説明

コア−コロナ型ナノ粒子を含む水系塗料組成物

【課題】 吸着成分を塗料に添加する際に増粘等の異常を発生することがなく、塗膜の外観を損ねることがなく、アルデヒドに対して優れた吸着性をもつ水系塗料組成物を提供する。
【解決手段】 水系塗料組成物は、アルデヒドに対して吸着性を示す親水性コロナを有するコア−コロナ型ナノ粒子を含む。親水性コロナは、好ましくはアミノ基を有するコロナであり、より好ましくはポリビニルアミノ基を有するコロナである。好ましいコア−コロナ型ナノ粒子は、親水性マクロモノマーと疎水性ビニルモノマーのラジカル共重合により得られる親水性コロナ−疎水性コア型ナノ粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性マクロモノマーと疎水性ビニルモノマーのラジカル共重合により得られる親水性コロナ−疎水性コア型ナノ粒子を含む水系塗料組成物に関し、より詳しくは、アルデヒドに対して吸着性を示す親水性コロナを有するコア−コロナ型ナノ粒子を含む水系塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石膏ボード、石膏パネル、石綿セメント製品、木毛セメント等の内装材の接着剤は、ホルムアルデヒドを含み、室内空気汚染への影響が懸念される。このような内装材の表面塗装にはホルムアルデヒド等のアルデヒド類を吸収ないしは吸着する塗料を用いることが望まれる。
【0003】
この要求に応えるものとして、例えばヒドラジド系吸着剤を含むものが考えられる。しかし、アルコールもしくは熱温水に可溶なヒドラジド系吸着剤は水には不溶もしくは分散しにくいため、特殊な分散方法を用いなければ、同吸着剤を水系塗料に使用できない。
【0004】
特許文献1には、(A)ヒドラジド類、アゾール類及びアジン類から選ばれる少なくとも1種及び(B)金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩及び水酸化物から選ばれる少なくとも1種を有効成分とするアルデヒド消臭剤組成物が記載されている。これは水溶性であり、水系塗料に容易に添加できるが、添加量が多くなると塗膜乾燥時、結晶が発生し、塗膜の外観を損ねる。
【0005】
上記特許文献1には、(A)ヒドラジド類、アゾール類及びアジン類から選ばれる少なくとも1種及び(B)金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩及び水酸化物から選ばれる少なくとも1種に、(C)パーライト、ゼオライト、シリカゲル、活性炭、尿素、硫酸第一鉄とL−アスコルビン酸との結合体から選ばれる少なくとも1種が有効成分として添加されているアルデヒド消臭剤組成物も提案されている。特許文献2には、 (A)水溶性又は水分散性樹脂、(B)アルデヒド類吸着能を有する窒素含有化合物、及び(C)珪藻土、活性アルミナ、活性白土およびゼオライトから選ばれる少なくとも1種以上の顔料を含有する塗料組成物が提案されている。
【0006】
しかし、これらは、塗料系に分散可能ではあるが、多孔質物質を含むため多量の水が吸着剤に吸収し、そのため塗料の粘度を著しく高め、塗料の粘度調整が非常に難しくなり、添加量の調整が難しくなる。
【0007】
特許文献3には、四価金属のリン酸塩および二価金属の水酸化合物を含有する吸着性組成物に、スルファミン酸またはスルファミン酸塩を担持させた吸着剤と、光触媒を含有する塗料組成物が提案されている。しかし、光触媒は有機系バインダーで分解するため、無機系バインダーしか使用できず、光触媒含有塗料組成物をコーティングしたものは触媒活性が極端に低下する上に、光のないところでは活性は示されない。
【0008】
アルデヒドを吸着させるアミノ基を有する粒子状樹脂も提案されているが、粒子が真球状であるため、アミノ基が粒子表面のみに存在する。吸着効率を上げるためには粒子径を小さくしなければならないが、そうすると塗料の粘度が経時的に上昇する嫌いがある。その上、粒子表面はアミノ基のため親水的であるが、粒子を塗料中に分散させるためには親水性は不十分であり、分散剤が必要である。
【0009】
特許文献4には、有機高分子からなる基材に放射線を照射した後、アミノ基を有する重合性モノマーまたはアミノ基に変換し得る重合性モノマーをグラフト重合してなる重合体が記載され、特許文献5には複数のアミノアルキル基と結合している窒素原子を含む原子団が繊維状又はシート状の合成樹脂基材の表面に結合している吸着剤が提案されている。しかし、これらはシート表面にアミノ基を有するモノマーを放射線でグラフト重合させたものであるため、塗料へ適用することはできない。
【特許文献1】特開2001−149456号公報
【特許文献2】特開2002−338897号公報
【特許文献3】特開2002−194296号公報
【特許文献4】特開平4−284846号公報
【特許文献5】特開平8−107926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、吸着成分を塗料に添加する際に増粘等の異常を発生することがなく、塗膜の外観を損ねることがなく、アルデヒドに対して優れた吸着性をもつ水系塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、アルデヒドに対して吸着性を示す親水性コロナを有するコア−コロナ型ナノ粒子を含む水系塗料組成物に係るものである。
【0012】
親水性コロナは、好ましくはアミノ基を有するコロナであり、より好ましくはポリビニルアミノ基を有するコロナである。
【0013】
本発明で用いる好ましいコア−コロナ型ナノ粒子は、親水性マクロモノマーと疎水性ビニルモノマーのラジカル共重合により得られる親水性コロナ−疎水性コア型ナノ粒子である。
【0014】
コロナを構成するためのマクロモノマーの水分解後の分子量は、500以上でよいが、好ましくは3000〜10000程度である。
【0015】
本発明で用いられるコア−コロナ型粒子としては、コロナを構成するマクロモノマーの鎖長の長いものが分散安定性の点で好ましい。鎖長はポリビニル基の重合度10以上のものでよいが、40〜120程度のものがより好ましい。
【0016】
コロナを構成するためのマクロモノマーと、コアを構成するためのモノマーとのモル比は、好ましくは1:10〜80である。
【0017】
コアを構成するための重合原料モノマーは、スチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル等のラジカル重合性のモノマーであってよい。
【0018】
ポリビニルアミノ基を有するコロナを構成するための重合原料原料モノマーは、N−ビニルアセトアミドの外、N−ビニルホルムアミドであってもよい。
【0019】
マクロモノマーのアセチルアミノ基の加水分解は通常はナノ粒子作成前に行われる。この加水分解率は、低くても水中での粒子分散性およびアルデヒド吸着性は現れるが、好ましくは少なくとも30%以上である。
【0020】
コア−コロナ型粒子の粒子径は、特に規定するものではないが、大きすぎると粒子が沈殿を生じやすく、かつ粒子の表面積が小さくてアルデヒドに対する吸着効率が低いので、好ましくは1μm以下である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、コア−コロナ型ナノ粒子のコロナは、アルデヒドに対して吸着性を有するので、この粒子を塗料に添加することにより、アルデヒドに対する吸着性を備えた塗料組成物が得られる。また、コア−コロナ型ナノ粒子のコロナは親水性であるので、この粒子を水系塗料に容易に分散させることができ、アルデヒドに対する吸着性を備えた水系塗料組成物が得られる。
【0022】
本発明による塗料組成物は、従来のものに比べ、下記の点で勝っている。
【0023】
コア−コロナ型ナノ粒子は水系塗料に分散するため、塗料に対する混和性は問題にならない。また、この粒子は水に溶解しないので乾燥時の結晶の発生は起こらない。そのため、添加量に制限がない。
【0024】
コア−コロナ型ナノ粒子は多孔質でないため、粒子に吸水は起こらない。そのため、粒子の添加は塗料に対して異常な粘度上昇を起こさない。
【0025】
アルデヒドの吸着は、アミノ基とアルデヒドとの反応によるため、バインダー成分に害は及ぼさない。また、この反応は光によるものではないため、暗所でも起こる。
【0026】
コロナ部分にアミノ基が存在するため、真球表面のみの場合と比べて、アルデヒド吸着効果が高い。また、コロナ部分は吸着効果だけでなく、分散剤としての役割をも果たすため、粒子を分散させるための界面活性剤は不要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
つぎに、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例およびこれとの比較を示すための比較例をいくつか挙げる。
【0028】
実施例1
試用した試薬
N−ビニルアセトアミド(アルドリッチ社より購入)、
2−メルカプタノール(ナカライテスク社より購入)、
2,2′−アゾビスイソブチロニトリル(ナカライテスク社より購入)、
エタノール(日本アルコール社より購入)、
ジエチルエーテル(ナカライテスク社より購入)、
p−クロロメチルスチレン(日本油脂社より購入)、
臭化テトラブチルフォスフォニウム (アルドリッチ社より購入)、
N,N−ジメチルホルムアルデヒド(ナカライテスク社より購入)、
スチレン(和光純薬社より購入)
N−ビニルアセトアミド(240ミリモル)、2−メルカプトエタノール(80ミリモル)および2,2′−アゾビスイソブチロニトリルをエタノールに溶かし、窒素雰囲気下60℃で6時間重合反応を行った。反応終了後はジエチルエーテルに再沈殿を繰り返し、末端に2−メルカプトエタノール由来の官能基を有するN−ビニルアセトアミドマクロモノマーを得た。
【化1】

【0029】
このマクロモノマーをN,N−ジメチルホルムアルデヒド(100ml)に溶かした後、マクロモノマーに対して5倍モル量の50%KOH水溶液および2倍モル量の臭化テトラブチルフォスフォニウムを加え、この混合物を60分撹拌した。さらにマクロモノマーに対して10倍モル量のp−クロロメチルスチレンを加えて、30℃で48時間反応を行った。反応生成物をジエチルエーテルで再沈殿し、末端官能基にビニルベンジル基を導入したN−ビニルアセトアミドマクロモノマーを得た。このマクロモノマーの鎖長は、ポリビニル基の重合度75程度のものであった。
【化2】

【0030】
このマクロモノマー、スチレンおよび2,2′−アゾビスイソブチロニトリルを反応管内でエタノールに溶かし(マクロモノマー:スチレンの仕込みモル比1:20)、反応管を脱気封管した後、60℃、24時間重合反応を行った。その後、反応混合液を蒸留水中で3日間透析することにより精製した。この混合液に塩酸を加えてアセチルアミノ基の加水分解によりアミノ基をフリーにした。その後、この混合液を蒸留水中で透析することにより精製した。遠心分離および減圧乾燥を経て、ポリスチレンコアとマクロモノマーコロナからなるコア−コロナ型ナノ粒子を得た。この粒子の粒子径をレーザ散乱回折法粒度分布装置(LS13 320、BECKMAN COULTER社製)で測定したところ、340nmであった。
【0031】
こうして得られたコア−コロナ型ナノ粒子1重量部を水系アクリルエマルション塗料100重量部に撹拌しながら加え、水性塗料組成物を得た。この塗料組成物をガラス板(25cm)に刷毛を用いて0.25g塗布し、常温で乾燥させ、塗膜を形成した。
【0032】
比較例1
コア−コロナ型ナノ粒子の代わりに水溶性吸着剤(ケムキャッチH−6000HS:大塚化学)1重量部を用い、その他の点は実施例1と同様に行って塗膜を形成した。
【0033】
比較例2
コア−コロナ型ナノ粒子の代わりにアルコール溶解性吸着剤(FINTEX FC−M:大日本インキ化学社製)1重量部を用い、その他の点は実施例1と同様に行って塗膜を形成した。
【0034】
比較例3
水系エマルション塗料をそのままブランクとして用い、その他の点は実施例1と同様に行って塗膜を形成した。
【0035】
性能評価テスト
実施例および比較例で得られた塗膜サンプルをそれぞれガラス板(25cm)上に置き、これらのガラス板を20リットルの容器に入れた。この容器に初期濃度10ppmのホルムアルデヒドガスを注入し、23℃で所定時間後の容器内のホルムアルデヒド濃度を測定した。濃度測定は高速液体クロマトグラフィー(島津製作所社製「LC−10A」)を用いて行った。ホルムアルデヒドガスを初期濃度500ppmのアセトアルデヒドガスに代えて上記と同様の操作を行った。
【0036】
テスト結果を表1に示す。
【表1】

【0037】
表1から明らかなように、実施例で得られた塗膜は、いずれの項目においても良好な結果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルデヒドに対して吸着性を示す親水性コロナを有するコア−コロナ型ナノ粒子を含む水系塗料組成物。
【請求項2】
親水性コロナが、アミノ基を有するコロナである請求項1記載のコア−コロナ型ナノ粒子を含む水系塗料組成物。
【請求項3】
親水性コロナが、ポリビニルアミノ基を有するコロナである請求項1記載のコア−コロナ型ナノ粒子を含む水系塗料組成物。


【公開番号】特開2006−77069(P2006−77069A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260719(P2004−260719)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(591137086)恒和化学工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】