説明

ゲル製造装置

【課題】均一な大きさにゲル化することを可能とするゲル製造装置を提供する。
【解決手段】ゲル製造装置は、ゲル形成材を含む第1液体Aを第2液体Cへ滴下してゲルを製造するゲル製造装置であって、第2液体Cを収容し、底部に凹凸を有する容器24と、容器24の底部における凸部の上で回転子を回転させることによって、第2液体Cを渦巻流動させる流動機構部28と、第1液体Aを収容するタンク48と、タンク48と連通し、渦巻流動されている第2液体Cに第1液体Aを噴射する複数のノズル36が所定の方向に沿って形成されたノズルプレート34を備える噴射機構部20と、を含み、複数のノズル36は、第2液体Cの液面の平滑領域と向かい合う位置に配置され、第2液体Cの流動方向と所定の方向とは、互いに交差する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被噴射液体に向けて、液滴噴射法により噴射液体を噴射して、ゲルを製造する方法が知られている。例えば、静止した状態の被噴射液体に対して、一定の間隔を空けて、噴射物を噴射する噴射口(ノズル)を配置し、液滴噴射法によりノズルから噴射される噴射物と、静止した状態の被噴射液体とを反応させてゲルを製造する方法及び装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−232178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術において、より微小な液滴をより短間隔で噴射したいという要望に対応する場合などでは、被噴射液体が、特許文献1に図示されているように、静止している状態であるため、微小な液滴が被噴射液体の液面で重なり合い密着し、ゲルが個別回収できない可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]ゲル形成材を含む第1液体を第2液体へ滴下してゲルを製造するゲル製造装置であって、前記第2液体を収容し、底部に凹凸を有する容器と、前記容器内で回転子を回転させることによって、前記第2液体を渦巻流動させる流動機構部と、前記第1液体を収容するタンクと、前記タンクと連通し、渦巻流動されている前記第2液体に前記第1液体を噴射する複数のノズルが所定の方向に沿って形成されたノズルプレートを備える噴射機構部と、を含み、前記複数のノズルは、前記第2液体の液面の平滑領域と向かい合う位置に配置され、前記第2液体の流動方向と前記所定の方向とは、互いに交差することを特徴とするゲル製造装置。
【0007】
これによれば、容器の収容されている第2液体へ向けて第1液体を噴射機構部から同じ位置で噴射しても、回転子を回転させることで第2液体が渦巻流動しているため、第1液体と第2液体とが反応して生成されるゲル同士が密着することを低減でき、所望の大きさゲルを得ることができる。また、第2液体が渦巻流動すると、容器の回転中心付近にある第2液体の液面が窪み、液面が下がる現象が発生する。安定して所望の形状のゲルを製造するためには、第1液体を噴射するノズルと第2液体との距離が所定範囲に収まっていることが望ましく、下がった液面へ向けて第1液体を噴射すると安定して所望の形状のゲルを製造することが困難となる。その点、適用例1によれば、第1液体を噴射する複数のノズルは、第2液体の液面の平滑領域と向かい合う位置に配置されているため、安定して所望の形状のゲルを製造することができる。
【0008】
また、容器の底部に凹凸を設けることで、生成されたゲルは回転子と接触しない箇所に蓄積されるため、生成されたゲルが回転子と接触し破損してしまうことを回避することができる。
【0009】
また、適用例1によれば、第2液体の回転方向と複数のノズルが形成されている方向とは互いに交差している。言い換えると、第2液体の回転方向と複数のノズルが形成されている方向とは平行にはなっていない。このようにすれば、第2液体の回転方向に沿って渦巻流動する第2液体の流動方向と平行にノズルが配置されていないため、ある時点で、あるノズルから第1液体を噴射して生成されたゲルが、所定期間経過して流動した結果、他のノズルの下にゲルが残存することを抑制できる。したがって、生成されたゲルの上に第1液体を再び噴射することによって、ゲルが所望の大きさよりも大きくなったり、形状が不均一となったりすることを抑制することができる。
【0010】
[適用例2]上記ゲル製造装置であって、前記容器は、底部の中心部が凹形状であることを特徴とするゲル製造装置
【0011】
これによれば、容器の底部の中心部に凹形状があるため、生成されるゲルは底部中心部の凹形状に蓄積され、回転子は中心部の凹部と接触しない箇所に位置するので、ゲルが回転子と接触することで破壊してしまうことを回避することができる。
【0012】
[適用例3]上記ゲル製造装置であって、前記容器は、底部の中心部が凸形状であることを特徴とするゲル製造装置。
【0013】
これによれば、容器の底部の中心部に凸形状があるため、生成されるゲルは底部周辺部に蓄積され、回転子は中心部の凸形状に位置するので、ゲルが回転子と接触することで破損してしまうことを回避することができる。
【0014】
[適用例4]上記ゲル製造装置であって、前記噴射機構部は、複数設けられていることを特徴とするゲル製造装置。
【0015】
これによれば、多噴射機構部化が可能になり、短時間に多くのゲルを製造できる。また、噴射機構部毎に噴射される第1液体の噴射量や種類を変えることが可能となり、大きさや形状、材質が異なる多種類のゲルを容易に製造することができる。
【0016】
[適用例5]上記ゲル製造装置であって、前記噴射機構部は、渦巻流動されている前記第2液体の回転軸を中心として対角に設けられていることを特徴とするゲル製造装置。
【0017】
これによれば、噴射機構部が回転子の回転軸を中心として対角に設けられている。すなわち、各噴射機構部が離れて設けられているため、第2液体へ向けて第1液体を噴射しても、生成されるゲル同士が密着することを低減でき、所望の大きさのゲルを得ることができる。
【0018】
[適用例6]上記ゲル製造装置であって、前記噴射機構部は、渦巻流動されている前記第2液体の回転軸を中心に同心円状に設けられていることを特徴とするゲル製造装置。
【0019】
これによれば、噴射機構部は、回転子の回転軸を中心に同心円状に設けられているため、回転子の回転軸とほぼ同じ回転軸で渦巻流動する第2液体の各々の噴射機構部の下部における流動速度がほぼ同じになる。したがって、各々の噴射機構部で噴射される第1液体と第2液体とがほぼ同じ条件で反応するため、均一なゲルを製造することができる。
【0020】
[適用例7]上記ゲル製造装置であって、前記容器内の前記第2液体の液面位置を検出するセンサーと、前記容器内に前記第2液体を供給する供給部と、をさらに含むことを特徴とするゲル製造装置。
【0021】
これによれば、第2液体の液面位置を検出するセンサーを用いて、第2液体の液面位置が所定の位置になったら第2液体の供給を停止することができるため、噴射機構部のノズルプレート面と第2液体の液面との距離(プラテンギャップ)を所定の範囲に維持することができる。そのため、均一な大きさのゲルを製造することが可能となる。
【0022】
[適用例8]上記ゲル製造装置であって、前記噴射機構部は、インクジェットヘッドであることを特徴とするゲル製造装置。
【0023】
これによれば、第1液体の大きさや、噴射の速度及び方向等の制御がより確実かつより容易に行える。そのため、第2液体に向けて噴射される第1液体と第2液体との接触位置等のバラツキが抑制でき、第1液体をより同一条件下でゲル化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係るゲル製造装置を示す斜視図。
【図2】本実施形態に係るゲル製造装置を示す立面図。
【図3】本実施形態に係るゲル製造装置を示す平面図。
【図4】本実施形態に係るゲル製造装置を示す断面図。
【図5】本実施形態に係るゲル製造装置のシャーレー底部凹凸部形状を示す上面図。
【図6】本実施形態に係るゲル製造装置の制御構成を示すブロック図。
【図7】本実施形態に係るゲルを製造する事前準備の工程を示すフローチャート。
【図8】本実施形態に係るゲルを製造するための工程を示すフローチャート。
【図9】変形例1における多数ヘッドに対応する各プレートを示す平面図。
【図10】変形例6におけるシャーレー底部中心の凹構造を示す断面図。
【図11】変形例7におけるシャーレー底部中心の凸構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、ゲル製造方法及びゲル製造装置の具体的な実施形態について図面に従って説明する。本実施形態に係るゲル製造装置は、インクジェット方式により液体を噴射して、液体のゲル化を図るものである。
【0026】
最初に、ゲル製造装置の一例について説明する。本実施形態に係るゲル製造装置は、ノズルからアルギン酸ナトリウム溶液(第1液体)を、塩化カルシウム溶液(第2液体)に向けて噴射させることで、アルギン酸ナトリウム溶液と塩化カルシウム溶液とを化学反応させ、アルギン酸カルシウムゲルを生成する装置である。
図1は、本実施形態に係るゲル製造装置を示す斜視図であり、図2は、本実施形態に係るゲル製造装置を示す立面図であり、図3は、本実施形態に係るゲル製造装置を示す平面図であり、図4は、本実施形態に係るゲル製造装置を示す断面図である。本実施形態に係るゲル製造装置2は、図1〜4に示すように、ベースプレート10と、ベースプレート10上に設置されたゲル生成ユニット12と、ゲル生成ユニット12の近傍のベースプレート10上に設置されたインクパックユニット14と、ゲル生成ユニット12の近傍のベースプレート10上に設置されたヘッド吸引ポンプ16と、ゲル生成ユニット12の近傍のベースプレート10上に設置された第1作業台18と、ゲル生成ユニット12のヘッド(噴射機構部)20を駆動するヘッド駆動BOX(制御部)22と、を備えている。
【0027】
ベースプレート10は、ゲル生成ユニット12のシャーレー(容器)24を所定の位置にガイドするシャーレーガイドプレート26を備えている。
【0028】
ゲル生成ユニット12は、スターラー(流動機構部)28と、シャーレー24と、プレート30と、ヘッド(噴射機構部)20と、を備えている。
【0029】
スターラー28は回転子32を備えている。回転子32はシャーレー24内に置かれている。スターラー28は、シャーレー24内の回転子32を回転させ、シャーレー24内の塩化カルシウム溶液(第2液体)Cを渦巻流動させている。これにより、滴下されるアルギン酸ナトリウム溶液(第1液体)Aが塩化カルシウム溶液Cの液面上で重なってしまい、ゲルGの未生成が生じてしまうことを防止する役目を果たしている。
【0030】
シャーレー24はスターラー28の上部に設置されている。シャーレー24の中心はスターラー28の回転子32の回転の中心と合っている。シャーレー24は、例えば透明なアクリル、又は透明若しくは半透明なポリプロピレンなどの視認可能な材質からなることが好ましい。これにより、塩化カルシウム溶液C及びゲルGの流動状態を目視により確認することができる。なお、シャーレー24の材質は、これらに限るものではなく、不透明な材質でもよい。シャーレー24の材質は、アルギン酸ナトリウム溶液A、塩化カルシウム溶液C、及び生成されるゲルGを変質又は化学反応させない材質であれば、ガラス又は金属などからなるとしてもよい。本実施形態においては、シャーレー24に収容されている塩化カルシウム溶液Cは2%の濃度である。
【0031】
シャーレー24は底部に凹凸を有し、回転子32は、シャーレー24底部の凸部31の上で回転する。生成したゲルGは、シャーレー24底部の凹部33に蓄積するので、ゲルGが回転子32と接触して破損することを防止する役目を果たしている。
【0032】
図5は、本実施形態に係るゲル製造装置のシャーレー24底部の凹凸形状の一例を示す上面図である。図5に示すように、円柱状の凸部31を並べることで、凹部33と凸部31の面積比は大きくなり、ゲルGの回収効率が良くなる。
【0033】
プレート30はシャーレー24の上部に設置されている。プレート30は、ヘッド20のノズルプレート34の下面(塩化カルシウム溶液Cの液面と向かい合う面)と塩化カルシウム溶液Cの液面との距離(プラテンギャップ)Sを一定に保っている。プレート30は透明アクリル板で形成されている。これにより、プレート30の外部から塩化カルシウム溶液Cの渦巻流動状態を観察することができる。プレート30は、ヘッド20のノズル36面を出す角穴38(図9参照)と、ヘッド20を固定するヘッド固定部40と、塩化カルシウム溶液Cをシャーレー24内に供給する際に用いられる塩化カルシウム溶液供給口42と、を備えている。塩化カルシウム溶液供給口42はフタ付きロートである。フタ付きロートはプレート30の上に設置される。フタ付きロートのフタはロートの上部にあり、左右にスライドが可能である。これにより、ロート内へのパーティクルの侵入防止と塩化カルシウム溶液Cのロート外への噴出を防止する。角穴38には、防水ゴム又はOリングなどのシール部が形成されている。
【0034】
インクパックユニット14は、第2作業台46と、第2作業台46に設置されたインクパック(タンク)48と、を備えている。第2作業台46は、鏡面金属プレート状の天面50と、天面50の下方に設けられた中段52と、を備えている。インクパック48は中段52に設置されている。インクパック48はアルギン酸ナトリウム溶液Aを収容する。また、インクパック48は、収容しているアルギン酸ナトリウム溶液Aの液量を検出する検出器72を有していてもよい。インクパック48は、第2作業台46の中段52を上下移動させることにより、上下移動可能である。天面50は、金属プレートからなりインクパック48への上部からの衝撃を保護している。金属プレートは鏡面になっている。これにより、金属プレートに向かってヘッド20から液体を噴射することによって、ヘッド20のノズル噴射有無の目視確認として用いることができる。鏡面加工はアルミ表面に無電解ニッケルメッキがコーティングされている。これにより、鏡面金属プレートの軽量化が図られる。インクパック48の供給口はノズルプレート34面と同じ高さである。これにより、ノズル36からの液だれ、あるいはノズル36内への空気の侵入を防止できる。インクパック48は、例えば透明又は半透明なポリエチレンなどからなる。なお、ゲル製造装置2では、インクパック48に収容されているアルギン酸ナトリウム溶液Aが1%の濃度である。
【0035】
ヘッド吸引ポンプ16は、ヘッド20の目詰まりを防止するためのクリーニング機構を備えている。クリーニング機構は、例えば、所定数の液滴噴射後又は画像解析部54(図6参照)がゲルGの異常を解析した場合等に、ヘッド20からの強制的な液滴吸引やヘッド清掃を行い、ゲル製造装置2の安定稼動を図るものである。
【0036】
第1作業台18は、鏡面金属プレート状の天面56を備えている。鏡面金属プレートは、例えば、ゲル製造前にヘッド20からアルギン酸ナトリウム溶液Aを鏡面金属プレート上に噴射し、噴射された状態からヘッド20のノズル噴射有無の目視確認を事前にすることでヘッド20の安定稼動を図るものである。
【0037】
ヘッド20は、いわゆるインクジェットヘッドであって、アルギン酸ナトリウム溶液Aを噴射するための複数のノズル36が所定の方向に沿って形成されたノズルプレート34を備えている。これによれば、多噴射機構部化が可能になり、短時間に多くのゲルGを製造できる。また、ヘッド20毎に噴射されるアルギン酸ナトリウム溶液Aの噴射量や種類を変えることが可能となり、大きさや形状、材質が異なる多種類のゲルを容易に製造することができる。ヘッド20は例えば、ピエゾ素子に所定の電圧波形を印加してピエゾ素子を伸縮させることによって、アルギン酸ナトリウム溶液Aをノズル36から噴射する。ノズル36は、例えば直径100μmであり、噴射周波数10Hz以上でノズル36から噴射されるアルギン酸ナトリウム溶液Aは、流速1mm/sとする。ノズル36から噴射する液滴の大きさは、約50μmである。アルギン酸ナトリウム溶液Aは、インクパック48に収容されていて、導管60に導かれてヘッド20へ供給される。複数のノズル36は、塩化カルシウム溶液Cの液面の平滑領域と向かい合う位置に配置される。液面が水平あるいはほぼ水平になっている領域を意味する。具体的には、シャーレー24の中央部よりもシャーレー24の外周部に近い領域である。また、塩化カルシウム溶液Cの流動方向と複数のノズル36が形成される所定の方向とは、互いに交差している。より好ましくは、塩化カルシウム溶液Cの流動方向と複数のノズル36が形成される所定の方向とは、互いに直角になるように構成されていてもよい。このようにすれば、回転子32の回転方向に沿って渦巻流動する塩化カルシウム溶液Cの流動方向と平行にノズル36が配置されていないため、ある時点で、あるノズル36からアルギン酸ナトリウム溶液Aを噴射して生成されたゲルが、所定期間経過して流動した結果、他のノズル36の下にゲルが残存することを抑制できる。したがって、生成されたゲルの上にアルギン酸ナトリウム溶液Aを再び噴射することによって、ゲルが所望の大きさよりも大きくなったり、形状が不均一となったりすることを抑制することができる。なお、ノズル36はヘッド20に1列形成されているとしたが、これに限るものではなく、複数列形成されていてもよい。ヘッド20のノズルプレート34と、スターラー28により渦巻流動される塩化カルシウム溶液Cの液面との距離(間隔)は所定範囲内となるように規定されている。
【0038】
図6は、本実施形態に係るゲル製造装置2の制御構成を示すブロック図である。制御部22は、撮像機62を通して把握したゲル化状態や、ゲル製造装置2の稼動状態等を表示する表示部64と、ゲル製造装置2の各部への指示等を入力するための操作部66と、を有している。この場合、制御部22としていわゆるパーソナルコンピューターを用いており、ゲル製造装置2を制御するための制御部22の詳細について、次に説明する。
【0039】
制御部22は、ゲル製造装置2を総合的に制御するCPU(Central Processing Unit)68と、CPU68が参照して液滴の噴射等の各種処理を実行するためのプログラム等を保存しているROM(Read Only Memory)70と、操作部66、撮像機62、及び検出器72から送られて来るデータ等を一時的に記憶しておくRAM(Random Access Memory)74と、を有している。また、制御部22は、撮像機62からの画像データを受信して解析する画像解析部54と、ヘッド20を制御する噴射制御部76と、スターラー28を制御する渦巻制御部78と、検出器72からの液体量のデータを受信する液量検出部80と、表示部64及び操作部66あるいは外部機器との入出力を行うための入出力インターフェイス82と、を備えている。
【0040】
画像解析部54は、撮像機62が撮影したアルギン酸ナトリウム溶液Aのゲル状態を示す画像を受信して、所望の形態のゲルであるか否かを解析する。解析結果は、CPU68に伝えられ、CPU68が、噴射の継続の可否等を決定して、噴射制御部76及び渦巻制御部78へ指示する。噴射制御部76は、CPU68の指示に基づいてヘッド20からの液滴の噴射を制御する。渦巻制御部78は、噴射制御部76によるヘッド20からの液滴の噴射に対応して、アルギン酸ナトリウム溶液Aが塩化カルシウム溶液Cの液面上で重ならないように、スターラー28を制御する。液量検出部80は、インクパック48の検出器72が検出した、塩化カルシウム溶液Cの液量を受信し、噴射継続に必要な液量であるか否かを判断する。判断結果は、CPU68に伝えられ、液量不足と判断した場合、CPU68が噴射制御部76に停止を指示する。停止の場合、CPU68は、表示部64へ停止した旨の警報を表示させる。
【0041】
次に、ゲル製造装置2によりアルギン酸ナトリウム溶液Aのゲルを生成(製造)する方法について、フローチャートに基づいて説明する。
図7は、本実施形態に係るゲルを製造する事前準備の工程を示すフローチャートである。図8は、本実施形態に係るゲルを製造するための工程を示すフローチャートである。このフローチャートは、1回の液滴噴射のフローを示すものである。
【0042】
図7のフローチャートに沿って事前準備を行う。先ず、ステップS110において、シャーレー24をシャーレーガイドプレート26に沿って所定の位置に設置する。次に、ステップS120において、プレート30を設置する。次に、ステップS130において、塩化カルシウム溶液Cをシャーレー24内に入れる。なお、塩化カルシウム溶液Cを塩化カルシウム溶液供給口42を介してシャーレー24内に入れてもよい。塩化カルシウム溶液Cの量は、ヘッド20のノズルプレート34面と塩化カルシウム溶液Cの液面との距離Sを規定することにより決定される。塩化カルシウム溶液Cの量は、シャーレー24の側面に印刷された目盛り線により測定される。塩化カルシウム溶液Cの量は、事前にシャーレー24内に塩化カルシウム溶液Cを、ノズルプレート34と塩化カルシウム溶液Cの液面との必要な距離分だけ入れられ、その塩化カルシウム溶液Cの重さが測定される。次回から、ゲル製造者は塩化カルシウム溶液Cを必要な重さだけ電子天秤で測定し、塩化カルシウム溶液供給口42を介して入れる。
【0043】
次に、ステップS140において、ヘッド及びスターラー28の電源も投入しながら制御部22の電源を投入する。
【0044】
次に、ステップS150において、液滴の噴射パターンを選択する。噴射パターンとは、ノズル36から噴射する液体に応じた噴射条件を設定したものであり、ヘッド20を駆動するピエゾ素子へ印加する電圧波形等が含まれる。この場合、液滴の噴射数も含まれる。アルギン酸ナトリウム溶液Aの液滴を噴射するための噴射パターンを選択する。
【0045】
次に、ステップS160において、第1作業台18の天面56の鏡面金属プレート上にて、ヘッド20の噴射を事前確認する。この作業によって、アルギン酸ナトリウム溶液Aがヘッド20に充填される。アルギン酸ナトリウム溶液Aは、ヘッド20が有する図示していないピエゾ素子に押されて、ノズル36から液滴となって噴射される。
【0046】
次に、ステップS170において、ヘッド20をシャーレー24上部のプレート30の角穴38にセットし、ヘッド固定部40によりヘッド20上部を固定する。ヘッド20のセット位置は、塩化カルシウム溶液Cの回転により発生する中央部の窪みP(図4参照)を避け、塩化カルシウム溶液Cの平滑領域の上方にセットする。なお、多ノズルヘッドにおいては、塩化カルシウム溶液Cの回転方向に対しノズル36の配置列方向を垂直にセットしてもよい。また、多ノズルヘッドのおいては、塩化カルシウム溶液Cの回転方向に対しノズル36の配置列方向を斜めにセットしてもよい。
【0047】
以上で事前準備が終了し、図8のフローチャートに沿ってゲルGの生成を行う。先ず、ステップS10において、制御部22は、スターラー28を用いて回転子32により塩化カルシウム溶液Cを渦巻流動させる。
【0048】
次に、ステップS20において、制御部22は、渦巻流動する塩化カルシウム溶液Cにヘッド20からアルギン酸ナトリウム溶液Aの液滴を噴射させる。噴射された液滴は、流動している塩化カルシウム溶液Cの中へ投入される。この状態の液滴が塩化カルシウム溶液Cと反応してゲルGになるため、均一な形状のゲルGを得ることができる。液滴の噴射後、ステップS30へ進む。
【0049】
次に、ステップS30において、制御部22は、所定のゲル状態か否かを判断する。つまり、アルギン酸ナトリウム溶液Aの液滴が所望の形状のゲルGになっているか否かの判断をする。この判断は、撮像機62で撮影したゲルGの映像を参照して、画像解析部54が行う。ゲル製造装置2では、撮像機62が図示していないゲル回収部の回収ネットに回収されたゲルGを撮影している。そして、ゲルGが所定のゲル状態であれば、ステップS40へ進み、一方、ゲルGが所定のゲル状態でなければ、ステップS50でその旨を表示部64に警報表示してフローを終了する。フローを終了することで液滴の噴射等を停止する。
【0050】
ゲルGが所定のゲル状態であれば、ステップS40において、選択した噴射数が終了したか否かを判断する。この判断は、ヘッド20の噴射数をカウントして、図示していない噴射制御部が行う。そして、所定数の液滴を噴射していれば、フローを終了し、一方、所定数の液滴を噴射していなければ、ステップS20へ戻る。
【0051】
ステップS20へ戻る場合、所定数の液滴を噴射するまで、ステップS20〜ステップS40のステップを継続して実行する。そして、所定数の液滴を噴射すれば、フローを終了する。ヘッド20及びスターラー28の電源を切る。ヘッド20を取り除き、シャーレー24をスライドさせながら取り除く。又は、ヘッド20とプレート30を取り除き、シャーレー24にフタをして移動する。
【0052】
以上、ゲル製造装置2を用いたゲル製造方法の実施形態について説明した。以下に、実施形態の効果をまとめて記載する。
【0053】
(1)ゲル製造装置2は、シャーレー24に収容されている塩化カルシウム溶液Cへ向けてアルギン酸ナトリウム溶液Aをヘッド20から同じ位置で噴射しても、回転子32を回転させることで塩化カルシウム溶液Cが渦巻流動しているため、アルギン酸ナトリウム溶液Aと塩化カルシウム溶液Cとが反応して生成されるゲル同士が密着することを低減でき、所望の大きさのゲルを得ることができる。また、塩化カルシウム溶液Cが渦巻流動すると、回転子32の回転中心付近にある塩化カルシウム溶液Cの液面が窪み、液面が下がる現象が発生する。安定して所望の形状のゲルを製造するためには、アルギン酸ナトリウム溶液Aを噴射するノズル36と塩化カルシウム溶液Cとの距離が所定範囲に収まっていることが望ましく、下がった液面へ向けてアルギン酸ナトリウム溶液Aを噴射すると安定して所望の形状のゲルを製造することが困難となる。その点、アルギン酸ナトリウム溶液Aを噴射する複数のノズル36は、塩化カルシウム溶液Cの液面の平滑領域と向かい合う位置に配置されているため、安定して所望の形状のゲルを製造することができる。
【0054】
(2)シャーレー24の底部に凹凸を設けることで、生成されたゲルGは回転子32と接触しない凹部33に蓄積されるため、生成されたゲルGが回転子32と接触し破損してしまうことを回避することができる。
【0055】
(3)回転子32の回転方向に沿って渦巻流動する塩化カルシウム溶液Cの流動方向と平行にノズルが配置されていないため、ある時点で、あるノズル36からアルギン酸ナトリウム溶液Aを噴射して生成されたゲルGが、所定期間経過して流動した結果、他のノズル36の下にゲルGが残存することを抑制できる。したがって、生成されたゲルGの上にアルギン酸ナトリウム溶液Aを再び噴射することによって、ゲルGが所望の大きさよりも大きくなったり、形状が不均一となったりすることを抑制することができる。
【0056】
(4)ゲル製造装置2は、ヘッド20がインクジェットヘッドであるため、アルギン酸ナトリウム溶液Aの液滴の大きさや、噴射の速度及ぶ方向等の制御が他噴射方式より正確に行え、液滴をより同一条件の下でゲル化することができる。特に、微小なゲルGであっても、ゲルGの均一化が図れる。
【0057】
(5)アルギン酸ナトリウム溶液Aがヘッド20から液滴の状態で噴射されるため、10μmの大きさの均一なゲルGが得られる。この液滴の大きさを調整すれば、本実施形態で生成した10μm以外の所望の大きさのゲルGが容易に得られる。
【0058】
(6)塩化カルシウム溶液Cが静止状態ではなくシャーレー24内で渦巻流動される方式であるため、塩化カルシウム溶液Cの汚染あるいは生菌の発生等を防止することができる。
【0059】
また、ゲル製造方法及びゲル製造装置2は、上記の実施形態に限定されるものではなく、次に挙げる変形例のような形態であっても、実施形態と同様な効果が得られる。変形例の説明にあたっては、上記の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0060】
(変形例1)
図9は、本変形例における多数ヘッドに対応する各プレートを示す平面図である。上記各実施形態では、ヘッド20は、ゲル生成ユニット12に1個配置していると図示したが、これに限るものではなく、ゲル生成ユニット12にヘッド20が複数配置されている構成としてもよい。具体的には、図8(A)、(B)に示すように、プレート30上の角穴38が塩化カルシウム溶液Cの窪みPを中心として対角に複数配置されている構成としてもよい。これによれば、塩化カルシウム溶液Cへ向けて、アルギン酸ナトリウム溶液Aをヘッド20から連続して噴射しても、各ヘッド20が離れているため、各ヘッド20より噴射されるアルギン酸ナトリウム溶液Aと塩化カルシウム溶液Cとが反応して生成されるゲルG同士が密着することを低減でき、所望の大きさのゲルGを得ることができる。また、図8(C)に示すように、プレート30上の角穴38が塩化カルシウム溶液Cの窪みPを中心に同心円状に複数配置されている構成としてもよい。これによれば、渦巻流動する塩化カルシウム溶液Cの各々のヘッド20の下部における流動速度がほぼ同じになる。したがって、各々のヘッド20で噴射されるアルギン酸ナトリウム溶液Aと、塩化カルシウム溶液Cとがほぼ同じ条件で反応するため、均一なゲルを製造することができる。
【0061】
(変形例2)
アルギン酸ナトリウム溶液Aの液滴を噴射するヘッド20は、インクジェット方式ではなく、例えば、ディスペンサー等によりアルギン酸ナトリウム溶液Aを滴下等する方法であってもよい。これによれば、アルギン酸ナトリウム溶液Aの液滴を塩化カルシウム溶液Cへ向けて、正確に噴射することができ、ゲルGの生成が行える。このように、インクジェット方式と多様な噴射方式とを併用することにより、噴射する種々の溶液に対応したゲル製造装置を提供できる。そして、粘性の高い容液を噴射するために、容液を加熱して粘度を低くする機構をゲル製造装置2に設けてもよい。
【0062】
(変形例3)
また、インクパック48の検出器72は、貯蔵する液体量以外に液体の濃度等の情報を検出してもよい。
【0063】
(変形例4)
ヘッド20のノズルプレート34面と塩化カルシウム溶液Cの液面の距離(プラテンギャップ)Sはシャーレー24内に塩化カルシウム溶液Cの水位を感知する水位センサー(図示せず)を搭載し、所定の液面位置になったらシャーレー24内に塩化カルシウム溶液Cを供給する供給部(図示せず)からの供給を停止してもよい。これによれば、所定の液面位置になったら塩化カルシウム溶液Cの供給を停止することができるため、ヘッド20のノズルプレート34面と塩化カルシウム溶液Cの液面との距離(プラテンギャップ)を所定範囲内に維持することができる。そのため、均一な大きさにゲル化することが可能である。
【0064】
(変形例5)
上記各実施形態では、アルギン酸のゲルGを得るために、第1液体としてアルギン酸ナトリウム溶液Aを用い、第2液体として塩化カルシウム溶液Cを用いた場合を例に説明した。この他に、アルギン酸のゲルGを得るためには、第1液体としてアルギン酸カリウム溶液を用い、第2液体として塩化バリウム溶液を用い手もよい。第1液体と第2液体との組合せは、ゲル形成材を含む第1液体と、第1液体と反応してゲル化する第2液体との組合せであれば、どのような組合せでも適用できる。また、ゲルGに所望の物質を含有させることも可能であって、例えば、アルギン酸ナトリウム溶液Aに、硬化剤、薬剤、酸素、細胞、顔料、触媒、ナノ粒子、蛍光粒子等を含ませて、液滴として噴射する。これにより、硬化剤、薬剤、酸素、細胞、顔料、触媒、ナノ粒子、蛍光粒子等を内部に封入したゲルGを得ることができる。例えば、硬化剤や薬剤を内部に封入したゲルGは、外部圧力等が加わったときゲルGから硬化剤や薬剤が出て硬化作用や薬剤作用が始まるといった使用方法をも可能とし、さらに、微小液体を形成することにより、狭小な箇所でも硬化作用や薬剤作用を得られるゲルGを製造することが可能である。特に、歯科材料として硬化剤を内部に封入した微小なゲルGを製造することによって、歯冠などの狭小な箇所に適量の硬化剤を与えることが可能である。硬化剤を必要量以上使用することがなく、硬化剤の無駄がなくなる他、歯科治療の費用を低くすることができる。なお、それぞれの液体における液滴の大きさや濃度は、実施形態の設定に限定されるものではない。
【0065】
(変形例6)
図10は、変形例におけるシャーレー24底部中心の凹構造を示す断面図である。生成されたゲルGは、沈殿して中央の凹部33に蓄積される。回転子32は凹部33には入り込めないから、ゲルGが回転子32と接触することで破損することを回避できる。また、底部中心にゲル回収口90を設けることで、生成されたゲルGが底部中心に蓄積するため、蓄積したゲルGを効率良く回収することが可能となる。
【0066】
(変形例7)
図11は、変形例におけるシャーレー24底部中心の凸構造を示す断面図である。生成されたゲルGは、沈殿して周辺の凹部33に蓄積される。回転子32は中央の凸部31に位置しているから、ゲルGが回転子32と接触することで破損することを回避できる。また、周辺の凹部33に複数個のゲル回収口90を設けることで、生成されたゲルGが周辺の凹部33に蓄積するため、蓄積したゲルGを効率良く回収することが可能となる。
【符号の説明】
【0067】
2…ゲル製造装置 10…ベースプレート 12…ゲル生成ユニット 14…インクパックユニット 16…ヘッド吸引ポンプ 18…第1作業台 20…ヘッド(噴射機構部) 22…ヘッド駆動BOX(制御部) 24…シャーレー(容器) 26…シャーレーガイドプレート 28…スターラー(流動機構部) 30…プレート 31…凸部 32…回転子 33…凹部 34…ノズルプレート 36…ノズル 38…角穴 40…ヘッド固定部 42…塩化カルシウム溶液供給口 46…第2作業台 48…インクパック(タンク) 50…天面 52…中段 54…画像解析部 56…天面 60…導管 62…撮像機 64…表示部 66…操作部 68…CPU 70…ROM 72…検出器 74…RAM 76…噴射制御部 78…渦巻制御部 80…液量検出部 82…入出力インターフェイス 90…ゲル回収口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル形成材を含む第1液体を第2液体へ滴下してゲルを製造するゲル製造装置であって、
前記第2液体を収容し、底部に凹凸を有する容器と、
前記底部が有する凸部の上で回転子を回転させることによって、前記第2液体を渦巻流動させる流動機構部と、
前記第1液体を収容するタンクと、
前記タンクと連通し、渦巻流動されている前記第2液体に前記第1液体を噴射する複数のノズルが所定の方向に沿って形成されたノズルプレートを備える噴射機構部と、
を含み、
前記複数のノズルは、前記第2液体の液面の平滑領域と向かい合う位置に配置され、
前記第2液体の流動方向と前記所定の方向とは、互いに交差することを特徴とするゲル製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のゲル製造装置において、
前記容器は、前記底部の中心部が凹部であることを特徴とするゲル製造装置。
【請求項3】
請求項1に記載のゲル製造装置において、
前記容器は、前記底部の中心部が凸部であることを特徴とするゲル製造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のゲル製造装置において、
前記噴射機構部は、複数設けられていることを特徴とするゲル製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載のゲル製造装置において、
前記噴射機構部は、前記第2液体の回転軸を中心として対角に設けられていることを特徴とするゲル製造装置。
【請求項6】
請求項4に記載のゲル製造装置において、
前記噴射機構部は、前記第2液体の回転軸を中心に同心円状に設けられていることを特徴とするゲル製造装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のゲル製造装置において、
前記容器内の前記第2液体の液面位置を検出するセンサーと、
前記容器内に前記第2液体を供給する供給部と、
をさらに含むことを特徴とするゲル製造装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のゲル製造装置において、
前記噴射機構部は、インクジェットヘッドであることを特徴とするゲル製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−143665(P2012−143665A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1723(P2011−1723)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】