説明

コアレスモーターの設計装置および設計方法

【課題】実際のコアレスモーターに近い磁束密度分布、誘起電圧分布を求めることができるコアレスモーター設計装置、方法を提供する。
【解決手段】ローター磁石と電磁コイルとを有するコアレスモーターの設計装置であって、無負荷回転するローター磁石から受ける磁束密度分布を算出する磁束密度算出部と、前記電磁コイルのコイル1巻間の単線の配置を算出するコイル配線位置算出部と、前記磁束密度分布と、前記単線の配置と、を用いて前記単線に生じる誘起電圧を算出し、前記単線に生じる誘起電圧の集合により電気角上における誘起電圧分布を算出する誘起電圧算出部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアレスモーターの設計装置およびその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有限要素法を用いて磁場解析をする方法が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−123076公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の有限要素法を用いる技術をコアレスモーターの設計に適用すると、ローター磁石による磁束密度分布と、電磁コイルに生じる誘起電圧分布とは、同じ形になる。しかし、実際のコアレスモーターでは、磁束密度分布と誘起電圧分布とは、同じ形ではない。そのため、従来の有限要素法を用いて、コアレスモーターを設計することは難しかった。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、実際のコアレスモーターに近い磁束密度分布及び誘起電圧分布を求めることができるコアレスモーターの設計装置およびその設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
ローター磁石と電磁コイルとを有するコアレスモーターの設計装置であって、無負荷回転するローター磁石から受ける磁束密度分布を算出する磁束密度算出部と、前記電磁コイルのコイル1巻間の単線の配置を算出するコイル配線位置算出部と、前記磁束密度分布と、前記単線の配置と、を用いて前記単線に生じる誘起電圧を算出し、前記単線に生じる誘起電圧の総和により電気角上における誘起電圧分布を算出する誘起電圧算出部と、を備える、コアレスモーターの設計装置
この適用例によれば、コアレスモーターの磁束密度分布を算出し、モーター設計に欠くことのできない誘起電圧分布の絶対値を実現できる。
[適用例2]
適用例1に記載のコアレスモーターの設計装置において、前記磁束密度算出部は、円筒形のローター磁石の磁束密度を、測定する磁束密度測定部と、測定された実測値を用いて、放射方向のローター磁石からの距離(X)と前記ローター磁石とコイルバックヨークとの距離(L)を変数とする第1の関数と、ローターの回転方向の電気角(θ)を変数とする第2の関数と、回転軸方向の位置(z)を変数とする第3の関数として算出する関数算出部を備える、コアレスモーターの設計装置。
この適用例によれば、磁束密度の実測値を用いて算出した第1〜第3の関数を用いて設計を行うので、実際のコアレスモーターに近い磁束密度分布から、モーター設計に欠くことのできない誘起電圧分布の絶対値を実現できる。
【0008】
[適用例3]
適用例2に記載のコアレスモーターの設計装置において、前記第1の関数は、ローターの回転方向の電気角(θ)において磁束密度が最大になる電気角であり、かつ、回転軸方向の位置において磁束密度が最大となる位置において測定された磁束密度の実測値を用いて近似式で表される、コアレスモーターの設計装置。
この適用例によれば、実測値と合致する第1の関数を容易に算出することが出来る。
【0009】
[適用例4]
適用例2又は3に記載のコアレスモーターの設計装置において、前記第2の関数は、前記ローター磁石の表面であり、かつ、前記回転軸方向の位置において磁束密度が最大となる位置において測定された磁束密度の実測値を用いて近似式で表される、コアレスモーターの設計装置。
この適用例によれば、実測値と合致する第2の関数を容易に算出することが出来る。
【0010】
[適用例5]
適用例2〜4のいずれか一つの適用例に記載のコアレスモーターの設計装置において、前記第3の関数は、前記ローター磁石の表面であり、かつ、前記ローターの回転方向の電気角(θ)において磁束密度が最大になる電気角において測定された磁束密度の実測値を用いて近似式で表される、コアレスモーターの設計装置。
この適用例によれば、実測値と合致する第3の関数を容易に算出することが出来る。
【0011】
[適用例6]
適用例5に記載のコアレスモーターの設計装置において、前記第3の関数は、前記第3の関数を前記回転軸の方向に積分することにより、前記ローター磁石の前記回転軸方向の長さの関数として表される、コアレスモーターの設計装置。
この適用例によれば、前記回転軸の方向を回転軸方向の長さの関数で表すことができるので、演算が簡単となる。
【0012】
[適用例7]
適用例3〜6のいずれか1つの適用例に記載のコアレスモーターの設計装置において、前記近似式は、最小二乗法を適用して得られた高次関数で表される、コアレスモーターの設計装置。
この適用例によれば、近似式は、最小二乗法を適用して得られた高次関数で表されるので、近似式を容易に算出することができる。
【0013】
[適用例8]
適用例1〜7のいずれか一つの適用例に記載のコアレスモーターの設計装置において、前記第1〜第3の関数により表される磁束密度の関数を前記電磁コイルの1ターン毎に適用して、1ターン毎の誘起電圧を算出し、その総和により前記誘起電圧を算出する、コアレスモーターの設計装置。
一般に、電磁コイルの1ターン毎の位置によりに誘起電圧の値が異なる。この適用例によれば、磁束密度の関数を電磁コイルの1ターン毎に適用し、1ターン毎の誘起電圧を算出し、その総和により誘起電圧を算出するので、誘起電圧の誤差を少なくすることができる。
【0014】
[適用例9]
コアレスモーターの設計方法であって、(a)ローターの回転方向の電気角(θ)において磁束密度が最大になる電気角、および、回転軸方向の位置において磁束密度が最大となる位置において測定された磁束密度の実測値を用いて近似式で表される第1の関数を算出する工程と、(b)ローター磁石の表面であり、前記回転軸方向の位置において磁束密度が最大となる位置において測定された磁束密度の実測値を用いて近似式で表される第2の関数を算出する工程と、(c)前記ローター磁石の表面であり、前記ローターの回転方向の電気角(θ)において磁束密度が最大になる電気角において測定された磁束密度の実測値を用いて近似式で表される第3の関数を算出する工程と、(d)電磁コイルの線材の材質、直径、形状を用いて前記電磁コイルの電気抵抗を算出する工程と、(e)前記ローター磁石と前記コイルバックヨークとの間の前記電磁コイルの配置位置および前記第1〜第3の関数および前記電気抵抗を用いて前記電磁コイルに生じる誘起電圧を算出する工程と、を備えるコアレスモーターの設計方法。
【0015】
[適用例10]
請求項9に記載のコアレスモーターの設計方法において、前記工程(c)は、前記第3の関数を前記回転軸の方向に積分することにより、前記ローター磁石の前記回転軸方向の長さの関数として算出する工程を含む、コアレスモーターの設計方法。
【0016】
[適用例11]
適用例9または10に記載のコアレスモーターの設計方法において、前記近似式は、最小二乗法を適用して得られた高次関数で表される、コアレスモーターの設計方法。
【0017】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、コアレスモーターの設計装置のほか、コアレスモーターの設計方法、コアレスモーターの磁場解析方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】コアレスモーターの設計装置の構成を示す説明図である。
【図1B】コアレスモーターの設計装置を用いて設計されるコアレスモーターを模式的に示す説明図である。
【図2】コアレスモーターとコア付モーターの原理の違いを説明する説明図である。
【図3A】コアレスモーターの設計装置を用いた設計のフローチャートを示す説明図である。
【図3B】コアレスモーターの磁束密度を求めるときの座標系を示す説明図である。
【図4】第1の関数Bt1(L2,X)を決定するために用いたモデルを示す説明図である。
【図5】図4の測定で得られた結果を示しており、ギャップL2毎の磁石表面から磁束密度センサーまでの距離Xと磁束密度の関係を示すグラフである。
【図6】ギャップL2毎に式(1)を用いて算出した磁束密度の値をプロットしたグラフである。
【図7】図6に示すグラフを正規化したグラフである。
【図8】式(9)のギャップL2を0.5mmから4.7mmまで外挿入してギャップL2毎の最大ローター表面磁束密度をプロットしたグラフである。
【図9】第2の関数Bt2(θ)を決定するために用いたモデルを示す説明図である。
【図10】図9の測定で得られた磁束密度の測定結果を示すグラフである。
【図11】式(21)に基づき正規化後の磁束密度をプロットとしたグラフである。
【図12】第3の関数Bt3(Z)を決定するために用いたモデルを示す説明図である。
【図13】磁束密度の測定結果を示すグラフである。
【図14】正規化後の磁束密度を示すグラフである。
【図15A】電磁コイルのモデルを示す説明図である。
【図15B】電磁コイルの線材を選択するためJIS規格の公称線材の特性テーブルの一例である。
【図16A】配線パターンが幅段付巻である場合を示す説明図である。
【図16B】配線パターンが高段付巻である場合を示す説明図である。
【図16C】配線パターンが平行巻である場合を示す説明図である。
【図17】電磁コイルの線材の構成を示す説明図である。
【図18】ターン数Mの値と各種のコイルパラメーターとの関係を示す説明図である。
【図19】本設計装置を用いて設計したモーターの特性を示すグラフである。
【図20】本願の設計装置を用いて設計したコアレスモーターの誘起電圧の設計装置によるシミュレーション値と実測値とを正規化してプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.装置の構成:
図1Aは、コアレスモーターの設計装置の構成を示す説明図である。設計装置50は、CPU51と、RAM52と、HDD52(ハードディスクドライブ52)と、出力インターフェイス54(図では「出力I/F」と略)と、入力インターフェイス55(図では「入力I/F」と略)と、モーター用インターフェイス56と、キーボード57と、ポインティングデバイス58と、モニターディスプレイ59と、を備える。コアレスモーター10は、モーター用インターフェイス56に接続されている。また、コアレスモーター10とモーター用インターフェイス56との間には、測定装置60が配置されている。測定装置60は、コアレスモーターの電気的特性や、永久磁石(後述する永久磁石200)の磁束密度を取得するために用いられる。キーボード57と、ポインティングデバイス58は、コアレスモーターの電磁コイル(後述する電磁コイル100)の形状パラメーターを入力するために用いられる。モニターディスプレイ59は、設計されたコアレスモーターの電気的特性等の設計結果を表示するために用いられる。
【0020】
図1Bは、コアレスモーターの設計装置を用いて設計されるコアレスモーターを模式的に示す説明図である。図1B(A)は、コアレスモーター10を回転軸230と平行な面で切ったときの断面を断面と垂直な方向から見たときの図を模式的に示し、図1B(B)は、コアレスモーター10を回転軸230と垂直な切断線B−Bで切ったときの断面を断面と垂直な方向から見たときの図を模式的に示している。コアレスモーター10は、略円筒状のステーター15が外側に配置され、略円筒状のローター20が内側に配置されたラジアルギャップ構造のインナーローター型モーターである。ステーター15は、ケーシング110の内周に沿って配置されたコイルバックヨーク115と、コイルバックヨーク115の内側に配列された複数の電磁コイル100を有している。電磁コイル100は、2相の場合、電磁コイル100Aと100Bとを含む。なお、図1Bでは電磁コイル100Aと100Bとを区別せずに、単に電磁コイル100と呼んでいる。コイルバックヨーク115は、磁性体材料で形成されており、略円筒形形状を有している。電磁コイル100の回転軸230に沿った方向の長さは、コイルバックヨーク115の回転軸230に沿った方向の長さよりも長くなっている。すなわち、図1B(A)において、電磁コイル100の左右方向の端部は、コイルバックヨーク115と重ならない。本実施例では、コイルバックヨーク115と重なっている領域を有効コイル領域と呼び、コイルバックヨーク115と重ならない領域をコイルエンド領域と呼ぶ。有効コイル領域では、電磁コイルを流れる電子は、回転軸230を中心とした回転方向の力を受ける。この力の反作用により、ローター20は回転する。コイルエンド領域では、電磁コイルを流れる電子は、回転軸230の方向に力を受ける。ただし、図1B(A)に示すようにコイルエンド領域は右側と左側の2つあり、それぞれにおいて電子が受ける力は反対方向であるので、電磁コイル100に掛かる力としては相殺される。コイルバックヨーク115の外周側には、放熱部材111が配置されている。
【0021】
ローター20は、中心に回転軸230を有し、その外周に複数の永久磁石200を有している。各永久磁石200は、回転軸230の中心から外部に向かう径方向(放射方向)に沿って磁化されている。なお、図1B(B)において永久磁石200に付したN、Sの文字は、永久磁石200の電磁コイル100側の極性を示している。永久磁石200と電磁コイル100とは、ローター20とステーター15の対向する円筒面に対向して配置されている。ここで、永久磁石200の回転軸230に沿った方向の長さは、コイルバックヨーク115の回転軸230に沿った方向の長さと同じ長さである。すなわち、永久磁石200と、コイルバックヨーク115にはさまれた領域と、電磁コイル100Aまたは100Bとが重なる領域が有効コイル領域となる。回転軸230は、ケーシング110の軸受け240で支持されている。
【0022】
図2は、コアレスモーターとコア付モーターの原理の違いを説明する説明図である。図2(A)の上の図は、コアレスモーターの電磁コイル100の導体を示している。図2(A)の下の図は、コアレスモーターの動作原理を示している。コアレスモーターでは、磁場Bの下、電磁コイルの導体に電流Iが流れると、フレミングの左手の法則に従う向きに、ローレンツ力Fが働く。永久磁石200(ローター磁石)は、その反作用により回転する。
【0023】
図2(B)の上の図は、コア付モーターの電磁コイル100の導体とコア106とを示している。図2(A)の下の図は、コア付モーターの動作原理を示している。コア付モーターでは、コア106の周りを電磁コイルが巻いている。この場合、電磁コイルの電流が流れると、右ネジの法則にしたがって、コアおよび電磁コイルが電磁石となる。永久磁石200(ローター磁石)は、この電磁石と永久磁石200との間の引力、斥力により回転する。このように、コアレスモーターとコア付モーターとは、動作の考え方が異なる。
【0024】
図3Aは、コアレスモーターの設計装置を用いた設計のフローチャートを示す説明図である。ステップS100では、コアレスモーター10の永久磁石の磁束密度を測定する。ステップS110では、測定された磁束密度を用いて、コアレスモーター10の永久磁石200周りの磁束密度を算出するための第1〜第3の関数を算出する。第1〜第3の関数は、それぞれ、動径、偏角、高さをパラメーターとする関数である。ステップS120では、永久磁石の周りに配置する電磁コイル100の形状パラメーターを入力する。ステップS140では、入力された電磁コイル100の形状パラメーターから電磁コイル100の電気抵抗を算出する。ステップS140では、電磁コイルに生じる誘起電圧を算出する。なお、これらの演算は、図1Aに示したCPU51が実行する。
【0025】
図3Bは、コアレスモーターの磁束密度を求めるときの座標系を示す説明図である。この座標系は、円柱極座標系を変形したものである。すなわち、放射方向(動径)をX、回転方向(偏角)をθ、回転軸方向(高さ)をzとする円柱極座標系であるが、以下の点が異なっている。放射方向について、永久磁石200の表面を0とする点が、円の中心をゼロとする一般の円柱極座標系と異なっている。また、回転方向は、一般の円柱極座標系では1周で2πまであるが、この実施例の円柱極座標系では、永久磁石の1極分の区間(N極とS極との間のピッチ)をπとしている。例えば図1Bに示すように永久磁石が6極の場合には、円筒の一周分で6πとなる。なお、永久磁石はN、Sで磁束の向が逆になるが、絶対値では等価なので、永久磁石の1極分、すなわち電気角で0〜πの区間だけ実測を行えばよい。ローター磁石(永久磁石200)のZ方向の長さはL1であり、その中央をZ=0としている。
【0026】
座標(X,θ、Z)の点Qにおける磁束密度Btは、3つ座標値の関数Bt(X,θ、Z)として表すことができる。また、計算の簡略化のため、以下のように、関数Bt(X,θ、Z)を3つの関数Bt1(X),Bt2(θ),Bt3(Z)に分離できるものと考える。
Bt(X,θ,Z)=Btmax・Bt1(X)・Bt2(θ)・Bt3(Z)
ここで、Btmaxは、磁束密度Btの最大値であり、第1ないし第3の関数Bt1(X),Bt2(θ),Bt3(Z)は、それぞれの最大値が1に規格化された関数である。
【0027】
永久磁石200と、コイルバックヨーク115との間の距離をギャップL2とする。永久磁石200と、コイルバックヨーク115との間のギャップL2が小さいほど、コイルバックヨーク115に磁束が集中しやすいので、永久磁石200と、コイルバックヨーク115との間の磁束密度が大きくなる。したがって、このギャップL2も、この座標系の点、例えば点Qの位置における磁束密度に影響を与える。そこで、上記第1の関数Bt1(X)がギャップL2にも依存すると考えると、L2とXの2つの変数に依存する関数Bt1(L2,X)として表現できる。以上のことから、座標(X,θ、Z)の点Qにおける磁束密度Btは、以下の式で表すことが可能である。
Bt(L2,X,θ,Z)=Btmax・Bt1(L2,X)・Bt2(θ)・Bt3(Z)
但し、本実施例では、第2の関数Bt2(θ)と第3の関数Bt3(Z)は座標Xにも依存する形式となる。これらの3つの関数Bt1(L2,X),Bt2(θ),Bt3(Z)の具体的な形式やその決定方法については以下で詳述する。
【0028】
B.第1の関数Bt1(L2,X)の決定:
図4は、第1の関数Bt1(L2,X)を決定するために用いたモデルを示す説明図である。図4(A)はモーターの中心軸に沿った断面(図2(A))を模式化した図である。永久磁石200のローターの回転方向の中心(電気角θ=π/2)、かつ、回転軸230方向の中心(z=0)に磁束密度センサー301を配置し、永久磁石200の表面(X=0)からコイルバックヨークの表面(X=L2)まで磁束密度センサー301を動かして、磁束密度を測定する。図4(A)では、永久磁石200の表面からコイルバックヨークの表面までのギャップL2は2mmである。さらに、図4(B)〜(E)に示すようにギャップL2を2.5mm、3mm、4mm、4.7mmと変えたコアレスモーターに関してそれぞれ磁束密度を測定する。
【0029】
図5は、図4の測定で得られた結果を示しており、ギャップL2毎の、磁石表面から磁束密度センサーまでの距離Xと磁束密度の関係を示すグラフである。なお、磁石表面から磁束密度センサーまでの距離Xが0.5mm未満の領域では、測定が困難であるため、距離Xが0.5mm以上の領域で測定を行っている。なお、距離Xの値がギャップL2以上となると、磁束密度センサー301がコイルバックヨーク115の中に入ってしまうため、距離Xの上限は、ギャップL2と同じ値である。図5から明らかなように、距離Xが大きくなると、磁束密度は小さくなる。また、ギャップL2が小さくなると、磁束密度は大きくなる。
【0030】
距離Xに依存する成分磁束密度成分Btを表す関数Bt(X)は、式(1)のように表すことができる。
【数1】

式(1)において、係数a、b、cの値は、ギャップL2毎に、磁束密度の測定値を用いて最小二乗法により算出することができる。本実施例では、式(1)において二次関数を用いたが、三次以上の高次関数を用いてもよい。
【0031】
次に、X=0のとき磁束密度Btは、最大値Btmaxとなる。磁束密度の最大値Btmaxは、式(1)にX=0を代入して、以下の式(2)で示すことが出来る。
【数2】

【0032】
図6は、ギャップL2毎に式(1)を用いて算出した磁束密度の値をプロットしたグラフである。
【0033】
式(1)を、式(2)を用いて正規化し、式(3)を得る。
【数3】

なお式(3)においてa1=a/c、b1=b/c、c1=c/c=1である。係数a1、b1、係数a、b、cと同様に、ギャップL2毎に算出される。
【0034】
図7は、図6に示すグラフを正規化したグラフである。
【0035】
式(1)は、式(2)、(3)を用いて、式(4)のように書き換えることが出来る。
【数4】

【0036】
次に、式(3)の係数a1、b1、c1は、ギャップL2の関数として以下の式(5)〜式(8)で表すことができる。
【数5】

【数6】

【数7】

【数8】

ここでは、式(5)、(6)、(8)に三次関数を用いたが、四次以上の高次関数を用いてもよい。
【0037】
以上の式(3)〜式(8)から、式(9)が得られる。
【数9】

【0038】
図8は、式(9)のギャップL2を0.5mmから4.7mmまで外挿入してギャップL2毎の最大ローター表面磁束密度をプロットしたグラフである。図9に示されたグラフは、図5に示さされた実測の結果とほぼ一致している。以上のように、関数Btmax・Bt1(L2,X)で与えられる磁束密度部分布、実測値と合致する。
【0039】
C.第2の関数Bt2(θ)の決定:
図9は、第2の関数Bt2(θ)を決定するために用いたモデルを示す説明図である。図9(A)はモーターの中心軸に沿った断面(図2(A))を模式化した図であり、図9(B)はモーターの中心軸に垂直な断面(図2(B))を模式化した図である。回転軸230方向の中心(z=0)に磁束密度センサー301を配置し、永久磁石200の表面から磁束密度センサー301までの距離X毎に、永久磁石200のN極における一方のS極との境界(θ=0)から一方のS極との境界(θ=π=180°)まで磁束密度センサー301を動かして、磁束密度を測定する。
【0040】
図10は、図9の測定で得られた磁束密度の測定結果を示すグラフである。このグラフから、測定結果は正弦曲線に乗っていないことがわかる。この測定値は式(10)に示すように、θの六次関数で表すことができる。
【数10】

式(10)において係数a〜gの値は、距離X毎に、磁束密度の測定値を用いて最小二乗法により算出することができる。本実施例では、式(10)において、六次関数を用いたが、これより小さい五次関数や、七次以上の高次関数を用いてもよい。なお、N極とS極はBt(θ)の符号が反対になるだけなので、永久磁石200のN極とS極のうちの一方に関してのみ測定してもよい。
【0041】
電気角0〜π(180°)の間で最も磁束密度が大きくなる点、具体的にはπ/2(90°)における磁束密度の値Btm2を用いて、式(10)を正規化して式(11)を得る。なお、Btm2の値は、Btmaxと同じ値である。
【数11】

なお、Btm2は式(12)で示される。
【数12】

【0042】
式(11)は、式(3)と同様に正規化して式(13)のように表すことが出来る。
【数13】

【0043】
式(13)において係数a2〜g2はそれぞれ、a/Btm2〜g/Btm2である。式(13)における係数a2〜g2は、距離Xの関数として表すことが出来る。具体的には、次の式(14)〜式(20)で表現し、式(14)〜式(20)の係数Aa2〜Dg2を、最小二乗法を用いて算出する。
【数14】

【数15】

【数16】

【数17】

【数18】

【数19】

【数20】

【0044】
式(13)および式(14)〜式(20)から、式(21)を得ることができる。
【数21】

【0045】
図11は、式(21)に基づき正規化後の磁束密度をプロットとしたグラフである。図11に示すグラフは、図10に示すグラフを正規化したものとほぼ重なる。以上のように、第2の関数Bt2(θ,X)で与えられる磁束密度分布は、実測値と合致する。なお、本実施例では、電気角θの範囲を、一つのS極(θ=0)から隣のN極(θ=π=180°)までの区間を、電気角0〜π(180°)に相当する区間としているが、永久磁石200の回転方向の対称性を考慮すれば、一つS極の位置をθ=−π/2、隣のN極の位置をθ=+π/2として上記各式を算出してもよい。
【0046】
D.第3の関数Bt3(Z)の決定:
図12は、第3の関数Bt3(Z)を決定するために用いたモデルを示す説明図である。図12(A)はモーターの中心軸に沿った断面(図2(A))を模式化した図であり、図12(B)はモーターの中心軸に垂直な断面(図2(B))を模式化した図である。永久磁石200のローターの回転方向の電気角の中心(電気角θ=π/2)に磁束密度センサー301を配置し、永久磁石200の表面から磁束密度センサー301までの距離X毎に、永久磁石200の回転軸230方向の一方の端部(Z=−L1/2)から他方も端部(Z=+L1/2)まで磁束密度センサー301を動かして、磁束密度を測定する。
【0047】
図13は、磁束密度の測定結果を示すグラフである。第1、第2の関数と同様に、式(22)に示すように、磁束密度のZ成分を以下の関数として示す。
【数22】

式(22)において係数a〜gの値は、距離X毎に、磁束密度の測定値を用いて最小二乗法により算出することができる。本実施例では、六次関数を用いたが、これより小さい五次関数や、七次以上の高次関数を用いてもよい。なお、回転軸230方向は、中心(Z=0)に対して対象であるので、プラス側とマイナス側の一方のみで測定してもよい。
【0048】
回転軸230方向に添った座標距離Zの区間(−L1/2〜+L1/2)の間で最も磁束密度が大きくなる点、具体的にはZ=0における磁束密度の値を用いて式(22)を正規化し、式(23)を得る。図14は、正規化後の磁束密度を示すグラフである。図13のグラフを正規化すると、図14のグラフとほぼ一致し、Bt3(Z)が実測値に合致することが確認された。
【数23】

なお、式(23)においてBtm3は式(24)で示される。
【数24】

【0049】
式(24)は、式(3)と同様に式(25)のように示すことが出来る。
【数25】

【0050】
式(25)において係数a3〜g3はそれぞれ、a/btm3〜g/btm3である。次に、式(25)における係数a3〜g3を距離Xの関数として算出する。具体的には、次の式(26)〜式(32)で示し、式(26)〜式(32)の係数Aa3〜Dg3を、最小二乗法を用いて算出する。
【数26】

【数27】

【数28】

【数29】

【数30】

【数31】

【数32】

【0051】
式(25)および式(26)〜式(32)から、式(33)を得ることができる。
【数33】

【0052】
さらに、本実施例では、式(33)を式(34)に示すように、第3の関数Bt3(Z,X)をローターの長さの区間(−L1/2から+L1/2)で積分する。
【数34】

【0053】
式(34)で与えられるLZ(X)は、ローター磁石の有効長を示すものと考えることができる。すなわち、図14に示すように、第3の関数Bt3(Z)は、最大値が1になるように規格化されているので、ローター磁石の長さの区間に亘って関数Bt3(Z)を積分した結果LZ(X)は、ローター磁石の有効長を示している。式(34)を解くと、式(35)のように変形することができる。
【数35】

式(35)で与えられる有効長LZは、後述する誘起電圧の算出に用いることができる。
【0054】
以上のようにして、磁束密度の実測値と合致する第1〜第3の関数Bt1(X),Bt2(θ),Bt3(Z)をそれぞれ決定することができた。繰り返しになるが、座標(X,θ、Z)の点Qにおける磁束密度Btは、以下の式で表される。
Bt(L2,X,θ,Z)=Btmax・Bt1(L2,X)・Bt2(θ)・Bt3(Z)
ここで、Z成分Bt3(Z,X)を除く他の成分は、以下の式(36)のように示すことが出来る。
【数36】

【0055】
E.電磁コイルの形状と特性値の決定:
図15Aは、電磁コイルのモデルを示す説明図である。図15Bは、電磁コイルの線材を選択するためJIS規格の公称線材の特性テーブルの一例である。本実施例では、電磁コイルの線材を選択するためJIS規格の公称線材の特性テーブル:20[℃]を利用し、公称値に対する導体径、仕上げ径、抵抗率を索引し、以後の計算に用いる。電磁コイル100は、有効コイル領域とコイルエンド領域を有する。有効コイル領域の長さL1は、永久磁石200(図1等)と同じ長さL1である。電磁コイル100の円周方向の長さW2(両端部の距離)は、電磁コイルの配置位置と極数により定まる。永久磁石200(ローター磁石)の直径をBRとし、電磁コイル100と永久磁石200の表面との間隔をX、電磁コイルの極数をNとすると、長さW2は、式(37)のように示すことが出来る。
【数37】

ここで、電磁コイルが2相であり、各相の電磁コイルと永久磁石200の表面との間隔(距離X)が異なる場合には、相毎にW2の値も異なる。
【0056】
電磁コイル100の放射方向の厚さをDとする。電磁コイル100を電磁コイル100A、100Bの2相とし、電磁コイル100Aの外側に電磁コイル100Bが配置されるとすると、式(37)から、電磁コイル100A、100Bの長さW2A,W2Bはそれぞれ、式(38)、式(39)のように示すことが出来る。
【数38】

【数39】

【0057】
有効コイル領域の幅をW1とする。また、コイルエンド領域の中心線の形状を楕円の一部とし(図15(C))、長半径Raを回転方向、短半径Rbを回転軸と平行な方向とし、楕円率をK1%とすると、電磁コイルの束の中心に沿った楕円の長半径Raと短半径Rbは式(40)、式(41)のように示すことが出来る。
【数40】

【数41】

このときのコイルエンド領域における楕円の中心線の周の長さCは、第二種完全楕円積分を用いて、式(42)で与えられる。
【数42】

ただし、式(42)は解析的に解くことが難しいので、一般には、シュリニヴァーサ・ラマヌジャンによる以下の式(43)又は式(44)を用いることができる。
【数43】

【数44】

【0058】
電磁コイル100の1ターンの長さL3は、有効コイル領域の長さL1と楕円に沿った周の長さCとを用いて、以下の式(45)で示すことができる。
【数45】

【0059】
次にターン数Mを求める。ターン数は、電磁コイル100を形成する線材の直径Doと、電磁コイル100の束の幅W1と、電磁コイル100の厚さDと、配線パターンに依存する。図16Aは、配線パターンが幅段付巻である場合を示す説明図であり、図16Bは、配線パターンが高段付巻である場合を示す説明図であり、図16Cは、配線パターンが平行巻である場合を示す説明図である。ここで、図16A、図16Bに示す場合は、配線パターンが最密となる。
【0060】
図17は、電磁コイルの線材の構成を示す説明図である。図17(A)は、電磁コイルの線材を示している。電磁コイルの線材は、導体105と、絶縁被覆101とを有する。導体105の直径をDi、絶縁被覆を含めた線材の直径をDo、絶縁被覆101の厚さをTcAとすると、導体の断面積Siは、式(46)で算出することができ、絶縁被覆を含めた線材の断面積Soは、式(47)で算出することができる。
【数46】

【数47】

【0061】
図17(A)からわかるように、3本の導体105の絶縁被覆101の間には、略三角形の隙間(空気層)が生じている。この空気層を消滅させれば、占積率を高めることが可能である。具体的には、この線材を熱と加圧(「加熱圧縮」とも呼ぶ。)により絶縁被覆101を変形させて、空気層を消滅させることが可能である。
【0062】
図17(B)は、加熱圧縮により絶縁被覆を変形させた線材を収めることが出来る正六角形を示す。図17(C)は、正六角形の中に絶縁被覆を含めた線材を収めた状態を示している。図17(D)は、加熱圧縮により変形された絶縁被覆を有する3本の導体を示す説明図である。加熱圧縮しても導体の断面積Siは変わらないが、加熱圧縮により絶縁被覆の厚さはTcBと薄くなる。ここでTcB/TcAをコイル圧縮率と呼ぶ。図17(D)を見れば分かるように、加熱圧縮により絶縁被覆は略六角形に変形し、図17(A)において存在していた空気層が消失している。したがって、占積率は高くなる。
【0063】
電磁コイルの配線パターンが図16Aに示すような、幅段付巻であるとして電磁コイルの断面積So2及び巻数(ターン数)を算出する。図17(B)において、正六角形の中心から正六角形の辺までの長さをB2、正六角形の辺の長さをN2とする。図17(C)における被覆を含めた線材(正六角形)の断面積So2は
So2=3×N2×B2
で示すことが出来る。
【0064】
次に電磁コイル100の巻数を算出する。まず、第1段目の電磁コイル100の巻数M1は、電磁コイル100の厚さDとすると、正六角形の中心から正六角形の辺までの長さB2を用いて、式(48)で示すことが出来る。ただし、M1は整数であり、式(48)の結果の小数点以下を切り捨てて整数とする。
【数48】

この巻数M1の値は、奇数番目の段に用いることができる。式(48)において、Dは上述した電磁コイル100の厚さであり(図15(B))、B2は上述した正六角形の中心から正六角形の辺までの長さである。
【0065】
奇数段目と偶数段目とは、電磁コイル100の厚さ方向(図17(D)では横方向)に長さD3ずれ、電磁コイル100の回転方向(図17(D)では縦方向)に長さW3ずれている。この長さD3、W3はそれぞれ式(49)、式(50)で示すことが出来る。
【数49】

【数50】

したがって、偶数段目の電磁コイルの巻数M2は、式(51)で示すことが出来る。
【数51】

式(51)において、Dは上述した電磁コイル100の厚さであり(図15(B))、D3は電磁コイル100の奇数段目と偶数段目との間の厚さ方向のずれであり、B2は上述した正六角形の中心から正六角形の辺までの長さである。なお、巻数M1と同様に、巻数M2についても、整数であり、式(51)の結果の小数点以下を切り捨てて整数とする。
【0066】
次に段数を算出する。段数M3は、以下の式(52)で算出することができる。すなわち、式(52)ででは、有効コイル領域の幅をW1から、両端部の線材の半径分の長さB2(両端分で2×B2)を引いて、電磁コイル100の回転方向のズレの長さW3で割り、1を加えている。
【数52】

段数M3についても、整数であり、式(52)の結果の小数点以下を切り捨てて整数とする。
【0067】
M3が奇数の場合のターン数Mは以下の式(53)で算出でき、M3が偶数の場合のターン数Mは以下の式(54)で算出できる。
【数53】

【数54】

【0068】
なお、図16Bに示すような配線パターンが高段付巻である場合は、図16Aに示す幅段付巻と、配線パターンが90°回転しているだけなので、幅段付巻で用いた方法を適用することによりターン数Mを容易に算出することができるので、説明を省略する。また図16Cに示す平行巻の場合は、以下の式(55)〜式(57)で示すことが出来る。
【数55】

【数56】

【数57】

平行巻のM1、M2についても幅段付巻のM1、M2と同様に整数であり、それぞれ式(56)、式(57)の結果の小数点以下を切り捨てて整数にする。
【0069】
電磁コイル100のターン数(巻数)がMターンであれば、電磁コイル100の導体の長さL4は、式(45)と式(54)又は式(57)のMの値を用いて式(58)で示すことができる。
【数58】

【0070】
したがって、電磁コイル100の電気抵抗R100は、電磁コイルを形成する導体の電気抵抗率をρとすると、導体の断面積Si(式(46))と電磁コイルの導体の長さL4とを用いて、式(59)で示すことが出来る。
【数59】

ここで、電磁コイルが電磁コイル100A、100Bの2相を有する場合、2つの電磁コイル100A、100Bの電気抵抗を等しくするには、同じ材質(電気抵抗率ρが同じ値)、同じ直径(断面積Siが同じ値)の導体を用いた場合、式(58)の長さL4を等しくすればよい。ここで、長さL1は永久磁石200の長さに等しいことから、楕円に沿った周の長さCが同じ値となればよい。具体的には、楕円に沿った周の長さCが同じ値となるように電磁コイル100A、100Bの楕円率K1%の値を決めればよい。
【0071】
この電気抵抗R100は、電磁コイル1極の電気抵抗であるため、2相(A相とB相)のコアレスモーターで、1相当たりPm個の電磁コイル100が直列に接続されている場合には、コアレスモーター10の全体としての電磁コイルの電気抵抗Rdcは、A相抵抗値Ra100とB相抵抗値Rb100を用いて実行値に変換して、以下の式(60)で示すことが出来る。
【数60】

なお、Pm個の電磁コイル100が並列に接続されている場合には、式(61)で示すことが出来る。
【数61】

【0072】
F.誘起電圧の算出
本願発明者による発明(特開2010−35409号公報の(11)式によれば、コアレスモーターの回転数N、無負荷回転数Nnl、電気抵抗Rdc、無負荷電流Inl、印加電圧Esの間には、以下の式(62)の関係がある。
【数62】

【0073】
ここで、無負荷回転数Nnl、無負荷電流Inlは、設計しようとするモーターの仕様により定まる値である。始動時のトルクTを始動トルクTstとすると、この始動トルクTstも設計しようとするモーターの仕様により定まる。始動時の回転数Nはゼロである。上記式(62)に無負荷回転数Nnl、無負荷電流Inlの仕様値、及び回転数N=0を代入する。そして、電気抵抗Rdcの値を入力し、各電気抵抗Rdcに対応する始動トルクTstを求める。そして目標の始動トルクTstが得られる電気抵抗Rdcの値を求める。電気抵抗Rdcは、式(58)、式(59)に示すようにターン数Mに比例するので、ターン数Mに対応した値を入力することが好ましい。
【0074】
次に、電磁コイル100に生じる誘起電圧について説明する。電磁コイル100全体に生じる誘起電圧の大きさは、電磁コイル100の1ターン毎のコイル単線に生じる誘起電圧の和に等しい。したがって、まず、電磁コイル100の1ターン毎のコイル単線に生じる誘起電圧を算出する。
【0075】
コイル単線に生じる誘起電圧Ee1は、磁束密度Bt、ローター磁石(永久磁石200)の有効長LZ、ローター20の角速度ω、コイル単線とローター20の回転中心との距離r、とに依存し、以下の式(63)で示すことができる。
【数63】

なお、式(63)においてBtは式(36)のBt(X,θ,L2)で与えられ、LZは式(35)で与えられる。角速度ωは、ローター20の回転数をNnとすると、以下の式(64)で示され、距離rは、永久磁石200の半径BR/2と永久磁石200表面からの距離Xにより式(65)で示される。
【数64】

【数65】

【0076】
式(63)は、式(66)のように書き換えることが出来る。
【数66】

【0077】
電磁コイル100の各ターンは、コイルエンド領域により2つの有効コイル領域のコイル単線に分かれているので、1ターンの誘起電圧Eetは、式(67)で与えられる。
【数67】

【0078】
したがって、Mターンの電磁コイルに生じる誘起電圧Ecは、式(68)で示すことができる。
【数68】

【0079】
図18は、ターン数Mの値と各種のコイルパラメーターとの関係を示す説明図である。ここでは、電磁コイル100の配線パターンが幅段付巻としている。ここでは、永久磁石200の直径をBR、永久磁石200と電磁コイル100とのギャップをTg、電磁コイル100の厚さをD、電磁コイルの有効コイル領域の幅をW1としている。長さD3、W3はそれぞれ式(49)、式(50)で求められた値である。
【0080】
電磁コイル100の幅W1に相当する電気角W1θは、式(69)で示すことが出来る。
【数69】

また、長さW3に相当する電気角W3θは、式(70)で示すことが出来る。
【数70】

このW3θは、電磁コイルのコイル単線がローター20の回転方向に1段分ずれたときの電気角θの差分である。
【0081】
各単線コイルの位置(θ、X)は、最もローターに近い1段目の1ターン目の単線コイルのときθ=0、X=Tgであるとすると、M1ターン目のときは、θ=0、X=Tg+M1×D3となる。また、M1+1ターン目のときは、段がずれるので、θ=π×(W3/W2)、X=Tgとなる。なお、1段分の巻数M1の値は、式(48)から得られる。Mターン目の時は、段がM3段ずれているので、θ=π×(W3/W2)×M3で得られる。Xについては、奇数段と偶数段で異なり、奇数段のときは、X=Tg+M1×D3であり、偶数段のときは、X=Tg+M2×D3となる。M2、M3の値は、式(51)、式(52)より得られる。これにより、コイル単線毎の座標値(X、θ)の値を得ることが出来る。これらの値を式(68)に代入することにより、1ターン目の単線コイルがちょうど永久磁石200のN極とS極の境界のある位置にあるときの誘起電圧Ecを算出することが出来る。そして、電磁コイル100の単線コイルの位置を、永久磁石200に対して相対的に電気角で0〜2πまで少しずつ移動させ、そのときのコイル単線毎のXとθの値を同様に求めて、式(68)を適用することにより、電気角2π分の誘起電圧Ecを算出することができる。
【0082】
コイルの設計を行う。ここで、電磁コイル100が直列にPm個接続されているとする。一相の誘起電圧Egは、電磁コイル1個分の誘起電圧Ecと、電磁コイル100の個数Pmとを用いて、Eg=Pm・Ec[V]で示すことが出来る。電磁コイル1個分の誘起電圧Ecは、電磁コイル条件(線材の公称値、線材圧縮比、線材配置構成からの巻数)により変わるので、印加電圧Esとの関係で、一相の誘起電圧Eg(Egra、Egrb)と印加電圧Esとがほぼ等しくなるように各相の電磁コイルの形状条件を変化させてEcを調整する。
【0083】
電磁コイル条件の条件が決まれば、電磁コイルの電気抵抗が決まる。すなわち、A相/B相の電気抵抗値Ra100、Rb100が決まる。そして、式(60)を用いてA相/B相の電気抵抗値を実効変換した電気抵抗値Rdcを算出する。設計するモーターのPWM電圧の実行値Epwmは、式(71)で示すことが出来る。
【数71】

無負荷回転速度ωnlは、無負荷回転数をNnlとすると、
ωnl=2*π*Nnl/60[rad/s]
となる。無負荷誘起電圧Egnlは、無負荷電流をInlとすると、
Egnl=Epwm−Rdc*Inl[Vrms]
となる。誘起電圧定数Keは、以下の式(72)で示すことが出来る。
【数72】

トルク定数Ktは、誘起電圧定数Keと等しい。始動電流Istは、
Ist=Epwn/Rdc[A]
で示すことができる。よって始動トルクTstは、
Tst=Kt×Ist
で示すことができる。
【0084】
図19は、本設計装置を用いて設計したモーターの特性を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸(x軸)はトルクを示し、縦軸は、回転数(y1軸)と電流(y2軸)を示している。N−T特性は、トルクの値が0のとき無負荷回転数Nnlを通り、回転数の値が0のとき始動トルクTstを通る直線となる。I−T特性は、トルクの値が0のとき無負荷電流Inlを通り、トルクの値が始動トルクTstのとき、始動電流Istを通る直線となる。
【0085】
次に、定格負荷特性となる定格回転数Ntと定格トルクTtにより定格負荷時で発熱量の支配的となる巻線損失Pcrを算出する。なお、電磁コイルのインダクタンスLとする定格回転Nnl時での誘起電圧Egtと印加電圧Es間によるPWM駆動とPWM駆動周波数fpwmによるωL(2*π*fpwm*L)としたインダクタンスによるPWM損失は生じるが、本願では、インダクタンスによる損失は無視する。定格トルク時の定格電流Itは、
It=Tt/Kt[A]
で示すことが出来、このときの巻線損失Pcrは、
Pcr=Rdc×It2[W]
で示すことが出来る。
【0086】
電磁コイル100の温度上昇を考慮すると、巻線損失Pcrθは以下のように示すことが出来る。定格負荷時において、電磁コイルの温度がθt[℃]になったとする。JIS規格テーブルの温度をθρ、電気抵抗率をρとすると、温度θt[℃]における電磁コイルの電気抵抗Rdcθは、
Rdcθ=Rdc×(1+ρ×(θt−θρ))[Ω]
となる。したがって、巻線損失Pcrθは、
Pcrθ=Rdcθ×It2[W]
となる。なお、定格負荷における定格電流Itは、負荷トルクの大きさにより決まるので、温度に関わらず一定である。
【0087】
このように、モーターのT−N特性と定格負荷特性を中心とした計算結果により、電磁コイル条件を更に変えながら何度も繰り返し計算しすることにより、モーターを設計することが可能となる。
【0088】
図20は、本願の設計装置を用いて設計したコアレスモーターの誘起電圧の設計装置によるシミュレーション値と、実測値と、を正規化してプロットしたグラフである。図20の誘起電圧は、無負荷回転数Nnl時に得られた誘起電圧を用いて正規化したものである。なお参考のために正弦波もプロットしている。グラフから明らかなように、シミュレーション値と実測値により、誘起電圧波形は正弦波と異なる電圧分布であることが判り、正弦波よりも誘起電圧波形による駆動波形が理想的駆動波形であることが分かった。
【0089】
以上、本願発明の設計装置によれば、コアレスモーター10の永久磁石周りの磁束密度を、測定値を用いて関数で表し、入力された電磁コイル100の形状のパラメーターから電磁コイル100の電気抵抗を算出し、電磁コイル100の形状や位置のパラメーターから電磁コイルに生じる誘起電圧を算出し、実際のコアレスモーターに近い磁束密度フォーム、誘起電圧フォームを実現することが出来る。
【0090】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。図5、図10、図13の説明においては、理論検証のために実測データを用いて説明したが、実測データではなく有限要素法を用いた磁場解析結果に基づき、以降の計算パラメーターを形成しても良い。但し、その際の計算用メッシュは細かく設定する必要があり、そのメッシュの細かさにより、電磁コイルの誘起電圧Ecシミュレーション結果と実測結果との差異精度が決定される。一般に有限要素法においては、計算用メッシュを細かくすると計算量が指数関数的に増大するので、本実施例のように実測データを用いることが好ましい。
【0091】
G.変形例:
・変形例1:
上記実施例では、モーター内の単線コイルの位置(X,θ,Z)における磁束密度を算出するための関数として、以下の3つの関数を使用した。
(1)モーターの径方向(放射方向)に沿ったローター磁石からの距離Xと、ローター磁石とコイルバックヨークとの距離L2とを変数とする第1の関数Bt1(L2,X)
(2)ローターの回転方向の電気角θを変数とする第2のBt2(θ)
(3)モーターの回転軸に沿った位置Zを変数とする第3の関数Bt3(Z)
しかしながら、これらは単なる一例であり、他の形式や変数を用いた関数を用いて磁束密度を算出するようにしてもよい。
【0092】
・変形例2:
上述した種々の式で用いた関数は単なる例示であり、関数の形式としてはこれら以外の種々の形式を使用することが可能である。特に、上記実施例では、磁束密度分布を近似するための近似関数(式(3),(13)、(25)で与えられる第1ないし第3の関数)、及び、それらの係数の近似関数(式(5)〜(7),式(14)〜(20),式(26)〜(32))として、2次以上の高次関数(高次多項式)を用いたが、この代わりに、スプライン曲線などの他の近似関数を使用してもよい。
【符号の説明】
【0093】
10…コアレスモーター
15…ステーター
20…ローター
50…設計装置
51…CPU
52…ハードディスクドライブ
54…出力インターフェイス
55…入力インターフェイス
56…モーター用インターフェイス
57…キーボード
58…ポインティングデバイス
59…モニターディスプレイ
60…測定装置
100、100A、100B…電磁コイル
101…絶縁被覆
105…導体
106…コア
110…ケーシング
111…放熱部材
115…コイルバックヨーク
200…永久磁石
230…回転軸
301…磁束密度センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローター磁石と電磁コイルとを有するコアレスモーターの設計装置であって、
無負荷回転するローター磁石から受ける磁束密度分布を算出する磁束密度算出部と、
前記電磁コイルのコイル1巻間の単線の配置を算出するコイル配線位置算出部と、
前記磁束密度分布と、前記単線の配置と、を用いて前記単線に生じる誘起電圧を算出し、前記単線に生じる誘起電圧の総和により少なくとも電気角上における誘起電圧分布を算出する誘起電圧算出部と、
を備える、コアレスモーターの設計装置。
【請求項2】
請求項1に記載のコアレスモーターの設計装置において、
前記磁束密度算出部は、
円筒形のローター磁石の磁束密度を、測定する磁束密度測定部と、
測定された実測値を用いて、放射方向のローター磁石からの距離(X)と前記ローター磁石とコイルバックヨークとの距離(L)を変数とする第1の関数と、ローターの回転方向の電気角(θ)を変数とする第2の関数と、回転軸方向の位置(z)を変数とする第3の関数として算出する関数算出部を備える、コアレスモーターの設計装置。
【請求項3】
請求項2に記載のコアレスモーターの設計装置において、
前記第1の関数は、ローターの回転方向の電気角(θ)において磁束密度が最大になる電気角であり、かつ、回転軸方向の位置において磁束密度が最大となる位置において測定された磁束密度の実測値を用いて近似式で表される、コアレスモーターの設計装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のコアレスモーターの設計装置において、
前記第2の関数は、前記ローター磁石の表面であり、かつ、前記回転軸方向の位置において磁束密度が最大となる位置において測定された磁束密度の実測値を用いて近似式で表される、コアレスモーターの設計装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項に記載のコアレスモーターの設計装置において、
前記第3の関数は、前記ローター磁石の表面であり、かつ、前記ローターの回転方向の電気角(θ)において磁束密度が最大になる電気角において測定された磁束密度の実測値を用いて近似式で表される、コアレスモーターの設計装置。
【請求項6】
請求項5に記載のコアレスモーターの設計装置において、
前記第3の関数は、前記第3の関数を前記回転軸の方向に積分することにより、前記ローター磁石の前記回転軸方向の長さの関数として表される、コアレスモーターの設計装置。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか一項に記載のコアレスモーターの設計装置において、
前記近似式は、最小二乗法を適用して得られた高次関数で表される、コアレスモーターの設計装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のコアレスモーターの設計装置において、
前記第1〜第3の関数により表される磁束密度の関数を前記電磁コイルの1ターン毎に適用して、1ターン毎の誘起電圧を算出し、その総和により前記誘起電圧を算出する、コアレスモーターの設計装置。
【請求項9】
コアレスモーターの設計方法であって、
(a)ローターの回転方向の電気角(θ)において磁束密度が最大になる電気角、および、回転軸方向の位置において磁束密度が最大となる位置において測定された磁束密度の実測値を用いて近似式で表される第1の関数を算出する工程と、
(b)ローター磁石の表面であり、前記回転軸方向の位置において磁束密度が最大となる位置において測定された磁束密度の実測値を用いて近似式で表される第2の関数を算出する工程と、
(c)前記ローター磁石の表面であり、前記ローターの回転方向の電気角(θ)において磁束密度が最大になる電気角において測定された磁束密度の実測値を用いて近似式で表される第3の関数を算出する工程と、
(d)電磁コイルの線材の材質、直径、形状を用いて前記電磁コイルの電気抵抗を算出する工程と、
(e)前記ローター磁石と前記コイルバックヨークとの間の前記電磁コイルの配置位置および前記第1〜第3の関数および前記電気抵抗を用いて前記電磁コイルに生じる誘起電圧を算出する工程と、
を備えるコアレスモーターの設計方法。
【請求項10】
請求項9に記載のコアレスモーターの設計方法において、
前記工程(c)は、前記第3の関数を前記回転軸の方向に積分することにより、前記ローター磁石の前記回転軸方向の長さの関数として算出する工程を含む、コアレスモーターの設計方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載のコアレスモーターの設計方法において、
前記近似式は、最小二乗法を適用して得られた高次関数で表される、コアレスモーターの設計方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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