容されている音響結合剤8の量にかかわりなく常にハウジング1全体を温めるものであった。しかしながら、容器6に収容されている音響結合剤8は使用するに従って残りが少なくなり、容器6内には音響結合剤8の残っている部分とそれ以外は空気9の入った部分とに分かれることになる。そして、音響結合剤8が減るに従って空気9の部分が多くなり、それに伴い発熱体2によって温められる空気9の範囲が広がってくる。従って、この空気9が膨張することによって、音響結合剤8が吐出口7から漏れ出易くなるというおそれがあった。また、空気9の部分を加熱するのはエネルギーを無駄にすることにもなっていた。
【0011】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、先端側に吐出口を有するゲル状物の収納された容器を保温するためのゲル状物を収容した容器の保温装置であって、前記ゲル状物の収容された容器を保持する保持手段と、この保持手段に備えられた加温手段と、この加温手段の加温範囲を、前記容器に収容されている前記ゲル状物の量に応じて変化させる加温範囲調整手段とを具備することを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のゲル状物を収容した容器の保温装置において、前記加温範囲調整手段の動作に応じて、前記ゲル状物の残量を表示する残量表示手段をさらに具備することを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のゲル状物を収容した容器の保温装置において、前記加温範囲調整手段および前記残量表示手段は、前記容器と当該容器に収容されている前記ゲル状物の重さに応じて作用するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記課題を解決するための手段の項にも示したとおり、本発明の特許請求の範囲に記載する各請求項の発明によれば、次のような効果を奏する。
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、容器に収容されているゲル状物の量に応じて、加温手段の加温範囲を変化させることにより、ゲル状物の近傍を加温するので、ゲル状物の垂れ落ちを防止するとともに、省電力化、省エネルギー化に寄与することのできるゲル状物を収容した容器の保温装置が提供される。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、加温されているゲル状物の残量が表示されるので、使用中にゲル状物が不足してしまうような不都合を防止することができる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、簡単な構造ながら、合理的に作用するゲル状物を収容した容器の保温装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係るゲル状物を収容した容器の保温装置の一実施例について、図1および図2を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1および図2は、本発明に係るゲル状物を収容した容器の保温装置の、一実施例の縦断面図を示したもので、夫々この保温装置にゲル状物を収容した容器を保持させた状態を示している。ただし、図1は、保温装置に保持させた容器中に、ゲル状物がほぼ満杯状態に収容されている様子を示し、図2は、保温装置に保持させた容器中に収容されているゲル状物の量が、満杯状態に対して1/3程度に減少した様子を示している。
【0021】
さて、図1、図2に示すように、本発明に係るゲル状物を収容した容器の保温装置は、筒状に形成されたハウジング10と、このハウジング10の内側に上下動が可能なように挿入された可動筒20と、ハウジング10の底板11と可動筒20の底部23との間に介在されたコイルスプリングなどの弾性体30と、可動筒20に設けられた発熱体40とを備えている。なおハウジング10の底板11には、下方へ突出するように受け部12が形成されている。
【0022】
また、可動筒20は、縦断面が略凹字状を呈するような二重構造に形成されているものの、外壁21の底部はなく、内壁22の底部23には中央部に貫通穴24が穿設されている。そして、発熱体40は、可動筒20の内壁22の内側に塗布するかコイル状に巻回して設けられている。さらに、この発熱体40の下端部に電源ライン50の一端51が固定して接続され、電源ライン50の他端52は、例えば、ハウジング10の底板11から所定の高さ位置で発熱体40に摺接するようにされている。以下、この電源ライン50の一端51を固定端と呼び、他端52を摺接端と呼ぶものとし、固定端51と摺接端52との間の発熱体40に電源ライン50を介して通電されることとなる。また、可動筒20の外壁21の表面には、縦方向に上端をフル、下端をゼロとして例えば10段階の目盛を表示した目盛板60が設けられている。
【0023】
なお、ゲル状物71を収容する容器70には、その先端に吐出口72が形成されており、その吐出口72を下向きにして、ハウジング10の可動筒20の底部23へ向けて挿し込む。すなわち、容器70の吐出口72が内壁22の底部23中央部の貫通穴24から突出するようにして、容器70が可動筒20に挿入されて保持される。ここで、容器70は例えば直径60mm、長さ200mm程度の大きさであり、これに対して可動筒20の内壁22の深さは例えば130mm程度にしてある。従ってこの場合、容器70の底側は常に可動筒20より70mm程度外へ突き出ていることになる。これは、可動筒20への容器70の出し入れを容易にするためである。
【0024】
次に、上記のように構成された本発明に係るゲル状物を収容した容器の保温装置の、一実施例の動作を説明する。なおここでゲル状物とは、例えば超音波診断を実施する際に使用される音響結合剤であり、以下ゲル状物を音響結合剤として説明する。
【0025】
先ず、図1を参照して、容器70に音響結合剤71がほぼ満杯状態に収容されている状態について説明する。
【0026】
音響結合剤71がほぼ満杯状態に収容されているときの容器70の重さは300g程度である。このような容器70を、図1に示されているように、ハウジング10の可動筒20に挿入して保持させると、音響結合剤71の重さのために弾性体30が押圧されて変形し、可動筒20は沈んだ状態となって、ハウジング10の底板11に可動筒20の外壁21の下部先端が接する程度まで接近することになる。
【0027】
なお前述のように、発熱体40の下端部に固定された電源ライン50の固定端51と、発熱体40に摺接する電源ライン50の摺接端52との間に電源が供給される。よって図1の状態では、摺接端52が発熱体40のほぼ上端に接触しているので、発熱体40のほぼ全体に通電されて発熱体40のほぼ全体が発熱することになり、容器70の可動筒20に囲まれている範囲が加温されることになる。なお図1において、発熱体40を太い斜線を施して示してあるが、この部分が通電されて発熱している範囲であることを表している。
【0028】
ここで、加温する温度は、人肌より若干高めの摂氏40度程度となるように、例えばサーモスタットなどの公知の温度制御手段によって制御している。よって、容器70に収容されている音響結合剤71は、低温やけどを生じない程度に常に保温されることとなり、超音波診断を実施する際に被検者が、音響結合剤71を体表に塗られたときに、不快な冷たい感じを受けることが防止される。
【0029】
ところで、容器70中の音響結合剤71は使用するに従って消耗しその量は減ってくる。図2は容器70中の音響結合剤71の量が、満杯状態に対して1/3程度に減少した様子を示したものであり、容器70中の2/3程度は空気73となっている。音響結合剤71の量が減るとその分重さが軽くなり、図2に示す状態では、容器70の重さは100g程度に減少している。従って、押圧されている弾性体30の変形量が少なくなって、容器70は可動筒20とともに上方へ持ち上げられる。
【0030】
しかしこのとき、電源ライン50の摺接端52は、例えば、ハウジング10の底板11からの高さ位置が一定なので、可動筒20の上昇に伴い発熱体40に摺接する摺接端52と固定端51との距離は狭くなり、発熱体40への通電範囲が狭くなる。すなわち、図2において、発熱体40のうち細い斜線を施して示した範囲には通電されず、太い斜線を施して示した発熱体40の範囲にのみ通電されることになる。よって、可動筒20が上方へ移動するのに従って加温範囲が狭くなってくることが理解される。このように、容器70中の音響結合剤71の量と弾性体30の変形量との関係すなわち、音響結合剤71の比重と弾性体30の強さを適切に調整することによって、容器70中の音響結合剤71の残量部分に相当する発熱体40の範囲にだけ通電して、音響結合剤71を加温することが可能となる。
【0031】
このように本発明によれば、音響結合剤71の残っている部分に相当する発熱体40の範囲にだけ通電するようにしたので、音響結合剤71の残っている部分だけを加温して、空気73の部分は加温されない。よって、容器70中の空気73の熱膨張を抑制でき、空気73の膨張によって音響結合剤71を吐出口72へ押し出して、そこから音響結合剤71が垂れ落ちるようなことを防止することができる。これにより、ハウジング10の近傍を汚したり、音響結合剤71を無駄にしたりすることが無くなるとともに、電力を無駄にすることもなく省エネルギー化に寄与することができる。
【0032】
なお、可動筒20の外壁21の表面に、縦方向に目盛板60が設けられている。よって、容器70中の音響結合剤71の量が減少するのに伴って可動筒20が上方へ持ち上げられると、この目盛板60も一緒に上方へ移動して、目盛板60に表示されたハウジング10の上端における目盛表示はだんだん減少することになる。従って、この目盛板60を見ることによって、音響結合剤71の残量を知ることができ、加温中の音響結合剤71が無くなっていることに気付かずに、超音波診断を実施するようなことを確実に防止することができる。
【0033】
本発明は、上述の一実施例に限定されることなく、要旨を逸脱しない範囲で種々の態様で実施できることは言うまでもない。例えばハウジング10や可動筒20の形状は、円形でも角形でもよい、また弾性体30は、コイルスプリングに限らず空気ばねなど、荷重の変化に対して直線的に変位する性質のものであればよい。さらに、発熱体40へ供給する電源は商用電源でも直流電源でも構わないが、電源切断用のスイッチを設け、超音波診断に先駆けてこのスイッチを入れて、超音波診断の開始時には容器70中の音響結合剤71が適温となるように加温されていることが望ましい。また目盛板60を設けることに代えて、可動筒20の外壁21の表面に、目盛を表示するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るゲル状物を収容した容器の保温装置の、一実施例の縦断面図であり、保持させた容器中に、ゲル状物がほぼ満杯状態に収容されている様子を示したものである。
【図2】図1と同様の縦断面図であり、保持させた容器中に収容されているゲル状物が減少している様子を示したものである。
【図3】従来のゲル状物を収容した容器の保温装置の縦断面図であり、保持させた容器中に、ゲル状物がほぼ満杯状態に収容されている様子を示したものである。
【図4】図3と同様の縦断面図であり、保持させた容器中に収容されているゲル状物が減少している様子を示したものである。
【符号の説明】
【0035】
10 ハウジング
11 底板
12 受け部
20 可動筒
21 外壁
22 内壁
23 底部
24 貫通穴
30 弾性体
40 発熱体
50 電源ライン
51 固定端
52 摺接端
60 目盛板
70 容器
71 音響結合剤
72 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側に吐出口を有するゲル状物の収納された容器を保温するためのゲル状物を収容した容器の保温装置であって、
前記ゲル状物の収容された容器を保持する保持手段と、
この保持手段に備えられた加温手段と、
この加温手段の加温範囲を、前記容器に収容されている前記ゲル状物の量に応じて変化させる加温範囲調整手段と
を具備することを特徴とするゲル状物を収容した容器の保温装置。
【請求項2】
前記加温範囲調整手段の動作に応じて、前記ゲル状物の残量を表示する残量表示手段をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載のゲル状物を収容した容器の保温装置。
【請求項3】
前記加温範囲調整手段および前記残量表示手段は、前記容器と当該容器に収容されている前記ゲル状物の重さに応じて作用するものであることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のゲル状物を収容した容器の保温装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−195881(P2007−195881A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20807(P2006−20807)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】