説明

ゲートカット方法及びレンズ受け治具

【課題】簡便な方法でゲート部を精度良くカットする。
【解決手段】制御部33は、受け治具移動機構30の駆動を制御して、受け治具29をA方向に僅かに移動させて、レンズ12のフランジ部21外周面22を引掛け面38に確実に引っ掛ける。フランジ部21の外周面22が引掛け面38に引っ掛かることで、レンズ12の位置が固定されてゲート部17はA方向に沿うことになる。制御部33は、受け治具移動機構30の駆動を制御して、受け治具29をA方向に移動させるようにゲート部17に対してその引張り強度よりも小さい引張り応力を与えながら、カッター移動機構32の駆動を制御してカッター31を矢印の方向に移動させてゲート部17をカットする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品のゲート部をカットするゲートカット方法、及びゲート部をカットする際にレンズを載せるレンズ受け治具に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラなどに用いられるプラスチック製のレンズは、金型を用いた射出成形により生産される。射出成形では、射出成形機のノズルから射出された溶融プラスチック材料が金型のスプールブッシュ、ランナーを経て、レンズを成形するための空間(キャビティ)へ流入する。キャビティへの流入口(ゲート)は、逆流防止やレンズの切離しなどの観点から、ランナーと比較して幅が狭い制限ゲートとなっている。
【0003】
射出成形された成形品は、スプールブッシュ、ランナー、ゲートのそれぞれに対応するスプールブッシュ部、ランナー部、ゲート部と、レンズとから構成される。成形品の成形後にレンズを治具で保持しながらゲート部をカットすることでレンズが切り離される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ランナー部から切り離されたレンズには、ゲート部をカットした切断面にゲート跡が残る。このゲート跡は、レンズを光学機器へ組み込む際に悪影響を及ぼす。このため、ゲート跡が残ることを考慮して、外周面の一部を切り欠いたD字形状にレンズを成形することがある。D字形状に成形されたレンズであれば、切り欠かれた範囲にゲート跡を収めることになり、ゲート跡が残ったままでも当該レンズを精度良く光学機器へ組み込むことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−025429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、D字形状に成形されたレンズであっても、径が小さければ切り欠かれた範囲も小さくなるので、切り欠かれた範囲にゲート跡を収めるためにゲート部を精度良くカットし、ゲート跡を小さくする必要がある。また、コンパクトカメラやカメラ付き携帯電話機などの普及により、径が小さい直径2mm〜8mm程度のプラスチック製のレンズの需要が増大していることから、短時間に大量のゲート部を精度良くカットできることが強く望まれている。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、簡便な方法でありながらゲート部を精度良くカットできるゲートカット方法、及びこの方法に用いるレンズ受け治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のゲートカット方法は、ランナー部にゲート部を介して製品部が成形された射出成形品の前記ゲート部をカットするゲートカット方法であって、前記製品部と前記ランナー部とを互いに遠ざける方向に前記ゲート部を引っ張りながらカッターによる前記ゲート部のカットを行うことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明では、前記製品部を受け治具に載置し、前記製品部の位置を固定して前記カットを行う。
【0010】
本発明のレンズ受け治具は、ランナー部にゲート部を介してレンズが成形された射出成形品の前記レンズが載置される載置面と、前記レンズと前記ランナー部とを互いに遠ざける方向に前記ゲート部を引っ張る際に、前記載置面に載置された前記レンズの外周面を引っ掛ける引掛け面とを備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明では、前記引掛け面は、前記レンズの前記外周面に沿う曲面である。
【0012】
請求項5に記載の発明では、前記引掛け面は、前記レンズが前記載置面に載置された際に、前記ゲート部を挟んだ両側のそれぞれに位置する。
【0013】
請求項6に記載の発明では、前記引掛け面の前記ゲート部を挟む側とは反対側に連続し、前記レンズを前記引掛け面に案内する第一ガイド面を備えている。
【0014】
請求項7に記載の発明では、前記引掛け面と前記第一ガイド面とは、互いに滑らかに連続している。
【0015】
請求項8に記載の発明では、前記第一ガイド面は平面であり、前記載置面は、前記引掛け面と前記第一ガイド面とで囲われた扇形である。
【0016】
請求項9に記載の発明では、前記載置面が広がる角度は、40°±20°である。
【0017】
請求項10に記載の発明では、前記レンズの直径は、2mm以上8mm以下である。
【0018】
請求項11に記載の発明では、前記引掛け面と第一ガイド面とは、それぞれの高さが前記レンズの外周部分の厚みと略同一である。
【0019】
請求項12に記載の発明では、前記第一ガイド面の上方に連続し、前記レンズを前記載置面に案内する第二ガイド面を備えている。
【0020】
請求項13に記載の発明では、前記載置面には、前記レンズ面との緩衝を防止するための凹部が形成されている。
【発明の効果】
【0021】
本発明のゲートカット方法及びレンズ受け治具によれば、ゲート部の引張り方向とカッターの切断方向とを直交するように定めておくことで、ゲート部の向きを確実にカッターの切断方向と直交する方向にすることができ、簡便な方法でありながら精度良くゲート部をカットすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】射出成形品をセットしたゲートカット装置を示す正面図である。
【図2】射出成形品をセットしたゲートカット装置を示す上面図である。
【図3】(A)はレンズ受け治具を示す上面図であり、(B)は(A)におけるIIIB−IIIB断面を示す断面図である。
【図4】レンズ受け治具を示す斜視図である。
【図5】ランナー部に成形されたレンズを載置する際のレンズ受け治具を示す斜視図である。
【図6】ランナー部に成形されたレンズを載置した状態のレンズ受け治具を示す斜視図である。
【図7】ゲート部をカットする際のレンズ受け治具を示す斜視図である。
【図8】ランナー部から切り離されたレンズを載置した状態のレンズ受け治具を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1及び図2に示すゲートカット装置11は、複数のレンズ(製品部)12が成形された射出成形品13からレンズ12を切り離すために用いられる。射出成形品13は、金型を用いた射出成形により成形された透明なプラスチック製であり、円柱形状のスプールブッシュ部14の中間に、スプールブッシュ部14と比較して径が大きい円柱形状のリム部15が成形されている。また、リム部15を中心に90°ピッチの放射状に延びた4本のランナー部16のそれぞれの先端には、ゲート部17を介してレンズ12が成形されている。ゲート部17は、ランナー部16の長手方向と平行になるように成形されている。
【0024】
各レンズ12は、レンズ面18、19を有した本体部20と、本体部20の外周縁に成形されたフランジ部21とを備え、フランジ部21外周面22の一部が切り欠かれたD字形状に成形されている。外周面22の一部に切り欠かれた切欠き面23には、ゲート部17が成形されている。なお、各レンズ12は、カメラ付き携帯電話機に組み込まれる撮影レンズの一部に用いられるもので、それぞれの直径は互いに等しく、2mm以上8mm以下であることが好ましい。
【0025】
ゲートカット装置11は、スプールブッシュ部14の下端で射出成形品13を回動自在に保持する保持台25と、保持台25を回動させる回転機構26と、保持台25を昇降自在に設置する昇降板27と、昇降板27を昇降させる昇降機構28とを備えている。
【0026】
また、ゲートカット装置11は、レンズ12が載置されるとともに、載置されたレンズ12をランナー部16から遠ざける方向及びその反対方向(図1及び図2における左右方向、すなわちA方向及びB方向)に移動自在に設けられた受け治具29と、受け治具29をA方向及びB方向に移動させる受け治具移動機構30とを備えている。
【0027】
さらに、ゲートカット装置11は、ゲート部17をレンズ12側の根元でカットする金属製のカッター31と、A方向と直交する、ゲート部17をカットする方向(図7参照)及びその反対方向にカッター31を移動させるカッター移動機構32と、各機構26、28、30、32の駆動を制御する制御部33とを備えている。昇降板27、受け治具29及びカッター31はそれぞれ、支持ベース(図示省略)に取り付けられている。
【0028】
図3(A)、図3(B)及び図4に示す受け治具29は、鏡面加工されたステンレス製であり、レンズ12を受けるための受け部36を備えている。受け部36は、レンズ12がフランジ部21で載置される載置面37と、受け治具29がA方向(図1及び図2参照)に移動する際に、載置面37に載置されたレンズ12のフランジ部21外周面22が引っ掛かる引掛け面38と、受け治具29がA方向に移動する際に、載置面37に載置されたレンズ12を引掛け面38に案内する第一ガイド面39と、レンズ12が載置面37に載置される際に、レンズ12を載置面37に案内する第二ガイド面40とから構成されている。
【0029】
引掛け面38は、フランジ部21の外周面22に沿う曲面であり、載置面37にレンズ12が載置された際に、レンズ12に連なるように成形されたゲート部17を挟んだ両側のそれぞれに位置するように、載置面37に対して垂直に形成されている。第一ガイド面39は、平面であり、各引掛け面38のゲート部17を挟む側とは反対側に滑らかに連続するように、載置面37に対して垂直に形成されている。各引掛け面38及び各第一ガイド面39はそれぞれ、その高さがレンズ12のフランジ部21(レンズ12の外周部分)の厚みと同一となるように形成されている。
【0030】
載置面37は、各引掛け面38及び各第一ガイド面39とで囲われた扇形であり、その中央には扇形に切り欠かれた凹部41が形成されている。載置面37の扇形に広がる角度R1は、40°±20°が好ましく、30°±10°がより好ましく、30°が最も好ましい。凹部41の扇形に広がる角度R2は、10°±5°が好ましく、10°がより好ましい。本実施形態では、載置面37に載置される側のレンズ面19は凸面ではないが、レンズ面19は凸面であっても良く、この場合、凹部41はレンズ面19と載置面37との緩衝を防止する。
【0031】
第二ガイド面40は、各引掛け面38及び各第一ガイド面39の上方に連続するように、傾斜面として形成されている。
【0032】
次に、図1及び図2に示すゲートカット装置11の処理手順について説明する。金型で射出成形された射出成形品13は、搬送アーム(図示省略)によりゲートカット装置11に搬送される。ゲートカット装置11に搬送された射出成形品13は、保持台25によりスプールブッシュ部14の下端で保持されるとともに、保持台25に設けられたランナー保持部(図示省略)により、ランナー部16で保持される。この時、制御部33は、昇降板27の高さが、レンズ12が受け治具29から離隔した高さとなるように、昇降機構28を制御している。
【0033】
制御部33は、回転機構26の駆動を制御して、いずれかのレンズ12が受け治具29の真上に位置するように保持台25を回転させることで、射出成形品13を回転させる。そして制御部33は、昇降機構28の駆動を制御して、レンズ12が受け治具29に載置されるように昇降板27を下降させる(図5参照)。レンズ12は、載置面37に対してフランジ部21で載置される。
【0034】
制御部33は、受け治具移動機構30の駆動を制御して、受け治具29をA方向に僅かに移動させて、レンズ12のフランジ部21外周面22を引掛け面38に確実に引っ掛ける(図6参照)。フランジ部21の外周面22が引掛け面38に確実に引っ掛かることで、レンズ12の位置が固定されてゲート部17はA方向に沿うことになる。
【0035】
制御部33は、受け治具移動機構30の駆動を制御して、受け治具29をA方向に移動させるようにゲート部17に対してその引張り強度よりも小さい引張り応力を与えながら、カッター移動機構32の駆動を制御してカッター31を矢印の方向に移動させてゲート部17をカットする(図7参照)。ゲート部17がカットされることで、レンズ12はランナー部16から切り離される(図8参照)。ランナー部16から切り離されたレンズ12は、回収機構(図示省略)により回収される。回収機構により回収されたレンズ12は、所定の後処理が施され、製品として仕上げられる。
【0036】
制御部33は、昇降機構28の駆動を制御して、昇降板27を図1に示す高さとなるように上昇させる。以後、制御部33は、各機構26、28、30、32の駆動を制御して、射出成形品13の回転→レンズ12の載置(昇降板27の下降)→ゲート部17のカット→レンズ12の回収→昇降板27の上昇という一連の処理を繰り返す。この一連の処理を繰り返すことで、各レンズ12はランナー部16から順次切り離され、製品として仕上げられる。
【0037】
以上説明したように、受け治具29を用いてレンズ12とランナー部16とを互いに遠ざける方向(A方向)にゲート部17を引っ張りながらゲート部17をカットするから、ゲート部17の向きを確実にカッター31の切断方向と直交する方向にすることができ、簡便な方法でありながら精度良くカットすることができる。
【0038】
なお、上記実施形態では、レンズ12が載置された受け治具29を移動させてゲート部17を引っ張る構成としたが、射出成形品13をスプールブッシュ部14の下端で保持する保持台25を移動させてゲート部17を引っ張る構成としてもよい。この場合、保持台25又は昇降板27をA方向及びB方向に移動させる移動機構をゲートカット装置11に設け、この移動機構の駆動を制御部33が制御することになる。
【符号の説明】
【0039】
11 ゲートカット装置
12 レンズ(製品部)
13 射出成形品
16 ランナー部
17 ゲート部
18、19 レンズ面
21 フランジ部
22 外周面
23 切欠き面
29 受け治具
31 カッター
36 受け部
37 載置面
38 引掛け面
39 第一ガイド面
40 第二ガイド面
41 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランナー部にゲート部を介して製品部が成形された射出成形品の前記ゲート部をカットするゲートカット方法において、
前記製品部と前記ランナー部とを互いに遠ざける方向に前記ゲート部を引っ張りながらカッターによる前記ゲート部のカットを行うことを特徴とするゲートカット方法。
【請求項2】
前記製品部を受け治具に載置し、前記製品部の位置を固定して前記カットを行うことを特徴とする請求項1に記載のゲートカット方法。
【請求項3】
ランナー部にゲート部を介してレンズが成形された射出成形品の前記レンズが載置される載置面と、
前記レンズと前記ランナー部とを互いに遠ざける方向に前記ゲート部を引っ張る際に、前記載置面に載置された前記レンズの外周面を引っ掛ける引掛け面とを備えたことを特徴とするレンズ受け治具。
【請求項4】
前記引掛け面は、前記レンズの前記外周面に沿う曲面であることを特徴とする請求項3に記載のレンズ受け治具。
【請求項5】
前記引掛け面は、前記レンズが前記載置面に載置された際に、前記ゲート部を挟んだ両側のそれぞれに位置することを特徴とする請求項3又は4に記載のレンズ受け治具。
【請求項6】
前記引掛け面の前記ゲート部を挟む側とは反対側に連続し、前記レンズを前記引掛け面に案内する第一ガイド面を備えたことを特徴とする請求項5に記載のレンズ受け治具。
【請求項7】
前記引掛け面と前記第一ガイド面とは、互いに滑らかに連続していることを特徴とする請求項6に記載のレンズ受け治具。
【請求項8】
前記第一ガイド面は平面であり、
前記載置面は、前記引掛け面と前記第一ガイド面とで囲われた扇形であることを特徴とする請求項7に記載のレンズ受け治具。
【請求項9】
前記載置面が広がる角度は、40°±20°であることを特徴とする請求項8に記載のレンズ受け治具。
【請求項10】
前記レンズの直径は、2mm以上8mm以下であることを特徴とする請求項9に記載のレンズ受け治具。
【請求項11】
前記引掛け面と第一ガイド面とは、それぞれの高さが前記レンズの外周部分の厚みと略同一であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載のレンズ受け治具。
【請求項12】
前記第一ガイド面の上方に連続し、前記レンズを前記載置面に案内する第二ガイド面を備えたことを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載のレンズ受け治具。
【請求項13】
前記載置面には、前記レンズ面との緩衝を防止するための凹部が形成されていることを特徴とする請求項3〜12のいずれかに記載のレンズ受け治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−194775(P2010−194775A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40204(P2009−40204)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】