説明

ゲート回路

【課題】 電圧駆動型半導体素子に流れる短絡電流を抑制し、電圧駆動型半導体素子のスイッチング損失を低減することのできる電圧駆動型半導体素子のゲート回路を提供することにある。
【解決手段】 IGBT2のエミッタ側にコイル4が接続され、IGBT2のターンオン後に、IGBT2を駆動するゲート電圧を印加するゲート−エミッタ間の回路をコイル4を含まない回路からコイル4を含む回路に切り替えるゲート回路1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧駆動型半導体素子のゲート回路に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電圧駆動型半導体素子であるIGBT(insulated gate bipolar transistor)をスイッチングさせて、電力を変換する電力変換装置が知られている。このような電力変換装置において、IGBTの導通時に、オフされている反対アームのIGBT(導通しているIGBTと直列に接続されたIGBT)が短絡破壊をすると、過大な短絡電流が流れる。この短絡電流は、IGBT定格電流の10倍以上に達することがある。このような短絡電流が流れると、IGBTは破損する。
【0003】
そこで、このような短絡電流に対する保護について、様々な検討がされている(例えば、非特許文献1参照)。また、このような保護をするための方式の1つに、IGBTのエミッタ側に、インダクタンスを含むように回路を構成することが提案されている(非特許文献2参照)。
【非特許文献1】Romeo Letor、外1名,“Short Circuit Behavior of IGBT’s Correlated to the Intrinsic Device Structure and on the Application Circuit”, IEEE TRANSACTIONS ON INDUSTRY APPLICATIONS, IEEE,1995年3月/4月,Vol.31,No.2,p.234−239
【非特許文献2】笹川清明、外2名,“ゲート波形制御によるIGBT短絡保護方式の検討”,電気学会D部門論文誌,社団法人電気学会,2007年,第127巻,第5号,p.478−484
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、先行技術文献に記載の電力変換装置では、通常のIGBTのスイッチングでも、インダクタンスにより、IGBTの素子電流のdi/dtを低減するようにゲートに負帰還が掛かる。このため、例えば、IGBTのオン時に反対アームのダイオードに流れるリカバリー電流も抑制される。従って、IGBTのゲート電圧は、大幅に増加する。これにより、スイッチング損失が増大する。
【0005】
そこで、本発明の目的は、電圧駆動型半導体素子に流れる短絡電流を抑制し、電圧駆動型半導体素子のスイッチング損失を低減することのできる電圧駆動型半導体素子のゲート回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の観点に従ったゲート回路は、電圧駆動型半導体素子のエミッタ側にインダクタが接続され、前記電圧駆動型半導体素子を駆動するゲート回路であって、前記電圧駆動型半導体素子のゲート−エミッタ間に、前記電圧駆動型半導体素子を駆動するためのゲート電圧を印加し、前記電圧駆動型半導体素子を駆動する駆動手段と、前記駆動手段により前記ゲート電圧が印加される前記電圧駆動型半導体素子のゲート−エミッタ間の回路を、前記インダクタを含む回路と前記インダクタを含まない回路とに切り替える回路切替手段と、前記電圧駆動型半導体素子のターンオン後に、前記回路切替手段により前記インダクタを含まない回路から前記インダクタを含む回路に切り替えるための切替信号を生成する切替信号生成手段とを備えている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電圧駆動型半導体素子に流れる短絡電流を抑制し、電圧駆動型半導体素子のスイッチング損失を低減することのできる電圧駆動型半導体素子のゲート回路を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の各実施形態を説明する。
【0009】
(実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る電力変換回路10の構成を示す構成図である。図2は、本実施形態に係るゲート回路1の生成するゲートパルスGP及び切替信号SKの波形を示す波形図である。なお、以降の図において、同一部分には同一符号を付してその詳しい説明を省略し、異なる部分について主に述べる。以降の実施形態も同様にして重複した説明を省略する。
【0010】
電力変換回路10は、ゲート回路1と、IGBT2と、ダイオード3と、コイル4とを備えている。
【0011】
ゲート回路1は、IGBT2をスイッチングするためのゲート電圧を出力する回路である。
【0012】
IGBT2は、電圧駆動型半導体素子である。電力変換回路10は、IGBT2をスイッチングすることにより、直流電力を交流電力に変換する。
【0013】
ダイオード3は、IGBT2に逆並列に接続されている。
【0014】
コイル4は、IGBT2が短絡破壊したときに流れる短絡電流を抑制するための素子である。コイル4は、インダクタンスを有するインダクタである。
【0015】
次に、ゲート回路1の詳細な構成について説明する。
【0016】
ゲート回路1は、ゲートパルス生成部11と、オンディレイ12と、切替器13とを備えている。
【0017】
ゲートパルス生成部11は、IGBT2のオン又はオフをするための指令となるゲートパルスGPを生成する。ゲート回路1は、ゲートパルス生成部11により生成されたゲートパルスGPに従って、IGBT2にゲート電圧を印加する。ゲートパルスGPの波形は、IGBT2のゲート−エミッタ間に印加されるゲート電圧の波形を示している。
【0018】
オンディレイ12は、ゲートパルス生成部11から出力されたゲートパルスGPが入力され、切替器13を切り替えるための切替信号SKを出力する。オンディレイ12は、入力された波形に対して、オンする時間(立ち上がり時間)を所定時間遅らせた波形を出力する。
【0019】
切替器13は、オンディレイ12から出力された切替信号SKに従って、接点PAと接点PBとの切替を行う。接点PAが選択されている場合、ゲート回路1がIGBT2にゲート電圧を印加する回路に、コイル4が含まれる。接点PBが選択されている場合、ゲート回路1がIGBT2にゲート電圧を印加する回路に、コイル4が含まれない。
【0020】
次に、電力変換回路10の動作について説明する。
【0021】
ゲート回路1は、ゲートパルスGPがONを示す場合、ゲート−エミッタ間に印加するゲート電圧を閾値電圧以上にして、IGBT2をオンにする。ゲート回路1は、ゲートパルスGPがOFFを示す場合、ゲート−エミッタ間に印加するゲート電圧を閾値電圧以下にして、IGBT2をオフにする。
【0022】
ゲート回路1は、IGBT2の駆動を開始する前は、切替器13を接点PAに選択している。ゲート回路1は、切替信号SKがPAを示す場合、切替器13を接点PAに切り替える。ゲート回路1は、切替信号SKがPBを示す場合、切替器13を接点PBに切り替える。
【0023】
オンディレイ12は、図2に示すように、ゲートパルス生成部11からゲートパルスGPが入力されると、立ち上がりを時刻t1から時刻t2に遅らせた波形を切替信号SKとして出力する。時刻t1と時刻t2との間の時間は、オンディレイ12に予め設定されている時間である。この設定されている時間は、IGBT2のターンオンする時間に略等しいか、又は少し遅く設定されている。
【0024】
上述の構成により、ゲート回路1は、IGBT2をオフからターンオンするまでの間は、コイル4を含まないゲート−エミッタ間にゲート電圧を印加する。ゲート回路1は、IGBT2をオンしている間は、コイル4を含むゲート−エミッタ間にゲート電圧を印加する。
【0025】
本実施形態によれば、以下の作用効果を得ることができる。
【0026】
ゲート回路1は、IGBT2をオフからターンオンするまでの間は、インダクタンスを含まない回路にゲート電圧を印加する。ゲート回路1は、IGBT2をオンしている間は、インダクタンスを含む回路にゲート電圧を印加する。
【0027】
これにより、電力変換回路10は、通常時のIGBT2のスイッチング損失を増大させることなく、IGBT2の導通時に反対アームのIGBTが短絡破壊することにより発生する過大な短絡電流を抑制することができる。
【0028】
ここで、IGBT2をオフからターンオンするまでの間に発生した短絡電流は抑制されない。しかし、この間に発生する短絡電流は、IGBT2の導通時に発生する短絡電流より深刻でない(非特許文献1参照)。従って、電力変換回路10は、短絡保護としての機能に影響はほとんどない。
【0029】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る電力変換回路の構成を示す構成図。
【図2】本実施形態に係るゲート回路の生成するゲートパルス及び切替信号の波形を示す波形図。
【符号の説明】
【0031】
1…ゲート回路、2…IGBT、3…ダイオード、4…コイル、10…電力変換回路、11…ゲートパルス生成部、12…オンディレイ、13…切替器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧駆動型半導体素子のエミッタ側にインダクタが接続され、前記電圧駆動型半導体素子を駆動するゲート回路であって、
前記電圧駆動型半導体素子のゲート−エミッタ間に、前記電圧駆動型半導体素子を駆動するためのゲート電圧を印加し、前記電圧駆動型半導体素子を駆動する駆動手段と、
前記駆動手段により前記ゲート電圧が印加される前記電圧駆動型半導体素子のゲート−エミッタ間の回路を、前記インダクタを含む回路と前記インダクタを含まない回路とに切り替える回路切替手段と、
前記電圧駆動型半導体素子のターンオン後に、前記回路切替手段により前記インダクタを含まない回路から前記インダクタを含む回路に切り替えるための切替信号を生成する切替信号生成手段と
を備えたことを特徴とするゲート回路。
【請求項2】
前記ゲート電圧を出力するためのゲート波形を生成するゲート波形生成手段を備え、
前記切替信号生成手段は、前記ゲート波形生成手段により生成された前記ゲート波形に基づいて、前記切替信号を生成すること
を特徴とする請求項1に記載のゲート回路。
【請求項3】
前記切替信号生成手段は、前記ゲート波形生成手段により生成された前記ゲート波形を入力し、前記ゲート波形の信号の立ち上がり時間を遅延させた波形を、前記切替信号として出力するオンディレイタイマを備えたこと
を特徴とする請求項1に記載のゲート回路。
【請求項4】
ゲート電圧により駆動する電圧駆動型半導体素子と、
前記電圧駆動型半導体素子のエミッタ側に接続されたインダクタと、
前記電圧駆動型半導体素子のゲート−エミッタ間に、前記ゲート電圧を印加し、前記電圧駆動型半導体素子を駆動する駆動手段と、
前記駆動手段により前記ゲート電圧が印加される前記電圧駆動型半導体素子のゲート−エミッタ間の回路を、前記インダクタを含む回路と前記インダクタを含まない回路とに切り替える回路切替手段と、
前記電圧駆動型半導体素子のターンオン後に、前記回路切替手段により前記インダクタを含まない回路から前記インダクタを含む回路に切り替えるための切替信号を生成する切替信号生成手段と
を備えたことを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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