説明

コイル、ステータ及びモータ

【課題】スロット内部に配置される部分の導体の占積率の低下を抑制しつつ、スロット外部に配置される部分のPDIVを良好に確保することができる、コイルを提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係るコイル12は、モータのステータコア11に設けられるコイルであって、ステータコア11のスロット111内部に配置される、複数の線状導体22を有する導体を含む第1の導線(集合線20)と、ステータコア11のスロット111外部に配置される、第1の絶縁層32によって被覆された導体を含む第2の導線(エナメル線30)と、を備え、第1の導線及び第2の導線は第2の絶縁層40によって被覆されており、第1の導線における導体部分の最外周縁部を結んで形成される領域の面積は、第2の導線における導体部分の最外周縁部を結んで形成される領域の面積より広い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル、ステータ及びモータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特許文献1及び2に開示されているように、ステータコアに設けられるコイルの導体として複数の線状導体を一体化した集合線が用いられている。集合線を用いることにより、単線に比べて、渦電流の影響により生じる導体損失(渦損失)を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−121488号公報
【特許文献2】特開2007−227266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コイルのスロット外部に配置される部分では、PDIV(部分放電開始電圧)を確保するため、つまり相間絶縁(例えば、モータのU相、V相、W相相互間の絶縁)を確保するために絶縁層の厚さを確保する必要がある。
【0005】
一方、コイルのスロット内部に配置される部分では、相内絶縁(例えば、U相同士、V相同士、W相同士の絶縁)を確保できる程度の絶縁層の厚さで良い。そのため、コイルのスロット内部に配置される部分を被覆する絶縁層の厚さは、コイルのスロット外部に配置される部分を被覆する絶縁層の厚さより薄くて良い。
【0006】
ここで、コイルのスロット内部に配置される部分を被覆する絶縁層の厚さを、コイルのスロット外部に配置される部分を被覆する絶縁層の厚さと等しくすると、コイルのスロット内部に配置される部分における導体の占積率が低下してしまう。
【0007】
本発明の目的は、このような問題を解決するためになされたものであり、スロット内部に配置される部分の導体の占積率の低下を抑制しつつ、スロット外部に配置される部分のPDIVを良好に確保することができる、コイル、ステータ及びモータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態に係るコイルは、モータのステータコアに設けられるコイルであって、前記ステータコアのスロット内部に配置される、複数の線状導体を有する導体を含む第1の導線と、前記ステータコアのスロット外部に配置される、第1の絶縁層によって被覆された導体を含む第2の導線と、を備え、前記第1の導線及び前記第2の導線は第2の絶縁層によって被覆されており、前記第1の導線における導体部分の最外周縁部を結んで形成される領域の面積は、前記第2の導線における導体部分の最外周縁部を結んで形成される領域の面積より広い。
【0009】
上記コイルにおいて、前記第1の導線の外周形状と前記第2の導線の外周形状とは等しいこと、が好ましい。
【0010】
上記コイルにおいて、前記第2の導線の導体は線状導体を有し、前記第1の導線の線状導体は、前記第2の導線の線状導体より多いこと、が好ましい。
【0011】
上記コイルにおいて、前記スロット外部において屈曲した屈曲部を有しており、当該屈曲部に前記第2の導線が配置されていること、が好ましい。
【0012】
本発明の一形態に係るステータは、上記のコイルと、前記コイルが設けられるステータコアと、を備える。
本発明の一形態に係るモータは、上記のステータを備える。
【発明の効果】
【0013】
以上、説明したように、本発明によると、スロット内部に配置される部分の導体の占積率の低下を抑制しつつ、スロット外部に配置される部分のPDIVを良好に確保することができる、コイル、ステータ及びモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るステータを概略的に示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るコイルの形状を概略的に示す正面図である。
【図3】折り曲げ加工前のコイルを概略的に示す斜視図である。
【図4】(a)は、折り曲げ加工前のコイルエンドを概略的に示す断面図である。(b)は、折り曲げ加工前のコイルにおけるスロット内部に配置される部分を概略的に示す断面図である。
【図5】(a)は、絶縁層によって被覆されたエナメル線を概略的に示す断面図である。(b)は、絶縁層によって被覆された集合線を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明する。但し、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0016】
図1は、本実施の形態に係るステータ1の外観斜視図である。ステータ1は、ステータコア11と、コイル12と、を備える。
【0017】
ステータコア11は、円筒形状であり、例えば電磁鋼板を積層して形成される。ステータコア11は、内周面側にコイル12を挿入するための複数のスロット111を有する。図1は、複数のスロット111に複数のコイル12が挿入された状態を示している。コイル12のうち、スロット111の外部に出ている部分が、コイルエンド121、122である。コイルエンド121は、いわゆる反リード側であり、巻回されてコイル12を形成している。コイルエンド122は、いわゆるリード側であり、隣接するコイル12との接続に用いられる。なお、実際には、ステータコア11の中央の空洞部にはロータが配置されるが、説明のため図示は省略する。
【0018】
図2は、図1のステータコア11の空洞部からステータコア11の径方向にコイル12を見た図である。言い換えると、ステータコア11の内周面側から外周面側に向けてコイル12を見た図である。図2は、コイル12がステータコア11のスロット111に挿入されている状態を示す図である。なお、ステータコア11の空洞部からステータコア11の径方向にコイル12を見た場合、実際には、複数のコイル12が含まれるが、説明のため、図2においては1つのコイルのみを示している。
【0019】
コイルエンド121は、ロータの回転軸方向(図2の矢印方向)に突出している突出部123を有する。また、コイルエンド121は、突出部123の左右に、コイル12がスロット111に収まるように曲げ加工された屈曲部124、125を有する。
【0020】
一方、コイルエンド122は、隣接するコイル12(図示省略)との接触を回避するために曲げ加工された屈曲部126、127を有する。コイルエンド122は、隣接するコイル(図示省略)に接続されている。
【0021】
このとき、コイル12におけるスロット111内部に配置される部分(斜線部分)128は、第1の導線として集合線20(図5(b)を参照)を含む。集合線20とは、複数の線状導体(細線)を一体化させた導線である。ステータ1において、コイル12におけるスロット111内部に配置される部分128は、モータの動作や性能に寄与する。そのため、コイル12におけるスロット111内部に配置される部分128を集合線20とすることにより、渦損失の低減を図ることができ、単線と比べてモータの性能が向上する。
【0022】
一方、コイルエンド121、122は、第2の導線としてエナメル線30を含む(図5(a)を参照)。エナメル線30は、後述するように例えば単線31が絶縁層32によって被覆されて成る。単線31は、集合線20のように、細線への絶縁処理や、一体化させるための束ね処理が不要である。そのため、エナメル線30は、集合線20に比べて製造コストが低い。
【0023】
ここで、コイル12におけるスロット111内部に配置される部分128及びコイルエンド121、122の構成を、コイル12の製造方法に倣って説明する。図3は、折り曲げ加工前のコイル12を示す。
【0024】
先ず、折り曲げるとスロット111内部に集合線20が配置され、スロット111外部にエナメル線30が配置されるように、長手方向に集合線20とエナメル線30とを連結して連結導線を形成する。
【0025】
このとき、図2に示すように、集合線20は、スロット111全体を占める長さ、言い換えると、ロータの回転軸方向におけるステータコア11の厚み以上とされることが好ましい。これにより、モータの動作や性能に寄与するコイル12の部分、つまり、コイル12におけるスロット111内部に配置される部分128に集合線20が配置されるため、モータの性能を向上させることができる。
【0026】
また、図3に示すように、エナメル線30の単線31として断面が略矩形状の平角線を用いることが好ましい。これにより、丸線に比べて単線31の断面積を稼ぐことができる。なお、集合線20を構成する複数の細線も平角線とすることが好ましい。これにより、細線の占積率を向上させることができる。但し、平角線に替えて丸線を用いてもよい。
【0027】
ちなみに、集合線20とエナメル線30との連結部は、レーザ溶接、Tig(Tungsten Inert Gas)溶接、ろう接、摩擦圧接、冷間圧接等を用いて接合される。
【0028】
図4(a)は、折り曲げ加工前のコイルエンド121、122を概略的に示す断面図である。図4(b)は、折り曲げ加工前のコイル12におけるスロット111内部に配置される部分128を概略的に示す断面図である。
【0029】
図4(a)に示すように、コイルエンド121、122は、例えば単線31が絶縁層32によって被覆されたエナメル線30である。一方、図4(b)に示すように、コイル12におけるスロット111内部に配置される部分128は、例えば絶縁層21によって相互に絶縁された複数の線状導体22が銅管23で被覆された集合線20である。なお、符号24は、隙間部分を示している。
【0030】
ここで、第1の導線における導体部分の最外周縁部を結んで形成される領域は、第2の導線における導体部分の最外周縁部を結んで形成される領域より広い。つまり、本実施の形態では、集合線20における銅管23の最外周で囲まれた領域の面積は、エナメル線30の単線31の断面積より広い。要するに、第1の導線の最も外方に配置される導体における最も外方に位置する点を結んだ領域は、第2の導線の最も外方に配置される導体における最も外方に位置する点を結んだ領域より広い。
【0031】
このとき、集合線20とエナメル線30とは略等しい断面積を有することが好ましい。詳細には、集合線20の外周形状とエナメル線30の外周形状とは略等しく形成されることが好ましい。これにより、コイル12におけるスロット111内部に配置される部分128及びコイルエンド121、122の断面形状を整えることができる。その結果、エナメル線30の絶縁層32の略厚さ分、集合線20の導体部分の断面積が広げられることになる。
【0032】
次に、集合線20とエナメル線30との連結導線を、図2に示すコイル12の形状に折り曲げる。そして、折り曲げた集合線20とエナメル線30との連結導線を絶縁層40で被覆する。但し、当該連結導線を絶縁層40で被覆した後に折り曲げ加工しても良い。
【0033】
図5(a)は、絶縁層40によって被覆されたエナメル線30を概略的に示す断面図である。図5(b)は、絶縁層40によって被覆された集合線20を概略的に示す断面図である。
【0034】
図5(a)に示すように、コイルエンド121、122の部分は、エナメル線30の絶縁層32と絶縁層40とにより、厚い絶縁層を確保することができ、PDIVを確保することができる。一方、図5(b)に示すように、コイル12におけるスロット111内部に配置される部分128は、エナメル線30の絶縁層32の厚さ分、導体の占積率を向上させることができる。したがって、スロット111内部に配置される部分128の導体の占積率の低下を抑制しつつ、コイルエンド121、122のPDIVを良好に確保することができる。
【0035】
しかも、本実施の形態に係るステータ1においては、コイル12におけるスロット111内部に配置される部分128に集合線20を配置し、コイル12におけるスロット111外部に配置される部分(コイルエンド121、122)に単線31を有するエナメル線30を配置する。つまり、モータの動作や性能に寄与する部分に集合線20を配置し、モータの動作や性能に寄与しない部分に単線31を配置する。そのため、コイル12の全てに集合線20を用いた場合に比べて、集合線20の使用量を削減できる。したがって、集合線20を用いた場合の性能を維持しつつ、ステータ1の製造コストを削減することができる。
【0036】
また、近年、モータの小型化が要求され、ステータコア11に挿入されるコイル12にも厳しい曲げ加工が要求される。このとき、集合線20は、細線の集合体であるため、曲げ加工に対する強度が単線に比べて低い。そのため、コイル12の全てに集合線を用いると、屈曲部124〜127において、集合線20が断線する恐れがある。
【0037】
これに対して、本実施の形態に係るステータ1は、曲げ加工が施されるコイルエンド121、122は、集合線20ではなく、単線31を有するエナメル線30が用いられている。そのため、集合線20における曲げ加工を回避することができる。さらに、単線31を有するエナメル線30は、集合線20に比べて曲げ加工に対する強度が高く、加工性も高まる。加えて、コイルエンド122に単線31を有するエナメル線30を配置することにより、コイルエンド122を介して隣接するコイル12同士を接合する際に、Tig溶接等を使用できる。そのため、接合処理が容易となる。
【0038】
このような構成のステータ1の空洞部に図示を省略したロータを配置すると、モータとして機能させることができる。
【0039】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更及び組み合わせをすることが可能である。例えば上記実施の形態では、コイル12におけるスロット111内部に配置される部分に集合線20を配置し、コイル12におけるスロット111外部に配置される部分に単線31を有するエナメル線30を配置したが、この限りでない。コイル12におけるスロット111内部に配置される部分の一部に単線31を有するエナメル線30が含まれていてもよいし、コイル12におけるスロット111外部に配置される部分の一部に集合線20が含まれていてもよい。また、単線31は、単一の導線(平角線)に限られず、集合線20よりも少ない本数であれば集合線であってもよい。さらに第2の導線としてエナメル線30を用いているが、この限りでない。要するに、線状導体が絶縁層によって被覆された構成であれば、第2の導線として用いることができる
【符号の説明】
【0040】
1 ステータ、11 ステータコア
12 コイル
20 集合線、21 絶縁層、22 線状導体、23 銅管、24 隙間
30 エナメル線、31 単線、32 絶縁層
40 絶縁層
111 スロット
121、122 コイルエンド
123 突出部
124、125 屈曲部
126、127 屈曲部
128 コイルにおけるスロット内部に配置される部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータのステータコアに設けられるコイルであって、
前記ステータコアのスロット内部に配置される、複数の線状導体を有する導体を含む第1の導線と、
前記ステータコアのスロット外部に配置される、第1の絶縁層によって被覆された導体を含む第2の導線と、を備え、
前記第1の導線及び前記第2の導線は第2の絶縁層によって被覆されており、前記第1の導線における導体部分の最外周縁部を結んで形成される領域の面積は、前記第2の導線における導体部分の最外周縁部を結んで形成される領域の面積より広いコイル。
【請求項2】
前記第1の導線の外周形状と前記第2の導線の外周形状とは等しい請求項1に記載のコイル。
【請求項3】
前記第2の導線の導体は線状導体を有し、
前記第1の導線の線状導体は、前記第2の導線の線状導体より多い請求項1又は2に記載のコイル。
【請求項4】
前記スロット外部において屈曲した屈曲部を有しており、当該屈曲部に前記第2の導線が配置されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコイル。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のコイルと、
前記コイルが設けられるステータコアと、
を備えるステータ。
【請求項6】
請求項5に記載のステータを備えるモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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