説明

コアシェル構造を有する材料

【課題】外側のシェル部とコア部とを含む複合粒子を有する材料を提供する。
【解決手段】コア部がリチウム合金材料から作られ、外側のシェル部がリチウム合金材料のコア部よりもサイズの大きな内部体積を有する複合粒子を含む材料が提供される。幾つかの例では、外側のシェル部の平均外径は500nm未満であり、コア部は上記の内部体積の5〜99%を占める。加えて、外側のシェル部は100nm未満の平均壁厚を有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国エネルギー省によって締結された契約第DE−AC52−06NA25396号のもと、政府の支援とともに行なわれたものである。政府は、本発明において一定の権利を有するものである。
【0002】
本発明は、材料、特にはコアシェル構造を有する材料に関する。
【背景技術】
【0003】
電池に関するエネルギー需要が増え続けているが、一方で、容積及び質量の制約も存在し続けている。さらに、安全で、低コストかつ環境にやさしい材料に対する要求も増している。これらの要求及び電池の仕様は、従来のリチウムイオン電池化学では満足させることができない。リチウムイオン電池は長い間にわたって最適化され、安定なエネルギーを実証しているが、これらのシステムは、電池の活物質の構造から可逆的に挿入及び取り出すことのできるリチウムの量によって制限される。
【0004】
より優れた性能、安全性、低コスト、及び環境にやさしい材料に対する要求は、新規の電池材料の開発によってのみ達成することが可能である。研究者らによって炭素系アノードをスズで置き換えることが提案されている。スズは、電池の充電の際にリチウムと合金を形成する。リチウム−スズ合金は、スズ1原子あたりリチウム4.4原子の最大濃度を形成し、この濃度は993mAh/gの容量に相当する。従来の炭素系アノードは372mAh/gの理論容量を有する。それゆえ、従来の炭素系アノードの電池をスズ系アノードの電池で置き換えることで、より高いエネルギー能力が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スズ系アノードの使用には2つの主な問題があることが研究によって実証されている。第1の問題は不十分なサイクル寿命であり、第2の問題はスズの利用が不十分であるということである。不十分なサイクル寿命は、充放電サイクルの数の関数として、電池エネルギーの不十分な保持と規定される。これらの問題を解決するために、研究者らによって2つのアプローチが取られている。第一に、スズと少なくとも1つの他の金属との金属間化合物を形成すること、第二に、電気化学的に不活性な材料をアノード複合材料に加えることである。しかしながら、従前の研究では、リチウム−スズ電池の不十分な性能の根本的な要因、すなわち、1)充電中のリチウムとスズの合金化によって生じるスズ−リチウム粒子の大きな体積膨張、及び2)上記の体積膨張の際にスズの凝集体がバラバラになることに取り組んでいない。体積膨張によって以降のサイクルの際にマトリクスからスズ粒子が分離し、スズの凝集体が壊れることで新たな表面積の露出した微粒子が生じる。この新たな表面積はマトリクスとは接触しておらず、したがってマトリクスからスズ粒子が分離しているようなものであり、電池容量の低下をもたらす。それゆえ、適切なサイクル寿命と適切なスズの利用を示すリチウム−スズ電池に対してニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
外側のシェル部とコア部とを含む複合粒子を有する材料が開示される。コア部はリチウム合金材料から作られ、外側のシェル部は、リチウム合金材料のコア部よりもサイズの大きな内部体積を有する。この内部体積は、2つの別々の体積、すなわち、固体材料の第1の体積と空きスペースの第2の体積を含むことができる。幾つかの例では、外側のシェル部の平均外径は500nm未満であり、コア部は上記の内部体積の5〜99%を占める。加えて、外側のシェル部は100nm未満の平均壁厚を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施態様による材料の概略断面図である。
【図2】本発明の実施態様の製造工程を示す概略断面図である。
【図3】本発明の実施態様のコア部の合金化及び脱合金の作用を示す概略断面図である。
【図4】本発明の実施態様の異なる製造工程を示す概略断面図である。
【図5】本発明の実施態様の製造方法を示すフローダイヤグラムである。
【図6】スズのコア部を有する炭素の外側シェル部の透過電子顕微鏡像である。
【図7】炭素の外側シェル部と外側シェル部の内部体積の5〜99%を占めるスズのコア部とを有する複合粒子の透過電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、外側のシェル部と該外側のシェル部内のコア部とを有する複合粒子から作られた材料を含む。外側のシェル部はコア部よりも大きな内部体積を有し、該内部体積は、2つの別々の体積、すなわち、固体材料の第1の体積と空きスペースの第2の体積を含むことができる。「空きスペース」という用語は、固体物質が存在しないが、気体及び/又は液体が存在し得るスペース又は体積を言うものであると解される。したがって、外側のシェル部の内部体積は、少なくとも2つの相、すなわち、リチウムと合金を形成することができる材料から少なくとも部分的に作られた固体相と、気体及び/又は液体から作られた非固体相とを含有することができる。したがって、内部体積は固体相の体積よりも大きいと解される。幾つかの例では、コア部は固体の融点よりも低い温度の場合には固体である。例えば、コア部は、100℃よりも低い温度でリチウム合金材料、実例としてスズ、二元スズ合金、三元スズ合金などを含むリチウム合金材料から作ることができる。複合粒子は、500nm未満の平均外径と、100nm未満の平均壁厚を有することができ、リチウム合金材料のコア部は、外側のシェル部内の内部体積の5〜99%を占めることができる。複数の複合粒子を集めて電気化学デバイスの一部である電極を作ることもできると解される。したがって、本発明は、電気化学デバイスにおいて使用するための材料として有用である。
【0009】
複合粒子を製造するための方法も開示される。本方法は、外側のシェル部とコア部の成分を有する前駆体粉末を用意する工程を含む。前駆体材料の粉末を気体中に浮遊させてエーロゾルを形成し、次いでそれをプラズマトーチに通過させる。前駆体粉末がプラズマトーチを通過することでコアシェル前駆体が生成し、コア部は外側シェル部の内部体積のほぼ100%を占める。次いで、コア部は、外側シェル部の内部体積の5〜99%を占めるコア部を有する外側シェル部を生成するためにサイズを低減される。必要に応じて、複数の複合粒子を、例えば、バインダーを用いて集めて、電極を製造することができる。
【0010】
次に図1を参照すると、本発明の実施態様による複合粒子から作られた材料が符号10で一般に示される。材料10は、外側のシェル部110と、内部体積120と、コア部135とを有する複合粒子100を含む。内部体積120は2つの別々の体積、すなわち、コア部135の第1の体積と空きスペース122の第2の体積を含むことができると解される。図1に示されるように、コア部135は、外側のシェル部110内の内部体積120よりも小さいサイズを有する。幾つかの例では、外側のシェル部110は球の形状を有するが、このことは必要とはされない。
【0011】
コア部135はリチウム合金材料、実例としてスズ、二元スズ合金、三元スズ合金などを含むリチウム合金材料から作ることができる。幾つかの例では、コア部135はスズ−銅合金を含むことができる。別の例では、リチウム合金材料はスズを含む必要はない。他の例では、コア部135は、スズ、ケイ素、アルミニウム、ゲルマニウム、銅及びそれらの組み合わせなどの1つ又は複数のリチウム合金元素を含有する。いずれにしても、コア部135は内部体積120の5〜99%を占めることができる。外側のシェル部110は種々の材料から作ることができる。得られる外側のシェル部が電子伝導体、イオン伝導体、及び/又は混合伝導体である限りは、例えば、酸化物、炭酸塩、ハロゲン化物、炭化物、グラファイト、グラフェン、アントラセン及び非晶質炭素などの材料を用いて複合粒子の外側のシェル部を形成することができる。
【0012】
複合粒子100の平均外径は500nm未満である。幾つかの例では、複合粒子100の平均外径は200nm未満であり、他の例では、平均外径は100nm未満である。さらに他の例では、複合粒子100の平均外径は50nm未満である。外側のシェル部110の平均壁厚は100nm未満であり、50nm未満であることができ、幾つかの例では20nm未満である。
【0013】
次に図2を参照すると、複合粒子100を製造するプロセスの工程の概略図が示される。この図では、前駆体の複合粒子50は、コア部85とともに外側のシェル部60を有する。外側のシェル部60とコア部85は、複合粒子100の外側のシェル部110とコア部135と同じ一般的な化学組成を有することができる。図2において矢印で示されるように、複合粒子50のコア部85は、複合粒子100を製造するようにサイズが低減される。外側のシェル部60とコア部85は、外側のシェル部110とコア部135と同じ一般的な化学組成を有する必要はなく、外側のシェル部110とコア部135の最終的な組成は、複合粒子50から複合粒子100への処理の際に得られると解される。
【0014】
次に図3を参照すると、複合粒子100のコア部135が、例えば、電気化学デバイスの充電段階の際にリチウムと合金化され、それによってコア部140が得られる概略図が示される。コア部140は、内部体積120の最大100%を占める膨張した体積を有することができる。電気化学デバイスの放電時に、コア部140は脱合金され、コア部135に縮小される。このようにして、リチウム合金材料から作られたコア部135は、外側のシェル部110を破損させることなく、関連する体積の膨張及び収縮とともに充放電サイクルを受けることができる。この際、コア部135及び/又は140は外側のシェル部110と接触したままであり、サイクル容量の改善された電極を提供する。
【0015】
図4は、複合粒子100を製造するための別の工程を示している。この実施態様では、外側のシェル部110と、外側のシェル部110の内部体積120のほぼすべてを占めるコア部140とを有する前駆体複合粒子90が製造される。コア部140は、式Li−X(式中、Xはリチウムと合金を形成する任意の元素又はこれらの元素の組み合わせである)によって表される、少なくとも部分的に予備リチウム化(pre−lithiated)された合金であることができる。コア部140はまた、リチウムと合金を形成しない他の材料及び/又は元素を含有することもできると解される。前駆体複合粒子90が提供されると、コア部140内のリチウムは、リチウム合金材料のコア部135を有する複合粒子100を製造するために、それから脱合金される。このようにして、電気化学デバイス、例えば、電池の初期の放電によって複合粒子100が製造されるような電極を提供することができる。
【0016】
本明細書で開示される材料を製造するための方法が図5に例示される。本方法は、工程200で前駆体粉末を用意し、工程210でこの前駆体粉末をプラズマトーチに通過させることを含む。工程210で前駆体粉末がプラズマトーチを通過すると、コアシェル前駆体粉末、例えば、図2で示される複数の複合粒子50が工程220で生成する。コアシェル前駆体粉末が工程220で生成された後、コア部は工程230でサイズを低減され、それによってコア部よりも大きな内部体積を有するコアシェル複合粒子が工程240で与えられる。このようなコアシェル複合粒子は、図2において複合粒子100として示される。必要に応じて、工程240で生成した複合粒子から工程300で電極を作ることができる。
【0017】
上記の実施態様をより良く例示するために、複合粒子及びその製造方法の例が与えられる。
【実施例】
【0018】
炭素のシェル部とスズのコア部の複合粒子を製造する試みにおいて、スズとアントラセンの比が50:1の乾燥した前駆体粉末を調製した。ナフタレン又はアセナフタレンなどの化合物を形成する他の芳香族化合物のコークスを用いて炭素材料を与えることができると解される。前駆体粉末をアルゴンガス中に浮遊させ、それによってアルゴンとアントラセン及びスズとのエーロゾルガスを生成した。このエーロゾルガスを、カプラー(結合器)内で集束マイクロ波エネルギーを用いた低電力の大気圧又は大気圧付近の圧力のプラズマ中に通した。他の方法を用いて生成したプラズマを使用することもできると解される。エーロゾルガスに加えて、第2の供給量のアルゴンガスをプラズマ領域に通した。理論によって束縛されるものではないが、本発明者らは、プラズマの高温ゾーンを通過させると、前駆体粉末中の炭素が炭化機構を受けて炭素のフラグメントを形成すると仮定している。加えて、前駆体粉末中のスズが溶解し、冷却時に核形成プロセスを介して粒子を形成する。炭素のフラグメントがスズとしての同じ核の上に集まり、核表面に対して比較的混和性の分離体に基づいている。核形成粒子は高温ゾーンを出て、さらなる成長が起こらない残光領域に進む。
【0019】
図6は、アントラセン−スズの前駆体粉末、300cm3/分(cc/分)のアルゴンエーロゾルガス流量、200cc/分のアルゴンプラズマガス流量、及び900Wの伝送マイクロ波電力(forwarded microwave power)を用いて製造した炭素の外側シェル部とスズのコア部を有する複合粒子の透過電子顕微鏡像を示している。この図に示されるように、50〜100nmの平均外径を有し、炭素の外側シェル部とスズのコア部を有する複合粒子が生成された。プロセスのこの段階で、スズのコア部は炭素の外側シェル部中の内部体積のすべてを本質的に占めている。
【0020】
炭素−スズの前駆体粉末を生成した後、コアシェル粒子を非酸性処理にさらし、結果として炭素の外側シェル部内におけるスズのコア部の部分的な分解が生じる。特には、炭素−スズ前駆体複合粒子を塩基性溶液と反応させた。このような処理の後、図6に示される炭素の外側シェル部内に存在するスズのコア部は、図7に示されるようにサイズが低減された。このようにして、スズのコア部がリチウム合金化の際に外側シェル部にダメージを与えることなく膨張するのに必要な外側シェル部内の空きスペースを有する複合粒子が生成された。反応を促進させるために酸化剤を使用することもできると解される。
【0021】
上で与えられた例は、例示のみを目的とするものであり、コア部の膨張が外側のシェル部を破損させることなく外側のシェル内で起こることができるようなサイズの低減されたコア部とともに外側のシェル部を有する複合粒子を製造する他の方法も包含される。
【0022】
上記の図面、記載及び説明は、本発明の特定の実施態様を説明するものであるが、それらは本発明の実施を限定するものではない。本発明の多くの改良及び変形態様は、本明細書に与えられる教示を考慮すれば、当業者にとって容易に明らかであろう。特許請求の範囲は、すべての同等物を含むものであり、本発明の範囲を規定するものである。
【符号の説明】
【0023】
10 材料
100 複合粒子
110 外側のシェル部
120 内部体積
122 空きスペース
135 コア部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部体積を有する外側のシェル部と、
該内部体積を占める該外側のシェル部内の少なくとも2つの相と
を有する複合粒子を含み、該少なくとも2つの相がリチウム合金材料から少なくとも部分的に作られる固体相と、液体、気体及びそれらの組み合わせからなる群より選択される非固体相とを有し、
該外側のシェル部の該内部体積が該固体相の体積よりも大きい、材料。
【請求項2】
前記外側のシェル部が500nm未満の平均外径を有する、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記外側のシェル部が200nm未満の平均外径を有する、請求項1に記載の材料。
【請求項4】
前記外側のシェル部が100nm未満の平均外径を有する、請求項1に記載の材料。
【請求項5】
前記外側のシェル部が50nm未満の平均外径を有する、請求項1に記載の材料。
【請求項6】
前記固体相が前記外側のシェル部の前記内部体積の5〜99%を占める、請求項1に記載の材料。
【請求項7】
前記外側のシェル部が100nm未満の平均壁厚を有する、請求項1に記載の材料。
【請求項8】
前記外側のシェル部が50nm未満の平均壁厚を有する、請求項1に記載の材料。
【請求項9】
前記外側のシェル部が20nm未満の平均壁厚を有する、請求項1に記載の材料。
【請求項10】
電極を形成するために前記材料と混合されるバインダーをさらに含む、請求項1に記載の材料。
【請求項11】
前記リチウム合金材料が、スズ、ケイ素、アルミニウム、ゲルマニウム、銅及びそれらの組み合わせからなる群より選択される元素を含有する、請求項1に記載の材料。
【請求項12】
前記外側のシェル部が中空の球の形状を有する、請求項1に記載の材料。
【請求項13】
前記固体相が予備リチウム化(pre−lithiated)されたリチウム合金材料である、請求項1に記載の材料。
【請求項14】
内部体積、500nm未満の平均外径、及び100nm未満の壁厚を有する外側のシェル部と、
Li−X合金(Xはリチウムと合金を形成する少なくとも1つの元素である)から少なくとも部分的に作られる、該外側のシェル部内の固体相と
を有する複合粒子を含み、該内部体積が該固体相によってほぼ完全に占められる、材料。
【請求項15】
前記外側のシェル部の前記平均外径が200nm未満である、請求項14に記載の材料。
【請求項16】
前記外側のシェル部の前記平均外径が100nm未満である、請求項15に記載の材料。
【請求項17】
前記外側のシェル部の前記平均外径が50nm未満である、請求項16に記載の材料。
【請求項18】
前記外側のシェル部の前記壁厚が20nm未満である、請求項14に記載の材料。
【請求項19】
Xが、スズ、ケイ素、アルミニウム、ゲルマニウム、銅及びそれらの組み合わせからなる群より選択される元素である、請求項14に記載の材料。
【請求項20】
内部体積、500nm未満の平均外径、及び100nm未満の壁厚を有する外側のシェル部と、
該内部体積を占める該外側のシェル部内の少なくとも2つの相と
を有する複合粒子を含み、該少なくとも2つの相がリチウム合金材料から少なくとも部分的に作られる固体相と、液体、気体及びそれらの組み合わせからなる群より選択される非固体相とを有し、
該外側のシェル部の該内部体積が該固体相の体積よりも大きい、材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−3675(P2010−3675A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66549(P2009−66549)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(507342261)トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド (135)
【出願人】(509078182)
【Fターム(参考)】